説明

UHMWPEの紡糸法、それによって製造されるUHMWPEマルチフィラメント糸およびその使用

本発明は、超低dtexフィラメントを含む高引張強さの超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)マルチフィラメント糸を製造するためのゲル紡糸法であって、UHMWPEの溶液を紡糸口金に通してエアギャップ中に紡ぐようにして出すことによって得られる流体フィラメントに適用される延伸比DRfluidが少なくとも450であり、ここでDRfluid=DRspDRagであり、DRspおよびDRagはそれぞれ紡糸孔およびエアギャップにおける延伸比であるが、ただし、DRagが少なくとも30であることを条件とすることを特徴とする、ゲル紡糸法に関する。それによって製造されるUHMWPEマルチフィラメント糸は、少なくとも3.5GPaの引張強さを特徴とし、0.5dtex以下のフィラメントを含んでいた。本発明はさらに、前記糸を含む製品、例えば、布帛、医療器具ならびに複合物品および衝撃物品(ballistic article)に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、超低dtexフィラメントを含む高引張強さの超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)マルチフィラメント糸を製造するためのゲル紡糸法(gel−spinning process)、およびそれによって製造されるUHMWPEマルチフィラメント糸に関する。本発明はさらに、前記糸を含む製品に関する。
【0002】
高引張強さを有するUHMWPEマルチフィラメント糸を製造するためのゲル紡糸法は、例えば、欧州特許出願公開第1,699,954号明細書から知られている。その中に開示されている方法は、
a)溶剤中にUHMWPEを含む溶液を調製するステップと;
b)ステップa)の溶液を紡糸口金に通してエアギャップ中に紡ぐように出して流体フィラメント(fluid filaments)を形成するステップであって、紡糸口金が複数の紡糸孔(spinholes)を含み、直径が漸減している少なくとも1つのゾーンをそれぞれの紡糸孔が含み、溶液がエアギャップに出される紡糸孔の下流部直径(downstream diameter)が0.1から1.5mmの間である、ステップと;
c)DRfluid=DRsp × DRagの流体延伸比で流体フィラメントを延伸するステップであって、DRspおよびDRagがそれぞれ紡糸孔およびエアギャップでの延伸比である、ステップと;
d)流体フィラメントを冷却して溶剤含有ゲルフィラメントを形成するステップと;
e)少なくとも4の延伸比DRsolidで固体フィラメントを延伸する前、その間またはその後に、残っている溶剤をゲルフィラメントから少なくとも一部除去して固体フィラメントを形成するステップと
を含む。
【0003】
それによって製造されるUHMWPEマルチフィラメント糸は、5GPaもの引張強さを示したが、しかし、その糸は1dtex程度の比較的太いフィラメントを含んでいた。
【0004】
引張強さが比較的高いが、もっと細いフィラメントを含むUHMWPEマルチフィラメント糸が製造されるゲル紡糸法が、例えば、中国特許第1,400,342号明細書(以下、CN1,400,342)から知られている。前記刊行物は、溶融紡糸法とゲル紡糸法の両方を開示している。ゲル紡糸法に関して言えば、分子量が1×10から6×10g/モルの間にあるUHMWPEを4〜15重量%含む溶液を、直径が0.6〜1mmの間にある紡糸孔を有する紡糸口金に通して紡ぐように出して流体フィラメントを形成する。流体フィラメントは、その実施例1によれば最大35の延伸比で延伸される。ゲル紡糸フィラメントで達成された最大合計延伸比は約390であった。その参照刊行物によれば、高濃度のUHMWPE溶液(すなわち、およそ15重量%)の場合、フィラメントの破損を防ぐために低い流体延伸比を適用すべきであり、薄いUHMWPE溶液(すなわち、およそ4重量%)では、流体延伸比を増大させることができる。達成最大値は約35である(すなわち、7重量%の濃度のUHMWPE溶液を用いた実施例1による場合)。CN1,400,342によれば、開示されている限界値を超えてさらに引き延ばすことによって、「適切な度合いの高分子の絡み合い」を有する構造を持つUHMWPEフィラメントを得ることはできない。適切な度合いの絡み合いが欠けていると、得られたフィラメントをさらに延伸することは困難であり、このこともその場合に達成される総合延伸比が低いことの説明となる。0.55dtex(0.5den)より小さくないフィラメントを含み、4.3GPaもの引張強さを有するUHMWPEマルチフィラメント糸が得られた。
【0005】
しかし、超低dtexを有するフィラメント含むUHMWPEマルチフィラメント糸を得るための更なるゲル紡糸法が、特開2000/226721号公報(以下、JP2000/226721)から知られている。その中に開示されているゲル紡糸法では、紡糸口金の紡糸孔で、0.3〜0.5mmの範囲のさらにもっと小さい直径を使用していた。押し出された流体フィラメントは、延伸されて延伸比が最高で50にされ、固体フィラメントになった後に再び延伸されて合計延伸比が約200にされた。得られたUHMWPEフィラメントは、わずか0.121dtexであった。しかし、こうしたフィラメントを含むマルチフィラメント糸の引張強さは、いくぶん小さかった。すなわち3.2GPa以下であった。この方法の更なる欠点は生産性が低下することである。これは、紡糸孔に通して紡ぐように出されるUHMWPE溶液の量が、その非常に小さい直径によって制限されるからである。
