説明

X線検出システム

【課題】電子線を照射した試料からの特性X線を回折させてスペクトルを採取するX線検出システムにおいて、適切な集光を行うX線集光ミラーを備えることでエネルギー分布スペクトルの検出精度を維持する。
【解決手段】試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整するX線集光ミラー調整部と、前記X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、を備え、前記X線集光ミラー調整部は、前記X線集光ミラーの反射面において反射する前記特性X線のエネルギーに応じて反射可能な角度範囲で、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線検出システムに関し、特に、試料から放出される特性X線をミラーによって集光させて回折格子に導く構成のX線検出システムにおいて、X線のエネルギーに応じて適切な状態でミラーを使用可能なX線検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
試料に電子線などの荷電粒子線を照射すると、該試料から特性X線が発生する。この特性X線を検出器で検出し、試料の組成を計測する手法はエネルギー分散型X線分光と呼ばれている。この手法では、特性X線が試料を構成する元素の特有なエネルギーを持つことを利用している。単位時間当たりのX線発生個数をX線のエネルギー毎に計数して試料の元素組成等の情報を得ている。ここで、X線を検出する手段として、シリコンやゲルマニウム等の半導体結晶を用いた半導体検出素子を用いるのが一般的である。
【0003】
一方、試料に電子線などの荷電粒子線を照射して発生した特性X線を回折格子に入射すると、回折X線が分離される。この回折X線をX線用CCDイメージセンサで検出し、画像化する手法も存在している。
【0004】
この手法を実現する装置としては、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、を備えて構成されている。
【0005】
この種のX線検出システムについては、以下の特許文献1にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−329473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のようなX線検出システムでは、X線のエネルギーの違いに応じて複数の異なる回折格子を選択して使用することが可能に構成されたものがある。しかし、試料から回折格子にX線を導くX線集光ミラーについては、X線のエネルギーに応じて交換されることがない。
【0008】
ここで、X線のエネルギー、すなわち波長が異なると、反射の臨界角が異なったものになる。したがって、中程度のエネルギーのX線ではX線集光ミラーでの反射が可能であるものの、同じ角度であっても高エネルギーのX線では反射されないといった事態も発生する。すなわち、回折格子に応じて各種のエネルギーの検出が実行されるX線検出システムにおいて、常時理想的にX線を反射させるX線集光ミラーを実現することは困難である。この場合、X線集光ミラーの位置や角度がX線のエネルギーに合致していないと、集光効率が落ちることや、反射における収差が発生することで、エネルギー分布スペクトルの分解能が低下して検出精度が低下することがある。
【0009】
本発明は以上の課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、電子線を照射した試料からの特性X線を回折格子により回折させてイメージセンサでスペクトルを採取するX線検出システムにおいて、X線のエネルギーに応じて適切な集光を行うX線集光ミラーを備えることでエネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能なX線検出システムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、上記の課題を解決する本願発明は、以下のそれぞれに述べるようなものである。
【0011】
(1)この発明は、試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整するX線集光ミラー調整部と、前記X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、を備え、前記X線集光ミラー調整部は、前記X線集光ミラーの反射面において反射する前記特性X線のエネルギーにより定まる臨界角に応じて反射可能な角度範囲で、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、ことを特徴とするX線検出システムである。
【0012】
