説明

X線発生装置

【課題】PXR現象を利用したX線発生装置であってX線放射方向を一定に維持したままX線波長を変化させることができるX線発生装置を提供する。
【解決手段】光源10から出力されたレーザ光91は、レーザ光入射窓31を通過して容器30の内部へ入力され、第1反射鏡33および第2反射鏡35により反射され、XYステージ37上の結晶90の表面に形成された金属薄膜ターゲット80に集光照射される。ターゲット80においてプラズマが発生し、ターゲット80から放出された電子92は結晶90に入射され、結晶90においてPXR現象によりX線93が放射される。ゴニオステージ38およびゴニオステージ39により、結晶90の格子面と電子92の入射方向との角度θおよび結晶90の格子面間隔dは、或る次数nに対してブラッグ条件と同様の条件を満たすよう調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
X線発生装置として種々のタイプのものが知られている。例えば、金属ターゲットに衝突させた電子の制動によってX線を発生させるX線管や、レーザプラズマ中に形成された反転分布を利用するX線レーザ装置が知られており、また、近年では、パラメトリックX線放射(Parametric X-ray Radiation、以下「PXR」という。)と呼ばれる現象を利用するX線発生装置が注目されている。
【0003】
PXRとは、結晶面にX線がブラッグ反射を起こす方向に沿って相対論的な高エネルギー電子を入射させると、X線を入射させた場合に起こるブラッグ反射のときと同様にX線が発生するという現象である(特許文献1および非特許文献1,2を参照)。
【0004】
図1に示されるように、結晶90の格子面間隔をdとし、結晶90の格子面と電子92の入射方向との角度をθとする。プランク定数をhとし、真空中での光速をcとする。また、結晶90での回折次数をnとし、PXR現象により結晶90で発生するX線93の周波数をνとし、X線93のエネルギーをEとする。このとき、これらのパラメータの間には、「E=hν=cn/(2d sinθ)」なる式で表される関係がある。また、結晶90の格子面からのX線93の放射方向は、結晶90の格子面への電子92の入射方向に対して角度2θをなしている。
【0005】
例えば、結晶90がシリコン単結晶であり、(111)格子面の間隔dが3.14Åであり、シリコン単結晶90の(111)格子面への電子92の入射角θが7.9°であり、次数nが1であるとする。このとき結晶90から放射されるX線93のエネルギーEは14.4keVであり、X線93の波長は0.86Åである。
【0006】
結晶に入射される電子のエネルギーが高いほど、結晶から放射されるX線の強度は強い。しかし、結晶から放射されるX線の波長(または、X線光子当たりのエネルギー)は、上述の式に示されるように結晶格子定数dまたは電子入射角θにより決定され、結晶に入射される電子が相対論的である限り、電子のエネルギーによっては変化しない。X線エネルギー14.4keVという値は、大型の放射光施設で生成するX線エネルギーに相当し、また、従来のレーザプラズマベースのX線レーザ装置から出力されるX線に比べてはるかに短波長である。
【0007】
金属ターゲットに衝突させた電子の制動によってX線を発生させるX線管は、ターゲット電圧に応じた帯域の連続X線を発生させることができるが、そのX線はコヒーレントではない。また、レーザプラズマ中に形成された反転分布を利用するX線レーザ装置は、コヒーレントなX線を発生させることができるが、そのX線の波長は短くても3nmでしかない。これらに対して、PXR現象を利用したX線発生装置は、コヒーレントな硬X線を発生させることができる点に特徴を有している。
【特許文献1】特開2000−30892号公報
【非特許文献1】遠藤一太、他、“パラメトリックX線放射”、日本物理学会誌、Vol.48,No.11, pp.878-885 (1993).
