説明

S−ニトロソ基含有アルブミン及びその製造方法ならびに抗がん剤

【課題】内因性の物質であるアルブミンの生体内での作用を組み合わせることにより、今まで検討されていなかった癌化学療法への応用研究を進めて、有用性及び安全性の高い抗がん剤を得るためのS−ニトロソ基含有アルブミン及びその製造方法ならびに抗がん剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、アルブミンを構成するアミノ酸配列における少なくとも1つのリジンにS−ニトロソ基が導入されてなるS−ニトロソ基含有アルブミン及びS−ニトロソ基を有するアルブミンを含む抗がん剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、S−ニトロソ基含有アルブミン及びその製造方法ならびに抗がん剤に関し、内因性の物質であり、副作用の潜在性の低いS−ニトロソ基含有アルブミン及びその製造方法ならびに抗がん剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化窒素(以下、NOと略記する)は、循環系・神経系の情報伝達のみならず、感染・炎症・免疫反応のメディエーターとして機能し、さらにはアポトーシスの制御、発癌など幅広い生命現象に関わっていることが知られている。
また、NOは、周囲の環境に応じて酸化反応を受け、様々な反応性窒素酸化物を生じ、二面的な生理・病態生理活性を発揮すると考えられている。
NOは、有益な作用として抗酸化作用、抗アポトーシス作用を有するため、これまでに、虚血性疾患及び臓器移植時におけるNOの投与が検討され、治療効果が得られている。
一方、NOの有害な作用としてアポトーシス促進、細胞障害性等が知られており、最近、この性質を利用した癌化学療法への応用研究が活発に行われている。
【0003】
これまでに最もよく研究されているのが、NOと非ステロイド性抗炎症治療薬(NSAIDs)とをスペーサー分子を介在させて化学結合させたNO−NSAIDsである。NO−NSAIDsはin vitroで癌細胞に対してWntシグナルの阻害、NF−κBの活性化、NO合成酵素の阻害、MAPKシグナルの阻害、シクロオキシゲナーゼ2の誘導等の様々な細胞現象を惹起し、アポトーシスを誘導することが知られている。
さらに、in vivoでも癌モデル動物に対して癌治療効果が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また、アルブミンなどのタンパク質は、内因性のNOリザーバーとして働き、生体内のNO濃度の調節に関与していることが明らかとなってきている。そこで、虚血性疾患、臓器移植時の内因性NOの産生低下に対するNO補充療法として、S−ニトロソアルブミンの効果が検討され、虚血再灌流障害、バルーン障害、血小板沈着抑制に伴う新生内膜肥厚等で治療効果が認められている(非特許文献2〜3)。
しかし、現在までにS−ニトロソアルブミンの癌に対する検討例は報告されていない。
【非特許文献1】Rigas B et al. Trends Mol Med. 2004, 10, 324-330
【非特許文献2】Hallstrom S et al. Circulation. 2002, 105, 3032-3038
【非特許文献3】Ishima Y et al. J Pharmacol Exp Ther. 2007, 320, 969-977
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、NOの有害な作用を利用するとともに、内因性の物質であるアルブミンの生体内での作用を組み合わせることにより、今まで検討されていなかった癌化学療法への応用研究を進めて、有用性及び安全性の高い抗がん剤を得るためのS−ニトロソ基含有アルブミン及びその製造方法ならびに抗がん剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のS−ニトロソ基含有アルブミンは、アルブミンを構成するアミノ酸配列における少なくとも1つのリジンにS−ニトロソ基が導入されてなることを特徴とする。
このS−ニトロソ基含有アルブミンは、さらに、前記アルブミンを構成するアミノ酸配列における少なくとも1つのシステインにS−ニトロソ基が導入されてなることが好ましい。
