説明

X線分析装置およびX線分析方法

【課題】本発明は、1回のX線の照射で測定試料SMのより広い面積を分析し得るX線分析装置および該方法を提供する。
【解決手段】本発明のX線分析装置は、電子ビームEBを生成する電子ビーム生成部1と、電子ビーム生成部1によって生成された電子ビームEBの進行方向に沿って配置された複数の4重極レンズ2と、複数の4重極レンズ2を通過して射出された電子ビームEBと衝突することによってX線を生成するX線ターゲット3と、X線ターゲット3によって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を抽出して測定試料SMに照射するX線分光結晶4と、X線分光結晶4によって抽出され測定試料SMを透過した透過X線を検出するX線検出部5とを備え、複数の4重極レンズ2は、電子ビームEBを互いに同じ第1方向に発散するとともに互いに同じ第2方向に収束する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象である測定試料にX線を照射することによって測定試料内を分析するX線分析装置およびX線分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省資源化や軽量化等の要請からアルミニウム板は、徐々に薄肉化しており、その内部に混入している介在物が無視できなくなってきている。例えば、マグネシア(酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(酸化アルミニウム(Al)、酸化シリコン(SiO)および酸化カルシウム(CaO)等の、不純物である介在物をX線によって分析する場合、介在物の大きさが例えば100μm程度と小さく、しかも介在物の密度がアルミニウムの密度とほとんど変わらないため、X線による分析は、比較的困難であった。
【0003】
そこで、このような介在物をX線によって検出する技術が、例えば、特許文献1に提案されている。この特許文献1に開示の非金属介在物検出方法は、波長0.3Å〜2.5Åで焦点の大きさが100μm角または直径100μmの円以下の軟X線をアルミニウム板に照射し、該照射されたX線の透過X線像を撮像し、該撮像された透過X線に基づき上記アルミニウム板中の非金属介在物を検出するものである。このような構成の特許文献1に開示の非金属介在物検出方法は、X線の波長と焦点とを上記のように規定することによって、非金属介在物(例えば、MgO、Al、SiO、CaO等)の吸収係数が約0.4/cmであってアルミニウム板の吸収係数約0.5/cmにきわめて近くても、アルミニウム板中の非金属介在物をX線によって容易に検出することができる、と特許文献1には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−104176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示の非金属介在物検出方法では、焦点の大きさが100μm角または直径100μmの円以下の軟X線を使用するため、1回のX線の照射で測定試料の広い面積を分析することが難しい。例えばアルミニウム板等の中間製品では、例えば200cm程度の比較的広い幅があるため、前記特許文献1に開示の非金属介在物検出方法では、迅速に非金属介在物を検出することが難しい。このため、前記特許文献1に開示の非金属介在物検出方法では、このような幅の広い測定試料としての中間製品が流れて行く前記中間製品の製造工程中に前記中間製品内の介在物を検出することは、きわめて困難である。
【0006】
本発明は、上述の事情に鑑みて為された発明であり、その目的は、1回のX線の照射で測定試料のより広い面積を分析することができるX線分析装置およびX線分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一態様にかかるX線分析装置は、電子ビームを生成する電子ビーム生成部と、前記電子ビーム生成部によって生成された電子ビームの進行方向に沿って配置された1つの4重極レンズと、前記4重極レンズを通過して射出された第1方向に発散するとともに前記第1方向と異なる第2方向に収束した帯状の電子ビームと衝突することによって帯状のX線を生成するターゲットと、前記ターゲットによって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を抽出して測定試料に照射する分光結晶と、前記分光結晶によって抽出され前記測定試料を透過した透過X線を検出するX線検出部とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の他の一態様にかかるX線分析装置は、電子ビームを生成する電子ビーム生成部と、前記電子ビーム生成部によって生成された電子ビームの進行方向に沿って配置された複数の4重極レンズと、前記複数の4重極レンズを通過して射出された電子ビームと衝突することによってX線を生成するターゲットと、前記ターゲットによって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を抽出して測定試料に照射する分光結晶と、前記分光結晶によって抽出され前記測定試料を透過した透過X線を検出するX線検出部とを備え、前記複数の4重極レンズは、前記電子ビームを互いに同じ第1方向に発散するとともに互いに同じ第2方向に収束することを特徴とする。
【0009】
