説明

X線導波路

【課題】 X線の伝搬損失が少なく、位相のそろった、大きな断面積の単一の導波モードを実現できるX線導波路を提供する。
【解決手段】 X線を導波させるためのクラッドとコアからなるX線導波路であって、前記コアが屈折率実部の異なる複数の物質が周期的に配列された周期構造をもつ材料からなり、前記クラッドと前記コアが、電磁波の導波方向に垂直な面において、前記クラッドが前記コアを取り囲むように配置されており、かつ、前記コアにおける電磁波の導波方向に垂直な面における周期構造の周期性を表す基本ベクトル、または複数の基本ベクトルの和または差で形成されるベクトルの少なくとも一つの周期方向における、前記周期構造の周期性に起因するブラッグ角が、前記クラッドと前記コアの少なくとも1つの界面における全反射臨界角よりも小さくなるように、前記コアと前記クラッドが構成されているX線導波路。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線導波路に関し、特にX線分析技術、X線撮像技術、X線露光技術などにおけるX線光学系などに用いられるX線光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
X線を含めたこのような電磁波をコントロールするために、大型の空間光学系が用いられており、今でもなお主流となっている。その理由は、数10nm以下の短い波長の電磁波を扱う際、異物質間における電磁波に対する屈折率差が10−4以下と非常に小さいため、また全反射角も非常に小さくなることなどが挙げられる。空間光学系をなしている主な部品として、異なる屈折率の材料を交互に積層した多層膜反射鏡があり、ビーム整形、スポットサイズ変換、波長選択などの様々な役割を担っている。
【0003】
主流であるこのような空間光学系に対し、従来のポリキャピラリのようなX線導波管は空気などの一様な物質からなる導波部にX線を全反射で閉じ込めて伝搬させるものである。近年では光学系の小型化、高性能化を目指し、薄膜や多層膜中に電磁波を閉じ込めて伝搬させる、X線導波路の研究が行われている。
【0004】
具体的には二層のクラッドにより一次元方向において一様な物質からなる導波路のコア部を挟み込んだ形の薄膜導波路(非特許文献1参照)が挙げられる。また、一様な物質からなるコア中にコアとクラッドとの界面における全反射により、X線を二次元方向において閉じ込めてX線を導波させる要素X線導波路を、複数並べたX線導波路(非特許文献2参照)などの研究が行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Proceeding of SPIE,Volume 5974,p.597414(2005)
【非特許文献2】Journal Of Applied Physics,Number 101,p.054306(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1では、一様な物質からなるコア中にX線を閉じ込めるX線導波路が検討されているが、閉じ込めが一元方向におけるものであるため、閉じ込められていない方向へX線が放射されて大きな損失となる。さらに、この構造で単一の導波モードを形成するためには、コアを単一モード条件が満たされるように非常に薄くしなくてはならないため、導波されるX線のパワーを大きくすることができない。
【0007】
非特許文献2では、各要素X線導波路においては単一の導波モードが実現しうるが、隣接する要素X線導波路間でのモード結合の結果、全体としては複数の連成した導波モードが形成される。そのため、位相のそろった単一の導波モードを形成することはできない。さらに、複数の要素X線導波路は、1次元方向に配置されており導波モードの断面積を大きくすることができず、導波されるX線のパワーを大きくすることができない。ここで、導波モードの断面積とは、導波モードの導波方向に垂直な面における、電磁場強度分布中の電磁場強度が大きい領域のことを表し、例えば光ファイバー内の導波モードのモードフィールド径などに相当する。さらに吸収の大きい物質を要素X線導波路の数に応じて多く用いているため吸収損失が大きくなる。
【0008】
本明細書中の、導波されるX線のパワーとは、導波方向をz方向とする場合に、導波路中のあるzにおいて、導波方向に垂直なコア断面を単位時間当たりに通過するX線の総パワーのことであり、このコア断面上のポインティングベクトルのz成分をコア断面全体にわたり積分したものである。例えば、光量子束(Photon Flux)などに相当する。
【0009】
本発明は、この様な背景技術に鑑みてなされたものであり、X線の伝搬損失が少なく、位相のそろった、大きな断面積の単一の導波モードを実現できるX線導波路を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明のX線導波路は、X線を導波させるためのクラッドとコアからなるX線導波路であって、前記コアが屈折率実部の異なる複数の物質が周期的に配列された周期構造をもつ材料からなり、前記クラッドと前記コアが、電磁波の導波方向に垂直な面において、前記クラッドが前記コアを取り囲むように配置されており、かつ、前記コアにおける電磁波の導波方向に垂直な面における周期構造の周期性を表す基本ベクトル、または複数の基本ベクトルの和または差で形成されるベクトルの少なくとも一つの周期方向における、前記周期構造の周期性に起因するブラッグ角が、前記クラッドと前記コアの少なくとも1つの界面における全反射臨界角よりも小さくなるように、前記コアと前記クラッドが構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、X線の伝搬損失が少なく、位相のそろった、大きな断面積の単一の導波モードを実現できるX線導波路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】X線導波路におけるクラッドとコアの界面におけるの全反射臨界角を示す概略図である。
【図2】X線導波路におけるX線の導波方向に垂直な面を示す断面図である。
【図3】本発明のX線導波路の一実施態様を示す概略図である。
【図4】X線導波路のコア領域の一部を表す概略図である。
【図5】X線導波路に形成される導波モードの損失と有効伝搬角度の関係を示すグラフである。
【図6】本発明のX線導波路の他の実施態様を示す概略図である。
【図7】図6のX線導波路のz方向に垂直な面における電場強度分布を示す図である。
【図8】本発明の実施例1のX線導波路を示す概略図である。
【図9】本発明の実施例2のX線導波路を示す概略図である。
【図10】本発明の実施例3のX線導波路を示す概略図である。
【図11】本発明の実施例4のX線導波路を示す概略図である。
【図12】本発明の実施例5のX線導波路を示す概略図である。
【図13】本発明の実施例6のX線導波路を示す概略図である。
【図14】本発明の実施例7のX線導波路を示す概略図である。
【図15】本発明の実施例8のX線導波路を示す概略図である。
【図16】本発明の実施例9のX線導波路を示す概略図である。
【図17】コア中での導波モードの有効伝搬角度を示す説明図である。
【図18】三角格子状の2次元周期構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明に係るX線導波路は、X線を導波させるためのクラッドとコアからなるX線導波路であって、前記コアが屈折率実部の異なる複数の物質が周期的に配列された周期構造をもつ材料からなり、前記クラッドと前記コアが、電磁波の導波方向に垂直な面において、前記クラッドが前記コアを取り囲むように配置されており、かつ、前記コアにおける電磁波の導波方向に垂直な面における周期構造の周期性を表す基本ベクトル、または複数の基本ベクトルの和または差で形成されるベクトルの少なくとも一つの周期方向における、前記周期構造の周期性に起因するブラッグ角が、前記クラッドと前記コアの少なくとも1つの界面における全反射臨界角よりも小さくなるように、前記コアと前記クラッドが構成されている。
【0015】
本発明においてX線とは、物質の屈折率実部が1以下となる周波数帯域または波長帯域の電磁波である。具体的には、本発明においてX線とは、極端紫外光(Extreme Ultra Violet(EUV)光)を含む100nm以下の波長の電磁波を指す。本発明は上記X線に相当する電磁波を制御するためのものである。つまり明細書中で単に電磁波という場合、上記X線のことと同義である。またこのような短い波長の電磁波の周波数は非常に高く、物質の最外殻電子が応答できないため、紫外光の波長以上の波長をもつ電磁波(可視光や赤外線)の周波数帯域と異なり、X線に対しては物質の屈折率の実部が1より小さくなることが知られている。このようなX線に対する物質の屈折率nは一般的に、下記の式(1)
【0016】
【数1】

