説明

Si−O−Si結合を含む化合物の内部改質法、デバイス及びロボット用人工皮膚

【課題】Si−O−Si結合を含む化合物内部にシリカガラス層を位置選択的ならびに空間選択的に形成することにより、Si−O−Si結合を含む化合物を基礎とした新規のフレキシブル光導波路デバイス及びロボット用人工皮膚の作製法を確立する。
【解決手段】シリコーン1の所定箇所に対して第1のレーザ光2を集光レンズ3を介して集光照射する。次に、所望の箇所を改質するため、シリコーン1又は集光レンズ3を相対的に移動させながらシリコーン1の内部改質を行う。そして、集光照射された部分のみを光化学的に反応させてシリカガラス層4に改質している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料の改質法及びその改質法により作製されるデバイスに係り、特にSi−O−Si結合を含む化合物内部にシリカガラス(SiO 2)層の形成を位置選択的並びに空間選択的に行うことが可能なSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法、デバイス及びロボット用人工皮膚に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばオプトエレクトロニクス、フォトニクス、バイオ/メディカル或いは福祉工学分野において、屈折率の違いなどを利用して光信号を導く光導波路デバイスは必要不可欠である。そして、現在の光導波路デバイスは、ケイ素(Si)やシリカガラス(SiO 2)などリジッドな基体上に形成されることが多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の光導波路デバイスでは、リジッドな基体に形成されることが多いため、デバイスの軽量性、耐衝撃性、耐候性、フレキシブル性などの点を十分に満足することができず使用に制限があった。そのため、フレキシブル性を有する基体内部に対して導波路を位置選択的並びに空間選択的に形成することのできる新規のフレキシブル光導波路デバイス及びその製造法の確立が望まれていた。
【0004】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、フレキシブルなSi−O−Si結合を含む化合物内部にシリカガラス層を位置選択的並びに空間選択的に形成可能としたSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法、デバイス及びロボット用人工皮膚を提供することを目的とする。
【0005】
以下、本発明のその他の目的や新規の特徴については、後述の実施の形態において明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した目的を達成するために、請求項1記載のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法は、Si−O−Si結合を含む化合物の内部に波長190nm以下の第1のレーザー光を集光照射してシリカガラス層を形成することを特徴としている。
【0007】
また、請求項2記載のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法は、波長190nm以下の光を照射した状態で、当該光の波長以上の波長を有する第2のレーザ光を集光照射してシリカガラス層を形成することを特徴としている。
【0008】
また、請求項3記載のデバイスは、請求項1記載のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法により、Si−O−Si結合を含む化合物内部にシリカガラス層が形成されたことを特徴としている。
【0009】
また、請求項4記載のデバイスは、請求項2記載のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法により、Si−O−Si結合を含む化合物内部にシリカガラス層が形成されたことを特徴としている。
【0010】
また、請求項5記載のデバイスは、Si−O−Si結合を含む化合物の表面に、波長190nm以下のレーザー光を照射してシリカガラス層を形成した後、Si−O−Si結合を含む化合物で被覆することを特徴としている。
【0011】
また、請求項6記載のデバイスは、Si−O−Si結合を含む化合物の表面に、波長190nm以下の光を照射した状態で、当該光の波長以上の波長を有する第2のレーザ光を集光照射してシリカガラス層を形成した後、Si−O−Si結合を含む化合物で被覆することを特徴としている。
【0012】
