説明

X線CT装置およびそのリモートサービスシステムと方法

【課題】 病院に設置されたX線CT装置を遠隔地から監視することで故障の早期発見または、することで装置のダウンタイムを短縮することを目的とする。
【解決手段】 ほぼ毎日X線CT装置の起動時に行われるX線管ウォームアップ時に収集するX線曝射時のX線検出器303からの出力データをメンテナンスデータとし、X線CT装置内部または外部に接続したメンテナンス用コンピュータ314のメンテナンスデータ用記憶装置310に保持し、定期的に通信装置312から通信ネットワーク313を介してX線CT装置を遠隔で監視する自己診断プログラム311による異常の有無の結果やメンテナンスデータそのものをサービスセンタに送信する。メンテナンスデータはX線管300、コリメータ302、多チャンネル形X線検出器303、データ収集回路304等の計測系の状態に関する情報を含んでおり、メンテナンスデータを遠隔地から監視することで計測系の故障の前兆や故障の状態を把握できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT装置の保守、点検および整備に係り、特に設置されたX線CT装置とこれを管理するサービスセンタとを通信ネットワークを介して接続することによって、遠隔からX線CT装置の監視や現地サービス員に対する支援が可能なX線CT装置用のリモートサービスシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、X線CT装置が故障すると病院スタッフはこれを保守管理しているサービスセンタに連絡する。サービスセンタは、故障の連絡に応じてサービス員を病院に派遣する。サービス員は、X線CT装置の故障の原因を突き止め、必要に応じて交換部品等を特定、手配、準備し、後日部品を持参して修理を行う。この方法では故障から修理完了までのX線CT装置が使用できないことになる。このように機器が故障などにより使用できない時間をダウンタイムという。
【0003】
医療用画像診断装置の故障診断にあたり、ダウンタイムを短縮するための方法として、(特許文献1)には、病院サイトとサービスセンタ間のデータ送受信によるリモートサービスの実行を開示する。これにより、サービス員は故障診断用の機器やソフトウエアを持ち込まなくても、ウエブ経由で病院サイトからサービスセンタにその情報を送り故障箇所を診断可能であり、迅速に、客観的かつ正確に医療診断装置の診断を行うことができる。
【0004】
リモートサービスの内容として(特許文献1)には、画像処理基板や装置内部の状態を診断するための自己診断プログラム実行の結果、エラーログ、または被検体を撮影した任意の画像等の送受信を行なうことが開示される。
【特許文献1】特開2003-16212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(特許文献1)に記載の従来の技術によれば、サービス員は病院に派遣されてから、実機を確認しまた上記リモートサービスを利用して必要な修理内容を特定していた。しかし、従来の方法では修理内容を確定後、サービス員は必要な部品を取り寄せて、再度これを持参して修理にあたらなければならず、その間のダウンタイムは数日に亘ってしまうことが多い。
【0006】
また、(特許文献1)で行うリモートメンテナンスに際しては、画像処理基板や装置内部の状態を診断するための自己診断プログラムの結果、エラーログ、または被検体を撮影した任意の画像を使用して診断しているが、これらの情報からは、X線発生源であるX線管、X線から照射されたX線の幅を絞るコリメータ、被検体を透過したX線を検出するX線検出器、X線検出器からのデータを収集するデータ収集回路基板等の消耗部品も含めた計測系の部品の状態までを把握するのは困難である。
【0007】
本発明はこのような課題を鑑みてなされたもので、X線CT装置の計測系の状態を定期的に監視可能なX線CT装置およびそのリモートサービスシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために、
X線を照射するX線管と、
X線管から照射されるX線の照射範囲を制限するコリメータと、
X線管に電力を供給する高電圧発生手段と、
照射されたX線を検出するX線検出器と、
前記X線管と前記X線検出器を搭載して、前記X線管と前記X線検出器の間に被検体を挟み、その周囲を回転する回転盤と、
被検体を搭載して移動可能な寝台と、
前記X線検出器で検出した信号を収集するデータ収集回路と、
前記データ収集回路で収集されたデータを画像化する画像処理手段と
前記高電圧発生手段、前記回転盤、および前記寝台を制御する制御装置と、を備えたX線CT装置において、
X線CT装置の前記各部の少なくとも一つを起動する際に前記各部の少なくとも一つからメンテナンスデータを取得して記憶するメンテナンスデータ用記憶装置と、
