説明

pH非依存性マトリックス型徐放性製剤

【課題】分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体の徐放性製剤の提供。
【解決手段】塩基性で、酸に不安定な化合物のマトリックス型徐放性製剤処方について、水に難溶である塩基性の正塩および有機酸の使用により、pH非依存的な放出を示すマトリックス型徐放性製剤が調製でき、さらに、水に難溶である塩基性の正塩の使用は、主薬の分解を抑制する効果を示した。有機酸を中性低融点固形物中に分散させることにより、有機酸と、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体および水に難溶である塩基性の正塩が、接触しないように配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩基性薬物の放出をpH環境に関係なく制御できるマトリックス型徐放性製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
徐放性製剤の開発は、服用回数の低減、副作用の回避のために有用である。徐放性製剤は、形態から、消化管内で投与剤形が保たれたまま徐々に薬物を放出するシングルユニット型徐放性製剤と、投与された錠剤やカプセル剤が体内で崩壊し、放出された顆粒が徐放性を示すマルチプルユニット型の徐放性製剤に分類される。さらに、放出制御機構からは、リザーバー型徐放性製剤と、マトリックス型徐放性製剤に分類される。リザーバー型徐放性製剤は、薬物を含有する錠剤または顆粒を高分子皮膜でコーティングしたものであり、薬物の放出速度はこの皮膜の性質や厚さで決まる。一方、マトリックス型徐放性製剤は、薬物を高分子やワックスなどの基剤中に分散させたもので、薬物分子のマトリックス内の拡散速度により、放出速度が決まる。本発明は、シングルユニット型のマトリックス型徐放性製剤に関する。シングルユニット型のマトリックス型徐放性製剤はマルチプルユニット型、リザーバー型の徐放性製剤と比較して製造が簡単で安価であるというメリットがある。
【0003】
一方、塩基性薬物の多くは、より低いpH環境において、より高い溶解度を示し、その放出速度はpHに依存する。従って、塩基性薬物を含有する製剤は、消化管部位によるpH変動(胃内、腸内)、消化液pHの個体差、食物や薬物が原因で起こる消化管のpH変動により、放出速度が不規則になる事が多く、高いpH環境においては、薬物放出の速度が低下し、生体利用効率が不十分なものとなる。特に、有効成分の放出を長時間一定速度に保つことが必要である徐放性製剤においては、pH非依存的な放出が望まれる。
【0004】
塩基性薬物を含有するマトリックス型徐放性製剤に関して、以下のものが知られている。医薬組成物中に、pH調節剤として腸溶性基剤や酸性添加剤を加える方法(特許文献1、3〜7、非特許文献1)、pH依存型ポリマーのアルギン酸塩を加える方法(特許文献2)、塩基性物質を加える方法(非特許文献2)、塩基性物質と腸溶性ポリマーを加える方法(特許文献8)が知られている。
【0005】
また、マトリックス型徐放性製剤に関するものではないが、フマル酸とトリプトファンを加えることにより放出速度をpH非依存化させる方法が知られている。(特許文献9)
【0006】
塩基性のDPP-IV阻害剤として、アミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体が既に知られている(特許文献10〜15)。これらの化合物は、水分、酸に弱く、加水分解により分解が進行することが知られている(特許文献16〜20)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2006/070781パンフレット
【特許文献2】特許平01−100134
【特許文献3】特開昭63−227519
【特許文献4】特表2004−518676
【特許文献5】特開平06−199657
【特許文献6】特開平02−223533
【特許文献7】特表2005−507909
【特許文献8】WO2001/51033 パンフレット
【特許文献9】特開平08−099906
【特許文献10】WO2005/075421パンフレット
【特許文献11】WO98/19998 パンフレット
【特許文献12】WO00/34241 パンフレット
【特許文献13】WO2001/068603パンフレット
【特許文献14】WO2006/040625パンフレット
【特許文献15】WO2002/014271パンフレット
【特許文献16】特開2008−543773
【特許文献17】特表2008−527004
【特許文献18】特表2008−510764
【特許文献19】特表2007−518760
【特許文献20】特表2008−501025
【0008】
【非特許文献1】Journalof Pharmaceutical Sciences, vol.95, No.7, JULY 2006,1459-1468.
【非特許文献2】Journal of PharmaceuticalSciences, vol.95, No.7, JULY 2006, 1140-1148.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明の解決しようとする課題は、酸に不安定な塩基性薬剤について、pH非依存的な放出を示すマトリックス型徐放性製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体のような、塩基性で、酸に不安定な化合物のマトリックス型徐放性製剤処方について鋭意研究を行った。その結果、水に難溶である塩基性の正塩および有機酸の使用により、pH非依存的な放出を示すマトリックス型徐放性製剤の開発に成功した。さらに、水に難溶である塩基性の正塩の使用は、主薬の分解を抑制する効果を示す。
【0011】
すなわち本発明は、以下の発明を含有する。
[1]分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体の徐放性製剤であって、水に難溶である塩基性の正塩、有機酸およびゲル化剤を含有する医薬品組成物。
【0012】
[2]分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体および水に難溶である塩基性の正塩が、有機酸と接触しないように配置されていることを特徴とする[1]に記載の医薬品組成物。
【0013】
[3]有機酸を中性低融点固形物中に分散させることにより、有機酸と、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体および水に難溶である塩基性の正塩が接触しないように配置されていることを特徴とする[1]に記載の医薬品組成物。
【0014】
[4]分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体が一般式(1):
【化1】

