説明

SDF−1を基礎としたグリコサミノグリカンアンタゴニスト、及びその使用方法

本発明は、野生型と比較して、増加されたグリコサミノグリカン(GAG)結合アフィニティー、及び阻害された又は低下調節されたGPCR活性を呈する、ヒトストローマ細胞誘導因子−1の新たな突然変異体、該突然変異体を製造する方法、並びに癌の治療のための薬剤を製造するためのそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)増加させたグリコサミノグリカン(GAG)結合アフィニティー、及び(ii)野生型SDF−1と比較して阻害させた又は低下調節させたGPCR活性を呈する、ヒトストローマ細胞−誘導因子−1、すなわちSDF−1αもしくはSDF−1βもしくはSDF−1γ又はそれらのあらゆる変異体の新たな突然変異体に、並びにガンの治療のためのそれらの使用に関する。
【0002】
ケモカインは、小さな(8〜11kD)可溶性化学誘因物質のサイトカインである。該ケモカインは、それらのシステイン残基の相対位置に依存する、4つのファミリーからなる。α−ケモカインは、最初の2つのシステイン残基を分離する1つの非保存性アミノ酸を有する(CXC−モチーフ)のに対し、β−ケモカインは、互いに隣接している最初の2つのシステインを有する(CC−モチーフ)。フラクタルカインは、最初の2つのシステイン残基を分離する、3つの非保存性アミノ酸を有するケモカインファミリー(CX3−モチーフ)の唯一の代表であり、かつリンホタクチンは、合計2つだけのシステインを有するファミリー(C−モチーフ)の唯一の群であり、他の3つのファミリーにおける4つのシステインと比較される(Baggiolini et al.,Adv.Immunol,.55,97 179(1994))。ストローマ細胞−誘導因子−1α(SDF−1、CXCL12)は、α−ケモカインに属するが、この種類の典型的な代表ではない。他のヒトCXC−及びCC−ケモカインに対する配列相同性は、それぞれ27%及び21%のみである。双方の大きなケモカインファミリーに対するこの同様に異なる関係にもかかわらず、成熟SDF−1は、種々の種類間の非常に高い類似性を示す。ヒトとマウスとの間の約99%の配列相同性、及びヒトと猫のSDF−1との間の100%のアミノ酸配列相同性に関しては、今までのところは公知の最も保存性のあるサイトカインである(Shirozu et al.,Genomics,28,495−500(1995))。オーソログは、実際に、無顎類の最も原始の脊椎動物枝において見出されている。SDF−1の他の特徴は、染色体10に位置するその遺伝子SCYB12であるのに対して、全ての他のCXCケモカイン及びほとんどのCCケモカインは、染色体4及び染色体17に密集する。
【0003】
SCYB12は、4つのエキソンを含む。最も一般的なスプライスアイソフォームのSDF−1αは、エキソン1〜3から誘導され、一方SDF−1βは、C末端で4つの追加のアミノ酸をもたらすエキソン4からの追加の配列も含む。SDF−1の三次元構造は、3つの逆平行β−ストランドのコア、及びC末端α−ヘリックスを示す(Crump et al.,EMBO J.,16,6996−7007(1997))。
【0004】
三次元の特徴と対照的に、四次元構造は、常に問題がある。説明の対立は、NMR−研究におけるモノマー形、結晶学的測定におけるダイマー形、又は沈降回転数超遠心及び動的光散乱による想定されたモノマー−ダイマー平衡を明らかにした。実際にSDF−1αが、モノマー−ダイマー平衡において存在し、かつダイマー会合が、安定な対イオンと溶液pHとの双方の存在に強く依存することが後に見出されている。さらに、グリコサミノグリカン(GAG)が、SDF−1αダイマー形成を促進することが見出されている(Veldkamp et al.,Protein Sci.,14,1071−1081(2005))。
【0005】
GAGは、連鎖、組成物、並びにN−及びO−硫酸化パターンにおいて変動する、反復二糖単位を含有する、直鎖多糖である(Capila & Linhardt, Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 41, 391−412 (2002))。それらのほとんどは、いわゆるプロテオグリカンを形成するそれらによってタンパク質コアと連結される。GAGの例は、ヘパラン硫酸(HS)、ヘパリン、ケラチン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、及びヒアルロン酸である。