(2)また、上記(1)において、前記X線集光ミラー調整部は、前記特性X線のエネルギーが大きい場合には前記X線集光ミラーに対する前記特性X線の入射角が大きくなるよう調整し、前記特性X線のエネルギーが小さい場合には前記X線集光ミラーに対する前記特性X線の入射角が小さくなるよう調整する、ことを特徴とする。
【0013】
(3)また、上記(1)−(2)において、前記X線集光ミラー調整部は、前記回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向に、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、ことを特徴とする。
【0014】
(4)また、上記(1)−(3)において、前記イメージセンサで検出された前記回折X線を分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部を備え、前記X線集光ミラー調整部は、前記エネルギー分布スペクトルに含まれるいずれかのスペクトル成分の強度が大きくなるように、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、ことを特徴とする。
【0015】
(5)また、上記(1)−(4)において、前記イメージセンサで検出された前記回折X線を分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部を備え、前記X線集光ミラー調整部は、前記エネルギー分布スペクトルに含まれるいずれかのスペクトル成分において分解能低下あるいはピークレベル低下が検知された場合には、前記特性X線のエネルギーにより定まる臨界角に応じて反射可能な角度範囲を除外するように、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、ことを特徴とする。
【0016】
(6)また、上記(5)において、前記イメージセンサで検出された前記回折X線を分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部を備え、前記X線集光ミラー調整部は、前記低下が解消される範囲内で、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、ことを特徴とする。
【0017】
(7)また、上記(1)−(6)において、前記特性X線のエネルギーに応じて定まる異なる複数の回折格子が交換可能に構成されたX線検出システムであって、前記X線集光ミラー調整部は、異なる複数の各回折格子毎のそれぞれが対応する特性X線のエネルギーに応じて、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する際の調整値のデータを記憶しておき、使用される前記回折格子に応じて記憶された調整値を読み出して調整する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
これらの発明によると、以下のような効果を得ることができる。
【0019】
(1)この発明では、電子線が照射された試料から放出される特性X線をX線集光ミラーで集光させて回折格子に導き、回折格子で生じた回折X線をイメージセンサで検出してX線検出を実行しており、この際に、X線集光ミラー調整部によってX線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する。
【0020】
ここで、X線集光ミラー調整部は、X線集光ミラーの反射面において反射する前記特性X線のエネルギーにより定まる臨界角に応じて、反射可能な角度範囲で、X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する。
【0021】
このため、X線集光ミラー調整部によってX線集光ミラーの位置もしくは角度を調整することで、X線集光ミラーはX線のエネルギーに応じて適切な集光を行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0022】
(2)上記(1)において、X線集光ミラー調整部は、特性X線のエネルギーが大きい場合にはX線集光ミラーに対する特性X線の入射角が大きくなるよう調整し、特性X線のエネルギーが小さい場合にはX線集光ミラーに対する特性X線の入射角が小さくなるよう調整することにより、X線の各エネルギーにおいてX線集光ミラーが反射可能な角度になり、X線集光ミラーはX線のエネルギーに応じて適切な集光を行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0023】
(3)上記(1)−(2)において、X線集光ミラー調整部は、回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向に、X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整することにより、回折X線のイメージに影響を与えず、X線の各エネルギーにおいてX線集光ミラーが反射可能な角度になり、X線集光ミラーはX線のエネルギーに応じて適切な集光を行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0024】
