X線断層像撮影装置
【課題】回転テーブルの実際の回転中心、あるいはX線発生装置とX線検出器の対の実際の回転中心の、設定されている回転軸からのずれが断層像に与える影響をなくするか、少なくすることのできるX線断層像撮影装置を提供する。
【解決手段】X線検出器2により収集した各投影方向へのX線投影データを用いた再構成演算によって得られた断層像を、投影方向と同じ方向に順投影し、その順投影データと収集した投影データとのずれを求め、そのずれに基づいて収集した投影データを補正して新たに再構成演算を行うことにより、X線発生装置1とX線検出器2の対と対象物Wとの相対回転の不正確さに係わらず、その影響の少ない鮮明な断層像の修得を可能とする。
【解決手段】X線検出器2により収集した各投影方向へのX線投影データを用いた再構成演算によって得られた断層像を、投影方向と同じ方向に順投影し、その順投影データと収集した投影データとのずれを求め、そのずれに基づいて収集した投影データを補正して新たに再構成演算を行うことにより、X線発生装置1とX線検出器2の対と対象物Wとの相対回転の不正確さに係わらず、その影響の少ない鮮明な断層像の修得を可能とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業用のX線断層像撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線断層像撮影装置においては、一般に、X線発生装置とX線検出との間に、対象物を配置するための試料ステージを設け、X線発生装置とX線検出器との対と試料ステージとを相対的に微小角度ずつ回転させることにより、多数の方向からの対象物のX線投影データを収集し、そのデータにフィルタ処理等を施した後、再構成演算を行うこと、つまり逆投影を行うことで、対象物の断層像を得る(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
例えば図8(A)に示すように、X線発生装置1とX線検出器2の間に、これらと結ぶ線に直交する鉛直の回転軸Rの回りに回転する回転テーブル3を配置して試料ステージとし、その回転テーブル3上に図示のような対象物Wを搭載してX線を照射すると、X線検出器2の出力、つまり対象物WのX線投影データは同図(B)に例示する通りとなる。鉛直の回転軸Rに直交する水平方向へのラインプロファイルは、鉛直方向中央部分を例にとれば同図(C)に示す通りとなる。
【0004】
また、図9に示す例は、X線発生装置1とX線検出器2の対を回転軸Rの回りに回転させる構造の装置を示すものであり、X線発生装置1とX線検出器2の間に設けられて対象物Wを搭載する試料ステージ(図示略)は回転させずに固定し、その回りをX線発生装置1とX線検出器2の対を回転させる。このような装置構造でも、上記と同様のX線投影データが得られる。
【0005】
以上の図8(A)または図9に示す装置において、対象物Wに向けてX線を照射しながら、回転テーブル3を回転させるか、あるいはX線発生装置1とX線検出器2の対を微小角度ずつ回転させてX線投影データを取り込むことにより、さまざまな方向(投影角度)でのX線投影データを収集することができる。その各投影角度の投影データにおける回転軸R方向への一定の位置で、かつ、回転軸Rに直交する方向へのライン上のX線投影データを集めてグラフ化したものはサイノグラムと呼ばれ,その例を図10に示す。このサイノグラムは、再構成演算を行う前のデータとなる。断層像の再構成演算は、サイノグラム(投影データ)を逆投影処理することで実現されている。すなわち、図11に示すように、例えば図8(C)に示した中央部分のラインのサイノグラムで説明すると、該当する角度のラインプロファイルデータを用いて、言わばX線発生装置1の焦点に向けて塗りつぶしていく処理を、収集した角度分繰り返す処理を実行する。これにより、図12に例示するような対象物の鉛直方向中央部分における断層像が再構成される。なお、実際には、投影データはフィルタリング処理などを行う必要があるが、ここでは省略する。
【0006】
以上の例では、ライン上の投影データの処理について説明したが、同様な手法によりさまざまな投影角度で得た2次元投影データから、3次元の断層データ(3次元情報)を再構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−300438号公報
【特許文献2】特開2005−283180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、X線投影データの再構成演算により対象物の断層像を得るには、上記したようにX線投影データを逆投影する。この逆投影においては、基本的に、X線発生装置の焦点とX線検出器の対が、対象物に対してあらかじめ設定されている軌道のもとに相対回転するという前提のもとにX線投影データを収集し、その前提の軌道をもとにして、収集したX線投影データを逆投影処理する。
【0009】
従って、実際の装置が、設定されている軌道と異なる軌道で相対回転したとすると、再構成演算により得られる断層像の画質に悪影響を及ぼす。すなわち、像が2重になったり、虚像(アーチファクト)の発生の原因となる。特に、回転中心の位置ずれ、つまり撮影時における実際の相対回転軸が想定されている回転軸Rに対してずれている場合には、断層像の画質に重大な影響を及ぼす。
【0010】
