説明

RPE細胞を生成する改良された方法およびRPE細胞の組成物

本発明は、ヒト胚幹細胞から、もしくは、他のヒト多能性幹細胞からRPE細胞を生成するための改良された方法を提供する。本発明はまた、ヒト胚幹細胞、または他のヒト多分化能もしくは多能性幹細胞に由来するヒト網膜色素上皮細胞にも関する。胚幹細胞に由来するhRPE細胞は、成人および胎児由来のRPE細胞と分子的に異なり、かつ胚幹細胞とも異なる。本明細書で説明されるhRPE細胞は、網膜変性疾患の治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2007年10月12日に出願された米国仮出願第60/998,766号、2007年10月12日に出願された第60/998,668号、2008年1月2日に出願された第61/009,908号、および2008年1月2日に出願された第61/009,911号の優先権の利益を主張するものである。上述した各出願の開示は、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
網膜色素上皮(RPE)は、感覚神経網膜のすぐ外側の色素細胞層である。この細胞の層は、網膜視覚細胞に栄養分を与え、かつ下層の脈絡膜(網膜の後ろの血管の層)に付随して、網膜視細胞を覆っている。RPEは、脈絡膜から網膜にどのような栄養分が到達したのかを判定するフィルタとして機能する。加えて、RPEは、網膜と脈絡膜との間に遮蔽を提供する。RPEの破壊は、網膜の代謝を妨げ、網膜の菲薄化を引き起こす。網膜の菲薄化は、深刻な結果をもたらす可能性がある。例えば、網膜の菲薄化は、「乾燥型」黄斑変性を引き起こす場合があり、また、「滲出型」黄斑変性を引き起こす可能性がある不適切な血管形成ももたらし得る。
【0003】
視覚および網膜の健康状態の維持におけるRPEの重要性から、RPEの研究およびインビトロでRPE細胞を生成するための方法の開発において多大な努力がなされている。インビトロで生成されるRPE細胞は、RPEの発育を研究するか、RPEの破壊を引き起こす因子を同定するか、または内因性RPE細胞の修復を刺激するのに使用することができる薬剤を同定するのに使用することが可能である。加えて、インビトロで生成されるRPE細胞は、患者の損傷したRPE細胞の全て、もしくは一部を置換もしくは修復するための治療法として、それ自体を使用することが可能である。このように使用した時に、RPE細胞は、黄斑変性の他に、RPEへの損傷によって、全体的もしくは部分的に引き起こされる他の疾病および状態も治療する手法を提供し得る。
【0004】
スクリーニングのための、もしくは治療用としての、インビトロで生成されるRPE細胞の使用は、系統的で指向的な手法で多数のRPE細胞を生成するのに使用することができる方法に依存する。このような体系化された分化方法は、例えば形質転換細胞系もしくは他の源からのRPE細胞の自発的分化に基づいた以前の機構に勝る、有意な利点を提供し得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ヒト胚幹細胞およびヒト人工多能性幹細胞等のヒト多能性幹細胞から、RPE細胞を分化させるための方法を提供する。この方法は、スクリーニング試験で使用するための多数の分化したRPE細胞を生成するために、RPEの基礎生物学を研究するために、および治療法として使用される。本明細書に説明されるように、本手法を使用して、ヒト胚幹細胞等の多能性幹細胞から分化されるRPE細胞は、ヒト胚幹細胞の他に、成人および胎児由来のRPE細胞とも分子的に異なる。
【0006】
本発明は、ヒト多能性幹細胞に由来するRPE細胞の製剤および医薬品も提供する。このようなRPE細胞の製剤は、ヒト胚幹細胞の他に、成人および胎児由来のRPE細胞とも分子的に異なる。
【0007】
本発明は、初めて、ヒト胚幹細胞から分化されるRPE細胞の詳細な分子的特徴付けを提供する。詳細な特徴付けは、他の源(例えば、成人RPE細胞および胎児RPE細胞)に由来するRPE細胞、並びにヒト胚幹細胞との比較を含む。この分析は、RPEのより深い理解を提供するだけでなく、ヒト胚幹細胞から分化されるRPE細胞が、これらの細胞と上述したRPE細胞とを区別する明白な分子的特性を有することも明らかにする。
【0008】
本発明は、実質的に精製したRPE細胞の製剤を含む、RPE細胞の製剤を提供する。例示的なRPE細胞は、ヒト胚幹細胞もしくはiPS細胞等のヒト多能性幹細胞から分化される。ヒト多能性幹細胞由来のRPE細胞は、網膜変性疾患を治療するのに使用および製剤化することができる。加えて、ヒト多能性幹細胞由来のRPE細胞は、(インビトロおよび/またはインビボでの)RPE細胞の生存を調節する薬剤を同定する、RPE細胞の成熟を研究する、またはRPE細胞の成熟を調節する薬剤を同定するために、スクリーニング試験で使用することができる。このようなスクリーニング試験を使用して同定される薬剤は、インビトロもしくはインビボで使用され得、かつ単独で、もしくは組み合わせて、網膜変性疾患を治療するのに使用することができるさらなる治療法を提供し得る。
【0009】
本発明は、胚幹細胞もしくは他の多能性幹細胞からRPE細胞を生成するための改良された方法を提供する。本発明の方法は、分化したRPE細胞を生成するのに使用することができる。任意で、分化したRPE細胞の成熟のレベルは、色素沈着レベルによって評価する時に、分化したRPE細胞、成熟RPE細胞、もしくはそれらの混合物が生成されるように調節することができる。また、眼障害の治療のための改良された方法も提供する。具体的には、これらの方法は、眼障害、特に内在性RPE層への損傷もしくはその破壊によって、全体的もしくは部分的に引き起こされる、または悪化する眼障害の症状を治療もしくは改善するために、ヒト胚幹細胞に由来するRPE細胞の使用を伴う。
【0010】
特定の態様において、本発明は、網膜色素上皮(RPE)細胞の培養物を生成するための方法を提供する。特定の実施形態において、培養物は、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは99%を超える分化したRPE細胞(成熟度のレベルに関わらず、培養物のうちの少なくとも75%が、分化したRPE細胞である)を含有する、実質的に精製した培養物である。特定の実施形態では、実質的に精製した培養物が、少なくとも30%、35%、40%、もしくは45%の成熟分化したRPE細胞を含有する。特定の実施形態では、実質的に精製した培養物が、少なくとも50%の成熟分化したRPE細胞を含有する。他の実施形態では、実質的に精製した培養物が、少なくとも55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは99%を超える成熟分化したRPE細胞を含有する。特定の実施形態では、分化したRPE細胞が、ヒト胚幹細胞、ヒトiPS細胞、もしくは他の多能性幹細胞に由来する。
【0011】
特定の実施形態において、当該方法は、
a)ヒト胚幹細胞を提供する工程と、
b)培地が任意で無血清のB−27サプリメントを含有する、富栄養性で低タンパク質の培地内で、胚様体としてヒト胚幹細胞を培養する工程と、
c)培地が任意で無血清のB−27サプリメントを含有する、富栄養性で低タンパク質の培地内で、付着培養物として胚様体を培養する工程と、
d)培地が無血清のB−27サプリメントを含有しない、富栄養性で低タンパク質の培地内で、(c)の細胞の付着培養物を培養する工程と、
e)高密度体細胞培養物の成長を支持することができ、それによってRPE細胞が細胞の培養物内に現れる培地内で、(d)の細胞を培養する工程と、
f)(e)の培養物と酵素とを接触させる工程と、
g)RPE細胞の富化培養物を生成するように、培養物からRPE細胞を選択して、RPE細胞を、成長因子を補充した培地を含有する別個の培養物に移入する工程と、
h)RPE細胞の富化培養物を繁殖させて、実質的に精製したRPE細胞の培養物を生成する工程と、を含む。
【0012】
特定の他の態様において、本発明は、成熟網膜色素上皮細胞(RPE)を生成する方法を提供し、当該方法は、
a)ヒト胚幹細胞を提供する工程と、
b)培地が任意で無血清のB−27サプリメントを含有する、富栄養性で低タンパク質の培地内で、胚様体としてヒト胚幹細胞を培養する工程と、
c)培地が任意で無血清のB−27サプリメントを含有する、富栄養性で低タンパク質の培地内で、付着培養物としてヒト胚幹細胞を培養する工程と、
d)培地が無血清のB−27サプリメントを含有しない、富栄養性で低タンパク質の培地内で、工程(c)の細胞の付着培養物を培養する工程と、
e)高密度体細胞培養物の成長を支持することができ、それによってRPE細胞が細胞の培養物内に現れる培地内で、(d)の細胞を培養する工程と、
f)(e)の培養物と酵素とを接触させる工程と、
g)RPE細胞の富化培養物を生成するように、RPE細胞を選択して、RPE細胞を、成長因子を補充した培地を含有する別個の培養物に移入する工程と、
h)RPE細胞の富化培養物を繁殖させる工程と、
i)成熟RPE細胞を生成するように、RPE細胞の富化培養物を培養する工程と、を含む。
【0013】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、実質的に精製したRPE細胞の培養物は、分化したRPE細胞および成熟分化したRPE細胞の両方を含有し得る。成熟RPE細胞の間で、色素のレベルが変動する場合がある。しかしながら、色素沈着レベルの増加およびより円柱形状であることに基づいて、成熟RPE細胞を、RPE細胞と視覚的に区別することができる。
【0014】
特定の実施形態では、培養物内の成熟分化したRPE細胞の割合を、培養物の密度を減少させることによって低減することができる。したがって、特定の実施形態において、当該方法は、より小さい割合の成熟RPE細胞を含有する培養物を生成するように、成熟RPE細胞の集団を二次培養する工程をさらに含む。
【0015】
特定の実施形態では、胚様体として細胞を培養する時に使用される培地が、胚様体として細胞を培養するのに適切な、あらゆる培地から選択され得る。例えば、当業者は、市販もしくは独自の媒体から選択することができる。ウイルス、細菌、もしくは真核生物の細胞培養のための培地等の、高密度培養物を支持することができる、あらゆる媒体が使用されてもよい。例えば、培地は、高栄養無タンパク質の培地、もしくは高栄養低タンパク質の培地であってもよい。例えば、ヒト胚幹細胞は、MDBK−GM、OptiPro SFM、VP−SFM、EGM−2、もしくはMDBK−MM内で培養されてもよい。特定の実施形態では、培地が、B−27サプリメントを含有し得る。
【0016】
特定の実施形態では、本明細書で説明される培地に1つ以上の成長因子が補充され得る。使用され得る成長因子には、例えば、EGF、bFGF、VEGF、および組み換え型のインスリン様成長因子が挙げられる。培地は、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、アスコルビン酸、血清(例えば、ウシ胎児血清等)、もしくは成長マトリクス(例えば、マトリゲル(BD Biosciences)もしくはゼラチンからの細胞外マトリクス等)等のサプリメントも含有し得る。
【0017】
特定の実施形態では、胚様体の培養物内の非RPE細胞の培養物の中からRPE細胞を選択するために、または付着細胞の二次培養を容易にするために、機械的方法もしくは酵素法が使用される。例示的な機械的方法には、ピペットによる滴定、またはプルドニードル(pulled needle)による切断が挙げられるが、これに限定されない。例示的な酵素法には、細胞を解離するのに適切なあらゆる酵素(例えば、トリプシン、コラゲナーゼ、ディスパーゼ)が挙げられるが、これに限定されない。特定の実施形態では、細胞を解離するために、例えばハンクスに基づく細胞解離バッファ等の、高いEDTAを含有する溶液等の非酵素溶液が使用される。
【0018】
特定の実施形態において、上述の関連する工程のうちのいずれかについて、細胞は、7日、7〜10日、7〜14日、もしくは14〜21日等の、約3日〜45日間培養される。特定の実施形態において、細胞は、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、もしくは約46日間培養される。特定の実施形態において、細胞は、約45、40、35、30、25、21、20、18、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、もしくは1日以下の間、培養される。上述した関連する方法工程のそれぞれについて、細胞は、各工程において同じ期間、もしくは工程のうちの1つ以上において異なる期間、培養され得ることに留意されたい。
【0019】
特定の実施形態において、RPE細胞は、成熟RPE細胞の培養物を生成するために、さらに培養される。RPE細胞および成熟RPE細胞は、どちらも分化したRPE細胞である。しかしながら、成熟RPE細胞は、分化したRPE細胞と比較して、色素のレベルが増加していることを特徴とする。成熟度および色素沈着のレベルは、分化したRPE細胞の培養物の密度を増減させることによって調節することができる。したがって、成熟RPE細胞を生成するために、RPE細胞の培養物をさらに培養することができる。あるいは、成熟RPE細胞を含有する培養物の密度を減少させて、成熟分化したRPE細胞の割合を減少させ、かつ分化したRPE細胞の割合を増加させることができる。
【0020】
RPE細胞を培養するのに使用される培地は、細胞培養に適切な任意の培地であり、当業者によって選択することができる。例えば、ウイルス、細菌、もしくは動物細胞培養のための培地等の、高密度培養物を支持することができる、あらゆる培地が使用されてもよい。例えば、本明細書で説明される細胞は、VP−SFM、EGM−2、およびMDBK−MM内で培養されてもよい。
【0021】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、当該の実質的に精製したRPE細胞(成熟RPE細胞の有無に関わらず)の培養物は、貯蔵のために冷凍される。細胞は、例えば極低温冷凍といった従来技術において公知のあらゆる適切な方法によって貯蔵されてもよく、また、細胞の貯蔵に適切な任意の温度で冷凍されてもよい。例えば、細胞は、約−20℃、−80℃、−120℃、もしくは細胞の貯蔵に適切な任意の温度で冷凍されてもよい。極低温冷凍細胞は、適切な容器内で貯蔵され、細胞損傷のリスクを低減し、かつ解凍しても細胞が生存する可能性を最大化するように貯蔵するよう準備されている。他の実施形態では、RPE細胞は、室温で保たれるか、もしくは、例えば、約4℃で冷蔵される。
【0022】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、当該方法は、適正製造基準(GMP)に従って実行される。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞が分化されるヒト胚幹細胞は、適正製造基準(GMP)に従って誘導されたものであった。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞が分化されるヒト胚幹細胞は、残りの胚を破壊せずに初期胚から取り出される1つ以上の分割球に由来するものであった。
【0023】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、当該方法は、少なくとも1×10個のRPE細胞、少なくとも5×10個のRPE細胞、少なくとも1×10個のRPE細胞、少なくとも5×10個のRPE細胞、少なくとも1×10個のRPE細胞、少なくとも2×10個のRPE細胞、少なくとも3×10個のRPE細胞、少なくとも4×10個のRPE細胞、少なくとも5×10個のRPE細胞、少なくとも6×10個のRPE細胞、少なくとも7×10個のRPE細胞、少なくとも8×10個のRPE細胞、少なくとも9×10個のRPE細胞、少なくとも1×10個のRPE細胞、少なくとも2×10個のRPE細胞、少なくとも5×10個のRPE細胞、少なくとも7×10個のRPE細胞、もしくは少なくとも1×10個のRPE細胞を含む製剤を生成するのに使用される。特定の実施形態では、製剤内のRPE細胞の数には、成熟度のレベルに関わらず、かつ分化したRPE細胞および成熟RPE細胞の相対的割合に関わらず、分化したRPE細胞が含まれる。他の実施形態では、製剤内のRPE細胞の数は、分化したRPE細胞もしくは成熟RPE細胞のどちらかの数を指す。
【0024】
特定の実施形態において、当該方法は、移植に好適なRPE細胞の製剤を生成するための分化したRPE細胞および/または分化した成熟RPE細胞を製剤化する工程をさらに含む。
【0025】
別の態様において、本発明は、網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防する方法であって、RPE細胞を含む有効量の製剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、該RPE細胞は、ヒト胚幹細胞、iPS細胞、もしくは他の多能性幹細胞に由来する、方法を提供する。網膜変性を特徴とする状態には、例えば、スタルガルト黄斑ジストロフィ、加齢性黄斑変性症(乾燥型もしくは滲出型)、糖尿病性網膜症、および網膜色素変性症が挙げられる。特定の実施形態では、RPE細胞が、本明細書で説明される方法のうちの1つ以上を使用して、ヒト多能性幹細胞から誘導される。
【0026】
特定の実施形態では、製剤を前もって凍結保存しておき、移植前に解凍した。
【0027】
特定の実施形態では、治療方法は、シクロスポリンもしくは1つ以上の他の免疫抑制剤の投与をさらに含む。免疫抑制剤が使用される際、免疫抑制剤は、全身的もしくは局所的に投与されてもよく、RPE細胞の投与前に、それと同時に、もしくはその後に投与されてもよい。特定の実施形態では、免疫抑制療法が、RPE細胞の投与後に、数週間、数ヶ月間、数年間、もしくは無制限に継続する。
【0028】
特定の実施形態では、治療方法は、単一用量のRPE細胞の投与を含む。他の実施形態では、治療方法は、ある期間にわたってRPE細胞が複数回投与される治療過程を含む。例示的な治療過程は、毎週、隔週、毎月、年4回、年2回、または、年1回の治療を含み得る。あるいは、治療は、並行して進める場合があり、それによって、最初に複数回投与(例えば、1週目における1日用量)が必要になり、その後回数および用量を減らすことが必要である。数多くの治療計画が意図される。
【0029】
特定の実施形態では、投与したRPE細胞が、分化したRPE細胞と成熟RPE細胞との混合集団を含む。他の実施形態では、投与したRPE細胞が、分化したRPE細胞もしくは成熟RPE細胞のどちらかの実質的に精製した集団を含む。例えば、投与したRPE細胞は、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満、もしくは1%未満の他のRPE細胞型を含有し得る。
【0030】
特定の実施形態では、RPE細胞が、薬剤として許容される担体もしくは補形剤内で製剤化される。
【0031】
特定の実施形態では、RPE細胞を含む製剤が、懸濁液、マトリクス、もしくは基質内に移植される。特定の実施形態では、製剤が、眼の網膜下腔への注射によって投与される。特定の実施形態では、約10〜約10個の細胞が対象に投与される。特定の実施形態において、当該方法は、対象における網膜電図応答、視運動視力閾値、もしくは輝度閾値を測定することによって、治療もしくは予防の有効性を監視する工程をさらに含む。当該方法は、細胞の免疫原性もしくは眼の細胞の遊走を監視することによって、治療または予防の有効性を監視する工程も含み得る。
【0032】
特定の態様において、本発明は、有効量のRPE細胞を含む、網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防するための医薬製剤であって、RPE細胞が、ヒト胚幹細胞もしくは他の多能性幹細胞に由来する、医薬製剤を提供する。医薬製剤は、投与の経路に従って、薬剤として許容される担体内で製剤化され得る。例えば、製剤は、眼の網膜下腔への投与のために製剤化され得る。組成物は、少なくとも10、10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、もしくは10個のRPE細胞を含み得る。特定の実施形態では、組成物が、少なくとも2×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10個のRPE細胞を含み得る。特定の実施形態では、RPE細胞が、成熟RPE細胞を含む場合があり、したがって、細胞数は、分化したRPE細胞および成熟分化したRPE細胞の両方の合計を含む。
【0033】
別の態様において、本発明は、RPE細胞の生存を調節する薬剤を同定するためにスクリーニングするための方法を提供する。例えば、ヒト胚幹細胞から分化したRPE細胞は、RPEの生存を促進する薬剤をスクリーニングするのに使用することができる。同定した薬剤は、治療計画の一部として単独で、もしくはRPE細胞と組み合わせて使用することができる。あるいは、同定した薬剤は、インビトロで分化したRPE細胞の生存を高める培養方法の一部として使用することができる。
【0034】
別の態様において、本発明は、RPE細胞の成熟度を調節する薬剤を同定するためにスクリーニングするための方法を提供する。例えば、ヒトES細胞から分化したRPE細胞は、RPEの成熟を促進する薬剤をスクリーニングするのに使用することができる。
【0035】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、当該方法が、適正製造基準(GMP)に従って実行される。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞がそこから分化されるヒト胚幹細胞もしくは他の多能性幹細胞は、適正製造基準(GMP)に従って誘導された。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞がそこから分化されるヒト胚幹細胞は、残りの胚を破壊せずに初期胚から取り出される1つ以上の分割球に由来するものであった。
【0036】
別の態様において、本発明は、RPE細胞を生成するための出発材料もしくはその製剤を、ヒト胚幹細胞の代わりに、他の型のヒト多能性幹細胞とすることができることを意図している。一例として、本発明は、含まれる人工多能性幹(iPS)細胞を、本明細書で説明される方法を使用してRPE細胞を分化するための出発材料として使用することを意図している。このようなiPS細胞は、細胞バンクから得るか、あるいは前もって誘導することができる。あるいは、iPS細胞は、RPE細胞に対する分化を始める前に、新たに発生させることができる。
【0037】
ある実施形態では、iPS細胞を含む、多能性幹細胞から分化したRPE細胞もしくは製剤が、治療法で使用される。
【0038】
本発明は、ヒト胚幹細胞(hESC)もしくは他のヒト多能性幹細胞から最終分化した、機能ヒト網膜色素上皮(hRPE)細胞も提供する。ヒト以外の霊長類の移植実験において、これらのhRPEは、特有のmRNAおよびタンパク質の発現等のそれらの特有の物理的特徴によって、他の細胞から同定することができる。さらに、hRPEは、網膜変性の有効な動物モデルに植設される時に、罹患動物の網膜変性を治療し得る。したがって、本発明のhRPEは、種々の網膜変性障害に苦しむ患者の治療に有用である。本発明は、したがって、視覚変性疾患および障害の治療のために、GLP様およびGMPに準拠した状態の下で生成および製造することができる、hRPEの再生可能な源を提供する。
【0039】
特定の実施形態において、本発明は、ヒト胚幹細胞に由来するヒト網膜色素上皮細胞を提供し、この細胞は、色素性であり、ヒト網膜色素上皮細胞ではない細胞内では発現しない、少なくとも1つの遺伝子を発現する。特定の実施形態において、ヒト網膜色素上皮細胞は、少なくとも1つのタンパク質、分子、もしくは自然環境内に見られる他の不純物から単離される。
【0040】
別の実施形態において、本発明は、ヒト胚幹細胞もしくは他の多能性幹細胞に由来するヒトRPE細胞を含む細胞培養物を提供するが、この細胞は、色素性であり、ヒトRPEではない細胞内では発現しない、少なくとも1つの遺伝子を発現する。このように使用した時に、色素性とは、任意の色素沈着のレベル、例えば、RPE細胞をES細胞から分化させる時に最初に生じる色素沈着のレベルを指す。色素沈着は、分化したRPE細胞の細胞密度および成熟度によって変動し得る。しかしながら、細胞が色素性であると称される場合、この用語は、いずれかの、および全ての色素沈着のレベルを指すものと理解されたい。
【0041】
いくつかの実施形態では、細胞培養物が、実質的に精製したヒトRPE細胞の集団を含む。実質的に精製したhRPE細胞の集団とは、hRPE細胞が、集団内の細胞のうちの少なくとも約75%で構成されるものである。他の実施形態において、実質的に精製したhRPE細胞の集団は、hRPE細胞が、集団内の細胞のうちの少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、97.5%、98%、99%、また、さらには99%超で構成されるものである。いくつかの実施形態では、細胞培養物内のhRPE細胞の色素沈着が均一である。他の実施形態では、細胞培養物内のhRPE細胞の色素沈着が不均一であり、RPE細胞の培養物は、分化したRPE細胞および成熟RPE細胞の両方を含む。本発明の細胞培養物は、少なくとも約10、10、5×10、10、5×10、10、10、10、10、10、もしくは少なくとも約10個のhRPE細胞を含み得る。
【0042】
本発明は、様々な色素沈着の程度を伴うヒト網膜色素上皮細胞を提供する。特定の実施形態において、ヒト網膜色素上皮細胞の色素沈着は、hRPE細胞の最終分化後の平均ヒト色素上皮細胞と同じである。特定の実施形態において、ヒト網膜色素上皮細胞の色素沈着は、hRPE細胞の最終分化後の平均ヒト網膜色素上皮細胞よりも色素性が多い。特定の他の実施形態において、ヒト網膜色素上皮細胞の色素沈着は、最終分化後の平均ヒト網膜色素上皮細胞よりも色素性が少ない。
【0043】
特定の実施形態において、本発明は、ES細胞もしくは他の多能性幹細胞から分化され、かつRPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMit−Fのうちの1つ以上(1、2、3、4、5、もしくは6つ)を(mRNAおよび/またはタンパク質レベルにおいて)1つ以上発現する、ヒトRPE細胞を提供する。特定の実施形態では、遺伝子発現が、mRNA発現によって測定される。他の実施形態では、遺伝子発現が、タンパク質発現によって測定される。特定の実施形態では、RPE細胞が、Oct−4、アルカリ性ホスファターゼ、nanog、および/またはRex−1等の、ES特異的遺伝子を実質的に発現しない。他の実施形態では、RPE細胞が、pax−2、pax−6、および/またはチロシナーゼのうちの1つ以上(1、2、もしくは3つ)を発現する。特定の実施形態では、pax−2、pax−6、および/またはチロシナーゼの発現が、成熟分化したRPE細胞と分化したRPE細胞とを区別する。他の実施形態では、RPE細胞が、表2に示されるマーカーのうちの1つ以上を発現し、1つ以上のマーカーの発現が、(もしあれば)ヒトES細胞内での発現に対して、RPE細胞内で上方制御される。他の実施形態では、RPE細胞は、表3に示されるマーカーのうちの1つ以上を発現し、1つ以上のマーカーの発現が、(もしあれば)ヒトES細胞内での発現に対して、RPE細胞内で下方制御される。
【0044】
特定の実施形態において、本発明は、ヒト胚幹細胞もしくは他の多能性幹細胞に由来するヒトRPE細胞を含む、医薬製剤を提供する。医薬製剤は、少なくとも約10、10、5×10、10、5×10、10、10、10、10、10、もしくは約10個のhRPE細胞を含み得る。
【0045】
