説明

X線分析方法及びX線分析装置

【課題】 X線分析方法及びX線分析装置に関し、参照孔を加工可能なサイズに保った状態において、高い分解能の試料イメージを得る。
【解決手段】 測定用窓部に配置した試料からのX線散乱強度を測定する工程と、参照孔からの参照光振幅を推定する工程と、前記X線散乱強度を推定した前記参照光振幅により補正して補正X線散乱強度を求める工程と、前記補正X線散乱強度をフーリエ逆変換して試料のイメージを再生する工程とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分析方法及びX線分析装置に関するものであり、例えば、ホログラフィーイメージング法において、高い分解能の試料イメージを得るための手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子やスピン等を用いたナノデバイスの開発においては、動作している状態の電子デバイスを、数十nm程度の分解能を有する分析装置及び分析方法により観察することが必要となる。このような電子デバイスの多くは、薄膜を積層した構造を有しており、このため、電子デバイスが動作している内部の領域を非破壊で観察することが望まれている。
【0003】
一方、近年において、干渉性X線を試料に照射し、試料により散乱された散乱X線により、試料の内部構造や試料の動作等についてイメージングする技術が進んでいる。特に、フーリエ変換ホログラフィー法では、試料の近傍に参照穴を設け、参照X線と試料により生じる散乱X線とを干渉させてホログラムを形成し、形成されたホログラム画像を逆フーリエ変換することにより、試料の内部構造のイメージ画像を得ている。
【0004】
このようなフーリエ変換ホログラフィー法を用いることにより、試料を破壊することなく、試料の内部構造のイメージ画像を容易に得ることができ、また、試料に照射されるX線を走査することなく、迅速に試料のイメージ画像を得ることができるという利点を有している。
【0005】
ここで、図13及び図14を参照して従来のレンズレス・フーリエ変換ホログラフィー法を説明する。図13は、従来のレンズレス・フーリエ変換ホログラフィー法に用いるX線分析装置の構成図であり、X線源51、X線源51からのX線を平行化するX線コリメータ52、試料基板60、試料基板60からの干渉X線を検出する検出器53からなる。
【0006】
X線源51としては、X線管球、X線レーザー、放射光、自由電子レーザー等の干渉性X線源を用いる。また、X線コリメータ52としてはTEM(透過型電子顕微鏡)用のビーム絞りを用いても良い。検出器53としては、X線を直接検出できるCCDカメラ等を用い、X線以外の波長の光を遮断するために、Be膜やAl膜等を用いる。
【0007】
図14は、試料基板60の説明図であり、図14(a)は概略的断面図であり、図14(b)は要部拡大断面図であり、図14(c)は要部拡大平面図である。試料基板60は、7mm×7mmで厚さが0.6mmのシリコン基板61の表面に厚さが0.2μmのSiN膜からなるメンブレン膜62を形成し、シリコン基板61に1mm×1mmの窓部63を形成する。全面にX線吸収用として厚さが3.2μmのAu膜64を形成し、その中心付近に、2μm×2μmのX線透過窓65を形成するとともに、X線透過窓65から4μm離れた位置に0.2μm径の参照孔66を収束イオンビーム(FIB)により形成する。また、X線透過窓65に臨む位置のメンブレン膜62上に観察対象となる試料67を配置する。
【0008】
試料67を透過した回折X線Aと、試料67から離れた位置にある参照孔66からの球面波参照光Rを干渉させ、得られた干渉パターンを逆フーリエ変換することから、試料67のイメージを得るものである。
【0009】
検出器53上で得られるX線強度I(X,Y)は、試料67の試料イメージaからの回折X線をA,微小な参照孔rからの回折X線をRとすると、A及びRは、
A(X,Y)=FT(a(x、y))
R(X,Y)=FT(r(x、y)) ・・・(1)
で表わされ、X線強度I(X,Y)は、
I=|A+R|=|A|+|R|+AR+AR ・・・(2)
で表わされる。ここでFTはフーリエ変換である。
【0010】
ここで、右辺の最初の2項は位相情報を持たない自己相関強度である。一方、後ろの2項は試料回折X線Aと参照穴からの回折X線Rの干渉項(ホログラム)である。このX線強度の逆フーリエ変換を行うと、
G=FT−1(I(X、Y))
=FT−1(|A|+|R|)+FT−1(AR+AR) ・・・(3)
となる。
【0011】
この右辺の第2項は、
FT−1(AR+AR)=a’(x、y)+a’(x、y) ・・・(4)
