説明

VDAC機能調節剤

【課題】 電位依存性陰イオンチャネル(voltage-dependent anion channel;VDAC)結合作用又はVDAC機能調節作用を有する新規な薬剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 式[I]:
【化1】


又は、式[II]:
【化2】


で示される化合物を有効成分として含有するVDAC結合剤又はVDAC機能調節剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電位依存性陰イオンチャネル(voltage-dependent anion channel;以下、「VDAC」と称する)結合作用及び機能調節作用を有する化合物を有効成分とするVDAC結合剤及び機能調節剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミトコンドリアは、エネルギー産生における重要な細胞小器官であるばかりでなく、細胞死の制御に重要な役割を果たしていると認識されている。生理学的又は病態生理学的細胞死は、ミトコンドリアの構造変化及び機能不全と密接に関係している。ミトコンドリアの膜透過化は、アポトーシス及びネクローシスを含むいずれの様式の細胞死においても一般的に見られる特徴である。
【0003】
VDACは、ミトコンドリア外膜において最も多量に存在するタンパク質であり、およそ5kDaのカットオフの特異性の低い分子篩として機能する。VDACの開孔は制御されたプロセスであり、ミトコンドリアにおける分子の輸送においてある程度の特異性を呈する。例えば、アポトーシスにおいては、Bcl-2ファミリーのタンパク質がVDACに結合し、当該チャネルを開孔させ、ミトコンドリア膜電位を調節すると同時にチトクロームCを放出することが知られている。
【0004】
VDACには、少なくとも3つのアイソフォーム(VDAC1、VDAC2及びVDAC3)が存在する。しかしながら、それらの生理学的機能は十分には解明されていない(非特許文献1及び2)。
【0005】
VDACはミトコンドリアの膜透過化に関与し、細胞死の制御に関係しているので、細胞死が関与する多様な疾患(例えば、神経変性疾患、虚血性疾患等)への関与が示唆されている(非特許文献3)。また、アルツハイマー病の進行によりVDACの機能が障害を受けることが知られている(非特許文献4及び5)。さらに、ダウン症やアルツハイマー病の患者の死後の脳においてVDACタンパク質の量が正常値に比べて変化していることが報告されている(非特許文献6)。
【0006】
また、VDAC-1は固形癌に多く発現することが報告されている。さらに、Erastinという化合物がVDAC-2及びVDAC-3を阻害して癌細胞の細胞死を誘導することが報告されている。VDACを新たな抗癌剤のターゲットとすることも提案されている(非特許文献7〜9)。
【0007】
一方、特許文献1は、アミノアルコール誘導体を有効成分とするVDAC機能阻害剤を開示する。特許文献2には、VDAC調節剤が開示されている。特許文献3には、VDACに結合し、パーメアビリティートランジションポア(permeability transition pore:PTP)を阻害する化合物が開示されている。非特許文献10には、パラコートがVDACに結合することが報告されている。
【0008】
特許文献4及び非特許文献11には、Cathepsin阻害作用を有する化合物を開示し、当該化合物はヒトの癌細胞でアポトーシスを誘導することが知られている。しかしながら、これら文献は、当該化合物がVDAC結合作用又はVDAC機能調節作用を有することについて開示も示唆もなされていない。
【0009】
非特許文献12には、細胞死(ネクローシス)を誘導する化合物が開示されている。しかしながら、非特許文献12には、当該化合物がVDAC結合作用又はVDAC機能調節作用を有することについて開示も示唆もなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002-338469号公報
【特許文献2】特開2003-335676号公報
【特許文献3】特許第4279718号公報
【特許文献4】国際公開第01/74376号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Kim R.ら, 「Journal of Pathology」, 2006年, 第208巻, 第3号, pp. 319-326
【非特許文献2】Kroemer G.ら, 「Physiol. Rev.」, 2007年, 第87巻, 第1号, pp. 99-163
【非特許文献3】Mattson M.P.及びKroemer G., 「TRENDS in Molecular Medicine」, 2003年, 第9巻, 第5号, pp. 196-205
【非特許文献4】Ferrer I., 「Journal of Bioenergetics and Biomembranes」, 2009年, 第41巻, 第5号, pp. 425-431
【非特許文献5】Ramirez C.M.ら, 「Molecular and Cellular Neuroscience」, 2009年, 第42巻, 第3号, pp. 172-183
【非特許文献6】Yoo B.C.ら, 「Electrophoresis」, 2001年, 第22巻, 第1号, pp. 172-179
【非特許文献7】Simamura E.ら, 「Cancer Biol. Ther.」, 2006年, 第5巻, 第11号, pp. 1523-1529
【非特許文献8】Yagoda N.ら, 「Nature」, 2007年, 第447巻, 第7146号, pp. 864-868
【非特許文献9】Simamura E.ら, 「J. Bioenerg. Biomembr.」, 2008年, 第40巻, 第3号, pp. 213-217
【非特許文献10】Shimada H.ら, 「Journal of Biological Chemistry」, 2009年, 第284巻, 第42号, pp. 28642-28649
【非特許文献11】Zhu D.M.及びUckun, F.M., 「Clin. Cancer Res.」, 2000年, 第6巻, 第5号, pp. 2064-2069
【非特許文献12】佐藤 伸一ら, 「日本薬学会第129年会講演要旨集」, 2009年2月2日, 発表番号26G-pm08, 第2分冊58頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、VDACは、ミトコンドリアの膜透過化に関与し、また細胞死の制御に関係することで、細胞死が関与する疾患等への関与が示唆されている。従って、VDACに結合するか又はVDAC機能を調節することができる化合物によれば、VDACが関与する疾患(VDAC関連疾患)を治療することができる。
【0013】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、VDAC結合作用又はVDAC機能調節作用を有する新規な薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定の化合物がVDAC結合作用又はVDAC機能調節作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の式[I]:
【化1】

