説明

Yb−AE−Fe−Co−Sb(AE:Ca、Sr、Ba、Cu、Ag、Au)系熱電変換材料

【課題】高い熱電性能を有し、変換効率の高いp−型およびn−型熱電変換材料を提供する。
【解決手段】Yb−AE−Fe−Co−Sb系熱電変換材料が、一般式YbAEFeCoSb(0<x≦1、0<y≦1、0<x+y≦1、0≦z≦4、0≦u≦4、3≦z+u≦5、10≦v≦15)で表される構造を有し、AEはCa、Sr、Ba、Cu、Ag、およびAuからなる群から選択される少なくとも一種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱エネルギーを電気に、あるいは電気を熱エネルギーに直接変換できる熱電変換素子に使用する熱電変換材料に関し、特にp−型およびn−型Yb−AE−Fe−Co−Sb(AE:Ca、Sr、Ba、Cu、Ag、Au)系熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷の低減が世界的規模で推進される傾向にあり、エネルギーの効率的利用促進の一環として、熱機関などから発生する廃熱を回収し、電気へ変換する技術が盛んに研究開発されている。熱電変換材料は熱を電気に直接変換する、あるいは電気を印加して加熱・冷却できる材料であり、p−型熱電変換材料とn−型熱電変換材料とを組み合わせ、一つの熱電変換素子が形成される。熱電変換素子を使用すれば、従来あまり利用されていなかった排熱を電気に変換してエネルギーを有効に活用することができる。
【0003】
熱電変換材料の性質は、性能指数Zによって評価される。性能指数Zとは、ゼーベック係数S、熱伝導率κおよび電気抵抗率ρを用いた以下の式(1)によって表される。
Z=S/(κρ) ・・・式(1)
また、熱電変換材料の性質は、性能指数Zと温度Tとの積によって評価されることがある。この場合には、式(1)の両辺に温度T(ここで、Tは絶対温度)を乗じて以下の式(2)とする。
ZT=ST/(κρ) ・・・式(2)
式(2)に示したZTは無次元性能指数と呼ばれ、熱電変換材料の性能を示す指標になる。熱電変換材料は、このZTの値が大きいほど、その温度Tにおける熱電性能が高いことになる。式(1)、式(2)から、優れた熱電変換材料とは、無次元性能指数ZTの値を大きくできる材料、すなわちゼーベック係数Sが大きく、熱伝導率κおよび電気抵抗率ρが小さい材料である。
【0004】
熱電変換材料の最大変換効率ηmaxは、以下の式(3)で表される。
ηmax={(T−T)/T}{(M−1)/(M+(T/T))} ・・・式(3)
式(3)のMは、以下の式(4)によって表される。ここでTは熱電変換材料の高温端の温度、Tは低温端の温度である。
M={1+Z(T+T)/2}−0.5 ・・・式(4)
上記の式(1)〜(4)から、熱電変換材料の熱電変換効率は、性能指数および高温端と低温端との温度差が大きいほど、向上することが分かる。
【0005】
現在までに研究されてきた熱電変換材料には、BiTe系、PbTe系、GeTe−AgSbTe系、SiGe系、FeSi系、ZnSb系、BC系、スクッテルダイト構造を有するLaFeCoSb12(0<x≦1)およびYbCoSb12(0<y≦1)系材料、NaCo、CaCo、BiSrCo系酸化物などがある。
【0006】
上記の熱電変換材料の中で実用化されているのはBiTe系のみである。BiTe系熱電変換素子は、主として、低温域での用途開発がなされているが、熱電変換効率が10%未満と低いので、スペースユーティリティーが小さいペルチェ素子などに用途が限られている。
【0007】
また、1996年に報告されたZnSb熱電変換材料は、p−型で無次元性能指数ZT=1という高い熱電性能を有する。しかしながら、400℃以上の温度に達した場合、固相変態して熱電性能が低下するという欠点があり、用途が400℃以下の範囲に限られる。
【0008】
10年前から、「Phonon Glass and Electron Crystal」というコンセプトに基づき、ラットリング効果を利用したスクッテルダイト熱電変換材料の開発がなされてきた。その結果、300〜600℃の中温域で使用可能なLa(Ce)−Fe−Sb系およびYb−Co−Sb系熱電変換材料、特にp−型LaFeCoSb12(0<x≦1)およびn−型YbCoSb12(0<y≦1)熱電変換材料が開発され、その熱電性能の無次元性能指数ZTはそれぞれ0.7〜0.8と比較的高い値を示している(特許文献1および2)。なお、特許文献1によれば、p−型CeFeSb12熱電材料の無次元性能指数(ZT)は450℃で1.4に達しているが、本発明者による追試では約0.5〜0.6であった。
【特許文献1】特開2000−252526号公報