【0017】
で表されるように、実数部の1からのずれ量δ、吸収に関係する虚数部の
【0018】
【数2】

【0019】
を用いて表される。δは物質の電子密度ρに比例するため電子密度の大きい物質ほど屈折率の実部が小さくなることになる。また、屈折率実部は、
【0020】
【数3】

【0021】
となる。さらに、ρは原子密度ρと原子番号Zに比例する。このようにX線に対する物質の屈折率は複素数で表されるが、その実部を本明細書中では屈折率実部または屈折率の実部と称し、虚部を屈折率虚部または屈折率の虚部と称する。
【0022】
上記X線に相当する電磁波に対して屈折率実部が最大となる場合は、X線が真空中を伝搬する場合であるが、一般的環境下では気体でないほぼすべての物質に対して空気の屈折率実部が最大となる。本発明において屈折率実部が異なる2種以上の物質とは多くの場合電子密度が異なる二種以上の物質であるということもできる。
【0023】
本発明において導波モードの位相がそろうということは、ある時間において導波方向に垂直な面内での電磁場の位相差が0であるということだけではなく、周期構造の空間的な屈折率分布に対応して電磁場の位相差が周期的に−πと+πの間で変化していることを意味する。
【0024】
本発明のX線導波路は、コアとクラッドの界面における全反射によりX線をコアに閉じ込めてX線を導波させるものであり、X線の導波方向は直交座標系を用いてz方向と定義する。コアとクラッドの界面付近におけるコアの屈折率実部がクラッドの屈折率実部より大きく、全反射臨界角よりも小さい角度でコアとクラッドの界面に突入するX線は、この界面で全反射されてコア中に閉じ込められる。このときの全反射臨界角を、導波方向に平行かつコアとクラッドとの界面に垂直な面内における界面の角度として、θcと表す。図1のように、X線の導波方向をz方向とし、ある領域におけるクラッドとコアの界面を101とした場合、界面101におけるX線104が、界面101に垂直な面102内において界面101となす角度を103とする。角度103うちの一つの角度が全反射臨界角θcとなる。
【0025】
クラッドとコアの界面におけるクラッド側の物質の屈折率実部をnclad、コア側の物質の屈折率実部をncoreとした場合の、全反射臨界角θc(°)は、nclad<ncoreとして、下記の式(2)
【0026】
【数4】

【0027】
で表される。ただし、本発明におけるX線導波路のコアは、複数の物質からなる周期構造体でありその周期、要素構造が非常に小さい。そのために、式(2)におけるncoreは、クラッドとコアの界面におけるコアの一つの物質の厳密な屈折率実部に等しいわけではなく、厳密な屈折率実部と周期構造全体での平均的な屈折率実部との間の値をとると考えることができる。
【0028】
また本発明のX線導波路は、X線の導波方向に垂直な面において、クラッドがコアを取り囲むように、クラッドとコアが配置されている。図2は、X線の導波方向であるz方向に垂直な面すなわち、図中x−y面に平行な面でのX線導波路の断面を表す例である。X線の導波方向に垂直な面においてクラッドがコアを取り囲むということは、コア201中の任意の一点である点Aとコア201外の任意の一点である点Bを結ぶ線分ABを基準として、線分ABと角度ψをなす半直線をACとした場合、0°から360°のすべてのψに対して、半直線ACがクラッド202と交わることを意味する。このことにより、クラッドとコアの界面で全反射臨界角以下で反射するX線を全反射により、2次元方向においてコアに閉じ込めてX線を導波することが可能となる。
【0029】
本発明におけるX線導波路のコアは、屈折率実部の異なる複数の物質が周期的に配置されたものである。このようなX線導波路において、コアとクラッドの界面における全反射によりコア内にX線の導波モードが形成される。X線の導波モードは、伝搬するX線へのコア中の周期構造の周期性の影響が小さい一様導波モードと、周期性の影響が大きい周期共鳴導波モードとに分けることができる。本明細書中において一様導波モードとは、X線に対してコアを構成する周期構造体が平均化されてあたかも一様な媒質として作用する場合の導波モードで、この場合X線に対するコアの屈折率はほぼコア全体にわたって平均化されたものとなる。一方、本明細書中において周期共鳴導波モードとは、X線の周期構造による多重回折の結果、X線が周期構造と強く共鳴する導波モードである。周期共鳴導波モードは、周期構造と共鳴するモードであり、周期構造が1次元のものであれば1次元の、2次元のものであれば最大で2次元の、3次元のものであれば最大で3次元のブラッグ回折に関係するものとなる。
【0030】
本明細書中において、コアにおける電磁波の導波方向に垂直な面における周期構造の周期性を表す基本ベクトル、または複数の基本ベクトルの和または差で形成されるベクトルの少なくとも一つの方向を周期方向と称することとする。
【0031】
本発明のX線導波路のコアとクラッドは、導波方向に垂直な少なくとも一つの周期方向における、周期構造の周期性に起因するブラッグ角が、クラッドとコアの少なくとも1つの界面における全反射臨界角よりも、小さくなるように構成されている。このことにより、ブラッグ回折に起因する周期構造と共鳴する導波モードをコアとクラッドの界面における全反射によりコアに閉じ込め、周期共鳴導波モードを形成することができる。図3は、本発明のX線導波路の一実施態様を示す概略図である。図3は、1次元の周期構造の場合の例を示す。X線の導波方向は図中z方向であり、図3(a)は本例のX線導波路の鳥瞰図で、図3(a)のA−Bにおけるy−z面に平行な断面を図3(b)とする。コア301は屈折率実部が小さい物質からなる低屈折率実部層304と屈折率実部が大きい物質からなる高屈折率実部層305からなる要素構造303が周期dで周期的にy方向に複数積層された構造で、1次元周期構造となっている。x、y方向において、クラッド302がコア301を取り囲むように配置されている。周期方向は、コア中の電磁波の導波方向に垂直な面における周期構造の周期性が得られる方向である。周期方向は、導波路中で対象とする周期構造の周期性を表す基本ベクトルに平行な方向で、この例ではy方向とする。図3(b)中、306はコアとクラッドの界面308においてこの界面308から測られた全反射臨界角θを示す。この全反射臨界角θよりも小さな角度で界面308に入射するコア中のX線は全反射され、y方向において閉じ込められることになる。307はブラッグ角θを示す。このようにして閉じ込められたX線は、y−z面に平行な方向において導波モードを形成し、それぞれの導波モードの基本波はそれぞれ異なる有効伝搬角度
【0032】
【数5】

【0033】
をもつ。図17に示すように、コア中での各導波モードの波数ベクトルのz成分、つまり伝搬定数をk、真空中での波数ベクトルをkとした場合、有効伝搬角度を、
【0034】
【数6】

【0035】
と定義する。つまり、有効伝搬角度
【0036】
【数7】

【0037】
は、おおよそ導波モードの基本波の伝搬方向と導波方向のなす角度であると考えることができる。
【0038】
そして、形成される各導波モードの基本波はコアとクラッドとの界面308においてほぼ有効伝搬角度
【0039】
【数8】

【0040】
で反射されるものと考えることができ、目的とする導波モードを形成するためには、その有効伝搬角度
【0041】
【数9】

【0042】
がθよりも小さくなくてはならないことがわかる。
【0043】
本明細書中の基本波とは、導波モードを形成している電磁波を一般化して一つの平面波として考えた場合に、導波方向(z方向)に対して、有効伝搬角度
【0044】
【数10】

