説明

X線造影性複合モノフィラメント

【課題】X線による優れた造影性能を有し、かつソフトな柔軟性を有することで、手術用ガーゼとして織物や不織布等に挿入して使用するに適したX線造影性複合モノフィラメントを提供する。
【解決手段】放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂を芯部、放射線不透過剤を含有しない熱可塑性樹脂を鞘部とする芯鞘型複合モノフィラメントであって、芯部の熱可塑性樹脂中の放射線不透過剤の含有量が30〜80質量%であり、ヤング率が0.1〜5.0cN/dtex、繊度が500〜20000dtexであるX線造影性複合モノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂からなる芯鞘型の複合モノフィラメントであって、X線による優れた造影性と柔軟性を有し、織編物や不織布等の医療用のガーゼ等に混入するなど、各種の医療用途に好適に使用することができるX線造影性複合モノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、X線による造影が可能な医療用材料の開発が求められている。例えば、中空部に造影剤を内包する中空繊維ないしは中空モノフィラメントが提案されており、この中空繊維や中空モノフィラメントを組紐形状に編んで使用したり、短繊維に切断して骨固定材のピン等の種々の医療部材を得ることが記載されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2では、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂からなるX線感応繊維が記載されている。そして、このX線感応繊維を手術用ガーゼ等の一部に織り込んで使用することが記載されている。
【0004】
このような手術用ガーゼにおいては、布帛を構成する繊維の一部にX線造影性の糸を用いることによって、体内に放置されていた手術用ガーゼ等を識別することができるものである。このような体内に放置された手術用ガーゼは、体内の各種臓器や体液等によりX線で造影されにくくなっている場合が多く、このため、X線造影性糸としてはより高い造影性が求められている。
【0005】
さらには、手術用ガーゼは、患部等の皮膚や臓器に直接触れる場合もあるので、ソフトな風合を示す柔軟性が求められている。
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の繊維ではナイロン、ポリプロピレン等の汎用ポリマーを使用しているため、得られた中空繊維は柔軟性に欠け、手術用ガーゼ等の一部に織り込んで使用する場合に不都合があった。
【0007】
特許文献2記載の繊維では、放射線不透過剤の含有量があまり多くないため、十分なX線造影性能を得ることができなかった。
【0008】
特許文献3では、スチレン系エラストマーを用いたX線造影性モノフィラメントが提案されている。樹脂硬度を規定することで操業性を向上させることができるものであるが、記載の硬度では十分な柔軟性が得られておらず、織編物や不織布の一部に使用して手術用ガーゼとして用いるには適さないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000-336521号公報
【特許文献2】特開2002-266157号公報
【特許文献3】特開2004-162239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような問題点を解決し、X線による優れた造影性能を有し、かつ柔軟であることで織物や不織布等に挿入するのに適しており、特に手術用ガーゼに好適に用いることができるX線造影性複合モノフィラメントを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂を芯部、熱可塑性樹脂を鞘部とする芯鞘型複合モノフィラメントであって、芯部の熱可塑性樹脂中の放射線不透過剤の含有量が30〜80質量%であり、ヤング率が0.1〜5.0cN/dtex、繊度が500〜20000dtexであることを特徴とするX線造影性複合モノフィラメントを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のX線造影性複合モノフィラメントは、X線造影性に優れており、かつ柔軟であるため織物や不織布等に挿入して用いるのに適しており、特に手術用ガーゼとして好適に使用することができる。さらに、芯鞘複合モノフィラメントとすることにより表面摩耗性が改善されるために、製造及び加工工程において、ガイド等の摩耗が非常に少なく、毛羽の発生や強度の低下、風合の低下が生じることなく、品位に優れたモノフィラメントとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の複合モノフィラメントは、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂を芯部、熱可塑性樹脂を鞘部とする芯鞘型の複合モノフィラメントである。なお、本発明の複合モノフィラメントにおいては、芯部が1つのみのものが好ましいが、芯部が複数ある海島型のものであってもよい。