他の実施形態において、本発明は、本明細書で説明されるRPE細胞の凍結保存製剤を提供する。凍結保存製剤は、貯蔵のために数日もしくは数年間冷凍され得る。細胞は、例えば極低温冷凍といった従来技術において公知のあらゆる適切な方法によって貯蔵されてもよく、また、細胞の貯蔵に適切な任意の温度で冷凍されてもよい。例えば、細胞は、約−20℃、−80℃、−120℃、もしくは細胞の貯蔵に適切な任意の温度で冷凍されてもよい。極低温冷凍細胞は、適切な容器内で貯蔵され、細胞損傷のリスクを低減し、かつ解凍しても細胞が生存している可能性を最大化するように貯蔵する準備がなされる。他の実施形態では、RPE細胞を、室温に保つ、もしくは、例えば約4℃で冷蔵することができる。本明細書で説明される組成物の凍結保存製剤は、少なくとも約10、10、5×10、10、5×10、10、10、10、10、10、もしくは約10個のhRPE細胞を含み得る。特定の実施形態において、本発明のhRPE細胞は、凍結保存後の貯蔵から回復される。特定の実施形態では、RPE細胞のうちの65%、70%、75%超、もしくは80%超が、凍結保存後も生存度を維持する。他の実施形態では、RPE細胞のうちの85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%超、もしくは99%が、超凍結保存後も生存度を維持する。
【0046】
別の態様において、本発明は、本明細書で説明される構造的、分子的、および機能的特徴の任意の組み合わせを有する、実質的に精製したヒトRPE細胞の製剤を提供する。このような製剤は、投与のための医薬製剤として製剤化されてもよく、および/または凍結保存のために製剤化されてもよい。
【0047】
別の態様において、本発明は、それを必要とする患者の状態を治療する薬物の製造における、本明細書で説明されるヒトRPE細胞の使用を提供する。別の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者の状態を治療する薬物の製造における、本明細書で説明されるヒトRPE細胞を含む細胞培養物の使用を提供する。別の実施形態において、本発明は、それを必要とする患者の状態を治療する薬物の製造における、本明細書で説明されるヒトRPE細胞を含む医薬製剤の使用を提供する。治療され得る状態には、スタルガルト黄斑ジストロフィ、網膜色素変性症、黄斑変性症、緑内障、および糖尿病性網膜症等の、網膜の変性疾患が挙げられるが、これに限定されない。特定の実施形態において、本発明は、網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防する方法であって、RPE細胞を含む有効量の製剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、RPE細胞が、哺乳類の胚幹細胞に由来する、方法を提供する。網膜変性を特徴とする状態には、例えば、スタルガルト黄斑ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、および網膜色素変性症が挙げられる。
【0048】
他の実施形態において、本発明は、ヒト胚幹細胞もしくは他の多能性幹細胞に由来するヒトRPE細胞の溶液を提供し、このRPE細胞は、本明細書で説明される特質の任意の組み合わせを有する。このような溶液は、本明細書で説明されるように、少なくとも約10、10、5×10、10、5×10、10、10、10、10、10、もしくは約10個のhRPE細胞を含み得る。このような溶液は、対象への注射に好適である。このような溶液は、本明細書に説明される凍結保存に好適である。本発明は、例えば眼の網膜変性疾患等の、RPE細胞の投与によって治療することができる疾患を治療する薬物の製造に対する、これらの溶液の使用も提供する。
【0049】
別の態様において、本発明のRPE細胞は、GMPの規定の下で前もって誘導した、ヒト胚幹細胞もしくは他の能性幹細胞に由来する。ある実施形態において、ヒトES細胞は、任意で胚を破壊せずに、初期卵割期胚の1つ以上の分割球に由来する。別の実施形態において、ヒトES細胞は、ヒト胚幹細胞のライブラリに由来する。特定の実施形態において、当該のヒト胚幹細胞のライブラリは、ヒト集団内に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子についてそれぞれがヘミ接合性、ホモ接合性、もしくはヌル接合性である幹細胞を含み、当該のヒト胚幹細胞のライブラリの各メンバは、ライブラリの残りのメンバに対する異なる組のMHC対立遺伝子についてヘミ接合性、ホモ接合性、もしくはヌル接合性である。さらなる実施形態において、ヒト胚幹細胞のライブラリは、ヒト集団内に存在する全てのMHC対立遺伝子についてヘミ接合性、ホモ接合性、もしくはヌル接合性である幹細胞を含む。特定の他の実施形態において、本発明は、ヒト集団内に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子についてそれぞれがヘミ接合、ホモ接合、もしくはヌル接合であるRPE細胞のライブラリであって、当該のRPE細胞のライブラリの各メンバが、ライブラリの残りのメンバに対する異なる組のMHC対立遺伝子についてヘミ接合、ホモ接合、もしくはヌル接合であるRPE細胞のライブラリを提供する。さらなる実施形態において、本発明は、ヒト集団内に存在する全てのMHC対立遺伝子についてヘミ接合性、ホモ接合性、もしくはヌル接合性であるヒトPRE細胞のライブラリを提供する。
【0050】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、当該の実質的に精製したRPE細胞(成熟RPE細胞の有無に関わらず)の培養物は、貯蔵のために冷凍される。細胞は、例えば極低温冷凍といった従来技術において公知のあらゆる適切な方法によって貯蔵されてもよく、また、細胞の貯蔵に適切な任意の温度で冷凍されてもよい。例えば、細胞は、約−20℃、−80℃、−120℃、もしくは細胞の貯蔵に適切な任意の温度で冷凍されてもよい。極低温冷凍細胞は、適切な容器内に貯蔵され、細胞損傷のリスクを低減し、かつ解凍しても細胞が生存している可能性を最大化するように貯蔵する準備がなされる。他の実施形態では、RPE細胞を、室温に保つ、もしくは、例えば約4℃で冷蔵することができる。
【0051】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、ヒトRPE細胞は、適正製造基準(GMP)に従って生成される。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞がそこから分化されるヒト胚幹細胞を、適正製造基準(GMP)に従って誘導したものとした。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞がそこから分化されるヒト胚幹細胞を、残りの胚を破壊せずに初期胚から取り出される1つ以上の分割球に由来するものとした。このように、本発明は、実質的に精製したRPE細胞の製剤を含む、GMPに準拠したRPE細胞の製剤を提供する。このような製剤は、実質的にウイルス、細菌、および/または菌類の汚染または感染の無いものである。
【0052】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞の組成物もしくは製剤が、少なくとも1×10個のRPE細胞、少なくとも5×10個のRPE細胞、少なくとも1×10個のRPE細胞、少なくとも5×10個のRPE細胞、少なくとも1×10個のRPE細胞、少なくとも2×10個のRPE細胞、少なくとも3×10個のRPE細胞、少なくとも4×10個のRPE細胞、少なくとも5×10個のRPE細胞、少なくとも6×10個のRPE細胞、少なくとも7×10個のRPE細胞、少なくとも8×10個のRPE細胞、少なくとも9×10個のRPE細胞、少なくとも1×10個のRPE細胞、少なくとも2×10個のRPE細胞、少なくとも5×10個のRPE細胞、少なくとも7×10個のRPE細胞、もしくは少なくとも1×10個のRPE細胞を含む。特定の実施形態では、製剤内のRPE細胞の数が、成熟度のレベルに関わらず、かつ分化したRPE細胞および成熟分化したRPE細胞の相対的割合に関わらず、分化したRPE細胞を含む。他の実施形態では、製剤内のRPE細胞の数が、分化したRPE細胞もしくは成熟RPE細胞のどちらかの数を指す。
【0053】
特定の実施形態において、当該方法は、移植に好適なRPE細胞の製剤を生成するように、分化したRPE細胞および/または分化した成熟RPE細胞を製剤化する工程をさらに含む。
【0054】
別の態様において、本発明は、網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防する方法であって、RPE細胞を含む有効量の製剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、該RPE細胞が、ヒト多能性幹細胞に由来する、方法を提供する。特定の実施形態では、RPE細胞が、本明細書で説明される方法のうちのいずれかを使用して誘導される。網膜変性を特徴とする状態には、例えば、スタルガルト黄斑ジストロフィ、加齢性黄斑変性症(乾燥型もしくは滲出型)、糖尿病性網膜症、および網膜色素変性症が挙げられる。
【0055】
特定の実施形態では、製剤を前もって凍結保存しておき、移植前に解凍した。
【0056】
特定の実施形態では、治療方法は、シクロスポリンもしくは1つ以上の他の免疫抑制剤の投与をさらに含む。使用時に、免疫抑制剤は、全身的もしくは局所的に投与されてもよく、またそれらは、RPE細胞の投与前に、それと同時に、もしくはその後に投与されてもよい。特定の実施形態では、免疫抑制療法が、RPE細胞の投与後に、数週間、数ヶ月間、数年間、もしくは無制限に継続する。
【0057】
特定の実施形態では、治療方法が、単一用量のRPE細胞の投与を含む。他の実施形態では、治療方法が、ある期間にわたってRPE細胞が複数回投与される治療過程を含む。例示的な治療過程は、毎週、隔週、毎月、年4回、年2回、または、年1回の治療を含み得る。あるいは、治療は、並行して進める場合があり、それによって、最初に複数回投与(例えば、1週目における1日用量)が必要になり、その後回数および用量を減らすことが必要である。数多くの治療計画が意図される。
【0058】
特定の実施形態では、投与したRPE細胞が、分化したRPE細胞と成熟RPE細胞との混合集団を含む。他の実施形態では、投与したRPE細胞が、分化したRPE細胞もしくは成熟RPE細胞のどちらかの実質的に精製した集団を含む。例えば、投与したRPE細胞は、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満、もしくは1%未満の他のRPE細胞型を含有し得る。
【0059】
特定の実施形態では、RPE細胞が、薬剤として許容される担体もしくは補形剤内で製剤化される。
【0060】
特定の実施形態では、RPE細胞を含む製剤が、懸濁液、マトリクス、もしくは基質内に移植される。特定の実施形態では、製剤が、眼の網膜下腔への注射によって投与される。特定の実施形態では、製剤が、経角膜的に投与される。特定の実施形態では、約10〜約10個の細胞が対象に投与される。特定の実施形態において、当該方法は、対象における網膜電図応答、視運動視力閾値、もしくは輝度閾値を測定することによって、治療もしくは予防の有効性を監視する工程をさらに含む。当該方法は、細胞の免疫原性もしくは眼の細胞の遊走を監視することによって、治療または予防の有効性を監視する工程も含み得る。
【0061】
特定の態様において、本発明は、有効量のRPE細胞を含む、網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防するための医薬製剤であって、RPE細胞が、ヒト胚幹細胞もしくは他の多能性幹細胞に由来する、医薬製剤を提供する。医薬製剤は、投与の経路に従って、薬剤として許容される担体内で製剤化され得る。例えば、製剤は、眼の網膜下腔もしくは角膜への投与のために製剤化され得る。組成物は、少なくとも10、10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、10、2×10、3×10、4×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、もしくは10個のRPE細胞を含み得る。特定の実施形態では、組成物が、少なくとも2×10、5×10、6×10、7×10、8×10、9×10、1×10個のRPE細胞を含み得る。特定の実施形態では、RPE細胞が、成熟RPE細胞を含む場合があり、したがって、細胞数は、分化したRPE細胞および成熟分化したRPE細胞の両方の合計を含む。
【0062】
別の態様において、本発明は、RPE細胞の生存を調節する薬剤を同定するためにスクリーニングするための方法を提供する。例えば、ヒト胚幹細胞から分化したRPE細胞は、RPEの生存を促進する薬剤をスクリーニングするのに使用することができる。同定した薬剤は、治療計画の一部として単独で、もしくはRPE細胞と組み合わせて使用することができる。あるいは、同定した薬剤は、インビトロで分化したRPE細胞の生存を高める培養方法の一部として使用することができる。
【0063】
別の態様において、本発明は、RPE細胞の成熟度を調節する薬剤を同定するためにスクリーニングするための方法を提供する。例えば、ヒトES細胞から分化したRPE細胞は、RPEの成熟を促進する薬剤をスクリーニングするのに使用することができる。
【0064】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、当該方法は、適正製造基準(GMP)に従って実行される。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞がそこから分化されるヒト胚幹細胞を、適正製造基準(GMP)に従って誘導したものとした。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞がそこから分化されるヒト胚幹細胞を、残りの胚を破壊せずに初期胚から取り出される1つ以上の分割球に由来するものとした。
【0065】
別の態様において、本発明は、RPE細胞を生成するための出発材料もしくはその製剤を、ヒト胚幹細胞の代わりに、他の型のヒト多能性幹細胞とすることができることを意図している。一例として、本発明は、hESの特徴を有する、含まれる人工多能性幹(iPS)細胞を、本明細書で説明される方法を使用してRPE細胞を分化させるための出発材料として同様に使用できることを意図している。このようなiPS細胞は、細胞バンクから得るか、あるいは前もって誘導することができる。あるいは、iPS細胞は、RPE細胞に対する分化を始める前に、新たに発生させることができる。
【0066】
ある実施形態では、iPS細胞を含む、多能性幹細胞から分化したRPE細胞もしくは製剤が、治療法で使用される。
【0067】
本発明は、上述もしくは下述の態様および実施形態の任意の組み合わせを意図している。例えば、分化したRPE細胞および成熟RPE細胞の任意の組み合わせを含むRPE細胞の製剤は、本明細書で説明される疾患および状態のうちのいずれかの治療で使用することができる。同様に、出発材料としてヒト胚幹細胞を使用した、RPE細胞を生成するための本明細書で説明される方法は、出発材料として任意のヒト多能性幹細胞を使用して同様に実行され得る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】ヒト胚幹細胞に由来するヒトRPE細胞の発育的な個体発生を示す概略的なモデルである。
【図2】定量リアルタイム逆転写PCR(qPCR)による、hES細胞と、ヒト胚幹細胞由来のRPE細胞との遺伝子発現の比較を示すグラフである。
【図3】定量リアルタイム逆転写PCR(qPCR)による、ARPE−19細胞(事前派生のRPE細胞系)と、ヒト胚幹細胞由来のRPE細胞との遺伝子発現の比較を示すグラフである。
【図4】定量リアルタイム逆転写PCR(qPCR)による、胎児RPE細胞と、ヒト胚幹細胞由来のRPE細胞との遺伝子発現の比較を示すグラフである。
【図5】定量リアルタイム逆転写PCR(qPCR)による、成熟RPE細胞と、hES細胞との遺伝子発現の比較を示すグラフである。
【図6】hES特異的およびRPE特異的マーカーのウエスタンブロット分析を示す顕微鏡写真である。hES細胞(レーン2)に由来する胚幹細胞由来のRPE細胞(レーン1)は、hES特異的タンパク質Oct−4、Nanog、およびRex−1を発現しなかった。しかしながら、RPE特異的タンパク質を発現する胚幹細胞由来のRPE細胞は、RPE65、CRALBP、PEDF、ベストロフィン、PAX6、およびOtx2を含んでいた。タンパク質負荷対照としてアクチンを使用した。
【図7】マイクロアレイ遺伝子発現の分析線図の主な構成要素を示すグラフである。69%の変動率を表す構成要素1は、細胞型を表し、一方で、構成要素2は、細胞系(すなわち遺伝子の変動性)を表す。遺伝子発現プロファイルの線形に近い分散が、hES細胞に由来するhRPEの発育的な個体発生を特徴付けている。
【発明を実施するための形態】
【0069】
本明細書で説明される本発明を完全に理解することができるように、以下、発明を実施するための形態を記載する。本発明の種々の実施形態は、詳細に説明され、かつ提供した実施例によってさらに例示され得る。
【0070】
特に定義されない限り、本明細書において使用される全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書で説明されるものと同様もしくは同等の方法および材料を、本発明もしくは本発明の試験で使用することができるが、好適な方法および材料は下述する。材料、方法、および実施例は、例示的なものに過ぎず、限定することを意図したものではない。
【0071】
本明細書で述べられる全ての公報、特許、特許公報、および出願、ならびに他の文書は、参照することによりその全体が組み込まれる。
【0072】
本発明をさらに明確にするために、以下の用語および定義が本明細書に提供される。
【0073】
本明細書の説明文、および以下の請求項の全体を通して使用される場合、「a」、「an」、および「the」の意味には、文脈に明示されていない限り、複数形の意味を含む。また、本明細書の説明で使用される場合、「in」の意味には、文脈に明示されていない限り、「in」および「on」を含む。
【0074】
本明細書の全体を通して、「含む」(comrise、comprises、comprising)という語は、明示された整数もしくは整数群の包含を意味するものであり、他のあらゆる整数もしくは整数群を除外することを意味するものではないと理解されるであろう。
【0075】
「胚」もしくは「胚の」は、母体宿主の子宮膜内に植設しなかった、成長細胞塊を意味する。「胚細胞」とは、胚から単離した、または胚に含有される細胞である。これは、2細胞期という早い時期に得られる分割球、および凝集分割球も含む。
【0076】
「胚幹細胞」という用語は、胚由来の細胞を指す。より具体的には、胚盤胞もしくは桑実胚の内細胞塊から単離される細胞、および細胞系として連続継代させた細胞を指す。当該用語は、好ましくは胚の残部を破壊せずに、胚の1つ以上の分割球から単離される細胞も含む。当該用語は、非胚細胞がそのプロセスで使用される時であっても、体細胞核移入によって生成される細胞も含む。
【0077】
「ヒト胚幹細胞」(hES細胞)という用語は、従来技術において使用されるように本明細書で使用される。この用語は、ヒト胚盤胞の内細胞塊、もしくは細胞系として連続継代させた桑実胚に由来する細胞を含む。hES細胞は、卵細胞と精子もしくはDNAとの受精、核移入、単為生殖に由来するもの、またはHLA領域内でホモ接合性を伴うhES細胞を発生させる手段によるものであってもよい。ヒトES細胞はまた、精子および卵細胞の融合、核移入、単為生殖によって生成される、または細胞を生成するためのクロマチンの再プログラムおよびその後の再プログラムしたクロマチンの原形質膜への組み込みによって生成される、接合体、分割球、もしくは胚盤胞期の哺乳類の胚にも由来する。本発明のヒト胚幹細胞には、MA01、MA09、ACT−4、No.3、H1、H7、H9、H14、およびACT30胚幹細胞が挙げられるが、これに限定されない。特定の実施形態では、RPE細胞を生成するのに使用されるヒトES細胞は、GMP規格に従って誘導および保持される。ヒト胚幹細胞は、それらの源、またはそれらを生成するのに使用される特定の方法に関わらず、(i)3つ全ての胚葉層の細胞に分化させる能力、(ii)少なくともOct−4およびアルカリ性ホスファターゼの発現、および(iii)免疫無防備状態の動物に移植される時に奇形腫を生成する能力、に基づいて同定することができる。
【0078】
「ヒト胚由来の細胞」(hEDC)という用語は、桑実胚由来の細胞、内細胞塊、胚盾、もしくは胚盤葉上層の細胞を含む胚盤胞由来の細胞、または原始内胚葉、外胚葉、および中胚葉およびそれらの誘導体を含み、また、凝集した単一の分割球に由来する分割球および細胞塊、もしくは様々な発育期に由来する胚も含む初期胚の他の全能性または多能性幹細胞を指すが、細胞系として継代されたヒト胚幹細胞は除く。
【0079】
本明細書で使用する場合、「多能性幹細胞」という用語は、多能性幹細胞が誘導される方法に関わらず、胚幹細胞、胚由来の幹細胞、および人工多能性幹細胞を含む。多能性幹細胞は、(a)免疫不全(SCID)マウス内に移植した時に奇形腫を誘発することができる、(b)3つ全ての胚葉層の細胞型に分化することができる(例えば、外胚葉、中胚葉、および内胚葉の細胞型に分化することができる)、および(c)胚幹細胞の1つ以上のマーカーを発現する(例えば、Oct−4、アルカリ性ホスファターゼ、SSEA−3表面抗原、SSEA−4表面抗原、nanog、TRA−1−60、TRA−1−81、SOX2、REX1等を発現する)、幹細胞として機能的に定義される。例示的な多能性幹細胞は、例えば当技術分野において公知の方法を使用して発生させることができる。例示的な多能性幹細胞は、胚盤胞期胚のICMに由来する胚幹細胞の他に、(任意で、胚の残部を破壊せずに)卵割期もしくは桑実胚期胚の1つ以上の分割球に由来する胚幹細胞も含む。このような胚幹細胞は、体細胞核移入(SCNT)、単為生殖、および雄性生殖を含む、受精によって、もしくは無性手段によって生成される胚材料から発生させることができる。さらなる例示的な多能性幹細胞は、因子(本明細書では、再プログラミング因子と称する)の組み合わせを発現させる、もしくは発現を誘発することにより、体細胞を再プログラムすることによって発生される人工多能性幹細胞(iPS細胞)を含む。iPS細胞は、胎児、初生児、新生児、幼若児、もしくは成人の体細胞を使用して発生させることができる。特定の実施形態において、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするのに使用することができる因子には、例えば、Oct−4(Oct3/4と称されることもある)、Sox2、c−Myc、およびKlf4の組み合わせが挙げられる。他の実施形態において、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするのに使用することができる因子には、例えば、Oct−4、Sox2、Nanog、およびLin28の組み合わせが挙げられる。他の実施形態では、体細胞は、少なくとも2つの再プログラミング因子、少なくとも3つの再プログラミング因子、もしくは4つの再プログラミング因子を発現することによって再プログラムされる。他の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするように、追加的な再プログラミング因子が同定され、単独で、もしくは1つ以上の公知の再プログラミング因子と組み合わせて使用される。
【0080】
「RPE細胞」、「分化したRPE細胞」、「ES由来のRPE細胞」、および「ヒトRPE細胞」という用語は、本発明の方法を使用して、ヒト胚幹細胞から分化させたRPE細胞を指すのに、全体を通して代替可能に使用される。当該用語は、一般的に、細胞の成熟度のレベルに関わらず、分化したRPE細胞を指すために使用され、したがって、種々の成熟度のレベルのRPE細胞を包含し得る。分化したRPE細胞は、それらの敷石状の形態および色素の初期の出現によって、視覚的に認識することができる。分化したRPE細胞は、Oct−4およびnanog等の胚幹細胞マーカーの実質的な発現の不足に基づいて、ならびにRPE−65、PEDF、CRALBP、およびベストロフィン等のRPEマーカーの発現に基づいて、分子的に同定することもできる。他のRPE様細胞を指す場合、それらは概して、具体的には、成人、胎児、もしくはAPRE−19細胞を指すことに留意されたい。したがって、特に明記しない限り、RPE細胞は、本明細書で使用する場合、ヒト胚幹細胞から分化したRPE細胞を指す。
【0081】
「成熟RPE細胞」および「成熟分化したRPE細胞」という用語は、RPE細胞の初期分化の後に生じる変化を指すように、全体を通して代替可能に使用される。具体的には、RPE細胞は、色素の初期の出現に部分的に基づいて認識することができるが、分化の後、成熟RPEは、色素沈着の増強に基づいて認識することができる。分化後の色素沈着は、細胞のRPE状態の変化を示さない(例えば、細胞は、依然として分化したRPE細胞である)。むしろ、分化後の色素の変化は、RPE細胞が培養されて保持される密度に対応する。したがって、成熟RPE細胞は、初期分化の後に蓄積する、色素沈着の増加を有する。成熟RPE細胞は、RPE細胞よりも色素性が多いが、RPE細胞は、若干の色素沈着のレベルを有する。成熟RPE細胞は、色素沈着が減少する程度の低い密度で二次培養することができる。この文脈において、成熟RPE細胞は、RPE細胞を生成するように培養することができる。このようなRPE細胞は、それでもRPE分化のマーカーを発現する分化したRPE細胞である。したがって、RPE細胞が分化し始める時に生じる色素沈着の初期の出現とは対照的に、分化後の色素沈着の変化は、現象学的であり、RPEの運命から外れた細胞の逆分化を反映しない。分化後の色素沈着の変化はまた、pax−2の発現と相関することに留意されたい。他のRPE様細胞を指す場合、それらは概して、具体的には、成人、胎児、もしくはAPRE−19細胞を指すことに留意されたい。したがって、特に明記しない限り、RPE細胞は、本明細書で使用する場合、ヒト胚幹細胞から分化したRPE細胞を指す。
【0082】
「APRE−19」は、前もって誘導したヒトRPE細胞系の細胞を指す。APRE−19細胞は、自発的に発生し、ヒト胚もしくは胚幹細胞に由来しない。
【0083】
概要
本発明は、ヒト胚幹細胞または他のヒト多能性幹細胞に由来するヒト網膜色素性上皮(RPE)細胞を含む、製剤および組成物を提供する。RPE細胞は、少なくともある程度まで色素沈着する。RPE細胞は、(いかなる感知できるレベルでも)胚幹細胞マーカーOct−4、nanog、もしくはRex−1を発現しない。具体的には、RPE細胞におけるこれらのES遺伝子の発現は、定量RT−PCRによって評価した時に、ES細胞における場合よりも約100〜1000倍低い。RPE細胞は、mRNAおよびタンパク質の両方のレベルにおいて、RPE65、CRALBP、PEDF、ベストロフィン、MitF、および/またはOtx2のうちの1つ以上を発現する。特定の他の実施形態では、RPE細胞は、mRNAおよびタンパク質の両方のレベルにおいて、Pax−2、Pax−6、MitF、およびチロシナーゼのうちの1つ以上を発現する。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞は、分化したRPE細胞と比較して、色素沈着が増加した成熟RPE細胞である。
【0084】
本発明は、ヒトRPE細胞、実質的に精製したヒトRPE細胞の集団を含む細胞培養物、ヒト網膜色素上皮細胞を含む医薬製剤、およびヒトRPE細胞の凍結保存製剤を提供する。特定の実施形態では、本発明は、それを必要とする患者の状態を治療する薬物の製造における、ヒトRPE細胞の使用を提供する。あるいは、本発明は、それを必要とする患者の状態を治療する薬物の製造における、細胞培養物の使用を提供する。本発明は、それを必要とする患者の状態を治療する薬物の製造における、医薬製剤の使用も提供する。上述したうちのいずれかでは、RPE細胞を含む製剤は、様々な成熟度のレベルの分化したRPE細胞を含み得、または特定の成熟度のレベルの分化したRPE細胞に関して、実質的に純粋であり得る。上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞を含む製剤は、適正製造基準(GMP)に従って調製される(例えば、製剤は、GMPに準拠する)。特定の実施形態では、RPE細胞を含む製剤は、実質的に細菌、ウイルス、もしくは菌類の汚染または感染の無いものである。
【0085】
