説明

VEGF媒介性活性を遮断することにより糖尿病を処置する方法

VEGF媒介性活性を遮断または阻害することによる、哺乳動物(特にヒト)において糖尿病を処置する方法。VEGF媒介活性の好ましいインヒビターは、VEGFに結合および遮断することが可能であるVEGFアンタゴニスト(例えばVEGFトラップ)である。哺乳動物における糖尿病の処置のための医薬の調製における、VEGF媒介性活性を遮断、阻害、または回復することが可能な薬剤の使用が提供される。ここで、前記糖尿病の処置は、減少した血清グルコース濃度、改善したグルコース耐性、増大したインスリン感受性、減少した高インスリン血症および改善された血糖制御のうちの一つ以上をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明の分野は、一般的に、血清グルコースレベルを減少させることが可能な薬剤を投与することにより糖尿病を処置する方法に関する。特に、本発明の分野は、VEGF媒介性活性を遮断、阻害または回復することが可能な薬剤を投与することにより糖尿病を処置する方法である。
【背景技術】
【0002】
(関連分野の説明)
抗VEGF抗体で処理されたdb/dbマウス(2型糖尿病のマウスモデル)は、糖尿病性の腎臓変化の回復を示すが、体重、血清グルコースレベル、インスリンレベルまたは食物消費の減少を示さないことが報告されている(Flyvjergら、(2002)Diabetes 51:3090−3094)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の簡単な要旨)
第1の局面において、本発明は、糖尿病を処置する方法を特徴とし、この方法は、VEGF媒介性活性を遮断、阻害または回復することが可能な薬剤を哺乳動物に投与する工程を包含する。具体的な実施形態において、本発明の処置方法は、減少した血清グルコースレベル、改善したグルコース耐性、改善したインスリン感受性、減少した高インスリン血症および/または改善した血糖制御をもたらす。
【0004】
具体的な実施形態において、上記処置される糖尿病は、2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病(NIDDM)とも呼ばれる)である。特定の状態において、1型糖尿病または妊娠糖尿病もまた、処置され得る。
【0005】
VEGF媒介性活性を遮断、阻害、または回復することが可能な薬剤は、具体的な実施形態において、VEGFアンタゴニストである。より具体的には、このVEGFアンタゴニストとしては、アセチル化された、Flt−1(1−3)−Fc、Flt−1(1−3R→N)−Fc、Flt−1(1−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3)−Fc、Flt−1D2−VEGFR3D3−FcΔC1(a)、Flt−1D2−Flk−1D3−FcΔC1(a)、およびVEGFR1R2−FcΔC1(a)からなる群より選択される、VEGFトラップ(trap)が挙げられる。他の具体的な実施形態において、上記薬剤は、抗体、脂質、核酸、低分子、アプタマー、アンチセンス分子、糖質、ペプチド模倣物、またはハプテンである。
【0006】
上記薬剤の投与は、当該分野で公知の任意の方法(皮下投与経路、筋肉内投与経路、皮内投与経路、腹腔内投与経路、静脈内投与経路、鼻腔内投与経路、または経口投与経路を含む)により得る。
【0007】
上記処置される哺乳動物は、好ましくは、糖尿病を罹患するヒト被験体である。また、本発明の方法による処置に適するのは、2型糖尿病の一つ以上の症状または2型糖尿病の発症に関連する状態(例えば、インスリン抵抗性、脂質代謝異常(dyslipidemia)、多嚢胞卵巣症候群、肥満、高血糖症、高脂血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高インスリン血症および高血圧)の一つ以上の症状を示す、2型糖尿病を発症する危険のある被験体である。
【0008】
第2の局面において、本発明は、哺乳動物において2型糖尿病の進行を阻害または緩徐化する方法を特徴とし、この方法は、哺乳動物に、VEGF媒介性活性を遮断または阻害することが可能な薬剤を投与する工程を包含する。
【0009】
第3の局面において、本発明は、グルコース耐性またはインスリン感受性を改善することを必要としている哺乳動物において、グルコース耐性またはインスリン感受性を改善する方法を特徴とし、この方法は、哺乳動物に、VEGF媒介性活性を遮断または阻害することが可能な薬剤を投与する工程を包含する。
【0010】
他の目的および利点は、続く詳細な説明を概観することにより明らかになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(詳細な説明)
本方法を記載する前に、本発明は、記載される特定の方法および実験条件に限定されないことが理解されるべきである。なぜなら、そのような方法および条件は、変化し得るからである。本明細書中で使用される用語は、特定の実施形態を記載するためだけのものであり、限定的であることは意図されないこともまた、理解されるべきである。なぜなら、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるからである。
【0012】
本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、単数形「a」、「an」および「the」は、その文脈が明らかに他のように示さない限りは、複数の言及物を包含する。従って、例えば、「方法(a method)」に対する言及は、本明細書中に記載されそして/または本開示などを読むと当業者にとって明らかになる型の、一つ以上の方法および/もしくは工程を包含する。
【0013】
他のように定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されるのと類似するかまたは等しい任意の方法および材料が、本発明の実施または試験において使用され得るが、好ましい方法および材料が、ここに記載される。本明細書中で言及されるすべての刊行物は、その全体が参考として本明細書中に援用される。
【0014】
(一般的説明)
