説明

Tヘルパーエピトープおよび細胞傷害性Tリンパ球(CTL)エピトープを含む新規な免疫原性リポペプチド

本発明は、Tヘルパー及びCTLエピトープを含む合成免疫原性リポペプチド分子、それらの製造方法、一次及び二次免疫応答の発生における使用、並びに特定のCTLエピトープに対する動物被験体のワクチン接種のための使用を提供する。より具体的には、本発明は、脂質部分が内部リジン又はリジン類似体の末端側鎖基(好ましくは内部ジアミノ酸残基の末端側鎖基)に結合している、高度に可溶性のリポペプチドを提供する。好ましくは、内部リジン又はリジン類似体は、TヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に免疫学の分野に関し、より詳細には、ペプチド免疫原に対して細胞性応答を発生させる試薬、ならびに被験体の免疫応答を高める前記試薬の使用方法、あるいは被験体のワクチン接種のための前記試薬の使用方法に関する。さらにより詳細には、本発明は、免疫原性活性が増強された新規リポペプチド、特に、CD8+T細胞エピトープに対するT細胞応答を活性化して、侵襲性病原体または腫瘍細胞に対する細胞媒介性免疫を誘導する能力が増強されたリポペプチドに関する。本発明はまた、薬学的に許容される担体または賦形剤と組み合わせた前記リポペプチドを含む製剤およびワクチン組成物、ならびに本発明の製剤およびワクチン組成物の製造および使用の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1.概記
本明細書は、要約書の後ろに、PatentIn Version 3.1を使用して作成されたアミノ酸配列情報を含む。各配列は、配列表中で数値標識とそれに続く配列識別子(例えば、<210>1、<210>2など)によって区別されている。各配列の長さおよび供給源生物は、それぞれ数値標識フィールド<211>および<213>中に提供される情報によって示される。本明細書中で参照する配列は、「配列番号」とそれに続く配列識別子によって定義される(例えば、配列番号1は、<400>1と命名された配列である)。
【0003】
本明細書で使用する「由来する」という用語は、指定された完全体(integer)を特定の供給源から、必ずしもその供給源から直接に得なくても、得ることができることを示すものと解釈すべきである。
【0004】
本明細書を通して、特別な場合を除いて、「含む(comprise)」、または「含む(comprises)」、「含むこと(comprising)」などの変形形態は、規定されたステップまたは構成要素または整数、あるいはステップまたは構成要素または整数のグループを含むことを意味するが、他のステップまたは構成要素または整数、あるいは構成要素または整数のグループを排除するものではないことを理解されたい。
【0005】
本明細書に記載する本発明は、具体的に記載されたもの以外の変更形態および改変形態が可能であることを当業者であれば理解しうる。本発明は、このような変更形態および改変形態のすべてを含むと理解すべきである。本発明は、本明細書中で参照するまたは示すステップ、特徴、組成物および化合物のすべてを個々にまたは包括的に含み、前記ステップまたは特徴のあらゆる組合せまたは任意の2つ以上も含む。
【0006】
本発明は、本明細書に記載する具体例によって範囲が限定されるべきではない。機能的に等価な生成物、組成物および方法が、本明細書に記載する本発明の範囲内にあるのは明らかである。
【0007】
本願に引用するすべての参考文献を参照により本明細書に援用する。
【0008】
本発明は、特に示さない限り、分子生物学、微生物学、ウイルス学、組換えDNA技術、溶液中でのペプチド合成、固相ペプチド合成および免疫学の従来技術を使用して、過度の実験を行うことなく実施される。このような手順は、例えば、参照により本明細書に援用する以下のテキストに記載されている。
【0009】

【0010】
関連技術の記載
免疫療法またはワクチン接種は、多様な障害、例えば、ある種の感染症、癌などの予防または治療に有用である。しかし、このような治療の適用および成功は、標的CTLエピトープの免疫原性が低いためにある程度制限を受ける。T細胞免疫原を提示する合成ペプチドは、単離して送達した場合に弱い免疫しか誘発せず、その結果ワクチン組成物において有効ではない。CTLエピトープを含む全長タンパク質はMHCクラスIプロセシング経路に効率的に侵入することはない。さらに、CTLエピトープは、HLAが厳密であり、ヒト集団における広範囲のHLA多型は、CTLに基づくワクチンが集団内の全ての遺伝子型を広くカバーするものではないことを意味している。
【0011】
ペプチド免疫原に対する被験体の免疫応答を高めるためにいくつかの技術が使用されている。
【0012】
例えば完全フロイントアジュバント(CFA)などのペプチド免疫原に対して外来的なアジュバント製剤を利用して、ペプチド免疫原に対する被験体の免疫応答を高めることが知られている(すなわち、使用前に免疫原と混合される)。しかし、現在利用可能なアジュバントの多くは、ヒトに使用するには毒性が強すぎるか、単に無効である。さらに、このタイプのアジュバントは、投与直前にペプチド免疫原と予め製剤化することを必要とする。このような製剤は、可溶性が低く、または不溶性であることが多い。
【0013】
アジュバントとして作用することが知られている脂質部分がペプチド免疫原に共有結合しているリポペプチドは、外来的なアジュバントの不在下で、さもなければ免疫原性の低いペプチドの免疫原性を高めることができる[Jung et al.、Angew Chem、Int Ed Engl 10、872、(1985);Martinon et al.、J Immunol 149、3416、(1992);Toyokuni et al.、J Am Chem Soc 116、395、(1994);Deprez、et al.、J Med Chem 38、459、(1995);およびSauzet et al.、Vaccine 13、1339、(1995);Benmohamed et al.、Eur.J.Immunol.27、1242、(1997);Wiesmuller et al.、Vaccine 7、29、(1989);Nardin et al.、Vaccine 16、590、(1998);Benmohamed、et al.Vaccine 18、2843、(2000);およびObert、et al.、Vaccine 16、161、(1998)]。適切なリポペプチドは、アジュバント製剤に伴う有害な副作用を示さず、リポペプチドに対して抗体と細胞の両方の応答が認められる。
【0014】
脂質部分に使用される様々な脂肪酸がいくつか知られている。代表的な脂肪酸としては、これらだけに限定されないが、パルミトイル基、ミリストイル基、ステアロイル基およびデカノイル基が挙げられ、より一般的には、あらゆるC〜C30飽和、一不飽和または多価不飽和の脂肪アシル基が有用と考えられる。
【0015】
リポアミノ酸のN−パルミトイル−S−[2,3−ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインは、PamCysまたはPamCys−OHとしても知られ(Wiesmuller et al.、Z.Physiol.Chem.364(1983)、p593)、グラム陰性菌の内膜から外膜に及ぶブラウンのリポタンパク質のN末端部分の合成品である。PamCysは、式(I)の構造を有する:
【化1】

【0016】
Metzgerらの米国特許第5,700,910号(1997年12月23日)は、合成アジュバント、Bリンパ球刺激薬、マクロファージ刺激薬または合成ワクチンとして使用されるリポペプチドの調製において中間体として使用されるいくつかのN−アシル−S−(2−ヒドロキシアルキル)システインを記載している。Metzgerらは、PamCys−OHの合成におけるこのような化合物の中間体としての使用(Wiesmuller et al.、Z.Physiol.Chem.364、p593、1983)、およびN末端にこのリポアミノ酸またはその類似体を含むリポペプチドの使用も教示している。リポペプチドは、その合成過程においてリポアミノ酸部分をペプチド部分にカップリングさせることにより調製される。
【0017】
PamCysは、CTLエピトープペプチドに結合すると、インフルエンザウイルス感染細胞に対してウイルス特異的細胞傷害性リンパ球(CTL)応答を刺激することができ(Deres et al.、Nature 342、561、1989)、適当な合成B細胞エピトープのN末端に結合すると口蹄疫に対する感染防御抗体を誘発すること(Wiesmuller et al.、Vaccine 7、29、1989;Jung et al.の米国特許第6,024,964号、2000年2月15日)が示されている。
【0018】
最近、PamCysの類似体であるPamCys(ジパルミトイル−S−グリセリル−システインまたはS−[2,3−ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインとしても知られる)が合成され(Metzger,J.W.、A.G.Beck-Sickinger、M.Loleit、M.Eckert、W.G.Besser、and G.Jung.1995.J Pept Sci 1:184)、マイコプラズマから単離されたマクロファージ活性化リポペプチドMALP−2の脂質部分に相当することが判明した(Sacht,G.、A.Marten、U.Deiters、R.Sussmuth、G.Jung、E.Wingender、and P.F.Muhlradt.1998.Eur J Immunol 28:4207:Muhlradt,P.F.、M.Kiess、H.Meyer、R.Sussmuth、and G.Jung.1998.Infect Immun 66:4804:Muhiradt,P.F.、M.Kiess、H.Meyer、R.Sussmuth、and G.Jung.1997.J Exp Med 185:1951)。PamCysは式(II)の構造を有する:
【化2】