【0045】
で伝搬すると仮定される電磁波のことである。また、図17中において、導波方向(z方向)と垂直な方向における基本波の波数ベクトルを波数ベクトルの垂直成分k⊥と称することとする。本発明のX線導波路において用いる導波モードは周期共鳴導波モードであり、この周期共鳴導波モードの有効伝搬角度は周期構造の周期性に起因するブラッグ角θに近い値となる。周期共鳴導波モードを形成するためには、X線の導波方向に垂直な少なくとも一つの周期方向における、周期構造の周期性に起因するブラッグ角θが、クラッドとコアの少なくとも1つの界面における全反射臨界角θよりも小さくなるように、クラッドとコアの構成は、
θ<θ
という条件を満たさなくてはならない。ここで、コアをなす周期構造体のy方向における周期構造の周期をd、コアの平均屈折率実部をnavgとした場合、おおよそのブラッグ角θ(°)は次の式(3)のように定義される。
【0046】
【数11】

【0047】
mは自然数、λはX線の波長である。ただし、実際のブラッグ角は、X線回折による測定などにより得ることが好ましい。
【0048】
さらに、周期共鳴導波モードを形成するためには、要素構造をなす異なる屈折率実部をもつ物質界面においてX線が、全反射されてはならない。つまり、要素構造をなす異物質界面での全反射臨界角をθC−multiとした場合、
θC−multi<θ
でなくてはならない。
【0049】
以上のように、本発明のX線導波路は、周期方向において、θ<θとθC−multi<θを満たすように、各物質が選択され、構成されているものである。このことにより、周期共鳴導波モードを形成してX線を導波することができる。導波方向に垂直な面における周期共鳴導波モードの電磁場強度分布は、周期構造中の低損失な物質領域により集中するので、周期共鳴導波モードの損失は非常に小さくなる。そして、周期共鳴導波モードの損失は、周期共鳴導波モードのもつ有効伝搬角度付近の有効伝搬角度をもつ一様導波モードの損失よりも小さくなる。そのため、一様導波モードを含む複数の導波モードが形成される導波路の構成条件においても、周期共鳴導波モードが導波モードとしてより支配的となる。周期構造の周期方向における周期数が多くなると、周期共鳴導波モードの損失が低下することになるが、現実的には20以上が望ましい。従来、単一モードとなる導波モードは一様媒質をコアとした場合、コアの領域を非常に小さくしなくてはならなかった。しかし、本発明では周期構造を利用することによりコアの領域を大きくすることができるとともに、より損失の低い周期共鳴導波モードを周期方向における単一の導波モードとして形成することができる。
【0050】
本明細書中で、モードにかかる「単一の」という表現の意味するところは、他のモードに比較して最も選択されやすいため、単一に近いとかほぼ単一、いくつかのモードの中で一つが支配的になるということである。
【0051】
本発明のX線導波路における周期方向は、コアをなす周期構造の中で周期性をもつ方向全てに対して定義可能であるが、特に高い周期性をもつ方向とすることにより、周期共鳴導波モードへの周期性の効果をより大きくすることができる。例えば、図3の周期構造では、xy面内において、x方向以外の方向において周期構造の周期性が得られるが、最も周期性の効果が大きくなる方向は、y方向である。本明細書中では、周期性の効果が最も高い周期方向を、周期構造の周期性を定義する基本ベクトルの絶対値が最小である基本ベクトルにより定義される周期性をもつ方向とすることとする。
【0052】
また本発明のX線導波路では、周期方向において、コアとクラッドの界面における全反射によりX線を閉じ込めて周期共鳴導波モードを形成するとともに、その他の方向においても全反射を用いてx線を閉じ込めることができる。そのために、構造周期性のない方向へのX線の放射を抑え、損失を大きく低減できる。図3に示す1次元周期構造をコアとしたX線導波路の構成では、x方向に周期構造がない。そのため、x方向においては複数の一様導波モードが存在することになるが、x方向におけるコアの領域を小さくすることにより導波モードを単一のものにすることができる。実際に導波するX線の導波モードは、複数の閉じ込め方向において形成される導波モードが混合したものになる。しかし、すべての閉じ込め方向において得られる導波モードが単一のものであれば、2次元方向においてほぼ単一の導波モードを形成することができることになる。
【0053】
図4は、図3と同様に構成されたX線導波路のコア領域の一部を表す図である。屈折率実部の小さい物質402と屈折率実部の大きい物質401よりなる要素構造403が、y方向に周期的に積層された周期構造がコアとなっている。図4中、401の中心部分の斜線の領域が電場強度が大きい領域、401の周囲部分および402の領域が電場強度の小さい領域を示す。
【0054】
周期共鳴導波モードの電場が屈折率実部の大きい物質401、つまりより低損失な物質中に強く集中することにより、周期共鳴導波モードの損失が小さくなることがわかる。図5は例として、周期構造体の周期数が25の場合の図4の構成のX線導波路中に形成される導波モードの損失を、各導波モードのもつ有効伝搬角度に対してプロットしたグラフである。導波モードの損失は伝搬定数の虚部Im[kz]に比例するので、縦軸をIm[kz]としてある。502はブラッグ反射の角度帯域に相当し、503は導波モードのもつ有効伝搬角度帯域、504はクラッドとコアとの界面での全反射臨界角を超える放射モードの角度帯域に相当する。周期共鳴導波モードの損失501は他の導波モードの損失に比較して非常に小さくなる。周期共鳴導波モードの損失は、物質の種類や構造パラメータを変えることで、変化させることが可能である。また、周期方向において周期共鳴導波モードの電磁場分布の包絡関数は、三角関数的になり、周期構造の中心に極大をもつ分布の場合に、周期共鳴導波モードは最も安定なものになる。この場合、クラッドへのしみ出しが小さくなり、より損失が下がるものとなる。
【0055】
また本発明のX線導波路は、そのコアを2次元の周期構造体により構成することにより、2次元の周期共鳴導波モードを形成することが可能である。この場合の2次元の周期構造とは、導波方向に垂直な面内において二つの基本ベクトルにより周期性を表現することができる構造のことである。例えば、図6に示すように、z方向にのびる屈折率実部の大きい物質の領域601と屈折率実部の小さい物質の領域602がx−y面内において2次元方向で周期構造をなしているコアをクラッド604が取り囲んでいる構成が挙げられる。X線の導波方向をz方向とした場合、導波方向に垂直なx−y面において、コアが四角格子配列の2次元周期構造を有している。図中に記した二つの基本ベクトルaとaにより周期構造の周期性が表現される。図6の周期構造の周期数はx、y方向ともに2と非常に少ないものとなっているが、これは説明をわかりやすくするためのものである。2次元の周期構造は、基本となる一つの構造の面がaに平行な方向に、またもう一つの基本となる構造の面がaに平行な方向に、それぞれ周期|a|と|a|で繰り返される構造となっている。基本ベクトルaとaは、周期性を表現できる限り任意に選択することができる。つまり同じ周期構造でも選び方を変えたり、基本ベクトルの線形結合を用いて別の基本ベクトルを選ぶことも可能であり、選んだ基本ベクトルに対応した基本となる構造の面を定義することができる。基本ベクトルの絶対値が最小になるものが最も基本的な周期性を表現するものであり、そのような基本ベクトルに平行な方向において周期性の効果が大きくなり、これらの方向を周期方向として周期共鳴導波モードを定義できる。図6の例で基本ベクトルをaとaに選べば、基本となる構造の面はaとaに対してそれぞれ面607および608となり、x方向、y方向で周期的に繰り返されているものとなる。
【0056】
コアが2次元の周期構造よりなる場合にも、本発明のX線導波路においては、ブラッグ角が、前記クラッドと前記コアの少なくとも1つの界面における全反射臨界角よりも小さくなるようにコアとクラッドを構成する。具体的には、X線の導波方向に垂直な少なくとも一つの周期方向における、前記周期構造の周期性に起因するブラッグ角が、前記クラッドと前記コアの少なくとも1つの界面における全反射臨界角よりも小さくなるようにコアとクラッドを構成する。図6に示す例の場合、導波方向に垂直なx−y面において、一つの周期方向をy方向とする。そのy−z面内でのコアとクラッドの界面605におけるX線の全反射臨界角θとy方向の周期性により得られるブラッグ角θの間で、θ<θが満たされるようにクラッドとコアを構成するものである。
【0057】
また、コアが2次元の周期構造である場合、基本的な周期性が二つの基本ベクトルで表わされる二つの周期方向で得られるため、それぞれの方向における周期性に起因する二つのブラッグ角を定義することができる。例えば、図6の構成のX線導波路の場合、二つの周期方向を基本ベクトルaとaに平行なx方向とy方向とする。基本ベクトルaとaに平行な二つの周期方向における周期構造の周期性に起因するブラッグ角θB1、θB2はそれぞれ、
【0058】
【数12】