また、本発明の他の一態様にかかるX線分析方法は、電子ビームを生成する電子ビーム生成工程と、前記電子ビーム生成工程によって生成された電子ビームを、前記電子ビームの進行方向に沿って配置された1つの4重極レンズに通過させる4重極レンズ通過工程と、前記4重極レンズを通過して射出された第1方向に発散するとともに前記第1方向と異なる第2方向に収束した帯状の電子ビームをターゲットに衝突させることによって帯状のX線を生成するX線生成工程と、前記ターゲットによって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を分光結晶によって抽出して測定試料に照射する分光照射工程と、前記分光結晶によって抽出され前記測定試料を透過した透過X線を検出するX線検出工程とを備えることを特徴とする。
【0010】
そして、本発明の他の一態様にかかるX線分析方法は、電子ビームを生成する電子ビーム生成工程と、前記電子ビーム生成工程によって生成された電子ビームを、前記電子ビームの進行方向に沿って配置された複数の4重極レンズに通過させる4重極レンズ通過工程と、前記複数の4重極レンズを通過して射出された電子ビームをターゲットに衝突させることによってX線を生成するX線生成工程と、前記ターゲットによって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を分光結晶によって抽出して測定試料に照射する分光照射工程と、前記分光結晶によって抽出され前記測定試料を透過した透過X線を検出するX線検出工程とを備え、前記4重極レンズ通過工程は、前記複数の4重極レンズのそれぞれによって前記電子ビームを互いに同じ第1方向に発散させるとともに互いに同じ第2方向に収束させることを特徴とする。
【0011】
このような構成のX線分析装置およびX線分析方法では、電子ビームをターゲット(標的部材)に衝突させることによってX線が生成され、この生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線が抽出されて測定試料に照射され、そして、測定試料を透過した透過X線が検出され、測定試料が分析される。ここで、電子ビームがターゲットに衝突するまでの間に1または複数の4重極レンズが配置され、1または複数の4重極レンズは、電子ビームを互いに同じ第1方向に発散するとともに互いに同じ第2方向に収束する。したがって、電子ビームが1または複数の4重極レンズによって第1方向に発散または順次に発散されるので、第1方向に幅の広い電子ビームが生成され、この電子ビームがターゲットに衝突するので、第1方向に幅の広いX線が生成される。このため、このような構成のX線分析装置およびX線分析方法は、第1方向に幅の広いX線を測定試料に照射することができるので、1回のX線の照射で測定試料のより広い面積を分析することができる。
【0012】
また、他の一態様では、上述のX線分析装置において、好ましくは、前記複数の4重極レンズにおいて、前記電子ビームの進行方向に沿って互いに隣接する2個の4重極レンズのうちの相対的に下流側に配置される4重極レンズは、相対的に上流側に配置される4重極レンズによって前記電子ビームが前記第2方向で最も収束する位置より下流側の位置に配置されることを特徴とする。
【0013】
一般に、4重極レンズは、運動する荷電粒子を所定の一方向に発散するとともに所定の他方向に収束するものであり、荷電粒子は、前記一方向では、その後、進行に従って広がっていき、前記他方向では、進行に従って、収束した後に発散する。上記構成のX線分析装置では、互いに隣接する2個の4重極レンズのうちの下流側の4重極レンズが、上流側の4重極レンズによって電子ビームが第2方向で最も収束する位置より下流側の位置に配置されるので、電子ビームは、第1方向では前記2個の4重極レンズによって順次に発散される一方、第2方向では上流側の4重極レンズによって収束された後に発散される場合でも下流側の4重極レンズによって再び収束される。このため、このような構成のX線分析装置は、第1方向に幅の広くかつ第2方向に幅の狭い電子ビームを生成することができ、これをターゲットに衝突させることで、第1方向に幅の広くかつ第2方向に幅の狭いX線を生成することができる。したがって、このような構成のX線分析装置は、第1方向では、1回のX線の照射で測定試料のより広い面積を分析することができるとともに、第2方向では、分解能を向上させることが可能となる。
【0014】
また、他の一態様では、上述のX線分析装置において、好ましくは、前記ターゲットは、モリブデン、ニオブおよびジルコニウムのうちのいずれか1つによって形成されていることを特徴とする。
【0015】
通常、電子ビームをターゲットに衝突させた場合に生じるX線には、特性X線と制動X線とが含まれ、特性X線の強度は、制動X線の強度よりも高い。このため、このような構成のX線分析装置は、ターゲットで生成されたX線から、分光結晶によって制動X線をカットしたとしても分光結晶によって特性X線を含むX線を取り出すことによって、強度の強いX線を測定試料に照射することができる。
【0016】
また、他の一態様では、上述のX線分析装置において、好ましくは、前記分光結晶は、フッ化リチウムによって形成された板状体であることを特徴とする。
【0017】
このような構成のX線分析装置は、分光結晶としてフッ化リチウムを用いるので、比較的容易に実現可能なブラッグ角(Bragg角)で、約10keVから約25keVまでの範囲のX線を取り出すことができる。
【0018】
また、他の一態様では、上述のX線分析装置において、好ましくは、前記分光結晶は、湾曲した板状体であることを特徴とする。
【0019】
このような構成のX線分析装置は、分光結晶が湾曲しているので、分光結晶が平板状である場合に比べて、ターゲットから分光結晶を介して測定試料に照射されるX線の利用効率を向上することができ、第2方向の空間分解能をより向上することができる。
【0020】