【非特許文献2】T. Takashima, et al., "Observationof monochromatic and tunable hard X radiation from stratified Si singlecrystals", Nucl. Instrum. and Meth. in Phys. Res., Vol.B145, pp.25-30(1998).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、PXR現象を利用したX線発生装置は、結晶への電子の入射角θを変更することで、発生するX線の波長を変化させることができる点にも特徴を有している。しかし、電子入射角θを変更すると、X線波長が変化するだけでなく、X線放射方向も変化してしまう。
【0009】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、PXR現象を利用したX線発生装置であってX線放射方向を一定に維持したままX線波長を変化させることができるX線発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るX線発生装置は、(1) レーザ光を出力する光源と、(2) 光源から出力されるレーザ光が外部から所定ラインに沿って内部へ入力される容器と、(3)容器の内部に設けられ、容器の内部へ入力されて所定ラインに沿って入射されたレーザ光を、所定ラインと異なる方向へ反射させる第1反射鏡と、(4) 容器の内部に設けられ、第1反射鏡により反射されて到達したレーザ光を、所定ラインに垂直な面に平行であって入射方向と異なる方向へ反射させる第2反射鏡と、(5)容器の内部に設けられ、第2反射鏡により反射されたレーザ光をターゲットに照射して該ターゲットから電子を放出させる電子放出手段と、(6) 容器の内部に設けられ、電子放出手段により放出された電子の入射に伴いX線を発生させる結晶を保持し、この結晶への電子の入射位置を通り所定ラインに平行なラインを中心軸として結晶を回転移動させる第1移動手段と、(7)所定ラインを中心軸として容器を回転移動させる第2移動手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るX線発生装置では、光源から出力されるレーザ光は、容器の外部から所定ラインに沿って容器の内部へ入力され、容器の内部において、第1反射鏡により所定ライン(レーザ光入射ライン)と異なる方向へ反射され、更に第2反射鏡により所定ライン(レーザ光入射ライン)に垂直な面に平行であって入射方向と異なる方向へ反射される。電子放出手段により、第2反射鏡により反射されたレーザ光はターゲットに照射されて、該ターゲットから電子が放出される。その電子は結晶に入射されて、PXR現象により該結晶からX線が放射される。
【0012】
第1移動手段により、結晶への電子の入射位置を通り所定ライン(レーザ光入射ライン)に平行なラインを中心軸として結晶が回転移動されて、これにより、放射されるX線の波長が変更される。また、第2移動手段により、所定ライン(レーザ光入射ライン)を中心軸として、容器は回転移動されるとともに、該容器の内部にある各要素および結晶も同時に回転移動され、これにより、X線放射方向が一定に維持され得る。
【0013】
本発明に係るX線発生装置は、結晶で発生して容器の外部へ出力されたX線のうち特定方向に進むX線を選択的に出力するX線用コリメータを更に備えるのが好適である。この場合には、X線用コリメータにより、結晶で発生して容器の外部へ出力されたX線のうち特定方向に進むX線が選択的に出力されるので、指向性が優れたX線が得られる。
【0014】
本発明に係るX線発生装置は、容器が、内部を排気することが可能な容器であって、所定ラインに沿ってレーザ光を外部から内部へ通過させるレーザ光入射窓と、結晶で発生したX線を内部から外部へ通過させるX線出射窓とを有し、容器の内部を排気する排気手段を更に備えるのが好適である。この場合には、容器の内部は排気手段により排気される。そして、光源から出力されたレーザ光は、容器の外部から所定ラインに沿ってレーザ光入射窓を通過して、容器の内部へ入力される。また、結晶で発生したX線は、容器の内部からX線出射窓を通過して、容器の外部へ出力される。
【0015】
本発明に係るX線発生装置では、電子放出手段は、結晶の表面に設けられた薄膜をターゲットとし、該ターゲットにレーザ光を照射して該ターゲットから電子を放出させるのが好適である。また、この場合、本発明に係るX線発生装置は、ターゲットへのレーザ光の入射位置に該レーザ光を通過させる貫通孔を有しターゲットを保護する保護部材を更に備えるのが好適である。
