説明

X線回折用治具、X線回折装置およびX線回折の測定方法

【課題】より高効率に、かつより高精度に極点図測定することが可能なX線回折用治具を提供する。
【解決手段】主表面12cを有するベース体120と、一方の主表面12cから突出するようにベース体120に固定された複数の側壁部121と、一方の主表面12c上に載置され、試料11の高さを調整可能な調整部材14とを備えている。上記側壁部121の最上面12a、12bは主表面12cに沿う方向に配置され、複数の最上面12a、12bのそれぞれの、主表面12cからの距離は等しく、複数の側壁部121は主表面12cを挟みながら互いに対向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線回折用治具、X線回折装置およびX線回折の測定方法に関し、より特定的には、極点図測定によるX線回折用治具、X線回折装置およびX線回折の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体結晶などの試料の結晶面の評価には、X線回折が広く用いられる。X線回折を用いた結晶面の評価には、たとえば以下の非特許文献1に示す極点図測定と呼ばれる方法が用いられる。
【0003】
極点図測定においては、たとえば評価しようとする結晶面に沿う方向に延びるA軸を中心とした試料の回転と、結晶面の法線であるB軸を中心とした試料の回転とがなされる。これらの回転により、試料の方向を任意に変更しながら回折X線の強度の分布が測定される。
【0004】
図13は、試料の結晶面にX線を入射した際のX線の出力を示す概略図である。試料11の表面11aに入射されるX線(入射X線)が試料11の内部にて回折により強まった方向に回折X線として出力される。ここで、表面11aに対して入射X線の角度と回折X線の角度とが等しい。このためX線源と、回折X線の検出器とを固定して試料11を様々な方位に回転すれば、試料11を構成する任意の結晶面の方位分布を調べることができる。
【0005】
また、回折X線は全体としてはデバイリングとして得られる。通常の検出器を用いて極点図測定する場合には図13に示す1本の円弧を描くような回折線だけしか検出できない。しかし2次元検出器を使用して極点図測定すれば、デバイリングをたとえば球面状に幅広く検出することができる。このため2次元検出器を使用すれば、測定時に試料を回転させる量を少なくすることができる。さらに半導体素子を使った2次元半導体検出器は、検出器からのデータの読み取り速度が速くなる。このため2次元半導体検出器を用いれば、測定時間が大幅に短縮される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「X線回折ハンドブック」、理学電機株式会社、2000年2月、p.94−100
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
極点図測定においては、まず測定する試料11(図13参照)の表面11aと、試料11が載置される試料台の面とが互いにほぼ平行となるようにセットされる必要がある。また極点図測定時には、試料11の表面11aと、入射X線の光学系の回転中心の高さとがほぼ等しくなるように調整する必要がある。しかしこれらを満足するように試料11の高さや角度を調整する作業に時間を要するという問題がある。
【0008】
具体的には、様々な形状の試料11を測定するため、試料台は通常、X線光学系の回転中心よりも数cm下方に位置している。そのため、たとえば板状の試料など、高さ方向の寸法が小さい試料を測定する場合には、試料台の上に粘土等をセットし、当該粘土にて高さを補いその上に試料をセットする。このようにして、試料11の寸法や形状にかかわらず、試料11の表面11aがほぼ同一の高さにセットされる。このようにして、高さに起因する測定結果の誤差が排除される。
【0009】
しかし上記の方法を用いても、試料11の寸法や形状に応じた高さの誤差は完全には排除されない。また、粘土の上に試料11をセットする場合、試料11の表面11aが試料台の表面にほぼ平行となるように角度を調整することも困難である。このため、実際には上記の高さや角度を調整するために、試料台に設置されたゴニオメータが用いられる。しかし当該ゴニオメータを用いた高さや角度の調整に時間を要する。このため極点図測定の作業効率を改善する余地がある。
