説明

SNPs検出方法

【課題】本発明は、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチを効率よく検出する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】対照核酸と標的核酸をハイブリダイズさせて二本鎖核酸を形成させ、ミスマッチ結合タンパク質を該二本鎖核酸に接触させてミスマッチ部分に結合させ、さらに電気化学的活性を有する核酸インターカレーターを該二本鎖核酸に接触させて、その後該二本鎖核酸に挿入された挿入剤の量を測定することにより、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチの有無を判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミスマッチ結合タンパク質を用いることを特徴とする、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチを検出する方法に関する。本発明の方法によれば、DNA塩基配列における1塩基遺伝子多型(SNPs:Single Nucleotide Polymorphism)を検出することができる。
【背景技術】
【0002】
ゲノム配列解析に続いて注目されているのは、遺伝子発現プロフィール分析や遺伝子中の1塩基置換(SNPs:single nucleotide polymorphisms)の分析である。種々条件下で発現している遺伝子、種々個体の遺伝子変異等の解析により遺伝子機能、遺伝子と疾患あるいは医薬品感受性との関連が調べられている。また、これらの遺伝子に関する知識を用いて疾患の診断などが行われつつある。
【0003】
核酸配列における変異の検出は、医学遺伝学の分野において非常に重要である。遺伝的変異の検出は、遺伝病における分子生物学的根拠の決定、遺伝的なカウンセリングのためのキャリアー及び出生前診断の提供、医薬における個人別化の促進、並びに遺伝学的研究における多型の同定等において重要である。
【0004】
DNAレベルでの遺伝的変異の検出と分析は、核型分類、制限断片長多型(RFLPs:Restriction Fragment Length Polymorphism)もしくは可変核酸型多型(VNTRs:Variable Numbers of Tandem Repeats)、さらに近年では一塩基多型分析(SNPs)分析により行われてきた(非特許文献1〜5)。これまでに、非常に広範な技術がSNPの検出及び解析のために開発されている(特許文献1〜9)が、より簡便で効率の良い方法の開発が求められている。
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,858,659号
【特許文献2】米国特許第5,633,134号
【特許文献3】米国特許第5,719,028号
【特許文献4】国際公開98/30717号パンフレット
【特許文献5】国際公開97/10366号パンフレット
【特許文献6】国際公開98/44157号パンフレット
【特許文献7】国際公開98/20165号パンフレット
【特許文献8】国際公開95/12607号パンフレット
【特許文献9】国際公開98/30883号パンフレット
【非特許文献1】Lai E., et al., Genomics 1998; 15; 54 (1): p. 31-8
【非特許文献2】Gu Z., et al., Hum Mutat. 1998; 12 (4): p. 221-5
【非特許文献3】Taillon-Miller P., et al., Genome Res. 1998; 8 (7): p.748-54
【非特許文献4】Weiss KM., Genome Res. 1998; 8 (7): p. 691-7
