説明

X線ビームの断面強度分布を測定するための方法

【課題】従来のナイフエッジスキャン法よりも作製が容易な遮蔽板を用い、かつ、遮蔽板の位置調整をより簡便にした、簡便で信頼性の高いX線ビームの断面強度分布測定方法を提供すること。
【解決手段】反射体2は、面粗さRaがナノメータオーダである反射面3を有している必要があり、反射面3を入射X線ビーム1に対して全反射臨界角以下の角度ωだけ傾斜させて配置する。そうすると全反射であるため、反射X線ビーム6が反射体に侵入する侵入領域8の深さ、侵入深さδは数ナノメータとなり、したがって、通過X線ビーム7の遮蔽端のボケcも数ナノメータとなる。反射X線ビーム6の端のボケもほぼδであり同様である。よって反射体2を、矢印Aで示す入射X線ビーム1に直交する方向に移動させて通過X線ビーム7の強度を測定し、その変化を微分処理することにより、理想的なナイフエッジスキャンを行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線ビームの断面強度分布を測定するための方法に関し、より詳細には、放射光X線に最適なX線マイクロビームの断面強度分布を測定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、透過力が高く非破壊測定が可能であることから、X線回折、蛍光測定、X線吸収微細構造(XAFS)等の構造解析に広く用いられている。特に、放射光X線の出現により直径がミクロン又はサブミクロンレベルのいわゆる「マイクロビーム」の発生が可能となり、高空間分解能でのX線回折やXAFS測定に利用されるようになった。
【0003】
このようなX線マイクロビームの利用にあたって重要なことは、ビームの断面形状や強度分布を正確に計測することである。このために従来から行われている簡便な方法として、ナイフエッジスキャン法がある(特許文献1参照)。この方法は、図1に示すようにビームを、ナイフエッジを有する遮蔽板101で遮り、その遮蔽板101をビームに直交する方向に平行移動する。遮蔽板101の平行移動により遮蔽板101の端から漏れ出るビームの強度を測定していくことで、強度分布Iが得られる。図1の横軸は、遮蔽板101のナイフエッジの位置である。強度分布Iは図1に示すように変化し、この微分dI/dxから近似的なビームプロファイル形状が求まる。
【0004】
【特許文献1】特開平10−319196号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のナイフエッジスキャン法の問題は、遮蔽板の作製および位置調整に困難を伴う点である。図2にナイフエッジスキャンに用いる遮蔽板の断面の一例を示す。X線は透過力が強いため、通常遮蔽板101の厚みは1mm程度にする必要がある。また、サブミクロンビームを評価するためには端面102の面粗さRaを数十nmにする必要があり、さらに、遮蔽板101の傾斜によるボケbを1μm以下にするためには、X線ビーム103と端面102との平行度を1mrad(0.06°)以内とする必要がある。しかしながら、このような面粗さRaを1mm程度の厚みにわたり通常の機械加工で実現するのは困難である上に、遮蔽板101の端面102の角度調整をこの精度で行うためには大掛かりな調節機構が必要になる。よって従来のナイフエッジスキャン法のX線マイクロビームへの適用は実際には困難である場合が多い。
【0006】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来のナイフエッジスキャン法よりも作製が容易な遮蔽板を用い、かつ、遮蔽板の位置調整をより簡便にした、簡便で信頼性の高いX線ビームの断面強度分布を測定するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するために、本発明の第1の態様は、X線ビームの断面強度分布を測定するための方法であって、前記X線ビームを、反射体に全反射条件を満たす視射角で入射する入射ステップと、前記反射体を前記X線ビームに直交する少なくとも1つの方向に移動する反射体移動ステップと、前記反射体で反射する反射X線ビーム及び前記反射体で反射せずに通過する通過X線ビームのいずれかの強度を、前記反射体を移動させながら測定する強度測定ステップと、測定された前記強度の変化を微分する微分ステップとを含むことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の態様は、第1の態様において、前記反射体移動ステップにおいて移動する前記少なくとも1つの方向は、互いに直交する2つの方向であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の第3の態様は、第1または第2の態様において、前記X線ビームと前記反射体の反射面との間の角度をスキャンして前記反射体の前記反射面で反射した反射X線ビームの強度を測定することにより、前記X線ビームの前記反射面に対する全反射臨界角を決定し、前記全反射条件を満たすように前記反射体を配置するステップをさらに含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の第4の態様は、第1から第3のいずれかの態様において、前記反射体が半導体単結晶ウエハであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第3の態様は、第4の態様において、前記半導体単結晶ウエハがシリコンウエハであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、X線ビームを反射体に全反射条件を満たす視射角で入射することにより、簡便で信頼性の高いX線ビームの断面強度分布を測定するための方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図面中、同一の構成要素には同一の符号を付す。
【0014】
図3は、本発明によるX線ビームの断面強度分布測定方法を実施するための装置を示す図である。放射光X線発生装置(図示せず)から導かれたX線ビーム10が、4象限スリット11で例えば直径約20μmのX線ビーム(以下「入射X線ビーム1」と呼ぶ。)に成形される。4象限スリット11を通過した入射X線ビーム1は、その一部が反射体2で全反射され、残りの部分がそのまま通過する。反射体2としては、シリコンウエハ等を用いることができる。反射光6を遮断するために、4象限スリット11と平行に、間に反射体2を挟む形で、4象限スリット13を配置する。4象限スリット13の開口径は入射X線ビームの径より大きく、かつ反射光6を遮断できる大きさとする。すなわち以下で述べる視射角ωにおいて、入射X線ビーム1と反射光6との角度は2ωであるから、反射体2から4象限スリット11までの距離をbとすると、4象限スリット13の開口径は4象限スリット11の開口径より大きく、かつ2b×tan2ωより小さくすればよい。反射体2において全反射せずにそのまま直進した入射X線ビーム1を、4象限スリット13の背後に配置したPINダイオード等のX線強度検出器12で検出する。反射体2を、入射X線ビーム1に直交する方向に移動しながら、反射体2において全反射せずにそのまま通過した入射X線ビーム1の強度を測定していくことで、強度分布が得られる。この強度分布を微分器14で微分することにより、入射X線ビームの断面強度分布を測定することができる。
