説明

X線透過法を用いたシートの測定装置および測定方法

【課題】X線透過法を用いて走行状態の被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを精度良く簡単に測定する。
【解決手段】被測定シート10の走行パスの両側に配置されたX線源11とX線検出器12の相対位置を維持し、走行パスの幅方向に幅方向外側を含む範囲内で往復走査させ、走行状態の被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みをほぼ連続的に測定する際、X線源のX線照射位置が走行パスの外側にずれた状態の時にX線ビームを直接にX線検出器で検出した照射X線量のデータと、シートがX線源およびX線検出器の対向間隔部を走行する時にX線ビームがシートを透過した透過X線をX線検出器で検出した透過X線量のデータおよび規定値データを演算部30で処理する。この際、演算部は、X線源およびX線検出器の1回の片道走査毎に得られた照射X線量のデータにより照射X線量のデータを自動的に更新する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線透過法を用いたシートまたは塗工シートの測定装置および測定方法に係り、特にシートの単位面積当りの重量および/または厚みを測定する装置および方法においてX線強度測定データの自動補正を行う手段および方法に関するもので、例えばシートまたは塗工シートや、ラミネートシートの走行状態においてほぼ連続的に測定する際に使用されるものである。
【背景技術】
【0002】
シート状の金属フォイルや鋼材を製造するラインでは、金属フォイル等の被測定部材に照射したX線等の放射線の透過量によって被測定部材の厚さを測定する放射線厚さ計が広く用いられている(特許文献1参照)。この放射線厚さ計は、所定の方向に定速度で移動する被測定部材を囲むように設けられたC型あるいはO型フレームを有し、被測定部材の移動方向と直角方向に測定装置を走査させ、被測定部材の各位置における放射線の透過量を測定することにより厚さを計るものである。
【0003】
ところで、X線透過法を用いて、シートあるいは基材シート上に塗工膜が形成された塗工シートの厚さ等を測定する際に使用するX線は、通常は10KeV以下の低エネルギーである。このように低エネルギーのX線を測定対象の試料に照射した際、試料によるX線の吸収以外に、X線源とX線検出器との間に存在する気体(通常は空気)によるX線の吸収が無視できなくなる。空気によるX線の吸収は、空気の温度、湿度、気圧等の環境条件によって変化し、この変化はX線強度測定データの測定の誤差になる。また、X線源(X線管)やX線検出器等の電気回路の特性のドリフトや経時変化は、X線強度測定データの変化をまねくので、これも測定の誤差になる。
【0004】
このような測定の誤差を抑制あるいは防止するために、従来、環境条件の変化に対しては、温度計、湿度計、気圧計を用いて環境条件をモニターし、その結果に応じてX線強度測定データの補正(環境条件の変化とX線強度との関係を用いた間接補正)を行っていた。また、電気回路の特性のドリフトや経時変化に対しては、数時間から1日単位で校正試料(校正対象となる試料)を測定し、その結果に応じてX線強度測定データを補正していた。
【0005】
また、前記特許文献1には、被測定部材の端部外の近傍に校正試料を配設し、測定装置を被測定部材の端部外の校正試料まで走査する毎に校正試料を測定し、その結果に応じてX線強度測定データを補正する方式が開示されている。しかし、このような方式は、被測定部材を変更する毎にそれに対応して校正試料を交換する作業を必要とし、取り扱いが煩雑である。また、校正試料の厚さが薄い場合には、その取り付け時や取り付け状態で受ける応力による変形をまねくおそれがあ。しかも、校正試料は被測定部材と比べて小さいので、環境条件の変化とか経時変化による影響の受け方が被測定部材とは異なり、校正試料を基準とする自体が誤差をまねく要因となるおそれがある。
