説明

mTOR阻害剤投与によるがん患者の治療

AP23573 、シロリムスおよびテムシロリムスなどのmTOR阻害剤で患者を治療する方法が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、mTOR阻害剤をそれを必要とする患者、特にがん患者へ投与することに関する。
【背景技術】
【0002】
種々のがんの治療のために、現在、複数のmTOR阻害剤が単剤としてまたは各種の組み合わせにおいて評価中である。それらのmTOR阻害剤には、ラパマイシンアナログのAP23573 (ARIAD Pharmaceuticals,Inc.)、エベロリムス (Novartis) 、およびテムシロリムス (Wyeth)がある。その他のmTOR阻害剤には、特に、シロリムス (ラパマイシン) および別のアナログであるABT-578 およびビオリムスがある。AP23573 、エベロリムスおよびテムシロリムスはヒトでの検討においてすべて陽性の結果を出したが、口内炎(mouth sore) が用量制限毒性 (dose limiting toxicity) として記載されてきた。
【0003】
そのような口内炎は何人かの患者において以前から漠然と「粘膜炎」と呼ばれていた。粘膜炎の病理学の概要としては、Stephen T.Sonis, Nature Reviews Cancer vol.4, 277-284 (2004 年4月) 参照のこと。また、Rubenstein et al, Mucositis: Perspective and Clinical Practice Guidelines Suppplement to Cancer vol.100, No.9, pp.2026-2046 (2004 年5月1日) も参照。しかし、実際にはこれらの口内炎は、典型的には、放射線療法および細胞毒性がん化学療法などのその他のがん療法にしばしば伴う古典的な粘膜炎とは明らかに異なる。それにもかかわらず、これらの口内炎は、mTOR阻害剤療法の治療効果を損なうとしても、患者および介護者が、mTOR阻害剤の投与の中断あるいは減少を考え、ある場合にはそれを実施するのに十分な程重篤であるので、衰弱性であり、新規なmTOR阻害剤の使用について用量制限毒性を構成し得る。
【0004】
本発明は、mTOR阻害剤の特にがん患者に対しての投与のための新規な取り組みを提供する。
【発明の開示】
【0005】
新規な薬剤の開発は典型的には、最も簡単で最も便利で効果的な製剤形態および投与スケジュールを達成するための慣用の処方、供給および投与方法の使用 (可能な場合) を含む。
【0006】
それは、新規な医薬製品および最適な患者のコンプライアンスのための商業目的に合致するのに重要である。薬剤の効果的で生体利用可能な形態を提供する、丸剤、錠剤、カプセルまたはその他の経口用剤型が特に有用である場合が多い。
【0007】
mTOR阻害剤は、各種のがんおよびその他の疾患の治療に有用な最近発展している種類の薬剤である。これらには、上述したラパマイシン (セロリムス) 、AP23573 、CC1779 (テムセロリムス) 、RAD001 (エベロリムス) およびその他が挙げられる。これらの薬剤は典型的には、錠剤としてまたは静脈内注入として種々の投与量および種々のスケジュールで投与される。
【0008】
しかし、慣用の簡単な投与スケジュールはmTOR阻害剤にとっては最適ではないことがここに見出された。より詳しくは、典型的には種々のがんのいずれかの治療のために毎日、例えば経口的に投与されるmTOR阻害剤の治療用量は、そのように処置された患者の亜集団における口内炎、およびそれらの患者の亜集団におけるより重篤な口内炎に関連している。しかし、毎日の量を減らしたり、または投与スケジュールの頻度低減を採用すると、mTOR阻害剤治療の効果を損なうという危険がある。
【0009】
さらに、連続して (即ち、毎週) 週に4日または5日の投与スケジュール、例えばQDx4またはQDx5投与は、効用とリスクと口内炎の重篤度の間に有益な妥協をもたらすことが見出された。これによって、口内炎のリスク、特に、かかる口内炎のより重篤な段階のリスクを過度に増加させることなく、7日/週スケジュールで好ましかったであろうよりも、mTOR阻害剤の1日量を増加させ、より多い累積暴露が可能となる。
【0010】
QDx4およびQDx5投与とは、それぞれ、連続4日または5日間は1日量またはそれより多い量を患者に投与し、次いで、それぞれ3日または2日間はmTOR阻害剤での処置を行わないことを意味する。薬剤は、1日に1回または2回以上投与してもよく、例えば1日2回 (「bid 」) の投与でもよい。薬剤の投与は、週単位で連続して、即ち少なくとも2週、通常は2週より多く連続して (従って、mTOR阻害剤なしの週が介在することなく) 続けられる。
【0011】
mTOR阻害剤はいずれのmTOR阻害剤でもよいが、現在はAP23573 、テムセロリムスおよびエベロリムスが特に有用である。典型的な1日量は薬剤2mg〜80mg、例えば5〜60mg、または10〜50mg、または10〜40mg、または10〜30mgである。
【0012】
薬剤の経口投与、例えば錠剤やカプセル形態での投与が特に有益である。
本発明のQDx4またはQDx5投与は、間欠的に、例えば週1回、または2週もしくは3週に1回、経口的にまたは非経口的に投与されるmTOR阻害剤2〜300mg の負荷量でさらに補うこともできる。負荷量のmTOR阻害剤は、通常は、その他の日に与えられる同じmTOR阻害剤であるが、異なるmTOR阻害剤であってもよい。正常な1日量の2倍または3倍の負荷量は、現在特に興味深く、これはQDx4またはQDx5サイクルの最初の日に負荷量を投与するものである。例えば、4日間 (QDx4) または5日間 (QDx5) mTOR阻害剤を毎日20mgという用法においては、任意の負荷量は、例えば各週の1日目、または1週おきの1日目、あるいは3週目の1日目にTOR 阻害剤を20〜40mg追加するものであってもよい。mTOR阻害剤は、AP23573 、エベロリムス、ラパマイシンまたは別のmTOR阻害剤であってもよい。その負荷量は経口投与しても、または非経口的に、例えば静脈内注入により与えてもよく、そして併用療法の場合には、併用のその他の抗がん剤の投与と調整すればよい。
【0013】