(4)上記(1)−(3)において、エネルギー分布スペクトルに含まれるいずれかのスペクトル成分の強度が大きくなるように、X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整することにより、X線の各エネルギーにおいてX線集光ミラーが高効率で反射可能な角度になり、X線集光ミラーはX線のエネルギーに応じて適切な集光を行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0025】
(5)上記(1)−(4)において、エネルギー分布スペクトルに含まれるいずれかのスペクトル成分において分解能低下あるいはピークレベル低下が検知された場合には、特性X線のエネルギーにより定まる臨界角に応じて反射可能な角度範囲を除外するように、X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整することにより、測定に不要なエネルギー成分を積極的に除外することで、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0026】
(6)上記(5)において、エネルギー分布スペクトルに含まれるいずれかのスペクトル成分において分解能低下あるいはピークレベル低下が検知された場合には、特性X線のエネルギーにより定まる臨界角に応じて反射可能な角度範囲を除外するように、X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する場合に、低下が解消される範囲内で、X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整することにより、測定に不要なエネルギー成分を積極的かつ効率的に除外することで、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0027】
(7)上記(1)−(6)において、異なる複数の交換可能な各回折格子毎のそれぞれが対応する特性X線のエネルギーに応じて、X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する際の調整値のデータを記憶しておき、使用される回折格子に応じて記憶された調整値を読み出してX線集光ミラーの位置もしくは角度を調整することにより、回折格子の交換に伴うX線のエネルギーに対応して、X線集光ミラーはX線のエネルギーに応じて適切な集光を行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図2】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの構成を示す構成図である。
【図3】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図4】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図5】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【図6】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図7】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図8】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの特性を示す説明図である。
【図9】本発明の実施形態を適用したX線検出システムの主要部の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の画像形成装置を実施するための形態(実施形態)を詳細に説明する。
【0030】
〈第1実施形態〉
まず図1と図2を参照して第1実施形態のX線検出システムの構成を説明する。
【0031】
なお、この図1においては、鏡筒や架台などの各部を保持するための既知の基本的部材、真空を保持する機構部分などについては省略し、実施形態の特徴部分の配置を中心に示した斜視図の状態でX線検出システムを示している。また、図2では、ブロック図に近い状態でX線検出システムを示している。
【0032】
電子線照射部10は、走査電子顕微鏡の鏡筒部分に設けられ、試料20に対して電子線を照射する。
【0033】
X線集光ミラー部30は、試料20から放出される特性X線を、2枚のミラー34aと34bとで集光させて回折格子50に導く。ここで、X線集光ミラー部30で集光させることにより、回折格子50に入射する特性X線の強度を増加させて、測定時間の短縮、スペクトルのS/N比を向上させることができる。