相対回転の軌道が設定された軌道と異なる軌道となる原因、つまり回転テーブルの実際の回転中心、あるいはX線発生装置とX線検出器の対の実際の回転中心が、設定されている回転軸Rからずれて一致しなくなる原因としては、機器の強度不足、温度変化などによる部材の変形、X線発生装置から発生するX線の位置(焦点位置)の移動などが考えられる。その結果、図13に概念的に示すように、X線発生装置の焦点1aの回転中心Rに対する設定相対回転軌道T1と、X線検出器2の回転中心Rに対する設定相対回転軌道T2に対し、実際の軌道がそれぞれT1′およびT2′のように逸脱する。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、回転テーブルの実際の回転中心、あるいはX線発生装置とX線検出器の対の実際の回転中心の、設定されている回転軸からのずれが断層像に与える影響をなくするか、あるいは少なくすることのできるX線断層像撮影装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明のX線断層像撮影装置は、互いに対向配置されたX線発生装置およびX線検出器と、これらのX線発生装置とX線検出器との間に設けられ、対象物を配置するための試料ステージと、上記X線発生装置とX線検出器の対と上記試料ステージとを相対的に回転させる回転機構と、上記X線発生装置からのX線を照射しながら、上記回転機構を一定角度回転駆動するごとに上記X線検出器の出力を取り込むことにより、複数の投影方向からの対象物のX線投影データを順次記憶していく投影データ記憶手段と、その投影データ記憶手段に記憶された複数の方向からのX線投影データを用いた再構成演算により、対象物の断層像を構築する再構成演算手段を備えたX線断層像撮影装置において、上記再構成演算手段により構築された断層像を、上記各X線投影データの投影方向と同じ方向に順投影した複数のデータを作成する順投影演算手段と、上記投影データ記憶手段に記憶されている各X線投影データと、上記順投影演算手段により順投影した各データとを、同じ投影方向のものどうしで比較し、X線投影データの順投影したデータに対するずれを求め、そのずれに基づいて上記投影データ記憶手段に記憶されているデータを補正するか、再構成演算に用いる座標を補正する補正手段を有し、上記再構成演算手段は、その補正後のX線投影データもしくは座標を用いて、改めて再構成演算を行って対象物の断層像を構築することによって特徴づけられる(請求項1)。
【0013】
ここで、本発明においては、上記補正手段による補正後のX線投影データもしくは座標を用いた再構成演算と、その再構成演算により得られた断層像の順投影と当該再構成演算に用いたデータとのずれに基づく補正とを、繰り返し行う構成(請求項2)を採用することもできる。
【0014】
本発明は、X線発生装置とX線検出器の対とを相対回転させて収集したX線投影データを用いて、通常の装置と同様に再構成演算(逆投影)を行うことにより、対象物の断層像を一旦構築した後、得られた断層像を順投影したデータを作成し、逆投影前のX線投影データ(収集データ)と同じ投影方向のものどうしを比較する。順投影は逆投影の逆向きの演算であるため、X線投影データを収集する際に、X線発生装置とX線検出器の対と対象物との相対回転の軌跡があらかじめ設定された軌跡どおりであれば、X線投影データと順投影したデータとが一致するはずである。これらが相互にずれていれば、相対回転の軌跡はあらかじめ設定された軌跡から逸脱していることになる。
【0015】
そこで、同じ方向のX線投影データと順投影したデータどのずれを求め、そのずれに基づいて収集したX線投影データを補正するか、あるいは再構成演算に用いる座標を補正し、補正後のデータもしくは座標を用いた再構成演算により、対象物の断層像を改めて構築する。これにより、投影データの収集時に装置の機械的要因等により相対回転の軌跡が設定された軌跡から逸脱していても、像が2重になったり虚像の発生を抑制した断層像を得ることができる。
【0016】
ここで、順投影により得られたデータは、数値誤差等も含んでぼけた画像となるが、その誤差は、通常、均等に現れると考えられるので、本来あるべき位置を中心としてぼけた状態となっている。従って、この順投影データと収集データとができるだけ一致するように、収集データの位置のずれ(平行移動、回転、拡大、縮小など)を検出する。このような検出を、収集した全てのデータ(全ての投影角度のデータ)に対して行い、検出したずれに応じて収集した各データを補正し、その後、その補正後のデータ用いた再構成演算により再び断層像を構築することにより、データ収集時の相対回転の軌跡の逸脱に起因して像が2重になったり虚像が現れることを抑制することができる。
【0017】
ここで、上記のずれに基づく補正は、収集データの位置を補正してもよいし、あるいは再び行う再構成演算時の座標を補正しても同じ結果となる。
【0018】
また、請求項2に係る発明のように、再構成演算に用いたデータと、その再構成演算により得られた断層像を順投影したデータとのずれに基づく補正を行って、再び再構成演算を行う動作を、繰り返し行うことにより、ずれの補正の精度はより向上し、得られる断層像もより良好なものとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、試料を搭載して回転を与える回転テーブルの実際の回転中心、もしくはX線発生装置とX線検出器の対が、設定されている回転軸からずれて、収集したX線投影データの画像が本来あるべき画像に対してずれても、そのずれが補正されて断層像が構築されるため、得られる断層像が2重になったり虚像が生じるといった不具合をなくするか、あるいは少なくすることができる。
【0020】
このようなことから、X線検発生装置とX線検出器の対と対象物との相対回転機構に高価な機構を用いることなく、虚像等のないきれいな断層像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と制御装置の機能的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の動作の例を示すフローチャートである。
【図3】順投影により得られるデータと実際に収集した投影データとの、ラインプロファイルを用いた概念的な説明図である。
【図4】順投影により得られるデータと、本来あるべき投影データ、および実際に収集した投影データとを、ラインプロファイルを用いて概念的に説明する図である。
【図5】順投影により得られるデータと実際に収集した投影データとを、投影画像(2次元画像)を用いて概念的に示す図である。