mTOR阻害剤は、単独療法として投与しても、あるいはがん治療またはがんの影響もしくは患者に与えられる薬剤のいずれかの影響を緩和するための1または2以上のその他の薬剤の投与と調整して投与してもよい。
【0014】
mTOR阻害剤が併用療法の一部として用いられる場合、併用成分のそれぞれの用量は所望の治療期間の間に投与される。併用の成分は、同時に;両成分を含有する単一の剤型としてか、または別々の投与単位で投与することができ;併用の成分を治療期間の間の異なる時期に投与することもでき、あるいは一方を他方のための予備処置として投与してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
mTOR阻害剤は製剤的に許容できる経路により投与でき、各種の経路がこの種の薬剤について知られている。非経口投与および殊に経口投与が現在特に有用である。現在最も有用なmTOR阻害剤は、43位のヒドロキシル基が置換されたラパマイシンアナログ、殊に、AP23573 、エベロリムスおよびテムシロリムスなどの、がんの治療のために現在臨床開発中であるアナログである。これらのおよびその他のmTOR阻害剤を以下においてより詳細に説明する。
【0016】
広範な種類のがんに対して報告されているmTOR阻害剤の活性を考慮すると、ここに開示したmTOR阻害剤療法は対応する広範ながんに対して有用であるはずである。それらのがんには、特に前立腺がん、子宮内膜がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、頭部および頸部のがん、小細胞および非小細胞肺がん、膵臓がん、腎臓がん、脳腫瘍、大腸および膀胱がん、並びに各種肉腫(種々の骨および軟組織の肉腫を含む)、黒色腫、多発性骨髄腫、B細胞リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、CLL およびCML が挙げられ、そして特に、進行性、再発性、1または2以上のその他の治療に対して抵抗性、及び/又は転移性である場合も含む。
【0017】
さらに、以下に記載するような追加の薬剤を、本発明のmTOR阻害剤療法と共に与えてもよい。
ここに開示する療法は、許容できない程度の副作用を招くことなく臨床的利益を達成するために望ましい治療の手段を提供する目的をもって、様々な種類のがんおよびその他の疾患を治療する新規な方法となる。
【0018】
本明細書において使用される「治療する」なる用語は、がんの開始または開始が疑われた後に患者にmTOR阻害剤および第2の薬剤を投与することをいう。「治療する」は、がんに関する症状もしくはその他の悪影響、及び/又はがん治療に関連する副作用を「緩和する」という概念を含み、これは発生もしくは再発の頻度または重篤度を低下させることを意味する。「治療する」なる用語はまた、「管理する」という概念も含み、これは患者における特定の疾患または障害の重篤度を低下させるか、その再発を遅らせる、例えば、その疾患に罹患した患者において寛解の期間を長くすることをいう。
【0019】
本明細書で使用する「有効量」または「有効用量」なる用語は、組織または患者において望ましい生物学的または臨床的応答を引き出す物質の量または用量を意味する。例えば、望ましい応答は、以下の1または2以上を含む:医学的状態、疾患または障害の開始を遅らせるまたは防ぐこと;状態もしくは状態の症状の進行、重大化または悪化を遅らせるか停止させること;状態の症状を改善すること;状態を治すことなど、例えば、ここで状態、疾患、障害または症状はがんまたは抗がん療法の副作用に関連する。
【0020】
ここで用いる方法またはプロセスの段階の組み合わせはすべて任意の順で行うことができるが、ただし、特に記載されるか、あるいは参照に引用された段階の組み合わせが行われる状況により明らかに反対を意味する場合は除く。
【0021】
ここで用いるパーセンテージ、部および比は、特に記載されない限り、全組成物の重量による。列挙された成分に関するかかる重量はすべて、それぞれの各成分自体に基づき、従って、特に記載しない限り、溶剤や、市販の材料に含まれるかもしれない溶剤や副生物は含まない。
【0022】
本発明の組成物および方法は、ここに記載した、もしくはここに記載したような一般的な種類の組成物や方法に有用な、追加のもしくは任意の成分、構成要素または限定を含有することができる。
1.ラパマイシンアナログ−mTOR阻害剤
ラパマイシンは、ストレプトミセス・ヒグロスコピクス (Streptomyces hygroscopicus) により産生され、1970年代に発見されたマクロライドである。ラパマイシンは、強力な免疫抑制剤であり、移植した臓器の拒絶を防ぐために臨床的に使用される。広範な興味ある薬理学的活性を有することも報告され、これによってラパマイシンおよびその誘導体は、以下のような幅広い適応症に対して有用となる:臓器移植拒絶および自己免疫疾患、真菌感染症、多発性硬化症、リューマチ性関節炎、全身性エリテマトーデス (例えば、米国特許第5,078,999 号参照) 、肺炎 (米国特許第5,080,899 号) 、インスリン依存性糖尿病 (米国特許第5,321,009 号) 、乾癬などの皮膚疾患 (米国特許第5,286,730 号) 、腸疾患 (米国特許第5,286,731 号) 、平滑筋細胞増殖および血管損傷後の内膜肥厚化 (米国特許第5,288,711 号および5,516,781 号) 、成人T細胞白血病/リンパ腫 (欧州特許出願第525,960 A1) 、眼の炎症 (米国特許第5,387,589 号) 、悪性腫瘍 (米国特許第5,206,018 号) 、心臓の炎症性疾患 (米国特許第5,496,832 号) および貧血 (米国特許第5,561,138 号) の治療および予防。がんに対しての使用が特に有用である。米国特許出願2001/0010920参照。AP23573 (ARIAD) 、CC1779 (「テムシロリムス」、Wyeth)およびRAD001 (「エベロリムス」、Novartis) を含む多くのラパマイシン誘導体が、種々のがんに対してヒトでの検討において将来性ある結果を出した。加えて、ラパマイシンおよびエベロリムスは、臓器移植レシピエントにおいて免疫抑制剤として使用されている。ラパマイシン並びに、特にAP23573 、ビオリムスおよびABT-578 (Abbott)を含む多くのC-43- 修飾ラパマイシンアナログは薬剤溶出ステントで用いるために使用、評価または開発されている。
【0023】