【0019】
PamCysは、PamCysよりも強力な脾細胞およびマクロファージの刺激物質であると報告されている(Metzger et al.、J Pept.Sci 1、184、1995;Muhlradt et al.、J Exp Med 185、1951、1997;およびMuhlradt et al.、Infact Immun 66、4804、1998)。
【0020】
所与のCTLエピトープに対して強力なCD8+T細胞応答を発生させるためには、強いTヘルパー細胞応答を発生させる必要がある。CD4Tヘルパー細胞は、十分なサイトカイン(例えばIL−2など)を分泌し、それによりCD8T細胞の増殖を促進するか、あるいは抗原提示細胞(APC)と相互作用して、それによりCD8T細胞の活性化にさらに高い効力を有するようにすることによって、細胞媒介性免疫(CMI)において機能する。したがって、CTLエピトープを少なくとも1個のTヘルパー細胞エピトープとともに投与することが望ましい(Vitiello et al.、J.Clin.Invest 95、341〜349、1995;Livingston et al.、J.Immunol.159、1383〜1392、1997)。これらのエピトープは、APCの表面上のMHCクラスII分子に関連して、Tヘルパー細胞により認識される。
【0021】
CTLエピトープまたは単離されたエピトープを、一定範囲のTヘルパーエピトープを有する大きなタンパク質と組み合わせて投与し、個体の集団内でクラスII対立遺伝子の多様性を適合させることができる。あるいは、乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープ含有ペプチドをCTLエピトープ(1種または複数)とともに投与する。乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープ含有ペプチドは、圧倒的多数がMHCクラスIIハプロタイプとして提示されるので、非近交系ヒト集団の大多数において強いCD4 Tヘルパー応答を誘発する。乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープの例は、破傷風トキソイドペプチド、プラスモディウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)pfg27、乳酸デヒドロゲナーゼおよびHIVgp120である(Contreas et al.、Infect.Immun、66、3579〜3590、1998;Gaudebout et al.、J.A.I.D.S.Human Retrovirol 14、91〜101、1997;Kaumaya et al.、J.Mol.Recog.6、81〜94、1993;およびFern and Good J.Immunol.148、907〜913、1992)。また、Ghosh et al.、Immunol 104、58〜66、2001および国際特許出願第PCT/AU00/00070号(WO 00/46390)は、イヌジステンパーウイルス(CDV−F)融合タンパク質に由来する乱交雑Tヘルパーエピトープを記載している。ある種の乱交雑Tヘルパーエピトープは、所与のCTLエピトープに対する強いCTL応答を誘発し、ある種のハプロタイプに限定された免疫応答を回避することができる(Kaumaya et al.、J.Mol.Recog.6、81〜94、1993)。
【0022】
ワクチン製剤は、常に、Tヘルパー細胞エピトープおよびCTLエピトープを含むポリペプチドの混合物を含むが、TヘルパーエピトープとCTLエピトープの両方を含む単一ポリペプチドを投与することも知られている。
【発明の開示】
【0023】
本発明に至る研究において、本発明者らは、脂質部分と、免疫応答が望まれるTヘルパーエピトープとCTLエピトープの両方を含むポリペプチド部分とを有する高免疫原性リポペプチドの製造方法の改良を試みた。本発明者は、TヘルパーエピトープとCTLエピトープの両方を含む高免疫原性リポペプチドが、内部リジン残基または内部リジン類似体残基を有する前記エピトープを含む単一ポリペプチド分子を合成し、続いて、脂質部分を、以前に報告されているN末端結合とは対照的に、該内部リジン残基または内部リジン類似体残基の側鎖アミノ基に結合させて合成することにより作製しうることを示した。これにより、本発明のリポペプチドは、単一のアミノ酸鎖を用いて簡便に合成することができ、そのため上記両方のエピトープを組み込むための合成後の修飾を行う必要がない。
【0024】
1個もしくは複数のリジン残基または1個もしくは複数のリジン類似体残基をペプチド合成中にポリペプチド内の所定の位置に置くことによって、脂質の結合部位を容易に指定することができる。したがって、リポペプチド中の脂質部分の位置は、ワクチンまたはアジュバント製剤用最終産物の有用性を高めることを目標に決定しうる。
【0025】
本発明者らは、TヘルパーエピトープとCTLエピトープの各アミノ酸配列間に位置する内部リジン残基の側鎖ε−アミノ基または内部リジン類似体残基の末端側鎖基を介して脂質部分が結合すると、脂質がペプチドのN末端に結合した線状構造と比較して樹状細胞の成熟が増強されることを見出した。
【0026】
本発明のリポペプチドによって提供される1つの利点は、これらのリポペプチドを含むワクチン製剤中に外来的なアジュバントを含めることが一般に不要なほどに十分な免疫原性を有することである。
【0027】
本発明が、Tヘルパーエピトープのアミノ酸配列またはCTLエピトープのアミノ酸配列中に存在する内部リジン残基のε−アミノ基または内部リジン類似体残基の末端側鎖基を介した脂質部分の結合を包含することは明白であり、唯一の要件は脂質部分がペプチドのN末端にもC末端にも結合していないことである。「内部」とは、TヘルパーエピトープおよびCTLエピトープを含むポリペプチドのN末端またはC末端以外の位置を意味する。当業者には知られているとおり、商業ベースでワクチン製剤を製造するためには、CTLエピトープを含むワクチンの可溶性は極めて望ましい。
【0028】
脂質部分は、TヘルパーエピトープとCTLエピトープのアミノ酸配列間に位置するリジン残基のεアミノ基、またはリジン類似体残基の末端側鎖基を介して結合することが好ましい。
【0029】
場合によっては、TヘルパーエピトープとCTLエピトープの間の、例えばこれらの間に位置する内部リジンまたはリジン類似体のどちらか一方の側に、1または複数のアミノ酸スペーサーを付加してもよい。
【0030】
従来の任意のタイプのスペーサーを、脂質部分とポリペプチド部分の間に付加することもできる。本発明において特に好ましいスペーサーは、セリン二量体、三量体、四量体などである。本発明においては、別のスペーサー、例えばアルギニン二量体、三量体、四量体、または6−アミノヘキサン酸を使用することができる。
【0031】
本明細書に例示するように、本発明者は、脂質部分を合成ペプチド部分内の内部リジン残基の露出したεアミノ基に結合させることによって本発明のリポペプチドを製造した。場合により、脂質部分の付加の前に、露出したεアミノ基にスペーサーを付加してもよい。
【0032】
本明細書の記載から明らかなように、式(III)または(IV)のリポアミノ酸を、内部リジン残基のεアミノ基、または内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接付加することができる。以下からなる群より選択されるリポアミノ酸もまた有用である:(i)PamCys(ジパルミトイル−S−グリセリル−システインまたはS−[2,3−ビス(パルミトイルオキシ)プロピル]システインとしても知られる;(ii)SteCys(S−[2,3−ビス(ステアロイルオキシ)プロピル]システインまたはジステアロイル−S−グリセリル−システインとしても知られる)、LauCys(S−[2,3−ビス(ラウロイルオキシ)プロピル]システインまたはジラウロイル−S−グリセリル−システイン)としても知られる)、およびOctCys(S−[2,3−ビス(オクタノイルオキシ)プロピル]システインまたはジオクタノイル−S−グリセリル−システイン)としても知られる)。
【0033】
本明細書に例示するとおり、インフルエンザウイルスに対する本発明のリポペプチドは、それらの強力なCTL媒介型ウイルスクリアランス応答を誘発する能力に反映されるように、外部アジュバントの不在下でウイルス特異的なCTL応答を誘発し、肺へのCT8+T細胞遊走を誘導し、そして未成熟樹状細胞(DC)上のMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレートした。上記リポペプチドの投与後の樹状細胞の成熟の増強は、N末端に脂質が結合したリポペプチドと比較してTヘルパーエピトープの提示が増強していたことと一致している。
【0034】
当業者には明らかなように、TヘルパーおよびCTLエピトープの性質は、本発明においては重要でない。構築体のポリペプチド部内の1個または複数の内部リジン残基またはリジン類似体残基のεアミノ基に脂質部分を結合させる新規な手法は、広範な応用分野を有する。したがって、本明細書が提示する結果に基づいて、多様なTヘルパーエピトープおよびCTLエピトープをリポペプチド構築体に使用できることを理解されたい。
【0035】
図面の説明
図1は、本研究において使用したペプチドおよびリポペプチド構築体の一般構造を示す概略図である。ペプチド構造は、内部リジン残基(すなわち[Th]−Lys−[CTL])または内部リジンなし(すなわち[Th]−[CTL])で、並列した線形配列として構築されたCD4ヘルパーT細胞エピトープ[Th]およびCTL細胞エピトープ[CTL]から構成される。リポペプチドは、分子のほぼ中央における2つのエピトープの間に配置されたリジン残基Lysのεアミノ基を介して脂質部分が結合する分枝構造とした(すなわち、[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL];[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL];または[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL])。分枝構造の場合には、脂質に結合する中央に位置するリジン残基をイタリック体(Lys)で示す。場合によっては2つにセリン残基(Ser−Ser)をペプチドと脂質部分の間に付加してもよい。リポペプチドPalLysLys[Th]−[CTL]の場合には、2つのパルミチン酸残基をN末端リジン残基のαおよびεアミノ基に結合し、[Th]をアミノ酸配列中の末端から2番目のリジンのεアミノ基に結合した。[Th]−Lys(CholLys−Ser−Ser)−[CTL]の場合には、コレステロールの2つの残基をN末端リジン残基に結合した。
【0036】
図2は、図1に示した構造の脂質部分に結合したペプチド部分の一次アミノ酸配列を示す。これらのアミノ酸配列を含む非脂質付加ペプチドを以下のように称する:
(i)[Th]:配列番号1に示されるインフルエンザウイルス赤血球凝集素の軽鎖に由来するCD4Tヘルパーエピトープから構成される;
(ii)[CTL]:インフルエンザウイルスA/Puerto Rico/8/34株(PR8;H1N1)の核タンパク質のアミノ酸残基147〜155からなる主要抗原H−2制限CTLエピトープから構成される(配列番号2);
(iii)[Th]−[CTL]:(i)および(ii)を有するポリペプチドから構成される。組み合わされたペプチドの配列を配列番号3に示す;
(iv)[Th]−Lys−[CTL]:リジン残基(太字下線付の残基)により分離された(i)および(ii)を有するポリペプチドから構成される。組み合わされたペプチドの配列を配列番号4に示す;
(v)[P25]−Lys−[SIINFEKL]:リジン残基(太字下線付の残基)により分離された、P25と称するCDV−Fタンパク質由来のTヘルパーエピトープ(配列番号20)およびオボアルブミン由来のCTLエピトープ(配列番号173)から構成される。組み合わされたペプチドの配列を配列番号174に示す;
(vi)[P25]−Lys−[LLO91−99]:リジン残基(太字下線付の残基)により分離された、P25と称するCDV−Fタンパク質由来のTヘルパーエピトープ(配列番号20)およびリステリア・モノサイトゲネス由来のCTLエピトープ(配列番号172)から構成される。組み合わされたペプチドの配列を配列番号175に示す;
(vii)[P25]−Lys−[HCV]:リジン残基(太字下線付の残基)により分離された、P25と称するCDV−Fタンパク質由来のTヘルパーエピトープ(配列番号20)およびC型肝炎ウイルスのコアタンパク質由来のCTLエピトープ(配列番号176)から構成される。組み合わされたペプチドの配列を配列番号177に示す。
【0037】
これらのアミノ酸配列を含むリポペプチドを以下のように称する:
(i)[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]:ペプチド[Th]−Lys−[CTL](すなわち配列番号4)と、該ペプチドの内部リジン(太字下線付の残基)のεアミノ基にコンジュゲートされた式(III)の脂質から構成される;
(ii)[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]:ペプチド[Th]−Lys−[CTL](すなわち配列番号4)と、該ペプチドの内部リジン(太字下線付の残基)のεアミノ基にコンジュゲートされた式(IV)の脂質から構成される;
(iii)[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99]:ペプチド[P25]−Lys−[LLO91−99]と、該ペプチドの内部リジン(太字下線付の残基)のεアミノ基にコンジュゲートされた式(IV)の脂質から構成される;
(iv)[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL]:ペプチド[P25]−Lys−[SIINFEKL]と、該ペプチドの内部リジン(太字下線付の残基)のεアミノ基にコンジュゲートされた式(IV)の脂質から構成される;
(v)[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[HCV]:ペプチド[P25]−Lys−[HCV]と、該ペプチドの内部リジン(太字下線付の残基)のεアミノ基にコンジュゲートされた式(IV)の脂質から構成される。
【0038】
図3は、図1の説明に示したリポペプチドで初回免疫し、続いてインフルエンザウイルスを負荷(チャレンジ)したマウスのウイルス負荷の低減を示すグラフである。マウスに、9nmolのリポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]および[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](50μlのPBS中)(それぞれカラム2および3)、あるいは[Th]−Lys−[CTL]ペプチド(50μlのPBS中)(カラム1)、またはPBS単独(カラム4)を鼻腔内接種した。ペプチドとリポペプチドの名称は図2の説明のとおりである。免疫の9日後に、マウスをペントレンを用いて麻酔し、30,000プラーク形成単位のインフルエンザウイルスサブタイプH3N1(A/Memphis/1/71(Mem71)として知られる)を鼻腔内に負荷した。その5日後、マウスの肺を取り出して、MDCK細胞でのプラークアッセイにより感染ウイルスの存在についてアッセイした。各棒グラフは5匹のBALB/cマウスの群からのウイルス力価の幾何平均力価を表し、誤差棒は平均の標準偏差を表す。棒の上の数値は、PBS対照と比較した肺ウイルス力価の低減率(%)を示す。
【0039】
図4aは、図2の説明に記載したリポペプチドを投与した免疫マウスにおけるリポペプチドにより誘導されるウイルスクリアランスの増強を示すグラフである。マウスに、9nmolのリポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]および[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](50μlのPBS中)(それぞれカラム2および3)、あるいは[Th]−Lys−[CTL]ペプチド(50μlのPBS中)(カラム1)、またはPBS単独(カラム4)を接種した。免疫の28日後に、マウスに30,000プラーク形成単位のMem71を負荷した。ペプチドとリポペプチドの名称は図2の説明のとおりである。データは、負荷の5日後における肺ウイルス力価の低減率(%)として表す。データにより、負荷の5日後において、ペプチド単独(カラム1)またはPBS単独(カラム4)と比較して、リポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](カラム2)または[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](カラム3)で免疫したマウスの肺において感染ウイルスの低減の増強が示された。
【0040】
図4bは、図2の説明に記載したリポペプチドを投与した免疫マウスにおけるT細胞活性化の増強を示すグラフである。マウスに、9nmolのリポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]および[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](50μlのPBS中)(それぞれカラム2および3)、あるいは[Th]−Lys−[CTL]ペプチド(50μlのPBS中)(カラム1)、またはPBS単独(カラム4)を接種した。免疫したマウスを免疫の9日後に死滅させ、細気管支−肺胞洗浄(BAL)を実施した。37℃で1時間にわたりペトリ皿でBALサンプルをインキュベートすることにより接着細胞を取り出した。非接着細胞を取り出し、CD8およびCD4発現について染色した。細胞をフローサイトメトリーで分析した。リンパ球集団は、前方および側方スキャッタープロファイルに基づいて特定し、10,000個のリンパ球を分析した。データは,CD8+リンパ球であるBAL液中の非接着細胞の割合(%)として示す。データにより、負荷の5日後において、ペプチド単独(カラム1)またはPBS単独(カラム4)と比較して、リポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](カラム2)または[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](カラム3)で免疫したマウスからのBALサンプル中にはウイルス特異的CD8+T細胞の活性化が増強されたことが示された。ペプチドとリポペプチドの名称は図2の説明のとおりである。
【0041】
図4cは、図2の説明に記載したリポペプチドに対して応答した樹状細胞の成熟の増強を示すグラフである。BALB/c脾細胞由来の樹状細胞の系列(D1細胞)を0.45nmol/mLのペプチド[Th]−Lys−[CTL](カラム1)またはリポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](カラム2)もしくは[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](カラム3)、あるいは陰性対照として培地のみ(カラム4)または陽性対照としてリポ多糖(LPS、カラム5)と共に一晩インキュベートした。高レベルの表面MHCクラスII分子を発現する、すなわち成熟状態にあるD1細胞の割合(%)をフローサイトメトリーにより測定した。ペプチドとリポペプチドの名称は図2の説明のとおりである。データは、ペプチド単独または培地単独と比較して、ペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]または[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]に曝露した後の樹状細胞の表面上のMHCクラスII分子の発現の増大(すなわち、樹状細胞成熟の増強)を示す。
【0042】
図5は、それぞれ配列番号1に示すCD4Tヘルパーエピトープおよび配列番号2に示すH−2制限CTLエピトープを含む、X軸に示した合成免疫原を接種したマウスにおける肺ウイルスクリアランス応答の誘導を示すグラフである。5匹のマウスの群をPBS中9nmolの特定のリポペプチドで鼻腔内免疫した。初回投与後28日目に、マウスに104.5PFUのMem71インフルエンザウイルスを鼻腔内経路で負荷した。負荷の5日後に採取した肺ホモジネート中の感染ウイルス力価をMDCK単細胞層におけるプラーク形成により決定した。各丸は個々のマウスのウイルス力価を、線は群の幾何平均力価を表す。PBS対照群に対する平均ウイルス力価の低減率(%)は、データの各カラムの上に示す。
【0043】
図6は、ウイルス負荷中のリポペプチドでワクチン接種したマウスの肺へのCTL決定基特異的CD8T細胞の流入の促進を示すグラフである。リポペプチドは、配列番号1に示すCD4Tヘルパーエピトープおよび配列番号2に示すH−2制限CTLエピトープから構成された。3匹のマウスの群に9nmolの所定のリポペプチドを鼻腔内接種した。初回投与後28日目に、マウスに104.5PFUのMem71インフルエンザウイルスを鼻腔内経路で負荷した。CTL決定基特異的IFNγ分泌細胞を、負荷の5日後に細胞内サイトカイン産生アッセイによりマウスの肺において計数した。10,000個のCD8細胞を各試料について分析した。データは、マウスの各群についての平均および標準偏差を表す。
【0044】
図7は、ウイルス負荷後のリポペプチド接種したマウスの肺へのCTL決定基特異的CD8T細胞の流入の促進を示すグラフである。リポペプチドは、配列番号1に示すCD4Tヘルパーエピトープおよび配列番号2に示すH−2制限CTLエピトープから構成された。マウスにPBS中9nmolの所定のリポペプチドを鼻腔内接種した。接種後9日目に、マウスに104.5PFUのMem71インフルエンザウイルスを鼻腔内経路で負荷した。肺中のCTL決定基特異的CD8 T細胞を、感染の5日後に、肺由来のリンパ球を抗CD8抗体およびCTLエピトープを負荷した四量体MHCクラスI複合体で染色することによりマウスの肺において計数した。合計30,000個のCD8 T細胞を分析した。
【0045】
図8は、未処理マウスにおける細胞傷害性T細胞活性を示すグラフである。in vivoにおけるCTL決定基特異的細胞傷害性は、CTL決定基で刺激し、高強度CFSEで標識した同系脾細胞を用いて測定した。低強度CFSEで標識した非刺激脾細胞を対照として用いた。各標的細胞集団の15×10細胞の混合物を未処理マウスに感染の4日後に静脈内投与した。16時間後にマウスを死滅させ、フローサイトメトリーによりCFSE高およびCFSE低細胞集団の存在について脾臓を分析した。1×10個のリンパ球を各試料について分析した。
【0046】
図9は、リポペプチドを初回投与したマウスにおける細胞傷害性T細胞活性を示すグラフである。マウスに、配列番号1に示すCD4Tヘルパーエピトープおよび配列番号2に示すH−2制限CTLエピトープを含む[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]の9nmol(PBS中)を鼻腔内接種した。28日目にMem71をマウスに負荷した。in vivoにおけるCTL決定基特異的細胞傷害性は、CTL決定基で刺激し、高強度CFSEで標識した同系脾細胞を用いて測定した。低強度CFSEで標識した非刺激脾細胞を対照として用いた。各標的細胞集団の15×10細胞の混合物を、リポペプチドを初回投与したマウスおよび負荷したマウスに感染の4日後に静脈内投与した。16時間後にマウスを死滅させ、フローサイトメトリーによりCFSE高およびCFSE低細胞集団の存在について脾臓を分析した。1×10個のリンパ球を各試料について分析した。
【0047】
図10は、種々のペプチドに基づく免疫原のエピトープ特異的CTLを誘導する能力を示すグラフである。リポペプチドは、配列番号1に示すCD4Tヘルパーエピトープおよび配列番号2に示すH−2制限CTLエピトープから構成された。3匹のマウスの群にPBS中の種々のリポペプチドを鼻腔内接種し、28日目にMem71を負荷した。in vivoにおけるCTL決定基特異的細胞傷害性を分析するために、同系脾細胞をCTL決定基で刺激し、高強度CFSEで標識した。抗原特異的溶解は、低強度CFSEで標識した同系脾細胞を同時注射することにより調節した。16時間後にマウスを死滅させ、フローサイトメトリーによりCFSE高およびCFSE低細胞集団の存在について脾臓を分析した。合計1×10個のリンパ球を各試料について分析した。個々のマウスは黒四角で表し、棒は幾何平均力価を示す。
【0048】
図11は、リポペプチドによるインターフェロンγ産生細胞の誘導を示すグラフである。マウスの接種には、Tヘルパーエピトープおよびリステリア・モノサイトゲネスのCTLエピトープを含み、エピトープの間に配置された内部リジン残基のεアミノ基を介してPamCysに結合したペプチド(すなわち図2に例示され、配列番号175に基づくペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99])、またはPam2Cysを該リジンのεアミノ基を介して結合したこの構造に基づくリポペプチドを使用した。5匹のBALB/cマウスに、x軸に示すように、静脈内経路で細菌を接種、あるいは9nmolの脂質付加ペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99]もしくは9nmolの非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[LLO91−99](配列番号175、図2)のいずれか、またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)を皮下接種した。免疫動物から脾細胞を採取し、配列番号172に示す配列を有する単離CTLエピトープ(白抜き棒)または抗原なし(黒棒)でin vitroにて刺激し、存在する(IFNγ)産生細胞数をその28日後に測定した。縦座標は1,000,000脾細胞当たりのIFNγ産生細胞の数を示す。データは、リポペプチドで免疫したマウスについてIFNγ産生細胞数の増強を示し、これは、非脂質付加ペプチドと比較してリポペプチドのT細胞活性化能の増大を示す。
【0049】
図12は、図2に示す[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99]と称するリポペプチドで免疫したマウスについてのL・モノサイトゲネス感染に対する防御の増大を示すグラフである。5匹のBALB/cマウスに、x軸に示すように、1,000細菌を静脈内接種(カラム1)、またはPBSを皮下免疫(カラム2)、または9nmolの[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99]ペプチド(カラム3)、または9nmolの非脂質付加[P25]−Lys−[LLO91−99]ペプチド(配列番号175、カラム3)を皮下免疫した。マウスに全細菌を負荷し、肝臓に存在するコロニー形成単位の数を負荷の28日後に測定した(縦座標)。
【0050】
図13は、リポペプチドワクチン接種によるB16メラノーマに対する防御を示すグラフである。C57BL/6マウスの尾の基部に、20nmolの脂質付加ペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL](白丸)、非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[SIINFEKL](白三角)、またはPBS(白四角)を皮下経路でワクチン接種した。続いて、その14日後に、マウスの背中に2×10個のB16−OVA細胞(一群n=6)を皮下接種で負荷し、腫瘍増殖を記載のようにモニターした(Anraku, et al., J Virol. 76; 3791-3799, 2002)。
【0051】
図14は、リポペプチド免疫原によるルイス肺癌の治療処置を示すグラフであり、免疫後に腫瘍を有しない動物の割合(%)で表す。マウスに、オボアルブミンをトランスフェクトし、それゆえCTLエピトープSIINFEKLを発現する(Nelson et al., Immunol. 166:5557-5566, 2001)3×10のルイス肺癌細胞を注射した。癌細胞の投与の4日後、動物の尾の基部に20nmolの脂質付加ペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL](白丸)、非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[SIINFEKL](白三角)、またはPBS(白四角)を皮下経路でワクチン接種した。癌細胞の投与の11日後に、2回目の同量の免疫原を投与した。動物を腫瘍発生率についてモニターし、腫瘍面積が100mmを超える場合には動物を安楽死させた。
【0052】
図15は、リポペプチド免疫原によるルイス肺癌の治療処置を示すグラフであり、免疫後の動物の生存により判定した。マウスに、オボアルブミンをトランスフェクトし、それゆえCTLエピトープSIINFEKLを発現する(Nelson et al., Immunol. 166:5557-5566, 2001)3×10のルイス肺癌細胞を注射した。癌細胞の投与の4日後、動物の尾の基部に20nmolの脂質付加ペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL](白丸)、非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[SIINFEKL](白三角)、またはPBS(白四角)を皮下経路でワクチン接種した。癌細胞の投与の11日後に、2回目の同量の免疫原を投与した。動物を生存についてモニターし、腫瘍面積が100mmを超える場合には動物を安楽死させた。
【0053】
図16は、ペプチドおよびリポペプチドに基づく免疫原がヒト樹状細胞上のMHCクラスII、CD83およびCD86の発現をアップレギュレートする能力を示すグラフである。ヒト単球由来樹状細胞を、培地のみ、LPS(5μg/mL)、非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[HCV](5μg/mL)、またはリポペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[HCV](5μg/mL)と共に48時間インキュベートした後、FITC複合抗体でHLA−DR、CD83およびCD86について染色し、フローサイトメトリーにより分析した。ヒストグラムは、前方および側方スキャッタードットプロットにゲートした生存巨大顆粒細胞を表す。灰色で示すヒストグラムの領域と示す数値は、分析した集団内で高レベルの抗原を発現する細胞の割合に対応する。Tヘルパー細胞エピトープは、Mobillivirusから同定され、アミノ酸配列KLIPNASLIENCTKAEL(配列番号20)を有し、CTLエピトープはアミノ酸配列DLMGYIPLV(配列番号176)を有し、C型肝炎ウイルスのコアタンパク質由来のHLA A2制限CTLエピトープである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
リポペプチド
本発明の一態様は、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含む単離リポペプチドを提供する。ここで、
(i)前記ポリペプチドは、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびCTLエピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、ならびに
(b)内部リジンまたは内部リジン類似体のε−アミノ基または末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々が共有結合するための1個または複数の前記内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々は、前記1個または複数の内部リジン残基のε−アミノ基または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的または間接的に共有結合している。
【0055】
本明細書で使用する「リポペプチド」という用語は、直接的または間接的にコンジュゲートされた1個または複数の脂質部分と1個または複数のアミノ酸配列とを含む任意の非天然組成物を意味する。前記組成物は、非特異的なコンジュゲートされていない脂質またはタンパク質を実質的に含まない。
【0056】
「直接的に」とは、脂質部分とアミノ酸配列がリポペプチドにおいて並列していることを意味する。
【0057】
「間接的に」とは、脂質部分とアミノ酸配列が、1個または複数の炭素含有分子、例えば、1個または複数のアミノ酸残基などを含むスペーサーによって分離されていることを意味する。アミノ酸配列は、TヘルパーエピトープとCTLエピトープの両方の官能基の要件によって制約される任意の長さにすることができる。
【0058】
本明細書で使用する、「内部リジン残基」という用語は、TヘルパーエピトープとCTLエピトープの両方を含むポリペプチド中のリジン残基を意味し、前記リジンは前記ポリペプチドのN末端アミノ酸残基でもC末端残基でもない。従って、内部リジン残基は、それがポリペプチドの内部に存在するという条件で、TヘルパーエピトープまたはCTLエピトープのいずれかのC末端またはN末端残基であってもよい。これは、脂質部分が結合する内部リジン残基が、Tヘルパー細胞エピトープのアミノ酸配列、またはCTLエピトープのアミノ酸配列中に存在する残基であることを意味する。また内部リジン残基は、TヘルパーエピトープともCTLエピトープとも異なることができ、その場合には、内部リジン残基は、ポリペプチドのこれらの2個のエピトープを連結しなければならない。
【0059】
同様に、「内部リジン類似体残基」という用語は、TヘルパーエピトープとCTLエピトープの両方を含むポリペプチド中のリジン類似体残基を意味し、前記リジン類似体は前記ポリペプチドのN末端アミノ酸残基でもC末端残基でもない。リジン残基が「内部」であるかどうかを確認する判定基準は、リジン類似体が内部であるかどうかの判定を準用する。
【0060】
「リジン類似体」とは、アミノ側鎖を有するアミノ酸類似体または非天然アミノ酸を含めて、脂質部分が結合できる適切な側鎖を有するペプチドの内部に組み込むことができる合成化合物を意味する。好ましいリジン類似体としては、以下の一般式(V)の化合物などがある:
【化3】

【0061】
〔式中、nは0〜3の整数であり、Xは、NH、OおよびSからなる群から選択される、前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基である。より好ましくは、nは1〜3の整数である。より好ましくは、Xは、アミノ基である。特に好ましい実施形態においては、リジン類似体は、2,3ジアミノプロピオン酸(Dpr)、2,4−ジアミノ酪酸(Dab)および2,5−ジアミノ吉草酸[すなわち、オルニチン(Orn)]からなる群から選択される〕。
【0062】
当業者は、「ε−アミノ基」という用語の意味を知っているはずである。「末端側鎖基」という用語は、前記類似体のα炭素の遠位にあるリジン類似体の側鎖上の置換基、例えば、Dprのβ−アミノ、Dabのγ−アミノ、Ornのδ−アミノなどを意味する。
【0063】
好ましくは、脂質部分は、TヘルパーエピトープとCTLエピトープのアミノ酸配列の間に配置されたリジン残基のεアミノ基を介して、または内部リジン類似体残基の末端側鎖基に、結合する。
【0064】
T細胞応答を誘発する本発明のリポペプチドの増強された能力は、未成熟樹状細胞(DC)、特にD1細胞上のMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレートする能力、ならびに免疫動物の組織サンプル中のCD8T細胞数の増大によって示された。またウイルス病原体のCTLを用いて免疫した動物の場合、T細胞応答を誘発する本発明のリポペプチドの増強された能力は、動物の免疫後のウイルスクリアランスの増強によって示される。
【0065】
リポペプチドは、好ましくは可溶性であり、より好ましくは高度に可溶性である。
【0066】
当業者には公知のとおり、リジンのεアミノ基は、このアミノ酸の側鎖の末端アミノ基である。内部リジンまたは内部リジン類似体の末端側鎖基を脂質部分への架橋に使用すると、TヘルパーエピトープとCTLエピトープの両方を組み込んだ共直線アミノ酸配列としてのポリペプチド部分の合成が容易になる。脂質がリジン残基のεアミノ基、またはリジン類似体の末端側鎖基を介して結合したリポペプチドと、ペプチド中のリジンのαアミノ基を介して結合した脂質を有するリポペプチドとの構造上の違いは明白である。
【0067】
したがって、脂質部分が結合する少なくとも1個の内部リジン残基または内部リジン類似体は、免疫学的に機能するエピトープを分離するようにポリペプチド部分内に位置することが特に好ましい。例えば、内部リジン残基または内部リジン類似体残基は、各エピトープ間のスペーサーおよび/または連結残基として作用することができる。内部リジンまたは内部リジン類似体がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に位置する場合には、ポリペプチドのアミノ酸配列から分枝が形成されるにもかかわらず、脂質部分がこれらのエピトープ間の位置に結合することは言うまでもない。本明細書に例示するように、単一の内部リジン残基を使用してCTLエピトープとTヘルパーエピトープを分離することができる(例えば、配列番号4)。
【0068】
本発明は、CTLエピトープまたはTヘルパーエピトープとして機能しない第3のアミノ酸配列内に内部リジン残基または内部リジン類似体残基を入れ子のように配置することも明らかに包含する。例えば、内部リジンまたは内部リジン類似体は1または複数の異なるアミノ酸残基と結合しうる。
【0069】
内部リジンのεアミノ基、または内部リジン類似体の末端側鎖基は、他のアミノ酸のα−アミノ基および側鎖官能基を保護するために使用される化学基と直交性の化学基によって保護することができる。このようにして、内部リジンまたはリジン類似体のεアミノ基または末端側鎖基を選択的に露出させて、εアミノ基または側鎖アミノ基の特異的な脂質含有部分などの化学基を適宜結合させることができる。
【0070】
Fmoc化学を利用したペプチド合成の場合には、適切な直交性に保護されたリジンのε基は、修飾アミノ酸残基Fmoc−Lys(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nε−4−メチルトリチル−L−リジン)によって与えられる。類似の適切な直交性保護側鎖基、例えば、Fmoc−Orn(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nδ−4−メチルトリチル−L−オルニチン)、Fmoc−Dab(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nγ−4−メチルトリチル−L−ジアミノ酪酸)およびFmoc−Dpr(Mtt)−OH(Nα−Fmoc−Nβ−4−メチルトリチル−L−ジアミノプロピオン酸)が、本明細書で企図される様々なリジン類似体に利用可能である。側鎖保護基Mttは、リジンまたはリジン類似体のαアミノ基上に存在するFmoc基が除去される条件では安定であるが、トリフルオロ酢酸の1%ジクロロメタン溶液で選択的に除去することができる。Fmoc−Lys(Dde)−OH(Nα−Fmoc−Nε−1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロへキシ−1−イリデン)エチル−L−リジン)またはFmoc−Lys(ivDde)−OH(Nα−Fmoc−Nε−1−(4,4−ジメチル−2,6−ジオキソシクロへキシ−1−イリデン)−3−メチルブチル−L−リジン)も本発明において使用することができる。ここで、Dde側鎖保護基は、ペプチド合成中にヒドラジンで処理して選択的に除去される。
【0071】
Boc化学を利用したペプチド合成の場合には、Boc−Lys(Fmoc)−OHを使用することができる。側鎖保護基Fmocは、ピペリジンまたはDBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン)で処理して選択的に除去することができるが、トリフルオロ酢酸を用いてα末端からBoc基を除去するときには所定の位置に残留する。
【0072】
好ましくは、TヘルパーエピトープとCTLエピトープは、単一の内部リジン残基または内部リジン類似体残基を含めて、少なくとも1個、2個、3個、4個または5個のアミノ酸残基によって分離される。
【0073】
本発明は、ポリペプチド部分に対する複数の脂質部分の付加を明確に企図する。例えば、ポリペプチドは、複数の内部リジン残基および/または複数の内部リジン類似体を含むことができる。複数の内部リジンまたは複数のリジン類似体がより近くに位置する場合には、脂質を付加する際に立体障害が起こり、それによって最終生成物の混合物が製造され、または収率が低下する恐れがある。
【0074】
この考察に関連して、Tヘルパーエピトープを含むアミノ酸配列全体、またはCTLエピトープを含むアミノ酸配列全体が免疫機能を有する必要はない。したがって、前記アミノ酸配列は、前記エピトープを含みながら、Tヘルパー細胞活性またはCTLエピトープを含まない配列をさらに有することができる。このような追加の配列が1個または複数の内部リジンまたはリジン類似体残基を含む場合には、このような残基の末端側鎖基は、脂質部分の結合部位として働くことができる。Tヘルパー機能およびCTLエピトープ機能を保持することが必須であることは言うまでもない。
【0075】
脂質部分が結合する内部リジン残基または内部リジン類似体の位置も、脂質部分の結合が、リポペプチドを投与する被験体におけるTヘルパーエピトープまたはCTLエピトープの免疫機能を妨げないように選択すべきである。例えば、脂質部分の選択によっては、CTLエピトープ内の前記脂質の結合がCTLエピトープ提示の立体障害になり得る。
【0076】
内部リジンまたは内部リジン類似体がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に位置する本発明のリポペプチドの一般化された好ましい形態は、一般式(VI)によって示される:
【化4】

