説明

tert−ブチル3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの製造方法およびその中間体

【課題】工業的に有用なtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの製造方法を提供すること。
【解決手段】式(2)


(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表わす。)
で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートと塩基とを反応させる式(3)


で示されるtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの製造方法およびその中間体に関する。
【背景技術】
【0002】
tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの製造方法としては、例えば、tert−ブチル 3−アジドピペリジン−1−カルボキシレートを還元する方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2005/000305号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、かかる方法は、アジド化合物の安全性を考慮した防災設備等の特殊な設備を要するといった問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況のもと、本発明者らは、上記特殊な設備を用いる必要のないtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの製造方法について鋭意検討したところ、アルコキシ部分が1級または2級のアルコキシ基であるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートと塩基とを反応させることにより、1位の窒素原子上のカーバメート保護基と、3位に結合しているアミノ基上のカーバメート保護基のうち、3位に結合しているアミノ基上のカーバメート保護基が選択的に脱離し、tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートが得られることを見出し、本発明に至った。
【0006】
すなわち、本発明は、下記〔1〕〜〔9〕に記載の発明を提供するものである。
〔1〕式(2)

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表わす。)
で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートと塩基とを反応させる式(3)

で示されるtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの製造方法。
〔2〕塩基が、金属水酸化物または炭素数1〜4の金属アルコキシドである〔1〕項に記載の製造方法。
〔3〕塩基が、アルカリ金属水酸化物である〔1〕項に記載の製造方法。
〔4〕式(2)で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートが、式(2’)

(式中、RおよびRは、それぞれ上記と同じ意味を表わし、*は当該炭素原子が光学活性中心であることを表わす。)
で示される光学活性なtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートであり、得られる式(3)で示されるtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートが、式(3’)

(式中、*は当該炭素原子が光学活性中心であることを表わす。)
で示される光学活性なtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートである〔1〕項〜〔3〕項のいずれかに記載の製造方法。
〔5〕式(1)

(式中、RおよびRは、それぞれ上記と同じ意味を表わす。)
で示される3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジンの1位をtert−ブチルカルボキシレート化して式(2)で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートを得る工程をさらに含む〔1〕項〜〔3〕項のいずれかに記載の製造方法。
〔6〕式(1’)

