説明

VEGF−Aレセプター相互作用を阻害する結合タンパク質

本発明は、VEGF−Aに対して特異的な結合タンパク質、特に、VEGFR−2へのVEGF−Axxxの結合を阻害する、結合ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質に関する。このような結合タンパク質の例は、所望の結合特異性を有するアンキリン反復ドメインを含むタンパク質である。これらの結合タンパク質は、癌および他の病理学的状態、例えば加齢黄班変性などの眼疾患、の処置において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、VEGF−Aに対して特異的なリコンビナント結合タンパク質、およびこのようなVEGF−A結合タンパク質をコードする核酸、このようにタンパク質を含む薬学的組成物および腫瘍および眼疾患の処置におけるこのようなタンパク質の使用に関する。
【0002】
発明の背景
血管新生(angiogenesis)、即ち、既存の脈管系(vasculature)からの新しい血管の成長は、腫瘍増殖および眼疾患、特に眼の新生血管形成(neovascularization)疾患、例えば加齢黄班変性(AMD)または糖尿病黄班浮腫(DME)を含むいくつかの病理学的状態における重要なプロセスである(Carmeliet, P., Nature 438, 932-936, 2005)。血管内皮細胞増殖因子(VEGFs)は、内皮細胞におけるVEGFレセプター(VEGFR)チロシンキナーゼを活性化することにより、血管新生およびリンパ脈管新生(lymphangiogenesis)を刺激する(Ferrara, N., Gerber, H. P. and LeCouter, J., Nature Med. 9, 669-676, 2003)。
【0003】
哺乳動物VEGFファミリーは、VEGF−A、VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D(FIGFとしても知られている)および胎盤成長因子(PlGF、PGFとしても知られている)と呼ばれる5つの糖タンパク質からなる。VEGF−Aは、抗脈管形成治療のための有効なターゲットであることが示された(Ellis, L. M. and Hicklin, D. J., Nature Rev. Cancer 8, 579-591, 2008)。VEGF−Aリガンドは、VEGFR−1(FLT1としても知られている)、VEGFR−2(KDRとしても知られている)およびVEGFR−3(FLT4としても知られている)と命名された3つの構造的に類似したIII型レセプターチロシンキナーゼに結合しそしてそれらを活性化する。VEGFリガンドは、これらのチロシンキナーゼレセプターの各々に対する特有の結合特異性を有しており、これがそれらの機能の多様性に寄与する。リガンド結合に応答して、VEGFRチロシンキナーゼは、異なる下流シグナリング経路のネットワークを活性化する。VEGFR−1およびVEGFR−2は主として血管内皮に見いだされ、これに対してVEGFR−3は、主としてリンパ管内皮に見いだされる。これらのレセプターは、すべて、細胞外ドメイン、1つの膜貫通領域およびキナーゼインサートドメインにより中断されたコンセンサスチロシンキナーゼ配列を有する。更に最近では、当初は神経ガイダンスメディエーターのセマフォリン/コラプシンファミリーのためのレセプターとして同定されたニューロピリン(NRP−1)が、VEGF−Aに対する特異的レセプターアイソフォームとして作用することが示された。
【0004】
VEGF−A遺伝子内の8つのエキソンからの選択的スプライシングにより発生するVEGF−Aの種々のアイソフォームが知られている。すべてのアイソフォームがエキソン1〜5および末端エキソン、エキソン8を含有する。ヘパリン結合ドメインをコードするエキソン6および7は、含まれていることもありまたは除外されていることもある。これは、そのアミノ酸数にしたがって命名されるタンパク質のファミリー:VEGF−A165、VEGF−A121、VEGF−A189などを生じさせる。しかしながら、エキソン8は、ヌクレオチド配列における2つの3’スプライス部位を含有しており、これは、細胞により使用されて、同じ長さを有するが異なるC末端アミノ酸配列を有するアイソフォームの2つのファミリーを発生させることができる。(Varey, A.H.R. et al., British J. Cancer 98, 1366-1379, 2008)。VEGF−Axxx(xxxは成熟タンパク質のアミノ酸数を示す)、アイソフォームのプロ脈管形成性(pro-angiogenic)ファミリーは、エキソン8における最も近位の配列の使用により発生させられる(エキソン8aを含むことになる)。より最近に記載された抗脈管形成性VEGF−Axxxbアイソフォームは、近位スプライス部位から遺伝子に沿って66bp遠くにある遠位スプライス部位の使用により発生させられる。これは、エキソン8aのスプライシングアウトおよびVEGF−AxxxbファミリーをコードするmRNA配列の産生をもたらす。VEGF−A165は、主要なプロ脈管形成性アイソフォームでありそして普通は種々のヒト固形腫瘍において過剰発現される。VEGF−A165bは、同定されたエキソン8bコード化アイソフォームの第1のものでありそして抗脈管形成効果を有することが示された(Varey et al., loc. cit.; Konopatskaya, O. et al., Molecular Vision 12, 626-632, 2006)。それはVEGF−Aの内因性阻害形態であり、これはVEGF−Aで誘導される増殖および内皮細胞の移動を減少させる。それはVEGFR−2に結合することができるけれども、VEGF−A165b結合はレセプターリン酸化または下流シグナリング経路の活性化をもたらさない。
【0005】
抗体によるリガンドまたはレセプターの中和、およびチロシンキナーゼ阻害剤によりVEGF−Aレセプター活性化およびシグナリングを妨害することを含む、VEGF−Aシグナリングを阻害するためのいくつかのアプローチがある。VEGF−Aターゲット化治療は、AMD、DME、腎臓細胞癌および肝臓細胞癌において単一の作用主体として有効であることが示されたが、これに対して、それは、転移性結腸直腸癌、非小細胞肺癌および転移性乳癌を有する患者では化学療法と組み合わせた場合のみ有利である(Narayanan, R. et al., Nat Rev. Drug Discov. 5, 815-816, 2005; Ellis and Hicklin, loc. cit)。
【0006】
抗体の外に、リガンドまたはレセプターを中和するために他の結合ドメインを使用することができる(Skerra, A., J. Mol. Recog. 13, 167-187, 2000; Binz, H. K., Amstutz, P. and Pluckthun, A., Nat. Biotechnol. 23, 1257-1268, 2005)。1つのこのような新規なクラスの結合ドメインは、デザインされた反復ドメインに基づいている(WO 02/20565; Binz, H. K., Amstutz, P., Kohl, A., Stumpp, M. T., Briand, C., Forrer, P., Grutter, M. G., and Pluckthun, A., Nat. Biotechnol. 22, 575-582, 2004)。WO 02/20565は、反復タンパク質のいかに大きなライブラリーが構築されうるかおよびそれらの一般的用途を記載している。それにもかかわらず、WO 02/20565は、VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する反復ドメインの選択も、VEGF−Axxxに特異的に結合する反復ドメインの具体的反復配列モチーフも開示していない。
【0007】
現在入手可能な治療によりVEGF−Aをターゲティングすることは、すべての患者においてまたはすべての疾患(例えばEGFRを発現している癌)において有効とは限らない。VEGF−Aをターゲティングした治療と関連した治療的利点は、複雑でありそしてたぶん多数の機構が関与することがこれまで次第に明らかになってきた(Ellis and Hicklin, loc. cit.)。例えば、市販の抗VEGF薬物、例えば、ベバシズマブ(Avastin(登録商標))もしくはラニビズマブ(Lucentis(登録商標))(WO 96/030046、WO 98/045331 および WO 98/045332参照)または臨床的開発における薬物、例えばVEGF−Trap(登録商標)((WO 00/075319)は、VEGF−Aのプロ脈管形成性形態および抗脈管形成性形態を区別しなく、それ故それらは両方を阻害する。結果として、それらは血管新生を阻害するが、必須の生存因子、即ちVEGF−Axxxbの健康な組織も剥奪し(deprive)、細胞毒性および用量制限性副作用をもたらし、これは効能を制限する。最近の抗VEGF−A治療に共通な副作用は、胃腸穿孔、出血、高血圧、血栓塞栓事象および蛋白尿である(Kamba, T. and McDonald, D.M., Br. J. Cancer 96, 1788-95, 2007)。したがって、癌および他の病理学的状態を処置するための改良された抗脈管形成剤に対する要求がある。
【0008】
本発明の基礎をなす技術的問題は、癌および他の病理学的状態、例えば眼疾患、例えばAMDまたはDMEの改良された処置のための、VEGF−Axxxへの結合特異性を有する反復ドメインなどの新規な抗脈管形成剤を同定することである。この技術的問題に対する解決は、特許請求の範囲に特徴付けられた態様を提供することにより達成される。
【0009】
発明の要約
本発明は、結合ドメインを含む結合タンパク質であって、該結合ドメインは、VEGFR−2へのVEGF−Axxx結合を阻害し、そして該結合ドメインは、熱的アンフォールディング時に40℃以上の変性中点温度(midpoint denaturation temperature)(Tm)を有しそしてPBS中で1日間37℃でインキュベーションされるとき10g/Lまでの濃度で5%(w/w)未満の不溶性凝集体を形成する、結合タンパク質に関する。更に詳しくは、本発明は、少なくとも1つの反復ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質であって、該反復ドメインは、10−7M以下のKdでVEGF−Axxxに結合しそしてVEGFR−2へのVEGFxxxの結合を阻害する、リコンビナント結合タンパク質に関する。特にこのような結合タンパク質は、10nM以下のIC50値でHUVECスフェロイドの新芽形成(sprouting)を阻害し、そしてこのような結合タンパク質は、VEGF−Axxxとの相互作用についてその解離定数Kdに比較して少なくとも10倍高いVEGF−Axxxbとの相互作用についての解離定数Kdを有する。
特に、本発明は、VEGF−Aに対する特異性を有する結合ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質であって、該結合ドメインが、反復ドメイン、例えば、アンキリン反復ドメイン、特にアンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPLHLAA56GHLEIVEVLLK7GADVNA(配列番号1)
(式中、、6およびは、互いに独立に、A、D、E、F、H、I、K、L、M、N、Q、R、S、T、V、WおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含むアンキリン反復ドメインである、VEGF−Aに対する特異性を有する結合ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質に関する。
【0010】
本発明は、VEGF−Aに対する結合特異性を有する反復ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質であって、該反復ドメインが本発明のアンキリン反復ドメインと少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有するかまたは本発明のアンキリン反復モジュールと少なくとも70%のアミノ酸配列同一性を有する反復モジュールを含むか、あるいはアンキリン反復モジュールのアミノ酸残基の1つ以上がアンキリン反復単位のアライメントにおける対応する位置において見出されるアミノ酸残基により交換されている、リコンビナント結合タンパク質に関する。
【0011】
本発明は、更に、1つ以上の追加の部分、例えば、VEGFR−2もしくは異なるターゲットにも結合する部分、標識化部分、タンパク質精製を促進する部分または改良された薬物動態学を与える部分、例えばポリエチレングリコール部分、に結合した本発明のリコンビナント結合タンパク質を含む結合タンパク質に関する。ある態様においては、追加の部分はタンパク質性部分である。ある他の態様においては、追加の部分は非タンパク質性ポリマー部分である。
【0012】
本発明は、更に、本発明のリコンビナント結合タンパク質をコードする核酸分子、および前記した結合タンパク質または核酸分子の1種以上を含む薬学的組成物に関する。
【0013】
本発明は、更に、本発明の結合タンパク質を使用する、癌および他の病理学的状態、例えばAMDもしくはDMEなどの眼疾患の処置の方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】選択されたデザインされたアンキリン反復タンパク質の特異的イヌVEGF−A164結合。イヌVEGF−A164(VEGF)およびネガティブコントロールタンパク質(MBP、E. coli、マルトース結合タンパク質)との選択されたクローンの相互作用を、粗抽出物ELISAにより示す。ビオチニル化イヌVEGF−A164およびMBPをニュートラアビジン上に固定化した。数は、イヌVEGF−A164または対応するヒトVEGF−A165に対するリボソームディスプレーにおいて選択された一つのDARPinクローンを示す。A=吸光度。白バーは、イヌVEGF−A164への結合を示し、黒バーは、MBPへの非特異的バックグラウンド結合を示す。
【図2】選択されたDARPinによるスフェロイドアウトグロース阻害。スフェロイドアウトグロース阻害アッセイにおける新芽の長さは、種々の濃度の(a)DARPin#30(配列番号29)、VEGF−Axxxに対する特異性を有するDARPin、または(b)DARPin NC、VEGF−Axxxに対する特異性を持たないネガティブコントロールDARPin、の存在下に示される。
【図3】VEGF−Aアイソフォームの特異的認識。VEGF−Aアイソフォームに対する結合タンパク質の表面プラズモン共鳴(SPR)分析。(a)および(b):Avastin(登録商標)のSPR分析。Avastin(登録商標)250nMを固定化されたイヌVEGF−A164(a)またはイヌVEGF−A164b(b)を有するフローセルに100秒間適用し、次いでバッファー流で洗浄した。(c)および(d):DARPin#27(配列番号16)のSPR分析。DARPin#27、250nMを、固定化されたイヌVEGF−A164(c)またはイヌVEGF−A164b(d)を有するフローセルに100秒間適用し、次いでバッファー流で洗浄した。RU=共鳴単位。