【0077】
〔式中、
エピトープは、TヘルパーエピトープまたはCTLエピトープであり、
Aは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のアミノ酸スペーサーからなり、
nは、1、2、3または4の整数であり、
Xは、NH、OおよびSからなる群から選択される末端側鎖基であり、好ましくはNHからなり、
Yは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のアミノ酸スペーサーからなり、該アミノ酸はセリンであることが好ましく、
Zは、脂質部分、好ましくはPamCysまたはPamCysである〕。
【0078】
Tヘルパーエピトープは、特定の標的被験体(すなわち、ヒト被験体、あるいは特定の非ヒト動物被験体、例えば、ラット、マウス、モルモット、イヌ、ウマ、ブタまたはヤギ)において免疫応答を高めるための当業者に公知の任意のTヘルパーエピトープである。好ましいTヘルパーエピトープは、少なくとも約10〜24アミノ酸長、より一般的には約15〜約20アミノ酸長である。
【0079】
乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープは、化学的に容易に合成され、複数のTヘルパーエピトープを含むより長いポリペプチドを使用する必要がないので特に好ましい。
【0080】
本発明のリポペプチドに使用するのに適した乱交雑または許容的Tヘルパーエピトープの例は、以下からなる群より選択される:
(1)破傷風トキソイドペプチド(TTP)のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ、例えば、TTPのアミノ酸830〜843など(Panina-Bordignon et al.、Eur.J.Immun.19、2237〜2242、1989)、
(2)プラスモディウム・ファルシパルムpfg27のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ、
(3)乳酸デヒドロゲナーゼのげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ、
(4)HIVまたはHIVgp120エンベロープタンパク質のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ(Berzofsky et al.、J.Clin.Invest.88、876〜884、1991)、
(5)既知のアンカータンパク質のアミノ酸配列から予測される合成ヒトTヘルパーエピトープ(PADRE)(Alexander et al、Immunity 1、751〜761、1994)、
(6)麻疹ウイルス融合タンパク質のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ(MV−F;Muller et al.、Mol.Immunol.32、37〜47、1995;Partidos et al.、J.Gen.Virol.、71、2099〜2105、1990)、
(7)イヌジステンパーウイルス融合タンパク質(CDV−F)の少なくとも約10個のアミノ酸残基、例えば、CDV−Fのアミノ酸位置148〜283からの残基を含むTヘルパーエピトープ(Ghosh et al.、Immunol.104、58〜66、2001;国際公開特許第00/46390号)、
(8)MUC1ムチンの細胞外直列型反復ドメインのペプチド配列に由来するヒトTヘルパーエピトープ(米国特許出願第0020018806号)、
(9)インフルエンザウイルス赤血球凝集素(IV−H)のげっ歯類またはヒトTヘルパーエピトープ(Jackson et al Virol.198、613〜623、1994、および
(10)口蹄疫ウイルス(FMDV−0カウフボイレン(Kaufbeuren)系統)のVP3タンパク質の残基173〜176、あるいは別の系統のFMDVの対応するアミノ酸を含むウシまたはラクダTヘルパーエピトープ。
【0081】
当業者には知られているとおり、Tヘルパーエピトープは、様々な種の1種類または複数の哺乳動物によって認識されうる。したがって、本明細書に記載のTヘルパーエピトープの名称は、エピトープが認識される種の免疫系に限定されると考えるべきではない。例えば、げっ歯類Tヘルパーエピトープは、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、または他のげっ歯類、あるいはヒトまたはイヌの免疫系によって認識される。
【0082】
より好ましくは、Tヘルパーエピトープは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含みうる:
(1)IV−H由来のALNNRFQIKGVELKS(配列番号1);
(2)IV−H由来のGALNNRFQIKGVELKS(配列番号14);
(3)MV−F由来のLSEIKGVIVHRLEGV(配列番号15);
(4)CDV−F由来のTAAQITAGIALHQSNLN(配列番号16);
(5)CDV−F由来のIGTDNVHYKIMTRPSHQ(配列番号17);
(6)CDV−F由来のYKIMTRPSHQYLVIKLI(配列番号18);
(7)CDV−F由来のSHQYLVIKLIPNASLIE(配列番号19);
(8)CDV−F由来のKLIPNASLIENCTKAEL(配列番号20);
(9)CDV−F由来のLIENCTKAELGEYEKLL(配列番号21);
(10)CDV−F由来のAELGEYEKLLNSVLEPI(配列番号22);
(11)CDV−F由来のKLLNSVLEPINQALTLM(配列番号23);
(12)CDV−F由来のEPINQALTLMTKNVKPL(配列番号24);
(13)CDV−F由来のTLMTKNVKPLQSLGSGR(配列番号25);
(14)CDV−F由来のKPLQSLGSGRRQRRFAG(配列番号26);
(15)CDV−F由来のSGRRQRRFAGVVLAGVA(配列番号27);
(16)CDV−F由来のFAGVVLAGVALGVATAA(配列番号28);
(17)CDV−F由来のGVALGVATAAQITAGIA(配列番号29);
(18)CDV−F由来のGIALHQSNLNAQAIQSL(配列番号30);
(19)CDV−F由来のNLNAQAIQSLRTSLEQS(配列番号31);
(20)CDV−F由来のQSLRTSLEQSNKAIEEI(配列番号32);
(21)CDV−F由来のEQSNKAIEEIREATQET(配列番号33);
(22)CDV−F由来のSSKTQTHTQQDRPPQPS(配列番号34);
(23)CDV−F由来のQPSTELEETRTSRARHS(配列番号35);
(24)CDV−F由来のRHSTTSAQRSTHYDPRT(配列番号36);
(25)CDV−F由来のPRTSDRPVSYTMNRTRS(配列番号37);
(26)CDV−F由来のTRSRKQTSHRLKNIPVH(配列番号38);
(27)CDV−F由来のTELLSIFGPSLRDPISA(配列番号39);
(28)CDV−F由来のPRYIATNGYLISNFDES(配列番号40);
(29)CDV−F由来のCIRGDTSSCARTLVSGT(配列番号41);
(30)CDV−F由来のDESSCVFVSESAICSQN(配列番号42);
(31)CDV−F由来のTSTIINQSPDKLLTFIA(配列番号43);
(32)CDV−F由来のSPDKLLTFIASDTCPLV(配列番号44);
(33)MUC−1由来のSTAPPAHGVTSAPDTRAPGSTAPP(配列番号45);
(34)MUC−1由来のGVTSAPDTRPAPGSTASSL(配列番号46);
(35)MUC−1由来のGVTSAPDTRPAPGSTASL(配列番号47);
(36)MUC−1由来のTAPPAHGVTSAPDTRPAPGSTAPPKKG(配列番号48);
(37)MUC−1由来のSTAPPAHGVTSAPDTRPAPGSTAPPK(配列番号49);
(38)FMDV−VP3タンパク質由来のGVAE(配列番号50);
(39)FMDV−VP3(残基170〜179)由来のTASGVAETTN(配列番号51);および
(40)FMDV由来のTAKSKKFPSYTATYQF(配列番号52)。
【0083】
本明細書に開示するTヘルパーエピトープは、単に例示のためにすぎない。当業者に公知の標準ペプチド合成技術を用いて、本明細書に言及するTヘルパーエピトープを異なるTヘルパーエピトープと容易に置換して、本発明のリポペプチドを異なる種での使用に適合させることができる。したがって、標的種において免疫応答を誘発または増大するのに有用であることが当業者に知られている別のTヘルパーエピトープを除外すべきではない。
【0084】
別のTヘルパーエピトープは、詳細な分析によって、適切な配列を特定するための成分タンパク質、タンパク質断片およびペプチドのインビトロでのT細胞刺激技術を用いて特定することができる(Goodman and Sercarz、Ann.Rev.Immunol.、1、465、(1983);Berzofsky、「The Year in Immunology、Vol.2」page 151、Karger、Basel、1986;およびLivingstone and Fathman、Ann.Rev.Immunol.、5、477、1987)。
【0085】
CTLエピトープは、好都合には、限定されるものではないが、哺乳動物被験体、または細菌、真菌、原生動物、または前記被験体に感染する寄生生物に由来するCTLエピトープを含むウイルス、原核生物または真核生物の免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質のアミノ酸配列に由来する。CTLエピトープのミモトープは本発明の範囲内に含まれる。
【0086】
CTLエピトープは、哺乳動物に投与すると、好ましくはそのエピトープまたはそのエピトープが由来する抗原に対して特異的なCD8T細胞を活性化することにより、より好ましくはそのエピトープが由来する病原体または腫瘍細胞に対する細胞性免疫を誘発することにより、T細胞応答を誘発することができる。
【0087】
ペプチド合成を容易にするために、より短いCTLエピトープが好ましい。CTLエピトープの長さは、約30アミノ酸長を超えないことが好ましい。より好ましくは、CTLエピトープ配列は、約25アミノ酸残基以下、より好ましくは20アミノ酸残基未満、さらにより好ましくは約8〜12アミノ酸残基長からなる。
【0088】
寄生生物に由来する好ましいCTLエピトープは、リーシュマニア、マラリア、トリパノソーマ症、バベシア症、または住血吸虫病に関連するCTLエピトープであり、例えば、以下からなる群より選択されるCTLエピトープである:プラスモディウム・ファルシパルム、サーカムスポロゾア(Circumsporozoa)、リーシュマニア・ドノヴァニ(leishmania donovani)、トキソプラズマ・ゴンヂ(Toxoplasma gondii)、シストソーマ・マンソニ(Schistosoma mansoni)、シストソーマ・ジャポニカム(Schistosoma japonicum)、シストソーマ・ヘマトビウム(Schistosoma hematobium)およびトリパノソーマ・ブルセイ(Trypanosoma brucei)。
【0089】
P.ファルシパルムの特に好ましいCTLエピトープは、以下からなる群より選択される抗原に由来する:スポロゾイト周囲タンパク質(CSP)、スポロゾイト表面タンパク質2(PfSSP2)、肝段階抗原1(LSA1)、メロゾイト表面タンパク質1(MSP1)、セリン反復配列抗原(SERA)、およびAMA−1抗原(Amante, et al. J. Immunol. 159, 5535-5544, 1997; .Chaba et al. Int. J. Immunopharm. 20, 259-273, 1998; Shi et al., Proc. Natl Acad. Sci (USA) 96, 1615-1620, 1999; Wang et al. Science 282, 476-479, 1998; and Zevering et al. Immunol. 94, 445-454, 1998。L.ドノバニの特に好ましいCTLエピトープは反復ペプチド(Liew et al., J. Exp. Med. 172, 1359 (1990))に由来する。T.ゴンジイの特に好ましいCTLエピトープはP30表面タンパク質(Darcy et al., J. Immunol. 149, 3636 (1992))に由来する。S.マンソニの特に好ましいCTLエピトープはSm−28GST抗原(Wolowxzuk et al., J. Immunol 146:1987 (1991))に由来する。
【0090】
好ましいウイルス特異的CTLエピトープは、ロタウイルス、ヘルペスウイルス、コロナウイルス、ピコルナウイルス(例えば、アフトウイルス(Aphthovirus))、呼吸器シンシチウムウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ポックスウイルス、I型ウシヘルペスウイルス、ウシ下痢ウイルス、ウシロタウイルス、イヌジステンパーウイルス(CDV)、口蹄疫ウイルス(FMDV)、麻疹ウイルス(MV)、ヒト免疫不全症ウイルス(HIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、エプスタインバーウイルス(EBV)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV)、肝炎ウイルスなどに由来する。
【0091】
HIV−1の特に好ましいCTLエピトープは、env、gag、またはpolタンパク質に由来する。インフルエンザウイルスの特に好ましいCTLエピトープは、核タンパク質(Taylor et al., Immunogenetics 26, 267 (1989); Townsend et al., Nature 348, 674(1983))、マトリックスタンパク質(Bednarek et al., J. Immunol. 147, 4047 (1991))、またはポリメラーゼタンパク質(Jameson et al., J. Virol. 72, 8682-8689, 1998; およびGianfrani et al., Human Immunol. 61, 438-452, 2000)に由来する。リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)の特に好ましいCTLエピトープは糖タンパク質1抗原(Zinkernagel et al. Nature 248, 701-702, 1974)に由来する。サイトメガロウイルスの特に好ましいCTLエピトープは、pp28、pp50、pp65、pp71、pp150、gB、gH、IE−1、IE−2、US2、US3、US6、US11、およびUL18からなる群より選択される抗原に由来する(例えばDiamond, USSN 6,074,645, June 13, 2000; Longmate et al., Immunogenet. 52, 165-173, 2000; Wills et al., J. Virol. 70, 7569-7579, 1996; Solache et al., J. Immunol. 163, 5512-5518, 1999; Diamond et al., Blood 90, 1751-1767, 1997; Kern et al., Nature Med. 4, 975-978, 1998; Weekes et al., J. Virol. 73, 2099-2108, 1999; Retiere et al., J. Virol. 74, 3948-3952, 2000; and Salquin et al., Eur. J. Immunol. 30, 2531-2539, 2000)。麻疹ウイルスの特に好ましいCTLエピトープは融合糖タンパク質(MV−F)、特にその残基438〜446に由来する(Herberts et al. J. Gen Virol. 82, 2131-2142, 2001)。エプスタインバーウイルス(EBV)の特に好ましいエピトープは、EBVの潜在核抗原(EBNA)または潜在膜抗原(LMP)、例えばA型EBVに由来するEBNA 2A、EBNA 3A、EBNA 4A、もしくはEBNA;B型EBVに由来するEBNA 2B、EBNA 3B、EBNA 4B、もしくはEBNA 14b;LMP1;またはLMP2などに由来する(国際特許出願PCT/AU95/00140(Sep. 16, 1995公開);国際特許出願PCT/AU97/00328(Nov. 24, 1997公開);および国際特許出願PCT/AU98/00531(Jan. 10, 1998公開))。
【0092】
好ましい細菌特異的CTLエピトープは、パスツレラ(Pasteurella)、アクチノバシラス(Actinobacillus)、ヘモフィルス(Haemophilus)、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、マイコバクテリウム・ツベルキュロシス(Mycobacterium tuberculosis)、スタフィロコッカス(Staphylococcus)、ナイセリア・ゴノローエ(Neisseria gonorrhoeae)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)、サルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)、大腸菌(E.coli)、シゲラ(Shigella)などに由来し、かつ/またはこれらに対する抗体を産生することができる。
【0093】
適切な細菌CTLエピトープとしては、例えば、マイコバクテリウム・ツベルクロシス65Kdタンパク質(Lamb et al., EMBO J., 6, 1245 (1987));M.ツベルクロシスESAT−6タンパク質(Morten et al., Infect. Immun. 66, 717-723, 1998);スタフィロコッカス・アウレウスヌクレアーゼタンパク質(Finnegan et al., J. Exp. Med. 164, 897 (1986));大腸菌熱安定エンテロトキシン(Cardenas et al., Infect. Immunity 61, 4629 (1993));および大腸菌易熱性エンテロトキシン(Clements et al., Infect. Immunity 53, 685 (1986))に由来するCTLエピトープが挙げられる。
【0094】
哺乳動物被験体から得られる好ましいCTLエピトープは、腫瘍CTL抗原に由来し、かつ/または腫瘍CTL抗原に対するT細胞応答を引き起こすことができる。腫瘍特異的CTLエピトープは、通常、生来または外来のCTLエピトープであり、その発現は腫瘍の発生、成長、存在または再発と相関がある。CTLエピトープは、正常組織から異常組織を区別するのに有用であるので、治療介入の標的として有用である。CTLエピトープは当分野で周知である。実際、いくつかの例が詳細に分析され、現在、腫瘍特異的療法を作成する上で大きく注目されている。腫瘍CTLエピトープの非限定的な例は、癌胎児性抗原(CEA)、前立腺特異抗原(PSA)、メラノーマ抗原(MAGE、BAGE、GAGE)およびMUC−1などのムチンに由来するものである。
【0095】
癌患者に投与するのに好ましいCTLエピトープは、癌を誘導するタンパク質、例えば発癌タンパク質(例:p53、ras等)などに由来するものである。
【0096】
特に好ましい実施形態においては、CTLエピトープは、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むまたはそれらから構成される:
(1)PR8ウイルスのNP由来のTYQRTRALV(配列番号2);
(2)P.ファルシパルムCSPのKPKDELDYENDIEKKICKMEKCS(配列番号53);
(3)P.ファルシパルムCSP由来のDIEKKICKMEKCSSVFNVVNS(配列番号54);
(4)P.ファルシパルムLSA1由来のKPIVQYDNF(配列番号55);
(5)P.ファルシパルムMSP1由来のGISYYEKVLAKYKDDLE(配列番号56);
(6)P.ファルシパルムAMA−1のEFTYMINFGRGQNYWEHPYQKS(配列番号57);
(7)P.ファルシパルムAMA−1由来のDQPKQYEQHLTDYEKIKEG(配列番号58);
(8)HIV−1 envタンパク質由来のNMWQEVGKAM(配列番号59);
(9)HIV−1 envタンパク質由来のAPTKAKRRVV(配列番号60);
(10)HIV−1 envタンパク質由来のCTRPNNNTRK(配列番号61);
(11)HIV−1 envタンパク質由来のTVYYGVPVWK(配列番号62);
(12)HIV−1 envタンパク質由来のRPVVSTQLL(配列番号63);
(13)HIV−1 gagタンパク質由来のSLYNTVATLY(配列番号64);
(14)HIV−1 gagタンパク質由来のELRSLYNTVA(配列番号65);
(15)HIV−1 gagタンパク質由来のKIRLRPGGKK(配列番号66);
(16)HIV−1 gagタンパク質由来のIRLRPGGKKK(配列番号67);
(17)HIV−1 gagタンパク質由来のRLRPGGKKK(配列番号68);
(18)HIV−1 gagタンパク質由来のGPGHKARVLA(配列番号69);
(19)HIV−1 polタンパク質由来のSPIETVPVKL(配列番号70);
(20)HIV−1 polタンパク質由来のILKEPVHGVY(配列番号71);
(21)HIV−1 polタンパク質由来のAIFQSSMTK(配列番号72);
(22)HIV−1 polタンパク質由来のSPAIFQSSMT(配列番号73);
(23)HIV−1 polタンパク質由来のQVRDQAEHLK(配列番号74);
(24)HIV−1 polタンパク質由来のGPKVKQWPLT(配列番号75);
(25)インフルエンザウイルス核タンパク質由来のTYQRTRALV(配列番号76);
(26)インフルエンザ核タンパク質由来のTYQRTRALVRTGMDP(配列番号77);
(27)インフルエンザウイルス核タンパク質由来のIASNENMDAMESSTL(配列番号78);
(28)LCMV gp1由来のKAVYNFATM(配列番号79);
(29)EBV由来のQVKWRMTTL(配列番号80);
(30)EBV由来のVFSDGRVAC(配列番号81);
(31)EBV由来のVPAPAGPIV(配列番号82);
(32)EBV由来のTYSAGIVQI(配列番号83);
(33)EBV由来のLLDFVRFMGV(配列番号84);
(34)EBV由来のQNGALAINTF(配列番号85);
(35)EBV由来のVSSDGRVAC(配列番号86);
(36)EBV由来のVSSEGRVAC(配列番号87);
(37)EBV由来のVSSDGRVPC(配列番号88);
(38)EBV由来のVSSDGLVAC(配列番号89);
(39)EBV由来のVSSDGQVAC(配列番号90);
(40)EBV由来のVSSDGRVVC(配列番号91);
(41)EBV由来のVPAPPVGPIV(配列番号92);
(42)EBV由来のVEITPYEPTG(配列番号93);
(43)EBV由来のVEITPYEPTW(配列番号94);
(44)EBV由来のVELTPYKPTW(配列番号95);
(45)EBV由来のRRIYDLIKL(配列番号96);
(46)EBV由来のRKIYDLIEL(配列番号97);
(47)EBV由来のPYLFWLAGI(配列番号98);
(48)EBV由来のTSLYNLRRGTALA(配列番号99);
(49)EBV由来のDTPLIPLTIF(配列番号100);
(50)EBV由来のTVFYNIPPMPL(配列番号101);
(51)EBV由来のVEITPYKPTW(配列番号102);
(52)EBV由来のVSFIEFVGW(配列番号103);
(53)EBV由来のFRKAQIQGL(配列番号104);
(54)EBV由来のFLRGRAYGL(配列番号105);
(55)EBV由来のQAKWRLQTL(配列番号106);
(56)EBV由来のSVRDRLARL(配列番号107);
(57)EBV由来のYPLHEQHGM(配列番号108);
(58)EBV由来のHLAAQGMAY(配列番号109);
(59)EBV由来のRPPIFIRRL(配列番号110);
(60)EBV由来のRLRAEAGVK(配列番号111);
(61)EBV由来のIVTDFSVIK(配列番号112);
(62)EBV由来のAVFDRKSDAK(配列番号113);
(63)EBV由来のNPTQAPVIQLVHAVY(配列番号114);
(64)EBV由来のLPGPQVTAVLLHEES(配列番号115);
(65)EBV由来のDEPASTEPVHDQLL(配列番号116);
(66)EBV由来のRYSIFFDY(配列番号117);
(67)EBV由来のAVLLHEESM(配列番号118);
(68)EBV由来のRRARSLSAERY(配列番号119);
(69)EBV由来のEENLLDFVRF(配列番号120);
(70)EBV由来のKEHVIQNAF(配列番号121);
(71)EBV由来のRRIYDLIEL(配列番号122);
(72)EBV由来のQPRAPIRPI(配列番号123);
(73)EBV由来のEGGVGWRHW(配列番号124);
(74)EBV由来のCLGGLLTMV(配列番号125);
(75)EBV由来のRRRWRRLTV(配列番号126);
(76)EBV由来のRAKFKQLL(配列番号127);
(77)EBV由来のRKCCRAKFKQLLQHYR(配列番号128);
(78)EBV由来のYLLEMLWRL(配列番号129);
(79)EBV由来のYFLEILWGL(配列番号130);
(80)EBV由来のYLLEILWRL(配列番号131);
(81)EBV由来のYLQQNWWTL(配列番号132);
(82)EBV由来のLLLALLFWL(配列番号133);
(83)EBV由来のLLVDLLWLL(配列番号134);
(84)EBV由来のLLLIALWNL(配列番号135);
(85)EBV由来のWLLLFLAIL(配列番号136);
(86)EBV由来のTLLVDLLWL(配列番号137);
(87)EBV由来のLLWLLLFLA(配列番号138);
(88)EBV由来のILLIIALYL(配列番号139);
(89)EBV由来のVLFIFGCLL(配列番号140);
(90)EBV由来のRLGATIWQL(配列番号141);
(91)EBV由来のILYFIAFAL(配列番号142);
(92)EBV由来のSLVIVTTFV(配列番号143);
(93)EBV由来のLMIIPLINV(配列番号144);
(94)EBV由来のTLFIGSHVV(配列番号145);
(95)EBV由来のLIPETVPYI(配列番号146);
(96)EBV由来のVLQWASLAV(配列番号147);
(97)EBV由来のQLTPHTKAV(配列番号148);
(98)HCMV pp65由来のSVLGPISGHVLK(配列番号149);
(99)HCMV pp65由来のFTSQYRIQGKL(配列番号150);
(100)HCMV pp65由来のFVFPTKDVALR(配列番号151);
(101)HCMV pp65由来のFPTKDVAL(配列番号152);
(102)HCMV pp65由来のNLVPMVATV(配列番号153);
(103)HCMV pp65由来のMLNIPSINV(配列番号154);
(104)HCMV pp65由来のRIFAELEGV(配列番号155);
(105)HCMV pp65由来のTPRVTGGGGAM(配列番号156);
(106)HCMV pp65由来のRPHERNGFTVL(配列番号157);
(107)HCMV pp65由来のRLLQTGIHV(配列番号158);
(108)HCMV pp65由来のVIGDQYVKV(配列番号159);
(109)HCMV pp65由来のALFFFDIDL(配列番号160);
(110)HCMV pp65由来のYSEHPTFTSQY(配列番号161);
(111)HCMV pp65由来のVLCPKNMII(配列番号162);
(112)HCMV pp65由来のDIYRIFAEL(配列番号163);
(113)HCMV pp65由来のILARNLVPMV(配列番号164);
(114)HCMV pp65由来のEFFWDANDIY(配列番号165);
(115)HCMV pp65由来のIPSINVHHY(配列番号166);
(116)HCMV IE−1由来のYILEETSVM(配列番号167);
(117)HCMV IE−1由来のCVETMCNEY(配列番号168);
(118)HCMV IE−1由来のRRIEEICMK(配列番号169);
(119)HCMV pp150由来のTTVYPPSSTAK(配列番号170);
(120)麻疹ウイルス融合糖タンパク質由来のRRYPDAVYL(配列番号171);
(121)リステリア・モノサイトゲネス由来のGYKDGNEYI(配列番号172);
(122)オボアルブミン由来のSIINFEKL(配列番号173);および
(123)C型肝炎ウイルスのコアタンパク質由来のDLMGYIPLV(配列番号176)。
【0097】
これまでの記載から、対象リポペプチドのポリペプチド部分が好都合には単一アミノ酸鎖として合成され、それによって、合成後に両方のエピトープを組み込む改変が不要であることが明白である。本明細書において例示するように、以下からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むポリペプチド部分が好ましい:
【化5】