【図6】順投影により得られたデータと実際に収集した投影データとのずれの求め方の例の説明図である。
【図7】本発明が適用可能な傾斜形CTの構成例を示す模式図である。
【図8】X線断層像撮影装置の撮影系の説明図で、(A)は回転テーブルを用いた撮影系の模式的構成図で、(B)は(A)の状態で得られるX線投影データの例を示す図であり、(C)は(B)の鉛直方向中央部におけるラインプロファイルを示す図である。
【図9】X線断層像撮影装置の撮影系の他の例を示すで、X線発生装置とX線検出器の対を対象物の回りに回転させる系の模式図である。
【図10】図8(C)に示したラインプロファイルの位置におけるサイノグラムの例を示す図である。
【図11】X線断層像撮影装置によりX線投影データから断層像を構築する再構成演算処理の説明図である。
【図12】再構成演算演算処理によって得られる断層像の例を示す図である。
【図13】X線発生装置の焦点およびX線検出器の、回転中心に対する軌道のずれの説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 X線発生装置
2 X線検出器
3 回転ステージ
11 X線コントローラ
12 軸制御部
13 画像データ取り込み回路
14 投影データ記憶部
15 再構成演算部
16 順投影演算部
17 ずれ演算部
18 補正演算部
19 補正後データ記憶部
20 表示器
21 システム制御部
22 操作部
W 対象物
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と制御装置の主要な機能的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【0024】
X線発生装置1はそのX線光軸を水平方向に向くように配置され、このX線発生装置1に水平方向に対向してX線検出器2が配置されている。X線発生装置1には、X線コントローラ11からの信号に応じた管電圧および管電流が供給され、X線焦点を頂点としたコーン状のX線ビームを発生する。また、X線検出器2は画素が2次元状に配列されてなる2次元X線検出器である。
【0025】
X線発生装置1とX線検出器2の間に、対象物Wを搭載するための回転テーブル3が配置されている。この回転テーブル3は、X線光軸に直交する鉛直方向に沿った回転軸Rを中心として回転する。また、この回転テーブル3は、少なくともX線光軸方向および鉛直方向に移動可能となっており、これらの各軸方向への移動並びに回転軸Rの回りの回転動作は、軸制御部12から供給される駆動制御信号によって制御される。
【0026】
対象物WのX線投影データの収集、つまりCT撮影に際しては、回転テーブル3上に対象物Wを搭載して回転を与え、X線を照射しつつ、回転テーブル3が所定の微小角度だけ回転するごとに、X線検出器2の各画素出力を取り込むことによって行われる。具体的には、各回転角度でのX線検出器の各画素出力は、その角度でのX線投影データとして画像データ取り込み回路13を介して投影データ記憶部14に記憶されていく。
【0027】
データ記憶部14に記憶された各角度におけるX線投影データは、再構成演算部15による再構成演算に供され、X線投影データの逆投影によって対象物Wの断層像、実質的には3次元像情報が構築される。この収集した投影データを用いた再構成演算による断層像は、順投影演算部16による順投影演算に供される。この順投影演算においては、CT撮影時における複数の投影方向と同じ方向への順投影演算が行われ、従って、この順投影によって収集したX線投影データと同じ数の順投影データが算出される。
【0028】
順投影演算部16により求められた各方向への順投影データは、ずれ演算部17に取り込まれ、このずれ演算部17では、後述するように、順投影されたデータと、投影データ記憶部14に記憶されている投影データとを、同じ投影方向のものどうしで比較し、両者のずれを算出する。
【0029】
ずれ演算部17で求められた投影角度のX線投影データの順投影データに対するずれは、補正演算部18に取り込まれる。補正演算部18では、投影データ記憶部14に記憶されている各投影角度のX線投影データについて、順投影データに対するずれが最も少なくなるように位置を補正する。この補正後の投影データは補正後データ記憶部19に記憶される。そして、前記した再構成演算部15は、この補正後データ記憶部19に記憶された補正後の投影データを用いて再び再構成演算を行って対象物Wの断層像を構築する。この補正されたデータを用いて構築された断層像が、対象物Wの断層像として表示器20に表示される。
【0030】
以上の画像データ取り込み回路13、投影データ記憶部14、再構成演算部15、順投影演算部16、ずれ演算部17、補正演算部18、補正後データ記憶部19および表示器20は、前記したX線コントローラ11、軸制御部12、画像データ取り込み回路13とともにシステム制御部21の制御下に置かれている。システム制御部21には、マウスやキーボード、ジョイスティック等からなる操作部22が接続されており、この操作部22の操作によって、回転ステージ3の位置決めを行ったり、各種指令を与えることができる。そして、これらは、実際にはコンピュータとその周辺機器を主体として構成され、インストールされているプログラムに従った機能を実現するのであるが、図1では説明の便宜上、その機能ごとのブロックによって表している。
【0031】
次に、以上の構成からなる本発明の実施の形態の動作の例について、図2に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
まず、回転テーブル3上に対象物Wを搭載して回転を与えながらX線発生装置1からのX線を照射し、所定の微小角度ごとにX線検出器2の出力を投影データとして投影データ記憶部13に記憶していく。360°分の投影データが揃った後、これらの投影データを用いた再構成演算により、対象物Wの断層像(3次元像情報)を構築する。
