説明

m−トルエンジアミン又はm−トルエンジイソシアナートの製造法

【課題】トルエンジアミンを製造し、かつ該トルエンジアミンをm−TDA、o−TDA、低沸点物及び高沸点物に分離するための単純でかつ経済的な方法を提供する。
【解決手段】a)ジニトロトルエンを触媒の存在下に水素化させる工程、b)触媒及び水、又は、触媒、水及び溶剤をa)の生成物から分離し、粗製トルエンジアミンを取得する工程、c)粗製トルエンジアミンを分離壁を有する蒸留塔中で蒸留し、粗製トルエンジアミンを少なくとも4種の生成物流P1、P2、P3及びP4に分離する工程を含む、m−トルエンジアミンの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルエンジアミン(TDA)の製造法及び該TDAから所望及び不所望の成分への分離に関する。前記方法において、ジニトロトルエンは水素化され、存在する全ての溶剤並びに水及び他の副生成物は、生じた反応混合物から蒸留によって分離される。分離壁塔は、脱水された混合物から所望の異性体及び不所望の異性体、なおも存在する副生成物及び高沸点化合物への後続の分離のために使用される。
【背景技術】
【0002】
先行技術によれば、m−TDA(2,4−及び2,6−異性体混合物)は、ホスゲン化によるTDIの製造において使用するために、ジニトロトルエンの水素化により製造される。水素化は溶剤の存在下に実施することができる。触媒は通常は第一に分離除去される。この触媒の分離除去は例えば濾過又は沈降により実施されてよい。TDAに加えて、目的生成物及び水、副生成物、有機副生成物も水素化において形成される。これらは低沸点物及び高沸点物を含む。低沸点物は、沸点がTDAの沸点を下回る化合物である。高沸点物は、TDA目的生成物よりも高い沸点を有する化合物である。
【0003】
前記副生成物は、適用、特にホスゲン化によるトルエンジイソシアナート(TDI)の製造におけるTDA目的生成物の使用を激しく妨害し得る。従って、得られた反応混合物をその成分に分離する必要がある。
【0004】
水素化反応において溶剤が添加された場合、該溶剤は第一に分離除去される。この溶剤の分離除去は一般に公知の方法で連続蒸留塔中での蒸留によって行われ、その際、溶剤は適当な方法によって十分に純粋な状態で回収されるため、後精製なしにプロセスにおいて直接使用することができる。溶剤を、形成された水の一部又は全てと一緒に蒸留により反応生成物から分離し、その後、溶剤を必要な純度で他の工程段階において回収することも可能である。反応が溶剤の添加なしに実施される場合、この溶剤分離は当然のことながら不要である。
【0005】
この後に、通常は、TDAの乾燥、即ち、得られた反応混合物の約40質量%を占める反応水の除去が続く。原則的に、これは単に、真空下でのTDA溶液の加熱及び蒸気の除去により水をストリッピングすることによって実施されてよい。しかしながら、前記の単純な方法において、分離除去された水は、問題のない廃棄のために必要とされる純度で得られるわけではなく、常にTDAで汚染されている。従って、反応水は適当な蒸留装置中での蒸留によって除去されるのがより好ましい。これは、例えば粗製TDA溶液を塔中で200℃の温度に加熱することにより行われ、その際、塔が常圧か又はわずかな超過圧で運転され、かつ約20〜30のトレーを有する場合には、水は塔頂で純粋形で得られる。その後、TDAは塔底から取り出され、最後の痕跡量の水は30〜300ミリバールの真空への放圧により除去される。
【0006】
前記方法の変法はEP−A−0236839に記載されている。前記の開示された方法によって、水及び高揮発性化合物、及びある程度の低沸点物を分離除去することができる。
【0007】
得られた混合物(粗製TDA)は通常、一般には、オルト異性体10質量%未満、高沸点物5質量%未満、低沸点物5質量%未満及び水5質量%未満を含有するm−TDAから成る。TDA異性体混合物から2,3−及び3,4−異性体への分離は公知である。例えばUS−A−3,420,752には、前記分離のための蒸留塔の使用が開示されており、その際、o−TDAは塔頂で得られ、m−TDAは塔底で得られる。反応から得られた粗製TDAは通常低沸点物及び高沸点物を含有するため、他の手段なしでは、塔頂生成物はo−TDAのみならず低沸点物をも含有することは直ちに明らかである。同様に、塔底生成物はm−TDAのみならず高沸点物をも含有する。m−TDAの場合、前記不純物は前記方法の欠点を構成し、それというのも、前記の高沸点物は目的生成物において不所望であるために、前記の高沸点物は、m−TDAを例えばホスゲン化によるTDIの製造において更に使用する前に分離除去されねばならないためである。