となる。ここで a’は、参照孔の広がりによるボケが入った試料イメージ、a’はその虚像であり、各々原点(X線方向)から対称にずれた位置に再現される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】S.Eisebitt et.al., Nature, v.432, (2004),p.885−888
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述のレンズレス・フーリエ変換ホログラフィー法においては、a’、 a’として示すように、得られるイメージ画像の分解能は、参照孔の大きさに比例して低下するという問題がある。測定されるホログラフィーは、有限な大きさを持った(広がった)参照孔からの回折X線Rと、試料からの回折X線Aの積である。したがって、これを逆フーリエ変換して得られる試料イメージは、イメージと参照孔が畳み込まれた(コンボリューション)もので、その結果、参照孔のサイズに比例したボケ(分解能の低下)が発生することになる。
【0014】
もし参照孔が、理想的な点光源の場合、球面波因子を除くと、
R(X,Y)=FT(δ(X,Y))=1 ・・・(5)
となる。ここでδはデルタ関数、X、Yは参照孔位置であり、回折X線Rは強度分布が1のX線になる。したがって、
FT−1(AR+AR)=FT−1(A+A)=a+a ・・・(6)
となり、試料イメージaとその虚像aが、参照光のボケを含まない良い分解能で再現される。
【0015】
そのため、理想の分解能を得ようとする場合には、無限に小さい参照孔を形成する必要がある。しかし、実際にFIBにより形成できる参照孔のサイズは最少でも数十nm程度である。また、参照孔の径を小さくすると、参照孔を通過するX線強度も低下するため、試料からの回折線との干渉であるホログラムが弱くなるという問題があった。
【0016】
したがって、本発明は、参照孔を加工可能なサイズに保った状態において、高い分解能の試料イメージを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
開示する一観点からは、測定用窓部に配置した試料からのX線散乱強度を測定する工程と、参照孔からの参照光振幅を推定する工程と、前記X線散乱強度を推定した前記参照光振幅により補正して補正X線散乱強度を求める工程と、前記補正X線散乱強度を逆フーリエ変換して試料のイメージを再生する工程とを有することを特徴とするX線分析方法が提供される。
【0018】
また、開示する別の観点からは、干渉性X線源と、X線を絞るコリメータと、試料を保持する試料基板と、前記試料基板に設けた測定用窓部を遮蔽し、参照孔からのX線のみを透過するアパーチャー部材と、前記アパーチャー部材をX線の光軸方向に対して垂直方向に移動させる移動部材と、試料及び参照孔を透過したX線を検出する検出器とを備えたことを特徴とするX線分析装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
開示のX線分析方法及びX線分析装置によれば、参照孔を加工可能なサイズに保った状態において、高い分解能の試料イメージを得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態のX線分析方法のチャート図である。
【図2】説明を簡単にするためのテスト用試料の平面図である。
【図3】図2のテスト用試料に対するX線散乱強度である。
【図4】図2のテスト用試料に対する初期イメージである。
【図5】切り出したイメージ部である。
【図6】再生したイメージである。
【図7】本発明の実施例1における参照光振幅推定フロー図である。
【図8】形状が既知の試料を測定したX線散乱強度の測定結果の説明図である。
【図9】参照孔を適宜仮定した場合のイメージ及び横方向のX線強度分布の説明図である。
【図10】発散防止パラメータΔの説明図である。
【図11】本発明の実施例2のX線分析方法を実施するためのX線分析装置の概念的構成図である。
【図12】本発明の実施例2におけるマスクと遮蔽部材との位置関係の説明図である。
【図13】従来のレンズレス・フーリエ変換ホログラフィー法に用いるX線分析装置の構成図である。
【図14】試料基板の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
ここで、図1乃至図6を参照して、本発明の実施の形態のX線分析方法を説明する。図1は、本発明の実施の形態のX線分析方法のチャート図であり、X線分析装置の基本的構成は図13に示した構成と同様である。