ヒトRPE細胞(胚由来、もしくは他の多能性幹細胞に由来する)は、それらの構造的特性に基づいて同定および特徴付けることができる。具体的には、および特定の実施形態では、これらの細胞は、それらが、(遺伝子のレベルもしくはタンパク質のレベルで評価した時の)1つ以上のマーカーの発現もしくは発現の不足に基づいて同定または特徴付けることができるという点で特有である。例えば、特定の実施形態では、分化したES由来のRPE細胞は、マーカーであるRPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMit−Fのうちの1つ以上の発現に基づいて同定または特徴付けることができる(例えば、細胞は、これらのマーカーのうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、少なくとも5つ、もしくは少なくとも5つの発現に基づいて特徴付けることができる)。追加的または代替的に、ES由来のRPE細胞は、PAX2、チロシナーゼ、および/またはPAX6の発現に基づいて同定または特徴付けることができる。追加的または代替的に、hRPE細胞は、(遺伝子のレベルもしくはタンパク質のレベルで評価した時の)表1〜3のうちのいずれかで分析される1つ以上(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、もしくは10超)のマーカーの発現もしくは発現の不足に基づいて同定または特徴付けることができる。
【0086】
追加的または代替的に、ES由来のRPE細胞は、細胞の色素沈着の程度に基づいて同定および特徴付けることもできる。急速に分割する分化したhRPE細胞は、軽く色素沈着する。しかしながら、細胞密度が最大容量に到達する時、もしくはhRPE細胞が特異的に成熟する時に、hRPEは、それらの特徴的表現型に六角形状を採り、かつメラニンおよびリポフスシンを蓄積することによって色素沈着レベルが増加する。このように、色素沈着の初期の蓄積は、RPEの分化の指標として機能し、細胞密度に関連する色素沈着の増加は、RPEの成熟度の指標として機能する。
【0087】
RPE細胞を含む製剤は、非RPE細胞型に対しては実質的に純粋であるが、分化したRPE細胞および成熟分化したRPE細胞の混合物を含有する、製剤を含む。RPE細胞を含む製剤は、非RPE細胞型および他のレベルのRPE細胞の両方に対して実質的に純粋である製剤も含む。
【0088】
上述した実施形態のうちのいずれかについて、本発明は、(上述のように特徴付けられる)RPE細胞が、ヒト多能性幹細胞、例えばiPS細胞および胚幹細胞に由来し得ることを意図している。特定の実施形態では、RPE細胞は、本明細書で説明される方法のうちのいずれかを使用して、ヒト多能性幹細胞から誘導される。
【0089】
RPE細胞の分化
胚幹(ES)細胞は、未分化状態でインビトロで無制限に保持することができ、さらに実質的にあらゆる細胞型に分化させることができ、移植療法に対する回復させた組織適合性細胞の無制限の供給を提供する。免疫拒絶の問題は、核移入および単為生殖技術によって解決することができる。したがって、ヒト胚幹(hES)細胞は、ヒト細胞の分化に関する研究に有用であり、かつ移植療法の潜在源とみなすことができる。今日まで、ヒトおよびマウスES細胞の数多くの細胞型への分化が報告されており(Smithによる総説、2001)、心筋細胞(Kehat他、2001、Mummery他、2003、Carpenter他、2002)、神経細胞および神経前駆体(Reubinoff他、2000、Carpenter他、2001、Schuldiner他、2001)、脂肪細胞(Bost他、2002、Aubert他、1999)、肝細胞様細胞(Rambhatla他、2003)、造血細胞(Chadwick他、2003)、卵母細胞(Hubner他、2003)、胸腺細胞様細胞(Lin RY他、2003)、膵島細胞(Kahan、2003)、ならびに骨芽細胞(Zur Nieden他、2003)が含まれる。
【0090】
本発明は、ヒトES細胞の、神経細胞系統、網膜色素上皮(RPE)内の特殊化細胞への分化を提供する。RPEは、脈絡膜と神経網膜との間の高密度な色素性上皮単層である。RPEは、血流と網膜との間の障壁の一部として機能する。その機能は、脱落した桿体および錘体の外部体節の貪食、迷光の吸収、ビタミンAの代謝、レチノイドの再生、ならびに組織修復を含む(Grierson他、1994、FisherおよびReh、2001、Marmorstein他、1998)。RPEは、黒い色素細胞の敷石状の細胞形態によって認識することができる。加えて、RPEのマーカーには、頂端微絨毛中にも認められる細胞質タンパク質である細胞レチンアルデヒド結合タンパク質(CRALBP)(Bunt−MilamおよびSaari、1983)、網膜代謝に関与する細胞質タンパク質であるRPE65(Ma他、2001、Redmond他、1998)、ベスト卵黄様黄斑ジストロフィ遺伝子の産物であるベストロフィン(VMD2、Marmorstein他、2000)、ならびに48kDの分泌タンパク質である血管形成阻害特性を有する色素上皮由来因子(PEDF)(Karakousis他、2001、Jablonski他、2000)を含む、公知のものが複数ある。
【0091】
RPEは、光受容体の維持において重要な役割を果たし、インビボの種々のRPEの機能不全は、RPEの剥離、異形成、萎縮、網膜症、網膜色素変性症、黄斑ジストロフィ、もしくは加齢性黄斑変性症を含む変性等の、視力が変化する複数の疾患に関連し、光受容体の損傷および失明をもたらす可能性がある。その創傷治癒能力のため、RPEは、移植療法への適用において広く研究されている。RPEの移植が、視力回復の優れた潜在力を有することが、複数の動物モデルおよびヒトにおいて示されている(Gouras他、2002、Stanga他、2002、Binder他、2002、Schraermeyer他、2001、Lund他による総説、2001)。近年、RPE移植のための別の有望な適用分野が提案され、臨床試験の段階にまで到達している。これらの細胞がドーパミンを分泌するため、それらをパーキンソン病の治療に使用することができる(Subramanian、2001)。しかしながら、免疫特権を有する眼においてさえ、移植片拒絶の問題があり、同種異系移植を使用する場合に、この手法の進歩を妨げている。他の問題は、成人RPEが非常に低い増殖能を示すので、胎児組織に依存することである。本発明は、移植片拒絶が生じる可能性を減少させ、かつ胎児組織の使用に対する依存性を取り除く。
【0092】
免疫拒絶の問題は、核移入技術によって克服することができるので、免疫適合性組織の源として、hES細胞は移植療法の有望さを保っている。網膜色素上皮様細胞および神経前駆細胞を含む、ヒトES細胞の新しい分化誘導体の使用、およびそれを生成するための分化系の使用は、移植におけるのRPEおよび神経前駆細胞の魅力的な潜在的供給を提供する。
【0093】
したがって、本発明の一態様は、精製および/または単離され得る、ヒト胚幹細胞に由来するRPE細胞を発生させる、改良された方法を提供することである。このような細胞は、例えば網膜色素変性症、黄斑変性症、および他の眼障害等の、網膜変性疾患の療法に有用である。本発明を使用して生成することができる細胞型には、RPE様細胞およびRPE前駆体が挙げられるが、これに限定されない。同じく生成することができる細胞には、虹彩色素上皮(IPE)細胞、および介在神経細胞(例えば、内顆粒層(INL)の「中継」神経細胞)およびマクリン細胞等の、他の視力に関連する神経細胞が挙げられる。加えて、網膜細胞、桿体、錐体、および角膜細胞を生成することができる。本発明の別の実施形態では、眼の脈管構造を提供する細胞を生成することもできる。
【0094】
ヒト胚幹細胞は、この方法の出発材料である。胚幹細胞は、フィーダー細胞の存在下もしくは非存在下等で、従来技術において公知であるいかなる方法で培養されてもよい。加えて、任意の方法を使用して生成されるヒトES細胞は、RPE細胞を生成する出発材料として使用することができる。例えば、ヒトES細胞は、卵子および精子をインビトロ受精させた産物である胚盤胞期胚に由来してもよい。あるいは、ヒトES細胞は、任意で胚の残部を破壊せずに、初期の卵割期胚から取り出される1つ以上の分割球に由来してもよい。さらに別の実施形態では、ヒトES細胞は、核移入を使用して生成され得る。出発材料として、前もって凍結保存したヒトES細胞を使用することができる。
【0095】
RPE細胞を生成するためのこの方法の第1の工程では、ヒト胚幹細胞が胚様体として培養される。胚幹細胞は、ペレット化されても、培地内で再懸濁されても、培養皿(例えば、低接着培養皿)上に蒔かれて培養されてもよい。細胞は、ウイルス、細菌、昆虫、または動物の細胞培養のための市販の培地等の、高密度の細胞の成長に十分である、あらゆる培地内で培養されてもよい。特定の実施形態では、富栄養性で低タンパク質の培地(例えば、約150mg/ml(0.015%)の動物由来のタンパク質を含有する、MDBK−GM培地)が使用される。低タンパク質培地が使用される時に、培地は、例えば、約5%、4%、3%、2.5%、2%、1.5%、1%、0.75%、0.5%、0.25%、0.2%、0.1%、0.05%、0.02%、0.016%、0.015%以下、またさらには0.010%以下の動物由来のタンパク質を含有する。低タンパク質培地内に存在するタンパク質の割合という記述は、培地だけを指すものであり、例えばB−27サプリメント内に存在するタンパク質は含まれないことに留意されたい。したがって、細胞が低タンパク質培地およびB−27サプリメント内で培養される時には、培地内に存在するタンパク質の割合が高くなる場合があるものと理解されたい。
【0096】
特定の実施形態では、富栄養性で無タンパク質の培地(例えば、MDBK−MM培地)が使用される。培地の他の例には、例えば、OptiPro SFM、VP−SFM、およびEGM−2が挙げられる。このような媒体は、インスリン、トランスフェリン、亜セレン酸ナトリウム、グルタミン、アルブミン、エタノールアミン、フェチュイン、ペプトン、精製したリポタンパク質材料、ビタミンA、ビタミンC、およびビタミンE等の、栄養成分を含み得る。
【0097】
特定の実施形態では、低タンパク質または無タンパク質のいずれかの媒体内の細胞培養物に無血清のB−27サプリメントが補充される(Brewer et all.,Journal of Neuroscience Research 35:567−576(1993))。B−27サプリメントの栄養成分には、ビオチン、L−カルニチン、コルチコステロン、エタノールアミン、D+−ガラクトース、還元グルタチオン、リノール酸、リノレン酸、プロゲステロン、プトレシン、レチニル酢酸、セレニウム、トリヨード−1−チロニン(T3)、DL−α−トコフェロール(ビタミンE)、DL−α−酢酸トコフェロール、ウシ血清アルブミン、カタラーゼ、インスリン、スーパーオキシドジスムターゼ、およびトランスフェリンが挙げられる。B−27が補充される無タンパク質培地内で細胞が培養される場合、無タンパク質は、B−27を添加する前の培地を指す。
【0098】
培地は、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、アスコルビン酸、血清(例えば、ウシ胎児血清等)、または成長マトリクス(例えば、マトリゲル(BD Biosciences)もしくはゼラチンからの細胞外マトリクス等)等のサプリメントも含有し得る。
【0099】
本発明の本方法では、RPE細胞は、胚様体から分化される。EB(胚様体)からRPE細胞を単離させることで、インビトロで富化培養物内のRPE細胞を展開できるようになる。ヒト細胞において、RPE細胞は、90日未満成長させたEBから得ることができる。本発明の特定の実施形態では、RPE細胞は、7〜14日間成長させたヒトEB内に生じる。他の実施形態では、RPE細胞は、14〜28日間成長させたヒトEB内に生じる。別の実施形態では、RPE細胞は、同定されて、28〜45日成長させたヒトEBから単離され得る。別の実施形態では、RPE細胞は、45〜90日間成長させたヒトEB内に生じる。胚幹細胞、胚様体、およびRPE細胞を培養するのに使用される培地は、任意の間隔で、取り出されても、および/または同じもしくは異なる培地と交換されてもよい。例えば、培地は、0〜7日後、7〜10日後、10〜14日後、14〜28日後、もしくは28〜90日後に取り出されても、および/または交換されてもよい。特定の実施形態では、培地は、少なくとも、毎日、1日おきに、もしくは少なくとも3日おきに交換される。
【0100】
特定の実施形態では、EBから分化されるRPE細胞は、洗浄(例えば、トリプシン/EDTA、コラゲナーゼB、コラゲナーゼIVまたはディスパーゼによって)されて、解離される。特定の実施形態では、細胞を解離するために、例えばハンクスに基づく細胞解離バッファ等の、高いEDTAを含有する溶液等の非酵素溶液が使用される。
【0101】
RPE細胞は、実質的に精製したRPE細胞の培養物を生成するように、解離した細胞から選択され、別々に培養される。RPE細胞は、RPE細胞に関連する特徴に基づいて選択される。例えば、RPE細胞は、敷石状の細胞形態および色素沈着によって認識することができる。加えて、RPEのマーカーには、頂端微絨毛中にも認められる細胞質タンパク質である細胞レチンアルデヒド結合タンパク質(CRALBP)(Bunt−MilamおよびSaari、1983)、網膜代謝に関与する細胞質タンパク質であるRPE65(Ma他、2001、Redmond他、1998)、ベスト卵黄様黄斑ジストロフィ遺伝子の産物であるベストロフィン(VMD2、Marmorstein他、2000)、ならびに48kDの分泌タンパク質である血管形成阻害特性を有する色素上皮由来因子(PEDF)(Karakousis他、2001、Jablonski他、2000)を含む、公知のものが複数ある。あるいは、RPE細胞は、脱落した桿体および錘体の外部体節の貪食、迷光の吸収、ビタミンAの代謝、レチノイドの再生、ならびに組織修復を含む(Grierson他、1994、FisherおよびReh、2001、Marmorstein他、1998)によるもの等の、細胞機能に基づいて選択することができる。評価はまた、行動試験、蛍光血管造影、組織検査、密着帯の伝導性を使用して、もしくは電子顕微鏡法を使用した評価を使用して行ってもよい。本発明の別の実施形態は、このような細胞のメッセンジャーRNA転写物を、インビボで誘導された細胞と比較することによって、RPE細胞を同定する方法である。特定の実施形態では、細胞の分割量は、RPE細胞に対する胚幹細胞の分化中に種々の間隔で取り込まれ、上述したマーカーのうちのいずれかの発現について検定される。これらの特徴は、分化したRPE細胞を区別する。
【0102】
RPE細胞培養物の培地には、1つ以上の成長因子もしくは薬剤が補充され得る。使用され得る成長因子には、例えば、EGF、FGF、VEGF、および組み換え型のインスリン様成長因子が挙げられる。本発明で使用され得る他の成長因子には、6Ckine(組み換え型)、アクチビンA、αA−インターフェロン、αインターフェロン、アンフィレギュリン、アンジオゲニン、B−内皮細胞成長因子、βセルリン、B−インターフェロン、脳由来神経栄養因子、C10(組み換え型)、カルジオトロフィン−1、毛様体神経栄養因子、サイトカイン誘発性好中性化学誘引物質−1、内皮細胞成長サプリメント、エオタキシン、上皮成長因子、上皮好中性活性化ペプチド−78、エリスロポエチン、エストロゲン受容体−α、エストロゲン受容体−B、線維芽細胞成長因子(酸性/塩基性、ヘパリン安定化、組み換え型)、FLT−3/FLK−2リガンド(FLT−3リガンド)、γ−インターフェロン、膠細胞系由来の神経栄養因子、Gly−His−Lys、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、GRO−α/MGSA、GRO−B、GRO−γ、HCC−1、ヘパリン結合上皮成長因子様成長因子、肝細胞成長因子、ヘレグリン−α(EGF領域)、タンパク質−1結合インスリン成長因子、インスリン様成長因子結合タンパク質−1/IGF−1複合体、インスリン様成長因子、インスリン様成長因子II、2.5S神経成長因子(NGF)、7S−NGF、マクロファージ炎症性タンパク質−1B、マクロファージ炎症性タンパク質−2、マクロファージ炎症性タンパク質−3α、マクロファージ炎症性タンパク質−3B、単球走化性タンパク質−1、単球走化性タンパク質−2、単球走化性タンパク質−3、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン−4、NGF−B(ヒトもしくはラット組み換え)、オンコスタチンM(ヒトもしくはマウス組み換え)、下垂体抽出物、胎盤成長因子、血小板由来内皮細胞成長因子、血小板由来成長因子、プレイオトロフィン、ランテス、幹細胞因子、間質細胞由来因子1B/pre−B細胞成長刺激因子、トロンボポエチン、形質転換成長因子α、形質転換成長因子−B1、形質転換成長因子−B2、形質転換成長因子−B3、形質転換成長因子−B5、腫瘍壊死因子(αおよびB)、および血管内皮成長因子が挙げられる。本発明に従って使用することができる薬剤には、インターフェロン−αA、インターフェロン−αA/D、インターフェロン−β、インターフェロン−γ、インターフェロン−γ誘導タンパク質−10、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−5、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−8、インターロイキン−9、インターロイキン−10、インターロイキン−11、インターロイキン−12、インターロイキン−13、インターロイキン−15、インターロイキン−17、ケラチン生成細胞成長因子、レプチン、白血病抑制因子、マクロファージコロニー刺激因子、およびマクロファージ炎症性タンパク質−1α等の、サイトカインが挙げられる。
【0103】
本発明による薬剤は、17B−エストラジオール、副腎皮質刺激ホルモン、アドレノメデュリン、α−メラニン細胞刺激ホルモン、絨毛性ゴナドトロピン、コルチコステロイド結合グロブリン、コルチコステロン、デキサメサゾン、エストリオール、卵胞刺激ホルモン、ガストリン1、グルカゴン、ゴナドトロピン、ヒドロコルチゾン、インスリン、インスリン様成長因子結合タンパク質、L−3,3’,5’−トリヨードサイロニン、L−3,3’,5−トリヨードサイロニン、レプチン、黄体形成ホルモン、L−チロキシン、メラトニン、MZ−4、オキシトシン、副甲状腺ホルモン、PEC−60、脳下垂体成長ホルモン、プロゲステロン、プロラクチン、セクレチン、性ホルモン結合グロブリン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン放出因子、サイキロキシン結合グロブリン、およびバソプレシン等の、ホルモンおよびホルモン拮抗物質も含む。
【0104】
加えて、本発明による薬剤は、フィブロネクチン、フィブロネクチンのタンパク質分解断片、ラミニン、トロンボスポンジン、アグリカン、およびシンデザン(syndezan)等の、細胞外マトリクス成分を含む。
【0105】
本発明による薬剤は、抗低密度リポタンパク質受容体抗体、抗プロゲステロン受容体、内部抗体、抗αインターフェロン受容体鎖2抗体、抗c−cケモカイン受容体1抗体、抗CD118抗体、抗CD119抗体、抗コロニー刺激因子−1抗体、抗CSF−1受容体/c−fins抗体、抗上皮成長因子(AB−3)抗体、抗上皮成長因子受容体抗体、抗上皮成長因子受容体、燐酸特異的抗体、抗上皮成長因子(AB−1)抗体、抗エリスロポイエチン受容体抗体、抗エストロゲン受容体抗体、抗エストロゲン受容体、C末端抗体、抗エストロゲン受容体−B抗体、抗線維芽細胞成長因子受容体抗体、抗線維芽細胞成長因子、塩基性抗体、抗γ−インターフェロン受容体鎖抗体、抗γ−インターフェロンヒト組み換え抗体、抗GFRα−1 C末端抗体、抗GFRα−2 C末端抗体、抗顆粒球コロニー刺激因子(AB−1)抗体、抗顆粒球コロニー刺激因子受容体抗体、抗インスリン受容体抗体、抗インスリン様成長因子−1受容体抗体、抗インターロイキン−6ヒト組み換え抗体、抗インターロイキン−1ヒト組み換え抗体、抗インターロイキン−2ヒト組み換え抗体、抗レプチンマウス組み換え抗体、抗神経成長因子受容体抗体、抗p60、ニワトリ抗体、抗副甲状腺ホルモン様タンパク質抗体、抗血小板由来成長因子受容体抗体、抗血小板由来成長因子受容体−B抗体、抗血小板由来成長因子−α抗体、抗プロゲステロン受容体抗体、抗レチノイン酸受容体−α抗体、抗甲状腺ホルモン核内受容体抗体、抗甲状腺ホルモン核内受容体−α1/Bi抗体、抗トランスフェリン受容体/CD71抗体、抗形質転換成長因子−α抗体、抗形質転換成長因子−B3抗体、抗腫瘍壊死因子−α抗体、および抗血管内皮成長因子抗体等の、種々の因子に対する抗体も含む。
【0106】
本明細書で説明される成長因子、薬剤、および他のサプリメントは、単独で、もしくは他の因子、薬剤、もしくはサプリメントと組み合わせて使用されてもよい。因子、薬剤、およびサプリメントは、細胞培養の直後または細胞培養後の適時に、媒体に添加されてもよい。
【0107】
特定の実施形態では、RPE細胞は、成熟RPE細胞の培養物を産生するように、さらに培養される。RPE細胞を培養するのに使用される培地は、本明細書で述べられるような、高密度細胞培養物の成長に適切なあらゆる培地とすることができる。例えば、本明細書で説明される細胞は、VP−SFM、EGM−2、およびMDBK−MM内で培養されてもよい。
【0108】
以下、上述した本発明の特徴の特定の動作的組み合わせをより詳細に説明する。
【0109】
特定の実施形態では、前もって誘導したヒト胚幹細胞の培養物が提供される。hES細胞は、例えば、(受精または核移入によって生成される)胚盤胞から、もしくは(任意で、胚の残部を破壊せずに)初期卵割期胚から前もって誘導することができる。ヒトES細胞は、胚様体(EB)を生成するように、懸濁培養として培養される。胚様体は、約7〜14日間、懸濁液中で培養される。しかしながら、特定の実施形態では、EBを、7日未満(7、6、5、4、3、2日未満、もしくは1日未満)の間、もしくは14日超の間、懸濁液中で培養することができる。EBは、任意でB−27サプリメントを補充した培地で培養することができる。
【0110】
付着培養物を生成するように、懸濁培養でEBを培養した後に、当該EBを移入することができる。例えば、EBは、培地内でゼラチン被覆したプレート上に蒔いて培養されることができる。付着培養物として培養される時に、EBは、懸濁液中で成長させる時のものと同じ型の培地内で培養することができる。特定の実施形態では、細胞が付着培養物として培養される時に、培地には、B−27サプリメントが補充されない。他の実施形態では、最初(例えば、約7日以下の間)、培地には、B−27サプリメントが補充されるが、その後の残りの期間は、B−27の非存在下で付着培養物として培養される。EBは、約14〜28日間、付着培養物として培養することができる。しかしながら、特定の実施形態では、EBを、14日未満(14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2日未満、もしくは1日未満)の間、もしくは28日超の間、培養することができる。
【0111】
RPE細胞は、EBの付着培養物内の細胞から分化を開始する。RPE細胞は、それらの敷石状の形態および色素沈着の初期の出現に基づいて、視覚的に認識することができる。RPE細胞が分化を継続する時に、RPE細胞の集塊を観察することができる。
【0112】
RPE細胞を富化するために、および実質的に精製したRPE細胞を確立するために、RPE細胞は、機械的および/または化学的方法を使用して、互いに、および非RPE細胞から分化される。RPE細胞の懸濁液は、RPE細胞の懸濁液は、次いで、富化したRPE細胞の集団を提供するように、新鮮な培地および新鮮な培養容器に移すことができる。
【0113】
RPE細胞の富化培養物は、適切な培地、例えばEGM−2培地内で培養することができる。これには、または機能的に同等もしくは同様の培地には、1つ以上の成長因子もしくは薬剤(例えば、bFGF、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、血管内皮成長因子、組み換え型のインスリン様成長因子、アスコルビン酸、ヒト上皮成長因子)が補充されてもよい。
【0114】
RPE細胞が成熟される実施形態の場合、RPE細胞は、所望の成熟のレベルが得られるまで、例えばMDBK−MM培地内でさらに培養することができる。これは、成熟中の色素沈着レベルの増加を監視することによって判定することができる。MDBK−MM培地に代わるものとして、機能的に同等もしくは同様の培地が使用されてもよい。RPE細胞の成熟に使用される特定の培地に関わらず、培地には、任意で、1つ以上の成長因子もしくは薬剤が補充されてもよい。
【0115】
RPE細胞の培養物、したがってこれらの培養物から調製されるRPE細胞の製剤は、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満の、もしくは1%未満の非RPE細胞を含む、実質的に純粋なRPE細胞となり得る。特定の実施形態では、(非RPE細胞に対して)実質的に精製した培養物は、様々な成熟度のレベルのRPE細胞を含有する。他の実施形態では、培養物は、非RPE細胞および異なる成熟度のレベルのRPE細胞の両方に関して実質的に純粋である。
【0116】
上述した実施形態のうちのいずれかについて、本発明は、(上述のように特徴付けられる)RPE細胞が、ヒト多能性幹細胞、例えばiPS細胞および胚幹細胞に由来し得ることを意図している。特定の実施形態では、RPE細胞は、本明細書で説明される方法のうちのいずれかを使用して、ヒト多能性幹細胞から誘導される。
【0117】
分化した多能性幹細胞由来のRPE細胞の製剤
本発明は、ヒト多能性幹細胞由来のRPE細胞の製剤を提供する。特定の実施形態では、製剤は、ヒト胚幹細胞由来のRPE細胞の製剤である。特定の実施形態では、製剤は、ヒトiPS細胞由来のRPE細胞の製剤である。特定の実施形態では、製剤は、分化したES由来のRPE細胞を含む、(非RPE細胞に対して)実質的に精製した製剤である。非RPE細胞に対して実質的に精製した、とは、製剤が、少なくとも75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、またさらには99%超のRPE細胞を含むことを意味する。換言すれば、実質的に精製したRPE細胞の製剤は、25%、20%、15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%未満の、もしくは1%未満の非RPE細胞型を含有する。特定の実施形態では、このような実質的に精製した製剤内のRPE細胞は、様々な成熟度/色素沈着のレベルのRPE細胞を含有する。他の実施形態では、RPE細胞は、非RPE細胞、および他の成熟度のレベルのRPE細胞の両方に対して、実質的に純粋である。特定の実施形態では、製剤は、非RPE細胞に対して実質的に精製され、成熟RPE細胞のために富化される。成熟RPE細胞のために富化される、とは、RPE細胞のうちの少なくとも30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは99%超が成熟RPE細胞であることを意味する。他の実施形態では、製剤は、非RPE細胞に対して実質的に精製され、成熟RPE細胞ではなく、分化したRPE細胞のために富化される。富化する、とは、RPE細胞のうちの少なくとも30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは99%超が、成熟RPE細胞ではなく、分化したRPE細胞であることを意味する。特定の実施形態では、成熟RPE細胞は、色素沈着のレベル、Pax−2、Pax−6の発現のレベル、および/またはチロシナーゼの発現のレベルのうちの1つ以上によって、RPE細胞と区別される。特定の実施形態では、製剤は、少なくとも1×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、2×10個のRPE細胞、3×10個のRPE細胞、4×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、6×10個のRPE細胞、7×10個のRPE細胞、8×10個のRPE細胞、9×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、6×10個のRPE細胞、7×10個のRPE細胞、8×10個のRPE細胞、9×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、もしくは1×10個超のRPE細胞を含む。