【図4】ウサキ眼におけるヒトVEGF−A165の効果的阻害。Lucentis(登録商標)と比較して眼におけるヒトVEGF−A165を阻害することにおいてDARPinの効能を示すための血管漏出ウサギモデル。1日目に、PBS、DARPin#30またはLucentis(登録商標)を各ウサギの1つの眼への硝子体内注射により適用する(処理された眼)。4日目または30日目に、各ウサギの両眼は、500ngのヒトVEGF−A165の硝子体内注射によりチャレンジされた。フルオレセインナトリウムの静脈内注射の1時間後にすべての眼の硝子体および網膜におけるフルオレセイン含有率を測定することにより、すべての眼を、VEGF−A165注射の48時間後に評価した。R=処理された眼/処理されていない眼のフルオレセイン測定値の比。標準偏差はエラーバーにより示される。4−PBS=PBS(コントロール)の注射の4日後の比;4−D=DARPin#30の注射4日後の比;30−D=DARPin#30の注射の30日後の比;4−L=Lucentis(登録商標)の注射の4日後の比;30−L=Lucentis(登録商標)の注射の30日後の比。
【0015】
発明の詳細な説明
哺乳動物VEGF−Aは、選択的スプライシングされたアイソフォームの2つのファミリー:(i)エキソン8の近位スプライシングにより発生させたプロ脈管形成性「VEGF−Axxx」アイソフォームおよび(ii)エキソン8の遠位スプライシングにより発生させた抗脈管形成性「VEGF−Axxxb」として存在する。好ましくは、本発明に従う結合ドメインは、イヌ、ウサギ、サルまたはヒト起源のプロ脈管形成性VEGF−Axxxに対して特異的である。更に好ましくは、本発明に従う結合ドメインは、ヒト起源のプロ脈管形成性VEGF−Axxxに対して特異的である。最も好ましくは、本発明に従う結合ドメインはヒトVEGF−A165に対して特異的である。
【0016】
用語「タンパク質」は、ポリペプチドの少なくとも一部が、そのポリペプチド鎖(1つまたは複数)内でおよび/またはそのポリペプチド鎖間で二次、三次または四次構造を形成することにより明確に定められた三次元配置を有するかまたは該三次元配置を獲得することができる、ポリペプチドを指す。もしタンパク質が2つ以上のポリペプチドを含むならば、個々のポリペプチド鎖は、非共有結合によりまたは共有結合により、例えば2つのポリペプチド間のジスルフィド結合により、結合されうる。二次または三次構造を形成することにより、明確に定められた三次元配置を個々に有するかまたは該三次元配置を獲得することができるタンパク質の一部は、「タンパク質ドメイン」と呼ばれる。このようなタンパク質ドメインは、当業者には周知である。
【0017】
リコンビナントタンパク質、リコンビナントタンパク質ドメイン等において使用された用語「リコンビナント」は、前記ポリペプチドが、当業者により周知のリコンビナントDNA技術の使用により産生されることを意味する。例えば、ポリペプチドをコードするリコンビナントDNA分子(例えば遺伝子合成により産生された)をバクテリア発現プラスミド(例えば、pQE30、Qiagen)にクローニングすることができる。このような構築されたリコンビナント発現プラスミドがバクテリア(例えば、E.coli)に挿入されるとき、このバクテリアは、このリコンビナントDNAによりコードされたポリペプチドを産生することができる。対応して産生されたポリペプチドはリコンビナントポリペプチドと呼ばれる。
【0018】
用語「ポリペプチドタグ」は、ポリペプチド/タンパク質に結合したアミノ酸配列であって、該ポリペプチド/タンパク質の精製、検出またはターゲティングのために有用であるかまたは該ポリペプチド/タンパク質の物理化学的挙動を改良するかまたはエフェクター機能を有する、アミノ酸配列を指す。結合タンパク質の個々のポリペプチドタグ、部分および/またはドメインは、直接またはポリペプチドリンカーを介して互いに連結されうる。これらのポリペプチドタグは、すべて当技術分野で周知でありそして当業者に完全に入手可能である。ポリペプチドタグの例は、小ポリペプチド配列、例えば、Hisタグ、mycタグ、FLAGタグまたはStrepタグまたは、例えば、前記ポリペプチド/タンパク質の検出を可能とする酵素(例えば、アルカリホスファターゼなどの酵素)などの部分、またはターゲティングのために使用されうるか(例えば免疫グロブリンまたはそのフラグメント)および/またはエフェクター分子として使用されうる部分である。
【0019】
用語「ポリペプチドリンカー」は、例えば、2つのタンパク質ドメイン、ポリペプチドタグとタンパク質ドメイン、タンパク質ドメインと非ポリペプチド部分、例えばポリエチレングリコール、または2つの配列タグを連結することができるアミノ酸配列を指す。このような追加のドメイン、タグ、非ポリペプチド部分およびリンカーは、当業者に知られている。例のリストは、特許出願 WO 02/20565の説明で与えられている。このようなリンカーの特定の例は、可変長のグリシン−セリンリンカーであり、該リンカーは2〜16アミノ酸の長さを有する。
【0020】
本発明に関して、用語「ポリペプチド」は、ペプチド結合により連結された多数の、即ち、2個以上のアミノ酸の1つ以上の鎖からなる分子に関する。好ましくは、ポリペプチドは、ペプチド結合により連結された8個より多くのアミノ酸からなる。
【0021】
用語「結合タンパク質」は、更に下記した1つ以上の結合ドメインを含むタンパク質を指す。好ましくは、該結合タンパク質は、4つまでの結合ドメインを含む。更に好ましくは、該結合タンパク質は、2つまでの結合ドメインを含む、最も好ましくは、該結合タンパク質は1つのみの結合ドメインを含む。更に、任意のこのような結合タンパク質は、結合ドメインではない追加のタンパク質ドメイン、マルチマー化部分、ポリペプチドタグ、ポリペプチドリンカーおよび/または非タンパク質性ポリマー分子を含むことができる。マルチマー化部分の例は、対になって機能的免疫グロブリンFcドメインを与える免疫グロブリン重鎖定常領域およびロイシンジッパーまたは2つのこのようなポリペプチド間の分子間ジスルフィド結合を形成する遊離チオールを含むポリペプチドである。非タンパク質性ポリマー分子の例はヒドロキシエチルデンプン(HES)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレンである。
【0022】
用語「ペグ化された」は、PEG部分が例えば本発明のポリペプチドに共有結合で結合されることを意味する。
【0023】
用語「結合ドメイン」は、タンパク質足場と同じ「フォールド」(三次元配置)を示しそして下記する所定の性質を有するタンパク質ドメインを意味する。このような結合ドメインは、合理的な、または最も普通にはコンビナトリアルタンパク質工学技術、当技術分野で知られている技術、によって得られうる(Skerra, 2000, loc. cit.; Binz et al., 2005, loc. cit.)。例えば、所定の性質を有する結合ドメインは、(a)更に下記に定義されたタンパク質足場と同じフォールドを示すタンパク質ドメインの多様なコレクションを提供し、、そして(b)該多様なコレクションをスクリーニングするかまたは該多様なコレクションから選択して、前記所定の性質を有する少なくとも1つのタンパク質ドメインを得る工程を含む方法により得られうる。タンパク質ドメインの多様なコレクションは、スクリーニングおよび/または使用される選択システムにしたがっていくつかの方法より与えられることができ、そしてファージディスプレイまたはリボソームディスプレイなどの当業者に周知の方法の使用を含むことができる。
【0024】
用語「タンパク質足場」は、アミノ酸挿入、置換または欠失が高度に許容されうる露出した表面区域を有するタンパク質を意味する。本発明の結合ドメインを発生させるために使用されうるタンパク質足場の例は、抗体もしくはそのフラグメント、例えば一本鎖FvもしくはFabフラグメント、Staphylococcus aureusからのプロテインA、Pieris brassicaeからのビリン結合タンパク質または他のリポカリン、アンキリン反復タンパク質もしくは他の反復タンパク質およびヒトフィブロネクチンである。タンパク質足場は、当業者に知られている(Binz et al., 2005, loc. cit.; Binz et al., 2004, loc. cit.)。
【0025】
用語「所定の性質」は、ターゲットへの結合、ターゲットのブロッキング、ターゲット媒介された反応の活性化、酵素活性および関連した更なる性質などの性質を指す。所望の性質のタイプに依存して、当業者は、所望の性質を有する結合ドメインのスクリーニングおよび/または選択を行うためのフォーマットおよび必要な工程を同定することができるであろう。好ましくは、該所定の性質はターゲットへの結合である。
【0026】
好ましくは、本発明の結合タンパク質は、FabまたはscFvフラグメントなどの抗体もしくはそのフラグメントではない。抗体およびそのフラグメントは、当業者に周知である。
【0027】
また好ましくは、本発明の結合ドメインは、抗体に存在するままの免疫グロブリンフォールドおよび/またはフィブロネクチンタイプIIIドメインを含まない。免疫グロブリンフォールドは、2つのβシートにおいて配列された約7の逆平行β−ストランドの2層サンドイッチからなる普通のオールβタンパク質フォールドである。免疫グロブリンフォールドは、当業者に周知である。例えば、免疫グロブリンフォールドを含むこのような結合ドメインは、WO 07/080392 または WO 08/097497 に記載されている。
【0028】
更に好ましくは、本発明の結合ドメインは、VEGFR−1もしくはVEGFR−2において見出される免疫グロブリン様ドメインを含まない。このような結合ドメインは、WO 00/075319に記載されている。
【0029】
好ましい結合ドメインは、抗脈管形成性効果を有する結合ドメインである。結合ドメインの抗脈管形成性効果は、当業者に周知のアッセイ、例えば実施例2に記載のHUVECスフェロイドの新芽形成(sprouting)アッセイにより決定されうる。
【0030】
更に好ましいのは、70〜300アミノ酸、特に100〜200アミノ酸を含む結合ドメインである。
【0031】
更に好ましいのは、遊離Cys残基を欠いた結合ドメインである。遊離Cys残基は、ジスルフィド結合の形成に関与しない。なお更に好ましいのは、Cys残基のない結合ドメインである。
【0032】
本発明の好ましい結合ドメインは、好ましくはWO 02/20565に記載の、反復ドメインまたはデザインされた反復ドメインである。
【0033】
特に好ましい結合ドメインは、好ましくはWO 02/2056に記載の、デザインされたアンキリン反復ドメインである(Binz, H. K. et al., 2004, loc. cit.)。デザインされたアンキリン反復ドメインの例は実施例に示される。
【0034】
反復タンパク質の以後の定義は、特許出願 WO 02/20565における反復ドメインに基づいている。特許出願 WO 02/20565は、更に反復タンパク質特徴、技術および用途の一般的説明を含んでいる。
【0035】
用語「反復タンパク質」は、1つ以上の反復ドメインを含むタンパク質を指す。好ましくは、前記反復タンパク質の各々は、4つまでの反復ドメインを含む。更に好ましくは、該反復タンパク質の各々は、2つまでの反復ドメインを含む。最も好ましくは、反復タンパク質の各々は、1つのみの反復ドメインを含む。更に、前記反復タンパク質は、追加の非反復タンパク質ドメイン、ポリペプチドタグ、および/またはポリペプチドリンカーを含むことができる。
【0036】
用語「反復ドメイン」は、構造単位として二つ以上の連続した反復単位(モジュール)を含むタンパク質ドメインであって、該構造単位が同じフォールドを有しそして堅く積み重なって、例えばジョイント疎水性コアを有するスーパーヘリカル構造を作り出す、タンパク質ドメインを指す。
【0037】
用語「デザインされた反復タンパク質」および「デザインされた反復ドメイン」は、特許出願 WO 02/20565に説明された発明の方法の結果として得られた、それぞれ、反復タンパク質または反復ドメインを指す。デザインされた反復タンパク質およびデザインされた反復ドメインは、合成のものでありそして天然からのものではない。それらは、それぞれ、対応してデザインされた核酸の発現により得られた人造タンパク質またはドメインである。好ましくは、発現は、真核細胞もしくは原核細胞、例えばバクテリア細胞においてまたは細胞を含まないin−vitro発現系を使用することによりなされる。
【0038】
用語「構造単位」は、ポリペプチド鎖に沿って互いに近い二次構造の2つの以上のセグメント間の三次元相互作用により形成されるポリペプチドの局所的に秩序のある部分を指す。このような構造単位は、構造モチーフを示す。用語「構造モチーフ」は、少なくとも1つの構造単位に存在する二次構造エレメントの三次元配置を指す。構造モチーフは、当業者に周知である。構造単位単独では、明確定められた三次元配置を獲得することができないが、しかしながら、例えば反復ドメインにおける反復モジュールとしてのそれらの連続した配置は、スーパーヘリカル構造をもたらす隣接単位の相互の安定化をもたらす。
【0039】
用語「反復単位」は、1つ以上の天然に存在する反復タンパク質の反復配列モチーフを含むアミノ酸配列であって、該「反復単位」は多重コピーにおいて見出されそしてタンパク質のフォールドを決定するすべての該モチーフに共通の明確に定められたフォールディングトポロジーを示す、アミノ酸配列を指す。このような反復単位は、フレームワーク残基および相互作用残基を含む。このような反復単位の例は、アルマジロ反復単位、ロイシンリッチ反復単位、アンキリン反復単位、テトラトリコペプチド反復単位、HEAT反復単位およびロイシンリッチバリアント反復単位(leucine-rich variant repeat units)である。2つ以上のこのような反復単位を含有する天然に存在するタンパク質は、「天然に存在する反復タンパク質」と呼ばれる。反復タンパク質の個々の反復単位のアミノ酸配列は、お互いに比較して、有意な数の突然変異、置換、付加および/または欠失を有することができるが、依然として反復単位の一般的パターンまたはモチーフを実質的に保存している。
【0040】
用語「フレームワーク残基」は、反復単位のアミノ酸残基、または反復モジュールの対応するアミノ酸残基であって、フォールディングトポロジーに寄与する、即ち、該反復単位(またはモジュール)のフォールドに寄与するかまたは隣接する単位(またはモジュール)との相互作用に寄与する、反復単位のアミノ酸残基、または反復モジュールの対応するアミノ酸残基に関する。このような寄与は、反復単位(またはモジュール)における他の残基との相互作用、あるいはα−ヘリックスもしくはβ−シートにおいて見出されるポリペプチドバックボーンコンホメーションに対する影響、または線状ポリペプチドもしくはループを形成するアミノ酸ストレッチ対する影響であることができる。
【0041】
用語「ターゲット相互作用残基」は、ターゲット物質との相互作用に寄与する、反復単位のアミノ酸残基または反復モジュールの対応するアミノ酸残基を指す。このような寄与は、ターゲット物質との直接相互作用、または、例えば、反復単位(モジュール)のポリペプチドのコンフォメーションを安定化して直接相互作用する残基の前記ターゲットとの相互作用を可能とするかまたは高めることによる、他の直接相互作用する残基に対する影響であることができる。このようなフレームワークおよびターゲット相互作用残基は、物理化学的方法、例えばX線結晶学、NMRおよび/またはCD分光法により得られた構造データの分析により、または構造生物学および/またはバイオインフォマティクスにおける専門家に周知されている既知のおよび関連した構造情報との比較により同定されうる。
