説明

SNPによる肥満化のリスクの予測

【課題】遺伝子多型を利用して、肥満化のリスクを予測する方法の提供及び該方法に利用するヌクレオチドの提供。
【解決手段】男性被験体において、以下の(i)及び/又は(ii)の一塩基多型を分析し、肥満化のリスクを予測するための検査方法:
(i) UCP1(uncoupling protein 1)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型;及び
(ii) ADRB3(beta3-adrenergic receptor)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、男性における肥満化のリスクを予測する検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は糖尿病、高脂血症、高血圧等の慢性疾患の合併症を伴うため、肥満となることを予防することが望ましい。肥満か否かの判定基準は種々あるが、体脂肪率やボディ・マス・インデックス(BMI)等がある。
【0003】
肥満には、遺伝的要因と環境的要因が寄与しており、肥満に関連する遺伝子がいくつか報告されている。例えば、日本人女性を対象とした研究により、ADRB3(beta3-adrenergic receptor)遺伝子と内臓脂肪と皮下脂肪の比や腰・臀部の比との関連が報告されている(非特許文献1を参照)。しかしながら、該遺伝子とBMIとの関連は認められておらず、また、男性については報告されていない。また、女性を対象としたADRB2(beta2-adrenergic receptor)遺伝子と肥満との関連性を研究した報告において、BMIとADRB2遺伝子の相関が認めらなかったことが示されている(非特許文献2を参照)。さらに、肥満女性を対象とした研究により、UCP1(uncoupling protein 1)遺伝子の型と食事や運動の肥満に対する効果の関連性が報告されている(非特許文献3を参照)。しかしながら、該報告においては、UCP1遺伝子型と体脂肪率、BMI及び腰・臀部の比の間には相関が認められないと報告されている。
【0004】
肥満になりやすいか否かが判定できれば、肥満を予防する処置をとることができ、上記の肥満に伴う合併症も予防できるが、高い精度で肥満のなりやすさを予測できる方法は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Yoshida T, et al., Lancet. 1995. 346(8987):1433-4
【非特許文献2】Sakane N et al., Lancet. 1999. 353(9168):1976
【非特許文献3】Kogure et al., Diabetologia. 1998 Nov;41(11):1399
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、遺伝子多型を利用して肥満化のリスクを予測するための検査方法、及び肥満化のリスクを予測するためのヌクレオチドの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、UCP1遺伝子の遺伝子多型及びADRB3遺伝子の遺伝子多型を肥満化のリスクの予測に用い得ることを見出した。
【0008】
すなわち、壮年者(30〜45歳)男性862人において、BMI値30.0(日本肥満学会分類、肥満2度)を境界線として30未満を非肥満群、30以上を肥満群として分類し、両者におけるUCP1およびADRB3の遺伝子多型解析を行った。その結果、UCP1遺伝子内の当該SNPの塩基がG/Gである場合とA/GまたはA/Aである場合を比較すると、前者の方が肥満のリスクが高く、オッズ比が1.90となった(P≒0.0010、図4参照)。ここで、ヘテロA/GはUCP1遺伝子においては低リスク側に分類することが適切であることを見出した。
【0009】
ADRB3遺伝子については、当該SNPの塩基がC/CまたはT/Cである場合とT/Tである場合においては、前者の方が肥満のリスクが高くオッズ比が1.46となった(P≒0.048、図5参照)。ここでヘテロT/CはADRB3遺伝子においては高リスク側に分類することが適切であることを見出した。
【0010】
UCP1およびADRB3遺伝子の2つの遺伝子によりさらなる層別化を行ったときには、UCP1遺伝子内の当該SNPの塩基がG/Gであり、かつADRB3遺伝子の当該SNPの塩基がC/CまたはT/Cである場合と、UCP1がA/GもしくはG/GかつADRB3遺伝子がT/Tである場合を比較するとオッズ比が2.84となり、前者の方が肥満のリスクが高いという結果が得られた(p≒0.0003、図6参照)。その他の組み合わせについては、図6に示したとおりであり、リスクアレルを多く保有するほど肥満度リスクが段階的に高まることを見いだした。
【0011】
女性に関しては両者において有意差は得られなかった。以上より、壮年男性において、両遺伝子の当該SNPsを解析することにより、将来的に肥満化することが予測可能であることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 男性被験体において、以下の(i)又は(ii)の一塩基多型を分析し、肥満化のリスクを予測するための検査方法:
(i) UCP1(uncoupling protein 1)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型;及び
(ii) ADRB3(beta3-adrenergic receptor)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型。
【0013】
[2] 男性被験体において、以下の(i)及び(ii)の一塩基多型を分析し、肥満化のリスクを予測するための検査方法:
(i) UCP1(uncoupling protein 1)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型;及び