また、他の一態様では、上述のX線分析装置において、好ましくは、前記測定試料は、アルミニウム板であり、前記所定のエネルギーは、10keV〜25keVの範囲内に含まれることを特徴とする。
【0021】
アルムニウムのX線透過率とアルムニウムおよびアルミナのX線透過率との差は、X線のエネルギーが10keV〜25keVの範囲である場合に、比較的大きい。このため、このような構成のX線分析装置は、前記所定のエネルギーが10eV〜25eVの範囲内にあるX線を用いるので、アルミニウムの測定試料からアルミナを検出する分析を行う場合に、好適にアルミナを検出することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明にかかるX線分析装置およびX線分析方法は、1回のX線の照射で測定試料のより広い面積を分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態におけるX線分析装置の構成を示す図である。
【図2】第1実施形態のX線分析装置における4重極レンズの構成を示す図である。
【図3】板厚0.3mmの場合における、アルミニウム板のX線透過率とアルミナを形成したアルムニウム板のX線透過率との差を示す図である。
【図4】モリブデンのX線スペクトルを示す図である。
【図5】ブラッグ角とフォトンエネルギーとの関係を示す図である。
【図6】第1実施形態のX線分析装置における電子ビームの軌跡の一例を説明するための図である。
【図7】第1実施形態のX線分析装置におけるターゲット上での電流密度分布の一例を示す図である。
【図8】第2実施形態におけるX線分析装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態におけるX線分析装置の構成を示す図である。図1(A)は、垂直断面を示し、図1(B)は、水平断面を示す。図2は、第1実施形態のX線分析装置における4重極レンズの構成を示す図である。図2(A)は、磁気4重極レンズの構成を示し、図2(B)は、静電4重極レンズの構成を示す図である。
【0026】
第1実施形態におけるX線分析装置Daは、測定試料SMの材質に応じた所定のエネルギーを持つX線を測定試料SMに照射し、測定試料SMを透過した透過X線を検出することで、測定試料SM内の介在物を分析する装置であり、例えば、図1に示すように、電子ビーム生成部1と、複数の4重極レンズ2と、X線ターゲット3と、X線分光結晶4と、X線検出部5とを備えて構成される。そして、本実施形態では、X線分析装置Daは、スリット部材6も備えている。
【0027】
電子ビーム生成部1は、電子ビームEBを生成する装置であり、例えば、電子銃11を備えている。電子銃11は、固体中の電子を熱や電界によって空間に放出させる装置である。電子銃11は、例えば、数十mA〜数百mA程度の電流によって50〜100kVに加速された電子を放出する。
【0028】
4重極レンズ2は、運動する荷電粒子ビーム(本実施形態では電子ビームEB)に磁界または電界を作用させることによって、荷電粒子の進行方向を制御し、荷電粒子ビームの進行方向に直交する面内における荷電粒子ビームのビーム形状を制御する装置である。4重極レンズ2は、荷電粒子ビームを所定の第1方向(例えば水平方向)に発散するとともに、前記第1方向と異なる方向の第2方向、例えば第1方向と直交する第2方向(前記例では垂直方向)に収束する非対称なレンズである。
【0029】
荷電粒子ビームに磁界を作用させる4重極レンズ2は、磁気4重極レンズと呼称される。この磁気4重極レンズ2aは、例えば、図2(A)に示すように、電子ビームEBに作用させる磁界を生成する4個の磁極21(21−1〜21−4)を備えて構成される。これら4個の磁極21−1〜21−4は、水平方向(X方向)または垂直方向(Y方向)から45度傾いた位置から、電子ビームEBの進行経路の周方向に90度間隔でそれぞれ配置される。すなわち、180度間隔で配置される一対の磁極21−1、21−3は、電子ビームEBの進行経路を介して互いに対向するように配置されるとともに、180度間隔で配置される他の一対の磁極21−2、21−4は、電子ビームEBの進行経路を介して互いに対向するように配置され、これら前記一対の磁極21−1、21−3と前記他の一対の磁極21−2、21−4とは、電子ビームEBの進行経路で直交するように配置される。各磁極21−1〜21−4の各先端は、円弧状、好ましくは双曲線形状であるが、比較的容易に加工することができることから、各磁極21−1〜21−4の各先端は、前記双曲線形上の近似として半円形状であってもよい。これら4個の磁極21−1〜21−4は、電子ビームEBが水平方向に発散するとともに垂直方向で収束するように、各極性が設定される。例えば、電子ビームEBが紙面裏側から紙面表側へ入射する場合には、水平方向から反時計回りに45度の位置に配置される磁極21−2およびこの磁極21−2に電子ビームEBの進行経路を挟んで対向する磁極21−4は、S極に設定されるとともに、水平方向から反時計回りに135度の位置(磁極21−2から90度の位置)に配置される磁極21−1およびこの磁極21−1に電子ビームEBの進行経路を挟んで対向する磁極21−3は、N極に設定される。これら各磁極21−1〜21−4の各磁界は、例えば、各磁極21−1〜21−4に巻き回された図略の各コイルに図略の電源よりそれぞれ通電することによって生成される。
【0030】