また、前記アルブミン1分子に、S−ニトロソ基が3個以上導入されてなることが好ましい。
さらに、前記アルブミンが、配列番号1に記載のアルブミン又は該アルブミンのアミノ酸配列中の410番目のアルギニンがシステインに置換されたものであることが好ましい。
【0007】
また、本発明の制がん剤は、S−ニトロソ基を有するアルブミンを含むことを特徴とする。
この抗がん剤は、前記アルブミンが、配列番号1に示すアミノ酸配列中の410番目のアルギニンがシステインに置換されたものであることが好ましい。
また、前記S−ニトロソ基を有するアルブミンが、前記置換されたシステインのチオール基に置換されたS−ニトロソ基を有することが好ましい。
【0008】
さらに、本発明のS−ニトロソ基含有アルブミンの製造方法は、
アルブミンを構成するアミノ酸配列における少なくとも1つのアミノ酸にチオール基を導入し、
該チオール基をニトロソ化反応に付す工程を含むことを特徴とする。
この方法では、チオール基を導入するアミノ酸が少なくとも1つのリジンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のS−ニトロソ基含有アルブミンは、リジンにS−ニトロソ基が導入されていることにより、より多くのS−ニトロソ基をアルブミンに含有させることができるために、NO基が備える癌細胞に対する抑制効果をより強力に発揮させることが可能となる。
また、本発明の抗がん剤は、そもそも生体内に存在する内因性のアルブミンを基本とするため、副作用の潜在性が低い制がん剤を提供することが可能となる。
さらに、本発明のS−ニトロソ基含有アルブミンの製造方法は、反応条件等を適宜調整することにより、容易にS−ニトロソ基のアミノ酸への導入を可能とするとともに、S−ニトロソ基の導入個数を制御することができ、癌細胞に対する抑制効果と、副作用とのバランスを図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のS−ニトロソ基含有アルブミンは、少なくとも1つ、2以上、好ましくは3以上のS−ニトロソ基が導入されて構成されるアルブミンである。
また、本発明の抗がん剤は、S−ニトロソ基を有するアルブミンを含んで構成される。
【0011】
本発明におけるアルブミンは、天然のアルブミン由来であってもよいし、遺伝子組換え法によって産生されたものであってもよい。
天然のアルブミンとは、ヒトの体内において血液及び細胞間液をはじめ幅広く分布しているタンパク質を意味する。また、ヒト以外の哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット等)由来のアルブミンであってもよい。さらに、血液及び細胞間液の血清アルブミンみならず、卵アルブミン、筋アルブミン(ミオゲン)等であってもよい。このような天然のアルブミンは、例えば、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する。
【0012】
また、遺伝子組換え法によって産生されたアルブミンとは、天然のアルブミンと同等の機能を有する限り、つまり、血流中で正常な浸透圧を維持し、血中の液体含量を維持する機能を有する限り及び/又はアルブミンの二次構造が改変されない限り、配列番号1に示すアミノ酸配列において、1もしくは複数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるものを意味する。置換、欠失、挿入及び/又は付加するアミノ酸の個数は、例えば、1〜10個程度が挙げられる。
特に、S−ニトロソ基の導入数を増加させるために、配列番号1に示すアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸を別のアミノ酸に置換したタンパク質も包含される。このように、1以上のアミノ酸が別のアミノ酸に置換されているにもかかわらず、上述したような血流中で正常な浸透圧を維持し、血中の液体含量を維持する機能を有することが知られているアルブミンとしては、配列番号1に示すアミノ酸配列中の410番目のアルギニンをシステインに置換したアルブミンが挙げられる。
【0013】