(式中、AはCH2、CHFまたはCF2を示し;
R1は水素または、置換されてもよいC1〜C6のアルキル基、置換されてもよいC3〜C8のシクロアルキル基、置換されてもよいアリールメチル基、置換されてもよいアリールエチル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素、置換されていてもよい芳香族へテロ環、または置換されていてもよい脂肪族へテロ環を示し;
nは1または2を示す。)
で示されるアミノアセチルピロリジンカルボキサミド誘導体である、[1]から[3]の何れかに記載の組成物。
【0015】
[5]分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体が、vildagliptin、saxagliptin、melogliptin、MP-513、または、(2S,4S)−1−[[N-(4−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリル、である[1]から[3]の何れかに記載の組成物。
【0016】
[6]塩基性の正塩が炭酸カルシウムである[1]から[5]の何れかに記載の組成物。
【0017】
[7]有機酸がフマル酸である、[1]から[6]の何れかに記載の組成物。
【0018】
[8]1)中性低融点固形物を加熱溶融して、溶融中性低融点物質を調製する工程、
2)前記溶融中性低融点物質に有機酸を分散させて、有機酸分散物を得る工程、
3)前記有機酸分散物を冷却固化した後、粉砕して、粉砕物を調製する工程、
4)前記粉砕物に、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体、水に難溶である塩基性の正塩、ゲル化剤を混合する工程、及び
5)得られた混合物を打錠する工程、
により、製造される[1]から[7]の何れかに記載の組成物。
【0019】
[9][1]から[7]の何れかに記載の組成物の製造方法であって、
1)中性低融点固形物を加熱溶融して、溶融中性低融点物質を調製する工程、
2)前記溶融中性低融点物質に有機酸を分散させて、有機酸分散物を得る工程、
3)前記有機酸分散物を冷却固化した後、粉砕して、粉砕物を調製する工程、
4)前記粉砕物に、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体、水に難溶である塩基性の正塩、ゲル化剤を混合する工程、及び
5)得られた混合物を打錠する工程、
を有することを特徴とする方法。
【0020】
[10]分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体の徐放性製剤に、水に難溶である塩基性の正塩、有機酸およびゲル化剤を用いることにより、放出速度をpH非依存化させる方法。
【0021】
[11]分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体、水に難溶である塩基性の正塩、有機酸およびゲル化剤を含有し、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体および水に難溶である塩基性の正塩が、有機酸と接触しないように配置することにより、放出速度をpH非依存化させ、製剤を安定化する方法。
【発明の効果】
【0022】
酸に不安定な塩基性薬剤について、pH非依存的な放出を示すマトリックス型徐放性製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例1に従って調製された製剤の溶出試験の結果を、放出された薬物化合物の百分率と時間の関係で示している。
【図2】図2は、実施例2に従って調製された製剤の溶出試験の結果を、放出された薬物化合物の百分率と時間の関係で示している。
【図3】図3は、比較例1に従って調製された製剤の溶出試験の結果を、放出された薬物化合物の百分率と時間の関係で示している。
【図4】図4は、比較例2に従って調製された製剤の溶出試験の結果を、放出された薬物化合物の百分率と時間の関係で示している。
【図5】図5は、比較例3に従って調製された製剤の溶出試験の結果を、放出された薬物化合物の百分率と時間の関係で示している。
【図6】図6は、比較例4に従って調製された製剤の溶出試験の結果を、放出された薬物化合物の百分率と時間の関係で示している。
【図7】図7は、比較例5に従って調製された製剤の溶出試験の結果を、放出された薬物化合物の百分率と時間の関係で示している。
【図8】図8は、比較例6に従って調製された製剤の溶出試験の結果を、放出された薬物化合物の百分率と時間の関係で示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書中に示される「pH非依存的な放出」とは、液種によって製剤からの薬物放出速度が変化しないことを指し、特に生体内においては、胃及び腸において一定の速度で薬効成分が溶出する性質を示す。より詳しくは、第15改正日本薬局方崩壊試験法(パドル法)を行った場合、第一液と第二液の溶出率の差が0〜6時間に渡り、10%以下であることが好ましく、さらに好ましくは5%以下である。
【0025】
本明細書中に示される「N−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体」とは、一般式2
【化2】

