説明

RPTCによるRRO補償を行う磁気ディスク装置の制御装置および制御方法

【課題】トラック移動を伴うような場合においても、フォロイングの精度を劣化させることなく、学習回数を大幅に少なく追従することを可能とする磁気ディスク装置の制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【解決手段】マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、出力信号からRRO成分を学習し、目標軌道補償信号を生成する周期信号発生器とを備えるRPTC法によるRRO補償を行う磁気ディスク装置の制御装置において、周期信号発生器は、隣接トラック及び同一トラックにおいて再学習を行う再学習手段を備えることを特徴とする磁気ディスク装置の制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置の制御装置および制御方法に係り、より詳細には、繰り返し完全追従制御法(RPTC)によるRRO補償を行う磁気ディスク装置の制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置(Hard Disk Drive:HDD)は近年、高速移動と高精度位置決めを両立させるヘッド位置決め技術の向上などによる性能向上、およびナノテクノロジの発展に伴う記録密度の急激な上昇による大容量化に伴い、コンピュータにおける情報記憶装置としてだけでなく、その他の製品(VTR、カーナビ等)においても情報記憶装置として利用される機会が増加している。これにより、磁気ディスク装置は、更なる高密度化と高速化が要求されている。磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系は、大別して高速に目標トラックへの移動を行うシーク制御と情報が読み書きされる間トラックに高精度に追従を行うフォロイング制御に分けられる。
【0003】
磁気ディスク装置における外乱は、回転非同期振動(NonRepeatable Runout:NRRO)と、回転同期振動(Repeatable Runout:RRO)に分けることができる。NRROは、風乱や、スピンドルの軸受けから発生するものであり周期的ではない。これに対し、RROはディスクの偏心によるもので回転数の整数倍の成分を有する周期的外乱とみなすことができる。
【0004】
また、近年ではサーボ情報記録技術として磁気転写もしくはDiscrete Track Recording(DTR)等のプリフォーマットメディアの提案、開発が行われている。従来のメディアでは、サーボライタ等によりディスク上にサーボ情報を書き込んでいたが、磁気転写もしくはDTR等においては、サーボ情報をメディア生成と同時に行うことにより予めサーボ情報を埋め込む(プリフォーマット)メディアとなる。このようなプリフォーマットメディアでは磁気ディスクの回転中心に対して、大きく偏心することが知られており、偏心するサーボ情報に対して追従性能が従来よりも重要であるといえる。
【0005】
従来のメディアにおいて一部のハイエンド装置では、高周波のRROにあえて追従せずにサーボ情報をディスクに書き込み、位置誤差信号(Position Error Signal:PES)から周期外乱を低減するRRO非追従方式が採用されている。しかしながら、DTR等の非磁性層を含むものや予めサーボ情報が記録されているプリフォーマットメディアでは、これを採用することができない。したがって、パターンメディアを含めプリフォーマットメディア、将来の磁気ディスクにおいては高次RROへの追従が極めて重要である。
【0006】
【特許文献1】特開平9−35225号公報
【非特許文献1】山口高司:磁気ディスク装置の位置決め技術の動向、計測と制御、41−6387/長野県諏訪市(2002)
【非特許文献2】H. Fujimoto,, Y. Hori and A. Kawamura, “Perfect tracking control based on multirate feedforward control with generalized sampling periods ”, IEE Trans. Industrial Electronics, Vol.48 No. 3 pp. 636-644, (2001)
【非特許文献3】H. Fujimoto, F. Kawakami and S.Kondo, “Multirate repetitive control and applications verification of switching scheme by HDD and visual servoing-”,Amer. Control Conf., pp. 2875-2880, (2003a)
【非特許文献4】H.Fujimoto, Y.Hori , T.Yamaguchi and S.Nakagawa, “Proposal of perfect tracking and perfect disturbance rejection control by multirate sampling and applications to hard disk drive control”,Conf. Decision Contr., pp. 5277-5282 (1999).
【非特許文献5】H. Fujimoto, Y. Hori, T.Yamaguchi and S.Nakagawa, “Proposal of perfect tracking and perfect disturbance rejection control by multirate sampling and applications to hard disk drive control.”, Cnf. Decision Contr., pp.5277-5282, (1999)
【非特許文献6】K. K. Chew and M. Tomizuka, “Digital control of repetitive errors in disk drive system ”, IEEE Contr. Syst. Mag, Vol. 10 No. 1 pp. 16-20, (1990).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