【0008】
US−A−6,547,933には、m−TDAを高沸点物不含で得る方法が記載されている。前記方法の一実施態様では、粗製TDAは蒸留塔中でその異性体に分離される。部分流は蒸気として蒸留塔の下部三分の一の箇所から取り出され、凝縮器に移送され、高沸点物不含のm−TDAが得られる。しかしながら、生成物流のかなりの部分がなおも高沸点物を含有するm−TDAから成っており、これはその後例えば下流のホスゲン化において使用される。前記方法の他の変法では、m−TDA流は塔から取り出され、部分的に蒸発される。生じた蒸気流は凝縮され、高沸点物不含のm−TDAが得られる。高沸点物を含有する未蒸発部分は塔に再循環される。またも高沸点物を含有する他のm−TDA流が塔底から取り出される。双方の変法において、塔底から排出される高沸点物を含有する流れは、生成されたm−TDAのかなりの部分を含有する。従って、前記方法は、高沸点物を含有する前記流れが利用される場合にのみ、経済的に用いることができる。従って、本発明の課題は、前記の開示された方法では達成されない。
【0009】
US−A−6,359,177に開示された方法により、m−TDAからの高沸点物の完全な分離が達成される。これは、第一にTDAを蒸留塔中でその異性体に分離することにより行われる。塔底生成物として得られたm−TDAと高沸点物との混合物は、蒸発器と凝縮器とから構成されている第二の装置において、m−TDA流と高沸点物流とに分離される。なおも高沸点物流中に含まれているm−TDAは、他のストリッピング塔中で欠乏し、部分的にo−TDAと交換される。これは実質的に高沸点物とo−TDAとを含有する流れをもたらし、この流れは排出され、例えば焼却される。o−TDAとm−TDAとから成る第二の流れは、異性体蒸留塔へと再循環される。前記方法の変法はUSA−6,359,177にも記載されている。前記方法により、排出させるべき高沸点物流中におけるm−TDA損失を最小化させるという課題が達成されるが、装置及びエネルギー費用の増加が必要とされる。
【0010】
熱的分離技術において、しばしば、多成分混合物を個々の成分に分離するのが望ましい。流入物が1つで生成物流が2つである場合、蒸留塔の塔頂流出及び塔底流出を用いることができる。多成分混合物の場合、2つの流れへの分離を繰り返すことによって、更なる分流を達成することができる。前記手法は付加的な装置、例えば塔、凝縮器又は蒸発器を必要とすることが欠点である。これもまた運転エネルギー所要量及び関連する費用を増加させる。多数の刊行物において、物質の混合物の分離に必要な装置及びエネルギー費用の低減の問題が扱われており、その際、分離シーケンスのエネルギー効率のための判断基準はペトリューク(Petlyuk)系である(例えばR. Agrawal, Z. Fidowski, "Are thermally coupled distillation columns always thermodynamically more efficient for ternary distillations?", Ind. Eng. Chem. Res., 1998, 37, pp. 3444-3454を参照のこと)。前記構成において、予備分離塔により、主要な塔のストリッピング区画の分割蒸気流と、主要な塔の精留区画の分割液体流出物とを用いて、流入物が2つの流れに分離される。予備分離塔を去る生じた蒸気及び液体流は低沸点物又は高沸点物が富化されている。前記の2つの流れは主要な塔に導入される。前記構成は、側流として取り出される生成物の純度に関して利点をもたらす。その一方で、主要な塔のストリッピング及び精留区画への流入物の純度は、前記配置により改善される。3つの生成物流の高い純度はこのようにして達成される。
【0011】