【0042】
好ましくは、反復配列モチーフの推定のために使用される反復単位は、相同性反復単位であって、該反復単位は同じ構造モチーフを含みそして該反復単位のフレームワーク残基の70%より多くが互いに相同性である、相同性反復単位である。好ましくは、該反復単位のフレームワーク残基の80%より多くが相同性である。最も好ましくは、該反復単位のフレームワーク残基の90%より多くが相同性である。ポリペプチド間の相同性の百分率を決定するためのコンピュータプログラムは、例えばFasta、BlastまたはGapは当業者に知られている。更に好ましくは、反復配列モチーフの推定のために使用される反復単位は、例えば実施例1に記載のそして同じターゲット特異性を有するターゲットに対して選択された反復ドメインから得られた相同性反復単位である。
【0043】
用語「反復配列モチーフ」は、1つ以上の反復単位から推定されるアミノ酸配列を指す。好ましくは、該反復単位は、同じターゲットに対する結合特異性を有する反復ドメインからのものである。このような反復配列モチーフは、フレームワーク残基位置およびターゲット相互作用残基位置を含む。該フレームワーク残基位置は、反復単位のフレームワーク残基の位置に対応する。同様に、該ターゲット相互作用残基位置は反復単位のターゲット相互作用残基の位置に対応する。反復配列モチーフは、固定の位置および無作為化された位置を含む。用語「固定の位置」は、反復配列モチーフにおけるアミノ酸位置であって、特定のアミノ酸に定められているアミノ酸位置を指す。最も頻繁には、このような固定の位置は、フレームワーク残基の位置および/またはあるターゲットに対して特異的なターゲット相互作用残基の位置に対応する。用語「無作為化された位置」は、反復配列モチーフにおけるアミノ酸位置であって、2つ以上のアミノ酸が該アミノ酸位置で許容されており、例えば、通常20個の天然に存在するアミノ酸が許容されるか、または20個の天然に存在するアミノ酸の大部分、例えば、システイン以外のアミノ酸、またはグリシン、システインおよびプロリン以外のアミノ酸が許容される、アミノ酸位置を指す。最も頻繁には、このような無作為化された位置は、ターゲット相互作用残基の位置に対応する。しかしながら、フレームワーク残基のいくらかの位置も無作為化されうる。
【0044】
用語「フォールディングトポロジー」は、前記反復単位の三次構造を指す。フォールディングトポロジーは、α−ヘリックスまたはβシートの少なくとも一部を形成するアミノ酸のストレッチ、または線状ポリペプチドまたはループを形成するアミノ酸ストレッチ、またはα−リックス、β−シートおよび/または線状ポリペプチド/ループの任意の組み合わせにより決定されるであろう。
【0045】
用語「連続した」は、反復単位または反復モジュールがタンデムで配列されている配置を指す。デザインされた反復タンパク質においては、少なくとも2個、通常約2〜6個、特に少なくとも6個、しばしば20個以上の反復単位がある。大抵の場合に、反復単位は、高度の配列同一性(対応する位置における同じアミノ酸残基)または配列類似性(アミノ酸残基は異なっているが、類似した物理化学的性質を有する)を示しそしてアミノ酸残基のいくらかは、天然に存在するタンパク質において見出される異なる反復単位において強く保存されている重要残基でありうる。しかしながら、天然に存在するタンパク質において見出された異なる反復単位間のアミノ酸挿入および/または欠失および/または置換による高度の配列変動性は、共通のフォールディングトポロジーが維持される限り可能であろう。
【0046】
X線結晶学、NMRまたはCD分光法などの物理化学的手段による反復タンパク質のフォールディングトポロジーを直接決定するための方法は、当業者に周知である。反復単位または反復配列モチーフを同定および決定するための方法または相同性サーチ(BLAST等)などのこのような反復単位またはモチーフを含む関連したタンパク質のファミリーを同定するための方法は、バイオインフォマティクスの分野で十分確立されておりそして当業者に周知である。最初の反復配列モチーフを先練する工程は、反復法を含むことができる。
【0047】
用語「反復モジュール」は、天然に存在する反復タンパク質の反復単位に元々由来する、デザインされた反復ドメインの反復したアミノ酸配列を指す。反復ドメインに含まれた各反復モジュールは、天然に存在する反復タンパク質のファミリーまたはサブファミリー、例えばアルマジロ反復タンパク質またはアンキリン反復タンパク質のファミリーの1つ以上の反復単位に由来する。
【0048】
「反復モジュール」は、対応する反復モジュールのすべてのコピーに存在するアミノ酸残基を有する位置(「固定の位置」)および異なるまたは「無作為化された」アミノ酸残基を有する位置(「無作為化位置」)を含むことができる。
【0049】
用語「キャッピングモジュール」は、反復ドメインのN−末端またはC末端反復モジュールに融合されたポリペプチドであって、該キャッピングモジュールは、該反復モジュールとの堅い三次相互作用を形成し、それにより連続した反復モジュールと接触していない側の該反復モジュールの疎水性コアを溶媒から遮蔽するキャップを与える、ポリペプチドを指す。該N−および/またはC−末端キャッピングモジュールは、反復単位に隣接した天然に存在する反復タンパク質において見出されるキャッピング単位または他のドメインであることができるかまたはそれらに由来することができる。用語「キャッピング単位」は、天然に存在するフォールディングされたポリペプチドであって、該ポリペプチドは反復単位にN−またはC−末端融合されている特定の構造単位を定め、該ポリペプチドは該反復単位との堅い三次相互作用を形成し、それにより、一側の該反復単位の疎水性コアを溶媒から遮蔽するキャップを与える、天然に存在するフォールディングされたポリペプチドを指す。このようなキャッピング単位は該反復配列モチーフに対する配列類似性を有することができる。キャッピングモジュールおよびキャッピング反復は、WO 02/020565に記載されている。例えば、配列番号21のN−末端キャッピングモジュールは、位置1〜32のアミノ酸によりコードされる。5位置にグリシンまたはアスパルテート残基を有するこのようなN−末端キャッピングモジュールも好ましい。
【0050】
用語「ターゲット」は、核酸分子、ポリペプチドもしくはタンパク質、炭水化物または任意の天然に存在する分子などの個々の分子であって、このような個々の分子の任意の一部または2つ以上のこのような分子の複合体を含む個々の分子を指す。ターゲットは、全細胞または組織サンプルであることができ、または、それは任意の非天然分子または部分であることができる。好ましくは、ターゲットは、天然に存在するもしくは非天然のポリペプチドまたは、例えば天然もしくは非天然リン酸化、アセチル化またはメチル化により改変された化学的改変を含有するポリペプチドである。本発明の特定の用途においては、ターゲットはVEGF−AxxxまたはVEGFR−2である。
【0051】
用語「コンセンサス配列」は、アミノ酸配列であって、該コンセンサス配列は、多重反復単位の構造的および/または配列アライニングにより得られる、アミノ酸配列を指す。
2つ以上の構造的および/または配列アラインした反復単位を使用しそしてアライメントにおけるギャップを許容して、各位置における最も頻度の高いアミノ酸残基を決定することが可能である。コンセンサス配列は、各位置で最も高い頻度で表れるアミノ酸を含むその配列である。2つ以上のアミノ酸が1つの位置で平均以上表れる場合には、コンセンサス配列は、これらのアミノ酸のサブセットを含むことができる。該2つ以上の反復単位は、1つの反復タンパク質に含まれる反復単位または2つ以上の異なる反復タンパク質に由来することができる。
【0052】
コンセンサス配列およびそれらを決定するための方法は当業者に周知である。
【0053】
「コンセンサスアミノ酸残基」は、コンセンサス配列におけるある位置に見出されるアミノ酸である。もしも、2つ以上の、例えば、3つ、4つまたは5つのアミノ酸残基が、前記2つ以上の反復単位において類似した確率で見出されるならば、コンセンサスアミノ酸は、最も高い頻度で見出されるアミノ酸の1つまたは該2つ以上のアミノ酸残基の組み合わせであることができる。
【0054】
非天然に存在する結合タンパク質または結合ドメインが更に好ましい。
【0055】
用語「非天然に存在する」は、合成のものであることまたは天然からのものではないことを意味し、更に詳しくは、この用語は、ヒトの手から作られたことを意味する。用語「非天然に存在する結合タンパク質」または「非天然に存在する結合ドメイン」は、該結合タンパク質または該結合ドメインが合成のものである(即ち、アミノ酸から化学的合成により産生された)またはリコンビナントでありそして天然からのものではないことを意味する。「非天然に存在する結合タンパク質」または「非天然に存在する結合ドメイン」は、それぞれ、対応してデザインされた核酸の発現により得られた人造タンパク質または人造ドメインである。好ましくは、発現は、真核細胞またはバクテリア細胞においてなされるかまたは細胞を含まないin−vitro発現システムを使用することによりなされる。更に、この用語は、前記結合タンパク質または前記結合ドメインの配列が、配列データベースにおいて、例えば、GemBank、EMBL-BankまたはSwiss-protにおいて、非人工的配列エントリーとして存在しないことを意味する。これらのデータベースおよび他の類似した配列データベースは当業者に周知である。
【0056】
本発明は、結合ドメインを含む結合タンパク質であって、該結合ドメインはVEGFR−2へのVEGF−Axxx結合を阻害しそして該結合タンパク質および/または結合ドメインが熱的アンフォールディング時に40℃以上の変性中点温度(Tm)を有しそしてリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中で37℃で1日間インキュベーションされるとき10g/Lまでの濃度で5%(w/w)未満の不溶性凝集体を形成する、結合タンパク質を指す。
【0057】
結合ドメインは、VEGF−AxxxとVEGFR−2間の見かけの解離定数(Kd)が10倍より多く、好ましくは10倍より多く、更に好ましくは10倍より多く、更に好ましくは10倍より多く、最も好ましくは10倍より多く増加するように、VEGF−Axxxに結合することによりまたはVEGFR−2に結合することにより、VEGFR−2へのVEGF−Axxx結合を阻害することができる。好ましくは、VEGF−AxxxまたはVEGFR−2への結合ドメインの相互作用についてのKdは、10−7M、以下、好ましくは10−8M以下、更に好ましくは10−9M以下、更に好ましくは10−10M以下、最も好ましくは10−11M以下である。タンパク質−タンパク質相互作用の解離定数を決定するための、表面プラズモン共鳴(SPR)に基づく技術などの方法は、当業者に周知である。
【0058】
好ましい結合ドメインは、VEGF−Axxxに結合する。ヒトVEGF−A165に結合する結合ドメインがなお更に好ましい。
【0059】
用語「PBS」は、137mMNaCl、10mMリン酸塩および2.7mMKClを含有しそして7.4のpHを有するリン酸緩衝化水溶液を意味する。
【0060】
好ましくは、結合タンパク質および/または結合ドメインは、熱的アンフォールディング時に45℃以上、更に好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上、最も好ましくは60℃以上の変性中点温度(Tm)を有する。本発明の結合タンパク質または結合ドメインは、生理学的条件下に明確に定められた二次および三次構造を有する。このようなポリペプチドの熱的アンフォールディングは、その三次および二次構造の損失をもたらし、これは、例えば、円二色性(CD)測定により追跡することができる。熱的アンフォールディング時の結合タンパク質または結合ドメインの変性中点温度は,10℃から約100℃にゆっくりと温度を増加させることによる、該タンパク質またはドメインの熱変性時の生理学的緩衝液中の共同転位の中点の温度に対応する。熱的アンフォールディング時の変性中点温度の決定は当業者に周知である。熱的アンフォールディング時の結合タンパク質または結合ドメインのこの変性中点温度は、該ポリペプチドの熱的安定性を示す。
【0061】
PBS中で37℃で5日にわたり、好ましくは10日にわたり、更に好ましくは20日間にわたり、更に好ましくは40日にわたり、最も好ましくは100日にわたりインキュベーションされるとき、20g/Lまで、好ましくは40g/Lまで、更に好ましくは60g/Lまで、なお更に好ましくは80g/Lまで、最も好ましくは100g/Lまでの濃度で5%(w/w)未満の不溶性凝集体を形成する結合タンパク質および/または結合ドメインも好ましい。不溶性凝集体の形成は、可視沈殿の外観、ゲルろ過または不溶性凝集体が形成すると強く増加する動的光散乱により検出されうる。不溶性凝集体は、10分間10000xgでの遠心によりタンパク質サンプルから除去されうる。好ましくは、結合タンパク質および/または結合ドメインは、PBS中で37℃で上記したインキュベーション条件下に2%(w/w)未満、1%(w/w)未満、0.5%(w/w)未満、0.2%(w/w)未満、0.1%(w/w)未満または0.05%(w/w)未満の不溶性凝集体を形成する。不溶性凝集体の百分率は、可溶性タンパク質からの不溶性凝集体の分離により、続いて標準定量法による可溶性画分および不溶性画分におけるタンパク質量の決定により決定されうる。
【0062】
37℃で1または10時間100mMジチオトレイトール(DTT)を含有するPBS中でのインキュベーションしたときそのネイティブな三次元構造を失わない結合タンパク質および/または結合ドメインも好ましい。
【0063】
1つの特定の態様においては、本発明は、VEGFR−2へのVEGF−Axxx結合を阻害しそして指示されたもしくは好ましい変性中点温度および上記した非凝集的性質を有する結合ドメインを含む結合タンパク質であって、該結合タンパク質は、100nM以下のIC50値でHUVECスフェロイドの新芽形成(sprouting)を阻害する、結合タンパク質に関する。
【0064】
用語「HUVEC」は、正常なヒト臍体静脈から単離されえそしてVEGF−A刺激に応答性であるヒト臍体静脈内皮細胞を意味する。
【0065】
HUVECスフェロイドの新芽形成を測定するためのアッセイ、例えば実施例2に記載のアッセイは、当業者に周知である。
【0066】
IC50値は、HUVECスフェロイドの新芽形成などの実験的に決定されたパラメーターのin-vitroでの50%阻害に必要な結合タンパク質または結合ドメインなどの物質の濃度である。IC50値は、当業者により容易に決定されうる(Korff T. and Augustin H.G., J. Cell Biol. 143(5), 1341-52, 1998)。
【0067】
10nM以下、好ましくは1nM以下、更に好ましくは0.1nM以下、最も好ましくは0.05nM以下のIC50値でHUVECスフェロイドの新芽形成を阻害する結合タンパク質および/または結合ドメインが好ましい。
【0068】