〔式中、AはCH2、CHFまたはCF2を示す。〕
の部分構造を有する化合物であり、その例として、一般式1
【化3】

〔式中、AはCH2、CHFまたはCF2を示し;
R1は水素または、置換されてもよいC1〜C6のアルキル基、置換されてもよいC3〜C8のシクロアルキル基、置換されてもよいアリールメチル基、置換されてもよいアリールエチル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素、置換されていてもよい芳香族へテロ環、または置換されていてもよい脂肪族へテロ環を示し;
nは1または2を示す。〕
【0026】
で表される、N−アミノアセチルピロリジンカルボキサミド誘導体が挙げられる。
【0027】
本明細書中に示される「アミノ基」とは、一級アミノ基、二級アミノ基、C4〜C9の環状アミノ基を意味し、より好ましくは二級アミノ基である。
【0028】
本明細書中に示される「二級アミノ基」とは、窒素原子に一の水素原子が置換した脂肪族または芳香族アミノ基を意味し、例えばメチルアミノ基またブチルアミノ基ようなC1〜C6のアルキル基が結合したアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、アダマンチルアミノ基またはビシクロ[2.2.2]オクタニルアミノ基などのようなC3〜C10の環状アルキル基が結合したアミノ基、芳香族アミノ基(例えばアニリル基、ピリジルアミノ基などが挙げられる)を意味する。
【0029】
本明細書中に示される「C4〜C9の環状アミノ基」とは、環内に一以上の窒素原子を含有し、また環内に酸素原子、硫黄原子が存在していても良い環状アミノ基を意味し、例えば、アジリジル基、ピロリジル基、ピペリジル基、モルホリル基、オキサゾリル基、アザビシクロヘプチル基またはアザビシクロオクチル基などを挙げることができる。
【0030】
本明細書中に示される「置換されてもよいC1〜C6のアルキル基」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、C1〜C6のアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C1〜C6のアルキルカルボニル基、C1〜C6のアルコキシカルボニル基、C1〜C6のアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC1〜C6のアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよいC4〜C9の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C1〜C6のアルキルカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルコキシカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルキルスルホニルアミノ基及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基から選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいC1〜C6のアルキル基を意味し;
「C1〜C6のアルキル基」とは、直鎖または分岐した低級アルキル基を意味し、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、1−メチルエチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1−エチルプロピル基、2−エチルプロピル基、ブチル基、またはヘキシル基などを挙げることができ、より好ましくは、エチル基である。
【0031】
本明細書中に示される「置換されていてもよいC3〜C8のシクロアルキル基」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、C1〜C6のアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C1〜C6のアルキルカルボニル基、C1〜C6のアルコキシカルボニル基、C1〜C6のアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC1〜C6のアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよいC4〜C9の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C1〜C6のアルキルカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルコキシカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルキルスルホニルアミノ基及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基から選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいC3〜C8のシクロアルキル基を意味し;
「C3〜C8のシクロアルキル基」とは、シクロアルキル環を有するアルキル基を意味し、例えばシクロプロピル基、シクロプロピルメチル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などを挙げることができる。
【0032】
本明細書中に示される「置換されていてもよいアリールメチル基」とは、ハロゲン原子、置換されていてもよいC1〜C6のアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC1〜C6のアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C1〜C6のアルキルカルボニル基、C1〜C6のアルコキシカルボニル基、C1〜C6のアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換の置換されていてもよいC1〜C6のアルキルアミノ基、置換されていてもよいアリールアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよいC4〜C9の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C1〜C6のアルキルカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルコキシカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルキルスルホニルアミノ基及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基から選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいアリールメチル基(例えばフェニルメチル基、ナフチルメチル基、ピリジルメチル基、キノリルメチル基またはインドリルメチル基などを挙げることができる)を意味する。
【0033】
本明細書中に示される「置換されていてもよいアリールエチル基」とは、ハロゲン原子、置換されていてもよいC1〜C6のアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC1〜C6のアルコキシ基、置換されていてもよいアリールオキシ基、C1〜C6のアルキルカルボニル基、C1〜C6のアルコキシカルボニル基、C1〜C6のアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換の置換されていてもよいC1〜C6のアルキルアミノ基、置換されていてもよいアリールアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよいC4〜C9の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C1〜C6のアルキルカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルコキシカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルキルスルホニルアミノ基及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基から選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいアリールエチル基(例えばフェニルエチル基、ナフチルエチル基、ピリジルエチル基、キノリルエチル基、またはインドリルエチル基などを挙げることができる)を意味する。
