説明

UGT1A4核酸配列の変異検査方法

【課題】
本発明の課題はUGT1A4の核酸配列のエキソン1領域の遺伝子変異の検査方法を提供するとともに、本検査方法を用いて薬剤代謝の判定、予測又は検査方法、黄疸、癌、冠動脈疾患又は骨粗鬆症の検査方法を提供することである。
【解決手段】
UGT1A4の核酸配列のエキソン1領域の変異を検索したところ、UGT1A4酵素分子にアミノ酸置換を引き起こす新たな変異を見出し、それらを調べることにより、UGT1A4活性の予測が可能であること、さらに薬剤代謝、黄疸、癌、冠動脈疾患又は骨粗鬆症に深く関与していることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は臨床検査の分野で用いられ、とりわけグルクロン酸抱合に関与する酵素の核酸配列検査の方法及びそのためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
UDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)により触媒されるグルクロン酸抱合はビリルビンをはじめ種々の薬剤や毒物の代謝、解毒に重要な役割をしている。ヒトUGT1遺伝子群は少なくとも13個の異なるエキソン1と共通エキソン2〜5からなり、1つのエキソン1が共通エキソン2〜5に対してスプライシングする(非特許文献1)。それぞれのUGTは広い基質特異性と独自の生体組織内分布を有している。
【0003】
UGT1A4は肝臓や胃で発現しており、1級アミン、3級アミン、ベータナフチルアミン、4−アミノビフェニル、ベンジジン、アンドロゲン、プロゲスチン、及びサポゲニンなどの植物ステロイド類等をグルクロン酸抱合することが知られている(非特許文献2など)。最近、肝細胞癌の患者において、UGT1A4の機能上の多型が存在することが報告されている(非特許文献3)。
【非特許文献1】J.Biol.Chem.(1992) 267, 1043-1047
【非特許文献2】Drug Metab. Dispos. (1998)26、507−512
【非特許文献3】Hepatorogy(2004)39, 970-977
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題はUGT1A4の核酸配列のエキソン1領域及びその下流域のイントロンの遺伝子変異の検査方法を提供するとともに、本検査方法を用いて薬剤代謝の判定、予測又は検査方法、黄疸、癌、冠動脈疾患又は骨粗鬆症の検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはUGT1A4の核酸配列のエキソン1領域及びその下流域のイントロン領域の変異を検索したところ、UGT1A4酵素分子にアミノ酸置換を引き起こす新たな変異を見出し、それらを調べることにより、UGT1A4活性の予測が可能であること、さらに薬剤代謝、黄疸、癌、冠動脈疾患又は骨粗鬆症に深く関与していることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
本発明は、以下の構成からなる。
1、UDP−グルクロン酸転移酵素(UGT1A4)の核酸配列の検査方法であって、配列番号1で表した配列の、142番目のtからg(L48V)の変異を検査することを特徴とするUGT1A4の核酸配列の検査方法。
2、前記1に記載のUGT1A4の核酸配列の検査によるUGT1A4酵素分子の機能、酵素活性を検査又は予測する方法。
3、前記2に記載の方法による薬物代謝能、黄疸、癌、冠動脈疾患又は骨粗鬆症の検査方法。
4、配列番号2、3、4、5、6、7、8及び9に記載のオリゴヌクレオチドプライマーのいずれか1または少なくとも2つを用いる前記1〜3のいずれか1に記載の検査方法。
5、前記1〜4のいずれか1に記載の検査方法に用いる検査装置、試薬又はキット。
6、前記4又は5のいずれか1に記載の検査方法に用いるオリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1種を組み込んでなる検査装置、試薬又はキット。