【0059】
【数13】

【0060】
と表される。n1avg、n2avgはそれぞれ、コア中の、基本ベクトルaとaに平行な二つの周期方向における平均屈折率である。また、基本ベクトルaとaに平行な二つの周期方向におけるコアとクラッドとの界面606、605での全反射臨界角を、θ1C、θ2Cとする。それぞれの方向における周期共鳴導波モードを形成するためには、θ<θと同様に、それぞれの方向において、
θ1B<θ1C
θ2B<θ2C
となるように、材料や構造パラメーターを決定することとなる。θ1B<θ1C、θ2B<θ2Cが満たされ、かつそれぞれの方向におけるコア中の物質界面での全反射臨界角がそれぞれのブラッグ角よりも小さくなるように構成することにより、二つの周期方向において周期共鳴導波モードを形成することができる。このような導波路中で得られる周期共鳴導波モードは、二つの基本ベクトルに平行な二つの周期方向における周期共鳴導波モードが干渉した2次元の周期共鳴導波モードとなる。
【0061】
図7は図6のX線導波路のz方向に垂直な面におけるコア中の周期共鳴導波モードの電場強度分布を示す。図7において、601の中心部分の斜線の部分、601の斜線の部分の周囲部分および602の部分は、それぞれ、電場強度がより大きい部分、電場強度がより小さい部分を表す。2次元の周期構造をコアとするX線導波路中に形成される2次元の周期共鳴導波モードの電場強度分布は、2次元の分布となり、より吸収などの損失の小さい領域に電場が集中することにより、周期共鳴導波モードの伝搬損失が小さいことがわかる。1次元の周期共鳴導波モードと同様に、2次元の周期共鳴導波モードについても設計により他の導波モードよりも損失を小さくでき、2次元方向において制御された単一の導波モードを形成できることになる。2次元の周期共鳴導波モードの電場や磁場分布は、導波方向に垂直な2次元面内で規則的に制御されていて、電場や磁場の位相もコア内全体にわたって、規則的なものになる。
【0062】
コアをなす2次元の周期構造の周期性を定義する基本格子は、四角格子に限らない。図6のような周期構造が四角格子の場合の例では、周期方向を二つの基本ベクトルに平行な二つの周期方向を考えたが、このような方向に限るものではなく、基本ベクトルの線形結合を用いたベクトルに平行な方向も周期方向として用いることができる。さらに、2次元面内での周期方向の数は、二つの方向に限るものではなく、周期構造の周期性によって三つ以上となる場合も存在する。例えば、図18に三角格子状の2次元周期構造を点で表現した図を示す。基本ベクトルaとaに平行な二つの周期方向に加え、a+aで表わされる3つ目のベクトルに平行な周期方向を考えることにより、三つの方向の垂直成分をもつX線が干渉して、2次元の周期共鳴導波モードを形成することになる。この場合の、周期共鳴導波モードの電磁場強度分布は三角格子状になり、より吸収損失が小さい部分へ電磁場が集中する分布となる。
【0063】
さらに、コアをなす周期構造は1次元、2次元の周期構造に限らず、3次元の周期構造とすることによってもX線導波路を形成することができる。導波方向に垂直な面内での周期共鳴導波モードを形成するための考え方は1次元および2次元のものと同等である。3次元の周期構造の場合、導波方向にも周期性を有していることにより、導波するX線が周期構造と共鳴し、導波方向においてX線の位相がそろいやすくなる効果がある。
【0064】
コアをなす1次元の周期構造としては、屈折率実部の大きい材料と屈折率実部の小さい材料を交互に積層した1次元周期多層膜や、それ以外の一つの周期方向を定義できる周期構造が挙げられる。つまり、一つの特定の一方向だけに着目すれば2次元、3次元の周期構造なども用いることができる。
【0065】
1次元の周期多層膜としては、屈折率実部の大きい材料として、カーボン(C)、ボロンカーバイト(BC)、ボロンナイトライド(BN)、ベリリウム(Be)などが挙げられる。屈折率実部の小さい材料として、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、シリコンカーバイト(SiC)、シリコンナイトライド(Si)、酸化チタン(TiO)などが挙げられる。屈折率実部の大きい材料と屈折率実部の小さい材料を交互に積層したものや、自己集合プロセスにより作製される周期性メソ構造体材料が挙げられる。1次元周期性の周期性メソ構造体材料としては、SiOと有機物が薄膜の面に垂直な方向に周期的に配列したものや、面に垂直方向に周期性をもつ面内での配向性をもたない2次元のメソポーラス材料などが挙げられる。
【0066】
また、2次元の周期構造としては、上記屈折率実部の小さい材料からなる薄膜を電子線リソグラフィー、エッチングなどの半導体プロセスにより面内で周期的なパターニングをしたものを周期的に積層したものが挙げられる。また、1軸配向性の2次元周期性メソ構造体材料などが挙げられる。
【0067】
さらに、3次元の周期構造としては数nm(ナノメートル)から数10nmの直径の空洞を有する3次元周期性メソ構造体材料などが挙げられる。また、直径約50nmほどのポリスチレン球が自己組織的に六方細密充填構造で配列したいわゆる3次元周期構造の人工オパール構造などが挙げられる。
【0068】
周期共鳴導波モードを形成するための周期構造の周期は、導波路を構成している複数の材料の屈折率の関係にもよるが、約9nm以上が望ましい。これより小さい場合は、周期共鳴導波モードの閉じ込めが弱くなるからである。
【0069】
本発明において、コアがメソ構造体材料またはメソポーラス材料よりなることが好ましい。
【0070】
以下、自己集合過程により作製される1次元のメソ構造体材料について説明する。1次元のメソ構造体材料をラメラ構造をもつメソ構造体膜と称することとする。
【0071】
メソ構造体膜は、2から50nmの構造周期をもつ周期構造体である。ラメラ構造は、異なる二種類の物質より構成される層状構造であり、この二種類の物質は無機成分を主とする物質と、有機成分を主とする物質により構成される。この無機成分を主とする物質と有機成分を主とする物質は、必要に応じて結合されていてよい。結合されたものの具体例としては、アルキル基の結合したシロキサン化合物から調製されるメソ構造体を挙げることができる。
【0072】
(無機成分を主とする物質)
この無機成分を主とする物質の材料は特に限定されるものではないが、無機酸化物が好ましく用いられる。この無機酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛を挙げることができる。壁部の表面は、必要に応じて修飾されていてよい。たとえば、水の吸着を抑制するために、疎水性の分子を修飾してもよい。
【0073】
(有機成分を主とする物質)
この有機成分を主とする物質は特に制限されるものではない。が、有機成分の例としては、界面活性剤などの、分子集合体の形成機能を有する部位が、壁部を形成する材料または壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料が好ましく用いられる。この界面活性剤の例としては、イオン性、非イオン性の界面活性剤を挙げることができる。このイオン性界面活性剤の例としては、トリメチルアルキルアンモニウムイオンのハロゲン化物塩を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。非イオン性の界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールを親水基として含むものを挙げることができる。ポリエチレングリコールを親水基として含む界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコール‐ポリエチレングリコールのブロックコポリマーを挙げることができる。ポリエチレングリコールアルキルエーテルのこのアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22、ポリエチレングリコールの繰返し数の例としては、2から500を挙げることができる。この疎水基、親水基を変化させることにより構造周期を変化させることが可能である。一般的に疎水基、親水基を大きなものとすることにより構造周期を拡大することが可能である。この有機成分を主とする物質としては、必要に応じて、または、使用する材料、工程の結果として水、有機溶媒、塩等が含まれていてよい。この有機溶媒の例としては、アルコール、エーテル、炭化水素などが挙げられる。
