説明

X線発生装置

【課題】人手を使った電子銃の交換作業に支障を来たすこと無く、モノクロメータによるX線の集光効率を向上できるX線発生装置を提供する。
【解決手段】フィラメント11から出た電子が回転対陰極4に衝突する領域であるX線焦点FからX線を発生するX線発生装置1である。X線発生装置1は、フィラメント11を取り囲むウエネルト電極12と、ウエネルト電極12と一体である取付部13と、取付部13が取り付けられる台座20と、台座20及び対陰極4を収容しているケーシング2とを有している。ケーシング2が対陰極4を収容している空間K2の幅W32は、ケーシング2が台座20を収容している空間K1の幅W31よりも狭い。ウエネルト電極12は、取付部13が台座20に取り付けられた状態で、ケーシング2が対陰極4を収容している空間K2内へ延び出ている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陰極から発生した電子を対陰極に衝突させて当該対陰極からX線を発生するX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のX線発生装置は、例えばX線分析装置において分析対象である試料へ照射されるX線を発生する装置である。この種のX線発生装置として特許文献1に開示されたものが知られている。このX線発生装置は、図7に示すように、陰極であるフィラメント51を内蔵した電子銃52と、フィラメント51に対向して設けられた回転対陰極53とを有している。電子銃52は、部分拡大図である図7(a)に示すように、扁平な直方体形状に形成されている。扁平な直方体形状の電子銃は、例えば、特許文献2にも開示されている。
【0003】
電子銃52の直方体形状を形付けているハウジング54は導電性のウエネルト電極を兼ねている。フィラメント51に対向する部分のウエネルト電極には、フィラメント51から発生した電子を通過させる領域である開口55が設けられている。電子銃52及び回転対陰極53はケーシング57の内部に設けられている。ケーシング57の内部は真空状態で気密に保持されている。
【0004】
ケーシング57はアースされ、フィラメント51は例えば−60kVの電位であり、ウエネルト電極54はフィラメント51に対して数百Vだけ異なった電位である。通電によりフィラメント51から発生した電子(熱電子)は、上記の高電圧の下に回転対陰極53の表面に衝突する。このように電子が衝突した領域がX線焦点Fである。このX線焦点FからX線R0が発生する。このX線R0は、ベリリウム等によってケーシング57の壁の適所に形成されたX線取出し窓56を介して外部へ取り出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−014895号公報(第3頁、図1)
【特許文献2】特開2007−115553号公報(第5〜6頁、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図7において、従来のX線発生装置の各部の寸法は概ね次の通りであった。
電子銃52の幅W0=30mm、
回転対陰極53の幅W1=20mm、
電子銃52とケーシング57の壁の内面との距離W2=15mm、
回転対陰極53の面平行方向(幅方向と直角の方向)に延びる中心線X2からケーシング57の壁の外面までの距離W3=55mm、
回転対陰極53の面平行方向に延びる中心線X2からX線処理要素(例えば、モノクロメータ、X線集光ミラー等といったX線処理構造体)59の先端までの距離W4=60mm、
である。
【0007】
電子銃52は消耗品であり、必要に応じて別の電子銃52と交換する必要がある。また、電子銃52を別の種類の電子銃に交換する必要がある場合がある。その交換の際には、電子銃52に近い位置に設けた蓋58をケーシング57の壁から取り外し、電子銃52を台座60から取り外し、その後、別の電子銃52を台座60に取り付ける。上記の電子銃幅W0及び電子銃隙間W2は、このような電子銃の交換作業を人手によって行う場合を考慮している。
【0008】
しかしながら、上記のような形状及び寸法の従来のX線発生装置においては、X線処理要素59の設置距離W4が60mm程度のように大きくならざるを得なかった。一般に、X線焦点FからX線処理要素59までの距離が大きくなると、X線焦点Fから出たX線のうちX線処理要素59によって取り込むことができるX線の角度が小さくなる。そのため、X線焦点Fから発生したX線の多くの部分を有効に利用することができないという問題があった。つまり、X線処理要素59によるX線の集光効率を高く維持することができないという問題があった。