【0010】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものである。その目的は、より高効率に、かつより高精度に極点図測定することが可能なX線回折用治具、X線回折装置およびX線回折の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るX線回折用治具は、主表面を有するベース体と、一方の主表面から突出するようにベース体に固定された複数の側壁部と、一方の主表面上に載置され、試料の高さを調整可能な調整部材とを備えている。上記側壁部の最上面は主表面に沿う方向に配置され、複数の最上面のそれぞれの、主表面からの距離は等しく、複数の側壁部は主表面を挟みながら互いに対向する。
【0012】
上記X線回折用治具を用いれば、極点図測定しようとする試料が調整部材の上に載置された状態で、複数の側壁部の最上面の上にたとえばガラス製の平板を載置することができる。このとき、たとえば平板の載置前に試料の最上面が側壁部の最上面よりも高い位置にあれば、側壁部の最上面に挟まれる位置に配置された試料の最上面は、平板により下方へ押し込まれる。その結果、試料の最上面の高さは側壁の最上面の高さにほぼ等しくなる。また、複数の側壁部の最上面のそれぞれがベース体の主表面に沿う(ほぼ平行な)方向に延びることから、当該最上面を跨ぐように載置された平板に沿うように、試料の表面が載置される。すなわち試料の表面はベース体の主表面に沿う方向に延びるようにセットされる。
【0013】
以上より、上記X線回折用治具を用いれば、試料の大きさや形状にかかわらず、より簡便な方法で、試料の主表面の高さや向きが一定となるようにセットすることができる。
【0014】
上記X線回折用治具においては、側壁部はガラス材料、金属材料、ステンレス材料からなる群から選択されるいずれか1種からなることが好ましい。
【0015】
たとえば治具の本体を構成する側壁部がガラスなどの非晶質材料からなれば、X線の入射時に当該X線が治具からのノイズデータを検出する可能性を低減することができる。これは金属材料やステンレス材料を用いた場合も同様である。また金属材料は所望の側壁部の形状に加工することが容易となる。このため治具が加工される効率を向上することができる。
【0016】
上記X線回折用治具の調整部材は粘土からなることが好ましい。粘土を用いれば、粘土の上に試料が載置された状態で上方から平板により押さえ込まれることにより、所望の高さ(位置)のところまで塑性変形される。また粘土が塑性変形される角度や形状についても任意である。したがって、容易に試料の高さや角度を調整することができる。
【0017】
本発明に係るX線回折装置は、上記のX線回折用治具と、X線回折用治具を載置する試料台と、X線回折用治具に載置される試料にX線を照射するX線源と、試料において回折されるX線を検出する検出器とを備える。以上の構成を有するX線回折装置を用いれば、より高効率にかつより高精度に極点図測定することができる。
【0018】
本発明に係るX線回折の測定方法は、上記のX線回折用治具を用いたX線回折の測定方法である。調整部材の上に試料を載置する工程と、最上面の上に平板部材を載置し、側壁部に挟まれる試料を押さえることにより、試料の最上部と主表面との距離と、最上面と主表面との距離とを揃える工程とを備える。
【0019】
上記のX線回折の測定方法は、上記のX線回折用治具を用いた測定方法である。このため、X線回折用治具を用いることにより上述のように容易に試料の高さや角度を調整することができる。したがって、上記X線回折の測定方法を用いれば、より高効率かつ高精度に試料を測定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、より高効率かつ高精度に試料を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るX線回折装置の外観を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るX線回折装置の主要部を、図1より拡大して示す概略図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るX線回折用治具の外観を示す概略図である。
【図4】図3のX線回折用治具の外観を示す上面図である。
【図5】図3のX線回折用治具の外観を示す側面図である。
【図6】図3のX線回折用治具に試料がセットされた状態を示す概略図である。
【図7】図6のX線回折用治具を側方から見た側面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係るX線回折の測定方法を示すフローチャートである。