本発明は、VEGF媒介性活性を遮断または阻害することが可能な薬剤の投与が、糖尿病の哺乳動物において、血清グルコースを減少し、グルコース処理を改善することが可能であるという発見に、部分的に基づく。これらの発見は、VEGF媒介性活性を遮断または阻害することが可能な薬剤が、糖尿病を回復することと示されたことを初めて表す。従って、本発明は、VEGFアンタゴニストを投与することにより、哺乳動物において糖尿病を処置する方法を提供する。より具体的には、本発明の方法は、VEGFアンタゴニスト(例えば、以下に示されるVEGFトラップまたはVEGF特異的抗体)を用いて実行され得る。
【0015】
(定義)
用語「治療上有効な用量」により、望ましい効果(そのために、この用量が投与される)を生じる用量が意味される。正確な用量は、その処置の目的に依存し、公知の技術(例えば、Lloyd(1999)The Art,Science and Technology of Pharmaceutical Compounding参照)を使用して、当業者により確認可能である。
【0016】
用語「ブロッカー」、「インヒビター」、または「アンタゴニスト」によって、化学反応もしくは化学的応答、または生理反応もしくは生理的応答を、遅延または防止する物質が意味される。一般的なブロッカーまたはインヒビターとしては、アンチセンス分子、抗体、アンタゴニスト、およびそれらの誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。より具体的には、VEGFブロッカーまたはVEGFインヒビターの例は、VEGFレセプターベースのアンタゴニストであり、これには、例えば、抗VEGF抗体またはVEGFトラップ(例えば、VEGFR1R2−FcΔC1(a)(配列番号1〜2)が挙げられる。VEGFレセプターベースのアンタゴニスト(VEGFR1R2−FcΔC1(a)を含む)の完全な説明については、PCT公開公報WO/00/75319(この内容は、その全体が参考として本明細書中に援用される)を参照されたい。
【0017】
「低分子」とは、約500ダルトン未満の分子量を有すると本明細書中で定義され、化学物質およびペプチド分子を包含し得る。
【0018】
(核酸構築物)
本発明のVEGF特異的融合タンパク質の個々の成分は、本明細書により提供される指示を伴って、当該分野で公知の分子生物学的方法により構築され得る。これらの成分は、第一細胞レセプタータンパク質(例えば、VEGFR1);第二細胞レセプタータンパク質(例えば、VEGFR2);多量体化成分(例えば、Fc)から選択される。
【0019】
本発明の方法において有用なVEGF特異的融合タンパク質の具体的実施形態は、その融合タンパク質が(例えば、多量体(好ましくは、二量体)として)会合するのを可能にする、多量体化成分を含む。好ましくは、上記多量体化成分は、免疫グロブリン由来のドメインを含む。適切な多量体化成分は、免疫グロブリン重鎖ヒンジ領域をコードする配列(Takahashiら、1982 Cell 29:671〜679)、免疫グロブリン遺伝子配列、およびそれらの部分である。
【0020】
本発明の方法において有用な融合タンパク質をコードする核酸構築物は、当該分野で公知の方法により発現ベクター中に挿入され、この核酸分子は、発現制御配列に作動可能に連結されている。タンパク質の生成用の宿主−ベクター系(そのタンパク質の発現のために適切な宿主細胞中に導入される発現ベクターを含む)は、当該分野で公知である。その適切な宿主細胞は、細菌細胞(例えば、E.coli)、酵母細胞(例えば、Pichia pastoris)、昆虫細胞(例えば、Spodoptera frugiperda)、または哺乳動物細胞(例えば、COS細胞、CHO細胞、293細胞、BHK細胞、もしくはNS0細胞)であり得る。
【0021】
(アンチセンス核酸)
本発明の一局面において、VEGF媒介性活性が、VEGFアンチセンス核酸の使用によって遮断または阻害される。本発明は、VEGFをコードする遺伝子もしくはcDNAまたはその一部に対してアンチセンスである少なくとも6ヌクレオチドを含む、核酸の治療的使用または予防的使用を提供する。本明細書中で使用される場合、VEGF「アンチセンス」核酸とは、VEGFをコードするRNA(好ましくは、mRNA)の一部に対して相補的ないくらかの配列によってハイブリダイズすることが可能な、核酸を指す。上記アンチセンス核酸は、VEGFをコードするmRNAのコード領域および/または非コード領域に対して相補的であり得る。そのようなアンチセンス核酸は、VEGF発現を防止する化合物として有用性を有し、そして糖尿病の治療において使用され得る。本発明のアンチセンス核酸は、二本鎖または一本鎖のオリゴヌクレオチド、RNAもしくはDNA、あるいはそれらの改変形または誘導体であり、そのアンチセンス核酸は、細胞に直接投与されても、または導入された外因性配列の転写により細胞内で生成されてもよい。
【0022】
上記VEGFアンチセンス核酸は、少なくとも6ヌクレオチドであり、好ましくは、6オリゴヌクレオチド〜約50オリゴヌクレオチドの範囲のオリゴヌクレオチドである。具体的局面において、上記オリゴヌクレオチドは、少なくとも10ヌクレオチド、少なくとも15ヌクレオチド、少なくとも100ヌクレオチド、または少なくとも200ヌクレオチドである。上記オリゴヌクレオチドは、DNA、もしくはRNA、またはそれらのキメラ混合物もしくは誘導体もしくは改変形態であり得、そして一本鎖であっても二本鎖であってもよい。さらに、上記アンチセンス分子は、核酸模倣物であるポリマー(例えば、PNA、モルホリノオリゴ、およびLNA)であり得る。他の型のアンチセンス分子としては、短い二本鎖RNA(siRNAとして公知である)および短いヘアピンRNA、ならびに長いdsRNA(>50bpであるが通常は≧500bpである)が挙げられる。
【0023】
(阻害リボザイム)
本発明の局面において、糖尿病は、このような疾患を罹患している被験体において、VEGFをコードする遺伝子mRNA転写物を触媒的に切断するように設計されたリボザイム分子を使用し、標的遺伝子mRNAの翻訳(従って、その遺伝子産物の発現)を防止することによって、VEGF活性レベルを減少することによって、処置され得る。
【0024】
