説明

TNF関連障害において腫瘍壊死因子(TNF)のレベルを低下させるための方法

本発明は、腫瘍壊死因子(TNF)アンタゴニストをコードする組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを、TNF関連障害又は病態、例えば骨喪失、創傷治癒又は骨治癒の障害、及び口腔頬側疾患の処置に使用する方法を提供する。本発明は、哺乳動物における骨喪失、創傷治癒及び骨治癒の障害、及び歯周炎のようなTNF関連障害又は病態を処置又は予防する方法を対象とする。これらの方法は、一般的にrAAVベクターを使用して、TNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを哺乳動物に送達し、結果として患部におけるTNFのレベルを低下させ、幾つかのTNF関連カスケード事象を緩和する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、米国仮特許出願第60/667,388号(2005年3月31日出願)の優先権の利益を主張する。この仮特許出願は、その全体が参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、腫瘍壊死因子(TNF)アンタゴニストをコードするアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用して、個体におけるTNFのレベルを低下させて、TNF関連疾患を処置する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
腫瘍壊死因子−α(TNFα)及び腫瘍壊死因子−β(TNFβ)は相同性多機能性サイトカインであり;それらの構造的及び機能的特徴における著しい類似性によって腫瘍壊死因子、即ち「TNF」と総称されている。TNFに一般的に帰属する活性には、その他のサイトカイン、例えばIL−1、IL−6、GM−CSF及びIL−10の放出、ケモカインの誘導、接着分子の増大、血管の成長、組織破壊酵素の放出、及びT細胞の活性化が含まれる。例えば、Feldmann,et al.,1997,Adv.Immunol.,64:283−350,Nawroth,et al.,1986,J.Exp.Med.,163:1363−1375;Moser,et al.,1989,J.Clin.Invest.,83:444−455;Shingu,et al.,1993,Clin.Exp.Immunol.94:145−149;MacNaul,et al.,1992,Matrix Suppl.,1:198−199;及びAhmadzadeh,et al.,1990,Clin.Exp.Rheumatol.8:387−391を参照されたい。これらの活性は全て炎症応答を増強するために作用することができる。
【0004】
TNFは、TNF応答性細胞上の特異的な細胞表面受容体との相互作用を介して、生物学的作用を誘導する。細胞表面腫瘍壊死因子受容体(TNFR)には2つの異なる形態、即ちp75(又はII型)及びp55(又はI型)と標記されるものが存在する(Smith,et al.,1990,Science 248:1019−1023;Loetscher,et al.,1990,Cell 61:351−359)。TNFR I型及びTNFR II型は何れもTNFα及びTNFβの両方に結合する。リガンド結合ドメインを有するTNFRの可溶性トランケーション型は、体液及び関節に存在する(Engelmann,et al.,1989,J.Biol.Chem.264:11974−11980;Roux−Lombard,et al.,1993,Arthritis Rheum.36:485−489)。
【0005】
幾つかの障害はTNFレベルの上昇に関連しており、その多くがかなりの医学的重要性を有している。このようなTNF関連障害には、鬱血性心不全、炎症性腸疾患(クローン病を含む)、関節炎、及び喘息が含まれる。米国特許第6,537,540号及びPCT第WO00/65038号には、TNFのレベルを低下させてTNF関連疾患を処置するために、TNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む組み換えAAVベクターを投与する方法が開示されている。
【0006】
TNF関連障害又は病態のその他の例には、創傷治癒及び骨折修復の障害、並びに骨同種又は自己移植片治癒の障害がある。このクラスのTNF関連障害は、微生物、細菌、カビ又はウイルス体による感染により誘発される場合もあれば、TNFを含めた炎症性サイトカインのカスケードを誘発する宿主免疫媒介欠損により誘導される場合がある。
【0007】
同種又は自己骨移植片のマウスモデルによる研究によれば、VEGF及びRANKL因子を含めた脈管形成をコードするrAAVの送達を介した皮質骨同種移植片の応答率は、不確定ながらも向上していることが明らかにされている(Jin,et al.,Molecular Therapy 9:519−299 (2004))。更に、PDGFを含めた骨原性因子の送達によって、ラットモデルにおける歯支持構造の加工処理が向上している(Ito,et al.,Nat.Med.11(3):291−297 (2005))。
【0008】
TNF関連障害の別の例には、口腔頬側疾患(例えば歯周炎)がある。歯周炎は、人間において最も一般的な炎症性疾患である。この疾患は成人における歯の喪失の主要な原因であり、全身疾患、例えばアテローム性動脈硬化症、心不全、及び糖尿病におけるグルコースの管理に関連している。この疾患は米国人口の50%以上が罹患しており、主に罹患部位の局所的な挫滅組織切除又は外科手術により処置される(Oliver,et al.,J.Periodontol,69,269−278,1998)。これらの治療様式は急速進行性歯周炎を呈している多くの個体に有効であるが、患者によっては機械的又は外科的な処置を行っても結合組織の連結が喪失したままとなる場合がある。従って、疾患の進行を停止しようとする薬学的介入のための見込みある新たな標的を同定するために、歯周炎の病因が探求されている。
【0009】
特異的なCD+T細胞を含めた歯周病の病因には、種々の免疫関連細胞集団が関わっている。発症プロセスは、プラーク生体膜に付随したP・ギンギバリスのような外因性歯周病原菌に対する応答である可能性が最も高い(Darveau,et al.,Periodontol 14,12−32,2000)。その結果、補充された単球、マクロファージ及び線維芽細胞が、歯周患部内にサイトカイン、例えば腫瘍壊死因子α(TNF)及びインターロイキン−1β(IL−1)を生成する。これらのサイトカインは、歯周組織中並びに病変に関連する歯肉滲出液(GCF)中に局在化することが判明している。これらのサイトカインは、損傷カスケードの中枢となり、最終的にはマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、プロスタグランジン及び破骨細胞の産生を誘発する。このカスケードは、最終的に歯牙支持軟組織及び歯槽骨の不可逆的な損傷を招く(Graves,Clin Infect Dis 28:482−490,1999)。この疾患は、口腔組織に生息して侵襲する特定の口腔病原体により誘導されるものの、宿主の炎症応答が疾患の進行の主要な要因となっている。
【0010】
歯周病を有する患者は、滑液及びGCFのそれぞれに高濃度のTNFを有する。歯周病の実験モデルの試験では、疾患部位におけるTNFの高い局所的レベルと一貫した、活動性骨吸収発生率の極めて高い関連性が明らかになっている。IL−1及びTNF−αは何れも、健常又は非活性部位よりも罹患した歯周部位において有意に上昇していることが判明している(Ejeil,et al.,J Periodontol,74,196−201,2003;Gamonal,et al.,J Periodontol,71,1535−1545,2000;Gorska,et al.,J Clin Periodontol,30,1046−1052,2003;Stashenko,et al.,J Clin Periodontol,18,548−554,1991)。IL−1は又、探索深度の増大及び連結の喪失と順相関するとされている(Delima,et al.,J Infect Dis,186,511−516,2002)。更に、IL−βは、骨再吸収の刺激においてTNF−α又はリンホトキシンと相乗活性を有する。IL−1をTNF又はリンホトキシンと共にin vitroモデルでインキュベートしたところ、IL−1の骨再吸収活性は2倍増大し、TNF又はリンホトキシンの活性は100倍増大した(Stashenko,et al.,J Immunol,138,1464−1468,1987)。歯周治療により細菌及びその代謝副産物を低減させても、IL−1β及びTNF−αの両方の低下がもたらされる(Al−Shammari,et al.,J Periodontol,72,1045−1051,2001;Oringer,et al.,J Periodontol,73,835−842,2002;Gamonal,et al.,J Periodontol,71,1535−1545,2000;Iwamoto,et al.,J Periodontol,74,1231−1236,2003)。即ち、臨床パラメータの向上は、これらのサイトカインの減少と平行しており、歯周炎の病因におけるこれらの重要性を示唆している。
【0011】
最近の横断及び症例対照試験によると、歯周炎を有する患者においては、心臓血管疾患及び低体重早産の危険性が2倍及び7倍増大することが明らかになっている。TNF関連炎症事象の局所的歯周カスケードは、多くの全身性の血管及び胎児胎盤の事象を誘発し、これらの歯周と全身疾患の関連性の危険性を増大させると考えられている(Paquette,et al.,J.Contemporary Dental Practice 1:1−18,1999)。
【0012】
歯周炎の霊長類モデルにおけるIL−1及びTNFに対するアンタゴニストの可溶性タンパク質送達に関する研究では、有望な結果が示されている(Delima,et al.,J.Infect Dis,186,511−516,2002;Delima,et al.,J Clin Periodontol,28,233−240,2001;Oates,et al.,J Clin Periodontol,29,137−143,2002)。組織学的研究では、結合組織の連結喪失が51%減少し、歯槽骨喪失が91%減少していることが明らかにされている(Delima,et al.,J Clin Periodontol,28,233−240,2001)。今日までのところ、歯周病に対する宿主調節性薬剤として機能する使用可能な唯一の療法は、一日2回の投与を要する抗生物質ドキシサイクリンの低用量製剤である(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3)。しかし、歯周患部における厳しい酵素環境は、可溶性サイトカインアンタゴニストをその最高活性到達前に破壊し、そのために欠損部への活性剤のより頻繁な投与が必要になる場合がある。
【0013】
骨喪失、創傷治癒及び骨治癒の障害、及び口腔頬側疾患のようなTNF関連障害又は病態の処置、特に持続的かつ叙放的な療法を提供できる処置、例えばタンパク質TNFアンタゴニストの送達によるTNFの中和に比べて歯周構造へのTNFのより長期に及ぶ局所限局的中和をもたらす処置の新しい効果的な形態が必要とされている。歯周炎のようなこれらの腫瘍関連障害又は病態の処置は、心臓血管疾患及び低体重早産のような歯周病誘発全身性疾患病態の危険性を低下させる重要な鍵となる可能性がある。
【0014】
本明細書に引用される全ての出版物及び参考文献は、全体が参考として本明細書に組み入れられている。
【非特許文献1】Caton,et al.,J Periodontol,71,521−523,2000
【非特許文献2】Gapski,et al.,J Periodontol,75,441−452,2004
【非特許文献3】Novak,et al.,J Periodontol,73,762−769,2002
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
本発明は、哺乳動物における骨喪失、創傷治癒及び骨治癒の障害、及び歯周炎のようなTNF関連障害又は病態を処置又は予防する方法を対象とする。これらの方法は、一般的にrAAVベクターを使用して、TNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを哺乳動物に送達し、結果として患部におけるTNFのレベルを低下させ、幾つかのTNF関連カスケード事象を緩和する。TNF関連カスケード事象の例には、骨再生及び/又は骨再吸収の喪失、創傷治癒及び骨治癒(例えば骨移植片治癒及び骨折修復)の欠陥、及び歯周炎がある。TNFを低下させると、結果としてその他の疾患誘発性又は寄与性の物質、例えばその他の炎症性サイトカインのレベルを低下させるか、そのカスケード作用を排除する場合がある。
【0016】
本発明は、創傷治癒又は骨治癒の部位においてTNFを低減又は低下させることにより、哺乳動物の創傷又は骨組織の修復速度を向上させるか、修復速度を加速させるか、修復率を向上させるか、又は修復範囲を増大させる方法を対象とする。
【0017】
本発明は、哺乳動物の創傷、骨折又は骨移植片部位にrAAVの有効量を投与することにより哺乳動物における創傷治癒及び骨治癒を向上させる方法であって、前記rAAVベクターがTNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む方法を提供する。幾つかの実施形態において、本発明のrAAVベクターは、PDGFのような骨原性成長因子、又は核因子κBリガンド(RANKL)若しくは血管内皮成長因子(VEGF)の受容体活性化剤のような脈管形成促進因子と組み合わせて投与される。幾つかの実施形態において、骨原性又は脈管形成因子は又、これらの因子をコードするrAAVベクターにより送達される。
【0018】
本発明は、哺乳動物のTNF関連口腔頬側疾患を処置する方法を対象とする。これらの方法は、一般的にrAAVベクターを使用して、TNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを哺乳動物に送達し、結果として歯周部位におけるTNFのレベルを低下させ、幾つかのTNF関連口腔頬側障害、例えば慢性歯周炎、急速進行性歯周炎、及び歯肉炎を緩和する。TNFを低下させると、結果としてその他の疾患誘発性又は寄与性の物質、例えばその他の炎症性サイトカインのレベルを低下させる場合がある。
【0019】
本発明は、哺乳動物におけるTNF関連口腔頬側疾患を処置又は予防する方法であって、哺乳動物の歯周部位にrAAVベクターの有効量を投与することを含み、前記rAAVベクターがTNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む方法を提供する。
【0020】
本発明は又、哺乳動物におけるTNF関連口腔頬側疾患の発生率を低下させる、TNF関連口腔頬側疾患を緩解又は緩和する、及び/又はTNF関連口腔頬側疾患の発症又は進行を遅延させる方法であって、哺乳動物の歯周部位にrAAVベクターの有効量を投与することを含み、前記rAAVベクターがTNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む方法も提供する。
【0021】
本発明は又、TNF関連口腔頬側疾患を有する哺乳動物の歯周部位におけるTNFのレベルを低下させる方法であって、哺乳動物の歯周部位にrAAVベクターの有効量を投与することを含み、前記rAAVベクターがTNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む方法も提供する。
【0022】
本発明は又、TNF関連口腔頬側疾患を有する哺乳動物の歯周部位における炎症応答を低下させる方法であって、哺乳動物の歯周部位にrAAVベクターの有効量を投与することを含み、前記rAAVベクターがTNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む方法も提供する。
