説明

X線治療機能を備える乳房用画像撮影及び治療装置

【課題】乳房用画像撮影及び治療装置(乳房専用CT)のX線断面画像を利用して乳房中の患部にX線を照射する小型で操作の容易な乳房専用のX線治療機能付き断層画像撮影装置を提供する。
【解決手段】乳房を突き出す挿入孔14を備えるX線遮蔽板13と、挿入孔を挟んで配置された撮影用X線源20と画像センサ18が挿入孔の位置を撮影用回転中心Aとして周回して乳房BのX線断層画像を生成するX線撮影系と、治療用X線源30がほぼ撮影用回転中心Aの位置を治療用回転中心A'として周回し治療用X線源からの治療線Sを少なくとも2個の自由度を持つ照準方向に照射するX線治療系とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータトモグラフィ(CT)を用いた乳房専用の断層画像撮影装置と乳房中の患部にX線を照射するX線治療装置を一体に構成して治療機能を備えた乳房用画像撮影及び治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、断層画像撮影装置と放射線治療装置を複合した画像誘導放射線治療装置(IGRT)が開発されており、患部近傍の3D画像に基づいて放射線照射方法を計画し、計画に従って放射線を照射する放射線治療を行うことができる。
【0003】
たとえば、特許文献1には、図12に示すような、基準面に対して平行方向に回動可能に支持される寝台と、寝台上の被検体の治療部位を撮影し得るイメージング装置と、イメージング装置により得られた撮影像から治療部位を位置決めする位置決め装置と、位置決めされた治療部位に対して放射線を照射して放射線治療を行う放射線治療装置とからなる放射線治療システムが開示されている。イメージング装置と位置決め装置と放射線治療装置は共に1室に収容されていて、被検体である患者は寝台に乗ったまま寝台が次々に各装置の場所まで移動して位置決めして治療を受けることができる。
【0004】
しかし、画像誘導放射線治療装置は身体器官を選ばず全身を対象とするため画像形成用に100kV以上の透過力の高いX線が使われるので、乳がんには造影剤が必要になり問題である。また、全身を対象とすることから、装置の大型化が避けられない。
【0005】
一方、乳がんの検診や診断を主な目的として乳房のX線断面画像を生成する乳房X線断面画像撮影装置(乳房専用CT)が開発されている。
特許文献2は、乳房専用CTの1例を開示している。特許文献2に開示された乳房専用CTは、乳房位置に穴が開いたベッドと、穴の周りを水平に回転する架台と、ベッドや架台を運動させるモーターと計測装置を作動させるスイッチを制御する制御装置とを備える。測定装置は、X線発生装置と、これと対向配置されるX線検出装置と、X線検出装置で得られるX線透過画像から断層画像を再構成する演算装置とから構成される。
【0006】
X線発生装置とX線検出装置は架台に搭載され、乳房の周りを一緒に回転しながら、各方向から乳房のX線透過画像を取得する。X線発生装置は、所定の間隔で錘状のX線コーンビームを放射する。X線は被検体を透過し、X線検出素子が平面上にマトリックス状に配置されたフラットパネルデテクター(FPD)で形成されたX線検出装置に入射する。X線検出装置は、X線透過画像を形成して再構成演算装置に伝送し、再構成演算装置がX線断層画像を生成する。乳房中の腫瘤や石灰化は高エネルギーのX線では透過量比が小さくて透過画像のコントラスが弱くなるので、撮影用X線には25〜50KV程度の低エネルギーのビームが使われる。
【0007】
被検者が、ベッドにうつ伏せに横たわり、測定したい乳房を穴に当てると、乳房はX線発生装置とX線検出装置との間に垂下してくる。コーンビームX線発生装置とFPDは、被検体である乳房の周りを回転しながら、所定角ごとにX線発生装置を作動させX線検出装置でX線透過画像を撮影し、再構成演算装置は、集まった1クルーのX線透過画像を再構成して3D化し、乳房のX線断層画像を作成する。
こうして得られるX線断層画像においては、石灰化部分は骨と同等のX線透過率であるため、比較的小さな石灰化も容易に映像化でき、初期の乳がんでも高い確率で発見できる。また、立体画像のため、乳腺などの組織と重なる病変部でも確実に検出することができる。
【0008】
