説明

X線検査装置とX線検査方法

【課題】 安価かつ少数のX線発生装置とX線検出器を用いて、被検査物の材質を識別することができ、これにより装置を小型かつ安価にできるX線検査装置とX線検査方法を提供する。
【解決手段】 所定の最大出力Imaxと最小出力Iminとの間で、一定の時間周期Tで出力が変動するX線3を連続して発生するX線発生装置12と、このX線を被検査物1に照射するX線照射装置14と、被検査物を透過したX線の強度を検出するX線検出器16と、X線発生装置とX線検出器を制御する制御装置18とを備える。制御装置18により、X線発生装置12で発生するX線出力の高出力時と低出力時に、X線検出器16で検出する高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iを検出し、これから被検査物の材質を識別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物の材質識別機能を有するX線検査装置とX線検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
税関や空港における手荷物検査等において、X線を被検査物に照射し、透過したX線の強度分布を画像化して内部の危険物(銃器等)を検出するX線検査装置が従来から広く用いられている。
また、近年、銃器等の金属類だけでなく、爆発物や毒物等の危険物も識別できるX線検査装置も知られている(例えば非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1のX線検査装置は、例えば75kVpと150kVpの2種のパルスX線を用い、各X線エネルギーの減弱係数の相違から、被検査物中の有機物、非有機物、及び金属類を識別するものである。
【0004】
X線は波長が約0.01〜100Å(10-12〜10-m)程度の電磁波であり、このうち波長の短いX線(λ=0.01〜1Å)を硬X線、波長の長いX線(λ=1〜100Å)を軟X線という。
【0005】
またX線の発生源としては、X線管が広く知られている。X線管は、真空中でフィラメントを加熱して得られる熱電子を高電圧で加速して金属陽極(ターゲット)に衝突させて、X線を発生させる装置である。
【0006】
一方、X線の強度や画像を検出するX線検出器は、気体の電離作用を利用した比例計数管、固体の蛍光作用を利用したシンチレーション計数管、固体半導体のイオン化作用を利用した半導体検出器、等が従来から知られている。
【0007】
また、関連する先行技術として、例えば特許文献1〜3が既に開示されている。
【0008】
【非特許文献1】L−3 Communications Security and Detection Systems, Automated Screening Systems、インターネット<URL:http://www.dsxray.com/ProductCategoryDetails.asp?CatID=7>
【0009】
【特許文献1】特開平10−104175号公報、「材質特定X線検査装置」
【特許文献2】特開2003−279503号公報、「X線検査装置」
【特許文献3】特開平8−201316号公報、「X線元素分析装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
有機物、非有機物、及び金属類を識別する場合、従来は、非特許文献1に開示されているように、例えば2種のパルスX線を用いる必要がある。また、手荷物等の全面を高精度に検査するためには、2種のパルスX線を交互に短時間に切り替える必要がある。そのため、このようなパルスX線の発生装置は、大型かつ高価となる問題点があった。
【0011】
また、この問題を解決するために、特許文献1のように、X線発生装置とX線検出器を2組用い、一方のX線管で高出力のX線を照射し、次いで他方のX線管で低出力のX線を照射し、それぞれのX線画像の強度分布から、被検査物の材質を識別することもできる。
しかし、この手段の場合、2枚のX線画像の撮像は、時間と場所が異なるため、その位置を正確に一致させるのが困難である問題点がある。また、この手段では、2組のX線発生装置とX線検出器を必要とするため、依然として高価となる。
【0012】
また、特許文献2のように、単一のX線発生装置で波長領域の広いX線を照射し、被検査物を透過したX線を、間にフィルタを挟持した2枚のX線検出器で検出し、それぞれのX線画像の強度分布から、被検査物の材質を識別することもできる。
この手段の場合、2枚のX線画像の撮像は、時間と場所が同一であるため、その位置は一致している。しかし、この手段では、X線発生装置は1台ですむが、X線検出器は2台必要であり、さらに間にX線の特定の波長をカットする特殊なフィルタを必要とする問題点がある。