【0074】
メソ構造体膜の調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、分子集合体を形成しうる両親媒性物質(特に界面活性剤)の溶液に、無機酸化物の前駆体を加え、成膜を行い、無機酸化物の生成反応を進行させることによって調製される。
【0075】
また、界面活性剤に加えて、構造周期を調整するための添加物を加えてもよい。この構造周期を調整するための添加物としては、疎水性物質が挙げられる。この疎水性物質の例としては、アルカン類、親水性基を含まない芳香族化合物が挙げられ、その具体的な例としては、オクタンが挙げられる。
【0076】
無機酸化物の前駆体の例としては、ケイ素や金属元素のアルコキサイド、塩化物が挙げられる。さらに具体的な例としては、Si,Sn,Zr,Ti,Nb,Ta,Al,W,Hf,Znのアルコキサイド、塩化物が挙げられる。アルコキサイドの例としては、メトキサイド、エトキサイド、プロポキサイド、または、その一部がアルキル基に置換されたものが挙げられる。
【0077】
製膜法の例としては、ディップコート法、スピンコート法、水熱合成法が挙げられる。
【0078】
次に、2次元または3次元的な構造周期をもつ周期性メソ構造体材料について説明する。多孔質材料は、IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)によって、その孔径により分類されており、孔径が2から50nmの多孔質材料は、メソポーラスに分類される。近年、このメソポーラス材料についての研究が盛んに行われ、界面活性剤の集合体を鋳型とすることで、径の揃ったメソ孔が規則的に配列した構造を得ることが可能になっている。
【0079】
ここで、本発明に適用可能な2次元または3次元的な構造周期をもつ周期性メソ構造体材料は上記のようなメソ構造体膜であり、2次元、3次元的な構造周期を持つ以下のものを意味する。
(A)メソポーラス膜
(B)メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたもの
【0080】
以下に詳細な説明を行う。
【0081】
(A)メソポーラス膜について
孔径が2から50nmの多孔質材料で、壁部の材料は特に限定されるものではないが、その例としては、製造可能性から、無機酸化物が挙げられる。この無機酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛を挙げることができる。壁部の表面は、必要に応じて修飾されていてよい。たとえば、水の吸着を抑制するために、疎水性の分子を修飾してもよい。
【0082】
メソポーラス膜の調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、以下の方法で調製することができる。集合体が鋳型として機能する両親媒性物質の溶液に、無機酸化物の前駆体を加え、成膜を行い、無機酸化物の生成反応を進行させる。その後に、鋳型分子を除去することにより、多孔質材料とする。
【0083】
この両親媒性物質は、特に限定されるものではないが、界面活性剤が適している。界面活性剤分子の例としては、イオン性、非イオン性の界面活性剤を挙げることができる。このイオン性界面活性剤の例としては、トリメチルアルキルアンモニウムイオンのハロゲン化物塩を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。非イオン性の界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールを親水基として含むものを挙げることができる。ポリエチレングリコールを親水基として含む界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコール‐ポリエチレングリコールのブロックコポリマーを挙げることができる。ポリエチレングリコールアルキルエーテルのこのアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22、ポリエチレングリコールの繰返し数の例としては、2から500を挙げることができる。この疎水基、親水基を変化させることにより構造周期を変化させることが可能である。一般的に疎水基、親水基を大きなものとすることにより孔径を拡大することが可能である。また、界面活性剤に加えて、構造周期を調整するための添加物を加えてもよい。この構造周期を調整するための添加物としては、疎水性物質が挙げられる。この疎水性物質の例としては、アルカン類、親水性基を含まない芳香族化合物が挙げられ、その具体的な例としては、オクタンが挙げられる。
【0084】
無機酸化物の前駆体の例としては、ケイ素や金属元素のアルコキサイド、塩化物が挙げられる。さらに具体的な例としては、Si,Sn,Zr,Ti,Nb,Ta,Al,W,Hf,Znのアルコキサイド、塩化物が挙げられる。アルコキサイドの例としては、メトキサイド、エトキサイド、プロポキサイド、または、その一部がアルキル基に置換されたものが挙げられる。
【0085】
製膜法の例としては、ディップコート法、スピンコート法、水熱合成法が挙げられる。
【0086】
鋳型分子の除去方法の例としては、焼成、抽出、紫外線照射、オゾン処理が挙げられる。
【0087】
一軸方向に複数の孔がのび、この方向に垂直な面内で2次元的に周期配列された構造となる場合、このメソ構造体膜は2次元の構造周期をもつ2次元の周期性メソ構造体材料となり、孔がメソスケールの直径をもつ空洞で、それらが3次元的に周期配列された構造となる場合、このメソ構造体膜は3次元の構造周期をもつ3次元の周期性メソ構造体材料となる。
【0088】
(B)メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものについて
壁部の材料については、(A)の項に記載したものと同様のものを使用することができる。孔を充填する物質については、有機化合物を主とするものであれば特に制限されるものではない。この「主」の意味としては、体積比で50%以上を意味する。この有機化合物の例としては、界面活性剤や、分子集合体の形成機能を有する部位が、壁部を形成する材料または壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料が挙げられる。この界面活性剤の例としては、(A)の項で記載した界面活性剤を挙げることができる。また分子集合体の形成機能を有する部位が壁部を形成する材料、または、壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料の例としては、アルキル基を有するアルコキシシラン、アルキル基を有するオリゴシロキサン化合物を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。
【0089】
孔内の有機化合物には、必要に応じて、または、使用する材料、工程の結果として水、有機溶媒、塩等が含まれていてよい。この有機溶媒の例としては、アルコール、エーテル、炭化水素などが挙げられる。
【0090】
メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものの調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、(A)の項に記載したメソポーラス膜の調製法の鋳型の除去以前の工程を挙げることができる。
【0091】