(ii) ADRB3(beta3-adrenergic receptor)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型。
【0014】
[3] UCP1遺伝子の一塩基多型が、UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型である、[1]又は[2]の検査方法。
[4] ADRB3遺伝子の一塩基多型が、ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型である、[1]〜[3]のいずれかの検査方法。
[5] UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型がG/Gである場合に、肥満化のリスクが予測されると判定する、[1]〜[4]のいずれかの検査方法。
【0015】
[6] ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型がC/CまたはT/Cである場合に、肥満化のリスクが予測されると判定する、[1]〜[5]のいずれかの検査方法。
[7] UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型がG/Gであり、かつADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型がC/CまたはT/Cである場合に、肥満化のリスクが予測されると判定する、[2]の検査方法。
【0016】
[8] UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号3のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物からなる、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うためのプローブ。
[9] ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号4のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物からなる、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うためのプローブ。
【0017】
[10] [8]のプローブ及び[9]のプローブを含む、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うためのキット。
[11] UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号3のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物を固定化した、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための固定化基板。
【0018】
[12] ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号4のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物を固定化した、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための固定化基板。
[13] UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号3のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物、並びにADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号4のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物を固定化した、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための固定化基板。
【0019】
[14] UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片の増幅に用いる少なくとも一対のプライマーセットであって、UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位のうちの少なくとも1つの多型部位の3’側および5’側に存在する10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドからなる、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための一対のプライマーセット。
[15] ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片の増幅に用いる少なくとも一対のプライマーセットであって、ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位のうちの少なくとも1つの多型部位の3’側および5’側に存在する10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドからなる、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための一対のプライマーセット。
[16] [14]の一対のプライマーセット及び[15]の一対のプライマーセットを含む、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うためのキット。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、男性における将来的な肥満化のリスクを予測することができ、肥満化になりやすい、又は肥満が悪化し得ると判定された被験者は適切な処置をとり肥満化を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】UCP1遺伝子とADRB3遺伝子の一塩基多型と肥満との関連を調べるために用いた解析対象(被験体)の集団構成を示す図である。
