説明

X線回折測定方法

【課題】 X線回折測定により、結晶構造または分子構造が特定方向に配向した周期構造を有した基材表面に形成された薄膜由来のX線回折プロファイルを確実に得る。
【解決手段】 基材5の表面に薄膜7が形成された薄膜材料3を、X線の照射面積を超える中空を有する試料台1に固定して、薄膜7の回折X線を測定するX線回折測定方法において、薄膜材料3の初期設定面に対して入射されるX線の薄膜7への正射影線9を回転軸として薄膜材料3を回転させ、薄膜7にX線が入射される測定面を該薄膜の初期設定面に対して傾斜させた状態でX線を薄膜7に入射させ、薄膜7の回折X線を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に形成された金属薄膜または金属化合物薄膜のX線回折測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に金属または金属化合物の薄膜を形成した材料(以下、「薄膜材料」という)は、薄膜が有する機能によって電子部品、光学部品、車両、建築用部材等に幅広く用いられている。
【0003】
このような薄膜が有する多様な機能は、例えば、結晶構造や結晶サイズ等と密接に関係していることが多い。そのため、このような薄膜材料を開発するうえで、X線回折測定で得られる結晶構造や結晶サイズ等の情報が非常に重要となる。また、このような薄膜材料を製造する場合、工程での品質管理として、X線回折測定が行われることが多い。
【0004】
上述した薄膜材料をX線回折測定する場合、薄膜由来のX線回折プロファイル(X線回折パターン)の他に、基材由来によるX線回折プロファイルが検出されてしまう。さらに、X線回折測定を行うには、試料台に薄膜材料を固定する必要があり、この試料台に由来するX線回折プロファイルも検出されてしまう。薄膜は基材や試料台に比較して極めて薄い場合が多く、X線回折測定で得られるX線回折プロファイル強度も小さくなる。通常、基材や試料台のX線回折プロファイル強度は高く、薄膜由来のX線回折プロファイルが、基材や試料台のX線回折プロファイルに隠れてしまうことがある。
【0005】
特許文献1では、試料台を中空形状にし、この中空部分に位置する試料にX線を照射することで、試料台に由来するX線回折プロファイルの強度を抑えて低くすることが提案されている。例えば、図6に示すように、基材102の表面に金属または金属化合物の薄膜104が形成された薄膜材料106が試料台100に固定された状態に設置されている。
【0006】
しかし、上述したように、薄膜材料、特に結晶構造や分子構造がある方向に配向した周期構造を有した基材102を用いた薄膜材料106のX線回折測定を行う場合、基材102由来のX線回折プロファイルの強度が大きく現れ、基材102由来のX線回折プロファイルが大きく検出されてしまう。特許文献1に記載の技術では、このような基材102に薄膜104を形成した薄膜材料106のX線回折測定において、基材102由来のX線回折プロファイルの強度を抑えることができず、薄膜104由来のX線回折プロファイルが、基材102由来のX線回折プロファイルに隠れ、薄膜104由来のX線回折プロファイルを検出できないことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−194752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、試料台由来のX線回折プロファイルの強度を低く抑えるとともに、薄膜材料の基材由来のX線回折プロファイルの強度を低く抑え、薄膜由来のX線回折プロファイルを確実に検出することができるX線回折測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係るX線回折測定方法は、結晶構造または分子構造が特定方向に配向した周期構造を有した基材の表面に金属または金属化合物の薄膜が形成された薄膜材料を、X線の照射面積を超える中空を有する試料台に固定して、該薄膜の回折X線を測定するX線回折測定方法において、前記薄膜材料の初期設定面に対して入射されるX線の前記薄膜への正射影線を回転軸として該薄膜材料を回転させ、該薄膜にX線が入射される測定面を該薄膜の初期設定面に対して傾斜させた状態でX線を該薄膜に入射させ、該薄膜の