【0014】
まず、芯部について説明する。一般に、熱可塑性樹脂に放射線不透過剤のような無機化合物を含有させると、柔軟性に乏しいものとなりやすい。このため、本発明においては、芯部の熱可塑性樹脂として、X線不透過剤を高濃度に含有させても溶融紡糸が可能であり、かつ柔軟性を有するものを用いることが好ましい。中でも、熱可塑性エラストマーを用いることが好ましい。
【0015】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマーなどが挙げられる。また、これらの成分からなる共重合体や混合物などでもよい。
【0016】
中でも、ポリエステル系エラストマーが好ましく、ハードセグメントであるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートが挙げられる。ソフトセグメントとしては、ポリエーテル、ポリブチアジペートエステル、ポリオールなどが挙げられる。
【0017】
さらには、芯部の熱可塑性樹脂は、JIS K6253法によるデュロメータ硬さがD60未満であることが好ましい。中でもデュロメータ硬さはD30以下であることが好ましく、さらにはA75以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の複合モノフィラメントは、芯部に放射線不透過剤を含有する芯鞘型複合構造のものであるため、芯部の放射線不透過剤の量が複合モノフィラメント全体のX線造影性を決定する。芯部に含有されるのと同一量の放射線不透過剤を含有する単一成分型のモノフィラメントと比べると、複合モノフィラメントの方が繊度の大きいものとなる。このため、モノフィラメント全体の柔軟性を良好なものとするには、特に芯部の熱可塑性樹脂の柔軟性が求められ、熱可塑性樹脂のデュロメータ硬さが重要となる。
【0019】
芯部の熱可塑性樹脂のデュロメータ硬さがD60以上であると、得られる複合モノフィラメントが硬く柔軟性に乏しいものとなるため、織編物や不織布等に挿入してこれらを例えば手術用ガーゼ等の一部に織り込むには適さないものとなる。
【0020】
芯部の熱可塑性樹脂においては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐候剤、耐光剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加することができる。
【0021】
そして、芯部の熱可塑性樹脂中に含有させる放射線不透過剤としては、硫酸バリウム、次硝酸ビスマス、酸化タングステン、酸化トリウム、酸化セシウム等を用いることができ、中でも硫酸バリウムが好ましい。硫酸バリウムは放射線不透過性に優れ、かつ耐熱性、結晶安定性が高い。さらに、一次粒径が小さく二次凝集しにくい粒子が容易に生産可能なことから、硫酸バリウムを上記のような熱可塑性樹脂中に練り込み溶融紡糸すると、濾過圧の上昇、糸切れ等がなく、操業性よく繊維を得ることができる。
【0022】
X線不透過剤の粒子径については、造影性を向上させるという点からはある程度大きい方がよく、繊維中への均一な分散という点からは、大きすぎると不都合であり、逆に小さすぎても二次凝集の問題が生じる。以上のような点を考慮すれば、X線不透過剤の一次粒子径としては0.5〜10μmが好ましく、中でも0.8〜8μmが好ましく、さらには1.0〜5μmが好ましい。
【0023】
X線造影性複合モノフィラメントを手術用ガーゼに使用する際には、前記したようにより高い造影性能が求められる。そこで、本発明のX線造影性複合モノフィラメントにおいては、芯部の熱可塑性樹脂中の放射線不透過剤の含有量を30〜80質量%とすることが必要であり、中でも40〜80質量%が好ましく、さらには65〜75質量%とすることが好ましい。
【0024】
芯部の熱可塑性樹脂中の放射線不透過剤の含有量が30質量%未満であると、造影性能に乏しいものとなる。一方、放射線不透過剤の含有量が80質量%を超えると、得られる複合モノフィラメントが硬く、柔軟性に乏しいものとなり、また、製糸操業性も悪化する。
【0025】
本発明の複合モノフィラメントは、芯鞘型の複合モノフィラメントとするものであるが、放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂のみからなる単一成分型のモノフィラメントと比べて、放射線不透過剤が芯部に含有されているため、モノフィラメント表面の凹凸が生じにくい。このため、溶融紡糸、巻取等の各製造工程や織編物や不織布にする際の加工工程において、ガイド等の摩耗が少なく、毛羽の発生や強度の低下、風合の低下が生じることがない。
【0026】
そして、本発明の複合モノフィラメントにおいては、鞘部の熱可塑性樹脂として、柔軟性及び表面摩耗性等の観点から、熱可塑性エラストマーや摩耗性の高い熱可塑性樹脂を用いることが好ましいものである。なお、鞘部の熱可塑性樹脂中には放射線不透過剤が含有されていないことが好ましいが、柔軟性及び表面摩耗性の効果を阻害しない範囲であれば、少量の放射線不透過剤が含有されていてもよい。