また、荷電粒子ビームに静電界を作用させる4重極レンズ2は、静電4重極レンズと呼称される。この静電4重極レンズ2bは、例えば、図2(B)に示すように、電子ビームEBに作用させる静電界を生成する4個の電極26(26−1〜26−4)を備えて構成される。これら4個の電極26−1〜26−4は、水平方向(X方向)または垂直方向(Y方向)の位置から、電子ビームEBの進行経路の周方向に90度間隔でそれぞれ配置される。すなわち、180度間隔で配置される一対の電極26−1、26−3は、電子ビームEBの進行経路を介して互いに対向するように配置されるとともに、180度間隔で配置される他の一対の電極26−2、26−4は、電子ビームEBの進行経路を介して互いに対向するように配置され、これら前記一対の電極26−1、26−3と前記他の一対の電極26−2、26−4とは、電子ビームEBの進行経路で直交するように配置される。各電極26−1〜26−4の各先端は、円弧状、好ましくは双曲線形状であるが、比較的容易に加工することができることから、各電極26−1〜26−4の各先端は、前記双曲線形上の近似として半円形状であってもよい。これら4個の電極26−1〜26−4は、電子ビームEBが水平方向に発散するとともに垂直方向で収束するように、各極性が設定される。例えば、電子ビームEBが紙面裏側から紙面表側へ入射する場合には、水平方向の位置に配置される電極26−2および電極26−4は、+極(プラス極)に設定されるとともに、垂直方向の位置に配置される電極26−1および電極26−3は、−極(マイナス極)に設定される。これら各電極26−1〜26−4の各静電界は、例えば、図略の電源により電圧をそれぞれ印加することによって生成される。
【0031】
なお、4重極レンズ2は、大気中に設置可能な点や放電の問題も生じないことから、磁気4重極レンズが好ましい。
【0032】
そして、本実施形態のX線分析装置Daでは、図1に示すように、複数の4重極レンズ2が、電子ビーム生成部1によって生成された電子ビームEBの進行方向に沿って配置される。本実施形態のX線分析装置Daでは、2個の第1および第2の4重極レンズ2−1、2−2が用いられている。
【0033】
X線ターゲット3は、電子ビームEBの進行経路上に配置され、複数の4重極レンズ2を通過して射出された電子ビームEBと衝突することによってX線を生成する薄膜体または板状体である。X線ターゲット3は、電子ビームEBの衝突によって加熱されるので、X線ターゲット3は、水冷やヒートパイプ冷却等によって冷却されることが好ましい。
【0034】
X線分光結晶4は、X線ターゲット3によって生成されたX線の伝播経路上に配置され、X線ターゲット3によって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を抽出して測定試料SMに照射するものである。X線分光結晶4は、いわゆるブラッグ反射によって所定のエネルギー(所定の波長)を持つX線を回折して反射することによって、所定のエネルギーを持つX線を分光して抽出するものである。結晶面の間隔をdとし、結晶面とX線とが成す角をθとし、X線の波長をλとし、そして、nを整数とする場合に、2×d×sinθ=n×λといういわゆるブラッグの条件を満たすX線が回折され反射される。
【0035】
スリット部材6は、X線を遮断する板状体に略矩形形状のスリット孔を開口した部材である。スリット部材6は、X線を効率的に遮断するために、比較的原子量の重い金属によって形成され、X線を遮断することができる適宜な厚さで形成される。スリット部材6は、X線分光結晶4と測定試料SMとの間であって、X線分光結晶4によって分光されたX線の伝播経路上に配置される。スリット部材6は、X線ターゲット3によって生成したX線がX線分析装置Da内の部材によって回り込んで測定試料SMに照射することを防止し、X線分光結晶4によって分光されたX線をスリット孔を介して測定試料SMに照射させることによって、X線分光結晶4によって分光された所定のエネルギーを持つX線のみを測定試料SMに照射させる。
【0036】
X線検出部5は、X線分光結晶4によって抽出され測定試料SMを透過した透過X線を検出するものである。X線検出部5は、例えば、X線のエネルギーを吸収して蛍光を発するシンチレータを含む薄膜層が受光面上に形成された二次元イメージセンサを備えるフラットパネルディテクタ(FPD)や、入射フォトンを光電面で電子に変換し、この電子をマイクロチャネルプレートで倍増し、この倍増された電子群を蛍光体に衝突させて発光させるイメージインテンシファイア部と、イメージインテンシファイア部の出力光を撮像する二次元イメージセンサとを備えるイメージインテンシファイアカメラ等である。
【0037】
このような電子ビーム生成部1、複数の4重極レンズ2、X線ターゲット3、X線分光結晶4、スリット部材6およびX線検出部5を備えるX線分析装置Daでは、電子銃11によって生成された電子ビームEBは、複数の4重極レンズ2を通過し、X線ターゲット3に衝突する。X線ターゲット3では、電子ビームEBが衝突するとX線が生成される。このX線には、特性X線および制動X線が含まれる。X線ターゲット3で生成されたX線は、X線分光結晶4に所定の角度θで入射され、X線分光結晶4によってブラッグの条件を満たす所定のエネルギーを持つX線が回折され反射される。この所定のエネルギーを持つX線は、スリット部材6のスリット孔を介して測定試料SMに照射され、そして、測定試料SMを透過した透過X線がX線検出部5によって検出される。この検出結果を参照することによって測定試料SMの分析が行われる。
【0038】
ここで、測定試料SMがアルミニウム板であって、例えば、マグネシア(酸化マグネシウム(MgO)、アルミナ(酸化アルミニウム(Al)、酸化シリコン(SiO)および酸化カルシウム(CaO)等の、不純物である介在物を検出する場合には、測定試料SMに照射されるX線が持つ前記所定のエネルギーは、アルミニウムおよび介在物に応じて適宜に設定される。一例を挙げると、介在物がアルミナである場合には、前記所定のエネルギーは、10keV〜25keVの範囲内に含まれることが好ましい。