回折X線を測定することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るX線回折測定方法において、前記傾斜の角度は、5°以上50°以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、試料台由来のX線回折プロファイルの強度を低く抑えるとともに、薄膜材料の基材由来のX線回折プロファイルの強度を低く抑え、基材上に形成された薄膜由来のX線回折プロファイルを確実に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る試料と試料台との位置関係を示す概略図である。
【図2】本発明に係る試料と試料台との位置関係を示す断面図である。
【図3】本発明に係るX線回折測定における入射X線と試料との位置関係を示す図である。
【図4】比較例1のX線回折測定によるX線回折パターンを示す図である。
【図5】実施例1のX線回折測定によるX線回折パターンを示す図である。
【図6】従来のX線回折測定における入射X線と試料との位置関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用したX線回折測定方法の具体的な実施の形態の一例について、図面を参照しながら以下の順序で詳細に説明する。
1.試料台
2.X線回折測定方法
3.他の実施の形態
4.実施例
【0014】
<試料台>
本実施の形態に係るX線回折測定方法では、例えば、図1及び図2に示すように、試料となる薄膜材料3が試料台1に固定された状態で回折X線の測定を行う。
【0015】
試料台1は、例えば、図1に示すように、本体内部の軸方向に延び、X線照射面積を超える内径の中空部1aを有する円筒形状(円環形状)に形成された冶具である。試料台1は、このような中空部1aを有する形状とすることにより、X線回折測定の際に、試料台1由来のX線回折プロファイルを回避することができる。試料台1は、X線回折測定に影響を及ぼさない材料、例えば、アルミニウムで構成されている。
【0016】
薄膜材料3は、例えば、図2に示すように、基材5の表面に薄膜7が形成されている。基材5は、例えば、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂で構成され、結晶構造または分子構造が特定方向に配向した周期構造を有している。ポリエチレンテレフタレート樹脂は、例えば、製造過程で延伸加工を施すことにより、延伸される方向に対応して結晶構造または分子構造が配向した周期構造を有するようになる。基材5が、基材5の表面に対して平行な周期構造を有する場合においては、薄膜7の表面にX線を入射させると、基材5の表面に対して平行な周期構造由来の強い回折X線が現れることになる。薄膜7は、金属薄膜または金属化合物、例えば、タングステン酸化物微粒子で構成されている。薄膜7の厚さは、適宜選択することができる。例えば、薄膜7は、10μm以下の箔状のものも適用可能である。通常、基材5の厚さは、薄膜7の厚さに対して十分に厚い。薄膜7の表面にX線を入射させると、入射X線が薄膜7の表面から基材5の領域まで比較的深く侵入する。このため、X線回折プロファイルは、基材5の表面に平行な周期構造に基づく回折X線部分が、かなりの割合を占めてしまい、薄膜7からのX線回折プロファイルが埋もれてしまうこととなる。この結果として、薄膜7の構造解析等の測定評価が、行えなくなってしまう。
【0017】
薄膜材料3は、図2に示すように、基材5が試料台1の片面(上面)1bと接するようにして試料台1に固定される。試料台1と薄膜材料3との固定方法としては、例えば、試料台1の片面1bに接着剤を塗布して固定する方法、試料台1の片面1bと薄膜材料3との間に両面テープを挟み込んで固定する方法、試料台1の片面1bと薄膜材料3を押し付けて基材5自体が有する接着力で固定する方法が挙げられる。
【0018】
<X線回折測定方法>
X線回折測定方法では、例えば、図3に示すように、試料台1が載置されるステージ11と、X線を照射する照射部13と、薄膜材料3からの回折X線を検出する検出部15とを備えるX線回折装置20が用いられる。ステージ11は、ステージ11の角度を変更するための駆動部(図示せず)と接続されている。
【0019】