S−ニトロソ基を有するアルブミンとは、アルブミンを構成するアミノ酸、特に、このアミノ酸中に存在する硫黄原子、例えば、チオール基における硫黄原子に、ニトロソ基が置換したタンパク質を意味する。チオール基は、例えば、システイン、シスチンおよびメチオニンが備えるもの、これら以外のアミノ酸の残基に導入されたもののいずれでもよい。
【0014】
通常、天然のアルブミンでは、システインは35残基存在しており、そのうち34個のシステインは、アルブミンの二次構造の形成のためにジスルフィド結合を形成している。従って、S−ニトロソ基を有するアルブミンは、1つのシステインにのみS−ニトロソ基が導入されたものとなる。また、遺伝子組換え法によって産生されたアルブミンにおいても、基本的には、1つのシステインにS−ニトロソ基が導入されたものとなる。
【0015】
アルブミンを構成するアミノ酸配列における少なくとも1つのアミノ酸にチオール基を導入する方法、つまり、システイン、シスチンおよびメチオニン以外のアミノ酸の残基にチオール基を導入する方法としては、当該分野で公知の方法が挙げられる。
例えば、チオール化試薬(例えば、2−イミノチオラン又はその塩等)を用いて、リジンのε−アミノ基に導入する方法が最も好適である。また、例えば、グルタミン酸のカルボン酸残基に、アミノリシス反応によって、アミノ基とチオール基とを有する化合物(例えば、2−アミノエタンチオール等)を導入する方法、リジンのε−アミノ基に、アミノリシス反応によって、カルボン酸とチオール基とを有する化合物(例えば、2−カルボキシエタンチオール等)を導入する方法等が挙げられる。
このチオール化反応は、例えば、アルブミンとチオール化試薬のモル比、反応時間、反応温度等を調整することにより、アルブミン中に存在するリジンのε−アミノ基に対して任意の数でチオール基を導入することができる。例えば、アルブミン:チオール化試薬のモル比としては、1:5〜1:200程度、1:10〜1:100程度が挙げられる。反応時間は、1分〜10時間程度、さらに10分〜2時間程度が適している。反応温度は、例えば、室温程度が適している。
【0016】
導入された又はアルブミン自体が本来含有しているチオール基をS−ニトロソ基に変換する方法としては、特に限定されず、当該分野で公知の方法を利用することができる。例えば、ニトロソ化試薬(具体的には、亜硝酸イオン、イソアミルナイトライト、n−ブチルナイトライト等)を用いる方法等が挙げられる。工業的には比較的穏和な条件で合成できる観点から、イソアミルナイトライト又はn−ブチルナイトライトを用いる方法が好ましい。このニトロソ化反応は、例えば、アルブミンとニトロソ化試薬のモル比、反応時間、反応温度等を調整することにより、アルブミン中に存在するチオール基のいずれかに対して任意にニトロソ基を導入することができる。例えば、これらのアルブミン:ニトロソ化試薬のモル比としては、1:0.1〜1:200程度、1:0.5〜1:70程度が挙げられる。反応時間は、1分〜20時間程度、さらに10分〜3時間程度が適している。反応温度は、例えば、室温程度が適している。
なお、この反応を行う前には、チオール基を還元しておくことが好ましい。チオール基の還元は、例えば、1,4−ジチオスレイオール等を用いることにより行うことができる。
【0017】
また、アルブミンを遺伝子組換え法で製造する場合、形質転換体からタンパク質を産生する際に、栄養源のアミノ酸として、必須アミノ酸の代わりにチオール基を導入したアミノ酸誘導体及び/又はS−ニトロソ基を有するアミノ酸誘導体に置き換えることによってもS−ニトロソ基を有するアルブミンを製造することができる。
【0018】
アルブミン1分子当たりのS−ニトロソ基の導入数は、1以上であればよいが、2以上、4以上、さらに6以上であることが好ましい。例えば、以下の実施例1における条件で、配列番号1に示すアミノ酸配列を有する遺伝子組換えアルブミンに、2−イミノチオランを用いて、チオール基をリジンのε−アミノ基に導入し、亜硝酸イオンを用いてS−ニトロソ化した場合、5〜7個程度のS−ニトロソ基を導入することができる。
【0019】
本発明の抗がん剤は、上述したS−ニトロソ基を有するアルブミンを有効成分として含む。
抗がん剤は、S−ニトロソ基を有するアルブミンをそのまま使用してもよいが、通常は、製剤学的、薬理学的に許容し得る製剤用添加剤、賦形剤等を用いて製剤化することが好ましい。
【0020】