【0034】
X線集光ミラー部30は、2枚のミラー34aと34bとを向き合わせて1組としている。そして、それぞれのミラー34aと34bの向き合う面は、図2の紙面垂直方向(Z方向)に平坦である。そして、ミラーの間隔は、試料側(入射側)が狭く、回折格子側(出射側)が広くなる平面もしくは折り曲げ平面または曲面で構成されている。
【0035】
これにより、X線集光ミラー部30無しの場合と比べると、回折格子50に入射する特性X線の強度を増加させ、これにより測定時間の短縮、スペクトルのS/N比を向上させることができる。
【0036】
なお、ここでは、説明のため、ミラー34aと34bとがむき出しの状態になっているが、これに限定されず、ミラー34aと34bとを一体保持するミラー外部筐体のような筒状の構造体が存在していてもよい。
【0037】
また、X線集光ミラー部30は、X線検出システムにおいて位置が固定された固定部31上において、後述するX線集光ミラー調整部材42(調整部材42a、42b、42c、42d)によって角度もしくは位置が調整されうる状態で構成されている。なお、固定部31は、X線集光ミラー部30として備えていてもよいが、X線検出システムのシャーシなどをそのまま使用してもよい。
【0038】
X線集光ミラー調整制御部41は、後述する分析部での分析結果に基づいてX線集光ミラー調整部材42(調整部材42a、42b、42c、42d)によりX線集光ミラー34a,34bの角度もしくは位置を調整する。なお、X線集光ミラー調整制御部41と、X線集光ミラー調整部材42(調整部材42a、42b、42c、42d)とで、X線集光ミラー調整部40を構成している。
【0039】
ここで、X線集光ミラー調整部材42は、X線集光ミラー34aの端部を支えつつX方向(回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向)に調整する調整部材42aと調整部材42bとを備え、さらに、X線集光ミラー34bの端部を支えつつX方向(回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向)に調整する調整部材42cと調整部材42dとを備えて、構成されている。
【0040】
ここで、調整部材42aと42c、42bと42dとについては、ピエゾ素子、リニアモータ、アクチュエータ、ビスなどの各種の能動的調整部材を用いることができる。また、調整部材42a〜42dとしてのビスを、マイクロメーターとすることで、変位量を確認しつつ調整することが可能になる。
【0041】
回折格子50は、X線集光ミラー部30により集光された特性X線を受けて、エネルギーに応じて回折状態が異なる回折X線を生じさせる。この回折格子50は、収差補正のために不等間隔の溝が形成されており、このような不等間隔回折格子は、大きな入射角(回折格子面(図1のY軸)に平行に近い角度)で入射させたとき、回折光の焦点をローランド円上ではなく、光線にほぼ垂直な平面(イメージセンサ70の受光面:図1のXZ平面))上に作るように設計される。
【0042】
イメージセンサ70は、回折X線を検出するため、軟X線に感度を有するX線用のCCDカメラあるいはX線用のCMOSカメラである。望ましくは、背面照射型のX線用CCDカメラで構成されている。このイメージセンサ70は、その受光面が回折X線の結像面に一致するように位置調整がなされる。
【0043】
分析部80は、イメージセンサ70で検出された回折X線を分析して、ある値のエネルギーのX線が何個検出されたかを意味するエネルギー分布スペクトルを生成する波形分析装置である。
【0044】
表示部90は分析部80での分析結果であるエネルギー分布スペクトルやその他の各種情報を視覚的に表示するディスプレイである。
【0045】
なお、分析部80と表示部90とは、コンピュータ装置及びエネルギー分布スペクトルを算出するコンピュータプログラムとで構成することも可能である。
【0046】
なお、以上の試料20、X線集光ミラー部30、回折格子50、およびイメージセンサ70は、図示されていないが、真空ポンプで排気された分光器室に設けられ、ゲートバルブを介して走査型電子顕微鏡の鏡筒に取り付けられているものとする。また、調整部材42a、42c、42b、42dについては、真空ポンプで排気された分光器室に設けられいてもよいし、ロッドなどの操作部材を介して分光器室の外から調整することも可能である。
【0047】
また、このX線検出システムにおける回折格子50およびその周辺の構成の詳細については、本件出願人が別途特許出願した特開2002−329473号公報に記載されている。また、イメージセンサ70で得られた回折X線の処理システムについては、既知のものを使用することができるため、詳細な説明を省略する。
【0048】
図3はX線集光ミラー34aと34bとが直線状に構成された場合を示している。
【0049】