【0023】
本発明は又、TNF関連口腔頬側疾患を有する哺乳動物の歯周部位における炎症応答の再発を低減する方法であって、哺乳動物の歯周部位にrAAVベクターの有効量を投与することを含み、前記rAAVベクターがTNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む方法も提供する。
【0024】
本発明は又、TNF関連口腔頬側疾患により誘発される歯支持構造(例えば歯槽骨、歯周靭帯及びセメント質)喪失の再生を向上させる方法であって、哺乳動物の歯周部位にrAAVベクターの有効量を投与することを含み、前記rAAVベクターがTNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む方法も提供する。歯支持構造喪失の再生の向上は、骨伝導性生体物質及び細胞閉塞性障壁膜のような再生処置を介して達成される場合がある。幾つかの実施形態において、本発明のrAAVベクターは、骨原性成長因子(例えばPDGF)又は脈管形成促進因子(例えばRANKL又はVEGF)と組み合わせて投与される。幾つかの実施形態において、骨原性及び/又は脈管形成因子は又、rAAVベクター中でも送達される。
【0025】
幾つかの実施形態において、本明細書に記載するrAAVベクター中のポリヌクレオチドは、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)をコードするものである。TNFRは可溶性TNFに結合できるため、TNFRを導入すると、罹患組織におけるTNFのレベルが低下する傾向にある。幾つかの実施形態において、rAAVベクターは、p75 TNFRポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。他の実施形態において、rAAVベクターは、Fc(免疫グロブリン分子の定常ドメイン):p75融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。他の実施形態において、rAAVベクターは、TNFRの細胞外ドメインがFcに融合している融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0026】
幾つかの実施形態において、本発明のrAAVベクターは更に、IL−1受容体II型ポリペプチドのようなIL−1アンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0027】
rAAVベクターは、哺乳動物が本明細書に記載のTNF関連障害又は病態(例えば創傷治癒、骨治癒及び口腔頬側疾患)を有すると診断される前、診断された時、及び/又は診断された後に投与される場合がある。rAAVベクターは局所投与、例えば歯周、歯肉組織、結合組織若しくは上皮への注射により投与されてもよければ;又は全身投与、例えば筋肉内注射により投与されてもよい。rAAVベクターは、直接又は当該技術分野で既知のコーティングされた送達デバイス(例えばマウスガード又はトレー)を介して局所的に送達される場合もあれば、ゲルマトリックス又は微小球(例えばFDA認可ポリ乳酸グリコール酸微小球)を含むがこれらに限定されない当該技術分野で既知の非外科的処置により送達される場合もある。rAAVベクターは、創傷部位に外科的に移植されるex vivoの歯肉組織に形質導入するために使用される場合がある。rAAVベクターは、別の薬剤、例えばTNFアンタゴニスト、骨原性成長因子(例えばPDGF)、及び脈管形成促進因子(例えばRANKL及びVEGF)と共に投与される場合がある。
【0028】
本発明は又、TNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含むrAAVベクターを含有する、歯周への注射専用の注射器も提供する。
【0029】
本発明は又、本明細書に記載の方法の何れかにおいて使用するためのキットも提供する。幾つかの実施形態において、このキットは、薬学的に許容される担体と組み合わせた本明細書に記載のrAAVベクターの何れか、及び本明細書に記載の方法の何れかにおけるrAAVベクターの使用に関する説明書を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本明細書に記載の発明は、哺乳動物のTNF関連障害又は病態(例えば骨喪失、創傷治癒及び骨治癒の障害、及び歯周炎)を予防又は処置する方法であって、哺乳動物の障害又は病態の部位にTNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含むrAAVベクターの有効量を投与することを特徴とする方法を提供する。哺乳動物において発現されるTNFアンタゴニストは、障害又は病態の部位におけるTNFのレベルを低下させ、TNF関連障害又は病態の緩和をもたらす。幾つかの実施形態において、TNFアンタゴニストは、TNFRの細胞外ドメインがFc(免疫グロブリン分子の定常ドメイン)に融合している融合ポリペプチドである。
【0031】
定義
本明細書及び請求項で使用する単数の言及には、特に明記しない限り複数への言及も包含する。例えば「細胞」には、その混合を含めた複数の細胞が含まれる。
【0032】
本明細書で使用される「TNFアンタゴニスト」とは、TNFを結合し、TNF受容体に結合するTNFにおいて反映されるTNF活性を抑制及び/又は遮蔽するポリペプチドを指し、これには、(a)TNFR、好ましくは内因性(即ち個体又は宿主に固有)の細胞膜結合TNFR;(b)TNFRの細胞外ドメイン;及び/又は(c)TNFRのTNF結合ドメイン(細胞外ドメインの一部分である場合がある)の何れかが含まれる。TNFアンタゴニストには、TNF受容体(又は本明細書に記載の通りその適切な部分)及び抗TNF抗体が含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用される、TNFアンタゴニストの「生物学的活性」とは、TNFに結合し、TNFが(a)TNFR、好ましくは内因性の細胞膜結合TNFR;(b)TNFRの細胞外ドメイン;及び(c)TNFRのTNF結合ドメイン(細胞外ドメインの一部分である場合がある)の何れかに結合することを抑制及び/又は遮蔽することである。TNFアンタゴニストは、本明細書に一例が示されるTNFの活性及びその抑制を測定する当該技術分野で既知の試験を使用して、生物学的活性を示すことを明らかにすることができる。
【0033】
「TNF関連障害又は病態」は、TNFレベルの上昇に関連する、これに起因する、及び/又はこれに応答して生じる障害又は病態である。このような障害は、TNF活性の一時的又は慢性的なレベルの上昇、及び/又はTNF活性の局所的又は全身的な増大に関連すると考えられる。このような障害には、炎症性疾患、例えば口腔頬側疾患、関節炎及び炎症性腸疾患、並びに鬱血性心不全が含まれるが、これらに限定されない。口腔頬側疾患の例には、慢性歯周炎、急速進行性歯周炎及び歯肉炎がある。TNF関連障害には又、骨喪失、並びに創傷治癒及び骨治癒の障害が含まれる。
【0034】
本明細書で使用される「TNF受容体ポリペプチド」及び「TNFRポリペプチド」とは、TNFを結合することができるTNFR(何れの種に由来)から誘導されるポリペプチドを指す。細胞表面TNFRは、II型TNFR(即ちp75 TNFR若しくはTNFRII)及びI型TNFR(即ちp55 TNFR又はTNFRI)という2つの異なるTNFRが報告されている。成熟完全長ヒトp75 TNFRは、約75〜80キロダルトン(kD)の分子量を有する糖タンパク質である。成熟完全長ヒトp55 TNFRは、約55〜60kDの分子量を有する糖タンパク質である。幾つかの実施形態において、本発明のTNFRポリペプチドは、I型TNFR及び/又はII型TNFRから誘導される。
【0035】
TNFRポリペプチド、例えば「INFR」、「INFR:Fc」等は、本発明及びその組成物の関連において考察する際には、それぞれ未損傷のポリペプチド(例えばTNFR未損傷)、又は所望の生物学的活性(即ちTNFへの結合)を示すその何れかのフラグメント又は誘導体(例えばアミノ酸配列誘導体)を指す。「TNFRポリヌクレオチド」とは、TNFRポリペプチド(例えばTNFR:Fcポリペプチド)をコードする何れかのポリヌクレオチドである。
【0036】
本明細書で使用される、TNFRの「細胞外ドメイン」とは、TNFRのアミノ末端とTNFR膜貫通領域のアミノ末端端部の間に存在するTNFRの一部分を指す。TNFRの細胞外ドメインはTNFを結合する。
【0037】
本明細書で使用される「IL−1アンタゴニスト」とは、インターロイキン1(IL−1)を結合し、IL−1受容体に結合するIL−1において反映されるIL−1活性を抑制及び/又は遮蔽するポリペプチドを指し、これには、(a)IL−1受容体(IL−1R)、好ましくは内因性(即ち個体又は宿主に固有)の細胞膜結合IL−1R;(b)IL−1Rの細胞外ドメイン;及び/又は(c)IL−1RのIL−1結合ドメイン(細胞外ドメインの一部分である場合がある)の何れかが含まれる。IL−1アンタゴニストには、IL−1受容体(又は本明細書に記載の通りその適切な部分)及び抗IL−1抗体が含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用される、IL−1アンタゴニストの「生物学的活性」とは、IL−1に結合し、IL−1が(a)IL−1R、好ましくは内因性の細胞膜結合IL−1R;(b)IL−1Rの細胞外ドメイン;及び/又は(c)IL−1RのIL−1結合ドメイン(細胞外ドメインの一部分である場合がある)の何れかに結合することを抑制及び/又は遮蔽することである。IL−1アンタゴニストは、当該技術分野で既知の試験、例えば本明細書及び当該技術分野に記載されるIL−1阻害試験を使用して、生物学的活性を示すことを明らかにすることができる。
【0038】
本明細書で使用される「IL−1受容体ポリペプチド」とは、IL−1を結合することができるIL−1R(何れかの種に由来)から誘導されるポリペプチドを指す。IL−1Rポリペプチドは、本発明及びその組成物の関連において考察する際には、それぞれ未損傷のポリペプチド(例えば未損傷のIL−1R)、又は所望の生物学的活性(即ちIL−1への結合)を示すその何れかのフラグメント又は誘導体(例えばアミノ酸配列誘導体)を指す。「IL−1Rポリヌクレオチド」とは、IL−1Rポリペプチドをコードする何れかのポリヌクレオチドである。
【0039】
本明細書で使用される、IL−1Rの「細胞外ドメイン」とは、IL−1Rのアミノ末端とIL−1R膜貫通領域のアミノ末端端部の間に存在するIL−1Rの一部分を指す。IL−1Rの細胞外ドメインはIL−1を結合する。
【0040】
「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」という用語は、本明細書で交換可能に使用され、任意の長さのアミノ酸の重合体を指す。これらの用語は又、修飾されたアミノ酸重合体、例えばジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、又は標識成分とのコンジュゲーションに付されたアミノ酸重合体も包含する。
【0041】
「キメラポリペプチド」又は「融合ポリペプチド」とは、天然に存在するものとは異なる位置に領域を含むポリペプチドである。これらの領域は、通常個別のタンパク質に存在し、キメラ又は融合ポリペプチドに共に取り込まれるか、或いはこれらの領域は、通常同じタンパク質内に存在するものの、キメラ又は融合ポリペプチドにおいては新たな配置に置かれる。キメラ又は融合ポリペプチドは又、TNFRポリペプチドの直鎖又は分枝鎖何れかの重合体形態から生じる場合もある。
【0042】
「ポリヌクレオチド」及び「核酸」という用語は、本明細書で交換可能に使用され、任意の長さのヌクレオチドの重合体形態、例えばデオキシリボヌクレオチド若しくはリボヌクレオチド、又はそれらの類縁体を指す。ポリヌクレオチドは、修飾されたヌクレオチド、例えばメチル化ヌクレオチド及びヌクレオチド類縁体を含む場合があり、非ヌクレオチド成分により中断される場合がある。ヌクレオチド構造の修飾が存在する場合は、重合体の集合前又は後にこれが付与される場合がある。本明細書で使用されるポリヌクレオチドという用語は、2本鎖及び1本鎖の分子を交換可能に指すため。特に記載又は要求がない限り、ポリヌクレオチドである本明細書に記載の発明の実施形態は何れも、2本鎖形態及び2本鎖形態を構成することが知られる又は予測される2つそれぞれの相補的な1本鎖形態の両方を包含する。
【0043】
「キメラポリヌクレオチド」又は「融合ポリヌクレオチド」とは、天然に存在するものとは異なる位置に領域を含むポリヌクレオチドである。これらの領域は、通常個別の遺伝子に存在し、キメラ又は融合ポリヌクレオチドに共に取り込まれるか、或いはこれらの領域は、通常同じ遺伝子内に存在するものの、キメラ又は融合ポリヌクレオチドにおいては新たな配置に置かれる。
【0044】
「AAV」とは、アデノ随伴ウイルスの略記であり、ウイルス自体又はその誘導体を指すために使用される場合がある。特に要求がない限り、この用語は、全てのサブタイプ、血清型、シュードタイプ、並びに天然及び組み換えの両形態を網羅する。
【0045】
本明細書で使用される「rAAVベクター」とは、AAVに由来しないポリヌクレオチド配列(即ち、AAVと異種のポリヌクレオチド)、一般的には細胞の形質転換の対象となる配列を含むAAVベクターを指す。異種ポリヌクレオチドは、少なくとも1つ、好ましくは2つのAAV反転末端反復配列(ITR)によりフランキングされる。本明細書に記載の通り、rAAVベクターは、プラスミド、線状人工染色体、脂質複合体、リポソームカプセル型を含むがこれらに限定されない幾つかの形態の何れかを取ってもよく、最も好ましくはウイルス粒子、特にAAV内にカプセル化してもよい。
【0046】
「rAAVウイルス」又は「rAAVウイルス粒子」とは、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質(好ましくは野生型AAVのカプシドタンパク質の全てによる)及びカプシド化されたrAAVからなるウイルス粒子を指す。
【0047】
「パッケージング」とは、AAV粒子又はrAAV粒子の集合及びカプシド化をもたらす一連の細胞内事象を指す。
【0048】
AAV「rep」及び「cap」遺伝子とは、アデノ随伴ウイルスの複製及びカプシド化タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を指す。これらの遺伝子は、検討した全てのAAV血清型中に認められており、以下及び当該技術分野で説明されている。本明細書においてAAV rep及びcapは、AAV「パッケージング遺伝子」と称する。
【0049】
AAVの「ヘルパーウイルス」とは、哺乳動物細胞によりAAVを複製及びパッケージ化することができるウイルスを指す。かかるAAVのヘルパーウイルスは、アデノウイルス、ヘルペスウイルス及びポックスウイルス(例えばワクシニア)をはじめとする種々のものが当該技術分野で知られている。アデノウイルスは幾つかの異なるサブグループを包含しているが、サブグループCのアデノウイルス5型が最も一般的に使用されている。ヒト、非ヒト哺乳動物及びトリ由来のアデノウイルスも数多く知られており、ATCCのような寄託先から入手できる。ヘルペスファミリーのウイルスには、例えば単純疱疹ウイルス(HSV)及びエプスタイン・バーウイルス(EBV)、並びにサイトメガロウイルス(CMV)及び仮性狂犬病ウイルス(PRV)が含まれ;これらも又ATCCのような寄託先から入手できる。
【0050】
「感染性」ウイルス又はウイルス粒子とは、ウイルス種が栄養となる細胞に送達することができるポリヌクレオチド成分を含むものである。この用語は、必ずしもウイルスの複製能力を含意するわけではない。感染性ウイルス粒子を計数する検定は、当該技術分野で説明されている。
【0051】