(A)と同様に、一軸方向に有機化合物で充填された複数の孔がのび、この方向に垂直な面内で孔が2次元的に周期配列された構造となる場合、このメソ構造体膜は2次元の構造周期をもつ2次元の周期性メソ構造体材料となる。有機化合物で充填された複数の孔がメソスケールの直径をもつ空洞で、それらが3次元的に周期配列された構造となる場合、このメソ構造体膜は3次元の構造周期をもつ3次元の周期性メソ構造体材料となる。
【0092】
周期共鳴導波モードを形成する条件であるθ<θ、θC−multi<θを満たす必要がある。そのために、クラッドをなす物質の屈折率実部が、コアをなす複数の物質のすべての物質の屈折率実部よりも小さくなるように、コアをなす物質に対してクラッドをなす物質を選択する。このようにして選ぶ限り多くの物質をクラッドをなす物質として選択することが可能である。コアをなす物質によるが、クラッドをなす物質としては電子密度の高い物質を選択する。例えば、金(Au)、タングステン(W)、チタン(Ti)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)に代表される金属材料のなど数多くの種類の物質をクラッドとして用いることが可能である。
【実施例】
【0093】
(実施例1)
本発明の実施例1におけるX線導波路の構成図を図8に示す。本実施例においてX線の導波方向は図中のz方向であり、導波路の各部位はz方向において連続的である。本実施例のX線導波路は、導波方向に垂直な面内で、Si基板801上の厚さ30nmのタングステン(W)802と、厚さ10nmのタングステン(W)803が、コア806を取り囲む構成からなる。コア806は、厚さ約14nmのカーボン(C)804と、厚さ約4nmの酸化アルミニウム(Al2O3)805がSi基板801表面に垂直な方向(図中y方向)に交互に積層された1次元周期構造をなす1次元周期多層膜からなる。1次元周期多層膜は、x方向において有限な幅をもち、その値は約1マイクロメートルである。多層膜の周期数は30である。
【0094】
また、コア806のパターニング方法としては、電子線リソグラフィーとドライエッチングプロセスを用いている。Si基板801直上のタングステン(W)802以外のタングステン(W)803は、コアのパターニング工程の後、スパッタにより形成されたものである。コアを取り囲むタングステン(W)802とタングステン(W)803の部分がX線導波路のクラッドとして機能する。
【0095】
本実施例のX線導波路のコアである1次元周期構造では、周期性の効果を用いる周期方向としてy方向を用いる。例えば光子エネルギー17.5キロエレクトロンボルトのX線に対し、y方向において、クラッドとコアの界面での全反射臨界角θは約0.25°で、周期多層膜の周期性に起因するブラッグ角θは0.22°なので、θ<θを満たす。つまり、yz面内では一次元周期多層膜の周期性に起因する周期共鳴導波モードが支配的になり、損失の小さい単一のX線の導波モードを実現することが可能になる。x方向において導波路のコア806の幅が大きいことにより、zx面内での導波モードは複数の一様導波モードが許される。そのために、全体としてX線の伝搬に寄与する導波モードはyz面内での周期共鳴導波モードとzx面内での複数の一様導波モードが混合したものとなる。また、y方向だけではなくx方向においてもクラッドとコアの界面における全反射でX線を閉じ込めているので、x方向でのX線の放射損失を大幅に低減できるものとなる。
【0096】
(実施例2)
本発明の実施例2におけるX線導波路を表す図を図9に示す。本実施例においてX線の導波方向は図中のz方向であり、導波路の各部位はz方向において連続的である。本実施例のX線導波路は、実施例1のX線導波路のコアを1次元の周期性(ラメラ)メソ構造体材料の膜に置き換えたものである。導波方向に垂直な面内で、Si基板901上の厚さ30nmのタングステン(W)902と、厚さ10nmのタングステン(W)903が、コア906を取り囲む構成からなる。コア906は、1次元の周期性(ラメラ)メソ構造体材料の膜であり、厚さ約8nmの有機物層904と厚さ約2nmのシリカ(SiO)905がSi基板901表面に垂直な方向(図中y方向)に交互に配列した1次元周期構造をなす。1次元周期構造は、x方向において有限な幅をもつ。周期構造のの周期数は50である。
【0097】
また、コア906のパターニング方法として、電子線リソグラフィーとドライエッチングプロセスを用いている。Si基板901直上のタングステン(W)902以外のタングステン(W)903は、コアのパターニング工程の後、スパッタにより形成される。コアを取り囲むタングステン(W)902とタングステン(W)903の部分がX線導波路のクラッドとして機能する。
【0098】
本実施例のX線導波路のコアである1次元周期構造では、周期性の効果を用いる周期方向としてy方向を用いる。例えば光子エネルギー8キロエレクトロンボルトのX線に対し、y方向において、クラッドとコアの界面での全反射臨界角θは約0.54°で、周期多層膜の周期性に起因するブラッグ角θは0.49°なので、θ<θを満たす。つまり、yz面内では一次元周期多層膜の周期性に起因する周期共鳴導波モードが支配的になり、損失の小さい単一のX線の導波モードを実現することが可能になる。x方向において導波路のコア906の幅が大きいことにより、zx面内での導波モードは複数の一様導波モードが許される。そのために、全体としてX線の伝搬に寄与する導波モードはyz面内での周期共鳴導波モードとzx面内での複数の一様導波モードが混ざったものとなる。y方向だけではなくx方向においてもクラッドとコアの界面における全反射でX線を閉じ込めているので、x方向でのX線の放射損失を大幅に低減できるものとなる。
【0099】
(実施例3)
本発明の実施例3におけるX線導波路を表す図を図10に示す。本実施例においてX線の導波方向は図中のz方向であり、導波路の各部位はz方向において連続的である。導波方向に垂直な面内で、Si基板1001上の厚さ20nmのタンタル(Ta)1002と、厚さ8nmのタンタル(Ta)1003が、コア1006を取り囲む構成からなる。コア1006は、2次元の周期性メソ構造体材料の膜であり、シリカ1005中において、導波方向(z方向)にのびる半径約4nmの空孔1004が導波方向に垂直な方向(xy面に平行な方向)で三角格子状の2次元周期構造を形成している。その格子定数は約11.6nmである。
【0100】
コア1006は、フォトリソグラフィーとドライエッチングプロセスを用いてパターニングされており、x方向において約5マイクロメートルの有限な幅をもつ。Si基板1001直上のタンタル(Ta)1002以外のタンタル(Ta)1003は、コアのパターニング工程の後、スパッタにより形成されたものである。コアを取り囲むタンタル(Ta)1002とタンタル(Ta)1003の部分がX線導波路のクラッドとして機能する。コアの周期構造が2次元的であるので、周期方向としては、三角格子状の周期性について表した図18における二つの基本ベクトルの線形結合で表わされるaとa、a+aに平行な方向とする。この周期構造の対称性は前述の3つの方向において最も高くなり、周期共鳴導波モードの電場が、周期構造の損失の低い空孔部分へ集中した2次元周期的な分布となる。格子定数は、約17nmである。2次元の周期性に起因する周期共鳴導波モードが支配的になり、損失の小さい単一のX線の導波モードを実現することができる。またx方向におけるコアの幅が約5マイクロメートルと非常に広いことにより、導波されるX線のパワーがより大きくなる。
【0101】
本実施例のX線導波路は、光子エネルギー8キロエレクトロンボルトのX線に対し、y方向において、クラッドとコアの界面での全反射臨界角θは約0.52°で、周期多層膜の周期性に起因するブラッグ角θは約0.47°であり、θ<θを満たす。
【0102】
(実施例4)