又は、式[II]:
【化2】

(式[I]及び[II]において、
R1は置換又は非置換のナフチル又はフェニルであり、
R2は置換又は非置換のフェニルであり、
*が付された炭素は不斉炭素を表し、D又はL配置のいずれかである)
で示される化合物自体、又は当該化合物を有効成分として含有する、VDAC結合剤、VDAC機能調節剤、VDAC関連疾患治療剤、ミトコンドリア内でのエネルギー産生調節剤、糖脂質代謝調節剤、細胞死誘導剤及び研究用試薬である。
【0016】
VDAC関連疾患としては、癌、神経変性疾患、虚血性疾患、腎炎、代謝性疾患、ウイルス疾患、脊髄異形成疾患、肝疾患、関節疾患、耳疾患等が挙げられる。さらに、癌としては、白血病、胃癌、肺癌、乳癌、子宮癌、食道癌、大腸癌、網膜芽細胞腫、脳腫瘍、神経膠腫、口腔癌、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌、腎臓癌等が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、VDAC関連疾患の治療や予防に有効な薬剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】HL-60細胞に対する本発明に係る化合物の細胞死活性を示すグラフである。
【図2】HEK-293T細胞におけるVDAC1又はVDAC2に対するsiRNA処理後の各タンパク質量を示すウエスタンブロッティングの写真である。
【図3】HEK-293T細胞におけるVDAC1又はVDAC2に対するsiRNA処理後にさらに本発明に係る化合物(NT-1)処理を行った場合の細胞死誘導率を示すグラフである。
【図4】実施例3の二次元電気泳動後のゲルにおけるVDAC1及びVDAC2の位置を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
前記式[I]及び[II]においてR1で表されるナフチル(1-ナフチル若しくは2-ナフチル)又はフェニル、あるいはR2で表されるフェニルは、置換されていても、置換されていなくともよい。置換されている場合には、置換基としては、例えばC1-10-アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基等)、好ましくはC1-4-アルキル基;C1-6-アルコキシ基又はC3-6-シクロアルキルオキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロプロピルオキシ基、シクロブチルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等);及びハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)が挙げられる。R1で表されるナフチルが置換基を複数(例えば、2、3、4、5、6及び7個)有する場合には、当該置換基は、同一であっても異なるものであってもよい。また、R1又はR2で表されるフェニルが置換基を複数(例えば、2、3、4及び5個)有する場合には、当該置換基は、同一であっても異なるものであってもよい。
【0021】
例えば、前記式[I]で示される化合物であるN-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-ベンゾイルオキシ-グリシンアミド(以下、「NT-1」又は「NT-1(1)」と称する場合がある)は、以下の方法により製造することができる。
スキーム1:
【0022】
【化3】

【0023】
第一工程の反応は、不活性ガス雰囲気下、ジクロロメタン溶媒中、化合物(I)を化合物(II)とピリジン存在下で反応することにより実施することができる。不活性ガスとしては、アルゴンガスや窒素ガスが用いられる。この際の反応温度は室温であり、反応時間は2時間である。
【0024】
第二工程の反応は、パラジウム担持活性炭存在下、メタノール溶媒中、水素圧9.8×104〜4.9×105Pa下で実施することができる。反応温度は室温であり、反応時間は通常1時間である。反応終了後、セライトろ過によりパラジウム担持活性炭を除去し、また溶媒を減圧条件下で除去し、直ちに第三工程に移る。
【0025】
第三工程の反応は、不活性ガス雰囲気下、ジクロロメタン溶媒中、化合物(V)を化合物(VI)と、N-ヒドロキシスクシンイミド、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド塩酸塩及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン存在下で反応することにより実施することができる。不活性ガスとしてはアルゴンガスや窒素ガスが用いられる。この際の反応温度は室温であり、反応時間は1.5時間である。
【0026】
第四工程の反応は、ジメチルホルムアミド溶媒中で化合物(VII)とピペリジンとを室温で1時間撹拌することで得られる化合物と化合物(III)とを、不活性ガス存在下でテトラヒドロフラン溶媒中、4-ジメチルアミノピリジン及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン存在下で反応させることで実施できる。不活性ガスとしては、アルゴンガスや窒素ガスが用いられる。この際の反応温度は室温であり、反応時間は6時間である。
【0027】
第五工程の反応は、メタノール溶媒中で化合物(VIII)とDL-カンファースルホン酸を室温で2時間撹拌することで得られる化合物とベンゾイルクロライドとを、不活性ガス存在下でテトラヒドロフラン溶媒中、ピリジン存在下で反応させることで実施できる。不活性ガスとしては、アルゴンガスや窒素ガスが用いられる。この際の反応温度は室温であり、反応時間は30分〜2時間である。
【0028】
NT-1(1)以外の式[I]で示される化合物は、上記NT-1(1)の合成スキーム1に準じて製造することができる。NT-1(1)以外の式[I]で示される化合物としては、例えば以下のものが挙げられる:
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(2-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(2-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(2-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(2-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(4-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(4-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(4-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(4-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(4-tert-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(4-tert-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(4-tert-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(4-tert-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[2-(アントラセン-9-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド。
【0029】
一方、例えば、前記式[II]で示される化合物であるN-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-ベンゾイルオキシ-グリシンアミド(以下、「NT-2」又は「NT-2(2)」と称する場合がある)は、以下の方法により製造することができる。
スキーム2:
【0030】
【化4】

