説明

TCR−Nckの相互作用のブロックに基づく免疫抑制剤

本発明は、医薬品として使用するための、構造式(1)およびその誘導体の化合物に関する。それらは、好ましくは、免疫抑制剤であり、TCR−Nckの相互作用のブロックに基づく作用機序を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用の薬剤として使用するための、以下の構造式(1)の化合物およびその誘導体に関する。
【0002】
【化1】

【0003】
上記化合物およびその誘導体は、TCR−Nckの相互作用のブロックに基づく作用機序を備えた、免疫抑制的な薬剤であることが好ましい。
【背景技術】
【0004】
Tリンパ球は、他人からの臓器移植の拒絶反応において、中心的な役割をはたしており、かつ、多かれ少なかれ、自己免疫病の発生に関与している。それゆえ、現状の免疫抑制的な医薬品の作用機序は、Tリンパ球の活性化の阻害に基づいている。上記免疫抑制剤は、特異的な法にてリンパ球の活性化経路を阻害していないので、高い毒性を有している。
【0005】
Tリンパ球は、外来物としての移植された器官の主要組織適合複合体(MHC)を認識する、抗原レセプタ(TCR)を通して活性化される。TCRは、6コのサブユニットにより形成されている。それらのうちの2つ(TCRα、TCRβ)は、抗原ペプチドにリンクされたMHCを認識するための役割を有している。一方、残りの4つ(CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD3ζ)は、リンパ球の細胞質ヘのシグナル伝達のための役割をはたしている(larcon, B., Gil, D., Delgado, P. and Schamel, W.W. (2003) Immunol Rev, 191, 38-46 において論評)。
【0006】
MHCによるTCRの結合後に生じる最初の各プロセスの1つは、Srcファミリ、Lck、Fynのチロシンキナーゼを活性化し、上記チロシンキナーゼにより、CD3の各サブユニットのITAMの各チロシンが、リン酸化されて、Sykファミリ(ZAP70およびSyk)のチロシンキナーゼのための結合サイトに変換される。
【0007】
近年まで、上記プロセスは、Sykファミリ(特にZAP70)のキナーゼからの、分岐する活性化カスケードが生じ、免疫抑制的な薬剤であるシクロスポリンおよびFK506のターゲットであるNFATを含む種々の転写ファクタの活性化を結果として招来する、シグナル伝達のための直線的なスキームであったと考えられてきた(Lin, J. and Weiss, A. (2001) J Cell Sci, 114, 243-244)。
【0008】
数年前、本発明の著者らは、TCRが、活性化された状態において構造的に変化し、Nck適合体が、CD3εのサブユニットのプロリンリッチな配列(PRS)に直接的に置換される結果を生じることを発見した(Gil, D., Schamel, W.W., Montoya, M., Sanchez-Madrid, F. and Alarcon, B. (2002) Cell, 109, 901-912)。
【0009】
上記のTCR−Nckの相互作用は、NckのSH3.1ドメインのアミノ末端の過剰発現を含む実験によって、および、Tリンパ球内へのAPA1/1の導入によって、TCRの活性化にとって重要であることが示された。APA1/1は、PRSと結合し、PRSをブロック(遮断)する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の免疫抑制剤による重要な問題は、上記免疫抑制剤がリンパ球の経路を特異的に阻害しないことに起因する、上記免疫抑制剤の毒性である。
【0011】
本発明は、TCR−Nckの相互作用のブロックに基づく、Tリンパ球に対するより特異的な、かつ、従来の化合物より二次的な影響がより少ない免疫抑制的な化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
TCR内の構造的な変化およびシグナル伝達の開始の機構の双方において、エフェクタタンパクの置換のための基本的なステップは、本発明の化合物の一部として考慮される。
【0013】
刺激された抗体とMHCとの結合の後に生じるTCRにおける構造上の変化は、「プルダウン」アッセイによって最初に示された。「プルダウン」アッセイは、TCRを、GST−Nckの融合タンパクのマトリクスに対し誘導的に結合させるものである。