制がん剤の投与経路としては、特に限定されず、例えば、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、経粘膜、経口、吸入等いかなる投与経路であってもよいが、非経口投与経路、特に注射による投与経路とすることが好ましい。
制がん剤の剤形は、上記経路での投与に適切な形態とすることができ、例えば、注射剤、パッチ剤、パップ剤、点眼剤、点鼻剤、噴霧剤、錠剤、カプセル剤、トローチ、舌下錠、クリーム剤、ローション剤、粉剤等が挙げられる。また、生分解性のリポソーム、マイクロカプセル又はマイクロスフェア内に封入されていてもよいし、凍結乾燥形態で製剤化されていてもよい。
【0021】
特に、注射剤とする場合には、S−ニトロソ基を有するアルブミンを溶液又は懸濁液とすればよく、さらに、例えば、pH調整剤、電解質、糖類、ビタミン類、薬理学的に許容される塩もしくは脂肪酸及び/又はアミノ酸等の当該分野で通常用いられる添加剤を適宜添加してもよい。
溶液又は懸濁液とする場合には、例えば、日本薬局方で規定される溶液であればどのようなものでも用いることができ、主に水(注射用水)、生理食塩水及び各種緩衝液(例えば、リン酸緩衝液)等を用いることができる。
【0022】
pH調節剤としては、一般に注射剤のpH調節剤として用いられるものであればよい。例えば、クエン酸、酒石酸、酢酸、乳酸等の有機酸、例えば、塩酸、リン酸等の無機酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基等が挙げられる。
【0023】
電解質としては、従来より輸液に用いられている各種水溶性塩を用いることができる。例えば、生体の機能や体液の電解質バランスを維持するうえで必要とされる各種無機成分(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン等)の水溶性塩(例えば、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩等)が挙げられる。
【0024】
糖類としては、従来より各種の輸液に使用されているものを用いることができる。例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース等の単糖類、ラクトース、マルトース等の二糖類、グリセロール等の多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等の糖アルコール、デキストラン40またはデキストラン80等のデキストラン類、蔗糖等が挙げられる。
【0025】
ビタミン類としては、水溶性/脂溶性の各種ビタミンを用いることができる。例えば、ビタミンA、プロビタミンA、ビタミンD、プロビタミンD、ビタミンE、ビタミンK、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、ビタミンB6群、パントテン酸、ビオチン、ミオ−イノシトール、コリン、葉酸、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンPまたはビタミンU等が挙げられる。
【0026】
薬理学的に許容される塩もしくは脂肪酸としては、例えば、ナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属、カルシウム及びマグネシウムなどのアルカリ土類金属、ギ酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、カプリル酸、コハク酸及びリンゴ酸などの有機酸、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びジシククロヘキシルアミンなどの有機塩基などが挙げられる。
【0027】
アミノ酸としては、例えば、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンなどが挙げられる。また、N−アセチルメチオニンなどのアミノ酸誘導体を添加してもよい。
【0028】
注射剤の製造方法は、通常の製剤学的手法に従って行うことができる。つまり、本発明の制がん剤は、水、各種緩衝液、一般に市販されている輸液(例えば、総合アミノ酸輸液、電解質輸液等)又はそれらと同様の成分を含む水溶液等を用いて、最終的にS−ニトロソ基含有のアルブミンの濃度が10mg/mL程度以上、150mg/mL程度以下となるように、pHが4.5〜8.7程度となるように、希釈及び/又は溶解することによって調製することができる。
