説明

TeO2−La2O3系光学ガラス

【課題】環境負荷物質であるPbOや高価な原料であるHfOを使用することなく、しかも金型を劣化させにくく、モールドプレス成形に好適な低分散高屈折率の光学ガラスを提供する。
【解決手段】アッベ数νdをx軸とし、屈折率ndをy軸とするx−y直交座標図である図1に示すA1点(νd=34、nd=1.91)、B1点(νd=22、nd=1.91)、C1点(νd=13、nd=2.1)、及びD1点(νd=26、nd=2.1)をA1点、B1点、C1点、D1点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の屈折率nd及びアッベ数νdを有する光学ガラスであって、実質的にPbO及びHfOを含まず、mol%で、TeOが49%以下、ZnOとNbの合量が0〜25%であり、且つ、Laを必須成分として含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学ガラスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
CD、MD、DVDその他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等の用途では、アッベ数νdが13以上で屈折率ndが1.91を超える低分散高屈折率光学ガラスが求められている。
【0003】
この種のレンズとしては非球面形状のレンズが広く用いられている。その作製方法は例えば以下のような方法が知られている。
【0004】
まず、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して、液滴状ガラスを作製し(液滴成形)、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。または、溶融ガラスを急冷鋳造し一旦ガラスインゴットを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを作製する。続いて、プリフォームガラスを加熱して軟化し、高精度な成形表面を持つ金型によって加圧成形し、金型の表面形状をガラスに転写してレンズを作製する。
【0005】
このような成形方法は一般にモールドプレス成形法と呼ばれており、大量生産に適した方法として近年広く採用されている。
【特許文献1】特公平1−44651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高屈折率が容易に達成できるガラス組成系として、TeOを多量に含むテルライト系ガラスが知られている。例えば特許文献1にはTeOを主成分とし、GeO、La、Nb、ZnO、HfO、PbO等を任意成分として含有するテルライト系ガラスが開示されている。
【0007】
ところがモールドプレス成形法では、金型が高温で軟化変形したガラスと一定時間接触しているため、金型自身が酸化したり、ガラスからの揮発物により汚染されたりすることがある。特にテルライト系ガラスをプレスする場合、金型表面にガラス成分が付着して、金型の寿命に大きな影響を与えやすい。従って、高屈折率のテルライト系ガラスは、モールドプレス成形による成形が不向きであり、大量生産し難いという不都合がある。なお特許文献1には、TeOの含有量が比較的少なく、しかも高屈折率を達成しているガラスも開示されているが、そのような高屈折率を得るために同文献では環境負荷物質であるPbOや、希少原料で非常に高価なHfOを含有させている。
【0008】
また高屈折率と同時に、低分散であることが近年重要視されるようになってきている。つまり、レンズを低分散高屈折率化することによって、光学系において焦点距離を短縮でき、デジタルカメラのレンズユニットでは小型化が容易になり、またカメラ付き携帯電話機ではズーム機能搭載が容易になる等、光学機器の小型化、高機能化が可能となる。
【0009】
本発明の目的は、環境負荷物質であるPbOや高価な原料であるHfOを使用することなく、しかも金型を劣化させにくく、モールドプレス成形に好適な低分散高屈折率の光学ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は種々の実験を行った結果、金型の劣化を防止するにはTeOの含有量を制限すればよいこと、及びガラスを低分散化させるためにはLaを添加すればよいことを見いだした。ところでTeOの含有量を制限したり、Laを添加したりするとガラスが不安定になり易い。そこで本発明者等はさらに検討を重ね、この系のガラスに含まれることの多いZnOやNbの含有量を制限することにより上記目的が達成可能であることを見いだした。