図3(a)はミラー34aと34bとがX線集光ミラー調整制御部41により制御される調整部材42a〜42dによって位置もしくは角度が調整されるX線集光ミラー34aと34bが初期状態あるいは中立状態にある場合の具体例を示している。ここでは、X線検出システムにおいて検出されるX線が、後述する場合と比較して中間的なエネルギーであるとする。
【0050】
なお、ここでは、試料20からX線集光ミラー34aと34bとで反射されるX線の軌跡の一例を示しており、ここに示されない多数の反射光や、直接光が回折格子50に入射しうる。
【0051】
ここで、X線検出システムにおいて検出されるX線が図3(a)のときよりも高エネルギーとなった場合、この高エネルギーのX線を分析する分析部80は、高エネルギー処理中であることをX線集光ミラー調整制御部41に通知する。
【0052】
この高エネルギー処理の通知を受けたX線集光ミラー調整制御部41は、調整部材42aと42cとを伸長し、調整部材42bと42dとを圧縮するような制御を行う。これにより、X線集光ミラー34aと34bとは、試料20側の間隔が狭くなり、回折格子50側の間隔が広くなる。この状態を、図3(b)に示す。なお、図3(b)において、比較のために、図3(a)におけるX線集光ミラー34aと34bの位置を細破線で示している。この図3(b)の場合は、X線集光ミラー34aと34bとで、図3(a)と同じ位置で反射されるX線の入射角が大きくなり、高エネルギーのX線の反射に対応可能になる。
【0053】
すなわち、X線が高エネルギーになるにつれて反射可能な臨界角は大きくなるため、図3(a)のままであると高エネルギーのX線は反射されなくなるが、図3(b)のように入射角を大きくすると高エネルギーのX線が反射されるようになる。
【0054】
なお、入射角とは、反射面に入射するとき、入射する方向と、その点における反射面の法線とのなす角を意味する。また、臨界角とは、その入射角を超えると全反射する最小の入射角のことである。
【0055】
なお、X線集光ミラー34aと34bの入射側を狭めているため、集光効率が若干低下することになるので、X線のエネルギーの度合いに応じて調整する角度を決定することが望ましい。
【0056】
一方、X線検出システムにおいて検出されるX線が図3(a)のときよりも低エネルギーとなった場合、この低エネルギーのX線を分析する分析部80は、低エネルギー処理中であることをX線集光ミラー調整制御部41に通知する。
【0057】
この低エネルギー処理の通知を受けたX線集光ミラー調整制御部41は、調整部材42aと42cとを圧縮し、調整部材42bと42dとを伸長するような制御を行う。これにより、X線集光ミラー34aと34bとは、試料20側の間隔が広くなり、回折格子50側の間隔が狭くなる。この状態を、図3(c)に示す。なお、図3(c)において、比較のために、図3(a)におけるX線集光ミラー34aと34bの位置を細破線で示している。この図3(c)の場合は、X線集光ミラー34aと34bとで、図3(a)と同じ位置で反射されるX線の入射角が小さくなり、低エネルギーのX線の反射に適した状態になる。
【0058】
すなわち、X線が低エネルギーになるにつれて反射可能な臨界角は小さくなる。この場合には、図3(a)や図3(b)のままでも低エネルギーのX線は反射されうるが、図3(c)のように入射側を広げることで集光効率が向上し、また、処理対象でない高エネルギーのX線は反射されないという利点が生じる。
【0059】
なお、X線集光ミラー34aと34bの位置や角度を調整することで、図3(a)の当初の角度から変化してしまうため、X線集光ミラー34aと34bによる収差が大きくなり、エネルギー分布スペクトルの分解能が低下する可能性があるため、X線のエネルギーの違いや分解能の要求に応じて、分析部80とX線集光ミラー調整制御部41が必要な調整を行う。
【0060】
以上のように、X線集光ミラー調整部40は、特性X線のエネルギーが大きい場合にはX線集光ミラー34aと34bに対する特性X線の入射角が大きくなるよう調整し、特性X線のエネルギーが小さい場合にはX線集光ミラーに対する特性X線の入射角が小さくなるよう調整することにより、X線の各エネルギーにおいてX線集光ミラーが反射可能な角度になり、X線集光ミラーはX線のエネルギーに応じて適切な集光を行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0061】
また、X線集光ミラー調整部40は、回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向に、X線集光ミラー34aと34bの位置もしくは角度を調整することにより、回折X線のイメージに影響を与えず、X線の各エネルギーにおいてX線集光ミラーが反射可能な角度になり、X線集光ミラーはX線のエネルギーに応じて適切な集光を行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0062】