【非特許文献5】Zhao LP., et al., Am J Hum Genet. 1998; 63 (1): p. 225-40.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチを効率よく検出する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来知られているように、ミスマッチ結合タンパク質を固定化や標識化することで、ミスマッチ部分に結合したミスマッチ結合タンパク質を測定するのでなく、対照核酸と標的核酸をハイブリダイズさせて二本鎖核酸を形成させ、ミスマッチ結合タンパク質を該二本鎖核酸に接触させてミスマッチ部分に結合させ、さらに電気化学的活性を有する核酸インターカレーターを該二本鎖核酸に接触させて、その後二本鎖核酸に該核酸インターカレーターの量を測定することにより、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチの有無が判定できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は下記構成よりなる。
<1>以下の工程を含む、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチを検出する方法。
(a)対照核酸と標的核酸とをハイブリダイズさせて二本鎖核酸を形成させる工程
(b)ミスマッチ結合タンパク質を二本鎖核酸に接触させて、ミスマッチ部分に結合させる工程
(c)電気化学的活性を有する核酸インターカレーターを二本鎖核酸に接触させる工程
(d)二本鎖核酸に挿入された該核酸インターカレーターを検出する工程
(e)該核酸インターカレーターの二本鎖核酸への挿入量を比較することにより、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチの有無を判定する工程
【0009】
<2>1)遺伝子中の所定の塩基配列部分に相補的な相補性塩基配列部分を有する一群のオリゴヌクレオチドからなる相補性プローブ、および2)該相補性塩基配列部分のうちの1つ以上の塩基が、当該塩基配列以外の基に置換されている部分相補性塩基配列部分を有するオリゴヌクレオチドからなる部分相補性プローブの少なくともいずれかを、試料遺伝子から得られた試料DNA断片と接触させ、次いで該試料DNA断片と相補性プローブまたは部分相補性プローブとのハイブリダイゼーションを介しての結合状態の検知を電気化学活性を有する核酸インターカレーターの存在下にて電気化学的に行う核酸配列検知方法において、ミスマッチ結合部分に結合するミスマッチ結合蛋白質を添加することを特徴とした検知方法。
【0010】
<3>ミスマッチ結合タンパク質がMutSである上記<1>または<2>に記載の方法。
<4>導電性基板からなる分析素子に、電気化学的活性を有する核酸インターカレーターの存在下にて、電位を印加することにより、該核酸インターカレーターと分析素子との間を流れる電流値を測定することを特徴とする上記<1>または<2>に記載の方法。
<5>相補性プローブと試料遺伝子から得られた試料DNA断片とのハイブリダイゼーション結合状態での該インターカレーターと分析素子との間を流れる電流値と、
部分相補性プローブと試料遺伝子から得られた試料DNA断片とのハイブリダイゼーション結合状態での該インターカレーターと分析素子との間を流れる電流値、とを比較することを特徴とする請求項2または4に記載の方法。
<6>標的核酸または試料遺伝子から得られた試料DNA断片がポリメラーゼ反応の生成物である上記<1>または<2>に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のミスマッチ結合蛋白のTaq-MutSを用いる電気化学的な核酸断片の検出によって、蛍光標識のような煩雑な操作を行うことなくSNPsの検出が簡単に行え、遺伝子分野等の研究で有効に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、ミスマッチ結合タンパク質を利用して、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチを検出する方法に関する。本発明の方法は、二本鎖核酸におけるミスマッチに対するミスマッチ結合タンパク質の認識能力および電気化学的活性を有する核酸インターカレーターの性質を利用する方法であり、ミスマッチ結合タンパク質の二本鎖核酸への結合による、二本鎖核酸へ挿入される該核酸インターカレーター量の変化を指標とする。
【0013】