【0034】
本明細書中に示される「置換されていてもよい芳香族炭化水素」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基、C1〜C6のアルキルチオ基及びC2〜C6のジアルキルアミノ基から選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよい芳香族炭化水素(ベンゼン環、ナフタレン環またはアントラセン環)を意味する。
【0035】
本明細書中に示される「置換されていてもよい芳香族へテロ環」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基及び、C1〜C6のアルキルチオ基及びC2〜C6のジアルキルアミノ基から選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよい芳香族へテロ環(窒素原子、酸素原子、硫黄原子の中から任意に選ばれた1〜3個のヘテロ原子を含む5員または6員の芳香族単環式複素環、あるいは9員または10員の芳香族縮合複素環、例えばピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、アクリジン環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、イソキサゾール環、チアゾール環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチアゾール環、ベンズイミダゾール環またはベンゾオキサゾール環)を意味する。
【0036】
本明細書中に示される「置換されていてもよい脂肪族へテロ環」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基及びC1〜C6のアルキルチオ基及びC2〜C6のジアルキルアミノ基から選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよい脂肪族へテロ環(窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子の中から任意に選ばれた1〜3個のヘテロ原子を含む4〜7員の脂肪族単環式複素環、あるいは9員または10員の脂肪族縮合複素環、例えばアゼチジン環、ピロリジン環、テトラヒドロフラン環、ピペリジン環、モルホリン環またはペラジン環)を意味する。
【0037】
本明細書中に示される「置換されていてもよいC1〜C6のアルコキシ基」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、C1〜C6アルコキシ基、C1〜C6のアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC1〜C6のアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよいC4〜C9の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C1〜C6のアルキルカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルキルスルホニルアミノ基、及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいC1〜C6のアルコキシ基を意味し:
「C1〜C6のアルコキシ基」とは、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、及びヘキシルオキシ基などを挙げることができる。
【0038】
本明細書中に示される「置換されていてもよいアリールオキシ基」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基及びC1〜C6のアルキルチオ基から選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいアリールオキシ基を意味し:
「アリールオキシ基」とは、フェノキシ基、ナフチルオキシ基などを挙げることができる。
【0039】
本明細書中に示される「C1〜C6のアルキルカルボニル基」とは、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基及びイソバレリル基などを挙げることができる。
【0040】
本明細書中に示される「C1〜C6のアルコキシカルボニル基」とは、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基及びtert−ブトキシカルボニル基などを挙げることができる。
【0041】
本明細書中に示される「C1〜C6のアルキルチオ基」とは、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、イソプロピルチオ基などを挙げることができる。
【0042】
本明細書中に示される「モノまたはジ置換のC1〜C6のアルキルアミノ基」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、C1〜C6アルコキシ基、C1〜C6のアルキルチオ基、アミノ基、モノまたはジ置換のC1〜C6のアルキルアミノ基、1〜3個のヘテロ原子を含んでいてもよいC4〜C9の環状アミノ基、ホルミルアミノ基、C1〜C6のアルキルカルボニルアミノ基、C1〜C6のアルキルスルホニルアミノ基、及び置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基などから選ばれた1〜2個の置換基を有していてもよいC1〜C6のアルキルアミノ基を意味し:
「C1〜C6のアルキルアミノ基」とは、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n−プロピルアミノ基、n−ブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、n−ペンチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基などが挙げられる。
【0043】
本明細書中に示される「C1〜C6のアルキルカルボニルアミノ基」とは、アセチルアミノ基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基などが挙げられる。
【0044】
本明細書中に示される「C1〜C6のアルコキシカルボニルアミノ基」とは、メトキシカルボニルアミノ基、エトキシカルボニルアミノ基、t−ブトキシカルボニルアミノ基、ヘキシルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。
【0045】
本明細書中に示される「C1〜C6のアルキルスルホニルアミノ基」とは、メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基などが挙げられる。
【0046】
本明細書中に示される「置換されていてもよいアリールスルホニルアミノ基」とは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、置換されていてもよいC1〜C6のアルキル基、C1〜C6のアルコキシ基及びC1〜C6のアルキルチオ基から選ばれた1〜5個の置換基を有していてもよいアリールスルホニルアミノ基を意味し:
「アリールスルホニルアミノ基」とは、フェニルスルホニルアミノ基、4ーメチルフェニルスルホニルアミノ基、ナフチルスルホニルアミノ基などを挙げることができる。
【0047】
本明細書中に示される「C2〜C6のジアルキルアミノ基」とは、炭素数2〜6の直鎖または分枝状のジアルキルアミノ基を意味し、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基などを挙げることができる。
【0048】
一般式(1)で表される化合物としては、好ましくは(2S,4S)−1−[[N-(4−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリルである。
【0049】
本明細書中に示される「N−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体」のもう一つの例として、vildagliptin、saxagliptin、melogliptin、MP-513、が挙げられる。
【化4】