【0098】
命名に関して、配列番号3〜4は、インフルエンザウイルス赤血球凝集素の軽鎖に由来するTヘルパーエピトープ(すなわち配列番号1)と、インフルエンザウイルスPR8の核タンパク質に由来する主要抗原H−2制限CTLエピトープ(配列番号2)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。配列番号4において、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号4のK16)。
【0099】
配列番号5は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号20)、およびインフルエンザウイルスPR8の核タンパク質に由来する主要抗原H−2制限CTLエピトープ(配列番号2)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。このペプチドにおいて、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号5のK18)。
【0100】
配列番号6は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号20)、およびヒトのサイトメガロウイルスの主要抗原pp65抗原(すなわちHCMV pp65抗原)に由来する主要抗原HLA A2制限CTLエピトープ(配列番号153)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。このペプチドにおいて、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号6のK18)。
【0101】
配列番号7は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号22)、およびHCMV pp65抗原に由来する主要抗原HLA A2制限CTLエピトープ(配列番号153)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。このペプチドにおいて、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号7のK18)。
【0102】
配列番号8は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号16)、およびHCMV pp65抗原に由来する主要抗原HLA A2制限CTLエピトープ(配列番号153)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。このペプチドにおいて、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号8のK18)。
【0103】
配列番号9は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号40)、およびHCMV pp65抗原に由来する主要抗原HLA A2制限CTLエピトープ(配列番号153)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。このペプチドにおいて、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号9のK18)。
【0104】
配列番号10は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号20)、およびエプスタインバーウイルスLMP1抗原(すなわちEBV LMP1;配列番号129)に由来する主要抗原HLA A2制限CTLエピトープを含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。このペプチドにおいて、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号10のK18)。
【0105】
配列番号11は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号22)、およびEBV LMP1に由来する主要抗原HLA A2制限CTLエピトープ(配列番号129)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。このペプチドにおいて、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号11のK18)。
【0106】
配列番号12は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号16)、およびEBV LMP1に由来する主要抗原HLA A2制限CTLエピトープ(配列番号129)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。このペプチドにおいて、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号12のK18)。
【0107】
配列番号13は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号40)、およびEBV LMP1に由来する主要抗原HLA A2制限CTLエピトープ(配列番号129)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。このペプチドにおいて、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている(配列番号13のK18)。
【0108】
配列番号174は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号20)、およびオボアルブミンに由来する主要抗原CTLエピトープ(配列番号173)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。好ましくは、脂質は、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている配列番号174のK18を介して結合する。
【0109】
配列番号175は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号20)、およびリステリア・モノサイトゲネス抗原に由来する主要抗原CTLエピトープ(配列番号172)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。好ましくは、脂質は、さらなる内部リジン残基がTヘルパーエピトープとCTLエピトープの間に操作されている配列番号175のK18を介して結合する。
【0110】
配列番号177は、イヌ、マウスおよびヒトにおいて活性を有するイヌジステンパーウイルスに由来するTヘルパーエピトープ(CDV−F、配列番号20)、およびC型肝炎ウイルスのコアタンパク質に由来する主要抗原CTLエピトープ(配列番号176)を含む合成ペプチドに関し、その内部リジン残基は太字で示すεアミノ基に脂質結合部位を提供する。好ましくは、脂質は配列番号177のK18を介して結合する。
【0111】
当業者は、配列番号3〜13、174、175または177のいずれか1個のTヘルパーエピトープおよび/またはCTLエピトープを、例えば、配列番号14〜52のいずれか1個で示されるTヘルパーエピトープ、配列番号53〜173または176のいずれか1個で示されるCTLエピトープなど別のTヘルパーエピトープまたはCTLエピトープで置換することによって、本明細書に例示するポリペプチド部分に加えて、対象リポペプチドに使用する別のポリペプチド部分を容易に合成することができる。さらに、免疫応答が求められる標的種およびCTLエピトープに応じて、適切なTヘルパーエピトープとCTLの組合せを選択することは、本明細書の開示から当業者には容易なはずである。
【0112】
配列番号3〜13、174、175および177で示される例示的なポリペプチドを含めて、本明細書に記載するポリペプチド部分のアミノ酸配列は、特定の目的のために、当業者に周知の方法によって、それらの免疫機能に悪影響を及ぼさずに改変することができる。例えば、免疫応答を高めるか、またはペプチドを他の作用物質、特に脂質に結合させるために、特定のペプチド残基を誘導体化するか、または化学的に修飾することができる。ペプチドの全体構造またはCTL抗原性に支障を与えずにペプチド中の特定のアミノ酸を変えることも可能である。したがって、そのような変化は「保存的」変化と称され、残基の親水性または極性に依拠する傾向にある。側鎖の大きさおよび/または変化も、どの置換が保存的であるかを決定する関連要因である。
【0113】
生物学的機能が等価なタンパク質またはペプチドの定義に固有なのは、分子の規定された部分内でなされ、かつ許容される等価レベルの生物活性を有する分子を依然としてもたらし得る変化の数には限りがあるという概念であることを当業者は十分理解しうる。したがって、生物学的機能が等価なペプチドは、特定のアミノ酸を置換することができるペプチドと本明細書では定義される。特定の実施形態は、ペプチドのアミノ酸配列における1つ、2つ、3つ、4つ、5つまたはそれ以上の変更を含む変異体を包含する。異なる置換を含む複数の異なるタンパク質/ペプチドを本発明に従って容易に調製し、使用できることは言うまでもない。
【0114】
当業者は、以下の置換、すなわち、(1)アルギニン、リジンおよびヒスチジンを含む置換、(2)アラニン、グリシンおよびセリンを含む置換、ならびに(3)フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンを含む置換が許容できる保存的置換であることを十分承知している。このような保存的置換を組み込んだペプチドは生物学的機能が等価であると本明細書では定義する。
【0115】
相互作用性の生物学的機能をタンパク質に付与する上で疎水性親水性アミノ酸指標が重要であることは当分野では一般に理解されている(Kyte & Doolittle、J.Mol.Biol.157、105〜132、1982)。ある種のアミノ酸は、類似の疎水性親水性指標またはスコアを有する他のアミノ酸を置換することができ、かつ類似の生物活性を維持できることが知られている。アミノ酸の疎水性親水性指標も、機能的に等価な分子を生成する保存的置換を決定する際に考慮することができる。各アミノ酸は、その疎水性および電荷特性に基づいて、以下の疎水性親水性指標が割り当てられている。イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(−0.4)、トレオニン(−0.7)、セリン(−0.8)、トリプトファン(−0.9)、チロシン(−1.3)、プロリン(−1.6)、ヒスチジン(−3.2)、グルタミン酸(−3.5)、グルタミン(−3.5)、アスパラギン酸(−3.5)、アスパラギン(−3.5)、リジン(−3.9)およびアルギニン(−4.5)。疎水性親水性指標に基づいて変化させる際には、疎水性親水性指標の指数が+/−0.2以内のアミノ酸置換が好ましい。より好ましくは、置換は、疎水性親水性指標の指数が+/−0.1以内、より好ましくは約+/−0.05以内のアミノ酸を含む。
【0116】
類似したアミノ酸の置換は、この場合(例えば、米国特許第4,554,101号)のように、特にそれによって生成される生物学的機能が等価なタンパク質またはペプチドを免疫学的な実施形態に用いようとする場合には、親水性に基づいて有効に行われることも当分野では十分理解されている。米国特許第4,554,101号に詳細に述べられているように、以下の親水性値(hydrophilicity value)が各アミノ酸残基に割り当てられている。アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0+/−0.1)、グルタミン酸(+3.0+/−0.1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、トレオニン(−0.4)、プロリン(−0.5+/−0.1)、アラニン(−0.5)、ヒスチジン(−0.5)、システイン(−1.0)、メチオニン(−1.3)、バリン(−1.5)、ロイシン(−1.8)、イソロイシン(−1.8)、チロシン(−2.3)、フェニルアラニン(−2.5)、トリプトファン(−3.4)。親水性値が類似していることに基づいて変化させる際には、親水性値が互いに好ましくは約+/−0.2以内、より好ましくは約+/−0.1以内、さらにより好ましくは約+/−0.05以内であるアミノ酸を置換する。
【0117】
免疫原として使用するのに適切なペプチドが特定された場合には、ペプチド構造の重要な部分を模倣するように他の立体的に類似した化合物を調製できることも企図される。ペプチドミメティックと称することができるこのような化合物は、本発明のペプチドと同様に使用することができ、したがって機能的に等価なものである。構造上機能的に等価なペプチドは、当業者に公知のモデリング技術および化学設計技術によって製造することができる。このような立体的に類似した構築体はすべて本発明の範囲内にあることを理解されたい。
【0118】
改変ペプチドの「同等性」を決定する別の方法は機能的手法である。例えば、適当な変異ペプチドは、MHCクラスI結合エピトープを決定するための推定アルゴリズム、例えばSYFPEITHIアルゴリズム(University of Tuebingen, Germany)またはHLAペプチド結合予測プログラムのアルゴリズム(BioInformatics and Molecular Analysis Section (BIMAS)、the National Institutes of Health、米国政府)を用いて決定されるようにMHCクラスI対立遺伝子と有意なレベルで相互作用するアミノ酸配列を含みうる。かかる変異配列は、APC(例えばPBMC分画中または血清の軟膜分画中)の表面上のMHCクラスI分子と結合しおよび/または安定化させ、ならびに/あるいは、記憶CTL応答を誘導しまたはIFN−γ産生を誘発し、ならびに/あるいは、標準的な細胞傷害性アッセイにおいてCTL活性を刺激しうる。かかる機能の決定は当業者であれば容易に行いうる。
【0119】
リポペプチドのポリペプチド部分は、メリフィールド(Merrifield)合成方法(Merrifield、J Am Chem Soc、85、2149〜2154、1963)、無数の利用可能な同技術の改良法(例えば、Synthetic Peptides:A User's Guide、Grant、ed.(1992)W.H.Freeman & Co.、New York、pp.382;Jones(1994)The Chemical Synthesis of Peptides、Clarendon Press、Oxford、pp.230);Barany,G.and Merrifield,R.B.(1979)in The Peptides(Gross,E.and Meienhofer,J.eds.)、vol.2、pp.1〜284、Academic Press、New York;Wunsch,E.、ed.(1974)Synthese von Peptiden in Houben-Weyls Methoden der Organischen Chemie(Muler,E.、ed.)、vol.15、4th edn.、Parts 1 and 2、Thieme、Stuttgart;Bodanszky,M.(1984)Principles of Peptide Synthesis、Springer-Verlag、Heidelberg;Bodanszky,M.& Bodanszky,A.(1984)The Practice of Peptide Synthesis、Springer-Verlag、Heidelberg;Bodanszky,M.(1985)Int J.Peptide Protein Res.25、449〜474などの標準技術を用いて容易に合成される。
【0120】
脂質部分は、任意のC〜C30飽和、一不飽和または多価不飽和の線状または分枝脂肪アシル基、好ましくはパルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイルおよびデカノイルからなる群から選択される脂肪酸基を含むことができる。リポアミノ酸は、本明細書において特に好ましい脂質部分である。本明細書で使用する、「リポアミノ酸」という用語は、アミノ酸残基、例えば、システインもしくはセリン、リジンもしくはその類似体に共有結合した1個または2個または3個以上の脂質を含む分子を指す。特に好ましい実施形態においては、リポアミノ酸はシステインを含み、1個または2個以上のセリン残基を場合によっては含んでいてもよい。
【0121】
脂質部分の構造は、得られるリポペプチドの活性に重要ではなく、本明細書において説明するように、パルミチン酸および/またはコレステロールおよび/またはPamCysおよび/またはPamCysおよび/またはPamCysを用いることができる。本発明は、免疫原性を失うことなく、リポペプチドにおいて使用するための一定範囲のほかの脂質部分、例えばラウリン酸、ステアリン酸またはオクタン酸も明らかに包含する。従って、本発明は、別に記載しないかぎりまたは他に必要な状況がないかぎり、脂質部分の構造に限定されるものではない。
【0122】
同様に、本発明は、特記しないかぎりまたは他に必要な状況がないかぎり、単一の脂質部分の要件に限定されるものではない。複数の脂質部分をペプチド部分に付加すること、例えばTヘルパーエピトープないの位置、およびTヘルパーエピトープとB細胞エピトープの間の位置に付加することも明らかに意図している。
【0123】
脂質部分は、好ましくは、一般式(VII)の構造の化合物である:
【化6】

【0124】
〔式中、
(i)Xは、硫黄、酸素、ジスルフィド(−S−S−)、メチレン(−CH−)およびアミノ(−NH−)からなる群から選択され、
(ii)mは、1または2の整数であり、
(iii)nは、0〜5の整数であり、
(iv)Rは、水素、カルボニル(−CO−)およびR’−CO−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(v)Rは、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(vi)Rは、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
、RおよびRの各々は同じでも異なっていてもよい〕。
【0125】
置換基によっては、一般構造VIIの脂質部分は、完全体RおよびRに直接的または間接的に共有結合した炭素原子が非対称の右旋性または左旋性(すなわち、RまたはS)立体配置である鏡像異性分子でもよい。
【0126】
好ましくは、Xは硫黄であり、mおよびnはともに1であり、Rは水素およびR’−CO−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択され、RおよびRはR’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択される。
【0127】
好ましくは、R’は、パルミトイル、ミリストイル、ステアロイルおよびデカノイルからなる群から選択される。より好ましくは、R’はパルミトイルである。
【0128】
前記脂質部分の各完全体R’は同じでも異なっていてもよい。
【0129】
特に好ましい実施形態においては、Xは硫黄であり、mおよびnはともに1であり、Rは水素またはR’−CO−(式中、R’はパルミトイルである)であり、RおよびRはそれぞれR’−CO−O−(式中、R’はパルミトイルである)である。これらの特に好ましい化合物は、上記式(I)および式(II)で示される。
【0130】
脂質部分は、以下の一般式(VIII)を有することができる:
【化7】

【0131】
〔式中
(i)Rは、(i)約7〜約25個の炭素原子からなるα−アシル脂肪酸残基、(ii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基、(iii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基のβ−ヒドロキシエステル(エステル基は、好ましくは、8個を超える炭素原子を含む直鎖または分枝鎖である)および(iv)リポアミノ酸残基、からなる群から選択され、
(ii)Rは、水素、またはアミノ酸残基の側鎖である〕。
【0132】
好ましくは、Rは、約10〜約20個の炭素原子からなり、より好ましくは約14〜約18個の炭素原子からなる。
【0133】
がリポアミノ酸残基である場合には、完全体(integer)RおよびRの側鎖は共有結合を形成することもできる。例えば、Rが、リジン、オルニチン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジン誘導体、オルニチン誘導体、グルタミン酸誘導体およびアスパラギン酸誘導体からなる群から選択される場合には、アミノ酸または誘導体の側鎖は、アミド結合またはエステル結合によってRに共有結合する。
【0134】
好ましくは、一般式VIIIで示される構造は、N,N’−ジアシルリジン;N,N’−ジアシルオルニチン;グルタミン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;アスパラギン酸のジ(モノアルキル)アミドまたはエステル;セリン、ホモセリンまたはトレオニンのN,O−ジアシル誘導体;およびシステインまたはホモシステインのN,S−ジアシル誘導体からなる群から選択される脂質部分である。
【0135】
両親媒性分子、特にPamCys(式(I))の疎水性を超えない疎水性を有する両親媒性分子も好ましい。
【0136】
式(I)、式(II)、式(VI)または式(VIII)の各脂質部分は、1個または複数のスペーサー分子、好ましくは炭素を含むスペーサー、より好ましくは1個または複数のアミノ酸残基の付加によって、合成中または合成後にさらに改変される。これらを、従来の縮合、付加、置換または酸化反応において末端カルボキシ基を介して脂質構造に付加することが有利である。このようなスペーサー分子の効果は、脂質部分をポリペプチド部分から分離して、リポペプチド産物の免疫原性を増大させることである。
【0137】
セリン二量体、三量体、四量体などはこの目的に特に好ましい。
【0138】
このようなスペーサーは、改変リポアミノ酸が後でポリペプチドに容易にコンジュゲートされるように末端保護アミノ酸残基を含むことが好ましい。
【0139】
この実施形態によって製造される代表的な改変リポアミノ酸は、式(III)および(IV)で表され、それぞれ式(I)および(II)にセリンホモ二量体を付加することによって容易に得られる。本明細書に例示するとおり、式(I)のPamCysまたは式(II)のPamCysは、この目的で、式(III)のリポアミノ酸PamCys−Ser−Serまたは式(IV)のPamCys−Ser−Serとして合成することが有利である。
【化8】