前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータの少なくとも一部を外部に送信可能な通信装置とを備えたことを特徴とする。
【0009】
また本発明によれば、
前記記憶されたメンテナンスデータを解析し診断する自己診断手段をさらに備え、
前記通信装置は前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータおよび前記自己診断手段から得られた情報の少なくとも一部を外部に送信可能であることを特徴とする。
【0010】
また本発明によれば、
前記メンテナンスデータには、X線管ウォームアップ時に前記データ収集回路から得られるデータであり、X線を非曝射時に得られるX線OFFデータと、X線は照射するがコリメータ302を閉じX線がX線検出器に入射しない状態で得られるX線遮断データと、X線管とX線検出器の間に何も置かない状態でX線を照射して得られるエア補正データと、のうち少なくとも一つが含まれることを特徴とする。
【0011】
また本発明によれば、
前記メンテナンスデータには、少なくともX線管への電力供給ラインの電流や電圧の確認手段、X線管のヒータ回路の電流や電圧の確認手段、X線管が回転陽極型である場合の回転数検出手段、X線管の温度検知手段、コリメータ駆動回路の電流や電圧の確認手段、コリメータの位置検知手段、コリメータの作動速度確認手段、高電圧発生手段の出力を確認する手段、X線検出器の出力確認手段、回転盤の回転駆動機構への入力電流や電圧の確認手段、回転盤の回転速度確認手段と、寝台の移動機構への入力電流や電圧の確認手段、寝台の移動速度確認手段からの信号を含むことを特徴とする。
【0012】
また本発明によれば、
前記自己診断手段は、過去に収集したメンテナンスデータと直近のメンテナンスデータを比較することで、異常の有無を判定することを特徴とする。
また本発明によれば、
外部からのアクセスを制限する情報漏えい防止手段を更に備えたことを特徴とする。
【0013】
また本発明によれば、
X線CT装置と、
前記X線CT装置の各部の少なくとも一つを起動する際に前記各部の少なくとも一つからメンテナンスデータを取得して記憶するメンテナンスデータ用記憶手段と、
前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータの少なくとも一部をサービス手段に送信可能な通信手段と、
前記メンテナンスデータの少なくとも一部を監視して故障、故障の前兆、または故障の可能性を判定するサービス手段と、を含むX線CT装置用のリモートサービスシステムを提供する。
【0014】
また本発明によれば、
前記メンテナンスデータを解析し診断する自己診断手段をさらに備え、
前記通信手段は、前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータおよび前記自己診断手段から得られた情報の少なくとも一部を外部に送信可能であることを特徴とする。
また本発明によれば、
外部からのアクセスを制限する情報漏えい防止手段を更に備えたことを特徴とする。
【0015】
また本発明によれば、
別々にプログラムされた複数のコンピュータによりX線CT装置を遠隔地から監視してリモートサービスをする方法であり、
第1のコンピュータにより、X線CT装置の各部の少なくとも一つを起動するステップと、
第2のコンピュータにより、プログラムされたコンピュータにより前記起動後に前記各部の少なくとも一つからメンテナンスデータを取得して記憶するステップと、
第3のコンピュータにより、前記メンテナンスデータを解析し診断するステップと、
第4のコンピュータにより、前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータの少なくとも一部をサービス手段に送信するステップと、
第5のコンピュータにより、前記前記メンテナンスデータの少なくとも一部を監視して異常または異常の発生可能性を判定し、前記異常または異常の発生可能性があると判定した場合にはサービス員派遣の必要性を知らせるステップと、を含むX線CT装置のリモートサービス方法が提供される。
【0016】
また本発明によれば、
第1のコンピュータから第4のコンピュータは同一のコンピュータであることを特徴とする。
また本発明によれば、
第6のコンピュータにより、前記メンテナンスデータを解析し診断するステップをさらに備え、
前記サービス手段に送信するステップでは、メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータおよび前記自己診断手段から得られた情報の少なくとも一部を送信し、
前記サービス員の派遣の必要性を知らせるステップでは、前記メンテナンスデータおよび前記自己診断手段から得られた情報の少なくとも一部を監視して故障、故障の前兆、または故障の可能性を判定し、前記故障、故障の前兆、または故障の可能性があると判定した場合にはサービス員を派遣することを特徴とする。