US−A−2,471,134には前記手法の改善が開示されており、その際、予備分離塔及び主要な塔は1つの装置内で組み合わせられ、該装置は分離壁により中央で分割されている。前記塔には蒸発器及び凝縮器が備えられている。更に、塔は4つの区域から構成されている。前記区域は、塔頂での慣用の精留区画、塔底での慣用のストリッピング区画及び予備分離区域及び主要な区域であり、これらの区域は塔の中央区画において相互に隣り合って配置され、かつ壁により分割されている。混合物は予備分離区域の上又は中に導入され、塔頂生成物は慣用の精留区画の上方で引き抜かれ、塔底生成物は慣用のストリッピング区画の下方で引き抜かれる。中沸点生成物は側流として主要な区域から取り出される。分離壁塔は系全体の水理学に関して利点をもたらし、ペトリュークプロセスの装置費用を低減させる。
【特許文献1】EP−A−0236839
【特許文献2】US−A−3,420,752
【特許文献3】US−A−6,547,933
【特許文献4】US−A−6,359,177
【特許文献5】US−A−2,471,134
【非特許文献1】R. Agrawal, Z. Fidowski, "Are thermally coupled distillation columns always thermodynamically more efficient for ternary distillations?", Ind. Eng. Chem. Res., 1998, 37, pp. 3444-3454
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、トルエンジアミンを製造し、かつ該トルエンジアミンをm−TDA、o−TDA、低沸点物及び高沸点物に分離するための単純でかつ経済的な方法を提供することであり、その際、(1)粗製TDA中に含まれるm−TDAはo−TDA、低沸点物及び高沸点物を含まず、(2)同時に、m−TDA損失、装置費用及び該プロセスのエネルギー所要量は低く保たれる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
当業者に理解される前記の、及び他の課題は、本発明による方法において分離壁塔を用いることにより達成される。
【0014】
図面の簡単な説明
図1は本発明の方法において使用するのに適当な分離壁塔の概略図である。
【0015】
図2は付加的な凝縮器が使用される本発明の方法の一実施態様を示す。前記実施態様において、P5は、塔1からの蒸気流Iと比較して低沸点物が富化された流れであり、一方でP2は低沸点物が欠乏した流れである。
【0016】
図3は本発明の方法の他の実施態様を示す。前記変法において、o−TDAを含有する生成物流P2は、側流として分離壁塔から取り出すことにより高純度で得られる。
【0017】
図4は本発明の方法の別の一実施態様を示し、その際、高沸点物及びm−TDAを含有する流れP4は他の処理工程においてm−TDAが欠乏している。
【0018】
図5は本発明の方法の別の実施態様を示し、その際、流入物の予備分離のための分離区域は、上下に配置された2つの部分区域に細分されており、流入物は2つの部分区域の間で分離壁塔中に導入される。
【0019】
発明の詳細な説明
本発明はm−TDAの製造法に関し、その際:
a)ジニトロトルエンを触媒の存在下に水素化させ、その後、触媒、水及び場合により溶剤を分離除去して粗製トルエンジアミンを取得し、かつ
b)粗製トルエンジアミンを分離壁塔中で蒸留することにより分離し、少なくとも4種の生成物流P1、P2、P3及びP4を取得し、その際、
生成物流P1は低沸点物を含む流れであり、
生成物流P2はo−TDAを含む流れであり、
生成物流P3はm−TDAを含む流れであり、かつ
生成物流P4は高沸点物及びm−TDAを含む流れである。
【0020】
m−TDAなる用語は、異性体2,4−TDA及び2,6−TDAを含む。o−TDAなる用語は、相応して異性体2,3−TDA及び3,4−TDAを含む。
【0021】
図1〜5は、本発明による方法において使用することができる分離壁塔の変法を示す。
【0022】