リボザイムは、RNAの特異的切断を触媒することが可能な酵素的RNA分子である。リボザイムの作用機構は、相補的な標的RNAに対するそのリボザイム分子の配列特異的ハイブリダイゼーション、その後のヌクレオチド鎖切断事象を含む。リボザイム分子の組成は、その標的遺伝子mRNAに対して相補的な一つ以上の配列を含まなければならず、そしてmRNA切断を担う周知の触媒配列を含まなければならない。この配列については、例えば、米国特許第5,093,246号を参照のこと。部位特異的認識配列でmRNAを切断するリボザイムが、VEGFをコードするmRNAを破壊するために使用され得るが、ハンマーヘッドリボザイムの使用が、好ましい。ハンマーヘッドリボザイムは、その標的mRNAと相補的塩基対を形成する隣接領域により指示される位置でmRNAを切断する。唯一の必要条件は、その標的mRNAが、2塩基の配列(5’−UG−3’)を有することである。ハンマーヘッドリボザイムの構築および生成は、当該分野で周知である。本発明のリボザイムはまた、RNAエンドリボヌクレアーゼ(本明細書中で以後「Cech型リボザイム」)(例えば、Tetrahymena thermophila中に天然に存在するRNAエンドリボヌクレアーゼ(IVSまたはL−19 IVS RNAとして公知である))を含む。このCech型リボザイムは、標的RNA配列にハイブリダイズする8塩基対活性部位を有し、この部位の後で、その標的RNAの切断が生じる。本発明は、VEGFをコードする遺伝子中に存在する8塩基対活性配列を標的とする、Cech型リボザイムを包含する。
【0025】
(VEGFタンパク質に対する抗体の生成)
本発明の別の局面において、本発明は、VEGF活性を結合および遮断することが可能な、抗VEGF抗体または抗体フラグメントを用いて実施され得る。抗VEGF抗体は、例えば、米国特許第6,121,230号(本明細書中に参考として具体的に援用される)において開示される。用語「抗体」とは、本明細書中で使用される場合、抗原に特異的に結合してその抗原を認識する、免疫グロブリン遺伝子またはそのフラグメント由来のフレームワーク領域を含むポリペプチドを指す。認識される免疫グロブリン遺伝子は、κ定常領域、λ定常領域、α定常領域、γ定常領域、δ定常領域、ε定常領域、およびμ定常領域、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、κまたはλのいずれかとして分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεとして分類され、これはさらに、それぞれ免疫グロブリンクラスであるIgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEを規定する。各IgGクラス中には、種々のアイソタイプ(例えば、IgG、IgGなど)が存在する。代表的には、抗体の抗原結合領域は、結合特異性および結合親和性を決定する際に最も重要である。
【0026】
抗体は、インタクトな免疫グロブリンとして、または種々のペプチダーゼを用いた消化により生成される充分に特徴付けられた多数のフラグメントとして、存在する。例えば、ペプシンは、ヒンジ領域中のジスルフィド結合の下で抗体を消化して、F(ab)’(Fabのダイマー)を生成する。これ自体は、ジスルフィド結合によりV−C1に結合した軽鎖である。このF(ab)’は、ヒンジ領域中のジスルフィド結合を破壊するように穏やかな条件下で還元され得、それによりこのF(ab)’ダイマーは、Fab’モノマーへと変換される。このFab’モノマーは、本質的にはFabであり、ヒンジ領域部分を備える。種々の抗体フラグメントが、インタクトな抗体の消化に関して定義されるが、当業者は、そのようなフラグメントが、化学的に、または組換えDNA方法論を使用することにより、新規に合成され得ることを認識する。従って、用語「抗体」とはまた、本明細書中で使用される場合は、抗体全体の改変により生成される抗体フラグメント、または組換えDNA方法論を使用して新規に合成される抗体フラグメント(例えば、単鎖Fv(scFv))、またはファージディスプレイライブラリーを使用して同定される抗体フラグメント(例えば、McCaffertyら(1990)Nature 348:552〜554参照)のいずれかを含む。
【0027】
抗体を調製するための方法は、当該分野で公知である。例えば、KohlerおよびMilstein(1975)Nature 256:495〜497;HarlowおよびLane(1988)Antibodies:a Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Lab.,Cold Spring Harbor,NYを参照のこと。目的とする抗体の重鎖をコードする遺伝子および軽鎖をコードする遺伝子は、細胞からクローニングされ得る。例えば、モノクローナル抗体をコードする遺伝子は、ハイブリドーマからクローニングされ得、そして組換えモノクローナル抗体を生成するために使用され得る。モノクローナル抗体の重鎖をコードする遺伝子ライブラリーおよび軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーはまた、ハイブリドーマまたは形質細胞から生成され得る。重鎖遺伝子産物および軽鎖遺伝子産物のランダムな組み合わせにより、種々の抗原特異性を有する抗体の大きなプールが生成される。単鎖抗体または組換え抗体を生成するための技術(米国特許第4,946,778号;米国特許第4,816,567号)が、本発明の融合タンパク質および方法において使用される抗体を生成するために適合され得る。また、トランスジェニックマウスまたは他の生物(例えば、他の哺乳動物)が、ヒト抗体またはヒト化抗体を発現するために使用され得る。あるいは、ファージディスプレイ技術が、選択された抗原に特異的に結合する、抗体およびヘテロマーFabフラグメントを同定するために使用され得る。
【0028】
(抗体のスクリーニングおよび選択)
好ましい抗体のスクリーニングおよび選択は、当該分野で公知である種々の方法により実施され得る。標的抗原に対して特異的なモノクローナル抗体の存在についての初期スクリーニングが、例えば、ELISAベースの方法の使用を介して実施され得る。二次スクリーニングは、好ましくは、本発明の多重特異的融合タンパク質の構築において使用するために望ましいモノクローナル抗体を同定および選択するために実施される。二次スクリーニングは、当該分野で公知の適切な任意の方法を用いて実施され得る。ある好ましい方法(「バイオセンサー修飾補助プロファイリング(「BiaMAP」)と呼ばれる)が、同時係属中の米国特許出願番号60/423,017(2002年11月01日出願)(本明細書中にその全体が参考として具体的に援用される)に記載される。BiaMAPは、望ましい特徴を有するモノクローナル抗体を生成するハイブリドーマクローンの迅速な同定を可能にする。より具体的には、モノクローナル抗体は、抗体:抗原相互作用の評価に基づいて、別個のエピトープ関連グループへと選別される。
【0029】