【0016】
本発明に係るX線発生装置では、電子放出手段は、第2反射鏡と結晶との間に設けられた薄膜をターゲットとし、該ターゲットにレーザ光を照射して該ターゲットから電子を放出させるのが好適である。また、この場合、本発明に係るX線発生装置は、ターゲットから放出された電子をコリメートする電子用コリメータを更に備えるのが好適である。
【0017】
本発明に係るX線発生装置では、電子放出手段は、第2反射鏡と結晶との間に存在するガスをターゲットとし、該ターゲットにレーザ光を照射して該ターゲットから電子を放出させるのが好適である。また、この場合、本発明に係るX線発生装置は、ターゲットとしてのガスを容器の内部に供給するガス供給手段を更に備えるのが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るX線発生装置は、PXR現象を利用したものであって、X線放射方向を一定に維持したままX線波長を変化させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0020】
図2〜図5は、本実施形態に係るX線発生装置1の構成を示す図である。図2は、X線発生装置1の外観を示す斜視図であり、容器30の内部にある各要素を破線で示している。図3は、容器30の内部の構成を示す斜視図であり、容器30を二点鎖線で示している。図4は、容器30の内部を所定ライン(レーザ光入射ライン)に沿った方向に見たときの図である。また、図5は、容器30の内部を上方から見たときの図である。
【0021】
本実施形態に係るX線発生装置1は、光源10、架台20上に置かれた容器30およびX線用コリメータ40、ならびに、排気装置50を備える。光源10は、容器30の内部に入力されるべき超短パルスの高強度レーザ光91を出力するものである。架台20の上には、ゴニオステージ39を介して容器30が置かれ、また、支持部材41を介してX線用コリメータ40が置かれている。架台20の上に光源10が置かれていてもよい。また、容器30には排気管51を介して排気装置50が接続されている。容器30は、光源から出力されるレーザ光91が外部から所定ラインに沿って内部へ入力されるものであり、外形が円柱形状を呈しており、内部を排気することが可能な容器である。
【0022】
容器30は、所定ラインに沿ってレーザ光91を外部から内部へ通過させるレーザ光入射窓31と、容器30の内部にある結晶90で発生したX線93を内部から外部へ通過させるX線出射窓32とを有する。所定ライン(レーザ光入射ライン)は、円柱形状の容器30の中心軸に一致するラインである。レーザ光入射窓31は、円柱形状の容器30の底面の中央領域に設けられていて、レーザ光91を低損失で透過させ得るガラス材料からなる。レーザ光入射窓31は、容器30の内部にある結晶90で発生したX線93を通過させ得る材料および厚みからなる金属膜であり、例えばベリリウムからなる。X線93の放射方向は、所定ライン(レーザ光入射ライン)に垂直な面に平行である。
【0023】
容器30の内部には、第1反射鏡33、支持部材34、第2反射鏡35、支持部材36、XYステージ37およびゴニオステージ38が設けられている。容器30の内部に、支持部材34を介して第1反射鏡33が設けられ、支持部材36を介して第2反射鏡35が設けられている。また、容器30の内部にゴニオステージ38が設けられ、そのゴニオステージ38の上にXYステージ37が設けられている。
【0024】
第1反射鏡33は、レーザ光入射窓31を経て容器30の内部へ入力されて所定ラインに沿って入射されたレーザ光91を、所定ラインと異なる方向へ反射させる。第2反射鏡35は、第1反射鏡33により反射されて到達したレーザ光91を、所定ラインに垂直な面に平行であって入射方向と異なる方向へ反射させる。また、第2反射鏡35は、軸はずし放物面鏡となっており、反射させたレーザ光91を集光させる。XYステージ37は、電子放出手段により放出された電子の入射に伴いX線を発生させる結晶90を保持する。ゴニオステージ38は、XYステージ37および結晶90を回転移動させる第1移動手段として作用する。ゴニオステージ38による回転移動の中心軸は、結晶90への電子の入射位置を通り所定ラインに平行なラインである。
【0025】
なお、電子放出手段は、容器30の内部に設けられ、第2反射鏡35により反射されたレーザ光91をターゲットに照射して該ターゲットから電子を放出させるものである。本実施形態では、この電子放出用のターゲットは結晶90の表面に設けられている。詳細については後述する。
【0026】