スルフェート及びカルボキシレート基の存在のために、GAGは、より高い負の電荷を帯びている。これは、可溶性グリコサミノグリカン、及び細胞表面又は細胞外マトリックスに付着させたGAGに結合する正に電荷されたケモカインの結合を行う。ヘパリンに類似するがしかしほとんど電荷帯びていない、ヘパラン硫酸は、ケモカインの生物活性に対する基本であると考える。ヘパリン硫酸は、ほとんどの細胞型及びいくつかのコアタンパク質運搬HS−鎖によって製造される。例えば、細胞表面でシンデカン及びグリピカン、並びに細胞外マトリックスにおいてアグリン及びパールカン。SDF−1αは、シンデカン−4と結合するが、シンデカン−1、シンデカン−2、CD44又はベータ−グリカンとは結合しないことが注意に値する。Lys24、Lys27、並びにより小さい程度に対してArg41及びLys43が、SDF−1をHSに結合するために必要であることが示されている(Sadir et al.J.Biol.Chem.,276,8288−8296(2001))。それらの塩基性アミノ酸は、SDF−1αダイマーのβ−ストランド間の小さな開口部に位置される(Lortat−Jacob et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 99, 1229−1234(2002))。
【0006】
GAGは、細胞表面上にケモカインの保持を導き、その結果、血流によって生じる剪断力にもかかわらず、ケモカインの局所濃度を増加する。この相互作用がなければ、ケモカインは、洗い流され、かつ続く白血球又は幹細胞のための走化性勾配を確立することができない。GAG結合は、生体内活性のために事前の要求である。GAG結合部位での突然変異を有するケモカインは、生体内で細胞を補充することができない。例えばオリゴマー化を導くケモカインの構造変化は、GAGへの結合によって生じる。HS又はヘパリンへの結合は、タンパク質分解性の開裂からも、ジペプチジルペプチダーゼIV(DPP IV)/CD26によって生体内でSDF−1を保護することができる。
【0007】
SDF−1のための唯一の公知のレセプターは、CXCケモカインレセプター4(CXCR4)である(Y. R. Zou, A. H. Kottmann, M. Kuroda, I. Taniuchi, D. R. Littman, Nature, 393, 595−599 (1998))。相互に、SDF−1は、CXCR4のための唯一の公知の内因性リガンドである(M. K. Schwarz, T.N. Wells, Curr. Opin. Chem. Biol., 3, 407−417 (1999))。CXCR4は、7つの膜内外ドメインによって特徴付けられる、百日咳毒素感受性Gタンパク質結合レセプター(GPCR)に属する。SDF−1及びCXCR4のための2工程結合モデルが提案されている(M. K. Schwarz, T.N. Wells, Curr. Opin. Chem. Biol., 3, 407−417 (1999))。
【0008】
分子動力学シミュレーションは、さらに、SDF−1のCXCR4への二工程結合機構を確認した。SDF−1は、非常に効力のあるケモカインであり、かつ白血球及び単球、並びに造血幹細胞及び始原細胞を引きつける(K. Hattori, B. Heissig, K. Tashiro, T. Honio, M. Tateno et al., Blood, 97, 3354−3360 (2001))。
【0009】
ケモカイン引力並びにリンパ球及び単球引力におけるSDF−1の役割、並びに癌治療のための新薬のための一定の要求を考慮して、本発明の目的は、ケモカインレセプター相互作用を改質するための新たなタンパク質を提供することである。
【0010】
本発明は、SDF−1αもしくはSDF−1βもしくはSDF−1γ又はそれらのあらゆる変異体であってよいヒトSDF−1中へのより高いGAG結合アフィニティーを設計すること、並びに同時にGPCR活性、特にケモカインのCXCR4活性をノックアウト又はダウンレギュレーションすることに基づく。これは、GAG結合アフィニティーを増加するためにSDF−1のGAG結合部位中に塩基性アミノ酸を導入することによって、及び8つのアミノ酸の切断によって又は最初の2つのアミノ酸を置換/欠失することによってケモカインのN末端を改質することによって達成される。前記のSDF−1突然変異体は、標準GAG(ヘパリン又はヘパラン硫酸)に関する最小で5倍改質されたKdを呈し、かつそれは、標準単球のボイデンチャンバー中で低減された走化性活性を示す。それらの特徴のための生物物理学的な及び細胞生物学的な証明を提供する。
