説明

X線撮像装置、及び、これに用いるX線源

【課題】X線タルボ・ロー干渉計による高感度X線撮像法において、マルチスリットの設置を省略できるX線源及びそれを用いたX線撮像装置を提供する。
【解決手段】X線源10は、基板11と、複数のストライプ部12とを備える。複数のストライプ部12は、基板11の表面上に配置されている。かつ、複数のストライプ部12は、互いに間隔を置いて配置されている。さらに、複数のストライプ部の配置間隔dは、ほぼ一定とされている。基板11又はストライプ部12のうちのいずれか一方は、励起ビームの照射によって必要量のX線を発生する金属とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線の位相を利用して被写体の内部構造を高感度で観察するためのX線撮像装置及びこれに用いるX線源に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線は透過力が高いゆえに、物体内部を透視するためのプローブとして、医用画像診断、非破壊検査、セキュリティチェックなどにおいて、広く利用されている。X線透視画像のコントラストは、X線減衰率の違いによっており、X線を強く吸収する物体はX線の影として描出される。X線吸収能は、原子番号が大きい元素を多く含むほど強くなる。逆に原子番号が小さい元素から成る物質についてはコントラストがつきにくいことも指摘でき、これがX線透視画像の原理的欠点でもある。したがって、生体軟部組織やソフトマテリアルなどに対しては、十分な感度を得ることができない。
【0003】
一方、X線の位相情報を利用すれば、一般的な従来のX線透視画像に比べて最高で約3桁の高感度化が実現することが知られている。X線をあまり吸収しない軽元素からなる物質(生体軟組織や有機材料など)の観察に適用できることから、その実用が期待される。
【0004】
このX線位相情報を利用した高感度撮像法の研究は、15年ほど前から興った分野であるが、通常は高度なX線源が必要となるために、現実的にはその実用は進んでいない。すなわち、単色平面波のX線を使うX線光学系がその主流としてこれまで研究されてきており、それゆえに極めて高い輝度のX線源の使用を前提としている。
【0005】
単色平面波を得るためには、もともと得られるX線から、特定の方向に進む特定のスペクトル成分のみを選別する必要がある。そのため、撮像に必要な強度を確保するためには、選別によるロスを補えるだけの十分な明るさが元のX線に求められる。そのような光学素子としてシリコンなどの単結晶が使われるが、同時に巨大なシンクロトロン放射光施設の利用を実質的に前提とせざるを得ず、実用を検討する場合には大きな障害になっている。
【0006】
広いバンド幅のコーンビームで機能する位相利用撮像法が実現すれば、シンクロトロン放射光以外のコンパクトX線源を用いた装置化が期待できる。そのような撮像法の候補として、X線タルボ干渉計によるX線位相撮像法が期待されている(下記特許文献1及び2参照)。この方法では、単結晶ではなくX線格子を使うため、多色の発散ビームX線を利用した撮像が可能である。
【0007】
ただし、位相利用撮像法では、ある程度の空間的可干渉性がX線に求められる。そのためには、X線発生源のサイズがある程度小さくなくてはならない。すると、コンパクトなX線源といっても、この方法で使用できる既存のX線源は、実質的にマイクロフォーカスX線源ということになってくる。通常フォーカスのX線源はこれに該当しない。
【0008】
マイクロフォーカスX線源では、図7のようにターゲット1における微少領域に電子線2を照射することによって、X線を発生させている。しかしながら、長い露光時間が許されるケースを除いて、マイクロフォーカスX線源で得られるX線のパワーは、X線撮像に適用するには不十分であるという問題がある。
【0009】
従来のX線タルボ・ロー干渉計では、通常フォーカスのX線源を用いて強度不足の問題を回避している。X線タルボ・ロー干渉計の構成は、X線タルボ干渉計の構成にマルチスリットが加わったものとされる。すなわち、この技術では、ターゲットにおける比較的に広い面積に対して電子線を照射してX線を発生させ、発生したX線をマルチスリットで部分的に透過させる。これにより、細幅でかつ線状の仮想的X線源が所定ピッチで配置された線源を実現することができる。なお、このような、複数のマイクロラインを持つ線源を、本明細書においては、マイクロマルチライン線源と称することがある。
【0010】