【0006】
それゆえに、どんな当業者にとっても、超低dtexフィラメントを含みかつその引張強さが高いUHMWPEマルチフィラメント糸を得ることは、決してささいなことではない。良好な生産性を有するその製造方法を考案することはなおさら困難である。
【0007】
本発明の目的は、超低dtexフィラメントを含みかつ高引張強さを有するゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸(その組み合わせは、既存のゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸のいずれによっても満たされない)、およびそれを調製するための方法を提供することである。本発明の更なる目的は、生産性の良好なそのような方法を提供することである。
【0008】
この企図された目的は、DRagが少なくとも30であるという条件において、少なくとも450の流体延伸比DRfluidで流体フィラメントを延伸することを特徴とするゲル紡糸法によって達成された。
【0009】
驚くべきことに、本発明の方法により、0.5dtex以下のフィラメントを含み、かつ引張強さが少なくとも3.5GPaである新規のUHMWPEマルチフィラメント糸が得られることが見出された。その組み合わせは、発明者らの知る限り、今までに決して達成されたことがなく、その組み合わせ自体が予想外のことであった。
【0010】
驚くべきことに、本発明の方法においては、超低dtexUHMWPEフィラメントの紡糸の際に、紡糸口金で前記フィラメントが引きちぎられるために起こる紡糸破断の量が減少することも、見出された。紡糸破断の量が少ないことは、本方法の生産性に間違いなく貢献する。
【0011】
UHMWPE溶液は、好ましくは1から20重量%の間、より好ましくは2から15重量%の間、さらにより好ましくは3から10重量%の間、もっとも好ましくは4から8重量%の間の濃度のものを調製する。UHMWPEのモル質量が大きくなるほど、濃度は低いほうが好ましい。
【0012】
UHMWPEは、好ましくは、デカリン溶液(135℃)で測定した固有粘度(IV)が、少なくとも3dl/g、好ましくは少なくとも5dl/g、より好ましくは少なくとも7dl/g、さらにより好ましくは少なくとも9dl/g、もっとも好ましくは少なくとも11dl/gである。好ましくは、IVは40dl/g以下、より好ましくは30dl/g以下、さらにより好ましくは25dl/g以下、さらにずっとより好ましくは20dl/g以下、もっとも好ましくは15dl/g以下である。
【0013】
UHMWPEは、ゲル紡糸法に適した任意のUHMWPEであってよい。好ましくは、UHMWPEは、100個の炭素原子当たり分枝が1つ未満、好ましくは300個の炭素原子当たり分枝が1つ未満である線状ポリエチレンである。分枝(側鎖としても知られている)とは、本明細書ではUHMWPEの主鎖の分枝と理解され、前記分枝は、好ましくは、1個から10個の間、より好ましくは1個から8個の間、さらにより好ましくは1個から6個の間の炭素原子を含む。線状ポリエチレンは、5モル%までの1種またはそれ以上のコモノマー(プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンまたはオクテンのようなアルケンなど)、また好ましくは5重量%未満、より好ましくは3重量%未満の通例の添加剤(酸化防止剤、熱安定剤、着色剤、流動促進剤など)をさらに含んでもよい。
【0014】
好ましい実施態様では、UHMWPEは、側鎖としてC1〜C4のアルキル基を、1000個の炭素原子当たり少なくとも0.2個、より好ましくは少なくとも0.3個含む。アルキル基の量は、1000個の炭素原子当たり、好ましくは20個以下、より好ましくは10個以下、さらにより好ましくは5個以下、さらにずっとより好ましくは3個以下、もっとも好ましくは1.5個以下である。アルキル基は、好ましくはメチル基またはエチル基、より好ましくはメチル基である。UHMWPEは、単一のポリマーグレード(polymer grade)であってよいが、2種類以上の異なるポリエチレングレード(例えば、IVまたはモル質量の分布、及び/またはコモノマーまたは側基の種類および数の点で異なる)の混合物であってもよい。
【0015】
UHMWPE溶液を調製するには、当該技術分野において知られている任意の技法およびUHMWPEのゲル紡糸に適した任意の周知の溶剤を使用してよい。溶剤の好適な例として、脂肪族および脂環式炭化水素、例えば、オクタン、ノナン、デカンおよびパラフィン(それらの異性体を含む);石油留分;鉱油;ケロシン;芳香族炭化水素、例えば、トルエン、キシレン、およびナフタレン(それらの水素化誘導体、例えば、デカリンおよびテトラリンを含む);ハロゲン化炭化水素、例えば、モノクロロベンゼン;およびシクロアルカンまたはシクロアルケン、例えば、カリーン(careen)、フッ素、カンフェン、メンタン、ジペンテン、ナフタレン、アセナフタレン(acenaphtalene)、メチルシクロペンタンジエン(methylcyclopentandien)、トリシクロデカン、1,2,4,5−テトラメチル−1,4−シクロヘキサジエン、フルオレノン、ナフチンダン(naphtindane)、テトラメチル−p−ベンゾジキノン、エチルフルオレン、フルオランテンおよびナフテノンがある。上に列挙した溶剤を組み合わせたものを、UHMWPEのゲル紡糸に使用してもよく、簡略化のため、溶剤の組み合わせも溶剤と呼ぶ。好ましい実施態様では、一般に好まれる溶剤は、室温で揮発性ではなく、例えば、パラフィン油がある。本発明の方法は、室温で比較的揮発性の溶剤(例えば、デカリン、テトラリンおよびケロシン・グレード(kerosene grades)のようなもの)にとって特に有利であることも見出された。もっとも好ましい実施態様では、一般に好まれる溶剤はデカリンである。