【0011】
本発明の主題は、CXCR4陽性細胞遊走、より詳述すれば幹細胞及び転移性細胞を、腫瘍成長及び拡散方法の本記載内容におけるSDF−1を基礎とした突然変異体とのGAG相互作用を拮抗することによって、阻害することである。抗−腫瘍形成の特徴は、ヒト乳癌細胞を使用するネズミの異種移植モデルにおいて示されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】SDF−1突然変異体の配列を示す図(野生型のケモカインに関する突然変異に下線を引く)。
【図2】HSに結合するwtSDF−1及びMet−SDF−1Δ8L29KV39Kの恒温蛍光滴定を示す図。
【図3】wtSDF−1、Met−SDF−I、及びMet−SDF−1Δ8L29KV39Kによって誘発された単球(Thp−1)走化性を示す図。
【図4】ネズミの異種移植モデルにおいて測定されたMet−SDF−1Δ8L29KV39K("突然変異体"として設計された)による肝臓へのヒト乳癌細胞遊走の阻害を示す図。
【0013】
増加されたGAG結合アフィニティーは、天然GAG結合タンパク質との競合者として作用する改質されたタンパク質を導く、GAG結合領域における塩基性アミノ酸の相対量を増加することによって導入されうる(WO 05/054285号、参照によって全て本明細書に組み込まれたものとする)ことを示している。これは、特に、インターロイキン−8に関して示している。GAG結合領域の特定の位置、及び塩基性アミノ酸を選択的に導入することによるそれらの改質は、SDF−1(CXCL12)タンパク質に関して記載されていない。
【0014】
WO 01/85196号は、CXCR4アンタゴニスト、及び造血細胞の治療のためのそれらの可能な使用を開示しているが、SDF−1分子のGAG結合アフィニティーを改良する指摘はない。WO 01/85196号は、SDF−1由来のペプチドを開示しており、その際それらの一部は、リンカー配列によってGAGに結合するSDF−1のそれらのドメインを含むSDF−1のC末端断片に共有的に連結されることができ、従って該ペプチドの拮抗作用を増加しうる。この文献において、あらゆる方法によってSDF−1のGAG結合アフィニティーを増加することについては言われていない。この文献において述べられているGAG結合タンパク質の他の例と同様に、この方法によって、タンパク質−GAG結合の一般原理を参照でき、及びSDF−1へのより高いGAG−結合アフィニティーを導入する特定の技術は参照できない。
【0015】
本発明は、SDF−1タンパク質が、構造維持法で、有利にはGAG結合部位内での少なくとも2つの塩基性及び/又は電子供与性アミノ酸の挿入、又は少なくとも2つの非塩基性アミノ酸の置換によって、又は天然のGAG結合部位の構造付近で少なくとも2つの塩基性及び/又は電子供与性アミノ酸によって改質され、かつ野生型SDF−1タンパク質のN末端領域の最初の1〜10のアミノ酸の少なくとも1つのアミノ酸が、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換によって改質されることを特徴とする、野生型SDF−1タンパク質と比較して増加させたGAG結合アフィニティー及び低減させたGPCR活性を有するSDF−1突然変異体タンパク質を提供する。
【0016】
本発明によって定義される"付近"という用語は、GAG結合部位の立体構造的近傍の範囲内で位置されるが、しかし、GAG結合部位において直接配置されない、アミノ酸残基を含む。立体構造的近傍は、タンパク質のアミノ酸配列に関するGAG結合アミノ酸残基に隣接して位置されるアミノ酸残基、又はタンパク質の三次元構造(又は折り畳み)の結果としてGAG結合アミノ酸残基に隣接して位置されるアミノ酸として定義されうる。
【0017】
それらの生物学的機能を作用することを可能にするために、タンパク質は、1つ又はそれ以上の特定の空間的立体構造、いわゆるドメイン中に折り畳まれ、多くの非共有的相互作用、例えば水素結合、イオン相互作用、ファンデルワールス力、及び疎水性充填によって生じる。三次元構造は、X線結晶学又はNMR分光法のような公知の方法によって測定されうる。
【0018】
天然のGAG結合部位の同定は、例えば突然変異誘発実験によって達せられうる。タンパク質のGAG結合部位は、主にタンパク質の表面に配置された塩基性残基によって特徴付けられる。それらの領域がGAG結合部位を定義しているかどうかを試験するために、それらの塩基性アミノ酸残基は、例えばアラニン残基の置換によって突然変異を起こすことができ、かつヘパリン結合アフィニティーの減少を測定することができる。これは、当業者に公知のあらゆるアフィニティー測定技術によって実施されうる。