【特許文献2】特開2001−135865号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、高い熱電変換効率を示す熱電変換素子を作るためには、p−型、n−型共に無次元性能指数ZT>1を有し、かつ熱的に安定であることが要求されるが、従来の材料はこの要求を満たすことは困難であった。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑み、300〜600℃の温度範囲で従来の熱電変換材料よりも熱電性能が高い熱電変換材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明によれば、Yb−AE−Fe−Co−Sb系熱電変換材料であって、一般式YbAEFeCoSb(0<x≦1、0<y≦1、0<x+y≦1、0≦z≦4、0≦u≦4、3≦z+u≦5、10≦v≦15)で表される構造を有し、AEはCa、Sr、Ba、Cu、Ag、およびAuからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とするYb−AE−Fe−Co−Sb系熱電変換材料が提供される。
【0012】
本発明において、結晶格子内にFeとCoとを、およびYbとAEとを同時に混在させることでフォノン散乱を強く起こすことができる。このフォノン散乱が熱伝導率κを低下させるので、式(2)より無次元性能指数ZTの値を大きくすることが可能である。
【0013】
さらに、本発明では、YbAEFeCoSb中のzおよびu、すなわちFeおよびCoの量を調整することによって、出力因子P(=S/ρ)の値を大きくすることも可能である。この効果により無次元性能指数ZTの値をより一層大きくすることができる。
【0014】
また、本発明によれば、上記一般式YbAEFeCoSbにおける元素Feまたは元素Coの少なくとも一部が、元素Ru、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、およびPtからなる群から選択される少なくとも一種によって置換されたYb−AE−Fe−Co−Sb系熱電変換材料が提供される。
【0015】
元素Feまたは元素Coの少なくとも一部を元素Ru、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、およびPtからなる群から選択される少なくとも一種の元素で置換することにより、熱伝導率κをさらに低下させることができ、熱電変換材料の熱電性能を表す無次元性能指数ZTの値をさらに大きくすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のp−型およびn−型のYb−AE−Fe−Co−Sb(AE:Ca、Sr、Ba、Cu、Ag、Au)系熱電変換材料を用いることにより、300〜600℃の中温領域で高い熱電性能を有し、変換効率の高い熱電変換素子を提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の熱電変換材料は、Yb−AE−Fe−Co−Sb系熱電変換材料であって、一般式YbAEFeCoSb(0<x≦1、0<y≦1、0<x+y≦1、0≦z≦4、0≦u≦4、3≦z+u≦5、10≦v≦15)で表される構造を有し、AEはCa、Sr、Ba、Cu、Ag、およびAuからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする。
【0018】
本発明のp−型およびn−型熱電変換材料は、充填スクッテルダイト構造を有することが望ましい。このような構造を有する熱電変換材料は、溶解法、急冷凝固法、メカニカルアロイング法(ボールミル法)、または単結晶育成法などと、ホットプレス法、加熱焼結法、放電プラズマ成型法、または熱処理法などを組み合わせることによって作製することができる。しかしながら、充填スクッテルダイト構造が得られる限り、製法としては特に上記に限定されない。
以下、具体的な合成プロセスの例について説明する。
【0019】
本発明のp−およびn−型熱電変換材料の合成プロセスとして、溶解法と熱処理法とを組み合わせた例について説明する。所定比率で純金属の原料をアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気加熱によって1200℃まで加熱溶解する。5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、さらに600℃で12時間保持する。その後、室温まで冷却することにより、目的の熱電変換材料を得ることができる。
【0020】
本発明のp−およびn−型熱電変換材料の合成プロセスとして、溶解法と放電プラズマ成型法とを組み合わせた例について説明する。所定比率で純金属の原料をアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、1200℃まで加熱溶解する。2時間保持した後、室温まで冷却し、インゴットを得る。このインゴット原料を粉砕し、粉末をカーボンダイスに入れ、真空もしくは不活性ガス雰囲気中において、60MPaの圧力の下でパルス電流をかけながら500〜700℃の温度まで加熱する。10分間保持した後、室温まで冷却することで目的の熱電変換材料を得ることができる。