【0017】
また本発明によれば、
第1から4のコンピュータと第6のコンピュータは同一のコンピュータであることを特徴とする。
また本発明によれば、
第7のコンピュータにより、外部からのアクセスを制限する情報漏えい防止ステップを更に備えたことを特徴とする。
また本発明によれば、
第1から4のコンピュータと、第6のコンピュータと、第7のコンピュータは、同一のコンピュータであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るX線CT装置およびそのリモートサービスシステムによれば、X線CT装置の計測系の状態を定期的に監視することで、X線CT装置の故障が発生する前にダウンタイムを未然に回避、あるいは故障発生と同時にサービス対応可能とすることでダウンタイムを短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、添付図面に従って本発明に係るX線CT装置およびそのリモートサービスシステムの実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0020】
図1は、本発明に係るX線CT装置を用いたリモートサービスシステムの一実施の形態を示す全体構成図である。本実施例において、リモートサービスシステムは、病院などの顧客サイト100に設置されたX線CT装置102と、メンテナンス用コンピュータ101と、X線CT装置102と異なる遠隔のサービスセンタサイト110に設置されるサポート用コンピュータ111から構成される。
【0021】
メンテナンス用コンピュータ101はX線CT装置102と接続され、サポート用コンピュータはメンテナンスデータ用コンピュータと通信ネットワーク120を介して接続される。このように構成することで、相互の機器間で情報の送受信がおこなわれる。なお、メンテナンス用コンピュータと通信用インターフェイスの機能はX線CT装置に一体化されていてもよい。
【0022】
図2に示すように、本実施例によるX線CT装置は、X線を照射するX線管200、X線の照射範囲を制限するコリメータ202、X線を検出して電気信号に変換する多チャンネル形X線検出器203、多チャンネル形X線検出器203からの投影データを収集するデータ収集回路204、X線管200とコリメータ202と多チャンネル形X線検出器203とデータ収集回路204を搭載した回転盤201、データ収集回路204からの信号(投影データ)を記憶する画像処理用記憶装置205、画像再構成を行う画像処理装置206、画像処理の結果を表示する表示装置207、撮影開始やパラメータの設定,入力を行う入力装置208、X線管200と多チャンネル形X線検出器203を制御する制御装置209、被検体を搭載して移動可能な寝台210、X線管に電力を供給する高電圧発生手段211、などからなる。
【0023】
本実施例の理解のために、まず、図2を用いて、X線CT装置の一般的な撮影について説明する。入力装置208から撮影開始の入力が行われると,X線管200から寝台天板210に載った被検体219に向けてX線を照射される。このX線は被写体219を透過した後、透過X線として多チャンネル形X線検出器203において電気信号に変換される。この電気信号はデータ収集回路204にてアナログ−デジタル変換を受けて投影データとなる。なお、撮影時は,X線管200と多チャンネル形X線検出器203が搭載された回転盤201は回転しており、被検体219の周囲から投影データを取得する。この投影データ以外に画像補正用の補正データも、投影データと共に画像処理用記憶装置205に保存され、画像処理装置206にて画像補正処理や再構成演算が行われる。その結果、被検体219の断層像が得られ、表示装置207にて表示される。ここまでは従来のX線CT装置と同様の構成である。
【0024】
本実施例では、図2において、さらにメンテナンス用コンピュータ220が備えられる。
メンテナンス用コンピュータ220はX線CT装置と接続されており、X線CT装置から外部へのデータの転送を可能とする。なお、メンテナンス用コンピュータ220の行う処理は、その機能がX線CT装置内部にある装置で実現されるようになっていてもよい。具体的には制御装置209が画像処理装置206でメンテナンス用コンピュータの行なう処理を実行させるようなプログラムを走らせてもよい。
【0025】
本実施例では、メンテナンスデータを収集し、自己診断し、データと診断結果を外部のサービスコンピュータに送信するのであるが、ここで使用するメンテナンスデータは、日常的に行われるメンテナンスで収集されるデータ項目である。たとえば、ほぼ毎日行われるX線管ウォームアップ時に得られるデータである。X線管ウォームアップとは、X線CT装置起動時にX線管200に徐々に負荷をかけ、X線管からのX線曝射量の安定化を図るために行う。その際に、同時にメンテナンスデータも収集する。