【0016】
本発明によれば、UHMWPE溶液は、複数の紡糸孔を含む紡糸口金に前記溶液を通して紡ぐように出すことによって流体フィラメントに形成する。本明細書で使用される「流体フィラメント」という用語は、前記UHMWPE溶液を調製するのに用いる溶剤中にUHMWPEを含んでいる溶液を含む、流体状のフィラメントを指す。前記流体フィラメントは、UHMWPE溶液を紡糸口金に通して押し出すことにより得られ、押し出される流体フィラメント中のUHMWPEの濃度は、押し出し前のUHMWPE溶液の濃度と同じであるかほぼ同じである。複数の紡糸孔を含んでいる紡糸口金とは、本明細書では、紡糸孔を好ましくは少なくとも5個、より好ましくは少なくとも10個、さらにより好ましくは少なくとも25個、さらにずっとより好ましくは少なくとも50個、もっとも好ましくは少なくとも100個を含んでいる紡糸口金と理解される。好ましくは、紡糸口金は、3000個以下、より好ましくは1000個以下、もっとも好ましくは500個以下の紡糸孔を含む。
【0017】
好ましくは、紡糸温度は150℃から250℃の間であり、より好ましくは紡糸溶剤の沸点未満から選択される。例えばデカリンを紡糸溶剤として用いる場合、紡糸温度は、好ましくは180℃以下、より好ましくは175℃以下、もっとも好ましくは170℃以下、また好ましくは少なくとも115℃、より好ましくは少なくとも120℃、もっとも好ましくは少なくとも125℃である。パラフィンの場合、紡糸温度は好ましくは200℃未満、より好ましくは130℃から195℃の間である。
【0018】
好ましくは、紡糸速度は、少なくとも1m/分、より好ましくは少なくとも3m/分、さらにより好ましくは少なくとも5m/分、さらにずっとより好ましくは少なくとも7m/分、もっとも好ましくは少なくとも9m/分である。好ましくは、紡糸速度は、20m/分以下、より好ましくは18m/分以下、さらにより好ましくは16m/分以下、さらにずっとより好ましくは14m/分以下、もっとも好ましくは12m/分以下である。驚くべきことに、超低dtexのUHMWPEフィラメントの周知の製造方法と比較して、比較的高い紡糸速度および延伸速度で本発明のUHMWPEフィラメントを形成および延伸できることが観察された。これにより、生産量が向上し製造時間が減少した。それゆえに、本発明の方法は経済的にいっそう魅力的なものとなる。紡糸速度とは、本明細書では、押し出されて紡糸口金から出る流体フィラメントの速度(1分間当たりのメートル数(m/分))と理解される。延伸速度とは、本明細書では、延伸比を、前記延伸比を達成するのに必要な時間で割ったものと理解される。
【0019】
本発明によれば、それぞれの紡糸孔は、直径が漸減しているゾーンである少なくとも1つのゾーン(収縮ゾーン(contraction zone)とも呼ぶ)を含む形状を有する。好ましくは直径の漸減は、テーパ角度が少なくとも10°、より好ましくは少なくとも15°、より好ましくは少なくとも30°、さらにより好ましくは少なくとも45°である。好ましくは、テーパ角度は75°以下、より好ましくは70°以下、さらにより好ましくは65°以下である。テーパ角度とは、本明細書では、収縮ゾーンでの反対側壁面の接線の交差する最大角度を意味する。例えば、円錐形または勾配付きの収縮ゾーンでは、接線が交差するテーパ角度は一定であるが、いわゆるトランペット型の収縮ゾーンの場合、接線が交差するテーパ角度は直径が減少するにつれて減少することになる。ワイングラス型の収縮ゾーンの場合、接線の交差する角度は最大値を通過する。前記漸減があるため、紡糸孔で延伸比DRspが達成される。DRspは、収縮ゾーンの最初の横断面での溶液流速と最後の横断面での溶液流速の比であり、これはそれぞれの断面積の比と等しい。例えば、円錐の切頭体の形状を有する収縮ゾーンの場合、DRspは、収縮ゾーンの最初の横断面の直径の2乗と最後の横断面の直径の2乗の比である。
【0020】
紡糸孔の直径とは、本明細書では、有効直径を意味する。すなわち、非円形または不規則な形状の紡糸孔の場合、紡糸孔の外側境界間の最大距離を意味する。
【0021】
好ましくは、収縮ゾーンの最初と最後の断面積(またはそのそれぞれの直径)は、DRspが少なくとも5、より好ましくは少なくとも10、さらにより好ましくは少なくとも15、さらにずっとより好ましくは少なくとも20、さらにずっとより好ましくは少なくとも25、さらにずっとより好ましくは少なくとも30、さらにずっとより好ましくは少なくとも35、もっとも好ましくは少なくとも40となるように選択する。
【0022】
好ましくは、紡糸孔は、収縮ゾーンの上流部及び/または下流部(収縮ゾーンのそれぞれの対応する横断面の直径と等しい一定直径のゾーン)をさらに含み、その一定直径ゾーンは長さ/直径の比が好ましくは50以下、より好ましくは30以下、さらにより好ましくは20以下、もっとも好ましくは10以下である。より好ましくは、その長さ/直径の比が、少なくとも2、さらにより好ましくは少なくとも4、もっとも好ましくは少なくとも5である。
【0023】
