説明

X線分析方法及びX線分析装置

【課題】微小領域にX線を照射する際、その強度を低下させることなく集光することが可能なX線分析装置を提供する。
【解決手段】 X線源1と、X線源から放射されたX線を平行線束に変換する第一のX線変換プレート2と、第一のX線変換プレートを通過した平行線束を試料位置に集光する第二のX線変換プレート3と、試料位置に置かれ集光されたX線の照射された試料から発生する2次X線を検出する検出器4とから構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線源からのX線を集光して試料に照射し、発生する2次X線を分析するX線分析方法、及びこれを用いたX線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生物学の分析から半導体をはじめとする電子部品の製造工程まで幅広い分野でX線分析装置が用いられている。これら各分野では微小領域を対象とした分析を行うことが求められているが、このような微小領域を対象とした分析においては、微小径のX線を被測定対象物に照射する必要がある。このような分析装置におけるX線の集光方法としてはコリメータやX線ミラー等の光学素子を利用する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−339798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術において、X線を微小経に集光しようとすると、X線強度が低下してしまうという問題が生じる。また、集光による強度低下によっても十分なX線強度を保つためには、X線源やその周辺装置が大掛かりになってしまうという問題がある。また、このような大掛かりな装置を用いずに光学素子を用いる場合などはその光学素子の加工精度等の関係からX線を十分集光することができない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、X線強度を低下させることなく微小径のX線ビームを照射することが可能であって、比較的コンパクトなX線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するためになされた本発明は以下に述べる特徴を有する。
本発明に係るX線分析装置は、X線源と、前記X線源から放射されたX線を平行線束に変換する第一のX線変換プレートと、前記第一のX線変換プレートを通過した平行線束を試料位置に集光する第二のX線変換プレートと、前記試料位置に置かれ集光されたX線の照射された試料から発生する2次X線を検出する検出器とから構成されることを特徴とする。
このような特徴により、本発明によるX線分析装置によれば、大掛かりな装置を用いなくても、X線の強度を低下させることなく集光し、試料に照射することが可能となる。
【0006】
また、本発明に係るX線分析装置においては、第二のX線変換プレートは光軸方向に移動可能であることが好ましい。これにより、焦点位置を光軸方向に移動することができる。
【0007】
また、X線分析装置は、更に前記第二のX線変換プレートの位置を、前記検出器による2次X線の検出状態が最適になるように制御する制御装置とから構成されることが好ましい。これにより、厚みの異なる試料を測定する場合であっても、焦点位置が最適な位置となるように第二X線変換プレートの位置を制御することができる。
【0008】
また、本発明に係るX線分析装置においては、第一のX線変換プレート及び前記第二のX線変換プレートは、表面から裏面に貫通する複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の側面は入射してきたX線を全反射することが好ましい。これにより、X線の強度を損なうことなくX線の光路を変換することができる。
【0009】
また、本発明に係るX線分析装置は、第二のX線変換プレートと前記試料位置との間にコリメータを備えることが好ましい。これにより、試料の目的の箇所以外にX線が照射されるのを防ぐことができる。
また、本発明に係るX線分析装置においては、前記第一のX線変換プレートと前記第二のX線変換プレートの双方の貫通孔の断面形状が円形であることが好ましい。これにより、X線を略円形に集光することができる。
また、本発明に係るX線分析装置においては、第一のX線変換プレートと前記第二のX線変換プレートのいずれかまたは双方の貫通孔の断面形状が方形であることが好ましい。これにより、2枚のマルチプレートの双方とも、貫通孔の断面形状が円形である場合よりもX線強度の低下を防ぐことが出来る。
【0010】
また、本発明に係るX線分析装置においては、前記検出器は蛍光X線を検出することが好ましい。
また、本発明に係るX線分析方法は、X線源から放射されたX線を第一のX線変換プレートにより平行線束に変換し、前記第一のX線変換プレートを通過した平行線束を第二のX線変換プレートにより試料位置に集光し、前記試料位置に置かれた前記集光されたX線の照射された試料から発生する2次X線を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるX線分析装置によれば、大掛かりな装置を用いなくても、X線の強度を低下させることなく集光し、試料にX線を照射することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】X線分析装置の構成の模式的側面図である。