周期的外乱を抑圧する手法として繰り返し制御が広く使用されている。また、マルチレートフィードフォワード制御を使用した完全追従制御器を使用し、その目標軌道を周期信号発生器により生成する繰り返し制御法(Repetitive Perfect Tracking Control:RPTC)が提案されている。RPTC法では、周期外乱を学習し、周期信号発生器(Periodic Signal Generater:PSG)により目標軌道生成を行い、これに追従させている。したがって、周期外乱の変動に対してはフィードバック制御器で補償を行っている。また、RPTC法では、周期外乱を補償するため、出力信号からRRO成分を得る必要がある。このため、補償信号を獲得するために、各トラックにおいて出力波形をセクタ毎に平均する必要があり、トラックが移動する度に、もしくはRROが大幅に変動する場合に、RROを最初から再学習する必要があった。
【0008】
そこで本発明では、同一トラック及び隣接トラックにおいては大幅なRRO変動が生じないことを考慮して隣接トラックにおいてRPTCにおける補償信号を再学習する手法を提案し、トラック移動を伴うような場合においても、フォロイングの精度を劣化させることなく、学習回数を大幅に少なく追従することを可能とする磁気ディスク装置の制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解消するために、本発明による磁気ディスク装置の制御装置は、マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、出力信号からRRO成分を学習し、目標軌道補償信号を生成する周期信号発生器とを備えるRPTC法によるRRO補償を行う磁気ディスク装置の制御装置において、上記周期信号発生器は、隣接トラック及び同一トラックにおいて再学習を行う再学習手段を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御装置は、上記再学習手段は、NRRO成分を取り除くために、平均回数を使用した重み係数を使用して再学習を行うものとしてもよい。
【0011】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御装置は、上記再学習手段は、NRRO成分を取り除くために、Qフィルタを使用して再学習を行うものとしてもよい。
【0012】
また、上記の課題を解消するために、本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、完全追従制御器によりマルチレートフィードフォワード制御を行うステップと、周期信号発生器により出力信号からRROを学習し、目標軌道補償信号を生成するステップとを備えるRPTC法によるRRO補償を行う磁気ディスク装置の制御方法において、上記目標軌道補償信号を生成するステップは、隣接トラック及び同一トラックにおいて再学習を行うステップを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明による磁気ディスク装置の制御方法は、上記再学習を行うステップは、NRRO成分を取り除くために、平均回数を使用した重み係数を使用して再学習を行うことを含むものとしてもよい。
【0014】
また、本発明の磁気ディスク装置の制御方法は、上記再学習を行うステップは、NRRO成分を取り除くために、Qフィルタを使用して再学習を行うことを含むものとしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、RPTCの補償信号がトラック移動によりRROが変動する場合において、残留誤差信号に重み係数をかけて補償信号を更新して再学習を行うことにより、1trackずつ移動するような場合において、フォロイングの精度を劣化させることなく、学習回数を大幅に少なく追従することを可能とする磁気ディスク装置の制御装置および制御方法が可能となる。また、再学習機構は、1度のスイッチのon、offにより重み係数を使用して残留位置誤差信号を更新する簡単な機構であるため、演算時間を少なく実現できる。また、モデル化誤差がある場合においても、モデル化誤差における残留振動を出力端外乱とみなせることより、同一トラックにおいても位置誤差を抑圧する効果があり、さらに高次のRRO成分への追従が特に重要となる磁気転写もしくはDTR等の次世代のプリフォーマットメディアに対しても効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、磁気ディスク装置100の内部構造の斜視図である。
図1において、磁気ディスク装置100は、ディスク101と、ヘッド102と、データトラック103と、スピンドルモータ104と、ボイスコイルモータ(VCM)105とを備える。
【0017】
磁気ディスク装置100では、高密度化および高速化が要求されている。磁気ディスク装置の位置決め制御系は、大別して高速に目標トラックへの移動を行うシーク制御と情報が読み書きされる間に高精度に追従を行うフォロイング制御に分けられる。また、磁気ディスク装置における外乱は、回転非同期振動(NonRepeatable Runout:NRRO)と回転同期振動(Repeatable Runout:RRO)に分けることができる。NRROは、スピンドル回転に同期しない外乱であり、風乱や、スピンドルの軸受けから発生するもの、D/A、A/Dノイズなどがあり周期的ではない。これに対し、RROは、スピンドル回転に同期した外乱であり、ディスクの偏心によるもの、スピンドルモータ104のコギングトルク、相対的な位置ずれ等があり、回転数の整数倍の成分をもつ周期的外乱とみなすことができる。
【0018】
周期的外乱を抑圧する手法として繰り返し制御が広く使用されている。本発明では、マルチレートフィードフォワード制御を使用した完全追従制御器を使用し、その目標軌道を周期信号発生器(PSG)により生成する繰り返し制御法(Repetitive Perfect Tracking Control:RPTC)を使用する。ここで、マルチレートホールドの例を図2に示し、RPTCの制御ブロック図を図3示し、図3に示す周期信号発生器(Periodic Signal Generater:PSG)313の制御ブロック図を図4に示す。まず、PTC(Perfect Tracking Control)法について説明する。
【0019】
[PTC法]
PTC法は、マルチレートフィードフォワード制御を導入することによりノミナルプラントに対して完全追従を達成する制御法である。単入出力n次の連続時間制御対象は式(1)で示され、
【0020】
【数1】

