説明

Xリング

【課題】小断面でありながら、亀裂が内周リップ間の内周凹溝中央位置に発生せず、耐久性に優れたXリングを提供する。
【解決手段】回転軸摺接用の一対の内周リップ1,1を有し、かつ、固定シール溝底面11aに当接する一対の外周リップ3,3を有するXリングに於て、一対の側方凹溝7,7の位置を、ラジアル外方に偏在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Xリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のXリングとしては、図5(D)に示すような(横)断面形状のものが公知である(例えば、特許文献1参照)。また、本出願人が実施しているXリングとしては、図5(B)に示すような断面形状のものが存在する。
ところで、古くから往復動シリンダ等の往復軸シールとしてXリングが多く使用されてきたが、その後、回転軸シールとしての用途も拡大し、自動車の4WD・ビスカスカップリング等の動力伝達装置にも使用されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4396850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、最近、前記動力伝達装置に使用する回転軸シール(Xリング)として、高速化及び高温化に耐え、しかも、小型化(小断面化)を図ることが強く要望されている。
具体的には、図4(B)又は(D)に於て、Xリングの高さ寸法をH0 と、幅寸法をW0 とした場合に、長方形断面積(S0 =H0 ×W0 )が、従来は、例えば30mm2を越える大断面であっても良かったものが、最近は、(高速及び高圧といった過酷な条件下にかかわらず、)S0 =25mm2 といった小断面のものが要望されるようになっている。
そのような高速回転・高圧・小断面といった過酷な条件下では、図5(B)(D)(図4の(B)(D)に対応)に示す如く、回転軸30に摺接する一対の内周リップ31,31間に応力が集中して、亀裂Zが発生して、Xリング40が破損し、耐久性に問題があることが判明した。
【0005】
本発明は、上述のような回転軸用のXリングとして、断面積を小さくしても、高圧化及び高速化に対応できるシールを提供し、これによって、最近の過酷な使用条件を満足させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明に係るXリングは、回転軸摺接用の一対の内周リップと、固定シール溝底面に当接する一対の外周リップを有するXリングに於て、三日月形断面の一対の側方凹溝のラジアル方向中央位置が、Xリング高さ中央位置よりも、ラジアル外方に偏在させたものである。
また、上記側方凹溝の深さ寸法を浅くして、側方凹溝の各断面積をXリング総断面積の2%〜10%に設定した。
また、三日月形断面の外周凹溝の深さ寸法を、三日月形断面の内周凹溝の深さ寸法よりも、大に設定した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、(図5(B)(D)に示したような亀裂Zを防止でき、)高速化及び高圧化、さらには、コンパクト(小断面)化といった最近の過酷な使用環境(条件)に対応できる。そして、このような使用環境下での寿命も長い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の一形態を示す断面図である。
【図2】寸法及び形状の断面説明図である。
【図3】断面説明図である。
【図4】本発明と従来例とを比較対比するための形状と寸法を示した断面比較説明図である。
【図5】本発明と従来例とを比較対比して、従来の問題を説明するための比較説明図である。
【図6】流体圧力に対する内周リップ間応力の変化を示すFEM解析のグラフ図である。
【図7】流体圧力に対する外周リップ間応力の変化を示すFEM解析のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図示の実施の形態に基づき本発明を詳説する。
図1〜図3は、本発明の実施の一形態を例示し、本発明のXリング20は、矢印Rのように軸心L5 廻りに回転する回転軸5の外周面に、回転軸摺接用の一対の内周リップ1,1が摺接し、さらに、断面矩形状の固定シール溝11の溝底面11aに一対の外周リップ3,3が当接(固接)する。
【0010】
自由状態の横断面に於て、図2と図4(A)に示すように、本発明のXリング20は、三日月形断面の一対の側方凹溝7,7のラジアル外方向R0 の中央位置M7 が、Xリング高さ中央位置Mxよりも、偏心量εをもって、ラジアル外方向R0 に偏在している。