【0031】
第六工程の反応は、化合物(IX)と2,4-ジメチルピロールとをジクロロメタン溶媒中で加熱還流し、1.5時間反応させることにより中間体を得て、当該中間体をトルエン:ジクロロメタン混合溶媒中で三フッ化ホウ素-ジエチルエーテルとトリエチルアミン存在下で反応させることで実施できる。この際の反応温度は50℃であり、反応時間は1時間である。
【0032】
第七工程の反応は、ジメチルホルムアミド溶媒中で、化合物(X)と酢酸ナトリウムとを反応させることにより実施できる。この際の反応温度は50℃であり、反応時間は30時間である。
【0033】
第八工程の反応は、テトラヒドロフラン:メタノール:水の混合溶媒中で化合物(XI)を塩基性条件下で加水分解することにより中間体を得て、当該中間体と4-ニトロフェニルクロロホルメートとをジクロロメタン溶媒中、ピリジン存在下で反応させることにより実施できる。加水分解の際の塩基は水酸化リチウムを用い、反応温度は室温であり、反応時間は15分である。続く縮合反応の際の反応温度は室温であり、反応時間は30分である。
【0034】
第九及び十工程の反応は、それぞれ上記第四及び五工程と同様の手法で実施できる。
【0035】
NT-2(2)以外の式[II]で示される化合物は、上記NT-2(2)の合成スキーム2に準じて製造することができる。NT-2(2)以外の式[II]で示される化合物としては、例えば以下のものが挙げられる:
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(2-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(2-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(2-ナフチル)-L-アラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(2-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-D-フェニルアラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(4-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(4-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(4-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(4-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(4-tert-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-フルオロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(4-tert-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-クロロベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(4-tert-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(4-メトキシベンゾイルオキシ)-グリシンアミド;
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(4-tert-ブトキシフェニル)-L-アラニル-N'-(2,4,6-トリメチルベンゾイルオキシ)-グリシンアミド。
【0036】
以下、前記式[I]若しくは式[II]で示される化合物(以下、「本発明に係る化合物」と称する)の投与量及び製剤化について説明する。
【0037】
本発明に係る化合物は、そのまま、あるいは慣用の製剤担体と共に動物及びヒトに投与することができる。投与形態としては、特に限定がなく、必要に応じ適宜選択され、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤が挙げられる。
【0038】
経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で本発明に係る化合物の重量として0.1〜10000mg、好ましくは1〜1000mgを、1日1回又は数回に分けての服用が適当である。
【0039】
経口剤は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。
【0040】
この種の製剤には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0041】
結合剤としては、例えばデンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0042】
崩壊剤としては、例えばデンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
【0043】
界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80等が挙げられる。
【0044】
滑沢剤としては、例えばタルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0045】
流動性促進剤としては、例えば軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。
【0046】
また、本発明に係る化合物は、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【0047】
非経口剤として所期の効果を発揮するためには、患者の年令、体重、疾患の程度により異なるが、通常成人で本発明に係る化合物の重量として1日0.01〜1000mg、好ましくは0.1〜100mgの静注、点滴静注、皮下注射、筋肉注射が適当である。
【0048】
この非経口剤は常法に従って製造され、希釈剤として一般に注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、オリーブ油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等を用いることができる。更に必要に応じて、殺菌剤、防腐剤、安定剤等を加えてもよい。また、この非経口剤は安定性の点から、バイアル等に充填後冷凍し、通常の凍結乾燥技術により水分を除去し、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。更に、必要に応じて適宜、等張化剤、安定剤、防腐剤、無痛化剤等を加えてもよい。
【0049】
その他の非経口剤としては、パップ剤、外用液剤、軟膏等の塗布剤、直腸内投与のための坐剤等が挙げられ、常法に従って製造される。
【0050】
一方、本発明に係る化合物を有効成分として含有する薬剤は、例えばVDAC結合剤、VDAC機能調節剤、VDAC関連疾患治療剤、ミトコンドリア内でのエネルギー産生調節剤、糖脂質代謝調節剤、細胞死誘導剤及び研究用試薬として使用することができる。
【0051】
VDAC結合剤としては、本発明に係る化合物がVDAC(例えば、VDAC1及びVDAC2)に結合することから、VDAC画分の精製、新たなVDAC結合剤又は機能調節剤のスクリーニング、VDACのイメージング等に使用することができる。本発明に係る化合物のVDAC結合作用の評価は、例えば以下のように行うことができる。先ず、VDAC産生細胞を蛍光色素又は放射性同位元素で標識した本発明に係る化合物と接触させた後、ミトコンドリア画分を単離し、当該画分を二次元電気泳動に供する。電気泳動後、本発明に係る化合物に標識した蛍光色素又は放射性同位元素に基づきゲル上のスポットを切り出し、当該スポット中のタンパク質を同定する。同定したタンパク質がVDACである場合に、本発明に係る化合物がVDACに結合すると判断することができる。
【0052】
VDAC機能とは、ミトコンドリア内のエネルギー産生、糖脂質代謝、アポトーシス及びネクローシスを含めた細胞死の制御、細胞内Caホメオスタシス等に関わる溶質の輸送、ヘキソキナーゼやBax等の因子との相互作用等を意味する。従って、VDAC機能調節とは、ミトコンドリア内のエネルギー産生の促進又は阻害、糖脂質代謝の促進又は阻害、アポトーシス及びネクローシスを含めた細胞死の促進又は阻害、細胞内Caホメオスタシス等に関わる溶質の輸送の促進又は阻害、ヘキソキナーゼやBax等の因子との相互作用の促進又は阻害等を意味する。VDAC機能調節剤は、ミトコンドリア機能調節剤、糖脂質代謝調節剤、細胞死誘導剤又は抑制剤等として使用することができる。本発明に係る化合物のVDAC機能調節作用の評価は、例えば、ミトコンドリア膜電位を消失又は低下させる機能や、チトクロームC等を放出させる機能を測定するにより行うことができる。例えば、in vitro又はin vivoでミトコンドリア膜電位を消失させるか、又はチトクロームCの放出を抑制する場合に、本発明に係る化合物は、VDAC機能調節作用を有すると判断することができる。
【0053】
また、VDAC関連疾患とは、VDACが関与する疾患を意味し、例えば、癌、神経変性疾患、虚血性疾患、腎炎、代謝性疾患、ウイルス疾患、脊髄異形成疾患、肝疾患、関節疾患、耳疾患等が挙げられる。さらに、癌としては、例えばヒト前骨髄性白血病、ヒト慢性骨髄性白血病等の白血病、胃癌、肺癌、乳癌、子宮癌、食道癌、大腸癌、網膜芽細胞腫、脳腫瘍、神経膠腫、口腔癌、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌、腎臓癌等が挙げられる。VDAC関連疾患治療剤としては、このようなVDAC関連疾患を患うか又は当該疾患のリスクを有する患者に投与することで、VDAC関連疾患を予防又は治療することができる。なお、VDAC関連疾患治療剤が癌を対象とする場合には、当該VDAC関連疾患治療剤は抗癌剤とすることができる。本発明に係る化合物のVDAC関連疾患に対する薬理評価は、例えばVDAC関連疾患細胞やVDAC関連疾患モデル動物を使用して評価することができる。例えば、VDAC関連疾患が癌である場合には、癌細胞を本発明に係る化合物に接触させる。本発明に係る化合物に接触させていない細胞と比較して有意に当該細胞が死滅した場合には、本発明に係る化合物が抗癌作用を有すると判断することができる。
【0054】
さらに、ミトコンドリア内でのエネルギー産生調節とは、脂肪酸のβ酸化や、電子伝達系による酸化的リン酸化の促進又は阻害を意味する。従って、ミトコンドリア内でのエネルギー産生調節剤としては、脂肪酸のβ酸化や、電子伝達系による酸化的リン酸化の機能異常に伴う各種疾患あるいは症状に使用することができる。本発明に係る化合物のミトコンドリア内でのエネルギー産生調節作用の評価は、例えば、ATPの生成や二酸化炭素の生成等の測定により行うことができる。in vitro又はin vivoでATPの生成又は二酸化炭素の生成の変化が観察される場合に、本発明に係る化合物は、ミトコンドリア内でのエネルギー産生調節作用を有すると判断することができる。
【0055】
糖脂質代謝調節とは、解糖、糖新生、脂肪酸酸化、脂肪酸合成の各代謝経路の活性化又は抑制を意味する。従って、糖脂質代謝調節剤としては、肥満症又は2型糖尿病等の治療薬に使用することができる。本発明に係る化合物の糖脂質代謝調節作用の評価は、例えば、熱産生、二酸化炭素の生成等の測定により行うことができる。in vitro又はin vivoで熱産生、二酸化炭素の生成等に対して影響が観察される場合に、本発明に係る化合物は、糖脂質代謝調節作用を有すると判断することができる。
【0056】
細胞死誘導剤としては、生体の細胞死に係る恒常性が異常な状態、例えば癌、悪性腫瘍等の治療剤に使用することができる。ここで、細胞死は、ネクローシス、アポトーシス及びオートファジー等を含むいずれの細胞死も含む。本発明に係る化合物の細胞死誘導作用の評価は、上述の癌細胞における抗癌作用の評価に準じて行うことができる。
【0057】
研究用試薬としては、本発明に係る化合物がVADC結合作用又はVDAC機能調節作用を有することから、例えばVDACの医学生理学的研究を推進するために使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
〔製造例1〕NT-1(本発明に係る式[I]で示される化合物)の製造
(1) 2-(アントラセン-9-イル)エチル4-ニトロフェニルカルボネート
【化5】