【0032】
次に、得られた断層像について、CT撮影時において投影データを収集した複数の方向とそれぞれ同じ向き、換言すれば投影データの再構成に際して逆投影する方向で、かつ、その逆の向き,に順投影し、順投影データを作成する。
【0033】
順投影により得られるデータは、基本的にはCT撮影により収集された各方向の投影データと同等のX線透視像となるが、図3にある断層箇所におけるラインプロファイルを用いて概念的に示すように、順投影は断層像CIをX線焦点1aからX線検出器2に向けて投影するものであり、この順投影で得られた画像は数値化誤差も含んでぼけた画像となり、ラインプロファイルで表すと図中P1のようになり、対象物にX線を照射して収集した投影データのラインプロファイルP2とは異なるものとなるが、そこに現れる誤差は均等であると考えられるので、本来あるべき位置を中心としてぼけているものと見なすことができる。従って、ある投影角度におけるX線投影データの収集時に、回転テーブル3の回転がX線発生装置1とX線検出器2の対に対して正しく設定された軌跡上にある場合には、図4に概念的に示すように、本来あるべき投影データとなっており、これをラインプロファイルで表すとP3のようになり、順投影データP1に対して位置ずれが生じないはずである。しかしながら、前記したように回転テーブル3の回転精度やその他の種々の要因により、実際に収集した投影データは設定されている回転軌跡からずれた位置での投影データP2となることが多い。これを投影画像の形(2次元画像)で表すと図5に概念的に示す通りとなる。この投影データの画像のずれは、断層像を同じ方向に順投影して得られる順投影データとの比較により、図6に示すように検知することができる。
【0034】
すなわち、投影データ記憶部14に記憶されている全ての投影データについて、該当する順投影データと比較し、ずれの方向と量を求める。この比較に際しては、順投影データは前記したようにぼけた画像となっているため、例えば画像の水平方向並びに鉛直方向への各ずれ量や、倍率、回転角度などをパラメータとして設定しておき、これらの各パラメータを少しずつ変化させながら、両データの相関関係を計算し、相関が最も高いパラメータδx,δy等を探す等の手順を採用することができる。
【0035】
以上のように各投影データごとに、対応する順投影データに対するずれを求めた後、そのずれに基づいて投影データの位置を補正したデータは、補正後データ記憶部19に記憶されていく。
【0036】
すべての投影データの補正が完了した後、再構成演算部15において補正後データ記憶部19のデータを用いた再構成演算が実行され、改めて対象物Wの断層像が構築される。このようにして得られた断層像は、撮影により収集した投影データを用いて得た最初の断層像に比して、投影データの位置ずれの補正が行われている分、より鮮明なものとなり、また、虚像等の発生も抑制することができる。
【0037】
ここで、以上のような補正により補正後データ記憶部19に記憶された投影データを用いて構築した断層像について、再び順投影を行い、その順投影データと補正後データ記憶部19内のデータとの比較により両者のずれを求め、そのずれに基づいて補正後データ記憶部19内のデータを再度補正する、という行為を更に1回もしくは複数回繰り返してもよく、その場合、最終的なデータを用いた再構成演算により得られる断層像は更に鮮明なものとなる。
【0038】
また、以上の実施の形態においては、順投影データとのずれにより投影データの位置を補正して再構成演算に供した例を示したが、ずれに基づく補正の仕方としては、収集した投影データをそのまま用いるとともに、逆投影による再構成演算時の座標を、ずれを考慮した補正を行ってもよい。
【0039】
更に、以上の実施の形態においては、X線発生装置1とX線検出器2の対を固定し、その間に回転テーブル3を配置して対象物Wを回転させる例を示したが、対象物Wを固定し、その回りをX線発生装置1とX線検出器2の対を回転させる装置構成についても、本発明を等しく適用することができる。
【0040】
更にまた、以上の実施の形態においては、回転軸Rに直交する方向にX線発生装置とX線検出器を配置した例を示したが、図7に示すように、X線発生装置1とX線検出器2を結ぶ線と、対象物を搭載する回転テーブル3の回転軸Rとが直交しない、いわゆる傾斜形CTと呼ばれる装置であっても、本発明を等しく適用することができる。なお、傾斜形CTにおいて、X線発生装置とX線検出器の対を対象物の回りに回転させる構造であってもよい。
【技術分野】
【0001】
本発明は産業用のX線断層像撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線断層像撮影装置においては、一般に、X線発生装置とX線検出との間に、対象物を配置するための試料ステージを設け、X線発生装置とX線検出器との対と試料ステージとを相対的に微小角度ずつ回転させることにより、多数の方向からの対象物のX線投影データを収集し、そのデータにフィルタ処理等を施した後、再構成演算を行うこと、つまり逆投影を行うことで、対象物の断層像を得る(例えば特許文献1、2参照)。
【0003】
例えば図8(A)に示すように、X線発生装置1とX線検出器2の間に、これらと結ぶ線に直交する鉛直の回転軸Rの回りに回転する回転テーブル3を配置して試料ステージとし、その回転テーブル3上に図示のような対象物Wを搭載してX線を照射すると、X線検出器2の出力、つまり対象物WのX線投影データは同図(B)に例示する通りとなる。鉛直の回転軸Rに直交する水平方向へのラインプロファイルは、鉛直方向中央部分を例にとれば同図(C)に示す通りとなる。
【0004】
また、図9に示す例は、X線発生装置1とX線検出器2の対を回転軸Rの回りに回転させる構造の装置を示すものであり、X線発生装置1とX線検出器2の間に設けられて対象物Wを搭載する試料ステージ(図示略)は回転させずに固定し、その回りをX線発生装置1とX線検出器2の対を回転させる。このような装置構造でも、上記と同様のX線投影データが得られる。