【0021】
この単入出力n次の連続時間制御対象に対し、図2に示すように目標軌道のサンプリング周期Trの間にn回制御入力を切り替えるマルチレートサンプリングを使用する。短いサンプリング周期を使用して離散化した制御対象の状態方程式は、
【0022】
【数2】

【0023】
となる。ここで、x[k]=x(kTu)、z=esTuであり、
【0024】
【数3】

【0025】
とする。また、時刻t=iTr=kTuからt=(i+1)Tr=(k+n)Tuまでの長いサンプリング周期Trへの状態変数の遷移は、
【0026】
【数4】

【0027】
と表すことができ、マルチレート入力ベクトルuは、u[i]=[u1[i]、u2[i]、・・・、un[i]]Tとなり、係数行列A、Bは、
【0028】
【数5】

【0029】
【数6】

【0030】
となる。式(4)において、x[i+1]からu[i]への伝達関数は、
【0031】
【数7】

【0032】
【数8】

【0033】
となる。これは原点に極を有する安定な逆システムとなる。これより、(8)式のように目標軌道を与えると、ノミナルプラントに対して完全追従が補償される。次に、RPTC法について説明する。
【0034】
[RPTC法]
RPTC法は、上述したPTC法を繰り返し制御に使用したものであり、周期的な外乱を抑圧する場合や、周期的な目標値への追従を行う制御手法である。具体的には、完全追従制御器を使用して、その目標軌道を周期信号発生器(PSG)により生成する。このPSGは、メモリ列z−Ndとポインタ操作だけで実現でき、その演算量はきわめて小さい。
【0035】
ノミナルプラントに対してサンプル点上での完全追従が補償されるので、出力y[i]は、
【0036】
【数9】

【0037】
と記載される。ただし、ds[i]=1/(1−P[z]C[z])×d[i]である。
【0038】
【数10】

【0039】
と設計する。ただしNdはスピンドルの回転周期をTdとすると、Nd=Td/Tyとなる。これと(9)式を合わせることにより、閉ループ系は、
【0040】
【数11】

【0041】
となり、d[i]=1/(zNd−1)とモデル化できる周期的外乱は定常状態においてサンプル点上で抑圧される。制御対象が2次で状態変数xが、
【0042】
【数12】