ラパマイシンおよびその誘導体の位置番号の付け方には2以上の認められた慣用法があるので、ここで用いる番号付与の慣用法を以下に説明する。参考のために、多くの化合物についてR基を以下の表に示す:
【0024】
【化1】

【0025】
(表1)
化合物 -R
ラパマイシン -OH
AP23573 -OP(O)(Me)2
テムシロリムス -OC(O)C(CH3)(CH2OH)
エベロリムス -OCH2CH2OH
ビオリムス -OCH2CH2OEt
ABT-578 -テトラゾール
【0026】
これらの化合物は有効なmTOR阻害剤の非限定的な例である。それらの患者へ投与は口内炎を生じ得るものであり、そしてかかる患者は本発明の治療用組成物および方法の好ましい対象である。AP23573 についてのさらなる情報は米国特許第7,091,213 号参照のこと。テムセロリムス (CC179)についての最近の情報はWO 2004/026280、WO 2005/011688、WO 2005/070393、WO 2006/086172、WO 2006/089312参照のこと。エベロリムスについては米国特許第6,384,046 号、WO 2002/066019、米国特許第6,197,781 号、米国特許第6,004,973 号およびそこに引用された参考文献参照のこと。その他の有用なmTOR阻害剤には、例えば、WO 2006/095185に記載されているような (そこではそれらの番号付与システムに基づき「39- デスメトキシ」化合物と称されている) 、ラパマイシンの42- デスメトキシ誘導体およびその各種アナログがある。ラパマイシンの誘導体は本発明を実施する際に特に現時点での有用性がある。
2.mTOR阻害剤の処方
ラパマイシンおよび多数のラパマイシンアナログについては、種々の経口および非経口用剤型が知られている。いくつかは、各種の治療方法、単独療法その他において現在使用されている。ここに開示するmTOR阻害剤療法の実施において、同じそれらの剤型を同様に使用してもよい。経口投与には固体の剤型がしばしば好ましく、特に、慣用の混合物、固体分散系およびナノ粒子があり、典型的には錠剤、カプセル、キャプレット、ゲルキャップ、またはその他の固体もしくは部分的に固体の形態である。かかる処方は場合により腸溶性被膜を含んでいてもよい。かかる経口用処方のための多数の材料および方法が周知である。mTOR阻害剤を処方するための慣用の材料および方法を使用する典型的な例は米国特許出願US 2004/0077677 および公開された国際特許出願WO 04026280 (CC1-779) に示されている。米国特許第6197781 号、第6589536 号、第6555132 号、第5985321 号、第6565859 号および第5932243 号も参照のこと。処方技術の上記非限定的な例示に加え、広範なその他の方法および材料も、ラパマイシンおよびその誘導体のようなマクロライドの分野の当業者には周知である。適当な処方技術のさらなる背景や例については例えばWO 03/064383参照。
【0027】
好ましい態様においては、mTOR阻害剤は錠剤のような経口用剤型で提供される。AP23573 の場合には、例えば薬剤は湿式造粒法により調製することができる。錠剤は1または2以上のセルロースポリマーおよび1または2以上の抗酸化剤、キレート化剤、充填剤、結合剤、界面活性剤、崩壊剤、滑剤、pH調整剤などを含んでいてもよい。湿式造粒法は水性またはアルコール性 (例、エタノール) 溶剤系で行ってもよい。その他の適当なアルコールにはメタノール、イソプロパノールなどがある。溶剤は溶剤混合物、例えばアルコール溶剤と水との混合物であってもよい。
【0028】
組成物は1〜45重量%、2〜35重量%、5〜25重量%、または8〜15重量%のAP23573 ;1〜50重量%、1〜35重量%、1〜15重量%、または2〜15重量%のセルロースポリマーおよび0.01〜3重量%、0.05〜1重量%、または0.05〜0.5 重量%の抗酸化剤を含有しているのが特に有用である。しかし、各種の態様はこれらの成分をより多くまたはより少なく含有していてもよい。
【0029】
許容できる抗酸化剤としては、クエン酸、d,l-α- トコフェロール、BHA 、BHT 、モノチオグリセロール、アスコルビン酸および没食子酸プロピルが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の処方の抗酸化剤は0.001 %〜3%(wt/wt) の範囲の濃度で使用されるであろう。
【0030】
エチレンジアミン四酢酸 (EDTA) やその塩などのキレート化剤および金属イオンを結合しうるその他の材料は、AP23573 の安定性を高めうる。
典型的なセルロースポリマーには、ヒドロキシプロピルメチルセルロース (HPMC) 、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタル酸エステル、メチルセルロース (MC) 、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース (HPC)があるが、これらに限定されない。
【0031】
許容できるpH調整剤としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、希塩酸および約4〜約6の範囲のpHにAP23573 含有溶液を緩衝化しうるその他の穏やかな酸または塩基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
界面活性剤を処方中に存在させてもよく、ポリソルベート80、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、胆汁酸の塩 (タウロコール酸塩、グリココール酸塩、コール酸塩、デオキシコール酸塩など)があり、これらはレシチンと組み合わせてもよい。あるいは、エトキシ化植物油、例えばクレモフォア EL (Cremophor EL)、ビタミンEトコフェロールプロピレングリコールスクシネート(ビタミンE TGPS)、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体およびポロキサマーがある。組成物中にある場合、界面活性剤は通常、20重量%以下、例えば1〜15重量%の量である。
【0033】