【化9】

【0140】
スペーサーを脂質部分に付加する代わりに、ポリペプチド部分の内部リジン残基のεアミノ基またはリジン類似体の末端側鎖基に、短いペプチド、例えば、セリンホモ二量体、ホモ三量体、ホモ四量体などとして、あるいは、アミノ酸残基の連続的付加によってスペーサーを付加し、それによって分枝ポリペプチド鎖を生成することができる。この手法は、スペーサー付加における特異性を得るために、内部リジンまたはリジン類似体上の末端側鎖基の改変された性質を適宜利用する。当然、連続的なスペーサー付加を防止するために、スペーサーの末端アミノ酸残基は、脱保護によって分枝ポリペプチドへの脂質部分のコンジュゲートが容易になるように、好ましくは保護すべきである。
【0141】
あるいは、従来の求核置換反応によって、ポリペプチドの非改変εアミノ基にスペーサーを付加することができる。しかし、ポリペプチドが、単一の内部リジン残基、およびブロッキングされたN末端を含むアミノ酸配列を含む場合には、この手法に従うことが好ましい。
【0142】
脂質部分は、従来の合成手段、例えば、米国特許第5,700,910号および同第6,024,964号に記載の方法、あるいは、Wiesmuller et al.、Hoppe Seylers Zur Physiol.Chem.364、593(1983)、Zeng et al.、J.Pept.Sci 2、66(1996)、Jones et al.、Xenobiotica 5、155(1975)、またはMetzger et al.、Int.J.Pept.Protein Res.38、545(1991)に記載の方法によって調製される。当業者は、このような方法を容易に改変して、ポリペプチドへのコンジュゲートに使用される所望の脂質を合成することができる。
【0143】
本発明のリポペプチドに使用される様々な脂質の組合せも企図される。例えば、1個または2個のミリストイル含有脂質またはリポアミノ酸を、内部リジンまたはリジン類似体残基を介してポリペプチド部分に結合させ、場合によっては、スペーサーによってポリペプチドから分離させ、1個または2個のパルミトイル含有脂質またはリポアミノ酸をカルボキシ末端のリジンアミノ酸残基に結合させてもよい。他の組合せも除外されない。
【0144】
本発明のリポペプチドは、診断目的で容易に修飾される。例えば、本発明のリポペプチドは、天然または合成ハプテン、抗生物質、ホルモン、ステロイド、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、酵素、酵素基質、酵素阻害剤、ビオチン、アビジン、ポリエチレングリコール、ペプチドのポリペプチド部分(例えば、タフトシン、ポリリジン)、蛍光マーカー(例えば、FITC、RITC、ダンシル、ルミノールまたはクマリン)、生物発光マーカー、スピン標識、アルカロイド、生体アミン、ビタミン、毒素(例えば、ジゴキシン、ファロイジン、アマニチン、テトロドトキシン)または錯形成剤を付加することによって修飾される。
【0145】
本明細書に例示するとおり、CD4TヘルパーエピトープとCD8CTLエピトープの間に位置するリジン残基のεアミノ基を介してコンジュゲートされた式(I)のPamCys、または式(II)のPamCysを含む、CTL応答を誘導可能な高免疫原性リポペプチドが提供される。
【0146】
リポペプチドの調製
本発明の第2の態様は、
(i)以下の(a)および(b):
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびCTLエピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基とを含むアミノ酸配列、
を含むポリペプチドを製造するステップ、ならびに
(iii)前記1個または複数の脂質部分の各々を直接的または間接的に、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に共有結合させて、前記内部リジン残基のεアミノ基に結合した脂質部分を含む、または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に結合した脂質部分を含むリポペプチドを製造するステップ、
を含む、リポペプチドを製造する方法を提供する。
【0147】
この方法はさらに脂質部分の製造も含むことが好ましい。
【0148】
本明細書で参照する従来の化学合成は、ポリペプチド部分および脂質部分を製造する好ましい手段である。
【0149】
ブロッキング基(例えば、Mtt)を末端側鎖基から選択的に除去して内部リジンまたはリジン類似体を改変して、リポアミノ酸を含むアミノ酸残基、スペーサーまたは脂質部分がその位置に付加できるようにすることが好ましい。
【0150】
脂質をポリペプチドに結合させる場合には、ポリペプチドの官能基を、これらの基において望ましくない反応が有効な反応速度で確実に起こらないように、ペプチド合成分野で既知の方法で保護することが有利である。
【0151】
既知のカップリング法によって、ポリペプチドをポリマー(例えば、メリフィールド樹脂)などの固体担体または可溶性担体上で合成し、スペーサー、アミノ酸または脂質にコンジュゲート可能にする。例えば、リジンまたはリジン類似体(例えば内部リジンのεアミノ基)の末端側鎖基をいくつかの保護基の1個で保護する。(保護基またはマスキング基とも呼ばれる)ブロッキング基を使用して、カップリング反応に関与する活性カルボキシル基を有するアミノ酸のアミノ基を保護し、またはカップリング反応に関与するアシル化アミノ基を有するアミノ酸のカルボキシル基を保護する。カップリングを起こす場合には、ペプチド結合、またはペプチドの別の部分に結合した任意の保護基を切断せずにブロッキング基を除去しなければならない。
【0152】
固相ペプチド合成の場合には、伸長するペプチド鎖のアミノブロッキング基の除去に必要な反復処理に安定であり、かつアミノ酸カップリングの繰り返しに必要な反復処理に安定なブロッキング基を使用してアミノ酸側鎖を保護する。また、ペプチドC末端を保護するペプチド樹脂の足場(anchorage)は、樹脂からの切断が必要になるまで合成プロセスを通して保護されなければならない。したがって、直交性に保護されたα−アミノ酸を慎重に選択することによって、脂質および/またはアミノ酸が、樹脂に付着したまま伸長するペプチドの所望の位置に付加される。
【0153】
好ましいアミノブロッキング基は、容易に除去可能であるが、カップリング反応および他の操作、例えば、側鎖基の修飾などに対する残存条件(survive conditions)に十分安定である。好ましいアミノブロッキング基は、(i)室温常圧の接触水素化によって、またはナトリウムの液体アンモニア溶液および臭化水素酸の酢酸溶液を用いて容易に除去されるベンジルオキシカルボニル基(Zまたはカルボベンゾキシ)、(ii)t−ブトキシカルボニルアジドまたはジ−tert−ブチルジカルボネートを用いて導入され、弱酸、例えば、トリフルオロ酢酸(50%TFAのジクロロメタン溶液)、HClの酢酸/ジオキサン/酢酸エチル溶液などを用いて除去されるt−ブトキシカルボニル基(Boc)、(iii)弱塩基、非加水分解条件下、例えば、第一級または第二級アミン(例えば、20%ピペリジンのジメチルホルムアミド溶液)を用いて切断される9−フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc)、(iv)2−(4−ビフェニリル)プロピル(2)オキシカルボニル基(Bpoc)、(v)2−ニトロ−フェニルスルフェニル基(Nps)、および(vi)ジチア−スクシオニル基(Dts)からなる群から選択される。
【0154】
側鎖保護基は、合成するペプチドを形成するアミノ酸の官能基側鎖に応じて変わる。側鎖保護基は、一般に、Bzl基またはtBu基に基づいている。側鎖にアルコールまたはカルボン酸を有するアミノ酸は、Bzlエーテル、Bzlエステル、cHexエステル、tBuエーテルまたはtBuエステルとして保護される。Fmocアミノ酸の側鎖を保護するには、理想的には塩基に安定であり弱酸(TFA)に不安定なブロッキング基が必要である。例えば、リジンのε−アミノ基は、Mttによって保護される(例えば、Fmoc−リジン(Mtt)−OH)。あるいは、酸に対する高い安定性が必要な場合には、CIZなどのハロゲン化ベンジル誘導体を使用してリジン側鎖を保護する。シスチンのチオール基、ヒスチジンのイミダゾール、またはアルギニンのグアニジノ基は、一般に特別な保護を必要とする。多種多様なペプチド合成用保護基が記載されている(The Peptides、Gross et al.eds.、Vol.3、Academic Press、New York、1981)。
【0155】
最も広く用いられている2つの保護方法は、Boc/Bzl法およびFmoc/tBu法である。Boc/Bzlでは、Bocをアミノ保護に使用し、様々なアミノ酸の側鎖をBzlまたはcHexを基にした保護基を用いて保護する。Boc基は、触媒水素化条件下で安定であり、多数の側鎖基を保護するためにZ基とともに直交性に使用される。Fmoc/tBuでは、Fmocをアミノ保護に使用し、tBuを基にした保護基を用いて側鎖を保護する。
【0156】
ペプチドは、当分野で周知の方法によって脂質付加される。標準の縮合、付加、置換または酸化(例えば、内部リジンまたはリジン類似体上の末端アミノ基と、導入されるアミノ酸またはペプチドまたはリポアミノ酸カルボキシ末端基とのジスルフィド架橋形成またはアミド結合形成)反応によって、脂質がポリペプチドに付加される。
【0157】
別の実施形態においては、免疫原として使用される本発明のペプチドを化学選択的連結または化学結合あるいはオキシム化学によって製造する。このような方法は、当分野では周知であり、個々のペプチド成分を化学手段または組換え手段によって製造し、その後、適切な配置またはコンホメーションまたは順序で化学選択的に連結する(例えば、参照により本明細書に援用するNardin et al.、Vaccine 16、590(1998);Nardin et al.、J.Immunol.166、481(2001);Rose et al.、Mol.Immunol.32、1031(1995);Rose et al、Bioconjug.Chem 7、552(1996);およびZeng et al.、Vaccine 18、1031(2000))。
【0158】
リポペプチド製剤
リポペプチドは、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤、例えば、水性溶媒、非水性溶媒、塩、防腐剤、緩衝剤などの無毒賦形剤中に有利に処方される。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびエチルオレイン酸エステルなどの注射用有機エステルである。水性溶媒としては、水、アルコール性溶液、水溶液、食塩水溶液、塩化ナトリウムなどの非経口ビヒクル、リンゲルのデキストロースなどがある。防腐剤としては、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなどがある。医薬組成物中の様々な成分pHおよび正確な濃度は、当分野の常法に従って調節される。
【0159】
リポペプチド製剤への外来的なアジュバントの添加は一般に不要であるが、やはり本発明に包含される。このような外来的なアジュバントとしては、すべての許容される免疫賦活性化合物、例えば、サイトカイン、毒素、合成組成物などがある。例示的なアジュバントとしては、IL−1、IL−2、BCG、水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−トレオニル−D−イソグルタミン(thur−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(CGP 11637、nor−MDPと称する)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(CGP)1983A、MTP−PEと称する)、脂質A、MPL、細菌から抽出される3成分を含むRIBI、モノホスホリル脂質A、トレハロースジミコレート、細胞壁骨格(MPL+TDM+CWS)の2%スクアレン/Tween80エマルジョンなどがある。
【0160】
生物反応修飾物質(BRM)とリポペプチドを同時投与して、サプレッサーT細胞活性をダウンレギュレートすることが望ましい場合もある。例示的なBRMは、シメチジン(CIM;1200mg/d)(Smith/Kline、PA、USA)、インドメタシン(IND;150mg/d)(Lederle、NJ、USA)、低用量シクロホスファミド(CYP;75、150または300mg/m)(Johnson/Mead、NJ、USA)などであるが、これらだけに限定されない。
【0161】
免疫におけるリポペプチドの使用
本発明の新規リポペプチドは、もっぱら内部リジンまたはリジン類似体の末端側鎖基により脂質部分がコンジュゲートしており、それにより追加のアジュバントを投与しないでT細胞応答を増強しうるという点で、CTLエピトープの公知のリポペプチド複合体とは本質的な面で異なる。したがって、本発明のリポペプチドの特別な有用性は、in vivoまたはex vivoにおけるT細胞応答の誘発、合成ワクチン製剤、T細胞を使用する診断法、ならびに動物およびヒト医療用免疫療法の分野にある。
【0162】
より具体的には、本発明のリポペプチドは、動物被験体に投与すると、CTL活性化の同等のレベルを得るためにアジュバントを必要とせずに、CTLエピトープ部分に対するCTL記憶応答を増強する。さらに、ワクチン投与後には、樹状細胞の成熟の増強、ならびにIFN−γ産生CD8細胞の誘導を含む他の生物学的作用、そしてウイルス、細胞および腫瘍細胞のクリアランスの増強が観察されている。
【0163】
従って、本発明のさらなる態様は、被験体においてそのCTLエピトープが由来する生物に対する細胞媒介性免疫を増強する方法を提供し、該方法は、本発明のリポペプチドまたは該リポペプチドの誘導体もしくは機能的に等価な変異体、あるいは該リポペプチドまたは変異体もしくは誘導体を含むワクチン組成物を、該被験体のCTLおよび/またはCTL前駆体を活性化するのに十分な時間および条件において該被験体に投与することを含む。
【0164】
「CTL前駆体」とは、天然T細胞(すなわち、1以上のT細胞レセプターをその表面上に発現し、増殖して、記憶T細胞またはエフェクターT細胞に分化することができるT細胞)を意味する。
【0165】
好ましくは、リポペプチドまたはワクチンは、寄生生物、細菌もしくはウイルスによる潜伏もしくは活性な感染を有しない被験体または癌に罹患していない被験体に予防目的で、あるいは寄生生物、細菌もしくはウイルスによる潜伏もしくは活性な感染を有する被験体または癌に罹患した被験体に治療目的で投与する。
【0166】
本発明において、用語「活性化する」とは、一過性または持続的に、CTLエピトープが由来する抗原を有する細胞を認識し溶解するT細胞の能力が増大されるか、または該抗原のT細胞エピトープを認識するT細胞の能力が増大されることを意味する。用語「活性化する」とはまた、寄生生物または細菌もしくはウイルスによる潜伏感染の活性化後、あるいは寄生生物または細菌もしくはウイルスによる再感染後、あるいは既に感染した被験体の本発明のリポペプチドまたは組成物による免疫後に、T細胞集団の再活性化を含むものである。
【0167】
当業者であれば、最適T細胞活性化がT細胞レセプター(TcR)による抗原/MHCの同系認識、およびT細胞上の種々の細胞表面分子と抗原提示細胞(APC)上の細胞表面分子との結合を含む共刺激を必要とすることは理解している。共刺激相互作用CD28/B7、CD40L/CD40およびOX40/OX40Lが好ましいが、T細胞活性化に必須ではない。他の共刺激経路も使用しうる。
【0168】
CTLもしくは前駆体CTLの活性化、またはエピトープ特異的活性のレベルを測定するために、検体中のCD8T細胞数をアッセイする標準的方法を用いうる。好ましいアッセイ形式は、細胞傷害性アッセイ(例えば標準的なクロム放出アッセイなど)、IFNγ産生のアッセイ(例えばELISPOTアッセイなど)を含む。これらのアッセイ形式は、後述の実施例において詳細に説明する。
【0169】
MHCクラス1四量体アッセイもまた用いることができ、特にCD8T細胞のCTLエピトープ特異的定量のために用いうる(Altman et al., Science 274:94-96;Ogg et al., Curr. Opin Immunol. 10, 393-396, 1998)。四量体を製造するために、MHC分子のカルボキシル末端、例えばHLA A2重鎖を、特異的なペプチドエピトープまたはポリエピトープと結合させ、それらに好適なリポーター分子(好ましくはフルオロクロム、例えばフルオレセインイソチオシアネート(FITC)、フィコエリトリン、フィコシアニンまたはアロフィコシアニン)が結合した四量体複合体が形成するように処理する。四量体の形成は、例えばMHC−ペプチド融合タンパク質をビオチニル化分子として産生し、その後、該ビオチニル化MHC−ペプチドと蛍光で標識した脱グリコシル化アビジンをモル比4:1で混合することにより行う。産生した四量体は、ペプチドがHLA制限である、被験体(例えば、全血またはPBMCサンプル中)由来のCD8T細胞のサブセット上のCD8T細胞レセプターの異なるセットに結合する。in vitroでのT細胞活性化または増殖について必要条件はない。結合後、未結合または非特異的結合四量体を除去するためにT細胞を洗浄し、特異的にHLA−ペプチド四量体と結合したCD8細胞数は、標準的なフローサイトメトリー法、例えばFACSCalibur Flow cytometer(Becton Dickinson)を用いて容易に定量しうる。四量体はまた、常磁性粒子または磁性ビーズに結合させ、非特異的に結合したリポーターの除去および細胞ソーティングを容易にしうる。かかる粒子は、市販供与源から容易に入手できる(例えば、Beckman Coulter, Inc., SanDiego, CA, USA)。四量体の染色は標識細胞を死滅させない。そのため細胞の完全性はさらなる分析のために維持される。MHC四量体により、特異的細胞免疫応答の正確な定量的分析が可能となり、さらには1%未満のCD8T細胞に起こるきわめて希少な自称についても分析可能となる(Bodinier et al., Nature Med. 6, 707-710, 2000;Ogg et al., Curr Opin Immunol. 10, 393-396, 1998)。
【0170】
試料中のCD8細胞の合計数はまた、例えば、試料を、四量体の検出に使用される種々のリポーター分子と複合したCD8に対するモノクローナル抗体と共にインキュベートすることにより容易に測定しうる。かかる抗体は容易に入手可能である(例えば、Becton Dickinson)。2つのリポーター分子からのシグナルの相対強度は、CD8細胞および四量体結合T細胞の合計数を定量し、四量体に結合した合計T細胞の割合を決定するために用いうる。
【0171】
CD4Tヘルパー細胞は、サイトカイン(例えばIL−2など)の産生因子としてCMI中で機能し、CD8T細胞の増殖を促進するか、またはAPCと相互作用して、それによりCD8T細胞の活性化能をより強力にする。サイトカイン産生はT細胞活性化の間接的な尺度となる。したがって、サイトカインアッセイをまた用いて、ヒト被験体におけるCTLもしくは前駆体CTLの活性化、または細胞媒介免疫のレベルを判定しうる。かかるアッセイでは、サイトカイン(例えばIL−2など)を検出するか、またはサイトカインの産生をエピトープ特異的反応性T細胞のレベルの指標として測定する。
【0172】
好ましくは、サイトカインレベルまたはサイトカイン産生を測定するために用いるサイトカインアッセイ形式は、本質的には、本明細書にアッセイの参照として組み入れるPetrovsky and Harrison, J. Immunol. Methods 186, 37-46, 1995により記載されている。
【0173】
好ましくは、サイトカインアッセイは全血またはPBMCまたは軟膜上で行う。
【0174】
好ましくは、リポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体またはワクチン組成物を、CD8T細胞の増殖の誘導または増強に十分な時間および時間で投与する。
【0175】
さらにより好ましくは、リポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体またはワクチン組成物を、被験体において増強させようとする細胞媒介免疫(CMI)に十分な時間および条件で投与する。
【0176】
「CMI」とは、活性化し、クローン増殖したCTLがMHCに制限され、CTLエピトープに特異的であることを意味する。CTLは、抗原特異性およびMHC制限に基づいて分類されている(すなわち、非特異的CTLと、抗原特異的なMHC制限CTL)。非特異的CTLは、種々の細胞型(NK細胞を含む)から構成され、免疫応答の非常に初期に機能し、病原体の量を低減し、その間に抗原特異的応答はまだ確立されている。対照的に、MHC制限CTLは、非特異的CTLよりも遅く、一般的に抗体産生の前に最適活性を示す。抗原特異的CTLは、病原体の拡散を阻害または低減し、好ましくは感染を終了させる。
【0177】
CTL活性化、クローン増殖またはCMIは、全身で、または組織に局所化して誘導しうる。組織に局所化した作用の場合には、その組織への投与に好適に製剤化したワクチン製剤を使用することが好ましい。一方、被験体の全身におけるCTL活性化、増殖またはCMIの誘導にはそのような厳密な要件はない。
【0178】
単独でまたはワクチン組成物のいずれかで、CTL活性化、クローン増殖またはCMIを誘発するために投与すべきリポペプチドの有効量は、免疫原性エピトープの性質、投与経路、免疫する被験体の体重、年齢、性別または全身の健康状態、および想定されるCTL応答の性質に応じて異なりうる。そのような変数はすべて当業者に認識される手段により経験的に決定される。
【0179】
リポペプチド、場合により任意の適当なまたは所望の担体、アジュバント、BRMまたは薬学的に許容される賦形剤と共に製剤化されたリポペプチドは、注入可能な組成物の形態で簡便に投与される。注入は、鼻腔内、筋肉内、皮下、静脈内、皮内、腹腔内または他の公知の経路でありうる。静脈内注射のためには、1以上の液体および栄養補充薬を含むことが望ましい。
【0180】
投与すべき最適量および好ましい投与経路は、動物モデルを用いて、例えばマウス、ラット、ウサギ、モルモット、イヌ、ウマ、ウシ、ヤギまたはブタにリポペプチドを含む製剤を注入し、その後任意の慣用のアッセイを用いてCTL免疫応答をモニターすることにより確立しうる。
【0181】
ヒトHLA A*0201アリルのα1およびα2ドメインとマウスH−2KクラスI分子のα3ドメインから構成されるキメラヒト−マウスクラスI主要組織適合抗原複合体(MHC)遺伝子座を有するHLA A2/Kトランスジェニックマウス(Vitiello et al., J. Exp. Med. 173, 1007, 1991)の使用は、HLA A2制限CTLエピトープまたはそれを含むワクチン組成物を含む本発明のリポペプチドに対する応答をin vivoで試験するために特に好ましい。
【0182】
何らかの理論または作用機構に拘束されるものではないが、本発明者は、リポペプチドの生物学的作用は、それらが樹状細胞を刺激および成熟する能力により発揮されると考えている。リンパ節の排液におけるCD4+およびCD8+T細胞を活性化させる。この理由のため、本発明者は想定されているように直接的にT細胞を活性化することが可能ではないと考えている。以下の節では、樹状細胞活性化の概念を理解するために修正している。
【0183】
関連する実施形態において、本発明は、被験体の細胞媒介免疫を増強する方法を提供し、該方法は、被験体から採取した細胞、好ましくは樹状細胞と免疫学的に活性な本発明のリポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体、あるいは該リポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体を含むワクチン組成物とを、該樹状細胞が成熟するのに十分な時間および条件で、ex vivoで接触させることを含む。該樹状細胞は、その後、T細胞のエピトープ特異的活性化を付与することが可能である。
【0184】
好ましい実施形態において、本発明は、被験体の細胞媒介免疫を増強する方法を提供し、該方法は、
(i)被験体から採取した樹状細胞と、免疫学的に活性な本発明のリポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体、あるいは該リポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体を含むワクチン組成物とを、該樹状細胞が成熟するのに十分な時間および条件で、ex vivoで接触させるステップ;ならびに
(ii)上記被験体に自系でまたは他の被験体に同系で活性化樹状細胞を導入し、T細胞活性化が起こるようにするステップ、
を含む。
【0185】
T細胞はCTLまたはCTL前駆細胞でありうる。
【0186】
樹状細胞を採取する被験体は、処置しようとする被験体と同じ被験体であってもよいしまたは異なる被験体であってもよい。治療対象の被験体は、病原体、例えば寄生生物、細菌またはウイルスによる潜在または活性感染を保持する被験体、あるいはそのような病原体に対するワクチン接種を受ける必要があるかまたはかかるワクチン接種を受けることが望まれる被験体であれば任意のものであってよい。治療対象の被験体はまた、腫瘍を有し、それを治療してもよい。
【0187】
「エピトープ特異的活性」とは、T細胞が本明細書で上述したように活性化される能力を有するようになる(すなわち、T細胞が、CTLエピトープが由来する病原体を有する細胞を認識し溶解するか、または一過性にもしくは持続的に病原体の抗原のT細胞エピトープを認識可能である)ことを意味する。従って、T細胞は、本発明の方法によりCTL前駆体が病原体を有する細胞を認識して溶解することができ、または一過性もしくは持続的に病原体の抗原のT細胞エピトープを認識することができるようになることが特に好ましい。
【0188】
上述したようなex vivo用途については、樹状細胞は被験体から採取される生物学的試料、例えば血液、PBMCまたはそれから得られる軟膜分画などに含まれることが好ましい。
【0189】
本発明の別の態様は、非感染被験体における病原体に対する免疫を提供または増強する方法を提供し、該方法は、該被験体に、免疫学的に活性な本発明のリポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体、あるいは該リポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体を含むワクチン組成物を、病原体による将来の感染に対する免疫学的記憶を提供するのに十分な時間および条件で投与するステップを含む。本明細書に記載のほかの実施形態と同様に、病原体は、寄生生物、ウイルスまたは細菌であり、好ましくはCTLエピトープが同定されている本明細書で上述した寄生生物、ウイルスまたは細菌である。
【0190】
関連の実施形態において、本発明は、非感染被験体における病原体に対する免疫を増強または付与する方法を提供し、該方法は、該被験体から採取した樹状細胞と、免疫学的に活性な本発明のリポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体、あるいは該リポペプチドまたはその誘導体もしくは変異体を含むワクチン組成物とを、T細胞に対するエピトープ特異的活性を付与するのに十分な時間および条件で接触させるステップを含む。
【0191】
従って、本発明のこの態様は、被験体への予防用ワクチンの投与を提供するものであり、該ワクチンの有効成分(すなわち本発明のリポペプチド)が、非感染個体におけるメモリーT細胞を介して免疫学的記憶を誘導する。被験体の細胞媒介免疫を増強するための本明細書に記載するワクチン接種プロトコールの好ましい態様は、同様に被験体における病原体に対する免疫学的記憶の誘導に適合する。
【0192】
本発明を、以下の非限定的な実施例および図面を参照してさらに詳細に説明する。マウスにおける本明細書で提供する実施例は、ヒトにおける対応疾患のモデルとして許容されており、当業者であれば、かかるモデルについて本明細書に提示した知見を過度の実験を行うことなくヒト疾患にも拡張可能であることを容易に理解しうる。
【実施例1】
【0193】
材料および方法
化学物質
別段の記載がないかぎり、化学物質は、分析グレードまたはそれと同等のグレードであった。N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、ピペリジン、トリフルオロ酢酸(TFA)、O’ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)およびジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)およびジイソプロピルカルボジイミド(DIPCDI)を、Auspep Pty.Ltd.、Melbourne、AustraliaおよびSigma−Aldrich Pty.Ltd.、Castle Hill、Australiaから入手した。O’ベンゾトリアゾール−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムテトラフルオロボレート(TBTU)を、Bachem、(Bachem AG、Switzerland)から入手した。ジクロロメタン(DCM)およびジエチルエーテルをMerck Pty Ltd.(Kilsyth、Australia)から入手した。フェノールおよびトリイソプロピルシラン(TIPS)をAldrich(Milwaulke、WI)から、トリニトロベンジルスルホン酸(TNBSA)およびジアミノピリジン(DMAP)をFlukaから、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセ−7−エン(DBU)をSigmaから、パルミチン酸をFlukaから入手した。
【0194】
ウイルス
本研究で使用したA型インフルエンザウイルスは、Mem71と称するH3N1サブタイプウイルスであり。A/Memphis/l/71(H3N2)×A/Bellamy/42(HIN1)の遺伝子再集合により誘導されたものである。ウイルスは、10日の発育鶏卵の尿膜腔において2日間増殖させた。ウイルスを含む尿膜腔液を−70℃でアリコートとして保存した。感染ウイルス力価は、Madin−Darbyイヌ腎(MKCK)細胞(Tannock et al, Infect. Immun. 43, 457-462, 1984)の単層におけるプラーク形成のアッセイにより得、PFU/ミリリットルで表す。
【0195】
細菌
リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)EGDは、ウマ血液アガー(HBA)プレート上で37℃にて一晩培養した。細菌は、滅菌PBSでプラークを洗浄し、濃度を5×10細胞/mlに調整した。Balb/cマウスに1×10リステリア細胞を静脈内から感染させた。用量は、HBAプレート上で連続10倍希釈でプレートすることにより回顧的にチェックした。
【0196】
ペプチド合成
インフルエンザウイルスCTLエピトープを含むペプチド
インフルエンザウイルスに由来するCD8+T細胞の最小の決定基および/またはCD4+T細胞の決定基を示すペプチドを組み込んだ一連の免疫原を合成した。配列TYQRTRALVを有するペプチドNP(147−155)(CTL決定基はPR8ウイルスのNP中に存在する、配列番号2)は、BALB/cマウスにより認識される主要なCD8+T細胞決定基であり、A型インフルエンザウイルス株に共通している(Bodmer et al, Cell 52, 253-258, 1988; and Sherman et al, J. Exp. Med. 175, 1221-1226, 1992)。配列ALNNRFQIKGVELKS(配列番号1)を有するペプチドHA2(166−180)は、Mem71インフルエンザウイルスの赤血球凝集素のHA2鎖内に存在するCD4Tヘルパー決定基であり、H3サブタイプの全てのウイルスと交差反応するCD4+T細胞を誘発する(Jackson et al, Virology 198, 153-170, 1994)。
【0197】
L.モノサイトゲネスCTLエピトープを含むペプチド
L.モノサイトゲネス由来のアミノ酸配列GYKDGNEYI(タンパク質リテリアリシンの残基91−99)(すなわち配列番号172)およびCDV−F由来のTヘルパーエピトープ(配列番号20)を有する最小のCTLエピトープを組み込んだ免疫原ペプチドを合成した。
【0198】
B16−OVA腫瘍細胞系により発現されるCTLエピトープを含むペプチド
アミノ酸配列SIINFEKL(配列番号173)およびCDV−F由来のTヘルパーエピトープ(配列番号20)を有するCTLエピトープを組み込んだ免疫原ペプチドを合成した。
【0199】
C型肝炎ウイルスのコアタンパク質由来のCTLエピトープを含むペプチド
アミノ酸配列DLMGYIPLV(配列番号176)およびCDV−F由来のTヘルパーエピトープ(配列番号20)を有するCTLエピトープを組み込んだ免疫原ペプチドを合成した。
【0200】
一般的手順
合成免疫原をFmoc化学を用いる慣用の固相法により構築した。ペプチド合成に使用した一般的手順はJackson et al., Vaccine 18, 355 (1999)により記載されている。CD4TエピトープとCTLエピトープとの液体結合を行うために、Fmoc−lリジン(Mtt)−OHを樹脂結合ペプチドのほぼ中央における2つのエピトープの間に挿入した。ペプチド合成の後、Mtt基をジクロロメタン中1%TFAを用いた30〜45分にわたる連続した流れ洗浄により除去した。
【0201】
式(I)の脂質部分の合成
PamCysを、Zeng et al.、J Pept Sci 2,:66(1996)に記載の方法によって改変されたWeismuller et al.、Hoppe Seylers Z Physiol Chem 364、593(1983)に記載された方法によって調製した。リポアミノ酸PamCysを、Zeng et al.(上記)によって記載された手順に従ってリジンの露出したε−アミノ基に結合(couple)させる。簡単に説明すると、2倍過剰のPamCys、TBTUおよびHOBtをDCMに溶解し、3倍過剰のDIPEAを添加した。次いで、この溶液を、樹脂に結合したペプチドに添加して、リポペプチドを製造した。
【0202】
式(II)の脂質部分の合成
PamCysは、3−ブロモ−プロパン−1,2−ジオールを3−クロロ−プロパン−1,2−ジオールの変わりに使用し、濾過ではなく遠心により生成物を回収したことを除いて、Jones et al.、Xenobiotica 5、155(1975)およびMetzger et al.、Int J Pept Protein Res 38、545(1991)に記載の方法によって調製した。
【0203】
リポペプチドの合成
本研究で製造したリポペプチドは図1に示す一般構造を有する。種々のリポペプチドに含まれるペプチド部分のアミノ酸配列を図2に示す。PamCysは、Jones et al.、Xenobiotica 5、155(1975)およびMetzger et al.、Int J Pept Protein Res 38、545(1991)に記載の方法を以下の改変を加えて用いてペプチドに結合させた。
【0204】
I.S−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システインの合成:
トリエチルアミン(6g、8.2ml、58mmol)を、L−システイン塩酸塩(3g、19mmol)と3−ブロモ−プロパン−1,2−ジオール(4.2g、2.36ml、27mmol)の水溶液に添加し、その均一溶液を室温で3日間保持した。その溶液を真空中40℃で濃縮して白色残渣とし、それをメタノール(100ml)とともに煮沸し、遠心分離して、その残渣を水(5ml)に溶解した。この水溶液をアセトン(300ml)に添加し、遠心分離して沈殿物を単離した。この沈殿物を、アセトンを用いて水から数回沈殿させて精製して、白色アモルファス粉末のS−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システイン(2.4g、12.3mmol、64.7%)を得た。
【0205】
II.N−フルオレニルメトキシカルボニル−S−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システイン(Fmoc−Dhc−OH)の合成:
S−(2,3−ジヒドロキシプロピル)システイン(2.45g、12.6mmol)を、9%炭酸ナトリウム(20ml)に溶解した。フルオレニルメトキシカルボニル−N−ヒドロキシスクシンイミド(3.45g、10.5mmol)のアセトニトリル(20ml)溶液を添加し、その混合物を2時間攪拌し、次いで水(240ml)で希釈し、ジエチルエーテル(25ml×3)で抽出した。その水相を濃塩酸でpH2に酸性化し、次いで、酢酸エチル(70ml×3)で抽出した。その抽出物を水(50ml×2)および塩化ナトリウム飽和溶液(50ml×2)で洗浄し、硫酸ナトリウムで脱水し、蒸発乾固させた。エーテルおよび酢酸エチルから−20℃で再結晶させて無色粉末(2.8g、6.7mmol、63.8%)を得た。
【0206】
III.樹脂に結合したペプチドへのFmoc−Dhc−OHのカップリング:
Fmoc−Dhc−OH(100mg、0.24mmol)を、DCMおよびDMF(1:1、v/v、3ml)中でHOBt(36mg、0.24mmol)およびDICI(37ul、0.24mmol)を用いて0℃で5分間活性化した。次いで、その混合物を、樹脂に結合したペプチド(0.04mmol、0.25gアミノ−ペプチド樹脂)を含む容器に添加した。2時間振とうした後に、溶液をろ過して除去し、樹脂をDCMおよびDMF(各3×30ml)で洗浄した。TNBSA試験を用いて反応終了をモニターした。必要に応じて、カップリングを2回実施した。
【0207】
IV.Fmoc−Dhc−ペプチド樹脂の2個のヒドロキシ基のパルミトイル化:
パルミチン酸(204mg、0.8mmol)、DICI(154ul、1mmol)およびDMAP(9.76mg、0.08mmol)をDCM 2mlおよびDMF 1mlに溶解した。樹脂に結合したFmoc−Dhc−ペプチド樹脂(0.04mmol、0.25g)をこの溶液に懸濁し、16時間室温で振とうした。ろ過して溶液を除去し、次いで樹脂をDCMおよびDMFで十分洗浄して尿素の残渣を除去した。Fmoc基の除去を2.5%DBUを用いて実施した(2×5分)。
【0208】
すべての樹脂結合ペプチド構築体を、固相支持体から試薬B(88%TFA、5%フェノール、2%TIPS、5%水)を用いて2時間かけて切断し、Zeng et al.、Vaccine 18、1031(2000)に記載されたように逆相クロマトグラフィーによって精製した。
【0209】
分析用逆相高圧液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)を、Waters HPLCシステム中に組み込まれたVydac C4カラム(4.6×300mm)を用いて実施し、0.1%TFA水溶液および0.1%TFAのCHCN溶液を限界溶媒(limit solvent)として用いて流量1ml/分で展開した。すべての生成物は、分析用RP−HPLCによって主要な単一ピークとして現れ、遅延イオン抽出(delayed ion extraction)を備えたBruker BIFLEX装置を用いたMALDI−TOF質量分析法によって分析したところ、予想どおりの質量であった。免疫原の最終定量を、ペプチド構築体中のトリプトファン残基およびチロシン残基の存在を利用して280nmにおける吸収を測定することによって実施した(モル吸光係数6.6×10)。
【0210】
場合により、2つのセリン残基(Ser−Ser)を、ペプチドと脂質部分の間に付加した。この場合、セリン残基は脂質部分を結合する前に二中央のリジン残基のεアミノ基に付加した。
【0211】
本研究に使用したペプチドおよびリポペプチドの概要は図1に示す。
【0212】
免疫手順
インフルエンザウイルスCTLエピトープを含むペプチド
6〜8週齡の5匹のBALB/c雌マウスの各グループを0日および再度28日に接種した。皮下(s.c.)接種(100μl容量の生理食塩水/用量)の場合には、9nmolのリポペプチド構築体を生理食塩水中に調製し、非脂質付加ペプチドを一次注射の場合には等容量の完全フロイントアジュバント(CFA)、二次接種の場合には等容量の不完全フロイントアジュバントのエマルジョンとして処方した。鼻腔内(i.n.)接種の場合には、ペントレン吸入によって麻酔したマウスの鼻孔に9nmolのペプチド(50μlの生理食塩水中)を投与した。
【0213】
L.モノサイトゲネスのCTLエピトープを含むペプチド
5匹のBALB/cマウスに、9nmolの非脂質付加ペプチド([P25]−Lys−[LLO91−99])、または脂質付加ペプチド([P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99])(この分子のほぼ中央における2つのエピトープの間に脂質が結合している)、あるいは1000の細菌を接種した。ペプチドワクチンの場合には接種は皮下で行い、細菌の場合には静脈内に接種した。CTLエピトープまたは抗原なしでのin vitro刺激の28日後に、脾臓に存在するインターフェロンγ産生細胞の数を測定した。縦軸は、1,000,000脾細胞あたりのインターフェロンγ産生細胞数を示す。
【0214】
オボアルブミンのCTLエピトープを含むペプチド
9匹のC57BL/6マウス(8−10週齢)のそれぞれを、100μl量の生理食塩水中の20nmolの脂質付加[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL]または非脂質付加[P25]−Lys−[SIINFEKL]ペプチドで皮下に免疫した。脂質付加ペプチドの場合には、脂質をその分子のほぼ中央における2つのエピトープの間に結合した。
【0215】
C型感染ウイルスのコアタンパク質のCTLエピトープを含むペプチド
ヒト単球由来の樹状細胞を、リポペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[HCV](5μg/mL)と共に48時間インキュベートした後、HLA−DR、CD83およびCD86についてFITC複合抗体で染色し、フローサイトメトリーで分析した。
【0216】
インフルエンザウイルスによる免疫マウスの負荷(チャレンジ)
既にインフルエンザウイルスのCTLエピトープを含むペプチドで免疫したペントレン麻酔マウスに、104.5PFUの感染性Mem71インフルエンザウイルスを鼻腔内(in)により負荷(チャレンジ)した。各マウスには、50μlのウイルスをPBSに希釈した尿膜腔液の形態で投与した。負荷の5日後に、マウスを頚部脱臼により死滅させ、肺を取り出し、1ml当たり100Uのペニシリン、100μgのストレプトマイシン、および30μgのゲンタマイシンを添加した1.5mlのハンクス平衡塩溶液を含む容器に無菌で移した。肺ホモジネートは、組織ホモジナイザーを用いて調製し、細胞物質は300×gで5分間遠心することによりペレット化した。上清を取り出し、アリコートに分割し、−70℃で必要になるまで保存した。肺上清中の感染ウイルス力価は、MDCK細胞の単層におけるプラークアッセイにより測定した(Tannock et al, Infect. Immun. 43I, 457-462, 1984)。
【0217】
L.モノサイトゲネスによる免疫マウスの負荷
9nmolペプチド免疫原もしくはPBSで皮下免疫したマウス、または1000細菌で静脈内免疫したマウスに、初回免疫の28日後に細菌を静脈内注射で負荷した。肝臓中に存在する細菌のコロニー形成単位の数を負荷の28日後に測定した。
【0218】
腫瘍細胞による免疫マウスの負荷
メラノーマ負荷
非脂質付加[P25]−Lys−[SIINFEKL]または脂質付加ペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL]の接種の14日後に、各群からの6匹のマウスに、オボアルブミン[B16−OVA]を発現しそのためCTLエピトープSIINFEKLを発現する(Bellone, et al, J. Immunol. 165:2651−2656)2×10個のメラノーマ細胞を負荷した。注射前に注射部位の周囲の毛を電気カミソリで除去し、腫瘍の拡大の測定を容易にした。成長する腫瘍をモニターし、腫瘍サイズが15×15mmになったときに動物を犠牲にした。平均腫瘍面積は、腫瘍負荷後の示す日数において各処置群で計算した。
【0219】
ルイス肺癌負荷
マウスに、オボアルブミンをトランスフェクトし、それゆえCTLエピトープSIINFEKLを発現する(Nelson et al., Immunol. 166:5557-5566, 2001)3×10のルイス肺癌細胞を注射した。癌細胞の投与の4日後、動物の尾の基部に20nmol脂質付加ペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL]、非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[SIINFEKL]、またはPBSを皮下経路でワクチン接種した。癌細胞の投与の11日後に、2回目の用量の免疫原を投与した。動物を腫瘍発生率および生存についてモニターし、腫瘍面積が100mmを超える場合には動物を安楽死させた。
【0220】
ペプチド特異的CD8T細胞の四量体染色
リポペプチド免疫原中のインフルエンザウイルス株A/Puerto Rico/8/34 (PR8;H1N1)の核タンパク質のアミノ酸残基147〜155からなるH−2K制限CTLエピトープ(配列番号2に示す)に対し特異的なCD8T細胞は、H−2K糖タンパク質と結合したCTLペプチド(TYQRTRALV、配列番号2)との四量体複合体を用いて同定した(Bodmer et al, Cell 52: 253-258, 1988;Sherman et al, J. Exp. Med. 175: 1221-1226, 1992)。単量体は、Professor Peter Doherty(Department of Microbiology and Immunology, University of Melbourne)から寄贈されたもので、St. Jude Children’s Research Hospital(Memphis TN, USA)で作製されたものである。四量体は、上記単量体を、ストレプトアビジン−フィコエリトリン(Molecular Probes, Eugene, OR, USA)とモル比4:1でインキュベートすることにより作製した。
【0221】
肺からのリンパ球を、最初に20μLの正常マウス血清(NMS)で5分間室温で処理し、続いて四量体複合体で1:25の希釈で染色した。この後、アロフィコシアニンと複合した抗CD8α(53−6.7)で氷上で30分かけて染色し、蛍光活性化セルソーター(FACSort, Becton Dickinson, San Jose’s, USA)により分析した。データはFlowJo(Tree Star, Inc, CA, USA)で解析した。
【0222】
T細胞培養培地
T細胞培養培地は、10%(vol/vol)熱不活化ウシ胎児血清、2mM L−グルタミン、2mM ピルビン酸ナトリウム、30μgのゲンタマイシン/ml、100μgのストレプトマイシン/ml、100IUのペニシリン/ml、および10−4M 2−メルカプトエタノールを添加したRPM11640(CSL Ltd.)からなるものとした。
【0223】
細胞傷害性T細胞アッセイ
2次エフェクター細胞は、7日前にリポペプチドで皮下に免疫したマウスの鼠径および膝窩リンパ節、または少なくとも28日前にリポペプチド免疫原で初回免疫したマウスの脾臓細胞のいずれかから生成した。簡単に説明すると、4×10のリンパ節細胞または脾細胞を、Tris緩衝化塩化アンモニウム(17mM Tris−HCl中0.15M NHCl、pH7.2)で処理して赤血球を枯渇させ、15mlのT細胞培養培地を入れた25cm組織培養フラスコ(Falcon)中で10の照射(2,200rad、60Co源)ウイルス感染またはリポペプチドで刺激した同系脾細胞と共に培養した。ウイルス感染脾細胞は、1mlの血清不含RPM1中の3,000赤血球凝集単位の感染性Mem71またはPR8と共に37℃で30分間プレインキュベートし、フラスコに添加する前に1度洗浄した。リポペプチドで刺激した脾細胞は、100μgのCTLリポペプチド/mlで37℃で60分間プレインキュベートし、またフラスコに添加する前に1度洗浄した。5%COを含む湿潤環境において37℃で5分培養した後、細胞を3回洗浄し、51Cr放出アッセイに用いた。51Cr放出アッセイは、既に記載されているようにP815肥満細胞腫細胞(H−2、DBA/2)を標的として用いて3連で行った(Harling-McNabb et al, Int. Immunol. 11, 1431-1439, 1999)。
【0224】
in vivo細胞傷害性T細胞アッセイ
種々のペプチドに基づく免疫原がエピトープ特異的CTLを誘導する能力についてin vivoで判定した。3匹のマウスの群に、種々のリポペプチド(50μlのPBS中)を鼻腔内に接種し、28日目にMem71を負荷した。in vivoにおけるCTL決定基特異的細胞傷害性を分析するために、同系脾細胞をCTL決定基で刺激し、高強度CFSEで標識した。低強度CFSE(0.25μ )で標識した非刺激脾細胞を同時に注射することにより抗原特異的溶解を制御した。各標的細胞集団の15×10細胞の混合物を未処理マウスに感染の4日後に静脈内投与した。16時間後にマウスを死滅させ、フローサイトメトリーによりCFSE高およびCFSE低細胞集団の存在について脾臓を分析した。1×10個のリンパ球を各試料について分析した。
【0225】
IFNγ分泌細胞についてのELISPOTアッセイ
CTL特異的IFNγ分泌細胞を、Murali-Krishna et al, Immunity 8, 177-187, 1998のもにから改変したELISPOTアッセイにより計数した。平底塩化ポリビニルマイクロタイタープレート(96ウエル、Dynatech)を、50μlのラット抗マウスIFNγ抗体(クローンR4−14a2)(PBS中5μg/ml)で一晩コーティングした。ウエル上の空いている部分は、10mgウシ血清アルブミン/ml(PBS中)で1時間インキュベートすることによりブロッキングし、プレートを0.05%Tween20(PBST)を含むPBSで3回洗浄した。T細胞培地中の脾臓またはリンパ節細胞の2回希釈物を、非免疫マウス由来の5×10の照射(2,200rad、60Co源)同系脾細胞、および10Uの組換えヒトインターロイキン−2(Pharmingen, San Diego, Calif.)/ウエルと共にウエルに添加した。細胞をCTLペプチドの存在下または不在下で(1μgペプチド/mlの濃度)5%CO中で18時間かけて37℃でインキュベートした。続いて細胞を溶解し、プレートを最初に蒸留水で次にPBSTで洗浄して除去した。次に、50μlの500倍希釈のビオチニル化抗(マウスIFNγ)抗体(クローンXMG1.2、Pharmingen)を添加し、プレートを室温で2時間インキュベートした。プレートを再度洗浄し、50μlのストレプトアビジン−アルカリホスファターゼ(Pharmingen、5mgのウシ血清アルブミン/mlのPBST中に400倍希釈)を各ウエルに添加した。混合物を次にさらに2時間インキュベートした。プレートを洗浄し、2−アミノ−2−メチル−1−プロピノールバッファー(Sigma)の1ml当たり1mgのBCIP(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート)を含む100μlのELISPOT基質(Sedgwick et al, J. Immunol. Methods 57, 301-309, 1983)を各ウエルに添加した。青色緑色スポットを現像し、プレートを水で洗浄して乾燥し、スポットを反転顕微鏡を用いて計数した。
【0226】
D1樹状細胞培養
樹状細胞(DC)を、完全IDDMに基づく培地中で培養した。これは、25mM HEPESを含みα−チオグリセロールまたはL−グルタミン(JRH Bioscience、Lenexa、USA)を含まず、10%(v/v)熱失活(56℃、30分)ウシ胎児血清(CSL Ltd.、Parkville、Victoria、Australia)、ゲンタマイシン(24μg/mL)、グルタミン(2mM)、ピルビン酸ナトリウム(2mM)、ペニシリン(100IU/mL)、ストレプトマイシン(180μg/mL)および2−メルカプトエタノール(0.1mM)を添加したイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)からなるものとした。DC産生の場合には、培養NIH/3T3細胞から得られる30%上清、およびGM−CSF遺伝子をトランスフェクトしたAg8653細胞から得られる上清の形態の5%GM−CSFを完全IMDMにさらに添加した(DC培地)。
【0227】
未成熟樹状細胞の培養方法は、Winzler et al.、J.Exp Med.185、317(1997)に基づくものであった。BALB/cマウスから得た脾臓細胞を3ml DC培地中に1.5×10細胞/55mmシャーレ(Techno−Plas、S.A.、Australia)で播き、37℃、5%COでインキュベートした。培養に使用した装置はすべて発熱性物質を含んでいなかった。培地を4日ごとに交換し、全細胞をシャーレに戻した。12日目に、懸濁した細胞と弱く接着した細胞の両方を強制的にピペットで回収し、次いで培地を吸引した。この手順をPBS 2mlを用いて繰り返した。残りの強く接着した細胞は廃棄した。回収した細胞を遠心分離によってペレットにし、新しいシャーレに再度播いた。引き続き、4日ごとの培地交換と継代の交互サイクルで細胞を維持した。連続培養1カ月後に、浮遊細胞および半接着細胞が出現し、未成熟DCの染色特性を呈し、D1細胞と呼ばれるようになる。これらの継代条件下で、培養D1細胞の大多数が、中程度の発現レベルの細胞表面MHCクラスII分子を特徴とする未成熟表現型を維持する。
【0228】
D1細胞のフローサイトメトリー分析
D1細胞(1×10細胞/試料)を、DC培地1mlを含む新しいシャーレに播き、リポペプチド0.0045nmolとともにインキュベートし、完全IMDM培地に溶解した。大腸菌(E.coli)血清型O111:B4から精製されたリポ多糖(LPS;Difco、Detroit、Michigan、USA)を5μg/mLでDC成熟の陽性対照として使用した。終夜インキュベートした後に、細胞を収集し、1%FCSを含むPBSで1回洗浄した。FCγRII/IIIへの非特異的結合を防止するために、細胞を正常マウス血清20μLとともに5分間室温でプレインキュベートした。次いで、細胞をFITC複合モノクローナル抗体14−4−4S(IgG2a、抗l−Ek,d;Ozato et al.、J.Immunol、124、533、1980)に氷上で30分間暴露した。Tヘルパーエピトープが由来するインフルエンザウイルスの抗原に特異的であるモノクローナル抗体36/1(Brown et al.、Arch Virol 114、1 1990)をアイソタイプ対照として使用した。すべての抗体を2.5μg/mLで使用した。試料を、1%FCSを含むPBSで1回洗浄し、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSを用いて氷上で15分間かけて固定した。フローサイトメトリー分析をFACSort(Becton Dickinson、San Jose、USA)を用いて実施し、データをFlowJoソフトウェア(Tree Star,Inc.、San Carlos、CA、USA)を用いて分析した。
【0229】
ヒト樹状細胞培養
単球由来の樹状細胞の生成
末梢血単核細胞(PMBC)は、Ficoll Paque(Amersham Pharmacia, Swede)勾配分離により、血液ドナー(Red Cross Blood Bank, Melbourne, Australia)から得た軟膜調製物から調製した。細胞をPBS中で3回洗浄し、最適量のネズミ抗CD14ハイブリドーマ上清(3C10, American Type Culture Collection)と共に氷上で45分間インキュベートした。2回洗浄後、細胞をさらにヤギ抗ネズミIgGマイクロビーズ(Miltenyi Biotech, Germany)と共に製造業者のプロトコールに従ってインキュベートした。CD14+単球を次に磁石活性化セルソーティング(MACS)カラムを用いたアフィニティ精製により陽性選択した。未成熟DCは、10%FCS(CSL, Australia)、2mmol/Lグルタミン、2mmol/Lピルビン酸ナトリウム、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、30μg/mlゲンタマイシンおよび0.1mmol/L 2−メルカプトエタノールを含むRPMI−1640(Gibco, USA)を添加したGM−CSFおよびIL−4(それぞれ40ng/mlおよび20ng/ml[Schering Plough, USA])中で単球を培養することにより生成した。細胞を2日ごとに培地を半分量交換しながら使用前に5日間培養した。
【0230】
DC成熟の測定
ペプチドおよびリポペプチドに基づく免疫原がヒト単球由来の樹状細胞上でMHCクラスII、CD83およびCD86の発現をアップレギュレートする能力を、5×10細胞(ml当たり)を、GM−CSFおよびIL−4、ならびにLPS(5μg/mL)、非脂質付加[Th]−Lys−[CTL](5μg/mL)、またはリポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL](5μg/mL)のいずれかを添加した培地中で2日間にわたりインキュベートすることにより判定した。表面マーカーの表現型分析は、HLA−DR(G46−6[L243])、CD83(HB15e)、CD86(カタログ番号2331[FUN−1])に対するフルオロクロム複合モノクローナル抗体、および適当なアイソタイプが一致する抗体(MOPC−21およびG155−178、Becton Dickinson(USA))による染色により製造業者のプロトコールに従って実施した。次に細胞を洗浄し、1%ホルムアルデヒドで固定し、フローサイトメーターで分析した。ヒストグラムは、前方および側方スキャッタードットプロットにゲートした大きな顆粒細胞を示す。ヒストグラムの灰色領域および関連する数値は、高レベルのCD83、CD86またはHLA−DRを発現する細胞集団の割合(%)を特定する。
【実施例2】
【0231】
インフルエンザウイルスに由来するCTLエピトープを含むリポペプチドの免疫原性
インフルエンザウイルス由来のCTLエピトープを有するリポペプチド、特に配列番号4に示すアミノ酸配列を含むリポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]および[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]を、それらがCTL媒介ウイルスクリアランスの増強を誘導し、樹状細胞の成熟を増強する能力について試験した。陰性対照として、配列番号4に示すアミノ酸配列を有する非脂質付加ペプチドを全ての実験で用いた。
【0232】
ウイルスクリアランス
リポペプチドは、非脂質付加ペプチドよりもウイルスクリアランスの高いレベルを誘発した(図3、4a)。リポペプチドで初回免疫し、9日後に感染性Mem71ウイルスを負荷したマウスの肺におけるウイルス負荷は、PBS単独で免疫したマウスからの試料と比較して95%([Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL];図3)、または99%([Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL];図3)低減した。対照的に、非脂質付加ペプチドは、ウイルス負荷の65%低減しか達成しなかった([Th]−Lys−[CTL];図3)。増強されたウイルスクリアランスはまた、最初の接種後Mem71ウイルスを負荷したリポペプチド接種動物において観察された。対照的に、ウイルスをクリアランスする能力は、この時点で非脂質付加ペプチドを接種したマウスにおいて有意に低い。
【0233】
図4bに示すように、BAL液に見とめられるCD8T細胞数によりわかるように、図2の説明に示すリポペプチドを投与した免疫マウスにおいては、非脂質付加ペプチドまたはPBSのみを投与したマウスと比較して、CD8T細胞活性化が増強していた。
【0234】
樹状細胞の成熟
2次リンパ器官における未処理CD4+T細胞およびCD8+T細胞の刺激は、抗原エピトープへの曝露の際にDCの成熟に先行していた。この成熟は、DC表面上でのMHC生成物および共刺激分子のアップレギュレーションを特徴とする。それゆえ本発明者は、これらのワクチン候補の異なる免疫原性質を説明するために、種々ペプチドおよびリポペプチドが樹状細胞を示差的に活性化するかどうかを判定した。
【0235】
未成熟DC(D1細胞)の系をペプチドに曝露し、MHCクラスII分子の表面発現について染色し、フローサイトメトリーにより分析した実験の結果は、[Th]−Lys−[CTL]ペプチドまたは培地単独と比較して、ペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]または[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]への曝露後に樹状細胞の成熟の増強があることを実証している(図4c)。
【0236】
DCの成熟を引き起こすには、[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]が最も有効であり、非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[CTL]が最も有効ではなかった。また、[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]は[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]と同程度の有効性であった(図4c)。脂質付加ペプチド [Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]がクラスII発現をアップレギュレートする能力は、細菌リポ多糖(LPS)と同様であった。非脂質付加ペプチドは、培養中に自然に行うレベルよりも約26%高くD1細胞の成熟を誘導することができなかった。これらのリポペプチドがD1細胞の成熟を誘導する能力は、BALにおけるCTL媒介ウイルスクリアランス応答およびCD8+T細胞を誘導する能力を直接反映するものである。
【0237】
in vitroおよびin vivoにおける細胞傷害性およびT細胞増殖に対する種々の脂質の作用
種々の脂質(PamCys、PamCys、PamCys、パルミチン酸およびコレステロールを含む)をペプチド免疫原に結合させる作用を判定した。
【0238】
図5に示すように、PamCys含有リポペプチドで初回免疫したマウスの肺におけるウイルス負荷は、他の試験した脂質を含むリポペプチドで初回免疫したマウスよりも低かった。このことは、PamCysがウイルスに対する防御を付与するのに好ましいことを示唆している。しかしながら、全ての脂質は、ウイルスに対する防御をある程度付与していた。この作用はまた、IFNγCD8+T細胞数に反映されていた(図6)。まとめると、これらのデータは、最大の細胞傷害作用については[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]エピトープ構造であるように、脂質をシステイングリセロール残基に結合することが重要であることを示唆している。
【0239】
四量体アッセイにおいては、非脂質付加ペプチドまたはペプチドのN末端に脂質を有するリポペプチド(図7に示す構築物PalLysLys[Th]−[CTL])と比較して、最高の四量体陽性CD8+T細胞数(肺当たり)が、脂質部分を内部リジン残基のεアミノ基に付加したリポペプチド(たとえば、図7に示すリポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]、[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]、[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]、および[Th]−Lys(CholLys−Ser−Ser)−[CTL])において観察された。これらのデータはまた、内部リジン残基のεアミノ基への結合による、ペプチドの内部への脂質の配置が、CTLエピトープの細胞傷害活性の増強に重要であることを実証している。
【0240】
in vivoにおけるCTL決定基特異的細胞傷害性を分析するために、マウスにPBS中9nmolの種々のリポペプチドを鼻腔内接種し、28日目にMem71を負荷した。in vivoにおけるCTL決定基特異的細胞傷害性はCTL決定基で刺激し、高強度CFSEで標識した同系脾細胞を用いて測定した。低強度CFSEで標識した非刺激脾細胞を対照として用いた。各標的細胞集団の細胞の混合物を感染の4日後に静脈内注射した。16時間後にマウスを死滅させ、フローサイトメトリーによりCFSE高およびCFSE低細胞集団の存在について脾臓を分析した。合計1×10個のリンパ球を各試料について分析した。図8に示すデータは、未処理マウスにおける細胞傷害性T細胞活性を示すグラフであり、図9は、配列番号1に示すCD4Tヘルパーエピトープおよび配列番号2に示すH−2制限CTLエピトープを含むリポペプチド[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]がin vivoで有意な細胞傷害性を誘導することを示す。
【0241】
図10に示すように、リポペプチドは、非脂質ペプチドよりも高い活性を有し、[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]、[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]、および[Th]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[CTL]と称するリポペプチドにより、非脂質付加ペプチド[Th]−Lys−[CTL]および試験した他のペプチドと比較して、in vivoにおける特異的溶解の顕著な増大がもたらされる。これらのデータは、内部リジン残基のεアミノ基への結合による、ペプチドの内部への脂質の配置がin vivoにおいてCTLエピトープの細胞傷害活性を増強することを実証する。
【実施例3】
【0242】
L.モノサイトゲネス由来のCTLエピトープを含むリポペプチドの免疫原性
L.モノサイトゲネス由来のCTLエピトープを有するリポペプチド、特に配列番号175に示すアミノ酸配列を含むリポペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99]を、そのCD8T細胞応答を誘導する能力、およびL.モノサイトゲネスの負荷に対する防御能について試験した。陰性対照として、PBS、または配列番号175に示すアミノ酸配列を有する非脂質付加ペプチドを全ての実験で用いた。単離された細菌を陽性対照として用いた。
【0243】
脾細胞によるIFNγ産生
本研究で試験したリポペプチドは、免疫CTLエピトープに対して特異的なCD8T細胞応答を誘導した。これは、非脂質付加ペプチドと比較して脂質付加ペプチドで免疫したマウスに存在するIFNγ産生脾細胞の数の増大により実証される。配列番号175に示すアミノ酸配列を含む9nmolの脂質付加ペプチドワクチン[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99]で免疫したマウスは、非脂質付加ペプチドまたはPBS対照を投与したマウスよりも、10脾細胞あたりのIFNγ産生細胞数が約15倍も多かった。このことは、脂質付加ペプチドを投与したマウスにおけるIFNγを産生するCD8T細胞の活性化の増大を示している(図11)。
【0244】
単離された細菌による負荷に対する防御
図12に示すデータは、脂質付加[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99]ペプチドが、全細菌による後続の負荷に対する防御をもたらすことを示している。また、非脂質付加[P25]−Lys−[LLO91−99]ペプチドで免疫したマウスまたはPBSで免疫したマウス(すなわち非免疫マウス)と比較して、脂質付加[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99]ペプチドで免疫したマウスにおいても有意に増強した防御が観察された。
【実施例4】
【0245】
腫瘍細胞による負荷に対する防御
メラノーマ細胞による負荷に対する防御
オボアルブミンCTLエピトープ(SIINFEKL)を含有するリポペプチドワクチンがCTlエピトープを発現するメラノーマ細胞(B15−OVA細胞)に対する防御を誘導する能力を評価した。IFNγ産生は、オボアルブミンのCDV−F Tヘルパーエピトープ(P25)およびCTLエピトープ(SIINFEKL)を含み、そのエピトープの間に位置する内部リジン残基のεアミノ基を介してPamCysと結合したリポペプチド(すなわち、図2に例示した[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL]、配列番号174に基づく)を接種したマウスにおいて測定した。C57BL/6マウスの尾の基部に、20nmolの脂質付加ペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL]、非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[SIINFEKL]、またはPBSを皮下経路でワクチン接種した。続いて、その14日後に、マウスの背中にB16−OVA細胞を皮下接種で負荷した。接種した動物から脾細胞を採取し、配列SIINFEKLを有するCTLエピトープでin vitroで刺激し、1,000,000脾細胞当たりのIFNγ産生細胞を測定した。データは、リポペプチドを接種したマウスについてのIFNγ産生細胞の数の増大を示し(表1)、このことは、非脂質付加ペプチドと比較してリポペプチドのT細胞活性化能の増大を示している。
【0246】
重要なことに、腫瘍増殖の制御は、非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[SIINFEKL]またはPBS単独を免疫したマウスと比較してリポペプチドでの免疫により誘導された(図13)。[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL]で免疫したマウスにおいては15日間にわたって腫瘍の増殖は観察されなかった。一方、[P25]−Lys−[SIINFEKL]またはPBS単独で免疫したマウスでは、直径75mmを超える腫瘍が観察された。これらのデータは、非脂質付加ペプチドと比較して、腫瘍に対する防御におけるリポペプチドの防御能を確証するものである。
【表1】