また、請求項7記載のロボット用人工皮膚は、請求項3〜6の何れかに記載のデバイスに形成されたシリカガラス層を神経として機能させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Si−O−Si結合を含む化合物の内部に、所望の箇所にシリカガラス層を位置選択的並びに空間選択的に形成することにより、Si−O−Si結合を含む化合物を基礎とした新規フレキシブル光導波路デバイス及びロボット用人工皮膚の作製法を確立することができる。すなわち、オプトエレクトロニクス、フォトニクス、バイオ/ メディカルあるいは福祉工学分野でのデバイス作製の基盤技術として利用可能であるなど、多機能マイクロ/ ナノデバイス作製のための必要不可欠な技術となる。また本発明によって、これら分野にとどまらず、今後マイクロ・ナノマシーニング技術を利用して発展するデバイス作製の分野に多大に利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係るSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法、デバイス作製法及びロボット用人工皮膚を実施するための最良の形態について、添付する図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)〜(c)は本発明に係る第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法を説明するための説明図であり、図2(a)〜(c)は本発明に係る第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法を説明するための説明図であり、図3(a)〜(d)は本発明に係る第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法を説明するための説明図であり、図4(a)〜(d)は本発明に係る第4形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法を説明するための説明図である。
【0015】
まず、図1を参照しながら、本発明に係る第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法について説明する。第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法は、Si−O−Si結合を含む化合物としてシリコーン1を用い、このシリコーン1に照射するレーザ光として波長が190nm以下である第1のレーザ光2をシリコーン1の所定箇所に位置選択的並びに空間選択的に照射することでシリコーン1の内部改質を行ってシリカガラス層4を形成する方法である。
【0016】
具体的に説明すると、図1(a)に示すように、シリコーン1の所定箇所に対して第1のレーザ光2を集光レンズ3を介して集光照射する。次に、図1(b)に示すように、所望の箇所を改質するため、シリコーン1又は集光レンズ3を相対的に移動させながらシリコーン1の内部改質を行い、図1(c)に示すように集光照射された部分のみを光化学的に反応させてシリカガラス層4に改質している。
【0017】
次に、図2を参照しながら、本発明に係る第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法について説明する。第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法は、Si−O−Si結合を含む化合物としてシリコーン1を用い、このシリコーン1に対して波長が190nm以下の第1の光5(例えばランプ等の光のように、レーザ光よりも比較的弱い光を指す)を照射した状態で、第1の光5の波長以上の波長を有する第2のレーザ光6をシリコーン1の所定箇所に位置選択的並びに空間選択的に併用照射することでシリコーン1の内部改質を行ってシリカガラス層4を形成する方法である。
【0018】
この第2形態では、波長が190nm以下の第1の光5を照射した状態で波長が190nm以上の第2のレーザ光6を集光照射することで、第2のレーザー光6がシリコーン1の内部まで透過するため、第1形態よりもより深い部分でシリコーン1の内部改質を行うことができる。
【0019】
具体的に説明すると、図2(a)に示すように、シリコーン1の所定箇所に対して一様に第1の光5を照射した状態で第2のレーザ光6を集光レンズ3を介して集光照射する。次に、図2(b)に示すように、所望の箇所を改質するため、第1の光5及び第2のレーザ光6を照射したまま、シリコーン1又は集光レンズ3を相対的に移動させてシリコーン1の内部改質を行い、図2(c)に示すように集光照射された部分のみを光化学的に反応させてシリカガラス層4に改質している。
【0020】
なお、上記第1、第2形態におけるSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質方法では、不図示の移動手段によりシリコーン1又は集光レンズ3を精密に三次元的に微動可能とすることで、結果的にレーザー2が精密に三次元的に走査されるように制御されている。
【0021】
次に、図3を参照しながら、本発明に係る第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法について説明する。第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法は、Si−O−Si結合を含む化合物としてシリコーン1を用い、このシリコーン1の表面に対して波長が190nm以下の第1のレーザ光2を照射してシリカガラス層4を形成した後に、そのシリカガラス層4形成面にシリコーン1を被覆することで、結果的にシリコーン1の内部改質を行うことと同等の効果が得られる方法である。
【0022】