【0009】
他方、仮にX線処理要素59の設置距離W4を小さくすると、電子銃52をケーシング57の内部に取付け及びそこから取外すために特殊工具が必要となる上、X線発生装置のメーカの保守が必要となり、非常に不便になる。
【0010】
本発明は、従来装置における上記の問題点に鑑みて成されたものであって、人手を使った電子銃の交換作業に支障を来たすこと無く、モノクロメータ等といったX線処理要素によるX線の集光効率を向上できるX線発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るX線発生装置は、陰極から出た電子が対陰極に衝突する領域であるX線焦点からX線を発生するX線発生装置において、前記陰極を取り囲むウエネルト電極と、前記ウエネルト電極と一体である取付部と、前記取付部が取り付けられる台座と、前記台座及び前記対陰極を収容しているケーシングとを有しており、前記ケーシングが前記対陰極を収容している空間の幅は、前記ケーシングが前記台座を収容している空間の幅よりも狭く、前記ウエネルト電極は、前記取付部が前記台座に取り付けられた状態で、前記ケーシングが前記対陰極を収容している空間内へ延び出ていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、ケーシングが対陰極を収容している空間(対陰極収容空間)の幅が、ケーシングが台座を収容している空間(台座収容空間)の幅よりも狭くなっているので、台座収容空間の幅を、人手を使った電子銃の交換作業に支障を来たすことの無い比較的広い幅に設定した場合でも、対陰極収容空間の幅を狭くすることができる。
【0013】
このようにケーシングの対陰極収容空間の幅を狭くすれば、ケーシングの外部にX線処理要素(例えば、モノクロメータ、X線集光ミラー等)を配置する場合に、対陰極の面平行方向に沿った中心線(すなわちX線焦点を通る対陰極の中心線)からそのX線処理要素までの距離を小さくすることができる。X線焦点からX線処理要素までの距離を小さくできれば、X線焦点から出てX線処理要素によって取込まれるX線の取込み角度の範囲及びその取込み角度に応じたX線の取込み長さの範囲を大きくすることができるので、X線処理要素によるX線集光効率を高めることができる。
さらに、X線焦点からX線処理要素の間の距離が短くなるため、空気散乱等によるX線の強度の減衰を抑えることもできる。
【0014】
本発明に係るX線発生装置において、前記ウエネルト電極の幅は前記取付部の幅よりも狭いことが望ましい。これにより、ウエネルト電極の幅を狭くしても電子銃の取付部の幅は広いままに保持できるので、電子銃の交換作業の作業性が悪くなることを防止できる。
【0015】
本発明に係るX線発生装置は、前記対陰極を収容しているケーシングに設けられたX線取出し窓を、さらに有することができる。そして、前記対陰極の面平行方向の中心線から前記X線取出し窓までの距離は、前記対陰極の面平行方向の中心線から前記台座を収容している部分のケーシングの内面までの距離よりも小さく設定することができる。この構成により、台座に対して電子銃を着脱する作業の容易性を確保した上で、X線取出し窓の外側に設置するX線処理要素と対陰極上のX線焦点との間の距離を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ケーシングの対陰極収容空間の幅が、ケーシングの台座収容空間の幅よりも狭くなっているので、台座収容空間の幅を、人手を使った電子銃の交換作業に支障を来たすことの無い比較的広い幅に設定した場合でも、ケーシングの対陰極収容空間の幅を狭くすることができる。
【0017】
このようにケーシングの対陰極収容空間の幅を狭くすれば、ケーシングの外部にX線処理要素(例えば、モノクロメータ、X線集光ミラー等)を配置する場合に、対陰極の面平行方向に沿った中心線(すなわちX線焦点を通る対陰極の中心線)からX線処理要素までの距離を小さくすることができる。X線焦点からX線処理要素までの距離を小さくできれば、X線焦点から出てX線処理要素によって取込まれるX線の取込み角度を大きくすることができるので、X線処理要素によるX線集光効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るX線発生装置の一実施形態を示す平面断面図である。
【図2】図1のA−A線に従ったX線発生装置の側面断面図である。
【図3】図1のX線発生装置の主要部を拡大してしめす断面図である。
【図4】図2の矢印Bに従って電子銃の正面の構成を示す図である。
【図5】回転対陰極からのX線の取り出し方を説明するための平面図である。