a.まず、試料基板を用いてX線散乱強度を実測する。図2は説明を簡単にするためのテスト用試料の平面図であり、線幅が0.05μmで高さが0.6μmのF字状を抜きパターンとし、F字パターン2の中心から3.5μm離れた位置に直径が0.2μmの参照孔3を設けたものとしてシミュレーションを行う。なお、図面における符号1は、Au膜等からなるX線吸収部である。図3は図2のテスト用試料に対するX線散乱強度である。
b.次に、補正の必要性の有無を判定する。フーリエ変換ホログラフィーの場合、実イメージと回折イメージ・サイズの関係はフーリエ変換により対応しているため、X線の波長をλ、試料と検出器の距離をZ,検出器のピクセルサイズをp、画素数をNとすると、実イメージの最小単位δは、
δ=λ・Z/(p・N) ・・・(7)
の関係がある。そこで、参照孔の孔径をdとすると、d<δの場合、補正は必要ないが、d≧δの場合には補正が必要であり、通常は測定したX線強度を補正する。
【0022】
c.次いで、測定したX線散乱強度を逆フーリエ変換して初期イメージを再生する。図4は、図2のテスト用試料に対する初期イメージであり、中心部に自己相関部FT−1(|A|+|R|)が現れ、その上と下に試料の実像a‘と虚像a’が現れる。この状態ではイメージには参照孔径によるボケが含まれている。
d.実際の測定では中心部には回折X線の他に、透過X線や非干渉性散乱X線が含まれているため、図5に示すように、イメージ部のみを切り出す。ここでは、実像a’を切り出す例を示しているが、虚像a’を用いても良い。
【0023】
e.次いで、バックグラウンドノイズを除去する。この初期イメージの実像a’が形成される領域には干渉しなかったX線等のノイズがあるため、初期イメージ周辺部以外のイメージ強度は0であるべきとの条件を使ってバックグラウンド強度を差し引く。なお、図4においては、イメージ部分以外は黒でX線強度が0のように見えるが実際には、後述する図8のように、ノイズが存在する。即ち、測定された散乱強度には試料および参照孔からの干渉性X線による回折X線分布に加え、非干渉性の透過X線や散乱X線が含まれている。これらのバックグラウンドは、X線光軸方向を中心として動径方向に分布している。それらの強度が、回折X線に較べ大きい場合には、バックグラウンドを補正する必要がある。
【0024】
f.次いで、切り出した実像a’からバックグラウンドノイズを除去したイメージをフーリエ変換して補正X線散乱強度H’を計算する。
H’=FT(a’)=AR ・・・(8)
以上の工程b乃至工程fによりデータ補正部を構成する。次に、参照光振幅推定部を説明する。
【0025】
g.参照光振幅推定部においては参照光振幅を推定するが、下記の3つの方法のうちのいずれかを用いて行う。
.第1の方法は、試料基板に設けた参照孔の形状が、電子顕微鏡による観察などにより既知である場合に適用する。この場合、参照孔の穴サイズをもとに、数式的に参照光振幅を計算する。例として丸穴の場合、ホログラフィー項においてキャンセルされる球面波の形状因子項を省略すると、微小な参照孔rからの回折X線をRとすると、
R=C・r(J(krR′/Z)/(krR′/Z) ・・・(9)
となる。ここで、Cは定数、rは参照孔の半径、Jは第1種ベッセル関数、k=2π/λ(λはX線の波長)、R′はデータ点の検出器中心点からの距離、Zは試料と検出器との距離である。
【0026】
なお、参照孔が矩形の場合、その振幅は、
R=C・(sinα/α)(sinβ/β) ・・・(10)
として計算することができる。但し、α=kxX/2Z,β=kyY/2Zであり、Cは定数、xは参照孔の横幅、yは参照孔の縦幅、(X,Y)は検出器上の位置である。或いは、数値的に、参照孔形状のパターンにフーリエ変換を行い、散乱振幅を求めても良い。
【0027】
.第2の方法では、参照光の強度分布を実測する。測定では試料あるいはマスク下流にアパーチャーを設けた遮蔽部材を挿入して、参照孔部からのX線のみを測定する。測定したX線強度の平方根を取って参照光振幅を求める。
【0028】
.第3の方法では、形状が既知の試料を測定した散乱強度を用いて参照孔からのX線散乱強度Rを求めるものであり、参照孔の径を順次変化させてX線散乱強度Rのフィッティングを行う。この場合、形状が既知の試料として、図8(a)に示したマスク・試料分離方式のX線マスクの窓部を用いていることが好適である。なお、マスク試料一体型試料を用いる場合には、試料測定後にFIB加工により、試料部を除去し、図8(a)と同様な窓部を形成した試料を用いて同様な測定を行えば良い。
【0029】