【0050】
本明細書中に示される「水に難溶な塩基性の正塩」とは、塩のうち、酸の水素イオンと塩基の水酸化物イオンとが過不足なく反応して生じた塩基性の添加剤のうち、水に難溶なものを意味する。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クエン酸カルシウムなどが挙げられる。好ましくは、炭酸カルシウムである。なお、これらの塩基性の正塩については、単独で又は二種以上組み合わせても使用できる。
【0051】
ここで「水に難溶」とは、溶質1g又は1mLを溶かすために必要な溶媒量が1000mL以上である溶解性を意味する。溶解性とは、20±5℃で5分ごとに強く30秒間振り混ぜた場合に、30分以内に溶ける度合いをいう。
【0052】
本明細書中に示される「有機酸」の例として、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、安息香酸、クエン酸、フマル酸、グルタミン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、ソルビン酸、コハク酸及び酒石酸などが挙げられ、より好ましくはフマル酸である。
【0053】
有機酸の配合量は、特に限定されないが、pH依存性を軽減した溶出を得るという観点から、塩基性の正塩に対し0.40〜0.60倍量の有機酸を使用することが好ましく、更に好ましくは、0.45〜0.55倍量の有機酸を使用することが好ましい。
【0054】
本明細書中に示される「中性低融点固形物」とは、通常その融点が40〜90℃、好ましくは、50〜70℃であり、更に好ましくは55〜65℃である常温で固体の中性物質を意味する。
【0055】
中性低融点固形物としては、塩基性薬物に対して悪影響を及ぼさないものであればいかなるものでもよく、例えば、炭化水素や、高級アルコール、多価アルコールの脂肪酸エステル、多価アルコールの高級アルコールエーテル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンオキシドなどが好適に挙げられ、好ましくは、高級アルコールまたはポリアルキレングリコール、更に好ましくは高級アルコールである。
【0056】
本発明で使用することができる炭化水素としては、例えば、n−ヘプタデカンや、n−オクタデカン、n−ノナデカン、n−エイコサン、n−ヘンエイコサン、n−ドコサン、n−トリコサン、n−テトラコサン、n−ペンタコサン、n−トリアコンタン、n−ペンタトリアコンタン、n−テトラコンタン、n−ペンタコンタン等の炭素数17〜50のn−アルカン及びこれらの混合物(ペトロレイタム、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等)などが挙げられる。
【0057】
本発明で使用することができる高級アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコールや、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、及びステアリルアルコールなどが挙げられ、好ましくは、ステアリルアルコールである。
【0058】
本発明で使用することができる多価アルコールの脂肪酸エステルとしては、例えば、分子内に2個以上の水酸基を有するアルコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールあるいはこれらの共重合物などのポリアルキレングリコール、ソルビトール、ショ糖などの糖類、1、5−ソルビタン、1、4−ソルビトール、3、6−ソルビタンなどのソルビトールの分子内脱水化合物、グリセリン、ジエタノールアミン、ペンタエリスリトールなど)と脂肪酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアロール酸など)とのエステル、
【0059】
例えば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンモノパルミテートなど分子量400〜900のソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタントリパルミテートなど分子量1000〜1500のポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールヘキサオレエート、ポリオキシエチレンソルビトールトリステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールテトララウレートなどのポリオキシアルキレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトールミツロウ誘導体などのポリオキシアルキレンソルビトールミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンラノリン誘導体などのポリオキシアルキレンラノリン誘導体、プロピレングリコールモノパルミテート、プロピレングリコールモノステアレート、プロピレングリコールジラウレート、プロピレングリコールジミリステート、プロピレングリコールジパルミテート、プロピレングリコールジステアレートなど分子量200〜700のプロピレングリコール脂肪酸エステル、
【0060】
エチレングリコールモノラウレート、エチレングリコールパルミテート、エチレングリコールマーガレート、エチレングリコールステアレート、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールジミリステート、エチレングリコールジパルミテート、エチレングリコールジマーガレートなど分子量500〜1200のエチレングリコール脂肪酸エステルなどのアルキレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体など分子量3500〜4000のポリオキシアルキレンヒマシ油誘導体、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンリノレートなど分子量1900〜2200のポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、グリセリルモノアセテート、グリセリルモノプロピオネート、グリセリルモノステアレート、グリセリルモノオレエート、グリセリルモノパルミテート、グリセリルモノリノレートなど分子量300〜600のグリセリンモノ脂肪酸エステル、
【0061】
ショ糖モノラウレート、ショ糖モノミリステート、ショ糖モノパルミテート、ショ糖モノステアレート、ショ糖トリミリステート、ショ糖トリパルミテート、ショ糖トリステアレートなど分子量400〜1300のショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0062】
本発明で使用することができる多価アルコールの高級アルコールエーテルとしては、例えば、多価アルコール(上記多価アルコールの脂肪酸エステルのアルコール成分としてあげたもの)と高級脂肪酸アルコール(例えば、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルアルコール、デシルアルコール)とのエーテル、例えば、ポリオキシエチレンラウリルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンセチルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンステアリルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンオクチルアルコールエーテル、ポリオキシエチレンデシルアルコールエーテルなどのポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンセチルアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンステアリルアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンオレイルアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンオクチルアルコールエーテル、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアルコールエーテルなどのポリオキシプロピレンポリオキシエチレン高級アルコールエーテルなどが挙げられる。これらの中性低融点固形物は単独で用いても又は二種以上を併用してもよい。
【0063】
本発明で使用することができるポリアルキレングリコールとは、ポリエチレングリコールなどを指し、例えば分子量1000以上のポリエチレングリコールを意味する。より好ましい分子量としては、2500〜40000が挙げられる。ポリアルキレングリコールの例として、ポリエチレングリコール1540、ポリエチレングリコール4000、ポリエチレングリコール6000、ポリエチレングリコール20000、ポリエチレングリコール35000が挙げられ、好ましくは、ポリエチレングリコール6000である。