X線回折測定において、例えば、照射部13から照射されたX線が、特定の角度θで薄膜材料3に入射したとき、ブラッグの回折条件より、θの角度に回折X線が現れる。検出部15では、この回折X線が入射され、回折X線のX線強度を検出する。回折X線が現れるθは、薄膜材料3を構成する薄膜7及び基材5に特有の角度である。このθの値と、検出部15で検出したX線強度とに基づいて、薄膜7の結晶構造等を分析する。
【0020】
本実施の形態に係るX線回折測定の一例について説明する。まず、薄膜材料3を試料台1に設置する(以下、この時の薄膜7の表面を含む面を「初期設定面」と呼ぶ)。続いて、薄膜材料3が設置された試料台1をステージ11を介して薄膜材料3の初期設定面に対して入射されるX線の薄膜7への正射影線を回転軸として薄膜材料3を傾斜させた状態(以下、この時の薄膜7の表面を含む面を「測定面」と呼ぶ。)で、薄膜材料3における薄膜7の回折X線を測定する。
【0021】
測定時には、薄膜材料3の初期設定面に対して入射されるX線の薄膜7への正射影線を回転軸として薄膜材料3を回転させ、薄膜7にX線が入射される測定面7aを薄膜7の初期設定面に対して角度(回転角)ψだけ傾斜させる。例えば、図3に示すように、水平面に平行な薄膜材料3の初期設定面(破線)から、角度ψだけ薄膜材料3を傾斜させた状態(実線)に回転させる。薄膜材料3を初期設定面に対して角度ψだけ傾斜することにより、X線回折測定時に、薄膜材料3における基材5由来のX線回折プロファイルの強度を極めて小さくすることができる。これにより、回折X線の強度によっては、目的とする薄膜7のX線回折プロファイルが基材5由来のX線回折プロファイルに隠れてしまうのを防止し、薄膜7由来のX線回折プロファイルを確実に検出することができる。
【0022】
薄膜材料3を傾斜させる角度ψは、薄膜7の初期設定面と測定面7aとのなす角度であり、基材5由来のX線回折プロファイル強度が低く抑えられる角度であれば特に限定されることはないが、5°以上50°以下が好ましい。角度ψが5°未満の場合には、基材5由来のX線回折プロファイルの影響を受けてしまい、基材5由来のX線回折のピークに隠れ、薄膜7由来のX線回折のピークが検出されないため、目的とする薄膜7のX線回折プロファイルを得ることができない。また、角度ψが50°を超える場合には、基材5由来のX線回折のピークを低く抑えることはできるものの、基材5の別の強い強度をもったX線回折のピークが出現し、このピークに薄膜7由来のX線回折のピークが隠れてしまう。そのため、角度ψが50°を超える場合には、薄膜7由来のX線回折のピークが検出されなくなるおそれがある。
【0023】
以上説明したように、本実施の形態に係るX線回折測定方法では、薄膜材料3の初期設定面に対して入射されるX線の薄膜7への正射影線9を回転軸として薄膜材料3を回転させ、薄膜7にX線が入射される測定面7aを薄膜7の初期設定面に対して傾斜させた状態でX線を薄膜7に入射させ、薄膜7の回折X線を測定する。これにより、上述の如く試料台1由来のX線回折プロファイルの強度を低く抑えるとともに、基材5が有する、基材5の表面に対して結晶構造または分子構造が特定方向に配向した周期構造由来のX線回折プロファイルの強度を低く抑え、基材5上に形成された薄膜7由来のX線回折プロファイルを確実に得ることができる。
【0024】
<他の実施の形態>
上記説明において、試料台1の形状は、円筒状であるものとして説明したが、これに限定されるものではない。例えば、試料台1の形状は、中空部を有する他の形状、例えば、角筒状であってもよい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。なお、下記の実施例に本発明の範囲が限定されるものではない。
【0026】
<実施例1>
(試料)
厚さが60μmのポリエチレンテレフタレート製樹脂の表面に、タングステン酸化物微粒子が10nmの厚さで塗布された薄膜材料を、25mm×25mmの大きさに切断し、試料とした。なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂は、上述したように延伸される方向に対応して分子構造が配向した周期構造を有する。また、塗布されたタングステン酸化物微粒子の薄膜は、ポリエチレンテレフタレート樹脂のように結晶構造に顕著な配向は有していない。