【0027】
また、鞘部の熱可塑性樹脂中には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて、熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、顔料、耐候剤、耐光剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤が添加されていてもよい。
【0028】
熱可塑性エラストマーとしては、芯部と同様に、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリスチレン系エラストマーなどを用いることが好ましい。また、これらの成分からなる共重合体や混合物などでもよい。
【0029】
中でも、ポリエステル系エラストマーが好ましく、ハードセグメントであるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートなどが挙げられる。ソフトセグメントとしては、ポリエーテル、ポリブチアジペートエステル、ポリオールなどが挙げられる。
【0030】
熱可塑性エラストマー以外の摩耗性が高い熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等が挙げられる。中でも、ポリアミドが好ましく、ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン12、ポリメタキシレンアジパミド等が挙げられる。そして、これらの成分からなる共重合体や混合物等であってもよい。ポリアミドの中でもナイロン11、ナイロン12、ナイロン610が特に好ましい。
【0031】
鞘部の熱可塑性樹脂としてポリアミドが好ましい理由は、ポリアミド繊維は、ポリマー特性に起因するソフト感やしっとり感に優れた風合を有しているので、手術用ガーゼ等の患部に触れるようなメディカル用途に好適であるためである。さらにポリアミドの中でもナイロン11、ナイロン12、ナイロン610は上記特性に加え、芯部に用いる樹脂の融点との関係で、融点差が少なく、操業性良く溶融紡糸が可能であることから好ましいものである。
【0032】
また、鞘部の熱可塑性樹脂としてポリエステルを用いる際には、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等を用いることができ、ポリオレフィンを用いる際には、ポリプロピレンやポリエチレン等を用いることができ、これらの成分についても、共重合体や混合物等であってもよい。
【0033】
さらに、鞘部の熱可塑性樹脂は、JIS K6253法によるデュロメータ硬さがD60未満であることが好ましい。中でもデュロメータ硬さはD30以下であることが好ましく、さらにはA75以下であることが特に好ましい。
【0034】
このように芯部の熱可塑性樹脂と同程度の柔軟性を満足することで、複合モノフィラメントとしてさらにソフトで柔軟な風合を有するものとすることができる。
【0035】
また、芯部及び鞘部の熱可塑性樹脂は、単一の樹脂だけでなく、複数の樹脂を混練したものも好適に用いることができる。例えば、デュロメータ硬さがD70未満又はD60未満の熱可塑性エラストマーに融点の高い熱可塑性エラストマーを混練した場合、得られるモノフィラメントは、ヤング率(柔軟性)を満足させながら、かつ織編物や不織布などの精練、漂白工程時に高温での処理(例えば130℃の沸水やアルカリ水溶液中での処理)において劣化が抑えられるものとすることができる。このため、鞘部の熱可塑性樹脂においては複数の熱可塑性エラストマーを混練して用いることが好ましい。
【0036】
なお、複数の熱可塑性樹脂を混練したものを用いる場合、これらの樹脂を一旦コンパウンド化した後の上記デュロメータ硬さがD70未満であることが好ましい。
【0037】
芯鞘型複合モノフィラメントを製造するに際しては、モノフィラメントの芯部と鞘部が剥離することを防止するため、鞘部の熱可塑性樹脂には、芯部の熱可塑性樹脂の分子成分の一部を共重合したり、芯部及び/又は鞘部の熱可塑性樹脂の分子成分の一部を共重合又はブロック共重合した相溶化剤を添加することが好ましい。
【0038】
例えば、鞘部の熱可塑性樹脂の成分の一部に、芯部の熱可塑性樹脂を構成する成分の一部である、エチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、ブチレンテレフタレートなどのアルキレンテレフタレート成分、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸成分、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸成分や、エチレングリコール、プロピレングリコールなどを含むポリエーテル成分、ポリブチアジペートエステル成分、ポリオール成分を共重合したポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等が挙げられる。さらには、これら成分を分子内に共重合又はブロック共重合した相溶化剤が挙げられる。