そこで、乳房に対する放射線治療を行う画像誘導放射線治療装置は、イメージング装置として、複数方向からのX線投影画像のみならず乳房専用CTを利用することが考えられる。しかし、乳房専用CTとX線照射治療装置を複合した場合に、乳房専用CTで確認した乳房中の患部を的確に治療するため、X線照射治療装置における患部位置の再現が難しい。
【特許文献1】特開平9−192245号公報
【特許文献2】米国特許第6480565号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、乳房用画像撮影及び治療装置(乳房専用CT)のX線断面画像を利用して乳房中の患部にX線を照射する小型で操作の容易な乳房専用のX線治療機能付き断層画像撮影装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る放射線治療機能を有する乳房用画像撮影及び治療装置は、乳房を突き出す挿入孔を備えるX線遮蔽板と、挿入孔を挟んで配置された撮影用X線源と画像センサが挿入孔の位置を撮影用回転中心として周回して乳房のX線断層画像を生成するX線撮影系と、治療用X線源がほぼ撮影用回転中心の位置を治療用回転中心として周回し治療用X線源からの治療線を少なくとも2個の自由度を持つ照準方向に照射するX線治療系とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る乳房用画像撮影及び治療装置によれば、低エネルギーのX線を使った乳房用画像撮影及び治療装置のX線画像に基づいて病変部の位置を知って治療方法を画定し、回転中心がほぼ一致する治療用X線源の放射方向を画定された治療方法に従って調整して高エネルギーの治療用X線を照射するので、病変部位置を確定した時の位置姿勢を保持したまま治療用X線を照射して治療をすることができる。
したがって、患者が別室の治療装置まで移動して治療を受ける場合では、せっかく観察した患部の位置が変化するためX線装置などを使って再度位置確認と位置調整を行ってから治療をする手間と治療効率の低下を来していたが、本発明の治療機能付き乳房用画像撮影及び治療装置ではこのような手間と治療効率の低下を排除することができる。
【0012】
また、同室内に断層画像撮影装置とX線治療装置を備えた場合でも、断層画像を取得した後に患者がベッドの上に固定されたままベッドを移動してX線治療装置の回転中心部に患者の病変部を正確にセットし直してからX線治療を行ってきたが、本発明の治療機能付き乳房用画像撮影及び治療装置ではX線治療装置の再調整を排除することができる。
このように、治療対象を乳房に限る場合には、乳房専用CTを活用して、より適合した撮影装置とX線治療装置の組み合わせが達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
図1は本発明の1実施形態に係るX線照射治療機能を有する乳房用画像撮影及び治療装置について概念的に示した概念構成図、図2は撮影系の略図、図3は治療系の略図、図4は本装置に利用できる小型リニアックの構成図、図5は撮影系と治療系の配置例を示す要素配置図、図6は本発明の一実施形態に係る乳房用画像撮影及び治療装置の構成を示すブロック図である。
【0014】
本実施形態に係る治療機能を備える乳房用画像撮影及び治療装置100は、図1から図5に示すとおり、乳房を通す孔14を備え被検者Pがうつ伏せに伏臥して孔14から乳房Bを垂下することができる天板12と、撮影系と、治療系とで形成される。天板12の下面にはX線遮蔽板13が取り付けられていて、天板12上の被検者が余計なX線被曝をしないように保護している。X線は水平に近い角度で入射するので、X線遮蔽板13は特に乳房を差し出す孔14の周りの天板12が下に垂れている部分に設けられている。
【0015】
撮影系は、図2に示すように、放射状のX線コーンビームCを放射するX線発生装置20と、X線発生装置20から放射され物体を透過したX線の入射強度を検知するX線検知素子を面上に複数配置したフラットパネルディスプレイ(FPD)を備えたX線検出器18と、X線発生装置20とX線検出器18が回転軸Aを挟んで対向するように搭載した撮影架台16とを備える。回転軸Aは孔14から垂れた乳房Bを通るように配置される。撮影架台16は回転軸Aの周りを回転して、所定時間間隔でX線撮影をし、各方向からの乳房BのX線透過画像を取得する。
【0016】