【発明の効果】
【0007】
本発明は、これまで知られていなかったUGT1A4の新しい変異を検査する方法を提供し、この検査方法を用いることにより、薬剤代謝能、癌、黄疸、冠動脈疾患、骨粗鬆症 の検査、予測が可能になるといった格段の効果をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(検査対象)
本発明により検査対象は薬物代謝能、黄疸、癌、冠動脈疾患又は骨粗鬆症があげられる。
薬物代謝はチトクロームP450による代謝経路に加えて、UGT1によるグルクロン酸抱合による代謝経路も重要であり、本発明の検査方法を用いることによりグルクロン酸抱合されて代謝される薬物の薬効と副作用の予測が可能になる。本発明の方法によって検査されうる対象となる薬剤の例として、1級アミン、3級アミン、ベータナフチルアミン、4−アミノビフェニル、ベンジジン、アンドロゲン、プロゲスチン、クロザピン等が挙げられる。
【0009】
ビリルビンの肝臓からの排出には、UGT1が必須であり、黄疸の原因を検査するために本発明は有効である。本発明は、さらに乳がん、大腸がんをはじめとする種々の癌との関連を検査する方法としても有用であり、冠動脈疾患や骨粗鬆症の発症を理解、予測する上においても有用な検査方法である。
【0010】
(検査試料)
検査しようとするUGT1A4核酸配列のゲノムDNAは肝臓、腎臓、白血球、毛髪等の臓器、組織等特に限定されることなく得ること可能である。白血球からゲノムDNAを得る方法の一つに市販のキット、例えばキアゲン社のQuiagen Blood DNAキットを用いることができる。得られたゲノムDNAを用いて、配列番号1に記載の領域を含むゲノムDNAを、例えば、配列番号2に記載の5´−TTTGTCTTCCAATTACATGC−3´と配列番号3に記載の5´−AGATATGGAAGCACTTGTAAG−3´のプライマー対を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させる。ゲノムDNAを増幅する手段はPCRに限られたものではなく、LAMP、LCR、NASBA等の公知の増幅工程により増幅させることも可能である。
【0011】
(変異検出)
得られた増幅産物の変異を検出する方法は直接シーケンス法を初め、種々の公知の方法が適用され特に限定されるものではない。直接シーケンス法のためのプライマーの例として、配列番号4、5、6、7及び8のプライマーが挙げられる。制限酵素による断片化試料の電気泳動分析やDNA試料を溶液内ハイブリザイズさせるFISH法等により、検査することも可能である。その他サザンハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(J. Mol. Biol., 98: 503-517, 1975等参照)、ジデオキシ塩基配列決定法、DNAの増幅手法を組合せた各種の検出法[例えばPCR−制限酵素断片長多型分析法(RFLP: Restriction fragment length polymorphism),PCR−単鎖高次構造多型分析法(Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86:
2766-2770, 1989等参照),PCR−特異的配列オリゴヌクレオチド法(SSO: Specific sequence oligonucleotide),PCR−SSOとドットハイブリダイゼーション法を用いる対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド法(Nature, 324: 163-166, 1986等参照)]等を例示することができる。さらにオリゴヌクレオチドプローブを用いる核酸チップ又は核酸アレイによって簡便に検出することも可能である。
【0012】
本発明で用いるプライマー類のオリゴヌクレオチドは、常法に従い、自動合成機、例えばDNAシンセサイザー(パーキンエルマー社)等を用いて容易に合成することができ、得られるオリゴヌクレオチドは更に必要に応じて、市販の精製用カートリッジ等を用いて精製することもできる。
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。
【実施例1】
【0013】
(検査対象及び試料の調製)
健常日本人100人を検査対象とした。キアゲン社のQuiagen Blood DNAキットを用いてゲノムDNAを分離し精製した。それぞれについてUGT1A4のエキソン1の領域と一部のイントロン領域を配列番号2及び3に記載のオリゴヌクレオチドプライマー対を用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅させた。PCRの条件は94℃で5分間の変性、94℃で1分間の放置、62℃で1分間、72℃で2分間のサイクルを30サイクル行った。その後、72℃で8分間最終の伸長反応を行った。増幅した試料をジクロロローダミン使用ダイターミネーター法シーケンシングキット(dRhodamine Terminator Cycle
Sequencing FS Ready Reaction Kit)を用いて直接シーケンス法にて配列を確認した。配列解析用プライマーとして、配列番号4,5,6、7及び8のプライマーを用いた。
【実施例2】
【0014】
(対立遺伝子解析)
実施例1に記載の検査対象について、対立遺伝子の解析を行った。その結果を図1に示した。全100例のうち正常型は68例(68%)であった。32例(32%)で、142T→G(L48V)の変異が観察され、そのうち142T→G(L48V)単独の変異は2例のみであり、それらは何れもヘテロ型変異であった。残り30例のうち、142T→G(L48V)に加えて、448T→C(L150L)と804G→A(P268P)の何れもサイレントな変異及びイントロン領域の867+43C→Tの変異が重複して見出された(4重変異)。それらのなかで、1例はその重複変異がホモ型であった。残り29例は何れもヘテロ型であったが、さらに、その中で2例は804G→A(P268P)の単独変異アレルと上記の4重変異アレルの複合型変異であった。これらの変異は、全て今までに報告されていないものであった。
【実施例3】
【0015】
ヒトcDNAライブラリーよりUGT1A4のcDNAを配列番号2及び3に示したプライマー対を用いてPCRにより増幅し、有核細胞TAクローニングキット(Invitrogen)を用いてpCR3.1発現ベクターに組み込んだ。変異導入操作はMutan Km キット(Takara)を用いて行った。すなわち、pCR3.1発現ベクターに組み込んだcDNAをPst1とBamH1 Iの2つの制限酵素で切断し、pkF18ベクター(Takara)に組み込んだ。配列番号9に示したプライマーを用いて変異を導入した。変異を導入したcDNAをpKF18ベクターから切り出し、再度pCR3.1発現ベクターに繋いだ。
各3μgのプラスミドDNAをCOS-7細胞にGene PORTERトランスフェクション試薬(Gene Therapy System)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクションした細胞を48時間培養した後、細胞を集めて超音波処理にて破壊し、細胞ホモジネートを調製した。クロザピン及びUDP-グルクロン酸を基質として細胞ホモジネートのUDP-グルクロン酸転移酵素活性を測定した。14CでラベルしたUDP−グルクロン酸を用い、37℃で10分間反応後の生成物をTLCプラスチックシート5748(メルク)で分析することにより酵素活性を求めた。その結果を表1に示した。
【0016】
【表1】