【0013】
さらに、特許文献3では、単一のX線発生装置と単一のX線検出器を用い、X線画像処理装置で被検査対象物の元素分析を行うものであるが、画像処理による元素分析が複雑である問題点がある。
【0014】
税関や空港における手荷物検査等において、手荷物等の全面を高精度に検査するためには、被検査物を透過したX線を検出するX線検出器は、非常に小さいピッチ(例えば1〜2mm程度)で直線状に並んだ多数の検出セル(または検出チャンネル)を有する必要がある。そのため、このような多チャンネルのX線検出器は高価であり、その必要数をできるだけ少なく(好ましくは1台のみに)できることが望まれていた。
【0015】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、安価かつ少数のX線発生装置とX線検出器を用いて、簡易に被検査物の材質を識別することができ、これにより装置を小型かつ安価にできるX線検査装置とX線検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、所定の最大出力と最小出力との間で、一定の時間周期Tで出力が変動するX線を連続して発生するX線発生装置と、
前記X線を被検査物に照射するX線照射装置と、
前記被検査物を透過したX線の強度を検出するX線検出器と、
前記X線発生装置とX線検出器を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、X線発生装置で発生するX線出力の高出力時と低出力時に、前記X線検出器で検出する高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから前記被検査物の材質を識別する、ことを特徴とするX線検査装置が提供される。
【0017】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記X線発生装置は、熱電子を印加電圧で加速して陽極に衝突させてX線を発生するX線管と、
一定の時間周期Tで変動する前記印加電圧を発生する変動電圧装置とを有する。
【0018】
前記X線発生装置の出力変動は、正弦波状又は矩形波状である。
【0019】
前記X線照射装置は、被検査物にX線を線状に照射する線状照射装置であり、
前記X線検出器は、被検査物を透過した線状X線の強度を検出する線状検出器である、ことが好ましい。
【0020】
また、前記線状検出器は、隣接して線状に配置された複数のシンチレータと、各シンチレータのX線による発光をそれぞれ検出する複数のフォトダイオードと、各フォトダイオードの電流出力をそれぞれ電圧信号に変換しかつ増幅する複数の電流電圧変換アンプと、変換した電圧信号をそれぞれデジタル信号に変換する複数のA/D変換器とを有する、ことが好ましい。
【0021】
前記制御装置は、検出した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから前記被検査物の材質を、等価原子番号で区分し、その結果を出力する。
【0022】
前記制御装置は、被検査物を透過したX線強度を画像表示する表示装置を備え、前記等価原子番号の区分を色付けして画像上に表示する、ことが好ましい。
【0023】
また本発明によれば、所定の最大出力と最小出力との間で、一定の時間周期Tで出力が変動するX線を連続して発生するX線発生工程と、
前記X線を被検査物に照射するX線照射工程と、
前記X線出力の高出力時と低出力時に、被検査物を透過した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iを検出するX線検出工程と、
前記高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから被検査物の材質を識別する材質識別工程とを有し、前記各工程をリアルタイム処理する、、ことを特徴とするX線検査方法が提供される。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によれば、X線発生工程において、正弦波状にX線管電圧を変化させ、
X線検出工程において、正弦波の1周期中に高エネルギー2点、低エネルギー2点のデータ採取を行う
【発明の効果】
【0025】