「複製能力を持つ」ウイルス(例えば複製能力を持つAAV;場合により「RCA」と略記される)とは、感染性であり、且つ感染細胞内で(砂和紙ヘルパーウイルス又はヘルパーウイルス機能の存在下で)複製することができる、表現型が野生型のウイルスを指す。AVVの場合、複製能力には、一般的に機能的AAVパッケージング遺伝子の存在が必要となる。本明細書に記載の好ましいrAAVベクターは、1つ以上のAAVパッケージング遺伝子を欠いているため、哺乳動物細胞(特にヒト細胞)では複製能力を持たない。好ましくはこのようなrAAVベクターは、AAVパッケージング遺伝子とrAAVベクターの間の組換えによりRCAが生成される可能性を最小限にするために、AAVパッケージング遺伝子配列を欠いている。
【0052】
「遺伝子」とは、転写及び翻訳された後に特定のタンパク質をコードすることができる少なくとも1つオープンリーディングフレームを含有するポリヌクレオチドを指す。
【0053】
「組み換え」とは、ポリヌクレオチドに適用される場合、かかるポリヌクレオチドが、クローニング、制限又はライゲーション手順、並びに天然に存在するポリヌクレオチドとは異なる構築物をもたらすその他の処置の種々の組み合わせの産物であることを意味する。組み換えウイルスは、組み換えポリヌクレオチドを含むウイルス粒子である。これらの用語はそれぞれ、元のポリヌクレオチド構築物、及び元のウイルス構築物の子孫の複製を含む。
【0054】
「調節エレメント」又は「制御配列」とは、ポリヌクレオチドの機能的調節、例えばポリヌクレオチドの複製、重複、転写、スプライシング、翻訳又は分解に寄与する分子の相互作用に関与するヌクレオチド配列である。調節は、プロセスの頻度、速度又は特異性に影響する場合があり、また促進性又は抑制性の性質を有する場合がある。当該技術分野で既知の調節エレメントには、例えば転写調節配列(プロモーター及びエンハンサー等)が含まれる。プロモーターは、特定の条件下でRNAポリメラーゼを結合し、通常はプロモーターよりも下流(3’方向)に位置するコーディング領域の転写を誘導することができるDNA領域である。
【0055】
「作動的に連結」又は「作動可能に連結」とは、遺伝子エレメントの並置を指し、これらのエレメントは、それぞれが予測される態様で作動できるような関係にある。例えば、プロモーターは、そのプロモーターがコーディング配列の転写の誘導を支援する場合に、コーディング領域に作動可能に連結している。この機能的関係が維持される限り、プロモーターとコーディング領域の間には介在する残基が存在する場合がある。
【0056】
「異種」とは、比較対象である実体の残余のものとは遺伝子型が異なる実体から誘導されることを意味する。例えば、遺伝子操作技法によって異なる種に由来するプラスミド又はベクターに導入されるポリヌクレオチドが、異種のポリヌクレオチドである。そして、天然のコーディング配列から取り出され、且つ天然には連結された状態で存在しないコーディング配列に作動的に連結したプロモーターが、異種プロモーターである。
【0057】
「遺伝子改変」とは、遺伝子エレメントが有糸分裂や減数分裂によらずに細胞内に導入されるプロセスを指す。このエレメントは細胞と異種である場合もあれば、細胞内に既に存在するエレメントの追加コピー又は向上型である場合もある。遺伝子改変は、例えば当該技術分野で既知の何れかのプロセス、例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈降法、又はポリヌクレオチドリポソーム複合体との接触を介して、組み換えプラスミド又はその他のポリヌクレオチドで細胞をトランスフェクトすることにより行われる場合がある。遺伝子改変は又、例えばDNA又はRNAウイルス又はウイルスベクターによる形質導入又は感染によっても行われる場合がある。好ましくは、遺伝子エレメントは、細胞内の染色体又はミニ染色体に導入されるが;細胞及びその子孫の表現型及び/又は遺伝子型を変える改変は何れも、この用語に含まれる。
【0058】
細胞は、in vitroにおける細胞の長期的な培養時に配列がその機能を果たすために利用可能である場合に、遺伝子配列により「安定して」改変、形質導入又は形質転換されると言われる。好ましい実施例において、このような細胞は、改変された細胞の子孫によってもやはり継承される遺伝子改変が導入されることから、「遺伝的に」改変される。
【0059】
細胞内へのポリヌクレオチドの「安定した組込み」とは、細胞内で安定して維持される傾向にあるレプリコンにポリヌクレオチドが組み込まれていることを意味する。プラスミドのようなエピソームは場合により多くの世代で維持される可能性があるが、エピソームにより担持される遺伝子物質は、一般的に染色体組込み物質よりも喪失されやすい。しかし、ポリヌクレオチドの維持は、ポリヌクレオチド内又はそれに隣接して選択マーカーを組み込んだ後に、ポリヌクレオチドを担持する細胞を選択的圧力下に維持することによって行われる。場合により、配列は、染色体に組み込まれていない限り、効果的に安定して維持されない可能性があり、そのため、選択マーカーを含む配列を保持するための選択によって、マーカーが染色体に安定して組み込まれている細胞の選択が可能となる。当該技術分野で周知の通り、抗生物質耐性遺伝子はこのような選択マーカーとして好都合に使用できる。一般的に、安定して組み込まれるポリヌクレオチドは、少なくとも約20世代、好ましくは少なくとも約100世代にわたり平均して維持されることが期待され、更に好ましくは永久に維持される。真核生物染色体のクロマチン構造は又、組み込まれたポリヌクレオチドの発現レベルに影響する可能性がある。安定して維持されたエピソームに担持された遺伝子を有することは、特定遺伝子の安定して維持された複数のコピーを有することが望まれる場合は、特に有用となりえる。本発明の意味において特に望ましい特性を有する安定した細胞系統の選択については、以下で説明及び図示する。
【0060】
「単離された」プラスミド、ウイルス又はその他の物質とは、物質又は同様の物質が天然に存在するところに同様に存在するか、最初の製造原料である場合にも存在する場合がある他の成分の少なくとも幾つかを伴わない物質の製剤を指す。即ち、例えば単離された物質は、原料混合物から濃縮する精製技法を使用して調製される場合がある。濃縮は、溶液容量当たりの重量のような絶対値に基づいて測定するか、又は原料混合物中に存在する第2の潜在的な干渉物質と相対的に比較して測定することができる。本発明の実施形態の濃縮向上が、より一層好ましいとされている。即ち、例えば、2倍の濃縮が好ましく、10倍の濃縮がより好ましく、100倍の濃縮が更に好ましく、1000倍の濃縮が尚更に好ましい。
【0061】
rAAVの製剤は、感染性rAAV粒子と感染性ヘルパーウイルス粒子の比率が少なくとも約10:1;好ましくは少なくとも約10:1;より好ましくは少なくとも約10:1;更により好ましくは少なくとも約10:1である場合に、ヘルパーウイルスを「実質的に含まない」と言われる。製剤は又、ヘルパーウイルスタンパク質(即ち、上記のヘルパーウイルス粒子の不純物が破壊された形態で存在していた場合は、このようなレベルのヘルパーウイルスの結果として存在する場合のタンパク質)の等量を含まないことが好ましい。ウイルス及び/又は細胞タンパク質の汚染は、一般的にSDSゲル上のクーマシー染色バンドの存在(例えば、AAVカプシドタンパク質VP1、VP2及びVP3に相当するもの以外のバンドの出現)として認められる。
【0062】
「宿主細胞」には、ベクターのための、又はポリヌクレオチド及び/又はタンパク質の組込みのためのレシピエントとなりえる、又はレシピエントであった個々の細胞又は細胞培養物が含まれる。宿主細胞には、単一の宿主細胞の子孫が含まれるが、この子孫は、天然、偶発的又は意図的な突然変異により元の親細胞と(形態において、又は全DNA相補物のゲノムにおいて)必ずしも完全に同一である必要はない。宿主細胞には、本発明のポリヌクレオチドによりin vivoでトランスフェクトされた細胞が含まれる。
【0063】
「形質転換」又は「トランスフェクション」とは、挿入に使用した方法、例えばリポフェクション、形質導入、感染又はエレクトロポレーションにかかわらず、宿主細胞内への内因性ポリヌクレオチドの挿入を指す。内因性ポリヌクレオチドは、非組込みベクター、例えばプラスミドとして維持される場合もあれば、或いは宿主細胞ゲノムに組み込まれる場合もある。
【0064】
「個体」又は「対象」とは、哺乳動物を指し、これらには、家畜動物、競技用動物、げっ歯類、霊長類、愛玩動物、ウマ、イヌ、ネコ、更にはヒトが含まれる。
【0065】
「有効量」とは、有益又は所望の臨床結果を起こすために十分な量である。有効量は、一回以上の投与で投与されてもよい。本発明において「有効量」とは、以下の何れかを達成する量である:即ち、TNFレベルの低下;炎症応答の低減;及び/又は疾患状態の進行の緩和、軽減、安定化、逆行、緩徐化又は遅延。
【0066】
本明細書で使用される「組み合わせて」とは、1つの治療様式に別の治療様式を追加して投与すること、例えば対象へのTNFアンタゴニストの投与に加えて同じ対象へのrAAVの送達を行うこと、或いは2つの異なるrAAVベクターを同じ対象に投与することを指す。従って、「組み合わせて」とは、対象への別の治療様式の送達の前、最中又は後に1つの治療様式を投与することを指す。
【0067】
本明細書で使用される「治療」とは、有益又は所望の臨床結果を得るための手法である。本発明において有益又は所望の臨床結果とは、症状の緩解、疾患範囲の減衰、疾患状態の安定化(即ち、悪化防止)、疾患拡張の防止、疾患進行の遅延又は緩徐化、疾患状態の緩解又は緩和、及び軽快(部分的又は完全)であり、これらは検出可能であるか、不可能であるかを問わない。「処置」とは又、TNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含むrAAVベクターの有効量を投与される骨組織又は創傷部位の治癒及び再生の向上、加速又は範囲拡大を意味してもよい。例えば、個体の処置は、TNFレベルの上昇に関連する病態(先天性又は誘発性遺伝欠損、ウイルス、細菌若しくは寄生虫による感染、新生物疾患又は形成異常疾患、又は自己免疫のような免疫系の機能不全を含むがこれらに限定されない)を低減又は制限するために行われる場合がある。処置は予防的又は治療的の何れか;即ち、病的事象又は病因物質との接触の開始前又は開始後に行われる場合がある。
【0068】
「生物学的試料」は、個体から得られる種々の型の試料を包含し、診断又はモニタリングの検定において使用できる。この定義には、血液及び生物由来のその他の液体試料、固体組織試料(例えば、生検標本又は組織培養物又はそれから誘導される細胞)、及びそれらの子孫が包含される。この定義には又、採取後に何れかの方法、例えば試薬による処置、可溶化、又はタンパク質又はポリヌクレオチドのような特定成分の濃縮により操作された試料も含まれる。「生物学的試料」という用語には臨床試料が含まれ、又、培養細胞、細胞上澄み、細胞溶解物、血清、血漿、生物学的液体及び組織試料も含まれる。
【0069】
疾患を「緩和する」とは、本発明のrAAVベクターを投与しない場合に比べて、疾患状態の範囲及び/又は望ましくない臨床徴候が低減される、及び/又は進行の時間的経過が緩徐化又は延長されることを意味する。
【0070】
一般的な技法
本発明の実施に当たっては、特に記載がない限り、当該技術分野の技能範囲に含まれる分子生物学、ウイルス学、動物細胞培養及び生化学の従来技法が使用される。このような技法については、文献に詳細に説明されている。例えば,”Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,Second Edition (Sambrook,Fritsch & Maniatis,1989);”Animal Cell Culture” (R.I.Freshney,ed.,1987);”Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells” (J.M.Miller & M.P.Calos,eds.,1987);”Current Protocols in Molecular Biology” (F.M.Ausubel,et al.,eds.,1987);”Current Protocols in Protein Science” (John E Coligan,et al.eds.Wiley and Sons,1995);及び”Protein Purification:Principles and Practice” (Robert K.Scopes,Springer−Verlag,1994)を参照されたい。
【0071】
TNFアンタゴニストの送達のためのrAAVベクター
本発明は、対象の歯周、創傷又は骨の治癒部位におけるTNFのレベルを低減するための組み換えAAV(rAAV)ベクターを提供する。一般的に、これらのrAAVベクターは、TNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む。幾つかの実施形態において、TNFアンタゴニストは、TNFR又はTNFRポリペプチド(それらの生物学的活性を有する誘導体を含む)である。本発明において、好ましいTNFRは、p75 TNFRより誘導される。
【0072】
本発明のrAAVベクターは、AAVゲノムの大半を通常構成するAAV rep及び/又はcap遺伝子の代わりに、対象となる異種(即ち非AVV)のポリヌクレオチドを含む。しかし、野生型AAVゲノムの場合と同様に、異種ポリヌクレオチドは、好ましくは少なくとも1つ、より好ましくは2つのAVV反転末端反復(ITR)によりフランキングされている。rAAV構築物が単一の(通常修飾された)ITRのみによってフランキングされている変異は、当該技術分野で説明されており、本発明との関連において使用できる。
【0073】
TNFアンタゴニスト
本発明において、TNFアンタゴニストは、TNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドの発現産物として、個体、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトに供給される。TNFアンタゴニストをコードするポリヌクレオチドは、rAAVベクターの形態で哺乳動物に送達される。定義の通り、このようなTNFアンタゴニストは、TNFに結合する何れかのポリペプチド(TNFRポリペプチド及び抗TNF抗体を含むがこれらに限定されない)である場合がある。
【0074】
TNFアンタゴニストは、rAAVベクターを投与される細胞により分泌され;好ましくはTNFアンタゴニストは可溶性である(即ち、細胞に結合しない)。例えば、可溶性TNFアンタゴニストは膜貫通領域を欠いており、細胞から分泌される。膜貫通ドメインをコードするポリヌクレオチド配列を同定し取り除く技法は、当該技術分野で既知である。
【0075】
好ましくは、TNFアンタゴニストはTNFRポリペプチドである。TNFRポリペプチドは、未損傷のTNFR(好ましくはrAAVを投与されるのと同じ種に由来)又はTNFRの好適なフラグメントである場合がある。米国特許第5,605,690号には、本発明で使用するのに適切なTNFRポリペプチド(可溶性TNFRポリペプチドを含む)の例を示している。好ましくはTNFRポリペプチドは、TNFRの細胞外ドメインを含む。より好ましくは、TNFRポリペプチドは、分子が送達された宿主において補体を固定しない免疫グロブリン分子の定常ドメインに連結したTNFRの細胞外ドメインを含む融合ポリペプチドである。この定常ドメインは天然である場合がある。或いは、この定常ドメインは、補体に結合したり、補体系を活性化したりすることがないように修飾又は突然変異される場合がある。好ましくは、TNFRポリペプチドは、IgG1又はIgG3分子の定常ドメインに連結したp75 TNFRの細胞外ドメインを含む融合ポリペプチドである。好ましくはヒトへの投与が意図される場合、融合タンパク質に使用するIgは、ヒト、好ましくはヒトIgG1又はIgG3である。
【0076】