従って、本発明の方法は、(a)対照核酸と標的核酸とをハイブリダイズさせて二本鎖核酸を形成させる工程、(b)ミスマッチ結合タンパク質を二本鎖核酸に接触させてミスマッチ部分に結合させる工程、(c)電気化学的活性を有する核酸インターカレーターを二本鎖核酸に接触させる工程、(d)二本鎖核酸に挿入された該核酸インターカレーターを検出する工程、(e)該核酸インターカレーターの二本鎖核酸への挿入量を比較することにより、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチの有無を判定する工程を含む。
【0014】
本発明の方法の原理を、以下に説明する。変異を有することが疑われる標的核酸と対照核酸(変異を有しない核酸)とを調製し、これらを互いにハイブリダイズさせる。この結果、標的核酸が変異を有すれば、対照核酸とのハイブリダイズによりヘテロ二本鎖核酸(ミスマッチを有する二本鎖核酸)が生じる。一方、標的核酸に変異がなければ、ホモ二本鎖核酸(ミスマッチを有しない二本鎖核酸)のみが生じ、ヘテロ二本鎖核酸は生じない。
【0015】
ハイブリダイズにより形成された二本鎖核酸に対し、ミスマッチ結合タンパク質を接触させた場合、ミスマッチ結合タンパク質はミスマッチを有するヘテロ二本鎖核酸には結合するが、ホモ二本鎖核酸には結合しない。ここで、二本鎖核酸を認識して挿入される電気化学的活性を有する核酸インターカレーターを二本鎖核酸に接触させると、該核酸インターカレーターはミスマッチ結合タンパク質の結合してないホモ二本鎖核酸には結合するが、ミスマッチ結合タンパク質の結合しているヘテロ二本鎖に挿入剤は挿入しない。
【0016】
したがって、二本鎖核酸に挿入された電気化学的活性を有する核酸インターカレーターを検出することにより、標的核酸が変異を有するか否かを判定できる。すなわち、ミスマッチ結合タンパク質の存在下において該核酸インターカレーターの二本鎖核酸への挿入量に有意な差が検出される場合、標的核酸中に変異が存在すると判定される。一方、ミスマッチ結合タンパク質の存在下において該核酸インターカレーターの二本鎖核酸への挿入量に有意な差が検出されなければ、標的核酸中に変異が存在しないと判定される。
【0017】
本発明において「ミスマッチ」とは、アデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、チミン(T)(RNAの場合はウラシル(U))から選択される一組の塩基対が正常な塩基対(A/TまたはG/C)ではないことを指す。本発明において「ミスマッチ」には、1つのミスマッチのみならず、複数の連続したミスマッチ、1または複数の塩基の挿入および/または欠失により生じるミスマッチ、ならびにそれらの組み合わせが含まれる。
【0018】
本発明において「変異」とは、対照核酸と比較した場合における標的核酸中の異なる塩基(二本鎖核酸の場合には塩基対)を指す。
【0019】
本発明において「核酸」とは、DNAおよびRNA、例えば、cDNA、ゲノムDNA、mRNA、合成ポリヌクレオチドを含む。また1本鎖核酸および二本鎖核酸、並びに直鎖状核酸および環状核酸を含む。
【0020】
本発明において「対照核酸」とは、変異を有しない核酸を指す。また、「標的核酸」とは、対照核酸とは異なる塩基(変異)を有することが疑われる核酸を指す。標的核酸は、変異を有しなければ対照核酸と同一の核酸であり、変異を有すれば、該変異部位のみ対照核酸と異なる核酸である。例えば、遺伝子病が疑われる患者の遺伝子における変異を検出する場合において変異を有することが疑われる患者の遺伝子は標的核酸であり、この遺伝子に対応する健常者の遺伝子は対照核酸である。
【0021】
本発明の方法に用いられる標的核酸としては、特に制限はなく、変異を有するか否かを検出したい所望の核酸を用いることができる。また、対照核酸は、標的核酸に対応する核酸であって、仮に標的核酸が変異を有しなければ、標的核酸と同一の核酸を用いる。この同一とは、両者がハイブリダイズする領域において同一の意味であり、長さに相違があってもよいが、可能であれば長さも揃えることが望ましい。標的核酸および対照核酸は、1本鎖であっても二本鎖であってもよいが、両者が1本鎖の場合には、仮に標的核酸が変異を有しなければ、互いに相補鎖である。
【0022】