【0011】
ところで、図4(C)に示した従来例2の横断面の如く、従来の大断面Xリング41では、高さ寸法H0 と、幅寸法W0 との積、即ち、長方形断面積(S0 =H0 ×W0 )が、6.45mm×4.95mm≒32mm2であって、30mm2 を越えた大断面であり、図5(B)(D)に図示したような(前述した)亀裂Zの問題が発生しない。
【0012】
本発明に係るXリング20は、8mm2 ≦S0 ≦25mm2 の小断面のシールであり、極めて小断面の凹状シール溝11(図1と図5(A)参照)で済むため、自動車用ビスカスカップリングのケーシング(ボディ)等の動力伝達装置のコンパクト化に貢献できるシールである。図4(A)では、H0 ×W0 =4.45mm×3.85mm≒17mm2 の場合を示し、図6と図7等にて、その使用状態の応力測定結果について後述する。
【0013】
図1〜図3、図4(A),図5(A)に示すように、本発明のXリング20は、三日月形の側方凹溝7,7の深さ寸法W7 を、従来例(図4B,C,D参照)よりも十分に浅く設定して、側方凹溝7の各断面積S1 (図3参照)を、Xリング総断面積Sxの2%〜10%に設定する。言い換えると、従来例(図4B,C,D)では、側方凹溝27の各断面積S1が、Xリング総断面積Sxの4%〜15%であったのに対して、本発明では2%〜10%のように、小さく設定する。
【0014】
また、図3に示すように、三日月形断面の外周凹溝8の深さ寸法H8 を、三日月形断面の内周凹溝9の深さ寸法H9 よりも、大に設定し、もって、(図3中に斜線をもって示した)外周凹溝8の断面積S3 を、内周凹溝9の断面積S2 よりも、大に設定する。これによって、外周リップ3,3が溝底面11aに弾性的に圧接することによって発生する弾発的圧力を低減でき、この反力の低減によって、内周リップ1,1が回転軸5に押圧されて、内周凹溝9が開脚方向へ弾性変形することに伴う(図1に矢印Fにて示す)応力の値を低減できる。
【0015】
また、図4(A)と(B)とを比較すれば判るように、内周凹溝9,29の深さ寸法及び断面積は、いずれも本発明のXリング20の方が従来例のXリング40よりも、大きい。この内周凹溝9,29には、回転軸5の外周面に対する内周リップ1,31の摩擦抵抗軽減と摩耗量低減のため、グリースが充填されるのであるが、本発明のXリング20が従来例よりも深さ寸法及び断面積が大きく設定されているので、グリース保持量(保持性)がアップする。
【0016】
次に、図2に於て、追加説明すれば、Xリング中央位置Mx は、Xリング20の高さ寸法H0の半分、即ち、H0 /2となる。そして、側方凹溝7,7は、2点鎖線にて示す長方形のストレート状側辺13から切欠状に凹設されているが、側方凹溝7と側辺13とが交わる交点14,15の間の線分の中央点16の、ラジアル外方向R0 の位置が、側方凹溝7,7のラジアル方向中央位置M7 に該当する。
【0017】
このラジアル方向中央位置M7 の内周リップ1・外周リップ3からのラジアル方向寸法を、各々、H2 ,H3 とすれば、次の関係式が成立する。
2 >H3
2 =H3 +ε (但し、εは偏心量)
そして、内周リップ1,1及び外周リップ3,3は、各々、三角山型である。
【0018】
次に、下記の表1、及び、図6と図7は、図4の(A)に示した寸法・形状の本発明実施品(Xリング20)、図4の(B)に示した寸法・形状の従来例(Xリング40)、及び、図4の(C)に示した寸法・形状の従来例2(Xリング41)を、シール溝11に装着し、流体圧力を零からしだいに高くしていた場合に、内周リップ1,1間の(引張)応力(図1中に矢印F,Fにて示す)と、外周リップ3,3間の(引張)応力(図1中に矢印G,Gにて示す)とが、変化することをFEM解析した結果である。
【0019】
【表1】

【0020】
上記表1及び図6,図7から次のことが判る。
(i) 本発明実施品の内周リップ間応力の最大値(MAX値)は、小断面の従来例1(図4(A))の約40%も低減でき、また、そのMAX値は大断面の従来例2と同等の良好な(小さな)値を示している。
(ii) 本発明実施品の外周リップ3,3間応力の最大値(MAX値)は、内周リップ1,1間応力のMAX値と同等である。
(iii) 本発明実施品の反力は、従来例1(小断面)及び従来例2(大断面)と略同等である。
(iv) (図6に示したように、)流体の圧力が零から上昇するに伴って、内周リップ間応力が比例して上昇し、約0.35〜0.43MPaの圧力範囲に於て、最大値(MAX値)を、本発明実施品,従来例1,従来例2共に示す。