【0039】
また、本発明の複合モノフィラメントの鞘部の熱可塑性樹脂として、熱可塑性エラストマー以外の摩耗性が高い熱可塑性樹脂を用いる場合には、複合モノフィラメントの柔軟性が低下することを防ぐために、芯鞘複合比率を特定の範囲内に制限することが好ましい。
【0040】
この場合、芯鞘比率(体積比:芯/鞘)は、1/1〜5/1が好ましく、さらに好ましくは2/1〜4/1、より好ましくは2.5/1〜3.5/1である。芯鞘比率が1/1よりも鞘成分が大きくなると、複合モノフィラメント全体のソフトな柔軟性が不十分となるため、後述するヤング率が高いものとなり、手術用ガーゼ等の一部に織り込むには適さなくなる。一方、芯鞘比率が5/1よりも鞘成分が少なくなると、溶融紡糸が良好に行えず、操業性が悪化する場合がある。
【0041】
さらに、複合モノフィラメントの単糸繊度も造影性に影響を与える要因である。このため、本発明の複合モノフィラメントの繊度は500〜20000dtexとする必要がある。繊度が500dtex未満であると、モノフィラメントが細すぎるために造影性能に乏しいものとなる。一方、20000dtexを超えると、モノフィラメントが太くなり柔軟性に乏しいものとなる。
【0042】
そして、本発明の複合モノフィラメントは、ヤング率が0.1〜5.0cN/dtexであり、中でも0.1〜3.5cN/dtexであることが好ましく、0.2〜2.0cN/dtexであることがより好ましく、さらには0.3〜1.0cN/dtexであることが好ましい。ヤング率は柔軟性を示す指標であり、上記したような熱可塑性樹脂を選択したり、放射性不透過剤の含有量や繊度を上記範囲のものとしたり、複合比率や製造(紡糸、延伸)条件を適宜選択することにより達成することができる。
【0043】
ヤング率が5.0cN/dtexを超えると柔軟性に乏しいものとなり、このため、織編物や不織布等に挿入して用いると、得られる織編物や不織布はソフトな風合に乏しいものとなり、これらの布帛を手術用ガーゼとして用いるには適さないものとなる。一方、ヤング率を0.1cN/dtex未満にしようとすると製糸操業性に劣る場合があったり、得られる製品の品位が劣るものとなることがある。
【0044】
本発明におけるヤング率は、島津製作所製のオートグラフAGS−500Aを用い、試料長250mm、引っ張り速度300mm/分の条件で強伸度を測定し、算出するものである。
【0045】
なお、本発明のX線造影性複合モノフィラメントの強度や伸度は、織編物や不織布等への挿入条件、挿入した後の織編物や不織布等の使用状況等を考慮して適宜選択されるものである。そして、本発明のX線造影性複合モノフィラメントの強度や伸度は、樹脂の種類の選択、樹脂のブレンド比率の選択、紡糸条件、延伸条件、放射線不透過剤の含有量等の選択などを行うことにより適切な値に調整することが可能である。
【0046】
また、造影性を向上させるためには、モノフィラメントの断面形状を円形とすることが好ましい。円形の中でも楕円よりも真円に近い形状とすることが好ましい。楕円形状であるとX線が通過する距離が短くなる部分があるため、造影性能に劣る場合があるが、真円であるとX線が通過する距離が短くなる部分がないため、特に造影性能に優れたものとなる。
【0047】
次に、本発明のX線造影性複合モノフィラメントの製造方法について説明する。
まず、放射線不透過剤と熱可塑性樹脂のコンパウンド樹脂チップを芯成分とし、熱可塑性樹脂を鞘成分とし、それぞれをエクストルーダーで溶融し、複合紡糸装置を用いて紡糸口金より押し出して溶融紡糸を行う。
なお、紡糸温度は用いる熱可塑性樹脂の融点Tmに対して、(Tm+10)℃〜(Tm+80)℃の範囲とすることが好ましく、芯部と鞘部の紡糸温度の差が0℃〜50℃の範囲内となる樹脂を選択することが好ましい。紡糸温度が高すぎると熱可塑性樹脂が熱分解を起こし、円滑な紡糸が困難になるとともに得られるモノフィラメントの物性が劣ったものとなりやすい。また、紡糸温度が低すぎると、未溶解物が残るため好ましくない。
そして、紡出されたモノフィラメントを15〜40℃の水浴により冷却固化し、実質的に延伸することなく、20〜150m/分で巻き取り、X線造影性複合モノフィラメントを得る。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例、比較例における特性値の測定、評価は次の通りに行った。
A)相対粘度
PET:フェノールと四塩化エタンの等質量混合物を溶媒とし、ウベローデ粘度計を使用して、試料濃度0.5g/100cc、温度20℃の条件で測定した。
ナイロン6:96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/デシリットル、温度25℃の条件で常法により測定した。
B)熱可塑性樹脂のデュロメータ硬さ
JIS K 6325法により、米国ショアー社製のスプリング式硬さ試験器(デュロメータ)のタイプA及びタイプDを使用し、厚さ6mmの試験片を用いて測定した。