具体的に説明すると、図3(a)に示すように、シリコーン1の所定箇所に対して第1のレーザ光2を集光レンズ3を介して集光照射する。次に、図3(b)に示すように、所望の箇所を改質するため、シリコーン1又は集光レンズ3を相対的に移動させながらシリコーン1の表面に照射し、この集光照射された部分のみを光化学的に反応させて改質してシリカガラス層4を形成する。そして、図3(c)に示すように、シリコーン1をシリカガラス層4が形成された面に被覆することで、図3(d)に示すように、第1、第2形態と同様に、シリカガラス層4がシリコーン内部に形成された形状となる。
【0023】
次に、図4を参照しながら、本発明に係る第4形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法について説明する。第4形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法は、Si−O−Si結合を含む化合物としてシリコーン1を用い、このシリコーン1の表面に対して波長が190nm以下の第1の光5を照射した状態で、第1の光5の波長以上の波長を有する第2のレーザ光6を併用照射してシリカガラス層4を形成した後に、そのシリカガラス層4形成面にシリコーン1を被覆することで、結果的にシリコーン1の内部改質を行うことと同等の効果が得られる方法である。
【0024】
具体的に説明すると、図4(a)に示すように、シリコーン1の所定箇所に対して第1のレーザ光2を集光レンズ3を介して集光照射する。次に、図4(b)に示すように、所望の箇所を改質するため、シリコーン1又は集光レンズ3を相対的に移動させながらシリコーン1の表面に照射し、この集光照射された部分のみを光化学的に反応させて改質してシリカガラス層4を形成する。そして、図4(c)に示すように、シリコーン1をシリカガラス層4が形成された面に被覆することで、図4(d)に示すように、第1、第2形態と同様に、シリカガラス層4がシリコーン内部に形成された形状となる。
【0025】
なお、第3、第4形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法では、シリコーン1の表面にシリカガラス層4を形成した後に、そのシリカガラス層4形成面に新たなシリコーン1を被覆するが、例えば何も形成されていないSi−O−Si結合を含む化合物や、予めシリカガラス層4が形成されたSi−O−Si結合を含む化合物など、シリカガラス層4がSi−O−Si結合を含む化合物の内部に形成された状態となれば、Si−O−Si結合を含む化合物の種類や構成は特に限定されない。
【0026】
このように、上述した第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法によれば、波長が190nm以下のレーザー光をシリコーン1等のSi−O−Si結合を含む化合物の内部における所望の改質箇所に集光照射するだけで、位置選択的並びに空間選択的にシリカガラス層4を自在に形成することができる。
【0027】
また、第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法によれば、波長が190nm以下の第1の光5を一様に照射した状態で、それ以上の波長の第2のレーザ光6をシリコーン1等のSi−O−Si結合を含む化合物の内部における所望の改質箇所に集光照射するだけで、第1形態と同様に位置選択的並びに空間選択的にシリカガラス層4を自在に形成することができる。
【0028】
さらに、第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法によれば、波長が190nm以下の第1のレーザ光2をシリコーン1の表面にシリカガラス層4を形成した後に、そのシリカガラス層4形成面にシリコーン1を被覆する。これにより、第1、第2形態と同様に位置選択的並びに空間選択的にシリカガラス層4を形成することと同等の効果を奏することができる。
【0029】
また、第4形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法によれば、波長が190nm以下の第1の光5を照射した状態で、第1の光5の波長以上の波長を有する第2のレーザ光6をシリコーン1の表面に併用照射してシリカガラス層4を形成した後に、そのシリカガラス層4形成面にシリコーン1を被覆する、これにより、第1、第2形態と同様に位置選択的並びに空間選択的にシリカガラス層4を形成することと同等の効果を奏することができる。
【0030】
以下、各形態におけるSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法により作製したデバイスについて各実施例に基づき詳述する。なお、下記の各実施例は、本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変更することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0031】
〔実施例1〕
第1形態における実験概略構成として、第1のレーザー2を波長157nmのF2 レーザーを用いた。レーザー照射部分でのエネルギー密度は、約10mj/cm2 /pulse一定とした。また、パルス繰り返し周波数は10Hz一定とした。シリコーン1はゴム状のものを用い、その厚さは0.5mm及び2mmとし、実験は大気中で行った。
【0032】
〔実施例2〕