【0043】
のとき、目標速度軌道を
【0044】
【数13】

【0045】
として与えることにより、PSGを設計できる。t=0においてスイッチをオフとした状態で、マイナーループが過渡応答を経て定常状態のときスイッチを1外乱周期Tdの間のみオン状態とし、その後オフ状態にする。これによりPSGは、蓄えたy[i]を使用することによりr[i]を生成する。次に、隣接トラック間を考慮した補償信号の更新について説明する。
【0046】
[隣接トラック間を考慮した補償信号の更新]
磁気ディスク装置における周期外乱は、スピンドル回転数に同期する振動として現れる。これはディスクの偏心によるものや、スピンドルモータのトルク変動、各セクタ位置で発生する位置ノイズなどが挙げられる。また、位置情報がディスクの回転軸を中心とする同心円からずれて記録されると、ディスク回転に同期した相対的な位置ずれが発生する。このように、周期外乱はトラックにより異なることがある。特に磁気転写やDTRのようにプリフォーマットされたメディアでは、ディスクの偏心によるRROが大きく影響を及ぼし、ディスクの内側と外側では大きく異なり、トラックを移動したときに前のトラックで学習した周期外乱をそのまま使用した場合、異なる周期外乱を補償することになり追従性能を劣化させてしまう。この問題を解消するために、トラック移動するたびに複数周回学習を行うと、タイムロスが避けられない。
【0047】
そこで、ここでは隣接トラックでは大きくRROが変動しないという仮定の下、重み係数を使用した補償信号の再学習機構を提案する。提案する手法は従来のように複数周回分を学習するのでなく、最初に学習した信号を元に隣接トラックにおけるRROをトラック移動ごとに学習するものである。まず始めに、RPTCを適用する前の段階を考える。
【0048】
このとき(9)式とr[i]=0であることより、y[i]は、−d[i]となる。ただし、iはセクタ番号である。y0[i]はNRRO成分を除去したPESであり、y[i]をセクタ毎に平均して得られるものとする。ただし、y[i]やr[i]の添え字は再学習ごとに増加するものとする。また平均回数をN0とする。
【0049】
これより最初に使用する補償信号r1[i]はr1[i]=zy0[i]=zS[z]d0[i]と求まる。ただし、d0[i]は始めのトラックにおける周期外乱である。次にトラックが移動したときを考えると、このときのy1[i]は以下のように考えられる。
【0050】
【数14】

【0051】
ただし、
【0052】
【数15】

【0053】
であり、
【0054】
【数16】

【0055】
はd0[i]の変動分である。最後に次の補償信号の再学習を考える。
【0056】
【数17】

【0057】
は周期外乱のみならず、非周期外乱を含んでいるのでNRROを取り除く必要がある。そこで平均回数を使用した重みをつけることを考える。N0回平均化したy0[i]と一周分のy1[i]より、r2[i]を以下のようにして求める。
【0058】
【数18】

【0059】
(14)式は、残留誤差信号r1[i]に1/(N0+1)の重みをつけて足し加えていることを意味する。(14)式よりr2[i]は、以下のように書き直すことができる。
【0060】
【数19】

【0061】
ただし、αは設計者により決定されるパラメータであり、新しいデータに重みをつけるものとなる。重み係数αは以下のように選択することができる。
【0062】
【数20】

【0063】
さらに、Qフィルタを使用することにより高域にあるNRRO成分を抑制することができる。次にモデル化誤差について説明する。
【0064】
[モデル化誤差に対する検討]
図5にプラントにモデル化誤差がある場合の制御ブロック図を示す。ここでは、RROの変動はないものとする。
補償前の位置誤差出力y0[i]について、
【0065】
【数21】

【0066】
となる。ただし、Δ[z]は情報定期モデル化誤差である。これより補償信号は、
【0067】
【数22】

【0068】
と求まる。ただし、S[z]=1/(1−Pn[z]C[z])、T[z]=Pn[z]C[z]/(1−Pn[z]C[z])である。次に補償開始後のとき位置誤差出力y1[i]、制御入力u1[i]は、
【0069】
【数23】

【0070】
とかける。上式をまとめると、以下のように求めることができる。
【0071】
【数24】

【0072】
また、(18)式より、
【0073】
【数25】

【0074】
となり、(21)式より再学習を行うことによりモデル化誤差による残留誤差は、S[z]Δ[z]/(1+T[z]Δ[z])で抑圧される。
【0075】
[シミュレーション]
シミュレーションモデルは、プリフォーマットメディアの実機とした。表1に示すように、トラックピッチは100nm、サンプリング周期Ty=79.4μsであり、入力多自由度N=2とした。なお、ノミナルモデルPn(s)は剛体モデルとする。
【0076】
【表1】

【0077】
【数26】

【0078】
スピンドルの回転周波数は60Hzであり、セクタ数はNd=210である。回転同期振動は、60Hzの整数倍で生じることとなる。フィードバック制御器C2[z]は、比例積分微分制御器(Proportional Integral and Derivative:PID)とし、連続時間フィードバック補償器(23)式を双一次変換によりTyで離散化を行った。制御帯域を850Hzとし、ゲイン余裕は、4.7dB、位相余裕は22.3degである。
【0079】
【数27】