マルチスリットにおける各々のスリットからのX線は、個別に下流のX線タルボ干渉計を動作させる。それぞれのスリットからのX線により生成されるモアレ縞が1周期ずれて重なるようにマルチスリットの間隔を決めておくことにより、X線タルボ干渉計の原理による位相情報検出が可能となる。
【0011】
しかし、マルチスリットは、X線を遮断すべき部分の機能を保証するために、十分な厚さを持つ必要がある。しかも、マルチスリットは、数十ミクロンの間隔で十ミクロン程度のスリット幅を持つ必要がある。このため、マルチスリットは、アスペクト比の高い構造となってしまい、作製が難しいという問題がある。さらに、X線は、発生源から放射状に広がるので、高いアスペクト比を持つX線マルチスリットは、理想的には、X線源を曲率中心とした円筒面である必要がある。このことも、マルチスリットの作製を難しくしている。
【特許文献1】国際公開WO2004/058070号公報
【特許文献2】米国特許第5812629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記した事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的は、X線タルボ・ロー干渉計による高感度X線撮像法において、マルチスリットの設置を省略できるX線撮像装置及びこれに用いるX線源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の項目に記載の発明として表現することができる。
【0014】
(項目1)
X線源と、励起ビーム源と、第一格子と、第二格子と、X線画像検出器とを備えており、
前記X線源は、基板と、複数のストライプ部とを備えており、
前記複数のストライプ部は、前記基板の表面上に配置されており、
かつ、前記複数のストライプ部は、互いに間隔を置いて配置されており、
さらに、前記複数のストライプ部の配置間隔は、ほぼ一定とされており、
前記基板又は前記ストライプ部のうちのいずれか一方は、前記ビーム源からの励起ビームの照射によって必要量のX線を発生する材質とされており、
前記励起ビーム源は、前記基板の表面へ前記励起ビームを照射する構成となっており、
前記第一格子は、前記X線源から発生したX線を回折する構成となっており、
前記第二格子は、前記第一格子で回折したX線を回折する構成となっており、
前記X線画像検出器は、前記第二格子で回折したX線を検出する構成となっている
ことを特徴とするX線撮像装置。
【0015】
ここで、励起ビームとは、例えば電子線である。電子線をX線源に照射することにより、基板又はストライプ部のいずれか一方から、必要量のX線を発生させることができる。また、ストライプ部を所定の周期で形成したので、発生したX線は、仮想的には、マイクロマルチラインX線と等価になる。すなわち、この発明により、マルチスリットを用いないで、マイクロマルチライン線源を実現することが可能になる。
【0016】
(項目2)
前記基板は、回転軸を中心として回転可能とされており、
さらに、前記基板の表面は、前記回転軸に対して回転対称となる形状とされており、
前記ストライプ部は、前記基板の表面上において、前記基板の回転方向にほぼ沿う方向に延長されている
ことを特徴とする項目1に記載のX線撮像装置。
【0017】
この発明において、「回転軸に対して回転対称となる形状」とは、例えば、円筒形状、円錐台形状、球状であるが、これらには制約されない。このような回転対称の形状とすることにより、基板を回転させても、X線が発生する部位と、その下流側の格子との位置関係は、相対的に静止することになる。また、ここで、回転軸とは、例えば、基板を支持するためのシャフトである。ただし、回転軸は、必ずしも実在する必要はなく、仮想的に回転中心として観念できればよい。例えば、基板の周囲を複数の回転体で支持し、これらの回転体を回転させることにより、仮想的な回転軸を中心として基板を回転させることができる。
【0018】
(項目3)
前記複数のストライプ部前記第一格子の表面上への射影が、前記第一格子を構成する格子部材とほぼ平行となるように配置された
ことを特徴とする項目1又は2に記載のX線撮像装置。
【0019】
(項目4)
X線撮像装置に用いられるX線源であって、
前記X線源は、基板と、複数のストライプ部とを備えており、
前記複数のストライプ部は、前記基板の表面上に配置されており、
かつ、前記複数のストライプ部は、互いに間隔を置いて配置されており、
さらに、前記複数のストライプ部の配置間隔は、ほぼ一定とされており、
前記基板又は前記ストライプ部のうちのいずれか一方は、励起ビームの照射によって必要量のX線を発生する材質とされている