分離壁塔の流入物(図1〜5における流入物A)は、m−TDA有利に少なくとも75質量%、更に有利に少なくとも87質量%、最も有利に少なくとも93質量%を含有し、有利に更に、o−TDA10質量%未満、高沸点物5質量%未満、低沸点物5質量%未満及び水5質量%未満を含有する。更に有利に、流入物は、m−TDAに加えて、高沸点物3質量%未満、低沸点物2質量%未満、水2質量%未満及びo−TDA6質量%未満を含有する。最も有利に、流入物は、m−TDAに加えて、高沸点物2質量%未満、低沸点物1質量%未満、水1質量%未満及びo−TDA2〜5質量%未満を含有する。
【0023】
生成物流P1は、低沸点物及び有利に不活性物質、水、低沸点物及びo−TDAを含有する蒸気流である。不活性物質の例は窒素及び空気である。低沸点物の例はトルイジン及びジアミノメチルシクロヘキサンである。前記流れのo−TDA含分は有利に75質量%未満、更に有利に50質量%未満であり、水の量は相応して実質的に流入物A中の量に相応し、流れの残分は実質的に低沸点物である。前記流れは有利に水30質量%未満を含有する。下流の真空生成を無駄に負うことのないように、前記流れは後凝縮され、特に低沸点物が回収され、廃棄されることができる。
【0024】
生成物流P2は有利に大部分がo−TDAを含有し、かつ、低沸点物及びm−TDAを含有することもでき、その際、m−TDA含分は広い範囲で調節可能である。しかしながら実際には、m−TDA20質量%がやむを得ない理由なしに超過されることは滅多にない。m−TDA濃度は有利に10質量%を下回り、更に有利に5質量%を下回る。流れP1及びP2が一緒に得られるか又は分離されねばならないかは、o−TDAの用途に依存する。必要に応じて、前記の分離がどのように実施されるかは、流入物の組成及びo−TDAの必要とされる純度に依存する。分離が必要であれば、通常実際に得ることが望まれる低沸点物の割合は5質量%未満、有利に3質量%未満、更に有利に1質量%未満である。o−TDA含分は有利に90質量%を上回り、更に有利に97質量%を上回る。
【0025】
生成物流P3は有利に大部分m−TDAを含有する。o−TDA含分は、分離壁塔中の理論段数及び/又は還流比の関数として調節することができる。o−TDA含分は有利に2質量%を下回り、更に有利に1質量%を下回り、最も有利に0.5質量%を下回る。高沸点物の含分は有利に0.5質量%未満、更に有利に0.3質量%未満である。m−TDA含分は有利に97質量%を上回り、更に有利に98.5質量%を上回り、最も有利に99.5質量%を上回る。
【0026】
生成物流P4は高沸点物及びm−TDAを含有する流れである。生成物流P4のm−TDA含分は有利に20〜80質量%であり、更に有利に30〜70質量%である。高沸点物の含分は有利に20質量%を上回り、更に有利に30質量%を上回り、最も有利に40質量%を上回るが、但し80質量%未満である。
【0027】
生成物流P4は有利に更に処理され、この生成物流P4が含有するm−TDAが回収される。
【0028】
本発明を図1〜5を参照してより詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明の方法において使用するのに適当な分離壁塔1の概略図である。Aは流入物("粗製TDA")を表す。生成物流P1は低沸点物を含有する流れであり、生成物流P2はo−TDAを含有する流れであり、生成物流P3はm−TDAを含有する流れであり、生成物流P4は高沸点物及びm−TDAを含有する流れである。分離壁塔1には、凝縮器2、蒸発器3、分離壁8及び分離区域4、5、6及び7が備えられている。流入物Aは有利に上方から分離区域4の中に導入され、この上端部は実質的に分離壁8の上端部と同じ水準にある。しかしながら、分離区域4の上端部は分離壁8の上端部の下方にあってもよい。分離区域4は流入物Aの予備分離のために使用され、分離区域5は高沸点物及びm−TDAの分離のために使用される。付加的な分離区域が分離壁の下方に備えられていてもよい。区域7を去る液体流は分割される:流れEは区域4中に導入され、流れGは分離壁8の反対側に位置する区域6中に導入される。区域6を去る液体流は分割される:その一部分は、流れMとして、その下方に位置する区域5中に導入され、残分は生成物P3として排出される。
【0030】
通常、粗製TDA(流れA)は分離壁の一方の側で導入され、m−TDAを含有する流れP3は分離壁の他方の側で取り出され、高沸点物及びm−TDAを含有する流れP4は分離壁の下方で取り出される。本発明による方法の一変法において、塔頂で得られた、実質的にo−TDA及び低沸点物を含有する蒸気流Iは凝縮され、その一部分は還流Jとして塔中に導入される。還流のために必要でない液体流は、o−TDAを含有する流れP2として排出され、更に利用される。