【0014】
上記生化学的なアッセイは、TCRが構造的な変化を受ける細胞を、個々に同定し得るものではない。
【0015】
しかしながら、本発明の著者らは、また、APA1/1抗体が、上記構造的な変化を認識することを示した(Risueno, R.M., Gil, D., Fernandez, E., Sanchez-Madrid, F. and Alarcon, B. (2005) Blood, 106, 601-608)。上記抗体は、培養中のTリンパ球の調製において、また、免疫組織化学的な分野において、使用され得る。
【0016】
上記試薬は、「プルダウン」以外の操作によって構造上の変化の存在を示すことができることに加えて、上記構造上の変化が生体内において生じていることを示している。その上、上記抗体は、Tリンパ球とペプチドアゴニストが負荷された細胞に発現する抗原との間の免疫シナプスを認識するが、部分的なアゴニスト/アンタゴニストによって形成されるシナプスを認識しない。
【0017】
上記のデータは、TCR内の構造上の変化が、Tリンパ球による強いアゴニストおよび弱いアゴニストの間の区別と無関係なものであり得、かつ、強いリガンドの認識の間において特定の活性化カスケードを活性化し得るものであることを示唆している。
【0018】
上記仮説は、胸腺内での展開の間、上記構造上の変化(APA1/1を染色により視覚化された)が、ポジティブ選択を誘導するリガンドの認識の間ではなく、ネガティブ選択を誘導するリガンドの認識の間に生じるという、胸腺内での展開の中での事実によって裏付けられているように思われる(Risueno, R.M., van Santen, H.M. and Alarcon, B. (2006) Proc Natl Acad Sci U S A., 103, 9625-9630)。
【0019】
上記構造上の変化が、また、他のCD3のサブユニットの細胞質領域に伝達され、全体的に、ITAMのチロシンのリン酸化を含む、TCRによるシグナル伝達の開始の全体のプロセスに影響する可能性について考慮され得ないけれども、TCRにおける構造上の変化の、唯一の公知の結果は、CD3ε上のPRSの露出である(Minguet, S., Swamy, M., Alarcon, B., Luescher, I.F. and Schamel, W.W. (2007) Immunity., 26, 43-54)。
【0020】
しかしながら、CD3εのPRSのNckへの置き換えは、上記構造上の変化が、細胞内の活性化経路への伝達の可能な機構である(Gil, D., Schamel, W.W., Montoya, M., Sanchez-Madrid, F. and Alarcon, B. (2002) Cell, 109, 901-912)。
【0021】
Tリンパ球の活性化における、Nck−CD3εの相互作用の重要性を示し、かつ、免疫調整剤のためのターゲットとしての上記相互作用を評価するために、合成ペプチドが、CD3εの結合サイトへのNckの結合をブロックし得る、PRSの配列を模倣するようにデザインされた。11R085と命名されたペプチドは、NckのSH3.1ドメインとCD3εとの相互作用の阻害に関するネイティブな野生の配列を備えたペプチドより300倍以上の能力を有するものとして得られた。
【0022】
上記ペプチドを用いると、人のTリンパ球の増殖は、約20μMのIC50によるアンチCD3抗体への刺激への応答において、CD4+およびCD8+の双方にて、特異的に阻害された。一方、異なるレセプタであるIL2Rに依存する人のTリンパ球の増殖は、3倍の濃度であっても、上記ペプチドによって実際上影響されなかった。
【0023】
それゆえ、ペプチド11R085は、TCRにより開始される活性化を阻害するが、他のレセプタにより媒介される活性化を阻害しないので、ターゲット分子をデザインするための特異的なものである。
【0024】
ペプチド11R085は、また、IL2の生成を阻害し、かつ、約5μMのIC50にて処理された、OT−1トランスジェニックマウスの1次リンパ球内の抗原によって誘導される増殖を阻害する。それゆえ、免疫抑制剤の開発のためのターゲット分子としてNck−CD3εの相互作用は、有効なものとして評価された。