本発明の実施例4におけるX線導波路を表す図を図11に示す。本実施例においてX線の導波方向は図中のz方向であり、導波路の各部位はz方向において連続的である。導波方向に垂直な面内で、Si基板1101上の厚さ40nmの金(Au)1102と、厚さ10nmの金(Au)1103が、コア1103を取り囲む構成となっている。コア1106は、3次元の周期性メソ構造体材料の膜であり、酸化スズ(SnO2)1105中で、有機物が充填された直径約10nmの球状のボイド1104が六方最密充填構造を形成している。その格子定数は約11.6nmである。
【0103】
コア1106は、フォトリソグラフィーとドライエッチングプロセスを用いてパターニングされており、x方向において約5マイクロメートルの有限な幅をもつ。Si基板1101直上の金(Au)1102以外の金(Au)1103は、コアのパターニング工程の後、スパッタにより形成されたものである。コアを取り囲む金(Au)1102と金(Au)1103の部分がX線導波路のクラッドとして機能する。コアの周期構造が3次元的であるので、x−y面に平行な二つの周期方向として周期性の効果が得られるx方向とy方向を選び、それぞれの方向の周期性に起因する二つの周期共鳴導波モードを利用することができる。
【0104】
本実施例のX線導波路のy方向における周期性のもつ周期は、約15nmで、x方向における周期性のもつ周期は、約8.7nmである。y−z面内ではy方向の周期性に起因する周期共鳴導波モードが支配的になり、損失の小さい単一のX線の導波モードを実現することができる。x方向においてもx方向の周期性に起因する周期共鳴導波モードが支配的になり、損失の小さい単一のX線の導波モードを実現することができる。x方向におけるコアの幅が約5マイクロメートルと非常に広いことにより、導波されるX線のパワーがより大きくなる。さらに、コアが3次元の周期構造であり、z方向においても周期性を有する。そのことにより、x−y面内の周期性に共鳴した周期共鳴導波モードはz方向の周期性の影響を受けることにより、導波方向においても導波モードの位相をそろいやすくすることができる。
【0105】
本実施例のX線導波路は、光子エネルギー10キロエレクトロンボルトのX線に対し、y方向において、クラッドとコアの界面での全反射臨界角θは約0.42°で、周期多層膜の周期性に起因するブラッグ角θは0.31であり、θ<θを満たす。
【0106】
(実施例5)
本発明の実施例5におけるX線導波路を表す図を図12に示す。本実施例においてX線の導波方向は図中のz方向であり、導波路の各部位はz方向において連続的である。導波方向に垂直な面内で、パターニングされたSi基板1201上の厚さ10nmのタングステン(W)1206と、厚さ10nmのタングステン(W)1202が、コア1203を取り囲む構成からなる。コア1203は、2次元の周期性メソ構造体材料の膜であり、シリカ1205中において、導波方向(z方向)にのびる半径約4nmの空孔1204が導波方向に垂直な方向(xy面に平行な方向)で三角格子状の2次元周期構造を形成している。その格子定数は約17nmである。Si基板1201表面の結晶面は(110)であり、フォトリソグラフィーとKOHを用いた異方性エッチングプロセスを用いてパターニングされている。x方向において約5マイクロメートルの有限な幅をもつ。
【0107】
パターニングされたSi基板1201にスパッタによりタングステン1202を成膜したのち、ゾルゲルプロセスを用いてメソポーラスシリカをコア1206として形成、焼成することにより空孔内部の有機物を除去する。再度スパッタによりタングステン1202を成膜することにより、本実施例のX線導波路を形成することができる。コアを取り囲むタングステン(W)1206とタングステン(W)1202の部分がX線導波路のクラッドとして機能する。コアの周期構造が2次元的であるので、周期方向としては、三角格子状の周期性について表した図18における二つの基本ベクトルの線形結合で表わされるaとa、a+aに平行な方向とする。
【0108】
この周期構造の対称性は前述の3つの方向において最も高くなり、周期共鳴導波モードの電場が、周期構造の損失の低い空孔部分へ集中した2次元周期的な分布となる。格子定数は、約17nmである。2次元の周期性に起因する周期共鳴導波モードが支配的になり、損失の小さい単一のX線の導波モードを実現することができる。x方向におけるコアの幅が約5マイクロメートルと非常に広いことにより、導波されるX線のパワーが非常に大きいものとなる。
【0109】
本実施例のX線導波路は、光子エネルギー8キロエレクトロンボルトのX線に対し、x方向において、クラッドとコアの界面での全反射臨界角θは約52°で、周期多層膜の周期性に起因するブラッグ角θは0.3°であり、θ<θを満たす。
【0110】
(実施例6)
本発明の実施例6におけるX線導波路を表す図を図13に示す。本実施例においてX線の導波方向は図中のz方向であり、導波路の各部位はz方向において連続的である。導波方向に垂直な面内で、パターニングされたSi基板1301上の厚さ10nmのタングステン(W)1302と、厚さ10nmのタングステン(W)1306が、コア1303を取り囲む構成からなる。コア1303は、2次元の周期性メソ構造体材料の膜であり、シリカ1305中において、導波方向(z方向)にのびる半径約4nmの空孔1304が導波方向に垂直な方向(xy面に平行な方向)で三角格子状の2次元周期構造を形成している。その格子定数は約11.6nmである。
【0111】
Si基板1301表面の結晶面は(100)であり、フォトリソグラフィーとKOHを用いた異方性エッチングプロセスを用いてパターニングされている。x方向において約7マイクロメートル、深さ方向において約5マイクロメートルの有限な幅をもつ三角形の断面形状を有する。パターニングされたSi基板1301にスパッタによりタングステン1302を成膜したのち、ゾルゲルプロセスを用いてメソポーラスシリカをコア1303として形成、焼成することにより空孔内部の有機物を除去する。再度スパッタによりタングステン1306を成膜することにより、本実施例のX線導波路を形成することができる。コアを取り囲むタングステン(W)1306とタングステン(W)1302の部分がX線導波路のクラッドとして機能する。xy面内方向において、コアの周期構造が2次元的であり、かつ三角格子的であることと、クラッドとコアの界面の方向がほぼ等価な三つの方向を有する。そのことにより、周期方向としては、三角格子状の周期性について表した図18における二つの基本ベクトルの線形結合で表わされるaとa、a+aに平行な方向とする。
【0112】
この周期構造の対称性は前述の3つの方向において最も高くなり、周期共鳴導波モードの電場が、周期構造の損失の低い空孔部分へ集中した2次元周期的な分布となる。格子定数は、約17nmである。2次元の周期性に起因する周期共鳴導波モードが支配的になり、損失の小さい単一のX線の導波モードを実現することができる。周期構造のxy面内方向における三つの基本ベクトルがクラッドとコアの界面の持つ3つの方向とずれた場合でも、クラッドとコアの界面で全反射されたX線が三つの周期方向において周期構造と共鳴する。その共鳴により、三つの方向の周期共鳴導波モードを形成することができる。このようにして形成される周期共鳴導波モードのxy面内における電磁場強度分布は、三つのほぼ等価な基本ベクトルが形成している周期構造に一致する分布を示す。本実施例の場合には、損失が少ない空孔中に電磁場が集中するため、より損失の小さい周期共鳴導波モードにより、損失の小さいX線の導波が可能となる。
【0113】
本実施例のX線導波路は、光子エネルギー8キロエレクトロンボルトのX線に対し、aとa、a+aに平行な方向において、クラッドとコアの界面での全反射臨界角θは約0.52°で、周期多層膜の周期性に起因するブラッグ角θは0.42°であり、θ<θを満たす。
【0114】
(実施例7)
本発明の実施例7におけるX線導波路を表す図を図14に示す。本実施例においてX線の導波方向は図中のz方向であり、導波路の各部位はz方向において連続的である。本実施例のX線導波路は、実施例6のX線導波路の最表面のタングステン(W)1306を成膜していないものを二つ用意し、それぞれの最表面が対向するように、コアの部分が接するようにはり合わせたものである。コア1403領域は、ひし形形状となっている。xy面内方向において、クラッドとコアが対向する界面が二つ存在することにより、これら二つの界面に垂直な方向における周期共鳴導波モードを形成することができる。