【0027】
(試料台)
試料台としては、外径20mm、内径16mm、高さ5mmのアルミニウム製の円筒状の冶具を用いた。
【0028】
(試料の固定方法)
試料台の片面と試料との間に両面テープを位置させることにより、初期設定面が水平面となるように試料を試料台に固定した。
【0029】
(X線回折測定方法)
試料が固定された試料台をX線回折装置(装置名:D8 DISCOVER、ブルカー・エイエックスエス株式会社製)のステージに設置した。入射X線の試料への正射影線を回転軸として、試料が水平面に対して40°傾斜するようにステージを回転させて固定した。X線回折測定は、出力50kV−22mA、X線波長1.54056オングストローム、入射X線径300μmに設定して反射法により行った。
【0030】
<比較例1>
比較例1では、X線回折測定時に、試料を傾斜させないこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0031】
(測定結果)
比較例1で得られたX線回折プロファイルを図4に、実施例1で得られたX線回折プロファイルを図5にそれぞれ示す。図4及び図5において、横軸は入射角θの2倍となる2θを示し、縦軸は回折強度(検出強度)を示す。
【0032】
比較例1では、26°付近(図4の(1))に基材であるポリフタレンテレフタレートに由来するX線回折のピークが現れ、タングステン酸化物由来のX線回折のピークが検出されなかった。この26°付近のポリフタレンテレフタレートに由来するX線回折のピークの強度は、バックグラウンドレベルを差し引いた実質強度が87450であった。
【0033】
一方、実施例1では、23°付近(図5の(1))及び26°付近(図5の(2))に、ポリフタレンテレフタレートに由来するピークが観察された。また、実施例1では、比較例1で26°付近に現れたポリフタレンテレフタレートに由来するピークの実質強度が46となった。したがって、実施例1では、26°付近に現れたポリフタレンテレフタレートに由来するX線回折のピークの実質強度を、比較例1に対して1/1900程度に抑えることができた。この結果、実施例1では、比較例1で検出されなかった27°付近(図5の(3))、34°付近(図5の(4))及び37°付近(図5の(5))に、タングステン酸化物に由来するX線回折のピークを検出することができた。
【0034】
以上説明したように、実施例1では、薄膜にX線が入射される測定面を水平面に対して傾斜させた状態でX線を薄膜に入射させ、薄膜の回折X線を測定することにより、基材由来のX線回折のピークを低く抑え、薄膜由来のX線回折のピークを検出することができた。
【符号の説明】
【0035】
1 試料台、1a 中空部、1b 片面、3 薄膜材料、5 基材、7 薄膜、9 正射影線、11 ステージ、13 照射部、15 検出部、20 X線回折装置、100 試料台、102 基材、104 薄膜、106 薄膜材料、108 正射影線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造または分子構造が特定方向に配向した周期構造を有した基材の表面に金属または金属化合物の薄膜が形成された薄膜材料を、X線の照射面積を超える中空を有する試料台に固定して、該薄膜の回折X線を測定するX線回折測定方法において、
前記薄膜材料の初期設定面に対して入射されるX線の前記薄膜への正射影線を回転軸として該薄膜材料を回転させ、該薄膜にX線が入射される測定面を該薄膜の初期設定面に対して傾斜させた状態でX線を該薄膜に入射させ、該薄膜の回折X線を測定することを特徴とするX線回折測定方法。
【請求項2】
前記傾斜の角度は、5°以上50°以下であることを特徴とする請求項1記載のX線回折測定方法。
【請求項3】
前記試料台の形状は、円筒状または角筒状であることを特徴とする請求項1又は2記載のX線回折測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−2746(P2012−2746A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139495(P2010−139495)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】