本発明の方法においては、標的核酸と対照核酸をハイブリダイズさせる(但し、二本鎖である場合は、変性して一本鎖に解離させて、両者をハイブリダイズさせる)。これにより、二本鎖核酸を形成させる(二本鎖核酸は標的核酸に変異がある場合には、ヘテロ二本鎖核酸とホモ二本鎖核酸の混合物となり、標的核酸に変異がない場合には、ホモ二本鎖核酸のみとなる)。
【0023】
二本鎖核酸の変性方法としては、例えば、溶液のpHを酸性またはアルカリ性にする方法と、溶液を高温にする方法が挙げられる。pHを変化させる方法としは、例えば 0.1M NaOH、0.1M HCl溶液に置換する方法が挙げられる。また、温度を上げる方法は、核酸の融解温度(Tm)以上にすればよいが、通常、95℃程度が用いられる。
【0024】
二本の一本鎖核酸のハイブリダイズは、溶液のpHを中性に戻すこと、または温度を徐々に下げ Tm以下にすることにより容易に行うことができる。ハイブリダイズにより二本鎖核酸を形成させる過程で一本鎖核酸が残っていると予想される場合には、例えばカラムで1本鎖核酸を除去するか、または予め大腸菌SSBタンパク質などで1本鎖核酸をブロックすることが好ましい。
【0025】
本発明の方法は、単一のミスマッチ塩基対、複数の連続したミスマッチ、1塩基対複数塩基のミスマッチ、さらには二本鎖核酸の少なくとも片側の鎖における1または複数の塩基の欠失および/または挿入によって生じるミスマッチの検出に好適に適用することができる。
【0026】
本発明の方法に用いられるミスマッチ結合タンパク質は、二本鎖核酸におけるミスマッチを認識、結合するタンパク質であり、例えばMutS、MSH2、MSH6が好適に挙げられるが、二本鎖核酸中のミスマッチを認識しうる限りその由来に制限はない。また、二本鎖核酸中のミスマッチを認識しうる限り、これらタンパク質の部分ペプチドであってもよい。さらにまた、ミスマッチ結合タンパク質はグルタチオン-S-トランスフェラーゼ等、他のタンパク質との融合タンパク質等であってもよい。
【0027】
また、ミスマッチ結合タンパク質は、二本鎖核酸中のミスマッチを認識しうる限り、天然型のタンパク質のアミノ酸配列中、1つ若しくは複数のアミノ酸を置換、欠失、付加、および/または挿入したアミノ酸配列からなるタンパク質(変異体)であってもよい。このような変異体は、自然界において生じることもあるが、公知の方法を適宜利用して人為的に調製することも可能である。
【0028】
ミスマッチ結合タンパク質は、天然のタンパク質として、または組換えタンパク質として、陰イオン交換カラム、陽イオン交換カラム、ゲル濾過カラムクロマトグラフィー、硫酸アンモニウム分画等の公知の方法を適宜組み合わせて調製することが可能である。また、組換えタンパク質で発現量が多い場合には、陽イオン交換カラムおよびゲル濾過カラムを用いたクロマトグラフィーのみにより容易に調製することも可能である。
【0029】
本発明の方法における二本鎖核酸とミスマッチ結合タンパク質との接触は、該タンパク質が該二本鎖核酸中のミスマッチ領域に結合しうる条件(例えば、適当なpH、溶媒、イオン環境、温度)で行なわれる。反応温度や塩濃度、イオンの種類、バッファーのpH等の詳細な条件は適宜調整することができる。
【0030】
本発明に用いられる電気化学的活性を有する核酸インターカレーターは、二本鎖核酸を特異的に認識して挿入され電気化学活性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、フェロセン化合物、カテコールアミン化合物、金属ビピリジン錯体、金属フェナンスリン錯体、ビオローゲン化合物などが挙げられる。特に好ましくは、フェロセン修飾縫込み型インターカレーターである。
【0031】
本発明の方法において、対照核酸と標的核酸のハイブリダイズにより形成された二本鎖核酸を支持体に固定して使用し、ミスマッチ結合タンパク質と二本鎖核酸を接触させた後、核酸と結合しなかったミスマッチ結合タンパク質を除去し、該核酸インターカレーターを二本鎖核酸に接触させて二本鎖核酸に挿入された該核酸インターカレーターを検出する。
【0032】