【0118】
特定の実施形態では、ES由来のRPE細胞は、ES細胞マーカーを発現しない。例えば、RPE細胞におけるES細胞遺伝子Oct−4、nanog、および/またはRex−1の発現は、定量RT−PCRによって評価した時に、ES細胞における場合よりも約100〜1000倍低い。したがって、ES細胞と比較して、RPE細胞は、Oct−4、nanog、および/またはRex−1遺伝子発現について、実質的にネガティブである。
【0119】
特定の実施形態では、ES由来のRPE細胞は、mRNAおよびタンパク質レベルにおいて、RPE65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMitFのうちの1つ以上を発現する。特定の実施形態では、RPE細胞は、これらのマーカーのうちの2つ以上、3つ以上、4つ以上、5つ以上、もしくは6つを発現する。特定の実施形態では、RPE細胞は、mRNAおよびタンパク質レベルにおいて、pax−2、pax−6、およびチロシナーゼのうちの1つ以上(1つ、2つ、もしくは3つ)を追加的または代替的に発現する。他の実施形態では、RPE細胞の成熟度のレベルは、pax−2、pax−6、およびチロシナーゼのうちの1つ以上(1つ、2つ、もしくは3つ)によって評価される。
【0120】
特定の実施形態では、ES由来のRPE細胞は、mRNAおよびタンパク質レベルにおいて、表1に列記されるRPE特異的遺伝子(pax−6、pax−2、RPE65、PEDF、CRALBP、ベストロフィン、mitF、Otx−2、およびチロシナーゼ)のうちの1つ以上(1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、もしくは9つ)、並びに、表1に列記される神経網膜遺伝子(CHX10、NCAM、ネスチン、βチューブリン)のうちの1つ以上(1つ、2つ、3つ、もしくは4つ)も発現する。しかしながら、RPE細胞は、ES細胞特異的遺伝子Oct−4、nanog、および/またはRex−1を実質的に発現しない(例えば、定量RT−PCRによって評価した時に、ES細胞特異的遺伝子の発現は、RPE細胞における場合よりも100〜1000倍少ない)。
【0121】
特定の実施形態では、ES由来のRPE細胞は、mRNAおよび/またはタンパク質レベルにおいて、表2に列記される遺伝子のうちの1つ以上(1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、25個、26個、27個、28個、29個、30個、31個、32個、33個、34個、35個、36個、37個、38個、39個、40個、41個、42個、43個、44個、45個、46個、47個、48個または48個超)を発現し、RPE細胞で1つ以上の遺伝子の発現は、(もしあれば)ヒトES細胞での発現のレベルと比較して増加する。代替的に、または加えて、ES由来のRPE細胞は、mRNAおよび/またはタンパク質レベルにおいて、表3に列記される遺伝子のうちの1つ以上(1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個、20個、21個、22個、23個、24個、もしくは25個超)を発現するが、RPE細胞で1つ以上の遺伝子の発現は、ヒトES細胞での発現のレベルと比較して減少する(ほぼ検出できないレベルまでの減少を含む)。
【0122】
特定の実施形態では、実質的に精製したRPE細胞の製剤は、成熟度のレベルの異なるRPE細胞(例えば、分化したRPE細胞および成熟分化したRPE細胞)を含む。このような事例では、色素沈着を示すマーカーの発現に関して、製剤全体に変動性が存在し得る。例えば、このようなRPE細胞は、RPE65、PEDF、CRALBPおよびベストロフィンの実質的に同じ発現を有し得る。RPE細胞は、成熟度のレベルに応じて、pax−2、pax−6、mitFおよび/またはチロシナーゼのうちの1つ以上の発現に関して変動し得る。
【0123】
特定の実施形態では、ES由来のRPE細胞は、非RPE細胞型に脱分化しない、安定した、最終分化したRPE細胞である。特定の実施形態では、ES由来のRPE細胞は、機能RPE細胞である。
【0124】
特定の実施形態では、ES由来のRPE細胞は、角膜、角膜下、もしくは他の移植時に、または動物への投与時に、網膜に集積する能力を特徴とする。
【0125】
製剤は、GMP規格に従って生成される。このように、特定の実施形態では、製剤は、GMPに準拠した製剤である。他の実施形態では、製剤は、実質的にウイルス、細菌、および/または菌類の感染および汚染の無いものである。
【0126】
特定の実施形態では、製剤は、貯蔵および後で使用するために凍結保存される。したがって、本発明は、実質的に精製したRPE細胞を含む凍結保存製剤を提供する。凍結保存製剤は、凍結保存中、およびその後の細胞生存度を維持するように、好適な補形剤内で製剤化される。特定の実施形態では、凍結保存製剤が、少なくとも1×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、2×10個のRPE細胞、3×10個のRPE細胞、4×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、6×10個のRPE細胞、7×10個のRPE細胞、8×10個のRPE細胞、9×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、6×10個のRPE細胞、7×10個のRPE細胞、8×10個のRPE細胞、9×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、5×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、1×10個のRPE細胞、もしくは1×10超個のRPE細胞を含む。凍結保存製剤は、上記に詳述したように、非RPE細胞に対して同じ純度のレベル、および/またはRPE細胞に対して様々な成熟度のレベルを有し得る。特定の実施形態では、RPE細胞の凍結保存製剤内のRPE細胞のうちの少なくとも65%は、解凍した後も生存度を維持する。他の実施形態では、RPE細胞の凍結保存製剤内のRPE細胞のうちの少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、81%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、もしくは99%超が、解凍した後も生存度を維持する。
【0127】
本明細書で提供されるRPE細胞は、ヒト細胞である。しかしながら、ヒト細胞は、人間の患者の他に、動物モデルもしくは動物の患者にも使用され得ることに留意されたい。例えば、ヒト細胞は、網膜変性のラット、イヌ、もしくはヒト以外の霊長類モデルで試験され得る。加えて、ヒト細胞は、獣医の医療環境等で、それを必要とする動物を治療するために、治療的に使用され得る。
【0128】
製剤は、薬剤として許容される担体もしくは補形剤内で調製される医薬製剤として製剤化され得る。好適な製剤は、具体的には、眼(例えば、網膜下、角膜、眼球等)への投与のために製剤化される。
【0129】
上述した特定の実施形態のいずれにおいても、RPE細胞は、ヒト胚幹細胞もしくはヒトiPS細胞等の、ヒト多能性幹細胞に由来する。本発明は、本明細書で説明される製剤のうちのいずれかが、適切なヒト多能性幹細胞に由来し得ることを意図している。
【0130】
上述した特質のうちのいずれか1つ以上を含む製剤が意図される。
【0131】
本発明は、実質的に精製した製剤および特定の最少数のRPE細胞を有する製剤を含む、上述のRPE細胞の製剤のうちのいずれかが、本明細書で説明される適応症のうちのいずれかの治療で使用され得ることを意図している。さらに、本明細書で説明される方法のうちのいずれかを使用して分化されるRPE細胞は、本明細書で説明される適応症うちのいずれかの治療で使用され得る。
【0132】
RPE細胞に基づく療法
RPE細胞、および本明細書で説明される方法によって生成されるRPE細胞を含む、および/または本明細書で説明されるRPE細胞の特徴を有する医薬品は、RPE細胞が必要とされる、または治療を改善する、細胞に基づく治療に使用され得る。以下の項では、RPE細胞に基づく療法によって恩恵を受け得る種々の状態を治療するための、本発明によって提供されるRPE細胞を使用する方法を説明する。特定の治療計画、投与の経路、および任意の補助療法は、特定の状態、状態の重篤性、および患者の全体的な健康状態に基づいて調製される。加えて、特定の実施形態では、RPE細胞の投与は、任意の失明もしくは他の症状の完全な回復に対して有効なものとなり得る。他の実施形態では、RPE細胞の投与は、症状の重篤性の低減および/または患者の状態のさらなる変性の予防に対して有効なものとなり得る。本発明は、RPE細胞を含む製剤の投与が、上述または下述の状態のうちのいずれかの治療(症状の重篤性の全体的もしくは部分的な低減を含む)に使用できることを意図している。加えて、RPE細胞の投与は、内因性RPE層に対する任意の損傷の症状を治療するのを補助するのに使用され得る。
【0133】
本発明は、RPE細胞を含む製剤を含む、本明細書で説明される方法のうちのいずれかを使用して誘導されるRPE細胞を、本明細書で説明される適応症のうちのいずれかの治療で使用できることを意図している。さらに、本発明は、本明細書で説明されるRPE細胞を含む製剤のうちのいずれかを、本明細書で説明される適応症のうちのいずれかの治療で使用できることを意図している。
【0134】
網膜色素変性症は、異常な遺伝的プログラミングを通して視覚受容体が徐々に破壊される、遺伝性疾患である。比較的に若い年齢で全盲を引き起こすものもあれば、軽度の視覚破壊を伴う特徴的な「骨棘」網膜変化を示す形態のものもある。世界中で約150万人の人々がこの疾患を発症している。常染色体劣性の網膜色素変性症を引き起こす2つの遺伝子欠損が、RPEだけで発現する遺伝子の中で見つかっている。1つは、ビタミンA代謝に関与するRPEタンパク質(シスレチンアルデヒド結合タンパク質)に起因する。もう1つは、RPEに特有の別のタンパク質であるRPE65が関与する。本発明は、RPE細胞の投与によって、網膜色素変性症のこれらの形態のうちのどちらも治療するための方法および組成物を提供する。
【0135】
別の実施形態では、本発明は、黄斑変性症を含む、網膜変性に関連する障害を治療するための方法および組成物を提供する。
【0136】
本発明のさらなる態様は、遺伝性および後天性の眼病を含む、眼病の治療に対するRPE細胞の使用である。後天性または遺伝性の眼病の例は、加齢性黄斑変性症、緑内障、および糖尿病性網膜症である。
【0137】
加齢性黄斑変性症(AMD)は、西洋諸国における法的盲の最も一般的な原因である。黄斑下網膜色素上皮の萎縮および脈絡膜新血管形成(CNV)の発生は、二次的に中心視力の損失をもたらす。大多数の下位中心窩CNVおよび地図状萎縮患者については、現在のところ、中心視力の損失を予防するために利用できるいかなる治療法も存在しない。AMD初期の兆候は、網膜色素上皮とブルッフ膜との間の沈着物(集晶)である。疾患中には、黄斑の網膜下腔内への脈絡膜血管の発芽が生じる。これは、中心視力および読書能力の低下につながる。
【0138】
緑内障とは、眼内の圧力が異常に増加する一群の疾患に与えられる名称である。これは、視野の制限および見る能力の全般的な減衰につながる。最も一般的な形態は、原発緑内障であり、慢性開放隅角および急性閉塞隅角緑内障の2つの形態に分けられる。続発性緑内障は、感染、腫瘍、または怪我によって引き起こされ得る。第3の型である遺伝性緑内障は、通常、妊娠中の発育障害に由来する。眼球内の房水は、眼の光学的特性に必要である特定の圧力下にある。この眼圧は、通常15〜20水銀柱ミリメートルであり、房水の生成と房水の流出との間の平衡によって制御される。緑内障では、前房の隅角における房水の流出が妨げられ、よって眼内部の圧力が上昇する。緑内障は、通常、中年齢もしくは高年齢時に発症するが、遺伝性の形態および疾患は、往々にして子供および若者にも見られる。眼圧がわずかに高められるだけで、さらにいかなる明白な症状も存在しないが、緩やかな損傷、特に視野の制限が生じる。対照的に、隅角閉塞は、痛み、赤み、瞳孔の拡大、および深刻な視力の障害を引き起こす。角膜は濁ったようになり、眼圧が大幅に増加する。疾患が進行するにつれて、視野がますます狭くなるが、眼科的器具である視野計を使用して、容易に検出することができる。慢性緑内障は、概して、房水の流出を高める局所的に投与した薬物によく反応する。房水の生成を低減するように、全身性活性物質が与えられることもある。しかしながら、薬物治療は、必ずしも成功するとは限らない。薬物療法に失敗した場合は、房水の新しい流出を作り出すように、レーザー療法もしくは従来の手術が用いられる。急性緑内障は、医学的な緊急事態である。眼圧が24時間以内に低減されない場合、永続的な損傷が生じる。
【0139】
糖尿病性網膜症は、真性糖尿病の場合に起こる。それは、タンパク質のグリコシル化の結果として、血管内皮細胞の基底膜の増粘化を招く可能性がある。それは、初期の血管硬化症および毛細血管瘤形成の原因である。これらの血管の変化は、数年後には糖尿病性網膜症につながる。血管の変化は、毛細血管領域の低灌流を引き起こす。これは、脂質沈着物(硬性白斑)および脈管の増殖につながる。臨床的経過は、真性糖尿病患者によって異なる。加齢性糖尿病(II型糖尿病)では、毛細血管瘤が最初に現れる。その後、障害性毛細血管潅流のため、網膜実質組織内に硬性および軟性の白斑、ならびに点状の出血が現れる。糖尿病性網膜症の後期では、黄斑の周辺に脂肪性沈着物が冠状に並ぶ(輪状網膜炎)。これらの変化は、しばしば眼球後極部で浮腫を伴う。浮腫が黄斑を伴っている場合は、急激で深刻な視力の低下がある。I型糖尿病における主な問題は、眼底部領域での血管の増殖である。標準的な療法は、眼底部の罹患部分のレーザー凝固である。レーザー凝固は、最初に、網膜の罹患部分に局所的に行われる。白斑が存続する場合は、レーザー凝固の範囲を拡大する。処置の結果、視力に最も重要である網膜の複数部分の破壊をもたらすので、最も鋭敏な視力を伴う網膜の中心、すなわち斑点および乳頭黄斑束を凝固させることができない。増殖がすでに生じていた場合は、しばしば、その増殖に基づいて、病巣を非常に高密度に押圧することが必要である。これは、網膜領域の破壊を伴う。相当する視野を失う結果となる。I型糖尿病では、適時のレーザー凝固は、しばしば、患者を失明から守る唯一の機会である。
【0140】
特定の実施形態では、本発明のRPE細胞は、中枢神経系の障害の治療に使用され得る。RPE細胞は、CNS内に移植されてもよい。現在まで、多数の異なる細胞型が、動物実験または臨床研究においてパーキンソン病患者に用いられてきた。実施例は、ヒトの胎児の脳から得られる胎児細胞である。すでに、腹側中脳またはドーパミン作動性神経細胞からの胎児細胞が、300人を超えるパーキンソン病患者に関する臨床研究で移植されてきた(概略については、Alexi T、Borlongan CV、Faull RL、Williams CE、Clark RG、Gluckman PD、Hughes PE(2000)「Neuroprotective strategies for basal ganglia degeneration:Parkinson’s and Huntington’s diseases」Prog Neurobiol 60:409 470を参照されたい)。自然発生的に、または遺伝子移入後にドーパミンを置き換えることを目的として、例えば副腎皮質からの細胞、生殖腺上のセルトリ細胞または頸動脈小体からのグロムス細胞、線維芽細胞、もしくは星状細胞といった、非神経細胞を含む多数の異なる細胞型が、パーキンソン病患者もしくは動物モデルで使用されてきた(Alexi他 2000、前掲)。移植した胎児のドーパミン作動性神経細胞の生存率は、58%であり、これは、兆候および症状にわずかな改善を生じさせるのに十分であった(Alexi他 2000、前掲)。
【0141】
ここ数年は、成人の脊椎動物の脳からの神経幹細胞が単離され、インビトロで増大され、CNS内に再植設され、その後に、それらを純粋な神経細胞に分化させている。しかしながら、CNSにおけるそれらの機能は、未だ明らかではない。神経前駆細胞は、遺伝子移入にも使用されてきた(Raymon HK、Thode S、Zhou J、Friedman GC、Pardinas JR、Barrere C、Johnson RM、Sah DW(1999)「Immortalized human dorsal root ganglion cells differentiate into neurons with nociceptive properties」J Neurosci 19:5420 5428)。NGFおよびGDNFを過剰発現させたシュワン細胞は、パーキンソン症候群のモデルで神経保護効果を有した(Wilby MJ、Sinclar SR、Muir EM、Zietlow R、Adcock KH、Horellou P、Rogers JH、Dunnett SB、Fawcett JW(1999)「A glial cell line−derived neurotrophic factor−secreting clone of the Schwann cell line SCTM41 enhances survival and fiver outgrowth from embryonic nigral nertons grafted to the striatum and to the lesioned substantia nigra」J Neurosci 19:2301 2312)。 本発明の別の態様は、したがって、神経の病気、特に神経系の病気、好ましくはCNSの病気、とりわけパーキンソン病の治療に対する色素上皮細胞の使用である。
【0142】
CNSに共通する疾患の一例は、脳の慢性変性疾患であるパーキンソン病である。この病気は、基底神経節領域の特殊な神経細胞の変性によって引き起こされる。ドーパミン作動性神経細胞の死は、パーキンソン病患者に、重要な神経伝達物質であるドーパミン合成の低減をもたらす。標準的な療法は、Lドーパによる医学的療法である。Lドーパは、基底神経節内でドーパミンに代謝し、そこで欠落した内因性神経伝達物質の機能を引き継ぐ。しかしながら、Lドーパ療法は、数年後にその活性を失う。
【0143】
治療され得る、または本明細書で説明される方法を使用して生成されるRPE細胞の有効性を試験するのに使用され得る網膜色素変性症の動物モデルは、齧歯類(rdマウス、RPE−65ノックアウトマウス、タビー様マウス、RCSラット)、ネコ(アビシニアンネコ)、およびイヌ(錐状体変性「cd」イヌ、進行性桿体−錐体変性「prcd」イヌ、初期の網膜変性「erd」イヌ、桿体−錐体形成異常1、2、および3「rcd1、rcd2、およびrcd3」イヌ、光受容体形成異常「pd」イヌ、およびブリアール「RPE−65」イヌ)を含む。
【0144】
本発明の別の実施形態は、新血管形成を防止する能力を高めたRPE系もしくはRPE細胞の前駆体を誘導するための方法である。このような細胞は、細胞の正常な複製的寿命の少なくとも10%が経過するまでテロメラーゼが短くされるように患者からの体細胞を加齢させ、次いで、当該の体細胞を核移入のドナー細胞として使用して、色素上皮由来の因子(PEDF/EPC−1)等の脈管形成阻害因子を過剰発現する細胞を作り出すことによって、生成することができる。あるいは、このような細胞は、新血管形成を阻害する外来性遺伝子によって遺伝子修飾を行うことができる。
【0145】
本発明は、ヒト多能性幹細胞(例えば、ヒト胚幹細胞、iPS細胞、もしくは他の多能性幹細胞)から分化したRPE細胞の製剤を、上述の病気または状態のうちのいずれか、並びに、内因性RPE層の損傷も治療するのに使用できることを意図している。これらの疾患は、様々な成熟度のレベルの分化したRPE細胞の混合物を含むRPE細胞の製剤、並びに、成熟分化したRPE細胞もしくは分化したRPE細胞のために富化される分化したRPE細胞の製剤によっても治療することができる。
【0146】
投与様式
本発明のRPE細胞は、注射(例えば、硝子体内注射)等によって、またはデバイスもしくは植設物(例えば、持続的放出性植設物)の一部として局所的、全身的、局在的に投与され得る。例えば、本発明の細胞は、硝子体切除手術を用いることによって、網膜下腔内に移植されてもよい。
【0147】
投与の方法に応じて、RPE細胞は、緩衝および電解質平衡水溶液、潤滑ポリマーを伴う緩衝および電解質平衡水溶液、鉱油またはペトロラタムに基づく軟膏、他の油類、リポソーム、シクロデキストリン、持続的放出ポリマー、またはゲル類に添加することができる。これらの製剤は、患者の寿命までの期間、1日あたり1〜6回、眼に局所的に投与することができる。
【0148】
特定の実施形態では、網膜変性に関連する状態を患う患者を治療する方法は、局所的手段または全身投与によって(例えば、インビボで体内吸収できるようにする、または血流中に薬物が蓄積し、その後に、静脈、皮下、腹膜内、吸入、経口、肺内、および筋肉内経路が上げられるが、これに限定されない、体全体を通して分配できるようにする投与の経路によって)、本発明の組成物を(例えば、眼内注射または本発明の組成物を放出する持続的放出デバイスの挿入によって)局在的に投与する工程を含む。本発明の組成物の眼内投与は、例えば、眼の硝子体、経角膜、結膜下、強膜近傍、後部強膜、およびテノン嚢下部分への送達を含む。例えば、米国特許第6,943,145号、同第6,943,153号、および同第6,945,971号を参照されたく、その内容は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0149】
本発明のRPE細胞は、眼内注射によって、薬剤として許容される眼科用配合剤で送達されてもよい。硝子体内注射によって配合剤を投与する場合、例えば、溶液は、最小限の容量が送達され得るように濃縮すべきである。注射のための濃度は、本明細書で説明される因子に基づいて、有効かつ非中毒性である任意の量であってもよい。いくつかの実施形態では、患者の治療のためのRPE細胞は、約10細胞/mLの用量で製剤化される。他の実施形態では、患者の治療のためのRPE細胞は、約10、10、10、10、10、もしくは1010細胞/mLの用量で製剤化される。
【0150】
RPE細胞は、例えば、前房、後房、硝子体、房水、硝子体液、角膜、虹彩/繊毛、水晶体、脈絡膜、網膜、強膜、脈絡膜上腔、結膜、結膜下腔、強膜外隙、角膜内腔、上角膜腔、毛様体扁平部、外科的に誘発させた無血管領域、または黄斑等の、眼の罹患部分を細胞が透過するのを許容するのに十分な期間、組成物と眼球表面との接触が保持されるように、薬剤として許容される眼科用賦形剤で送達するために製剤化され得る。本発明の薬剤を含む、送達賦形剤等の製品およびシステムは、特に、医薬組成物(ならびにそのような送達賦形剤および/またはシステムを含むキット)として製剤化されるものも、本発明の一部となるものとして想定される。
【0151】
特定の実施形態では、本発明の治療法は、植設物またはデバイスとして本発明のRPE細胞を投与する工程を含む。特定の実施形態では、デバイスは、生分解性ポリマーマトリクス内で分散する活性剤を含む、眼の医学的な状態を治療するためのインビボ分解性植設物であり、活性剤の粒子の少なくとも約75%は、約10μm未満の直径を有する。インビボ分解性植設物は、眼球領域内の植設用にサイズ決定される。眼球領域は、前房、後房、硝子体腔、脈絡膜、上脈絡膜腔、結膜、結膜下腔、強膜外隙、角膜内腔、上角膜腔、強膜、毛様体扁平部、外科的に誘発された無血管領域、黄斑、および網膜のうちのいずれか1つ以上とすることができる。生分解性ポリマーは、例えば、ポリ(乳−co−グリコール)酸(PLGA)コポリマーとすることができる。特定の実施形態では、ポリマー中のグリコール酸モノマーに対する乳酸の比率は、約25/75、40/60、50/50、60/40、75/25重量パーセント、より好ましくは、約50/50である。加えて、PLGAコポリマーは、インビボ分解性植設物の約20、30、40、50、60、70、80〜約90重量パーセントとすることができる。特定の好適な実施態様では、PLGAコポリマーは、インビボ分解性植設物の約30〜約50重量パーセント、好ましくは約40重量パーセントとすることができる。
【0152】
本明細書で説明される方法に従って投与される組成物の容量は、投与方法、RPE細胞の数、患者の年齢および体重、および治療される疾患の型および重篤性等の因子にも依存する。例えば、液体として経口投与される場合、本発明の組成物を含む液体の容量は、約0.5ミリリットル〜約2.0ミリリットル、約2.0ミリリットル〜約5.0ミリリットル、約5.0ミリリットル〜約10ミリリットル、もしくは約10ミリリットル〜約50ミリリットルとなり得る。注射によって投与される場合、本発明の組成物を含む液体の容量は、約5.0マイクロリットル〜約50マイクロリットル、約50マイクロリットル〜約250マイクロリットル、約250マイクロリットル〜約1ミリリットル、約1ミリリットル〜約5ミリリットル、約5ミリリットル〜約25ミリリットル、約25ミリリットル〜約100ミリリットル、もしくは約100ミリリットル〜約1リットルとなり得る。
【0153】
眼内注射によって投与される場合、RPE細胞は、患者の寿命の全体を通して定期的に1回以上送達することができる。例えば、RPE細胞は、年1回、6〜12ヵ月に1回、3〜6ヵ月に1回、1〜3ヵ月に1回、もしくは1〜4週間に1回送達することができる。あるいは、特定の状態または障害については、より頻繁な投与が望ましくなり得る。植設物もしくはデバイスによって投与される場合、RPE細胞は、治療される特定の患者および障害、もしくは状態の必要に応じて、患者の寿命の全体を通して定期的に1回もしくは1回以上投与することができる。同様に、経時的に変化する治療計画が意図される。例えば、最初の間は、より頻繁な治療(例えば、毎日もしくは毎週の治療)が必要になり得る。経時的に、患者の状態が改善するにつれて、治療の頻度の低減が必要となり得る、またはそれ以上の治療を行わなくてもよくなり得る。
【0154】
特定の実施形態では、患者には、RPE細胞の投与の前、これと同時に、もしくは後のいずれかに、免疫抑制療法も投与される。免疫抑制療法は、患者の寿命の全体を通して、またはより短い期間、必要になり得る。
【0155】
特定の実施形態では、本発明のRPE細胞は、薬剤として許容される担体によって製剤化される。例えば、RPE細胞は、単独で、または医薬組成物の成分として投与され得る。対象の化合物は、人間の薬で使用するためのあらゆる好都合な方法で投与するために製剤化されてもよい。特定の実施形態では、非経口投与に好適な医薬組成物は、薬剤として許容される1つ以上の無菌で等張性の水または非水系溶液、分散体、懸濁液もしくはエマルジョン、または使用直前に無菌の注射可能な溶液または分散体に再構成され得る無菌の粉末と組み合わせた、RPE細胞を含み得、酸化防止剤、緩衝剤、静菌剤、対象となる受容者の血液との製剤化用の水、懸濁剤、もしくは増粘剤を含有し得る。本発明の医薬組成物に用いられ得る好適な水性および非水系担体の例には、水、エタノール、多価アルコール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、およびそれらの好適な混合物、オリーブ油等の植物油、およびオレイン酸エチル等の注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動性は、例えば、レシチンのような被膜材料を使用することにより、また、分散体の場合には必要な粒度を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって保持することができる。
【0156】