TNFRポリペプチドの1価及び多価形態が、本発明で使用される場合がある。TNFRポリペプチドの多価形態は、複数のTNF結合部位を保有している。TNFRポリペプチドの多価形態は、例えばTNF結合ドメインをコードするポリヌクレオチドの反復ライゲーションを介して、rAAVベクターにおいてコードされる場合があり、各反復はリンカー領域により分離されている。好ましくは、本発明のTNFRは、TNFRの2価又は2量体形態である。例えば、米国特許第5,605,690号及びMohler,et al.,1993,J.Immunol.151:1548−1561に記載の通り、免疫グロブリン重鎖又は軽鎖の何れか又は両方の可変ドメインの代わりに置換されているTNFR細胞外ドメインを有するキメラ抗体ポリペプチドは、本発明のTNFRポリペプチドを提供する。一般的に、このようなキメラTNF:抗体ポリペプチドが細胞により産生される場合、これは免疫グロブリンドメイン間のジスルフィド結合を介して2価分子を形成する。このようなキメラTNF:抗体ポリペプチドは、TNFR:Fcと称する。
【0077】
幾つかの実施形態において、TNFアンタゴニストは、TNFRポリペプチド構築物sTNFR(p75):Fcである。sTNFR(p75):Fcのポリペプチド配列は、本明細書の図5及び米国特許第5,637,540号の図1に図示されている。このTNFアンタゴニストのコーディング配列は、米国特許第5,605,690号及び第5,637,540号に記載される通り、プラスミドpCAVDHFRhuTNFRFc中に存在する。このsTNFR(p75):Fcポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは何れも、本発明における使用に好適である。sTNFR(p75):Fcをコードするポリヌクレオチド配列は、米国特許第5,637,540号の図2に図示されている。
【0078】
本発明において、更なるTNFポリペプチド配列には、米国特許第5,395,760号の図2及び3に示されているものが含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
TNFRポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、当該技術分野で既知の方法を使用して、当該技術分野で既知のTNFRポリヌクレオチド配列から形成できる。本発明において、TNFRポリペプチドをコードする好ましいポリヌクレオチド配列には、米国特許第5,395,760号及び第5,605,690号に記載されているTNFRポリヌクレオチド配列及びGenBank受入番号M32315(ヒトTNFR)及びM59378(ネズミTNFRI)が含まれるが、これらに限定されない。本発明における使用に好適なポリヌクレオチドは、標準的な合成及び組み換え方法を使用して合成することができる。
【0080】
TNFアンタゴニストの活性を評価する方法は、当該技術分野で既知の通りであり、本明細書で例示されている。例えばTNFアンタゴニストの活性は、細胞ベースの競合的結合検定により評価される場合がある。このような検定では、放射性標識TNFを連続希釈TNFアンタゴニスト、及び細胞膜結合TNFRを発現する細胞と混合する。懸濁液の一部を遠心分離して遊離及び結合したTNFを分離し、遊離及び結合の画分中の放射能の量を測定する。TNFアンタゴニストの活性は、TNFアンタゴニストの存在下で細胞へのTNF結合を抑制することにより評価される。
【0081】
別の例として、TNFアンタゴニストは、L929細胞のような標的細胞としてのTNFの細胞毒性活性に対する感受性を持つ細胞を使用した生物学的検定法により、in vitroにおけるTNF活性を中和する能力について分析される場合がある(例えば、米国特許第5,637,540号を参照)。このような検定では、TNFと共に培養された標的細胞に種々の量のTNFアンタゴニストを投与した後、細胞溶解を調べる。TNFアンタゴニストの活性は、TNFアンタゴニストの存在下におけるTNF誘導標的細胞溶解の低下により評価される。
【0082】
本発明は又、インターロイキン1(IL−1)アンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含むrAAVベクターも提供する。サイトカインIL−1は、歯周炎において主軸となるメディエーターとして関与が示唆されている(Delima,et al.,J Infect Dis,186,511−516,2002)。RAにおいて、IL−1は、罹患関節における炎症細胞の浸潤及び軟骨崩壊に関与していると考えられる。RAを有する患者においてIL−1アンタゴニストを使用した臨床治験では、IL−1活性を遮断することによってRA症状の緩解がもたらされる場合があることが示されている(Campion,et al.,1996,Arthritis Rheum.39:1092−1101;Bresnihan,et al.,1996,Arthritis Rheum.39:S73)。ネズミの関節炎モデルにおいて、抗TNFα/抗IL−1の併用投与は、炎症の減衰及び関節軟骨損傷の減衰の両方をもたらした(Kuiper,et al.,1998,Cytokine 10:690−702)。
【0083】
本発明は、TNFアンタゴニスト(例えばsTNFR(p75):Fc)及びIL−1アンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含むrAAVベクターを提供する(或いは、rAAVベクターが、TNFアンタゴニスト及びIL−1アンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含む)。本発明は又、IL−1アンタゴニストをコードするポリヌクレオチドを含むrAAVベクターも提供する。好ましくはIL−1アンタゴニストは、所望の生物学的活性(即ちIL−1への結合)を示すIL−1受容体(IL−1R)又はIL−1Rポリペプチド(それらの生物学的活性を有する誘導体を含む)である。幾つかの実施形態において、IL−1Rは、IL−1R II型から誘導される。IL−1Rポリペプチド配列には、米国特許番号第5,637,540号の図3に図示する配列、並びにIL−1R GenBank受入番号U74649及び米国特許第5,350,683号に記載の配列が含まれるが、これらに限定されない。IL−1Rポリペプチドをコードする何れのポリヌクレオチドも、本発明における使用に好適である。例えば、好ましいIL−1Rポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列は、米国特許第5,637,540号の図3に図示されている。本発明における使用に好適なポリヌクレオチドは、標準的な合成及び組み換えの方法を使用して合成することができる。
【0084】
IL−1アンタゴニストの活性を評価する方法は、当該技術分野で既知である。例えば、IL−1アンタゴニストの活性は、本明細書においてTNFアンタゴニストに関して記載される通り、細胞ベースの競合的結合検定により評価される場合がある。別の例として、IL−1アンタゴニストの活性は、IL−1の生物学的検定法においてin vitroでIL−1活性を中和する能力について評価される場合がある。このような検定では、IL−1の投与に応答してインターロイキン2(IL−2)を産生する細胞系統(例えばEL−4 NOB−1)が使用される。このIL−1応答性細胞系統は、IL−2感受性細胞系統(例えばCTLL−2)と組み合わせて使用される。IL−2感受性細胞系統の増殖は、IL−2を産生するIL−1応答性細胞系統に依存しており、従ってIL−1応答性細胞系統のIL−1刺激の尺度として使用される。IL−1アンタゴニストの活性は、このようなIL−1生物学的検定法でIL−1活性を中和するその能力により評価されると考えられている(Gearing,et al.,1991,J.Immunol.Methods 99:7−11;Kuiper,et al.,1998)。
【0085】
幾つかの実施形態において、本発明のベクターは、rAAVウイルス粒子内にカプシド化される。従って、本発明には、本明細書に記載のベクターの何れかを含むrAAVウイルス粒子(組み換えポリヌクレオチドを含有していることから組み換え型)が含まれる。このような粒子を産生する方法は、以下に記載される。
【0086】
本発明は又、本明細書に記載のrAAVベクター(及び/又はrAAVベクターを含むrAAVウイルス粒子)の何れかを含有する組成物も提供する。これらの組成物は、TNFのレベルの低下により利益を受けることがある個体への投与に特に有用である。
【0087】
一般的に、TNFのレベルを低下させる際に使用される本発明の組成物は、好ましくは薬学的に許容される賦形剤中に、TNFアンタゴニストをコードするrAAVベクターの有効量を含む。当該技術分野で周知の通り、薬学的に許容される賦形剤は、薬理学的に有効な物質の投与を促進し、液体の溶液若しくは懸濁液として、乳液として、又は使用前に液体に溶解又は懸濁するのに好適な個体形態として、又は歯科用トレー、マウスガード又は骨製ピンのような固体送達デバイスをコーティング又は充填するために使用できるゲル、ゲルマトリックス又は凍結乾燥組成物として供給することができる、比較的不活性な物質である。例えば、賦形剤は形状又はコンシステンシーをもたらすか、又は希釈剤とすることができる。好適な賦形剤には、安定化剤、浸潤剤及び乳化剤、浸透圧調節用の塩、カプセル化剤、緩衝剤、及び微小球、例えばポリグリコール乳酸が含まれるが、これらに限定されない。賦形剤、並びに非経腸及び経腸への薬剤送達用製剤については、Remington’s Pharmaceutical Sciences 19th Ed.Mack Publishing (1995)に記載されている。
【0088】
一般的に、これらのrAAV組成物は、局所注射(例えば筋肉内又は歯周)による投与のために製剤化される。従って、これらの組成物は、好ましくは薬学的に許容されるビヒクル、例えば食塩水、リンゲルバランス塩液(pH7.4)、デキストロース溶液等と組み合わせられる。必須ではないが、薬学的組成物は、場合により厳密な量の投与に好適な単位剤形において供給される場合がある。
【0089】
本発明には又、歯周炎並びに骨及び創傷治癒の障害のようなTNF関連口腔頬側疾患の処置に使用する上記ベクター(又は上記ベクターを含む組成物)の何れかも含まれる。本発明には又、個体の歯周、骨又は創傷治癒部位のような部位におけるTNFのレベルを低下させる際に使用する上記ベクター(又は上記ベクターを含む組成物)の何れかも含まれる。本発明は更に、歯周炎又は骨若しくは創傷治癒の障害のようなTNF関連障害又は病態の処置のための医薬品の製造における上記ベクター(又は上記ベクターを含む組成物)の何れかの使用も提供する。本発明は又、個体の歯周、創傷又は骨治癒部位のような障害の部位におけるTNF活性レベルを低下させる医薬品の製造における上記ベクター(又は上記ベクターを含む組成物)の何れかの使用も提供する。
【0090】
本発明のrAAVを含む宿主細胞
rAAVベクターを含む宿主細胞は、本明細書に記載のrAAVベクターの生成に使用される。真核生物の宿主細胞には、コウボ、昆虫、トリ、植物及び哺乳動物の細胞が含まれる。好ましくは宿主細胞は哺乳動物である。例えば、宿主細胞には、HeLa及び293細胞が含まれ、これらは何れもヒト起源であり、容易に入手できる。
【0091】
rAAVベクター配列を発現できる宿主細胞の開発は、信頼できるレベルで発現される物質の確立された供給源をもたらす。宿主細胞内にrAAVベクターを導入し、宿主細胞がrAAVベクターを含有するかどうかを測定する方法及び組成物は、後述の項で考察するが、当該技術分野において既に説明されており、広範に入手できる。
【0092】
これらの実施形態に含まれ、後述の項で考察するものは、いわゆるパッケージングされたrAAVベクターを産生する基礎として使用される「プロデューサー細胞」である。
【0093】
本発明のrAAVの調製
本発明のrAAVベクターは、当該技術分野の標準的な方法を使用して調製される場合がある。種々の血清型は遺伝子レベルでさえも機能的及び構造的に関連しているため、何れの血清型のアデノ随伴ウイルスも好適である(例えば、Blacklow,pp.165−174 of ”Parvoviruses and Human Disease” J.R.Pattison,ed.(1988);及びRose,Comprehensive Virology 3:1,1974を参照)。全てのAAV血清型は、相同のrep遺伝子により媒介される同様の複製特性を見かけ上示しており;一般的には全てが3種の関連するカプシドタンパク質、例えばAAV2で発現されるものを担持している。関連性の程度は更に、ヘテロデュプレックス分析によっても示唆されており、これによれば、ゲノム長にわたる血清型間の広範な交差ハイブリダイゼーション;及びITRに相当する末端の類似した自己アニーリングセグメントの存在が明らかにされている。同様の感染性のパターンは又、各血清型の複製機能が同様の調節制御下にあることも示唆している。種々のAAV血清型の中でも、AAV2が最も一般的に使用される。AAVの生物学及び遺伝学的特徴の一般評論については、例えばCarter,”Handbook of Parvoviruses”,Vol.I,pp.169−228 (1989);及びBerns,”Virology”,pp.1743−1764,Raven Press,(1990)を参照されたい。rAAVベクター構築の一般原理は、当該技術分野で既知である。例えば、Carter,1992,Current Opinion in Biotechnology,3:533−539;及びMuzyczka,1992,Curr.Top.Microbiol.Immunol.,158:97−129を参照されたい。
【0094】
上記の通り、本発明のrAAVベクターは、TNFアンタゴニストをコードする異種のポリヌクレオチドを含む。rAAVベクターは又、追加のポリペプチド、例えばIL−1受容体II型もコードする場合がある。或いは、rAAVベクターは又、IL−1RのようなIL−1アンタゴニストをコードする異種ポリヌクレオチドを含む場合がある。このような異種ポリヌクレオチドは一般的に、コーディング配列及び所望の機能を提供するのに十分な長さのものとなる。AAV粒子内のカプシド化のために、異種ポリヌクレオチドは好ましくは約5kb未満となるが、その他の血清型及び/又は修飾を使用して、より大きな配列がAAVウイルス粒子中にパッケージングされる場合がある。例えば好ましいポリヌクレオチドは、図5に示す通りTNFR:Fcをコードし、長さが約1.5kbである。
【0095】
異種ポリヌクレオチドの転写が意図する標的配列において所望であるため、例えば当該技術分野で既知の通り、標的細胞内の転写の所望のレベル及び/又は特異性に応じて、これをそれ自体、又は異種のプロモーター及び/又はエンハンサーに作動可能に連結することができる。この状況での使用に好適なプロモーター及びエンハンサーには種々の型がある。例えばFeldhaus(1998年10月20日出願の米国特許出願第09/171,759号)は、rAAVからの発現を調節するプロモーターを含む修飾されたITRを記載している。構成的プロモーターは、遺伝子転写の継続的レベルをもたらし、治療用ポリヌクレオチドが基本的に継続して発現されることが望ましい場合は、好ましいものである。誘導又は調節可能なプロモーターは一般的に、インデューサーの非存在下で低活性を示し、インデューサーの存在下でアップレギュレートされる。これらのプロモーターは、発現が特定の時点又は特定の位置においてのみ望ましい場合、或いは誘導剤を使用して発現のレベルを調節することが望ましい場合に、好ましい場合がある。プロモーター及びエンハンサーは又、組織特異的である場合もあり、即ちこれらは、おそらくこれらの細胞に固有に存在する遺伝子調節エレメントによって、特定の細胞型においてのみ活性を示す。このような組織特異的プロモーター及びエンハンサーは、当該技術分野で既知である。実例として、組織特異的プロモーターの例には、筋肉における発現のための種々のミオシンプロモーターが含まれる。組織特異的プロモーター及びエンハンサーの別の例には、歯周組織中に存在する細胞及び/又は組織型の調節エレメントのものがある。
【0096】
