説明

UASBリアクタ、生物学的硝化脱窒装置及びその使用方法

【課題】短時間内に装置を立上げ安定運転を行うことが可能で性能に優れたUASBリアクタ及び生物学的硝化脱窒装置を提供する。さらに生物学的硝化脱窒装置の新たな使用方法を提供する。
【解決手段】本発明のUASBリアクタ20は、リアクタ本体25に固定され微生物を付着固定化する多孔質の担体22を有する。この担体22は、カーテン状のスポンジ担体とし、リアクタ本体25の中間部に取付けてもよい。さらにUASBリアクタ20を生物学的硝化脱窒装置1に使用してもよい。さらに生物学的硝化脱窒装置1の運転開始後、グラニュール汚泥21が十分に形成された後に前記担体22を前記リアクタ本体25から取外してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、UASB(Upflow Anaerobic Sludge Blanket:上昇流嫌気性汚泥床)リアクタ、微生物を利用して排水中の窒素を除去する生物学的硝化脱窒装置及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水中に含まれる窒素は、富栄養化現象の原因とされ、排水中の窒素を除去する技術が多く開発されている。この一つである微生物を利用して排水中の窒素を除去する生物学的硝化脱窒方法も、従来からよく使用されており、順送法、AO(Anaerobic−Oxic)法、A2O(Anaerobic−Anoxic−Oxic)及びUASB−DHS(Downflow Hanging Sponge Cube)法などの循環法を含め多くのプロセスが提案さている。生物学的硝化脱窒方法は、好気性細菌である硝化菌により排水中のアンモニア体窒素を、亜硝酸体又は硝酸体窒素にまで酸化する硝化工程と、嫌気性細菌である脱窒菌を用いて硝酸体、亜硝酸体窒素を窒素に還元する脱窒工程とからなり、ここで使用するリアクタ、装置も種々の形態のものが開発されている。
【0003】
循環法の一つであるUASB−DHS法は、前段のUASBリアクタで脱窒反応、後段のDHSリアクタで硝化反応を行い、後段の硝化反応の進んだ処理水の一部を前段の脱窒塔であるUASBリアクタへ循環させ、処理水中の有機物を脱窒反応の水素供与体として利用する(例えば特許文献1参照)。この他、脱窒反応を行う脱窒塔には、スポンジ担体を固定し使用する固定床式リアクタ、スポンジ担体を流動化させ使用する流動床式リアクタがある。
【特許文献1】特開平11−285696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の生物学的硝化脱窒法において、脱窒塔にUASBリアクタを使用する方法は、リアクタ内に脱窒菌を高濃度で保持するグラニュール汚泥を有するので脱窒塔として優れた性能を発揮するけれども、グラニュール汚泥が安定して増殖するまでに多くの時間がかかる。これに関しては、他の設備、装置から余剰のグラニュール汚泥を入手し、これを投入することで装置立上げ時間の短縮を図ることができるとの指摘もある(特開平8−281284号公報)。しかしながら特開平8−281284号公報が対象とするのは、合併浄化槽であり、この他下水処理施設等から余剰のグラニュール汚泥を入手することも可能であるが、これらグラニュール汚泥は、有機物を対象としたものであり、入手したとしても脱窒菌用のグラニュール汚泥として直ちに使用することはできない。スポンジ担体を使用する固定床式リアクタの脱窒塔は、脱窒菌濃度がUASBリアクタに比較すると低く、脱窒性能が低い。また、脱窒塔にスポンジ担体を流動化させ使用する流動床式リアクタの脱窒塔は、スポンジ担体を流動化させるため脱窒反応が安定化し、制御しやすい利点はあるものの、スポンジ担体同士がリアクタ内で擦れ合い磨耗するため、スポンジ担体の寿命が短い。
【0005】
本発明の目的は、短期間内に装置を立上げ安定運転を行うことが可能で性能に優れたUASBリアクタ及び生物学的硝化脱窒装置を提供することである。さらに生物学的硝化脱窒装置の新たな使用方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載のUASBリアクタは、リアクタ本体に固定され微生物を付着固定化する多孔質の担体を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載のUASBリアクタは、請求項1に記載のUASBリアクタにおいて、前記担体は、カーテン状のスポンジ担体であって、前記リアクタ本体の中間部に取付けられていることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の生物学的硝化脱窒装置は、請求項1又は請求項2に記載のUASBリアクタを備えることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の生物学的硝化脱窒装置の使用方法は、請求項3に記載の生物学的硝化脱窒装置の使用方法であって、生物学的硝化脱窒装置の運転開始後、グラニュール汚泥が十分に形成された後に前記担体を前記リアクタ本体から取外すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の本発明によれば、UASBリアクタは、リアクタ本体に固定され微生物を付着固定化する多孔質の担体を備えるので、グラニュール汚泥の形成が不十分なリアクタ立上げ時であっても、微生物は多孔質の担体に付着固定する。固定式の多孔質担体は、グラニュール汚泥に比較して微生物の付着固定化が早いので、リアクタの立上げ期間を短縮することができる。さらに固定式の多孔質担体を使用することで、多孔質担体に付着した汚泥が剥離し、剥離した汚泥がグラニュール汚泥の核となり、その結果グラニュール汚泥の形成が早くなる効果を有する。