ゴニオステージ39は、所定ライン(レーザ光入射ライン)を中心軸として容器30を回転移動させる第2移動手段として作用する。この容器30の回転移動の際には、容器30の内部にある各要素および結晶90も、所定ライン(レーザ光入射ライン)を中心軸として回転移動する。
【0027】
X線用コリメータ40は、架台20の上に支持部材41を介して設けられていて、容器30内の結晶90で発生して容器30外へ出力されたX線93のうち特定方向に進むX線93を選択的に出力する。排気装置50は、排気管51を介して容器30に接続されていて、容器30の内部を排気して真空にする。
【0028】
図6は、本実施形態に係るX線発生装置1におけるX線放射用の結晶90および電子放出用のターゲット80の構成を示す断面図である。この図に示されるように、結晶90の表面は結晶格子面に平行である。結晶90の該表面に電子放出手段としてのターゲット80として薄膜が設けられている。このターゲット80は、効率よく電子92を放出するために金属薄膜であるのが好ましく、例えばチタン,タンタルまたは金の蒸着膜などからなる。第2反射鏡35により反射されたレーザ光91がターゲット80に集光照射されると、ターゲット80においてプラズマが発生して、ターゲット80から電子92が放出され、その電子92は結晶90に入射される。
【0029】
ターゲット80からの電子92の放出方向は、ターゲット80へのレーザ光91の入射方向と等しく、鋭い指向性を有する。例えば、集光強度1018W/cm以上のパルスレーザ光91がターゲット80に照射されて生じたレーザプラズマからは、鋭い指向性を有しエネルギーが数〜数十MeVの電子92が、レーザ光のパルス長と同程度(数十〜100fs)の短時間内に大量に放出される。このターゲット80から放出された電子92が結晶90に入射されると、PXR現象により結晶90からX線93が放射される。
【0030】
次に、本実施形態に係るX線発生装置1の動作について説明する。まず、容器30の内部は、排気管51を介して接続されている排気装置50により排気され真空とされる。光源10から出力された超短パルスの高強度レーザ光91は、所定ラインに沿って容器30のレーザ光入射窓31を通過して、容器30の内部へ入力される。容器30の内部へ入力されたレーザ光91は、所定ライン(レーザ光入射ライン)に沿って第1反射鏡33に入射され、第1反射鏡33および第2反射鏡35により順次に反射される。
【0031】
第2反射鏡35により反射されたレーザ光91は、XYステージ37により保持された結晶90の表面に形成された金属薄膜ターゲット80に集光照射される。このとき、ターゲット80へのレーザ光91の入射方向は、所定ライン(レーザ光入射ライン)に垂直な面に平行である。レーザ光91がターゲット80に集光照射されると、ターゲット80においてプラズマが発生して、ターゲット80から電子92が放出され、その電子92は結晶90に入射される。
【0032】
ゴニオステージ38およびゴニオステージ39により、結晶90の格子面と電子92の入射方向との角度θおよび結晶90の格子面間隔dは、或る次数nに対してブラッグ条件と同様の条件を満たすよう調整されている。したがって、PXR現象により、「E=cn/(2d sinθ)」なる式で表されるエネルギーEを有するX線93が結晶90で放射される。このときの結晶90の格子面からのX線93の放射方向は、結晶90の格子面への電子92の入射方向に対して角度2θをなしており、所定ライン(レーザ光入射ライン)に垂直な面に平行である。この結晶90で発生したX線93は、容器30のX線出射窓32を通過して、容器30の外部へ出力される。そして、容器30の外部へ出力されたX線93のうち特定方向に進むX線がX線用コリメータ40により選択的に出力される。
【0033】
PXR現象を発現させる場合、結晶90に入射される電子92の速度(エネルギー)は相対論的であることが必要である。すなわち、電子92の速度は光速レベルであることが必要である。例えば、エネルギー1MeVの電子は、速度が0.94c(光速の94%)であり、PXR現象を発現させるのに十分である。また、エネルギー10MeVの電子の速度は0.9988cに達し、エネルギー100MeVの電子の速度は0.99999cに対応しており、何れもPXR現象を発現させる条件を十分に満足する。レーザ光91を金属薄膜ターゲット80に集光照射してエネルギー1MeV以上の電子92を発生させるためには、その集光強度は1017W/cm以上であることが必要である。これは、ピーク出力0.1TWのレーザ光91を10μm×10μmの範囲に集光した場合に相当する。
【0034】