(処置集団)
糖尿病に罹患する人々の数は、2009年までに3億人に達すると予測され(Type2 Diabetes Prediction and Prevention(1999)G.A.Hitman編、John Wiley & Sons)、その約80〜90%が2型糖尿病である。糖尿病性網膜症は、失明の主要な原因であり;糖尿病の他の合併症としては、腎臓疾患、足の障害および神経障害の状態が挙げられる。1型糖尿病すなわちインスリン依存性糖尿病(IDDM)において、脾臓のインスリン産生B細胞は、恐らく自己免疫疾患であるものによって破壊される。インスリンの置換が、好ましい治療法である。
【0030】
2型糖尿病すなわちインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)の病因は、B細胞の欠損およびインスリン抵抗性の両方から生じると決定されてきた。従って、2型NIDDMを有する患者は、(2型糖尿病の初期段階の間の)インスリンの過剰分泌および標的組織におけるインスリンに対する抵抗性という、二つの生理学的な欠陥を有する。従って、NIDDMの第1の段階において、上昇したインスリンレベルに対するインスリン抵抗性が実証可能であるにもかかわらず、血漿グルコースレベルは正常である。第2の段階において、インスリン抵抗性は、増加したインスリンにもかかわらず、摂食後高血糖症が発症するほど悪化する。2型糖尿病の第3の段階または後期において、インスリン抵抗性は変化しないが、インスリン分泌の低下は、空腹時高血糖症および顕性糖尿病を引き起こす。
【0031】
インスリン抵抗性に関連する障害としては、NIDDM、糖尿病性血管障害、アテローム性動脈硬化症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経障害および糖尿病性の眼の合併症(例えば、網膜症、白内障形成および緑内障)ならびに糖質コルチコイド誘発性インスリン抵抗性、脂質代謝異常(dyslipidemia)、多嚢胞性卵巣症候群、肥満、高血糖症、高脂血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高インスリン血症および高血圧が挙げられる。
【0032】
それゆえ、本発明の方法により処置されるべき集団は、NIDDMに罹患している被験体であり、インスリン抵抗性に罹患している被験体であり、そしてNIDDMまたはインスリン抵抗性を悪化させる危険のある被験体である。さらに、NIDDMに関連する一つ以上の症状を有する被験体は、本発明の方法による処理についての候補者である。NIDDMを発症する危険のある患者またはNIDDMに罹患している患者の診断は、好ましくは適格な臨床医によって実施される。NIDDMを診断するための方法は、例えば、米国特許第5,719,022号(本明細書中に参考として具体的に援用される)に記載される。
【0033】
(投与方法)
本発明は、有効量の本発明の薬剤を被験体に投与する工程を包含する、処置方法を提供する。好ましい局面において、その薬剤は、実質的に精製されている(例えば、その効果を制限する物質も、望ましくない副作用を生じる物質も、実質的には含まない)。その被験体は、好ましくは動物(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなど)であり、好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。
【0034】
種々の送達系が、公知であり、本発明の薬剤を投与するために使用され得る(例えば、リポソーム中へのカプセル化、微粒子、マイクロカプセル、その化合物を発現可能な組換え細胞、レセプター媒介性エンドサイトーシス(例えば、WuおよびWu、1987、J.Biol.Chem.262:4429〜4432参照)、レトロウイルスベクターまたは他のベクターの一部としての核酸の構築など)。導入方法は、経腸的または非経口的であり得、これには、皮内経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻内経路、および経口経路が含まれるが、これらに限定されない。上記化合物は、任意の従来経路によって(例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮内層または粘膜皮膚内層(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜、および腸粘膜など)を通る吸収によって)投与され得、他の生物学的に活性な薬剤とともに投与され得る。投与は、全身投与であっても、局所投与であってもよい。投与は、急性であっても、慢性(例えば、毎日、毎週、毎月など)であっても、他の薬剤と組み合わせてもよい。
【0035】
別の実施形態において、上記活性な薬剤は、小胞(特に、リポソーム)(Langer(1990)Science 249:1527〜1533参照のこと)中で送達され得る。なお別の実施形態において、上記活性な薬剤は、制御放出系において送達され得る。一実施形態において、ポンプが使用され得る(Langer(1990)(前出)参照)。別の実施形態において、ポリマー物質が、使用され得る(Howardら(1989)J.Neurosurg.71:105参照)。本発明の活性な薬剤が、タンパク質をコードする核酸である別の実施形態において、その核酸は、適切な核酸発現ベクターの一部としてその核酸を構築し、その核酸が細胞内核酸になるように投与することによって(例えば、レトロウイルスベクターを使用して(例えば、米国特許第4,980,286号参照)、または直接注射により、または微粒子ボンバードメント(例えば、遺伝子銃;Biolistic,Dupont)を使用して、または脂質もしくは細胞表面レセプターもしくはトランスフェクト剤でコーティングすることにより、または核に侵入することが公知であるホメオボックス様ペプチド(例えば、Joliotら、1991、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:1864〜1868参照)に連結されているその核酸を投与することなどによって)、その核酸によりコードされるタンパク質の発現を促進するようにインビボで投与され得る。あるいは、核酸は、細胞内に導入され得、そして例えば、相同組換えによって、発現のための宿主細胞DNA内に組み込まれ得る。
【0036】
(細胞トランスフェクションおよび遺伝子治療)