なお、鞘部の熱可塑性樹脂(ナイロン12、PET)については、JIS K 7202法により、ヒューチャーテック社製のロックウェル硬さ試験器M434H−27Pを使用し、厚さ6mmの試験片を用いてロックウェル硬さを測定した。
C)複合モノフィラメントのヤング率
前記の方法で測定、算出した。
D)複合モノフィラメントの繊度
JIS L 1013の正量繊度のA法により測定した。
E)複合モノフィラメントの造影性
X線照射距離を1mとし、管電圧80kV、管電流400mAのX線発生装置(陽極:タングステン)、照射時間0.063秒の撮影条件にて、得られたX線造影性モノフィラメントを用いた不織布のX線写真を撮影し、目視により複合モノフィラメントの見え具合を以下の4段階で評価した。
◎:非常に鮮明に見える。
○:鮮明に見える。
△:やや鮮明に見える。
×:ほとんど見えない。
F)不織布の手触り感
得られた複合モノフィラメントを用いた不織布の手触り感を以下の4段階で評価した。
◎:柔軟であり、手術用ガーゼとして好適である。
○:柔軟であり、手術用ガーゼとして好適であるが、やや異物感を感じる。
△:柔軟性にやや乏しく、異物感を感じるが、手術用ガーゼとして使用できる。
×:柔軟性に乏しく(硬く)、手術用ガーゼとして使用できない。
G)ガイド摩耗
複合モノフィラメントを得る際の工程に設けられた紡糸ガイドの表面摩耗度合いにより評価した。24時間連続して操業した後の紡糸ガイドの表面摩耗度合いを目視により以下の3段階で評価した。
○:ガイド摩耗がほとんどない
△:ガイド摩耗がやや生じている
×:ガイド摩耗がかなり生じている
H)表面凹凸
得られた複合モノフィラメントの表面を写真撮影し、目視により表面凹凸の有無を判断し、以下の3段階で評価した。
○:表面凹凸がほとんどない
△:表面凹凸がやや生じている
×:表面凹凸がかなり生じている
【0049】
実施例1
芯部の熱可塑性樹脂としてASTM D−1238法によるメルトフローレート値(以下、MFR)が10g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 3046、デュロメータ硬さD27)を用い、放射線不透過剤として硫酸バリウムを用いた。そして、芯部の熱可塑性樹脂中の硫酸バリウムの含有量が35質量%となるように調製したコンパウンド樹脂チップを作製した。
鞘部の熱可塑性樹脂として相対粘度1.90のナイロン12(ダイセルデグサ製、L1901、ロックウェル硬さR110)を用いた。
そして、芯鞘比(体積比)が2/1となるように、それぞれをエクストルーダー型溶融押出機に供給し、複合紡糸装置を用いて溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度220℃で溶融し、孔径2.0mmの紡糸孔を有する紡糸口金より吐出させた。そして、紡出されたモノフィラメントを20℃の水浴により冷却固化し、紡糸ガイドを通してローラに導き、実質的に延伸することなく、巻取速度40m/分で巻き取り、3800dtex/1f、同心芯鞘型ののX線造影性複合モノフィラメントを得た。
溶剤紡糸セルロース繊維(単糸繊度1.7dtex、繊維長38mm、レンチング社登録商標『レンチング・リヨセル』)をランダムカードにて開繊し、15g/mの繊維ウエブを得た。この繊維ウエブの上に得られたX線造影複合モノフィラメントを流れ方向(縦方向)に100mm間隔で直線状に配列するように配置させ、その上に上記で得たのと同様の15g/mの繊維ウエブを堆積して積層物を得た。得られた積層物を100メッシュのメッシュ状支持体上に載置し、ノズル孔径0.1mmの噴射孔が孔間隔0.6mmで横方向に一列に配置された噴射装置を用い、噴射圧力6.9Mpaで2回処理し、次に反転させて反対面より噴射圧力9.8Mpaで2回処理した後、余剰の水分を除去し130℃の乾燥機により乾燥処理を行い、不織布を得た。
【0050】
実施例2〜10、比較例1〜6
芯部の熱可塑性樹脂中の硫酸バリウム含有量、芯鞘比(体積比)、モノフィラメントの繊度を表1、2に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法でX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0051】
実施例11
芯部の熱可塑性樹脂としてASTM D−1238法によるMFRが98g/10分(温度220℃、荷重10kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel SB754、デュロメータ硬さA75)を用い、放射線不透過剤として硫酸バリウムを用いた。そして、芯部の熱可塑性樹脂中の硫酸バリウムの含有量が60質量%となるように調製したコンパウンド樹脂チップを作製した。
鞘部の熱可塑性樹脂として実施例1と同様のナイロン12を用い、実施例2と同様の方法で7100dtex/1fのX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0052】