【0011】
即ち本発明のTeO−La系光学ガラスは、アッベ数νdをx軸とし、屈折率ndをy軸とするx−y直交座標図である図1に示すA1点(νd=34、nd=1.91)、B1点(νd=22、nd=1.91)、C1点(νd=13、nd=2.1)、及びD1点(νd=26、nd=2.1)をA1点、B1点、C1点、D1点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の屈折率nd及びアッベ数νdを有する光学ガラスであって、実質的にPbO及びHfOを含まず、mol%で、TeOが49%以下、ZnOとNbの合量が0〜25%であり、且つ、Laを必須成分として含有することを特徴とする。なお本発明において、「TeO−La系光学ガラス」とは、最も広義にはTeO及びLaを必須成分として含有するガラスを意味する。また「実質的にPbO及びHfOを含まず」とは、これらの成分を意図的にガラス中に添加しないという意味であり、不可避的不純物まで完全に排除するということを意味するものではない。より客観的には、不純物を含めたこれらの成分の含有量が、各々0.01mol%以下であるということを意味する。また本発明における「含有する」という用語に関し、「0〜」と規定された成分については、「0%」即ち、全く含まない場合もあり得ることを意味している。
【0012】
本発明において、TeOの含有量は1〜49mol%であることが好ましい。
【0013】
また本発明において、Laの含有量は0.1〜40mol%であることが好ましい。
【0014】
また本発明においては、上記成分に加えてWO、TiO、及びZrOから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、TeOの含有量を制限したことによる屈折率の不足を補うことが容易になる。
【0016】
また本発明において、WOの含有量が0.1〜45mol%であることが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、TeOの含有量を制限したことによる屈折率の不足を補うと同時に、より安定したガラスを得ることが容易になる。
【0018】
また本発明においては、上記成分に加えてB、SiO、Alから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0019】
上記構成によれば、より低分散のガラスを得ることが容易になる。
【0020】
また本発明において、Bの含有量が0〜24mol%であることが好ましい。
【0021】
上記構成によれば、より低分散で安定したガラスを得ることが容易になる。
【0022】
また本発明においては、上記成分に加えてTa、CaO、BaO、SrO、LiO、NaO及びKOから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0023】
本発明のTeO−La系光学ガラスは、mol%で、TeO 1〜49%、La 0.1〜40%、ZnO 0〜25%、Nb 0〜25%、ZnO+Nb 0〜25%、WO 0.1〜45%、TiO 0〜10%、ZrO 0〜10%、B 0〜24%、SiO 0〜5%、Al 0〜5%、Ta 0〜9%、CaO 0〜5%、BaO 0〜5%、SrO 0〜5%、LiO 0〜5%、NaO 0〜5%、KO 0〜5%含有し、実質的にPbO及びHfOを含まないことを特徴とする。ここで「ZnO+Nb」とは、ZnO及びNbから選ばれる1種以上の成分の合量を意味する。
【0024】
また本発明において、アッベ数νdをx軸とし、屈折率ndをy軸とするx−y直交座標図である図2に示すA2点(νd=34、nd=1.91)、B2点(νd=28、nd=1.91)、C2点(νd=16、nd=2.06)、及びD2点(νd=26、nd=2.06)をA2点、B2点、C2点、D2点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の屈折率nd及びアッベ数νdを有することが好ましい。
【0025】
また本発明において、アッベ数νdをx軸とし、屈折率ndをy軸とするx−y直交座標図である図3に示すA3点(νd=30、nd=1.94)、B3点(νd=26、nd=1.94)、C3点(νd=19、nd=2.04)、及びD3点(νd=27、nd=2.04)をA3点、B3点、C3点、D3点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の屈折率nd及びアッベ数νdを有することが好ましい。