ことを特徴とするX線源。
【0020】
(項目5)
項目1〜3のいずれか1項に記載したX線撮像装置を用いたX線撮像方法であって、以下のステップを含む:
(1)前記励起ビーム源から前記基板の表面へ励起ビームを照射することによって、前記X線源からX線を発生させるステップ;
(2)前記第一格子が、前記ターゲットから発生したX線を回折するステップ;
(3)前記第二格子が、前記第一格子で回折したX線を回折するステップ、
(4)前記X線画像検出器が、前記第二格子で回折したX線を検出するステップ。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、X線タルボ・ロー干渉計による高感度X線撮像法において、マルチスリットの設置を省略できるX線撮像装置及びこれに用いるX線源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(第1実施形態におけるX線源の構成)
まず、第1実施形態に係るX線源の構成を説明する。このX線源10(図1参照)は、X線撮像装置に用いられるものである。
【0023】
X線源10は、基板11と、複数のストライプ部12とを備えている。複数のストライプ部12は、基板11の表面上に配置されている。各々のストライプ部12は、図1において紙面に垂直な方向に伸びている。なお、図1においては、4本のストライプ部12のみを示しているが、これ以上の本数とすることは可能である。なお、この明細書においては、X線源10とはX線発生部位を指しているものである。このX線発生部位を用いて一般的なX線源装置を構成する場合には、真空容器、真空ポンプ、X線取り出し窓、シャッター、高圧電源、コントローラー、水冷機構などの構成要素が必要になることが多い。しかしながら、これらの構成要素については、一般的なX線源装置と同一でよいので記載を省略する。
【0024】
複数のストライプ部12は、互いに間隔を置いて配置されている。複数のストライプ部12の配置間隔は、ほぼ一定とされている。つまりストライプ部12は、一定の周期dで配置されている。
【0025】
基板11としては、この実施形態では、モリブデンが用いられている。しかし、基板11としては、電子線(励起ビーム)2の照射により必要量のX線を発生できるものであれば、他の材料を用いることができる。
【0026】
ストライプ部12としては、この実施形態では、アルミニウムが用いられている。ストライプ部12としては、アルミニウム以外の材料を用いることが可能である。
【0027】
ストライプ部12に用いられるアルミニウムは、電子線の照射により発生する特性X線(後述)の波長が、基板11に用いられた金属の特性X線よりはるかに長い。つまり、この実施形態では、撮像に必要な波長域において、基板11のみが、励起ビームの照射によって必要量のX線を発生する。
【0028】
基板11の表面にストライプ部12を形成する技術としては、真空蒸着法やめっき法など、既存の技術を用いることが可能なので、これについての詳しい説明は省略する。
【0029】
(第1実施形態におけるX線源の動作)
本実施形態に係るX線源の動作を以下に説明する。まず、励起ビーム源(電子源)20から発生した電子線を、X線源10の表面に向けて照射する。この照射は従来の技術と同様である。
【0030】
すると、基板11及びストライプ部12の領域から、それぞれの材質に依存したX線スペクトルで、X線が発生する。X線スペクトルには、特定のエネルギーを持つ特性X線とそれよりも弱いが様々なエネルギー成分を含む連続X線の成分がある(図2参照)。モリブデンからの特性X線を含む波長領域は、例えば、乳癌診断用のX線撮像装置で使われる。一方、アルミニウムからの特性X線は低エネルギーであるため上記の波長域には含まれず、且つ、そのほとんどは空気で吸収され、観測されない。また、連続X線の全強度も物質の原子番号の自乗にほぼ比例するので、アルミニウムからの連続X線はかなり弱い。したがって、図2に示すように、材料の差異により、発生するX線強度が大幅に変わる。加えて、ストライプ部12に照射される電子ビームは全てストライプ部12に吸収されて基板11に至ることが無い。すなわちストライプ部12の下面に面する位置では、基板11からのX線発生は無い。
【0031】
以上説明したように、モリブデンで構成された基板11であって、かつ、表面に露出されている部分からのみ、強いX線が得られることになる。
【0032】
本実施形態では、所定のピッチdで配置された基板11の表面(すなわちストライプ部12どうしの間隔)から、所望のX線を発生させることができる。このとき、X線の発生部位は、所定のピッチd毎に配置されていることになる。