【0026】
以下に、X線管ウォームアップ時におけるメンテナンスデータの収集の手順について図3をもとに説明する。図3には、X線管ウォームアップのフローの一例を示す。まず、ステップ301でX線管ウォームアップを開始する。ステップ302では、X線を非曝射とする。この時に、多チャンネル形X線検出器203の出力データであるX線OFFデータ401の収集を行う。ここで得られるデータは、X線検出器203とデータ収集回路204のオフセット出力である。つまりX線の入射が無い状態でもX線検出器203とデータ収集回路204からは、いくらかの出力が暗電流として観察されるが、その値を監視することができる。オフセット出力が変化してきたら経年変化が進んでいると判断できる。
【0027】
ステップ303として、X線は曝射するが、コリメータ302を閉じることによって多チャンネル形X線検出器303にX線が入射しない状態のX線遮断データ402が収集できる。これによれば、X線管300と周辺のX線発生系の動作時に発生する磁場などの影響による外来ノイズが多チャンネル形X線検出器303やデータ収集回路304に与える影響を測定できる。外来ノイズが増えてきたら磁気シールドの劣化や回路のリークが疑われる。
【0028】
ステップ304として、X線管200と多チャンネル形X線検出器303の間に何も被検体を置かない状態で、X線を曝射するエア補正(エアキャリブレーション)データ403の収集を行う。 エア補正データ403からは、X線の曝射時における多チャンネル形X線検出器203やデータ収集回路204の状態を判断できる。ここでは、通常のX線出力を監視するが、検出器のチャネル異常や検出器全体の異常が判断できる。
これらのウォームアップ時に収集されたメンテナンスデータを用いて計測系の状態の異常を判断することができる。
【0029】
収集した上記メンテナンスデータ401,402,403は画像処理用記憶装置205に一旦記憶され、そこからメンテナンスデータ用記憶装置221に転送され記憶される。それらのうち、エア補正データ403は多チャンネル形X線検出器203の感度を補正するために画像処理用記憶装置205にも保持され、また別途収集される投影データの補正にも使用され、次回データ収集時には書き換えられる。上記メンテナンスデータ用記憶装置221に記憶されたメンテナンスデータ401,402,403は、自己診断手段222により処理され、その診断結果やメンテナンスデータ自体は、通信装置223により通信ネットワーク230を介してサービスセンタ等の外部に送信される。通信ネットワーク230は、WWWなどインターネットあるいは専用回線で、途中にイントラネット、インターネットあるいは専用回線の少なくとも一つが経由していてもよい。なお、本明細書で通信手段と記載した場合には、少なくとも上記通信装置を含みさらに上記通信ネットワークが含まれていてもよいものとする。
【0030】
なお、この際、被検体の個人データなどの流出には十分気をつけなければならない。 たとえば、図2に示すように、メンテナンスデータ用記憶装置221と画像処理装置206や画像処理用記憶装置205とのラインの途中に情報漏えい防止フィルター240を設置する。メンテナンスデータと被検体の画像データにそれぞれフラグを持たせることで個人データの流出、または不正アクセスを防止できる。例えば、上記で示したウォームアップ時、または一日に数回収集するエア補正データ収集時、メンテナンス用のスキャンモード時などで収集されたデータには1のフラグを持たせるようにし、一方通常のスキャンモード時に収集した被検体の画像データ等には0のフラグを持たせるようにする。上記に示した情報漏えい防止フィルター240では、1のフラグを持つデータのみを通過することを許可するようにすれば、被検体の画像データ等の個人情報は0のフラグを持つために情報漏えい防止フィルター240を通過することはできない。こうすれば、常時サービスセンターからメンテナンスデータをモニターする場合でも、外部から被検体の画像データなど個人データの存在する領域には到達することができないように設定可能となる。こうして不正なアクセスも防止し個人情報の漏洩も防止できる。
【0031】
またさらに、上記のX線CT装置自体へのアクセス自体を制限することも可能である。たとえば、図2に示すように情報漏えい防止フィルター241を通信装置223と外部の間に設けるかあるいは通信装置自体にその機能を付与してもよい。なお、情報漏えい防止フィルター241の位置は、上記位置に限られず、外部からのアクセスを有効に防止できる位置であればX線CT装置のどこにあってもよい。また、情報漏えい防止フィルターはハードウエアであってもソフトウエアであってもよい。たとえば、画像処理装置206やメンテナンスデータ用コンピュータ220内に装備してもよいし、X線CT装置の外に別途配置してもよい。
【0032】