【0039】
図3は、板厚0.3mmの場合における、アルミニウム板のX線透過率とアルミナを形成したアルムニウム板のX線透過率との差を示す図である。図3の横軸は、eV単位で表すX線エネルギーを示し、その縦軸は、%単位で表すX線透過率の差を示す。アルミニウム板のX線透過率は、厚さ0.3mmのアルミニウム板の場合をシミュレーションした計算結果であり、アルミナを形成したアルミニウム板のX線透過率は、厚さ0.2mmのアルミニウム板上に0.1mmのアルミナを形成したものの場合をシミュレーションした計算結果である。
【0040】
図3に示すように、X線透過率における両者の差は、X線エネルギーが増加するに従って、照射されるX線のX線エネルギーが約7keVで現れ、その後、徐々に増大し、X線エネルギーが約13keVでピークとなり、そして、その後、徐々に減少する。アルミニウム板に混入した介在物を検出するためには、X線透過率における両者の差が1.5%程度必要である。このため、上述したように、アルミニウム板に混入したアルミナを検出する場合には、前記所定のエネルギーは、10keV〜25keVの範囲内に含まれることが好ましい。すなわち、X線のエネルギーが10keV未満では、優位な両者の差が得られず好ましくなく、X線のエネルギーが25keVを超えると、コントラストが悪くなって好ましくない。そして、X線透過率における両者の差が大きいほど、アルミニウム板に混入した介在物の検出に有利であり、前記所定のエネルギーは、12keV〜18keVの範囲内に含まれることがより好ましく、前記所定のエネルギーは、前記両者の差がピークとなる約13keVであることがさらに好ましい。
【0041】
そして、介在物がマグネシア(酸化マグネシウム(MgO)、酸化シリコン(SiO)および酸化カルシウム(CaO)等である場合には、このような場合における図3に相当するシミュレーションを行うことによって、前記所定のエネルギーは、適宜に設定することができる。また、測定試料SMの板厚が異なる場合でも、同様に、図3に相当するシミュレーションを行うことによって、前記所定のエネルギーは、適宜に設定することができる。
【0042】
このような所定のエネルギーを持つX線は、制動X線から抽出されてもよいが、一般に、特性X線の強度は、制動X線の強度より大きく、検出精度を向上する観点等から、測定試料SMに照射されるX線は、より強度の大きい特性X線を含むことが好ましい。また、上述したようにアルミニウム板に混入したアルミナ等の介在物を検出する場合には、前記所定のエネルギーは、10keV〜25keVの範囲内に含まれることが好ましいことから、X線ターゲット3は、このエネルギー範囲内に特性X線が含まれる材料で形成されることが好ましい。このような材料は、例えば、波長0.8288Å、エネルギー14.96keVに特性X線を持つイットリウム(Y)、波長0.78596Å、エネルギー15.78keVに特性X線を持つジルコニウム(Zr)、波長0.746189Å、エネルギー16.62keVに特性X線を持つニオブ(Nb)および波長0.709328Å、エネルギー17.48keVに特性X線を持つモリブデン(Mo)を挙げることができる。この中でも、融点が高く熱伝導性が大きいことから、モリブデン、ニオブおよびジルコニウムが好ましく、さらにモリブデン、ニオブがより好ましい。図4は、モリブデンのX線スペクトルを示す図であり、上記一例が示されている。なお、図4の横軸は、[pm]単位で表す波長(wavelength)であり、その縦軸は、1秒間あたりのカウント数(count per second)である。
【0043】
そして、このような特性X線を抽出するために、好ましくは、X線分光結晶4は、フッ化リチウム(LiF)によって形成された板状体である。図5は、ブラッグ角とフォトンエネルギーとの関係を示す図である。図5の横軸は、[度(deg)]単位で表すブラッグ角(Bragg角)を示し、その縦軸は、[keV]単位で表すフォトンエネルギーを示す。図5には、ブラッグ角とフォトンエネルギーとの関係が両対数表示で表示されている。比較的太い実線は、結晶面の方位が(420)であるフッ化リチウムの前記関係を示し、比較的太い破線は、結晶面の方位が(220)であるフッ化リチウムの前記関係を示し、比較的細い実線は、結晶面の方位が(220)であるシリコン(Si)の前記関係を示し、比較的太い一点鎖線は、結晶面の方位が(200)であるフッ化リチウムの前記関係を示し、比較的細い破線は、結晶面の方位が(111)であるシリコンの前記関係を示し、そして、比較的細い一点鎖線は、結晶面の方位が(002)であるマイカの前記関係を示している。ブラッグ角が大きいほど、分光結晶によって所定のエネルギーを持つX線を抽出しやすく、図5から分かるように、フッ化リチウムは、好適であり、特に、10keV〜25keVの範囲内にあるX線を抽出する場合には、ブラッグ角が10度以上となって、より好適である。
【0044】
なお、結晶面の方位が(420)であるフッ化リチウムにおける結晶面の間隔dは、2d=1.80Åであり、結晶面の方位が(220)であるフッ化リチウムにおける結晶面の間隔dは、2d=2.85Åであり、結晶面の方位が(200)であるフッ化リチウムにおける結晶面の間隔dは、2d=4.03Åであり、結晶面の方位が(220)であるシリコンにおける結晶面の間隔dは、2d=3.84Åであり、結晶面の方位が(111)であるシリコンにおける結晶面の間隔dは、2d=6.27Åであり、そして、結晶面の方位が(002)であるマイカにおける結晶面の間隔dは、2d=19.9Åである。
【0045】