【特許文献1】特開平11−142128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記した従来の問題点を解決すべくなされたもので、シートまたは塗工シートなどのシート状物質の単位面積当り重量および/または厚みを精度良く簡単に測定し得るX線透過法を用いたシートの測定装置および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のX線透過法を用いたシートの測定装置は、被測定シートの走行状態において単位面積当り重量および/または厚みをX線透過法を用いて測定するシートの測定装置であって、前記被測定シートの走行パスの両側で走行パスを挟んで対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、前記X線源およびX線検出器の相対位置を維持し、前記X線源およびX線検出器を前記走行パスの幅方向に幅方向外側を含む範囲内で少なくとも1回往復走査させる走査手段と、前記X線源のX線照射位置が前記走行パスの外側にずれた状態の時に前記X線源から照射したX線ビームを直接に前記X線検出器で受けて検出した照射X線量のデータ、前記被測定シートが前記X線源およびX線検出器の対向間隔部を走行する時に前記X線源から照射したX線ビームが前記被測定シートを透過した透過X線を前記X線検出器で受けて検出した透過X線量のデータおよび所定の規定値データを用い、前記透過X線量のデータと照射X線量のデータとの比率を含む所定の計算式に基づいて前記被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出する演算部とを具備することを特徴とする。
【0008】
前記演算部は、被測定シートの走行パスの幅方向の複数点で順次検出された透過X線量のデータに対してそれぞれ算出することにより、被測定シートの走行パスの幅方向の複数点に対して単位面積当り重量および/または厚みを算出することが可能になる。
【0009】
前記走査手段が前記往復走査を繰り返し行う場合には、前記演算部は、前記X線源およびX線検出器の1回の片道走査毎または1乃至複数回の往復走査毎に得られた照射X線量のデータにより、前記計算式に用いられる照射X線量のデータを自動的に更新するようにデータ処理することができる。
【0010】
本発明のX線透過法を用いたシートの測定方法は、被測定シートの走行パスの両側で走行パスを挟んで対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、前記X線源およびX線検出器の相対位置を維持し、前記被測定シートの走行パスの幅方向外側までの範囲内で幅方向に往復走査を繰り返し行わせる走査手段と、前記X線検出器で検出したX線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて演算を行う演算部とを有する測定装置を用いて、前記被測定シートの走行状態において前記被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを測定する際、
前記X線源のX線照射位置が前記走行パスの外側にずれた状態の時に前記X線源から照射したX線ビームを直接に前記X線検出器で受けて検出した照射X線量のデータを得る第1のステップと、前記被測定シートの走行状態において前記X線源から前記被測定シートの走行パスの幅方向の複数点に対して順次照射されたX線が当該被測定シートを透過した透過X線を前記X線検出器で受けて検出した透過X線量の複数のデータを得る第2のステップと、前記第1のステップで得られた照射X線量のデータ、前記第2のステップで得られた透過X線量のデータおよび所定の規定値データ用い、前記透過X線量のデータと照射X線量のデータとの比率を含む所定の計算式に基づいて前記演算部で演算処理し、前記被測定シートの走行パスの幅方向の複数点に対して前記被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出させる第3のステップと、前記第3のステップの処理に際して用いられる前記照射X線量のデータを前記X線源およびX線検出器の1回の片道走査毎または1乃至複数回の往復走査毎に前記第1のステップで得られた照射X線量のデータにより自動的に更新する第4のステップとを具備することを特徴とする。
【0011】
なお、本発明による測定の対象となる被測定シートは、シートに限らず、例えば高分子膜、金属膜などの基材シート上に塗工膜が形成された塗工シートとか、2枚のシートがラミネートされたラミネートなど、シート状物質であればよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のX線透過法を用いたシートの測定装置および測定方法によれば、シートまたは塗工シートなどのシート状物質の単位面積当り重量および/または厚みを精度良く簡単に測定することが可能になった。
【0013】
したがって、シートまたは塗工シートを連続的に製造する設備とか、二枚のシートがラミネートされたラミネートシートを連続的に製造する設備などにインラインで適用して、測定結果をフィードしてシートまたは塗工シートの単位面積当り重量および/または厚みを制御することにより、生産管理、品質管理の品質を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。この説明に際して、全図にわたり共通する部分には共通する参照符号を付す。