【0025】
上記情報およびバイオインフォマティックスの選択戦略を用いて、SH3.1ドメインに結合する化合物のバーチャルスクリーニングが、本発明の各実施例内にて実行された。上記スクリーニング後、10個の候補化合物が選択された。候補化合物は、SH3.1の疎水性ポケットに最も良く適合し、CD3εのPRS配列を認識可能なものである(図1を参照)。
【0026】
これらの、構造上、極めて互いに異なる各化合物の全ては、ある程度の活性を有するが、そのうちの、最も高い活性、かつ、高い投与量でもより低い毒性を示した(図7)1つは、CBM−1と命名された化合物であった。上記化合物は、構造式(1)を有するものである。
【0027】
良い活性と免疫抑制能を示した化合物CBM−1は、アンチCD3抗体によって誘導される人のTリンパ球の増殖を阻害するが、IL2依存性の増殖を阻害しない。また、化合物CBM−1は、抗原依存性のマウスのTリンパ球の増殖、およびIL2の放出を阻害した。
【0028】
化合物CBM−1は、IFNγ、IL−10、TNFβの生成を阻害すると共に、アンチCD3およびアンチCD28の各抗体により刺激される人のリンパ球内のアンチCD3およびアンチCD28に対応してIFNγを生成する人の細胞の発生も阻害した。
【0029】
上記の各データは、上記化合物が、0.1μMといった低濃度にて、好ましくは、0.1μMと1μMとの間の濃度にて、人とマウスとの双方において、Tリンパ球の活性化について、阻害作用を有することを立証している。
【0030】
それゆえ、CBM−1は、免疫抑制的な薬剤としての活性を備えるものである。上述したように、本発明の第1の観点は、医薬品、好ましくは免疫抑制剤として使用するための、式(1)の化合物またはその誘導体に関する。上記誘導体は、その塩類、アイソマー類またはアイソマー類の混合物、プロドラッグ類、結晶型などを含む。
【0031】
【化2】

【0032】
本発明のアイソマー類またはアイソマー類の混合物は以下に示す意味にて理解される。
1)上記化合物の複数の各結合部位に関する各置換基の位置によって規定されるZまたはEのアイソマー類。
2)上記化合物の光学活性(エナンチオマーの溶液中に通して偏光光の回転)についての各エナンチオマー間の違いを生じるキラル中心(4つの互いに異なる置換基に結合された原子)の存在によって生じる、光学的アイソマー、つまりエナンチオマー。
3)少なくとも2つのキラル中心を有し、各中心の置換基が同じアイソマー、かつ、各中心の各置換基が異なるアイソマー、つまりジアステレオアイソマー。
【0033】
式(1)の化合物の「プロドラッグ」の語句は、個体に投与されたときに、上記式(1)の1つまたは幾つかの化合物を直接的にまたは間接的に提供可能な何れの誘導体(例えば、エステル類、カルバメート類、アミド類など)に関するものと理解される。
【0034】
上記誘導体の規定は、また、上記式(1)の化合物の「結晶形態]が、フリー状態や、溶媒化合物の形態であることを含む。本明細書にて使用される「溶媒化合物」の語句は、ドラッグの組成に使用されること、および、ドラッグの調製に有用な溶媒化合物の双方を含む。溶媒化合物は、当業者であれば公知の溶媒和の従来方法によって得られる。
【0035】
本発明における「塩」の語句は、ドラッグの調製において有用であり得る、医薬品において許容され得るもの、および、医薬品において許容され得ないものの双方であると理解される。
【0036】
最後に、「誘導体」の規定は、同位元素の原子量を増やした原子を1以上有する、本発明の化合物を含む。例えば、本発明の各化合物の1つの化合物において、1または幾つかの水素原子が、重水素や三重水素に置換されたり、1または幾つかの炭素原子が、13Cや14Cの原子に置換されたり、または、1または幾つかの窒素原子が、15Nの原子に置換されたりする。
【0037】
式(1)の上記化合物は、NckのSH3.1ドメインに結合して、TCR−Nckの相互作用を遮断することによって、他の免疫抑制剤と比較して、明らかな利点を有する、Tリンパ球の、特異的な免疫抑制剤であり、より少ない2次効果を引き起こす1つのものである。
【0038】
それゆえ、本発明の1観点は、Tリンパ球の過剰増殖に関連する病気の治療および/または防止のためのドラッグの調製において、上記構造式(1)の化合物またはその誘導体の使用である。
【0039】