実施例12
芯鞘比(体積比)、モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例11と同様の方法で7603dtex/1fのX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0053】
実施例13
鞘部の熱可塑性樹脂としてASTM D−1238法によるメルトフローレート値(以下MFR)が10g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 3046、デュロメータ硬さD27)を用い、芯部の熱可塑性樹脂中の硫酸バリウム含有量、モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるようにした以外は、実施例1と同様の方法で8301dtex/1fのX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0054】
実施例14
芯鞘比(体積比)、モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例13と同様の方法で9105dtex/1fのX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0055】
実施例15
鞘部の熱可塑性樹脂としてASTM D−1238法によるMFRが98g/10分(温度220℃、荷重10kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel SB754、デュロメータ硬さA75)を用い、芯部の熱可塑性樹脂中の硫酸バリウム含有量、モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で15004dtex/1fのX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0056】
実施例16
芯鞘比(体積比)、モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例15と同様の方法で17789dtex/1fのX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0057】
実施例17
鞘部の熱可塑性樹脂としてASTM D−1238法によるMFRが10g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 3046、デュロメータ硬さD27)と、ASTM D−1238法によるMFRが1.5g/10分(温度240℃、荷重2.16kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 7277、デュロメータ硬さD72)を、質量比で、(Hytrel 3046):(Hytrel 7277)=7:3で混練したコンパウンドを用いた(コンパウンド品のデュロメータ硬さD47)。また、芯部の熱可塑性樹脂中の硫酸バリウム含有量、モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で510dtex/1fのX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0058】
実施例18〜22
モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例17と同様の方法でX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0059】
実施例23
鞘部の熱可塑性樹脂としてASTM D−1238法によるMFRが10g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 3046、デュロメータ硬さD27)と、ASTM D−1238法によるMFRが1.5g/10分(温度240℃、荷重2.16kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 7277、デュロメータ硬さD72)を、質量比で、(Hytrel 3046):(Hytrel 7277)=5:5で混練したコンパウンドを用いた(コンパウンド品のデュロメータ硬さD55)。また、芯部の熱可塑性樹脂中の硫酸バリウム含有量、モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で7008dtex/1fのX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0060】
実施例24