【0080】
このときの開ループ伝達特性を図6に、感度関数S[z]、補感度関数T[z]を図7に示す。シミュレーションで使用した周期外乱は、実際に実機より得たものを使用した。ノミナルモデルおよびモデル化誤差がある場合のシミュレーションでは1次から15次までの周期外乱を使用し、詳細モデルでのシミュレーションでは、実験から得られたRROをそのまま使用した。また、シークのシミュレーションは行っておらず、t=0秒で周期外乱の大きさを変動させることによりトラックの移動におけるRROの変動を模擬した。補償信号の学習は、スイッチがonの時に行い、次の周期より補償を行っている。再学習は周期外乱変動後の2周期目で行っており、その次の周期からフィードフォワード補償を行っている。
【0081】
図8に示すように、周期外乱変動前(t<0)において最初の学習をした後、PTCにより周期外乱を完全に打ち消していることがわかる。しかし、周期外乱変動後(t>0)では、変動した周期外乱により残留誤差が生じていることがわかる。一方、図9に示すように、変動後に変動分を再学習することにより残留誤差が低減されていることが確認できる。ただし、重み係数αは0.4とした。
【0082】
次に、モデル化誤差がある場合のシミュレーションを行った。(24)式のようにプラントモデルPe(s)はノミナルモデルに対しゲインを1.1倍、Td=79.4μsのむだ時間を含むモデルとした。ここでは、モデル化誤差に対する検証を行うために、周期外乱モデルは変動しないものとする。シミュレーション結果を図10に示す。
【0083】
【数28】

【0084】
モデル化誤差がある場合、最初の学習した後にモデル化誤差により位置誤差が生じていることがわかる。再学習を行うことによりモデル化誤差により生じた位置誤差が低減されていることが確認できる。
【0085】
最後に、表2にある共振モデルを含めた詳細モデルをP(s)とし、実験から計測したRROの周期外乱モデルを使用してシミュレーションを行った。ノミナルモデルの時と同様にt=0において周期外乱を変動させている。
【0086】
【表2】

【0087】
【数29】

【0088】
シミュレーション結果を図11に示す。詳細モデルにおいてもノミナルモデル同様に、提案する再学習機構を使用することにより、変動後のRRO分を補償することにより残留誤差信号を低減していることが確認できる。
【0089】
[実機検証]
プリフォーマットメディアの実機において、実験を行った。フィードバック制御器C2[z]は(23)式のものを使用した。また、スピンドル回転周波数である60Hzを抑圧するピークフィルタと、高次の共振周波数(ω2=2π8000rad/sec)を抑圧するノッチフィルタNF(s)を使用した。ノッチフィルタは以下の式より求め、
【0090】
【数30】

【0091】
Ty/2で離散化を行いマルチレートノッチフィルタとして実装した。また、高次のNRROを除去する目的にQフィルタを以下のようにして使用した。
【0092】
【数31】

【0093】
Qフィルタの次数は、Nq=10、γ=2とし、このときカットオフ周波数は700Hzとなる。初期のトラックでの補償信号生成における平均回数はN0=5とし、αは0.4とした。実験結果を図12(a)〜図14(c)に示す。
【0094】
実験では、40000trackを開始トラックとし、40100trackを最終トラックとした。まず、始めに40000trackにおいてRROを学習後RPTC法によりRROを抑圧する(図12(a)〜図12(c))。その後、40100trackへトラックを再学習することなく移動した場合(図13(a)〜図13(c))と、40100trackまで10trackのシーク移動ごとに残留位置誤差信号を1周分再学習した場合(図14(a)〜図13(c))の位置誤差信号(PES)を比較した。
【0095】
PES、PESのRRO、PESのNRROを図12(a)、図13(a)、図14(a)に示す。ただし、RROとNRROは、重ならないようにオフセットを持たせて示している。また、図12(b)、図13(b)、図14(b)にRROのFFTを示し、図12(c)、図13(c)、図14(c)にNRROのFFTを示す。それぞれ場合のPESの±3σを表3に示す。
【0096】
【表3】