【0031】
必要な分離段数は生成物流の必要な純度に依存し、かつ当業者に公知の方法で決定することができる。区域4及び6は有利に少なくとも8理論段、更に有利に10〜30理論段を有する。区域7は有利に少なくとも13理論段、更に有利に15〜40理論段を有する。生成物流P4の所望の組成を維持するためにm−TDA及び高沸点物の一段分離で十分である場合には、区域5及び流れMを省略することができる。区域5は有利に10未満の理論段を有する。
【0032】
本発明による方法の他の変法において、より高い純度を有するために、o−TDAを含有する流れP2が必要である場合には、最初に、塔頂で得られる蒸気流I(実質的にo−TDA及び低沸点物を含有する)の一部分のみを凝縮器2中で凝縮させることができる。この蒸気流Iの一部分は通常凝縮可能な化合物50〜90質量%のみを表すに過ぎない。前記実施態様は例示的に図2に示される。生じた凝縮物(流れP2)は蒸気流Iよりも高いo−TDA含分を有する。これによってより純粋なo−TDAが得られ、このより純粋なo−TDAの一部分はその後還流として用いられ、一部分は生成物流P2として排出される。凝縮器2中で凝縮される割合は、流入物中のo−TDA及び低沸点物の含分、及び、o−TDA流P2の必要な量及び純度に依存する。なおも未凝縮の蒸気は通常は一段又は多段凝縮器9中で後凝縮される。生じる凝縮物(図2中のP5及び場合により他の凝縮物)は低沸点物のますます高い含分を有するため、通常は別個に回収され、更に利用される。凝縮器の数の設計及び個々の凝縮効率は、実質的に、o−TDA及び低沸点物流の必要な純度に依存する。前記情報を用いて、当業者は容易に最も好ましい変法を選択することができる。前記実施態様において、P5は、分離壁塔1からの蒸気流1と比較して低沸点物が富化された流れであり、一方でP2は低沸点物が欠乏した流れである。流れP5は有利にo−TDA70質量%未満を含有し、残分は本質的に低沸点物及び水である。
【0033】
本発明による方法の他の有利な実施態様は、同様に、o−TDAに関する生成物流P2のより高い純度、並びに、低沸点物を含有する生成物流P1中に存在するo−TDAの割合の低減を導く。ここで、図3に示されているように、蒸留塔には側部排出口が備えられており、該側部排出口でo−TDAを含有する生成物流P2が取り出される。側部排出口の上方に位置する分離区域18は、低沸点物の所望の含分がo−TDAを含有する生成物流P2中で達成され得るように設計される。流れQは区域7のための還流である。生成物流P2中の低沸点物の含分は、有利に3質量%未満、更に有利に1質量%未満に調節される。前記実施態様において、蒸気流Iは凝縮器2中で凝縮され、凝縮物の一部分は還流Jとして塔中に導入され、一部分は流れP7として排出される。区域18中の分離段数は、生成物流P2の必要な純度に依存する。区域18は有利に1〜20理論段、更に有利に2〜10理論段を有する。
【0034】
本発明による方法の他の実施態様において、m−TDAは、他の処理工程において、高沸点物及びm−TDAを含有する生成物流P4から分離され得る。これを行うために、高沸点物及びm−TDAを含有する生成物流P4は分離壁塔1の塔底から取り出され、その後、m−TDAは付加的な装置中で分離除去される。これは種々の方法で実施することができる。
【0035】
生成物流P4中に含まれるm−TDAの単離及び高沸点物からのその分離は、EP−A−0794170又はUS−A−6,359,177に記載されている通りに実施することができる。これは、本発明によれば、分離壁塔1中での粗製TDAの蒸留と、高沸点物とm−TDAとの混合物中に含まれるm−TDAの回収とを組み合わせることにより行われる。図4は、US−A−6,359,177に開示されている技術を用いた前記の新規の組合せの有利な実施態様の一例を示す。流れP4は他の処理工程に供され、該処理工程は、蒸留塔11、蒸発器10及び凝縮器12を含む系中で実施される。液体流P4は蒸留塔11の塔頂中に導入される。