本発明は、インビトロおよびインビボにおける細胞のトランスフェクションのための、本発明のVEGF特異的融合タンパク質をコードする核酸の使用を包含する。これらの核酸は、標的細胞および標的生物のトランスフェクションのための周知の多数のベクターのうちのいずれかに挿入され得る。上記核酸は、そのベクターと標的細胞との相互作用を介して、エキソビボおよびインビボで細胞中にトランスフェクトされる。トランスフェクトされた細胞の再導入は、当該分野で公知の任意の方法(カプセル化した細胞の再移植を含む)によって達成され得る。上記組成物は、治療応答を惹起するために充分な量で被験体に(例えば、筋肉中への注射によって)投与される。これを達成するために充分な量は、「治療上有効な用量または量」として定義される。
【0037】
別の局面において、本発明は、ヒトにおいて糖尿病を処置する方法を提供し、この方法は、本発明のVEGF特異的融合タンパク質をコードする核酸で細胞をトランスフェクトする工程を包含し、この核酸は、上記VEGF特異的融合タンパク質をコードする核酸に作動可能に連結された誘導性プロモーターを含む。ヒト疾患の処置または予防における遺伝子治療手順について、例えば、Van Brunt(1998)Biotechnology 6:1149〜1154を参照されたい。
【0038】
(併用療法)
多数の実施形態において、本発明のVEGF特異的融合タンパク質は、1種以上のさらなる化合物または治療と組み合わせて、投与され得る。併用療法は、VEGF特異的融合タンパク質と1種以上のさらなる血糖降下剤または減量剤とを含む単一の薬学的投与処方物の投与;ならびにVEGF特異的融合タンパク質と、1種以上のさらなる血糖降下剤または減量剤とを、それ自体が別個の薬学的投与処方物中で投与することを包含する。例えば、本発明のVEGF特異的融合タンパク質および血糖降下剤は、単一の経口投与組成物(例えば、錠剤もしくはカプセル)にて一緒に患者に投与されても、または各々の薬剤が別個の経口投与処方物中で投与されてもよい。別個の投与処方物が使用される場合、本発明のVEGF特異的融合タンパク質と1種以上のさらなる血糖降下剤とが、本質的に同じ時間に(すなわち同時に)、または別々に時差のある時間に(すなわち、連続的に)投与され得る。
【0039】
このような減量剤の例は、Axokine(登録商標)(Regeneron)である。このような血糖降下剤の例としては:インスリン;ビグアニジン(例えば、メトホルミンGlucophage(登録商標)(BMS)およびブホルミン);スルホニル尿素(例えば、アセトヘキサミド、Diabinese(登録商標)(Pfizer)、Amaryl(登録商標)(Aventis)、Glynase Pres Tabs(登録商標)(Pharmasia)、Glucotrol XL(登録商標)(Roering Pfizer)、トラザミド、トルブタミド、DiaBeta(登録商標)(Hoechst)、Glucotrol(登録商標)(Pfizer)およびグリクラジド);チアゾリジンジオン(例えば、Rezulin(登録商標)(Park Davis)、Actos(登録商標)(Tekada)およびAvandia(登録商標)(GSK));α−グリコシダーゼ阻害剤(例えば、Precose(登録商標)(Bayer)およびGlyset(登録商標)(Bayer));メグリチニド(Meglitinide)(例えば、Prandin(登録商標)(Novo Nordisk));グルコース上昇剤(Glucose Elevating Agents)(例えば、Glucagon(登録商標)(Lilly));ならびにβアドレノレセプターアゴニスト(例えば、CL−316,243)が挙げられる。
【0040】
(薬学的組成物)
本発明の方法の実施において有用な薬学的組成物は、治療上有効な量の活性薬剤と、薬学的に受容可能なキャリアとを含む。用語「薬学的に受容可能な」とは、動物(より詳しくはヒト)における使用について、米国連邦政府の規制当局もしくは州政府により承認されているか、または米国薬局方もしくは他の一般的に認識される薬局方に列挙されていることを意味する。用語「キャリア」とは、治療剤がともに投与される、希釈剤、補助剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的キャリアは、滅菌した液体(例えば、水および油(石油起源の油、動物起源の油、植物起源の油、または合成起源の油(例えば、ラッカセイ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油など)が挙げられる)であり得る。適切な薬学的賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、滑石、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどが、挙げられる、上記組成物はまた、望ましい場合には、少量の湿潤剤または乳化剤またはpH緩衝化剤を含み得る。これらの組成物は、溶液、懸濁物、エマルジョン、錠剤、ピル、カプセル、散剤、徐放処方物などの形態を採り得る。上記組成物は、従来の結合剤およびキャリア(例えば、トリグリセリド)を用いて、坐剤として処方され得る。経口処方物は、標準的キャリア(例えば、薬剤グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなど)を含み得る。適切な薬学的キャリアの例は、E.W.Martin「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載される。
【0041】
好ましい実施形態において、上記組成物は、ヒトへの静脈内投与、皮下投与、または筋肉内投与のために適合された薬学的組成物として、慣用的手順に従って処方される。必要な場合、上記組成物はまた、可溶化剤および注射部位での疼痛を緩和するための局所麻酔剤(例えば、リドカイン)を含み得る。上記組成物が注入によって投与される場合、その組成物は、滅菌した薬剤グレードの水または生理食塩水を含む注入ボトルで分散され得る。その組成物が注射により投与される場合、滅菌した注射用水または生理食塩水のアンプルが、上記成分を投与前に混合し得るように提供され得る。
【0042】
本発明の活性薬剤は、中性形態または塩形態として処方され得る。薬学的に受容可能な塩としては、遊離アミノ基と形成される塩(例えば、塩酸由来の塩、リン酸由来の塩、酢酸由来の塩、シュウ酸由来の塩、酒石酸由来の塩など)、および遊離カルボキシル基と形成される塩(例えば、ナトリウム由来の塩、カリウム由来の塩、アンモニウム由来の塩、カルシウム由来の塩、水酸化鉄(III)由来の塩、イソプロピルアミン由来の塩、トリエチルアミン由来の塩、2−エチルアミノエタノール由来の塩、ヒスチジン由来の塩、プロカイン由来の塩など)が挙げられる。