【0026】
また本発明において、転移点Tgが650℃以下であることが好ましい。
【0027】
本発明のモールドプレス成形用硝材は、上記TeO−La系光学ガラスからなることを特徴とする。
【0028】
本発明の光学ガラスは、上記TeO−La系光学ガラスからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明のTeO−La系光学ガラスは、ガラスを高屈折率化するTeOとガラスを低分散化させるLaを必須成分として含む。このため、低分散高屈折率のガラスを設計することが可能である。
【0030】
また本発明のTeO−La系光学ガラスは、アッベ数νd及び屈折率ndが図1に示す領域にあるために、光学機器を小型化、高機能化することが可能な光学レンズを作製することが可能である。
【0031】
また本発明のTeO−La系光学ガラスは、TeOの含有量を制限することによって、ガラス成分が金型に付着し難いという効果がある。このため、金型の寿命が飛躍的に伸び、例えばモールドプレスを5000回以上連続して行うことができる。従ってモールドプレス成形法を用いて大量生産することが可能である。
【0032】
また本発明のTeO−La系光学ガラスは、ZnOとNbの合量を25%以下に制限していることから、TeOの含有量を制限し、またLaを多量に含有させても安定なガラスが得られる。従って低分散化が容易である。
【0033】
また本発明のTeO−La系光学ガラスは、実質的にPbO及びHfOを含まないため、環境上好ましく、しかも安価である。
【0034】
それゆえ本発明のTeO−La系光学ガラスは、CD、MD、DVDその他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等といった光学レンズ用硝材として好適である。
【0035】
また本発明のモールドプレス用硝材は、上記TeO−La系光学ガラスからなるため、金型の劣化を起こしにくい。それゆえモールドプレス成形用硝材として好適である。
【0036】
また本発明の光学レンズは、上記TeO−La系光学ガラスからなるため、CD、MD、DVDその他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等といった光学レンズとして好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明のTeO−La系光学ガラスは、mol%で、TeOが49%以下、ZnOとNbの合量が0〜25%であり、且つ、Laを必須成分として含有する。またPbO及びHfOを含まないものである。この範囲であれば、図1に示す光学定数を得ることが可能である。
【0038】
上記成分のうち、TeO及びNbはガラスの屈折率を高める効果がある。またZnOはガラスを熱的に安定化させる効果がある。さらにLaは屈折率をあまり低下させることなく、ガラスの分散を効果的に低下させる働きがある。
【0039】
低分散高屈折率のガラスを得る観点から、テルライト系ガラスにLaをできる限り多く含有させることが好ましい。ところがTeO、ZnO(及びNb)を主たる構成成分とするガラス(TeO―ZnOの骨格)に多量のLaを導入すれば、Laが骨格に入れず、ガラスの成分バランスが崩れて失透したり、ガラス化が困難になったりする傾向が現れる。この対策としては、ZnOとNbの含有量を制限して、TeO―Laの骨格が形成されるようにすることが有効である。そこで本発明では、Laをできる限り多く含有させることができるように、ZnOとNbの合量の上限を規定している。これによってガラスを効果的に低分散化することが可能になる。またLaに加えて、B、SiO、Al等もガラスを低分散化する成分であり、必要に応じて適宜添加することができる。
【0040】
なお高屈折率化の観点からはTeOが多いほど好ましいが、この成分が多すぎると、金型の寿命を短くしてしまう。従って、TeOの上限は上記のように制限される。TeOやNbの含有量を制限すれば高屈折率化が難しくなる場合があるが、屈折率の不足は、その他の成分、例えばWO、TiO、ZrO等を適宜添加することにより補うことができる。
【0041】
ガラスの安定性の観点からは、TeOの含有量が多い程良い。つまりTeOの含有量を制限するとガラス化範囲が狭くなって不安定になる傾向がある。しかし本発明ではZnOとNbの合量を制限していることからガラスの安定性を保つことができる。またWO、B等を添加すれば、ガラスをより安定化することが可能になる。