【0019】
塩基性又は電子供与性アミノ酸の挿入又は置換によって合理的に設計された突然変異誘発は、GAG結合部位の増加されたサイズを及びGAG結合アフィニティーの増加をもたらしうる天然のGAG結合部位の付近に異なるアミノ酸を導入するために実施されうる。
【0020】
GAG結合部位又は該部位の付近は、
(a)タンパク質及びGAGリガンド分子、例えば該タンパク質に結合するヘパラン硫酸(HS)、ヘパリン、ケラチン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸及びヒアルロン酸等を含有する複合体を提供すること、
(b)前記複合体と、タンパク質の開裂を可能にするプロテアーゼ、例えばトリプシンのような開裂試薬とを接触すること、その際、該GAGリガンド分子は、GAGリガンド分子に結合するタンパク質の領域におけるタンパク質の開裂を妨げ、かつそれによって該タンパク質を、該結合GAGリガンド分子によって阻害されない領域において開裂し、並びに
(c)開裂させたペプチドを分離及び検出すること、その際、タンパク質の領域における開裂の事象の不在は、該GAGリガンド分子がその領域に結合していることを示す
を含む、US 61/07565号(参照をもって本明細書に取り込まれたものとする)において詳細に記載されているような方法を使用することによっても測定されることができる。検出は、例えば、LC−MS、nanoHPLC−MS/MS又は質量分析法によってできる。
【0021】
GAG結合部位を導入又は改良するためのプロトコルは、例えば部分的に、WO 05/054285号において記載されており、かつ以下:
− GAG結合中に含まれるタンパク質の領域の同定、
− 塩基性又は電子供与性アミノ酸、有利にはArg、Lys、His、Asp及びGln残基を、あらゆる位置に導入する(置換又は挿入する)ことによる、又はGAG結合と干渉するアミノ酸を欠失することによる新たなGAG結合部位の設計、
− 得られた突然変異体タンパク質の立体構造安定性のシリカ中での検査、
− 野生型タンパク質cDNAのクローン(代わりに:cDNAを得る)、
− PCR関連突然変異誘発に関する鋳型として前記cDNAを使用して、前記の変化をアミノ酸配列に導入すること、
− 突然変異体遺伝子の好適な発現系へのサブクローン(生物学的に要求される転写後改質に依存する原核生物又は真核生物)、
− 生体外での突然変異体タンパク質の発現、精製及び特徴付け、
増加させたGAG結合アフィニティーに関する診断基準:KdGAG(突然変異体)≦10μM
− 遠赤外線CD分光法又は1−DNMR分光法による構造維持に関する検査
であってよい。
【0022】
30%未満、有利には20%未満の野生型構造からの遠赤外線CD分光法によって測定された改質された構造のずれは、本発明による構造維持改質として定義される。
【0023】
電子供与性アミノ酸は、電子又は水素原子を供与するアミノ酸である(Droenstedt定義)。有利には、該アミノ酸は、Asn又はGlnであってよい。塩基性アミノ酸は、Arg、Lys又はHisからなる群から選択されうる。
【0024】
前記の塩基性又は電子供与性アミノ酸で置き換えられた天然アミノ酸が、塩基性アミノ酸である場合に、置換アミノ酸は、有利には、より塩基性のアミノ酸であり、又は多かれ少なかれ、天然タンパク質構造中に構造可撓性を導入する。
【0025】
本発明による構造可撓性は、GAGリガンド結合の結果として誘発された適合に対する適用の程度によって定義される。
【0026】
本発明の特定の一実施態様によって、塩基性及び/又は電子供与性アミノ酸によって置き換えられた天然アミノ酸は、非塩基性又は全く塩基性でないアミノ酸である。
【0027】
本発明によって、SDF−1突然変異体タンパク質は、構造維持法における改質を含むことができ、その際、野生型SDF−1構造からの遠赤外線CD分光法による測定として改質された構造のずれは、30%未満、有利には20%未満、有利には10%未満である。
【0028】
代わりの一実施態様によって、構造維持改質は、SDF−1タンパク質のN末端内に位置しない。
【0029】
本発明は、増加されたGAG結合アフィニティー及び低減されたGPCR活性を有するSDF−1突然変異体タンパク質を含み、SDF−1タンパク質の非構造領域が、少なくとも2つの塩基性アミノ酸の挿入又は置き換えによって改質され、かつ該SDF−1タンパク質のN末端領域が、8つのアミノ酸の切断によって又は最初の2つのアミノ酸を置換/欠失することによって改質することを特徴とする。