上記病気は、好ましくは、自己免疫病、臓器移植や器官や組織の外部からの移植の拒絶反応に関連する病気、リンパ腫、および/または、T型白血病である。
【0040】
自己免疫病は、Tリンパ球の活性化が、誘導および/またはエフェクタのフェーズにおいて重要な役割をはたす病気がより好ましい。より好ましい、全身の器官特異的な自己免疫病のリストは、多発性硬化症およびその変種、全身性のルーパスエリテマトーセス、乾癬、白班、リューマチ様関節炎、喘息、自己免疫性肝炎、I型の糖尿病、重症筋無力症、癒着性脊椎炎、クローン病(Crohn's disease)などを含む。
【0041】
本発明の他の観点は、構造式(1)の化合物、または、上記化合物の前述した誘導体のと、薬学的に許容可能な賦形剤とを含む薬剤組成物を志向する。
【0042】
上記各観点の場合では、上記組成物は、使用される投与型に適合するであろう。それゆえ、上述の上記組成物は、経口的な投与のための、固体(例えば、錠剤、ピル、カプセルなど)または液体(例えば、溶液、懸濁液、エマルジョンなど)の何れかの薬剤形態にて、非経口的な投与(例えば、筋肉内、皮下、静脈内など)のための薬剤形態にて、直腸投与などの薬剤形態にて、または、臨床上許容される他の投与形態の何れにて、かつ、治療上にて有効な投与量にて提供される。
【0043】
上記組成物に使用可能な、薬学的に許容可能な補薬および賦形剤は、当業者において通常使用される賦形剤である。本発明により提供される、薬学的な上記組成物は、何れの投与ルートにより投与され得るので、上記組成物は、上記選択された投与ルートのための好適な薬学的形態にて製剤化されるであろう。
【0044】
本明細書の記載および請求項の記載を通して、「含む」およびそれに関連する語句は、他の技術的特徴、添加物、組成、または、各ステップを排除することを意図していない。本発明の技術分野の専門家にとって、本発明の他の、目的、利点および特徴は、本明細書の記載の一部から、かつ、本発明の実行の一部から明らかであろう。以下に示す、図面および実施例は、説明のためにのみ提供され、本発明を限定することを意図されない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】SH3.1ドメインのモデル、および、結合が可能な各化合物のバーチャルスクリーニングを示す概略図である。NckのSH3.1ドメインに結合する各化合物のバーチャルスクリーニング。NckのSH3.1ドメインの構造の理論的モデル(パネルA)。パネルBは、上記各化合物の1つが、上記バーチャルモデルの上部部分に対し、どのように適合するかを示す。
【図2】アンチCD3により誘導される増殖に関する上記バーチャルスクリーニングの結果から得られた各化合物の選択的効果を示すグラフである。増殖は、CD8+の集合体内での緑蛍光体(CFSE)の損失に基づくフローサイトメトリーにより評価された。相異する各化合物は、順に番号が付与されたNSIコードによって表されている。CBM-1は、化合物NSI−65である。
【図3】アンチCD3により誘導される増殖に関する化合物CBM-1の選択的効果を示すグラフである。アンチCD3抗体による刺激に対応した、人のTリンパ球の増殖における、CBM-1による阻害。上記結果は、人のIL2依存性のリンパ芽球の増殖の結果と比較された。
【図4】CBM-1による、サイトカインの放出の阻害を示すグラフである。アンチCD3抗体による刺激に対応した、人のTリンパ球によるサイトカインの分泌における、CBM-1による阻害。健康なドナーから精製された抹消血単核球(PBMNC)が、アンチCD3 OKT3抗体にてコートされた各プレート上にて、種々な濃度のCBM-1の存在下において、72時間、刺激された。上清(IL−10、INF−γ、TFN−β)中の示されたサイトカインの濃度は、マルチパラメトリックフローサイトメトリー(BDサイトメトリックビーズアレイ)により評価された。化合物CBM-1は、IL5、IL1-β、IL6の放出に影響しなかった。一方、IL2、IL4は、検出されなかった。
【図5】INFγの細胞内生成の阻害を示すグラフである。アンチCD3およびアンチCD28の混合物による刺激に対応した、INFγの細胞内での発現。上記グラフは、INFγの細胞内での発現(ポジティブ細胞と平均蛍光との積として)を、CBM-1の濃度の関数として示す。