ラニビズマブ(Lucentis(登録商標)、Genentechの登録商標)、ベバシズマブ(Avastin(登録商標)、Genentechの登録商標)、アフリベルセプト(VEGF Trap(登録商標)、Regeneronの登録商標)またはペガプタニブ(Macugen(登録商標)、Pfizerの登録商標)の対応するIC50値より低いIC50値でHUVECスフェロイドの新芽形成を阻害するモノマー結合タンパク質および/または結合ドメインは更に好ましい。
【0069】
特に、本発明は、VEGFR−2へのVEGF−Axxx結合を阻害しそして指示されたもしくは好ましい変性中点温度および上記した非凝集的性質を有する結合ドメインを含む結合タンパク質であって、VEGF−Axxxbへの該結合ドメインの相互作用についてのKdが、対応するVEGF−Axxxへの該結合ドメインの相互作用についてのKdに比較して少なくとも10倍高い、結合タンパク質に関する。
【0070】
好ましくは、VEGF−Axxxbへの結合ドメインの相互作用についてのKdは、対応するVEGF−Axxxへの結合ドメインの相互作用についてのKdに比較して、少なくとも10倍高く、好ましくは10倍高く、更に好ましくは10倍高く、更に好ましくは10倍高く、最も好ましくは10倍高い。
【0071】
また好ましくは、VEGF−Axxxbへの結合ドメインの相互作用についてのKdは、10nM以上でありそしてVEGF−Axxxへの結合ドメインの相互作用についてのKdは10または1nM以下である。
【0072】
VEGF−B、VEGF−C、VEGF−D、PIGFまたはPDGFへの好ましい結合ドメインの相互作用についてのKdは、1nM以上、好ましくは10nM以上、更に好ましくは10nM以上、なお更に好ましくは10nM以上、最も好ましくは10nM以上である。
【0073】
好ましくは、VEGF−Axxxは、イヌVEGF−A164またはサルVEGF−A165またはヒトVEGF−A165でありそしてVEGF−Axxxbは、イヌVEGF−A164またはサルVEGF−A165bまたはヒトVEGF−A165bである。
【0074】
他の好ましい態様は、結合ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質であって、該結合ドメインはVEGFR−2へのVEGF−Axxxの結合を阻害しそして該結合ドメインは反復ドメインまたはデザインされた反復ドメインである、リコンビナント結合タンパク質である。このような反復ドメインは、VEGF−Axxxへの結合に参加する1、2、3またはそれより多くの内部反復モジュールを含むことができる。好ましくは、このような反復ドメインは、N-末端キャッピングモジュール、2〜4個の内部反復モジュールおよびC末端キャッピングモジュールを含む。好ましくは、該結合ドメインは、アンキリン反復ドメインまたはデザインされたアンキリン反復ドメインである。
【0075】
好ましいものは、リコンビナント結合タンパク質であって、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPLHLAA56GHLEIVEVLLK7GADVNA(配列番号1)
(式中、およびは、互いに独立に、群A、D、E、F、H、I、K、L、M、N、Q、R、S、T、V、WおよびYから選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0076】
特に好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23GWTPLHLAA45GHLEIVEVLLK6GADVNA(配列番号2)
(式中、
は、F、T、N、R、V、A、I、K、Q、SおよびY;好ましくはF、T、N、RおよびV;更に好ましくはFおよびTからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、W、Y、HおよびF、好ましくはW、YおよびHからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、M、I、FおよびV;好ましくはMおよびIからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、H、A、K、G、L、M、N、T、V、WおよびY、好ましくはH、AおよびK、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、E、Y、F、V、H、I、L、NおよびR、好ましくはE、Y、F、VおよびH;更に好ましくはE、Y、FおよびV、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し、
は、A、N、Y、HおよびRからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0077】
更に好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPLHLAA56GHLEIVEVLLK7GADVN8(配列番号3)
(式中、
は、T、E、A、D、F、K、N、Q、R、S、WおよびY;好ましくはTおよびEからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、V、F、Y、A、H、I、K、R、TおよびW;好ましくはV、FおよびY、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、S、A、N、FおよびM;好ましくはS、AおよびN;更に好ましくはSおよびAからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、Y、F、SおよびWからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、A、S、LおよびY;好ましくはAおよびSからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、D、N、M、A、I、KおよびY;好ましくはD、NおよびM;更に好ましくはDおよびNからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、A、Y、H、NおよびDからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;そして
は、アミノ酸残基TまたはAを表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0078】
更なる好もしいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23GWTPLHL4ADLG5LEIVEVLLK6GADVN7(配列番号4)
(式中、
は、K、TおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基NまたはMを表し、
は、アミノ酸残基TまたはFを表し、
は、アミノ酸残基SまたはAを表し、
は、アミノ酸残基HまたはRを表し、
は、A、Y、HおよびNからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し、
は、アミノ酸残基AまたはTを表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0079】
なお更に好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが配列番号3のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールを含み、該反復モジュールは前に配列番号2のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールが配置されておりおよび/または後に配列番号4のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールが続く、リコンビナント結合タンパク質である。
【0080】
更なる好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPLHLAA56GH7EIVEVLLK8GADVNA(配列番号5)
(式中、
は、A、N、R、V、Y、E、H、I、K、L、Q、SおよびT;好ましくはA、N、R、VおよびY;更に好ましくはAおよびR、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、S、A、N、R、D、F、L、P、TおよびY;好ましくはS、A、NおよびR、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、T、V、S、A、LおよびF;好ましくはT、V、S、AおよびL;更に好ましくはT、VおよびS、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、W、FおよびHからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、P、I、A、L、S、T、VおよびY;好ましくはPおよびI、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、W、F、I、L、TおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基LまたはPを表し;そして
は、A、H、NおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0081】
更なる好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPLHLAA56GHLEIVEVLLK7GADVNA(配列番号6)
(式中、
は、H、Q、A、K、R、D、I、L、M、N、VおよびY;好ましくはH、Q、A、KおよびR;更に好ましくはAおよびR、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、Y、FおよびHからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、Q、FおよびTからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、W、M、G、H、NおよびT;好ましくはWおよびMからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、T、A、M、LおよびV、好ましくはT、AおよびMからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、I、L、V、DおよびT;好ましくはI、LおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;そして
は、A、H、NおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0082】
なお更に好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、配列番号6のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールを含み、前記反復モジュールは前に配列番号5を有する反復モジュールを有する反復モジュールが配置されている、リコンビナント結合タンパク質である。
【0083】
更なる好もしいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23GWTPLHLAA45GHLEIVEVLLK6GADVNA(配列番号7)
(式中、
は、K、M、N、RおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、Y、H、MおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、F、L、MおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、R、H、V、A、KおよびN、好ましくはR、H、VおよびAからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、F、D、H、T、Y、MおよびK、好ましくはF、D、H、TおよびY、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、A、H、NおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0084】
更なる好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPLHLAA56GHLEIVEVLLK7GADVN8(配列番号8)
(式中、
は、T、A、H、I、NおよびSからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、F、I、Q、R、VおよびNからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、A、G、N、QおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基WまたはYを表し;
は、A、S、TおよびMからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、N、V、S、F、MおよびWからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、A、H、NおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;そして
は、アミノ酸残基TまたはAを表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0085】
更なる好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPLHL5A67GHLEIVEVLLK8GADVNA(配列番号9)
(式中、
は、K、A、VおよびNからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、N、IおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、T、F、YおよびWからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、W、DおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基SまたはAを表し;
は、D、IおよびMからなる群より選ばれるアミノ酸残基表し;
は、L、TおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、A、H、YおよびNからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0086】
更なる好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが配列番号8のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールを含み、前記反復モジュールは前に配列番号7のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールが配置されており、および/または後に、配列番号9のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールが続く、リコンビナント結合タンパク質である。
