説明

Total−VOC検出用ガスセンサ及びその製造方法

【課題】本発明は、TVOCガスのように複数のガスからなり、比較的分子量の大きなガスを含有するガスに対しても優れた耐湿性を示すガスセンサを提供することを目的とする。
【解決手段】基板の表面に所定の間隔を設けて形成した一対の電極と、当該電極間に形成した感応層とを備えたガスセンサであって、感応層は酸化スズ層に白金、パラジウム及び金を分散させてあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関し、詳細には、耐湿性に優れたガスセンサに係り、特にTotal−VOC検出のためのガスセンサに好適である。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸化スズ等の金属酸化物半導体を用い、様々なガスと加熱した金属酸化物半導体の接触による抵抗値の変化から、被検知ガスの有無や濃度の測定が可能であることが知られている。
しかし、後述するように従来は検知対象となるガスの種類毎に開発されていたのが実情である。
【0003】
近年、住宅の気密性が向上しているなか、建材や家電製品から放出されるVOCガス(揮発性有機化合物ガス)の健康に及ぼす影響が問題となっている。
VOCは、Volatile Organic Compoundsの略称であり、大気中で気体状となる有機化合物の総称であることから、トルエン、キシレン、酢酸エチル等の多種多様の複数のガスから構成されるが、上記のとおり、従来のガスセンサは一酸化炭素、水素などといったように個別の検出対象ガスごとに個別に開発が進められてきており、VOCガスのような複数ガスの総量を検知対象としたガスセンサについては十分に検討がなされていない。
そこで、VOCガスを構成するガスの総量をTotal−VOCガス(TVOCガス)として捉え、TVOC用のガスセンサとしての開発が行われている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−304115号公報
【特許文献2】特開2005−30907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスセンサとして用いられる金属酸化物半導体は、測定雰囲気中の湿度が高いと水分が水酸基として吸着し、検知ガスのない状態でも低抵抗となり、ガスの有無による抵抗差が出にくくなるために検出感度が低下するという問題があった。
【0006】
そこで、耐湿性を向上させる方法として、特許文献1に記載されているように柱状構造の酸化スズを利用する方法や特許文献2に記載されているように酸化ケイ素を主成分とする水酸基のトラップ層を形成する方法が検討されてきた。
【0007】
柱状構造の酸化スズを用いたガスセンサは、メタンといった比較的分子量の小さなガスを検知対象としており、ベンズアルデヒドや酢酸ブチルといった比較的分子量の大きなガスを含むTVOCガスに対しては、ガスが柱状構造の隙間を通って感応部の奥に到達することが困難であるほか、作製に真空装置が必要であり、工程が複雑となるという問題があった。
【0008】
また、センサ表面にトラップ層を形成する場合も、比較的高分子量のガスを含むTVOCガスにおいては、トラップ層により、ガスが感応部に到達することが困難となるばかりでなく、素子構造が複雑となるという問題があった。
【0009】
本発明は、TVOCガスのように複数のガスからなり、比較的分子量の大きなガスを含有するガスに対しても優れた耐湿性を示すガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るTotal−VOC検出用ガスセンサは、基板の表面に所定の間隔を設けて形成した一対の電極と、当該電極間に形成した感応層とを備えたガスセンサであって、感応層は酸化スズ層に白金、パラジウム及び金を分散させてあることを特徴とする。
ここで、酸化スズ層は平均一次粒径5〜1000nmの粒子を用いて成形されたものであることが望ましい。
ここで一次粒径とは凝集状態にない粒子径をいい、粒子径が小さい方が比表面積が大きく活性であるが、コロイド分散させた白金、パラジウム及び金の粒子径が5nm程度であるから担体となる酸化スズの粒子径下限を5nmに設定した。
また、上限は感応層として使用できる上限であり、実用的には5〜500nmの範囲である。
【0011】
感応層は酸化スズ100重量部に対して、触媒として、白金0.1〜5.0重量部、パラジウム0.1〜5.0重量部及び金0.1〜5.0重量部を含有しているのが好ましく、さらに好ましくは、白金0.3〜1.5重量部、パラジウム0.5〜1.5重量部、金0.3〜1.5重量部の範囲である。