以上の結果、UGT1A4の酵素活性が142T→G(L48V)変異型では正常型の207.7%となり、本発明により、酵素活性の増大が予測できることが判った。

【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は、新薬開発における、薬効や副作用の予測に利用されるほか、診断・治療のために必要な臨床検査の分野で用いられる診断薬キットとして製造される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
UDP−グルクロン酸転移酵素(UGT1A4)の核酸配列の検査方法であって、配列番号1で表した配列の、142番目のtからg(L48V)の変異を検査することを特徴とするUGT1A4の核酸配列の検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載のUGT1A4の核酸配列の検査によるUGT1A4酵素分子の機能、酵素活性を検査又は予測する方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法による薬物代謝能、黄疸、癌、冠動脈疾患又は骨粗鬆症の検査方法。
【請求項4】
配列番号2、3、4、5、6、7、8及び9に記載のオリゴヌクレオチドプライマーのいずれか1または少なくとも2つを用いる請求項1〜3のいずれか1に記載の検査方法。
【請求項5】
請求項1〜5のいずれか1に記載の検査方法に用いる検査装置、試薬又はキット。
【請求項6】
請求項4又は5のいずれか1に記載の検査方法に用いるオリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも1種を組み込んでなる検査装置、試薬又はキット。


















【公開番号】特開2006−101808(P2006−101808A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295291(P2004−295291)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(592037055)株式会社日本医学臨床検査研究所 (13)
【出願人】(504249204)
【出願人】(504376670)
【Fターム(参考)】