結合剤、充填剤および崩壊剤、例えばスクロース、ラクトース、微結晶性セルロース、クロスカルメロースナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、アラビアゴム、コレステロール、トラガカントゴム、ステアリン酸、ゼラチン、カゼイン、レシチン (ホスファチド) 、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルシウムメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、非晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、セトステアリルアルコール、セチルアルコール、セチルエステルワックス、デキストレート、デキストリン、シクロデキストリン、ラクトース、デキストロース、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノステアレート、グリセリルパルミトステアレート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンひまし油誘導体、ポリオキシエチレンステアレート、およびポリビニルアルコールなどを処方中に混合してもよい。
【0034】
本発明のどの処方も、各種類の成分のうち複数の成分を含有してもよい。例えば、抗酸化剤を含有する処方が、抗酸化成分として1または2以上の抗酸化剤を含有することができる。
【0035】
錠剤はさらに、ラパマイシンアナログの放出を制御するために薄膜被覆を有する。噴霧、浸漬または析出による薄膜被覆で錠剤を被覆してもよい。典型的には薄膜被覆としては、コポビドン (copovidone)(即ち、ポリビニルピロリドンと酢酸ビニルの共重合体) 、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースおよびアクリレートもしくはメタクリレート共重合体などのポリマー性薄膜形成材料がある。薄膜形成ポリマーの他、薄膜被覆はさらに、可塑剤、例えばポリエチレングリコール、クエン酸トリエチル、界面活性剤、例えばTween.RTM 型、消泡剤、例えばシメチコーン (Simethicone)および場合により顔料、例えば、二酸化チタン、酸化鉄を含有していてもよい。薄膜被覆はまた、付着防止剤としてタルクを含んでもよい。薄膜被覆は通常、剤型の約5重量%より少ない量を占める。好ましい態様では、薄膜被覆材料はコポビドンである。
【0036】
薄膜被覆はラパマイシンアナログの遅延放出のための腸溶性ポリマーを含む腸溶性の層であってもよい。腸溶性の層は胃の酸環境中では不溶性であるが、腸で出会うより高いpHにおいては溶解性である物質 (即ちポリマー) の被覆である。かかる材料は薬剤の放出を調節するために錠剤上の薄膜被覆として使用される。適した腸溶性ポリマーは当業者に周知であり (WO 01/051031) 、メチルメタクリレート重合体、メタクリル酸共重合体、酢酸フタル酸セルロース、ポリ酢酸フタル酸ビニル、ヒドロキシプロピルメチルフタレート、およびヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレートが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、腸溶層はEudragit L100 やAcryl-EZE などのメタクリル酸共重合体を含んでもよい。
【0037】
処方技術の上記非限定的例に加え、広範な種類のその他の方法および材料も、ラパマイシンおよびその誘導体などのマクロライドの分野の当業者には周知である。適当な処方技術のさらなる背景および例には、例えば、WO 03/064383および公開された米国特許出願20030032825 を参照のこと。
3.治療方法
ここに開示されたmTOR阻害剤療法は、許容できない程度の副作用を生じることなく臨床的利益を達成するための望ましい治療の手段を提供しながら、様々な種類のがんを治療、予防及び/又は管理することを含む。
【0038】
本明細書のmTOR阻害剤療法で治療しうるがんおよびがん状態の例には、肉腫や癌腫などの固形がん、リンパ性がん、および特にPTEN欠損腫瘍 (例えば、Neshat et al, PNAS 98(18):10314-10319; Podsypanina et al, PNAS 98(18):01320-10325; Millis et al PNAS 98(18)10031-10033; Hidalgo et al, Oncogene (2000) 19,6680-6686参照) があるが、これらに限定されない。PTEN欠損腫瘍は、腫瘍の生検試料の遺伝子型解析及び/又はin vitro培養および検討を用いて同定しうる。ホスファチジル−イオシトール3キナーゼ/Akt-mTOR経路における異常を含むがんの非限定的な例には、神経膠腫、リンパ腫および、肺、膀胱、卵巣、子宮内膜、前立腺または子宮頸の腫瘍 (これらは例えば、EGFR、PDGFR 、IGF-R およびIL-2などの異常成長因子受容体と関連する) ; P13キナーゼにおける異常と関連する卵巣腫瘍;PTEMにおける異常と関連する黒色腫および乳房、前立腺または子宮内膜の腫瘍;Akt の異常と関連する乳がん、胃がん、卵巣がん、膵臓がんおよび前立腺がん;elF-4Eにおける異常と関連するリンパ腫、乳がんまたは前立腺ガン、および頭部および頸部癌腫;Cyclin Dにおける異常と関連するマントル細胞リンパ腫、乳癌および頭部と頸部の癌腫;そしてP16 における異常と関連する家族性黒色腫および膵臓の癌腫があるが、これらに限定されない。
【0039】
「固形がん」とは、脳およびその他の神経系腫瘍 (例、髄膜の腫瘍、グリア芽腫や星状細胞腫などの脳の腫瘍、脊髄の腫瘍、および中枢神経系のその他の部分の腫瘍) ; 頭部及び/又は頸部のがん;乳がん;排泄系の腫瘍 (例、腎臓、腎盂、膀胱およびその他の非特定器官) ;胃腸領域の腫瘍 (例、食道、胃、結腸、小腸、直腸の腫瘍、肝臓、胆嚢、膵臓および消化器のその他の部分に関連する腫瘍) ;口腔 (唇、舌、喉、口、扁桃、中咽頭、鼻咽腔およびその他の部位) ;生殖系の腫瘍 (例、陰門、子宮頸、子宮部、卵巣および女性生殖器に関係するその他の部位、陰茎、前立腺、成層および男性生殖記に関係するその他の部位) ;呼吸領域の腫瘍 (例、鼻腔、中耳、洞 (sinuses)、気管支、肺およびその他の部位) ;骨格系の腫瘍 (例、骨、軟骨およびその他の部位) ;皮膚の腫瘍 (例、皮膚の悪性黒色腫、非黒色腫の皮膚がん、癌腫、肉腫) ;および末梢神経、結合および軟組織、眼および付属器、甲状腺、副腎およびその他の内分泌腺および関連構造を含むその他の組織に関係する腫瘍、リンパ節の二次的および非特定の悪性新生物、呼吸器および消化器系の二次的悪性新生物、およびその他の部位の二次的悪性新生物、などの腫瘍及び/又は転移を意味する。「リンパ性がん」とは、例えば、血液およびリンパ系の腫瘍 (多発性骨髄腫、リンパ性白血病、骨髄性白血病、急性もしくは慢性のリンパ性白血病、単球性白血病、特定の細胞種の白血病、特定されない細胞種の白血病、リンパ、造血および関連組織の特定されない悪性新生物、例えばT細胞リンパ腫または皮膚リンパ腫) を意味する。