h.次いで、補正X線散乱強度を推定した参照光振幅を用いて補正して、再補正したX線散乱強度を算出する。この場合、補正X線散乱強度H’を推定した参照光振幅R’で割ることによって、再補正したX線散乱強度A’を算出する。ここで、R’はR’の複素共役量である。
【0030】
i.次いで、算出した再補正X線散乱強度A’を逆フーリエ変換することによって、イメージを再生する。
FT−1(A’)=a’ ・・・(11)
図6は再生したイメージであり実像a’に対応する。この場合、工程hにおいて、補正X線散乱強度H’を推定した参照光振幅R’で割っているので、上述の式(8)及び式(11)から明らかなように、参照孔からのX線の影響を除去したボケのないイメージ像を得ることができる。即ち、推定した参照光振幅R’を用いることによって、参照孔が、理想的な点光源の場合と等価な結果を得ることができる。
【0031】
本発明の実施の形態においては、参照孔からの透過X線の振幅を推定し、測定した試料のX線散乱強度を補正しているので、有限な径の参照孔から得られた参照光振幅を、理想的な点光源からの参照光振幅とすることができる。その結果、フーリエ変換ホログラフィーデータから、参照光源の広がりを原因とするイメージのボケが除去でき、その結果、高分解の試料イメージングが可能になる。
【実施例1】
【0032】
以上を前提として、次に、図1乃至図10を参照して、本発明の実施例1のX線分析方法を説明するが、この実施例1は参照光振幅の推定工程として、図1のgの工程を用いたものである。ここでも説明を簡単にするために図2に示した試料パターンを用いて説明する。まず、図2に示した試料パターンに対してX線散乱強度を測定する。なお、測定装置の構成は図13に示した装置構成と同様であり、また、試料基板の構成も図14に示した構成と同様である。
【0033】
光源として放射光X線としては、波長2.25Å(エネルギー5.5keV)の干渉性X線を用いる。光源からのX線は、試料の50mm上流に設置した10μmの径のコリメータにより成形する。試料を透過後の回折X線は3000mm下流のCCD検出器により測定する。CCDの画素数は1024×1024チャンネル、ピクセルサイズは20μmである。
【0034】
この場合、ボケの無い空間分解能δは、フーリエ変換(FT)の関係式(7)から、33nmと計算される。なお、この実施例1では、マスク・サンプル一体型の試料を用いているが、マスク・サンプル分離型においても同様に適用することができる。
【0035】
まず、試料基板を用いてX線散乱強度を実測する。図3は測定したX線散乱強度である。次いで、測定したX線散乱強度を逆フーリエ変換して初期イメージを再生する。図4は、図2に対する初期イメージである。次いで、図5に示すように、初期イメージから、実像a’を切り出す。次いで、バックグラウンドノイズを除去する。
【0036】
次いで、参照光の振幅を推定する。図7は、本発明の実施例1における参照光振幅推定フロー図であり、
α.まず、形状が既知の試料を用いてX線散乱強度を測定する。ここでは、形状が既知の試料として、マスク・試料一体型の試料を測定後にFIB加工により、試料部を除去し、窓部を形成した試料の窓部を用いる。図8(a)は用いたX線マスクの平面図であり、2μm×2μmの窓部と、0.2μmの径の参照孔を設けている。図8(b)はX線散乱強度の初期イメージであり、図8(c)は図8(b)における破線の沿ったX線強度分布を示している。
【0037】
β.次に、参照孔の径dを適当に仮定して、参照孔からのX線散乱強度R(x,y)を計算して、測定したX線散乱強度をR(x,y)で割って、補正X線散乱強度を求める。
γ.次に、補正X線散乱強度を逆フーリエ変換することによってイメージを計算する。図9(a)は、d=0.18μmと仮定した場合のイメージであり、図9(b)は図9(a)の横方向のX線強度分布である。また、図9(c)は、d=0.2μmと仮定した場合のイメージであり、図9(d)は図9(c)の横方向のX線強度分布である。また、図9(e)は、d=0.22μmと仮定した場合のイメージであり、図9(f)は図9(e)の横方向のX線強度分布である。
【0038】
なお、X線散乱強度R(x,y)が0になる位置においては、割り算の結果、発散することになるので、発散しないようにΔを用いる。図10は発散防止パラメータΔの説明図であり、図10(a)は、X線散乱強度分布であり、図10(b)は図10(a)における、強度が0近傍の拡大図である。ここで、強度が0近傍になった時の発散を防ぐパラメータとしてΔを設定するが、このパラメータΔは測定データのバックグラウンドレベルにより決めることにより最適な補正を行う。
【0039】