【0005】
以上の図8(A)または図9に示す装置において、対象物Wに向けてX線を照射しながら、回転テーブル3を回転させるか、あるいはX線発生装置1とX線検出器2の対を微小角度ずつ回転させてX線投影データを取り込むことにより、さまざまな方向(投影角度)でのX線投影データを収集することができる。その各投影角度の投影データにおける回転軸R方向への一定の位置で、かつ、回転軸Rに直交する方向へのライン上のX線投影データを集めてグラフ化したものはサイノグラムと呼ばれ,その例を図10に示す。このサイノグラムは、再構成演算を行う前のデータとなる。断層像の再構成演算は、サイノグラム(投影データ)を逆投影処理することで実現されている。すなわち、図11に示すように、例えば図8(C)に示した中央部分のラインのサイノグラムで説明すると、該当する角度のラインプロファイルデータを用いて、言わばX線発生装置1の焦点に向けて塗りつぶしていく処理を、収集した角度分繰り返す処理を実行する。これにより、図12に例示するような対象物の鉛直方向中央部分における断層像が再構成される。なお、実際には、投影データはフィルタリング処理などを行う必要があるが、ここでは省略する。
【0006】
以上の例では、ライン上の投影データの処理について説明したが、同様な手法によりさまざまな投影角度で得た2次元投影データから、3次元の断層データ(3次元情報)を再構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−300438号公報
【特許文献2】特開2005−283180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、X線投影データの再構成演算により対象物の断層像を得るには、上記したようにX線投影データを逆投影する。この逆投影においては、基本的に、X線発生装置の焦点とX線検出器の対が、対象物に対してあらかじめ設定されている軌道のもとに相対回転するという前提のもとにX線投影データを収集し、その前提の軌道をもとにして、収集したX線投影データを逆投影処理する。
【0009】
従って、実際の装置が、設定されている軌道と異なる軌道で相対回転したとすると、再構成演算により得られる断層像の画質に悪影響を及ぼす。すなわち、像が2重になったり、虚像(アーチファクト)の発生の原因となる。特に、回転中心の位置ずれ、つまり撮影時における実際の相対回転軸が想定されている回転軸Rに対してずれている場合には、断層像の画質に重大な影響を及ぼす。
【0010】
相対回転の軌道が設定された軌道と異なる軌道となる原因、つまり回転テーブルの実際の回転中心、あるいはX線発生装置とX線検出器の対の実際の回転中心が、設定されている回転軸Rからずれて一致しなくなる原因としては、機器の強度不足、温度変化などによる部材の変形、X線発生装置から発生するX線の位置(焦点位置)の移動などが考えられる。その結果、図13に概念的に示すように、X線発生装置の焦点1aの回転中心Rに対する設定相対回転軌道T1と、X線検出器2の回転中心Rに対する設定相対回転軌道T2に対し、実際の軌道がそれぞれT1′およびT2′のように逸脱する。
【0011】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、回転テーブルの実際の回転中心、あるいはX線発生装置とX線検出器の対の実際の回転中心の、設定されている回転軸からのずれが断層像に与える影響をなくするか、あるいは少なくすることのできるX線断層像撮影装置の提供をその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明のX線断層像撮影装置は、互いに対向配置されたX線発生装置およびX線検出器と、これらのX線発生装置とX線検出器との間に設けられ、対象物を配置するための試料ステージと、上記X線発生装置とX線検出器の対と上記試料ステージとを相対的に回転させる回転機構と、上記X線発生装置からのX線を照射しながら、上記回転機構を一定角度回転駆動するごとに上記X線検出器の出力を取り込むことにより、複数の投影方向からの対象物のX線投影データを順次記憶していく投影データ記憶手段と、その投影データ記憶手段に記憶された複数の方向からのX線投影データを用いた再構成演算により、対象物の断層像を構築する再構成演算手段を備えたX線断層像撮影装置において、上記再構成演算手段により構築された断層像を、上記各X線投影データの投影方向と同じ方向に順投影した複数のデータを作成する順投影演算手段と、上記投影データ記憶手段に記憶されている各X線投影データと、上記順投影演算手段により順投影した各データとを、同じ投影方向のものどうしで比較し、X線投影データの順投影したデータに対するずれを求め、そのずれに基づいて上記投影データ記憶手段に記憶されているデータを補正するか、再構成演算に用いる座標を補正する補正手段を有し、上記再構成演算手段は、その補正後のX線投影データもしくは座標を用いて、改めて再構成演算を行って対象物の断層像を構築することによって特徴づけられる(請求項1)。
【0013】
ここで、本発明においては、上記補正手段による補正後のX線投影データもしくは座標を用いた再構成演算と、その再構成演算により得られた断層像の順投影と当該再構成演算に用いたデータとのずれに基づく補正とを、繰り返し行う構成(請求項2)を採用することもできる。
【0014】
本発明は、X線発生装置とX線検出器の対とを相対回転させて収集したX線投影データを用いて、通常の装置と同様に再構成演算(逆投影)を行うことにより、対象物の断層像を一旦構築した後、得られた断層像を順投影したデータを作成し、逆投影前のX線投影データ(収集データ)と同じ投影方向のものどうしを比較する。順投影は逆投影の逆向きの演算であるため、X線投影データを収集する際に、X線発生装置とX線検出器の対と対象物との相対回転の軌跡があらかじめ設定された軌跡どおりであれば、X線投影データと順投影したデータとが一致するはずである。これらが相互にずれていれば、相対回転の軌跡はあらかじめ設定された軌跡から逸脱していることになる。