【0015】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るシートの測定装置の基本構成を示す側面図である。
【0016】
図1において、X線源11およびX線検出器12は互いに対向し合うように配置されている。なお、X線源は、照射エリアをコリメータ13で制限することが好ましい。X線源・X線検出器の対向間隔部にシート10が存在する時には、X線源から照射したX線ビームはシートを透過し(X線の一部はシート10で吸収されるが、一部は直進する)、X線検出器12に入射し、透過X線強度が検出される。X線源・X線検出器の対向間隔部にシート10が存在しない時には、X線源11から照射したX線ビームは直接にX線検出器12に入射し、照射X線強度が検出される。
【0017】
そして、X線検出器12の検出出力を適宜増幅する増幅器(図示せず)と、この増幅器の出力を電流値データに変換するアナログ・デジタル・コンバータ(ADC)23と、このADC23から入力される電流値データをデータ処理し、所定の計算式に基づいて演算する演算部30が設けられている。
【0018】
演算部30は、例えばパーソナルコンピュータが用いられており、その一例は、装置全体を統括するとともに各種演算処理を実行するCPU(中央処理装置)31と、プログラム記憶用のROM32と、データメモリ用のRAM33と、パラメータ記憶部34などを有し、パラメータ設定部35、ディスプレイ等で構成された表示部36などが接続されている。前記パラメータ設定部35は、後述する計算式に関連するパラメータ(規定値データ)を演算部30に入力する機能を有する。前記パラメータ記憶部34は、パラメータ設定部35から入力されたパラメータ、あるいは、予め本例の測定装置を用いて実測されたパラメータを、例えばデータテーブル形式で記憶している。
【0019】
上記演算部30において、CPU31は、ADC23から入力される電流値データを測定位置データとセットにしてRAM33に格納し、ROM32に格納されているプログラムに基づいてデータ処理を行い、シートまたは塗工シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出し、演算結果をRAM33に格納するとともに表示装置36で表示させる。
【0020】
さらに、X線源11およびX線検出器12を互いに同期して走行パスの幅方向(シート10の走行方向と直角方向)に幅方向外側を含む(幅方向外側)範囲内を定速度で少なくとも1回(通常は取り返し)往復駆動させるために、モータ等を含む駆動機構を用いた走査手段24が設けられている。即ち、この走査手段24は、X線源11から照射されるX線が走行パスの幅方向外側に少しずれた位置まで突出するように走査領域の一端を設定している。ここで、シートの走行方向と、測定器の走査方向と、測定位置の軌跡の一例との関係を図2に示す。
【0021】
ここで、本実施形態において、演算部30は、X線源のX線照射位置が走行パスの外側にずれた状態の時にX線源から照射したX線ビームを直接にX線検出器で受けて検出した照射X線量のデータと、被測定シートがX線源およびX線検出器の対向間隔部を走行する時にX線源から照射したX線ビームが被測定シートを透過した透過X線をX線検出器で受けて検出した透過X線量のデータおよび規定値データを用い、透過X線量のデータと照射X線量のデータとの比率を含む所定の計算式に基づいて被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出する。
【0022】
また、演算部30は、被測定シートの走行パスの幅方向の複数点で順次検出された透過X線量のデータに対してそれぞれ算出することにより、被測定シートの走行パスの幅方向の複数点に対して単位面積当り重量および/または厚みを算出することが可能になる。
【0023】
また、走査手段24が往復走査を繰り返し行う場合、演算部30は、前記計算式に用いられる照射X線量のデータを、X線源およびX線検出器の1回の片道走査毎または1乃至複数回の往復走査毎に得られた照射X線量のデータにより自動的に更新するようにデータ処理することができる。
【0024】
次に、本例の測定装置および測定方法の測定原理を詳細に説明する。一般に、X線透過法による基本式は以下のように示される。
【0025】
I=Io exp −{(μ/ρ)×ρ×t} …(1)