【図2】マルチチャネルプレートによる光路を示す模式図である。
【図3】円形の開口を持つマルチチャネルプレートの模式的正面図である。
【図4】方形の開口を持つマルチチャネルプレートの模式正面図である。
【図5】試料側のマルチチャネルプレートの移動による焦点移動を示す模式図である。
【図6】方形の開口を持つマルチチャネルプレートによる集光の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。図1はX線分析装置の構成を模式的に示した側面図である。X線分析装置はX線源1、対向して配置された第一のマルチチャネルプレート2、第二のマルチチャネルプレート(第二のX線変換プレート)3、コリメータ6、試料7を載せるステージ8、保持部及びX線検出器5を備えて構成される。
X線源1は、測定対象物に照射するためのX線を発生する装置である。X線源1の開口部から放射状のX線が第一のマルチチャネルプレート(第一のX線変換プレート)2に照射される。
第一のマルチチャネルプレート(第一のX線変換プレート)2は、X線源1からの放射状X線を入射し、平行光に変換するプレートである。当該第一のマルチチャネルプレート2は、X線源1と試料ステージ8の間の光軸上に設置されている。
第二のマルチチャネルプレート(第二のX線変換プレート)3は、第一のマルチチャネルプレート1を通過した平行光を試料7に集光するプレートであり、保持部10により固定されている。当該保持部10は、駆動部9が作動することにより光軸方向に上下に移動可能であり、これに伴い第二のマルチチャネルプレート3も光軸方向に上下に移動する。第二のマルチチャネルプレート3が光軸方向に上下に移動すると、第二のマルチチャネルプレート3から照射された光の焦点位置も動くこととなる。駆動部9は、制御部4からの制御により、保持部10を介して第二のマルチチャネルプレート3を移動させる。例えば試料7が厚いときなど、試料に応じて焦点位置が最適となるように、制御部4は第二のマルチチャネルプレートの位置を移動することができる。
第二のマルチチャネルプレート3を通過したX線は、試料ステージ8上の試料7に集光されて照射される。ここで、X線の焦点は試料7上になることが望ましい。また、第二のマルチチャネルプレート3と試料ステージ8の間の光軸上にコリメータ6を設置することもできる。このコリメータ6は、第二のマルチチャネルプレート3により集光される際に焦点付近にわずかに広がった回折光を除去できる。
第二のマルチチャネルプレート3を通過したX線は試料7に照射され、試料7から2次X線が発生する。検出器5はこの2次X線を検出し、制御部4に信号を送信する。ここで、検出器5は、2次X線として例えば蛍光X線の検出を行う。
【0014】
図2は、マルチチャネルプレートによる光路を示す模式図である。図3は、円形の開口を持つマルチチャネルプレートの模式的正面図である。図4は、方形の開口を持つマルチチャネルプレートの模式正面図である。
【0015】
図3に示すようにマルチチャネルプレートは略円盤状であり、その表面には複数の貫通孔を有する。図3の実施例では、断面円形の貫通孔21が複数設けられている。この貫通孔21は、直径が10μm〜100μmである。また、この貫通孔の表面は鋭角に照射されたX線を全反射させる性質を有する。この全反射により、マルチチャネルプレートは、当該貫通孔21を通過したX線の光路を変えることができる。
【0016】
図2における第一のマルチチャネルプレート2は、図3におけるA−A断面の側面図である。第一のマルチチャネルプレート2は、球面状に湾曲した形状となっている。この湾曲による反りのため、円形貫通孔21はその光軸方向に向いている。図2では、第一のマルチチャネルプレート2の反っている凹面がX線源1の方向を向いている。
【0017】
X線源1から照射されたX線11は、第一マルチチャネルプレート2の貫通孔側面により全反射し、光軸12に並行な並行線側X線に変換される。このとき、第一マルチチャネルプレート2の中心から焦点までの距離fとマルチチャネルプレートの曲率半径Rの関係は、f=R/2となる。
第一のマルチチャネルプレート2に設けられた貫通孔21の断面形状は、図3及び4に示すとおり円形または方形である。当該断面形状が円形のときの直径、または方形のときの1辺の長さをDとすると、このDは10μm〜100μmである。D及びマルチチャネルプレートの厚みL、曲率半径Rは、X線が孔の壁面で全反射することができるようにX線の入射角が臨界角より小さくなるように設定されている。この臨界角は、X線のエネルギーが1keVのときおよそ2°である。第一のマルチチャネルプレート2の厚みLが大きくなると多重反射によってX線のエネルギーの低下を招くためDとLの比L/Dは100程度が上限となる。
貫通孔21はコアとなるガラス材をエッチング等により除去することで形成されるが、当該貫通孔21の壁面の面粗さは数nmである。