【0030】
特定の一実施態様によって、N末端アミノ酸は、リジン、アルギニン、プロリン又はグリシンからなる群から選択されてよい。
【0031】
さらに、位置29又は39での少なくとも1つのアミノ酸は、本発明のSDF−1突然変異体タンパク質において改質されうる。代わりに、アミノ酸欠失、置換又は挿入は、位置24、25、26、27、及び/又は41、42、43のアミノ酸でも可能である。
【0032】
代わりに、本発明のSDF−1突然変異体タンパク質のアミノ酸配列は、以下の一般式
(M)n(X1)m(X2)pVSLSYRCPCRFFESHVARANVKHLKI(X3)NTPNCALQI(X4)ARLKNNNRQVCIDPKLKWIQEYLEKALNK(GRREEKVGKKEKIGKKKRQKK RKAAQKRKN)o
[式中、X1は、K又はR残基であり、
X2は、P又はG残基であり、
X3は、Y及び/又はA残基からなる群から選択され、有利にはAであり、
X4は、S、R、K、H、N及び/又はQ残基からなる群から選択され、有利にはKであり、かつ
n及び/又はm及び/又はp及び/又はoは、0又は1であってよく、かつ
少なくとも2つの位置X1、X2、X3又はX4が改質される]によって記載されうる。
【0033】
本発明の代わりの実施態様によって、SDF−1突然変異体タンパク質は、N末端のMetを含むことができる。
【0034】
本発明の他の観点は、前記の本発明のタンパク質をコードする単離された多核酸分子である。前記多核酸は、DNA又はRNAであってよい。その結果、本発明のSDF−1突然変異体タンパク質を導く改質は、DNA又はRNAレベルで実施される。本発明の単離された多核酸分子は、診断法、並びに遺伝子治療、及び大量の本発明のSDF−1突然変異体タンパク質の製造に好適である。
【0035】
さらに好ましくは、単離された多核酸分子は、厳しい条件下で、前記の本発明の多核酸分子とハイブリダイズする。ハイブリダイゼーション条件に依存して、相補的二重鎖は、完全にマッチすること、又はミスマッチの塩基も含むことによって、2つのDNA又はRNA分子を形成する(Sambrook et al., Molecular Cloning:A laboratory manual, 2nd ed., Cold Spring Harbor, N.Y. 1989を参照)。約50ヌクレオチドよりも長いプローブは、ミスマッチの塩基の25〜30%まで到達してよい。より小さなプローブは、より少ないミスマッチを達成する。ミスマッチの塩基対を含有する二重鎖を形成する標的及びプローブの傾向は、それ自体が因子の機能であるハイブリダイゼーション条件、例えばハイブリダイゼーション緩衝液中の塩又はホルムアミドの濃度、ハイブリダイゼーションの温度、及びハイブリダイゼーション後の洗浄条件の厳しさによって制御される。雑種二重鎖の形成をもたらすよく知られている原理を適用することによって、所望の厳しさを有する条件は、当業者によって、種々のハイブリダイゼーション緩衝液、温度及び洗浄条件の中から選択することによって達成されうる。従って、条件は、完全にマッチした又は部分的にマッチした雑種二重鎖の検出を可能にすることが選択されうる。二重鎖の溶融温度(Tm)は、適切なハイブリダイゼーション条件を選択するために有用である。長さ200ヌクレオチドを超えるポリヌクレオチド分子のための厳しいハイブリダイゼーション条件は、典型的に、期待された二重鎖の溶融温度未満の温度15〜25℃でハイブリダイズすることを含む。より長いプローブよりも安定してない二重鎖を形成する30ヌクレオチドを超えるオリゴヌクレオチドプローブのために、厳しいハイブリダイゼーションは、通常、Tm未満の5〜10℃でハイブリダイズすることによって達せられる。核酸二重鎖のTmは、核酸中で含有されるパーセントG+Cに基づく式を使用して計算されることができ、かつ鎖長を考慮に入れ、例えば式は、Tm=81.5−16.6(log[NA+]+0.41(%G+C)−(600/N))であり、その際Nは鎖長である。
【0036】
他の観点は、前記のような、本発明による単離されたDNA分子を含有するベクターに関する。該ベクターは、効率的な形質移入、及びタンパク質の効率的な発現に必要な全ての調節要素を含有する。かかるベクターは、当業者によく知られており、かつあらゆる好適なベクターは、この目的のために選択されうる。
【0037】