これらの金属は、単独触媒として使用するよりも3元系で使用するとセンサ応答性が高く、湿度安定性が高い。
下限を0.1重量部としたのは触媒効果が有効に認められるのに必要な下限であり、上限はそれ以上添加しても効果に変化がないからである。
これらの貴金属は高価であるから実用的には1.5重量部以下とした。
【0012】
本発明に係るガスセンサの製造方法は、基板の表面に所定の間隔を設けて形成した一対の電極と、当該電極間に形成した感応層とを備えたガスセンサの感応層の成形方法であって、酸化スズ微粒子を分散媒に分散し、白金コロイド液、パラジウムコロイド液及び金コロイド液を混合、分散処理し、次に加熱乾燥後に粉砕して得られた粉末を用いて成形することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る粉末は、バインダーと混合してペースト状にし、塗布又は印刷し、焼成することで使用する。
ペーストにおいては、貴金属を担持した酸化スズがペースト総質量の10〜80質量%、望ましくは40〜70質量%を占めるのが好ましい。
残部は、高分子有機バインダー、例えばエチルセルロース、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、及び、ポリビニルブチラールと、溶剤、例えばターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル、アルコール類、及び、可塑剤から成る。
さらに、無機添加物として、ガラス等を添加してもよい。
【0014】
また、本発明は、白金、パラジウム、金のコロイド液を用いて酸化スズに貴金属を担持することを特徴とするVOC用ガスセンサ製造方法を提供するものであり、貴金属を担持させた前記ペーストを塗布又はスクリーン印刷にて厚膜化し、焼成することによりガスセンサ膜として感応層を得ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、高湿度時においても、高分子ガスを含むVOCガスに対して十分な感度を得ることができるばかりでなく、3種類の貴金属からなる触媒効果により動作温度を低減させることが可能となる。
また、複数のガス種から構成されるTotal−VOCガスにおいて、低感度なガス種の感度を上昇させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されない。
【0017】
ガスセンサは、図1に示されるようにアルミナ基板等の基板3の裏面にヒータ部4を形成し、基板3の表面に所定の間隔を設けて一対の電極2a,2bを形成し、電極間にまたがるように感応層1を形成してある。
【0018】
まず、感応層1の成形方法について説明する。
純水100gに対して酸化スズ微粒子(Nanotek、シーアイ化成社製)3g加え、攪拌した。
続いて、混合液を攪拌しながら、白金が酸化スズ100重量部に対して0.5重量部となるように白金コロイド液(戸田工業社製TCT−241)を加えた。
さらに、パラジウム、金が酸化スズ100重量部に対してそれぞれ、0.8重量部、0.5重量部となるように混合液を攪拌しながら、パラジウムコロイド液(戸田工業社製TCP−211)、金コロイド液(戸田工業社製TCG−251)を混合した。
混合後、超音波バスにて10分分散処理を行った後、攪拌しながら120℃に加熱することで水分を飛散させた。
これを乳鉢で粉砕することで、三種類の貴金属を担持した酸化スズ粉末を得た。
得られた酸化スズ粉末は、エチルセルロースを主成分としたバインダーと混合することでペーストとした。
コロイド粒子を用いたことにより、酸化スズ粒子に均一に担持することが容易で、金属粒子径もnmレベルと小さくすることができる。
【0019】
次に、センサ素子の作製工程について述べる。
まず、アルミナ基板3に白金ペーストをスクリーン印刷し、乾燥、焼成を行うことでヒータ部4を形成した。
続いて、反対側の面に金ペーストをスクリーン印刷し、乾燥、焼成を行うことで電極部(2a,2b)を形成した。
さらに、電極部の上部に、前述の酸化スズ粉末を用いた酸化スズペーストをスクリーン印刷し、120℃で30分乾燥したのち、600℃1時間の焼成を行ない、感応層1を成形した。
【0020】