好ましくは、エアギャップに溶液が出される紡糸孔の下流部の直径は、0.1から1.5mmの間、より好ましくは0.1から1.2mmの間、より好ましくは0.1から0.9mmの間、さらにより好ましくは0.1から0.8mmの間、さらにずっとより好ましくは0.1から0.7mmの間、さらにずっとより好ましくは0.1から0.5mmの間、さらにずっとより好ましくは0.1から0.45mmの間、もっとも好ましくは0.2から0.45mmの間である。
【0024】
UHMWPE溶液を紡糸口金に通して紡ぐように出すことによって形成される液体フィラメントをエアギャップに押し出し、次いで冷却ゾーンに押し出し、そこから第1従動ローラー上にそれらを回収する。前記ローラーの表面速度が、紡糸口金から出されるUHMWPE溶液の流量を超えるように第1従動ローラーの角速度を選択することにより、少なくとも30の延伸比DRagで、流体フィラメントをエアギャップ中において延伸する。エアギャップでの延伸比(DRag)は、好ましくは少なくとも40、より好ましくは少なくとも50、さらにより好ましくは少なくとも60、もっとも好ましくは少なくとも80である。
【0025】
本発明によれば、流体フィラメントは、合計流体延伸比DRfluid=DRsp × DRagが、少なくとも450、好ましくは少なくとも475、より好ましくは少なくとも500、さらにより好ましくは少なくとも550、さらにずっとより好ましくは少なくとも600、さらにずっとより好ましくは少なくとも650、さらにずっとより好ましくは少なくとも700、もっとも好ましくは少なくとも800となるようにして、延伸する。驚くべきことに、本発明の方法では、破損の発生を同じレベルに維持しながら、UHMWPE流体フィラメントを、超低dtexフィラメントの製造方法でこれまで可能であったよりももっと大きなDRfluidにすることが可能であることが見出された。さらに、DRfluidを増大させることにより、dtexがいっそう小さいフィラメントを得ることができた。DRfluidが大きいことは、フィラメントの引張強さにとっても有利であることが分かった。
【0026】
合計流体延伸比をあまりに大きくし過ぎると、フィラメントの破損が増大することが見出された。したがって、好ましい実施態様では、流体フィラメントは、合計流体延伸比DRfluid=DRsp × DRagが1200以下、好ましくは1000以下、より好ましくは900以下(800以下など)で延伸する。
【0027】
好ましい実施態様では、DRspは5から20の間、より好ましくは5から15の間であるが、DRagはDRfluid値が少なくとも450となるように増大させる。これらは、本発明の方法の利点を達成するための、前記延伸比の最適値であることが見出された。
【0028】
エアギャップの長さは、好ましくは少なくとも1mm、より好ましくは少なくとも3mm、さらにより好ましくは少なくとも5mm、さらにずっとより好ましくは少なくとも10mm、さらにずっとより好ましくは少なくとも15mm、さらにずっとより好ましくは少なくとも25mm、さらにずっとより好ましくは少なくとも35mm、さらにずっとより好ましくは少なくとも25mm、さらにずっとより好ましくは少なくとも45mm、もっとも好ましくは少なくとも55mmである。エアギャップの長さは、好ましくは200mm以下、より好ましくは175mm以下、さらにより好ましくは150mm以下、さらにずっとより好ましくは125mm以下、さらにずっとより好ましくは105mm以下、さらにずっとより好ましくは95mm以下、もっとも好ましくは75mm以下である。
【0029】
エアギャップを出た後に流体フィラメントを冷却(急冷としても知られている)して溶剤含有ゲルフィラメントを形成することは、当該技術分野において知られている任意の方法(例えば、ガス流及び/または液体冷却槽)で実施できる。好ましくは、流体フィラメントは、80℃以下、より好ましくは60℃以下、もっとも好ましくは40℃以下の温度まで、好ましくは少なくとも1℃、より好ましくは少なくとも5℃、さらにより好ましくは少なくとも10℃、もっとも好ましくは少なくとも15℃の温度まで冷却する。
【0030】
エアギャップとは、流体フィラメントが溶剤含有ゲルフィラメントに変えられるまでに流体フィラメントが進む距離(ガス冷却を用いた場合)、または紡糸口金の正面と液体冷却槽中の冷却液の表面との間の距離を意味する。
【0031】
本明細書で使用される「ゲルフィラメント」という用語は、冷却されると、紡糸溶剤で膨潤したUHMWPEの連続網状体を生み出すフィラメントを指す。冷却されると、半透明のUHMWPEフィラメントから実質的に不透明のフィラメント(すなわちゲルフィラメント)へとフィラメントの透明度が変化することは、ゲルフィラメントへの流体フィラメントの変換およびUHMWPEの連続網状体の形成を示すものでありうる。
【0032】
本発明の方法では、固体フィラメントの延伸前、その間またはその後に、ゲルフィラメントに対して溶剤除去ステップを実施して固体フィラメントを形成する。除去ステップの後に固体フィラメント中に残る残留紡糸溶剤(以下、残留溶剤)の量は、広い限界範囲内にわたってさまざまでありうる。好ましくは、残留溶剤は、重量パーセントで、UHMWPE溶液中の溶剤の最初の量の15%以下、より好ましくは重量パーセントで10%以下、もっとも好ましくは重量パーセントで5%以下である。除去ステップ後に固体フィラメント中に残る残留紡糸溶剤の量は、UHMWPEおよび溶剤を含む糸の全重量を基準にして記述することもできる。この場合、残留溶剤は、好ましくは糸の全重量の15重量%以下、より好ましくは糸の全重量の10重量%以下、もっとも好ましくは糸の全重量の5重量%以下である。溶剤の除去工程は、周知の方法、例えば、比較的揮発性の紡糸溶剤(例えば、デカリン)を用いてUHMWPE溶液を調製した場合には蒸発によって、またはパラフィンを用いた場合には、例えば、抽出液を使用して、あるいは、その両方の方法を組み合わせて実施することができる。好適な抽出液は、UHMWPEゲル繊維の構造に著しい変化を引き起こさない液体であり、好ましくは再利用のために紡糸溶剤を分離することができるものである。