また、1単位形態あたりのS−ニトロソ基を有するアルブミンは、特に限定されないが、例えば、1〜1000mg程度、好ましくは10〜100mg程度含有する注射剤として調製することが適している。
【0029】
このように、本発明の制がん剤を体内に投与すると、内因性のアルブミンを基本とするため、副作用の潜在性をより低減させることができるとともに、S−ニトロソ基を安定して存在させることが可能となる。さらに、S−ニトロソ基を有するアルブミンは、高分子物質であるため、がん組織により効果的及び集中的に薬剤を送ることができるEPR効果(Enhanced Permeation and Retention effect)を期待することが可能となる。
【実施例】
【0030】
以下に本発明の制がん剤の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
以下の手順で本発明の抗がん剤を製造した。
25%(w/v)の遺伝子組換えヒト血清アルブミン(配列番号1、株式会社バイファ社提供)の生理食塩水溶液20mLを、濃度が0.5mMとなるように、ジエチレントリアミン五酢酸を添加した0.1Mリン酸カリウム溶液(pH7.8)480mL中に混合した。これに2−イミノチオラン塩酸塩を206.45mg添加し、室温で1時間反応させた。
その後、亜硝酸イソペンチルを1mL添加し、3時間反応された。反応液の濃縮を行い、溶媒を生理食塩液に置換した。
タンパク質定量及びNOの定量を行ったところ、アルブミン一分子あたりのS−ニトロソ基の導入数は、約6個(N=3)であった。
次に、アルブミンの濃度1mMの生理食塩水溶液を調整し、滅菌濾過を行うことにより、本発明の抗がん剤を製造した。
【0031】
比較例1:遺伝子組換えヒト血清アルブミン溶液
下記の実験例1〜3において、本発明の抗がん剤と比較として、遺伝子組換えヒト血清アルブミン(配列番号1、株式会社バイファ社提供)の生理食塩水溶液(100μM)を調製した。
【0032】
比較例2:生理食塩水
下記の実験例1のために、本発明の本発明の抗がん剤の比較として、生理食塩水を調製した。
【0033】
比較例3:リン酸緩衝液
下記の実験例3のために、本発明の本発明の抗がん剤の比較として、リン酸緩衝液を調製した。
【0034】
実験例1
マウス結腸癌由来癌細胞のC26細胞(東北大学加齢医学研究所提供)をBalb/cマウスの背部皮下に10個移植し、癌モデルマウスを作製した。
癌細胞移植3日後にS−ニトロソ基を有するアルブミンの溶液(実施例1)を10μmol/kgの投与量で10日間連続で静脈内投与を行った。
対照として遺伝子組換えヒト血清アルブミン溶液(比較例1)及び生理食塩液(比較例2)を同様に静脈内投与した。
癌細胞移植後の経過時間と癌容積の変化を図1のグラフに示す。
なお、癌容積は癌の長径(a)及び短径(b)をノギスを用いて測定し、0.4×a×bで算出した。
図1の結果から明らかなように、本発明のS−ニトロソ基を有するアルブミンは、生理食塩液投与群及びアルブミン投与群に比べて有意に癌の増殖が抑制されていた。
【0035】
実験例2
C26細胞に対する本発明のS−ニトロソ基を有するアルブミンの増殖抑制を評価した。具体的には、C26細胞懸濁液(1×10個/ml RPMI−1640培地(10%FCS))を調整した後、この細胞懸濁液を96ウェルプレートに播種し(1×10細胞/ウェル)、COインキュベーター内で32時間培養した。さらに、S−ニトロソ基を有するアルブミンを添加した。ここで、S−ニトロソ基を有するアルブミンは、25、50及び100μMの3種類の濃度で添加した。対照として、遺伝子組換えヒト血清アルブミン(比較例1)を用いた。
48時間培養後、Cell Counting Kit−8溶液(WST−8)を添加し、37℃で2時間インキュベートし、マイクロプレートリーダーを用いて450 nmの吸光度を測定した。
その結果を図2に示す。
図2の結果から明らかなように、本発明の抗がん剤は、遺伝子組換えヒト血清アルブミン溶液(比較例1)と比較して、濃度依存的にC26細胞の増殖を抑制することが明らかとなった。
【0036】
実験例3