また治療系は、図3に示すように、治療用のX線(治療線)Sを乳房B中の患部Fに向けて細い治療線Sを放射するX線発生装置としての小型のリニアック30と、乳房Bを透過した治療線Sを吸収して外部の人物や物品に照射しないようにするビームストップ32と、リニアック30とビームストップ32を搭載した治療架台34を備える。図4は、最近製作された小型リニアックの例を示す図面である。図4のリニアック40は、電子銃42、加速管44、ターゲット46、X線光学系48、真空排気装置に接続する真空弁43で構成され、重量約1.5kg、長さ約30cmと、極めて小型にまとめられている。X線光学系48は、ターゲット46から放出される各種エネルギー線から目的のX線を選択し、細いX線ビームを形成する。また、加速管長25cmの定在波型ハイブリッド空洞で構成された小型のリニアタイプ加速器なども開発されている。
【0017】
治療架台34の回転軸A'は撮影架台16の回転軸Aと同様に、乳房Bを通す孔14を通るように配置される。治療架台34は回転軸A'の周りを回転して、患部Fに治療線Sを照射する。リニアック30は、照射すべき患部Fの位置に伴い、上下方向(Y軸)と左右周方向(X軸)の2自由度をもって任意に移動できるようになっている。これにより、治療架台34に支持されたリニアック30の放射位置は治療架台34の位置で決まる位置に対して2個の自由度をもって調整が可能になる。また、さらに照射範囲を拡大するため、第3軸として、照準方向を支点の周りに上下に回転移動できるようになっていてもよい(θ軸)。さらに位置姿勢の制御を容易にするために、4軸以上の駆動軸を備えても良いことはいうまでもない。ビームストップ32は、電流計を接続して、入射するX線の強度検出器として使用することができる。
【0018】
なお、治療系のX線発生装置30は、リニアックに限らず、陰極フィラメントを使うX線管であってもよいことはいうまでもない。X線管も陽極ターゲットの金属やフィルタ材質により放射するX線の波長や強度を調整することができる。
乳房用画像撮影及び治療装置100は、さらに、撮影架台16と治療架台34の運動とX線発生装置20とX線検出器18の作動を制御する制御装置、画像処理装置および画像表示装置を備える。
【0019】
撮影系と治療系は、図5に示すように、撮影系のX線発生装置20とX線検出器18は乳房Bが位置することになる回転軸Aを挟んで対向する位置に固定され、撮影架台16により一緒に回転軸Aの周りを回転する。治療系のX線発生装置であるリニアック30とビームストップ32は、撮影系の回転軸Aとほぼ同軸に設けた回転軸A'を挟んで対向する位置に固定され、治療架台34により一緒に回転する。撮影系と治療系を常時一緒に回転させるのであれば、両者を共通架台に固定して1軸に回転させるようにすればよい。撮影系と治療系は、互いに光軸がほぼ直交する位置に配置することができる。
【0020】
撮影系と治療系は回転中心がほぼ一致して対象である乳房Bの近傍にあるので、X線撮影系における対象部分の位置とX線治療系における照準対象の位置が比較的単純な関係を持ち、換算が容易である。また、X線治療系の移動量(XY)またはさらに方向の自由度を加えた移動量(XYθ)とX線撮影系における対象の移動量の関係を予め把握して、これら位置関係と画像の拡大率を位置補正データとして記憶装置に保有しておくことができる。制御装置は、乳房BのX線断層画像から得られる病変のX線撮影系3D位置情報に位置補正を施して求めた発射位置(XY)または(XYθ)に治療系のX線発生装置30を移動させて、病変に治療用X線を照射する。
【0021】
本実施形態の乳房用画像撮影及び治療装置は、X線撮像制御部100と、それに接続されたX線管110及びX線検出部120と、治療用X線制御部200と、それに接続された治療用X線発生器210と、撮像条件制御部300と、制御部400と、操作卓410と、格納部420と、ディジタル/アナログ変換器(D/A)431と、表示部432とを含んでいる。
X線撮像制御部100と、X線管110と、X線検出部120とによって乳房専用CT(X線撮像)が行われ、治療用X線制御部200と、それに接続された治療用X線発生器210とによってX線治療が行われる。
【0022】
X線検出部120は、平面上に2次元的に配列された複数のX線検出素子を備えたフラットパネルX線検出器である。各X線検出素子は、X線管110から放射され被検体を透過したX線が照射されることにより、X線の強度に応じた大きさを有する検出信号を出力する。これらの検出信号は、X線撮像制御部100に入力される。また、X線検出部120には、X線検出部120を図の左右方向に移動させる位置調節部と、X線検出部120を水平面内において回転させる方向調節部とが設けられている。