好ましい誘導又は調節プロモーター及び/又はエンハンサーには、生理学的応答性を有するもの、例えば炎症性のシグナル及び/又は病態に対する応答性を有するものが含まれる。例えば、炎症拡大を誘発するメディエーター、例えば前炎症性サイトカイン遺伝子(例えばTNFα、IL−1β及びIFNγ)に由来するものに応答して活性化されるプロモーター及び/又はエンハンサーの使用は、炎症拡大の間にTNFアンタゴニストの発現をもたらすと考えられている(Varley,et al.,1998,Mol.Med.Today 4:445−451)。TNFαプロモーター領域は約1.2kbであり、配列はTakashiba,et al.,1993,Gene,131:307−308により報告されている。
【0097】
プロモーターの更なる代表的な例には、シミアンウイルス40由来のSV40後期プロモーター、バキュロウイルスポリヘドロンエンハンサー/プロモーターエレメント、単純疱疹ウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)、サイトメガロウイルス(CMV)由来の前初期プロモーター、及び例えばLTRエレメントを含めた種々のレトロウイルスプロモーターがある。更なる誘導プロモーターには、重金属誘導プロモーター(例えばマウス乳房腫瘍ウイルス(mMTV)プロモーター又は種々の成長ホルモンプロモーター)、及びT17 RNAポリメラーゼの存在下で活性であるT7ファージ由来のプロモーターが含まれる。その他多くの種類のプロモーターが知られており、一般的には当該技術分野で入手することができ、このような多くのプロモーターの配列がGenBnkデータベースのような配列データベースにおいて入手することができる。
【0098】
所期の標的細胞では翻訳も望まれることから、TNFアンタゴニストをコードする異種ポリヌクレオチドは又、好ましくは翻訳を促進する調節エレメント(例えばリボソーム結合部位、即ち「RBS」及びポリアデニル化シグナル)も含むことになる。従って、異種ポリヌクレオチドは一般的に、好適なプロモーターに作動的に連結した少なくとも1つのコーディング領域を含むことになり、例えば作動的に連結したエンハンサー、リボソーム結合部位及びポリAシグナルを含んでもよい。異種ポリヌクレオチドは、同じ又は異なるプロモーターの制御下で1つのコード領域を含んでもよければ、複数のコード領域を含んでもよい。対照エレメント及びコード領域の組み合わせを含有する全体単位は、しばしば発現カセットと称される。
【0099】
TNFアンタゴニストをコードする異種ポリヌクレオチドは、組み換え技法によりAAVゲノムコーディング領域内に、又は好ましくはこの領域に代わって(即ち、AAV rep及びcap遺伝子に代わって)組み込まれるが、一般的にAAVのITRにより何れかの側でフランキングされる。このことは、ITRがコーディング配列の上流及び下流の両方に直接並置して、好ましくは(必須ではないが)AAV由来の如何なる介在配列も伴うことなく現れることにより、複製能力を有するAAV(「RCA」)ゲノムを再生する組み換えの可能性が低下することを意味している。最近の観察結果によれば、通常2個のITRからなる配置に伴う機能を行うのに1個のITRで十分であることが示唆されており(米国特許第5,478,745号)、即ち、ITRを1個しか持たないベクター構築物を本明細書に記載のパッケージング及び産生方法と組み合わせて使用できる。この結果得られるrAAVベクターは、特定のAAVコーディング配列がベクターから欠失している場合に、AAV機能において「欠損」であると称される。
【0100】
種々のAAVゲノムの相対的カプシド化のサイズに限界があるとすれば、ゲノムへ大型の異種ポリヌクレオチドを挿入する際には、AAVゲノムの一部を除去しなければならず、特にパッケージング遺伝子の1つ以上が除去される場合がある。1つ以上のAAV遺伝子の除去は、何れの場合にもRCAを形成する可能性を低下させるには望ましい。従って、rep、cap又はその両方のコード又はプロモーター配列は、これらの遺伝子により提供される機能がトランスで提供できることから、好ましくは除去される。
【0101】
rAAVベクターは種々の形態、例えば細菌プラスミド、AAV粒子、リポソーム又はそれらの何れかの組み合わせにおいて提供される。他の実施形態において、rAAVベクター配列は、rAAVベクターでトランスフェクトされる真核生物細胞中に提供される。
【0102】
パッケージングされたrAAV粒子の形態でrAAVが使用される場合は、遺伝子転移における使用に望ましい、rAAVウイルス製剤の少なくとも3つの特徴が存在する。第1に、rAAVウイルスは、標的組織における有効な割合の細胞を形質導入するのに十分高い力価において形成することが好ましい。一般的にin vivoにおける遺伝子転移には、多数のrAAVウイルス粒子が必要である。例えば、治療薬によっては、10個を超える粒子が必要となる場合がある。第2に、rAAVウイルス製剤は、複製能力のあるAAV(即ちヘルパーウイルス又はヘルパーウイルス機能の存在下で複製することができる、表現型が野生型のAAV)を本質的に含んでいてはならない。第3に、rAAVウイルス製剤は、全体としてその他のウイルス(例えばAAVの産生に使用されるヘルパーウイルス)並びにヘルパーウイルス及び細胞タンパク質、並びに例えば脂質及び炭水化物等のその他の成分を本質的に含まないことが、遺伝子転移において免疫応答を発生させる危険性を最小限にするか無くす上で必要となる。この後者のポイントは、AAVが「ヘルパー依存性」ウイルスであり、AAV産生プロセスの間に効果的に複製及びパッケージングされるためにヘルパーウイルス(一般的にアデノウイルス)との同時感染又はその他のヘルパーウイルス機能の提供が必要となることから、AAVにおいては特に重要であり;更に、上記の通り、アデノウイルスは、遺伝子転移用途において宿主免疫応答を発生させることが観察されている(例えば、Le,et al.,1997;Byrnes,et al.,1995,Neuroscience,66:1015;McCoy,et al.,1995,Human Gene Therapy,6:1553;及びBarr,et al.,1995,Gene Therapy,2:151を参照)。
【0103】
rAAVベクターがAAV粒子内にパッケージングされる場合、rAAVベクターを複製及びパッケージングするためには、種々の失われたrep及び/又はcap遺伝子産物に必要な機能を共にコードする1つ以上のパッケージング遺伝子で、失われた機能を補充する。パッケージング遺伝子又は遺伝子カセットは、好ましくはAAV ITRによりフランキングされておらず、好ましくはrAAVゲノムと如何なる実質的相同性も共有しない。即ち、ベクター配列と個別に提供されたパッケージング遺伝子の間の複製時における相同組み換えを最小限にするためには、2つのポリヌクレオチド配列の重複を避けることが望ましい。相同性のレベル及び対応する組み換え回数は、相同配列の長さの増大、並びにそれらの共有される同一性のレベルに伴って増大する。所定の系において問題を呈することになる相同性のレベルは、当該技術分野で既知の通り理論的に測定し、実験的に確認することができる。しかし、一般的に組み換えは、重複配列が全長において少なくとも80%同一である場合に約25ヌクレオチド配列未満であれば、又は全長において少なくとも70%同一である場合に約50ヌクレオチド配列未満であれば、実質的に減らすか無くすことができる。当然ながら、組み換えの可能性を更に低下させることから、更に低レベルの相同性が好ましい。たとえ重複する相同性が一切ない場合でも、RCAを生成する回数は多少残存する。RCAの発生回数の更に一層の低下(例えば異種組み換えによる)は、米国特許第6,541,258号においてAllen等が記載している通り、AAVの複製及びカプシド化機能を「分割」することによって得られる。
【0104】
rAAVベクター構築物及び相補型パッケージング遺伝子構築物は、本発明において幾つかの異なる形態で実施できる。ウイルス粒子、プラスミド及び安定して形質転換された宿主細胞は全て、このような構築物を一過性的に又は安定してパッケージング細胞に導入するために使用できる。
【0105】
即ち、種々の異なる遺伝子的に改変された細胞が、本発明において使用できる。実例として、哺乳動物の宿主細胞は、安定して組み込まれたrAAVベクターの少なくとも1つの未損傷のコピーと共に使用される場合がある。プロモーターに作動可能に連結したAAV rep遺伝子を少なくとも含むAAVパッケージングプラスミドは、複製機能を供給するために使用できる(米国特許第5,658,776号に記載の通り)。或いは、プロモーターに作動可能に連結したAAV rep遺伝子を有する安定した哺乳動物細胞系統も、複製機能を供給するために使用できる(例えば、Trempe,et al.の米国特許第5,837,484号;Burstein,et al.のWO98/27207;及びJohnson,et al.の米国特許第5,658,785号を参照)。上記の通り、カプシド化タンパク質を提供するAAVcap遺伝子は、AAV rep遺伝子と共に、又は個別に提供することができる(例えば、上で引用した出願及び特許、並びにAllen,et al.(WO96/17947)を参照)。その他の組み合わせも可能である。
【0106】
当該技術分野で既知の通り、そして上で引用した参考文献及び以下の実施例で図示される通り、遺伝子物質は、細胞(例えばAAVの産生に使用する哺乳動物の「プロデューサー」細胞)に、このような細胞を形質転換又は形質導入する種々の手段の何れかを使用して、導入することができる。実例として、このような技法には、細菌プラスミドによるトランスフェクション、ウイルスベクターによる感染、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈降法、及び種々の脂質系組成物の何れかを使用した導入(しばしば「リポフェクション」と称されるプロセス)が含まれる。これらの技法を実施する方法及び組成物は、当該技術分野において既に説明されており、広範に入手できる。
【0107】
好適に改変された細胞の選択は、当該技術分野において何れかの技法により行なわれる場合がある。例えば、細胞の改変に使用されるポリヌクレオチド配列は、当該技術分野で既知の1つ以上の検出又は選択マーカーと同時に導入されるか、それと作動可能に連結される場合がある。実例としては、選択マーカーとして薬剤耐性遺伝子を使用することができる。次に薬剤耐性細胞を釣菌して培養した後、所望の配列の発現(即ち、異種ポリヌクレオチドの産生)について試験することができる。導入されたポリヌクレオチドの獲得、局在化及び/又は維持に関する試験は、DNAハイブリダイゼーションをベースとした技法(例えば、サザンブロッティング及び当該技術分野で既知のその他の手技)を使用して実施することができる。発現に関する試験は、遺伝子的に改変された細胞から抽出されるRNAのノーザン分析によるか、又は該当する遺伝子産物の間接的免疫蛍光により容易に行うことができる。パッケージング能力及び効率の試験及び確認は、AAV粒子の産生に関して試験するためにAAV及びヘルパーウイルスの残存する機能的成分を細胞に導入することにより可能となる。細胞が複数のポリヌクレオチド構築物により継承可能に改変される場合は、それらを個別に細胞に導入し、各手順を順次確認することが、一般的にはより好都合である(必須ではない)。
【0108】
rAAVウイルスベクターは、米国特許第6,001,650号及び第6,258,595号に記載の一過性トランスフェクションの手法;WO95/34670に記載の安定した細胞系統の手法;又はWO96/13589に記載のアデノウイルスハイブリッドベクターを含むシャトルベクターの手法又はアデノウイルス−AAVハイブリッドベクター系(Adハイブリッド系)に関してWO99/15685に記載されたrep−cap細胞系統の使用を含む、当該技術分野で既知の方法により作製することができる。rAAVベクター産生系は、一般的に3つの共通する要素:即ち、1)当該技術分野で既知の標準的な宿主細胞を含めた、複製を許容する宿主細胞;2)ヘルパーウイルス機能;及び、3)トランスパッケージングrep−cap構築物を有している。rAAVベクター産生系で使用される宿主細胞の例には、本明細書に記載の3つのベクター産生系に適用できる293−A、293−S(BioRelianceより入手)、VERO及びHela細胞系統がある。ヘルパーウイルス機能は、安定した細胞系統の製造で使用する時には野生型アデノウイルス5型ウイルスによって提供される場合もあれば、アデノウイルスハイブリッドベクター系によって提供される場合もあり、或いはトランスフェクション産生系で使用する時にはアデノウイルス5型(Ad5)のE2a、E4−orf6及びVA遺伝子を発現するプラスミドpAdヘルパー4.1によって提供される場合もある。
【0109】
AAV2血清型カプシドベクターについては、rep−capトランスパッケージング細胞系統がWO95/34670に記載されている。AAV−5カプシドについては、AAV2の5’及び3’ITRシュードタイプ構築物、及びAAV2 p5プロモーターrep−cap細胞系統の制御下にあるAAV−2 rep遺伝子及びAAV5のcap配列(それぞれAAV−2/AAV−5)のシュードタイプトランスパッケージング構築物を含有するトランスパッケージングrep−capプラスミドが、記載の通り形成される(Sandalon,et al.,J.Virol.78:12355−12365 (2004))。トランスフェクション系については、rep−cap(それぞれAAV2/5)シュードタイプトランスパッケージング構築物のp5プロモーターが、本質的にTATAボックスからなる最小熱ショックプロモーターと置換される。
【0110】
rAAVウイルスベクターの産生に使用する安定した細胞系統は、上記の細胞系統をトランスフェクトし、そして繰り返し増殖することができ、rep−capパッケージング構築物並びに安定して組み込まれたAAV ITR血清型発現プラスミドを含有する安定した細胞系統を得るスクリーニングを行うことにより、生成することができる。rAAVベクターは、当該技術分野で既知の、並びにWO99/11764及びWO00/14205に記載の何れかの方法により産生及び精製される。
【0111】
rAAVベクターのAdハイブリッド産生は、WO96/13598に記載の通り、WO99/15685に記載のrep−cap細胞系統を使用して実施することができる。最初にT.C.He等により開発され、米国特許第5,922,576号に開示されている系は、組み換えアデノウイルス/AAVハイブリッド(Ad/AAVハイブリッド)を作成する。この手法は、コンピテントなE.coli内で細菌組み換えを起こして、ウイルス保存株の生成のためにAd/AAVハイブリッドウイルスプラークを誘導するのに利用される組み換えAd/AAVハイブリッドプラスミドをもたらす、2つのプラスミドベクター系(転移又はシャトルベクター及びアデノウイルスゲノム含有ベクター)を利用する。
【0112】
場合により、rAAVウイルス製剤を更に処理して、rAAV粒子を濃縮する、ヘルパーウイルス粒子を枯渇させる、又はその他の態様でそれらを対象への投与に好適にすることもできる。代表的な技法については、Atkinson,et al.(WO99/11764、WO00/14205及び米国特許第6,566,118号)を参照されたい。精製技法には、等密度勾配遠心分離及びクロマトグラフィー技法が含まれてもよい。感染性ヘルパーウイルス活性の低減には、当該技術分野で既知の通り、熱処理によるか、pH処理による不活性化が含まれてもよい。その他のプロセスには、濃縮、濾過、透析濾過、又は好適な緩衝剤又は薬学的賦形剤との混合が含まれてもよい。製剤は、販売用として単位用量又は多用量アリコットに分割することができるが、これらは、抗原及び遺伝子含量の均一性並びに夾雑ヘルパーウイルスの相対的割合のような、バッチの本質的特性を保持する。
【0113】
ウイルス製剤の感染力価を測定する種々の方法が、当該技術分野で既知である。例えば、力価測定の1つの方法には、Atkinson,et al.(WO99/11764)に示すような高スループットの力価測定試験がある。この迅速且つ定量的な方法により測定されるウイルス力価は、より伝統的な技法により測定される力価とよく一致している。しかし、この高スループット方法は又、多くのウイルス複製反応の同時処理及び分析を可能にするため、その他多くの用途、例えばウイルス複製及び感染を許容する又は許容しない細胞系統のスクリーニングに適している。