【0064】
本発明で使用することができるポリアルキレンオキシドとしては、例えば、ポリエチレンオキシドなどがあげられる。
【0065】
本明細書中に示される「ゲル化剤」とは、水膨潤性重合体を意味し、水または他の水性媒体と接触すると、そのような水または水溶性媒体を吸収してある程度膨潤する重合体物質よりなる。ゲル化剤の例としては、ヒプロメロース、ハイドロキシプロピルセルロース、ハイドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、グァーガム、カラギーナン、ポリエチレンオキシド、カルボキシビニルポリマー、またはそれらの類縁物質等が挙げられる。さらに、pH依存的な薬物放出を軽減するという観点から、ヒプロメロースなどのpH非依存性ゲル化剤が好ましい。これらのゲル化剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
ゲル化剤の配合量は、特に限定されないが、pH依存性を軽減した溶出を得るという観点から、塩基性の正塩に対し3倍量以下のゲル化剤を用いることが好ましく、2倍量以下のゲル化剤を使用することが更に好ましい。
【0067】
本発明における医薬組成物においては、本発明における効果を損なわない限り、必要に応じて賦形剤、ゲル化剤、結合剤、滑沢剤、フィルムコーティング基剤、糖衣コーティング基材、可塑剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、香料を配合することができる。
【0068】
本明細書中に示される「賦形剤」とは、結晶セルロースコメデンプン、バレイショデンプン、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、αデンプン、デキストリン、デキストラン、糖アルコール(マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルトース、マルチトール、ソルビトール)、ブドウ糖、果糖、麦芽糖、乳糖、異性化乳糖、還元乳糖、ショ糖、タルク、無水ケイ酸、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムなどが挙げられる。これらの賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記賦形剤は、特にマンニトール、乳糖が好ましい。
【0069】
本発明で使用することができる結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポビドン、ポリビニルピロリドン、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、プルラン、アラビアゴム末、ゼラチン、デキストリン等が挙げられる。本発明で使用することができる滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル等が挙げられる。本発明で使用することができるフィルムコーティング基剤としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒプロメロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。本発明で使用することができる糖衣コーティング基剤としては、例えば、ショ糖、トレハロース、乳糖、マンニトール、粉末還元麦芽糖水飴等が挙げられる。本発明において、フィルムコーティング、糖衣コーティングを行う場合、必要とあれば、賦形剤、可塑剤、着色剤等を配合することができる。賦形剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、酸化チタン等が挙げられる。可塑剤としては、例えば、マクロゴール6000、コポリビドン、クエン酸トリエチル等が挙げられる。着色剤としては、例えば、酸化チタン、食用黄色5号、食用青色2号、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄等が挙げられる。本発明で使用することができる矯味剤としては、例えば、白糖、ソルビトール、キシリトール、クエン酸、アスコルビン酸、酒石酸、リンゴ酸、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、ソーマチン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、グルタミン酸ナトリウム、5’−イノシン酸ナトリウム、5’−グアニル酸ナトリウム等が挙げられる。本発明で使用することができる矯臭剤としては、例えば、トレハロース、リンゴ酸、マルトース、グルコン酸カリウム、アニス精油、バニラ精油、カルダモン精油等が挙げられる。本発明で使用することができる香料としては、例えば、レモン油、オレンジ油、ハッカ油、メントール等が挙げられる。
【0070】
分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体および水に難溶である塩基性の正塩が、有機酸と接触しないように配置することにより、酸に不安定なN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体を安定化できる効果がある。その方法として、例えば、有機酸を中性低融点固形物中に分散させることにより、有機酸と、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体および水に難溶である塩基性の正塩が接触しないように配置する方法がある。
【0071】
(実施例)
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明がこれらに限定されるわけではない。なお、実施例中で用いている(2S,4S)−1−[N-(4−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリルは、WO2005/075421パンフレットに記載の方法により合成できる。
【実施例1】
【0072】
表1に記載の処方に従い、70℃に加温させたウォーターバスを用いてステアリルアルコール(商品名 NAA−45、日本油脂)(一次添加)を溶融させ、これにフマル酸(和光純薬工業)を加えて、懸濁後、室温で冷却固化、850粉砕機(大阪ケミカル、ワンダーブレンダー WB−1)を用いて粉砕し、500μmの篩を通し、これに(2S,4S)−1−[N-(4−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリル(以下、化合物1と表す)、ヒプロメロース(商品名 メトローズ60SH−50及びメトローズ60SH−4000、信越化学工業)、乳糖水和物(商品名 LACTOSE 200M、Fonterra.Ltd.)、炭酸カルシウム(関東化学)を、乳鉢を用いて3分間混合後、スクリーンサイズ500μm及び250μmを用いて順次、破砕型造粒整粒機(岡田精工、ND−10あるいはND−30S)で粉砕したステアリルアルコール(商品名 NAA−45、日本油脂)(二次添加)及び、ステアリン酸マグネシウム(商品名 ステアリン酸マグネシウム植物性、太平化学産業)を加えて1分間混合した。さらに、ポリエチレン袋中で30秒間混合後、打錠機(畑鉄工所、HT−AP−18−SSII)にて直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵を用いて質量250mg、下杵圧が1500kgとなるように打錠した。
【実施例2】
【0073】
表1に記載の処方に従い、80〜90℃に加温させたウォーターバスを用いてマクロゴール6000(商品名 マクロゴール6000P、日本油脂)を溶融させ、これにフマル酸(和光純薬工業)を加えて、懸濁後、室温で冷却固化、スクリーンサイズ500μmのメッシュ型スクリーンを取り付けた粉砕機(岡田精工、スピードミル ND−10)を用いて粉砕し、化合物1、ヒプロメロース(商品名 メトローズ60SH−50及びメトローズ60SH−4000、信越化学工業)、乳糖水和物(商品名 LACTOSE 200M、Fonterra.Ltd.)、炭酸カルシウム(関東化学)を、乳鉢を用いて3分間混合後、スクリーンサイズ500μm及び250μmを用いて順次、破砕型造粒整粒機(岡田精工、ND−10あるいはND−30S)で粉砕したステアリルアルコール(商品名 NAA−45、日本油脂)(二次添加)及び、ステアリン酸マグネシウム(商品名 ステアリン酸マグネシウム植物性、太平化学産業)を加えて1分間混合した。さらに、ポリエチレン袋中で30秒間混合後、打錠機(畑鉄工所、HT−AP−18−SSII)にて直径8.5mmの臼、曲率半径10mmのR面杵を用いて質量250mg、下杵圧が1000〜1200kgとなるように打錠した。