【図6A】SH3.1ドメインおよび高アフィニティペプチドである11R085の結合後に生じる置換の、NMRによる構造を示す概略図である。NckαのSH3.1ドメインの、NMRによる構造を示す概略図である。5つの各βシートは、順番に番号が付与されている。NとCとは、それぞれ、アミノ末端、カルボキシ末端を示す。
【図6B】SH3.1ドメインおよび高アフィニティペプチドである11R085の結合後に生じる置換の、NMRによる構造を示す概略図である。NckαのSH3.1ドメインへの、高アフィニティペプチドである11R085の結合により置換された残部と、Nckαの残部との比較。
【図7】SH3.1ドメインおよびCBM-1の結合後に生じる置換の、NMRによる構造を示す概略図である。SH3.1ドメイン内のアミノ酸残部の置換は、化合物CBM-1との相互作用により生じた。上記アミノ酸の位置が上記化合物と結合後に変化した上記アミノ酸の水平鎖を示している。上記変化は、化合物CBM-1が、バーチャルスクリーニングにて視覚化された上記ポケットに結合した結果生じたものである。
【図8】CBM-1の毒性を示すグラフである。人のジャーカットのTリンパ球株および人のラジのリンパ芽球様B細胞株が、示された濃度のCBM-1と共に48時間培養された。上記化合物の毒性は、プロピジウムイオダイド(propidium iodide)排除およびフローサイトメトリーにより評価された。上記2つの株は、上記化合物の最大濃度においても、48時間後において、100%の生存率にて生存していた。
【図9】NckαのSH3.1ドメインの1次配列と、NckβのSH3.1ドメインの1次配列、NckαのSH3.2ドメインの1次配列、およびNckαのSH3.3ドメインの1次配列との比較を示す図である。NckαのSH3.1ドメイン内の各βシートおよび各結合ループの各位置が示されている。各黒矢印は、CBM-1の結合後に強く置換された残部を示している。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明は、本発明の化合物を同定し、上記化合物の効果を示すために、実行された作業を説明する、本発明者らにより実行された幾つかの試験結果により、以下に例示される。
【0047】
(実施例1)Tリンパ球の活性化に関する、Nck-CD3εの相互作用を阻害する各ペプチドの効果
Tリンパ球の活性化に関する、Nck-CD3εの相互作用の重要性を示し、免疫調整剤のためのターゲットとして上記相互作用を評価するために、各合成ペプチドが、PRSの配列を模倣し、NckのCD3εの結合サイトへの結合をブロックし得るようにデザインされた。
【0048】
11R085と命名されたペプチドは、NckのSH3.1ドメインとCD3εとの相互作用の阻害に関するネイティブな野生の配列を備えたペプチドより300倍以上の能力を有するものとして得られた。
【0049】
上記ペプチドを用いると、人のTリンパ球の増殖は、約20μMのIC50によるアンチCD3抗体への刺激への応答において、CD4+およびCD8+の双方にて、特異的に阻害された。一方、異なるレセプタであるIL2Rに依存する人のTリンパ球の増殖は、3倍の濃度であっても、上記ペプチドによって実際上影響されなかった。
【0050】
上記の結果は、ペプチド11R085が、TCRにより開始される活性化を阻害するが、他のレセプタにより媒介される活性化を阻害しないので、ターゲット分子をデザインするための特異的なものであることを示唆している。
【0051】
ペプチド11R085は、また、IL2の生成を阻害し、かつ、約5μMのIC50にて処理された、OT−1トランスジェニックマウスの1次リンパ球における、抗原により誘導される増殖を阻害する。それゆえ、免疫抑制剤の開発のためのターゲット分子としてNck−CD3εの相互作用は、有効なものとして評価された。
【0052】
(実施例2)Nck−CD3εの相互作用をブロックする可能性を有する各化合物のバーチャルスクリーニングによる選択および上記各化合物の免疫抑制剤としての能力の評価
他のタンパクの50種類の公知のSH3ドメインの幾つかの構造およびその配列に基づく同一性による、NckαのSH3.1ドメインの構造を得るように、分子モデリング技術(Fiser, A., Feig, M., Brooks, C.L., 3rd and Sali, A. (2002) Acc. Chem. Res., 35, 413-421)が用いられた。
【0053】