【0114】
本発明のrAAVの使用方法
本発明は、対象のTNF関連障害又は病態を処置又は予防する方法を提供する。このような障害又は病態の例には、骨喪失、創傷治癒及び骨治癒の障害、骨の同種又は自己移植片の治癒の障害、並びに歯周炎がある。本発明は、本明細書に記載のrAAVベクターの投与がTNF関連の障害又は病態の処置又は予防に使用される方法を提供する。
【0115】
本発明は又、本明細書に記載のrAAVベクターの投与が、対象の障害の部位(例えば、歯周部位、創傷部位及び骨移植部位)のTNFのレベルを低下させるために使用される方法も提供する。このような方法は、本明細書に記載のTNF関連障害を有する個体にとって特に有益である場合がある。TNFレベルは、TNFアンタゴニストをコードするrAAVを投与される前の対象のTNFレベルに比べて、又はTNFアンタゴニストをコードするrAAVを投与されない個体のTNFレベルに比べて、低下することが理解される。TNFレベルとは、遊離(未複合体化若しくは未結合)TNF又は活性TNFのレベルを指すことが理解される。TNFのレベルを検出する方法は、以下に記載する。
【0116】
例えば、本明細書に記載の処置は、個体における骨移植片に対して有益である場合がある。処置は、処置を受けていない場合に予測される生存に比べて、骨移植片の生存の延長を意味する場合がある。
【0117】
本発明は又、本明細書に記載のrAAVベクター(又はrAAVベクターを含む組成物)の投与が、対象の障害部位(例えば歯周部位)における炎症応答を低減するために使用される方法も提供する。炎症性応答は、TNFアンタゴニストをコードするrAAVを投与される前の対象の炎症性応答に比べて、又はTNFアンタゴニストをコードするrAAVを投与されない個体の炎症性応答に比べて、低下することが理解される。
【0118】
幾つかの実施形態において、rAAVベクター(又はrAAVベクターを含む組成物)は、哺乳動物の歯周部位のような障害部位に送達(例えば、筋肉内注射により、又は隣接歯間に)されることにより、炎症部位においてTNFアンタゴニストの原料を供給するのである。幾つかの実施形態において、rAAVベクターは、sTNFR(p75):Fcをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0119】
幾つかの実施形態において、rAAVベクターは、部位(例えば歯周部位)における炎症を低減する別の薬剤の投与と組み合わせて投与される。幾つかの実施形態において、薬剤は、TNFアンタゴニスト、例えばTNFR又は抗TNF抗体である。幾つかの実施形態において、rAAVベクターと組み合わせて投与される他の薬剤は、IL−1アンタゴニストである。好ましくは生理学的に許容される担体、賦形剤又は希釈剤と共に組成物中に含まれる他の薬剤、例えばTNFアンタゴニスト又はIL−1アンタゴニストは、好適な手法により投与される場合がある。
【0120】
幾つかの実施形態において、少なくとも2つの異なるrAAVベクター(又は少なくとも2つの異なるrAAVベクターを含む組成物)は、炎症部位における哺乳動物の歯周部位にTNFアンタゴニスト及びIL−1アンタゴニストの原料を送達するために投与される。好ましくは、rAAVベクターの1つは、TNFRをコードするポリヌクレオチドを含み、rAAVベクターのもう1つは、IL−1Rをコードするポリヌクレオチドを含む。これらの2つの異なるrAAVベクターにおいて、異種ポリヌクレオチドは、同様の条件下において活性である転写プロモーター及び/又はエンハンサーに対して、又は例えば独立して調節される異なる条件下で活性である転写プロモーター及び/又はエンハンサーに対して、作動可能に連結される場合がある。種々の投与調整において、2種の異なるrAAVベクター(即ち、TNFRをコードするポリヌクレオチドを含むもの、及びIL−1Rをコードするポリヌクレオチドを含むもの)は、同時に又は異なる時点において、同じ又は異なる回数にて、及び/又は同じ又は異なる量にて、哺乳動物に投与される場合がある。
【0121】
上述の方法の何れかについて、1つ以上のrAAVベクターの1つ以上を投与してよいと理解される。例えば、上記の通り、TNFアンタゴニスト、例えばTNF受容体(最も好ましくは、sTNFR(p75):Fc)をコードするベクターが投与される場合がある。或いは、IL−1アンタゴニスト、例えばIL−1受容体ポリペプチドをコードする追加のベクターが投与される場合がある。或いは、TNFアンタゴニスト及びIL−1アンタゴニストの両方をコードする単一のベクターが投与される場合がある。この単一のベクターは、同じ又は異なる転写調節エレメントの制御下にてコーディング配列を有する場合がある。複数のベクターが使用される場合、それらのベクターは同時に又は異なる時点において、及び/又は同じ又は異なる回数において投与される場合がある。
【0122】
更に、上述の方法の何れかについて、幾つかの実施形態において、rAAVベクターを投与される個体は、rAAVベクターを含有する細胞を有することになり(投与後)、最も好ましくはrAAVベクターが細胞内ゲノムに組み込まれる細胞を有することになる。rAAVの安定した組込みは、エピソームベクターよりも持続的な発現を可能にすることから、顕著な利点となる。従って、好ましい実施形態において、個体における細胞(即ち、少なくとも1つの細胞)は、安定して組み込まれたrAAVを含むことになる。換言すれば、上述の方法の何れかについて、rAAVの投与は、細胞内ゲノムへのrAAVの組込みをもたらす(但し、当業者に理解される通り、全てのrAAVベクターが組み込まれる必要はない)。サザン検出法のような、組込型と非組込型を測定する及び/又は識別する方法は、当該技術分野で周知である。
【0123】
歯周部位へのrAAVベクター(好ましくはAAV粒子としてパッケージングされる)の投与は、幾つかの経路の何れかを介して行われる場合がある。1つの投与様式には、筋肉内送達を介したものがある。rAAVベクターの筋肉内送達は、注射部位近傍の組織及び組織間空間、並びに循環系の両方においてTNFのレベルを低減することができる。本発明のrAAV組成物の別の投与様式には、組織又は解剖学的部位に直接組成物を注射することによるものがある。例えば、隣接歯間の領域に組成物を注射することにより、投与が行われる。
【0124】
rAAV(好ましくはAAV粒子の形態)の有効量は、処置の目的に応じて投与される。有効量は、単回用量又は分割用量で与えられる場合がある。低い割合の形質導入が治療効果を達成できる場合、治療の目的は一般的にこのレベルの形質導入を満たす又は超過することである。場合により、このレベルの形質導入は標的細部の僅か約1〜5%の形質導入により達成できるが、より一般的には所望の組織型の細胞の約20%、通常は少なくとも約50%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも約95%、更により好ましくは所望の組織型の細胞の少なくとも約99%である。
【0125】
目安として、1回の注射当たりに投与されるrAAV粒子の数は、一般的に約1×10〜約1×1014個、好ましくは約1×10〜約1×1013個、より好ましくは約1×10〜約1×1012個、更に好ましくは約1×1011個である。
【0126】
本発明は又、本明細書に記載のrAAVベクターの投与において、哺乳動物へポリヌクレオチドを送達するex vivoの手法が使用される方法も提供する。このような方法及び手法は当該技術分野で既知の通りである。例えば、米国特許第5,399,346号を参照されたい。一般的に、細胞はrAAVベクターによりin vitroにて形質導入された後、この形質導入された細胞が哺乳動物、例えば関節内に形質導入される。好適な細胞は当業者に既知であり、これらの細胞には幹細胞のような自己由来の細胞が含まれる。
【0127】
rAAVの送達の有効性は、数種の基準によりモニタリングすることができる。例えば、生検又は外科的摘出により採取された試料(例えば歯肉組織試料)は、in situハイブリダイゼーション、ベクター特異的プローブを使用したPCR増幅、及び/又はrAAV DNA及び/又はrAAVm RNAを検出するためのRNAseの保護により分析される場合がある。更に、例えば、採集した組織及び/又は血清試料は、例えばELISA、イムノブロッティング、免疫沈降法、免疫組織学的検査及び/又は免疫蛍光細胞計数を含むがこれらに限定されないイムノアッセイを使用して、又はTNF活性のTNFアンタゴニスト媒介抑制に基づく機能ベースの生物学的検定法を使用して、rAAVによりコードされるTNFアンタゴニストの存在についてモニタリングすることができる。例えば、rAAVをコードするTNFアンタゴニストがTNFRポリペプチドである場合、採集された試料中のコードされたTNFRの存在は、TNFRイムノアッセイ、又はマウスL929細胞のTNF殺傷のTNFR媒介抑制に基づく機能ベースの生物学的検定法によりモニタリングすることができる。このような試験の例は、当該技術分野で既知であり、例えば米国特許第6,537,540号に記載されている。
【0128】
rAAV送達の有効性は又、歯周組織の破壊及び歯槽骨喪失の組織形態測定及び放射線撮影の分析によってもモニタリングすることができる。
【0129】
本明細書に記載する方法の有効性は、例えば本明細書に記載のrAAVベクターの送達後の採取組織、関節液及び/又は血清におけるTNFの相対的レベルを試験することにより、モニタリングされる場合がある。TNFのレベルを評価する検定法は、当該技術分野で既知であり、これらの検定には、TNFのイムノアッセイ(例えば、イムノブロット及び/又は免疫沈降試験)、及びTNFの細胞毒生活性に対して感受性を持つ細胞を使用した細胞毒性検定が含まれるが、これらに限定されない。例えば、Khabar,et al.,1995,Immunol.Lett.46:107−110を参照されたい。
【0130】
処置された対象は、TNF関連口腔頬側疾患を伴う臨床的特徴についてモニタリングされる場合もある。例えば、対象は、炎症に関連する症状の減少についてモニタリングされる場合がある。例えば、本発明の方法を使用して対象の口腔頬側疾患を処置して後、対象は、例えば浮腫、疼痛及び歯の喪失を含むがこれらに限定されない幾つかの臨床パラメータにおける改善に関して評価される場合がある。
【0131】
特定の組成物、投与レジメン(即ち、用量、時期及び反復性)、及び投与経路の選択は、例えば対象の病歴、及び処置する病態及び対象の特徴を含むがこれらに限定されない幾つかの異なる要因により変動する。このような特徴の評価及び適切な治療レジメンの設計は、最終的には担当医の責務である。特定の投与レジメンは経験により決定される場合がある。
【0132】
前述の説明はとりわけ、哺乳動物におけるTNFのレベルを低下させるためにTNF関連口腔頬側疾患を処置する組成物及び方法を提供する。本発明の趣旨から逸脱することなく、当業者によってこれらの方法に種々の変更が適用される場合があることが理解される。
【0133】
以下に示す実施例は、当業者にとっての更なる目安となるものであり、限定するものとしては全く意図されない。
【実施例】
【0134】
実施例1:実験的歯周炎疾患モデル
ポルフィロモナス・ジンジバリスW83菌株からのリポ糖類(LPS)の単離
ポルフィロモナス・ジンジバリスW83菌株からLPSを単離する処置は、以前に報告されている(Darveau & Hancock,1983)。要するに、LPSの抽出では、嫌気性菌に特異的な変性ブルセラブロス培地を使用して、嫌気性チャンバーによりP.gingivalisW83菌株を培養した。この培養プロセスの後、各バッチを30分間5,000rpmで遠心分離し、上澄みを廃棄した。これらの細胞を滅菌水に再懸濁し、次に遠心分離した。最終ペレットは、実験全体に必要な量の細菌が得られるまで、−20℃に冷凍した。3つの工程からなる手順では、細菌をリソザイム、DNAse、RNAse及びプロテアーゼにより連続して処理することにより、リポ糖類(「LPS」)を抽出及び単離した。
【0135】
単離したLPSは、SDS−PAGEに投入し、結果を図1に示した。最初の6レーンは、SDS−PAGEにおけるE.coliLPSの連続希釈物を示しており、最後レーンは、一般的なラダリングの出現を伴ったP.gingivalisLPSを示している。矢印は単離されたLPSを示している。
【0136】
ラットにおける歯槽骨喪失の誘導
歯槽骨喪失の誘導にP.gingivalis内毒素を使用した以下のプロトコルを、E.coli内毒素を使用して以前に報告されているモデル(Ramamurthy,et al.,2002)から適合させた。要するに、8週間にわたり歯肉隣接歯間歯乳頭領域内にLPSを3週毎に注射してP.gingivalisW83菌株の内毒素(Bramanti,et al.,1989)(1.0mg/mL製剤の10μL)を送達することにより、成熟雄Sprague−Dawleyラット(それぞれ体重約250g)において、実験による歯周炎を誘導した。注射は、上顎の第1(M1)、第2(M2)及び第3(M3)臼歯とM1近心側面の間に行った。本モデルは、相当量の骨喪失をもたらすより「慢性的な」疾患を生成するために使用した。結果は図2〜4に示す。この方法では、歯根に沿って約50%の直線的な骨喪失がもたらされ、これには、第8週までの歯根表面セメント質及び関連する歯周靭帯(PDL)の破壊も含まれた。
【0137】
この疾患の進行をモニタリングするために、デジタルX線分析を実施した。上顎臼歯の標準化口腔内放射線写真を、ベースライン時並びに2、4、6及び8週後に撮影した。以前に報告され(Braegger,et al.,J Periodontal Res,22,227−229,1987;Jeffcoat,J Periodontol,63,367−372,1992)、最近ラットの歯で使用するために採用された(Taba Jr.,et al.,Implant Dent,12,252−258,2003)通り、ベースラインの放射線写真と各時点の対応する放射線写真の間の放射線写真密度の相違を測定することにより、コンピュータ支援密度測定画像分析(CADIA)を実施した。要するに、放射線写真を、解像度600dpi、グレースケールフォーマットでスキャナー(UMAX Technologies[米国テキサス州])を使用して、デジタル化した。対象となる実験領域は、ベースライン及び最終画像の骨稜隣接領域において定義した。その後の時点における放射線画像は、分析のため、ベースライン画像と幾何学的に一致するように位置合わせする。画像間の密度の定量的変化は、選択した画素領域でコンピュータにより生成した。全体の密度変化は、全画素領域の平均グレーレベル変化を、変化により影響を受けたmm単位の領域サイズと乗算することにより求めた。CADIA値は、以前に報告されている通り、平均±標準誤差として表した(Oates,et al.,J Clin Periodontol,29,137−143,2002)。
【0138】
骨稜における変化を示す領域は、ベースライン及びその後の画像における各試験歯の近心及び遠位面の両方で測定した。標的領域の測定には、画像分析ソフトウェア(Image Pro−PlusソフトウェアTM(Media Cybernetics[米国メリーランド州シルバースプリング])の画像選択ツールを使用した。これらの選択した領域を、その後の画像において同じツールを使用して求めた測定値から除算することにより、mm単位で寸法の変化を求めた。
【0139】
図2は、LPS注射(A9)及び対照(B)動物から得た代表的なラット上顎の放射線画像による、LPSを媒介した骨再吸収を示している。画像A(LPS投与)の矢印は、P.gingivalisLPSの局所投与から8週間後における約50%の骨喪失を示している。画像B(食塩水対照)は、P.gingivalisLPSの局所投与から8週間後に、隣接面の骨の変化が最小限から皆無であることを示している。
【0140】