【表1】

(比較例1)
表2に記載の処方に従い、化合物1、ヒプロメロース(商品名 メトローズ60SH−50及びメトローズ60SH−4000、信越化学工業)、マンニトール(商品名 ペアリトール200SD、ROQUETTE)を、乳鉢を用いて3分間混合後、スクリーンサイズ500μm及び250μmを用いて順次、破砕型造粒整粒機(岡田精工、ND−10あるいはND−30S)で粉砕したステアリルアルコール(商品名 NAA−45、日本油脂)及び、ステアリン酸マグネシウム(商品名 ステアリン酸マグネシウム植物性、太平化学産業)を加えて1分間混合した。さらに、ポリエチレン袋中で30秒間混合後、打錠機(畑鉄工所、HT−AP−18−SSII)にて直径9mmの臼、曲率半径12mmのR面杵を用いて質量300mg、下杵圧が1100kgとなるように打錠した。
(比較例2)
表2に記載の処方に従い、マンニトールの代わりに乳糖水和物(商品名 LACTOSE 200M、Fonterra.Ltd.)を用い、打錠時の圧力を1100kgとして、比較例1と同様の方法により錠剤を作成した。
(比較例3)
表2に記載の処方に従い、化合物1、ヒプロメロース(商品名 メトローズ60SH−50及びメトローズ60SH−4000、信越化学工業)、マンニトール(商品名 ペアリトール200SD、ROQUETTE)、炭酸カルシウム(関東化学)を、乳鉢を用いて3分間混合後、スクリーンサイズ500μm及び250μmを用いて順次、破砕型造粒整粒機(岡田精工、ND−10あるいはND−30S)で粉砕したステアリルアルコール(商品名 NAA−45、日本油脂)及び、ステアリン酸マグネシウム(商品名 ステアリン酸マグネシウム植物性、太平化学産業)を加えて1分間混合した。さらに、ポリエチレン袋中で30秒間混合後、打錠機(畑鉄工所、HT−AP−18−SSII)にて直径9mmの臼、曲率半径12mmのR面杵を用いて質量300mg、下杵圧が1100kgとなるように打錠した。
(比較例4)
表2に記載の処方に従い、マンニトールの代わりに乳糖水和物(商品名 LACTOSE 200M、Fonterra.Ltd.)を用い、打錠時の圧力を980〜1050kgとして、比較例3と同様の方法により錠剤を作成した。
(比較例5)
表2に記載の処方に従い、炭酸カルシウムの代わりにフマル酸(和光純薬工業)を用い、打錠時の圧力を1000〜1200kgとして、比較例3と同様の方法により錠剤を作成した。
(比較例6)
表2に記載の処方に従い、炭酸カルシウムの代わりに、乳鉢粉砕した後スクリーンサイズ350μmの篩を通したクエン酸(日興製薬)を用い、打錠時の圧力を1000〜1200kgとして、比較例3と同様の方法により錠剤を作成した。
【表2】

(試験例1)溶出試験
【0074】
下記の方法に従って行った。測定結果は表3、4に示した。
(試験方法)
【0075】
試験液に溶出試験第1液及び第2液900mLを用い、パドル法により毎分100回転で溶出試験を行った。なお、錠剤はシンカーに入れて試験を行った。溶出試験開始後1、2、3、4、5及び6時間後に孔径0.45μmのメンブランフィルターを通してサンプリングを行い、以下の条件で液体クロマトグラフ法にて溶出率(%)を算出した。
(液体クロマトグラフィーによる試験条件)
【0076】
カラム:Inertsil ODS−3V、内径4.6mm、長さ150mm、粒径5μm、ジーエルサイエンス製
移動相A液:1−オクタンスルホン酸ナトリウムの薄めたリン酸(1→1000)溶液(27→12500)
移動相B液:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル
移動相の送液:A液及びB液の混合比を一定とした。
検出器:紫外可視吸光光度計(測定波長:210nm)
【表3】