上記技術の方法では、上記構造の理論的なモデルが、上記ドメインの実構造に非常に類似すると考えられるものとして得られた。上記構造から開始して、本発明者らのソフトウエアによるバーチャルスクリーニングが、北アメリカカンパニーケンブリッジにより提供された300000個以上の各化合物のコレクションについて実行された。10個の各化合物が、SH3.1の疎水性のポケットに対して、理論的に最も良く適合するものとして選択された。上記ポケットは、CD3εのPRS配列の認識についての原因となるものと考えられている(図1を参照)。
【0054】
上記各化合物は、アンチCD3抗体により刺激される人のTリンパ球の増殖を阻害するアッセイを実行するために、後に使用された。
【0055】
(実施例3)アンチCD3により誘導される増殖に関するバーチャルスクリーニングの結果から得られた上記各化合物の選択的な効果
Nck−CD3の相互作用のブロックする可能性によるバーチャルスクリーニングの結果から得られる上記各化合物の選択の次のラウンドのために、健康なドナーから精製されたPBMNCが、蛍光によりラベル化され、アンチCD3 OKT3抗体にてコートされた各プレート上にて、種々な濃度の上記各化合物の存在下において、5日間培養された。
【0056】
増殖は、CD8+の集合体内での緑蛍光(CFSE)の損失に基づくフローサイトメトリーにより評価された。試験された各化合物の全ては、リンパ球の増殖に対して、ある程度の活性を有するが、図2に示されるように、そのうちの、最も高い活性、かつ、より低い毒性を示したものは、CBM−1(構造式(1)の化合物)と命名された化合物であった。CBM-1は、化合物NSI−65である。
【0057】
(実施例4)アンチCD3により誘導される増殖に関するCBM−1の選択的な効果
健康なドナーから精製されたPBMNCが、CFSEによりラベル化され、アンチCD3 OKT3抗体にてコートされた各プレート上にて、上記各化合物の内の、CBM−1にて示された化合物の種々な濃度での存在下において、5日間培養された。
【0058】
増殖は、CD4+およびCD8+の双方の集合体内での緑蛍光(CFSE)の損失に基づくフローサイトメトリーにより評価された。同様な実験が、人の、IL2依存性のリンパ芽球の増殖についても実行された。健康なドナーから精製されたPBMNCは、PHAにより48時間刺激され、CFSEにてラベル化された。
【0059】
続いて、上記2つの実験は、人の組み換えIL2の100IU/mlの存在下、特にCBM−1として使用される化合物の各濃度での存在下にて3日間培養された。
【0060】
化合物CBM−1は、2μMのIC50と共のアンチCD3により誘導される、CD4+のリンパ球の増殖、および、3μMのIC50により誘導される、CD8+のリンパ球の増殖を阻害した。他の各化合物の阻害効果は、少し小さかった。
【0061】
しかしながら、CBM−1は、20μMの濃度で、人の、IL2依存性のリンパ芽球の増殖を顕著には阻害しなかった。このことは、CBM−1は、TCR活性化に依存する増殖に対して特異的であり、IL2Rに依存する増殖には特異的ではないことを示している。このデータは、TCRに関する選択的な作用機序をサポートしている。
【0062】
(実施例5)アンチCD3抗体による刺激に対応した、人のTリンパ球によるサイトカインの分泌の阻害
サイトカインの生成に関するCBM-1の効果が、人のPBMNCが、アンチCD3抗体刺激されるアッセイにて測定された。上記細胞の上清が、72時間後に採取された。数種類のサイトカインが、同時に、フローサイトメトリーアッセイによって測定された。
【0063】
上記各実験は、上記化合物が、サイトカインTh1およびIBFγ(0.3μMのIC50)、サイトカインTFN−β(0.2μMのIC50)、並びにサイトカインIL−10(0.2μMのIC50)について、可能な阻害効果を有することを示し(図4)、30μMの濃度まででもIL5、IL6の生成に影響しないことを示した。
【0064】
それゆえ、上記データは、CBM-1が、Tリンパ球による幾つかの各サイトカインの生成を選択的に阻害し、他のサイトカインの生成を阻害しないことを示した。つまり、CBM-1は、細胞内のシグナル伝達経路の阻害において、ある程度の選択性を示す。
【0065】
(実施例6)アンチCD3抗体による刺激に対応した、マウスのCD4+T細胞による、細胞内でのIFNγの発現の阻害