【図9】図6のX線回折用治具に平板部材がセットされた状態を示す概略図である。
【図10】図9のX線回折用治具を側方から見た側面図である。
【図11】本発明の実施の形態に係るX線回折用治具の、図3とは異なる変形例の外観を示す概略図である。
【図12】図2のX線回折装置の使用時の状態の一例を、図2と同様に拡大して示す概略図である。
【図13】試料の結晶面にX線を入射した際のX線の出力を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態が説明される。なお、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0023】
図1を参照して、本発明に係るX線回折装置1は、試料台3とX線源5と検出器7とを有する。試料台3は試料をセットする治具が載置される台である。試料台3は平面視において略円形を有しているが、任意の形状とすることができる。X線源5はX線回折するための入射X線を供給する装置である。検出器7はたとえば一般公知の半導体素子を用いた2次元半導体検出器である。検出器7は、入射X線が照射される試料の内部にて回折して出力されるX線の強度分布等を検出することにより、試料の内部の結晶状態を同定する。
【0024】
図2を参照して、試料台3上には治具10が載置される。治具10は、X線回折しようとする試料11を載置するX線回折用治具である。X線源5にはコリメータ9が取り付けられており、コリメータ9から、ほぼ平行光線となった入射X線が試料11の表面11a上に照射される。
【0025】
図3を参照して、治具10の治具本体12は、ベース体120と、側壁部121と側壁接続部122とを有している。ベース体120は治具10の底面をなす領域であり、ベース体120がX線回折装置1の試料台3上に載置されることにより、ベース体120の主表面12cが試料台3の主表面とほぼ平行になるようにセットされる。側壁部121はベース体120の主表面12cと交差する方向に延在するように2箇所に配置される。側壁部121の最上面(側壁部121の延在する方向に関してベース体120と反対側の端部の面)には側壁上面12a、12bが形成される。
【0026】
2箇所の側壁部121は、ベース体120(主表面12c)を挟むように、互いに対向するように配置される。つまり主表面12cの中心から見て、2箇所の側壁部121は互いにほぼ点対称の位置に配置されることが好ましい。ただし側壁上面12aと側壁上面12bとのそれぞれの一部を結ぶ直線が、主表面12cの中心部分の真上を通るように配置されていれば、側壁上面12aを有する側壁部121と側壁上面12bを有する側壁部121との位置関係は任意である。
【0027】
図3および図4を参照して、治具10の本体12は平面視において略円形を有している。しかし治具10の外観形状はたとえば平面視において矩形状や楕円形状を有していてもよく、任意の形状とすることができる。
【0028】
図3〜図5を参照して、側壁部121は、ベース体120の主表面12c上から延びる(突出する)ことにより、ベース体120に固定される。しかし側壁部121は、たとえばベース体120の平面視における外周面上から、ベース体120の主表面12cに交差する方向に突出するように延在し、ベース体120に固定される態様を有してもよい。また図3〜図5において、ベース体120と側壁部121とは一体をなすように図示されているが、両者は別の部材であり、両者が接続された態様を有してもよい。
【0029】
側壁部121はベース体120の主表面12cから突出するように、主表面12cに交差する方向に延在する。このため側壁部121の側壁上面12a、12bのそれぞれは、主表面12cに沿う方向に配置されることが好ましい。言い換えれば、側壁上面12a、12bは、主表面12cとほぼ平行になるように形成されることが好ましい。
【0030】
図3および図4の治具本体12は、平面視におけるベース体120の外周部に関する、2箇所の側壁部121の間には、その最上面が本体下面12dである側壁接続部122が形成されている。本体下面12dは側壁上面12a、12bよりも低い位置(ベース体120に近い位置)に形成されている。しかし本実施の形態の治具10においては側壁接続部122が形成されていなくてもよい。
【0031】
ベース体120の主表面12cには、平面視において略円形の孔が形成されている。この孔は後述する調整部材が治具本体12に容易に固定されることを可能とする。しかしこの孔は形成されていなくてもよい。