【0042】
以下に、各成分の含有量を上記のように特定した理由を詳述する。なお、特に断りが無い場合、以下の「%」は「mol%」を意味する。
【0043】
TeOは本発明のガラスにおいて必須成分である。TeOはガラスの骨格を形成する成分であり、TeOが多いほどガラスが安定化する傾向がある。TeOはガラスを高屈折率化させるのに有効な成分であり、またガラス転移点Tgを下げる成分でもある。TeOを主成分として含有するガラス(テルライト系ガラス)は、Laを多量に含有させることができれば、PbO及びHfOを含有させなくても、高屈折率低分散の光学定数を得ることが可能になる。TeOの含有量は少なくとも1%以上であることが好ましいが、より高屈折率化を達成するためには、5%以上、10%以上、12%以上、15%以上、特に20%以上含有させることが望ましい。TeOの含有量を増加させることによりガラスの屈折率ndを1.91以上にすることが容易になる。また容易にガラス化できる。ただしテルライト系ガラスにおいては、TeOの含有量が多すぎると、プレスした時の金型劣化が激しくなる傾向がある。さらにTeOの含有量が多すぎると、分散が高くなる傾向がある。TeOを含有できる量はこの観点から制限される。具体的にはTeOの含有量は49%以下であり、好ましくは48%以下、さらに好ましくは45%以下、特に39%以下、30%以下である。このような事情から、TeOの好ましい範囲は1〜49%、5〜48%、10〜48%、10〜45%、10〜40%、10〜39%、特に12〜30%である。
【0044】
Laは本発明において、ガラスの骨格を形成する成分であり、高屈折率を維持しつつ低分散化を達成するための必須成分である。Laの含有量は少なくとも0.1%以上であることが好ましいが、より低分散化を達成するためには1%以上、5%以上、10%以上、15%以上、特に18%以上含有することが望ましい。Laの含有量を増加させることにより、ガラスのアッベ数νdを13以上にすることが容易になる。ただしLaの含有量増加に伴い、ガラスが不安定になる。それゆえLaの上限は40%以下、35%以下、特に30%以下であることが好ましい。このような事情から、Laの好ましい範囲は1〜40%、5〜35%、10〜35%、15〜35%、特に18〜30%である。
【0045】
ZnOはガラスを熱的に安定化させ、また低分散化する成分である。またNbは屈折率を顕著に高める成分である。しかしテルライト系ガラスにおいて、ZnOとNbの合量が多すぎるとLaの含有量が制限され、所望の光学定数を有するガラスを得ることが困難になる。即ち、ZnOやNbを多量に含むテルライト系ガラスにおいて、Laの含有量を増加させていくと、ガラス化範囲が狭くなってガラスの安定性が損なわれ、ガラスが容易に失透したり、或いはガラス化が困難になったりする。このような理由からZnOとNbの合量は25%以下に制限される。これらの成分の合量を25%以下に調整しておけば、上記問題を抑制しつつLaを必要量(最大で40%)含有させることが可能になる。ZnOとNbの合量の好ましい範囲は0〜25%、より好ましい範囲は0〜21%、さらに好ましい範囲は0〜14%、特に好ましい範囲は0〜5%である。なおZnOの含有量を制限することによる熱的安定性の低下は、例えばWO、B等の添加で補うことが可能である。またNbの含有量を制限することによる屈折率の低下は、TeOの増量や、その他の成分、例えばWO、TiO、ZrO等の添加で補うことが可能である。従って、ZnOやNbの役割をその他の成分で補えるのであれば、ZnOやNbは含有させない方がよい。
【0046】
なおZnOは、多量に含有するとガラス化を顕著に妨げたり、屈折率を低下させたりする。従ってZnOの含有量は0〜25%、0〜15%、0〜10%、0〜9%、特に0〜4%であることが好ましい。
【0047】
またNbは、多量に含有するとガラス化を顕著に妨げたり、ガラスの透過率を低下させたりする。従ってNbの含有量は0〜25%、0〜8%、0〜6%、特に0〜4%であることが好ましい。
【0048】
以上の組成を有するTeO−La系光学ガラスは、PbO及びHfOを使用しなくても、TeO、La、ZnO、Nbの割合を適切に調節することにより、或いはその他の成分を適宜添加することにより、図1に示すA1点(νd=34、nd=1.91)、B1点(νd=22、nd=1.91)、C1点(νd=13、nd=2.1)、及びD1点(νd=26、nd=2.1)をA1点、B1点、C1点、D1点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の光学定数を達成することが可能である。