【図2】UCP1遺伝子とADRB3遺伝子の一塩基多型と肥満との関連を調べるために用いた解析対象(被験体)の集団における、肥満である男性と女性の被験体の割合を示す図である。
【図3】UCP1遺伝子とADRB3遺伝子の一塩基多型と肥満との関連を調べるために用いた解析対象(被験体)の集団における、30歳以上45歳未満の男性と女性の肥満である被験体の割合を示す図である。
【図4】男性におけるUCP1遺伝子の一塩基多型と肥満との関連を示す図である。
【図5】男性におけるADRB3遺伝子の一塩基多型と肥満との関連を示す図である。
【図6】男性におけるUCP1遺伝子の一塩基多型及びADRB3遺伝子の一塩基多型と肥満との関連を示す図である。オッズ比はそれぞれ、UCP1がA/GもしくはG/GかつADRB3がT/Tである最もリスクが低い群との比較で得られるものである。
【図7】女性におけるUCP1遺伝子の一塩基多型と肥満との関連を示す図である。
【図8】女性におけるADRB3遺伝子の一塩基多型と肥満との関連を示す図である。
【図9】女性におけるUCP1遺伝子の一塩基多型及びADRB3遺伝子の一塩基多型と肥満との関連を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明においては、UCP1(uncoupling protein 1)遺伝子及び/又はADRB3(beta3-adrenergic receptor)遺伝子の一塩基多型(SNP)又は該塩基と連鎖不均衡にある塩基の一塩基多型を分析し、肥満化を予測するための、又は肥満化のリスクを予測し、又は判定するための検査を行う。UCP1遺伝子又はADRB3遺伝子のいずれかの一塩基多型(SNP)又は該塩基と連鎖不均衡にある塩基の一塩基多型を分析することにより肥満化を予測することができ、生活習慣病が単一遺伝子の解析で高精度に判定することが容易ではないことを考慮すると、2つの遺伝子を解析することによりその予測の精度をあげることができる。肥満化を予測する、あるいは肥満化のリスクを予測し、又は判定するとは、将来的に肥満になりやすいかどうかを予測すること、肥満の程度が悪化するかどうかを判定することをいう。また、肥満に伴い、高血圧や高脂血症にかかるリスクがあるかどうかの判定も可能である。さらに、本発明の方法により、被験体が肥満化の遺伝的素因を有していると判断することもできる。従って、本発明の検査を受ける対象としては、肥満でない者、既に肥満と判定されている者も含む。また、将来的に肥満になりやすいかどうかという場合の、将来とは本発明の検査を行った時点に対する将来であり、数ヵ月後〜数十年後を含む。好ましくは、成人後の肥満化をいい、好ましくは30歳以上での肥満化をいい、さらに好ましくは30歳〜45歳における肥満化をいう。本発明において、肥満とは体脂肪量又は体脂肪量が増加した状態をいい、肥満か否かは例えばボディ・マス・インデックス(BMI)値を指標に判定することができ、例えばBMI値が30以上の場合肥満であると判定することができる。
【0023】
本発明者らは、上記のUCP1遺伝子及びADRB3遺伝子の一塩基多型が肥満化と関連していることを見出し、本発明を完成させたが、ここで肥満化と関連しているとは、統計学的に関連していることをいう。
【0024】
一塩基多型の分析は、一塩基多型部位の塩基の種類を決定することをいい、1対の染色体上の一方の染色体について検出する場合も、アレルを考慮して両方の染色体について検出する場合も包含され、両方の染色体について検出する場合にも、一塩基多型部位においてホモ接合性かヘテロ接合性かの検出を含む。
【0025】
具体的には、UCP1遺伝子の一塩基多型(rs1800592)を分析する。UCP1遺伝子の塩基配列は、例えば、GenBank Accession 番号NG_012139で登録されている。該塩基配列を配列番号1に示す。一塩基多型rs1800592は配列番号1で示される塩基配列の999番目の塩基における多型をいい、A又はGである。また、該一塩基多型は、配列番号3で示されるUCP1遺伝子の部分配列の27番目の塩基における多型である。また、ADRB3遺伝子の一塩基多型(rs4994)を分析する。ADRB3遺伝子の塩基配列は、例えば、GenBank Accession 番号NG_011936で登録されている。該塩基配列を配列番号2に示す。一塩基多型rs4994は配列番号2で示される塩基配列の5387番目の塩基における多型をいい、A、C、G又はTである。また、該一塩基多型は、配列番号4で示されるADRB3遺伝子の部分配列の27番目の塩基における多型である。
【0026】
これらの配列情報に基づいて、UCP1遺伝子及びADRB3遺伝子の一塩基多型を検出するためのプローブやプライマーを適宜設計することができる。
【0027】
rs1800592及びrs4994は、National Center for Biotechnology Informationのデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/SNP/)の登録番号を示す。該データベースにおいて、前記のrs番号に基づいて、一塩基多型に関する種々の情報(染色体上の位置、一塩基多型部位の塩基の種類、一塩基多型部位を含む配列)を得ることができる。該データベースには、rs1800592及びrs4994の位置を示すために、それぞれ配列番号3及び4で表される配列が開示されている。
【0028】