【0032】
治具本体12は、ガラス材料、金属材料、ステンレス材料からなる群から選択されるいずれか1種からなることが好ましい。上記の材料を用いれば、治具本体12にセットされる試料に照射するX線が、治具本体12を構成するガラス材料の情報を読み取り、検出されるデータにガラス材料の情報が含まれるという問題が生じる可能性を低減することができる。また上記の材料を用いれば、治具本体12の形状を容易に加工することができる。治具本体12の中でも側壁部121が上記の材料により形成されることが特に好ましい。
【0033】
図4および図5を参照して、ベース体120には磁石13が取り付けられていることが好ましい。このようにすれば、ベース体120を含む治具10の全体を、試料台3上に安定に固定することができる。したがってこの場合、試料台3は磁性を有する鉄などの材料から形成されることが好ましい。
【0034】
図6を参照して、ベース体120の主表面12c上には、試料11をセットするための調整部材14がセットされる。調整部材14はたとえば粘土など、粘着性を有し、塑性変形する材料であることが好ましい。図6を正面から見た概略図が図7である。
【0035】
次に、本実施の形態におけるX線回折の測定方法について説明する。図8を参照して、本実施の形態におけるX線回折の測定方法においては、まず試料11が所望の箇所にセットされる(S10)。次にX線回折装置1により、試料11にX線が照射される(S20)。その後出力された回折X線のデータが分析され、試料11の結晶構造等が同定される(S30)。
【0036】
図8の工程(S10)に関して、図6および図7を参照して、本実施の形態における治具10への試料11のセットの方法について説明する。たとえば粘土からなる調整部材14が主表面12c上に載置(付着)された状態で、調整部材14上に試料11が載置(付着)される。試料11は、たとえばシリコンなどの半導体結晶の小片であることが好ましい。
【0037】
ここで試料11は、ベース体120からもっとも離れた図6および図7の最上部が、試料11の表面11a(主表面)となるように載置されることが好ましい。またこのとき試料11の表面11a(最上面)が、側壁部121の側壁上面12a、12bより上部に来るように設置されることが好ましい。
【0038】
図9および図10を参照して、たとえば平板形状のガラス材料からなる平板部材15が、2箇所の側壁部121を跨ぐように、側壁部121の側壁上面12a、12b上に載置される。すると、側壁上面12a、12bに挟まれた領域に配置される試料11の表面11aが、平板部材15により下方に押される。図10中の下向きの矢印は、平板部材15が下方に加える荷重を示す。その結果試料11の表面11aは、側壁上面12a、12bと同じ高さに配置される。言い換えれば、試料11の最上部である表面11aと主表面12cとの距離と、側壁上面12a、12bと主表面12cとの距離とがほぼ等しくなるように調整される。
【0039】
このため上述したように、2箇所の側壁部121は主表面12cの中央部分を挟むように、互いに対向するように配置されることが好ましい。このようにすれば、平板部材15は側壁上面12aと側壁上面12bとを跨ぐように載置される。このとき仮に試料11の表面11aなど最上部が、側壁上面12aや側壁上面12bよりも上部に配置されていれば、平板部材15が、側壁上面12aと側壁上面12bとの間の主表面12c上に載置される試料11を下方に押さえ、表面11aの高さを側壁上面12aと側壁上面12bとの高さに合わせるように調整する。これは試料11は粘土の調整部材14上に配置されるため、平板部材15が試料11を下方へ押さえつけることにより、調整部材14が下方へ縮むように塑性変形するためである。
【0040】
また試料11の表面11aは、平板部材15が試料11を下方へ押し込む際に、主表面12cに沿う方向を向くよう配置されることが好ましい。このようにすれば、試料11の大きさや材質などにかかわらず、表面11aの高さや角度が常にほぼ一定になるため、高精度な極点図測定が可能となる。
【0041】