流れP2の全体又はその一部分(流れR)は、蒸留塔11中に、流れP4の流入の下方で、例えば塔底に、又は例えば蒸留塔11の塔底に水力学的に連結された蒸発器10を介して導入される。高沸点物、o−TDA及びm−TDAを含有する流れP6は、蒸留塔11の塔底から、又は例えば蒸留塔11の塔底に水力学的に連結された蒸発器10を介して取り出される。しかしながら、流入物P4中に存在するm−TDAの大部分は、流れSとしての残留o−TDAとの混合物として得られる。流れSは後分離のために分離壁塔1中に再循環される。この手法によって、高沸点物と共に排出されるm−TDAの量が低減し、それよりプロセスの収率が更に増加する。有利に、流れP6は高沸点物20〜80質量%を含有し、かつ残分は実質的にo−TDA及びm−TDAから構成されており、その際、o−TDAは有利に支配的である。更に有利に、流れP6は高沸点物30〜70質量%、m−TDA10質量%未満を含有し、その際、残分は実質的にo−TDAである。
【0036】
前記方法の同様に有利な変法において、高沸点物及びm−TDAを含有する分離壁塔1の塔底から排出された生成物流P4は、更にm−TDA損失を低減するために更に処理される。例えば混練乾燥機を前記目的のために使用することができる。これは、真空中で、熱の作用下に、混練乾燥機の流入物中に含まれるm−TDAの蒸発下に行われる。生じた蒸気流は、例えば凝縮器中に導入され、得られたm−TDAはプロセスに再循環されるか、又は生成物流P3と混合されることができる。本発明による方法の他の変法において、蒸気流は分離壁塔1中に直接再循環されてよい。得られる高沸点物の粘度を低下させるために、高沸点物を適当な低粘度の液体と混合することができる。これは有利に、利用可能である場合には、低沸点物を含有する流れの全て又は一部(例えば図2中の流れP5)及び/又はo−TDAを含有する生成物流P2の全て又は一部を用いて行われる。
【0037】
本発明による方法の他の実施態様において、流入物Aの予備分離のための分離区域は、上方部分分離区域4bと、その下方に位置する下方部分分離区域4aとに細分される。前記の有利な実施態様を図5に示す。流入物Aは、上方部分分離区域4bと下方部分分離区域4aとの間で分離壁塔1中に導入される。前記配置は、塔流入物Aが、m−TDAよりも沸点がわずかに高い高沸点物を含有する場合に特に有利である。この場合、区域4bは流入物からの前記高沸点物の分離に役立ち、それにより、還流E及びG中で、従って生成物流P3中においても、前記高沸点物の含分が低下される。省エネルギーの程度は、実質的に、流入物のo−TDA含分、生成物P3の必要なo−TDA含分、高沸点物の分離除去に必要な区域5における理論分離段数、及び区域5中で必要な還流Mに依存する。従って、変法はそれぞれの個々のケースに関して選択され、設計されねばならない。粗製TDA(流れA)は有利に分離壁8の側部で導入され、その際、流入物Aは上方から部分分離区域4aの上に導入され、その際、該部分分離区域4aの上端部は、有利に、分離壁8の上端部の下方で、分離壁8の全高の少なくとも10%、更に有利に少なくとも20%の箇所に位置し、有利に、分離壁8の下端部の上方で、分離壁8の全高の少なくとも10%、更に有利に少なくとも30%の箇所に位置する。
【0038】
前記目的のために、当業者に公知である全ての蒸発器を使用することができ(例えば図1〜5中の蒸発器3)、例えば適当な例は自然循環式蒸発器、強制循環式蒸発器又はプラグイン式蒸発器である。釜型の水平蒸発器又は直立流下薄膜型蒸発器を使用するのが有利である。同様のことが、凝縮器(例えば図1、3、4及び5における凝縮器2又は図2中の凝縮器2及び9)についても当てはまる。TDAの沸点が高いために分離壁塔1は真空下で運転され、従って圧力損失の低い凝縮器が推奨される。有利に、第一の凝縮器(例えば図2中の凝縮器2)は分離壁塔1中に統合され、並流凝縮器又は向流凝縮器として運転されてよい。この場合、存在し得る他の凝縮器(例えば図2中の凝縮器9)は分離壁塔1の隣に配置される。本発明による方法の他の有利な実施態様において、凝縮器(例えば図1〜5中の凝縮器2)及び存在し得る他の凝縮器(例えば図2中の凝縮器9)は塔の隣に配置されている。
【0039】
蒸留塔1中で使用される分離区域に関して基本的な制限はない。従って、例えば泡鐘トレーは有利であり、ランダム充填物又は圧力損失の低い規則充填物は特に有利ではあるが、充填物及び全てのタイプのトレーを使用することができる。