【0033】
このため、本実施形態のX線源10によれば、先に説明したマイクロマルチライン線源を実現することができる。
【0034】
しかも、本実施形態のX線源10では、従来と異なり、マイクロマルチライン線源を実現するためにマルチスリットを用いる必要がない。このため、マルチスリットの作製を省略することができ、装置の小型化や低コスト化に寄与するという利点がある。
【0035】
(第2実施形態のX線源)
つぎに、本発明の第2実施形態に係るX線源210を、図3に基づいて説明する。この第2実施形態の説明においては、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を用いることにより、説明を簡略化する。
【0036】
この実施形態のX線源210は、第1実施形態のX線源10と同様に、基板211と、複数のストライプ部212とを備えている。複数のストライプ部212の配置間隔は、一定の周期dとされている。
【0037】
基板211としては、この実施形態では、アルミニウムが用いられているが、アルミニウム以外の材料を用いることが可能である。また、ストライプ部212としては、この実施形態では、モリブデンが用いられている。しかし、ストライプ部212としては、電子線(励起ビーム)の照射により必要量のX線を発生できるものであれば、他の材料を用いることができる。
【0038】
(第2実施形態におけるX線源の動作)
本実施形態に係るX線源の動作を以下に説明する。まず、励起ビーム源(電子源)20から発生した電子線を、X線源210の表面に向けて照射する。
【0039】
すると、基板211及びストライプ部212の領域から、それぞれの材質に依存したX線スペクトルで、X線が発生する。既に第1実施形態において説明したように、撮影に必要な波長域のX線がモリブデンを用いたストライプ部212から強く得られる。
【0040】
本実施形態では、所定のピッチdで配置されたストライプ部212の表面から、所望のX線を発生させることができる。したがって、この例におけるX線の発生部位も、所定のピッチd毎に配置されていることになる。
【0041】
このため、本実施形態のX線源210によれば、マイクロマルチライン線源を実現することができる。
【0042】
本実施形態のX線源210における他の構成及び利点は、前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0043】
(第3実施形態のX線源)
つぎに、本発明の第3実施形態に係るX線源310を、図4に基づいて説明する。この第3実施形態の説明においては、第1実施形態と同様の構成については、同一の符号を用いることにより、説明を簡略化する。
【0044】
この実施形態のX線源310は、第1実施形態のX線源10と同様に、基板311と、複数のストライプ部312とを備えている。複数のストライプ部312の配置間隔は、一定の周期dとされている(図4(a)参照)。
【0045】
基板311としては、この実施形態では、モリブデンが用いられている。また、ストライプ部312としては、この実施形態では、アルミニウムが用いられている。この点の構成は第1実施形態と同様であるが、第2実施形態と同様の材料を選択することもできる。
【0046】
さらに、第3実施形態では、基板311の表面が円筒面状とされている。そして、ストライプ部312は、円筒面状の基板311の表面上において、ほぼその周方向に延長されている。
【0047】
また、基板311の表面は、円筒形状の基板311の回転軸(基板表面の曲率中心)pに対して回転可能とされている(図4(b)参照)。
【0048】
本実施形態では、前記した構成を採用したことにより、基板311の表面が、基板311の回転軸に対して回転対称な形状になっている。さらに、ストライプ部312は、基板311の表面上において、基板311の回転方向にほぼ沿う方向に延長されたものとなっている。
【0049】
(第3実施形態におけるX線源の動作)
本実施形態に係るX線源の動作を以下に説明する。まず、励起ビーム源(電子源)20から発生した電子線2を、X線源310の表面に向けて照射する。
【0050】
すると、基板311及びストライプ部312の領域から、それぞれの材質に依存したX線スペクトルで、X線が発生する。したがって、本実施形態では、モリブデンで構成された基板311(すなわちストライプ部312の間の間隔)からのみ強いX線が得られることになる。第2実施形態と同様の材料とすれば、ストライプ部312からのみ強いX線を得ることもできる。