【0087】
更なる好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1DFK2DTPLHLAA34GH5EIVEVLLK6GADVNA(配列番号10)
(式中、
は、L、SおよびTからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、G、SおよびC、好ましくはGおよびSからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基SまたはAを表し;
は、Q、S、MおよびN、好ましくはQおよびSからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、L、MおよびQからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;そして
は、A、H、N、YおよびDからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
更なる好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D2L34TPLHLA567GHLEIVEVLLK8GADVNA(配列番号11)
(式中、
は、Y、H、F、I、LおよびW、好ましくはYおよびHからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、M、D、I、L、V、好ましくはMおよびD、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、G、SおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基WまたはFを表し;
は、A、GおよびTからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基DまたはWを表し;
は、アミノ酸残基LまたはFを表し、そして
は、A、H、NおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0088】
なお更に好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが配列番号11のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールを含み、前記反復モジュールは前に配列番号10のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールが配置されている、リコンビナント結合タンパク質である。
【0089】
更なる好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPL5LAA67GHLEIVEVLLK8GADVNA(配列番号12)
(式中、
は、K、S、I、N、TおよびV、好ましくはKおよびS、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、K、N、W、A、H、M、QおよびS、好ましくはKおよびN、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、F、Q、L、HおよびV、好ましくはF、QおよびL、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基FまたはTを表し;
は、アミノ酸残基QまたはHを表し;
は、アミノ酸残基YまたはSを表し;
は、N、H、YおよびM、好ましくはNおよびH、からなる群より選ばれるアミノ酸さ残基を表し;そして
は、A、H、NおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0090】
更なる好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23GWT4LHLAADLG5LEIVEVLLK6GADVNA(配列番号13)
(式中、
は、F、Y、HおよびW、好ましくはF、YおよびH、からなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、I、M、DおよびV、好ましくはI、MおよびDからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基FまたはLを表し;
は、アミノ酸残基LまたはPを表し;
は、H、LおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸さ残基を表し;そして
は、A、H、NCおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、リコンビナント結合タンパク質である。
【0091】
なお更に好ましいものは、前記アンキリン反復ドメインまたは前記デザインされたアンキリン反復ドメインが配列番号13のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールを含み、該反復モジュールは前に配列番号12のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールが配置されている、リコンビナント結合タンパク質である。
【0092】
他の好ましい態様は、VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する少なくとも1つの反復ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質であって、該反復ドメインが配列番号16、22、23、29、30および33からなる群より選ばれる反復ドメイン、または配列番号16、22、23、29、30、33、34、36、39および40からなる群より選ばれる反復ドメインとVEGF−Axxxへの結合について競合する、リコンビナント結合タンパク質である。
【0093】
用語「結合について競合する」は、本発明の2つの異なる結合ドメインが同じターゲットに同時に結合することができないが、両者は同じターゲットに個々に結合することはできることを意味する。したがって、このような2つの結合ドメインは、該ターゲットに結合することについて競合する。2つの結合ドメインがターゲットへの結合について競合するかどうかを決定するために、競合ELISAまたは競合SPR測定(例えばBioRadからのProteon機器を使用することにより)などの方法は、当業者に周知である。
【0094】
選ばれた反復タンパク質とVEGF−Axxxへの結合についての競合するリコンビナント結合タンパク質は、競合酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)などの当業者に周知の方法により同定されうる。
【0095】
他の好ましい態様は、配列番号14〜33からなる群より選ばれるまたは配列番号14〜40からなる群より選ばれるVEGF−Axxxに対する結合特異性を有する反復ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質である。
【0096】
更なる好ましいものは、VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する前記反復ドメインが、反復ドメインの前記群の反復ドメインと少なくとも70%アミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、リコンビナント結合タンパク質である。好ましくは、前記アミノ酸配列同一性は、少なくとも75%、更に好ましくは少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも85%、更に好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%である。
【0097】
更なる好ましいものは、VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する前記反復ドメインが、反復ドメインの前記群の反復ドメインと少なくとも70%アミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、リコンビナント結合タンパク質である。好ましくは、該アミノ酸配列同一性は、少なくとも75%、更に好ましくは少なくとも80%、更に好ましくは少なくとも85%、更に好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%である。
【0098】
本発明に従う反復ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質の更なる好ましい態様においては、前記反復ドメインの反復モジュールのアミノ酸残基の1つ以上が、反復単位のアライメントにおける対応する位置で見出されるアミノ酸残基により交換される。好ましくは、アミノ酸残基の30%までが交換され、更に好ましくはアミノ酸残基の20%まで、なお更に好ましくは10%までが交換される。最も好ましくは、このような反復単位は、天然に存在する反復単位である。なお更に好ましくは、前記反復ドメインは、VEGF−AxxxまたはVEGFR−2に対する結合特異性を有する。
【0099】
なお他の特定の態様においは、アミノ酸残基の30%まで、更に好ましくはアミノ酸残基の20%まで、なお更に好ましくはアミノ酸残基の10%までが、反復単位の対応する位置に見出されていないアミノ酸と交換される。
【0100】
更なる態様においては、本明細書に記載のVEGF−Axxx結合タンパク質またはドメインのいずれかを、例えば、VEGFR−2にも結合する部分(例えば、VEGFR−2結合ポリペプチド)、二重特異性結合剤を作り出すために、異なるターゲット、例えばPIGF、ヒト血清アルブミン、細胞レセプター(例えばHer2)、免疫グロブリン(例えば、IgG1)、サイトカイン(例えば、TNF−αまたはインターロイキン)または成長因子に結合する部分、標識化部分(例えば、フルオレセインなどの蛍光標識または放射性トレーサー)、タンパク質精製を促進する部分(例えば、小ペプチドタグ、例えばHisタグまたはStrepタグ)、改良された治療効能のためのエフェクター機能を与える部分(例えば、抗体依存性細胞媒介細胞傷害性を与えるための抗体のFc部分、Pseudomonas aeruginosa外毒素A(ETA)などの毒性タンパク質部分またはメイタンシノイドまたはDNAアルキル化剤などの小分子毒性剤)または改良された薬物動態学を与える部分を含む1つ以上の追加の部分に共有結合で結合させることができる。改良された薬物動態学は、知られている治療的必要に従って評価されうる。場合によりタンパク質が投与後血清中で利用可能なままである時間を増加させることにより、バイオアベイラビリティーを増加させることおよび/または投与間の時間を増加させることが望ましい。ある場合には、時間に対してタンパク質の血清濃度の連続性を改良する(例えば、投与の短時間後および次の投与の短時間前タンパク質の血清濃度の差を減少させる)ことが望ましい。血液からのタンパク質のクリアランスを遅くする傾向のある部分は、ヒドロキシエチルデンプン(HES)、ポリエチレングリコール(PEG)、糖(例えばシアル酸)、十分に許容されたタンパク質部分(例えば、Fcフラグメントまたは血清アルブミン)および、例えば、抗体Fcフラグメントまたは血清アルブミンなどの豊富な血清タンパク質に対する特異性およびアフィニティーを有する結合ドメインまたはペプチド、を含む。本発明のリコンビナント結合タンパク質は、改変されていないポリペプチドに対して3倍よりも大きく哺乳動物における(例えばマウス、ラットまたはヒトにおける)ポリペプチドのクリアランス速度を減少させる部分に結合させることができる。
【0101】
1つ以上のポリエチレングリコール部分を、結合タンパク質の異なる位置で結合させることができ、そしてこのような結合は、アミン、チオールまたは他の適当な反応性基との反応により達成されうる。ポリエチレングリコール部分の結合(PEG化)は、部位指向性であることができ、その際、適当な反応性基がタンパク質に導入されてPEG化が優先的に起こる部位が作り出されるかまたは適当な反応性基が結合タンパク質に最初から存在する。チオール基は、システイン残基に存在することができ;そしてアミノ基は、例えば、ポリペプチドのN-末端に見出される第一級アミンまたはアミノ酸、例えばリシンまたはアルギニンの側鎖に存在するアミン基であることができる。好ましい態様において、結合タンパク質は、所望される位置にシステイン残基を有するように改変され、例えばマレイミド官能基を有するポリエチレングリコール誘導体との反応によりシステイン上に部位指向性PEG化を可能とする。ポリエチレングリコール部分は、分子量において広く変わることができ(即ち、約1kDa〜約100kDa)そして分岐状または線状であることができる。好ましくは、ポリエチレングリコールは、約1〜約50kDa、好ましくは約10〜約40kDa、なお更に好ましくは約15〜約30kDa、最も好ましくは約20kDaの分子量を有する。
【0102】
更なる態様においては、本発明は、特定のリコンビナント結合タンパク質をコードする核酸分子に関する。更に、該核酸分子を含むベクターが考慮される。
【0103】
更に、1つ以上の上記した結合タンパク質、特に反復ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質、または特定のリコンビナント結合タンパク質をコードする核酸分子および場合により薬学的に許容されうる担体および/または希釈剤を含む薬学的組成物が考慮される。薬学的に許容されうる担体および/または希釈剤は、当業者に知られておりそして下記により詳細に説明される。なお更に、1つ以上の上記したリコンビナント結合タンパク質、特に反復ドメインを含む結合タンパク質を含む診断組成物が考慮される。
【0104】
本発明の結合タンパク質は、VEGFで誘導される病理学的血管新生、脈管漏出(vascular leakage)(浮腫)、肺高血圧症、腫瘍形成および/または炎症性疾患を抑制または防止する。「抑制」とは、リコンビナントタンパク質が、上記の病理を、ある程度、例えば、10%または20%、更に好ましくは50%、特に70%、80%または90%、または95%さえ防止することと理解される。
【0105】
用語「浮腫」は、脈管漏出により引き起こされる状態を意味する。炎症期間中の血管拡張および増加した透過性は、主要な病因機構であることができる。例えば、浮腫は、発作後の梗塞拡大の誘因となりそして癌患者における生命にかかわる頭蓋内高血圧を引き起こすことがある。更に、血漿タンパク質の血管外遊出は潜在性腫瘍の転移による広がりを促進し、そして気道充血は致死的喘息発作を引き起こすことがある。炎症中に起こる増加した脈管漏出は、呼吸困難、腹水、腹膜硬化症(透析における)、癒着形成(腹部手術)および転移による広がりをもたらすことがありうる。
【0106】
用語「血管新生」は、新しい血管が形成される基本的プロセスを意味する。ヒトにおける原始的脈管形成期間は、胚発生の最初の3カ月の間に起るが、血管新生は、筋肉または脂肪の増加などの組織成長期間中および月経周期および妊娠期間中、正常な生理学的プロセスとしても起こる。