以下に図4を用いて、上記の自己診断手段222について説明する。自己診断手段はたとえば自己診断プログラムによって実現できる。メンテナンスデータ401,402,403の内、エア補正データ403を例として、自己診断手段としての自己診断プログラムの内容を説明する。図4は収集したエア補正データの例を示す。横軸は多チャンネルX線検出器203のチャンネルnを示し、縦軸は各チャンネルのX線検出器の出力P(n)を示している。異常か否かの判定は2通りの方法で行う。第1の判定方法は各チャンネルの出力がメンテナンスデータ用記憶装置に蓄積された過去の各チャンネルの出力と比較して大きく変化していないかを判断する。
【0033】
たとえば、あるiチャンネルの出力をP(i)とし、過去データのiチャンネルの出力をP(i)oldとする。今回収集したデータと蓄積されている過去のデータの差分をS1(i)とすると、
1(i)=P(i)−P(i)old
となり、収集したデータと過去データの差分の閾値をT1とすると、
|S1(i)|>T1
の場合、異常と判断する。
一方、|S1(i)|<T1
の場合、正常と判断する。
この処理をすべてのチャンネルで行う。
【0034】
第2の判定方法は、収集したデータの各チャンネルの出力とその前後数チャンネルの平均出力を比較して大きな差がないかを判断する。図4のデータで説明すれば、iチャンネルとその前後±jチャンネル間の平均出力Pave(i)は、
【数1】


となり、Pave(i)とiチャンネルの出力の差分をS2(i)とすると、
2(i)=P(i)−P(i)ave
となり、S2(i)の閾値をT2とすると、
|S2(i)|>T2
の場合、異常と判断する。
一方、|S2(i)|<T2
の場合には、正常と判定する。
この処理をすべてのチャンネルで行う。
【0035】
図5は図3で示した、メンテナンスデータ401,402,403を収集後の処理について示したものである。ウォームアップ中に収集したメンテナンスデータは大きくわけて2通りのフローに分けて処理される。第一のフローは、図5のステップ603において、自己診断プログラムにて異常を発見した場合、つまりYesである。第二のフローは、異常は発見されずNoに進んだ場合である。なお、以下では、毎日のX線CT装置の起動時に行うX線管ウォームアップ時に収集したメンテナンスデータとして説明する。
【0036】
上述した通り、第1のフローはメンテナンスデータ用記憶装置に記憶したメンテナンスデータを上記で説明した自己診断プログラム222にかけて異常の有無の自己診断のステップ603を行う。つまり、自己診断プログラムでは、たとえば前日に収集したメンテナンスデータと当日のそれを比較する。ここで異常が有ると判定された場合は、上記自己診断プログラムは即刻サービスセンタへ異常データの送信604をし、サービスセンタはサービス拠点のサービス員に派遣要請612を行う。要請を受けたサービス員は異常データを基にX線CT装置の故障内容を把握して、必要な機材や交換部品の目安を立てて携行し早急に修理をする。第1のフローは短期的なX線CT装置の状態の変化、つまり急な故障などに対応できる。
【0037】
一方、異常が無いものと判定された場合は、第2のフローとして、翌日から引き続きメンテナンスデータを収集する。そして、メンテナンス用記憶装置に蓄積したメンテナンスデータを定期的にサービスセンタ(図5ではSCと略す)へステップ602にて送信する。サービスセンタでは受信したメンテナンスデータをステップ610で蓄積し、過去に送信されたメンテナンスデータと比較して異常な変化の有無などの監視を行う。(ステップ611)この比較については、上記に示した自己診断プログラムの第1のフローと同様の方法で行うことができる。
【0038】
たとえば、病院で毎日収集されるメンテナンスデータのうち決めた曜日のデータを毎週1回、サービスセンタに送信し、1週間前、1ヶ月前、3ヶ月前といった数種類の異なる過去データと比較する。こうすることによって長期的なX線CT装置の状態の変化を追うことができ、故障の前兆や可能性を把握できる。故障の前兆や可能性があると判断された場合は、ステップ612で病院へサービス員の派遣要請をし、要請を受けたサービス拠点はステップ620で病院へサービス員の派遣をし、故障となる前に対策をとる。異常な変化が無い様であるなら引き続き定期的に受信されるメンテナンスデータの監視を行う。
なお、第1のフローと第2のフローは連続して適用すべきものではなく、必要に応じて一方のみのフローに従って、故障、故障の前兆、または故障の可能性を判定してもよい。
【0039】
以上のように構成することで、サービスセンタは異常の発生も異常の発生予測も居ながらにして把握可能となり、迅速にサービス拠点からサービス員の派遣を依頼することができる。これにより、修理に必要な機材や交換部品の目安を立てて携行し早急に修理や対策をすることができるようになり、ダウンタイムの除去あるいは短縮が可能となる。