上記本発明の装置および方法によれば、X線発生装置で、所定の最大出力と最小出力との間で、一定の時間周期Tで出力が変動するX線を連続して発生し、このX線出力の高出力時と低出力時に、被検査物を透過した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iを検出するので、単一のX線発生装置と単一のX線検出器を用いて、高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iから被検査物の材質を識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0027】
はじめに本発明の原理について説明する。
図1は、X線発生装置の一種であるX線管の模式図である。この図に示すように、真空中でフィラメントを加熱して得られる熱電子を高い電圧で加速して陽極(target)に衝突させるとX線が発生する。
X線管から発生するX線は、電子の制動放射による連続X線と、輝線スペクトルである特性X線とからなる。特性X線は、特定の波長のX線を必要とする用途に用いられる。
連続X線用の陽極材料としては、原子番号が大きく融点の高いタングステンが適している。
【0028】
図2は、陽極がタングステンである連続X線の強度分布である。この図において、横軸は波長、縦軸はX線強度、図中の数字はX線管の印加電圧である。この図からわかるように、X線管の印加電圧が高いほど波長の短いX線が発生し、X線管の印加電圧が低いほど波長の長いX線が発生する。
【0029】
X線の波長は、約0.01〜100Å(10-12〜10-8m)程度であり、波長λ[Å]と光量子エネルギーE[keV]との間には、式(1)の関係がある。
E=12.4/λ・・・(1)
従って、波長λ[Å]と光量子エネルギーE[keV]は1対1で対応している。また、この光量子エネルギーE[keV]は、X線管の印加電圧にほぼ比例する。
【0030】
またX線がある物質中をxの距離透過する際の、X線強度Iは、式(2)で表される。
I=Iexp(−μx)・・・(2)
ここで、Iは物質に入射する前のX線強度、μは減弱係数(又は線吸収係数)である。
減弱係数は、一般的に物質と波長により異なることが知られている。例えば、同一の物質の場合、波長が長くなるほど減弱係数は増大するため透過しにくくなり、逆に波長が短くなるほど減弱係数は減少し透過しやすくなる。
【0031】
密度をρとすると、式(2)は式(3)のように書き換えることができる。
I=Iexp(−μ/ρ)(ρx)・・・(3)
このμ/ρは、物質固有の値をもち、X線の波長が短いと小さく、X線の波長が長いと大きい値となるが、連続した変化ではなく途中で不連続な吸収端を一般に有する。
【0032】
しかし、各吸収端の中間では近似的に式(4)が成り立つ。
μ/ρ=k×λ×Z・・・(4)
ここでkは定数、Zは実効原子番号である。この式から一定の波長に対しては吸収端を無視すれば一般に重元素になるほど減弱係数は増加し、X線は通りにくくなることがわかる。
【0033】
図3は、本発明のX線検査装置の原理図である。この図において、ある被写体に異なる波長λ,λの2種のX線を透過させ、通過後の各X線強度I,Iを計測する場合を想定する。
この場合、入射X線強度I10,I20が既知であれば、式(2)からμ、μが決まり、上記(4)を満たす次式(4a)(4b)が得られる。
μ/ρ=k×λ×Z・・・(4a)
μ/ρ=k×λ×Z・・・(4b)
式(4a)(4b)における未知数は物質のρとZのみであり、この2式を解くことにより物質のρとZを求めることができる。
【0034】
言い換えれば、X線による透過X線の検出出力レベルは、対象物の厚みに対して、X線のエネルギー別および対象物の元素別に所定の特性を有しており、同一元素で同一厚みの対象物に対する検出出力レベルは照射したX線のエネルギーによって異なり、高エネルギーX線を照射した場合の検出出力レベルはLhとなり、低エネルギーX線を照射した場合の検出出力レベルはLl(<Lh)となる。
そして、この特性は元素毎に異なり、検出出力レベルに対応する厚みを求めると、同一の元素のときのみ、異なるエネルギーX線について同一の厚みが得られる。
従って、対象物を透過した検出出力レベル(Lh,Ll)に対応する厚みが等しくなる元素を求めることによって、対象物の元素を求めることができ、被測定物中に含まれる対象物の材質を求めることができる。
【0035】
図4は、本発明のX線検査装置の実施形態を示す全体構成図である。この図において、本発明のX線検査装置10は、X線発生装置12、X線照射装置14、X線検出器16、及び制御装置18を備える。なお、この図において、1は被検査物、2は被検査物を水平に搬送する搬送コンベアである。
【0036】
X線発生装置12は、所定の最大出力Imaxと最小出力Iminとの間で、一定の時間周期Tで出力が変動するX線3を連続して発生する。X線3の出力変動は、正弦波状又は矩形波状であることが好ましい。