【0060】
4-ニトロフェニルクロロホルメート(500mg, 2.25mmol)をアルゴン下で無水ジクロロメタン(15mL)に溶解し、室温で撹拌し、そこに2-(アントラセン-9-イル)エタノール(655mg, 3.24mmol)とピリジン(181μL, 2.25mmol)を加え2時間撹拌した。
【0061】
撹拌後、反応液に水を加えて分液し、水層はジクロロメタンにて2回抽出した。有機層は合わせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した後、減圧下に溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:6)に供し、精製することで、表題化合物(789mg, 91%)を得た。
【0062】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.44 (s, 1H), 8.32 (d, J = 7.9 Hz, 2H), 8.26 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 8.04 (d, J = 7.9 Hz, 2H), 7.58-7.55 (m, 2H), 7.49 (t, J = 7.9 Hz, 2H), 7.30 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 4.67 (t, J = 7.9 Hz, 2H), 4.13 (t, J = 7.9 Hz, 2H)。
【0063】
MS (FAB) 387 (M)
【0064】
(2) N-[(9H-フルオレン-9-イル)メトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2-テトラヒドロピラニル)オキシ-グリシンアミド
【化6】

【0065】
N-(ベンジルオキシカルボニル)-N'-(2-テトラヒドロピラニル)オキシ-グリシンアミド(458mg, 1.49mmol)をメタノール(10mL)に溶解し、10%パラジウム担持活性炭(45mg)を加え、水素ガス下1気圧及び室温で1時間撹拌した。
【0066】
次いで、10%パラジウム担持活性炭をセライトろ過により除去し、溶媒を減圧留去した。得られた化合物をクロロホルム(10mL)に溶解した。当該溶液にアルゴン雰囲気下、N-[(9H-フルオレン-9-イル)メトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニン(500mg, 1.14mmol)、N-ヒドロキシスクシンイミド(155mg, 1.14mmol)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(263mg, 1.37mmol)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(389μL, 2.28mmol)を加え、室温で1時間30分撹拌した。
【0067】
撹拌後、反応溶液を、0.5N塩酸を用いて酸性にし、ジクロロメタン抽出に供した。抽出層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥し、減圧下に溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=2:1→酢酸エチル100%)に供し、精製することで、表題化合物(341mg, 2 steps 50%)を得た。
【0068】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 11.04 (m, 1H), 8.34 (m, 1H), 8.20 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.90 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.86 (d, J = 7.3 Hz, 2H), 7.77 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 7.63-7.46 (m, 5H), 7.42-7.28 (m, 4H), 7.24 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 4.83 (s, 1H), 4.41 (m, 1H), 4.10-4.06 (m, 3H), 3.92 (m, 1H), 3.76-3.66 (m, 2H), 3.60 (m, 1H), 3.50 (m, 1H), 3.17 (m, 1H), 1.71-1.61 (m, 3H), 1.55-1.46 (m, 3H)。
【0069】
MS (MALDI) 616 (M+Na), 632 (M+K)
【0070】
(3) N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2-テトラヒドロピラニル)オキシ-グリシンアミド
【化7】

【0071】
N-[(9H-フルオレン-9-イル)メトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2-テトラヒドロピラニル)オキシ-グリシンアミド(40mg, 0.0675mmol)をジメチルホルムアミド(0.4mL)に溶解し、ピペリジン(8.0μL, 0.0810mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。
【0072】
撹拌後、反応溶液にテトラヒドロフラン(1.2mL)を加え、そこに2-(アントラセン-9-イル)エチル4-ニトロフェニルカルバメート(26.1mg, 0.0675mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(8.23mg, 0.0675mmol)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(11.5μL, 0.0675mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で、6時間撹拌した。
【0073】
撹拌後、反応溶液を、0.5規定塩酸を用いて酸性にし、酢酸エチルにて抽出した。水層を酢酸エチルにてさらに2回抽出した。有機層は合わせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した後、減圧下に溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=3:1)に供し、精製することで、表題化合物(27.1mg, 2 steps 65%)を得た。
【0074】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 11.02 (m, 1H), 8.50 (m, 1H), 8.36 (m, 1H), 8.27-8.18 (m, 3H), 8.08-8.04 (m, 3H), 7.90 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.77 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.60-7.39 (m, 8H), 4.82 (m, 1H), 4.46 (m, 1H), 4.17-4.09 (m, 2H), 3.93 (m, 1H), 3.78-3.68 (m, 3H), 3.60 (m, 1H), 3.47 (m, 1H), 3.30 (m, 1H), 3.17 (dd, J = 14.0, 11.0 Hz, 1H), 1.67-1.58 (m, 3H), 1.53-1.42 (m, 3H)。
【0075】
MS (MALDI) 642 (M+Na), 658 (M+K)
【0076】
(4) N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-ベンゾイルオキシ-グリシンアミド (NT-1)
【0077】
【化8】

