説明

YAGレーザ加工機の溶接ヘッド

【課題】従来の溶接ヘッドでは入ることができなかった狭い場所や奥まった場所の溶接において、被加工対象物を正確に観察するための被加工対象物を照明する照明装置を有する小型化した溶接ヘッドを具備するYAGレーザ加工機を提供する。
【解決手段】ロボットアーム9を具備するYAGレーザ加工機において、ロボットアームの一端に取付けられた溶接ヘッド1が、円筒体と円筒体の端部から連続して延在する円錐体8を有し、円筒体が具備するレーザ発生手段から射出されたレーザ光が光学手段5で集光されて円錐体の頂部の開口孔より射出されることで被加工対象物を加工するための溶接ヘッドであって、溶接ヘッドには、円筒体の内側に設置される被加工対象物を照明するための照明手段6と、光学手段5の表面に設けられた照明光を反射する反射手段とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、YAGレーザ加工機において特に被加工対象物を撮影装置によって観察する際に、被加工対象物を照明するための照明装置を有するYAGレーザ加工機の溶接ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットアームの一端にYAGレーザを具備した溶接ヘッドを搭載したレーザビーム加工装置において、溶接作業の準備工程の1つであるティーチング時に、被加工対象物であるワークの溶接線をトレースするためモニタを通して確認する工程が必須である。モニタでワークの溶接線を確認する際、光源からの照射光を溶接ヘッドのトーチ部に導入しワークの溶接線の照明に使用している。
【0003】
照明用の光源には、溶接ヘッドの外部から小型電球やLED等を光源として光ファイバー伝送による光を照射してCCDカメラで撮影するための光源とする照明法(以下「外部照明」と記す)と、溶接ヘッドの内部に小型電球やLED等の照明装置を配置し、光を照射してCCDカメラで撮影するための光源とする照明法(以下「内部照明」と記す)とがある。
【0004】
例えば、特許文献1及び特許文献2に従来の照明方法が紹介されている。特許文献1では、溶接ヘッドの円筒体に環状のリング型ライトガイドを設けて、専用ミラーでワーク表面に照射光を照射する外部照明による光源が提案されている。また、特許文献2では、照明用の小型電球を具備する照明装置を溶接ヘッドの円錐体の先端部に埋め込んで照射光を照射する内部照明による光源が提案されている。図6は、従来の照明用の小型電球91を具備する照明装置90を、溶接ヘッドの円錐体111の先端部に埋め込んで照射光を照射する内部照明を示す図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−197273号公報
【特許文献2】特開平10−314968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の照明方法では、狭い場所や奥まった場所を溶接する際、外部照明ではYAGレーザ伝送用ファイバーケーブルが邪魔になり、また、内部照明ではLEDをレーザの光路の外側に配置する必要性(照明器具の損傷の懼れより)から溶接ヘッドの円錐部等の構造物が大きくなることで、溶接位置まで入り込むことができない問題があった。
【0007】
また、円錐体の先端部に照明装置を設けた場合、溶接時のスパッタにより汚れや損傷を受ける可能性が高くなる問題があった。
【0008】
本発明は、以上の点に着目して成されたもので、従来の溶接ヘッドでは入ることができなかった狭い場所や奥まった場所の溶接において、被加工対象物を正確に観察するための被加工対象物を照明する照明装置を有する小型化したYAGレーザ加工機の溶接ヘッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上述の目的を達成するため、以下(1)〜(4)の構成を備えるものである。
【0010】
(1)ロボットアームを具備するYAGレーザ加工機において、前記ロボットアームの一端に取付けられた溶接ヘッドが、円筒体と、該円筒体の端部から連続して延在する円錐体を有し、前記円筒体が具備するレーザ発生手段から射出されたレーザ光が光学手段で集光されて前記円錐体の頂部の開口孔より射出されることで前記円錐体の頂部に対向して設置された被加工対象物を加工するための溶接ヘッドであって、前記溶接ヘッドには、前記円筒体の内側に設置される前記被加工対象物を照明するための照明手段と、前記光学手段の表面に設けられた前記照明手段から射出された照明光を反射する反射手段とを具備することを特徴とするYAGレーザ加工機の溶接ヘッド。
【0011】