【0021】
さらに、本発明のp−およびn−型熱電変換材料の合成プロセスとして、メカニカルアロイング法と放電プラズマ成型法とを組み合わせた例について説明する。まず、不活性ガス雰囲気中において、所定比率で純金属粉末をアルミナ容器の中に入れ、アルミナボールと混合する。次いで、メカニカルアロイングを24時間行い、原料粉末を得る。この粉末をカーボンダイスに入れ、真空もしくは不活性ガス雰囲気中において、60MPaの圧力の下でパルス電流をかけながら500〜700℃の温度まで加熱し、10分間保持する。その後、室温まで冷却することにより、目的の熱電変換材料を得ることができる。
【0022】
上述した何れの製法を用いた場合も、得られた熱電変換材料は充填スクッテルダイト構造を有することが粉末X線回折によって確認された。そして、そのゼーベック係数、電気抵抗率、熱伝導率と温度との関係を測定し、無次元性能指数ZTの温度依存性を調べた。その結果、温度の上昇と共にZTが大きくなり、300〜600℃の温度範囲でZTは0.8〜1.1に達した。
【実施例】
【0023】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。
【0024】
(実施例1)
本実施例では、n−型Yb0.3Ca0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料の合成法およびその熱電性能について述べる。
【0025】
原料として所定比率の純金属Yb、Fe、Co、Ca、およびSbをアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気加熱によって1200℃まで加熱溶解した。5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、さらに600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的の熱電変換材料を得た。
【0026】
熱電性能評価装置を用い、室温〜600℃の温度範囲で上述の熱電変換材料のゼーベック係数、電気抵抗率および熱伝導率を測定し、無次元性能指数を算出した。図1〜図4はそれぞれ本実施例で得られたYb0.3Ca0.1Fe0.25Co3.75Sb12のゼーベック係数S、電気抵抗率ρ、熱伝導率κおよび無次元性能指数ZTと温度との関係を示す。温度の上昇につれて、ゼーベック係数の絶対値、電気抵抗率およびZTは大きくなった。これらの結果から、図4に示すように、本実施例のn−型熱電変換材料の無次元性能指数ZTは温度の上昇につれて大きくなり、300℃以上の温度で0.8以上、400℃以上の温度で1.0以上、500℃で最大値1.1に達した。
【0027】
(比較例1)
本比較例では、Yb0.15CoSb12熱電変換材料の従来溶製法およびその熱電性能について述べる。
【0028】
Yb、Co、Sbの単体金属を出発原料とし、Yb:Co:Sb=1:9.0820:56.2922の重量比率で純金属Yb、Co、Sbの原料をアルミナ坩堝に入れた。不活性ガス雰囲気中において、電気炉加熱によって液相線以上の温度まで、例えば1200℃まで加熱・溶解し、2時間保持した。その後、徐冷し、900℃で6時間、800℃で24時間、650℃で12時間、さらに550℃で6時間それぞれ保持した。室温まで冷却することにより、Yb0.15CoSb12熱電変換材料が得られた。
【0029】
熱電性能評価装置を用い、室温〜600℃の温度範囲でこの熱電変換材料のゼーベック係数、電気抵抗率および熱伝導率を測定し、無次元性能指数を算出した。これらの結果を図9〜図12に示す。熱伝導率の最小値は3.5W/mKであった。また、無次元性能指数ZTは300〜500℃の温度範囲で最大0.35であった。
【0030】
実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1のn−型Yb0.3Ca0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料は、比較例1の高い熱電性能を有するn−型熱電変換材料Yb0.15CoSb12に比べ、さらにYbとCaおよびFeとCoの共存によって出力因子の値P(=S/ρ)が大きく、また熱伝導率が小さくなって、より一層高い熱電性能を示した。特に、比較例1のn−型熱電変換材料Yb0.15CoSb12の熱伝導率の最小値は3.5W/mKであったが、図3に示すように実施例1の熱電変換材料における熱伝導率の最小値は2.3W/mKであった。従って、実施例1のn−型熱電変換材料においては、比較例1のYb0.15CoSb12材料の熱伝導率に比べて熱伝導率が大幅に低下した。図4に示すように、実施例1のn−型熱電変換材料の無次元性能指数ZTは温度の上昇につれて大きくなり、500℃で最大値1.1に達している。
【0031】
(実施例2)