【0078】
N-[2-(アントラセン-9-イル)エトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2-テトラヒドロピラニル)オキシ-グリシンアミド(25.6mg, 0.0414mmol)をメタノール:ジクロロメタン(1.2mL:0.5 mL)に溶解し、DL-カンファースルホン酸(9.6mg, 0.0414mmol)を加え、室温で2時間撹拌した。
【0079】
撹拌後、減圧条件下で溶媒を除去し、得られた溶液をテトラヒドロフラン(2mL)に溶解した。
【0080】
次いで、反応溶液にベンゾイルクロライド(5.8μL, 0.0496mmol)とピリジン(6.7μL, 0.0828mmol)を加え、アルゴン雰囲気下0℃で1時間、さらに室温で30分撹拌した。
【0081】
撹拌後、反応溶液を減圧濃縮し、再結晶(メタノール:ジクロロメタン)に供し、精製することで、表題化合物(7.3mg, 2 steps 28%)を得た。
【0082】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 12.07 (s, 1H), 8.53 (m, 1H), 8.50 (s, 1H), 8.26-8.21 (m, 3H), 8.08-7.97 (m, 4H), 7.90 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.79-7.70 (m, 2H), 7.61-7.37 (m, 11H), 4.51 (m, 1H), 4.16-4.08 (m, 2H), 3.94-3.89 (m, 2H), 3.81-3.61 (m, 3H), 3.18 (dd, J = 13.6, 11.0 Hz, 1H)。
【0083】
MS (MALDI) 662 (M+Na), 678 (M+K)
【0084】
〔製造例2〕NT-2(本発明に係る式[II]で示される化合物)の製造
(1) 1-ブロモ-3-(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロパン
【0085】
【化9】

【0086】
4-ブロモブタノイルクロライド(975mg, 5.30mmol)をジクロロメタン(18mL)に溶解し、2,4-ジメチルピロール(1.0g, 10.5mmol)を加え、加熱還流条件下で1.5時間撹拌した。
【0087】
撹拌後、減圧条件下で溶媒を除去した後、得られた中間体をトルエン:ジクロロメタン(20mL:2mL)の混合溶媒に溶解した。さらに、トリエチルアミン(1.48g, 21.1mmol)を加え、室温で10分撹拌した後、フッ化ホウ素-ジエチルエーテル(3.0g, 30.5mmol)を加え、50℃で1時間撹拌した。
【0088】
撹拌後、反応溶液を、0.5規定塩酸を用いて酸性にし、酢酸エチル抽出に供した。酢酸エチル抽出層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥し、減圧下に溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:8→1:5)に供し、精製することで、表題化合物(597mg, 2 steps 31%)を得た。
【0089】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.06 (s, 2H), 3.48 (t, J = 6.4 Hz, 2H), 3.08-3.02 (m, 2H), 2.52 (s, 6H), 2.43 (s, 6H), 2.02-1.94 (m, 2H)。
【0090】
(2) 3-(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロピルアセテート
【0091】
【化10】

【0092】
1-ブロモ-3-(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロパン(590mg, 1.60mmol)をジメチルホルムアミド(6mL)に溶解し、酢酸ナトリウム(1.05g, 12.8mmol)を加え、50℃で30時間撹拌した。
【0093】
撹拌後、反応液に水を加えて分液し、水層は酢酸エチルにて2回抽出した。有機層は合わせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した後、減圧下に溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)に供し、精製することで、表題化合物(453mg, 81%)を得た。
【0094】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 6.07 (s, 2H), 4.11 (t, J = 6.3 Hz, 2H), 3.07-3.03 (m, 2H), 2.52 (s, 6H), 2.44 (s, 6H), 2.06 (s, 3H), 2.02-1.96 (m, 2H)。
【0095】
(3) 3-(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロピル4-ニトロフェニルカルボネート
【0096】
【化11】

【0097】
3-(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロピルアセテート(233mg, 0.670mmol)を水酸化リチウム・一水和物のテトラヒドロフラン:メタノール:水混合溶媒(0.33g/3.3mL:3.3mL:3.3mL)に溶解し、室温で15分撹拌した。
【0098】
撹拌後、反応溶液を、2規定塩酸を用いて酸性にし、酢酸エチル抽出に供し、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥し、減圧下に溶媒を留去することで中間体を得た。得られた中間体をジクロロメタン(5mL)に溶解し、4-ニトロフェニルクロロホルメート(134mg, 0.663mmol)及びピリジン(48.8μL, 0.469mmol)を加え、室温で30分撹拌した。反応液に水を加えて分液し、水層は酢酸エチルにて2回抽出した。有機層は合わせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した後、減圧下に溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1→ジクロロメタン:メタノール=10:1)に供し、精製することで、表題化合物(236mg, 2 steps 76%)を得た。
【0099】
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 8.28 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 7.36 (d, J = 9.2 Hz, 2H), 6.06 (s, 2H), 4.41 (t, J = 6.1Hz, 2H), 3.15-3.07 (m, 2H), 2.50 (s, 6H), 2.44 (s, 6H), 2.13-2.02 (m, 2H)。
【0100】
(4) N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2-テトラヒドロピラニル)オキシ-グリシンアミド
【0101】
【化12】

【0102】
N-[(9H-フルオレン-9-イル)メトキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2-テトラヒドロピラニル)オキシ-グリシンアミド(50mg, 0.0843mmol)をジメチルホルムアミド(0.4mL)に溶解し、ピペリジン(8.0μL, 0.0810mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。
【0103】
撹拌後、反応溶液にテトラヒドロフラン(1.8mL)を加え、そこに3-(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロピル4-ニトロフェニルカルボネート(130mg, 0.276mmol)、4-ジメチルアミノピリジン(10.0mg, 0.0820mmol)及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン(14.0μL, 0.0822mmol)を加え、アルゴン雰囲気下室温で6時間撹拌した。
【0104】
撹拌後、反応溶液を、0.5規定塩酸を用いて酸性にし、酢酸エチル抽出に供した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥し、減圧下に溶媒を留去した。残渣を分取薄層クロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=2:3)に供し、精製することで、表題化合物(40.3mg, 2 steps 68%)を得た。
【0105】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 11.04 (m, 1H), 8.34 (m, 1H), 8.19 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.85 (d, J = 8.3 Hz, 1H), 7.71 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.54 (m, 1H), 7.49-7.42 (m, 3H), 7.35 (m, 1H), 6.19 (s, 2H), 4.82 (m, 1H), 4.42 (m, 1H), 3.99 (m, 1H), 3.95-3.88 (m, 2H), 3.71-3.64 (m, 2H), 3.58-3.48 (m, 2H), 3.15 (m, 1H), 2.87-2.81 (m, 2H), 2.39 (s, 6H), 2.26 (s, 6H), 1.68-1.59 (m, 5H), 1.54-1.46 (m, 3H)。
【0106】
MS (MALDI) 726 (M+Na), 742(M+K)
【0107】
(5) N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-ベンゾイルオキシ-グリシンアミド (NT-2)
【0108】
【化13】