なお、ピーク出力1TW以上のレーザ光91を10μm×10μm以下の範囲に集光して、集光強度1018W/cmを得ることが好適である。ピーク出力1TWを得るためには、レーザ光91のパルス幅が100fsであり、エネルギーが100mJであることが必要である。ここで、レーザ光91のパルス幅が短い場合、少ないエネルギーで同じピーク出力が得られる。例えば、パルス幅50fsの場合、エネルギー50mJでピーク出力1TWが得られる。また、ピーク出力が小さい場合であっても狭い領域にレーザ光91を集光できるのであれば、同じ集光強度を得ることができる。例えば、上記の集光強度1018W/cmを得る場合、パルス幅100fs、エネルギー25mJでピーク出力が0.25TWと少なくても、集光範囲を5μm×5μmにできれば良い。
【0035】
レーザプラズマを利用して高エネルギー電子を発生させる場合、重要なパラメータは集光強度(W/cm)であり、この集光強度を実現するためのレーザ光91のパルス幅およびエネルギーならびにターゲット80での集光範囲は上記のように適宜選定することができる。
【0036】
本実施形態に係るX線発生装置1は、PXR現象を利用するものであるので、出力されるX線93の波長を変化させることができる。すなわち、X線発生装置1は、容器30の内部にあるゴニオステージ38により、結晶90への電子の入射位置を通り所定ライン(レーザ光入射ライン)に平行なラインを中心軸として結晶90を角度αだけ回転移動させることにより、結晶90の結晶面への電子92の入射角を(θ+α)に変更することができる。或る次数nに対してブラッグ条件と同様の条件を満たすように入射角(θ+α)が調整されると、PXR現象により、「E=cn/(2d sin(θ+α)」なる式で表されるエネルギーEを有するX線93が結晶90で放射される。
【0037】
このときの結晶90の格子面からのX線93の放射方向は、結晶90の格子面への電子92の入射方向に対して角度2(θ+α)をなしており、所定ライン(レーザ光入射ライン)に垂直な面に平行である。この結晶90で発生したX線93は、容器30のX線出射窓32を通過して、容器30の外部へ出力される。しかし、このままでは、入射角(θ+α)のときに発生するX線は、入射角θのときに発生したX線の放射方向と異なる方向に放射され、X線用コリメータ40によりコリメートされ得ない。
【0038】
そこで、X線発生装置1は、容器30の外部にあるゴニオステージ39により、所定ライン(レーザ光入射ライン)を中心軸として、角度(−2α)だけ、容器30を回転移動させるとともに、容器30の内部にある各要素および結晶90も同時に回転移動させる。その結果、入射角(θ+α)のときに発生するX線は、入射角θのときに発生したX線の放射方向と同じ方向に放射され、X線出射窓32を通過して容器30の外部へ出力され、X線用コリメータ40によりコリメートされ得るようになる。X線出射窓32は、このように容器30が回転移動した場合にもX線93を外部へ出力させ得るように、容器30の周方向に長い形状を有している。
【0039】
一般に、固体物質にレーザ光が集光照射されると、レーザ光照射領域の表面は加工される。したがって、ターゲット80の1つの領域では1回しかX線93を発生させることができない。そこで、本実施形態に係るX線発生装置1では、繰り返してX線93を発生させるために、XYステージ37により結晶90を移動させて、常に新しい領域にレーザ光を照射するようにする。すなわち、結晶90を保持するXYステージ37は、その結晶90の格子面に平行な2次元の方向に結晶90を平行移動させることができる。XYステージ37により結晶90が平行移動されても、ブラッグ条件は維持され、結晶90から放射されるX線93のエネルギーおよび放射方向は変わらない。
【0040】
また、一般に、レーザ光照射によって固体表面が加工されるとき、その表面の物質などが周囲に飛散し、レーザ光未照射の領域の表面に飛散物が付着する恐れがある。そこで、本実施形態に係るX線発生装置1では、このような飛散物の付着を防止するために、図7に示されるような保護部材81が設けられる。保護部材81は、結晶90の表面に設けられたターゲット80へのレーザ光91の入射位置に該レーザ光91を通過させる貫通孔81Aを有し、レーザ光未照射の領域の表面への飛散物の付着を防止してターゲット80を保護するものである。保護部材81は、支持部材82を介してゴニオステージ38の上面に固定されており、XYステージ37により結晶90が平行移動されても、貫通孔91Aの位置は変化しない。
【0041】
これまでに説明してきた実施形態では、結晶90の表面にターゲット80として薄膜が設けられていた。しかし、電子放出手段としてのターゲット80は、その他に種々の態様があり得る。
【0042】