本実施例では、n−型Yb0.3Sr0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料の合成法およびその熱電性能について述べる。
【0032】
原料として、所定比率で純金属Yb、Fe、Co、Sr、およびSbを秤量し、アルミナ坩堝に入れた。これらを不活性ガス雰囲気中において、電気加熱によって1200℃まで加熱溶解した。5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的のYb0.3Sr0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料を得た。さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜600℃の温度範囲で最大0.9に達した。
【0033】
(実施例3)
本実施例では、n−型Yb0.3Ba0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料の合成法およびその熱電性能について述べる。
【0034】
原料として、所定比率で純金属Yb、Fe、Co、Ba、Sbを秤量し、アルミナ坩堝に入れた。これらを不活性ガス雰囲気中において、電気加熱によって1200℃まで加熱溶解した。5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的のYb0.3Ba0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料を得た。さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜600℃の温度範囲で最大1.0に達した。
【0035】
(実施例4)
本実施例では、n−型Yb0.4Ag0.1Fe0.75Co3.25Sb12熱電変換材料の合成法およびその熱電性能について述べる。
【0036】
原料として、所定比率で純金属Yb、Fe、Co、Ag、およびSbを秤量し、アルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気加熱によって1200℃まで加熱溶解した。これらを5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的のYb0.4Ag0.1Fe0.75Co3.25Sb12熱電変換材料を得た。さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜600℃の温度範囲で最大1.0に達した。
【0037】
(実施例5)
本実施例では、n−型Yb0.3Ca0.1Fe0.25Co3.75Sb11.5熱電変換材料の合成法およびその熱電性能について述べる。
原料として、所定比率で純金属Yb、Fe、Co、Ca、Sbを秤量し、アルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気加熱によって1200℃まで加熱溶解した。これらを5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的のYb0.3Ca0.1Fe0.25Co3.75Sb11.5熱電変換材料を得た。さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜600℃の温度範囲で最大1.0に達した。
【0038】
(実施例6)
本実施例では、p−型Yb0.75Ag0.05FeCoSb12熱電変換材料の合成法およびその熱電性能について述べる。
【0039】
原料として、所定比率で純金属Yb、Fe、Co、Ag、およびSbをアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気炉加熱によって1200℃まで加熱溶解した。これらを5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、さらに600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的の熱電変換材料を得た。
【0040】
熱電性能評価装置を用い、室温〜600℃の温度範囲で上述の熱電変換材料のゼーベック係数、電気抵抗率および熱伝導率を測定し、無次元性能指数を算出した。これらの結果を図5〜図8に示す。YbとAgおよびFeとCoの二重共存によって熱伝導率の値はかなり小さくなった。図7に示すように、500℃以下の温度範囲で熱伝導率の値は2W/mK以下となり、その最小値は1.4W/mKであった。熱伝導率が小さくなったため、無次元性能指数ZTが大きくなり、その最大値は0.8に達した。
【0041】
(実施例7)
本実施例では、p−型Yb0.75Ca0.1Fe2.5Co1.5Sb12熱電変換材料の合成法およびその熱電性能について述べる。
【0042】