また、X線管ウォームアップ時のメンテナンスデータの収集は、X線CT装置を使用する日には必ず行う一連の動作であるため、改めてメンテナンス用のデータを取得するという煩雑さを回避しながら故障や経年変化の監視を行うことができる。
【実施例2】
【0040】
本実施例では、実施例1に説明した以外のメンテナンスデータ処理の形態を説明する。
なお、本実施例で使用する装置構成や処理フローは特に断らない限り実施例1と同様である。したがって、図や参照番号は特に断らない限り同様である。
【0041】
本実施例では、X線管ウォームアップのタイミングに着目する。X線管ウォームアップは、一日一回朝一番のX線CT装置の起動時のみに限らない。一日のうちでも、しばらく装置を使用しない状態が続くとX線管が冷えるため、再度X線管の安定化のためにウォームアップを行う。
【0042】
また、メンテナンスデータの内、エア補正データはX線管ウォームアップ時以外にも画像補正の必要上、一日数回収集する場合もある。このように一日に複数回メンテナンスデータが収集され、それらをすべて蓄積していくと病院側のメンテナンスデータ用記憶装置の容量に限界が来ることもある。そこで一日で収集したメンテナンスデータを平均化させる計算機能を付加させてもよい。平均化されたメンテナンスデータは自己診断プログラムにより異常を判断したり、サービスセンタに送信することで監視する。なお、平均化した後の各メンテナンスデータは消去してよい。
【0043】
さらに容量の負担軽減を考慮すると、平均化したメンテナンスデータを毎日サービスセンタに送信し、サービスセンタに上述した自己診断プログラムの機能を持たせて短期的な監視や長期的な監視をサービスセンタで行うことも可能である。
また、サービスセンタにメンテナンスデータを送信する頻度や診断の際に使用する過去データは上記に限ったものではなく、その他にも必要に応じたさまざまな種類や頻度で使用が可能である。
【実施例3】
【0044】
実施例1では、メンテナンスデータは、X線管ウォームアップ時に前記データ収集回路から得られるデータであり、X線を非曝射時に得られるX線OFFデータと、X線は照射するがコリメータ302を閉じX線がX線検出器に入射しない状態で得られるX線遮断データと、X線管とX線検出器の間に何も置かない状態でX線を照射して得られるエア補正データと、のうち少なくとも一つである場合について記載した。
【0045】
実施例3では、メンテナンスデータを前記データ収集回路から収集可能なデータに限定せずに、X線管への電力供給ラインの電流や電圧の確認手段、X線管のヒータ回路の電流や電圧の確認手段、X線管が回転陽極型である場合の回転数検出手段、X線管の温度検知手段、X線管の曝射回数確認手段、設置した施設から供給される電源電圧変動の確認手段、コリメータ駆動回路の電流や電圧の確認手段、コリメータの位置検知手段、コリメータの作動速度確認手段、高電圧発生手段の出力を確認する手段、X線検出器の出力確認手段、回転盤の回転駆動機構への入力電流や電圧の確認手段、回転盤の回転速度確認手段と、回転盤から固定部(静止側)へのデータ転送の確認手段、寝台の移動機構への入力電流や電圧の確認手段、寝台の移動速度確認手段などX線CT装置を構成する各部からの各種信号をこれら各部の起動時に保存してメンテナンスデータとすることもできる。これらを図示しない伝達経路を経由して、メンテナンスデータ用記憶装置221に記憶しておく。
【0046】
また、必要に応じて自己診断手段222により診断する。
記憶しておいたメンテナンスデータは、必要に応じて自己診断結果とともに、通信装置223により通信ネットワーク230を介してサービスセンタ等の外部に送信される。
なお、メンテナンスデータとして実施例1に記載のメンテナンスデータと本実施例に記載のメンテナンスデータの種類を併用してもよい。
【0047】
サービスセンタ等の外部に送信されたメンテナンスデータと自己診断結果は、実施例1において図5を参照して説明した通り、たとえば2通りのフローに分けて処理される。第一のフローは、図5のステップ603において、自己診断プログラムにて異常を発見した場合、つまりYesである。
第二のフローは、異常は発見されずNoに進んだ場合である。
第一のフローで異常が有ると判定された場合は、上記自己診断プログラムは即刻サービスセンタへ異常データの送信604をし、サービスセンタはサービス拠点のサービス員に派遣要請612を行う。要請を受けたサービス員は異常データを基にX線CT装置の故障内容を把握して、必要な機材や交換部品の目安を立てて携行し早急に修理をする。
【0048】
一方、異常が無いものと判定された場合は、第2のフローとして、翌日から引き続きメンテナンスデータを収集する。
そして、メンテナンス用記憶装置に蓄積したメンテナンスデータを定期的にサービスセンタ(図5ではSCと略す)へステップ602にて送信する。
サービスセンタでは受信したメンテナンスデータをステップ610で蓄積し、過去に送信されたメンテナンスデータと比較して異常な変化の有無などの監視を行う(ステップ611)。この比較方法は上記に示した自己診断プログラムの第1のフローと同様に行うことができる。