【図6】図1のX線発生装置の他の主要部であるモノクロメータを示す斜視図である。
【図7】従来のX線発生装置の一例を示す平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係るX線発生装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0020】
図1は、本発明に係るX線発生装置の一実施形態を示す平面断面図である。図2は、図1のA−A線に従ったそのX線発生装置の側面断面図である。図3は、図1の主要部である電子銃及びその周辺の拡大図である。
【0021】
これらの図において、X線発生装置1は、金属製のケーシング2と、ケーシング2の内部に設けられた電子銃3と、電子銃3に対向して設けられた回転対陰極4とを有している。電子銃3と回転対陰極4とが対向している部分のケーシング2の壁の部分にX線取出し窓6が設けられている。X線取出し窓6は、X線を通過させることができる材料、例えば、Be(ベリリウム)によって形成されている。ケーシング2において電子銃3が設けられている側の端部は、電子銃3(すなわち、後述するウエネルト電極12及びそれと一体な取付部13)を出し入れできる大きさの開口となっている。そして、その開口は蓋5によって閉じられている。蓋5はケーシング2に対して、ネジその他の締結手段によって着脱可能となっている。
【0022】
図1では、ケーシング2の右側の壁(図2の図示しない手前側の壁)にX線取出し窓6を設ける例を示したが、X線取出し窓6はケーシング2の左側の壁(図2の奥側の壁)に設けることもできる。また、X線取出し窓6は、図1の手前側及び/又は奥側(すなわち、図2に示すX線発生装置1の上側U及び/又は下側D)に設けることもできる。
【0023】
X線発生装置1は、また、X線取出し窓6の外部の近傍に設けられたX線シャッタ7と、X線シャッタ7の後部(図1の右部)に設けられたX線処理要素としての集光機能を備えたモノクロメータ8と、不要なX線の進行を遮断するスリット9とを有している。X線取出し窓6は、X線焦点Fから発生したX線をモノクロメータ8が取り込む角度β(図3参照)の範囲よりも広い照射角度を有している。なお、X線処理要素としては、モノクロメータ以外のX線処理構造体を用いることもできる。
【0024】
X線発生装置1がX線測定装置、すなわちX線分析装置に適用される場合には、スリット9を通過したX線は試料S、例えばタンパク質の微小領域、例えば50×50μm〜150×150μmの範囲内の領域を照射する。そして、試料Sで回折が生じた場合には、その回折線が図示しないX線検出器によって検出される。X線測定装置は特定の構成に限定されるものではなく、集中法回折測定装置、平行ビーム法回折測定装置、その他種々のX線測定装置に適用できる。
【0025】
電子銃3は、図2及び図3に示すように、陰極としてのフィラメント11と、フィラメント11を取り囲むウエネルト電極12と、ウエネルト電極と一体である取付部13とを有している。ウエネルト電極12は本実施形態ではその全体が単一の金属材料によって形成されている。しかしながら、ウエネルト電極12は、必要に応じて、複数の部品によって形成されることもある。
【0026】
フィラメント11は、例えばW(タングステン)によって形成されている。図4は、図2の矢印Bに従って電子銃3を正面から見た状態を示している。フィラメント11は、長さL1のコイル状、すなわち螺旋状のフィラメントによって形成されている。フィラメント11の前面には電子を通過させるための開口14が設けられている。
【0027】
図1及び図2から理解されるように、回転対陰極4は円盤形状に形成されている。回転対陰極4の外周表面は、希望する波長のX線を発生できる材料によって形成されている。例えば、CuKα線を希望する場合には、Cu(銅)によって形成されている。
【0028】
なお、フィラメントとターゲットとの組み合わせは、タングステンと銅との組み合わせに限られない。例えば、フィラメントは、コイル形状のタングステンでは無く、断面矩形状で棒状又は板状のLaBを適宜の外観形状に形成したものとすることもできる。また、ターゲットは、Cr(クロム)又はW(タングステン)とすることもできる。
【0029】
回転対陰極4は、図示しない駆動装置によって駆動されて、対陰極4自身の幅方向(すなわち、円形状の平面と直交する方向)に延びる中心線X0を中心として回転する。例えば、9,000〜12,000rpmの回転速度で回転する。駆動装置は、図示されていないが、例えば回転対陰極4の中心軸と駆動源とをベルトで連結して成るベルト駆動方式や、回転対陰極4の中心軸を電磁力によって直接に回転駆動するダイレクトドライブ方式等、任意の構成とすることができる。異なる方式の駆動方法を採用する場合でケーシング2の形状が変わることがあるが、いずれの場合でもケーシング2はその内部を気密に保持する。