【0033】
固体フィラメントの延伸は、当該技術分野において知られている任意の技法にしたがって、少なくとも4の延伸比DRsolidで、少なくとも1回の延伸ステップによって実施できる。より好ましくは、DRsolidは、少なくとも7、さらにより好ましくは少なくとも10、さらにずっとより好ましくは少なくとも15、さらにずっとより好ましくは少なくとも20、さらにずっとより好ましくは少なくとも30、もっとも好ましくは少なくとも40である。フィラメントの破損の危険を減らすため、延伸比DRsolidは、好ましくは150以下、好ましくは100以下、より好ましくは75以下(例えば、50以下など)である。より好ましくは、固体フィラメントの延伸は、少なくとも2つのステップ、さらにより好ましくは少なくとも3つのステップで実施される。好ましくは、それぞれの延伸ステップは、好ましくは、フィラメントの破損を生じさせることなく所望の延伸比が達成されるように選ばれた、異なる温度で実施する。固体フィラメントの延伸を2つ以上のステップで実行する場合、DRsolidは、それぞれ別個の固体延伸ステップで成し遂げられる延伸比を乗ずることによって計算される。固体フィラメントの延伸は、好ましくは、110から170℃の間、より好ましくは120から160℃の間、もっとも好ましくは130から155℃の間の温度で実施する。温度は、好ましくは120から155℃の間で増大するような形にしてもよい。
【0034】
好ましい実施態様では、液体冷却槽中でゲルフィラメントを冷却した後、前記フィラメントは、好ましくは110から145℃の間、より好ましくは130から140℃の間の温度に設定されたオーブン中に導入した。そこでは、少なくとも2、より好ましくは少なくとも4、もっとも好ましくは少なくとも6の延伸比でフィラメントを延伸している間に、固体フィラメントがオーブンから出てくるように、蒸発によって溶剤を除去した。このステップでは、延伸比は、好ましくは50未満、より好ましくは40未満、さらにより好ましくは30未満(15未満など)である。その後、固体フィラメントは、好ましくは、第2ステップにおいて、好ましくは140から165℃の間、より好ましくは150から155℃の間の温度に設定された第2オーブン中で、少なくとも6、より好ましくは少なくとも10、もっとも好ましくは少なくとも15の延伸比で延伸する。第2ステップでは、延伸比は、好ましくは50未満、より好ましくは40未満、さらにより好ましくは30未満(20未満など)である。
【0035】
任意選択で、本発明の方法はまた、本発明のゲル紡糸UHMWPEフィラメントから残留紡糸溶剤を除去するステップを含むこともでき、好ましくは、前記ステップは固体延伸ステップの後である。好ましい実施態様では、本発明のゲル紡糸UHMWPEフィラメント中に残っている残留紡糸溶剤は、前記フィラメントを、好ましくは148℃以下、より好ましくは145℃以下、もっとも好ましくは135℃以下の温度の真空オーブンに入れることによって除去する。好ましくは、オーブンは、少なくとも50℃、より好ましくは少なくとも70℃、もっとも好ましくは少なくとも90℃の温度に維持する。より好ましくは、残留紡糸溶剤の除去は、フィラメントをぴんと張った状態に保って実施する。すなわち、フィラメントが緩まないようにする。
【0036】
好ましくは、溶剤除去ステップの終了時における本発明のゲル紡糸UHMWPEマルチフィラメント糸に含まれる紡糸溶剤は、800ppm未満の量である。より好ましくは、前記紡糸溶剤の量は、600ppm未満、さらにより好ましくは300ppm未満、もっとも好ましくは100ppm未満である。
【0037】
また驚くべきことに、従来技術において以前に報告されたDRoverallと比べて、本発明の超低dtexのUHMWPEフィラメントには、破損を生じさせることなくいっそう大きな総合延伸比(DRoverall)を適用できることも見出された。本明細書では、DRoverallは、本発明の方法のいろいろな段階で適用される延伸比(すなわち、流体フィラメント、ゲルフィラメントおよび固体フィラメントに適用される延伸比)を掛け合わせたものと理解される。したがって、DRoverall=DRfluid × DRgel × DRsolidである。
【0038】
好ましくは、DRoverallは、少なくとも9000、より好ましくは少なくとも12000、さらにより好ましくは少なくとも15.000、さらにずっとより好ましくは少なくとも18.000、さらにずっとより好ましくは少なくとも20.000、さらにずっとより好ましくは少なくとも25.000、もっとも好ましくは少なくとも30.000である。1つの実施態様では、DRoverallは、60.000以下、好ましくは50.000以下、より好ましくは40.000以下(例えば、35.000以下など)である。
【0039】
本発明の方法においてそのように大きなDRoverallを用いることの利点は、いっそう高い引張強さを有するUHMWPEマルチフィラメント糸が得られることである。更なる利点は、前記糸を構成するフィラメントのdtexがさらに小さくなることである。