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ヘキサアルデヒド、ベンズアルデヒド、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、(1,2,4−)トリメチルベンゼン、エチルベンゼン、p−ジクロロベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エタノール、2−プロパノール、4−メチル−2−ペンタノン、アセトン、2−ブタノン、からなる擬似TVOCガスを作製し、得られたセンサ素子について、センサ応答性を測定した。
(測定方法)
(1)センサは、外部加熱により加熱する。
(2)キャリアガス:RH25,50,75%(20℃換算)の合成エアーを使用する。
(3)測定手順:センサ部を300℃に保持し、上記T−VOCガスを0→200→400→600→800→1000→800→600→400→200→0[μg/m]の各濃度にて20分ずつ、全流量200ml/minで流した際の抵抗値を測定した。
【0021】
図2及び図3は、本発明に係る白金、パラジウム、金の三種類の貴金属を添加した素子及び比較例として触媒の無添加、1元系の添加素子及び2元系の添加素子のものについて、400μg/mの濃度の擬似TVOCガスに対するセンサ応答性の相対湿度(RH%)依存性を測定した結果である。
貴金属の添加は、センサの応答性を良くすることが知られているが、図2に示すように白金のみあるいは金のみを添加した素子では、湿度の上昇に伴い、センサ応答性は低下した。
無添加のものは本発明に比較して、センサ応答性が低く、湿度の上昇に伴いセンサ応答性が低下し、パラジウムのみ添加のものはTVOCガスに対してのセンサ応答性が低い。
図3に示すように、2元系の添加素子にあっては、Pt−Au系がRH25%ときにセンサ応答がよいものの湿度上昇に伴って急激に低下した。
一方、白金、パラジウム、金の三種類の貴金属を添加した本発明に係る素子については、湿度が上昇してもセンサ応答性の大きな低下は見られなかった。
これにより、三種類の貴金属を添加した素子は、優れたセンサ応答性を維持しつつ、優れた耐湿性を有することが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】センサの構造を示す図である。
【図2】センサ応答性の相対湿度依存性を調査した結果を示す。
【図3】本発明と二元系添加素子とにて、センサ応答性の相対湿度依存性を比較調査した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に所定の間隔を設けて形成した一対の電極と、当該電極間に形成した感応層とを備えたガスセンサであって、
感応層は酸化スズ層に白金、パラジウム及び金を分散させてあることを特徴とするTotal−VOC検出用ガスセンサ。
【請求項2】
酸化スズ層は平均一次粒径5〜1000nmの粒子を用いて成形されたものであることを特徴とする請求項1記載のTotal−VOC検出用ガスセンサ。
【請求項3】
感応層は酸化スズ100重量部に対して、触媒として、白金0.1〜5.0重量部、パラジウム0.1〜5.0重量部及び金0.1〜5.0重量部を含有していることを特徴とする請求項1又は2記載のTotal−VOC検出用ガスセンサ。
【請求項4】
基板の表面に所定の間隔を設けて形成した一対の電極と、当該電極間に形成した感応層とを備えたガスセンサの感応層の成形方法であって、
酸化スズ微粒子を分散媒に分散し、白金コロイド液、パラジウムコロイド液及び金コロイド液を混合、分散処理し、次に加熱乾燥後に粉砕して得られた粉末を用いて成形することを特徴とするガスセンサの感応層の成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−145382(P2010−145382A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−326619(P2008−326619)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「第21回秋季シンポジウム講演予稿集」、第294ページ,テーマ:貴金属添加された酸化スズ厚膜のT−VOCガスに対する応答特性,発行日:2008年9月17日,主催者及び発行者:社団法人日本セラミックス協会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「揮発性有機化合物対策用高感度検出器の開発/センサ素子の研究開発」の再委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】