【0109】
N-[(4,4-ジフルオロ-1,3,5,7-テトラメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-シンダセン-8-イル)プロポキシカルボニル]-3-(1-ナフチル)-L-アラニル-N'-(2-テトラヒドロピラニル)オキシ-グリシンアミド(38.0mg, 0.0541mmol)をメタノール:ジクロロメタン(1.5mL:0.5mL)に溶解し、DL-カンファースルホン酸(12.5mg, 0.0539mmol)を加え、室温で45分撹拌した。
【0110】
撹拌後、減圧条件下で溶媒を除去し、得られた溶液をテトラヒドロフラン(2mL)に溶解した。さらに、ベンゾイルクロライド(7.6μL, 0.0650mmol)とピリジン(8.7μL, 0.108mmol)を加え、アルゴン雰囲気下0℃で30分、さらに室温で30分撹拌した。
【0111】
撹拌後、反応液に水を加えて分液し、水層は酢酸エチルにて2回抽出した。有機層は合わせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した後、減圧下に溶媒を留去した。残渣を分取薄層クロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=1:1)に供し、精製することで、表題化合物(22.0mg, 2 steps 56%)を得た。
【0112】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 12.20 (s, 1H), 8.51 (m, 1H), 8.21 (d, J = 8.8 Hz, 1H), 8.03-8.00 (m, 2H), 7.93 (d, J = 8.1Hz, 1H), 7.85 (d, J = 8.1 Hz, 1H), 7.76-7.69 (m, 2H), 7.62-7.43 (m, 5H), 7.35 (m, 1H), 6.18 (s, 2H), 4.46 (m, 1H), 4.01 (m, 1H), 3.94-3.88 (m, 2H), 3.62 (m, 1H), 3.59 (dd, J = 13.6, 3.4 Hz, 1H), 3.17 (dd, J = 13.4, 10.2 Hz, 1H), 2.88-2.81 (m, 2H), 2.39 (s, 6H), 2.25 (s, 6H), 1.67-1.59 (m, 2H)。
【0113】
MS (MALDI) 746 (M+Na), 762(M+K)
【0114】
〔実施例1〕本発明に係る化合物(NT-1及びNT-2)の細胞死誘導作用
細胞死活性の評価については、5〜10%牛胎児血清を含むRPMI1640培地又はDMEM培地中で、各種癌細胞種(具体例として、HL-60細胞(ヒト前骨髄性白血病由来)、K562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病由来)、HT-1080細胞(ヒト線維肉腫由来)、HEK-293T細胞(ヒト胎児肝臓由来)、VA-13細胞(ヒト繊維芽細胞)等)に対して4〜6時間の化合物処理後、LDH試験又はAlamar Blue試験により実施できる。
【0115】
(1) LDH試験(上記具体例に示す各種細胞種に対して有効):
細胞を4×105〜1×106cells/mLの濃度でまき、接着系細胞種(HT-1080細胞、HEK-293T細胞又はVA-13細胞)に対しては一晩37℃の5%CO2インキュベーターで放置する(浮遊系細胞種(HL-60細胞又はK562細胞)に対してはそのまま試験を行うことができる)。
【0116】
次いで、試験化合物のDMSO溶液を200倍希釈で加え、4〜6時間、37℃の5%CO2インキュベーターで放置する。インキュベーション後、細胞生存率をLDH assay Kit(Roche社, Cytotoxity Detection KitPLUS (LDH))を用いて製品のプロトコルに準じた手法により算出する。
【0117】
(2) Alamar Blue試験(HL-60細胞又はK562細胞に対して有効):
4×105cells/mL濃度の100μL/wellの量で細胞を96穴プレートにまき、37℃の5%CO2インキュベーターで1時間放置する。試験化合物のDMSO溶液を200倍希釈で加え4〜6時間、37℃の5%CO2インキュベーターで放置した後、Alamar Blue(Biosource社)を10μL/well加える。
【0118】
次いで、マイクロプレートリーダー(Molecular Devices社、Spectra Max Gemini XS)でベースラインを蛍光測定(励起波長:560nm、放射波長:590nm)し、3時間、37℃の5%CO2インキュベーターでさらに放置する。その後、マイクロプレートリーダーで蛍光測定(励起波長:560nm、放射波長:590nm)し、ベースラインを差し引いた値から細胞生存率を算出する。
【0119】
本実施例では、HL-60細胞及びAlamar Blue試験を使用し、所定の濃度のNT-1及びNT-2による細胞死活性を検討した。
【0120】
EC50(50%有効濃度)の算出は、HL-60細胞に対してNT-1又はNT-2を4時間処理した後、Alamar Blue試験に基づいて行った。
【0121】
結果を表1及び図1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
表1及び図1に示すように、本発明に係る化合物(NT-1及びNT-2)はHL-60細胞に対して強力な細胞死誘導作用を示した。
【0124】
〔実施例2〕本発明に係る化合物(NT-1)の細胞死誘導作用に対するVDAC1又はVDAC2のsiRNA(small interfering RNA)の効果
10%牛胎児血清を含むDMEM培地中で5×104cells/mL濃度のHEK-293T細胞を6mLまき、一晩、37℃の5%CO2インキュベーターで一晩放置した。
【0125】
次の日、トランスフェクション試薬(Poche社, X-tremeGENE Transfection Reagent)15μLを血清使用低減培地(invitrogen社、Opti-MEM)285μLに加え、2、3回ピペッティングし、室温で5分放置した。その間に、siRNA試薬(invitrogen社、Stealth RNAi Negative Control Kit及びStealth RNAi VDAC1,2の受注プライマー)20pmol/μL溶液12μLを血清使用低減培地(invitrogen社、Opti-MEM)288μLに加え、2、3回ピペッティングした。
【0126】
次いで、これら2つの溶液を混ぜ、室温で20分放置した。上述の前日にまいておいたHEK-293T細胞の培養液に当該混合物を加え、一晩放置した。
【0127】
次の日、培地を新しいもの(10%牛胎児血清を含むDMEM培地)に交換し、さらに一晩放置した。
【0128】
次の日、各試薬で処理した細胞をTripsin-EDTA溶液(invitrogen社, 0.25%Tripsin-EDTA)で剥し、96穴プレートに1×106cells/mL濃度でまいたものと6穴プレートに2×106cells/mL濃度でまいたものを用意した。
【0129】
さらに次の日、6穴プレートに関しては、細胞を回収した後、lysisバッファーで細胞溶解物を回収し、SDS-PAGEに供した。SDS-PAGE後、PVDF膜をウエスタンブロッティングによる転写に供し、各抗体(VDAC1:CALBIOCHEM社, Anti-Porin 31HL (Ab-2) Mouse mAb、VDAC2:abcam社, Goat polyclonal to VDAC2、tubulin:SIGMA社, Monoclonal Anti-a-tubulin clone DM 1a Mouse Ascites Fluid)で処理し、各タンパク質の定量を行った。
【0130】
一方、96穴プレートに関しては、実施例1に記載の細胞死評価のプロトコルに準じて、NT-1を3.5時間処理した後、LDHアッセイにより細胞死誘導率を算出した。
【0131】
結果を図2及び3並びに表2〜6に示す。
【0132】
図2は、HEK-293T細胞におけるVDAC1又はVDAC2に対するsiRNA処理後の各タンパク質量を示すウエスタンブロッティングの写真である。図3は、HEK-293T細胞におけるVDAC1又はVDAC2に対するsiRNA処理後にさらに本発明に係る化合物(NT-1)処理を行った場合の細胞死誘導率を示すグラフである。
【0133】
なお、図2及び3並びに表2〜6において、各siRNAは以下の通りである:
「siRNA control-1」:invitrogen社製 StealthTMRNAi Negative Control Low (Cat.No. 12935-200)
「siRNA control-2」:invitrogen社製 StealthTMRNAi Negative Control Medium (Cat.No. 12935-300)
「siVDAC1-1」:gacaatacactaggcaccgagatta(配列番号1)
「siVDAC1-2」:ggactgaagctgaccttcgattcat(配列番号2)
「siVDAC2-1」:tcaacgtccggttcatctaatacag(配列番号3)
「siVDAC2-2」:tctgggaacagaaatcgcaattgaa(配列番号4)
(配列番号1〜4の塩基配列は、各siRNAをコードするDNAである)
【0134】
【表2】