【0011】
請求項2に記載の本発明によれば、微生物を付着固定化させる担体は、カーテン状のスポンジ担体であるので、性能に優れると共に入手も容易である。さらに担体は、リアクタ本体の中間部に取付けられているので、グラニュール汚泥が形成された後であっても、担体がグラニュール汚泥の流動化をじゃますることがない。このため性能に優れたUASBリアクタとすることができる。
【0012】
請求項3に記載の本発明によれば、生物学的硝化脱窒装置は、前記UASBリアクタを備えるので、短期間のうちに装置を安定的に運転することが可能となり、かつ窒素除去性能に優れる。
【0013】
請求項4に記載の本発明によれば、前記生物学的硝化脱窒装置を使用するとき、生物学的硝化脱窒装置の運転開始後、グラニュール汚泥が十分に形成された後に担体をリアクタ本体から取外すことで、微生物が付着固定化した担体を新たな生物学的硝化脱窒装置に使用することができる。これにより新たな生物学的硝化脱窒装置をより短期間で立上げることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1は、本発明の実施の一形態としてのUASBリアクタを備える生物学的硝化脱窒装置1のプロセスフロー図である。また図2は、UASBリアクタ20の一部を示す破断面図である。生物学的硝化脱窒装置1は、DHSリアクタからなるDHS硝化塔10とUASB脱窒塔20とを備える生物学的硝化脱窒装置である。排水貯槽2内の窒素含有排水(以下排水と省略)は、排水ポンプ3を介して混合槽4へ送られる。混合槽4へ送られた排水は、ここで循環ポンプ5から送られる処理水と混合され、アンモニア体窒素濃度が500mg/L以下に調整される。さらにpH調整ポンプ6を介してpH調整薬品貯槽7内に貯留されているpH調整薬品、及び栄養塩ポンプ8を介して栄養塩貯槽9内に貯留されている栄養塩が混合槽4に送られ、撹拌機11により混合される。混合槽4で調整された排水は、DHS硝化塔10へ送られる。DHS硝化塔10内には、複数の担体12が充填され、排水は、DHS硝化塔10の上部から散水され、担体12を通過するとき、担体12に付着する硝化菌の作用により空気中の酸素で酸化され、硝酸イオンとなる。
【0015】
硝化された排水は、硝化塔出口ポンプ13を介してUASB脱窒塔20へ送られる。途中、排水中に含まれる硝酸イオンに対応するメタノールがメタノール貯槽14に連結するメタノールポンプ15を通じて供給され、排水はメタノールと混合した状態でUASB脱窒塔20へ送水される。UASB脱窒塔20は、内部にグラニュール汚泥21及び固定式のスポンジ担体22を保持し、UASB脱窒塔20に送られた排水は、グラニュール汚泥21中の脱窒菌及び、スポンジ担体22に付着する脱窒菌の作用により、硝酸イオンとメタノールとが反応し窒素ガスと炭酸ガスに分解される。これらの工程により排水中のアンモニア体窒素が窒素ガスに分解される。このとき副産物とし発生する炭酸ガスは、DHS硝化塔10に必要な栄養塩として循環することで、栄養塩の添加を削減することができる。アンモニア体窒素が除去された処理水は、処理水貯槽40に集められ、一部は循環ポンプ5を介して混合槽4に送られる。
【0016】
本実施形態に示す生物学的硝化脱窒装置1の基本的な構成は、従来から使用されている生物学的硝化脱窒装置と類似の構成であり、本実施形態に示す生物学的硝化脱窒装置1は、UASB脱窒塔20が従来のUASB脱窒塔にない特徴を有する。UASB脱窒塔20は、断面が方形の縦長の箱体23の上部に、上部に向かって広がる拡大部24を備えるリアクタ本体25と、箱体23内に取付けられた2組のカーテン状のスポンジ担体22(22a、22b)と、拡大部24に装着された撹拌装置26を含み構成される。
【0017】
箱体23の下部には、DHS硝化塔10から送られる排水を受け入れるためのノズル27を有する。1のスポンジ担体22aは、中心部に補強用のプラスチック製の板28aを有し、その板28aを挟むように板状のスポンジ29a、30aが取付けられている。他のスポンジ担体22bも同様である。スポンジ担体22の大きさは、特定の大きさに限定されるものではなく、適宜設定することができる。スポンジ29a、29b、30a、30bの厚さを例示すれば、5〜20mm程度である。また、スポンジ担体22は、2組に限定されるものではないため、箱体23の大きさ、及び液の流動性を考慮して決定すればよい。必要以上に多くのスポンジ担体22を取付けると、1のスポンジ担体と隣りあうスポンジ担体との間隔が狭くなりすぎ、この間の液の流動性が悪くなる。
【0018】