原料として、所定比率の純金属Yb、Fe、Co、Ca、およびSbを秤量し、アルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気加熱によって1200℃まで加熱溶解した。これらを5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的のYb0.75Ca0.1Fe2.5Co1.5Sb12熱電変換材料を得た。熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜600℃の温度範囲で最大0.8に達した。
【0043】
(実施例8)
本実施例では、p−型Yb0.75Ca0.1Fe2.5Co1.5Sb11熱電変換材料の合成法およびその熱電性能について述べる。
【0044】
原料として、所定比率の純金属Yb、Fe、Co、Ca、およびSbを秤量し、アルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気加熱によって1200℃まで加熱溶解した。これらを5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的のYb0.75Ca0.1Fe2.5Co1.5Sb11熱電変換材料を得た。熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜600℃の温度範囲で最大0.8に達した。
【0045】
以上の結果から明らかなように、本発明によるp−型およびn−型YbAEFeCoSb(0<x≦1、0<y≦1、0<x+y≦1、0≦z≦4、0≦u≦4、3≦z+u≦5、10≦v≦15、AEはCa、Sr、Ba、Cu、Ag、およびAuからなる群から選択される少なくとも一種)熱電変換材料は無次元性能指数ZT=0.8〜1.1に達し、従来の熱電変換材料よりも優れた熱電性能を有する。
【0046】
さらに、YbAEFeCoSbの中のCoおよび/またはFeの一部分をRu、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、およびPtからなる群から選択される少なくとも一種で置換した場合、これらの元素がCoおよび/またはFeの格子サイトに取りこまれ、異なる元素の混在によってフォノン散乱が引き起こされる。その結果、熱伝導率の値は置換前より小さくなる。これにより熱電性能がより一層高くなる。実施例を用いて以下に具体的に説明する。
【0047】
(実施例9)
本実施例では、n−型Yb0.3Sr0.1Fe0.25Co3.7Rh0.05Sb12熱電変換材料の合成法およびその熱電性能について述べる。
【0048】
原料として、所定比率の純金属Yb、Fe、Co、Rh、Sr、およびSbを秤量し、アルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気加熱によって1200℃まで加熱溶解した。これらを5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的のYb0.3Sr0.1Fe0.25Co3.7Rh0.05Sb12熱電変換材料を得た。
さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲でこの材料の熱電性能を評価した。その結果、実施例2で得られたn−型Yb0.3Sr0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料に比べ、ゼーベック係数と電気抵抗率はあまり変わっていないが、熱伝導率は小さくなった。例えば、500℃において、RhでCoを置換していないn−型Yb0.3Sr0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料のゼーベック係数、電気抵抗率および熱伝導率は、それぞれ−190μV/K、1.1×10−5Ωm、2.8W/mKであったが、置換後のn−型Yb0.3Sr0.1Fe0.25Co3.7Rh0.05Sb12熱電変換材料においては、それぞれ−185μV/K、1.0×10−5Ωm、2.5W/mKとなり、熱伝導率の値は約10%小さくなった。その結果、実施例2で得られた熱電変換材料の無次元性能指数ZTの最大値は0.9であるが、本実施例で得られた熱電変換材料の無次元性能指数ZTの最大値は1.0に達した。これはYbAEFeCoSbの中にCoあるいはFeの一部分をRu、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、およびPtからなる群から選択される少なくとも一種の元素で置換して、熱電性能を向上できることを示している。
【0049】
(実施例10)
本実施例では、p−型Yb0.75Ag0.05Fe1.95Ru0.05CoSb12熱電変換材料の合成法、熱電性能およびRuによるFeの部分置換効果について述べる。
【0050】
原料として、所定比率の純金属Yb、Fe、Ru、Co、Ag、Sbをアルミナ坩堝に入れ、不活性ガス雰囲気中において、電気炉加熱によって1200℃まで加熱溶解した。これらを5時間保持した後、900℃で6時間、引き続いて800℃で12時間、700℃で24時間、さらに600℃で12時間保持した。その後、室温まで冷却し、目的のYb0.75Ag0.05Fe1.95Ru0.05CoSb12熱電変換材料を得た。