より具体的には、特開2003−75402号公報に記載のように、導電性基板に、対照核酸、標的核酸、試料DNA断片または相補性プローブおよび部分相補性プローブの少なくともいずれかを固定した分析素子上で、該対照核酸、標的核酸、試料DNA断片、相補性プローブまたは部分相補性プローブに、それぞれ、標的核酸、対照核酸、相補性プローブおよび部分相補性プローブ試料のすくなくともいずれか、または試料DNA断片をハイブリダイゼーションさせ、ハイブリダイゼーションした2本鎖核酸にミスマッチ結合タンパク質を接触させてミスマッチ部分に結合させ、次いで、電気化学的活性を有する核酸インターカレーターを二本鎖核酸に接触させて二本鎖核酸に該核酸インターカレーターを挿入させたあと、該インターカレーターと分析素子との間を流れる電流値を測定する。
さらには、相補性プローブと試料遺伝子から得られた試料DNA断片とのハイブリダイゼーション結合状態での該インターカレーターと分析素子との間を流れる電流値と、部分相補性プローブと試料遺伝子から得られた試料DNA断片とのハイブリダイゼーション結合状態での該インターカレーターと分析素子との間を流れる電流値、とを比較することが好ましい。
【0033】
本発明の方法は、遺伝子病患者の罹病が疑われる患者において特定の遺伝子が変異を有するか否かを調べるため、患者由来の遺伝子と健常者の遺伝子が同一の塩基配列を有するか否かを調べることに利用することができる。本発明の方法においては、標的遺伝子のいかなる位置に変異が存在しても検出することが可能であり、検査対象となる遺伝子の変異部位や変異の種類が既知である必要はない点でも優れている。
【実施例】
【0034】
[製造例1]
N,N’-ビス(7-フェロセンカルボン酸アシド-4-メチル-4-アザヘプチル)ナフタレンジイミドの製造
(1) N-1-ベンジロキシカルボニル-1,7-ジアミノ-4-メチル-アザヘプタンの製造
ジ(3-アミノプロピル)-N-メチルアミン(73.0g,500ミリモル)をジクロロメタン(400mL)に溶解し、ここに、3-ベンジロキシカルボニル-1、3-チアゾリジン-2-チオン(Synthesis,1990,27)(12.8g、50ミリモル)のジクロロメタン(100mL)溶液を滴下し、室温にて3時間攪拌した。次いで、生成した沈殿を濾別し、濾液に酢酸エチルと水を加えて、酢酸エチルで二度抽出した。酢酸エチル層を水および飽和水溶液で洗浄後、1規定塩酸水溶液で二度抽出し、得られた水層を酢酸エチルで洗浄した。水層を冷却しながら、ここに、6規定水酸化ナトリウム水溶液を加えて、pHを9乃至10に調整し、酢酸エチルにて抽出した。酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥後、溶媒を留去し、標題化合物を黄色油状物として得た(9.4g、収率66%)。
【0035】
1H-NMR(300MHz、CDCl3)δ;
1.58〜1.72(4H,m)
2.20(3H,s)
2.35〜2.45(4H,m)
2.64(2H,t)
3.23〜3.32(2H,m)
5.15(2H,s)
7.22〜7.45(5H,m)
MS:FAB 280(M++1)(マトリックス:m-ニトロベンゼン)
【0036】
(2) N-1-ベンジロキシカルボニル-1-アミノ-7-フェロセンカルボン酸アシド-4-メチル-4-アザヘプタンの製造
上記1で得られたN-1-ベンジロキシカルボニル-1,7-ジアミノ-4-メチル-アザヘプタン(3.0g、11ミリモル)をジクロロメタン(30mL)に溶解し、ここに、フェロセンカルボン酸(2.5g、11ミリモル)、ピリジン(2mL)およびエチルN,N’-ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(2.3g、12ミリモル)を加え、室温で3時間攪拌した。反応溶液に、塩化アンモニウム水溶液を加え、酢酸エチルで二度抽出し、酢酸エチル層を飽和食塩水で洗浄後、溶媒を留去した。得られた褐色油状物をアルミナカラムクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール=20:1)に付し、得られた結晶をヘキサン-酢酸エチルの混合溶媒で洗浄し、標題化合物をオレンジ色の結晶として得た(3.3g、収率62%)。
【0037】
1H-NMR(300MHz、CDCl3)δ;
1.62〜1.90(4H,m)