以上の結果から、本発明実施品は、小断面の従来例のXリング40に比べて内周リップ間の破損(従来例1を示す図5(B)の亀裂Z)を生じにくく、長期の耐久性が期待できるといえる。
【0021】
なお、本発明実施品のXリング20は、その内周凹溝9の深さを従来例よりも深く設定したので、内周凹溝9内に充填したグリース(潤滑油)の保持性も良好であり、耐久性(寿命)が一層改善できた。
また、三日月形断面の一対の側方凹溝7,7のラジアル方向中央位置M7 を、Xリング高さ中央位置Mxよりも、ラジアル外方に偏在させたことによって、内周リップ1,1の付け根部(基部)18の断面積が、従来例1(図4(B)参照)の内周リップ31,31の付け根部(基部)38の断面積よりも増大し、内周リップ間応力Fの値が低減できているといえる。しかも、回転軸5が高速で回転した場合、摺動摩擦抵抗及び発熱が発生するので、本発明実施品における内周リップ間応力の(従来例1に示した小断面Xリング40に比較しての)著しい低減の効果は、亀裂Z発生防止に大きく寄与している。
【0022】
なお、図7に於て、外周リップ間応力に関しては、本発明実施品の値が、従来例1,2よりも大きい。しかし、Xリングの外周側は、シール溝の溝底面に対して、固定であるため、このような応力が大きいことによる問題は発生しない。
【0023】
本発明は、図4(C)に示したような大断面のXリング41に比較して、原材料が少なく、金型も小型化でき、使用される動力伝達装置(ビスカスカップリング等)のコンパクト化に寄与できる回転軸用のXリングである。
さらに、同程度の小断面の従来のXリング40に於て、発生する内周リップ間の亀裂Zの発生―――強度及び耐久性の問題―――を、前述の偏心量εをもって、一対の側方凹溝7,7をラジアル外方に偏在させるという簡素な構成をもって、本発明は見事に解決したといえる。
【0024】
本発明は以上述べたように、回転軸摺接用の一対の内周リップ1,1と、固定シール溝底面11aに当接する一対の外周リップ3,3 を有するXリングに於て、三日月形断面の一対の側方凹溝7,7のラジアル方向中央位置M7が、Xリング高さ中央位置Mxよりも、ラジアル外方に偏在させたことによって、内周リップ1,1の付け根部近傍の肉厚が十分に大きくできて、所期の目的を達成でき、最近の動力伝達装置における摺動部の高速化、高圧化に対応でき、しかも、断面積が減少してコンパクト化に貢献できると共に、図5(B)(D)に示したような亀裂発生も防止して、耐久性にも優れている。
【0025】
また、上記側方凹溝7の深さ寸法W7 を浅くして、側方凹溝7の各断面積S1 をXリング総断面積Sxの2%〜10%に設定したので、一層、内周リップ1,1の付け根部近傍が肉厚となって、亀裂Zを確実に防いで、耐久性もさらに向上する。
また、三日月形断面の外周凹溝8の深さ寸法H8 を、三日月形断面の内周凹溝9の深さ寸法H9 よりも、大に設定したので、外周リップ3,3の弾性圧縮に伴う反力が低減され、内周リップ1,1が回転軸5に過大な力で押付けられる(圧縮)することを防いで、図1に矢印F,Fにて示す方向の応力の軽減にも寄与する。
【符号の説明】
【0026】
1 内周リップ
3 外周リップ
5 回転軸
7 側方凹溝
8 外周凹溝
9 内周凹溝
11 シール溝
11a 溝底面
20 Xリング
1 断面積
Sx Xリングの総断面
7 ラジアル方向中央位置
Mx Xリング高さ中央位置
7 深さ寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸摺接用の一対の内周リップ (1)(1) と、固定シール溝底面(11a)に当接する一対の外周リップ (3)(3) を有するXリングに於て、
三日月形断面の一対の側方凹溝 (7)(7) のラジアル方向中央位置(M7 )が、Xリング高さ中央位置(Mx )よりも、ラジアル外方に偏在させたことを特徴とするXリング。
【請求項2】
上記側方凹溝(7)の深さ寸法(W7 )を浅くして、側方凹溝(7)の各断面積(S1 )をXリング総断面積(Sx )の2%〜10%に設定した請求項1記載のXリング。
【請求項3】
三日月形断面の外周凹溝(8)の深さ寸法(H8 )を、三日月形断面の内周凹溝(9)の深さ寸法(H9 )よりも、大に設定した請求項1又は2記載のXリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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