【0049】
本発明のTeO−La系光学ガラスは、上記成分に加えてさらにWO、TiO、及びZrOから選ばれる少なくとも1種を含有することができる。これらの成分は、屈折率を高める効果がある。以下、各成分について説明する。
【0050】
WOは屈折率を高めるとともに、安定したガラスを得るために添加可能な成分である。またガラスの骨格形成成分であり、TeO―La−WOの骨格を形成する。上記効果を得るには0.1%以上、1%以上、3%以上、5%以上、10%以上、特に20%以上含有することが好ましい。しかし含有量の増加に伴い、熱的に不安定になる傾向がある。それゆえWOの上限は、45%以下、40%以下であることが好ましい。このような事情から、WOの好ましい範囲は0.1〜45%、1〜45%、3〜40%、5〜40%、10〜40%、15〜40%、特に20〜40%である。
【0051】
TiOは屈折率を顕著に高める成分である。ただし多量に含有するとガラス化を顕著に妨げたり、ガラスの透過率を低下させたりするため、含有量は制限される。TiOの好ましい範囲は0〜10%、特に0〜5%である。
【0052】
ZrOは屈折率を高める成分である。ただし多量に含有するとガラス化を顕著に妨げるため、含有量は制限される。ZrOの好ましい範囲は0〜10%、特に0〜5%である。
【0053】
なおTeOが20%以下の場合、WOとTiOとZrOの合量を25%超とすれば、1.91を超える屈折率を得ることが容易になる。
【0054】
本発明のTeO−La系光学ガラスは、上記成分に加えてさらにB、SiO、及びAlから選ばれる少なくとも1種を含有することができる。これらの成分は、分散を低下させる効果がある。以下、各成分について説明する。
【0055】
は分散を低下させる成分であるとともに、ガラスを安定化させる成分である。上記効果を得るには2%以上、特に10%以上含有することが好ましい。しかしBの含有量の増加に伴ってガラスの屈折率が低下し、屈折率nd1.91以上を維持することが困難になる。それゆえBの上限は24%以下に制限することが好ましい。このような事情から、Bの好ましい範囲は0〜24%、2〜24%、特に10〜24%である。
【0056】
SiOは分散を低下させる成分である。ただしSiOの含有量の増加に伴い、ガラスが熱的に不安定になるため多く含有させることはできない。SiOの好ましい範囲は0〜5%、より好ましくは0〜3%、特に0〜2%である。
【0057】
Alは分散を低下させる成分である。しかしAlの含有量の増加に伴ってガラスが熱的に不安定になるため多く含有させることはできない。Alの好ましい範囲は0〜5%、より好ましくは0〜3%、特に0〜2%である。
【0058】
本発明のTeO−La系光学ガラスは、上記成分に加えてさらにTa、SrO、CaO、BaO、LiO、NaO、KOから選ばれる少なくとも1種を含有することができる。これらの成分は、屈折率の微調整に利用することができる。以下、各成分について説明する。
【0059】
Taは屈折率の微調整に含有させることができるが、多く含有させるとガラス化が顕著に悪化する。Taの好ましい範囲は0〜5%である。
【0060】
SrO、CaO、BaO、LiO,NaO,KOは屈折率の微調整のために添加することができる。しかし、いずれの成分も少量の添加で屈折率が大きく低下するため、多く含有させることは好ましくない。これらの成分の好ましい範囲はそれぞれ0〜5%、好ましくはそれぞれ0〜3%である。
【0061】
また本発明のTeO−La系光学ガラスは、上記成分以外にもさらに種々の成分を添加することが可能である。例えばGeO、P等を添加できる。
【0062】
GeOはガラス安定化や屈折率を上げる効果を得る目的で添加することができる。しかし稀少原料であるため、GeOを含有することは原料コストの高騰に繋がる。それゆえ使用するとしても、その含有量は少ない方が好ましく、0〜3%、0〜1%、特に0.001%以下であることが好ましい。
【0063】
はガラス転移点Tgの調整や粘度特性の調整目的で添加することができる。しかしガラスの耐候性が低下したり、失透したりするため、多量に含有することは好ましくない。それゆえ使用するとしても、その含有量は少ない方が好ましく、0〜10%、特に0〜5%であることが好ましい。
【0064】
なおErはガラスの着色原因になるため、含有することは好ましくない。仮に含有しても、Er換算含有量で0.001%以下であることが望ましい。また、TlOは環境負荷物質であるため、含有することは好ましくない。仮に含有しても0.001%以下であることが好ましい。