(2)前記照明手段は、前記円筒体の内側に等間隔で円形に配置された複数個の光源により構成されていることを特徴とする前記(1)記載のYAGレーザ加工機の溶接ヘッド。
【0012】
(3)前記反射手段が、前記光学手段の表面の中央部と外周部とが異なる反射膜で構成されることを特徴とする前記(1)または(2)記載のYAGレーザ加工機の溶接ヘッド。
【0013】
(4)前記光学手段より所定の位置に設置された反射板を更に有し、前記照明手段から射出された照明光が一度前記光学手段を透過した後、前記反射板に反射された前記照明光が前記光学手段の表面に設けられた前記反射手段に反射され、前記円錐体の頂部の開口孔より前記被加工対象物に照射されることを特徴とする前記(1)乃至(3)のいずれか1項に記載のYAGレーザ加工機の溶接ヘッド。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、上記構成を有することで従来の溶接ヘッドでは入ることができなかった狭い場所や奥まった場所の溶接作業において、被加工対象物を正確に観察するための被加工対象物を照明する照明装置を具備する小型化した溶接ヘッドによって、狭い場所や奥まった場所の溶接を可能にするYAGレーザ加工機の溶接ヘッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施例1に係るYAGレーザ加工機の外観図
【図2】本実施例1に係るYAGレーザ加工機の溶接ヘッドの構成図
【図3】本実施例1に係る溶接ヘッドと旧構成の溶接ヘッドとの比較図
【図4】本実施例1に係る溶接ヘッドの反射方法の構成図
【図5】本実施例2の係る溶接ヘッドの構成図
【図6】従来の溶接ヘッドの構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明を実施するための形態を、実施例により詳しく説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本実施例に係るYAGレーザ加工機の外観図である。図2は本実施例に係るYAGレーザ加工機の溶接ヘッドの断面図である。
【0019】
図中において、1はロボットアームの一端に取付けられた溶接ヘッドである。溶接ヘッド1を構成する円筒体の上部にはレーザ発生装置1aが装備されている。2はCCDカメラである。3はCCDカメラ2の撮影映像を表示するモニタである。4は溶接ヘッド1に必要な配線を束ねたケーブルである。5はレーザ光を集光するレンズである。レンズ5の表面にはARコーティング5aが施されている。6はCCDカメラの照明用のLEDが等間隔で配置されたLED光源である。7はスタッパ防護用の光学ガラスである。8は溶接ヘッド1の円筒体から連続して延在する円錐部である。9はロボットアームである。10はYAGレーザ加工機の本体である。
【0020】
図1に示すYAGレーザ加工機10は、非常に強力なYAGレーザを使用するためユーザ工場内に設けられた保護用パーテーションに囲まれた範囲内に設置され、溶接作業は無人で実施される。ティーチング時の被加工対象物であるワークの溶接線上をトレースさせるプログラム工程において、ワークの溶接線の確認はロボットアーム9のベース部9aに設置されたモニタ3を介して実施される。ティーチングによってプログラムされたロボットアーム9の動作を再生することで、ロボットアーム9の先端部に取付けられている溶接ヘッド1は、ロボットアーム9の動きに合わせて移動し、レーザ光でワークの溶接線上を正確にトレースして溶接する。
【0021】
図2(a)に示す本実施例に係るYAGレーザ加工機における溶接ヘッド1の断面図において、CCDカメラ2の映像はLED光源6から発せられた照明光が、レンズ5の表面に施工されたARコーティング5a(非反射コーティング)を反射面として利用し、反射され照射光が被加工対象物のワークに照射される。ワークからの反射光が2枚の反射ミラー2b、2cを介してCCDカメラ2のCCDセンサ2aに入力されることで撮影され、撮影されたワークの映像がモニタ3に表示されロボットアーム9のティーチングに使用される。ティーチングとは、CCDカメラで撮影された被加工対象物のワークの映像から、モニタ3でワークの溶接線を確認し、ロボットアーム9に取付けられた溶接ヘッド1がワークの溶接線上を正確にトレースしていくためのロボットアーム9の動作をプログラムする重要な工程である。
【0022】
図2(b)は、本実施例に係るYAGレーザ加工機10の溶接ヘッド1の円錐部8の中のレーザ光路と、照明用のLED光源6から発射され、レンズ5表面のARコーティング5aに反射されてレーザ光路の内側に形成されるLED光路とを示す図である。