【0023】
X線撮像制御部100は、管電圧/ターゲット/フィルタ制御部111と、高電圧発生部112と、曝射線量制御部113と、画素ピッチ制御部114と、アナログ/ディジタル変換器(A/D)115と、放射線画像データ生成部116とを含んでいる。管電圧/ターゲット/フィルタ制御部111は、X線管110に印加される電圧(管電圧)の大きさや、X線管110において用いられるターゲット及びフィルタ部130において用いられるフィルタの材料の組み合わせ(例えば、タングステン/ロジウム、モリブデン/モリブデン、モリブデン/ロジウム、ロジウム/ロジウム等)を設定することにより、X線の特性を制御する。また、高電圧発生部112は、管電圧/ターゲット/フィルタ制御部111の制御の下で、X線管110に印加される電圧を発生する。曝射線量制御部113は、X線管110から被検体に照射されるX線の線量を制御する。画素ピッチ制御部114は、X線検出部120における画素ピッチを設定する。それにより、X線検出部120に含まれる複数のX線検出素子の内から、画素ピッチ制御部114によって設定された間隔で検出信号が出力される。
【0024】
アナログ/ディジタル変換器(A/D)115は、X線検出部120から出力された検出信号をディジタル変換することにより、検出データを出力する。放射線画像データ生成部116は、A/D変換器115から出力された検出データに基づいて、X線画像における輝度を表すX線画像データを生成し、それを格納部420に出力して蓄積させる。なお、それと共に、X線画像データをD/A変換器431に出力することにより、X線画像を表示部432に表示させても良い。
【0025】
撮像条件制御部300は、画像処理部331と、X線撮像条件設定部332と、X線照射条件設定部333とを含んでいる。画像処理部331は、乳房質判別部331a及びCAD(computer aided detection:コンピュータ支援検出)処理部331bを含んでいる。乳房質判別部331aは、放射線画像データ生成部116から出力されたX線画像データによって表されるX線画像を解析することにより、それらの画像に写された乳房の質が、乳腺質(dense breast)であるか、脂肪質(fat breast)であるかを判別する。一方、CAD処理部331bは、X線画像を解析することにより、乳房に生じた病変部(石灰化や腫瘤)を検出する。また、画像処理部331は、X線画像データについて、ゲイン調整及びコントラスト調整を含む線形の階調処理や、γ補正を含む非線形な階調処理等の画像処理を施しても良い。さらに、画像処理部331は、X線画像データをD/A変換器431に出力することにより、X線画像を表示部432に表示させる。
【0026】
X線撮像条件設定部332は、乳房質判別部331a又はCAD処理部331bがX線画像について行った解析結果に基づいて、次に行われるX線撮像条件(管電圧、ターゲット/フィルタの組み合わせ、曝射線量、画素ピッチ、X線の照射方向等)を設定する。また、X線照射条件設定部333は、乳房質判別部331a又はCAD処理部331bがX線画像について行った解析結果に基づいて、X線撮像の後に行われる治療用X線照射における照射条件を設定する。
【0027】
治療用X線制御部200は、治療用X線源の照射位置や照射姿勢を調整する位置制御部211とX線照射条件を調整するX線強度制御部212とを含んでいる。位置制御部211が乳房Bの周囲を巡る軌跡上の最適位置にX線源を据えて、X線強度制御部212が照射X線の特性を決定して、被検体に適度なX線を照射する。
【0028】
制御部400は、本実施形態に係る医用撮像システム全体を制御している。また、操作卓410は、乳房用画像撮影及び治療装置に種々の命令や情報を入力する際に検査者(オペレータ)によって用いられる入力デバイスである。操作卓410にはキーボード、スイッチ、ポインティングデバイスなどに加えて表示部432を利用した入力装置なども装備することができる。さらに、格納部420は、ハードディスク又はメモリ等によって構成されており、乳房用画像撮影及び治療装置に含まれるCPUに動作を実行させるための基本プログラム及び種々の処理を行うために用いられるプログラム(ソフトウェア)や、それらの処理に用いられる情報等を格納する。
【0029】