【0107】
用語「病理学的血管新生」は、いくつかの疾患状態の維持および進行期間中血管の形成および成長を指す。病理学的血管新生の特定の例は、血管(アテローム性動脈硬化症、血管腫、血管内皮腫)、骨および関節(慢性関節リウマチ、滑膜炎、骨および軟骨破壊、骨髄炎、パンヌス増殖、骨増殖体形成(osteophyte formation)、新生物および転移)、皮膚(いぼ、化膿性肉芽腫、髪成長、カポジ肉腫、瘢痕ケロイド、アレルギー性浮腫、新生物)、肝臓、腎臓、肺、耳および他の上皮(肝炎、糸球体腎炎、肺炎を含む炎症性および感染性プロセスおよび喘息、鼻ポリープ、耳炎、移植障害、肝臓再生障害、新生物および転移)、子宮、卵巣および胎盤(子宮内避妊具による機能不全子宮出血、卵胞嚢胞形成、卵巣過剰刺激症候群、子宮内膜症、新生物)、脳、神経および眼(未熟児網膜症、糖尿病性網膜症、脈絡膜および他の眼球内障害、白質軟化症、新生物および転移)、仕事過負荷による心臓および骨格筋、脂肪組織(肥満)、内分泌器官(甲状腺炎、甲状腺肥大、すい臓移植障害)、造血(AIDSにおけるカポジ症候群)、血液学的悪性疾患(白血病)およびリンパ管(腫瘍転移、リンパ増殖性障害)において見出される。
【0108】
用語「網膜虚血疾患」は、血液および酸素の網膜への供給が減少し、網膜の周囲部分がそれらの栄養源を失いそして機能的性質を停止することを意味する。網膜虚血疾患の特定の例は網膜症である。網膜症をもたらす普通の疾患は、糖尿病性網膜症、網膜中心静脈閉塞、頸動脈の狭窄および鎌状細胞網膜症である。糖尿病性網膜症は、糖尿病患者の視力損失の主要な原因である。虚血網膜においては、新しい血管の増殖が起こる(新生血管形成)。これらの血管は、しばしば網膜の表面で視神経においてまたは目の前方で虹彩において増殖する。新しい血管は、必要な栄養の流れの代わりを補うことができず、その代わりに、硝子体出血、網膜剥離およびコントロールできない緑内障などの多くの問題を引き起こすことがある。これらの問題は、新しい血管がもろくそして出血しやすいゆえに起こる。その初期段階で見つかるならば、増殖性糖尿病性網膜症は、ときには、全網膜光凝固(panretinal photocoagulation)により阻止されうる。しかしながら、ある場合には、硝子体切除手術が唯一の選択肢である。
【0109】
これらの網膜症のほかに、眼の血管疾患は、眼の新生血管形成疾患、例えば、黄班変性および糖尿病性黄班浮腫(DME)も含む。黄班変性は、黄班の下の脈絡膜脈管の新生血管成長から生じる。2つのタイプの黄班変性:乾燥型および湿潤型がある。湿潤型黄班変性は、すべての黄班変性の15%のみを構成し、殆どすべての湿潤型黄班変性は失明をもたらす。更に、湿潤型黄班変性は、殆ど常に乾燥型黄班変性から生じる。1つの眼が湿潤型黄班変性にかかると、その状態は殆ど常に他方の眼を冒す。湿潤型黄班変性は、しばしば湿潤型AMDの加齢湿潤型黄班変性と呼ばれる。なぜならば、それは大抵年配者に見出されるからである。
【0110】
糖尿病性網膜症(DR)およびDMEは、先進国の働く年齢の集団における失明の主要な原因である。世界的に増加する数の糖尿病を有する個体は、DRおよびDMEが視力損失および来たるべき年月の間の関連した機能的障害への主要な誘因であり続けるであろうということを示唆する。プロテインキナーゼC−β活性化、増加した血管内皮細胞増殖因子産生、酸化ストレスおよび細胞内ソルビトールおよび進行したグリコシル化最終産物の蓄積を含むいくつかの生化学的機構は、DR/DMEを特徴付ける血管破裂を引き起こすもととなりうる。これらの経路の阻害は、DRおよびDMEに対する介入の有望さを保持する。
【0111】
用語「肺高血圧症」は、肺動脈の血圧が異常に高い障害を意味する。心臓または肺の他の疾患の不存在下に、それは原発性肺高血圧症と呼ばれる。肺細動脈のびまん性狭窄(diffuse narrowing)は、病理学的動脈発生、次いで血流に対する増加した抵抗に対する応答としての肺高血圧症の結果として起こる。発生数は、100,000人に対して8人である。しかしながら、肺高血圧症は、例えば、気腫、慢性気管支炎またはびまん性間質性繊維症などの慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併症として、および喘息型COPDを有する患者において起こることもある。COPDの発生数は、10,000人に対して約5人である。
【0112】
更に、本発明の結合タンパク質は、炎症、更に詳しくは炎症性障害を処置するのに使用することもできる。
【0113】
本明細書で使用される用語「炎症」は、生きている組織の損傷に対する局所的反応、特に小血管の局所的反応、その内容物およびそれらの関連した構造を意味する。血管壁を通って組織に至る血液成分の通過は、炎症の特徴でありそしてそのように形成された組織蓄積物は、滲出物または浮腫と呼ばれる。生きている組織を損傷する任意の有害なプロセス、例えばバクテリアによる感染、過剰の熱、寒さ、機械的損傷、例えば破砕、酸、アルカリ、照射、またはウイルスによる感染は、関与する器官または組織にかかわりなく炎症を引き起こすことがある。「炎症性疾患」として分類された疾患および熱傷から肺炎、らい病、肺結核および慢性関節リウマチまでの範囲の組織反応は、すべて「炎症」であることは明らかであろう。
【0114】
本発明に従う結合タンパク質は、腫瘍形成を処置するのに使用されうる。用語「腫瘍
」は、既存の体細胞から明らかな原因なしに発生し、目的のある機能を持たずそして自律的なかつ抑制されない増殖をする傾向により特徴付けられる異常な組織の塊を意味する。腫瘍は炎症性または他の腫脹とはきわめて異なっている。何故ならば、腫瘍の細胞はそれらの外観および他の特徴において異常であるからである。異常な細胞、即ち一般に腫瘍を構成する細胞の種類は、1つ以上の下記の変化:(1)肥大、または個々の細胞のサイズの増加;(2)過形成、または所与のゾーン内の細胞の数の増加;(3)退生、またはより原始的または未分化型に向けての細胞の物理的特徴の回帰、を経るという点で正常な細胞とは異なる。腫瘍は、良性、例えば、脂肪腫、血管腫、骨腫、軟骨腫および腺腫であることができる。悪性腫瘍の例は、癌(例えば乳房腫瘍、呼吸管および胃腸管、内分泌腺および尿生殖器系の癌)、肉腫(繊維組織を含む結合組織、脂肪組織、筋肉、血管、骨および軟骨における)、癌肉腫(上皮および結合組織の両方における)、白血病およびリンパ腫、神経組織(脳を含む)の腫瘍およびメラノーマ(着色した皮膚細胞の癌)である。腫瘍に対する本発明の結合タンパク質の使用は、照射、光線力学的治療、化学療法または外科などの当技術分野で知られている任意の他の腫瘍治療と組み合わされてもよい。
【0115】
薬学的組成物は、上記した結合タンパク質および薬学的に許容されうる担体、賦形剤または安定剤(Remington's Phamaceutical Sciences 16th edition, Osol, A. Ed.[1980]を含む。当業者に知られている適当な担体、賦形剤または安定剤は、生理的食塩水(saline)、リンゲル液、ブドウ糖溶液、ハンクス液、脂肪油、オレイン酸エチル、生理的食塩水中の5%ブドウ糖、等張性および化学的安定性を高める物質、緩衝液および保存剤である。他の適当な担体は、組成物を受けとる個体に有害な抗体の産生をそれ自体誘導しない任意の担体、例えば、タンパク質、多糖、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリマーアミノ酸およびアミノ酸コポリマーを含む。薬学的組成物は、追加の活性作用物質、例えば抗がん剤または抗脈管形成剤(例えばヒトVEGF−Axxxb;好ましくはヒトVEGF−A165b)を含む、組み合わせ製剤であることもできる。
【0116】
眼の疾患の処置のための好ましい薬学的組成物は、上記した結合タンパク質および洗剤、例えばポリソルベート20(例えば約0.04%)、緩衝剤、例えばヒスチジン、リン酸塩または乳酸および糖、例えばスクロースまたはトレハロースを含む。好ましくは、このような組成物は、上記した結合タンパク質およびPBSを含む。該薬学的組成物は、局所的にまたは眼の一部に局所的に投与されうるかまたは例えば結膜下の、眼球周囲または眼球後の空間にまたは眼に直接に注射されうる。あるいは、該組成物は、非経口的投与により全身系に適用される。好ましくは、硝子体内注射により目に適用される。また好ましくは、該薬学的組成物は局所的におよび点眼薬として眼に適用される。点眼薬は、角膜(眼の中心の透明な部分)に適用されえ、それにより分子が眼の中に透過することを可能とする。眼の後を冒す疾患の処置のために、結合タンパク質が結膜の下または眼球のまわりに注射されるとき強膜を透過することは最も望ましいことがありうる。結合タンパク質の投与は、眼の表面をモジュレーションして分子の透過を改良する予備工程の後行うことができる。好ましくは、角膜上皮などの上皮層が透過エンハンサーによりモデュレーションされて、例えば上記した分子の十分なかつ速い透過を可能とする。眼の疾患に対する本発明の結合タンパク質の使用は、光線力学的治療などの当技術分野で知られている任意の他の治療と組み合わせることもできる。
【0117】
in vivo投与に使用されるべき製剤は、無菌(septic or sterile)でなければならない。これは、無菌ろ過膜を通すろ過により容易に達成される。
【0118】
持続放出性調製物を調製することができる。本発明の1つの態様においては、眼内移植片が本発明の結合タンパク質を与えるために使用されうる。持続放出性調製物の適当な例は、本発明のポリペプチドを含有する固体疎水性ポリマーの半透過性マトリックスを含み、該マトリックスは、成形された物品、例えばフイルムまたはマイクロカプセルの形態にある。持続放出性マトリックスの例は、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(2−ヒドロキシエチル−メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール)、ポリラクチド、L−グルタミン酸とγ−エチル−L−グルタメートとのコポリマー、非分解性エチレン−酢酸ビニルコポリマー、分解性乳酸−グリコール酸コポリマー、例えばLUPRON DEPOT(登録商標)(乳酸−グリコール酸コポリマーおよびロイプロリド酢酸塩からなる注射可能なミクロスフェア)、およびポリ−D−(−)−3−ヒドロキシ酪酸、を含む。
【0119】
薬学的組成物は、当業者の知識内での任意の適当な方法により投与されうる。好ましい投与の経路は非経口的である。非経口的投与においては、本発明の医薬は、上記した薬学的に許容されうる賦形剤とともに、溶液剤、懸濁剤または乳剤などの注射可能な単位投与量において製剤化される。投与量および投与の様式は、処置されるべき個体および特定の疾患に依存するであろう。一般に、薬学的組成物は、本発明の結合タンパク質が1μg/kg〜20mg/kg、更に好ましくは10μg/kg〜5mg/kg、最も好ましくは0.1〜2mg/kgの用量で与えられるように投与される。好ましくは、それはボーラス用量として与えられる。連続的注入を使用することもでき、そして連続的注入は、浸透圧ミニポンプを介する連続的皮下送達を含む。もしそうならば、薬学的組成物は、5〜20μg/kg/分、更に好ましくは〜15μg/kg/分の用量で注入されうる。特に、薬学的組成物は、本発明の結合タンパク質が0.1mg/注射〜10mg/注射、更に好ましくは0.3mg/注射〜6mg/注射、最も好ましくは1mg/注射〜4mg/注射の用量で与えられるように眼への注射により投与される。更に、薬学的組成物は、10〜120mg/ml、更に好ましくは20〜100mg/ml、最も好ましくは40〜80mg/mlの濃度の本発明の結合タンパク質を含有する溶液の一滴が眼に適用されるように眼への点眼により投与される。
【0120】
本発明の他の態様において、上記したVEGF−Axxxの活性を阻害する結合タンパク質は、VEGF−Axxxについて上記したと同じPIGFの阻害レベルで、PIGFの活性を阻害する結合タンパク質または小分子と組み合わせて使用されうる。この態様は、VEGF−Axxxレベルが増加する部位でPIGFが脈管形成性であるということが見いだされることに基づいている。更に、上記したVEGF−Axxxの活性を阻害する結合タンパク質は、血小板由来の増殖因子(PDGF)、VEGF−CまたはVEGFファミリーのタンパク質の他のメンバー、腫瘍壊死因子α(TNFα)、デルタ様リガンド4(Dll4)、インターロイキン6(IL−6)、ニューロピリンまたはアンギオポエチン2(Ang2)の活性を阻害する結合タンパク質またはたは小分子と組み合わせて使用されうる。
【0121】
本発明は、更に、新規な処置の方法を提供する。1つの局面においては、網膜症を処置する方法であって、網膜症を処置することを必要とする患者に治療的有効量の本発明の結合タンパク質、特にヒトVEGF−AxxxとヒトVEGFR−2間の相互作用を阻害するが、ヒトVEGF−AxxxbとVEGFR−2の相互作用を阻害しない結合タンパク質を投与し、そして、結合タンパク質がVEGFR−2媒介血管新生を阻害することを含む方法が提供される。
【0122】
本発明は、更に、記載された結合タンパク質を使用して、細胞におけるVEGF−A生物学的活性を阻害するためまたはVEGFR−2により媒介される生物学的活性を阻害するための方法に関する。細胞は、in vivoまたはex−vivoにあることができ、そして、例えば、生きている生物の細胞、培養された細胞または組織サンプル中の細胞であることができる。この方法は、前記細胞を、このような生物学的活性を阻害するのに十分な量でおよび時間にわたり、本明細書に開示されたVEGF−A/VEGFR−2相互作用阻害性結合タンパク質のいずれかと接触させることを含む。
【0123】
本発明は、VEGF−AxxxまたはVEGFR−2の阻害に相当する状態を有する被検体を処置するための方法を提供する。このような方法は、該被検体に、有効量の本明細書に記載の結合タンパク質を投与することを含む。状態は、不適切な血管新生により特徴付けられる状態であることができる。状態は、超増殖状態(hyperproliferative condition)であることができる。処置のための適当な状態(または障害)の例は、自己免疫障害、炎症性障害、網膜症(特に増殖性網膜症)および癌、特に上記した疾患の1つを含む。本明細書に記載した結合タンパク質のいずれかを、このような障害、特に、自己免疫障害、炎症性障害、網膜症および癌からなる群より選ばれる障害の処置のための医薬の調製のために使用することができる。処置のための好ましい状態(または障害)は、ファーストライン転移性腎細胞癌、再発多形性グリア芽腫(relapsed glioblastoma multiforme)、アジュバント結腸癌(adjuvant colon cancer)、アジュバントHER2−ネガティブ乳癌、アジュバントHER2−ポジティブ乳癌、アジュバント非小細胞肺がん、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma)、ファーストライン進行性胃癌、ファーストラインHER2−ネガティブ転移性乳癌、ファーストラインHER2−ポジティブ転移性乳癌、ファーストライン転移性卵巣癌、消化管間質腫瘍、ハイリスクカルチノイド、ホルモン治療不応性前立腺癌(hormone refractory prostate cancer)、新たに診断された多形性グリア芽腫(newly diagnosed glioblastoma multiforme)、転移性頭部および頸部癌、再発白金感受性卵巣癌、セカンドライン転移性乳癌、進展型小細胞肺癌、前もって処置されたCNS転移おび再発多発性骨髄腫を有する非鱗状非小細胞肺癌、前立腺癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、結腸直腸癌および膵臓癌、進行型卵巣癌(AOC)、症候性悪性腹水および非ホジキンリンパ腫を有するAOC患者、からなる群より選ばれる障害である。