【0247】
ルイス肺腫瘍細胞による負荷に対する防御
動物においてin vivoでリポペプチドがルイス肺癌発達に対する防御をもたらす能力もまた試験した。マウスに、オボアルブミンをトランスフェクトし、それゆえCTLエピトープSIINFEKLを発現する(Nelson et al., Immunol. 166:5557-5566, 2001)3×10のルイス肺癌細胞を注射した。癌細胞の投与の4日後、動物の尾の基部に20nmol脂質付加ペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[SIINFEKL]、あるいは非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[SIINFEKL]、またはPBSを皮下経路でワクチン接種した。癌細胞の投与の11日後に、2回目の同量の免疫原を投与した。図14に示すデータは、少ない創傷発達を有する動物の割合(%)が、非脂質付加ペプチドまたはPBSを投与した動物と比較してリポペプチドを投与した動物が有意に高いことを示す。図15に示すように、リポペプチド免疫原を投与した動物はまた、非脂質付加ペプチドまたはPBSを投与した動物よりも生存期間が長かった。これらのデータはさらに、非脂質付加ペプチドと比較して腫瘍に対する防御についてリポペプチドの防御能を確証するものである。
【実施例5】
【0248】
CDV−F TヘルパーエピトープおよびC型肝炎ウイルス由来のCTLエピトープを含むリポペプチドの投与後のヒト樹状細胞上のMHCクラスII、CD83およびCD86の発現の増大
図2の説明に記載したリポペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[HCV]を、ヒト樹状細胞上のMHCクラスII、CD83およびCD86の発現をアップレギュレートする能力について試験した。ヒト単球由来樹状細胞を、培地のみ、LPS(5μg/mL)、非脂質付加ペプチド[P25]−Lys−[HCV](5μg/mL)、またはリポペプチド[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[HCV](5μg/mL)と共に48時間インキュベートした後、FITC複合抗体でHLA−DR、CD83およびCD86について染色し、フローサイトメトリーにより分析した。図16に示すデータは、非脂質付加ペプチドまたはPBS単独で処置後よりも脂質付加ペプチドで処置した後にその細胞表面上にHLA−DR、CD83およびCD86を発現する樹状細胞集団の存在する割合が高いことを示す。リポペプチドがヒト細胞の成熟を誘導する能力は直接的に、非脂質付加ペプチドと比較したリポペプチドの免疫原性能力を反映し、免疫原性の可能性ある機構を提示するものである。
【実施例6】
【0249】
考察
本研究において、本発明者は、CD4T細胞エピトープ、CD8CTLエピトープ、およびそれらに内部リジン残基のεアミノ基を介して結合しているPamCysまたはPamCysから構成される種々のリポペプチド免疫原の構築を説明している。
【0250】
免疫応答の発生における脂質部分の正確な性質を示すことは重要ではない。なぜなら、コレステロール、パルミチン酸、PamCys、PamCys、およびPamCysを含む一定範囲の脂質はT細胞の増殖および細胞傷害性を誘導するためである。しかしながら、少なくともインフルエンザウイルスに対して使用したリポペプチドの場合には、防御およびIFNγ産生の点では有意な差が観察された。このことは、脂質の構造がin vivoにおいて重要な検討事項である可能性があることを示唆している。特に、少なくともインフルエンザウイルスCTLエピトープを組み込んだワクチンについては、ペプチドの内部リジン残基のεアミノ基と結合したPamCysが防御の付与に最も有効であり、このことは、システイングリセロールへの結合が好ましいことを示唆している。
【0251】
本発明のリポペプチドは、細菌およびウイルス病原体に対するならびに腫瘍細胞に対する免疫動物のCD8+T細胞応答の増強に有効である。ウイルスおよび細菌病原体に対するならびに腫瘍細胞に対する防御において本明細書に記載の自己アジュバントペプチド(self-adjuvanting peptide)が成功を収めたことは、この技術が一般的に広範なワクチン接種プロトコールに適用可能であると予測する合理性を与えるものである。
【0252】
脂質部分とペプチド配列の間にセリン残基を挿入することは、得られるPamCys含有免疫原の効力に悪影響を及ぼすものではない。
【0253】
リポペプチドは、さらなるアジュバントの不在下で免疫応答を誘発することができ、非経口経路および非経口以外の経路(特に鼻腔内経路)により送達することができる。
【0254】
以上をあわせて検討すると、本明細書に提供するデータは、広範な脂質、限定するものではないがPamCysおよびPamCysを含む脂質を、全体的に合成したペプチドのほぼ中央にあるCTLエピトープおよびTヘルパーエピトープの間に配置することによって、ワクチンの免疫原性が増大することを証明する。
【図面の簡単な説明】
【0255】
【図1】図1は、本研究において使用したペプチドおよびリポペプチド構築体の一般構造を示す概略図である。
【図2】図2は、図1に示した構造の脂質部分に結合したペプチド部分の一次アミノ酸配列を示す。
【図3】図3は、図1の説明に示したリポペプチドで初回免疫し、続いてインフルエンザウイルスを負荷(チャレンジ)したマウスのウイルス負荷の低減を示すグラフである。
【図4】図4aは、図2の説明に記載したリポペプチドを投与した免疫マウスにおけるリポペプチドにより誘導されるウイルスクリアランスの増強を示すグラフである。図4bは、図2の説明に記載したリポペプチドを投与した免疫マウスにおけるT細胞活性化の増強を示すグラフである。図4cは、図2の説明に記載したリポペプチドに対して応答した樹状細胞の成熟の増強を示すグラフである。
【図5】図5は、それぞれ配列番号1に示すCD4Tヘルパーエピトープおよび配列番号2に示すH−2制限CTLエピトープを含む、X軸に示した合成免疫原を接種したマウスにおける肺ウイルスクリアランス応答の誘導を示すグラフである。
【図6】図6は、ウイルス負荷中のリポペプチドでワクチン接種したマウスの肺へのCTL決定基特異的CD8T細胞の流入の促進を示すグラフである。
【図7】図7は、ウイルス負荷後のリポペプチド接種したマウスの肺へのCTL決定基特異的CD8T細胞の流入の促進を示すグラフである。
【図8】図8は、未処理マウスにおける細胞傷害性T細胞活性を示すグラフである。
【図9】図9は、リポペプチドを初回投与したマウスにおける細胞傷害性T細胞活性を示すグラフである。
【図10】図10は、種々のペプチドに基づく免疫原のエピトープ特異的CTLを誘導する能力を示すグラフである。
【図11】図11は、リポペプチドによるインターフェロンγ産生細胞の誘導を示すグラフである。
【図12】図12は、図2に示す[P25]−Lys(PamCys−Ser−Ser)−[LLO91−99]と称するリポペプチドで免疫したマウスについてのL・モノサイトゲネス感染に対する防御の増大を示すグラフである。
【図13】図13は、リポペプチドワクチン接種によるB16メラノーマに対する防御を示すグラフである。
【図14】図14は、リポペプチド免疫原によるルイス肺癌の治療処置を示すグラフであり、免疫後に腫瘍を有しない動物の割合(%)で表す。
【図15】図15は、リポペプチド免疫原によるルイス肺癌の治療処置を示すグラフであり、免疫後の動物の生存により判定した。
【図16】図16は、ペプチドおよびリポペプチドに基づく免疫原がヒト樹状細胞上のMHCクラスII、CD83およびCD86の発現をアップレギュレートする能力を示すグラフである。
【配列表】




















