そして、本実施形態のX線分析装置Daでは、電子ビーム生成部1によって生成された電子ビームEBの進行方向に沿って配置された複数の4重極レンズ2は、電子ビームEBを互いに同じ第1方向に発散するとともに互いに同じ第2方向に収束するように構成される。
【0046】
したがって、本実施形態のX線分析装置Daでは、電子ビームEBがこれら複数の4重極レンズによって第1方向に順次に発散されるので、本実施形態のX線分析装置Daは、第1方向に幅の広い電子ビームを生成することができる。そして、この第1方向に幅の広い電子ビームEBがX線ターゲット3に衝突するので、本実施形態のX線分析装置Daは、第1方向に幅の広いX線を生成することができる。このため、このような構成のX線分析装置Daは、第1方向に幅の広いX線を測定試料SMに照射することができるので、1回のX線の照射で測定試料のより広い面積を分析することができる。
【0047】
そして、好ましくは、これら複数の4重極レンズ2において、電子ビームEBの進行方向に沿って互いに隣接する2個の4重極レンズ2のうちの相対的に下流側に配置される4重極レンズ2は、相対的に上流側に配置される4重極レンズ2によって電子ビームEBが前記第2方向で最も収束する位置より下流側の位置に配置される。一般に、4重極レンズは、運動する荷電粒子を所定の一方向(第1方向)に発散するとともに所定の他方向(第2方向)に収束するものであり、荷電粒子は、前記一方向(第1方向)では、その後、進行に従って広がって行き、前記他方向(第2方向)では、進行に従って、収束した後に発散する。このため、第1方向における電子ビームEBの幅をより広げるために上流側の重極レンズ2とX線ターゲット3との間隔をより空けると、電子ビームEBは、第2方向も広がってしまう。そこで、上記構成のように、上流側の4重極レンズ2によって電子ビームEBが第2方向で最も収束する位置より下流側の位置に4重極レンズをさらに配置することによって、このような構成のX線分析装置Daでは、電子ビームEBは、第1方向では上流側の4重極レンズ2によって所定の第1発散角で広げられた後にさらに下流側の4重極レンズ2によって前記第1発散角よりも大きな第2発散角にさらに広げられる一方、第2方向では上流側の4重極レンズ2によって収束された後に発散される場合でも下流側の4重極レンズ2によって再び収束される。このため、このような構成のX線分析装置Daは、第1方向に幅の広くかつ第2方向に幅の狭い電子ビームEBを生成することができ、これをX線ターゲット3に衝突させることによって、第1方向に幅の広くかつ第2方向に幅の狭いX線を生成することができる。したがって、このような構成のX線分析装置Daは、第1方向では、1回のX線の照射で測定試料SMのより広い面積を分析することができるとともに、第2方向では、分解能を向上させることが可能となる。
【0048】
特に、X線ターゲット3に対しては、第2方向の分解能を最も向上させる観点から、下流側の4重極レンズ2によって第2方向で最も収束するように磁気4重極レンズであれば励磁電流、静電4重極レンズであれば印加電圧を調整することが好ましい。この位置にX線ターゲット3を配置することによって、X線分析装置Daは、第1方向に広くかつ第2方向で最も狭いX線を生成することができる。すなわち、X線分析装置Daは、第1方向に広くかつ第2方向で狭い最もX線を測定試料SMに照射することができ、第2方向の分解能を最も向上させることが可能となる。
【0049】
図1に示す例では、X線分析装置Daは、2個の第1および第2の4重極レンズ2−1、2−2を備えており、第1の4重極レンズ2−1は、電子ビームEBを水平方向(X方向)に発散するとともに垂直方向(Y方向)に収束し、第2の4重極レンズ2−2は、第1の4重極レンズ2−1と同じく、電子ビームEBを水平方向(X方向)に発散するとともに垂直方向(Y方向)に収束する。そして、これら第1および第2の4重極レンズ2−1、2−2において、電子ビームEBの進行方向に沿って互いに隣接する2個の4重極レンズ2−1、2−2のうちの相対的に下流側に配置される4重極レンズ2−2は、図1に示すように、相対的に上流側に配置される4重極レンズ2−1によって電子ビームEBが垂直方向で最も収束する位置より下流側の位置に配置されている。
【0050】
図6は、第1実施形態のX線分析装置における電子ビームの軌跡の一例を説明するための図である。図6(A)は、水平方向の場合を示し、図6(B)は、垂直方向の場合を示す。図7は、第1実施形態のX線分析装置におけるターゲット上での電流密度分布の一例を示す図である。図7(A)は、水平方向の場合を示し、図7(B)は、垂直方向の場合を示す。
【0051】
一具体例のシミュレーション結果として、第1および第2の4重極レンズ2−1、2−2が上述のように配置される場合における電子ビームの軌跡を図6に示し、そして、そのX線ターゲット3上での電流密度分布を図7に示す。図6および図7に示す一具体例では、電子ビームEBは、第1の4重極レンズ2−1によって第1の4重極レンズ2−1の配置位置から200mmの位置で垂直方向で最も収束し、相対的に下流側に配置される第2の4重極レンズ2−2は、これよりも200mm下流側の位置である、第1の4重極レンズ2−1の配置位置から400mm離れた位置に配置され、X線ターゲット3は、第2の4重極レンズ2−2によって垂直方向で最も収束される位置、この例では第1の4重極レンズ2−1の配置位置から1000mm離れた位置に配置される。この一具体例では、電子ビームEBは、第1の4重極レンズ2−1に入射され、この第1の4重極レンズ2−1は、電子ビームEBを水平方向(X方向)に発散させるとともに垂直方向(Y方向)で収束させるように作用し、電子ビームEBは、この第1の4重極レンズ2−1の作用によってその進行に従って水平方向に発散するとともに垂直方向に収束する。