=Io exp −(μ/ρ)×W …(2)
=Io exp −(μ×t) …(3)
ここで、I:透過X線の強度(透過X線量)
Io :透過前X線の強度(照射X線量)
μ:測定材のX線吸収係数 [1/cm]
ρ:測定材の密度 [g/cm3 ]
(μ/ρ):測定材の質量吸収係数[cm2 /g]
t:測定材の厚み [cm]
W:測定材の単位面積当り重量 [g/cm2 ]
である。前式(2)は測定材の単位面積当り重量Wに着目したもの、前式(3)は測定材の厚みtに着目したものである。X線吸収係数μは、同一物質であっても密度ρが異なると変化する。したがって、前式(1)は、X線吸収係数μを密度ρで割った質量吸収係数(μ/ρ)を用いている。
【0026】
X線照射経路における空気によるX線の吸収を考慮した場合、X線透過法による基本式は以下のように示される。
【0027】
I=Io EXP [−{(μ/ρ)×W+(μ/ρ)×W}]
=Io EXP [−(μ/ρ)×W]×Io EXP [−(μ/ρ)×W
=IwoEXP [−(μ/ρ)×W] …(4)
Iwo=Io EXP [−(μ/ρ)×W] …(5)
I=Io EXP [−{(μ/ρ)×ρ×t+(μ/ρ)×ρ×t}]
=Io EXP [−{(μ/ρ)×ρ×t}]
×Io EXP [−{(μ/ρ)×ρ×t}]
=ItoEXP [−{(μ/ρ)×ρ×t}] …(6)
Ito=Io EXP [−{(μ/ρ)×ρ×t}] …(7)
但し I:透過X線の強度(透過X線量)
Io :透過前X線の強度(照射X線量)
(μ/ρ):測定材(シート)の質量吸収係数
:測定材(シート)の単位面積当り重量
ρ:測定材(シート)の密度
:測定材(シート)の厚み
(μ/ρ):X線照射経路における空気の質量吸収係数
:X線照射経路における空気の単位面積当り重量
ρ:X線照射経路における空気の密度
:X線照射経路における空気の厚み
である。
【0028】
前式(4)は測定材の単位面積当り重量Wに着目したものであり、Wは以下のように求めることができる。
【0029】
Ln(I/Iwo)=−(μ/ρ)×W …(8)
={−Ln(I/Iwo)/(μ/ρ)} …(9)
したがって、前式(9)中の(μ/ρ)が判明していれば、Iwo、Iを測定することにより、測定材の単位面積当り重量Wを精度良く求めることができる。
【0030】
また、前式(6)は測定材の厚みtに着目したものであり、tは以下のように求めることができる。
【0031】
Ln(I/Ito)=−(μ/ρ)×ρ×t …(10)
={−Ln(I/Ito)/(μ/ρ)×ρ} …(11)
したがって、前式(11)中の(μ/ρ)とρが判明していれば、Ito、Iを測定することにより、測定材の厚みtを精度良く求めることができる。
【0032】
前式(5)、(7)において、Iwo、Itoは、X線源11とX線検出器12との間に測定材(シート10)が存在しない状態、本例では、X線源11から照射されたX線の位置が走行パスの外側にずれた状態の時にX線源11からX線が直接にX線検出器12に照射されている状態(空気によるX線の吸収を受けている状態)の時に測定された照射X線の値である。これに対して、Iは、X線源11とX線検出器12との間にシート10が走行している状態(シート10によるX線の吸収と空気によるX線の吸収を受けている状態)の時に測定された透過X線の値である。
【0033】
これらの式(4)〜(11)から、X線源とX線検出器との対向間隔部に測定材が存在しない状態の時(X線源から照射されるX線が走行パスの外側にずれた位置になった状態の時)にX線検出器で検出した出力に基づいてIwo、Itoの基になるIo を更新することにより、環境条件の変化によって生じるX線検出器の入射X線強度の変化自体を直接に検出して補正することが原理的に可能であることが分かる。しかも、この際、特許文献1で用いているような校正試料を必要としないので、校正試料の保持方法、校正試料の変質等に起因する誤差要因を排除することができる。
【0034】
また、透過X線量Iと照射X線量Io との比率を含む所定の計算式に基づいて被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出する際、何らかの原因(環境の変化、電気的特性の変化、機械的な歪みの変化等)でX線強度に変化が生じても、X線検出器の入射X線強度を補正することにより、誤差のない測定が可能になる。
【0035】