【0040】
本発明の実地において使用される分離壁塔1は30〜500ミリバール、有利に50〜300ミリバールの絶対塔頂圧で運転される。相応する塔頂温度は、流入物の組成に応じて100〜200℃、有利に110〜190℃である。塔底温度は有利に170〜300℃、更に有利に180〜260℃である。流入物温度は有利に130〜250℃、更に有利に150〜230℃である。
【0041】
本発明の方法における分離壁塔の制御は、所定の状況下では困難である場合があるが、異なるあり得る手法は原則的に公知である。有利な手法は、温度調節器を分離壁塔1の上方精留区画中に、即ち分離壁8の上方に配置し、その際、前記調節器に関して制御されるパラメータは留出物流、還流比、又は有利に還流Jの量である。塔底生成物流P4は、例えば流量調節器を介して排出されることができ、ここで、該流量調節器は底部から所定のパーセントの塔流入物Aを排出する(P4)。これは、流入物中の高沸点物の割合が既知であり、かつそれほど大きく変動しない場合に特に適当である。この場合、還流Mを、塔底中又は蒸発器中での液面調節器に関して制御されるパラメータとして使用することができる。この目的のために、分離壁塔1は側部排出口に配置された還流回収タンクで拡張されているのが有利であり、そこから還流Mが主要な区域のストリッピング区画中に導入される。前記タンクには液面調節器が備えられていてよく、該液面調節器は制御パラメータとしての生成物P3の排出量に作用する。前記方法により、塔の安定な運転が保証され、従って生成物純度における更なる改善が達成される。
【0042】
本発明による方法は、先行技術による慣用の方法によるホスゲン化において特に高い収率をもたらすm−TDAを提供する(例えばUllmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Wiley-VCH, 第7版, 2005年版, 見出し語"isocyanates, organic")。これにより、特に低い着色及び特に低い黄変傾向を有するm−TDIがもたらされる。
【0043】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0044】
実施例1
p−TDA39kg/h、o−TDA251.8kg/h、低沸点物25.8kg/h及び高沸点物90.8kg/h(残分はm−TDAである)から成る流れA6931kg/hを分離壁塔1に導入した。塔を図5に示された通りに構築した。個々の分離区域における理論段数は、分離区域4aに関しては17、分離区域5に関しては9、分離区域6に関しては17、分離区域7に関しては22、及び分離区域4bに関しては9であった。分離壁塔を、凝縮器2の下流で測定された90ミリバールの絶対塔頂圧で運転した。還流Jの量は9210kg/hであり、蒸発器3は1446kWの出力を有していた。流れE対流れGの比を0.2:0.8に調節した。1487.8kg/hを流れMとして分離区域5に導入した。
【0045】
m−TDA45.3質量%(残分はm−TDAである)を含有する流れP4 166.5kg/hを前記条件下で得た。6941kg/hを生成物流P3として排出し、該生成物流P3はp−TDA0.59質量%及びo−TDA0.10質量%を含有していた。生成物流P2は158.9kg/hであり、低沸点物3.2質量%及びm−TDA1.0質量%を含有していた。流れP1は低沸点物18質量%を含有しており、その他は実質的にo−TDAであった。
【0046】
比較例1:
この実施例により、先行技術によって実施されるプロセスを説明する。実施例1に定義された流れAを、慣用の異性体分離塔中に導入した。流入の下方に位置する区域は17の理論分離段を有し、流入の上方に位置する区域は30の理論分離段を有していた。異性体分離塔の塔底から排出されたm−TDAと高沸点物との混合物を、部分的に下流の蒸発器中で蒸発させた。蒸発器から排出された液体流は高沸点物及びm−TDAから成っていた。蒸発器から得られた蒸気流を凝縮し、これは高沸点物不含のm−TDAから成っていた。
【0047】
異性体分離塔を、凝縮器の下流で測定された90ミリバールの塔頂圧で運転した。還流は8876kg/hであり、異性体分離塔の蒸発器は1392kWの出力を有していた。