D/A変換器431は、画像処理部331から出力されたX線画像データをアナログ信号に変換して、表示部432に出力する。表示部432は、例えば、ラスタスキャン方式のCRTディスプレイ又はLCDディスプレイであり、D/A変換器431においてアナログ変換された画像信号に基づいて、X線画像を表示する。
【0030】
なお、通常、撮影後に施療対象の位置が確定してから治療系を対象にX線照射できる位置まで移動して治療するので撮影と治療を同時に行うことはない。そこで、両者に同軸の独立回転機構を設けて、いずれか一方が回転している間は他方が静止するようにしてもよい。また、一つの架台を使って、治療系の機器を撮影系の機器と入れ替えて利用することもできる。図7は、治療系のX線発生装置30と撮影系のX線発生装置20を入れ替えるようにした架台16の平面図である。撮影X線源20が搭載されているときは、常備のX線検出器18が稼働し、治療X線源30に取り替えたときは、X線検出器18の前方にビームストップ32を設置してX線検出器18を保護する。なお、治療X線源30を設置するときはX線検出器18を撤去してもよいことはいうまでもない。
【0031】
X線発生装置は通常、陰極フィラメントを加熱して熱電子を飛び出させ、これを陽極のターゲット金属に当てることによりX線を発生させて、X線用フィルタで特定のX線を選択して照射する。したがって、撮影X線源20の管電圧やターゲット金属あるいはX線フィルタを換えることにより、撮影X線源20の放射するX線のエネルギー帯域を変化させて治療線として治療に使うことができる。なお、不要なエネルギー帯域のX線が被検者に入射するのを防止するため、X線源と被写体の間にバンドパスフィルタを挿入することが好ましい。
【0032】
通常の全身像を得るためには100KV以上のX線が使用されるが、このX線は乳房中の腫瘤などを区別して抽出するためには透過率が大きすぎるので、乳房X線断層画像撮影で鮮明なX線透過画像を得るためには25〜50KVのX線を使う。
【0033】
図8は、X線発生器の管電圧とX線出力の関係を示すグラフである。図は、モリブデンMoをターゲットとしてフィルタを空気、Mo、ロジウムRhとした場合のX線出力を表す。横軸は管電圧をkVで表し、縦軸はX線出力を任意単位で表している。図からX線エネルギー17.5keV(管電圧約28kV)付近で最大出力が得られ、この前後ではフィルタにより出力低下がみられることが分かる。マンモグラフィに適用するX線は、Moをターゲットにして、特にMoあるいはRhをフィルタに使用して得ることができる。なお、マンモグラフィでは、通常、ベリリウムBeをX線管の射出口の付加フィルタにする。
【0034】
図9は、治療線と撮影用X線の両方が含まれるX線を放射する1個の放射線源を使用して撮影と治療を同一の放射線源で行うようにした場合の配置図である。放射線源と被写体となる乳房Bの間に治療線を含む高エネルギー帯をカットする付加フィルタ38が進退可能に設けられている。放射線源36と付加フィルタ38とX線検出器18は1体となって回転軸Aの周りを回転しながら、適宜な周期で乳房Bに向けてX線を放射する。放射線源と被写体になる乳房Bとの間に設置された付加フィルタ38により治療用X線はカットされ、撮影用X線のみがX線検出器18に入射してX線透過画像を形成する。こうして、撮影用X線によるX線透過画像の取得と治療線による治療を付加フィルタ38の挿入と退避によって切り替えることができる。
【0035】
図10は、X線治療の効果を高めるため、病変部に対する入射方向を調整する態様を示す概念図である。治療X線Sが病変部Fと交絡する間にがん組織を攻撃して治癒させるのであるから、X線Sが病変部Fの短矩方向S'に入射するより長矩方向に入射する方が治療効果を高めることになる。そこで、本実施形態の乳房X線断層画像撮影装置は判定装置を備え、判定装置が乳房のX線断層画像に基づいて病変部と正常組織の長さ比が最大となる方向を見つけ出し、制御装置がこの方向から病変部Fに入射するように治療X線発生装置30をセットする。治療X線Sは病変F中を長手方向に縦断するので、正常部への悪影響を最小化できるとともに、大きい治癒効果が期待される。X線の照射方向を調整する場合には、照準調整装置の自由度が高いほど容易に照準することができる。ただし、自由度が大きくなるほど調整機構が複雑化し、装置コストが上がり操作性が低下する。
【0036】