30〜45歳の男性及び女性の、肥満である被験体及び非肥満被験体について、上記の遺伝子の一塩基多型を調べると、男性において、UCP1遺伝子の一塩基多型(rs1800592)がG/Gである被験体において、A/GまたはA/Aである被験体に比べ、肥満である被験体の割合が有意に大きい。また、同じく男性において、ADRB3遺伝子の一塩基多型(rs4994)がC/CまたはT/Cである被験体において、T/Tである被験体に比べ、肥満である被験体の割合が有意に大きい。さらに、UCP1遺伝子の一塩基多型(rs1800592)がG/Gであり、かつADRB3遺伝子の一塩基多型(rs4994)がC/CまたはT/Cのヘテロである被験体において、それ以外の被検体に比べ、肥満である被験体の割合がさらに大きい。ここで、BMIが30以上の被験体を肥満とし、30未満の被験体を非肥満とする。このことは、UCP1遺伝子の一塩基多型rs1800592及びADRB3遺伝子の一塩基多型rs4994と肥満が関連していることを示しており、これらの一塩基多型の塩基の種類が肥満のなりやすさと密接に関連していることを示している。ここでUCP1遺伝子においてはA/Gのヘテロである被験体は低リスク側に分類すること、ADRB3遺伝子においてはT/Cである被験体は高リスク側に分類することが適切であることを見出したことが重要である。一方、女性の場合は、これらの一塩基多型と肥満は相関していない。
【0029】
従って、男性において、上記の一塩基多型の分析の結果、UCP1遺伝子の一塩基多型(rs1800592)がG/Gの場合に肥満になりやすいと予測することができる。また、ADRB3遺伝子の一塩基多型(rs4994)がC/CまたはT/Cの場合に肥満になりやすいと予測することができる。さらに、UCP1遺伝子の一塩基多型(rs1800592)がG/Gであり、かつADRB3遺伝子の一塩基多型(rs4994)がC/CまたはT/Cである場合、さらに肥満になりやすいと予測することができる。また、逆に、UCP1遺伝子の一塩基多型(rs1800592)がG/Gでない場合、あるいは、ADRB3遺伝子の一塩基多型(rs4994)がC/CまたはT/Cでない場合、あるいはUCP1遺伝子の一塩基多型(rs1800592)がG/Gでなく、かつADRB3遺伝子の一塩基多型(rs4994)がC/CまたはT/Cでない場合、その男性被験体は肥満になりにくいと予測することができる。
【0030】
また、上記一塩基多型の代わりに、上記一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型を分析してもよい。上記一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型とは、上記遺伝子多型と関連性のある遺伝子多型であり、具体的には、上記遺伝子多型がXである場合には、常に別の遺伝子多型がYとなるという関係が成立するものである。
【0031】
本発明の方法においては、被験体からサンプルを採取し、該サンプルのDNAやRNAを分析する。被験体としては、男性を用い、肥満化していない者も既に肥満化している者も含まれる。前者の場合、将来的に肥満化しやすいかかどうかを判定することができ、後者の場合将来的に肥満が悪化するかどうかを判定することができる。被験体の年齢は限定されないが、例えば、未成年者を含む若年者、又は30歳未満の者が上げられ、これらの者の将来的な、例えば30歳以上における肥満化を予測することができる。一塩基多型の分析に用いるサンプルとしては、染色体DNAを含むサンプルならばいずれも用いることができ、好適には、血液、皮膚、口腔粘膜、毛髪、尿、爪、細胞等を用いることができる。これらの、サンプルから染色体やDNAを単離し、分析すればよい。
【0032】
一塩基多型の分析(タイピング)は、当技術分野で公知の手法を用いて行うことができる。例えば、一塩基多型に特異的なプローブとのハイブリダイゼーションにより行うことができる。プローブは、必要に応じて、蛍光物質や放射性物質などの適当な手段により標識することができる。プローブは、一塩基多型部位を含む配列と特異的にハイブリダイズするものである限りいかなるものでもよく、具体的なプローブの設計は当技術分野で公知である。また、ハイブリダイゼーションの条件も、遺伝子多型を区別するのに十分な条件であればよく、例えば一つの遺伝子多型の場合にはハイブリダイズするが、他の遺伝子多型の場合にはハイブリダイズしないような条件、例えばストリンジェントな条件であり、このような条件は当業者に公知である。
【0033】
プローブは、一端を基板に固定してDNAチップ(マイクロアレイ)として使用できる。この場合、DNAチップには、一つの遺伝子多型に対応するプローブのみが固定されていても、両方の遺伝子多型に対応するプローブが固定されていても良い。このようなDNAチップを用いた遺伝子多型の検出は、例えば「DNAマイクロアレイと最新PCR法」、村松正明及び那波浩之監修、秀潤社、2000年、第10章などに記載されている。
【0034】
また、上述した以外にも、当業者に公知のあらゆる方法によってタイピングすることができる。そのような方法としては、遺伝子多型に特異的なプライマーを用いる方法、制限断片長多型(RFLP)を利用する方法、直接配列決定法、変性勾配ゲル電気泳動法(DGGE)、ミスマッチ部位の化学的切断を利用した方法(CCM)、プライマー伸長法(TaqMan(登録商標)法)、PCR-SSCP法、MADI-TOF/MS法などを用いることができる。
【0035】
さらに、本発明は上記の一塩基多型を検出するのに用いるオリゴヌクレオチド又はその標識物を包含し、該オリゴヌクレオチド又はその標識物はプローブ又はプライマーとして用いることができる。これらのオリゴヌクレオチドは、上記遺伝子の一塩基多型部位を含む塩基配列又は該塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNA断片からなり、このようなオリゴヌクレオチドは一塩基多型を検出するためのプローブとして利用できる。また、上記遺伝子多型部位の近傍あるいは離れた部位の塩基配列を、遺伝子多型部位を含む塩基配列を増幅するためのプライマーとして用いることができる。この際、多型部位の3'側および5'側に存在する2種類の配列をプライマー対として用いることができる。多型の検出に用いるオリゴヌクレオチドを構成する塩基の数は5〜50、好ましくは10〜30、さらに好ましくは15〜25であり、上記遺伝子の塩基配列の多型部位を含む連続した塩基配列からなる。また、上記遺伝子の塩基配列の多型部位を含む連続した塩基配列において、数個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1個又は2個、特に好ましくは1個のミスマッチを有するオリゴヌクレオチドも用いることができる。多型の検出はプローブを用いたハイブリダイゼーションアッセイにより行うことができる。本発明のオリゴヌクレオチドは化学合成により作製することもできるし、上記プライマーを用いてPCRにより遺伝子を増幅させた増幅産物として作製することもできる。本発明のプローブは、検出のために蛍光物質、酵素、放射性同位体、化学発光物質等で標識されていても良い。標識に用いる標識物質は、公知のものを用い、公知の方法で標識することができる。蛍光物質としては、例えば、Cy3、Cy5、ローダミン、フルオレセイン等が挙げられる。