図8は、本実施形態に係るX線発生装置1における結晶90およびターゲット80の他の構成例を示す図である。この構成例では、ターゲット80としての薄膜は、結晶90の表面に設けられているのではなく、第2反射鏡35と結晶90との間の空間に設けられている。このターゲット80は、一方向に長いテープ状であるのが好適であり、また、効率よく電子92を放出するために金属薄膜であるのが好適であり、例えば、チタンやタンタルなどの厚さ5〜10μmのテープが用いられる。また、ターゲット80と結晶90との間の空間に、ターゲット80から放出された電子92をコリメートする電子用コリメータ83が設けられるのが好適である。
【0043】
図8に示される構成例では、第2反射鏡35により反射されたレーザ光91が薄膜ターゲット80に集光照射されると、そのターゲット80においてプラズマが発生して、ターゲット80から電子92が放出される。その電子92は、電子用コリメータ83により方向性が整えられて、結晶90に入射される。そして、電子92が入射された結晶90ではPXR現象によりX線93が放射される。
【0044】
なお、図8に示される構成例では、薄膜ターゲット80の1つの領域では1回しか電子92を放出させることができない。そこで、薄膜ターゲット80を平行移動させる機構が設けられるのが好ましい。また、薄膜ターゲット80がテープ状のものであれば、ボビンに巻かれたテープ状の薄膜ターゲット80を一端から繰り出す機構が設けられるのが好ましい。
【0045】
図9は、本実施形態に係るX線発生装置1における結晶90およびターゲット80の更に他の構成例を示す図である。この構成例では、ターゲット80として、第2反射鏡35と結晶90との間に存在するアルゴン,窒素およびキセノンなどのガスが用いられる。ターゲット80としてのガスを容器30の内部に供給するガス供給手段が設けられているのが好ましい。このガスターゲット80は、レーザ光91のパルスに同期して容器30内に供給される。
【0046】
図9に示される構成例では、第2反射鏡35により反射されたレーザ光91がガスターゲット80に集光照射されると、そのターゲット80においてプラズマが発生して、ターゲット80から電子92が放出される。その電子92は結晶90に入射される。そして、電子92が入射された結晶90ではPXR現象によりX線93が放射される。
【0047】
なお、図9に示される構成例では、ガスを連続して容器30内に供給することは容易であり、長時間にわたってX線93を放射することが可能である。また、ガスターゲット80で放出される電子92は、数十MeVのエネルギーで、かつ、高い指向性を持つので、強度の強いX線93を放射することができる。
【0048】
図6に示された構成例では、X線放射用の結晶90と電子放出用のターゲット80とが一体であったので、レーザ光91のパルス照射の度に結晶90を平行移動させる必要があった。これに対して、図8および図9それぞれに示される構成例では、X線放射用の結晶90と電子放出用のターゲット80とが分離されているので、結晶90は電子照射ではダメージを受けず何度でも使用することができ、したがって、XYステージ37および保護部材81は不要である。
【0049】
本実施形態に係るX線発生装置1は、PXR現象を利用してコヒーレントな硬X線を発生させることができるものであり、レーザプラズマ中に形成された反転分布を利用するX線レーザ装置(以下「比較例」という。)と比較して、以下のような優位点を有する。すなわち、比較例では340eVが現在の最高エネルギーであるが、本実施形態では容易に10keV以上の単色X線が得られる。本実施形態では、結晶に入射されるレーザ光または電子の角度を変化させることで、発生させるX線の波長を容易に変化させることができる。本実施形態では、結晶への入射角度を変化させる場合、容器30を回転移動させることにより、出射されるX線の方向を一定とすることができ、使用する際の操作性が優れる。また、比較例では、ガスターゲットそのものがX線源となるのに対して、本実施形態では、X線放射用の結晶90と電子放出用のターゲット80とが分離したような配置も可能であるので、装置の構成の自由度が高い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】PXR現象によるX線発生を説明する図である。
【図2】本実施形態に係るX線発生装置1の外観を示す斜視図である。
【図3】本実施形態に係るX線発生装置1の容器30の内部の構成を示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係るX線発生装置1の容器30の内部を所定ライン(レーザ光入射ライン)に沿った方向に見たときの図である。