【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドであって、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列および細胞傷害性T細胞(CTL)エピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、ならびに
(b)内部リジンまたは内部リジン類似体のε−アミノ基または末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々が共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に共有結合している、
上記リポペプチド。
【請求項2】
前記脂質がリジン残基のε−アミノ基に結合している、請求項1に記載のリポペプチド。
【請求項3】
脂質部分が結合している前記内部リジン残基が、前記Thエピトープと前記CTLエピトープの間に位置する、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項4】
脂質部分が結合している前記内部リジン残基が、前記Thエピトープ内に位置する、請求項1または2に記載のリポペプチド。
【請求項5】
前記脂質部分が一般式(VII):
【化1】

(式中、
(i)Xは、硫黄、酸素、ジスルフィド(−S−S−)、メチレン(−CH−)およびアミノ(−NH−)からなる群から選択され、
(ii)mは、1または2の整数であり、
(iii)nは、0〜5の整数であり、
(iv)Rは、水素、カルボニル(−CO−)およびR’−CO−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(v)Rは、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
(vi)Rは、R’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は、7〜25個の炭素原子を有するアルキル、7〜25個の炭素原子を有するアルケニル、および7〜25個の炭素原子を有するアルキニルからなる群から選択され、前記アルキル基、アルケニル基またはアルキニル基は、場合によっては、ヒドロキシル基、アミノ基、オキソ基、アシル基またはシクロアルキル基で置換されていてもよい)からなる群から選択され、
、RおよびRの各々は同じでも異なっていてもよい。)
の構造を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項6】
Xが硫黄であり、mとnがともに1であり、Rが水素およびR’−CO−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択され、RおよびRがR’−CO−O−、R’−O−、R’−O−CO−、R’−NH−CO−およびR’−CO−NH−(式中、R’は7〜25個の炭素原子を有するアルキル基である)からなる群から選択される、請求項5に記載のリポペプチド。
【請求項7】
R’が、パルミトイル、ミリストイル、ステアロイル、ラウロイル、オクタノイル、デカノイルおよびコレステロールからなる群から選択される、請求項6に記載のリポペプチド。
【請求項8】
前記脂質が、PamCys、PamCys、PamCys、CholLys、SteCys、LauCysおよびOctCysからなる群から選択されるリポアミノ酸部分内に含まれる、請求項5から7のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項9】
前記リポアミノ酸部分がPamCysである、請求項8に記載のリポペプチド。
【請求項10】
前記脂質部分が、以下の一般式(VIII):
【化2】

(式中、
(i)Rは、(i)約7〜約25個の炭素原子からなるα−アシル脂肪酸残基、(ii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基、(iii)α−アルキル−β−ヒドロキシ脂肪酸残基のβ−ヒドロキシエステル、および(iv)リポアミノ酸残基、からなる群から選択され、
(ii)Rは、水素、またはアミノ酸残基の側鎖である。)
を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項11】
前記脂質部分が前記ペプチド部分からスペーサーによって分離されている、請求項1から10のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項12】
前記スペーサーが、アルギニン、セリンまたは6−アミノヘキサン酸を含む、請求項11に記載のリポペプチド。
【請求項13】
前記スペーサーがセリンホモ二量体からなる、請求項11または12に記載のリポペプチド。
【請求項14】
前記内部リジンまたは内部リジン類似体が、免疫原性の低い合成アミノ酸配列内に入れ子状に置かれている、請求項1から13のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項15】
前記Tヘルパーエピトープが、インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープ、またはイヌジステンパーウイルスF(CDV−F)タンパク質のTヘルパーエピトープである、請求項1から14のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項16】
前記インフルエンザウイルス赤血球凝集素のTヘルパーエピトープが、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む、請求項15に記載のリポペプチド。
【請求項17】
前記CDV−Fタンパク質のTヘルパーエピトープが、配列番号20で示されるアミノ酸配列を含む、請求項15に記載のリポペプチド。
【請求項18】
前記CTLエピトープが、ウイルスの免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質に由来する、請求項1から17のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項19】
ウイルスがインフルエンザウイルスである、請求項18に記載のリポペプチド。
【請求項20】
前記CTLエピトープが、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む、請求項19に記載のリポペプチド。
【請求項21】
ウイルスがC型肝炎ウイルスである、請求項18に記載のリポペプチド。
【請求項22】
前記CTLエピトープが、配列番号176で示されるアミノ酸配列を含む、請求項21に記載のリポペプチド。
【請求項23】
前記CTLエピトープが、原核生物の免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質に由来する、請求項1から17のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項24】
前記CTLエピトープが、リステリア・モノサイトゲネスに由来する、請求項23に記載のリポペプチド。
【請求項25】
前記CTLエピトープが、配列番号172で示されるアミノ酸配列を含む、請求項24に記載のリポペプチド。
【請求項26】
前記CTLエピトープが、真核生物の免疫原性タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質に由来する、請求項1から17のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項27】
前記真核生物が寄生生物である、請求項26に記載のリポペプチド。
【請求項28】
前記真核生物が哺乳動物である、請求項26に記載のリポペプチド。
【請求項29】
前記CTLエピトープが、哺乳動物または腫瘍細胞のオボアルブミンタンパク質に由来する、請求項28に記載のリポペプチド。
【請求項30】
前記CTLエピトープが、配列番号173で示されるアミノ酸配列を含む、請求項29に記載のリポペプチド。
【請求項31】
前記ポリペプチドが、配列番号3、配列番号4、配列番号174、配列番号175、および配列番号177からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項1から30のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項32】
未成熟樹状細胞(DC)上でのMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレート可能である、請求項1から31のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項33】
前記DCがD1細胞である、請求項32に記載のリポペプチド。
【請求項34】
1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドであって、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびCTLエピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、ならびに
(b)1個または複数の内部リジンまたはリジン類似体残基のε−アミノ基を介して前記脂質部分の各々が共有結合するための1個または複数の内部リジンまたはリジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含み、
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個または複数の内部リジン残基のε−アミノ基に共有結合しており、
(iii)前記リポペプチドが一般式(VI):
【化3】

(式中、
エピトープは、TヘルパーエピトープまたはCTLエピトープであり、
Aは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のアミノ酸スペーサーからなり、
nは、1、2、3または4の整数であり、
Xは、NH、OおよびSからなる群から選択される末端側鎖基であり、
Yは、存在しても存在しなくてもよく、約1〜約6アミノ酸長のアミノ酸スペーサーからなり、
Zは、脂質部分である。)
を有する、上記リポペプチド。
【請求項35】
Aが存在しない、請求項34に記載のリポペプチド。
【請求項36】
Yが存在し、かつセリンホモ二量体からなる、請求項34または35に記載のリポペプチド。
【請求項37】
Zが、PamCys、PamCys、PamCys、CholLys、SteCys、LauCysおよびOctCysからなる群から選択される、請求項34から36のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項38】
未成熟樹状細胞(DC)上のMHCクラスII分子の表面発現をアップレギュレート可能である、請求項34から37のいずれか一項に記載のリポペプチド。
【請求項39】
前記DCがD1細胞である、請求項38に記載のリポペプチド。
【請求項40】
(i)以下の(a)および(b):
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列およびCTLエピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含むアミノ酸配列を含むポリペプチドを製造するステップ、ならびに
(ii)前記1個または複数の脂質部分の各々を直接的または間接的に、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に共有結合させて、前記内部リジン残基のεアミノ基に結合した前記脂質部分を含む、または前記内部リジン類似体残基の末端側鎖基に結合した前記脂質部分を含むリポペプチドを製造するステップ、
を含む、リポペプチドを製造する方法。
【請求項41】
前記ポリペプチドを化学合成手段によって合成する、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記脂質部分を製造するステップをさらに含む、請求項40または41に記載の方法。
【請求項43】
前記脂質部分をリポアミノ酸として合成するステップを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
スペーサーを前記リポアミノ酸のアミノ酸部分に付加するステップをさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
スペーサーが、アルギニンホモ二量体またはセリンホモ二量体または6−アミノヘキサン酸を含む、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
縮合、付加、置換または酸化反応を実施するステップを含むプロセスにおいて、前記スペーサーを末端カルボキシ基を介して前記リポアミノ酸に付加するステップを含む、請求項44または45に記載の方法。
【請求項47】
前記スペーサーが、前記リポアミノ酸のポリペプチドへのコンジュゲートを促進する末端保護アミノ酸残基を含む、請求項44から46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記スペーサーの前記末端保護アミノ酸を脱保護するステップと、前記リポアミノ酸をポリペプチドにコンジュゲートするステップとをさらに含む、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
求核置換反応を実施するステップを含むプロセスにおいて、スペーサーを、前記ポリペプチドの非修飾εアミノ基に付加するステップを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項50】
前記ポリペプチドが、単一の内部リジンまたはリジン類似体残基とブロッキングされたN末端とを含むアミノ酸配列を有する、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
スペーサーが、アルギニンホモ二量体またはセリンホモ二量体または6−アミノヘキサン酸を含む、請求項49または50に記載の方法。
【請求項52】
請求項1から39のいずれか一項に記載のリポペプチドと、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とを含む組成物。
【請求項53】
生物反応修飾物質(BRM)をさらに含む、請求項52に記載の組成物。
【請求項54】
被験体において免疫応答を誘発する方法であって、請求項1から39のいずれか一項に記載のリポペプチド、または請求項52もしくは53に記載の組成物を、該リポペプチド中のCTLエピトープに対する細胞傷害性T細胞応答を誘発するのに十分な時間および条件下で前記被験体に投与するステップを含む、上記方法。
【請求項55】
前記リポペプチドを前記被験体に鼻腔内投与する、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記リポペプチドを注射によって前記被験体に投与する、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
インフルエンザウイルスに対して被験体を免疫する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを前記被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびインフルエンザウイルスタンパク質のCTLエピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記CTLエピトープに対するCTL応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項58】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記CTLエピトープに対する免疫学的記憶を発生させる、請求項57または58に記載の方法。
【請求項60】
前記CTLエピトープが、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む、請求項57から59のいずれか一項に記載の方法。
【請求項61】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号1または配列番号20で示されるアミノ酸配列を含む、請求項57から60のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記脂質部分が、(i)PamCys、(ii)PamCys、(iii)PamCys、および(iv)CholLysからなる群から選択されるリポアミノ酸を含む、請求項57から61のいずれか一項に記載の方法。
【請求項63】
前記脂質部分が、リポアミノ酸PamCysを含む、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項57から63のいずれか一項に記載の方法。
【請求項65】
前記被験体からあらかじめ採取した試料を用いて前記被験体の免疫応答を測定するステップをさらに含む、請求項57から64のいずれか一項に記載の方法。
【請求項66】
請求項1から39のいずれか一項に記載のリポペプチドを含むインフルエンザウイルスに対するワクチンであって、前記CTLエピトープがインフルエンザウイルスタンパク質に由来するものである、上記ワクチン。
【請求項67】
インフルエンザウイルスに対するワクチンの製造における、請求項1〜39のいずれか一項に記載のリポペプチドの使用。
【請求項68】
C型肝炎ウイルスに対して被験体を免疫する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを前記被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびC型肝炎ウイルスタンパク質のCTLエピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記CTLエピトープに対するCTL応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項69】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
CTLエピトープに対する免疫学的記憶を発生させる、請求項68または69に記載の方法。
【請求項71】
前記CTLエピトープが、配列番号176で示されるアミノ酸配列を含む、請求項68〜70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号20で示されるアミノ酸配列を含む、請求項68から71のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記脂質部分が、(i)PamCys、(ii)PamCys、(iii)PamCys、および(iv)CholLysからなる群から選択されるリポアミノ酸を含む、請求項68から72のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
前記脂質部分が、リポアミノ酸PamCysを含む、請求項73に記載の方法。
【請求項75】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項68から74のいずれか一項に記載の方法。
【請求項76】
前記被験体からあらかじめ採取した試料を用いて前記被験体の免疫応答を測定するステップをさらに含む、請求項68から75のいずれか一項に記載の方法。
【請求項77】
請求項1から39のいずれか一項に記載のリポペプチドを含むC型肝炎ウイルスに対するワクチンであって、前記CTLエピトープがC型肝炎ウイルスタンパク質に由来するものである、上記ワクチン。
【請求項78】
C型肝炎ウイルスに対するワクチンの製造における、請求項1〜39のいずれか一項に記載のリポペプチドの使用。
【請求項79】
リステリア・モノサイトゲネスに対して被験体を免疫する方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを前記被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、およびリステリア・モノサイトゲネスタンパク質のCTLエピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記CTLエピトープに対するCTL応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項80】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
CTLエピトープに対する免疫学的記憶を発生させる、請求項79または80に記載の方法。
【請求項82】
前記CTLエピトープが、配列番号172で示されるアミノ酸配列を含む、請求項79〜81のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号20で示されるアミノ酸配列を含む、請求項79から82のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
前記脂質部分が、(i)PamCys、(ii)PamCys、(iii)PamCys、および(iv)CholLysからなる群から選択されるリポアミノ酸を含む、請求項79から83のいずれか一項に記載の方法。
【請求項85】
前記脂質部分が、リポアミノ酸PamCysを含む、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項79から85のいずれか一項に記載の方法。
【請求項87】
前記被験体からあらかじめ採取した試料を用いて前記被験体の免疫応答を測定するステップをさらに含む、請求項79から86のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
請求項1から39のいずれか一項に記載のリポペプチドを含むリステリア・モノサイトゲネスに対するワクチンであって、前記CTLエピトープがリステリア・モノサイトゲネスタンパク質に由来するものである、上記ワクチン。
【請求項89】
リステリア・モノサイトゲネスに対するワクチンの製造における、請求項1〜39のいずれか一項に記載のリポペプチドの使用。
【請求項90】
癌の予防または治療方法であって、1個または複数の脂質部分にコンジュゲートされたポリペプチドを含むリポペプチドを被験体に投与するステップを含み、
(i)前記ポリペプチドが、
(a)Tヘルパー細胞(Th)エピトープのアミノ酸配列、および腫瘍特異的CTLエピトープのアミノ酸配列(前記各アミノ酸配列は異なる)、
(b)内部リジンのε−アミノ基または内部リジン類似体の末端側鎖基を介して前記脂質部分の各々を共有結合するための1個または複数の内部リジン残基または内部リジン類似体残基、
を含み、
(c)前記1個または複数の脂質部分の各々が、前記1個もしくは複数の内部リジン残基のε−アミノ基、または前記1個もしくは複数の内部リジン類似体残基の末端側鎖基に直接的もしくは間接的に共有結合しており、
(ii)前記リポペプチドを、前記CTLエピトープに対するCTL応答を誘発するのに十分な時間と条件下で投与する、上記方法。
【請求項91】
前記リポペプチドを、薬学的に許容される賦形剤または希釈剤とともに投与する、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記CTLエピトープに対する免疫学的記憶を発生させる、請求項90または91に記載の方法。
【請求項93】
前記腫瘍特異的CTLエピトープが、配列番号173で示されるアミノ酸配列を含む、請求項90から92のいずれか一項に記載の方法。
【請求項94】
前記Tヘルパーエピトープが、配列番号20で示されるアミノ酸配列を含む、請求項90から93のいずれか一項に記載の方法。
【請求項95】
前記脂質部分が、(i)PamCys、(ii)PamCys、(iii)PamCys、および(iv)CholLysからなる群から選択されるリポアミノ酸を含む、請求項90から94のいずれか一項に記載の方法。
【請求項96】
前記脂質部分が、リポアミノ酸PamCysを含む、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記リポペプチドを製造するステップをさらに含む、請求項90から96のいずれか一項に記載の方法。
【請求項98】
前記被験体からあらかじめ採取した試料を用いて前記被験体の免疫応答を測定するステップをさらに含む、請求項90から97のいずれか一項に記載の方法。
【請求項99】
請求項1から39のいずれか一項に記載のリポペプチドを含む、癌に対する予防または治療用ワクチンであって、前記CTLエピトープが腫瘍特異的CTLエピトープである、上記ワクチン。
【請求項100】
癌に対する予防または治療用ワクチンの製造における、請求項1〜39のいずれか一項に記載のリポペプチドの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2006−513979(P2006−513979A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−526518(P2004−526518)
【出願日】平成15年8月12日(2003.8.12)
【国際出願番号】PCT/AU2003/001019
【国際公開番号】WO2004/014957
【国際公開日】平成16年2月19日(2004.2.19)
【出願人】(500057995)ザ カウンシル オブ ザ クイーンズランド インスティテュート オブ メディカル リサーチ (6)
【Fターム(参考)】