【0048】
m−TDA1.0%と低沸点物4.3%とを含有する流れ199kg/hを、前記条件下で液体の塔頂生成物として排出した。未凝縮のガス状の塔頂生成物は低沸点物23%を含有していた。下流の蒸発器及び凝縮器を150ミリバールの圧力で運転し、蒸発器出口での温度は231℃であった。160kg/hを塔底から排出し、前記流れのm−TDA含分は49%であった。凝縮器からの生成物として取り出された流れは6497kg/hであり、o−TDA含分は0.1%であり、p−TDA含分は0.59%であり、高沸点物の含分は0.2%であった。蒸発器を1039kWの加熱出力で運転した。
【0049】
先行技術により実施される粗製TDA6931kg/hの分離には、2431kWのエネルギー消費が必要であった。本発明による方法にはたった1446kWが必要であるに過ぎない。
【0050】
本発明を、説明を目的として前記において詳説したが、このような詳細は単にこの目的のためだけものであり、請求項により限定され得るものを除き、当業者によって本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく変法が作られることができると理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の方法において使用するのに適当な分離壁塔の概略図。
【図2】付加的な凝縮器が使用される本発明の方法の一実施態様を示す図。
【図3】本発明の方法の他の実施態様を示す図。
【図4】本発明の方法の別の一実施態様を示す図。
【図5】本発明の方法の別の実施態様を示す図。
【符号の説明】
【0052】
A 流入物(粗製TDA)、 E 流れ、 G 流れ、 I 蒸気流、 J 還流、 M 還流、 P1 低沸点物を含有する生成物流、 P2 o−TDAを含有する生成物流、 P3 m−TDAを含有する生成物流、 P4 高沸点物及びm−TDAを含有する生成物流、 P5 低沸点物が富化された流れ、 P6 高沸点物、o−TDA及びm−TDAを含有する流れ、 P7 流れ、 Q 還流、 R 流れ、 S 流れ、 1 分離壁塔、 2 凝縮器、 3 蒸発器、 4 分離区域、 4a 下方部分分離区域、 4b 上方部分分離区域、 5 分離区域、 6 分離区域、 7 分離区域、 8 分離壁、 9 凝縮器、 10 蒸発器、 11 蒸留塔、 12 凝縮器、 18 分離区域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
m−トルエンジアミンの製造法において、以下の工程:
a)ジニトロトルエンを触媒の存在下に水素化させる工程、
b)触媒及び水、又は、触媒、水及び溶剤をa)の生成物から分離し、粗製トルエンジアミンを取得する工程、及び
c)粗製トルエンジアミンを分離壁を有する蒸留塔中で蒸留し、粗製トルエンジアミンを少なくとも4種の生成物流P1、P2、P3及びP4に分離する工程であって、その際、
(i)生成物流P1は低沸点物から成り、
(ii)生成物流P2はo−トルエンジアミンから成り、
(iii)生成物流P3はm−トルエンジアミンから成り、かつ
(iv)生成物流P4は高沸点物及びm−トルエンジアミンから成る工程
を含むことを特徴とする、m−トルエンジアミンの製造法。
【請求項2】
m−トルエンジイソシアナートの製造法において、請求項1記載の方法により製造されたm−トルエンジアミンをホスゲン化させることを含むことを特徴とする、m−トルエンジイソシアナートの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−23033(P2007−23033A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190679(P2006−190679)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(504213548)バイエル マテリアルサイエンス アクチエンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【住所又は居所原語表記】D−51368 Leverkusen, Germany
【Fターム(参考)】