2.27(3H,s)
2.40〜2.62(4H,m)
3.25〜3.39(2H,m)
3.39〜3.58(2H,m)
4.22(5H,s)
4.31(2H,s)
4.69(2H,s)
5.14(2H,s)
5.60(1H,bs)
6.82(1H,bs)
7.27〜7.48(5H,m)
【0038】
(3) 1-アミノ-7-フェロセンカルボン酸アシド-4-メチル-4-アザヘプタンの製造
上記(2)で得られたN-1-ベンジロキシカルボニル-1-アミノ-7-フェロセンカルボン酸アシド-4-メチル-4-アザヘプタン(1.5g、3.0ミリモル)をアセトニトリル(30mL)に溶解し、室温で攪拌しながら、ここに、ヨウ化トリメチルシラン(1.25mL、8.8ミリモル)を滴下した。5分後に、反応溶液に1規定塩酸水溶液と酢酸エチルとを加え、1規定塩酸水溶液にて三度抽出し、水層を酢酸エチルで洗浄した。氷冷した水層に、2規定水酸化カリウム水溶液を加えてpH10とし、クロロホルムにて二度抽出した。有機層を飽和食塩水にて洗浄後、溶媒を留去し、標題化合物を褐色結晶として得た(1.0g、収率93%)。
【0039】
1H-NMR(300MHz、CDCl3)δ;
1.57〜1.87(4H,m)
2.33(3H,s)
2.41〜2.60(4H.m)
2.86(2H,t)
3.40〜3.53(2H,m)
4.24(5H,s)
4.37(2H,s)
4.70(2H,s)
【0040】
(4) N,N’-ビス(7-フェロセンカルボン酸アシド-4-メチル-4-アザヘプチル)ナフタレンジイミドの製造
上記(3)で得られた1-アミノ-7-フェロセンカルボン酸アシド-4-メチル-4-アザヘプタン(0.9g、2.5ミリモル)をテトラヒドロフラン(50mL)に溶解し、室温で攪拌しながらここに、1,4,5,8-四カルボン酸ナフタレン二無水物(0.3g、1.1ミリモル)を加えて7時間還流した。反応溶液を濾過した後、クロロホルムにて洗浄し、合わせた有機層から溶媒を留去して得られた残渣をアルミナクロマトグラフィー(溶出溶媒;クロロホルム:メタノール=1:5:1)に付し、得られた結晶を酢酸エチルで洗浄し、標題化合物を褐色結晶として得た(0.66g、収率62%)。
【0041】
1H-NMR(300MHz、CDCl3)δ;
1.70〜1.85(8H,m)
1.93〜2.09(4H,m)
2.35(6H,s)
2.51〜2.66(8H,m)
3.45〜3.56(4H,m)
4.19(10H,s)
4.32(4H,s)
4.70(4H,s)
7.19(2H,bs)
8.79(4H,s)
MS:FAB 947(M+H) (マトリックス:m-ニトロベンゼン)
【0042】
[実施例1]
(1)電気化学分析素子の作製
面積が2.25mm2の金属金電極板に、5’末端にメルカプトヘキシル基を有する100ピコモル/1μLのチミンの15量体(dT15)の水溶液(2μL)を滴下し、室温で一時間放置して電気化学分析素子を作製した。尚、dT15の調整、および固定化については、特開平9-288080号公報の記載の方法に従って行った。
(2)試料DNAの断片調製
試料DNA断片として、アデニンの15量体(dA15)を上記公報に記載の方法に従って調整した。
【0043】
(3)ハイブリットDNAの検出
上記(1)で作製した電気化学分析素子上に、上記(2)で得たdA15(70ピコモル)を含む10mMトリス緩衝液(pH7.5)溶液の2μLを滴下し、25℃で20分インキュベートした。インキュベート後、分析素子表面を0.1Mリン酸二水素ナトリウム-リン酸水素二ナトリウム水溶液(pH7.0)にて洗浄し、未反応のdA15を除去した。次いで、製造例1で得られた化合物〔N,N’-ビス(7-フェロセンカルボン酸アシド-4-メチル-4-アザヘプチル)ナフタレンジイミド;電気化学的活性を有する核酸インターカレーター〕 (50μM)を含む0.1M塩化カリウム-0.1M酢酸緩衝液(pH5.6)の混合溶液中に、洗浄後の分析素子を浸積し、デファレンシャルパルスボルタンメトリー(DPV)を、パルス振幅50mV、パルス幅50ms、印加電圧100乃至700mVの範囲およびスキャン速度100mV/秒の条件にて測定した。応答電位460mVにおける電流量を求めた。また、試料DNA断片dA15を滴下しない以外は上記と同様の操作を行って得られた電流量を基本値とし、上記測定によって得られた電流量の基本値からの変化量(%)を求めたところ、42%であった。