平板部材15が試料11の表面11aを側壁上面12aと側壁上面12bとの高さに合わせ、かつ表面11aが主表面12cにほぼ平行になるよう調整するためには、側壁上面12aと側壁上面12bとの、主表面12cとの距離(主表面12cからの高さ)がほぼ等しいことが好ましい。図10に示すように、一方の側壁部121の側壁上面12aおよび他方の側壁部121の側壁上面12bのそれぞれから主表面12cまでの距離(図10の上下方向)がほぼ等しく、側壁上面12aと側壁上面12bとが主表面12c上の平板部材15を挟むように配置され、さらに側壁上面12aと側壁上面12bとが主表面12cに沿う方向を向く場合を考える。このとき、側壁上面12aおよび側壁上面12b上に載置される平板部材15により、試料11の表面11aは、側壁上面12aおよび側壁上面12bと高さがほぼ等しく、かつ主表面12cに沿う方向を向くように配置される。
【0042】
試料11の表面11aが側壁上面12aや側壁上面12bと同じ高さとなり、かつ主表面12cに沿う方向を向くよう設定される。このため、試料11の形状や、試料11の表面11aの大きさにかかわらず、表面11aの主表面12cに対する高さや、主表面12cに対する角度がほぼ一定となるようにセットすることができる。上記高さや角度が一定となる設定には、概ね表面11aが上方を向くよう、試料11が調整部材14にセットされ、その状態で平板部材15が側壁上面12aや側壁上面12bの上に載置されれば十分である。これは調整部材14が自在に塑性変形可能な材質からなることに因る。
【0043】
治具10はこのように試料11を高精度に位置合わせする工程を、極めて単純な作業により可能とする。このため治具10を用いて上記の測定方法を用いた測定をすることにより、X線回折の作業をより高効率に、かつ高精度になすことができる。
【0044】
なお図3〜図9においては、治具本体12は、主表面12cを挟むように互いに対向する2箇所の側壁部121を有する。しかし本実施の形態の治具10は、図11に示すように、たとえば治具本体12が3箇所の側壁部121を有していてもよい。図11の治具10も図3〜図10の治具10と同様に、ベース体120の外周面上から、またはベース体120の主表面12c上から、主表面12cに交差する方向に(突出するように)延びることが好ましい。また側壁部121の側壁上面12a、12b、12eのそれぞれは、主表面12cからの距離(高さ)がほぼ等しいことが好ましい。さらに側壁上面12a、12b、12eのそれぞれは主表面12cに沿う方向を向くことが好ましい。
【0045】
3箇所の側壁部121のそれぞれは、平面視においておおむね120°間隔となるように配置されることが好ましい。ただし互いに対向する領域に主表面12cや、その上の調整部材14、試料11が載置されるように、つまり側壁部121が囲む領域が試料11の載置される領域となるように配置されていればよい。言い換えれば側壁上面12a、側壁上面12b、側壁上面12eから選択される任意の2つを結ぶ領域の下に、試料11や主表面12cの中央部分が配置される位置に、側壁部121が形成されることが好ましい。
【0046】
図11のように3箇所の側壁部121を有する治具10を用いれば、平板部材15にて試料11の位置等を調整する際に、平板部材15が3箇所の側壁上面12a、12b、12e上に載置される。このため平板部材15が治具本体12の異なる3点上に載置される。したがって平板部材15の治具本体12に対する安定性がより高められる。
【0047】
以上のように試料11の治具本体12に対する高さや角度が調整されたところで、平板部材15が側壁上面上から取り外される。しかし調整部材14が粘土など塑性変形する材料からなるため、平板部材15が取り外されても試料11の治具本体12に対する高さや角度はほとんど変化しない。
【0048】
次に図8の工程(S20)に関して、試料11がセットされた治具10が試料台3上に載置される。この状態でX線源5からコリメータ9を通った入射X線が、表面11aから試料11の内部に入射される。するとX線は試料11の内部にて回折を起こし、表面11aから回折X線として出力される。
【0049】
ここで図12を参照して、試料台3が初期状態に対して傾けた状態で試料11が極点図測定される場合がある。図12は初期状態に対して試料台3が45°傾斜された状態である。このような状態においても治具10が試料台3に対して滑り落ちたりすることがないよう、治具10はたとえば上記の磁石13などにより試料台3に対して固定されることが好ましい。また試料11が調整部材14から落ちることがないよう、調整部材14が比較的粘度の高い材料からなることが好ましい。
【0050】
ここで、本実施の形態の作用効果について説明する。