【0030】
図5は、陰極であるフィラメント11と回転対陰極4とを模式的に示している。図5において、回転対陰極4は電気的に接地されている。回転対陰極4とフィラメント11との間には負の電圧V1、例えばV1=45〜60kVが印加されている。フィラメント11とウエネルト電極12との間には負の電圧V2、例えばV2=200Vが印加されている。フィラメント11は通電によって発熱して熱電子を放出する。放出された電子は、ウエネルト電極12によって進行方向を制御されながら、電圧V1によって加速されて回転対陰極4の外周面に衝突する。こうして回転対陰極4の外周面に電子が衝突した領域がX線焦点Fであり、このX線焦点FからX線が空間の全方位に発生する。
【0031】
回転対陰極4の外周面上に形成された実際のX線焦点Fは実焦点と呼ばれる。実焦点Fの大きさは、例えばフィラメント11の形状に対応した幅W5、長さL0の長方形状である。寸法は、例えば、W5=40μm、L0=400μmの長方形状からW5=70μm、L0=700μmの長方形状である。
【0032】
X線焦点Fから全方位に放出されたX線は、回転対陰極4の回転中心線X0と平行方向に設けられた(すなわち実焦点Fの短手側に設けられた)取出し窓6から外部へ取り出されたり、回転中心線X0と直角方向に設けられた(すなわち実焦点Fの長手側に設けられた)取出し窓16から外部へ取り出される。X線焦点Fに対する取出し窓6の角度α1及びX線焦点Fに対する取出し窓16の角度α2は、X線取出し角と呼ばれており、これらの角度は例えば角度5°〜6°である。なお、X線取出し窓6は図1に示したX線取出し窓6と同じものである。また、X線取出し窓16は図1に示す本実施形態では設けられていない。
【0033】
実焦点端手側の窓6から取り出されるX線についてのX線焦点、及び実焦点長手側の窓16から取り出されるX線についてのX線焦点は、実効焦点と呼ばれている。実焦点短手側の窓6から取り出されるX線の実効焦点の大きさは、実焦点が40×70μmであれば、40×40μmの矩形状又はφ(直径)40μmの円形状である。他方、実焦点が70×700μmであれば70×70μm又はφ70μmである。こうして取り出されたX線はポイントフォーカスのX線と呼ばれる。
【0034】
実焦点長手側の窓16から取り出されるX線の実効焦点の大きさは、実焦点が40×70μmであれば、40×70μmの長方形状である。他方、実焦点が70×700μmであれば70×700μmの長方形状である。こうして取り出されたX線はラインフォーカスのX線と呼ばれる。
【0035】
ポイントフォーカス又はラインフォーカスは、X線回折装置、X線散乱装置等といったX線分析装置によって行われる測定の種類に応じて適宜に選択して使用される。本実施形態では、実焦点端手側の1つのX線取出し窓6からポイントフォーカスのX線を取り出すものとしている。
【0036】
図1及び図2において、ケーシング2はその内部を真空状態に保持する機能を持っている。そのため、ケーシング2には、ターボ分子ポンプとロータリーポンプとを備えた排気系や、その他の任意の構成から成る排気系が付設される。しかしながら、図1及び図2ではその排気系の図示を省略している。異なる方式の排気系を際王する場合でケーシング2の形状が変わることがあるが、いずれの場合でもケーシング2はその内部を気密に保持する。
【0037】
図2において、ケーシング2の端部に電子銃3の支持装置18が設けられている。この支持装置18は、セラミックによって形成されたガイシ19と、ガイシ19の上に固定された台座20とを有している。電子銃3の取付部13は、ネジ等といった固定具によって台座20の上に固定されている。この固定は、ネジ以外の任意の固定手段を用いて行っても良い。ガイシ19はベアリング21によって自身の中心線X1を中心として回転可能にケーシング2に支持されている。ガイシ19従って台座20の回転中心線X1は、回転対陰極4の回転中心線X0に直交している回転対陰極4の幅方向の中心線X2、すなわち回転対陰極4の円形状の面に対して平行方向に延びる回転対陰極4の中心線X2と交差している。
【0038】
ガイシ19及びそれに固定された台座20は中心線X1を中心として回転可能であるが、通常は、図1に示す位置、すなわち、電子銃3のウエネルト電極12が回転対陰極4と一直線を成す位置に固定されている。ウエネルト電極12が回転対陰極4と一直線を成す位置とは、ウエネルト電極12が回転対陰極4の面平行方向に延びる中心線(すなわち回転対陰極4の幅方向の中心線)X2上に載る位置である。