阻害剤が、Th0リンパ球のTh1リンパ球への分化を防止するか否かを示すために、分化アッセイが、試験管内にて実施された。C57BL/6マウスの脾臓細胞が、アンチCD3+抗体、アンチCD28抗体と共に、48時間、示された各濃度でのCBM-1の存在下にて刺激され、さらに6時間、ブレフェルジンAと共に培養された。
【0066】
CBM-1は、0.8μMのIC50と共でのTh1リンパ球のIFNγの分泌の生成を阻害したことが見出された。上記細胞は、最初、CD4−PEにて染色され、固定および洗浄後、アンチINFγ抗体にて染色された。図5は、INFγの細胞内での発現(ポジティブ細胞のパーセントと平均蛍光との積として)を、CBM-1の濃度の関数として示す。
【0067】
(実施例7)NckαのSH3.1ドメインの三次元構造のNMRでの決定
NckαのSH3.1ドメインの三次元構造が、ペプチド11R085の存在下および非存在下にて同様な方法にて決定された(キミカ−フィスカ ロカソラノ(CSIC、マドリッド)のマリアアンジェレジメネス教授およびマニュエルリコ教授の研究室と共同研究)(図6)。
【0068】
上記結果は、バーチャルスクリーニングのために使用される、コンピュータモデルによる構造の予測の有効性を示すことが可能となった。さらに、バーチャルスクリーニングは、化合物CBM-1により生じる上記構造の化学的な置換の測定を可能にした(図7)。
【0069】
上記結果は、CBM-1が、バイオインフォマティックスの研究によって予測されるように、上記タンパクと構造上にて相互作用することを示した。上記化合物は、各残基Trp41およびTrp/Phe53の関与した、疎水性のポケットに結合する。上記結合は、β2−シートの、かつ、末端ループの残基の歪みおよび置換を生じる(図7および図9)。SH3.1ドメイン内の各残基の置換は、SH3.1ドメインとCBM-1との相互作用の予測を有効なものにし、また、上記モデルと一致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬品として使用するための、
【化1】

上記式(1)およびその誘導体の化合物。
【請求項2】
医薬品を調製するための、請求項1に記載の化合物の使用。
【請求項3】
Tリンパ球の活性化、その過剰増殖または異常増殖に関係する病気を治療および/または防止するための医薬品を調製するための、請求項2に記載の、化合物の使用。
【請求項4】
上記Tリンパ球の活性化に関係する上記病気は、自己免疫病である、請求項3に記載の、化合物の使用。
【請求項5】
上記自己免疫病は、多発性硬化症およびその変種、全身性のルーパスエリテマトーセス、乾癬、白班、リューマチ様関節炎、喘息、自己免疫性肝炎、I型の糖尿病、重症筋無力症、癒着性脊椎炎、クローン病を含むリストから選択されるものである、請求項4に記載の、化合物の使用。
【請求項6】
上記Tリンパ球の活性化に関係する上記病気は、臓器移植や器官や組織の外部からの移植の拒絶反応に関連する病気である、請求項3に記載の、化合物の使用。
【請求項7】
上記Tリンパ球の活性化に関係する上記病気は、リンパ腫またはT細胞の白血病である、請求項3に記載の、化合物の使用。
【請求項8】
請求項1に記載の化合物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む、製薬学の組成物。
【請求項9】
免疫抑制剤としての、請求項6に記載の製薬学の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−526607(P2011−526607A)
【公表日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515490(P2011−515490)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際出願番号】PCT/ES2009/070239
【国際公開番号】WO2010/000900
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(511000083)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
【住所又は居所原語表記】C/Serrano,117,E−28006 Madrid,Spain
【Fターム(参考)】