【0043】
糖尿病の処置において有効な本発明の活性薬剤の量は、本記載に基づいて標準的臨床技術によって決定され得る。さらに、インビトロアッセイが、最適な投与量範囲を同定するのを補助するために必要に応じて使用され得る。上記処方物において使用されるべき正確な用量はまた、投与経路、および状態の重篤度に依存し、実施者の判断および各被験体の事情に従って決定されるべきである。しかし、静脈内投与のために適切な投与量範囲は、一般的には、体重1kg当たり約50〜5000μgの活性化合物である。鼻内投与のために適切な投与量範囲は、一般的には、約0.01pg/体重kg〜1mg/体重kgである。有効用量は、インビトロ試験系または動物モデル試験系から誘導される用量応答曲線から外挿され得る。
【0044】
全身投与のために、治療上有効な用量は、まずインビトロアッセイから推定され得る。例えば、細胞培養物中で決定したIC50を含む循環濃度範囲を達成するための用量が、動物モデルにおいて処方され得る。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために、使用され得る。初期投与量はまた、インビボデータ(例えば、動物モデル)から、当該分野で周知の技術を使用して推定され得る。当業者は、動物データに基づいて、ヒトへの投与を容易に最適化し得る。
【0045】
投与量および投与間隔は、治療効果を維持するために充分な上記化合物の血漿レベルを提供するために、個別に調整され得る。当業者は、過度な実験を伴わずに、治療上有効な局所投与量を最適化することが可能である。
【0046】
投与される化合物量は、当然、処置される被験体、被験体の体重、疾患の重篤度、投与様式、および主治医の判断に依存する。上記治療は、症状が検出可能である間、または症状が検出可能ではない場合でさえ、断続的に反復され得る。上記治療は、単独でかまたは他の薬物と組み合わせて、提供され得る。
【0047】
(キット)
本発明はまた、包装材料と、その包装材料内に収容された薬剤とを備える、製品を提供し、この薬剤は、本発明の少なくとも1種のVEGF特異的融合タンパク質を含み、この包装材料は、上記VEGF特異的融合タンパク質が糖尿病を処置するために使用され得ることを示す標識または包装挿入物を備える。
【0048】
本発明の他の特徴は、例示的実施形態についての以下の説明の過程で明らかになる。この例示的実施形態は、本発明の例示のために提供されるが、本発明の限定であることは意図されない、
【実施例】
【0049】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物の生成方法および使用方法についての完全な開示および説明を当業者に提供するために示され、そして以下の実施例は、本発明者らが自身の発明と見なすものの範囲を限定することは意図されない。使用する数字(例えば、量、温度など)に関して精度を確保するための努力がなされたが、いくらかの実験誤差および偏差が、計上されるべきである。他のように示されない限り、部は、重量部であり、分子量は、平均分子量であり、温度は、℃であり、および圧力は、大気圧または大気圧付近である。
【0050】
(実施例1:糖尿病(db/db)マウスにおけるVEGFR1R2−FcΔC1(a)処理の効果)
8〜10週齢の糖尿病(db/db)マウスを、1週間馴化させ、そしてこの時点の後に処理を開始した。db/dbマウスの群(n=6)を、無作為に体重によって割り当て、そして以下の組成物のうちの一つで、週に1度の皮下注射によって、4週間処理した:キャリア(ビヒクル);FcΔC1タンパク質(Fc);あるいは25mg/kg、12.5mg/kgまたは2.5mg/kgのVEGFR1R2−FcΔC1(a)。さらに、非糖尿病(db/?)マウスの二つの群を、皮下注射によって以下のように処理した:25mg/kgのVEGFR1R2−FcΔC1(a)およびキャリア(糖尿病性ビヒクル)。血中グルコースレベルを、各週同じ時間に、4週間の処理について次の注射の直前に評価した。全ての群を、経口グルコース耐性試験によって、この時点で評価した。動物の処理を上記のレジメンに続いてさらに4週間(計8週間)継続し、そして8週間の処理後に、血中グルコースレベルを評価した。
【0051】
(4週間の処理での結果)
全ての糖尿病(db/db)動物は、上昇した血中グルコース(図1Aの0時点における予め糖尿病である群(Preface DIA−group))によって示されるように、実験の開始時に高血糖症を発症していた。25mg/kg、12.5mg/kgまたは2.5mg/kgのVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した動物は、8週の処置期間に亘って、血清グルコースの有意で進行的な減少を示した。25mg/kg、12.5mg/kgまたは2.5mg/kgのVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した動物は、ビヒクルまたはFcΔC1コントロールマウスに比べて、最初の4週間に亘って、有意な体重の減少を示さなかった(反復測定ANOVA、有意差無し(N.S.)、図1Bを参照のこと)。
【0052】
(8週間の処理に対する結果)
全ての糖尿病(db/db)動物は、上昇した血中グルコースによって示されるように、なお高血糖を示した(図2において8週時点での予め糖尿病である群)。25mg/kg、12.5mg/kgまたは2.5mg/kgのVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した動物は、8週の処理期間に亘り、血清中の非空腹時グルコースにおいて有意な減少を示した(反復測定ANOVA、自由度(d.f.)4,25、FGroup=6.36 p=0.001、FTime=38.5 p<0.0001;Finteraction=1.8 p=0.04;図1Aを参照のこと)。
【0053】
(実施例2:糖尿病マウスにおける経口グルコース耐性に対するVEGFR1R2−FcΔC1(a)の効果)
8〜10週齢の糖尿病(db/db)マウスおよび非糖尿病(db/?)マウスを、上記のように処理した。
【0054】
胃管栄養法により胃に送達された大量のグルコースを処理する能力を、4回の注射後(5週目)および8回の注射後(9週目)に評価した。この評価のために、マウスを約18時間絶食させ、そして胃管栄養した後、0分、30分、60分および120分で血中グルコースを測定した。