【0065】
以上の組成を有するTeO−La系光学ガラスは、図1に示すA1点(νd=34、nd=1.91)、B1点(νd=22、nd=1.91)、C1点(νd=13、nd=2.1)、及びD1点(νd=26、nd=2.1)をA1点、B1点、C1点、D1点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の光学定数を容易に達成することができる。
【0066】
また上記組成を有するTeO−La系光学ガラスは、650℃以下のガラス転移点Tg、1050℃以下の液相温度TLを有していることが量産性の面から好ましい。
【0067】
また上記組成を有するTeO−La系光学ガラスは、波長500nmにおける分光透過率が10mmの肉厚で74.0%以上であることが好ましい。より好ましくは75.0%以上である。
【0068】
本発明のTeO−La系光学ガラスは、アッベ数νdをx軸とし、屈折率ndをy軸とするx−y直交座標図である図2に示すA2点(νd=34、nd=1.91)、B2点(νd=28、nd=1.91)、C2点(νd=16、nd=2.06)、及びD2点(νd=26、nd=2.06)をA2点、B2点、C2点、D2点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の屈折率nd及びアッベ数νdを有することが好ましい。
【0069】
また上記光学定数に加えて、630℃以下のガラス転移点Tg、1040℃以下の液相温度TLを有していることが量産性の面から好ましい。
【0070】
このような条件を備えたガラスは、mol%で、TeO 10〜48%、La 5〜35%、ZnO 0〜25%、Nb 0〜15%、ZnO+Nb 0〜25%、WO 5〜40%、TiO 0〜8%、ZrO 0〜5%、B 2〜24%、SiO 0〜5%、Al 0〜2%、Ta 0〜5%、CaO 0〜5%、BaO 0〜5%、SrO 0〜5%、LiO 0〜5%、NaO 0〜5%、KO 0〜5%含有し、実質的にPbO、TlO及びHfOを含まない組成範囲内であれば容易に得ることができる。
【0071】
本発明のTeO−La系光学ガラスは、アッベ数νdをx軸とし、屈折率ndをy軸とするx−y直交座標図である図3に示すA3点(νd=30、nd=1.94)、B3点(νd=26、nd=1.94)、C3点(νd=19、nd=2.04)、及びD3点(νd=27、nd=2.04)をA3点、B3点、C3点、D3点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の屈折率nd及びアッベ数νdを有することが特に好ましい。
【0072】
また上記光学定数に加えて、630℃以下のガラス転移点Tg、1020℃以下の液相温度TLを有していることが量産性の面から特に好ましい。
【0073】
このような条件を備えたガラスは、mol%で、TeO 10〜40%、La 10〜35%、ZnO 0〜15%、Nb 0〜15%、ZnO+Nb 0〜21%、WO 5〜40%、TiO 0〜6%、ZrO 0〜3%、B 10〜19%、SiO 0〜5%、Al 0〜5%、Ta 0〜5%、CaO 0〜3%、BaO 0〜3%、SrO 0〜3%、LiO 0〜3%、NaO 0〜3%、KO 0〜3%含有し、実質的にPbO、TlO及びHfOを含まない組成範囲内であれば容易に得ることができる。
【0074】
次に、本発明のTeO−La系光学ガラスを用いて光ピックアップレンズや撮影用レンズ等を製造する方法を述べる。
【0075】
まず、所望の組成になるようにガラス原料を調合した後、ガラス溶融炉で溶融する。
【0076】
次に、溶融ガラスをノズルの先端から滴下し一旦液滴状ガラスを作製し、プリフォームガラスを得る。または溶融ガラスを急冷鋳造して一旦ガラスブロックを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを得る。
【0077】
続いて、精密加工を施した金型中にプリフォームガラスに入れて軟化状態となるまで加熱しながら加圧成形し、金型の表面形状をガラスに転写させる。この成形方法はモールドプレス成形法と呼ばれ、広く用いられている。このようにして光ピックアップレンズや撮影用レンズを得ることができる。
【0078】
なお本発明のガラスを成形する方法は、上記したモールドプレス成形法に限られるものではなく、公知の種々の方法で成形することができる。
【実施例】
【0079】