また、金属スクリーンにX線に対する増感効果があることが知られている。銅、鉛、タングステンなどの金属を0.5〜5mm程度の薄板にして、X線を照射すると吸収されたエネルギー量に比例する強さの蛍光を瞬時的に発する蛍光体からなる感光板の前面に設置し、金属板側からX線を入射させると、X線hνは金属板との相互作用により散乱光子hν'とコンプトン電子eを生じる。コンプトン電子は前方へ強い指向性を持って感光板に入射するので、感光板がこれに感応して感度の高い影像を形成することになる。そこで、図11の配置図に示すように、感光板で形成される画像センサ18の前に金属板22を置き、小型リニアックなど、治療用X線源30からのX線を入射させると、金属板のコンプトン散乱を利用して、入射X線の強さを観測することができる。
【0037】
また、X線画像表示装置に表示された画像を観察して、画像中の問題位置に治療用X線源のX線を照射させるようにすることができる。画像中の問題位置は、マウスやタッチパネルなどのポインティングデバイスを用いて画像表示装置から直接に指定することができる。また、もちろん、キーボードなどを使って数値的に指定してもよいことはいうまでもない。X線画像中の関心領域の入力に伴って、治療用X線源の位置は駆動装置により自動的に調整して、治療用X線が関心領域に照射するようにする。
【0038】
さらに、X線画像にCADを適用して各種の異常状態を検出させて、自動的に関心領域の候補が決定されるようにすることができる。検出された関心領域を表示器に表示させて、この中から対象領域を決定して、対象領域を指定する信号を入力すると、これにしたがて、治療用X線源が対象領域を照射するように、治療用X線源の位置を自動的に変更するようにすることができる。また、適当な判定条件を与えることにより、CADによって対象領域も自動的に決定することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明により、特に乳がんの治療に当たり、乳房専用X線断面画像撮影装置(乳房専用CT)により低エネルギーのX線を使って取得した乳房のX線断面画像に基づいて病変部とその位置を的確に抽出し、その位置情報に基づいて、病変部を正確に照射するように治療系をセットして効果的にX線治療を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の1実施形態に係るX線照射治療機能を有する乳房用画像撮影及び治療装置について示した概念構成図である。
【図2】本実施形態に係る乳房用画像撮影及び治療装置の撮影系の略図である。
【図3】本実施形態に係る乳房用画像撮影及び治療装置の治療系の略図である。
【図4】本実施形態に使用される小型リニアックの構成図である。
【図5】本実施形態の撮影系と治療系の配置例を示す要素配置図である。
【図6】本実施形態に係る乳房用画像撮影及び治療装置の構成を示すブロック図である。
【図7】本実施形態における治療系と撮影系のX線発生装置を入れ替えるようにした架台の平面図である。
【図8】X線発生器の管電圧とX線出力の関係を示すグラフである。
【図9】本実施形態において1個の放射線源を使用して撮影と治療を同時に行うようにした場合の配置図である。
【図10】本実施形態において病変部に対するX線入射方向を調整する態様を示す概念図である。
【図11】本実施形態において感光板の前に金属板を配置してX線強度を測定する方法を説明する概念図である。
【図12】従来の断層画像撮影機能を有するX線照射治療装置の配置図である。
【符号の説明】
【0041】
A,A' 回転軸
B 乳房
C X線コーンビーム
F 患部
S,S' 治療線
12 天板
13 X線遮蔽板
14 乳房を通す孔(または挿入孔)
16 撮影架台
18 X線検出器
20 X線発生装置(または撮影X線源)
22 金属板
30 リニアック(またはX線発生器、治療X線源)
32 ビームストップ
34 治療架台
36 放射線源
38 フィルタ
40 リニアック
42 電子銃
43 真空弁
44 加速管
46 ターゲット
48 X線光学系
100 X線撮像制御部
110 X線管
111 管電圧/ターゲット/フィルタ制御部
112 高電圧発生部
113 曝射線量制御部
114 画素ピッチ制御部
115、124 アナログ/ディジタル変換器(A/D)
116 放射線画像データ生成部
120 X線検出部
121 走査制御部
121a 周波数制御部
121b 駆動電圧制御部
121c 走査速度制御部