【図5】本実施形態に係るX線発生装置1の容器30の内部を上方から見たときの図である。
【図6】本実施形態に係るX線発生装置1における結晶90およびターゲット80の構成を示す断面図である。
【図7】本実施形態に係るX線発生装置1における結晶90,ターゲット80および保護部材81の構成を示す斜視図である。
【図8】本実施形態に係るX線発生装置1における結晶90およびターゲット80の他の構成例を示す図である。
【図9】本実施形態に係るX線発生装置1における結晶90およびターゲット80の更に他の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0051】
1…X線発生装置、10…光源、20…架台、30…容器、31…レーザ光入射窓、32…X線出射窓、33…第1反射鏡、34…支持部材、35…第2反射鏡、36…支持部材、37…XYステージ、38…ゴニオステージ、39…ゴニオステージ、40…X線用コリメータ、41…支持部材、50…排気装置、51…排気管、80…ターゲット、81…保護部材、82…支持部材、83…電子用コリメータ、90…結晶、91…レーザ光、92…電子、93…X線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力する光源と、
前記光源から出力されるレーザ光が外部から所定ラインに沿って内部へ入力される容器と、
前記容器の内部に設けられ、前記容器の内部へ入力されて前記所定ラインに沿って入射されたレーザ光を、前記所定ラインと異なる方向へ反射させる第1反射鏡と、
前記容器の内部に設けられ、前記第1反射鏡により反射されて到達したレーザ光を、前記所定ラインに垂直な面に平行であって入射方向と異なる方向へ反射させる第2反射鏡と、
前記容器の内部に設けられ、前記第2反射鏡により反射されたレーザ光をターゲットに照射して該ターゲットから電子を放出させる電子放出手段と、
前記容器の内部に設けられ、前記電子放出手段により放出された電子の入射に伴いX線を発生させる結晶を保持し、この結晶への電子の入射位置を通り前記所定ラインに平行なラインを中心軸として前記結晶を回転移動させる第1移動手段と、
前記所定ラインを中心軸として前記容器を回転移動させる第2移動手段と、
を備えることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記結晶で発生して前記容器の外部へ出力されたX線のうち特定方向に進むX線を選択的に出力するX線用コリメータを更に備えることを特徴とする請求項1記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記容器が、内部を排気することが可能な容器であって、前記所定ラインに沿ってレーザ光を外部から内部へ通過させるレーザ光入射窓と、前記結晶で発生したX線を内部から外部へ通過させるX線出射窓とを有し、
前記容器の内部を排気する排気手段を更に備える、
ことを特徴とする請求項1記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記電子放出手段が、前記結晶の表面に設けられた薄膜を前記ターゲットとし、該ターゲットにレーザ光を照射して該ターゲットから電子を放出させる、ことを特徴とする請求項1記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記電子放出手段が、前記第2反射鏡と前記結晶との間に設けられた薄膜を前記ターゲットとし、該ターゲットにレーザ光を照射して該ターゲットから電子を放出させる、ことを特徴とする請求項1記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記電子放出手段が、前記第2反射鏡と前記結晶との間に存在するガスを前記ターゲットとし、該ターゲットにレーザ光を照射して該ターゲットから電子を放出させる、ことを特徴とする請求項1記載のX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−21045(P2009−21045A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−181163(P2007−181163)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、文部科学省、科学技術試験研究委託費、光技術を融合した生体機能計測技術の研究開発、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】