【0040】
このmTOR阻害剤療法を用いて治療できるガンにはとりわけ、その他の化学療法による治療に対して抵抗性である症例が含まれる。ここで用いられる「抵抗性」なる用語は、別の化学療法剤での治療の後、抗増殖性応答を示さないか弱い (例えば、腫瘍の増殖阻害がないか弱い) ガン (及び/又はその転移) に関連する。これらは別の化学療法では満足に治療できないガンである。抵抗性ガンには、(i) 1または2以上の化学療法が患者の治療の過程で既に失敗したようなガンだけでなく、(ii)その他の手段、例えば化学療法の存在下でのバイオプシーと培養により、抵抗性であることが示されるうるガンも含まれる。
【0041】
ここに記載するmTOR阻害剤療法はまた、以前に治療を受けていない患者の治療にも適用できる。
4.投与および用途
mTOR阻害剤は各種ガンの治療、予防及び/又は管理のためにここに記載のようにして投与すればよい。必要とされる正確な量は、年齢、患者の全体的症状、ガンの重篤度、個々のmTOR阻害剤、投与の方法などに応じ患者ごとに異なる。
【0042】
個々の患者または生物体のためのmTOR阻害剤の具体的用量のレベルは、治療する疾患および疾患の重篤度;使用する特定の化合物の活性;使用する特定の組成物;患者の年齢、体重、全体的健康状態、性別および食事;投与の時期、投与経路および使用する特定の化合物の排出率;治療の期間;使用する特定の化合物と組み合わせてまたは同時に使用する薬剤を含む種々の要素、および医学分野で周知の同様の要素による。
【0043】
本発明の1態様においては、ラパマイシン、AP23573 、エベロリムスまたはテムシロリムスの10mg量を患者に4〜5日連続して毎日投与し、次いで2日または3日間はそれぞれmTOR阻害剤で治療しない。
【0044】
本発明の別の態様では、ラパマイシン、AP23573 、エベロリムスまたはテムシロリムスの10mg量を患者に4〜5日間連続して1日に2回、毎日投与し、次いで2日または3日間はそれぞれmTOR阻害剤での治療はない。
【0045】
しかし、本発明の実施の範囲内で、本発明の化合物および組成物の1日量の合計は、健全な医学的判断の範囲内で主治医により決定されるであろうことは理解されよう。
5.薬剤の組み合わせ
本発明のmTOR阻害剤を用いる治療は、1または2以上ののその他のガン療法と組み合わせて提供してもよく、手術、放射線治療 (例、γ放射線、中性子線放射線療法、電子線放射線療法、プロトン療法、小線源治療および全身性放射性同位体など) 、内分泌療法、生体応答調節 (例、多少例を挙げるとインターフェロン、インターロイキンおよび腫瘍壊死因子(TNF))、温熱療法、寒冷療法、副作用を弱める薬剤 (例、制吐剤) 、およびその他のガン化学療法剤を含む。本発明により提供されるようなmTOR阻害剤の投与の間または後に、その他の薬剤を投与してもよく、mTOR阻害剤についてここに規定したと同じまたは異なる処方、投与経路および投与スケジュールで投与することができる。
【0046】
代わりにまたは追加的に、本発明の方法および組成物は、副作用を減じるその他の薬剤 (例、スタチン、鎮痛剤 (pain medication)、制吐剤、G-CSF 、GM-CSFなど) 、及び/又はその他の認可された化学療法剤と共に使用できる。かかるその他の薬剤には、次の1または2以上があるが、これらに限定されない:抗ガン性アルキル化剤もしくはインターカレーティング剤 (例、メクロレタミン、クロラムブシル、シクロホスファミド、メルファランおよびイフォスファミド) ;代謝拮抗物質 (例、メトトレキセート) ;プリン拮抗薬もしくはピリミジン拮抗薬 (例、6-メルカプトプリン、5-フルオロウラシル、シタラビル、カペシタビンおよびゲムシタビン) ;紡錘体毒 (例、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンオレルビンおよびパクリタキセル) ;ポドフィロトキシン (例、エトポシド、イリノテカン、トポテカン) ;抗生物質 (例、ドキソルビシン、ブレオマイシンおよびマイトマイシン) ;ニトロソ尿素 (例、カルムスチン、ロムスチン) ;無機イオン (シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチンまたはオキシプラチン) ;酵素 (例、アスパラギナーゼ) ;ホルモン (例、タモキシフェン、ロイプロリド、フルタミドおよびメゲストロール) ;プロテアソーム阻害剤 (ベルケードなど、別のプロテアソーム阻害剤 (例えばWO 02/096933参照) もしくは別のNF-kB 阻害剤、例えばIkK 阻害剤などを含む) ;その他のキナーゼ阻害剤 (例、Src 、BRC/Abl 、kdr 、flt 、aurora-2、グリコーゲンシンターゼキナーゼ3 (「GSK-3 」) 、EGF-R キナーゼ (例、イレッサ、タルセバなど) 、VEGF-Rキナーゼ、PDGF-Rキナーゼなどの阻害剤) ;抗体、ガンに関与する受容体もしくはホルモンに対する可溶性受容体もしくはその他の受容体の拮抗薬 (EGFR, ErbB2, VEGFR, PDGFR およびIGF-R などの受容体;およびヘルセプチン (もしくはその他の抗-Her2 抗体) 、アバスチン、エルビツクスなどの薬剤) など。最新のガン療法のより総合的議論についてはhttp://www.nci.nih.gov/ 、http://www.fda.gov/cder/cancer/druglistframe.htmにおけるFDA 認可腫瘍学薬剤の一覧、The Merck Mannual,17版、1999( この全内容は参照としてここに援用する) 参照のこと。