また2組のスポンジ担体22は、箱体23内の中央部から上部に位置するように着脱容易に固定されており、箱体23内の下部は空間部となっている。リアクタ本体25の下部にスポンジ担体22を取付けると、スポンジ担体22がじゃまとなってグラニュール汚泥21の流動化が不十分となる可能性もあるけれども、リアクタ本体25の中間部にスポンジ担体22を取付けることでこのような懸念も解消されて好ましい。スポンジ29a、29b、30a、30bは、従来から一般的に使用されているウレタン、セルロースなどのスポンジを使用することができる。拡大部24に装着された撹拌装置26は、脱窒反応に伴い発生する窒素ガスが付着し浮上するグラニュール汚泥21から窒素ガスを分離するためのものである。
【0019】
本実施形態に示すUASB脱窒塔20は、リアクタ本体25内に固定式のスポンジ担体22を有する点が従来のUASB脱窒塔と比較して大きく異なる。従来のUASB脱窒塔は、脱窒菌を含むグラニュール汚泥をリアクタ本体内で流動化させ、脱窒菌の作用により、硝酸イオンを窒素ガスにする。グラニュール汚泥は、脱窒菌を高濃度で保持するため脱窒塔として優れた性能を発揮するけれども、グラニュール汚泥が安定して増殖するまでに多くの時間がかかる。これに対して本実施形態に示すUASB脱窒塔20は、従来のUASB脱窒塔と同様、グラニュール汚泥21に含まれる脱窒菌により硝酸イオンを窒素ガスに変換することができる他、スポンジ担体22を備えるのでこれに付着する脱窒菌を利用することで、装置の立上げの初期段階から高い脱窒性能を発揮することができる。固定式のスポンジ担体22は、グラニュール汚泥に比較して菌体の濃度が低いけれども、グラニュール汚泥21に比較して微生物の付着固定化が早い。このように特徴の異なる2つの菌体保持手段を用いることで、装置の立上げの初期段階からグラニュール汚泥21が安定して増殖するまでは固定式のスポンジ担体22が、グラニュール汚泥21が安定した後はグラニュール汚泥21を中心として脱窒反応を進めることができる。また固定式のスポンジ担体22を使用することで、スポンジ担体22に付着した汚泥が剥離すると、剥離した汚泥がグラニュール汚泥21の核となるので、グラニュール汚泥21の形成が早くなる効果を有する。
【0020】
また、2組のスポンジ担体22は、箱体23内の中央部から上部に位置するように着脱容易に固定されているので、スポンジ担体22の取外しを簡単に行うことができる。よって、グラニュール汚泥21が安定して増殖した後は、2組のスポンジ担体22を取外し、脱窒菌の付着するこのスポンジ担体22を、他の生物学的硝化脱窒装置のUASB脱窒塔に取付け使用することで、他の生物学的硝化脱窒装置の立上げを短期間に行うことができる。なお、生物学的硝化脱窒装置は、本実施形態に示す生物学的硝化脱窒装置1に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で他の形態の生物学的硝化脱窒装置にも使用可能なことは言うまでもない。またUASB脱窒塔の形状等も本実施形態に限定されないことは当然である。さらに担体もスポンジ担体に限定されるものではなく、ゼオライトなど多孔質の担体を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の一形態としてのUASBリアクタを備える生物学的硝化脱窒装置1のプロセスフロー図である。
【図2】図1に示すUASBリアクタ20の一部を示す破断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 生物学的硝化脱窒装置
20 UASB脱窒塔
21 グラニュール汚泥
22 スポンジ担体
25 リアクタ本体
29 スポンジ
30 スポンジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクタ本体に固定され微生物を付着固定化する多孔質の担体を備えることを特徴とするUASBリアクタ。
【請求項2】
前記担体は、カーテン状のスポンジ担体であって、前記リアクタ本体の中間部に取付けられていることを特徴とする請求項1に記載のUASBリアクタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のUASBリアクタを備えることを特徴とする生物学的硝化脱窒装置。
【請求項4】
請求項3に記載の生物学的硝化脱窒装置の使用方法であって、生物学的硝化脱窒装置の運転開始後、グラニュール汚泥が十分に形成された後に前記担体を前記リアクタ本体から取外すことを特徴とする請求項3に記載の生物学的硝化脱窒装置の使用方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−220076(P2009−220076A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−70021(P2008−70021)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(595095629)中電環境テクノス株式会社 (44)
【出願人】(502395985)
【Fターム(参考)】