また、X線源およびX線検出器の1回の片道走査毎または1乃至複数回の往復走査毎に得られた照射X線量のデータIo により、それ以前に得られた照射X線量のデータを自動的に更新することが望ましい。1回の片道走査毎に得られた照射X線量のデータIo を用いることにより、最新の環境条件の変化に対する補正を行うことができる。この場合、1回の片道走査の所要時間が数秒〜数十秒とすれば、環境条件の変化によるX線源(X線管)やX線検出器等の電気回路の特性のドリフトや経時変化をほぼ完全に補正することができる。
【0036】
また、X線源およびX線検出器の走査幅が0.5m〜4m程度とすれば、測定装置の機械的歪みなどで測定材(シート)の左右の位置が一様に変化した場合でも、測定材(シート)の左右の幅方向外側での照射X線量により全体を一次式で近似し、補正することが可能であり、機械構造的な一様の変化に対しても補正が可能になる。
【0037】
次に、上記したような測定原理を用いる測定方法の第1の実施形態について、図3に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0038】
第1の実施形態に係る測定方法は、走行状態の連続したシートに対して横方向に測定器(X線源とX線検出器)を走査させながらシートの幅方向にほぼ連続的に測定するものである。
【0039】
第1の実施形態に係る測定方法では、被測定シートの走行パスの両側で走行パスを挟んで対向し合うように配置されたX線源11およびX線検出器21と、X線源11およびX線検出器21の相対位置を維持し、X線源およびX線検出器を走行パスの幅方向に幅方向外側を含む範囲内で幅方向に往復走査を繰り返し行わせる走査手段と、X線検出器で検出したX線量をデータ処理し、所定の計算式に基づいて被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出する演算部とを有する測定装置を用いるものとする。
【0040】
まず、第1のステップS1では、X線照射経路における空気の(μ/ρ)、W、ρおよびtを規定値データとしてパラメータ記憶部35に格納する。第2のステップS2では、測定材(シート)の(μ/ρ)およびρを規定値データとしてパラメータ記憶部35に格納する。
【0041】
第3のステップS3では、被測定シートの走行状態に対してX線源からX線が照射された場合に当該被測定シートを透過した透過X線をX線検出器で検出した透過X線量のデータおよび規定値を用い、所定の計算式に基づいて演算部で演算処理して被測定シートの単位面積当り重量Wおよび/または厚みtを算出させる。
【0042】
この際、まず、X線源から照射されるX線が走行パスの外側にずれた位置になった状態の時に、ステップS31で、X線検出器で検出した出力に基づいてX線源の照射X線強度Io を自動的に測定させる。次に、ステップS32で、走行状態の被測定シートにX線を透過させた時のX線検出器の出力に基づいて透過X線強度Iを自動的に測定させる。次に、ステップS33で、規定値データを用いて前式(9)に基づいて被測定シートの単位面積当り重量Wを演算部で自動的に算出させ、および/または、前式(11)に基づいて厚みtを演算部で自動的に算出させ、結果の記録、表示を行わせる。
【0043】
そして、測定を継続する期間中か否かを判定し、期間中であれば走行状態の被測定シートに対する透過X線強度Iの測定を繰り返す。
【0044】
なお、第3のステップS3の処理に際して用いられる照射X線量のデータIo を、X線源およびX線検出器の1回の片道走査毎または1乃至複数回の往復走査毎に第1のステップで得られた照射X線量のデータにより自動的に更新する(前回測定された照射X線量のデータIo と比較して補正する)第4のステップS4を付加することが望ましい。本例では、1回の片道走査毎にステップS31に戻って最新の照射X線量のデータを得ている。
【0045】
以上述べたような本実施形態の測定装置および測定方法を、シートを製造する搬送ライン、または、基材シート上に塗工材を塗工する製造ライン中の搬送ラインの一部にインライン方式で適用することにより、シートまたは塗工シートの厚みを精度良く簡単に測定することができる。
【0046】
しかも、第4のステップS4を付加することにより、X線源から照射されるX線が走行パスの外側にずれた位置になった状態の時にX線検出器で検出した出力に基づいてX線源の照射X線強度Io を更新(環境条件の変化によって生じるX線強度の変化自体を直接に検出して補正)するので、特許文献1で用いているような校正試料を必要としない。
【0047】
図4は、図1の測定装置の一具体例を概略的に示す斜視図である。
【0048】
図4において、例えばO型フレーム中の左右一対のフレーム41、41の間に、上下一対のレール42,43が隙間をあけて水平に取付けられている。上下一対のレール42,43間は、帯状の細長いシート10が図示矢印方向に走行する走行パスの一部となっている。