また、実施例1と同様に、第1のフローと第2のフローは連続して適用すべきものではなく、必要に応じて一方のみのフローに従って、故障、故障の前兆、または故障の可能性を判定してもよい。
【0049】
以上のように構成することで、サービスセンタは異常の発生も異常の発生予測も居ながらにして把握可能となり、迅速にサービス拠点からサービス員の派遣を依頼することができる。これにより、修理に必要な機材や交換部品の目安を立てて携行し早急に修理や対策をすることができるようになり、ダウンタイムの除去あるいは短縮が可能となる。
【0050】
また、各部起動時のメンテナンスデータの収集は、使用開始時に行う動作であるため、改めてメンテナンス用のデータを取得するという煩雑さを回避しながら故障や経年変化の監視を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施例によるリモートサービスシステムを示す全体構成図。
【図2】本発明の一実施例によるX線CT装置の基本構造を示した概略図。
【図3】本発明の一実施例によるX線管ウォームアップ時リモートメンテナンスデータ取得のフローチャート。
【図4】メンテナンスデータ(エア補正データ)の一例を示す図。
【図5】本発明の一実施例によるメンテナンス用データ処理のフローチ ャート。
【符号の説明】
【0052】
100 顧客サイト、101 メンテナンスデータ用コンピュータ、102 X線CT装置、110 サービスセンタサイト、111 サポート用コンピュータ、230 通信ネットワーク、200 X線管、201 回転盤、202 コリメータ、203 多チャンネル形X線検出器、204 データ収集回路、205 画像処理用記憶装置、206 画像処理装置、207 表示装置、208 入力、装置 209 制御装置、210 寝台、211 高電圧発生手段、219 被検体、220 メンテナンスデータ用コンピュータ、221 メンテナンスデータ用記憶装置、222 自己診断手段、223 通信装置、230 通信ネットワーク、240 情報漏えい防止フィルター、241 情報漏えい防止フィルター、302 第1ステップ、303 第2ステップ、304 第3ステップ、401 X線OFFデータ収集、402 X線遮断データ収集、403 エア補正データ収集

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を照射するX線管と、
X線管から照射されるX線の照射範囲を制限するコリメータと、
X線管に電力を供給する高電圧発生手段と、
照射されたX線を検出するX線検出器と、
前記X線管と前記X線検出器を搭載して、前記X線管と前記X線検出器の間に被検体を挟み、その周囲を回転する回転盤と、
被検体を搭載して移動可能な寝台と、
前記X線検出器で検出した信号を収集するデータ収集回路と、
前記データ収集回路で収集されたデータを画像化する画像処理手段と
前記高電圧発生手段、前記回転盤、および前記寝台を制御する制御装置、を備えたX線CT装置において、
X線CT装置の前記各部の少なくとも一つを起動する際に前記各部の少なくとも一つからメンテナンスデータを取得して記憶するメンテナンスデータ用記憶装置と、
前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータの少なくとも一部を外部に送信可能な通信装置と、を備えたX線CT装置。
【請求項2】
前記記憶されたメンテナンスデータを解析し診断する自己診断手段をさらに備え、
前記通信装置は前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータおよび前記自己診断手段から得られた情報の少なくとも一部を外部に送信可能であることを特徴とする請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記メンテナンスデータには、X線管ウォームアップ時に前記データ収集回路から得られるデータであり、X線を非曝射時に得られるX線OFFデータと、X線は照射するがコリメータを閉じX線がX線検出器に入射しない状態で得られるX線遮断データと、X線管とX線検出器の間に何も置かない状態でX線を照射して得られるエア補正データと、のうち少なくとも一つが含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
X線管への電力供給ラインの電流や電圧の確認手段、X線管のヒータ回路の電流や電圧の確認手段、X線管が回転陽極型である場合の回転数検出手段、X線管の温度検知手段、コリメータ駆動回路の電流や電圧の確認手段、コリメータの位置検知手段、コリメータの作動速度確認手段、高電圧発生手段の出力を確認する手段、X線検出器の出力確認手段、回転盤の回転駆動機構への入力電流や電圧の確認手段、回転盤の回転速度確認手段と、寝台の移動機構への入力電流や電圧の確認手段、寝台の移動速度確認手段がさらに備えられ、前記メンテナンスデータには、少なくともこれらの手段のひとつからの信号が含まれることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のX線CT装置。