【0039】
ウエネルト電極12を上記の固定状態から解除することにより、台座20及びそれに取り付けられた電子銃3を線X1を中心として小さな角度で回転移動、すなわち傾斜移動させることができる。そして、台座20はその傾斜移動させた後の位置に固定することができる。このような電子銃3の傾斜移動は、回転対陰極4の外周面上における電子の衝突領域、すなわちX線焦点Fの形成領域を、回転対陰極4の外周面上で変化させるためのものである。例えば、回転対陰極4の外周表面の中心から左側の部分と右側の部分とを互いに異なる材料で形成した上で、電子銃3を左右方向へ傾斜移動させれば、回転対陰極4の外周面から発生するX線の波長を変化させることができる。
【0040】
図1のモノクロメータ8はX線焦点Fから出た複数種類の波長のX線を含むX線を単色化する。すなわち、モノクロメータ8は複数種類の波長のX線から特定波長のX線を選択的に取り出す。本実施形態においてモノクロメータ8は、いわゆるサイド・バイ・サイド構造の多層膜ミラーによって構成されている。このような多層膜ミラーは、例えば株式会社リガク製のマックス・フラックス(登録商標)を用いることができる。サイド・バイ・サイドの多層膜ミラーは、例えば図6に示すように、それぞれが湾曲したX線反射面21a,21bを有した2つの多層膜ミラー8a,8bを互いに直角に配置した構成となっている。
【0041】
個々の多層膜ミラー8a,8bは、図6の部分図(a)に模式的に示すように、複数の異なる物質から成る薄膜22を交互に積層することによって形成されている。例えば、Ni(ニッケル)とC(炭素)、Mo(モリブデン)とSi(シリコン)、W(タングステン)とBC、等といった各種の物質の積層の組み合わせを適用できる。図6(a)では便宜的に個々の薄膜22を非常に厚い膜厚で描いているが、実際には非常に薄い薄膜である。X線焦点Fから出たX線R0は各X線反射面21a,21bで反射(すなわち回折)する。反射したX線R1は、X線反射面21a,21bの湾曲形状に応じた進行経路をたどる。
【0042】
例えば、X線反射面21a,21bが楕円面であれば、X線焦点Fを1つの楕円焦点に置いたとき、反射X線R1はもう1つの楕円焦点に集束する集束X線となる。X線反射面21a,21bが放物面であれば、反射X線R1は平行X線となる。本実施形態では、X線反射面21a,21bを楕円面に設定し、試料Sが置かれる位置Pに反射X線R1が集束するように設定する。
【0043】
X線は、一般に、ブラッグの回折条件である2dsinθ=nλを満足するときに回折する。但し、「d」は格子面間隔、「θ」はブラッグ角(すなわち、X線の入射角及び反射角)、「n」は反射次数、「λ」は使用したX線の波長である。多層膜ミラー8a.8bでは、X線入射側からの距離をYとしたとき、Yの値が変化するごとにdの値を変化させて、距離Yの各位置においてX線が反射(すなわち回折)するように設定している。これにより、反射X線R1として強度の強いX線を得ている。
【0044】
図1において、ケーシング2のX線取出し窓6とX線処理要素としてのモノクロメータ8との間に設けられたX線シャッタ7は、例えば、図1の紙面垂直方向に延びる円筒形状に形成されており、さらにその円筒形状の中心線を横切る方向にX線通過用の貫通孔が設けられている。X線シャッタ7を自身の中心線の周りに矢印Cで示すように回転させて貫通孔をX線進行路に合わせるか、あるいは合わせないかにより、それぞれ、X線を通過させるか、あるいはX線の進行を遮断できる。
【0045】
本実施形態のX線発生装置1は以上のように構成されているので、図1において、図示しない排気系の働きにより、ケーシング2の内部が真空状態に設定される。その後、フィラメント11に通電が成されると、そのフィラメント11が発熱して熱電子が放出される。放出された熱電子は、ウエネルト電極12によって進行方向を制御されながら、回転対陰極4の外周面に衝突してX線焦点Fを形成する。そして、このX線焦点FからX線が空間の全方位に出射する。
【0046】
X線シャッタ7がX線の通過を許容する状態に設定されていると、X線シャッタ7を通過したX線R0がモノクロメータ8のX線反射面に入射する。モノクロメータ8は入射したX線を単色化し、単色化されたX線R1が試料S内の領域に集束する。スリット9は、不要なX線が試料Sに向かうことを防止する。試料Sに入射したX線は、その試料Sの結晶構造に対応して回折し、その回折線が図示しないX線検出器によって検出される。その検出結果を分析することにより、試料Sの結晶構造を解析できる。