〈第2実施形態〉
なお、図3はX線集光ミラー34aと34bとが直線状に構成された場合を示したが、集光効率を上げるため、図4に示すように、双曲線、楕円、あるいは双曲線と楕円との組合せの曲面からなる反射面を有するように構成することも可能である。ただし、使用するX線のエネルギーに応じて、最適となる曲面の曲率が変化するため、中間のエネルギーのX線に合わせて曲面の曲率を定めたうえで、図3(a)(b)(c)に示したように、X線集光ミラー34aと34bの位置もしくは角度を調整することが望ましい。
【0063】
〈第3実施形態〉
なお、図4はX線集光ミラー34aと34bとが曲面で構成された場合を示したが、X線のエネルギーに応じた曲面を近似して実現するため、図5に示すように、一方の側のX線集光ミラー34aをX線集光ミラー34a1と34a2の2枚で構成し、他方の側のX線集光ミラー34bをX線集光ミラー34b1と34b2の2枚で構成することが可能である。
【0064】
そして、X線集光ミラー34a1を調整する調整部材42a1と42a2、X線集光ミラー34a2を調整する調整部材42b1と42b2、X線集光ミラー34b1を調整する調整部材42c1と42c2、X線集光ミラー34b2を調整する調整部材42d1と42d2、を設けて、X線集光ミラー調整制御部41から制御を行う。
【0065】
この場合、X線集光ミラー調整制御部41は、調整部材42a1,42a2,42c1,42c2に指示を与えて、特性X線のエネルギーが大きい場合にはX線集光ミラー34a1と34b1に対する特性X線の入射角が大きくなるよう調整し、特性X線のエネルギーが小さい場合にはX線集光ミラーに対する特性X線の入射角が小さくなるよう調整する。
【0066】
また、X線集光ミラー調整制御部41は、調整部材42b1については、調整部材42a2と連動させて、X線集光ミラー34a1と34a2の近接端部が一致するように調整すると共に、調整部材42d1については、調整部材42c2と連動させて、X線集光ミラー34b1と34b2の近接端部が一致するように調整する。
【0067】
そして、X線集光ミラー調整制御部41は、調整部材42b2,42d2に指示を与えて、特性X線のエネルギーに応じて上述した分解能の低下を抑制できるように調整する。
【0068】
以上のようにすることで、X線の各エネルギーにおいてX線集光ミラー34a1、34a2、34b1、34b2が反射可能な角度になり、かつ、各X線集光ミラーはX線のエネルギーに応じて適切な集光を行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。すなわち、X線のエネルギーに対応した反射時の入射角の制御(図3)、使用するX線のエネルギーに応じた最適曲面の近似とを実現することが可能になる。
【0069】
以上の図5では、X線集光ミラー34aと34bとをそれぞれ2枚に分割した具体例を示したが、これより多く分割した場合であっても、同様にX線集光ミラー調整部40によって、各X線集光ミラーはX線のエネルギーに応じて適切な集光を行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0070】
また、X線集光ミラー34aと34bとをそれぞれ柔軟性のある薄板で構成するとともに、調整部材を多数配置して、入射側を双曲線関数、出射側を放物線関数制御として、使用するX線のエネルギーに応じて最適となる形状に制御することも可能である。この場合には、部品点数が増加するが、所望の反射面形状に制御することが可能になる。
【0071】
〈第4実施形態〉
ところで、イメージセンサ70の受光面における回折X線像が図6(a)のように結像しているとする。この状態での分析部80での分析結果であるエネルギー分布スペクトルは、図6(c)のように表示されているとする。
【0072】
ここで、図3(b)のような制御によってX線集光ミラー34aと34bの片端を狭め過ぎて集光効率が低下すると、図6(b)のように、イメージセンサ70の受光面における回折X線像の一部がX方向の端部で消失することがある。この状態での分析部80での分析結果であるエネルギー分布スペクトルは、図6(d)のようになり、図6(c)よりもピークのレベルが低下する。
【0073】
したがって、X線集光ミラー調整部40で調整量を変化させたときに、分析部80では、エネルギー分布スペクトルのピーク値の変化を監視することで、集光効率低下を発見することが可能である。なお、分析部80では、イメージセンサ70の受光面における回折X線像を画像処理して、回折X線像に消失部分が発生しているかを画像認識することも可能である。よって、分析部80とX線集光ミラー調整部40とは連携しつつ、集光効率が低下しない範囲、あるいは最低限の集光効率の低下で、上述したX線のエネルギーに対応した反射時の入射角の制御を行うことが望ましい。
【0074】