【0055】
(4週間の処理に対する結果)
ビヒクル処理した糖尿病(db/db)マウスおよびFcΔC1タンパク質処理した糖尿病(db/db)マウスは、痩せている非糖尿病(db/?)コントロールマウスに比べて、グルコースを処理する低下した能力を有した(図3)。4回の注射後(第5週目)に、25mg/kg、12.5mg/kgまたは2.5mg/kgのVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した動物は、投与されたグルコースを処理する能力において有意な改善を示した。これらの結果は、VEGF阻害が、糖尿病の哺乳動物においてグルコース耐性を改善することを実証する。対照的に、ビヒクル処理した糖尿病(db/db)マウスおよびFcΔC1タンパク質処理した糖尿病(db/db)マウスは、グルコースを処理する能力においてもグルコース耐性においても改善を示さない(図3)。
【0056】
(8週間の処理に対する結果)
ビヒクル処理した糖尿病(db/db)マウスおよびFcΔC1タンパク質処理した糖尿病(db/db)マウスは、痩せている非糖尿病(db/?)コントロールマウスに比べて、なおグルコースを処理する低下した能力を有した(図4)。計8回の注射後(第9週目)に、25mg/kg、12.5mg/kgまたは2.5mg/kgのVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した動物は、投与されたグルコースを処理する能力において有意な改善を示した。これらの結果は、VEGF阻害が、糖尿病の哺乳動物においてグルコース耐性を改善することを実証する。対照的に、ビヒクル処理した糖尿病(db/db)マウスおよびFcΔC1タンパク質処理した糖尿病(db/db)マウスは、グルコースを処理する能力においてもグルコース耐性においても改善を示さない(図4)。
【0057】
(実施例3.糖尿病(db/db)マウスにおける空腹時血中グルコースおよび空腹時血中インスリンに対するVEGFR1R2−FcΔC1(a)処理の効果)
糖尿病(db/db)マウスを、1週間馴化させ、そして上記のように処理を開始した。8回の注射後(第9週目)に、空腹時血中グルコースおよび空腹時血中インスリン(図5B)を評価した。
【0058】
ビヒクル処理した糖尿病(db/db)マウスおよびFcΔC1タンパク質で処理した糖尿病(db/db)マウスは、痩せている非糖尿病(db/?)コントロールマウスに比べて、上昇した空腹時血中グルコースレベルを有した(図5A)。VEGFR1R2−FcΔC1(a)処理した動物は、糖尿病コントロール(ビヒクルまたはFcΔC1;図5A)に比べて、空腹時血清グルコースにおける有意な減少および有意に減少したインスリンレベルを示した。これは、VEGF阻害が、糖尿病の哺乳動物における高血糖症を改善するのみならず、インスリン感受性をも改善することを実証する。
【0059】
本発明は、本発明の趣旨からも必須の特性からも逸脱することなく、他の具体的な形態で具体化され得る。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1A】VEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した糖尿病(db/db)マウスおよび非糖尿病(db/?)マウスにおける4週間目での、(A)血清グルコースレベルおよび(B)体重。
【図1B】VEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した糖尿病(db/db)マウスおよび非糖尿病(db/?)マウスにおける4週間目での、(A)血清グルコースレベルおよび(B)体重。
【図2】コントロールならびにVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した糖尿病(db/db)マウスおよび非糖尿病(db/?)マウスに対する、8週間の処理を通しての血清グルコースレベル。
【図3】コントロールならびにVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した糖尿病(db/db)マウスおよび非糖尿病(db/?)マウスに対する、4週間の処理での経口グルコース耐性試験。
【図4】コントロールならびにVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した糖尿病(db/db)マウスおよび非糖尿病(db/?)マウスに対する、8週間の処理での経口グルコース耐性試験。
【図5A】コントロールならびにVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した糖尿病(db/db)マウスおよび非糖尿病(db/?)マウスの、8週間の処理後の、空腹時血清グルコースレベルおよび空腹時血清インスリンレベル。
【図5B】コントロールならびにVEGFR1R2−FcΔC1(a)で処理した糖尿病(db/db)マウスおよび非糖尿病(db/?)マウスの、8週間の処理後の、空腹時血清グルコースレベルおよび空腹時血清インスリンレベル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における糖尿病の処置のための医薬の調製における、VEGF媒介性活性を遮断、阻害または回復することが可能な薬剤の使用。
【請求項2】
請求項1に記載の使用であって、前記糖尿病の処置は、減少した血清グルコース濃度、改善したグルコース耐性、増大したインスリン感受性、減少した高インスリン血症および改善した血糖制御のうちの一つ以上をもたらす、使用。
【請求項3】
請求項1または2に記載の使用であって、糖尿病がインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)である、使用。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の使用であって、前記VEGF媒介性活性を遮断、阻害、または回復することが可能な薬剤は、VEGF活性またはVEGF発現を阻害することが可能な分子である、使用。
【請求項5】
請求項4に記載の使用であって、前記VEGF発現を阻害することが可能な分子は、抗体、VEGFトラップ、低分子、脂質、および糖質からなる群より選択されるVEGFアンタゴニストである、使用。
【請求項6】