図4に貫通孔21の断面形状が方形のマルチチャネルプレートの正面図を示す。貫通孔の断面形状が方形のマルチチャネルプレートは、断面形状円形の貫通孔を有するマルチチャネルプレートより高い集光効率を有する。しかし、第二のマルチチャネルプレート3に貫通孔21の断面形状が方形のものを用いた場合、焦点付近では回折X線による広がりが発生する。
【0018】
図6は、方形の開口を持つマルチチャネルプレートによる集光の模式図である。集光形状13は、第一のマルチチャネルプレート2及び第二のマルチチャネルプレート3により集光されたX線の集光形状である。回折パターン14は、第二のマルチチャネルプレート3に断面方形の貫通孔21を用いたときの回折パターンである。この第二のマルチチャネルプレートに断面方形の貫通孔21を用いたときの回折パターンは、図6に示すように十字のパターンとなる。
【0019】
図6では、この十字パターンのノイズを試料7に照射させないようにするため焦点位置の直前にコリメータ6を設けている。これにより広がったX線をコリメートすることで焦点位置のみに強度の高いX線を照射することができる。またマルチチャネルプレート3のみを円形孔とすることで、焦点位置での集光の広がりを軽減することも可能である。但し、貫通孔の断面形状が円形のマルチチャネルプレートにおいても完全な点像に集光できるものではないため、この場合においてもコリメータ6を配置することは有効である。
図5は、試料側のマルチチャネルプレートの移動による焦点移動を示す模式図である。左の図は、試料7が薄い場合の第二のマルチチャネルプレート3の位置を示す。この場合は、第二のマルチチャネルプレート3を試料ステージ8に近い場所に位置させ、焦点位置を下げて試料表面に当たるようにしている。右の図は、試料7が厚い場合である。第二のマルチチャネルプレートを試料7から遠い場所に位置にさせ、焦点位置を上方にして資料表面に焦点が来るようにしている。
このように、第二のマルチチャネルプレート3の光軸方向の位置は、可変に配置することができる。この第二のマルチチャネルプレート3の位置は、制御部4が駆動部9を制御しすることにより、移動することができる。制御部4は、例えば試料7の厚さの違いなどを考慮して、焦点位置が最適となるように駆動部9を制御することができる。
【符号の説明】
【0020】
1 X線源
2 第一のマルチチャネルプレート
3 第二のマルチチャネルプレート
4 制御部
5 検出器
6 コリメータ
7 試料
8 試料ステージ
9 駆動部
10 保持部
11 X線
12 光軸
14 回折パターン
21 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、前記X線源から放射されたX線を平行線束に変換する第一のX線変換プレートと、
前記第一のX線変換プレートを通過した平行線束を試料位置に集光する第二のX線変換プレートと、
前記試料位置に置かれ前記集光されたX線の照射された試料から発生する2次X線を検出する検出器と、
から構成されるX線分析装置。
【請求項2】
前記第二のX線変換プレートは光軸方向に移動可能であることを特徴とする請求項1に記載のX線分析装置。
【請求項3】
更に、前記第二のX線変換プレートの位置を、前記検出器による2次X線の検出状態が最適になるように制御する制御装置とから構成される請求項1または2にX線分析装置
【請求項4】
前記第一のX線変換プレート及び前記第二のX線変換プレートは、表面から裏面に貫通する複数の貫通孔を有し、前記貫通孔の側面は入射してきたX線を全反射することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記第二のX線変換プレートと前記試料位置との間にコリメータを備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記第一のX線変換プレートと前記第二のX線変換プレートのいずれかまたは双方の貫通孔の断面形状が円形であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項7】
前記第一のX線変換プレートと前記第二のX線変換プレートのいずれかまたは双方の貫通孔の断面形状が方形であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項8】
前記検出器は蛍光X線を検出することを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のX線分析装置。
【請求項9】
X線源から放射されたX線を第一のX線変換プレートにより平行線束に変換し、
前記第一のX線変換プレートを通過した平行線束を第二のX線変換プレートにより試料位置に集光し、
前記試料位置に置かれた前記集光されたX線の照射された試料から発生する2次X線を検出するX線分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−190679(P2010−190679A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−34318(P2009−34318)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(710002462)セイコー・イージーアンドジー株式会社 (7)
【Fターム(参考)】