【0124】
本発明に従うリコンビナント結合タンパク質は、いくつかの方法、例えば、バクテリオファージの表面でのディスプレー(WO90/02809、WO07/006665)またはバクテリア細胞の表面でのディスプレー(WO93/10214)、リボソームディスプレー(WO98/48008)、プラスミド上のディスプレー(WO93/08278)または共有結合RNA−反復タンパク質ハイブリッド構築物を使用することにより(WO00/32823)、または細胞内発現および選択/スクリーニング、例えばタンパク質相補アッセイ(WO98/341120)、により得られうるかおよび/または更に発展させられうる。このような方法は当業者に知られている。
【0125】
本発明に従うリコンビナント結合タンパク質の選択/スクリーニングのために使用されるアンキリン反復タンパク質のライブラリーは、当業者に知られているプロトコールにしたがって得られうる(WO 02/020565, Binz, H.K. et al., JMB, 332, 489-503, 2003, and Binz et al., 2004, loc. cit)。選択VEGF−Axxx特異的DARPinsのためのこのようなライブラリーの使用は、実施例1に与えられる。類似して、上記したアンキリン反復配列モチーフは、VEGF−Axxx特異的DARPinsの選択またはスクリーニングのために使用されうるアンキリン反復タンパク質のライブラリーを構築するのに使用されうる。更に、本発明の反復ドメインは、本発明に従う反復モジュールおよび適切なキャッピングモジュール(Forrer, P., et al., FEBS letters 539, 2-6, 2003)から、標準リコンビナントDNA技術(例えば、WO 02/020565, Binz et al., 2003, loc. cit. and Binz et al., 2004, loc. cit)を使用してモジュール式に組み立てられうる。
【0126】
本発明は、実施例に記載の特定の態様に制限されない。他のソースが使用されえそして下記した一般的アウトラインにしたがってプロセシングされうる。
【0127】
実施例
下記した出発物質および試薬のすべては、市販されているか、または周知の技術を使用して製造されうる。
【0128】
物質
化学品は、Fluka(Switzerland)から購入した。オリゴヌクレオチドは、Microsynth((Switzerland)からのものであった。特記しない限り、DNAポリメラーゼ、制限酵素および緩衝剤は、New England Biolabs (USA) または Fermentas (Lithuania)からのものであった。クローニングおよびタンパク質産生株は、E. coli XL1-blue (Stratagene, USA).であった。VEGF変異体は、R&D Systems (Minneapolis, USA)からのものであるかまたはChinese Hamster Ovary Cells または Pichia pastorisにおいて産生されそして標準プロトコールに従って精製された(Rennel, E. S. et al., European J. Cancer 44, 1883-94, 2008; InvitrogenからのPichia発現システム)。ビオチニル化されたVEGF変異体は、標準ビオチニル化試薬および方法(Pierce, USA)を使用する精製されたVEGF変異体の第一級アミンへのビオチン部分のカップリングにより化学的に得られた。
【0129】
分子生物学
特記しない限り、方法は説明されたプロトコールにしたがって行われる(Sambrook J., Fritsch E. F. and Maniatis T., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory 1989, New York)。
【0130】
デザインされたアンキリン反復タンパク質ライブラリー
N2CおよびN3Cデザインされたアンキリン反復タンパク質ライブラリーは記載されている(WO 02/20565; Binz et al. 2003, loc. cit.; Binz et al. 2004, loc. cit.)。N2CおよびN3Cにおける数字は、N−末端キャッピングモジュールとC末端キャッピングモジュール間に存在する無作為化された反復モジュールの数を表す。反復単位およびモジュールの内側の位置を定義するために使用される命名法は、反復モジュールと反復単位との境界が1アミノ酸位置シフトされているという改変を伴って、Binz et al. 2004, loc. citに基づいている。例えば、Binz et al. 2004, (loc. cit)の反復モジュールの位置1は、現時の開示の反復モジュールの位置2に相当し、結果として、Binz et al. 2004, loc. citの反復モジュールの位置33は、現時の開示の次の反復モジュールの位置1に相当する。
【0131】
すべてのDNA配列は、シーケンシングにより確かめられそしてすべての記載されたタンパク質の計算された分子量は質量分析法により確かめられた。
【0132】
実施例1:VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する反復ドメインを含む結合タンパク質の選択
リボソームディスプレイ(Hanes, J. and Pluckthun, A., PNAS 94, 4937-42, 1997)を使用して、VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する多くのデザインされたアンキリン反復タンパク質(DARPins)は、Binz et al. 2004, loc. citにより記載されたN2CまたはN3C DARPinライブラリーから選ばれた。特異的(VEGF−Axxx)および非特異的(MBP,E.coliマルトース結合タンパク質)ターゲットに対して選ばれたクローンの結合は、VEGF−Axxx結合タンパク質が成功的に選ばれたことを示す粗抽出物ELISAにより評価された(図1)。配列番号14〜40は、VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する反復ドメインを含む選ばれた結合タンパク質のアミノ酸配列を構成する。選ばれた結合剤の配列分析は、結合剤のある選ばれたファミリーに固有の特異的アンキリン反復配列モチーフを示した。このようなVEGF−Axxxに対する結合特異性を有する反復ドメインに存在するこのようなアンキリン反復配列モチーフは、配列番号1〜13に与えられる。
【0133】
リボソームディスプレイによるVEGF−Axxx特異的アンキリン反復タンパク質の選択
VEGF−Axxx特異的アンキリン反復タンパク質の選択は、ターゲットタンパク質としてイヌVEGF−A164またはヒトVEGF−A165、記載されたデザインされたアンキリン反復タンパク質のライブラリー(WO 02/020565, Binz et al., 2003, loc. cit. and Binz et al., 2004, loc. cit)および確立されたプロトコール(Zahnd, C., Amstutz, P. and Pluckthun, A., Nat. Methods 4, 69-79, 2007)を使用してリボソームディスプレー(Hanes and Pluckthun, loc. cit.) により行われた。リボソームディスプレイ選択ラウンドは、確立されたプロトコール(Binz et al. 2004, loc. cit.)を使用してN2CおよびN3C DARPinライブラリーの両方によりイヌまたはヒトVEGF変異体(ニュートラアビジンまたはストレプトアビジン上に固定化されたビオチニル化変異体を含む)で行われた。
【0134】
各選択ラウンドの後の逆転写(RT)PCRサイクルの数は、常に40から30に減少させ、結合剤の濃縮による収率に合わせた。イヌVEGF−Axxxでの4つの最初の選択ラウンドは、単一クローンのELIAおよびSPR測定により示されたとおり、ナノモルアフィニティーDARPinsのプールを生成させた。更なる改良されたアフィニティーを有するDARPinsを見出すために、追加のオフレート選択(off-rate selection)をニュートラアビジンまたはストレプトアビジン上に固定化されたビオチニル化されたヒトまたはイヌVEGFで行い、第2および第3初期リボソームディスプレー選択ラウンド後にプールを採取し、次いでヒトVEGFでのオンレート選択(on-rate selection)ラウンドを行う。
【0135】
選ばれたクローンは、粗抽出物ELISAにより示されたとおりVEGF−Axxxに特異的に結合する
VEGF−Axxxに特異的に結合する個々の選択されたDARPinsは、標準プロトコールを使用してDARPins発現細胞の粗Escherichia coli抽出物を使用する酵素結合免疫吸着法(ELISA)により同定された。選択されたクローンをpQE30(Qiagen)発現ベクターにクローニングし、E. coli XL1-Blue (Stratagene)にトランスフォーメーションし、次いで1ml増殖培地(1%グルコースおよび100μg/mlアンピシリンを含有する2YT)を含有する96ディープウエルプレート(1つのウエルに各クローン)中で37℃で一夜増殖させた。50μg/mlアンピシリンを含有する新しい2YT1mlに新しい96ディープウエルプレートにおいて一夜培養物100μlを接種した。37℃で2時間インキュベーションの後、発現をIPTG(1mM最終濃度)で誘導しそして3時間続けた。細胞を収穫し、100μlB−PERll(Pierce)中に再懸濁させそして振とうしながら室温で15分間インキュベーションした。次いで、900μlPBS−TB(0.2%BSA、0.1%Tween20を補充されたPBS、pH7.4)を加えそして細胞デブリスを遠心により除去した。各溶解したクローン100μlを、ビオチン部分を介して固定化されたVEGF−Axxx変異体または無関係のMBPを含有するニュートラアビジンコーティングされたMaxiSorpプレートのウエルに適用しそして室温で1時間インキュベーションした。PBS−T(0.1%Tween20を補充されたPBS、pH.4)で徹底的に洗浄した後、一次抗体としてモノクローナル抗RGS(His)抗体(34650、Qiagen)および二次試薬としてアルカリホスファターゼ(A3562、Sigma)とコンジュゲーションされたポリクローナルヤギ抗マウス抗体を使用して標準ELISA法を使用してプレートを発色させた。次いでアルカリホスファターゼのための基質として4−ニトロフェニル−リン酸二ナトリウム(4NPP、Fluka)を使用することにより結合を検出した。カラーの発色を405nmで測定した。VEGF−AxxxへのDARPins結合を同定するために使用された実施例の粗抽出物ELISAからの結果は、図1に示される。このような粗細胞抽出物ELISAによる数百のクローンのスクリーニングは、VEGF−Axxxに対する特異性を有する100より多くの異なるDARPinsを示した。これらの結合タンパク質は、更なる分析のために選択された。VEGF−Axxxに特異的に結合する選択されたアンキリン反復ドメインのアミノ酸配列の例は、配列番号14〜40に与えられる。
【0136】
VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する選択された反復ドメインから反復配列モチーフを推定すること
VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する選択された反復ドメインのアミノ酸配列を、当業者に知られている配列分析ツールにより更に分析した(WO 02/020565; Forrer et al., 2003, loc. cit.; Forrer, P., Binz, H.K., Stumpp, M.T. and Pluckthun, A., ChemBioChem, 5(2), 183-189, 2004)。にもかかわらず、天然に存在する反復モチーフを使用して反復配列モチーフ推定したWO02/020565とは対照的に、ここでは、反復配列モチーフは、VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する選択された反復ドメインの反復単位から推定された。それにより、共通の反復配列モチーフを含む選択された反復ドメインのファミリーを決定した。VEGF−Axxxに対する結合特異性を有する選択された反復ドメインに存在するこのような反復配列モチーフは、配列番号1〜13に与えられる。
【0137】
DARPinsの高レベルかつ可溶性発現
更なる分析のために、上記した粗細胞抽出物ELISAにおける特異的VEGF−Axxx結合を示す選択されたクローンを、E. coli XL1-ブルー細胞において発現させそして標準プロトコールを使用しそれらのHisタグを使用して精製した。定常的一夜培養物(LB、1%グルコース、100mg/lのアンピシリン、37℃)25mlを使用して1l培養物(同じ培地)に接種した。A(600)=0.7において、培養物を0.5mMIPTGで誘導しそして37℃で4時間インキュベーションした。培養物を遠心しそして得られるペレットをTBS500(50mMTris−HCl、500mMNaCl、pH8)中に再懸濁させたそして音波処理した。ライセートを再遠心しそしてグリセロール(10%(v/v)最終濃度)およびイミダゾール(20mM最終濃度)を得られる上清に加えた。
タンパク質をNi−ニトリロトリ酢酸カラム(2.5mlカラム容積)で製造者のインストラクション(QIAgen, Germany)にしたがって精製した。VEGF−Axxxへの結合特異性を有する高度に溶解性のDARPins200mgまでをSDS−15%PAGEで評価して純度>95%でE. coli培養物1リットルから精製した。このような精製したDARPinsを更なる特徴付けのために使用する。
【0138】
実施例2:スフェロイドアウトグロースアッセイにおけるVEGF−AXxxxに対する結合特異性を有する選択されたDARPinsのIC50値の決定
コラーゲンマトリックスに埋め込まれたHUVECスフェロイドへのVEGF−Axxxの添加は、スフェロイド新芽形成をもたらす。VEGF−Axxxの阻害剤の添加は、新芽形成を妨害するであろう。新芽形成は、新芽の数および長さにより統計的に定量されうる。異なる濃度の阻害剤および一定量のVEGFを加えることにより、IC50を決定することができる。
【0139】
VEGF−Axxx特異的DARPinsによるスフェロイド新芽形成の阻害
スフェロイド新芽形成アッセイは、標準プロトコール(Korff et al., loc. cit.)に従ってなされた。VEGF−Axxxに対する特異性を有するDARPinsを選択しそして実施例1に記載のとおり>96%純度に精製した。ヒト臍体静脈細胞を単層培養でコンフルエンシーまで増殖させた。トリプシン処理後、細胞懸濁液を懸滴中に入れてスフェロイド、即ち、約500で構成された凝集されたHUVECsを形成する。スフェロイドをコラーゲンマトリックス中に埋め込みそしてVEGF−A165で刺激して新芽アウトグロースを開始させた。新芽形成阻害剤を更に加えて新芽形成阻害に対するそれらの効果を観察した。スフェロイド当たり新芽数および新芽長さをグラフィックソフトウエアを使用して定量した。