本発明の組成物は、保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤等のアジュバントを含有し得る。微生物の作用の予防は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等を含有させることによって確実にされ得る。また、糖、塩化ナトリウム等の等張剤を組成物中に含むことが好ましい場合もある。加えて、注射可能な医薬形態の持続的吸収が、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチン等の、吸収を遅延させる1つ以上の薬剤の包含によってもたらされ得る。
【0157】
投与される時には、本発明で使用するための治療用組成物は、当然、発熱因子の無い、生理的に許容可能な形態である。さらに、組成物は、望ましくは、網膜もしくは脈絡膜の損傷部位に送達するために、粘性のある形態で硝子体液中にカプセル化または注入され得る。
【0158】
複雑さを低減したRPE細胞を得るための、ヒト胚幹細胞におけるMHC遺伝子の設計
本発明のRPE細胞を生成する当該方法の出発点として使用されるヒト胚幹細胞は、ヒト胚幹細胞のライブラリから誘導されてもよく、それぞれが、ヒト集団内に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子に対してヘミ接合性もしくはホモ接合性である。特定の実施形態では、幹細胞の当該ライブラリの各メンバは、ライブラリの残りのメンバに関連して、異なる組のMHC対立遺伝子に対してヘミ接合性もしくはホモ接合性である。特定の実施形態では、幹細胞のライブラリは、ヒト集団内に存在する全てのMHC対立遺伝子に対してヘミ接合性もしくはホモ接合性である。本発明の文脈では、1つ以上の組織適合性抗原遺伝子に対してホモ接合性である幹細胞は、1つ以上の(およびいくつかの実施形態では全ての)そのような遺伝子に対してヌル接合性である細胞を含む。遺伝子座に対するヌル接合性とは、遺伝子がその座においてヌルである、すなわち、その遺伝子の両方の対立遺伝子が、削除または不活性化されることを意味する。MHC遺伝子に対してヌル接合性である幹細胞は、例えば遺伝子の標的化および/またはヘテロ接合性の消失(LOH)等の、当技術分野において公知の標準的な方法によって生成され得る。例えば、米国特許公報第US20040091936号、第US20030217374号、および第US20030232430号、および米国仮出願第60/729,173号を参照されたく、その全ての開示は、参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0159】
したがって、本発明は、MHCの複雑さを低減した、RPE細胞のライブラリを含む、RPE細胞を得る方法に関する。MHCの複雑さを低減したRPE細胞は、患者の適合性に関連する問題点を排除することになるため、治療用途に利用可能な細胞の供給を増加させることになる。このような細胞は、MHC複合体の遺伝子に対してヘミ接合性もしくはホモ接合性となるように設計される幹細胞から誘導され得る。
【0160】
ヒト胚性幹細胞は、細胞のMHC複合体の姉妹染色体の対立遺伝子のうちの1つに対する修飾体を含み得る。遺伝子標的化等の遺伝子修飾体を発生させるための様々な方法が、MHC複合体内の遺伝子を修飾するために用いられ得る。さらに、細胞内のMHC複合体の変更した対立遺伝子は、続いて、同一の対立遺伝子が姉妹染色体上に存在するように、ホモ接合性となるように操作され得る。細胞を操作して、MHC複合体内にホモ接合性の対立遺伝子を有するために、ヘテロ接合性の消失(LOH)等の方法が用いられ得る。例えば、親対立遺伝子からの一組のMHC遺伝子内の1つ以上の遺伝子を、ヘミ接合性細胞を発生させるために標的化することができる。他の一組のMHC遺伝子は、ヌル系を作製するように、遺伝子標的化またはLOHによって取り出すことができる。このヌル系はさらに、他の一様な遺伝的背景を伴うヘミ接合性もしくはホモ接合性バンクを作製するように、その中でHLA細胞もしくは個々の細胞の配列を中断する胚細胞系として使用することができる。
【0161】
一態様では、ライブラリのメンバが少なくとも1つのHLA細胞に対してホモ接合性であるES細胞系のライブラリが、本発明の方法によるRPE細胞を誘導するのに使用される。別の態様では、本発明は、RPE細胞(および/またはRPE系統細胞)のライブラリを提供し、そこでES細胞のいくつかの系が選択され、RPE細胞に分化される。これらのRPE細胞および/またはRPE系統細胞は、細胞に基づく治療を必要とする患者に使用され得る。
【0162】
したがって、本発明の特定の実施形態は、複雑さを低減した胚幹細胞から誘導したヒトRPE細胞を、それを必要とする患者に投与する方法に関する。特定の実施形態では、本方法は、(a)ヒトRPE細胞を患者に投与する工程を伴う治療を必要とする患者を同定する工程と、(b)患者の細胞の表面に発現するMHCタンパク質を同定する工程と、(c)本発明のRPE細胞を生成するための方法によって作成される、複雑さを低減したMHCのヒトRPE細胞のライブラリを提供する工程と、(d)ライブラリから、この患者の細胞に関するMHCタンパク質に適合するRPE細胞を選択する工程と、(e)工程(d)からの細胞のうちのいずれかを当該患者に投与する工程と、を含む。本方法は、例えば病院、クリニック、診療所、および他の医療施設等の総括局で実行されてもよい。さらに、患者に適合するものとして選択されるRPE細胞は、少数の細胞しか保存されていなかった場合、患者の治療前に増大させてもよい。
【0163】
他の市販アプリケーションおよび方法
本発明の特定の態様は、商業的な量に到達するRPE細胞の生成に関する。特定の実施形態では、RPE細胞は、大規模に生成され、必要に応じて保存されて、病院、臨床医、もしくは他の医療施設に供給される。患者が、例えばスタルガルト黄斑ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、または網膜色素変性症等の兆候を呈した時に、適時の様体でRPE細胞を注文して提供することができる。したがって、本発明は、商業的な細胞の規模を達成するように細胞を生成する方法、当該方法に由来するRPE細胞を含む細胞製剤の他に、RPE細胞を病院および臨床医に提供する(すなわち、生成し、任意で貯蔵し、かつ販売する)方法にも関する。
【0164】
したがって、本発明の特定の態様は、本明細書で開示される方法によって生成されるRPE細胞を生成し、貯蔵し、かつ分配する方法に関する。RPEの生成後に、RPE細胞を、患者の治療前に採取し、精製し、かつ任意で貯蔵してもよい。RPE細胞は、患者固有のもの、またはHLAもしくは他の免疫学的プロファイルに基づいて特に選択したものであってもよい。
【0165】
したがって、特定の実施形態では、本発明は、RPE細胞を病院、医療施設、および臨床医に供給し、それによって、本明細書で説明される方法によって生成されるRPE細胞を貯蔵し、病院、医療施設、もしくは臨床医の要求に応じて注文し、かつRPE細胞療法を必要とする患者に投与する方法を提供する。代替の実施形態では、病院、医療施設、もしくは臨床医が、患者固有のデータに基づいてRPE細胞を注文し、患者の病状に従ってRPE細胞を生成し、続いて、注文を行った病院もしくは臨床医に供給する。
【0166】
特定の実施形態では、ヒト胚幹細胞からRPE細胞を分化させる方法は、適正製造基準(GMP)に従って実施される。特定の実施形態では、ヒト胚幹細胞の初期の誘導または生成も、適正製造基準(GMP)に従って実施される。細胞は、ウイルス、細菌、もしくは真菌の感染もしくは汚染が存在しないことを確実にするように、分化プロトコルの全体を通して1つ以上の時点で試験が行われてもよい。同様に、出発材料として使用されるヒト胚幹細胞は、ウイルス、細菌、もしくは真菌の感染もしくは汚染が存在しないことを確実にするように、試験が行われてもよい。
【0167】
特定の実施形態では、分化したRPE細胞もしくは成熟分化したRPE細胞の生成が、商業的利用のために拡大される。例えば、当該方法は、少なくとも1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、1×10個、5×10個、もしくは1×1010個のRPE細胞を生成するのに使用することができる。
【0168】
本発明のさらなる態様は、適合した細胞を潜在患者である受容者に提供することができる、RPE細胞のライブラリに関する。したがって、ある実施形態において、本発明は、少なくとも1つの組織適合性抗原に対してホモ接合性であるRPE細胞製剤を提供する工程を含む、医薬品事業を行う方法であって、細胞が、本明細書で説明される方法によって増大させることができるRPE細胞のライブラリを含むそのような細胞のバンクから選択され、各RPE細胞製剤が、ヒト集団内に存在する少なくとも1つのMHC対立遺伝子に対してヘミ接合性もしくはホモ接合性であり、かつ当該のRPE細胞のバンクが、細胞のバンク内の他のメンバに対して異なる組のMHC対立遺伝子に対してそれぞれヘミ接合性もしくはホモ接合性である細胞を含む、方法を提供する。上述のように、遺伝子標的化またはヘテロ接合性の消失は、RPE細胞の誘導に使用されるヘミ接合性またはホモ接合性のMHC対立遺伝子幹細胞を発生させるために使用され得る。ある実施形態では、患者に好適なものとなる特定のRPE細胞製剤を選択し、その後に、患者の治療に適切な量に到達するまで増大させる。医薬品事業を行う方法はまた、製剤を販売のために分配するための分配システムを確立する工程、または医薬製剤をマーケティングする販売グループを確立する工程を含み得る。
【0169】
本発明の他の態様は、医薬品、化学薬品、もしくはバイオテクノロジ会社、病院、または学術もしくは調査機関等の環境での研究ツールとしての、本発明のRPE細胞の使用に関する。このような用法には、例えばインビトロもしくはインビボでRPEの生存を促進するのに使用できる、またはRPEの成熟を促進するのに使用できる薬剤を同定するためのスクリーニング試験での、胚幹細胞から分化したRPE細胞の使用を含む。同定した薬剤は、例えば単独で、もしくはRPE細胞と組み合わせてそれらの潜在的使用を評価するように、インビトロまたは動物モデルで研究することができる。
【0170】
本発明は、患者からヒトES細胞を得て、次いでそのES細胞に由来するRPE細胞を発生および増大させる方法も含む。これらのRPE細胞は、貯蔵され得る。加えて、これらのRPE細胞は、そこからES細胞が得られた患者、またはその患者の親族を治療するのに使用され得る。
【0171】
上述した方法および用途は、RPE細胞の治療、医薬製剤、および貯蔵に関連するので、本発明は、そのような用途に好適であるRPE細胞の溶液にも関する。したがって、本発明は、患者への注射に好適であるRPE細胞の溶液に関する。このような溶液は、生理的に許容可能な液体(例えば、生理食塩水、緩衝食塩水、もしくは平衡塩類溶液)中で製剤化される細胞を含み得る。溶液中の細胞の数は、少なくとも約10〜約10個未満の細胞になり得る。他の実施形態では、溶液中の細胞の数は、約10個、10個、5×10個、10個、5×10個、10個、10個、10個、10個、または10個〜約5×10個、10個、5×10個、10個、10個、10個、10個、10個、または10個の範囲となり得、上限および下限は、独立に選択されるが、ただし、下限は、常に上限未満である。さらに、細胞は、単回もしくは複数回投与で投与され得る。
【0172】
本明細書で説明される方法によって提供される細胞は、即時に使用され得、または数日もしくは数年間冷凍され得る。したがって、ある実施形態において、本発明は、RPE細胞の凍結保存製剤を提供し、当該の凍結保存製剤は、少なくとも約10個、10個、5×10個、10個、5×10個、10個、5×10個、10個、5×10個または10個の細胞を含む。凍結保存製剤は、少なくとも約5×10個、10個、5×10個、10個、5×10個、10個、5×10個、もしくは1010個の細胞をさらに含み得る。同様に、RPE細胞を凍結保存する方法が提供される。RPE細胞は、分化後、インビトロ成熟後即時に、または培養物内である期間が経過した後に凍結保存され得る。製剤内のRPE細胞は、分化したRPE細胞および成熟RPE細胞の混合物を含み得る。
【0173】
他の多能性細胞
上述の考察は、特有のRPE細胞を作製するための出発材料としてヒト胚幹細胞を使用することの他に、ヒト胚幹細胞から分化したRPE細胞を使用した製剤およびその方法にも重点を置いている。しかしながら、上記に詳述した方法および用法は、同様に、他の型のヒト多能性幹細胞を出発材料として使用して、RPE細胞を発生させるためにも使用することができる。したがって、本発明は、上述または下述の本発明の態様および実施形態のうちのいずれかを、同様に、他の型のヒト多能性幹細胞から分化したRPE細胞の方法および用法に適用することができることを意図している。特に、人工多能性幹(iPS)細胞が胚幹細胞の特徴を有するならば、そのような細胞を、胚幹細胞から分化したRPE細胞と同一もしくは実質的に同一であるRPE細胞を生成するのに使用できることに留意されたい。
【0174】
本明細書で使用する場合、「多能性幹細胞」という用語は、多能性幹細胞が誘導される方法に関わらず、胚幹細胞、胚由来の幹細胞、および人工多能性幹細胞を含む。多能性幹細胞は、(a)免疫不全(SCID)マウス内に移植した時に奇形腫を誘発することができる、(b)胚葉層の3つ全ての細胞型に分化することができる(例えば、外胚葉、中胚葉、および内胚葉の細胞型に分化することができる)、および(c)胚幹細胞の1つ以上のマーカーを発現する(例えば、Oct−4、アルカリ性ホスファターゼ、SSEA−3表面抗原、SSEA−4表面抗原、nanog、TRA−1−60、TRA−1−81、SOX2、REX1等を発現する)、幹細胞として機能的に定義される。例示的な多能性幹細胞は、例えば当技術分野において公知の方法を使用して発生させることができる。例示的な多能性幹細胞は、胚盤胞期胚のICMに由来する胚幹細胞、並びに、(任意で、胚の残部を破壊せずに)卵割期もしくは桑実胚期胚の1つ以上の分割球に由来する胚幹細胞も含む。このような胚幹細胞は、体細胞核移入(SCNT)、単為生殖、細胞の再プログラミング、および雄性生殖を含む、受精によって、もしくは無性手段によって生成される胚材料から発生させることができる。さらなる例示的な多能性幹細胞は、因子(本明細書では、再プログラミング因子と称する)の組み合わせを発現させる、もしくは発現を誘発することにより、体細胞を再プログラムすることによって発生される人工多能性幹細胞(iPS細胞)を含む。iPS細胞は、胎児、初生児、新生児、幼若児、もしくは成人の体細胞を使用して発生させることができる。特定の実施形態において、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするのに使用することができる因子には、例えば、Oct−4(Oct3/4と称されることもある)、Sox2、c−Myc、およびKlf4の組み合わせが挙げられる。他の実施形態において、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするのに使用することができる因子には、例えば、Oct−4、Sox2、Nanog、およびLin28の組み合わせが挙げられる。他の実施形態では、体細胞は、少なくとも2つの再プログラミング因子、少なくとも3つの再プログラミング因子、もしくは4つの再プログラミング因子を発現することによって再プログラムされる。他の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞に再プログラムするように、追加的な再プログラミング因子が同定され、単独で、もしくは1つ以上の公知の再プログラミング因子と組み合わせて使用される。
【0175】
胚幹細胞は、多能性幹細胞の一例である。別の例は、人工多能性幹(iPS)細胞である。
【0176】
特定の実施形態では、多能性幹細胞は、胚幹細胞もしくは胚由来の細胞である。他の実施形態では、多能性幹細胞は、人工多能性幹細胞である。特定の実施形態では、多能性幹細胞は、1つ以上の再プログラミング因子を体細胞内に発現させる、もしくは発現を誘発することによって生成される人工多能性幹細胞である。特定の実施形態では、体細胞は、真皮線維芽細胞、滑膜線維芽細胞、もしくは肺線維芽細胞等の線維芽細胞である。他の実施形態では、体細胞は、線維芽細胞ではなく、むしろ非線維芽細胞体細胞である。特定の実施形態では、体細胞は、少なくとも2つの再プログラミング因子、少なくとも3つの再プログラミング因子、もしくは4つの再プログラミング因子を発現することによって再プログラムされる。他の実施形態では、体細胞は、少なくとも4つ、少なくとも5つ、もしくは少なくとも6つの再プログラミング因子を発現することによって再プログラムされる。特定の実施形態では、再プログラミング因子は、Oct3/4、Sox2、Nanog、Lin28、c−Myc、およびKlf4から選択される。他の実施形態では、発現する一組のプログラミング因子は、上記に列記した再プログラミング因子のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、もしくは少なくとも4つを含み、かつ任意で、1つ以上の他の再プログラミング因子を含む。特定の実施形態では、上述の、もしくは他の再プログラミング因子のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、もしくは少なくとも4つは、体細胞と、1つ以上の再プログラミング因子の発現を誘発する有機小分子薬剤等の1つ以上の薬剤とを接触させることによって誘発される。特定の実施形態では、体細胞は、(例えば、ウイルスベクター、プラスミド等を使用して)1つ以上の再プログラミング因子が発現され、かつ(例えば有機小分子を使用して)1つ以上の再プログラミング因子の発現が誘発される、組み合わせ手法を使用して再プログラムされる。
【0177】
特定の実施形態では、再プログラミング因子は、レトロウイルスベクターもしくはレンチウイルスベクター等のウイルスベクターを使用した感染によって、体細胞内に発現される。他の実施形態では、再プログラミング因子は、エピソームプラスミド等の非統合的ベクターを使用して、体細胞内に発現される。非統合的ベクターを使用して再プログラミング因子が発現される時に、当該因子は、電気穿孔法、形質移入、またはベクターによる体細胞の形質変換を使用して、細胞内に発現させることができる。
【0178】
特定の実施形態では、多能性幹細胞は、体細胞から発生され、体細胞は、胚、胎児、新生児、初生児、幼若児、もしくは成人細胞から選択される。
【0179】
再プログラミング因子を発現する、もしくは発現を誘発することによってiPS細胞を作製するための方法は、当技術分野において公知である。簡潔には、体細胞は、再プログラミング因子を発現する発現ベクターで、感染、形質移入、あるいは形質導入される。マウスの場合、統合的ウイルスベクターを使用した4つの因子(Oct3/4、Sox2、c−myc、およびKlf4)の発現は、体細胞の再プログラムに十分なものであった。ヒトの場合、統合的ウイルスベクターを使用した4つの因子(Oct3/4、Sox2、Nanog、およびLin28)の発現は、体細胞の再プログラムに十分なものであった。しかしながら、より少ない因子もしくは他の再プログラミング因子の発現(もしくは発現の誘導)でも十分なものとなり得る。加えて、統合的ベクターを使用するのは、細胞内で再プログラミング因子を発現させるための1つの機構だけである。例えば非統合的ベクターの使用を含む、他の方法を使用することができる。
【0180】
特定の実施形態では、上述の、もしくは他の再プログラミング因子のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、もしくは少なくとも4つは、体細胞と、1つ以上の再プログラミング因子の発現を誘発する有機小分子薬剤等の1つ以上の薬剤とを接触させることによって誘発される。特定の実施形態では、体細胞は、(例えば、ウイルスベクター、プラスミド等を使用して)1つ以上の再プログラミング因子が発現され、かつ(例えば有機小分子を使用して)1つ以上の再プログラミング因子の発現が誘発される、組み合わせ手法を使用して再プログラムされる。
【0181】
細胞内に再プログラミング因子が発現すると、細胞が培養される。経時的に、ESの特徴を有する細胞が培養皿内に現れる。細胞は、例えば、ESの形態に基づいて、または選択可能もしくは検出可能なマーカーの発現に基づいて、採集および培養することができる。細胞は、ES細胞様の細胞の培養物を生成するように培養される。これらの細胞は、推定上のiPS細胞である。
【0182】
iPS細胞の多能性を確認するために、細胞を、1つ以上の多能性の検定で試験することができる。例えば、細胞は、ES細胞マーカーの発現について試験することができる。細胞は、SCIDマウスに移植した時の奇形腫を生成する能力について評価することができる。細胞は、分化させて、3つ全ての胚葉層の細胞型を生成する能力について評価することができる。
【0183】
多能性iPS細胞が(新しく誘導して、または前もって誘導した細胞のバンクもしくはストックから)得られると、このような細胞を、RPE細胞の作製に使用することができる。
【0184】
特定の実施形態では、iPS細胞の作製は、RPE細胞の生成における最初の工程である。他の実施形態では、前もって誘導したiPS細胞が使用される。特定の実施形態では、iPS細胞は、具体的には、組織に適合するRPE細胞を目的として、特定の患者もしくは適合ドナーからの材料を使用して発生される。特定の実施形態では、iPS細胞は、実質的に免疫原性ではない万能ドナー細胞である。
【0185】
以下、本発明を、以下の実施例を参照してより完全に説明するが、これは例示的なものに過ぎず、上述した本発明を限定するものとみなすべきではない。
【実施例】
【0186】
以下、本発明を全般的に説明し、以下の実施例を参照することによってより容易に理解されるが、これは本発明の特定の態様および実施形態を例示したものに過ぎず、本発明を制限することを意図したものではない。
【0187】
胚幹細胞の多能性は、2つの転写因子Oct4(Pou5fl)およびNanogの微妙な相互的なバランスによって、部分的に保持される。ES細胞の分化中に、これらの遺伝子の発現は下方制御され、最近の検証は、これらのタンパク質をコード化する遺伝子の過剰メチル化が原因であることを示唆している。これらの遺伝子のうちの一方もしくは両方の消失は、細胞分化に関連する遺伝子の転写活性化をもたらす。
【0188】
網膜色素性上皮(RPE)は、神経外胚葉から生じ、かつ神経網膜および脈絡膜に隣接して位置し、血管系と網膜との間に障壁を提供する。本明細書で提供されるデータは、RPE細胞が、最終分化後に遺伝子的および機能的に周囲の光受容体と区別されるが、細胞は共通の前駆体を共有し得ることを示している。
【0189】
このモデルは、発明者らの培養方法の特許請求の範囲に特有の要素が、FGF、EGF、WNT4、TGF−β、ならびに/もしくは信号MAPキナーゼおよび潜在性C−Jun末端キナーゼ経路に対する酸化的ストレスを通して機能して、ペアードボックス6(PAX6)転写因子の発現を誘発することを示している。PAX6は、チロシナーゼ(Tyr)等のRPE特異的遺伝子、およびRPE−65、ベストロフィン、CRALBP、およびPEDF等の下流標的を転写するように、Mit−FとOtx2との協調を経て、PAX2と相乗的に機能して成熟RPEを最終分化させる。
【0190】
網膜色素性上皮(RPE)へのヒト胚幹細胞(hESc)の分化プロセス中の発育期を特徴付けるために、複数の検定を用いて、それぞれの代表的な発育期の鍵となる遺伝子の発現レベルを識別した。RPE細胞内でmRNAおよびタンパク質として、複数の遺伝子を特有に発現したことが発見された。例えば、PAX6が、チロシナーゼ(Tyr)等のRPE特異的遺伝子、ならびにRPE−65、ベストロフィン、CRALBP、およびPEDF等の下流標的を転写するように、Mit−FとOtx2との協調を経て、PAX2と相乗的に機能して成熟RPEを最終分化させることが発見された。重要なことに、mRNAおよびタンパク質発現のRPE特異的シグネチャは、hHS細胞と異なるだけでなく、胎児RPEおよびARPE−19とも異なっていた。本明細書で説明されるRPE細胞は、hES細胞、胎児RPE細胞、もしくはARPE−19細胞内には発現しなかった複数の遺伝子を発現した(図3、4、および6)。本発明のRPE細胞内でのmRNAおよびタンパク質の特有の発現は、hES細胞、ARPE−19細胞、および胎児RPE細胞等の従来技術における細胞とは異なるこれらのRPE細胞を作製する、一組のマーカーを構成する。
【0191】
実施例1:RPEの分化および培養物
凍結保存hES細胞を解凍し、L−グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、およびB−27サプリメントを補充した、MDBK−成長培地(Sigma−SAFC Biosciences)もしくはOptimPro SFM(Invitrogen)内で、Lo−bind Nunclonペトリ皿上の懸濁培養物内に配置した。hES細胞は、初期の卵割期ヒト胚から生検採取した単一の分割球から前もって誘導した。残りのヒト胚は破壊されなかった。単一の分割球に由来する2つのhES細胞系MA01およびMA09を使用した。細胞は、胚様体(EB)として7〜14日間培養した。
【0192】
7〜14日後に、EBを、ブタの皮からのゼラチンで被覆した組織培養プレート上に蒔いて培養した。EBを、B−27サプリメントは用いずにL−グルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを補充した、MDBK−成長培地またはOptimPro SFM内でさらに14〜28日間、付着培養物として成長させた。
【0193】
RPE細胞は、EBの付着培養物内の細胞の中から見えるようになり、それらの敷石状の細胞形態および色素沈着の発生によって認識される。
【0194】
実施例2:RPEの単離および繁殖
分化したRPE細胞が付着培養物に現れ続けるにつれて、分化したRPEの集塊が、細胞の形状に基づいて目に見えるほどに明らかになる。冷凍コラゲナーゼIV(20mg/ml)を解凍して、7mg/mlに希釈した。コラゲナーゼIVを、RPE集塊を含有する付着培養物に塗布した(6ウエルプレート内の各ウエルに対して1.0ml)。約1〜3時間にわたって、コラゲナーゼIVが細胞集塊を解離した。培養物内の他の細胞からRPE集塊を解離させることによって、RPE細胞の富化懸濁液が得られた。富化RPE細胞懸濁液を培養プレートから取り出して、10mlのMEF培地を伴う100mmの組織培養皿に移した。色素性凝集塊は、幹細胞切断ツール(Swemed−Vitrolife)によって、3mlのMEF培地を含有する6ウエルプレートのウエルに移される。全ての凝集塊を取り出した後に、色素細胞の懸濁液を、7mlのMEF培地を含有する15mlの円錐管に移し、1000rpmで5分間遠心分離する。上澄みを取り出す。5mlの0.25%のトリプシンおよび細胞解離緩衝剤の1:1の混合物を、細胞に加える。細胞を、37℃で10分間培養する。5mlのピペットでピペッティングすることによって、凝集塊がほとんど残らなくなるまで細胞を分散させる。5mlのMEF培地を細胞に加え、1000rpmで5分間遠心分離する。上澄みを取り出し、細胞を、EGM−2培養培地(Cambrex)で元の培養物の1/3に分割したゼラチン被覆したプレート上に蒔いて培養する。
【0195】
RPE細胞の培養物を、EGM−2培地での培養を継続することによって増大させた。細胞は、必要に応じて、0.25%のトリプシンEDTAおよび細胞解離緩衝剤の1:1の混合物を使用して、1:3〜1:6の比率で継代させた。
【0196】
成熟分化したRPE細胞を富化するために、細胞を、EGM−2内の合流点近くで成長させた。次いで、RPE細胞の成熟のさらなる促進を支持するように、培地をMDBK−MM(SAFC Biosciences)に変えた。
【0197】
実施例3:定量リアルタイム逆転写PCR(qPCR)によって測定される、RPE特異的mRNAの発現
網膜色素性上皮(RPE)へのヒト胚幹細胞(hES)の分化プロセス中の発育期を特徴付けるために、複数の検定を用いて、それぞれの代表的な発育期の鍵となる遺伝子の発現レベルを識別した。qPCRは、RPE分化プロセスにおける多数の関心の細胞型特異的mRNA転写物の定量的および相対的測定を提供するように開発された。qPCRは、ヒト胚幹細胞内に、眼の発育中に神経網膜細胞内に、およびヒト胚幹細胞から分化したRPE細胞内に特有に発現する遺伝子を判定するのに使用した。細胞型ごとの遺伝子を表1に示す。
【0198】
【表1】