本発明の他の側面は、前記のような本発明のベクターで形質移入させた組換え細胞に関する。細胞の形質移入及び組換え細胞の培養法は、当業者によく知られているように実施されうる。かかる組換え細胞及びそれらからのあらゆる子孫細胞は、ベクターを含有する。従って、細胞系列は、連続的に又はベクターに依存する活性に対して、SDF−1突然変異体タンパク質を発現することを提供する。
【0038】
本発明の他の側面は、前記のような本発明によるSDF−1α突然変異体タンパク質、多核酸又はベクター、並びに製剤学的に認容性のキャリヤーを含有する医薬品組成物に関する。もちろん、該医薬品組成物は、さらに、通常医薬品組成物に存在する追加の物質、例えば塩、緩衝液、乳化剤、着色剤等を含有してよい。
【0039】
本発明の他の観点は、前記のような本発明によるSDF−1タンパク質、多核酸又はベクターの、それぞれの野生型の生物学的活性を阻害又は抑制するための方法における使用に関する。前記のように、本発明のSDF−1突然変異体タンパク質は、特異的なアンタゴニストとして作用し、それによって、公知の組換えタンパク質で生じる副作用は、本発明のSDF−1突然変異体タンパク質で生じない。GAG結合アフィニティーを増加することによって、改質されたSDF−1タンパク質は、特異的なアンタゴニストとして作用し、かつGAG結合に関して野生型のGAG結合タンパク質と競合する。
【0040】
この場合において、これは、特に、癌発達において含まれる生物学的活性である。
【0041】
従って、前記の本発明によるSDF−1タンパク質、多核酸又はベクターのさらなる使用は、癌の治療のための薬剤を製造するための方法である。特に、それは、副作用のないアンタゴニストとして作用し、かつ癌疾患の治療に特に好適である。従って、本発明の他の観点は、癌疾患の治療のための方法でもあり、その際、本発明によるSDF−1突然変異体タンパク質、本発明による単離されたポリ核酸分子もしくはベクター、又は本発明による医薬品配合物が、患者に投与される。
【0042】
本発明は、次の実施例によってさらに説明されるが、しかしそれらに制限されることはない。
【0043】
実施例:
実施例1:GAG結合アフィニティーの増加
wtSDF−1aに対してSDF−1a突然変異体の設計した増加させたGAG結合アフィニティーを、恒温の蛍光滴定によって測定した(図2を参照)。定常状態の蛍光測定を、Perkin Elmer(Baconsfield、UK)LS50B蛍光計で実施した。PBS(pH7.2、125mM NaCl)中でSDF−1a野生型又は突然変異体の180nMの前平衡した溶液の、282nmでの励起に対する発光を、300〜390nmの範囲にわたって記録した。結合等温線を、キュベットホルダーをサーモスタットに取り付けることによって、及び2分間の平衡を可能にするヘパラン硫酸のアリコートの添加によって得た。スリット幅を、励起及び発光のために12nmに調整し、そしてそのスペクトルを、200nm/分で記録した。290nmカットオフを、迷光を避けるために挿入した。蛍光スペクトルを、バックグラウンドで収集し、そしてそれぞれの範囲を、300〜390nmで一体化した。3つの独立した実験から得られた蛍光強度(−ΔF/F0)における標準化された平均変化を、リガンド濃度に対してプロットした。得られた結合等温線を、プログラムOrigin(Microcal Inc.、Northampton、USA)を使用する非線形回帰によって、以前に出版されている二分子会合反応を記載している次の化学反応式に適合させた(Falsone et al.(2001) Biochem Biophys Res Commun 285, 1180−5)。wtSDF−1aに対する約10のMet−SDF−1 Δ8 L29K V39K突然変異体の因子によるHSアフィニティーにおける明らかな改良を観察した。
【0044】
実施例2:GPCR活性のノックダウン
細胞遊走を方向付けたSDF−1a野生型及び突然変異体を、5μmPVPで被覆したポリカルボネート膜を装備した48ウェルのボイデンチャンバー系(神経プローブ)を使用して調べた。20mM HEPES pH7.3及び1mg/ml BSAを含有するRPMI1640中で5nMから20nMの範囲のwtSDF−a1及び突然変異体希釈を、緩衝液のみを有するウェルを含む、3倍でチャンバーのより低いウェル中に置いた。THP−1細胞懸濁液50μl(European collection of cell cultures)を、同様の培地中で、2×106細胞/mlで、上部のウェル中に置いた。37℃で5%CO2で2時間のインキュベート後に、フィルターの上部表面を、Hankの平衡させた塩溶液中で洗浄した。その遊走細胞を、メタノールで固定し、そしてHemacolor(登録商標)(Merck)で染色した。5つの400×倍/ウェルの該遊走細胞を計数し、そして3つの独立して実施した実験の平均を、バックグラウンドで収集し、そしてケモカイン濃度に対してプロットした(図3を参照、PA517=Met−SDF−1 Δ8 L29K V39K)。前記のMet−SDF−1 Δ8 L29K V39K突然変異体は、生体外で明らかに低減した走化性を呈した。