その他の治療剤の例としては特に、ジロプリム、アレムツズマブ、アルトレタミン、アミフォスチン、ナストロゾール、前立腺特異的膜抗原 (MLN-591 、MLN591RLおよびMLN2704)に対する抗体、三酸化砒素、ベキサロテン、ブレオマイシン、ブスルファン、カペシタビン、グリアデルウエーハー、セレコキシブ、クロラムブシル、シスプラチン−エピネフリンゲル、クラドリビン、シタラビンリポソーマル、ダウノルビシンリポソーマル、ダウノルビシン、ダウノマイシン、デクスラゾキセイン、ドセタキセル、ドキソルビシン、エリオットB溶液、エピルビシン、エストラムスチン、リン酸エトポシド、エトポシド、エキセメステイン、フルダラビン、5-FU、フルベストラント、ゲムシタビン、ゲムツズマブ−オゾガミシン、酢酸ゴセレリン、ヒドロキシ尿素、イダルビシン、イダマイシン、イフォスファミド、イマチニブメシレート、イリノテカン (もしくはMLN576 (XR11576)などの抗体を含むその他のトポイソメラーゼ阻害剤) 、レトーゾール、レウコボリン、レウコボリンレバミゾール、リポソーマルダウノルビシン、メルファラン、L-PAM 、メスナ、メトトレキセート、メトキサレン、マイトマイシンC、ミトキサントロン、MLN518またはMLN608 (もしくはflt-3 受容体チロシンキナーゼ、PDFG-Rもしくはc-kit のその他の阻害剤) 、イトキサントロン、パクリタキセル、ペガデマセ、ペントスタチン、ポルフィマーナトリウム、リツキシマブ (RITUXAN ( 登録商標))、タルク、タモキシフェン、テモゾラミド、テニポシド、VM-26 、トポテカン、トレミフェン、2C4 ( もしくはHER-2 媒介シグナリングと相互作用するその他の抗体) 、トレチノイン、ATRA、バルルビシン、ビノレルビンもしくはパミドロネート、ゾレドロネート、またはその他のビスホスホネートが挙げられる。
【0047】
本発明のmTOR阻害剤療法はまた、治療法の一部としての細胞毒性薬剤の1または2以上の組み合わせと共に使用でき、ここで細胞毒性薬剤の組み合わせは以下から選択される:CHOPP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);COP(シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);CAP−BOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、プロカルバジン、ブレオマイシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);m−BACOD(メトトレキセート、ブレオマイシン、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、デキサメタゾンおよびロイコボリン);ProMACE−MOPP(プレドニゾン、メトトレキセート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド、ロイコボリン、メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);ProMACE−CytaBOM(プレドニゾン、メトトレキセート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、エトポシド、ロイコボリン、シタラビン、ブレオマイシンおよびビンクリスチン);MACOP−B(メトトレキセート、ドキソルビシン、シクロホスファミド、ビンクリスチン、プレドニゾン、ブレオマイシンおよびロイコボリン);MOPP(メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);ABVD(アドリアマイシン/ドキソルビシン、ブレオマイシンシ、ビンブラスチンおよびダカルバジン);ABV(アドリアマイシン/ドキソルビシン、ブレオマイシンシおよびビンブラスチンと交互のMOPP(メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);ABVD(アドリアマイシン/ドキソルビシン、ブレオマイシンシ、ビンブラスチンおよびダカルバジン)と交互のMOPP(メクロエタミン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびプロカルバジン);ChlVPP (クロランブシル、ビンブラスチン、プロカルバジンおよびプレドニゾン);IMVP−16(イフォスファミド、メトトレキセートおよびエトポシド);MIME(メチル−gag、イフォスファミド、メトトレキセートおよびエトポシド);DHAP(デキサメタゾン、高用量シタリビンおよびシスプラチン);ESHAP(エトポシド、メチルプレジソロン、高用量シタラビンおよびシスプラチン);CEPP(B)(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジン、プレドニゾンおよびブレオマイシン);CAMP(ロムスチン、ミトキサントロン、シタラビンおよびプレドニゾン);CVP−1(シクロホスファミド、ビンクリスチンおよびプレドニゾン);ESHOP(エトポシド、メチルプレジソロン、高用量シタラビン、ビンクリスチンおよびシスプラチン);EPOCH(エトポシド、ビンクリスチンおよび、シクロホスファミドと経口プレドニゾンの丸薬量と併用した96時間のドキソルビシン);lCR(イフォスファミド、シクロホスファミドおよびエトポシド);CEPP(B)(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジン、プレドニゾンおよびブレオマイシン);CHOP−B(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾンおよびブレオマイシン);CEPP−B(シクロホスファミド、エトポシド、プロカルバジンおよびブレオマイシン);およびP/DOCE(エピルビシンまたはドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロホスファミドおよびプレドニゾン)。
【0048】