【0051】
このようにして、本実施形態のX線源310によれば、マイクロマルチライン線源を実現することができる。
【0052】
また、第3実施形態のX線源では、円筒状の基板311を、その周方向に回転させながら使用することができる。回転させることにより、励起ビーム2が基板311に与える熱負荷を拡散させることができ、すなわち励起ビームの強度を増して発生するX線の強度を増加させることができるという利点がある。なお、基板311の表面を巻くストライプ部312の回転対称軸は、基板311の回転軸とほぼ一致させる。すなわち、回転によってX線発生位置がほぼ変動しないようにしている。
【0053】
本実施形態のX線源310における他の構成及び利点は、前記した第1実施形態と基本的に同様なので、これ以上詳細な説明は省略する。
【0054】
(第4実施形態:X線撮像装置)
次に、第4実施形態として、前記したいずれかの実施形態に係るX線源を用いたX線撮像装置を説明する。以下においては、第1実施形態で説明したX線源10の使用を前提とするが、他の形態のX線源を使用することもできる。
【0055】
図5に示されるように、このX線撮像装置は、第1実施形態に係るX線源10と、励起ビーム源20(図1参照)と、第一格子30と、第二格子40と、X線画像検出器50とを備えている。
【0056】
X線源10は、励起ビーム源20から基板11の表面へ照射された励起ビーム(電子線)2によって、X線3を発生するものである。
【0057】
このとき、ストライプ部12から第一格子30の表面への射影が、第一格子30を構成する格子部材にほぼ平行になるように、X線源10を配置する。
【0058】
第一格子30は、X線源から発生したX線3を回折する構成となっている。第二格子40は、第一格子30で回折したX線3をさらに回折する構成となっている。X線画像検出器50は、第二格子40で回折したX線を検出する構成となっている。また、第二格子40は、この第二格子40を回折したX線によって周期的強度パターンを発生できる構成となっている。
【0059】
本実施形態におけるX線撮像装置(第一格子30、第二格子40およびX線画像検出器50で構成される部分)は、既に知られた構成(例えば特許文献1に記載のもの)とすることができるので、これ以上詳しい説明は省略する。
【0060】
なお、前記したX線撮像装置を用いた位相情報の定量計測も可能であり、それに基づく位相トモグラフィによる立体像の生成を行うことができる。これについては前記特許文献1に記載されているので詳細な説明は省略する。
【0061】
(実施例)
以下、X線撮像装置の詳しい実施例を説明する(図5及び図6参照)。第1格子30は、X線源10から所定の距離Rだけ隔てて配置される。第1格子30からさらに距離R2を隔てて、第2格子40を配置する。被写体(被試験体)60は、第1格子30の直前に置くのが一般的である。しかし、原理的には、X線源10と第2格子40との間に被写体60があればよい。画像検出器50は第2格子40のすぐ背後に設置する。
【0062】
第1・第2格子30・40のピッチd1、d2とR1, R2との関係は、


である。mは、第1格子30が位相格子である場合は半整数、吸収格子である場合は整数である。ただし、実際のR2は、この条件で与えられる値に対して数%の誤差で近ければ問題ない。ここまではタルボ干渉計としての構成例である。
【0063】
図5の構成例におけるX線源10によるマイクロマルチライン線源としてのラインの周期dmは、

を満たしていればよい。nは正の整数である。ここで、周期dmは、ライン状のX線における「見かけの周期」と言うことができる。
【0064】
さらに、ストライプ部12の周期dと、マイクロマルチライン線源の周期dmとの関係を、図6を参照しながら説明する。両者は、X線の取り出し方向に依存して

の関係を満たす。ここで、θは、X線を取り出す方向の中心軸lと基板11の表面とが成す角度である。従来の技術では、X線の取り出し方向角θを小さく選ぶことにより、実効的なX線の輝度を増す方法が知られている。ここで、本実施形態によれば、ストライプ部12のパターンを1/sinθ倍だけ大きく形成してもよいことになる。したがって、本実施形態によれば、ストライプ部12を形成する際の寸法精度の要求が軽減されるという利点もある。
【0065】
なお、前記実施形態および実施例の記載は単なる一例に過ぎず、本発明に必須の構成を示したものではない。各部の構成は、本発明の趣旨を達成できるものであれば、上記に限らない。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の第1実施形態に係るX線源の概略的な構成を説明するための説明図である。