一方、図3(c)のような制御によってX線集光ミラー34aと34bの入射側を広げることや、出射側を狭めすぎることで過剰に集光された場合、図6(e)のように、イメージセンサ70の受光面において、X方向の中心部付近でZ方向の濃い帯(かぶり)の領域が発生することがある。この場合には、イメージセンサ70で受光したイメージにおいて全体としてSN比が低下した状態になるため、エネルギー分布スペクトルの分解能が低下することがある。
【0075】
したがって、X線集光ミラー調整部40で調整量を変化させたときに、分析部80では、イメージセンサ70の受光面における回折X線像を画像処理して、回折X線像に消失部分が発生しているかを画像認識することも可能である。よって、分析部80とX線集光ミラー調整部40とは連携しつつ、Z方向の濃い帯が発生しないしない範囲で、上述したX線のエネルギーに対応した反射時の入射角の制御を行うことが望ましい。
【0076】
さらに、X線集光ミラー34aと34bの位置や角度を調整することで、図3(a)の当初の角度から大きく変化した場合には、X線集光ミラー34aと34bによる収差が大きくなる場合がある。このようなX線集光ミラー34aと34bとによる収差が大きくなると、回折X線像において、本来であれば図7(a)のようにX方向に直線的なフェルミエッジが、図7(b)のように歪んだ状態のフェルミエッジとなる。このような歪んだ状態のフェルミエッジにより、エネルギー分布スペクトルのピーク分解能が低下する。
【0077】
したがって、X線集光ミラー調整部40で調整量を変化させたときに、分析部80では、エネルギー分布スペクトルのエッジ部分の立ち上がりの鋭さ(図7(c)(d)の垂直方向の傾き)を監視することで、収差が発生しているかを発見することが可能である。なお、分析部80では、イメージセンサ70の受光面における回折X線像を画像処理して、回折X線像におけるエッジのX方向とY方向との画像成分の比率について画像認識することも可能である。よって、分析部80とX線集光ミラー調整部40とは連携しつつ、フェルミエッジが歪まない範囲で、あるいは、フェルミエッジの歪みが許容できる範囲内で、上述したX線のエネルギーに対応した反射時の入射角の制御を行うことが望ましい。
【0078】
〈第5実施形態〉
なお、以上のようにしてX線集光ミラー34aと34bの位置や角度を調整することで、各種収差が発生したり、あるいは、CL(カソードルミネッセンス)光のような妨害光が反射されて回折格子50に到達してしまうことがある。その結果、以上のようなX線集光ミラー34aと34bの位置や角度を調整することによって、収差や妨害光の影響が大きく現れてしまい、エネルギー分布スペクトルの分解能が悪化することもありうる。そのような場合には、X線集光ミラー34aと34bの位置や角度を調整して、収差を発生させない、あるいは、妨害光を反射させないように、分析部80とX線集光ミラー調整制御部41が調整することが望ましい。
【0079】
たとえば、図8(a)のように、試料20からの特性X線の広がりと平行な向きにX線集光ミラー34aと34bを調整することで、特性X線や妨害光が反射されることがなくなる。
【0080】
あるいは、図8(b)のように、特性X線のX線集光ミラー34aと34bに対する入射角が臨界角以上になるように向きを調整することで、特性X線や妨害光は反射されなくなる。また、X線集光ミラー34aと34bの端部付近で一部反射される特性X線や妨害光が存在しても、回折格子50に向かわないような向きにX線集光ミラー34aと34bを調整する。
【0081】
また、これら図8(a)(b)のような極端な向きに調整しなくても、図3の向きから図8の向きに調整しつつ、収差や妨害光の影響による分解能の低下が問題なくなる位置や角度になるように、分析部80とX線集光ミラー調整制御部41が調整することが望ましい。
【0082】
〈第6実施形態〉
また、以上の構成において、エネルギー値、試料20の材質、特性X線のエネルギーなどに応じて、異なる複数の回折格子を交換可能にしたX線検出システムが存在する。図9の場合には、分析部80からの指示で回転する回転台51上の複数の異なる回折格子50aと50bとが、選択的に使用される。
【0083】
この場合には、分析部80は、異なる複数の各回折格子50a/50b毎のそれぞれが対応する特性X線のエネルギーに応じて、X線集光ミラー34aと34bの位置もしくは角度を調整する際の調整値のデータを記憶しておき、使用する回折格子50a/50bに応じて、記憶された調整値を読み出して、X線集光ミラー調整制御部41に調整値を通知する。これにより、回折格子50a/50bに応じたX線のエネルギーに対応してX線集光ミラー34aと34bの位置や角度が自動的に調整されるようになる。以上の回折格子50a/50bに応じた自動的な調整を粗調整として、その後に図3〜図8で説明した調整を微調整として実行することで、各X線集光ミラーはX線のエネルギーの広い範囲に応じて適切な集光を迅速に行うことができ、エネルギー分布スペクトルの検出精度を維持することが可能になる。