以下の実施例は、追加の情報、例示および指針を含み、これはその各種態様およびそれに相当するものにおいて本発明の実施に適応させうる。実施例は本発明の例証を助けることを意図しており、決して範囲を限定することは意図しておらず、またそのように解釈すべきでもない。実際、ここに示し記載した態様に加え、本発明の種々の改変および、多くのそのさらなる態様は、以下の実施例およびここに引用した科学文献および特許文献の参照を含む本明細書を見れば当業者には明らかであろう。本発明のmTOR阻害剤または第2の薬剤などを選択し、調製し、処方しおよび投与する際の設計の選択を含む、かかる改変および変形は、本発明の範囲および特許請求の範囲に含まれる。
【0049】
本発明の各種薬剤組成物は、薬剤の剤型を作製し処方するのに適した、任意の既知のまたはその他の有効な技術により製造すればよい。多くのかかる方法は、製薬分野で報告されているか、またはそれぞれの製剤分野の当業者に周知である。
【0050】
以下の実施例はさらに本発明の範囲内の特定の態様を記載し説明するものである。本発明の多数の変形は当然可能であり、本発明の精神および範囲を逸脱することなく実施者にとって明らかであるので、実施例は例証の目的のためだけに示され、本発明を限定するものと解釈されるべきではない。示した量は特に記載のない限り、すべて組成物の全重量に基づく重量%である。
【実施例1】
【0051】
経口処方AP23573
以下の操作を、AP23573 を10mg含み、かつ以下の成分を含有する錠剤を製造するのに使用した。錠剤は2種の異なる被膜で被覆される−即時放出のための薄膜被覆錠剤および遅延放出のための腸溶性被覆錠剤。錠剤の芯の組成は以下の表に示す。錠剤の芯は薄膜被覆され、そのまま使用しても、あるいは腸溶性被覆されてもよい。
【0052】
(表2)
成分 重量%
AP23573 8.00%
ブチル化ヒドロキシトルエン 0.08%
ヒドロキシプロピルセルロース 8%
ラクトース1水和物 50.57%
微結晶性セルロース 30.85%
クロスカルメロースナトリウム 2.00%
ステアリン酸マグネシウム 0.50%
無水アルコール(エタノール)*
* 加工時に使用するが最終製品には現れない
【0053】
ヒドロキシプロピルセルロース、ラクトース1水和物、微結晶性セルロースおよびクロスカルメロースナトリウムの半量を高剪断造粒機中で混合した。AP23573 およびブチル化ヒドロキシトルエン(BHT) を45分以上混合しながら無水アルコール (USP)に溶解させた。AP23573 およびBHT を造粒機に添加し、約3分間混合して湿った塊とした。
【0054】
造粒した混合物を45〜55℃で60〜90分流動床乾燥機で乾燥し、その後、乾燥した混合物を、過大な材料の除去のために0.045 インチの篩の目に合わせたミルに通した。ミルで加工し造粒した混合物を次いでステアリン酸マグネシウム (NF) およびクロスカルメロースナトリウム (NF) の残りの半量と混合した。
【0055】
ミルで加工し造粒した材料を6mm丸型凹状型押しを備えた打錠機を用いて錠剤に加工した。打錠機は125.0mg の目的錠剤重量、5.5kp の硬度、1%以下の破砕性および10分未満の崩壊時間のために必要とされるように調整された。
【0056】
薄膜被覆
薄膜被覆は以下の成分を用いて以下の操作により調製できる。錠剤を被覆槽に添加し、5%増量が達成されるまで、20〜35℃の製品温度を維持しながら、無水アルコール、USP (20 :80 w/w) 中のコポビドン (Copovidone) 溶液で被覆する。次いで、槽を冷却し、薄膜被覆錠剤を乾燥させる。薄膜被覆錠剤をそのまま包装しても、あるいは腸溶性被覆してもよい。
【0057】
腸溶性被覆
腸溶性被覆は以下の成分を使用し、以下の操作によって調製できる。
【0058】
(表3)
フィルム被覆 懸濁液%
メタクリル酸共重合体 11.03 %
クエン酸トリエチル 2.16%
タルク 2.81%
無水アルコール(エタノール)* 84.00 %
* 加工時に使用するが、最終製品中への保持のためではない。
【0059】
腸溶性被覆のために、錠剤を被覆槽中に入れ、8%増量が達成されるまで、20〜35℃の製品温度を維持しながら、メタクリル酸共重合体 (NF) 、クエン酸トリエチル(NF)、およびタルクの無水アルコール(USP) 中の懸濁液で被覆する。次いで、槽を冷却し、腸溶性被覆錠剤を乾燥させる。
【実施例2】
【0060】
難治性または進行した悪性腫瘍の患者における経口AP23573 の第1相の用量の段階的拡大試験
背景:mTOR阻害剤、AP23573 の静脈内 (IV) 処方を用いた、第1相臨床試験において、薬剤は広範囲のガンに十分に耐性であり、活性であった。この試験は経口投与剤型のAP23573 の安全性、許容性および最大耐量を評価するために計画された。第2の目的はAP23573 の薬物動態 (PK) および薬理作用 (PD) のプロフィール並びに抗腫瘍活性の特性決定を含む。
【0061】
方法:適した患者 (少なくとも3人の患者の集団で) をまず、20mg/日の同じ均一な一定の開始量で、3種の28日投与スケジュールの1つに無作為化する、即ち、毎週4日 (QD×4)、28日中21日 (QD×21) 、または全28日 (QD×28) の間1日1回の連続投与。続いての用量レベルはサイクル1の間の安全性および許容性を検討して決定し、各スケジュールのための登録は独立して進める。抗腫瘍活性を2サイクル毎に評価する。全血をPK評価のために採取し、末梢血単核細胞を、mTORの下流標的であるリン酸化4E-BP1のレベルのPD評価のために採取する。
【0062】
結果:これまで、年齢の中央値が53.5歳 (25〜82歳の範囲) である合計24人の患者 (男性11人と女性13人) に10〜30mg/日の範囲の用量で3種のスケジュールでAP23573 を投与した。QD×4 で20mg/日の群については、用量限定毒性 (DLT)は何ら報告されず、次いでQD×4 で30、60および70mg/日を検討した。QD×28およびQD×21の両方の群について、重篤な口内炎および疲労が20mg/日でのDLT として報告された。少なくとも2人の患者におけるサイクル1でのAP23573 に関連する有害事象には以下が含まれる:粘膜炎、疲労、発疹、下痢、食欲低下および悪心。これらの事象は重症度が軽度または中位であり、可逆的であり、そしてIV AP23573の毒性と一致していた。予備的PK分析では、3つのスケジュール (20mg/日、サイクル1の1日目) について98.5 ng/ml (77〜163 の範囲) のメジアンC max が示された。さらにPK分析を継続中である。PD分析では、リン酸化4E-PB1レベルが投与1日後に>80%低下し、投与期間中低下したままであることが実証され、これはAP23573 IVで見られると同様の強力で持続的なmTOR阻害を意味する。抗腫瘍活性はこれまで評価した患者の2人において観察された:qd×4 、20mg/日の群の転移性乳ガン患者 (22%減少) 、およびqd21、20mg/日の群の転移性腎細胞癌腫の患者 (21%減少) 。QD×4 、20mg/日の群の軟組織肉腫をもつ3番目の患者は2サイクル後も病状は変化がなかった。