【0023】
図3は溶接ヘッド1の円錐部8において、旧構成の照明装置と、本実施例に係るYAGレーザ加工機10の溶接ヘッド1の照明装置の照明光路の違いを示す比較図である。
【0024】
従来の内部照明と同じく、レーザ光路の外周に配置されたLED光源6から直接ワークに照射される旧構成の照明装置のLED光路と、一旦レンズ5表面のARコーティング5aに反射させてレーザ光路の内側にLED光路を形成して反射光がワークに照射される新構成の照明装置との違いが示されている。新構成の照明装置を有する溶接ヘッド1では、レンズ5のARコーティング5aを反射材として利用することでレーザ光路の内側にLED光路を形成することが可能となり、旧構成の内部照明装置のレーザ光路の外側に形成されていたLED光路の幅だけ円錐部8を細くすることが実現できる。
【0025】
レンズ5の表面に形成されたARコーティング5aとはアンチリフレクティングコーティングの略で、レンズ5の表面にフッ化マグネシュウムを真空蒸着した光干渉膜により、レンズ5の上部から照射される赤外線領域のYAGレーザ光は反射や減衰させること無く透過させるが、可視領域の光では膜表面で反射する光を、透過してレンズ奥で反射される光の波長を逆位相にして打ち消すためのコーティング法である。
【0026】
しかし、溶接ヘッド1に使用されている一般的なレンズ5は、可視領域のLED光を約50%は反射する性能のレンズ5が用いられているため、レンズ下部に設置されたLED光源6からのLED光はARコーティング5aにより50%減衰するが、残り50%が反射されるため照明に必要なLED光を充分確保することができる。レンズ5の表面で照明光が反射されることを利用して、レーザ光路の内側にLED光路を設けるという最大の効果が得ることができる。その結果、旧構成の溶接ヘッド1の円錐部8の形状がLED光路をレーザ光路の内側に形成される分、円錐部8の形状を細くすることが可能となり、狭い場所でも溶接ヘッド1が入ることができる円錐部8を具備した溶接ヘッド1を実現している。
【0027】
レンズ5を照明装置の反射材として利用する方法について、上述したARコーティング5aは照明用のLED光を逆位相の光で減衰させる特徴を持つため、ワークに照射される照明用のLED光が減衰されないように改善した反射方法について説明する。
【0028】
図4(a)に示すように、レンズ5を透過して集光されるYAGレーザ光の光路より外側に位置するレンズ下部の外縁部に、高反射材5cを挟み込むことでLED光源6からの射出された照明光を反射させる方法を示す図である。また、図4(b)に示すレンズ5の下部表面のコーティング処理を、YAGレーザ光の光路となる中央部はARコーティング5a、YAGレーザ光の光路から外れた外周部には新たな反射膜となるLED反射コーティング5bを行い、ドーナツ状にコーティング処理を行う2重コーティング方法を示す図である。
【0029】
上述した2種類の反射方法の構成により、ARコーティング5aによるLED反射光の減衰を防止してLED光路をレーザ光路の内側に形成し、円錐部8を細くすることが可能となる同様の効果が得られる。またLED反射光が減衰されない分、充分な明るさが確保できるためLED光源6を構成するLEDの数を減らすこともできる。
【0030】
以上、従来の技術では入ることができなかった狭い場所や奥まった場所において、溶接作業をすることが可能と成る小型化した溶接ヘッドを具備したYAGレーザ加工機を提供することができる。
【実施例2】
【0031】
内部照明用のLED光源6の設置位置を、実施例1と異なる位置に変更することで溶接ヘッド1の構造物をより小型化する構成について説明する。
【0032】
図5は、本実施例に係るYAGレーザ加工機の溶接ヘッド1の断面図である。
【0033】
図5では、実施例1においてレンズ5とスパッタ保護用の光学ガラス7との間に設置されていたLED光源6を、レンズ5上部の円筒体内壁部に配置してレンズ5の下面から反射に必要な所定の間隔を有した位置にある光学ガラス7の外縁部に新たな反射板5dを設けた構成となっている。レンズ5を透過したLED光は反射板5dに反射された後、更にレンズ5のARコーティング5aで反射させるという2重反射機構を設けることによりLED光路をレーザ光路の内側に形成し、円錐部8を細くすることが可能となる溶接ヘッドを提供することができる。
【0034】
また、レンズ5と光学ガラス7との間に設置されていた実施例1のLED光源6を、レンズ5上部の円筒体内壁に沿って配置することで、LED光源6の厚みから反射に必要な所定の間隔を差引いた幅だけ溶接ヘッド1の構造物を薄くすることができる。その結果、更に小型化された溶接ヘッド1を構成することが出来る。