【0044】
[実施例2](ミスマッチ構造のハイブリットDNAの検出)
(1)電気化学分析素子の作製
dT14G1を用いる以外は、実施例1の(1)と同様にして、電気化学分析素子を作製した。
(2)ミスマッチ構造のハイブリッドDNAの検出
電気化学分析素子として、実施例1の(1)で作製した電気化学分析素子、ミスマッチ結合蛋白質としてTaq-MutS 1μg、および上記(1)の分析素子をそれぞれ用いる以外は実施例1と同様の操作を行って、印加電圧400乃至700mVの範囲でDPVを測定し、460mVでの電流量の変化率を求めたところ、11%であった。
【0045】
[比較例2]
Taq-MutS 1μgを用いない以外は、実施例2と同様の操作、測定をおこなって電流量の変化率を求めたところ、36%であった。
実施例1、実施例2および比較例2よりdT14G1を固定して作製された電気化学分析素子に、試料DNA断片dA15を接触させて得られるハイブリッドDNAは、ミスマッチ構造のハイブリッドDNAであり、ミスマッチ結合蛋白のTaq-MutSを用いることにより、フルマッチ構造のハイブリッドDNAとミスマッチ構造のハイブリッドDNAとの応答電流の差を求めることができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチを検出する方法。
(a)対照核酸と標的核酸とをハイブリダイズさせて二本鎖核酸を形成させる工程
(b)二本鎖核酸にミスマッチ結合タンパク質を接触させて、ミスマッチ部分に結合させる工程
(c)電気化学的活性を有する核酸インターカレーターを二本鎖核酸に接触させる工程
(d)二本鎖核酸に挿入された該核酸インターカレーターを検出する工程
(e)該核酸インターカレーターの二本鎖核酸への挿入量を比較することにより、対照核酸と標的核酸との間のミスマッチの有無を判定する工程
【請求項2】
1)遺伝子中の所定の塩基配列部分に相補的な相補性塩基配列部分を有する一群のオリゴヌクレオチドからなる相補性プローブ、および2)該相補性塩基配列部分のうちの1つ以上の塩基が、当該塩基配列以外の基に置換されている部分相補性塩基配列部分を有するオリゴヌクレオチドからなる部分相補性プローブの少なくともいずれかを、試料遺伝子から得られた試料DNA断片と接触させ、次いで該試料DNA断片と相補性プローブまたは部分相補性プローブとのハイブリダイゼーションを介しての結合状態の検知を電気化学活性を有する核酸インターカレーターの存在下にて電気化学的に行う核酸配列検知方法において、ミスマッチ結合部分に結合するミスマッチ結合蛋白質を添加することを特徴とした検知方法。
【請求項3】
ミスマッチ結合タンパク質がMutSである請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
導電性基板にからなる分析素子に、電気化学的活性を有する核酸インターカレーターの存在下にて、電位を印加することにより、該インターカレーターと分析素子との間を流れる電流値を測定することを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
相補性プローブと試料遺伝子から得られた試料DNA断片とのハイブリダイゼーション結合状態での該インターカレーターと分析素子との間を流れる電流値と、
部分相補性プローブと試料遺伝子から得られた試料DNA断片とのハイブリダイゼーション結合状態での該インターカレーターと分析素子との間を流れる電流値、とを比較することを特徴とする請求項2または4に記載の方法。
【請求項6】
標的核酸または試料遺伝子から得られた試料DNA断片がポリメラーゼ反応の生成物である請求項1または2に記載の方法。

【公開番号】特開2007−295847(P2007−295847A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−126791(P2006−126791)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】