【0047】
X線発生の処理を継続して行うと、電子銃3の特性が次第に劣化する。特性が許容限界よりも悪くなった場合には、電子銃3を交換する。また、測定の種類に応じて異なった種類の電子銃3に交換する必要が生じる場合がある。これらのような電子銃3の交換に際しては、ケーシング2の側端の蓋5をケーシング2から取り外し、ケーシング2が台座20を収容している空間K1(以下、台座収容空間K1と言うことがある)内に作業者が指を挿入し、電子銃3の取付部13を台座20から取り外し、さらに、電子銃3の全体をケーシング2の外側へ持ち出す。その後、別の電子銃3を台座収容空間K1内へ挿入し、その電子銃3の取付部13を台座20に固定することにより、電子銃3を回転対陰極4に対する所定位置に設置する。
【0048】
本実施形態において、ケーシング2等に関する形状及び寸法は、図3において、次のように設定されている。なお、各寸法は許容誤差を含んだ概略の値である。
電子銃3(ウエネルト電極12)の幅W10=10mm、
回転対陰極4の幅W11=10mm、
電子銃3(ウエネルト電極12)とケーシング2の壁の内面との距離W12=9.5mm、
電子銃3の取付部13とケーシング2の壁の内面との距離W22=15mm、
回転対陰極4の面平行方向の中心線X2からX線処理要素であるモノクロメータ8の先端までの距離W14=30mm、
である。
【0049】
上記のように、電子銃3の取付部13とケーシング2の壁の内面との距離W22は、約15mmに設定されている。これは、図7に示した従来装置において電子銃52とケーシング57の壁の内面との距離W2が約15mmであることに対応している。この寸法設定により、作業者は、ケーシング2の台座収容空間K1内への電子銃3の出し入れを支障なく行うことができる。
【0050】
本実施形態では、回転対陰極4の幅W11及び電子銃3のウエネルト電極12の幅W10を従来よりも狭く設定した。そして、それに対応して、ケーシング2が回転対陰極4を収容している空間K2(以下、対陰極収容空間K2と言うことがある)の幅W32を、ケーシング2の台座収容空間K1の幅W31よりも狭く設定した。そして、電子銃3に関して、取付部13の幅W30が従来の電子銃の幅と略等しく設定され、その取付部13から延びているウエネルト電極12(すなわち電子銃3の主体部分)の幅W10が取付部13の幅W30よりも狭くなっている。そして、電子銃3の取付部13が台座20に取り付けられた状態で、上記のように狭く形成されたウエネルト電極12が、ケーシング2の対陰極収容空間K2内へ延び出ている。
【0051】
なお、蓋5によってふさがれている台座収容空間K1の開口は、当該台座収容空間K1のうち前記対陰極収容空間(K2)と反対側の面に設けられている。これにより、当該開口を介しての電子銃3の取付け及び取外しが容易になっている。
【0052】
以上のようにケーシング2の対陰極収容空間K2の幅W32を狭く形成できたことにより、回転対陰極4の面平行方向(幅方向に対して直交する方向)の中心線X2からX線取出し窓6までの距離W40が、その中心線X2から台座収容空間K1を形成しているケーシング2の内面までの距離W41よりも小さくなっている。この結果、回転対陰極4の面平行方向の中心線X2からモノクロメータ8の先端までの距離W14は、図7に示した従来のX線発生装置において対応する距離である距離W4に比べて、大幅に小さくなっている。例えば、従来のモノクロメータ59の配置距離W4が約60mmであるところ、本実施形態におけるモノクロメータ8の配置距離W14は約30mmと小さくなっている。
【0053】
回転対陰極4の面平行方向の中心線X2からモノクロメータ8の先端までの距離W14が小さいということは、X線焦点Fから出てモノクロメータ8によって取り込まれるX線R0の取込み角度βを大きくとれるということであり、モノクロメータ8によって多量のX線を取込むことができるということである。そしてその結果、X線の集光効率を向上できるということである。
【0054】
なお、本実施形態ではX線シャッタ7をX線の進行方向に沿ってモノクロメータ8の上流位置に設けたが、X線シャッタ7はモノクロメータ8の下流位置に設けることもできる。こうすることにより、X線焦点Fからモノクロメータ8までの距離をさらに小さくできる。
【0055】
(その他の実施形態)
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はその実施形態に限定されるものでなく、請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々に改変できる。