鞘部の熱可塑性樹脂としてASTM D−1238法によるMFRが10g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 3046、デュロメータ硬さD27)と、ASTM D−1238法によるMFRが1.5g/10分(温度240℃、荷重2.16kg)のポリエステル系エラストマー(東レデュポン社製Hytrel 7277、デュロメータ硬さD72)を、質量比で、(Hytrel 3046):(Hytrel 7277)=3:7で混練したコンパウンドを用いた(コンパウンド品のデュロメータ硬さD63)。また、芯部の熱可塑性樹脂中の硫酸バリウム含有量、モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法で7013dtex/1fのX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0061】
比較例7
鞘部の熱可塑性樹脂として相対粘度1.37のPET(ロックウェル硬さR120)を用い、紡糸温度を260℃とし、芯鞘比(体積比)、芯部の熱可塑性樹脂中の硫酸バリウム含有量、モノフィラメントの繊度を表1に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様の方法でX線造影性複合モノフィラメントを得た。そして、得られたX線造影性複合モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0062】
比較例8
熱可塑性樹脂としてASTM D−1238法によるメルトフローレート値(以下MFR)が10g/10分(温度190℃、荷重2.16kg)のポリエステルエラストマー(東レデュポン社製Hytrel 3046、デュロメータ硬さD27)を用い、放射線不透過剤として硫酸バリウムを用いた。そして、熱可塑性樹脂中の硫酸バリウムの含有量が65質量%となるように調製したコンパウンド樹脂チップを作製した。
この樹脂チップをエクストルーダー型溶融押出機に供給し、溶融紡糸を行った。紡糸温度190℃で溶融し、孔径2.0mmの紡糸孔を有する紡糸口金より吐出させて、20℃の水浴により冷却固化し、実質的に延伸することなく、巻取速度40m/分で巻き取り、6879dtex/1fのX線造影性モノフィラメント(単一成分型)を得た。
そして、得られたX線造影性モノフィラメントを用いて実施例1と同様の方法で不織布を得た。
【0063】
実施例1〜24、比較例1〜8で得られたX線造影性複合モノフィラメント及び不織布の評価結果を表1、表2に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
表1、2から明らかなように、実施例1〜24のX線造影性複合モノフィラメントは、ヤング率が本発明の範囲内のものであり、柔軟性に優れており、手触り感、造影性の評価ともに高いものであった。このため、得られた不織布はソフトな風合いを有するものであり、手術用ガーゼとして好適に使用できるものであった。さらに、複合モノフィラメントは表面凹凸が非常に少なく、ガイド摩耗も非常に少ないものであった。
【0067】
一方、比較例1〜2、7のX線造影性複合モノフィラメントは、鞘部の体積比が大きく、ヤング率が高いものであったため、柔軟性に乏しく、手触り感の評価に劣るものであった。比較例3のX線造影性複合モノフィラメントは、繊度が500dtex未満のものであったため、比較例5のX線造影性複合モノフィラメントは、芯部の硫酸バリウムの含有量が30質量%未満であったため、ともに造影性能の乏しいものであった。比較例4のX線造影性複合モノフィラメントは、繊度が20000dtexを超えるものであったため、モノフィラメントが太くなり、柔軟性に乏しく、手触り感の評価に劣るものであった。比較例6のX線造影性複合モノフィラメントは、芯部の硫酸バリウムの含有量が80質量%を超えるものであったため、柔軟性が乏しく、手触り感の評価に劣るものであり、また製糸操業性にも劣るものであった。比較例8のX線造影性モノフィラメントは、複合モノフィラメントではないため、繊維表面に硫酸バリウムが存在することから、表面凹凸、ガイド摩耗ともに生じていた。したがって、比較例1〜8の複合モノフィラメントは、いずれも手術用ガーゼとして用いることが不適なものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線不透過剤を含有する熱可塑性樹脂を芯部、熱可塑性樹脂を鞘部とする芯鞘型複合モノフィラメントであって、芯部の熱可塑性樹脂中の放射線不透過剤の含有量が30〜80質量%であり、ヤング率が0.1〜5.0cN/dtex、繊度が500〜20000dtexであることを特徴とするX線造影性複合モノフィラメント。
【請求項2】
芯部の熱可塑性樹脂が熱可塑性エラストマーである請求項1記載のX線造影性複合モノフィラメント。
【請求項3】
芯部の熱可塑性樹脂は、JIS K6253法によるデュロメータ硬さがD60未満である請求項1又は2記載のX線造影性複合モノフィラメント。


【公開番号】特開2009−215692(P2009−215692A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29852(P2009−29852)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】