なお、進行方向は、前記X方向(水平方向)およびY方向(垂直方向)に直交するZ軸方向である。電子ビームEBは、前記進行に従って、垂直方向では、最も収束すると、発散する。なお、電子ビームEBは、水平方向では、上述したように発散し続けている。この垂直方向および水平方向で発散する電子ビームEBは、第2の4重極レンズ2−2に入射される。第2の4重極レンズ2−2の発散方向および収束方向は、第1の4重極レンズ2−1と一致するので、この電子ビームEBは、図6に示すように、この第2の4重極レンズ2−2の作用によってその進行に従って水平方向ではその発散角が増大してさらに発散するとともに、垂直方向では再び収束する。そして、電子ビームEBは、X線ターゲット3の位置では、その電流密度が図7に示すように水平方向では略均一に広がり、かつ垂直方向では略集中している。このようにX線分析装置Daは、これら第1および第2の4重極レンズ2−1、2−2を備えることによって、水平方向(X方向)に幅の広い電子ビームEBを得ることができる。このため、この水平方向に幅の広い電子ビームEBをX線ターゲット3に照射することによって、このX線分析装置Daは、水平方向に幅の広いX線を得ることができる。そして、X線ターゲット3の位置で、第2の4重極レンズ2−2によって垂直方向で最も収束させることによって、X線分析装置Daは、水平方向に広くかつ垂直方向で最も狭いX線を生成することができ、このようなX線を測定試料SMへ照射することができる。
【0052】
以上、説明したように、本実施形態のX線分析装置Daは、1回のX線の照射で測定試料SMのより広い面積を分析することができる。
【0053】
このため、本実施形態のX線分析装置Daを、例えばアルミニウム板等の比較的幅の広い中間製品が流れて行く前記中間製品の製造工程中に配置することによって、測定試料SMとして流れて行く前記中間製品の製造工程中で、前記中間製品内の介在物を検出するが可能となる。
【0054】
次に、別の実施形態について説明する。
【0055】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態におけるX線分析装置の構成を示す図である。第1実施形態におけるX線分析装置Daでは、X線分光結晶4は、平板状であるが、第2実施形態におけるX線分析装置Dbでは、この平板状のX線分光結晶4に代え、湾曲した板状体のX線分光結晶7が用いられる。これによってX線分光結晶7が所定のエネルギーを持つX線を抽出するとともに、このX線を集束させることができる。したがって、このような構成のX線分析装置Dbは、平板状のX線分光結晶4の場合に比べて、X線ターゲット3からX線分光結晶7を介して測定試料SMに照射されるX線の利用効率を向上することができ、第2方向の空間分解能をより向上することができる。
【0056】
このような第2実施形態におけるX線分析装置Dbは、図8に示すように、電子ビーム生成部1と、複数の4重極レンズ2と、X線ターゲット3と、X線分光結晶7と、X線検出部5とを備えて構成される。そして、本実施形態でも、X線分析装置Dbは、スリット部材6も備えている。第2実施形態のX線分析装置Dbにおける、これら電子ビーム生成部1、複数の4重極レンズ2、X線ターゲット3、X線検出部5およびスリット部材6は、第1実施形態のX線分析装置Daにおける、電子ビーム生成部1、複数の4重極レンズ2、X線ターゲット3、X線検出部5およびスリット部材6と同様であるので、その説明を省略する。
【0057】
X線分光結晶7は、X線ターゲット3によって生成されたX線の伝播経路上に配置され、X線ターゲット3によって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を抽出するとともに集束して測定試料SMに照射するものである。X線分光結晶7は、いわゆるJohann(ヨハン)の方法またはJohansson(ヨハンソン)の方法に従って湾曲される。Johannの方法では、X線分光結晶7は、表面に平行な格子面を持ち、半径2Rの円に曲げられる。なお、半径Rの円は、Roland円(ローランド円)である。このようなJohannの方法によるX線分光結晶7では、湾曲面上の全ての法線が一点を通り、所定の波長のX線は、この法線と(π/2)−θの角を成す入射線および反射線を作り、所定の線幅で集束する。また、Johansonnの方法では、上記Johannの方法に加えて、前記格子面の湾曲半径が2Rとされ、結晶表面の半径がRとされる。このようなJohansonnの方法では、上記Johannの方法より前記所定の線幅を狭くすることができる。このようなJohannの方法およびJohanssonの方法は、例えば、高良和武責任編集、「実験物理学講座20 X線回折」、共立出版株式会社、1988年7月発行のp82−p84に開示されている。
【0058】
このような構成のX線分析装置Dbは、湾曲した板状体のX線分光結晶7を用いるので、平板状のX線分光結晶4の場合に比べて、X線ターゲット3からX線分光結晶7を介して測定試料SMに照射されるX線の利用効率を向上することができ、第2方向の空間分解能をより向上することができる。例えば、0.1mm程度の介在物の分析が可能となる。
【0059】