130 フィルタ部
140 画像読取装置
200 治療用X線制御部
210 治療用X線発生器
211 位置制御部
212 X線強度制御部
300 撮像条件制御部
331 画像処理部
331a 乳房質判別部
331b CAD処理部
332 X線撮像条件設定部
333 超音波撮像条件設定部
400 制御部
410 操作卓
420 格納部
431 ディジタル/アナログ変換器(D/A)
432 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房を突き出す挿入孔を備えるX線遮蔽板と、
該挿入孔を挟んで配置された撮影用X線源と画像センサが該挿入孔の位置を撮影用回転中心として周回して前記乳房のX線画像を生成するX線撮影系と、
治療用X線源がほぼ前記撮影用回転中心の位置を治療用回転中心として周回して該治療用X線源からの治療線を2個以上の自由度を持つ照準方向に照射するX線治療系と、
を備え放射線治療機能を有する乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項2】
前記照準方向は3個の自由度を備える、請求項1記載の乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項3】
前記X線治療系の3次元移動量と前記X線撮影系の移動量の関係と画像の拡大率を予め位置補正データとして保有し、該位置補正データを用いて前記X線治療系の移動量を調整する、請求項1または2記載の乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項4】
前記治療用X線源を前記撮影用X線源と置き換えて治療する、請求項1から3のいずれか一項に記載の乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項5】
前記治療用X線源にエネルギー帯域を切り替える手段と光軸から退避可能な付加フィルタを備えて、前記撮影用X線源と兼用する、請求項1から3のいずれか一項に記載の乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項6】
前記治療用X線源は画像センサを備え、該画像センサの前に金属板を設置し、前記治療用X線源のエネルギーを該画像センサで画像化する、請求項1から5のいずれか一項に記載の乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項7】
前記治療用X線源は前記撮影用X線源と兼用し撮影中に患部に吸収されるX線エネルギーにより治療を施す、請求項1から3のいずれか一項に記載の乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項8】
前記治療用X線源は、前記乳房のX線画像に基づいて病変部と乳房表面の距離が最小となる方向から、前記病変部に治療線を照射する、請求項1から7のいずれか一項に記載の乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項9】
前記治療用X線源は、前記乳房のX線画像に基づいて病変部と正常組織の長さ比が最大となる方向から、前記病変部に治療線を照射する、請求項1から7のいずれか一項に記載の乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項10】
前記X線画像に基づき関心領域を入力すると、前記治療用X線源が該関心領域を照射するように、前記治療用X線源の位置を自動で変更する、請求項1から9のいずれか一項に記載の乳房用画像撮影及び治療装置。
【請求項11】
前記X線画像に基づくCAD(computer aided detection:コンピュータ支援検出)手段を備え、前記関心領域が、該X線画像に該CADを適用した結果に基づいて自動的に決定される候補から選択される、請求項10に記載の乳房用画像撮影及び治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−75338(P2010−75338A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−245672(P2008−245672)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】