上述したように、本実施の形態の治具10を用いれば、たとえばベース体120の主表面12cが側壁部121に挟まれる。複数の側壁部121の最上面である側壁上面12aなどを跨ぐように平板部材15が設置されれば、当該複数の側壁上面12aなどに挟まれた位置に配置される、ベース体120の主表面12c上の調整部材14(粘土)は平板部材15に押さえ込まれる。調整部材14が粘土であるため、平板部材15により調整部材14が押さえ込まれると、平板部材15の高さすなわち側壁部121の側壁上面12aなどの高さに揃うように塑性変形する。
【0051】
試料11の表面11aが平板部材15に接触しながら、平板部材15が試料11や調整部材14を押し込む場合には、平板部材15の主表面に沿う方向、すなわちベース体120の主表面12cに沿う方向に試料11の表面11aが向くように押さえ込まれる。このため試料11の表面11aはベース体120の主表面12cにほぼ平行な向きとなる。
【0052】
以上の、試料11の高さや位置、傾斜角度の調整が、調整部材14上にセットされた試料11の上から平板部材15を載置するだけでなされる。このため、たとえば毎度の試料11のセットごとに試料台3上に直接粘土などの調整部材14がセットされ、その上に試料11がセットされる場合に比べて、試料11の高さ調整に要する時間が大幅に短縮される。またセットされる試料11の高さのばらつきが抑制される。このため当該治具10を用いることにより、試料11のセットに要する時間が大幅に短縮される。
【0053】
また、試料11のセット時に試料11が主表面12cにほぼ平行となるように角度調整する作業が容易になる。このため、たとえばゴニオメータなどを用いた角度調整作業が不要となり、試料11の角度調整に要する時間が大幅に短縮される。
【0054】
以上より、本実施の形態のX線回折用治具を用いれば、試料11のセット作業の効率および精度を大幅に向上することができる。同様に、本実施の形態のX線回折装置やX線回折の測定方法において本実施の形態のX線回折用治具を用いれば、試料11のセット作業の効率および精度を大幅に向上することができる。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、極点図測定によるX線回折用治具、X線回折装置およびX線回折の測定方法に特に有利に適用されうる。
【符号の説明】
【0057】
1 X線回折装置、3 試料台、5 X線源、7 検出器、9 コリメータ、10 治具、11 試料、11a 表面、12 治具本体、12a,12b,12e 側壁上面、12c 主表面、12d 本体下面、12e 側壁上面、13 磁石、14 調整部材、15 平板部材、120 ベース体、121 側壁部、122 側壁接続部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面を有するベース体と、
一方の前記主表面から突出するように前記ベース体に固定された複数の側壁部と、
前記一方の前記主表面上に載置され、試料の高さを調整可能な調整部材とを備えており、
前記側壁部の最上面は前記主表面に沿う方向に配置され、
複数の前記最上面のそれぞれの、前記主表面からの距離は等しく、
複数の前記側壁部は前記主表面を挟みながら互いに対向する、X線回折用治具。
【請求項2】
前記側壁部はガラス材料、金属材料、ステンレス材料からなる群から選択されるいずれか1種からなる、請求項1に記載のX線回折用治具。
【請求項3】
前記調整部材は粘土からなる、請求項1または2に記載のX線回折用治具。
【請求項4】
請求項1に記載のX線回折用治具と、
前記X線回折用治具を載置する試料台と、
前記X線回折用治具に載置される試料にX線を照射するX線源と、
前記試料において回折される前記X線を検出する検出器とを備える、X線回折装置。
【請求項5】
請求項1に記載のX線回折用治具を用いたX線回折の測定方法であって、
前記調整部材の上に前記試料を載置する工程と、
前記最上面の上に平板部材を載置し、前記側壁部に挟まれる前記試料を押さえることにより、前記試料の最上部と前記主表面との距離と、前記最上面と前記主表面との距離とを揃える工程とを備えるX線回折の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−112697(P2012−112697A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260011(P2010−260011)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】