【0045】
実施例3:乳癌転移の阻害
癌転移に対するSDF−1a突然変異体の阻害活性を検査する目的のために、ネズミの異種移植モデルを使用した。10週齢の雌の免疫欠損SCIDマウスを、生体内実験のために使用した。それらを、実験の全過程中で単離処理で維持した。その動物を、実験を開始する前に落ち着けた後に、数日間放置した。
【0046】
LMD−231細胞を、この異種移植モデルにおいて使用した。それらを、MDA−MB−231で接種したマウスの肺転移から培養した。それらの細胞は、CXCR4の高いレベルを表現するために公知であり、かつ異種移植実験において常に使用されている。それらの粘着細胞を、完全最小必須培地中で培養し、そして50:50の比でRPMIの混合を完了し、そして細胞フラスコを、1:3の比で分けた。その細胞を、加湿大気中で37℃、5%CO2で培養した。
【0047】
生体内試験のために、120000 LMD−231細胞を、それぞれのマウスの尾の静脈中に注入した。注入の直前に、その細胞を、対照群に関してPBSと、又は所望の濃度における突然変異体ケモカインと混合した。(細胞及びケモカインを、形式的にインキュベートせず、注入前に共に混合させる継続時間は、平均して5〜10分であった。)100μlの合計量を、それぞれのマウスに注入した。
【0048】
28日目に、その動物を、人道的に屠殺し、そして臓器を採取した。それぞれのマウスからの肝臓の半分及び1つの肺を、今後の研究のために急冷凍した。残りの半分の肝臓及び1つの肺を、ホルマリンで固定し、そしてその後パラフィンワックスで包埋した。そして切片を、肝臓(及び肺)から切った。それぞれのマウスからの2つの切片を、ヒト上皮細胞(乳癌)に特異的なサイトケラチンマーカーのカクテルで染色した。
【0049】
肝臓転移の評価を、LCMレーザーキャプチャー顕微鏡及びいわゆる統合したソフトフェアを使用してそれぞれの切片の合計範囲を計算することによって達成した。そして、それぞれの切片における転移の合計数を計数し、そして平均Met/平方mmを計算した(図4)。Met−SDF−1 Δ8 L29K V39K突然変異体は、20μg/投与量での肝臓中への転移遊走に対する明らかな阻害効果を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
SDF−1突然変異体タンパク質であって、該SDF−1タンパク質が、構造維持法で、少なくとも2つの塩基性及び/又は電子供与性アミノ酸の挿入、又は少なくとも2つの非塩基性アミノ酸の置換によって、少なくとも2つの塩基性及び/又は電子供与性アミノ酸によって改質され、かつ野生型SDF−1タンパク質のN末端領域の最初の1〜10のアミノ酸の少なくとも1つのアミノ酸が、少なくとも1つのアミノ酸の付加、欠失及び/又は置換によって改質されることを特徴とする、野生型SDF−1タンパク質と比較して増加させたGAG結合アフィニティー及び低減させたGPCR活性を有するSDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項2】
構造維持法での改質が、遠赤外線CD分光法によって測定される、30%未満、有利には20%未満の野生型のSDF−1構造からの改質された構造のずれであることを特徴とする、請求項1に記載のSDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項3】
前記の塩基性アミノ酸が、Arg、Lys、Hisからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のSDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項4】
前記の電子供与性アミノ酸が、Asn又はGlnからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のSDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項5】
前記のSDF−1タンパク質のN末端領域が、8つのアミノ酸の切断によって改質されることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載のSDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項6】