【0035】
溶接ヘッド1に使用されている一般的なレンズ5は、ARコーティング5aにより可視領域の光の約50%透過させ、残り50%を反射する性能のレンズ5が用いられている。従って、本実施例に示す照明の減衰は、レンズ5を透過する時のレンズ透過率50%と、レンズ5の下面のARコーティング5aに反射される時の反射率50%とをかけ合わせて、約25%のLED光がワークに照射される照明光となる。そのため、可視光線であるLED光の減衰量は大きいが、必要に応じてLEDの数を増やすことで照明に必要な明るさを確保することができる。また、図4(a)、図4(b)で示した高反射材5cやレンズ5にドーナツ状に反射コーティングを施工する反射方法の改善策を利用する場合は、LED光源6からレンズ5を透過するための光路を確保する構成(LED光源6の直下の高反射材5cやLED反射コーティング5bに開口孔を設ける等)とすることで、照射光の減衰を改善した反射方法とすることも可能である。
【0036】
本実施例の溶接ヘッド1の構成は、レンズ5と光学ガラス7との間のスペースからLED光源6を除いた分を狭くすることができるため、円錐部8の付け根を更に小型化することが可能であり、より狭い場所での溶接作業が可能となる。
【0037】
その他のYAGレーザ加工機10の構成、及び溶接ヘッド1の構成については、実施例1と同一で有るため説明は省略する。
【0038】
以上、本実施例に係るYAGレーザ加工機の溶接ヘッドによれば、従来の溶接ヘッドでは入ることができなかった狭い場所や奥まった場所において、溶接作業をすることが可能な、より小型化された溶接ヘッドを具備したYAGレーザ加工機を提供することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 溶接ヘッド
1a レーザ発生装置
2 CCDカメラ
2a CCDセンサ
2b 反射ミラー
2c 反射ミラー
3 モニタ
4 ケーブル
5 レンズ(光学手段に対応)
5a ARコーティング(反射手段に対応)
5b LED反射コーティング(反射手段に対応)
5c 高反射材(反射手段に対応)
5d 反射板
6 LED光源(照明手段、及び光源に対応)
7 光学ガラス
8 円錐部(円錐体に対応)
9 ロボットアーム
9a ベース部
10 YAGレーザ加工機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームを具備するYAGレーザ加工機において、
前記ロボットアームの一端に取付けられた溶接ヘッドが、円筒体と、該円筒体の端部から連続して延在する円錐体を有し、前記円筒体が具備するレーザ発生手段から射出されたレーザ光が光学手段で集光されて前記円錐体の頂部の開口孔より射出されることで前記円錐体の頂部に対向して設置された被加工対象物を加工するための溶接ヘッドであって、
前記溶接ヘッドには、前記円筒体の内側に設置される前記被加工対象物を照明するための照明手段と、前記光学手段の表面に設けられた前記照明手段から射出された照明光を反射する反射手段とを具備することを特徴とするYAGレーザ加工機の溶接ヘッド。
【請求項2】
前記照明手段は、前記円筒体の内側に等間隔で円形に配置された複数個の光源により構成されていることを特徴とする請求項1記載のYAGレーザ加工機の溶接ヘッド。
【請求項3】
前記反射手段が、前記光学手段の表面の中央部と外周部とが異なる反射膜で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載のYAGレーザ加工機の溶接ヘッド。
【請求項4】
前記光学手段より所定の位置に設置された反射板を更に有し、前記照明手段から射出された照明光が一度前記光学手段を透過した後、前記反射板に反射された前記照明光が前記光学手段の表面に設けられた前記反射手段に反射され、前記円錐体の頂部の開口孔より前記被加工対象物に照射されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のYAGレーザ加工機の溶接ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−110558(P2011−110558A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266273(P2009−266273)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(390014672)株式会社アマダ (548)
【Fターム(参考)】