請求項5に記載の使用であって、前記VEGFトラップは、アセチル化された、Flt−1(1−3)−Fc、Flt−1(1−3R→N)−Fc、Flt−1(1−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3)−Fc、Flt−1D2−VEGFR3D3−FcΔC1(a)、Flt−1D2−Flk−1D3−FcΔC1(a)、およびVEGFR1R2−FcΔC1(a)からなる群より選択される、使用。
【請求項7】
請求項4に記載の使用であって、前記発現を阻害することが可能な薬剤は、アンチセンス分子である、使用。
【請求項8】
請求項1に記載の使用であって、前記医薬は、皮下経路、筋肉内経路、皮内経路、腹腔内経路、静脈内経路、鼻腔内経路、または経口経路を介する投与のための医薬である、使用。
【請求項9】
2型糖尿病に罹患しているかまたは2型糖尿病を発症する危険があるヒト被験体において、2型糖尿病の発症または進行を阻害するための医薬の調製における、VEGF媒介性活性を遮断、阻害、または回復することが可能な薬剤の使用。
【請求項10】
請求項9に記載の使用であって、前記処置は、減少した血清グルコース濃度、改善したグルコース耐性、増大したインスリン感受性、減少した高インスリン血症または改善した血糖制御のうちの一つ以上をもたらす、使用。
【請求項11】
請求項9に記載の使用であって、前記VEGF媒介性活性を遮断、阻害、または回復することが可能な薬剤は、VEGF活性またはVEGF発現を阻害することが可能な分子である、使用。
【請求項12】
請求項11に記載の使用であって、前記VEGF発現を阻害することが可能な分子は、抗体、VEGFトラップ、低分子、脂質、および糖質からなる群より選択されるVEGFアンタゴニストである、使用。
【請求項13】
請求項12に記載の使用であって、前記VEGFトラップは、アセチル化された、Flt−1(1−3)−Fc、Flt−1(1−3R→N)−Fc、Flt−1(1−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3)−Fc、Flt−1D2−VEGFR3D3−FcΔC1(a)、Flt−1D2−Flk−1D3−FcΔC1(a)、およびVEGFR1R2−FcΔC1(a)からなる群より選択される、使用。
【請求項14】
請求項9に記載の使用であって、前記医薬は、皮下経路、筋肉内経路、皮内経路、腹腔内経路、静脈内経路、鼻腔内経路、または経口経路を介する投与のための医薬である、使用。
【請求項15】
グルコース耐性またはインスリン感受性を改善することを必要としているヒト被験体において、グルコース耐性またはインスリン感受性を改善するための医薬の調製における、VEGF媒介性活性を遮断、阻害、または回復することが可能な薬剤の使用。
【請求項16】
請求項15に記載の使用であって、前記VEGF媒介性活性を遮断、阻害、または回復することが可能な薬剤は、VEGF活性またはVEGF発現を阻害することが可能な分子である、使用。
【請求項17】
請求項16に記載の使用であって、前記VEGF発現を阻害することが可能な分子は、抗体、VEGFトラップ、低分子、脂質、および糖質からなる群より選択されるVEGFアンタゴニストである、使用。
【請求項18】
請求項17に記載の使用であって、前記VEGFトラップは、アセチル化された、Flt−1(1−3)−Fc、Flt−1(1−3R→N)−Fc、Flt−1(1−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3)−Fc、Flt−1D2−VEGFR3D3−FcΔC1(a)、Flt−1D2−Flk−1D3−FcΔC1(a)、およびVEGFR1R2−FcΔC1(a)からなる群より選択される、使用。
【請求項19】
請求項15に記載の使用であって、前記医薬は、皮下経路、筋肉内経路、皮内経路、腹腔内経路、静脈内経路、鼻腔内経路、または経口経路を介する投与のための医薬である、使用。
【請求項20】
糖尿病の処置を必要としているヒト被験体において糖尿病を処置するための医薬の調製における、VEGF活性またはVEGF発現を阻害することが可能な分子の使用。
【請求項21】
請求項20に記載の使用であって、前記VEGF活性またはVEGF発現を阻害することが可能な分子は、アセチル化された、Flt−1(1−3)−Fc、Flt−1(1−3R→N)−Fc、Flt−1(1−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3ΔB)−Fc、Flt−1(2−3)−Fc、Flt−1D2−VEGFR3D3−FcΔC1(a)、Flt−1D2−Flk−1D3−FcΔC1(a)、およびVEGFR1R2−FcΔC1(a)からなる群より選択されるVEGFトラップである、使用。
【請求項22】
糖尿病の処置のための医薬の調製における、VEGF媒介性活性を遮断、阻害、または回復することが可能な薬剤および血糖降下剤の使用。
【請求項23】
糖尿病の処置のための医薬の調製における、VEGF媒介性活性を遮断、阻害、または回復することが可能な薬剤および減量剤の使用。
【請求項24】
製品であって、
(a)包装材料;および
(b)該包装材料内に収容された薬剤;
を備え、該薬剤は、本発明の少なくとも1種のVEGF特異的融合タンパク質を含み、該包装材料は、該VEGF特異的融合タンパク質が糖尿病を処置するために使用され得ることを示す標識または包装挿入物を備える、製品。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公表番号】特表2006−521397(P2006−521397A)
【公表日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509325(P2006−509325)
【出願日】平成16年3月26日(2004.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/009246
【国際公開番号】WO2004/087206
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(597160510)リジェネロン・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド (50)
【氏名又は名称原語表記】REGENERON PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】