【0015】
図4を参照して、本発明によるX線ビームの断面強度分布測定方法で用いる反射体についてさらに説明する。反射体2は、面粗さRaがナノメータオーダである反射面3を有している必要があり、シリコンウエハ等の半導体単結晶ウエハを用いることができる。半導体単結晶ウエハは安価に入手できる上に、へき開により精密な切断面が得られる。入射X線ビームに対して下流側に位置する切断面4は、例えばへき開によって形成されたものでナノメータオーダの直線性を有している。したがって、反射面3と切断面4とで形成される角(corner)5は鋭利である。
【0016】
反射体2は、反射面3を入射X線ビーム1に対して全反射臨界角以下の角度ωだけ傾斜させて配置する。そうすると全反射であるため、反射X線ビーム6が反射体に侵入する侵入領域8の深さ、侵入深さδは数ナノメータとなり,したがって、通過X線ビーム7の遮蔽端のボケcも数ナノメータとなる。反射X線ビーム6の端のボケもほぼδであり同様である。よって反射体2を、矢印Aで示す入射X線ビーム1に直交する方向に移動させて通過X線ビーム7の強度を測定し、その変化を微分処理することにより、理想的なナイフエッジスキャンを行うことができる。
【0017】
なお、本発明は角5を利用するものであるから、反射体2の長さLは、例えば2〜3cm程度に十分大きくすることが可能である。したがっていわゆる半割り操作により、初期状態として入射X線ビーム1と反射面3とを0.0001°以下の精度で平行にセットすることが可能である。さらに、角度ωをスキャンして反射X線ビーム6の強度を測定することにより、全反射臨界角を決定することが可能であるから、確実に全反射条件を実現することが可能である。
【0018】
また、図3の装置では、通過X線ビーム7の強度をX線強度検出器12により測定するが、X線強度検出器12及び4象限スリット13の配置を適宜変更して、反射X線ビーム6の強度を測定することもできる。
【0019】
実施例
図5及び6に実施例を示す。反射体2には、シリコンウエハを用いた。入射X線ビーム1の直径は約20μm、エネルギーは15keVとした。図3に示すように、通過X線ビーム7の強度をX線強度検出器12により測定した。シリコンウエハの15keVにおける全反射臨界角は約0.12°であるので視射角ωを0.1°として確実に全反射が起きるようにした。
【0020】
図5は、反射体2を、図3の紙面が鉛直面となるように配置し、反射体2を鉛直方向にスキャンした結果を示している。○印がX線強度の変化(左軸)を示し、□印がその微分曲線(右軸)である。微分曲線のピークから入射X線ビーム1の鉛直方向の半値幅が16μmであることが分かる。
【0021】
図6は、反射体2を、図3の紙面が水平面となるように配置し、反射体2を水平方向にスキャンした結果を示している。反射体2を入射X線ビーム1の回りに90°回転すればよい。○印がX線強度の変化(左軸)を示し、□印がその微分曲線(右軸)である。この結果から、水平方向の強度分布が半値幅12μmのメインピークとサブピークに分離していることが分かる。
【0022】
図5及び6の結果から、簡便で信頼性の高いX線ビームの断面強度分布を測定することができた。直交する2つの方向に反射体を移動させることで、X線ビームの断面形状をより正確に知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】従来のナイフエッジスキャン法を説明するための図である。
【図2】従来のナイフエッジスキャン法に用いる遮蔽板を説明するための図である。
【図3】本発明によるX線ビームの断面強度分布測定方法を実施するための装置を示す図である。
【図4】本発明によるX線ビームの断面強度分布測定方法で用いる反射体を説明するための図である。
【図5】本発明の実施例を示す図である。
【図6】本発明の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 入射X線ビーム
2 反射体
3 反射面
4 切断面
5 角
6 反射X線ビーム
7 通過X線ビーム
8 X線侵入領域
10 X線ビーム
11、13 4象限スリット
12 X線強度検出器
14 微分器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線ビームの断面強度分布を測定するための方法であって、
前記X線ビームを、反射体に全反射条件を満たす視射角で入射する入射ステップと、
前記反射体を前記X線ビームに直交する少なくとも1つの方向に移動する反射体移動ステップと、
前記反射体で反射する反射X線ビーム及び前記反射体で反射せずに通過する通過X線ビームのいずれかの強度を、前記反射体を移動させながら測定する強度測定ステップと、
測定された前記強度の変化を微分する微分ステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記反射体移動ステップにおいて移動する前記少なくとも1つの方向は、互いに直交する2つの方向であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記X線ビームと前記反射体の反射面との間の角度をスキャンして前記反射体の前記反射面で反射した反射X線ビームの強度を測定することにより、前記X線ビームの前記反射面に対する全反射臨界角を決定し、前記全反射条件を満たすように前記反射体を配置するステップをさらに含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記反射体は、半導体単結晶ウエハであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記半導体単結晶ウエハは、シリコンウエハであることを特徴とする請求項4に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−139482(P2010−139482A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−318696(P2008−318696)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】