【0063】
結論:mTOR阻害剤、AP23573 はいくつかの連続的および断続的投与スケジュールを用いて経口で安全に投与することができ、IV投与による活性の前兆となる血液濃度を達成し、mTORを強く阻害し、そしてQD×28およびQD×21スケジュールでの患者について報告されたDLT を有するが、QD×4 、20mgおよび30mg/日スケジュールでの患者についてのDLT はない、抗腫瘍活性の初期の証拠を示した。
【0064】
しかし、QD×4 、60および70mg/日の群については副作用が報告された。1日の最大耐量は、QD×21スケジュールでは10mg/日であり、QD×28スケジュールでは15mg/日であるのに対し、QD×4 スケジュールでは50mg/日と決定された。
【実施例3】
【0065】
AP23573 の30、40または50mg/日の投与についてQD×5 投与スケジュールを用いて、さらにAP23573 の臨床試験を行った。30mgおよび50mg量を服用する患者の組にはまた、各週の第1日目に、その日の用量をそれぞれ60および100mg と倍にした負荷量が与えられた。
【0066】
方法:単剤経口AP23573 の1/2a相試験において、17人の患者 (そのうち9人は肉腫の患者である) を選択した用量およびスケジュール (40mg、QD×5)で試験した。さらに、50mg、QD×5 での投与を開始した7人の患者の中で、4人の患者 (そのうち2人は肉腫の患者である) は用量を40mgに減少させた。従って、21人の患者は40mg、QD×5 を服用し、うち11人は肉腫の患者であった。
【0067】
各週の1日目の用量を倍にした (負荷量とするために) 別のQD×5 の検討において、7人の患者 (肉腫患者6人) は各週にわたり60、30、30、30および30mgを服用した (即ち、30mg、QD×5 で1日目の用量を倍にする) 。他の5人の患者 (肉腫患者2人) は、50mg、QD×5 で1日目の用量を100mg と倍にして服用した。この試験では、後者の用量レベルはこれらの患者に対する最大耐性量を超えていると考えられた。
【0068】
全体として、36人の患者にQD×5 スケジュールで投与し、うち12人は各週の1日目に負荷量を服用した。
結果:これらの検討は、臨床的有益応答 (Clinical Benefit Response, CBR) を有する患者により評価される抗腫瘍活性の証拠を示した。26人の評価可能な患者のうち7人の患者はCBR を達成した。その中の6人は、骨肉腫、平滑筋肉腫およびその他の軟組織肉腫の患者を含む肉腫患者である。ここまで評価可能な肉腫患者の43%がこれらのQD×5 スケジュールにおいてCBR であった。CBR 患者は悪性ではなく、これまで少なくとも4ヶ月〜7ヶ月の治療を受けていた。
【0069】
結論:40mg、QD×5 の経口用量スケジュールは一般的に軽度または穏やかであり管理可能な副作用のリスクに対して可能な治療上の有益性の良好なバランスを提供した。毎週40mg、QD×5 の用法は、30mg、QD×5 の用法 (各週1日目に倍の用量) での720mg の4週間暴露レベル、15mg、QD×21での315mg の4週間暴露レベル、および10mgの1日量 (即ち、10mg、QD×28) での280mg の4週間暴露レベル比べて、4週間にわたる800mg のAP23573 の蓄積用量暴露を提供した。
【0070】
これらの結果から、場合により負荷量により増量される、QD×5 の用法は、副作用を適度にレベルに抑えながら薬剤暴露を最大にする好ましいバランスを達成すると結論づけられ、ここで薬剤暴露を最大にすることは抗腫瘍活性を最大にすることになるはずである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
週に4日または5日連続してそれぞれの日にmTOR阻害剤を患者に投与することを含む、mTOR阻害剤を、それを必要とする患者に投与する方法。
【請求項2】
mTOR阻害剤がシロリムス、テムシロリムス、エベロリムスまたはAP23573 である請求項1記載の方法。
【請求項3】
mTOR阻害剤の合計1日量が2〜80mgである請求項1記載の方法。
【請求項4】
mTOR阻害剤の投与が1日に2回以上に分けられる請求項1記載の方法。
【請求項5】
mTOR阻害剤が経口で投与される請求項1記載の方法。
【請求項6】
週に1回、2〜300mg のmTOR阻害剤の追加量を投与することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
mTOR阻害剤に加えて1または2以上のその他の薬剤を投与することをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
患者ががん患者である請求項1記載の方法。
【請求項9】
がんが、肉腫、リンパ腫もしくは白血病、または膀胱がん、大腸がん、脳腫瘍、乳がん、頭部および頸部のがん、子宮内膜がん、肺がん、卵巣がん、膵臓がんもしくは前立腺がんである、請求項8記載の方法。

【公表番号】特表2009−515901(P2009−515901A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−540275(P2008−540275)
【出願日】平成18年11月14日(2006.11.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/044146
【国際公開番号】WO2007/059106
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(500087659)アリアド ジーン セラピューティクス インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】