hES特異的遺伝子が、Oct−4(POU5F1)、Nanog、Rex−1、TDGF−1、SOX−2、およびDPPA−2を含むと判断した。神経外胚葉/神経網膜に特異的な遺伝子には、CHX10、NCAM、ネスチン、およびβチューブリンが挙げられる。対照的に、ヒト胚幹細胞から分化したRPE細胞は、qPCR測定によって、PAX−6、PAX−2、RPE−65、PEDF、CRALBP、ベストロフィン、MitF、Otx−2、およびTyrを特有に発現することが分かった。
【0199】
qPCRのデータから明らかなように、hES特異的遺伝子は、hESに由来するRPE細胞内で著しく下方制御され(ほぼ1000倍)、一方で、RPEおよび神経外胚葉に特異的な遺伝子は、hESに由来するRPE細胞内で大幅に上方制御(約100倍)される。
【0200】
加えて、完全に成熟したRPEのqPCR分析は、RPE特異的マーカーRPE65、チロシナーゼ、PEDF、ベストロフィン、MitFおよびPax6の高レベルの発現を示した。この発見は、上述した個体発生を詳しく説明しており、かつMitFのPax−2誘発調節、および最終分化したRPEに関連する遺伝子の下流活性化に関する現在の文献と合致している。
【0201】
実施例4:ウエスタンブロット分析によって同定されるRPE特異的タンパク質の発現
上述のqPCR結果を検証し、かつRPE細胞内で特有に発現するタンパク質を同定するために、hES特異的およびRPE特異的マーカーのサブセットを、ウエスタンブロット法による検定の候補として選択し、それによって、PCRによって検出されるメッセージの翻訳を行った。ウェスタン分析によって、半定量的(濃度測定による)および質的なデータによって他の検定の信頼性の絶対尺度が提供される。結果を図6に示す。タンパク質負荷対照としてアクチンを使用した。
【0202】
hES細胞に由来するRPE細胞は、hES特異的タンパク質Oct−4、Nanog、およびRex−1を発現しなかったが、それらは、RPE65、CRALBP、PEDF、ベストロフィン、PAX6、およびOtx2を発現した。したがって、これらのタンパク質は、hES細胞から分化されるRPE細胞の優れたマーカーである。対照的に、APRE−19細胞は、プロテオームマーカー発現の不確定なパターンを示した。
【0203】
実施例5:RPE細胞のマイクロアレイ遺伝子発現のプロファイリング
手作業で精製した、インビトロでhES細胞分化したhRPEは、増大段階中に、培養物内で有意な形態学的事象を受ける。薄い培養物内に蒔いて培養した単細胞懸濁液を脱色素し、細胞の表面積を増加させる。細胞が急速に分割する時に、hRPE細胞は、増大中にこの形態を保持する。しかしながら、細胞密度が最大容量に到達する時に、RPEは、それらの特徴的表現型に六角形状を採り、かつメラニンおよびリポフスシンを蓄積することによって色素沈着レベルが増加する。
【0204】
色素沈着のレベルは、発明者らのRCSラットモデルにおける薬学研究において主要な役割を果たした。したがって、発明者らは、単一の分割球由来のhES細胞系MA01およびMA09の両方に由来するhRPE細胞について、マイクロアレイを介して、大域的な遺伝子の発現分析を行った。加えて、胎児RPE、ARPE−19、および網膜芽腫細胞系を、対照として分析した。
【0205】
発明者らのデータは、この表現型の変化が、これらの細胞の大域的な遺伝子の発現パターンの変化、具体的には、PAX6、PAX2、Otx2、MitF、およびTyrの発現に関する変化によって左右されることを示している。
【0206】
図7は、各試料間の変動性の説明となる、最少数の遺伝子に基づいて各試料が分散する、主な構成要素の分析線図を示している。69%の変動率を表す構成要素1は、細胞型を表し、一方で、構成要素2は、細胞系(すなわち遺伝子の変動性)を表す。明らかに分かるように、遺伝子発現プロファイルのほぼ線形の分散は、hES細胞に由来するhRPEの発育的な個体発生を特徴付けている。
【0207】
そのRPE対応物に対するそれぞれのhES細胞系を含むANOVA分析に基づいて、発明者らは、多能性および眼の発育に関連する遺伝子を選択するために、発現が最高および最低である100個の遺伝子を選択し、計算分析を行った。上方制御した遺伝子を表2に示す。下方制御した遺伝子を表3に示す。
【0208】
【表2−1】