【0049】
一方のレール(本例では上側のレール42)には、図1中に示したようなX線源11がレール長手方向に摺動可能に取付けられており、X線源11はレール長手方向に往復移動が可能である。ここで、X線源11は、例えばX線管カバーの内部に、X線管のX線照射口を下向きにして内蔵しており、X線管カバーの下部にはX線が通り抜ける通光孔が形成されている。上記X線源11は、X線管の陰極からの電子ビームを陽極ターゲットに照射させてX線を生成する。このX線としては、X線透過法による測定に適したエネルギーのX線を用いており、X線のエネルギー分布は連続X線であっても特定X線であってもよい。 他方のレール(本例では下側のレール43)には、図1中に示したようなX線検出器12がレール長手方向に摺動可能に取付けられており、X線検出器12はレール長手方向に往復移動が可能である。ここで、X線検出器12は、入射したX線を例えばイオンチャンバーで受けて入射したX線信号に比例した電流信号に変換するか、または、シンチレータで受けて光に変換し、例えばフォトマルチプライアやフォトダイオードによって入射したX線信号に比例した電流信号に変換する(シンチレーション検出器)。
【0050】
さらに、図1中に示したようにX線源11およびX線検出器12を互いに同期して(相対位置を維持したまま)走行パスの幅方向(レール長手方向)に定速度で往復駆動を繰り返し行わせるために、モータ等を含む駆動機構を用いた走査手段(図示せず)が測定装置に内蔵されている。この走査手段は、走査領域の一端が、X線源11から照射されるX線が走行パスの幅方向外側に少しずれた位置になるように走査駆動する。また、例えばフレーム41の前面には、装置の操作部44が設けられている。
【0051】
上記構成により、X線源11およびX線検出器12がレール長手方向のどの位置に移動しても、X線源11から照射されたX線はX線検出器12で検出される。X線検出器12で検出されたX線量は電流値に変換され、図1を参照して前述したようにA/Dコンバータ23により電流値データに変換された後に演算部30に入力される。
【実施例】
【0052】
X線管に例えば9.5KVを印加したX線源11を用いて例えば厚さが100μmのポリエチレンのシートを測定した場合、X線源11から照射されるX線エネルギーの実効値は6.4KeVと見做せるので、
ポリエチレンの質量吸収係数(μ/ρ)は約7.8[cm2 /g]
ポリエチレンの密度ρは約0.9[g/cm3 ]
X線照射経路における空気の質量吸収係数(μ/ρ)は約16.1[cm2 /g]
X線照射経路における空気の密度ρは約0.001205[g/cm3 ]
である。X線照射経路における空気の経路長さtが約4cmとすると、前式(6)から Ln(I/Io )
=−{(μ/ρ)×ρ×t+(μ/ρ)×ρ×t
=−{7.8×0.9×t+16.1×0.001205×4}
=−{7.02×t+0.097} …(12)
が成り立つ。X線照射経路における空気の温度が20℃の時に3℃変化すれば、X線照射経路における空気の密度ρの変化Δρ
Δρ=3/(273+20)で約0.01(=1%)
となる。このX線照射経路における空気の密度ρの1%の変化Δρは、測定対象であるポリエチレンの厚みtの変化Δtに換算すると、前式(12)から
7.02×Δt=0.097×0.01
Δt=0.00097/7.02=0.00014cm=1.4μm
に相当する。このΔt=1.4μmは、厚さが100μmのポリエチレンの厚みの測定値に対して1.4%の誤差に相当する。
【0053】
本実施例では、このような場合に前記したような第1の実施形態の測定装置および測定方法を適用することにより、温度変化による測定誤差を無視できるように補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るシートの測定装置の基本構成を示す側面図。
【図2】図1の測定装置においてシートの走行方向と測定器の走査方向と測定位置の軌跡の一例との関係を示す平面図。
【図3】図1の測定装置を用いた測定方法の一例を示すフローチャート。
【図4】図1の測定装置の一具体例を概略的に示す斜視図。
【符号の説明】
【0055】
10…シート、11…X線源、12…X線検出器、13…コリメータ、23…A/Dコンバータ、24…走査手段、30…演算部、31…CPU、32…プログラム記憶部用ROM、33…データメモリ用RAM、34…パラメータ記憶部、35…パラメータ設定部、36…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定シートの走行状態において単位面積当り重量および/または厚みをX線透過法を用いて測定するシートの測定装置であって、