【0040】
本発明はさらに、0.5dtex以下であるフィラメントを含み、かつ引張強さが少なくとも3.5GPaであるUHMWPEマルチフィラメント糸に関する。
【0041】
フィラメントとは、本明細書では、細長い物体と理解される。すなわち、長さがその(規則的または不規則な横断面の)横断寸法よりもずっと長く、連続した長さ及び/または不連続の長さを有する物体と理解される。本明細書で使用される糸は、複数のフィラメントを含む。本発明による糸は、撚られた糸または編まれた糸であってよい。本発明との関連において糸は、ゲル紡糸の糸であると理解される。
【0042】
好ましくは、本発明のUHMWPE糸を構成するフィラメントは、0.45dtex以下、より好ましくは0.4dtex以下、さらにより好ましくは0.35dtex以下、さらにずっとより好ましくは0.3dtex以下、さらにずっとより好ましくは0.25dtex以下、さらにずっとより好ましくは0.2dtex以下、さらにずっとより好ましくは0.15dtex以下、もっとも好ましくは0.1dtex以下である。好ましくは、UHMWPEフィラメントは、少なくとも0.01dtex、より好ましくは少なくとも0.03dtex、さらにより好ましくは少なくとも0.06dtex、もっとも好ましくは少なくとも0.09dtexである。本発明の方法では、大きなDRfluid及び/またはDRsolidを選択することにより、前記フィラメントのdtexに達することができる。
【0043】
本発明のUHMWPE糸の引張強さは、好ましくは少なくとも3.7GPa、より好ましくは少なくとも4.0GPa、さらにより好ましくは少なくとも4.3GPa、さらにずっとより好ましくは少なくとも4.5GPa、さらにずっとより好ましくは少なくとも5.0GPa、さらにずっとより好ましくは少なくとも5.5GPa、もっとも好ましくは少なくとも6GPaである。開示されている範囲の引張強さは、例えば、DRoverallを増大させることによって得ることができる。
【0044】
好ましくは、本発明のUHMWPE糸の引張モジュラスは、少なくとも100GPa、より好ましくは少なくとも130GPa、さらにより好ましくは少なくとも160GPa、もっとも好ましくは少なくとも190GPaである。
【0045】
同数のUHMWPEフィラメントを含む周知のUHMWPE糸と比べた場合の本発明のUHMWPE糸の利点は、横断寸法が小さく、かつ機械的性質または機械的性質の組み合わせ(例えば、引張強さ及び/または弾性モジュラスなど)が向上していることから生じる。
【0046】
驚くべきことに、本発明のUHMWPE糸は、半完成物品よび最終用途物品で使用される場合に有利であることが見出された。本発明のUHMWPE糸を含む前記物品(特に、布帛)は、驚くべきことに、吸音性が増大する。どんな理論にも縛られることはないが、本発明者らは、前記糸を形成する超低dtexフィラメントにより、音響エネルギーを吸収するのに必要な最適な通気性を生じさせる効果的な空気マイクロチャネル(air micro−channels)構造が作り出されると考えている。空気マイクロチャネルが存在することに由来する更なる利点は、前記物品により熱絶縁性の向上がさらにもたらされることである。
【0047】
それゆえに本発明はさらに、本発明のUHMWPE糸を含んでいる様々な半完成物品および最終用途物品に関する。
【0048】
特に本発明は、本発明の糸を含む布帛に関する。布帛は、糸から製造される周知の任意の構造体、例えば、織られた構造体、編まれた構造体、不織の構造体(例えば、フェルト)などであってよい。
【0049】
本発明はまた、本発明のUHMWPE糸を含む医療器具に関する。特に、薄くても高引張強さを有するケーブルが要求される医療用途にとって、本発明のUHMWPE糸は特に有利であることが分かった。好ましくは、医療器具は本発明のUHMWPE糸を含み、前記糸は、残留溶剤含量が800ppm未満の量であるフィラメントを含み、より好ましくは、前記量は、600ppm未満、さらにより好ましくは300ppm未満、もっとも好ましくは100ppm未満である。
【0050】
本発明は、さらに特に外科用修復製品(surgical repair product)、さらにとりわけ縫合糸および医療用ケーブル(本発明のUHMWPE糸を含む)に関する。本発明の縫合糸および医療用ケーブルは非常に優れた結節強さを有することが見出された。そうした器具は、機械的性質の残留率が向上することも見出された。またその柔軟性が改善され、それにより前記縫合糸およびそのケーブルの取扱適性が向上した。
【0051】
本発明はさらに、本発明のUHMWPE糸を含む人工血管に関する。そのような人工血管は、例えば、静脈または動脈の疾患部分または損傷部分の、交換、バイパスまたは補強のために使用される。本発明の人工血管は、その優れた引張強さに加えて、良好な酸素透過性、組織の内殖特性ならびに取り扱いの容易さがあることが見出された。好ましくは、本発明の人工血管は、編まれるかまたは織られた連続した本発明のUHMWPE糸でできている。
【0052】
本発明はさらに、本発明のUHMWPE糸を含むメッシュの形態の医療器具に関する。そのようなメッシュの利点は、周知のメッシュより薄いものを製造できることである。好ましくは、本発明のメッシュは、UHMWPE糸の交差する各点を連結し、かつ両方向における弾性をもたらす方法で編まれる。この構造体により、メッシュは、ほどけることなく任意の所望の形状またはサイズに切断することができ、さらに両方向弾性(bi−directional elastic property)があるので、物体内で生じる様々な応力に適応することができる。