第2形態の実験概略構成において、第1の光5として、波長172nmのエキシマランプを、第2のレーザ光6として、波長790nm、パルス幅130fsのモードロックチタンサファイアレーザーを再生増幅したものを用いた。レーザー照射部分でのエネルギー密度は、約1mJ/cm2 /pulse一定とした。また、パルス繰り返し周波数は1kHz一定とした。シリコーン1はゴム状のものを用い、その厚さは0.5mm及び2mmとし、実験は大気中で行った。
【0033】
実施例1及び実施例2の何れの場合であっても、レーザー照射領域は炭素混入のないシリカガラス層4に改質されていることが、フーリエ変換赤外分光分析及びX線光電子分光分析により判明した。
【0034】
また、実施例1及び実施例2の何れも、形成したシリカガラス細線は、波長635nm及び1550nmの光を導波させることが判明した。波長1550nmでの光伝送損失は、1dB/cm以下であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によって作製されるデバイスは、従来困難とされてきたSi−O−Si結合を含む化合物内部へのシリカガラス層4の形成を、位置選択的並びに空間選択的に行うことが可能となるため、例えばロボット用人工皮膚の神経として機能させることも可能である。これにより、光子一つ一つに情報を乗せて伝送する量子暗号による情報伝達が可能となるため、人の神経と同様に秘匿性に優れた高性能なデバイスを作製することができる。
【0036】
また、これ以外にも、オプトエレクトロニクス、フォトニクス、バイオ/ メディカルあるいは福祉工学分野でのデバイス作製に適用可能になるなど、その用途は 電気、電子のみならずあらゆる分野で有用である。
【0037】
以上、本願発明における最良の形態について説明したが、この形態による記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、この形態に基づいて当業者等によりなされる他の形態、実施例及び運用技術等はすべて本発明の範疇に含まれることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】(a)〜(c) 本発明に係る第1形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法を説明するための説明図である。
【図2】(a)〜(c) 本発明に係る第2形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法を説明するための説明図である。
【図3】(a)〜(d) 本発明に係る第3形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法を説明するための説明図である。
【図4】(a)〜(d) 本発明に係る第4形態のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0039】
1 シリコーン
2 第1のレーザ光
3 集光レンズ
4 シリカガラス層
5 第1の光
6 第2のレーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si−O−Si結合を含む化合物の内部に波長190nm以下の第1のレーザー光を集光照射してシリカガラス層を形成することを特徴とするSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法。
【請求項2】
波長190nm以下の光を照射した状態で、当該光の波長以上の波長を有する第2のレーザ光を集光照射してシリカガラス層を形成することを特徴とするSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法。
【請求項3】
請求項1記載のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法により、Si−O−Si結合を含む化合物内部にシリカガラス層が形成されたことを特徴とするデバイス。
【請求項4】
請求項2記載のSi−O−Si結合を含む化合物の内部改質法により、Si−O−Si結合を含む化合物内部にシリカガラス層が形成されたことを特徴とするデバイス。
【請求項5】
Si−O−Si結合を含む化合物の表面に、波長190nm以下のレーザー光を照射してシリカガラス層を形成した後、Si−O−Si結合を含む化合物で被覆することを特徴とするデバイス。
【請求項6】
Si−O−Si結合を含む化合物の表面に、波長190nm以下の光を照射した状態で、当該光の波長以上の波長を有する第2のレーザ光を集光照射してシリカガラス層を形成した後、Si−O−Si結合を含む化合物で被覆することを特徴とするデバイス。
【請求項7】
請求項3〜6の何れかに記載のデバイスに形成されたシリカガラス層を神経として機能させることを特徴とするロボット用人工皮膚。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−24132(P2009−24132A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191030(P2007−191030)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(390014306)防衛省技術研究本部長 (169)
【Fターム(参考)】