【0077】
実施例1、2の溶出試験結果をそれぞれ、図1、2に示す。
【表4】

【0078】
比較例1、2、3、4、5、6の溶出試験結果をそれぞれ、図3、4、5、6、7、8に示す。
【0079】
本発明の組成物である実施例1〜2は、比較例1〜5に比べ、溶出試験1液と溶出試験2液との差Aが小さく、pH非依存的な放出を示していることが分かる。実施例1〜2では、溶出試験1液と溶出試験2液との差Aは、溶出試験後6時間まで、9%以下であり、酸性液中でも良好な徐放性を示している。一方、比較例1〜5では、溶出試験1液と溶出試験2液との差Aが大きく、液種により溶出速度が著しく異なっている。
(試験例2)安定性試験(純度試験)
【0080】
下記の方法に従って行った。測定結果は表5に示した。
(試験方法)
【0081】
錠剤をガラス瓶に充填し、密栓した状態で40℃に4週間保存し、化合物1の分解物生成量を下記の液体クロマトグラフィーで測定し、その含量を化合物1の含量に対する百分率で表した。錠剤は薄めたリン酸(1→500)/液体クロマトグラフィー用アセトニトリル混液(7:3)を用いて抽出した。なお、分解物含量の定量限界が0.05%であるため、定量限界未満の分解物については含量に含めなかった。
(液体クロマトグラフィーによる試験条件)
【0082】
カラム:Inertsil ODS−3V、内径4.6mm、長さ150mm、粒径5μm、ジーエルサイエンス製
移動相A液:1−オクタンスルホン酸ナトリウムの薄めたリン酸(1→1000)溶液(27→12500)
移動相B液:液体クロマトグラフィー用アセトニトリル
移動相の送液:A液及びB液の混合比を変えて濃度勾配を制御した。
検出器:紫外可視吸光光度計(測定波長:210nm)
【表5】

【0083】
本発明の組成物である実施例1〜2は、有機酸と、水に難溶である塩基性の正塩の両方を含む組成物であるが、有機酸のみを含む比較例5〜6に比べ、分解物が少ない。実施例1〜2は、比較例5〜6に比べ、4週間の保存後における錠剤中の主薬の化学的安定性が優れていることが分かる。なお、比較例1〜4は、有機酸を含有しないので、分解生成物は検出されていない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明により、N−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体のpH非依存的な放出を示すマトリックス型徐放性製剤を提供することが可能となり、産業上有用である。


















【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体の徐放性製剤であって、水に難溶である塩基性の正塩、有機酸およびゲル化剤を含有する医薬品組成物。

【請求項2】
分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体および水に難溶である塩基性の正塩が、有機酸と接触しないように配置されていることを特徴とする請求項1の医薬品組成物。

【請求項3】
有機酸を中性低融点固形物中に分散させることにより、有機酸と、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体および水に難溶である塩基性の正塩が、接触しないように配置されていることを特徴とする請求項1の医薬品組成物。

【請求項4】
分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体が一般式(1):
【化1】

(式中、AはCH2、CHFまたはCF2を示し;
R1は水素または、置換されてもよいC1〜C6のアルキル基、置換されてもよいC3〜C8のシクロアルキル基、置換されてもよいアリールメチル基、置換されてもよいアリールエチル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素、置換されていてもよい芳香族へテロ環、または置換されていてもよい脂肪族へテロ環を示し;
nは1または2を示す。)
で示されるアミノアセチルピロリジンカルボキサミド誘導体である、請求項1から3の何れかに記載の組成物。

【請求項5】
分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体が、vildagliptin、saxagliptin、melogliptin、MP-513、または、(2S,4S)−1−[[N-(4−エトキシカルボニルビシクロ[2.2.2]オクト−1−イル)アミノ]アセチル−4−フルオロピロリジン−2−カルボニトリル、である請求項1から3の何れかに記載の組成物。

【請求項6】
塩基性の正塩が炭酸カルシウムである請求項1から5の何れかに記載の組成物。

【請求項7】
有機酸がフマル酸である、請求項1から6の何れかに記載の組成物。

【請求項8】
1)中性低融点固形物を加熱溶融して、溶融中性低融点物質を調製する工程、
2)前記溶融中性低融点物質に有機酸を分散させて、有機酸分散物を得る工程、
3)前記有機酸分散物を冷却固化した後、粉砕して、粉砕物を調製する工程、
4)前記粉砕物に、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体、水に難溶である塩基性の正塩、ゲル化剤を混合する工程、及び
5)得られた混合物を打錠する工程、
により、製造される請求項1から7に記載の組成物。

【請求項9】
請求項1から7の何れかに記載の組成物の製造方法であって、
1)中性低融点固形物を加熱溶融して、溶融中性低融点物質を調製する工程、
2)前記溶融中性低融点物質に有機酸を分散させて、有機酸分散物を得る工程、
3)前記有機酸分散物を冷却固化した後、粉砕して、粉砕物を調製する工程、
4)前記粉砕物に、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体、水に難溶である塩基性の正塩、ゲル化剤を混合する工程、及び
5)得られた混合物を打錠する工程、
を有することを特徴とする方法。

【請求項10】
分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体の徐放性製剤に、水に難溶である塩基性の正塩、有機酸およびゲル化剤を用いることにより、放出速度をpH非依存化させる方法。

【請求項11】
分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体、水に難溶である塩基性の正塩、有機酸およびゲル化剤を含有し、分子内にアミノ基を有するN−アシルピロリジンカルボニトリル誘導体および水に難溶である塩基性の正塩が、有機酸と接触しないように配置することにより、放出速度をpH非依存化させ、製剤を安定化する方法。













【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−57586(P2011−57586A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206908(P2009−206908)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(000001395)杏林製薬株式会社 (120)
【Fターム(参考)】