【0209】
【表2−2】

【0210】
【表2−3】

【0211】
【表2−4】

【0212】
【表2−5】

【0213】
【表2−6】

【0214】
【表2−7】

【0215】
【表2−8】

【0216】
【表2−9】

【0217】
【表2−10】

【0218】
【表3−1】

【0219】
【表3−2】

【0220】
【表3−3】

本開示は、ヒトRPE細胞が、網膜変性障害患者に対する細胞の無尽蔵の源を表す明確かつ再現可能な条件の下で、ヒトES細胞から確実に分化および増大させることができることを実証する。これらの細胞の濃度は、有効性によって限定されず、むしろ個々の正確な臨床的要件まで滴定され得る。医師によって必要とみなされれば、患者の寿命にわたって同じ細胞集団を繰り返し注入もしくは移植することも可能となる。さらに、RPE細胞を生成し得る、適合する、もしくは複雑さを低減したHLA hES系のバンクを作り出す能力は、全体として、免疫抑制薬および/または免疫調節性プロトコル必要性を低減もしくは排除し得る。
【0221】
本開示は、本明細書で説明される方法によって分化されるRPE細胞が、hES細胞、胎児のRPE細胞、もしくはARPE−19細胞では発現しない、複数の遺伝子を発現することも実証する。mRNAの特有の分子指紋、および本発明のES細胞由来のRPE細胞におけるタンパク質の発現は、hES細胞、ARPE−19細胞、および胎児のRPE細胞等の従来技術の細胞とは異なるこれらのRPE細胞を作製する、RPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRABLP、Otx2、Mit−F、PAX6、およびPAX2等の一組のマーカーを構成する。
【0222】
実施例6:胚幹細胞に由来するRPE細胞を使用した視覚機能の救援
特定の網膜疾患は、その結果として光受容体の消失をもたらす、網膜色素上皮(RPE)の変性を特徴とする。その例には、ヒトにおけるスタルガルト黄斑ジストロフィ、および英国外科医師会(RCS)ラットにおける遺伝子的に判定されたジストロフィが挙げられる。このようなプロセスはまた、米国内だけで1千万人を超える人々に影響を及ぼしている、黄斑変性症においても役割を果たし得る。
【0223】
発明者らは、胚幹細胞線系に由来し、かつGMPに準拠した条件下で製造した、高度に特徴付けられたRPE細胞が、RCSラットの視覚機能を最適に救援し得る条件を調査した。MAO1およびMAO9由来のRPE細胞を、生後23日(P23)のRCSラットの網膜下腔に注入し、術後、経口シクロスポリンAの免疫抑制を継続した。機能的有効性は、上丘からの記録された閾値視運動視力および輝度閾値によって試験した。治療した全ての眼と、模擬注入かつ未治療の眼とを比較した。これらの機能的評価の後に、組織学的考察を行った。
【0224】
実験結果は、RCSラットにおいて明確な用量反応を示した。5×10個のRPE細胞を含む製剤の投与は、模擬動物よりもわずかに良好な視運動閾値しか示さず、一方で、2×10個のRPE細胞を含む製剤は、対照に対する能力の改善を示した。5×10個のRPE細胞を含む製剤は、長期的に維持された優れた性能をもたらした。P60において0.48c/dで行った動物は、いくらかの治療を行った眼を有する模擬動物よりも大幅に(p<0.001)良好であり(0.26c/d)、通常の閾値(0.6c/d)を示し、P90において、最良の状態では0.5c/dを超えた(模擬かつ未治療の動物は、実質的に視覚障害を示すレベルである0.16c/dという数値を示した)。
【0225】
P94での上丘の記録は、一部の個々の記録が正常範囲内に含まれる、RPE細胞を注入した眼において、極めて低い輝度閾値応答も示した。組織学的研究は、ドナー細胞が、内因性の宿主RPEのすぐ内側にある半連続の色素細胞層として配置されたことを示した。ドナーRPE細胞は、RPE65およびベストロフィンに対して陽性であり、移植細胞が、RPE細胞であり、また、細胞がそれらの移植後の細胞の運命を保つこと示した。
【0226】
加えて、移植した動物は、対照動物と比較して、光受容体の厚さを保持した。RPE治療動物の光受容体は、模擬かつ未治療の対照における単一の層と比較して、救援した領域おいて細胞4〜5個分の厚さであった。
【0227】
結果は、胚幹細胞に由来し、かつGMPに準拠した条件下で製造した、十分に特徴付けられたRPE細胞が、RCSラットの網膜下腔への移植後も生存し、網膜内に移動せず、また、RPEの分子特徴を発現し続けることを示している。最も重要なことに、それらは、光受容体変性の動物モデルにおいて、用量依存の様式での視覚機能の顕著な救援を達成する。データは、これらの細胞が、ヒトの病気におけるRPE駆動の光受容体変性を伴う視力の悪化を制限し得る、および/または逆転させ得ることを示唆している。
【0228】
【数1】