【請求項5】
前記自己診断手段は、過去に収集したメンテナンスデータと直近のメンテナンスデータを比較することで、異常の有無を判定することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のX線CT装置。
【請求項6】
外部からのアクセスを制限する情報漏えい防止手段を更に備えたことを特徴とする請求項1から5いずれかに記載のX線CT装置。
【請求項7】
X線CT装置と、
前記X線CT装置の各部の少なくとも一つを起動する際に前記各部の少なくとも一つからメンテナンスデータを取得して記憶するメンテナンスデータ用記憶手段と、
前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータの少なくとも一部をサービス手段に送信可能な通信手段と、
前記メンテナンスデータの少なくとも一部を監視して故障、故障の前兆、または故障の可能性を判定するサービス手段と、を含むX線CT装置用のリモートサービスシステム。
【請求項8】
前記メンテナンスデータを解析し診断する自己診断手段をさらに備え、
前記通信手段は、前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータおよび前記自己診断手段から得られた情報の少なくとも一部を外部に送信可能であることを特徴とする請求項7に記載のX線CT装置用のリモートサービスシステム。
【請求項9】
外部からのアクセスを制限する情報漏えい防止手段を更に備えたことを特徴とする請求項7または8に記載のX線CT装置用のリモートサービスシステム。
【請求項10】
別々にプログラムされた複数のコンピュータによりX線CT装置を遠隔地から監視してリモートサービスをする方法であり、
第1のコンピュータにより、X線CT装置の各部の少なくとも一つを起動するステップと、
第2のコンピュータにより、プログラムされたコンピュータにより前記起動後に前記各部の少なくとも一つからメンテナンスデータを取得して記憶するステップと、
第3のコンピュータにより、前記メンテナンスデータを解析し診断するステップと、
第4のコンピュータにより、前記メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータの少なくとも一部をサービス手段に送信するステップと、
第5のコンピュータにより、前記前記メンテナンスデータの少なくとも一部を監視して異常または異常の発生可能性を判定し、前記異常または異常の発生可能性があると判定した場合にはサービス員派遣の必要性を知らせるステップと、を含むX線CT装置のリモートサービス方法。
【請求項11】
第1のコンピュータから第4のコンピュータは同一のコンピュータであることを特徴とする請求項10に記載のX線CT装置のリモートサービス方法。
【請求項12】
第6のコンピュータにより、前記メンテナンスデータを解析し診断するステップをさらに備え、
前記サービス手段に送信するステップでは、メンテナンスデータ用記憶装置内の前記メンテナンスデータおよび前記自己診断手段から得られた情報の少なくとも一部を送信し、
前記サービス員の派遣の必要性を知らせるステップでは、前記メンテナンスデータおよび前記自己診断手段から得られた情報の少なくとも一部を監視して故障、故障の前兆、または故障の可能性を判定し、前記故障、故障の前兆、または故障の可能性があると判定した場合にはサービス員を派遣することを特徴とする請求項10に記載のX線CT装置のリモートサービス方法。
【請求項13】
第1から4のコンピュータと第6のコンピュータは同一のコンピュータであることを特徴とする請求項12に記載のX線CT装置のリモートサービス方法。
【請求項14】
第7のコンピュータにより、外部からのアクセスを制限する情報漏えい防止ステップを更に備えたことを特徴とする請求項0から13のいずれかに記載のX線CT装置用のリモートサービス方法。
【請求項15】
第1から4のコンピュータと、第6のコンピュータと、第7のコンピュータは、同一のコンピュータであることを特徴とする請求項14に記載のX線CT装置のリモートサービス方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−75387(P2006−75387A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−263375(P2004−263375)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】