【0015】
そこで、同じ方向のX線投影データと順投影したデータどのずれを求め、そのずれに基づいて収集したX線投影データを補正するか、あるいは再構成演算に用いる座標を補正し、補正後のデータもしくは座標を用いた再構成演算により、対象物の断層像を改めて構築する。これにより、投影データの収集時に装置の機械的要因等により相対回転の軌跡が設定された軌跡から逸脱していても、像が2重になったり虚像の発生を抑制した断層像を得ることができる。
【0016】
ここで、順投影により得られたデータは、数値誤差等も含んでぼけた画像となるが、その誤差は、通常、均等に現れると考えられるので、本来あるべき位置を中心としてぼけた状態となっている。従って、この順投影データと収集データとができるだけ一致するように、収集データの位置のずれ(平行移動、回転、拡大、縮小など)を検出する。このような検出を、収集した全てのデータ(全ての投影角度のデータ)に対して行い、検出したずれに応じて収集した各データを補正し、その後、その補正後のデータ用いた再構成演算により再び断層像を構築することにより、データ収集時の相対回転の軌跡の逸脱に起因して像が2重になったり虚像が現れることを抑制することができる。
【0017】
ここで、上記のずれに基づく補正は、収集データの位置を補正してもよいし、あるいは再び行う再構成演算時の座標を補正しても同じ結果となる。
【0018】
また、請求項2に係る発明のように、再構成演算に用いたデータと、その再構成演算により得られた断層像を順投影したデータとのずれに基づく補正を行って、再び再構成演算を行う動作を、繰り返し行うことにより、ずれの補正の精度はより向上し、得られる断層像もより良好なものとなる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、試料を搭載して回転を与える回転テーブルの実際の回転中心、もしくはX線発生装置とX線検出器の対が、設定されている回転軸からずれて、収集したX線投影データの画像が本来あるべき画像に対してずれても、そのずれが補正されて断層像が構築されるため、得られる断層像が2重になったり虚像が生じるといった不具合をなくするか、あるいは少なくすることができる。
【0020】
このようなことから、X線検発生装置とX線検出器の対と対象物との相対回転機構に高価な機構を用いることなく、虚像等のないきれいな断層像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と制御装置の機能的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の動作の例を示すフローチャートである。
【図3】順投影により得られるデータと実際に収集した投影データとの、ラインプロファイルを用いた概念的な説明図である。
【図4】順投影により得られるデータと、本来あるべき投影データ、および実際に収集した投影データとを、ラインプロファイルを用いて概念的に説明する図である。
【図5】順投影により得られるデータと実際に収集した投影データとを、投影画像(2次元画像)を用いて概念的に示す図である。
【図6】順投影により得られたデータと実際に収集した投影データとのずれの求め方の例の説明図である。
【図7】本発明が適用可能な傾斜形CTの構成例を示す模式図である。
【図8】X線断層像撮影装置の撮影系の説明図で、(A)は回転テーブルを用いた撮影系の模式的構成図で、(B)は(A)の状態で得られるX線投影データの例を示す図であり、(C)は(B)の鉛直方向中央部におけるラインプロファイルを示す図である。
【図9】X線断層像撮影装置の撮影系の他の例を示すで、X線発生装置とX線検出器の対を対象物の回りに回転させる系の模式図である。
【図10】図8(C)に示したラインプロファイルの位置におけるサイノグラムの例を示す図である。
【図11】X線断層像撮影装置によりX線投影データから断層像を構築する再構成演算処理の説明図である。
【図12】再構成演算演算処理によって得られる断層像の例を示す図である。
【図13】X線発生装置の焦点およびX線検出器の、回転中心に対する軌道のずれの説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 X線発生装置
2 X線検出器
3 回転ステージ
11 X線コントローラ
12 軸制御部
13 画像データ取り込み回路
14 投影データ記憶部
15 再構成演算部
16 順投影演算部
17 ずれ演算部
18 補正演算部
19 補正後データ記憶部
20 表示器
21 システム制御部
22 操作部
W 対象物
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施の形態の構成図で、機械的構成を表す模式図と制御装置の主要な機能的構成を表すブロック図とを併記して示す図である。
【0024】
X線発生装置1はそのX線光軸を水平方向に向くように配置され、このX線発生装置1に水平方向に対向してX線検出器2が配置されている。X線発生装置1には、X線コントローラ11からの信号に応じた管電圧および管電流が供給され、X線焦点を頂点としたコーン状のX線ビームを発生する。また、X線検出器2は画素が2次元状に配列されてなる2次元X線検出器である。
【0025】
X線発生装置1とX線検出器2の間に、対象物Wを搭載するための回転テーブル3が配置されている。この回転テーブル3は、X線光軸に直交する鉛直方向に沿った回転軸Rを中心として回転する。また、この回転テーブル3は、少なくともX線光軸方向および鉛直方向に移動可能となっており、これらの各軸方向への移動並びに回転軸Rの回りの回転動作は、軸制御部12から供給される駆動制御信号によって制御される。
【0026】