本発明のS−ニトロソ基を有するアルブミンのアポトーシス誘導作用につい評価した。具体的には、C26細胞懸濁液(1×10個/ml RPMI−1640培地(10%FCS))を調整した後、この細胞懸濁液を96ウェルプレートにを播種し(1×10細胞/ウェル)、COインキュベーター内で12時間培養した。さらに、S−ニトロソ基を有するアルブミンを添加した。ここで、S−ニトロソ基を有するアルブミンは、25、50及び100μMの3種類の濃度で添加した。対照として、遺伝子組換えヒト血清アルブミン(比較例1)及びリン酸緩衝液(比較例3)を用いた。
24時間培養後にトリプシン処理を行い、細胞を回収した後、4000rpm、5分間遠心し、上清を取り除いた。細胞のペレットに200μLのPBSを加え、再浮遊させ、4000rpm、10分間遠心し、上清を取り除いた。細胞を20μLの細胞溶解緩衝液を加え攪拌後、4℃で10分間放置し、15000 rpmで5分間遠心した。上清を回収し、これに1μLのRNase A溶液を加え、50℃で30分間インキュベートし、さらに1μLのproteinase Kを加え、50℃で1時間インキュベートした。抽出されたDNAは2%アガロースゲルで電気泳動を行った。
【0037】
その結果を図3に示す。
図3の結果から明らかなように、本発明のS−ニトロソ基を有するアルブミン(実施例1)は高濃度の時、C26細胞に対し、DNAの断片化を引き起こすことが明らかとなった。従って、本発明のS−ニトロソ基を有するアルブミンは癌細胞に対し、アポトーシスを誘導することで抗がん効果を発揮することが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のS−ニトロソ基含有アルブミン及び抗がん剤は、S−ニトロソ基を有するアルブミンという内因性の物質を基本とする物質を主成分とするため、副作用の潜在性が低いことが期待できる。また、内因性の物質を基本とするため、体内に投与した場合においても、ニトロソ基が安定して存在することが期待できる。さらに、原体であるS−ニトロソ基を有するアルブミンが高分子物質であるため、EPR効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】実験例1における結果を示す図である。
【図2】実験例2における結果を示す図である。
【図3】実験例3における結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルブミンを構成するアミノ酸配列における少なくとも1つのリジンにS−ニトロソ基が導入されてなるS−ニトロソ基含有アルブミン。
【請求項2】
さらに、前記アルブミンを構成するアミノ酸配列における少なくとも1つのシステインにS−ニトロソ基が導入されてなる請求項1に記載のS−ニトロソ基含有アルブミン。
【請求項3】
前記アルブミン1分子に、S−ニトロソ基が3個以上導入されてなる請求項1に記載のS−ニトロソ基含有アルブミン。
【請求項4】
前記アルブミンが、配列番号1に記載のアルブミン又は該アルブミンのアミノ酸配列中の410番目のアルギニンがシステインに置換されたものである請求項1に記載のS−ニトロソ基含有アルブミン。
【請求項5】
S−ニトロソ基を有するアルブミンを含む抗がん剤。
【請求項6】
前記アルブミンは、配列番号1に示すアミノ酸配列中の410番目のアルギニンがシステインに置換されたものである請求項5に記載の抗がん剤。
【請求項7】
前記S−ニトロソ基を有するアルブミンが、前記置換されたシステインのチオール基に置換されたS−ニトロソ基を有する請求項5又は6に記載の抗がん剤。
【請求項8】
アルブミンを構成するアミノ酸配列における少なくとも1つのアミノ酸にチオール基を導入し、
該チオール基をニトロソ化反応に付す工程を含むS−ニトロソ基含有アルブミンの製造方法。
【請求項9】
チオール基を導入するアミノ酸が少なくとも1つのリジンである請求項8に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−57318(P2009−57318A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225839(P2007−225839)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【Fターム(参考)】