【0135】
【表3】

【0136】
【表4】

【0137】
【表5】

【0138】
【表6】

【0139】
図2及び3並びに表2〜6に示すように、「siRNA control-2」との比較から、本発明に係る化合物(NT-1)の細胞死誘導効果はVDAC1又はVDAC2のsiRNAにより減弱した。すなわち、本発明に係る化合物の細胞死誘導作用は、VDAC1又はVDAC2を介したものであることが示された。
【0140】
〔実施例3〕本発明に係る化合物(NT-2)結合タンパク質の同定
200mLの5%胎児血清を含むRPMI1640培地中で培養されたHL-60細胞(1.1×106cells/mL)に、NT-2を1000倍希釈で10μMの濃度になるように加え、37℃の5%CO2インキュベーターで1時間放置した。
【0141】
インキュベーション後、細胞を1500rpmで5分間遠心分離に供することで回収し、これをもう一度繰り返すことで濃縮し、細胞を50mLの遠心チューブに移した。
【0142】
次いで、細胞を2mLのミトコンドリア単離バッファー(210mM mannitol、70 mM sucrose、1mM EGTA、0.5%BSA及び5mM Hepes-KOH(pH 7.2))に希釈した。そこに5%digitoninのDMSO溶液を2μL加え、1分間ピペッティングし、さらに4mLのミトコンドリア単離バッファーを加え、×3000gで5分間遠心分離に供し、上清を捨てた。
【0143】
得られたペレットを、1M PMSF(DMSO溶液)2μL、50 mM Leupeptin(水溶液)2μL及び25mg/mL aprotinin(水溶液)2μLを含む2mLのミトコンドリア単離バッファーに懸濁し、ホモジェナイザーを用いて細胞膜を破壊した。
【0144】
次いで、懸濁液を×630gで5分間遠心分離に供し、上清を回収する操作を2回繰り返した後、得られた上清を×10000gで20分間遠心分離に供することで、ペレットを回収した。
【0145】
得られたペレットを、BSAを取り除いたミトコンドリア単離バッファー4mLに懸濁し、再び×10000gで20分間遠心分離に供することでペレットを回収した。さらに回収したペレットを、BSAを取り除いたミトコンドリア単離バッファー200μLに懸濁し、これをミトコンドリア画分(総タンパク量1.7mg/mL×200μL)とした。
【0146】
得られたミトコンドリア画分の3分の1を、2-D cleanup Kit(BIO-RAD社, Ready Prep 2-D cleanup Kit)を用いて、製品のプロトコルに準じた手法により精製し、2-Dサンプルバッファー(8M urea、50mM DTT、2%CHAPS及び0.2%キャリアアンフォライト)125μLに溶解した。
【0147】
得られた溶液を、IPGストリップゲル(BIO-RAD社、7cm IPG ReadyStrip pH 3-10)に14時間かけて膨潤させ、250Vで1時間泳動し、次いで1時間かけて4000Vまで電圧を上げて、さらに4000Vで2.5時間泳動させた。
【0148】
一次元目の泳動後のIPGストリップゲルを還元バッファー(6M urea、2%SDS、0.375M Tris-HCl(pH 8.8)及び2%DTT)に浸し、室温で20分振盪した。
【0149】
次いで、IPGストリップゲルをアルキル化バッファー(6M urea、2%SDS、0.375M Tris-HCl (pH 8.8)及び2.5%ヨードアセトアミド)に浸し、10分振盪した。
【0150】
振盪後、IPGストリップゲルを2次元目の電気泳動ゲル(BIO-RAD社、レディーゲルJ, 10-20%2D)にセットし、ローメルトアガロース(0.5%ローメルトアガロース及び0.001%BPB)でゲル間を接着させた。次いで、ゲルを150Vで1時間電気泳動した後、ゲルを蛍光イメージャー(BIO-RAD社, Pharos FX Molecular Imager)(励起波長:488nm、放射波長:530nm)で、NT-2の蛍光をイメージングした。図4は、二次元電気泳動後のゲルにおけるVDAC1及びVDAC2の位置を示す写真である。
【0151】
その後、ゲルをCBB stain Kit(benebiosis社, SeePico CBB stain Kit)で染色し、目的のスポットを切り出した。切り出した各スポットを1.5mLの遠心チューブに入れ、500μLのMilli Q水を加え、軽くボルテックスミキサーで撹拌した後、37℃で10分インキュベートし、上清を捨てた。この操作を3回繰り返し、ゲルを洗浄した。
【0152】
洗浄後、ゲルに100 μLの50mM NH4HCO3/50%CH3CN溶液を加え、37℃で10分インキュベートした後、上清を捨て、CBBを脱色した。さらに、CH3CN 50μLを加え、37℃で10分インキュベートし、脱水処理を行い、濃縮遠心機にて乾固した。
【0153】
次いで、氷上でゲルに10ng/μL Trypsin溶液を20μL加え、溶液がゲルに浸透するまで15分氷上で放置した後、軽く遠心し、37℃で一晩インキュベートした。
【0154】
インキュベーション後、ゲルに50%CH3CN/1%TFA溶液を50μL加え、37℃で10分インキュベートし、抽出液を回収した(これ以降の抽出液は、全て一つの遠心チューブに回収した)。再び、ゲルに50%CH3CN/1%TFA溶液を50μL加え、37℃で10分インキュベートし、抽出液を回収した。さらに、ゲルに80%CH3CNを50μL加え、37℃で2分インキュベートし、抽出液を回収した。
【0155】
このようにして集めた抽出液を濃縮遠心機で濃縮・乾固し、これをLC-MS/MSサンプルとした。
【0156】
ESI-MS(Applied Biosystems, ESI-Q-TOF MS QSTAR ELITE)によりLC-MS/MS解析を行い、得られたデータを質量分析タンパク質同定システム(MASCOT)でタンパク質シーケンスのデータベースにおけるサーチを行い、タンパク質の同定を行った。
【0157】
その結果、NT-2はVDAC1及びVDAC2に結合することが示された。
【0158】
以上に示したように、NT-1及びNT-2は癌細胞において強力な細胞死誘導作用を示した(実施例1)。当該細胞死誘導作用はVDAC1又はVDAC2のsiRNAにより阻害されたことから、NT-1及びNT-2の細胞死誘導作用は、VDAC1又はVDAC2を介したものであることが示された(実施例2)。また、NT-2を用いた実験から、NT-2はVDAC1及びVDAC2に結合することが示された(実施例3)。以上の結果から、NT-1及びNT-2はVDAC1及びVDAC2に結合し、その機能を変化させることにより癌細胞の細胞死を誘導していることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式[I]:
【化1】