【0053】
本発明による糸を有利に含みうる別のタイプの医療器具は、埋め込み式弁(心臓弁など)である。そのような弁の製造および構造体の例については、例えば、欧州特許出願公開第08014686.3号明細書(本願明細書に援用する)に記載されている。
【0054】
本発明はまた、本発明のUHMWPE糸を含むロープに関する。好ましくは、ロープの製造に用いる繊維の全重量の少なくとも50%が、本発明によるUHMWPE糸からなる。より好ましくは、ロープは、本発明のUHMWPE糸を少なくとも75重量%、さらにより好ましくは少なくとも90重量%、もっとも好ましくは、ロープは本発明のUHMWPE糸を100重量%含む。本発明によるロープ中の残りの糸の重量パーセントは、フィラメントを作るのに適した他の材料でできたフィラメントを含む糸を含むことができ、その材料には、例えば、金属、ナイロン、ポリエステル、アラミド、他のタイプのポリオレフィンなど、またはそれらの組み合わせのようなものがある。本発明のロープの利点は、少ない重量でも知られているロープと同じ引張強さをもたらすことである。
【0055】
本発明はまた、本発明によるUHMWPE糸を含む複合物品に関する。
【0056】
好ましい実施態様では、複合物品は、本発明のUHMWPE糸を含んでいる少なくとも1つの単一層を含む。単一層という用語は、糸を1つの面に含んでいる、糸またはストランドの層を指す。単一層は、好ましくは一方向の単一層、すなわち一方向配向の糸(すなわち、基本的に並行に配列されている1平面内の糸)を含む単一層を指す。本発明の糸を用いてそのような単一層を得ることの利点は、通常のUHMWPE糸を含む周知の単一層より薄い単一層が得られることである。
【0057】
別の好ましい実施態様では、複合物品は、複数の一方向単一層を含む多層複合物品であり、各単一層の繊維の方向は、好ましくは隣接単一層の繊維の方向に対して一定の角度でずれている。好ましくは、その角度は少なくとも30°、より好ましくは少なくとも45°、さらにより好ましくは少なくとも75°であり、もっとも好ましくは、角度は約90°である。
【0058】
複合物品、特に多層複合物品は、衝撃用途において、例えば、防弾チョッキ、ヘルメット、硬質および柔軟な遮蔽パネル、挿入用パネル(panels for inserts)または乗り物の外装などに非常に有用であることが分かった。それゆえに、本発明はまた、本発明のUHMWPE糸を含んでいる上に列挙したもののような耐衝撃性物品に関する。
【0059】
本発明の好ましい実施態様では、複合物品は、UHMWPE糸を結合して一緒にするためのマトリックス材(接着剤または樹脂など)を基本的に含まない。この実施態様では、結合が起こるのに十分な温度で、かつ十分な時間の間、糸及び/または層を圧縮することによって、糸を結合する。そのような結合は、UHMWPE繊維の少なくとも部分的な溶融が関係するであろう。
【0060】
上述のように性質の組み合わせが独特である本発明のUHMWPE糸は、他の用途に、例えば、釣糸や漁網、接地網、カーゴネット(cargo nets)やカーテン、凧糸、デンタルフロス、テニスラケットの弦、粗布(例えば、テントの粗布)、帯ひも、電池セパレーター、コンデンサー、圧力容器、ホース、自動車用品、動力伝達ベルト(power transmission belts)、建築材料、刺切抵抗性(cut and stab resistant)および切断抵抗性(incision resistant)および摩耗抵抗性の物品、保護手袋、複合スポーツ用具(スキー板、ヘルメット、カヤック、カヌー、自転車ならびに艇体やボートスパーなど)、スピーカーコーン、高性能電気絶縁、レードームなどに用いるのに適していることも観察された。それゆえに、本発明はまた、本発明のUHMWPE糸を含んでいる上に列挙した用途に関する。
【0061】
本発明を以下の実施例および比較実験によってさらに説明することにする。
【0062】
方法:
IV: 固有粘度は、デカリン中135℃でPTC‐179の方法(Hercules Inc.Rev.Apr.29,1982)に従って測定する。溶解時間は16時間であり、DBPCを酸化防止剤として2g/リットル(溶液)の量だけ用い、種々の濃度で測定された粘度を濃度ゼロに外挿する。
【0063】
Dtex: フィラメントのdtexは、100メートルのフィラメントを計量して測定した。フィラメントのdtexは、ミリグラム単位の重量を10で割って計算した。
【0064】
引張特性:
・引張強さ(または強さ)および引張モジュラス(またはモジュラス)は、ASTM D885Mで規定されているように定義し、室温(すなわち、約20℃)において、マルチフィラメント糸でそれに規定されているように測定する。繊維の公称標点距離(nominal gauge length)は500mm、クロスヘッド速度は50%/分であり、Instron 2714クランプ(「Fibre Grip D5618C」タイプのもの)で行う。モジュラスは、測定された応力−歪曲線に基づいて、0.3から1%の歪の間の傾きとして求める。モジュラスおよび強さを計算するために、測定した引張力を、10メートルの糸を計量して求められる繊度(titre)で割る。値(GPa単位)は密度を0.97g/cmと仮定して計算する。
【0065】
側鎖: UHMWPE試料中の側鎖の数は、厚さ2mmの圧縮成形フィルムでFTIRによって求め、1375cmにおける吸収量を測り、NMR測定値に基づく検量線を使用する(例えば、欧州特許出願公開第0269151号明細書の場合のように)。