さらに熱電性能評価装置を用いて室温〜600℃の温度範囲で本実施例で得た熱電変換材料における無次元性能指数を算出したところ、無次元性能指数ZTは400〜600℃の温度範囲で最大0.85に達した。無次元性能指数ZTの最大値が0.8である、RuでFeを置換していない実施例6のp−型Yb0.75Ag0.05FeCoSb12熱電変換材料に比べ、本実施例の熱電変換材料は無次元性能指数ZTが向上されている。従って、RuによるFeの部分置換は熱電性能を向上させることが分かった。
【0051】
以上、実施の形態および実施例を用いて本発明を詳細に説明したが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない範囲においてあらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】Yb0.3Ca0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料のゼーベック係数の温度依存性を表したグラフである。
【図2】Yb0.3Ca0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料の電気抵抗率の温度依存性を表したグラフである。
【図3】Yb0.3Ca0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料の熱伝導率の温度依存性を表したグラフである。
【図4】Yb0.3Ca0.1Fe0.25Co3.75Sb12熱電変換材料の無次元性能指数ZTの温度依存性を表したグラフである。
【図5】Yb0.75Ag0.05FeCoSb12熱電変換材料のゼーベック係数の温度依存性を表したグラフである。
【図6】Yb0.75Ag0.05FeCoSb12熱電変換材料の電気抵抗率の温度依存性を表したグラフである。
【図7】Yb0.75Ag0.05FeCoSb12熱電変換材料の熱伝導率の温度依存性を表したグラフである。
【図8】Yb0.75Ag0.05FeCoSb12熱電変換材料の無次元性能指数ZTの温度依存性を表したグラフである。
【図9】Yb0.15CoSb12熱電変換材料のゼーベック係数の温度依存性を表したグラフである。
【図10】Yb0.15CoSb12熱電変換材料の電気抵抗率の温度依存性を表したグラフである。
【図11】Yb0.15CoSb12熱電変換材料の熱伝導率の温度依存性を表したグラフである。
【図12】Yb0.15CoSb12熱電変換材料の無次元性能指数ZTの温度依存性を表したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Yb−AE−Fe−Co−Sb系熱電変換材料であって、一般式YbAEFeCoSb(0<x≦1、0<y≦1、0<x+y≦1、0≦z≦4、0≦u≦4、3≦z+u≦5、10≦v≦15)で表される構造を有し、AEはCa、Sr、Ba、Cu、Ag、およびAuからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とするYb−AE−Fe−Co−Sb系熱電変換材料。
【請求項2】
前記一般式YbAEFeCoSbにおける元素Feまたは元素Coの少なくとも一部が、元素Ru、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、およびPtからなる群から選択される少なくとも一種によって置換されたことを特徴とする請求項1に記載のYb−AE−Fe−Co−Sb系熱電変換材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−159680(P2008−159680A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−344310(P2006−344310)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月29日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)秋季第67回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第0分冊」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月29日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)秋季第67回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第1分冊」に発表
【出願人】(000165974)古河機械金属株式会社 (211)
【Fターム(参考)】