対象物WのX線投影データの収集、つまりCT撮影に際しては、回転テーブル3上に対象物Wを搭載して回転を与え、X線を照射しつつ、回転テーブル3が所定の微小角度だけ回転するごとに、X線検出器2の各画素出力を取り込むことによって行われる。具体的には、各回転角度でのX線検出器の各画素出力は、その角度でのX線投影データとして画像データ取り込み回路13を介して投影データ記憶部14に記憶されていく。
【0027】
データ記憶部14に記憶された各角度におけるX線投影データは、再構成演算部15による再構成演算に供され、X線投影データの逆投影によって対象物Wの断層像、実質的には3次元像情報が構築される。この収集した投影データを用いた再構成演算による断層像は、順投影演算部16による順投影演算に供される。この順投影演算においては、CT撮影時における複数の投影方向と同じ方向への順投影演算が行われ、従って、この順投影によって収集したX線投影データと同じ数の順投影データが算出される。
【0028】
順投影演算部16により求められた各方向への順投影データは、ずれ演算部17に取り込まれ、このずれ演算部17では、後述するように、順投影されたデータと、投影データ記憶部14に記憶されている投影データとを、同じ投影方向のものどうしで比較し、両者のずれを算出する。
【0029】
ずれ演算部17で求められた投影角度のX線投影データの順投影データに対するずれは、補正演算部18に取り込まれる。補正演算部18では、投影データ記憶部14に記憶されている各投影角度のX線投影データについて、順投影データに対するずれが最も少なくなるように位置を補正する。この補正後の投影データは補正後データ記憶部19に記憶される。そして、前記した再構成演算部15は、この補正後データ記憶部19に記憶された補正後の投影データを用いて再び再構成演算を行って対象物Wの断層像を構築する。この補正されたデータを用いて構築された断層像が、対象物Wの断層像として表示器20に表示される。
【0030】
以上の画像データ取り込み回路13、投影データ記憶部14、再構成演算部15、順投影演算部16、ずれ演算部17、補正演算部18、補正後データ記憶部19および表示器20は、前記したX線コントローラ11、軸制御部12、画像データ取り込み回路13とともにシステム制御部21の制御下に置かれている。システム制御部21には、マウスやキーボード、ジョイスティック等からなる操作部22が接続されており、この操作部22の操作によって、回転ステージ3の位置決めを行ったり、各種指令を与えることができる。そして、これらは、実際にはコンピュータとその周辺機器を主体として構成され、インストールされているプログラムに従った機能を実現するのであるが、図1では説明の便宜上、その機能ごとのブロックによって表している。
【0031】
次に、以上の構成からなる本発明の実施の形態の動作の例について、図2に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
まず、回転テーブル3上に対象物Wを搭載して回転を与えながらX線発生装置1からのX線を照射し、所定の微小角度ごとにX線検出器2の出力を投影データとして投影データ記憶部13に記憶していく。360°分の投影データが揃った後、これらの投影データを用いた再構成演算により、対象物Wの断層像(3次元像情報)を構築する。
【0032】
次に、得られた断層像について、CT撮影時において投影データを収集した複数の方向とそれぞれ同じ向き、換言すれば投影データの再構成に際して逆投影する方向で、かつ、その逆の向き,に順投影し、順投影データを作成する。
【0033】
順投影により得られるデータは、基本的にはCT撮影により収集された各方向の投影データと同等のX線透視像となるが、図3にある断層箇所におけるラインプロファイルを用いて概念的に示すように、順投影は断層像CIをX線焦点1aからX線検出器2に向けて投影するものであり、この順投影で得られた画像は数値化誤差も含んでぼけた画像となり、ラインプロファイルで表すと図中P1のようになり、対象物にX線を照射して収集した投影データのラインプロファイルP2とは異なるものとなるが、そこに現れる誤差は均等であると考えられるので、本来あるべき位置を中心としてぼけているものと見なすことができる。従って、ある投影角度におけるX線投影データの収集時に、回転テーブル3の回転がX線発生装置1とX線検出器2の対に対して正しく設定された軌跡上にある場合には、図4に概念的に示すように、本来あるべき投影データとなっており、これをラインプロファイルで表すとP3のようになり、順投影データP1に対して位置ずれが生じないはずである。しかしながら、前記したように回転テーブル3の回転精度やその他の種々の要因により、実際に収集した投影データは設定されている回転軌跡からずれた位置での投影データP2となることが多い。これを投影画像の形(2次元画像)で表すと図5に概念的に示す通りとなる。この投影データの画像のずれは、断層像を同じ方向に順投影して得られる順投影データとの比較により、図6に示すように検知することができる。
【0034】
すなわち、投影データ記憶部14に記憶されている全ての投影データについて、該当する順投影データと比較し、ずれの方向と量を求める。この比較に際しては、順投影データは前記したようにぼけた画像となっているため、例えば画像の水平方向並びに鉛直方向への各ずれ量や、倍率、回転角度などをパラメータとして設定しておき、これらの各パラメータを少しずつ変化させながら、両データの相関関係を計算し、相関が最も高いパラメータδx,δy等を探す等の手順を採用することができる。
【0035】
以上のように各投影データごとに、対応する順投影データに対するずれを求めた後、そのずれに基づいて投影データの位置を補正したデータは、補正後データ記憶部19に記憶されていく。
【0036】
すべての投影データの補正が完了した後、再構成演算部15において補正後データ記憶部19のデータを用いた再構成演算が実行され、改めて対象物Wの断層像が構築される。このようにして得られた断層像は、撮影により収集した投影データを用いて得た最初の断層像に比して、投影データの位置ずれの補正が行われている分、より鮮明なものとなり、また、虚像等の発生も抑制することができる。