【0229】
【数2】

【0230】
【数3】

【0231】
【数4】

【0232】
【数5】

【0233】
【数6】

【0234】
【数7】

【0235】
【数8】

【0236】
【数9】

全ての刊行物、特許、および特許出願は、引用により組み込まれるものとして、個々の公報、特許、もしくは特許出願が具体的及び個別に示されているように、同じ範囲の引用により本明細書に組み込まれる。
【0237】
同等物
当業者は、日常の実験以上のものを用いなくても、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態には多くの同等物があることを認識し、または確認することが可能であろう。このような同等物は、以下の請求項によって包含されることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に精製した網膜色素上皮(RPE)細胞の培養物を生成する方法であって、
a)ヒト胚幹細胞を提供する工程と、
b)富栄養性で低タンパク質の培地内で、胚様体として前記ヒト性幹細胞を培養する工程と、
c)富栄養性で低タンパク質の培地内で、付着培養物として前記胚様体を培養する工程と、
d)培地が無血清のB−27サプリメントを含有しない、富栄養性で低タンパク質の培地内で、前記(c)の細胞の付着培養物を培養する工程と、
e)高密度体細胞培養物の成長を支持することができ、それによってRPE細胞が前記細胞の培養物内に現れる培地内で、前記(d)の細胞を培養する工程と、
f)前記(e)の培養物と酵素とを接触させる工程と、
g)前記培養物から前記RPE細胞を選択して、前記RPE細胞を、成長因子を補充した培地を含有する別個の培養物に移入して、RPE細胞の富化培養物を生成する工程と、
h)前記RPE細胞の富化培養物を繁殖させて、実質的に精製したRPE細胞の培養物を生成する工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記RPE細胞は、成熟RPE細胞の培養物を生成するようにさらに培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(b)および/または(c)の培地は、無血清のB−27サプリメントを含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞は、VP−SFM、EGM−2、およびMDBK−MMから成る群より選択される培地内で培養される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記(g)の成長因子は、EGF、bFGF、VEGF、および組み換え型のインスリン様成長因子から成る群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記培地は、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、もしくはアスコルビン酸のうちの1つ以上を含有する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記(b)の細胞は、7〜14日間培養される、請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記(c)の細胞は、7日間培養される、請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記(d)の細胞は、7〜10日間培養される、請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記(e)の細胞は、14〜21日間培養される、請求項1〜9のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記(b)の培地は、MDBK−GM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項1〜10のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記(c)の培地は、MDBK−GM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項1〜11のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記(d)の培地は、MDBK−GM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項1〜12のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記(e)の培地は、MDBK−MM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項1〜13のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記(g)の培地は、EGM−2およびMDBK−MMから成る群より選択される、請求項1〜14のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記(g)の成長因子は、EGF、bFGF、VEGF、および組み換え型のインスリン様成長因子から成る群より選択される、請求項1〜15のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記(g)の培地は、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、もしくはアスコルビン酸のうちの1つ以上を含有する、請求項1〜16のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記(f)の酵素は、トリプシン、コラゲナーゼ、およびディスパーゼから成る群より選択される、請求項1〜17のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記hES細胞は、複雑さを低減したHLA抗原を有する、請求項1〜18のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記方法は、適正製造基準(GMP)に従って実施される、請求項1〜19のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
成熟網膜色素上皮(RPE)細胞を生成する方法であって、
a)ヒト胚幹細胞を提供する工程と、
b)富栄養性で低タンパク質の培地内で、胚様体として前記ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
c)富栄養性で低タンパク質の培地内で、付着培養物として前記ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
d)培地が無血清のB−27サプリメントを含有しない、富栄養性で低タンパク質の培地内で、前記工程(c)の細胞の付着培養物を培養する工程と、
e)高密度体細胞培養物の成長を支持することができ、それによってRPE細胞が前記細胞の培養物内に現れる培地内で、前記(d)の細胞を培養する工程と、
f)前記(e)の培養物と酵素とを接触させる工程と、
g)前記RPE細胞を選択して、前記RPE細胞を、成長因子を補充した培地を含有する別個の培養物に移入して、RPE細胞の富化培養物を生成する工程と、
h)前記RPE細胞の富化培養物を繁殖させる工程と、
i)前記RPE細胞の富化培養物を培養して、成熟網膜色素上皮細胞を生成して、成熟RPE細胞を生成する工程と、
を含む、方法。
【請求項22】
前記(b)および/または(c)の培地は、無血清のB−27サプリメントを含有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記(b)の細胞は、7〜14日間培養される、請求項21もしくは22に記載の方法。
【請求項24】
前記(c)の細胞は、7日間培養される、請求項21〜23のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
前記(d)の細胞は、7〜10日間培養される、請求項21〜24のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記(e)の細胞は、(e)14〜21日間培養される、請求項21〜25のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記(b)の培地は、MDBK−GM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項21〜26のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記(c)の培地は、MDBK−GM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項21〜27のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記(d)の培地は、MDBK−GM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項21〜28のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記(e)の培地は、MDBK−MM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項21〜29のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記(g)の培地は、EGM−2およびMDBK−MMから成る群より選択される、請求項21〜30のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記(g)の成長因子は、EGF、bFGF、VEGF、および組み換え型のインスリン様成長因子から成る群より選択される、請求項21〜31のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記(i)の細胞は、VP−SFM、EGM−2、およびMDBK−MMから成る群より選択される培地内で培養される、請求項21〜32のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記(g)もしくは(i)の培地は、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、もしくはアスコルビン酸のうちの1つ以上を含有する、請求項21〜33のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記(f)の酵素は、トリプシン、コラゲナーゼ、およびディスパーゼから成る群より選択される、請求項21〜34のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記hES細胞は、複雑さを低減したHLA抗原を有する、請求項21〜35のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記方法は、適正製造基準(GMP)に従って実行される、請求項21〜36のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防する方法であって、RPE細胞を含む有効量の製剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、RPE細胞が、請求項1〜37もしくは53〜76のうちのいずれか1項に記載の方法による、ヒト多能性幹細胞に由来する、方法。
【請求項39】
前記状態は、スタルガルト黄斑ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、もしくは網膜色素変性症から成る群より選択される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記製剤は、懸濁液、マトリクス、もしくは基質内に移植される、請求項38もしくは39に記載の方法。
【請求項41】
前記製剤は、注射によって眼の網膜下腔内に投与される、請求項38〜40のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
約10〜約10個のRPE細胞が前記対象に投与される、請求項38〜41のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
対象における網膜電図応答、視運動視力閾値、もしくは輝度閾値を測定することによって、治療もしくは予防の有効性を監視する工程をさらに含む、請求項38〜42のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
有効量のRPE細胞を含む、網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防するための医薬製剤であって、RPE細胞が、請求項1〜37もしくは53〜76のうちのいずれか1項に記載の方法による、ヒト多能性幹細胞に由来する、医薬製剤。
【請求項45】
前記状態は、スタルガルト黄斑ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、もしくは網膜色素変性症から成る群より選択される、請求項44に記載の製剤。
【請求項46】
組成物は、眼の網膜下腔への投与のために製剤化される、請求項44もしくは45に記載の製剤。
【請求項47】
前記組成物は、懸濁液、マトリクス、もしくは基質の形態である、請求項44〜46のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項48】
前記組成物は、少なくとも10個のRPE細胞を含む、請求項44〜47のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項49】
前記組成物は、少なくとも10個のRPE細胞を含む、請求項44〜48のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項50】
前記組成物は、少なくとも10個のRPE細胞を含む、請求項44〜49のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項51】
前記RPE細胞は、成熟RPE細胞を含む、請求項44〜50のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項52】
前記RPE細胞は、本質的に成熟RPE細胞で構成される、請求項44〜51のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項53】
実質的に精製した網膜色素上皮細胞(RPE)の培養物を生成する方法であって、
a)ヒト多能性幹細胞を提供する工程と、
b)富栄養性で低タンパク質の培地内で、前記ヒト多能性幹細胞を培養する工程と、
c)富栄養性で低タンパク質の培地内で、付着培養物として前記ヒト多能性幹細胞を培養する工程と、
d)培地が無血清のB−27サプリメントを含有しない、富栄養性で低タンパク質の培地内で、前記(c)の細胞の付着培養物を培養する工程と、
e)高密度体細胞培養物の成長を支持することができ、それによってRPE細胞が前記細胞の培養物内に現れる培地内で、前記(d)の細胞を培養する工程と、
f)前記(e)の培養物と酵素とを接触させる工程と、
g)前記培養物から前記RPE細胞を選択して、前記RPE細胞を、成長因子を補充した培地を含有する別個の培養物に移入して、RPE細胞の富化培養物を生成する工程と、
h)前記RPE細胞の富化培養物を繁殖させて、実質的に精製したRPE細胞の培養物を生成する工程と、
を含む、方法。
【請求項54】
前記RPE細胞は、成熟RPE細胞の培養物を生成するようにさらに培養される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記ヒト多能性幹細胞は、人工多能性幹(iPS)細胞である、請求項53もしくは54に記載の方法。
【請求項56】
工程(b)において、前記ヒト多能性幹細胞が、凝集物として培養される、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記ヒト多能性幹細胞は、ヒト胚幹細胞である、請求項53〜56のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
工程(b)において、前記ヒト胚幹細胞が、胚様体として培養される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記(b)および/または(c)の培地は、無血清のB−27サプリメントを含有する、請求項53〜58のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項60】
前記細胞は、VP−SFM、EGM−2、およびMDBK−MMから成る群より選択される培地内で培養される、請求項54に記載の方法。
【請求項61】
前記(g)の成長因子は、EGF、bFGF、VEGF、および組み換え型のインスリン様成長因子から成る群より選択される、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
前記培地は、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、もしくはアスコルビン酸のうちの1つ以上を含有する、請求項54に記載の方法。
【請求項63】
前記(b)の細胞は、7〜14日間培養される、請求項53〜62のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項64】
前記(c)の細胞は、7日間培養される、請求項53〜63のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項65】
前記(d)の細胞は、7〜10日間培養される、請求項53〜64のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項66】
前記(e)の細胞は、14〜21日間培養される、請求項53〜65のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項67】
前記(b)の培地は、MDBK−GM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項53〜66のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項68】
前記(c)の培地は、MDBK−GM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項53〜67のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項69】
前記(d)の培地は、MDBK−GM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項53〜68のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項70】
前記(e)の培地は、MDBK−MM、OptiPro SFM、およびVP SFMから成る群より選択される、請求項53〜69のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項71】
前記(g)の培地は、EGM−2およびMDBK−MMから成る群より選択される、請求項53〜70のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項72】
前記(g)の成長因子は、EGF、bFGF、VEGF、および組み換え型のインスリン様成長因子から成る群より選択される、請求項53〜71のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項73】
前記(g)の培地は、ヘパリン、ヒドロコルチゾン、もしくはアスコルビン酸のうちの1つ以上を含有する、請求項53〜72のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項74】
前記(f)の酵素は、トリプシン、コラゲナーゼ、およびディスパーゼから成る群より選択される、請求項53〜73のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項75】
前記多能性細胞は、複雑さを低減したHLA抗原を有する、請求項53〜74のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項76】
前記方法は、適正製造基準(GMP)に従って実行される、請求項53〜75のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項77】
網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防する方法であって、RPE細胞を含む有効量の製剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、RPE細胞が、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞に由来する、方法。
【請求項78】
前記状態は、スタルガルト黄斑ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、もしくは網膜色素変性症から成る群より選択される、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記製剤は、懸濁液、マトリクス、もしくは基質内に移植される、請求項77もしくは78に記載の方法。
【請求項80】
前記製剤は、注射によって前記眼の前記網膜下腔内に投与される、請求項77〜79のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項81】
約10〜約10個のRPE細胞が前記対象に投与される、請求項77〜80のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項82】
対象における網膜電図応答、視運動視力閾値、もしくは輝度閾値を測定することによって、治療もしくは予防の有効性を監視する工程をさらに含む、請求項77〜81のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項83】
有効量のRPE細胞を含む、網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防するための医薬製剤であって、RPE細胞が、ヒト人工多能性幹(iPS)細胞に由来する、医薬製剤。
【請求項84】
前記状態は、スタルガルト黄斑ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、もしくは網膜色素変性症から成る群より選択される、請求項83に記載の製剤。
【請求項85】
前記組成物は、眼の網膜下腔への投与のために製剤化される、請求項83もしくは84に記載の製剤。
【請求項86】
前記組成物は、懸濁液、マトリクス、もしくは基質の形態である、請求項83〜85のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項87】
前記組成物は、少なくとも10個のRPE細胞を含む、請求項83〜86のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項88】
前記組成物は、少なくとも10個のRPE細胞を含む、請求項83〜87のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項89】
前記組成物は、少なくとも10個のRPE細胞を含む、請求項83〜88のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項90】
前記RPE細胞は、成熟RPE細胞を含む、請求項83〜89のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項91】
前記RPE細胞は、本質的に成熟RPE細胞で構成される、請求項83〜90のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項92】
実質的に精製したヒトRPE細胞の製剤であって、前記RPE細胞が、RPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMit−Fのうちの1つ以上を発現する、製剤。
【請求項93】
前記製剤は、少なくとも75%のRPE細胞を含む、請求項92に記載の製剤。
【請求項94】
前記RPE細胞は、少なくとも30%の成熟RPE細胞を含む、請求項92に記載の製剤。
【請求項95】
前記RPE細胞は、RPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMit−Fのうちの2つ以上を発現する、請求項92〜94のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項96】
前記RPE細胞は、RPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMit−Fのうちの3つ以上を発現する、請求項95に記載の製剤。
【請求項97】
前記RPE細胞は、RPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMit−Fのうちの4つ以上を発現する、請求項96に記載の製剤。
【請求項98】
前記RPE細胞は、RPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMit−Fのうちの5つ以上を発現する、請求項97に記載の製剤。
【請求項99】
前記RPE細胞は、RPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMit−Fを発現する、請求項98に記載の製剤。
【請求項100】
前記RPE細胞は、ES細胞遺伝子Oct−4、nanog、および/またはRex−1の実質的な発現が不足する、請求項92〜99のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項101】
前記発現は、mRNA発現である、請求項92〜100のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項102】
前記発現は、タンパク質発現である、請求項92〜100のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項103】
前記発現は、mRNAおよびタンパク質発現の両方を含む、請求項92〜100のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項104】
前記RPE細胞は、pax−2、pax−6、チロシナーゼのうちの1つ以上を発現する、請求項92〜100のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項105】
前記製剤は、成熟RPE細胞を含み、前記成熟RPE細胞は、pax−2、pax−6、およびチロシナーゼを発現する、請求項92〜100のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項106】
前記RPE細胞は、表2に列記される遺伝子のうちの1つ以上を発現し、ヒトES細胞での発現と比較して、前記RPE細胞で前記1つ以上の遺伝子の発現が増加する、請求項92〜105のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項107】
前記RPE細胞は、表3に列記される遺伝子のうちの1つ以上を発現し、ヒトES細胞での発現と比較して、前記RPE細胞で前記1つ以上の遺伝子の発現が減少する、請求項92〜106のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項108】
前記製剤は、少なくとも1×10個のRPE細胞を含む、請求項92〜107のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項109】
前記製剤は、少なくとも1×10個のRPE細胞を含む、請求項108に記載の製剤。
【請求項110】
前記製剤は、ヒトES細胞から分化される、請求項92〜109のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項111】
前記製剤は、ヒト人工多能性幹細胞から分化される、請求項92〜109のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項112】
前記製剤は、請求項1〜37もしくは53〜76のうちのいずれか1項に記載の方法を使用して、ヒト多能性幹細胞から分化される、請求項92〜109のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項113】
前記製剤は、実質的にウイルス、細菌、および/または菌類の汚染もしくは感染が無い、請求項92〜112のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項114】
前記製剤は、GMPに準拠する、請求項92〜113のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項115】
薬剤として許容される担体内で製剤化される、請求項92〜114のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項116】
前記眼への投与のために製剤化される、請求項115に記載の製剤。
【請求項117】
前記網膜下腔または角膜への投与のために製剤化される、請求項116に記載の製剤。
【請求項118】
前記RPE細胞は、移植の際に前記網膜内に組み込むことができる、機能RPE細胞である、請求項92〜117のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項119】
少なくとも1×10個のヒトRPE細胞を含む凍結保存製剤であって、前記製剤は、ヒト多能性幹細胞に由来する実質的に精製したヒトRPE細胞の製剤であり、前記RPE細胞は、RPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2、およびMit−Fを発現する、製剤。
【請求項120】
前記ヒトRPE細胞は、ヒト胚幹細胞に由来する、請求項119に記載の製剤。
【請求項121】
前記ヒトRPE細胞は、人工多能性幹細胞に由来する、請求項119に記載の製剤。
【請求項122】
前記RPE細胞のうちの少なくとも65%は、解凍後も生存度を維持する、請求項119〜121のうちのいずれか1項に記載の製剤。
【請求項123】
治療を必要とする患者の状態を治療する薬物の製造における、請求項92〜118のうちのいずれか1項に記載の製剤の使用。
【請求項124】
網膜変性を特徴とする状態を治療もしくは予防する方法であって、請求項92〜118のうちのいずれか1項に記載の有効量の製剤を、それを必要とする対象に投与する工程を含み、RPE細胞が、ヒト多能性幹細胞に由来する、方法。
【請求項125】
前記状態は、スタルガルト黄斑ジストロフィ、加齢性黄斑変性症、もしくは網膜色素変性症から成る群より選択される、請求項124に記載の方法。
【請求項126】
前記製剤は、懸濁液、マトリクス、もしくは基質内に移植される、請求項124もしくは125に記載の方法。
【請求項127】
前記製剤は、注射によって前記眼の前記網膜下腔内に投与される、請求項124〜126のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項128】
約10〜約10個のRPE細胞が前記対象に投与される、請求項124〜127のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項129】
対象における網膜電図応答、視運動視力閾値、もしくは輝度閾値を測定することによって、治療もしくは予防の有効性を監視する工程をさらに含む、請求項124〜128のうちのいずれか1項に記載の方法。
【請求項130】
ヒト多能性幹細胞から分化される実質的に精製したヒトRPE細胞の製剤であって、前記RPE細胞は、mRNAおよびタンパク質レベルにおいて、RPE−65、ベストロフィン、PEDF、CRALBP、Otx2を発現し、前記細胞は、Oct−4、nanog、およびRex−1の実質的な発現が不足する、製剤。
【請求項131】
前記RPE細胞は、分化したRPE細胞と成熟分化したRPE細胞とを含み、少なくとも前記分化したRPE細胞は、mRNAおよびタンパク質レベルにおいて、pax−2、pax−6、チロシナーゼをさらに発現する、請求項130に記載の製剤。
【請求項132】
前記RPE細胞は、ヒト胚幹細胞から分化される、請求項130もしくは131に記載の製剤。
【請求項133】
前記RPE細胞は、ヒト人工多能性幹細胞から分化される、請求項130もしくは131に記載の製剤。
【請求項134】
前記RPE細胞は、分化したRPE細胞と成熟分化したRPE細胞とを含み、少なくとも前記分化したRPE細胞は、mRNAおよびタンパク質レベルにおいて、pax−2、pax−6、チロシナーゼをさらに発現する、請求項130〜133のうちのいずれか1項に記載の製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−500024(P2011−500024A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528899(P2010−528899)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/011669
【国際公開番号】WO2009/051671
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(509236520)アドバンスド セル テクノロジー, インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】