図3は、実験による歯周炎のラットモデルにおけるLPSを媒介した骨喪失の定量測定を示す。経時的に生じた歯槽骨再吸収の量(mm)を確認するため、デジタルサブトラクション放射線撮影を実施した。図3に示す通り、LPS疾患の誘導により、歯槽骨支持の相当量(約50%)の喪失がもたらされた。
【0141】
図4は、ラット上顎歯のM1からM2における隣接面領域の矢状組織学的顕微鏡写真による、LPSを媒介した骨再吸収を示している。染色には、ヘマトキシリン・エオシン染色を使用した。ヘマトキシリン・エオシン染色は、一般的な組織学的特徴を検査する簡単な方法である。一般的に、好塩基性の核、細菌、カルシウム等は、ヘマトキシリンにより「青色」に染色されるのに対し、好酸性の原形質、結合組織及びその他全ての組織は、エオシンにより「赤色」に逆染色される。上記の通り、対照群(A)には滅菌溶液を、実験群(B)にはP・ギンギバリスLPSを8週間投与した。線を引いて示した群間の骨レベルの差が、A群とB群の間で観察されている。更にB群では、歯槽骨支持の喪失に加えて、歯根セメント質及び結合組織の連結の顕著な破壊も観察された。
【0142】
実施例2:TNFR:Fc融合タンパク質をコードするrAAVベクターの生成
以下の実施例で使用されたAAV−TNFR:Fc構築物は、全体が参考として本明細書に組み入れられている、米国特許第6,537,540号において以前に記載されている。要するに、ラットp80 TNFR(II型)の細胞外ドメイン(ECD)を、ラット脾臓cDNAから単離し、TNFRのECDをラットIgG1Fcヒンジ領域に融合した。図5A〜Cには、TNFR:Fc融合体のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列を示す。これらの配列は又、米国特許第6,537,540号の図8A〜Cにも記載されている。
【0143】
TNFR:Fc融合体は、rep及びcap遺伝子が欠失しているAAVベクターにサブクローニングした。図6は、ラットTNFR−Fc融合ポリヌクレオチドが、ヒト前初期CMVエンハンサープロモーター及び合成ポリA付加シグナルの間に位置し、これらに作動可能に結合している、結果として得られたrAAVベクターを示している。TNFR−Fc融合遺伝子を含有する転写単位は、AAV−2のITRの間に格納されている。このrAAVベクタープラスミドは、pAAVCMVrTNFR−Fcと標記する。
【0144】
A.組み換えAAV 2/2 TNFR:Fcの生成
プラスミドpAAVCMVrTNFR−Fc(30μg)を、エレクトロポレーションによりHela C12パッケージング細胞系統内にトランスフェクトした(Potter,et al.,1984,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 79:7161−7165)。C12細胞系統は、アデノヘルパーによる感染時の誘導までには転写が休止しているAAV2のrep及びcap遺伝子を含有している(Clark,et al.,1995;Clark,et al.,1996,Gene Therapy 3:1124−1132)。トランスフェクションの24時間後に、細胞をトリプシン処理し、プレート当たり5×10〜5×10個の密度にて100mmプレートに再プレーティングした。細胞を10%ウシ胎児血清及び300μg/mlハイグロマイシンBを含有するDMEM中で選択に付した。薬剤耐性細胞クローンを単離し、増殖させ、感染性AAVCMVrTNFR−Fcベクターを産生するそれらの能力を試験し、Atkinson,et al.,1998,Nucleic Acid Res.26:2821−2823に記載の感染性試験にて比較した。このようなプロデューサー細胞クローン(C12−55)の1つを、更にAAVCMVrTNFR−Fcベクターの産生に使用した。産生、精製及び力価測定は、基本的には本明細書に記載の通り、そしてAtkinson,et al.(WO 99/11764)に概説する通りに実施した。
【0145】
B.組み換えAAV 2/5 TNFR:Fcの生成
以下に記載するAdハイブリッド産生プロセスに利用する安定した細胞系統及びrep−capトランスパッケージング細胞系統については、WO95/34670においてAAV−2血清型ベクター及びrep−cap構築物が説明されている。AAV−5カプシド、AAV2の5’及び3’ITRシュードタイプ構築物については、Sandalon,et al.,J.Virol.78:12355−12365,2004に記載の通り、AAV−2 rep遺伝子及びAAV5のcap配列を含有する、pBSHSPRC2C5と標記される新しいトランスパッケージングrep−capプラスミドを構築した。要するに、Pfxポリメラーゼ(Invitrogen)を使用して、AAV5cap配列をプラスミドpACK2/5からPCRにより増幅した。そして、AAV−2 rep配列をAAV2ヘルパープラスミドpBSHSPRC2.3から切り出し、これをSwaI/XbaI制限部位を有する増幅されたAAV5カプシド配列と置き換えた。プラスミドpAdヘルパー4.1は、アデノウイルス5型(Ad5)のE2a、E4−orf6及びVA遺伝子を発現した。トランスフェクション系については、当該技術分野で既知の標準的分子技法を使用して、rep−cap(それぞれAAV2/1)シュードタイプトランスパッケージング構築物のp5プロモーターを、本質的にTATAボックスからなる最小熱ショックプロモーターと置き換えた。
【0146】
細胞は、フラスコ当たり1.5×10個の細胞密度にて201本のフラスコに播種することにより増殖させた。この293個の細胞を、4mMのL−グルタミン及び10%のFBSを含有するDMEM 50mLに入れ、フラスコを5%のCO下にて37℃で96時間インキュベートした。96時間インキュベートしたら、リン酸カルシウムを使用して細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションした日に、フラスコは一般的に80〜90%コンフルエントであった。AAV5カプシド、Adヘルパープラスミド1250μg及びシスプラスミド375μgを含有するAAVヘルパープラスミド750μgを、300mM塩化カルシウム104mLに添加した。そして、塩化カルシウムを含有するプラスミドを2X HBS緩衝液104mLにゆっくりと注ぎ込み、30秒間かけて混合させた。その後すぐに沈殿物8mLを各フラスコに添加し、これらのフラスコを37℃にて6〜8時間、5%のCO下に置いた。残りのフラスコはトリプシン処理し、産生性の計算に使用するために細胞を計数した。6〜8時間が経過したら、これらのフラスコをインキュベーターから取り出し、各フラスコから培地を吸引除去し、L−グルタミン4mMを含有するDMEM 50mlと置き換えた。これらのフラスコを5%のCO下にて37℃で72時間インキュベートした。72時間が経過したら、フラスコをインキュベーターから取り出し、フラスコを軽く叩いて細胞を脱離させ、各フラスコの内容物を収集した。各容器の容量に基づき、100mM MgCl及び10% DOCの量を計算し、それぞれの終濃度は1.8mM及び0.5%となった。次いで、容器を37℃の水浴に10〜20分間入れた後、各容器にベンゾナーゼを添加して、終濃度を10単位/mLにした。これらの容器を37℃の水浴に60分間入れ、15分毎に反転させた。次に、各容器にポリソルベート20(Tween)を添加し、終濃度を1%にした。再度、これらの容器を37℃の水浴に60分間入れ、15分毎に反転させた。そして各容器にNaCl 5Mを添加し、最終塩濃度を1Mにした。溶解した物質を2つのフィルター、即ちPolygard CR Optivap XL 10フィルター(公称0.3μm)及びMilligard Opticap Capsule(公称0.5μm)を使用して濾過した。この濾過した物質を、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)を使用して濃縮した。TFFには、公称分子量カットオフ(NMWCO)100KdaのTFF膜を3つ使用した。濾過した物質は500mLの容量になるまで濃縮し、濃縮後、この物質を10透析容量で透析濾過した。この透析濾過した物質をSuporcap 50フィルター(0.45μm)で濾過し、精製時まで−70℃で静置した。
【0147】
rAAVは以下の通り精製した。浄化されたプロデューサー細胞溶解物は、既にClark,et al.,同上に記載されている通り、プロデューサー細胞(5×10個/ml)を0.5%デオキシコール酸及びベンゾナーゼヌクレアーゼ(35単位/ml)中に再懸濁することにより調製した。平衡化したPOROS HE−20樹脂(12.5mM Tris、pH8.0;0.5mM MgCl;100mM NaCl)を浄化溶解物(2ml/L)に添加し、混合物を4℃にて16時間回転させることにより、粒子の結合に十分な時間を設けた。HE−20樹脂は2,500xgで30分間ペレット化し、使用した樹脂1mlにつき12mlの平衡化緩衝液中に再懸濁した。この樹脂を平衡化緩衝液を使用しゆっくりと反転させて3回洗浄し、各洗浄の合間に2,000rpmにて10分間ペレット化した。最後の洗浄が終了したら、溶離緩衝液(20mM Tris、pH8.0;1nM MgCl;600mM NaCl)20ml中でペレットを10分間再懸濁することにより、rAAV−2を溶離させた。回収率を最大にするため、ベクターの溶離は更に2回(合計3回)繰り返した。溶離したウイルスを0.45μmのメンブレンフィルターで濾過することにより樹脂粉を除去し、その後PIカラムクロマトグラフィーに付した。このウイルス溶出液を水で6倍に希釈し、最終塩濃度を100mM以下まで低下させた。Biocad Sprint HPLCシステム(PerSeptive Biosystems)をPOROS PI−50カラム(ビーズサイズ50μm)と組み合わせて使用することにより、最終精製産物を生成した。1.7mlカラムを20mM Tris、pH7.0;100mM NaClの10カラム容量で平衡化した後に、5ml/分の流量でバッチ化されたベクターを適用した。試料の投入後、10mlの平衡化緩衝液でカラムを洗浄した。そして、3ml/分の流量にてNaClの段階勾配(0.6M)を適用することにより、結合物質を溶離させ、1mlの勾配画分を収集した。カラムの精製後、タンパク質を最も多く含有する画分の少量(20μl)をSDS−PAGE及びSYPRO−Orange(Molecular Probes,Inc.)の染色により分析して、溶出したタンパク質を視覚化した。ウイルスを最も多く含有する画分を合わせ、20mMTris、pH8.0、1mM MgCl、200mM NaClという複数の変化に対して透析し、10%グリセロール中に−80℃にて小分量ずつ保存した。ベクター製剤中のタンパク質総含有量は、製造元の説明書(Molecular Probes,Inc.)に従い、NanoOrangeタンパク質定量キットを使用して測定した。Clark,et al.,同上に詳述される通り、Prism 7700 Taqman配列検出システム(PE Applied Biosystems)を使用したリアルタイムPCR法により、精製したrAAVのDRP力価を測定した。
【0148】
実施例3:筋肉内注射後のAAV−TNFR:Fcの血清中レベル
Lewisラットに、2型又は5型のカプシドでシュードタイプ化された1.0×1012DRP AVVラットTNF:Fcベクター100μlを、筋肉内(大腿四頭筋)注射により投与した。そして、種々の時点における血清中濃度を、製造元の説明書(Biosource International)に記載の通りに、ELISAにより測定した。
【0149】
図7は、大腿四頭筋を介したAAV2/2又はAAV2/5ベクターの送達後における血清中濃度により示される、TNFR:Fcの長期の発現状況を示している。5型カプシドは、TNFR:Fcタンパク質のより高いレベルに相関していた。TNFRタンパク質の最大発現は60日後に観察され、治療レベルは最高1年間実証された。
【0150】
実施例4:LPSを媒介した骨喪失に対するAAV−TNFR:Fcの保護
実施例1に記載の通り、LPSを媒介した骨喪失を有するラットを誘導した。要するに、P.gingivalisLP菌株SW83を8週間にわたって週3回注射することにより、「慢性的な」歯槽骨再吸収を誘導した。対照溶液(PBS)又はP.g.内毒素(LPS)10μLの注射は、歯間領域に1mg/mlの濃度にて行った。この疾患誘導段階を開始する21日前に、ウイルスベクターを4歯間部位及び第1臼歯近心面2箇所に、rAAV−TNFR:Fcの6×1011 DRP 15μlの用量にて局所送達した。
【0151】
図8は、対照、LPS注射、及びLPS注射+AAV−TNFR:Fc処置動物に由来する固定非脱鉱物標本からスキャンしたマイクロCT画像を示している。生検領域由来の固定した非脱鉱物化試料を評価した。標本は全てマイクロCTシステムでスキャンし、GEMSマイクロビユーソフトウェアを使用して18μm×18μm×18μmのメッシュサイズで3次元画像に再構築した。群間の比較ができるようにするため、標準化した位置に画像を回転させた。次にこれらの画像に閾値を設定し、画像ヒストグラムから最適なグレースケール値を求めることにより、鉱物化ボクセルを非鉱物化ボクセルから識別した。骨測定には標準的なアルゴリズムを利用した。画像はLPSの注射から8週後に撮影した。左側の画像は、3本の上顎臼歯の概観図であり、右側の画像は、第2臼歯部位の断面図である。図8は、対照(上)、疾患進行(中央)及びAAV−TNFR:Fcを使用した疾患進行の遮断の骨解剖図である。
【0152】
骨再吸収の線寸法は、断面図から得たCEJ(セメント質−エナメル質−接合部)から骨稜までの歯間部位において収集し、平均化した。動物数は、1群当たり12匹とした。データはマイクロCT分析により得た。図9に示す通り、PBS注射対照群(0.69±0.17mm)とAAV−TNFR:Fc投与+LPS群(0.65±12mm)の間には有意差は見られなかった。LPS単独群は、歯槽骨再吸収の進行(1.26±0.58mm;ANOVA,全群に比べてp<0.0001)を示した。
【0153】
図8及び図9に示すデータは、LPSを媒介した骨損傷に対してAAV−TNFR:Fcが保護したことを示している。
【0154】
実施例5:TNFR:Fc発現の速度論的特徴及びrAAV−TNFR:Fcの局所送達と全身送達の薬効
LPSを媒介した骨喪失を有するラットを、実施例1に記載の通り、且つ図10のダイアグラムで示す通りに誘導する。要するに、P.gingivalisLP菌株SW83を8週間にわたって週3回注射することにより、「慢性的な」歯槽骨再吸収を誘導する。対照溶液(PBS)又はP.g.内毒素(LPS)10μLの注射は、歯間領域に1mg/mlの濃度にて行う。この疾患誘導段階を開始する21日前に、ウイルスベクターを4歯間部位及び第1臼歯近心面2箇所に、rAAV−TNFR:Fcの8×1011 DRP 90μl(15μl/部位の容量で6部位に送達)の用量にて局所送達して、局所送達を評価する。また、疾患誘導段階を開始する21日前に、ウイルスベクターを、rAAV−TNFR:Fcの7.5×1011 DRP 100μlの用量にて、全身送達のために筋肉内送達する。
【0155】
試験は以下の2段階:即ち、試験I(局所送達)及び試験II(全身送達)で行う。以下の2表は、群の分布及び各時点で実施する処置を示している。それぞれの表において、各群は日と週の各時点における3つの数値を有している。3つの数値はx−y−zとして配置しており、ここでxはその時点で生存している動物の総数を;yは血清試料を採取した動物の数を;zはその時点で屠殺した動物の数を表す。
【0156】
試験I AAV−TNFR:Fcの局所送達
【0157】
【表1】

*補足:各群は各評価時点において動物3組に時差をつけ、順次番号付けする。各組は個別の群として試験期間を通して処置するものとする。
【0158】
試験II AAV−TNFR:Fcの全身送達
【0159】
【表2】

A.TNFR:Fc DNAレベル、TNF−αタンパク質レベルの測定、及び歯周患部におけるサイトカイン産生のRNA分析