ここで、Δを測定データの最大振幅Pで割ったε=Δ/Pを導入し、εが0.0001〜0.2の範囲に、例えば、ε=0.001に設定する。なお、図9は、ε=0.001に設定した場合を示している。したがって、切り出した実像から計算したX線散乱強度(式(8))をR(x,y)で割る場合には、下記のR’(x,y)を用いる。
R’(x,y)=R for |R|>Δ
R’(x,y)=Δ for |R|<Δ and R>0
R’(x,y)=−Δ for |R|<Δ and R<0
【0040】
δ.次いで、窓部に対応するパターン領域のX線散乱強度Sとそれ以外の領域のX線散乱強度Nを求め、その比N/Sを順次仮定した参照孔dを変動させて形成する。
ε.次いで、計算したi回目のN/S
|(Ni−1/Si−1)−(N/S)|/|N/S|≦0.001
の条件を満たすまで再計算する。
【0041】
ζ.次いで、
|(Ni−1/Si−1)−(N/S)|/|N/S|≦0.001
になった時の参照孔の径dから参照光のX線散乱強度R(x,y)を計算することで、参照光振幅推定工程を終了する。
【0042】
次いで、補正X線散乱強度を推定した参照光振幅を用いて補正して、再補正したX線散乱強度を算出する。この場合、式(8)で表わされる補正X線散乱強度を推定した参照光振幅R’で割ることによって、再補正したX線散乱強度を算出する。
【0043】
次いで、算出した再補正X線散乱強度を逆フーリエ変換することによって、イメージを再生する。図6は再生したイメージであり実像a’に対応する。この場合、補正X線散乱強度を推定した参照光振幅R’で割っているので、上述の式(8)及び式(11)から明らかなように、参照孔からのX線の影響を除去したボケのないイメージ像を得ることができる。
【実施例2】
【0044】
次に、図11及び図12を参照して、本発明の実施例2のX線分析方法を説明するが、この実施例2は、参照光振幅の推定工程として、図1のgの工程を用いたものである。図11は、本発明の実施例2のX線分析方法を実施するためのX線分析装置の概念的構成図である。このX線分析装置は、X線源11、モノクロメータ12、シャッター13、X線コリメータ14、試料を保持するマスク30、アパーチャー16を備えた遮蔽部材15、二次元検出器17を備えている。X線コリメータ14、マスク30及び遮蔽部材15はPC(パーソナルコンピュータ)18を介してコントローラ19によって位置制御(x,y,x,y,z)或いは開口幅制御(W,W)される。また、二次元検出器17による測定結果は、検出器コントローラ20を介してPC18に出力される。
【0045】
図12は、マスクと遮蔽部材との位置関係の説明図であり、ここでもマスク30はX線吸収部材31にX線透過窓32と参照孔33とを設け、メンブレン膜34のX線透過窓32に対応する位置に試料35が配置されている。
【0046】
参照光振幅推定工程において、遮蔽部材15は、アパーチャー16の位置が参照孔33の位置に対応するようにコントローラ19で位置制御して、参照孔からの透過した参照光のみのX線散乱強度を測定する。なお、試料からのX線散乱強度の測定工程においては、遮蔽部材15をX線の透過位置から退避させて測定を行う。
【0047】
このように、本発明の実施例2においては、X線分析装置にアパーチャーを設けた遮蔽部材を備えることによって、マスクに設けた参照孔からのX線散乱強度を実測し、その平方根を取ることによりRを得ることができる。
【0048】
ここで、実施例1及び実施例2を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を付す。
(付記1) 測定用窓部に配置した試料からのX線散乱強度を測定する工程と、参照孔からの参照光振幅を推定する工程と、前記X線散乱強度を推定した前記参照光振幅により補正して補正X線散乱強度を求める工程と、前記補正X線散乱強度を逆フーリエ変換して試料のイメージを再生する工程とを有することを特徴とするX線分析方法。
(付記2) 前記補正X線散乱強度を求める工程において、前記X線散乱強度として、測定データ中心部に現れる透過X線や非干渉性散乱強度を除去した回折X線のみを用いることを特徴とする付記1に記載のX線分析方法。
(付記3) 前記X線散乱強度として、測定データ中心部に現れる透過X線や非干渉性散乱強度を除去した回折X線のみを用いる工程において、前記測定したX線散乱強度を逆フーリエ変換して試料の初期イメージを再生する工程と、前記初期イメージから前記参照孔の広がりによるボケの入った試料イメージ或いはその虚像の少なくとも一方を切りだす工程と、前記切り出した試料イメージ或いはその虚像からバックグラウンドノイズを除去する工程と、前記バックグラウンドノイズを除去した試料イメージ或いはその虚像をフーリエ変換してX線散乱強度を計算する工程とを有することを特徴とする付記1または付記2に記載のX線分析方法。