又は、式[II]:
【化2】

(式[I]及び[II]において、
R1は置換又は非置換のナフチル又はフェニルであり、
R2は置換又は非置換のフェニルであり、
*が付された炭素は不斉炭素を表し、D又はL配置のいずれかである)
で示される化合物を有効成分として含有する電位依存性陰イオンチャネル結合剤。
【請求項2】
式[I]:
【化3】

又は、式[II]:
【化4】

(式[I]及び[II]において、
R1は置換又は非置換のナフチル又はフェニルであり、
R2は置換又は非置換のフェニルであり、
*が付された炭素は不斉炭素を表し、D又はL配置のいずれかである)
で示される化合物を有効成分として含有する電位依存性陰イオンチャネル機能調節剤。
【請求項3】
式[I]:
【化5】

又は、式[II]:
【化6】

(式[I]及び[II]において、
R1は置換又は非置換のナフチル又はフェニルであり、
R2は置換又は非置換のフェニルであり、
*が付された炭素は不斉炭素を表し、D又はL配置のいずれかである)
で示される化合物を有効成分として含有する電位依存性陰イオンチャネル関連疾患治療剤。
【請求項4】
電位依存性陰イオンチャネル関連疾患が、癌、神経変性疾患、虚血性疾患、腎炎、代謝性疾患、ウイルス疾患、脊髄異形成疾患、肝疾患、関節疾患及び耳疾患から成る群より選択される、請求項3記載の電位依存性陰イオンチャネル関連疾患治療剤。
【請求項5】
癌が、白血病、胃癌、肺癌、乳癌、子宮癌、食道癌、大腸癌、網膜芽細胞腫、脳腫瘍、神経膠腫、口腔癌、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、喉頭癌及び腎臓癌から成る群より選択される、請求項4記載の電位依存性陰イオンチャネル関連疾患治療剤。
【請求項6】
式[I]:
【化7】

又は、式[II]:
【化8】

(式[I]及び[II]において、
R1は置換又は非置換のナフチル又はフェニルであり、
R2は置換又は非置換のフェニルであり、
*が付された炭素は不斉炭素を表し、D又はL配置のいずれかである)
で示される化合物を有効成分として含有するミトコンドリア内でのエネルギー産生調節剤。
【請求項7】
式[I]:
【化9】

又は、式[II]:
【化10】

(式[I]及び[II]において、
R1は置換又は非置換のナフチル又はフェニルであり、
R2は置換又は非置換のフェニルであり、
*が付された炭素は不斉炭素を表し、D又はL配置のいずれかである)
で示される化合物を有効成分として含有する糖脂質代謝調節剤。
【請求項8】
式[I]:
【化11】

又は、式[II]:
【化12】

(式[I]及び[II]において、
R1は置換又は非置換のナフチル又はフェニルであり、
R2は置換又は非置換のフェニルであり、
*が付された炭素は不斉炭素を表し、D又はL配置のいずれかである)
で示される化合物を有効成分として含有する細胞死誘導剤。
【請求項9】
式[I]:
【化13】

又は、式[II]:
【化14】

(式[I]及び[II]において、
R1は置換又は非置換のナフチル又はフェニルであり、
R2は置換又は非置換のフェニルであり、
*が付された炭素は不斉炭素を表し、D又はL配置のいずれかである)
で示される化合物を有効成分として含有する研究用試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−178713(P2011−178713A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44093(P2010−44093)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】