以下、本発明のTeO−La系光学ガラスを実施例に基づいて詳細に説明する。
【0080】
表1〜5は本発明の実施例(試料No.1〜17)及び比較例(試料No.18〜22)を示している。
【0081】
【表1】

【0082】
【表2】

【0083】
【表3】

【0084】
【表4】

【0085】
【表5】

【0086】
各試料は、以下のようにして作製した。
【0087】
まず、表に記載の組成となるように調合したガラス原料を白金ルツボに入れ、試料No.1〜17、21及び22は1080℃、試料No.18は1400℃、試料No.19と20は1050℃でそれぞれ2時間溶融した。次に、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、冷却固化した後、アニールを行って試料を作製した。このようにして得られた試料について、各種特性を評価した。結果を各表に示す。
【0088】
なお屈折率ndは、屈折率計(カルニュー製 KPR−200)を用いて、ヘリウムランプのd線(波長:587.6nm)における測定値で示した。
【0089】
アッベ数νdは、屈折率計(カルニュー製 KPR−200)を用いて、上記したd線、水素ランプのF線(波長:486.1nm)、および水素ランプのC線(波長:656.3nm)における屈折率をそれぞれ測定した値を、それぞれnd、nF、nCとした際の{(nd−1)/(nF−nC)}の値とした。
【0090】
液相温度TLは、ガラス試料を300〜500μmの粒径に粉砕し、これを白金ボート中に投入し、温度勾配炉で12時間熱処理した後、これを取り出し、ガラス中の失透(結晶異物)の観察された温度を示した。
【0091】
ガラス転移点Tgは熱膨張曲線における低温度域の直線と高温度域の直線の交点より求めた。
【0092】
プレス性は、次のようにして評価した。まず試料No.2、6、16、19或いは20の組成となるようにガラス原料を調合し、白金坩堝を用いて1050〜1080℃で2時間溶融した後、ガラス融液をカーボン台上に流し出してアニールし、直径5mm、高さ5mmの円柱状の試料に加工後、両端面にポリッシュ研磨仕上げを行った。次に、2ヘッド成型機(綱中製作所製)にて試料をプレスし、ガラスからの揮発が金型表面に付着するまでに要したプレス回数を計測した。なおプレス温度はガラスの軟化点、プレス圧は20Kgf、プレス時間は1分半の条件でプレスを行った。また金型にはPt−Irの膜付けしたWCの板を使用した。
【0093】
透過率は、肉厚が10mmになるように両面を鏡面研磨し、分光光度計にて波長500nmにおける試料の分光透過率を測定した。
【0094】
表1〜4から明らかなように、実施例である試料No.1〜17は分散値νdが14.3〜29.1であった。また屈折率ndが1.937〜2.093であった。液相温度TLは1040℃以下と良好であった。ガラス転移点Tgは508〜630℃であり、十分モールドプレス成型が可能であることが確認できた。比較例である試料No.18はTeOを含まず、屈折率ndが1.91を超えなかった。また、No.2、6、16のガラスは5000回以上プレス可能であったが、TeOを50mol%以上含有するNo.19とNo.20のガラスをプレス成形すると、ガラスからTeOが揮発して金型の高精度な成形表面を維持できず、1回のプレスで精密プレス成形用金型が使用出来なくなってしまった。No.21とNo.22は、TeOが49%以下であり、かつ、ZnOとNbの合量が25%を超えたためにガラス化が不安定になり、ガラス化しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明のTeO−La系光学ガラスは、CD、MD、DVDその他各種光ディスクシステムの光ピックアップレンズ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付き携帯電話機等の撮像用レンズ、光通信に使用される送受信用レンズ等といった光学レンズの硝材用ガラスとして好適である。特にモールドプレス成形を利用して作製される光学レンズの硝材用ガラスとして好適である。
【0096】
またモールドプレス以外の成形方法で成形されるガラス硝材として使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は、本発明のTeO−La系光学ガラスが有する光学定数の範囲を示すグラフである。
【図2】図2は、本発明のTeO−La系光学ガラスが有する好ましい光学定数の範囲を示すグラフである。本発明を実施することによって得られる好ましい光学定数の範囲を示す。