【0037】
ここで、以上のような補正により補正後データ記憶部19に記憶された投影データを用いて構築した断層像について、再び順投影を行い、その順投影データと補正後データ記憶部19内のデータとの比較により両者のずれを求め、そのずれに基づいて補正後データ記憶部19内のデータを再度補正する、という行為を更に1回もしくは複数回繰り返してもよく、その場合、最終的なデータを用いた再構成演算により得られる断層像は更に鮮明なものとなる。
【0038】
また、以上の実施の形態においては、順投影データとのずれにより投影データの位置を補正して再構成演算に供した例を示したが、ずれに基づく補正の仕方としては、収集した投影データをそのまま用いるとともに、逆投影による再構成演算時の座標を、ずれを考慮した補正を行ってもよい。
【0039】
更に、以上の実施の形態においては、X線発生装置1とX線検出器2の対を固定し、その間に回転テーブル3を配置して対象物Wを回転させる例を示したが、対象物Wを固定し、その回りをX線発生装置1とX線検出器2の対を回転させる装置構成についても、本発明を等しく適用することができる。
【0040】
更にまた、以上の実施の形態においては、回転軸Rに直交する方向にX線発生装置とX線検出器を配置した例を示したが、図7に示すように、X線発生装置1とX線検出器2を結ぶ線と、対象物を搭載する回転テーブル3の回転軸Rとが直交しない、いわゆる傾斜形CTと呼ばれる装置であっても、本発明を等しく適用することができる。なお、傾斜形CTにおいて、X線発生装置とX線検出器の対を対象物の回りに回転させる構造であってもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向配置されたX線発生装置およびX線検出器と、これらのX線発生装置とX線検出器との間に設けられ、対象物を配置するための試料ステージと、上記X線発生装置とX線検出器の対と上記試料ステージとを相対的に回転させる回転機構と、上記X線発生装置からのX線を照射しながら、上記回転機構を一定角度回転駆動するごとに上記X線検出器の出力を取り込むことにより、複数の投影方向からの対象物のX線投影データを順次記憶していく投影データ記憶手段と、その投影データ記憶手段に記憶された複数の方向からのX線投影データを用いた再構成演算により、対象物の断層像を構築する再構成演算手段を備えたX線断層像撮影装置において、
上記再構成演算手段により構築された断層像を、上記各X線投影データの投影方向と同じ方向に順投影した複数のデータを作成する順投影演算手段と、上記投影データ記憶手段に記憶されている各X線投影データと、上記順投影演算手段により順投影した各データとを、同じ投影方向のものどうしで比較し、X線投影データの順投影したデータに対するずれを求め、そのずれに基づいて上記投影データ記憶手段に記憶されているデータを補正するか、再構成演算に用いる座標を補正する補正手段を有し、上記再構成演算手段は、その補正後のX線投影データもしくは座標を用いて、改めて再構成演算を行って対象物の断層像を構築することを特徴とするX線断層像撮影装置。
【請求項2】
上記補正手段による補正後のX線投影データもしくは座標を用いた再構成演算と、その再構成演算により得られた断層像の順投影と当該再構成演算に用いたデータとのずれに基づく補正とを、繰り返し行うことを特徴とする請求項1に記載のX線断層像撮影装置。
【請求項1】
互いに対向配置されたX線発生装置およびX線検出器と、これらのX線発生装置とX線検出器との間に設けられ、対象物を配置するための試料ステージと、上記X線発生装置とX線検出器の対と上記試料ステージとを相対的に回転させる回転機構と、上記X線発生装置からのX線を照射しながら、上記回転機構を一定角度回転駆動するごとに上記X線検出器の出力を取り込むことにより、複数の投影方向からの対象物のX線投影データを順次記憶していく投影データ記憶手段と、その投影データ記憶手段に記憶された複数の方向からのX線投影データを用いた再構成演算により、対象物の断層像を構築する再構成演算手段を備えたX線断層像撮影装置において、
上記再構成演算手段により構築された断層像を、上記各X線投影データの投影方向と同じ方向に順投影した複数のデータを作成する順投影演算手段と、上記投影データ記憶手段に記憶されている各X線投影データと、上記順投影演算手段により順投影した各データとを、同じ投影方向のものどうしで比較し、X線投影データの順投影したデータに対するずれを求め、そのずれに基づいて上記投影データ記憶手段に記憶されているデータを補正するか、再構成演算に用いる座標を補正する補正手段を有し、上記再構成演算手段は、その補正後のX線投影データもしくは座標を用いて、改めて再構成演算を行って対象物の断層像を構築することを特徴とするX線断層像撮影装置。
【請求項2】
上記補正手段による補正後のX線投影データもしくは座標を用いた再構成演算と、その再構成演算により得られた断層像の順投影と当該再構成演算に用いたデータとのずれに基づく補正とを、繰り返し行うことを特徴とする請求項1に記載のX線断層像撮影装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図5】
【図10】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図13】
【図5】
【図10】
【図12】
【公開番号】特開2010−181153(P2010−181153A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22198(P2009−22198)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】
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