【0140】
2つの実施例スフェロイド新芽形成アッセイからの結果を図2a(VEGF−Axxxに対する結合特異性を有するDARPins#30)および図2b(DARPin NC、VEGF−Axxxに対する結合特異性を持たないネガティブコントロールDARPin;例えばDARPinE3_5(Binz et al., 2005, loc. cit.))に示す。このアッセイにおける最善の性能のDARPinsは、10〜50pMの範囲のIC50値を示したが、Avastin(登録商標)、Lucentis(登録商標)およびMacugen(登録商標)は、並行実験において150〜500pMの範囲のIC50値を示した。
【0141】
実施例3:表面プラズモン共鳴分析によるAvastin(登録商標)と比較してDARPins#27のターゲット特異性の決定
イヌVEGF−A164またはイヌVEGF−A164bをフローセル内に固定化しそしてDARPins#27(配列番号16)およびAvastin(登録商標)の固定化されたターゲットとの相互作用を分析した。
【0142】
表面プラズモン共鳴(SPR)分析
ProteOn機器(BioRad)を使用してSPRを測定した。ランニングバッファーは、20mMHEPES、pH.7.4、150mMNaClおよび0.005%Tween20であった。約1200RUのイヌVEGF−A164またはイヌVEGF−A164bをGLCチップ(BioRad)上に固定化した。相互作用を、60μl/分の流量で5分バッファー流、250mMの濃度のAvastin(登録商標)またはDARPin#27の100秒の注射およびバッファー流で数分のオフレート測定で測定した。コーティングされていない最小細胞のシグナルを測定値から減じた。
【0143】
結果を、図3a(イヌVEGF−A164とAvastinの相互作用)、図3b(イヌVEGF−A164bとAvastinの相互作用)、図3c(イヌVEGF−A164とDARPin#27の相互作用)および図3d(イヌVEGF−A164bとDARPins#27の相互作用)に示す。これに対してAvastinは、固定化されたVEGFアイソフォームの両方と明らかに相互作用し、DARPin#27は、VEGF−A164との相互作用のみを示しそしてVEGF−A164bとの相互作用を示さない。
【0144】
実施例4:血管漏出ウサギモデルにおいてVEGF−A165を阻害することにおけるDARPin#30のin vivo効能
ペグ化DARPins#30(配列番号29)またはLucentis(登録商標)をウサギの眼への硝子体内注射により適用して、ヒトVEGF−A165のその後の硝子体内注射により誘導される血管漏出を阻害するためのそれらの効能を試験した。
【0145】
ウサギにおける血管漏出阻害
1日目に、PBS、ペグ化DARPin#30(125μg)または等モル量のLucentis(登録商標)(162μg)を各ウサギの1つの眼(処理された眼)への硝子体内注射により適用した。4日目または30日目に、各ウサギの処理された眼は、500ngのヒトVEGF−A165の硝子体内注射によりチャレンジされた。すべての動物の両眼を、フルオレセインナトリウム(50mg/kg動物体重、0.9%(w/v)生理的食塩水中の10%(w/v))の静脈内注射の1時間後にすべての眼におけるフルオレセイン含有率を測定することによりVEGF−A165注射の48時間後に評価した。処理された眼および処理されていない眼における蛍光の量の比をすべての動物について計算した。1の比は処理された眼における追加の蛍光漏洩の不存在に相当し、1より大きい比は、処理されていないコントロール眼におけるよりも処理された眼におけるより高い蛍光漏洩を示す。
【0146】
ペグ化DARPinの製造
1個のCys残基およびマレイミド化学を利用することによるタンパク質のペグ化は、当業者に周知でありそして確立されたプロトコール(例えばPierceからの)に従って行うことができる。追加のC末端リンカー(GGGSGGGSC、配列番号41)を含むDARPin#30を標準クロマトグラフィー法を使用して均質性近くまで精製した。タンパク質をDTTを使用して完全に還元しそしてゲルろ過により精製してDTTを除去しそしてPBSによりバッファーを交換した。PBSに溶解したPEG−マレイミド(メトキシ−ポリ(エチレングリコール)−オキソプロピルアミノ−プロピルマレイミド;NOF、no.Sunbright ME-200MA)を、約15%モル過剰のPEG−マレイミドでPBS中のDARPinと室温で2〜4時間混合する。次いで、ペグ化DARPinを、反応しなかったDARPinおよび反応しなかったPEG部分から標準アニオン交換クロマトグラフィーを使用することにより分離する。
【0147】
結果を図4に示す。ペグ化DARPin#30およびLucentis(登録商標)の両方とも、それらが硝子体内注射により適用された4日後VEGF−A165で誘導された血管漏出からウサギの眼を保護することができた。にもかかわらず、ペグ化DARPin#30のみは硝子体内注射の30日までの後VEGF−A165で誘導された血管漏出からウサギの眼を保護することができ、そしてLucentis(登録商標)は保護することができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの反復ドメインを含むリコンビナント結合タンパク質であって、該反復ドメインは、10−7M以下のKdでVEGF−Axxxに結合しそしてVEGFR−2へのVEGFxxxの結合を阻害する、リコンビナント結合タンパク質。
【請求項2】
前記反復ドメインが10nM以下のIC50でHUVECスフェロイドの新芽形成を阻害する、請求項1に記載の結合タンパク質。
【請求項3】
前記反復ドメインとVEGF−Axxxbとの相互作用についてのKdが、該反復ドメインと対応するVEGF−Axxxとの相互作用についてのKdに比較して少なくとも10倍高い、請求項1に記載の結合タンパク質。
【請求項4】
前記反復ドメインがアンキリン反復ドメインである、請求項1に記載の結合タンパク質。
【請求項5】
前記アンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23GWTPLHL4ADLG5LEIVEVLLK6GADVN7(配列番号4)
(式中、
は、K、TおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基NまたはMを表し、
は、アミノ酸残基TまたはFを表し、
は、アミノ酸残基SまたはAを表し、
は、アミノ酸残基HまたはRを表し、
は、A、Y、HおよびNからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し、
は、アミノ酸残基AまたはTを表す)
を有する反復モジュールを含む、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項6】
前記アンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPLHLAA56GH7EIVEVLLK8GADVNA(配列番号5)
(式中、
は、A、N、R、V、Y、E、H、I、K、L、Q、SおよびTからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、S、A、N、R、D、F、L、P、TおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、T、V、S、A、LおよびFからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、W、FおよびHからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、P、I、A、L、S、T、VおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、W、F、I、L、TおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基LまたはPを表し;そして
は、A、H、NおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項7】
前記アンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23GWTPLHLAA45GHLEIVEVLLK6GADVNA(配列番号7)
(式中、
は、K、M、N、RおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、Y、H、MおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、F、L、MおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、R、H、V、A、KおよびNからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、F、D、H、T、Y、MおよびKからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;そして
は、A、H、NおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項8】
前記アンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1DFK2DTPLHLAA34GH5EIVEVLLK6GADVNA(配列番号10)
(式中、
は、L、SおよびTからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、G、SおよびCからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基SまたはAを表し;
は、Q、S、MおよびNからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、L、MおよびQからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;そして
は、A、H、N、YおよびDからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項9】
前記アンキリン反復ドメインが、アンキリン反復配列モチーフ
1D23G4TPL5LAA67GHLEIVEVLLK8GADVNA(配列番号12)
(式中、
は、K、S、I、N、TおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、K、N、W、A、H、M、QおよびSからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、F、Q、L、HおよびVからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;
は、アミノ酸残基FまたはTを表し;
は、アミノ酸残基QまたはHを表し;
は、アミノ酸残基YまたはSを表し;
は、N、H、YおよびMからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表し;そして
は、A、H、NおよびYからなる群より選ばれるアミノ酸残基を表す)
を有する反復モジュールを含む、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項10】
前記アンキリン反復ドメインが配列番号6のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールを含み、該反復モジュールは前に配列番号5のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールが配置されている、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項11】
前記アンキリン反復ドメインが配列番号3のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールを含み、該反復モジュールは前に配列番号2のアンキリン反復配列モチーフを有する反復モジュールが配置されており、および/または後に配列番号4のアンキリン反復配列モチーフを有する反復ドメインが続く、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項12】
前記反復ドメインが、配列番号16、22、23、29、30、33、34、36、39および40からなる群より選ばれるアンキリン反復ドメインと、VEGF−Axxxへの結合について競合する、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項13】
前記アンキリン反復ドメインが配列番号14〜40からなる群より選ばれる、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項14】
前記アンキリン反復ドメインが、配列番号14〜40からなる群より選ばれる1つのアンキリン反復ドメインと少なくとも75%のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項15】
前記反復ドメインの反復モジュールのアミノ酸残基の1つ以上が、反復単位のアライメントにおける対応する位置に見出されるアミノ酸残基により交換されている、請求項4に記載の結合タンパク質。
【請求項16】
非タンパク質性ポリマー部分を更に含む、請求項1〜15のいずれか1つに記載の結合タンパク質。
【請求項17】
請求項1〜15のいずれか1つに記載の結合タンパク質をコードする核酸。
【請求項18】
請求項1〜16のいずれか1つの結合タンパク質または請求項17に記載の核酸および場合により薬学的に許容されうる担体および/または希釈剤を含む、薬学的組成物。
【請求項19】
眼障害の処置のための請求項18に記載の薬学的組成物。
【請求項20】
病理学的血管新生を処置することを必要とする患者に、有効量の請求項1〜17のいずれかに記載の化合物を投与することを含む、ヒトを含む哺乳動物における病理学的血管新生を処置する方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−507271(P2012−507271A)
【公表日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533752(P2011−533752)
【出願日】平成21年11月3日(2009.11.3)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064483
【国際公開番号】WO2010/060748
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(511109065)モレキュラー・パートナーズ・アーゲー (1)
【氏名又は名称原語表記】MOLECULAR PARTNERS AG
【Fターム(参考)】