X線発生装置12は、この例では、X線管12aと変動電圧装置12bからなる。X線管12aは、熱電子を印加電圧で加速して陽極に衝突させてX線を発生する。変動電圧装置12bは、一定の時間周期Tで変動する印加電圧を発生する。印加電圧は、例えば22〜160kVの範囲であるのがよい。
この構成により、変動電圧装置12bで印加電圧を任意に変動させ、この変動電圧によりX線管12aで発生するX線の強度を正弦波状又は矩形波状に変動させることができる。
なお、本発明はこの構成に限定されず、一定の時間周期Tで出力が変動するX線を連続して発生できる限りで、他の周知のX線発生装置を用いることができる。
【0037】
X線照射装置14は、X線発生装置12で発生したX線3を被検査物1に照射する。
この例において、X線照射装置14は、被検査物1にX線3を線状に照射する線状照射装置である。
この構成により、搬送コンベア2で被検査物1を水平に搬送し、同時に搬送方向に交叉(例えば直交)する方向に、X線3を線状に照射することにより、面積の大きい被検査物1であっても容易に全面を検査することができる。
なお、本発明はこの構成に限定されず、被検査物1の一部のみ又は全体にX線を照射してもよい。
【0038】
X線検出器16は、被検査物1を透過したX線の強度を検出する。
この例において、X線検出器16は、被検査物1を透過した線状X線の強度を検出する線状検出器である。
またこの線状検出器は、隣接して線状に配置された複数のシンチレータと、各シンチレータのX線による発光をそれぞれ検出する複数のフォトダイオードと、各フォトダイオードの電流出力をそれぞれ電圧信号に変換しかつ増幅する複数の電流電圧変換アンプと、変換した電圧信号をそれぞれデジタル信号に変換する複数のA/D変換器とを有する。
この構成により、被検査物1を透過した線状X線の強度分布を、複数のシンチレータと複数の電流電圧変換アンプと複数のフォトダイオードと複数のA/D変換器で、同時にデジタル信号に変換することができる。
【0039】
なお、本発明はこの構成に限定されず、多数の検出器が2次元的に配列され2次元画像が一時に撮像できる平面型X線検出器であってもよい。
かかる平面型X線検出器を用いることにより、被検査物1を透過したX線画像を一時に撮像することができる。
【0040】
また、X線検出器16は、固体半導体のイオン化作用を利用した半導体検出器、或いは薄いCsI膜とCCDの組み合わせ、あるいはそれ以外であってもよい。
【0041】
制御装置18は、X線発生装置12で発生するX線出力の高出力時と低出力時に、X線検出器16で検出する高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから被検査物1の材質を識別する。
この例において、制御装置18は、検出した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから被検査物1の材質を、等価原子番号で区分し、その結果を出力する。
また制御装置18は、被検査物1を透過したX線強度を画像表示する表示装置19を備え、等価原子番号の区分を色付けして画像上に表示するようになっている。
【0042】
図5は、本発明のX線検査装置の作動説明図である。この図は、印加電圧の時間変化を示している。また図中の円形(●)は、X線検出器で検出するデータ採取点を示している。
【0043】
正弦波状にX線管電圧を変化させる場合、その周波数はできるだけ低い方が技術的に容易に実現できるうえに、X線管の耐久性を改善することができる。
また、データ採取系の採取周波数に制限があるため、この条件と前述の条件を両立させるには、図5に示す方法が有効である。
図中のfはデータ採取系の最大採取周波数を示す。また、高エネルギー:140kV、低エネルギー:70kVの例である。
正弦波の1周期中に高エネルギー2点、低エネルギー2点のデータ採取を行うようにすると、管電圧の高低ピークでデータ採取する場合に比較して、X線管電圧を正弦波状に変化させる周波数は1/2に下げることができる。
データ採取は、位相45°+(135°×n)、n=0.1,2,…で行い、また、データ採取周波数f=1kHzとすると、正弦波の周波数F=f/4=250Hzとなる。
【0044】
X線検出器16で検出した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから被検査物1の材質を識別する手段は、上述した式(4a)(4b)を解くことにより物質のρとZを求め、これから材質を識別することができる。
【0045】
なお、図2に示したように、連続X線の波長はある分布で広がっているが、高出力時のX線は最大出力時の波長が短く、低出力時のX線は最大出力時の波長が長い。