【0056】
例えば、陰極は、図4に示すような螺旋形状のフィラメント11に限られず、断面矩形状で所定長さの電子発生材料とすることができる。
また、上記の実施形態では図3において電子銃3を中心線X1を中心として傾斜移動できるようにしたが、そのような傾斜移動を行うことなく、電子銃3が常に回転対陰極4の面平行方向の中心線X2と平行に延在する状態に固定されている場合も本発明に含まれる。
また、上記の実施形態では対陰極として回転対陰極4を用いたが、これを固定型の対陰極とすることもできる。
【符号の説明】
【0057】
1.X線発生装置、 2.ケーシング、 3.電子銃、 4.回転対陰極、 5.蓋、 6.X線取出し窓、 7.X線シャッタ、 8.モノクロメータ(X線処理要素)、 8a,8b.多層膜ミラー、 9.スリット、 11.フィラメント(陰極)、 12.ウエネルト電極、 13.取付部、 14.開口、 16.X線取出し窓、 18.支持装置、 19.ガイシ、 20.台座、 21a,21b.X線反射面、 22.薄膜、 F.X線焦点、 K1.ケーシングの台座収容空間、 K2.ケーシングの対陰極収容空間、 L0.X線焦点の長さ、 L1.フィラメントの長さ、 R0,R1.X線、 S.試料、 W5.X線焦点Fの幅、 W10.電子銃の幅、 W11.回転対陰極の幅、 W12.電子銃とケーシングの壁の内面との距離、 W14.回転対陰極の中心線からモノクロメータの先端までの距離、 W22.電子銃の取付部とケーシングの壁の内面との距離、 W30.電子銃の取付部の幅、 W31.ケーシングの台座収容空間の幅、 W32.ケーシングの対陰極収容空間の幅、 W40.回転対陰極の面平行方向に沿った中心線からX線取出し窓までの距離、 W41.回転対陰極の面平行方向に沿った中心線から台座収容空間を形成しているケーシングの内面までの距離、 X0.回転対陰極の回転中心線、 X1.ガイシの中心線、 X2.回転対陰極の面平行方向の中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極から出た電子が対陰極に衝突する領域であるX線焦点からX線を発生するX線発生装置において、
前記陰極を取り囲むウエネルト電極と、
前記ウエネルト電極と一体である取付部と、
前記取付部が取り付けられる台座と、
前記台座及び前記対陰極を収容しているケーシングと、を有しており、
前記ケーシングが前記対陰極を収容している対陰極収容空間の幅は、前記ケーシングが前記台座を収容している台座収容空間の幅よりも狭く、
前記ウエネルト電極は、前記取付部が前記台座に取り付けられた状態で、前記ケーシングが前記対陰極を収容している空間内へ延び出ている
ことを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記ウエネルト電極の幅は前記取付部の幅よりも狭いことを特徴とする請求項1記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記対陰極を収容しているケーシングに設けられたX線取出し窓を有しており、
前記対陰極の面平行方向の中心線から前記X線取出し窓までの距離は、前記対陰極の面平行方向の中心線から前記台座を収容している部分のケーシングの内面までの距離よりも小さい
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記X線取出し窓の外側に設けられており前記X線焦点から出たX線を受け取るX線処理要素をさらに有しており、
前記X線取出し窓は、前記X線焦点から発生したX線を前記X線処理要素が取り込む角度の範囲よりも広い照射角度を有している
ことを特徴とする請求項3記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記台座収容空間の前記対陰極収容空間と反対側の面は開口となっており、
当該開口は、ウエネルト電極及びそれと一体である取付部を通過させることができる大きさを有しており、
当該開口は取外し可能な蓋によってふさがれている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1つに記載のX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−142115(P2012−142115A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292603(P2010−292603)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】