【図2】モリブデンとアルミニウムに電子線を照射することにより発生するX線の波長と強度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の第2実施形態に係るX線源の概略的な構成を説明するための説明図である。
【図4】図(a)は、本発明の第3実施形態に係るX線源の概略的な構成を説明するための説明図である。図(b)は、基板の回転軸を説明するための説明図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係るX線撮像装置の概略的な構成を説明するための説明図である。
【図6】本発明の一実施例におけるX線源を説明するための説明図である。
【図7】従来のマイクロフォーカスX線源を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0067】
2 電子線
10・210・310 X線源
11・211・311 基板
12・211・311 ストライプ部
20 励起ビーム源(電子源)
30 第1格子
40 第2格子
50 X線画像検出器
60 被写体
70 X線取り出し窓
l X線を取り出す方向の中心軸
p 基板の回転軸
ストライプ部のピッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線源と、励起ビーム源と、第一格子と、第二格子と、X線画像検出器とを備えており、
前記X線源は、基板と、複数のストライプ部とを備えており、
前記複数のストライプ部は、前記基板の表面上に配置されており、
かつ、前記複数のストライプ部は、互いに間隔を置いて配置されており、
さらに、前記複数のストライプ部の配置間隔は、ほぼ一定とされており、
前記基板又は前記ストライプ部のうちのいずれか一方は、前記励起ビーム源からの励起ビームの照射によって必要量のX線を発生する材質とされており、
前記励起ビーム源は、前記基板の表面へ前記励起ビームを照射する構成となっており、
前記第一格子は、前記X線源から発生したX線を回折する構成となっており、
前記第二格子は、前記第一格子で回折したX線を回折する構成となっており、
前記X線画像検出器は、前記第二格子で回折したX線を検出する構成となっている
ことを特徴とするX線撮像装置。
【請求項2】
前記基板は、回転軸を中心として回転可能とされており、
さらに、前記基板の表面は、前記回転軸に対して回転対称となる形状とされており、
前記ストライプ部は、前記基板の表面上において、前記基板の回転方向にほぼ沿う方向に延長されている
ことを特徴とする請求項1に記載のX線撮像装置。
【請求項3】
前記複数のストライプ部から前記第一格子の表面上への射影が、前記第一格子を構成する格子部材とほぼ平行となるように配置された
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のX線撮像装置。
【請求項4】
X線撮像装置に用いられるX線源であって、
前記X線源は、基板と、複数のストライプ部とを備えており、
前記複数のストライプ部は、前記基板の表面上に配置されており、
かつ、前記複数のストライプ部は、互いに間隔を置いて配置されており、
さらに、前記複数のストライプ部の配置間隔は、ほぼ一定とされており、
前記基板又は前記ストライプ部のうちのいずれか一方は、励起ビームの照射によって必要量のX線を発生する材質とされている
ことを特徴とするX線源。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載したX線撮像装置を用いたX線撮像方法であって、以下のステップを含む:
(1)前記励起ビーム源から前記基板の表面へ励起ビームを照射することによって、前記X線源からX線を発生させるステップ;
(2)前記第一格子が、前記ターゲットから発生したX線を回折するステップ;
(3)前記第二格子が、前記第一格子で回折したX線を回折するステップ、
(4)前記X線画像検出器が、前記第二格子で回折したX線を検出するステップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−195349(P2009−195349A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38181(P2008−38181)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】