前記のSDF−1タンパク質のN末端領域が、最初の2つのアミノ酸の置換及び/又は欠失によって改質されることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のSDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項7】
前記の最初の2つのN末端のアミノ酸が、リジン、アルギニン、プロリン、又はグリシンからなる群から選択されるアミノ酸によって置換されることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のSDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項8】
N末端Metを含有することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載のSDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項9】
位置29又は39での少なくとも1つのアミノ酸が改質されることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載のSDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項10】
前記の改質されたSDF−1分子のアミノ酸配列が、一般式
(M)n(X1)m(X2)pVSLSYRCPCRFFESHVARANVKHLKI(X3)NTPNCALQI(X4)ARLKNNNRQVCIDPKLKWIQEYLEKALNK(GRREEKVGKKEKIGKKKRQKK RKAAQKRKN)o
[式中、X1は、K又はR残基であり、
X2は、P又はG残基であり、
X3は、Y又はA残基からなる群から選択され、有利にはAであり、
X4は、S、R、K、H、N又はQ残基からなる群から選択され、有利にはKであり、かつ
n及び/又はm及び/又はp及び/又はoは、0又は1であってよく、かつ
少なくとも2つの位置X1、X2、X3又はX4が改質される]によって記載されることを特徴とする、SDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項11】
構造Met−SDF−1 Δ8 L29K V39Kであることを特徴とする、SDF−1突然変異体タンパク質。
【請求項12】
請求項1から11までのいずれか1項に記載のタンパク質に関してコードすることを特徴とする、単離された多核酸分子。
【請求項13】
請求項12に記載の単離されたDNA分子を含有することを特徴とするベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターで形質移入させることを特徴とする、組換え細胞。
【請求項15】
請求項1から11までのいずれか1項に記載のタンパク質、又は請求項12又は13に記載の多核酸、又は請求項14に記載のベクター及び製剤学的に認容性のキャリヤーを含有することを特徴とする、医薬品組成物。
【請求項16】
請求項1から11までのいずれか1項に記載のSDF−1突然変異体タンパク質、又は請求項12に記載の多核酸、又は請求項13に記載のベクターの、癌の治療のための薬剤を製造するための方法における使用。
【請求項17】
腫瘍の成長及び広がりの過程を、少なくとも部分的に阻害することを特徴とする、請求項16に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−501675(P2011−501675A)
【公表日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−530341(P2010−530341)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際出願番号】PCT/EP2008/008960
【国際公開番号】WO2009/053064
【国際公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【出願人】(505471923)プロットアフィン ビオテヒノロギー アクチエンゲゼルシャフト (4)
【住所又は居所原語表記】Impulszentrum Graz−West,Reininghausstrasse 13a,8020 Graz,Austria
【Fターム(参考)】