【0097】
開始トラックにおいて学習した補償信号を使用して、フォロイングを続けるとトラックの移動によりRROが変動し、PESが精度よく抑圧されないことがわかる。一方、提案する再学習手法では10trackのシーク移動ごとに隣接するトラックにおいて再学習を行っているため、低域でのRROの変動に精度よく追従することができることがわかる。
【0098】
以上のように、RPTCの補償信号がトラック移動によりRROが変動する場合において、残留誤差信号に重み係数をかけることにより、補償信号の更新を行う再学習機構について、シミュレーション及び実験によりその有効性を確認した。特に再学習機構は、1trackずつ移動するような場合において、学習回数を大幅に少なくすることができる。また、再学習機構は、1度のスイッチのon、offにより重み係数を使用して残留位置誤差信号を更新する簡単な機構であり、演算時間少なく実現でき有用であるといえる。また、モデル化誤差における残留振動を出力端外乱とみなせることよりモデル化誤差がある場合においても有効であるといえ、さらに高次のRRO成分への追従が特に重要となる磁気転写もしくは、DTR等の次世代のプリフォーマットメディアに対しても有効であるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】磁気ディスク装置の内部構造の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるマルチレートホールドの例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるRPTCの制御ブロック図を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による周期信号発生器の制御ブロック図を示す図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるプラントにモデル化誤差がある場合のRPTCの制御ブロック図を示す図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による開ループ伝達特性を示す図である。
【図7】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による感度関数S[z]、補完度関数T[z]の特性を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による再学習を行わない場合の位置誤差信号と、スイッチ信号の特性を示す図である。
【図9】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による再学習を行う場合の位置誤差信号と、スイッチ信号の特性を示す図である。
【図10】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法によるモデル化誤差がある場合の位置誤差信号と、スイッチ信号の特性を示す図である。
【図11】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による再学習がある場合であって、表2に示す共振モデルの位置誤差信号と、スイッチ信号の特性を示す図である。
【図12】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による開始トラックにおけるRPTC法によるRROの抑圧した後の測定結果を示す図であり、図12(a)は、PES、PESのRRO、PESのNRROの特性を示し、図12(b)は、RROのFFTを示し、図12(c)は、NRROのFFTを示す図である。
【図13】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による再学習を行わず終了トラックまで移動した場合の測定結果を示す図であり、図13(a)は、PES、PESのRRO、PESのNRROの特性を示し、図13(b)は、RROのFFTを示し、図13(c)は、NRROのFFTを示す図である。
【図14】本発明の一実施形態にかかる磁気ディスク装置の制御装置および制御方法による再学習を行いながら終了トラックまで移動した場合の測定結果を示す図であり、図14(a)は、PES、PESのRRO、PESのNRROの特性を示し、図14(b)は、RROのFFTを示し、図14(c)は、NRROのFFTを示す図である。
【符号の説明】
【0100】
301 状態変数
302、308、402、403、404、406 演算器
303、311 ホールダ
304、306、309、401、405 加算器
305 制御対象
307 サンプラ
310 フィードバック制御器
312 スイッチ
313 周期信号発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチレートフィードフォワード制御を行う完全追従制御器と、
出力信号からRRO成分を学習し、目標軌道補償信号を生成する周期信号発生器と
を備えるRPTC法によるRRO補償を行う磁気ディスク装置の制御装置において、
前記周期信号発生器は、隣接トラック及び同一トラックにおいて再学習を行う再学習手段を備えることを特徴とする磁気ディスク装置の制御装置。
【請求項2】
前記再学習手段は、NRRO成分を取り除くために、平均回数を使用した重み係数を使用して再学習を行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御装置。
【請求項3】
前記再学習手段は、NRRO成分を取り除くために、Qフィルタを使用して再学習を行うことを特徴とする請求項1に記載の磁気ディスク装置の制御装置。
【請求項4】
完全追従制御器によりマルチレートフィードフォワード制御を行うステップと、
周期信号発生器により出力信号からRROを学習し、目標軌道補償信号を生成するステップと
を備えるRPTC法によるRRO補償を行う磁気ディスク装置の制御方法において、
前記目標軌道補償信号を生成するステップは、隣接トラック及び同一トラックにおいて再学習を行うステップを備えることを特徴とする磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項5】
前記再学習を行うステップは、NRRO成分を取り除くために、平均回数を使用した重み係数を使用して再学習を行うことを含むことを特徴とする請求項4に記載の磁気ディスク装置の制御方法。
【請求項6】
前記再学習を行うステップは、NRRO成分を取り除くために、Qフィルタを使用して再学習を行うことを含むことを特徴とする請求項4に記載の磁気ディスク装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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