なお、上述の第1および第2実施形態では、4重極レンズは、複数の2個であったが、3個以上であってもよく、また、1個であってもよい。このような構成では、電子ビーム生成部1によって生成された電子ビームEBは、その進行方向に沿って配置された1つの4重極レンズ2によって第1方向に発散するとともに前記第1方向と異なる第2方向に収束した帯状の電子ビームEBとなり、この4重極レンズ2を通過して射出された前記帯状の電子ビームEBは、X線ターゲット3に衝突することによって帯状のX線を生成する。従来では、4重極レンズは、第1および第2方向共に収束した電子ビームを生成する目的で通常複数で使用されるが、このような構成では、4重極レンズ2は、1回のX線の照射で測定試料のより広い面積を分析するべく、前記帯状の電子ビームEBを生成する目的で使用される。
【0060】
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0061】
SM 測定試料
Da、Db X線分析装置
1 電子ビーム生成部
2 4重極レンズ
3 X線ターゲット
4、7 X線分光結晶
5 X線検出部
6 スリット部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビームを生成する電子ビーム生成部と、
前記電子ビーム生成部によって生成された電子ビームの進行方向に沿って配置された1つの4重極レンズと、
前記4重極レンズを通過して射出された第1方向に発散するとともに前記第1方向と異なる第2方向に収束した帯状の電子ビームと衝突することによって帯状のX線を生成するターゲットと、
前記ターゲットによって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を抽出して測定試料に照射する分光結晶と、
前記分光結晶によって抽出され前記測定試料を透過した透過X線を検出するX線検出部とを備えること
を特徴とするX線分析装置。
【請求項2】
電子ビームを生成する電子ビーム生成部と、
前記電子ビーム生成部によって生成された電子ビームの進行方向に沿って配置された複数の4重極レンズと、
前記複数の4重極レンズを通過して射出された電子ビームと衝突することによってX線を生成するターゲットと、
前記ターゲットによって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を抽出して測定試料に照射する分光結晶と、
前記分光結晶によって抽出され前記測定試料を透過した透過X線を検出するX線検出部とを備え、
前記複数の4重極レンズは、前記電子ビームを互いに同じ第1方向に発散するとともに互いに同じ第2方向に収束すること
を特徴とするX線分析装置。
【請求項3】
前記複数の4重極レンズにおいて、前記電子ビームの進行方向に沿って互いに隣接する2個の4重極レンズのうちの相対的に下流側に配置される4重極レンズは、相対的に上流側に配置される4重極レンズによって前記電子ビームが前記第2方向で最も収束する位置より下流側の位置に配置されること
を特徴とする請求項2に記載のX線分析装置。
【請求項4】
前記ターゲットは、モリブデン、ニオブおよびジルコニウムのうちのいずれか1つによって形成されていること
を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のX線分析装置。
【請求項5】
前記分光結晶は、フッ化リチウムによって形成された板状体であること
を特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のX線分析装置。
【請求項6】
前記分光結晶は、湾曲した板状体であること
を特徴とする請求項5に記載のX線分析装置。
【請求項7】
前記測定試料は、アルミニウム板であり、
前記所定のエネルギーは、10keV〜25keVの範囲内に含まれること
を特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のX線分析装置。
【請求項8】
電子ビームを生成する電子ビーム生成工程と、
前記電子ビーム生成工程によって生成された電子ビームを、前記電子ビームの進行方向に沿って配置された1つの4重極レンズに通過させる4重極レンズ通過工程と、
前記4重極レンズを通過して射出された第1方向に発散するとともに前記第1方向と異なる第2方向に収束した帯状の電子ビームをターゲットに衝突させることによって帯状のX線を生成するX線生成工程と、
前記ターゲットによって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を分光結晶によって抽出して測定試料に照射する分光照射工程と、
前記分光結晶によって抽出され前記測定試料を透過した透過X線を検出するX線検出工程とを備えること
を特徴とするX線分析方法。
【請求項9】
電子ビームを生成する電子ビーム生成工程と、
前記電子ビーム生成工程によって生成された電子ビームを、前記電子ビームの進行方向に沿って配置された複数の4重極レンズに通過させる4重極レンズ通過工程と、
前記複数の4重極レンズを通過して射出された電子ビームをターゲットに衝突させることによってX線を生成するX線生成工程と、
前記ターゲットによって生成されたX線から所定のエネルギーを持つX線を分光結晶によって抽出して測定試料に照射する分光照射工程と、
前記分光結晶によって抽出され前記測定試料を透過した透過X線を検出するX線検出工程とを備え、
前記4重極レンズ通過工程は、前記複数の4重極レンズのそれぞれによって前記電子ビームを互いに同じ第1方向に発散させるとともに互いに同じ第2方向に収束させること
を特徴とするX線分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−163537(P2012−163537A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26279(P2011−26279)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】