【0066】
[比較例]
9重量%UHMWPEホモポリマーのデカリン溶液を作った。UHMWPEは、1000個の炭素原子当たり1個未満の側基を有し、IVが15.2dl/gであった。
【0067】
歯車ポンプを備えた25mm二軸スクリュー押出機を使用した。UHMWPE溶液を、180℃の温度において、64個の紡糸孔を有する紡糸口金板(spinplate)に通して、穴部当たり1.5g/分の速度で、窒素雰囲気中に紡ぐように出した。
【0068】
紡糸孔は、直径が3mmで長さ/直径が20である最初の円筒チャネル、その後に、テーパ角度が60°である円錐形の収縮ゾーン(これの最後の部分は、直径が1mmで長さ/直径が10である円筒チャネルとなっている)を有していた。したがってDRsp=9(3/1)である。
【0069】
水槽に入るフィラメント対して垂直である流水量が約70リットル/時であり、かつ約30℃に維持された水槽に、流体フィラメントを入れた。27mmのエアギャップ中で流体フィラメントに対して延伸比DRagが約42となるような割合で流体フィラメントは巻き取られた。合計流体延伸比DRfluidは約378であった。ゲルフィラメントは延伸比DRgelが1.1となるようにし、その後で溶剤を除去して、UHMWPE溶液中の溶剤の最初の量の約1重量%の溶剤含量を有する固体フィラメントを形成した。
【0070】
その後に、ゲルフィラメントを135℃のオーブンに入れ、そこで溶剤蒸発を行い、その中で4の延伸比DRsolid 1で延伸した。その後に、固体フィラメントを第2オーブンに入れ、153℃の温度において5の延伸比DRsolid 2で延伸した。
【0071】
合計延伸比DRoverall(=DRfluid × DRgel × DRsolid 1 × DRsolid 2)は7560に達した。上に詳述した工程パラメーターを、得られた糸の性質と共に表1に要約する。
【0072】
[実施例1〜7]
表1に示した変化値を用いて、比較実験を繰り返した。報告されていないパラメーターは、比較実験で報告したパラメーターと同じ値に維持した。
【0073】
【表1】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
超低dtexフィラメントを含む高引張強さのUHMWPE糸をゲル紡糸するための方法であって、
a)溶剤中にUHMWPEを含む溶液を調製するステップと;
b)ステップa)の前記溶液を紡糸口金に通してエアギャップ中に紡ぐようにして出して流体フィラメントを形成するステップであって、前記紡糸口金が複数の紡糸孔を含み、直径が漸減している少なくとも1つのゾーンをそれぞれの紡糸孔が含み、前記溶液が前記エアギャップに出される前記紡糸孔の下流部直径が0.1から1.5mmの間である、ステップと;
c)DRfluid=DRsp × DRagの流体延伸比で前記流体フィラメントを延伸するステップであって、DRspおよびDRagがそれぞれ前記紡糸孔および前記エアギャップでの延伸比である、ステップと;
d)前記流体フィラメントを冷却して溶剤含有ゲルフィラメントを形成するステップと;
e)少なくとも4の延伸比DRsolidで前記固体フィラメントを延伸する前、その間またはその後に、残っている溶剤を前記ゲルフィラメントから少なくとも一部除去して固体フィラメントを形成するステップと
を含み、DRagが少なくとも30であるという条件において、前記流体フィラメントを少なくとも450の流体延伸比DRfluidで延伸することを特徴とする方法。
【請求項2】
DRspが5から20の間であり、DRagが少なくとも450のDRfluidを生ずるように選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
DRfluidが少なくとも500である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
DRoverall=DRfluid×DRgel×DRsolidが少なくとも9000である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
0.5dtex以下のフィラメントを含み、引張強さが少なくとも3.5GPaであるUHMWPEマルチフィラメント糸。
【請求項6】
モジュラスが少なくとも100GPaである、請求項5に記載の糸。
【請求項7】
請求項5〜6のいずれか一項に記載の糸を含む布帛。
【請求項8】
請求項5〜6のいずれか一項に記載の糸を含む、医療用の縫合糸、ケーブル、埋め込み式弁、人工血管またはメッシュ。
【請求項9】
請求項5〜6のいずれか一項に記載の糸を含む、複合物品。
【請求項10】
請求項5〜6のいずれか一項に記載の糸を含む、耐衝撃性物品。

【公表番号】特表2011−506787(P2011−506787A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−537334(P2010−537334)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【国際出願番号】PCT/EP2008/010748
【国際公開番号】WO2009/077168
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(503220392)ディーエスエム アイピー アセッツ ビー.ブイ. (873)
【Fターム(参考)】