従って、最大出力時のX線波長をそれぞれμ、μとして、式(4a)(4b)を解くことにより物質のρとZの近似値を求め、これから材質を等価原子番号で識別することができる。なお、μ、μとして最大出力時のX線波長の代わりに、それぞれの平均値、或いは任意に設定した値を用いてもよい。
【0046】
また、本発明は、式(4a)(4b)に限定されず、その他の近似式を用いてもよい。
さらに、一定の波長に対しては一般に重元素になるほど減弱係数は増加し、X線は通りにくくなり、同一の物質に対しては、波長が長くなるほど減弱係数は増大するため透過しにくくなり、逆に波長が短くなるほど減弱係数は減少し透過しやすくなる特性が知られている。
従ってこの特性から、検出したX線強度I,Iの比I/I(またはI/I)と、等価原子番号との関係を予め検定して校正曲線等を作成し、これを用いて、等価原子番号またはその区分に識別してもよい。
また、X線発生装置12で発生する高出力時のX線強度I10と低出力時のX線強度I20を用いて、同様の校正曲線等を作成し、これらを用いて識別を行ってもよい。
【0047】
図6は、本発明のX線検査方法を示すフロー図である。この図に示すように、本発明の方法は、X線発生工程S1、X線照射工程S2、X線検出工程S3、および材質識別工程S4からなる。
X線発生工程S1では、X線発生装置12を用いて、所定の最大出力Imaxと最小出力Iminとの間で、一定の時間周期Tで出力が変動するX線3を連続して発生する。X線3の出力変動は、正弦波状又は矩形波状であることが好ましい。
X線照射工程S2では、発生したX線3を被検査物1に照射する。
X線検出工程S3では、照射したX線の高出力時と低出力時に、被検査物1を透過した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iを検出する。
材質識別工程S4では、高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから被検査物1の材質を識別する。
なお、上記S1〜S4の各工程は、一定の時間周期T内でリアルタイム処理し、かつこれを繰り返すことが好ましい。
【実施例1】
【0048】
以下、本発明の実施例を説明する。
図7は、本発明の実施例を示すX線画像である。この画像は、図4に示した装置を用い、旅行用カバンを検査した際のX線画像である。この例では、検出したX線強度I,Iを用いて、基本的に等価原子番号で色分け(図示せず)し、さらに危険物の可能性があるものを、太い矩形で囲んで強調表示している。
具体的には、等価原子番号10以下を有機物としてオレンジ色を基本とした色相で表し、等価原子番号20以上を無機物として青色を基本とした色相で表し、その中間の等価原子番号を中間物として緑色を基本とした色相で表し、それぞれの等価原子番号の違いを示している。例えば、爆発物の等価原子番号は、7〜8であり、有機物に含まれる。
【0049】
図8は、本発明の実施例を示す別のX線画像である。この画像は、同様に工具箱を検査した際のX線画像である。この例でも、同様に内部の収容物を等価原子番号に識別して色分けし、さらに危険物の可能性があるものを、太い矩形で囲んで強調表示している。
【0050】
上述したように、本発明の装置および方法によれば、X線発生装置12で、所定の最大出力と最小出力との間で、一定の時間周期Tで出力が変動するX線3を連続して発生し、このX線出力の高出力時と低出力時に、被検査物1を透過した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iを検出するので、単一のX線発生装置と単一のX線検出器16を用いて、高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iから被検査物1の材質を識別することができる。
また、最も普及している安価なX線管を用いて、目的とするX線発生装置を構成できるので、X線発生装置を小型かつ安価にできる。
【0051】
また、X線出力が正弦波状(サインカーブ)で変動する場合、サインカーブ上の高出力、低出力の測定位置を自由に変更することにより、X線の測定の波長をコントロールすることができるため、危険物(爆発物、毒物等)や特定物質が最も有効に検出できる、波長を選択して測定することができる。
さらに、X線出力が矩形波状である場合、X線波長はそれぞれ一定値(μ、μ)をもつので、上述した式(4a)(4b)を解くことにより物質のρとZを正確に求めることができ、これから材質をより正確に識別することができる。
【0052】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】X線管の模式図である。