【0084】
なお、この図9の場合には、回折格子50の種類に応じて、CL光などの発生が予測される場合には、図8のような反射をさせない角度を予め記憶させておいてもよい。こうすることで、失敗のない測定が可能になる。
【符号の説明】
【0085】
10 電子線照射部
20 試料
30 X線集光ミラー部
40 X線集光ミラー調整部
50 回折格子
70 イメージセンサ
80 分析部
90 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して電子線を照射する電子線照射部と、
電子線が照射された前記試料から放出される特性X線を集光させて回折格子に導くX線集光ミラーと、
前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整するX線集光ミラー調整部と、
前記X線集光ミラーにより集光された特性X線を受けて回折X線を生じさせる回折格子と、
前記回折格子で生じた回折X線を検出するイメージセンサと、
を備え、
前記X線集光ミラー調整部は、前記X線集光ミラーの反射面において反射する前記特性X線のエネルギーに応じて反射可能な角度範囲で、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、
ことを特徴とするX線検出システム。
【請求項2】
前記X線集光ミラー調整部は、前記特性X線のエネルギーが大きい場合には前記X線集光ミラーに対する前記特性X線の入射角が大きくなるよう調整し、前記特性X線のエネルギーが小さい場合には前記X線集光ミラーに対する前記特性X線の入射角が小さくなるよう調整する、
ことを特徴とする請求項1記載のX線検出システム。
【請求項3】
前記X線集光ミラー調整部は、前記回折X線のイメージのエネルギー分散方向と直交する方向に、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、
ことを特徴とする請求項1−2に記載のX線検出システム。
【請求項4】
前記イメージセンサで検出された前記回折X線を分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部を備え、
前記X線集光ミラー調整部は、前記エネルギー分布スペクトルに含まれるいずれかのスペクトル成分の強度が大きくなるように、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、
ことを特徴とする請求項1−3のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【請求項5】
前記イメージセンサで検出された前記回折X線を分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部を備え、
前記X線集光ミラー調整部は、前記エネルギー分布スペクトルに含まれるいずれかのスペクトル成分において分解能低下あるいはピークレベル低下が検知された場合には、前記特性X線のエネルギーにより定まる臨界角に応じて反射可能な角度範囲を除外するように、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、
ことを特徴とする請求項1−4のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【請求項6】
前記イメージセンサで検出された前記回折X線を分析してエネルギー分布スペクトルを生成する分析部を備え、
前記X線集光ミラー調整部は、前記低下が解消される範囲内で、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する、
ことを特徴とする請求項5のいずれか一項に記載のX線検出システム。
【請求項7】
前記特性X線のエネルギーに応じて定まる異なる複数の回折格子が交換可能に構成されたX線検出システムであって、
前記X線集光ミラー調整部は、異なる複数の各回折格子毎のそれぞれが対応する特性X線のエネルギーに応じて、前記X線集光ミラーの位置もしくは角度を調整する際の調整値のデータを記憶しておき、使用される前記回折格子に応じて記憶された調整値を読み出して調整する、
ことを特徴とする請求項1−6のいずれか一項に記載のX線検出システム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−58148(P2012−58148A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203410(P2010−203410)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度 独立行政法人科学技術振興機構 産学共同シーズイノベーション化事業
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】