尾部出血により得た血清を、TNFタンパク質の発現に関して評価する。血清中TNFは、製造元の説明書(Biosource International)に記載の通り、ELISAにより測定する。TNF発現のレベルは、Multiscan Ascent(登録商標)光度計マイクロプレートリーダーと共にAscent(登録商標)ソフトウェア(Thermo Labsystems)を使用して定量化する。ラットの血液試料は、ベースライン時並びに2、4、6及び8週に収集する。血液は尾部の出血により採取する。採取した400〜500μlの血液の量では、約200μlの血清が得られる。血清を分離するに当たっては、血液を血清分離試験管(Becton Dickinson No.365956)に移し、室温で15分間インキュベートした後、室温で4,000rpmにて10分間回転させる。そして血清試料をクリオバイアル(Nunc製1.5ml管)に移し、−70℃に冷凍する。このELISA用の血清試料を、冷凍したままTARGETED GENETICS Corp.に送付する。
【0160】
B.in vivoでのRNA/DNAの単離及び分析
ラットから採取した組織試料を、すぐにドライアイスで急速冷凍する。次にそれらの試料を50mLの三角試験管に移し、処理するまで−70℃で保存しておく。これらの組織を、液体窒素で凍結させた凍結粉砕機(フリーザーミル、6750型、Spex Certi−Prep)で粉砕して微細粉末にする。この粉砕した粉末を再度試験管に戻し、ドライアイスの上に載せる。次に、RNA単離プロトコルで必要とされる量と一貫した各臓器粉末の試料を、1.5mL試験管に計量投入する。これらの試験管をQiagen RNeasyミニキットを使用して処理するまで、ドライアイスに載せて保存しておく。全RNAの各試料中に含有されるラットTNF:FcのmRNAの量を、Perkin Elmer 7700配列検出システム(SDS)を使用して定量化する。
【0161】
歯肉組織試料は、図2に示す日程に従って、ベースライン時並びに4及び8週に収集し、Xie,et al.,Biotechniques 11:324−327;1991に既に記載される通りに、全RNAを採取する。これらの試料のTNFR、IL−1β及びIL−6の量を、リアルタイムPCRを使用して分析する。要するに、ラット組織におけるtgAVV−ラットTNFR:Fc DNA播種の定量評価のための10μM検出限界PCRを含むPCRを、総容量100μlにて実施する。
【0162】
TNFR:Fcプライマー:pAAV−ラットTNFR:Fcプラスミド1pgを陽性対照としてラットゲノムDNAに添加する。フォワードプライマーは5’−ACTGTGCCTTGAAATTGC−3’であり、リバースプライマーは5’−ACAAGGCTTGCAATCACC−3’である。PCRは、94℃30秒、61℃30秒、72℃1分の28サイクル、及び72℃8分の1サイクルにわたって続ける。434bpの予想PCR産物を、8%TBE/アガロースゲルで分離し、EtBr染色を使用して視覚化する。
【0163】
C.歯周組織破壊の組織形態学的及び放射線分析
a.組織学的検査
術後8週にラットを屠殺し、ブロック生検試料をBouin固定液中(Polysciences[米国ペンシルベニア州ウォリントン])に入れ、10%v/v酢酸、4%v/vホルムアルデヒド、0.85%NaClで2〜3週間脱灰した後、パラフィンで包埋する。標本を4〜5μmの切片に切り出し、光学又は偏光顕微鏡による視覚化を行うために、ヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色又はトルイジンブルー染色を行う。
【0164】
b.組織形態学的検査
Giannobile,et al.,J Periodontol,65:1158−1168,1994に既に記載される通り、コンピュータ支援の画像分析を利用して、組織形態学的に歯周組織破壊を抑制するrAAV−ラットTNFR:Fcの遺伝子転移の能力を測定する。標本は、Image Pro PlusTMソフトウェア(Media Cybernetics[米国メリーランド州シルバースプリング])を使用した分析のため、SPOT−2カメラ(Diagnostic Instruments,Inc.[米国ミシガン州スターリングハイツ])を装備したNikon Eclipse E8000顕微鏡(Nikon,Inc.[米国ニューヨーク州メルビル])を使用して取り込む。コード付けした標本の画像は、組織形態学的分析のために2、4、10及び20倍の倍率で取り込む。1台のマスキング及び校正された検査装置で全てのスライドを検査したところ、標準的な検査装置に比べて5%以下の試験前及び試験後の校正の検査装置間及び検査装置内の誤差が明らかになる。歯周組織破壊のパラメータを幾つか測定し、(図2に概説する標本から)1)M1/M2及びM2/M3におけるmm単位の露出歯根表面上の鉱物様組織の全長として測定されるM1及びM2の遠位歯根及びM2及びM3の近心歯根上のセメント質の長さ;2)mm単位のセメントエナメル接合部から歯槽骨稜まで測定した場合の骨の長さ;及び3)臼歯隣接領域内の対象となる3つの所定の0.5mm領域における歯支持歯槽骨に関連する骨の密度が含まれる。そして評価した各群の平均値を求める。次に、コード付けした標本を、ANOVA及びフィッシャーのPSLD多重比較法により分析して、群間の統計差を測定する。
【0165】
c.マイクロコンピュータ断層撮影(マイクロCT)
マイクロCT分析は、EVSマイクロCTシステムにより実施する。生検領域由来の固定された非脱鉱物化試料を評価する。全ての標本は、マイクロCTシステム上でスキャンし、GEMSマイクロビューソフトウェアを使用して18μm×18μm×18μmのメッシュサイズで3次元画像に再構築する。群間の比較ができるようにするため、標準化した位置に画像を回転させる。次にこれらの画像に閾値を設定し、画像ヒストグラムから最適なグレースケール値を求めることにより、鉱物化ボクセルを非鉱物化ボクセルから識別する。骨測定には標準的なアルゴリズムを利用し、以下について:即ち、幾何学的及び形態学的評価;断面積分析及び容量測定;鉱物化及び非鉱物化組織の容量割合;並びに皮質及び海綿質の骨の形態学的特徴に関する測定を行う。
【0166】
上述の発明は、理解を明確にする目的から、図示及び例示を用いてある程度詳細に説明したが、これらの図示及び例示は、本発明の適用範囲を制限するものと見なしてはならない。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】図1は、P・ギンギバリスW83から単離したLPSのSDS−PAGEを示す。
【図2】図2は、LPS注射(A)動物及び対照(B)動物由来のラット上顎骨の放射線写真を示す。
【図3】図3は、実験的歯周炎のラットモデルにおけるLPSを媒介した骨喪失の定量測定を示す。Sprague−Dawleyラットの歯肉に、P・ギンギバリスW83株LPS(各隣接面間乳頭に対し1mg/mlを10μl)を週3回、8週間に渡り注射し、経時的な骨変化面積(mm)をデジタルサブトラクション放射線撮影法により測定した。バーは平均±SEMを表し;n=3匹/群とした。
【図4】図4は、ラット上顎歯のM1からM2における隣接面領域の矢状組織学的顕微鏡写真による、LPSを媒介した骨再吸収を示す。対照群には滅菌溶液を、実験群にはP・ギンギバリスLPSを8週間投与した。ヘマトキシリン・エオシン染色;倍率10倍。
【図5A】図5A、5B及び5Cは、ラットTNFR:Fc融合構築物のヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【図5B】図5A、5B及び5Cは、ラットTNFR:Fc融合構築物のヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【図5C】図5A、5B及び5Cは、ラットTNFR:Fc融合構築物のヌクレオチド及びアミノ酸配列を示す。
【図6】図6は、ラットTNFR(p80)ECD−IgG1Fc融合ポリヌクレオチド、作動可能に連結した制御エレメント(例えばAAV ITR)を含めたrAAVベクタープラスミドpAAVCMVrTNFRFcのダイアグラムを示す。
【図7】図7は、AAV2/2又はAAV2/5ベクターの筋肉内投与後のラットAAV−TNFR:Feタンパク質の血清中レベルを示す。異なる時点から得た2型又は5型カプシドの何れかで擬似タイピングした1.0×1012 DRP AVV−ラットTNF:Fcベクター100μLの筋肉内投与後における、Lewisラット由来の血清中のタンパク質(ラットTNFR:Fc)発現を、ELISAにより測定した。
【図8】図8は、対照(上)動物、LPS注射(中)動物、並びにLPS注射及びAAV−TNFR:Fc処置(局所送達)(下)動物の骨解剖所見を示すマイクロCT画像を示す。左側の画像は、3本の上顎大臼歯の概観図であり、右側の画像は第2大臼歯の断面図である。
【図9】図9は、対照動物、LPS注射動物、並びにLPS注射及びAAV−TNFR:Fc処置(局所送達)動物の骨再吸収の定量測定を示す。骨再吸収の測定は、M1、M2及びM3において行った。バーは平均±SEMを示す。
【図10】図10は、rAAV−TNFR:Fc送達、歯周炎の誘導及び試料採取の時系列を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における骨治癒のTNF関連障害を処置又は予防する方法であって、該障害の部位に組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を投与することを含み、該rAAVベクターが、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外ドメイン及び免疫グロブリン分子の定常ドメインを含む融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項2】
哺乳動物における創傷治癒のTNF関連障害を処置又は予防する方法であって、該障害の部位に組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を投与することを含み、該rAAVベクターが、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外ドメイン及び免疫グロブリン分子の定常ドメインを含む融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項3】
哺乳動物におけるTNF関連口腔頬側疾患を処置又は予防する方法であって、哺乳動物の歯周部位に組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を投与することを含み、該rAAVベクターが、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外ドメイン及び免疫グロブリン分子の定常ドメインを含む融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項4】
哺乳動物におけるTNF関連口腔頬側疾患により誘発された歯支持構造喪失の再生を向上させる方法であって、該哺乳動物の歯周部位に組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を投与することを含み、該rAAVベクターが、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外ドメイン及び免疫グロブリン分子の定常ドメインを含む融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項5】
TNF関連口腔頬側疾患を有する哺乳動物の歯周部位における炎症応答を低減する方法であって、該哺乳動物の歯周部位に組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を投与することを含み、該rAAVベクターが、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外ドメイン及び免疫グロブリン分子の定常ドメインを含む融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項6】
哺乳動物におけるTNF関連口腔頬側疾患を緩和する方法であって、該哺乳動物の歯周部位に組み換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を、該哺乳動物の口腔頬側疾患病態を緩和するのに十分な量で投与することを含み、該rAAVベクターが、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外ドメイン及び免疫グロブリン分子の定常ドメインを含む融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、方法。
【請求項7】
前記歯周部位が歯周組織、歯肉組織、結合組織及び上皮からなる群から選択される、請求項3〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
TNFアンタゴニストを投与することを更に含む、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記TNFR細胞外ドメインがp75 TNFRに由来する、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記免疫グロブリン分子がヒト免疫グロブリンである、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記免疫グロブリン分子がヒトIgG1である、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記免疫グロブリン分子がヒトIgG3である、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記融合ポリペプチドが、図5A及び図5Bに記載のペプチド配列を含む、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、異種プロモーターに作動可能に連結する、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、構成的プロモーターに作動可能に連結する、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、誘導プロモーターに作動可能に連結する、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記誘導プロモーターがTNFα遺伝子に由来する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリヌクレオチドが更に、インターロイキン−1(IL−1)アンタゴニストを含むポリペプチドをコードする、請求項1〜6の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記IL−1アンタゴニストがIL−1受容体ポリペプチドであり、前記IL−1受容体ポリペプチドがIL−1を結合する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記IL−1受容体ポリペプチドがIL−1受容体II型ポリペプチドである、請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−536826(P2008−536826A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−504394(P2008−504394)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2006/011764
【国際公開番号】WO2006/105344
【国際公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(500107315)ターゲティッド ジェネティクス コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】