【0036】
さらに、本発明は上記オリゴヌクレオチドを固定化した固定化基板を含む。オリゴヌクレオチドを固定化する基板としては、スライドガラス、ニトロセルロース膜、マイクロビーズ等種々のものを用いることができる。固定化基板上に複数のオリゴヌクレオチドを整列固定化した場合、該固定化基板は、DNAマイクロアレイ又はDNAチップとして用いることができる。また、オリゴヌクレオチドは基板上で合成しても良いし、また合成したオリゴヌクレオチドを基板上に固定化しても良い。基板上への固定化は、例えば市販のスポッターやアレイヤーを用いて行うことができ、オリゴヌクレオチドの固定化は吸着や共有結合を介した結合により行うことができ、共有結合を介した結合により固定化する場合は、基板表面及びオリゴヌクレオチドに共有結合用のアミノ基、SH基等の官能基を導入すれば良い。
【0037】
オリゴヌクレオチドを固定化した固定化基板を用いる多型の検出は公知の方法で行うことができる。
【0038】
本発明の方法により、肥満化を予測された被験体は、食事制限を行ったり、適切な運動を行う等、肥満になる環境的要因を排除することにより、肥満を防止することができる。
【実施例】
【0039】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0040】
解析方法
男女において、年齢別の解析を実施した。年齢を30〜45歳に限定して行った。これは、この年齢層がBMIのばらつきが大きく、60歳を過ぎると、男女ともBMI値の高い人が減少し、精度の高い結果が得られないことが予測されたからである。
【0041】
BMI値30.0(日本肥満学会分類、肥満2度以上)を境界線として、非肥満群と肥満群に分類した。
【0042】
一塩基多型の分析は以下の方法で行った。すなわち、出願人である株式会社ハプロファーマが管理運営するバイオバンク沖縄に登録されているヒトの採血由来のDNAを用いて、多型解析を行った。この解析はすでに多数の論文等で公知であるTaqMan(登録商標) SNP Genotyping Assays(Applied biosystems)kitを用い、付随のプロトコールに従い行った。
【0043】
得られた結果より、Association rule解析により、群に特徴的な遺伝子型の組み合わせを探索した。その結果を手がかりに、いくつかの分割表(偶現表)を作成し、Fisherの正確確率検定によって、p値を算出した。
【0044】
解析対象の集団構成を図1に示す。図1に示すように、60歳を過ぎると、男女共にBMI値の高い個体が減少する。
【0045】
母集団全体の肥満群の割合を図2に示す。
母集団の中の30〜45歳の個体の肥満群の割合を図3に示す。図に示すように、30〜45歳の層は、男女共に肥満群(BMI値が30以上)の割合が高い。
【0046】
30〜45歳の男性群において、UCP1遺伝子の一塩基多型を解析し、肥満との関連性を調べた結果を図4に示す。UCP1遺伝子単独でも、肥満群と非肥満群との間の一塩基多型部位の塩基に有意の差が認められた(オッズ比:1.90,p≒0.0010)。
【0047】
30〜45歳の男性群において、ADRB3遺伝子の一塩基多型を解析し、肥満との関連性を調べた結果を図5に示す。ADRB3遺伝子単独でも、肥満群と非肥満群との間の一塩基多型部位の塩基に有意の差が認められた(オッズ比:1.46,p≒0.0048)。
【0048】
30〜45歳の男性群において、UCP1遺伝子の一塩基多型部位及びADRB3遺伝子の一塩基多型を解析し、肥満との関連性を調べた結果を図6に示す。図6に示すように、2つの遺伝子を利用することにより、肥満と非肥満をより明確に区別することができた(p≒0.0003)。
【0049】
図7及び8及び9に同様の検討を30〜45歳の女性について行った結果を示す。女性においては、遺伝子の一塩基多型と肥満との関連性は認められなかった。
【0050】
本実施例の結果より、男性において、遺伝子の型によって、肥満のなりやすさが予測可能であることがわかった。1遺伝子でも予測は可能であったが、2遺伝子を組み合わせることにより、より確実に予測することができた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の方法、プローブ、基板、プライマーを利用して、男性における肥満のなりやすさを予測することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
男性被験体において、以下の(i)又は(ii)の一塩基多型を分析し、肥満化のリスクを予測するための検査方法:
(i) UCP1(uncoupling protein 1)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型;及び
(ii) ADRB3(beta3-adrenergic receptor)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型。
【請求項2】
男性被験体において、以下の(i)及び(ii)の一塩基多型を分析し、肥満化のリスクを予測するための検査方法:
(i) UCP1(uncoupling protein 1)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型;及び
(ii) ADRB3(beta3-adrenergic receptor)遺伝子の一塩基多型又は該一塩基多型と連鎖不均衡にある一塩基多型。
【請求項3】
UCP1遺伝子の一塩基多型が、UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型である、請求項1又は2に記載の検査方法。