前記被測定シートの走行パスの両側で走行パスを挟んで対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、
前記X線源およびX線検出器の相対位置を維持し、前記X線源およびX線検出器を前記走行パスの幅方向に幅方向外側を含む範囲内で少なくとも1回往復走査させる走査手段と、
前記X線源のX線照射位置が前記走行パスの外側にずれた状態の時に前記X線源から照射したX線ビームを直接に前記X線検出器で受けて検出した照射X線量のデータ、前記被測定シートが前記X線源およびX線検出器の対向間隔部を走行する時に前記X線源から照射したX線ビームが前記被測定シートを透過した透過X線を前記X線検出器で受けて検出した透過X線量のデータおよび規定値データを用い、前記透過X線量のデータと照射X線量のデータとの比率を含む所定の計算式に基づいて前記被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出する演算部とを具備することを特徴とするX線透過法を用いたシートの測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、前記被測定シートの走行パスの幅方向の複数点で順次検出された透過X線量のデータに対してそれぞれ前記計算式に基づいて算出することを特徴とする請求項1記載のX線透過法を用いたシートの測定装置。
【請求項3】
前記演算部は、前記X線源およびX線検出器の1回の片道走査毎に得られた照射X線量のデータにより、前記計算式に用いられる照射X線量のデータを自動的に更新するようにデータ処理することを特徴とする請求項1または2記載のX線透過法を用いたシートの測定装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記X線源およびX線検出器の1乃至複数回の往復走査毎に得られた照射X線量のデータにより、前記計算式に用いられる照射X線量のデータを自動的に更新するようにデータ処理することを特徴とする請求項1または2記載のX線透過法を用いたシートの測定装置。
【請求項5】
被測定シートの走行パスの両側で走行パスを挟んで対向し合うように配置されたX線源およびX線検出器と、前記X線源およびX線検出器の相対位置を維持し、前記被測定シートの走行パスの幅方向に幅方向外側を含む範囲内で往復走査を繰り返し行わせる走査手段と、前記X線検出器で検出したX線量のデータを用い、所定の計算式に基づいて演算を行う演算部とを有する測定装置を用いて、前記被測定シートの走行状態において前記被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを測定する際、
前記X線源のX線照射位置が前記走行パスの外側にずれた状態の時に前記X線源から照射したX線ビームを直接に前記X線検出器で受けて検出した照射X線量のデータを得る第1のステップと、
前記被測定シートの走行状態において前記X線源から前記被測定シートの走行パスの幅方向の複数点に対して順次照射されたX線が当該被測定シートを透過した透過X線を前記X線検出器で受けて検出した透過X線量の複数のデータを得る第2のステップと、
前記第1のステップで得られた照射X線量のデータ、前記第2のステップで得られた透過X線量のデータおよび所定の規定値データ用い、前記透過X線量のデータと照射X線量のデータとの比率を含む所定の計算式に基づいて前記演算部で演算処理し、前記被測定シートの走行パスの幅方向の複数点に対して前記被測定シートの単位面積当り重量および/または厚みを算出させる第3のステップと、
前記第3のステップの処理に際して用いられる前記照射X線量のデータを前記X線源およびX線検出器の1回の片道走査毎または1乃至複数回の往復走査毎に前記第1のステップで得られた照射X線量のデータにより自動的に更新する第4のステップ
とを具備することを特徴とするX線透過法を用いたシートの測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−112956(P2006−112956A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301642(P2004−301642)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(591114641)株式会社ヒューテック (19)
【Fターム(参考)】