【図2】陽極がタングステンである連続X線の強度分布である。
【図3】本発明のX線検査装置の原理図である。
【図4】本発明のX線検査装置の実施形態を示す全体構成図である。
【図5】本発明のX線検査装置の作動説明図である。
【図6】本発明のX線検査方法を示すフロー図である。
【図7】本発明の実施例を示すX線画像である。
【図8】本発明の実施例を示す別のX線画像である。
【符号の説明】
【0054】
1 被検査物、2 搬送コンベア、3 X線、
10 X線検査装置、12 X線発生装置、
12a X線管、12b 変動電圧装置、
14 X線照射装置、16 X線検出器、
18 制御装置、19 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の最大出力と最小出力との間で、一定の時間周期Tで出力が変動するX線を連続して発生するX線発生装置と、
前記X線を被検査物に照射するX線照射装置と、
前記被検査物を透過したX線の強度を検出するX線検出器と、
前記X線発生装置とX線検出器を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、X線発生装置で発生するX線出力の高出力時と低出力時に、前記X線検出器で検出する高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから前記被検査物の材質を識別する、ことを特徴とするX線検査装置。
【請求項2】
前記X線発生装置は、熱電子を印加電圧で加速して陽極に衝突させてX線を発生するX線管と、
一定の時間周期Tで変動する前記印加電圧を発生する変動電圧装置とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項3】
前記X線発生装置の出力変動は、正弦波状又は矩形波状である、ことを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項4】
前記X線照射装置は、被検査物にX線を線状に照射する線状照射装置であり、
前記X線検出器は、被検査物を透過した線状X線の強度を検出する線状検出器である、ことを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項5】
前記線状検出器は、隣接して線状に配置された複数のシンチレータと、各シンチレータのX線による発光をそれぞれ検出する複数のフォトダイオードと、各フォトダイオードの電流出力をそれぞれ電圧信号に変換しかつ増幅する複数の電流電圧変換アンプと、変換した電圧信号をそれぞれデジタル信号に変換する複数のA/D変換器とを有する、ことを特徴とする請求項4に記載のX線検査装置。
【請求項6】
前記制御装置は、検出した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから前記被検査物の材質を、等価原子番号で区分し、その結果を出力する、ことを特徴とする請求項1に記載のX線検査装置。
【請求項7】
前記制御装置は、被検査物を透過したX線強度を画像表示する表示装置を備え、前記等価原子番号の区分を色付けして画像上に表示する、ことを特徴とする請求項6に記載のX線検査装置。
【請求項8】
所定の最大出力と最小出力との間で、一定の時間周期Tで出力が変動するX線を連続して発生するX線発生工程と、
前記X線を被検査物に照射するX線照射工程と、
前記X線出力の高出力時と低出力時に、被検査物を透過した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iを検出するX線検出工程と、
前記高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iとから被検査物の材質を識別する材質識別工程とを有し、前記各工程をリアルタイム処理する、ことを特徴とするX線検査方法。
【請求項9】
X線発生工程において、正弦波状にX線管電圧を変化させ、
X線検出工程において、正弦波の1周期中に高エネルギー2点、低エネルギー2点のデータ採取を行う、ことを特徴とする請求項8に記載のX線検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−64727(P2007−64727A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−249127(P2005−249127)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(000198318)石川島検査計測株式会社 (132)
【Fターム(参考)】