【請求項4】
ADRB3遺伝子の一塩基多型が、ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項5】
UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型がG/Gである場合に、肥満化のリスクが予測されると判定する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項6】
ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型がC/CまたはT/Cである場合に、肥満化のリスクが予測されると判定する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の検査方法。
【請求項7】
UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型がG/Gであり、かつADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型がC/CまたはT/Cである場合に、肥満化のリスクが予測されると判定する、請求項2記載の検査方法。
【請求項8】
UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号3のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物からなる、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うためのプローブ。
【請求項9】
ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号4のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物からなる、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うためのプローブ。
【請求項10】
請求項8記載のプローブ及び請求項9記載のプローブを含む、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うためのキット。
【請求項11】
UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号3のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物を固定化した、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための固定化基板。
【請求項12】
ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号4のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物を固定化した、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための固定化基板。
【請求項13】
UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号3のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物、並びにADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片からなるオリゴヌクレオチドであって、配列番号4のヌクレオチド配列の10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチド又はその標識物を固定化した、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための固定化基板。
【請求項14】
UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片の増幅に用いる少なくとも一対のプライマーセットであって、UCP1遺伝子における配列番号3で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位のうちの少なくとも1つの多型部位の3’側および5’側に存在する10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドからなる、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための一対のプライマーセット。
【請求項15】
ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位を含むDNA断片の増幅に用いる少なくとも一対のプライマーセットであって、ADRB3遺伝子における配列番号4で表される部分配列中の27番目の塩基における一塩基多型部位のうちの少なくとも1つの多型部位の3’側および5’側に存在する10から30塩基からなる部分配列もしくはその部分配列に相補的な配列からなるオリゴヌクレオチドからなる、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うための一対のプライマーセット。
【請求項16】
請求項14記載の一対のプライマーセット及び請求項15記載の一対のプライマーセットを含む、被験体の肥満化のリスクを予測するための検査を行うためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−81(P2012−81A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140648(P2010−140648)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(504464966)株式会社 ハプロファーマ (6)
【出願人】(504145308)国立大学法人 琉球大学 (100)
【Fターム(参考)】