【図3】図3は、本発明のTeO−La系光学ガラスが有するより好ましい光学定数の範囲を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッベ数νdをx軸とし、屈折率ndをy軸とするx−y直交座標図である図1に示すA1点(νd=34、nd=1.91)、B1点(νd=22、nd=1.91)、C1点(νd=13、nd=2.1)、及びD1点(νd=26、nd=2.1)をA1点、B1点、C1点、D1点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の屈折率nd及びアッベ数νdを有する光学ガラスであって、実質的にPbO、TlO、及びHfOを含まず、mol%で、TeOが49%以下、ZnOとNbの合量が0〜25%であり、且つ、Laを必須成分として含有することを特徴とするTeO−La系光学ガラス。
【請求項2】
TeOの含有量が1〜49mol%であることを特徴とする請求項1のTeO−La系光学ガラス。
【請求項3】
Laの含有量が0.1〜40mol%であることを特徴とする請求項1又は2のTeO−La系光学ガラス。
【請求項4】
さらに、WO、TiO、及びZrOから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れかのTeO−La系光学ガラス。
【請求項5】
WOの含有量が0.1〜45mol%であることを特徴とする請求項4のTeO−La系光学ガラス。
【請求項6】
さらに、B、SiO、Alから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜5の何れかのTeO−La系光学ガラス。
【請求項7】
の含有量が0〜24mol%であることを特徴とする請求項6のTeO−La系光学ガラス。
【請求項8】
さらにTa、CaO、BaO、SrO、LiO、NaO及びKOから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項1〜7の何れかのTeO−La系光学ガラス。
【請求項9】
mol%で、TeO 1〜49%、La 0.1〜40%、ZnO 0〜25%、Nb 0〜25%、ZnO+Nb 0〜25%、WO 0.1〜45%、TiO 0〜10%、ZrO 0〜10%、B 0〜24%、SiO 0〜5%、Al 0〜5%、Ta 0〜9%、CaO 0〜5%、BaO 0〜5%、SrO 0〜5%、LiO 0〜5%、NaO 0〜5%、KO 0〜5%含有し、実質的にPbO、TlO、及びHfOを含まないことを特徴とするTeO−La系光学ガラス。
【請求項10】
アッベ数νdをx軸とし、屈折率ndをy軸とするx−y直交座標図である図2に示すA2点(νd=34、nd=1.91)、B2点(νd=28、nd=1.91)、C2点(νd=16、nd=2.06)、及びD2点(νd=26、nd=2.06)をA2点、B2点、C2点、D2点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の屈折率nd及びアッベ数νdを有することを特徴とする請求項1〜9の何れかのTeO−La系光学ガラス。
【請求項11】
アッベ数νdをx軸とし、屈折率ndをy軸とするx−y直交座標図である図3に示すA3点(νd=30、nd=1.94)、B3点(νd=26、nd=1.94)、C3点(νd=19、nd=2.04)、及びD3点(νd=27、nd=2.04)をA3点、B3点、C3点、D3点の順序で結ぶ直線である境界線で囲まれる範囲内(ただし境界線上を含む)の屈折率nd及びアッベ数νdを有することを特徴とする請求項1〜10の何れかのTeO−La系光学ガラス。
【請求項12】
転移点Tgが650℃以下であることを特徴とする請求項1〜11の何れかのTeO−La系光学ガラス。
【請求項13】
請求項1〜12の何れかのTeO−La系光学ガラスからなることを特徴とするモールドプレス成形用硝材。
【請求項14】
請求項1〜12の何れかのTeO−La系光学ガラスからなることを特徴とする光学レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−37181(P2010−37181A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244110(P2008−244110)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】