【0115】
周期構造が2次元の三角格子状のものであるので、例えば図18にあるように、ベクトルaと、ベクトルaに平行な方向が二つの周期方向となり、それぞれの方向において周期共鳴導波モードが形成され、支配的な導波モードとなる。そのことから、二つの基本ベクトルに平行な方向で二つの周期共鳴導波モードを形成することが可能となる。それらの干渉の結果得られる導波モードは、三角格子状の周期共鳴導波モードに共鳴したもので、その電磁場強度分布は損失の少ない空孔部分に場が集中するものとなる。コアは空孔を備えたメソポーラスシリカであり、その格子定数は約14nmである。
【0116】
本実施例のX線導波路は、光子エネルギー8キロエレクトロンボルトのX線に対し、二つの周期方向において、クラッドとコアの界面での全反射臨界角θは約0.52°で、周期多層膜の周期性に起因するブラッグ角θは0.36°であり、θ<θを満たす。
【0117】
(実施例8)
本発明の実施例8におけるX線導波路を表す図を図15に示す。本実施例においてX線の導波方向は図中のz方向であり、導波路の各部位はz方向において連続的である。導波方向に垂直な面内で、パターニングされたSi基板1501上の厚さ20nmのタングステン(W)1506と、厚さ20nmのタングステン(W)1502が、コア1503を取り囲む構成となっている。コア1503は、2次元の周期性メソ構造体材料の膜であり、シリカ1505中において、導波方向(z方向)にのびる半径約4nmの空孔1404が導波方向に垂直な方向(xy面に平行な方向)で三角格子状の2次元周期構造を形成している。その格子定数は約11.6nmである。Si基板1501表面の結晶面は(100)である。市販のダイサー(ダイシング装置)により、Si基板1401に平行かつ(110)面に平行な方向にのびる幅10マイクロメートル、深さ100マイクロメートルの溝を形成する。その後、KOHを用いた異方性エッチングプロセスを用いてパターニングされ、xy面内方向において基板表面側に開口部をもつひし形形状となっている。
【0118】
パターニングされたSi基板1501にスパッタによりタングステン1506を成膜したのち、ゾルゲルプロセスを用いてメソポーラスシリカをコア1503として形成、焼成することにより空孔内部の有機物を除去する。再度スパッタによりタングステン1502を成膜することにより、本実施例のX線導波路を形成する。コアを取り囲むタングステン(W)1506とタングステン(W)1502の部分がX線導波路のクラッドとして機能する。xy面内方向において、コアの周期構造が2次元的でありかつ三角格子状であることと、互いに対向するクラッドとコアの界面が二組存在することにより、実施例7と同様の支配的な周期共鳴導波モードを形成するものである。周期方向は、実施例7と同じ二つのものが存在する。
【0119】
本実施例のX線導波路は、光子エネルギー8キロエレクトロンボルトのX線に対し、周期方向において、クラッドとコアの界面での全反射臨界角θは約0.52°で、周期多層膜の周期性に起因するブラッグ角θは0.42°であり、θ<θを満たす。
【0120】
(実施例9)
本発明の実施例9におけるX線導波路を表す図を図16に示す。本実施例においてX線の導波方向は図中のz方向であり、導波路の各部位はz方向において連続的である。導波方向に垂直な面内で、パターニングされたSi基板1601上の厚さ20nmのタングステン(W)1606と、厚さ10nmのタングステン(W)1602が、コア1603を取り囲む構成からなる。コア1603は、2次元の周期性メソ構造体材料の膜である。シリカ1605中において、導波方向(z方向)にのびる半径約4nmの空孔1604が導波方向に垂直な方向(xy面に平行な方向)で三角格子上の2次元周期構造を形成している。その格子定数は約11.6nmである。
【0121】
Si基板1601表面の結晶面は(100)である。市販のダイサー(ダイシング装置)により、Si基板1601に平行かつ(110)面に平行な方向にのびる幅10マイクロメートル、深さ100マイクロメートルの溝を、30マイクロメートルの間隔で2本平行に形成する。その後、KOHを用いた異方性エッチングプロセスを用いてパターニングされており、xy面内方向において基板表面側に開口部をもつ六角形形状となっている。パターニングされたSi基板1601にスパッタによりタングステン1606を成膜したのち、ゾルゲルプロセスを用いてメソポーラスシリカをコア1603として形成、焼成することにより空孔内部の有機物を除去する。再度スパッタによりタングステン1602を成膜することにより、本実施例のX線導波路を形成する。
【0122】
タングステン(W)1606とタングステン(W)1602のコアを取り囲む部分がX線導波路のクラッドとして機能する。x−y面内方向において、コアの周期構造が2次元的であり、かつ三角格子状であることと、互いに対向するクラッドとコアの界面が三組存在する。このことにより、周期構造の基本ベクトルのうちこれら三組の界面に垂直な三つの方向に近い三つの方向を、三つの周期方向とすることができる。これら三つの周期共鳴導波モードの干渉の結果得られる導波モードは、三角格子状の周期共鳴導波モードに共鳴したもので、その電磁場強度分布は損失の少ない空孔部分に場が集中するものとなり、低損失なX線の導波が可能である。
【0123】
本実施例のX線導波路は、光子エネルギー8キロエレクトロンボルトのX線に対し、三つの周期方向において、クラッドとコアの界面での全反射臨界角θは約0.52°で、周期多層膜の周期性に起因するブラッグ角θは0.42であり、θ<θを満たす。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明のX線導波路は、X線分析技術、X線撮像技術、X線露光技術などにおけるX線光学系などに用いられるX線光学部品などに利用することができる。
【符号の説明】
【0125】
101 クラッドとコアの界面
102 界面に垂直な面
103 界面となす角度
104 X線
201 コア
202 クラッド
301 コア
302 クラッド
303 要素構造
304 低屈折率実部層
305 高屈折率実部層
306 全反射臨界角
307 ブラッグ角
308 コアとクラッドの界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を導波させるためのクラッドとコアからなるX線導波路であって、前記コアが屈折率実部の異なる複数の物質が周期的に配列された周期構造をもつ材料からなり、前記クラッドと前記コアが、電磁波の導波方向に垂直な面において、前記クラッドが前記コアを取り囲むように配置されており、かつ、前記コアにおける電磁波の導波方向に垂直な面における周期構造の周期性を表す基本ベクトル、または複数の基本ベクトルの和または差で形成されるベクトルの少なくとも一つの周期方向における、前記周期構造の周期性に起因するブラッグ角が、前記クラッドと前記コアの少なくとも1つの界面における全反射臨界角よりも小さくなるように、前記コアと前記クラッドが構成されていることを特徴とするX線導波路。
【請求項2】
前記コアがメソ構造体材料よりなることを特徴とする請求項1に記載のX線導波路。
【請求項3】
前記コアがメソポーラス材料よりなることを特徴とする請求項1に記載のX線導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−226081(P2012−226081A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93068(P2011−93068)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】