(付記4) 前記参照光振幅を推定する工程が、参照孔の形状から、数式的に計算により参照光振幅を求める工程であることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載のX線分析方法。
(付記5) 前記参照光振幅を推定する工程が、前記測定用窓部をマスク部材で遮蔽して参照光のみの強度分布を実測して参照光振幅を求める工程であることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載のX線分析方法。
(付記6) 前記参照光振幅を推定する工程が、形状が既知の試料を測定して得たX線散乱強度から参照光振幅を求める工程であることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載のX線分析方法。
(付記7) 前記形状が既知の試料を測定したX線散乱強度から参照光振幅を求める工程が、測定して得たX線散乱強度を逆フーリエ変換して初期イメージを再生する工程と、参照孔の径を仮定して得た参照光の散乱強度でX線散乱強度を補正する工程と、補正したX線散乱強度を逆フーリエ変換してイメージを計算する工程と、計算したイメージにおける前記既知の形状部分のX線強度Sとそれ以外の部分のX線強度NからN/Sを参照孔の径を順次変動させて計算する工程と、計算したi回目のN/S
|(Ni−1/Si−1)−(N/S)|/|N/S|≦0.001
になるまで再計算する工程と、
|(Ni−1/Si−1)−(N/S)|/|N/S|≦0.001
になった時の参照孔の径から参照光のX線散乱強度を計算する工程とを有することを特徴とする付記6に記載のX線分析方法。
(付記8) 干渉性X線源と、X線を絞るコリメータと、試料を保持する試料基板と、前記試料基板に設けた測定用窓部を遮蔽し、参照孔からのX線のみを透過するアパーチャー部材と、前記アパーチャー部材をX線の光軸方向に対して垂直方向に移動させる移動部材と、試料及び参照孔を透過したX線を検出する検出器とを備えたことを特徴とするX線分析装置。
【符号の説明】
【0049】
1 X線吸収部
2 F字パターン
3 参照孔
11 X線源
12 モノクロメータ
13 シャッター
14 X線コリメータ
15 遮蔽部材
16 アパーチャー
17 二次元検出器
18 PC
19 コントローラ
20 検出器コントローラ
30 マスク
31 X線吸収部材
32 X線透過窓
33 参照孔
34 メンブレン膜
35 試料
51 X線源
52 X線コリメータ
60 試料基板
53 検出器
61 シリコン基板
62 メンブレン膜
63 窓部
64 Au膜
65 X線透過窓
66 参照孔
67 試料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定用窓部に配置した試料からのX線散乱強度を測定する工程と、
参照孔からの参照光振幅を推定する工程と、
前記X線散乱強度を推定した前記参照光振幅により補正して補正X線散乱強度を求める工程と、
前記補正X線散乱強度をフーリエ逆変換して試料のイメージを再生する工程と
を有することを特徴とするX線分析方法。
【請求項2】
前記参照光振幅を推定する工程が、参照孔の形状から、数式的に計算により参照光振幅を求める工程であることを特徴とする請求項1に記載のX線分析方法。
【請求項3】
前記参照光振幅を推定する工程が、前記測定用窓部をマスク部材で遮蔽して参照光のみの強度分布を実測して参照光振幅を求める工程であることを特徴とする請求項1に記載のX線分析方法。
【請求項4】
前記参照光振幅を推定する工程が、形状が既知の試料を測定して得たX線散乱強度から参照光振幅を求める工程であることを特徴とする請求項1に記載のX線分析方法。
【請求項5】
干渉性X線源と、
X線を絞るコリメータと、
試料を保持する試料基板と、
前記試料基板に設けた測定用窓部を遮蔽し、参照孔からのX線のみを透過するアパーチャー部材と、
前記アパーチャー部材をX線の光軸方向に対して垂直方向に移動させる移動部材と、
試料及び参照孔を透過したX線を検出する検出器と
を備えたことを特徴とするX線分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−159354(P2012−159354A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18208(P2011−18208)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】