(式中、RおよびRは、それぞれ上記と同じ意味を表わし、*は当該炭素原子が光学活性中心であることを表わす。)
で示される光学活性な3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジンの1位をtert−ブチルカルボキシレート化して式(2’)で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートを得る工程をさらに含む〔4〕項に記載の製造方法。
〔7〕tert−ブチルカルボキシレート化が、式(1)で示される3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジンまたは式(1’)で示される光学活性な3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジンと、二炭酸ジtert−ブチルとを反応させて行われる〔5〕項または〔6〕項に記載の製造方法。
〔8〕RとRが、ともにメチル基である〔1〕項〜〔7〕項のいずれかに記載の製造方法。
〔9〕tert−ブチル 3−(イソプロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート。
〔10〕光学活性なtert−ブチル 3−(イソプロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、防災設備等の特殊な設備を用いなくともtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートを製造することができるため、工業的に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
まず、上記式(2)で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(以下、tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2)と略記する。)とその製造方法について説明する。式中、RおよびRで示される炭素数1〜8のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、イソへプチル基、オクチル基、イソオクチル基等が挙げられる。RおよびRとしては、独立に水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基が好ましく、RとRが、ともにメチル基であることがより好ましい。
【0010】
tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2)としては、例えばtert−ブチル 3−(エトキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート、tert−ブチル 3−(プロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート、tert−ブチル 3−(イソブトキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート、tert−ブチル 3−(イソプロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート等が挙げられる。これらの化合物は、任意の酸の付加塩であってもよい。
【0011】
tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2)の製造方法は特に限定されず、任意の公知の方法により製造して本発明に用いることができる。ここでは好ましい例の一つとして、上記式(1)で示される3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(以下、3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1)と略記する。)と二炭酸ジtert−ブチルとの反応(以下、Boc化反応と略記する。)を挙げる。
【0012】
3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1)としては、例えばエチル ピペリジン−3−イルカーバメート、プロピル ピペリジン−3−イルカーバメート、ブチル ピペリジン−3−イルカーバメート、イソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメート、イソブチル ピペリジン−3−イルカーバメート、2−エチルヘキシル ピペリジン−3−イルカーバメート等が挙げられる。これらの化合物は、任意の酸の付加塩であってもよい。
【0013】
3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1)は、例えば、3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピリジンを接触水素還元することにより得られる。また、3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1)を、例えば、光学活性な酒石酸、光学活性なマンデル酸、光学活性なカンファースルホン酸、光学活性な乳酸等の光学活性な酸を用いて光学分割すれば、上記式(1’)で示される光学活性な3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(以下、光学活性3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1’)と略記する。)が得られる。かかる光学分割を行う場合、RとRがともにメチル基であるときは光学活性な酒石酸を用いることが好ましく、Rがメチル基かつRが水素原子のときは光学活性なマンデル酸を用いることが好ましい。
【0014】
二炭酸ジtert−ブチルの使用量は、3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1)に対して、好ましくは0.9〜3モル倍、より好ましくは1〜2モル倍である。
【0015】
Boc化反応は、通常、溶媒の存在下で実施される。溶媒としては、例えば、水;テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル溶媒;アセトニトリル等のニトリル溶媒;酢酸エチル等のエステル溶媒;トルエン等の芳香族溶媒;メタノール、1−ブタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール等のアルコール溶媒等が挙げられる。これら溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。溶媒の使用量は、3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1)1kgに対して、通常1〜50L、好ましくは2〜20Lである。
【0016】
また、かかるBoc化反応は、塩基の存在下に実施してもよい。塩基としては、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;トリエチルアミン、ジイソブチルエチルアミン、ピリジン等の有機塩基;等が挙げられる。これら塩基は、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。塩基の使用量は、二炭酸ジtert−ブチルに対して、好ましくは1〜5モル倍、より好ましくは1〜2モル倍である。かかる3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1)として酸付加塩を用いる場合、上記の塩基の使用量は、該酸付加塩に含まれる酸を中和するのに必要な量を考慮して決めればよい。
【0017】
Boc化反応の反応温度は、好ましくは−10〜80℃、より好ましくは0〜50℃である。反応時間は、反応温度や反応試剤の使用量等により適宜調節できるが、好ましくは15分〜12時間、より好ましくは30分〜5時間である。反応の進行度合いは、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の通常の手段により確認できる。
【0018】
Boc化反応における混合順序は特に限定されない。好ましい実施態様としては、例えば、3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1)に塩基と二炭酸ジtert−ブチルとを同時並行的に加えていく態様や、3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1)と塩基との混合物中に二炭酸ジtert−ブチルを加えていく態様等が挙げられる。
【0019】
Boc化反応終了後の混合物中には、tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2)またはその酸付加塩が含まれており、これをそのまま次の反応に供してもよいが、通常、該混合物を、ろ過、中和、抽出、洗浄等の通常の後処理に付した後に次の反応に供する。もちろん、上記後処理後の混合物を、蒸留や結晶化等の通常の単離処理に付した後に次の反応に供してもよいし、さらに、再結晶;抽出精製;精留;活性炭、シリカ、アルミナ等を用いた吸着処理;シリカゲルカラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法;等の通常の精製処理に付した後に次の反応に供してもよい。
【0020】
Boc化反応に光学活性3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン(1’)を用いた場合は、通常、上記式(2’)で示される光学活性なtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(以下、光学活性tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2’)と略記する。)が得られる。
【0021】
次に、tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2)と塩基との反応(以下、本脱保護反応と称することもある。)による上記式(3)で示されるtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート(以下、tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート(3)と略記する。)の製造方法について説明する。
【0022】
本脱保護反応に用いる塩基としては、金属水酸化物、金属アルコキシド、金属アミド、金属炭酸塩等が用いられる。かかる金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物や、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物が挙げられる。金属アルコキシドとしては、例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムtert−ブトキシド等の炭素数1〜4のアルカリ金属アルコキシドが挙げられる。金属アミドとしては、例えば、ナトリウムアミド、リチウムアミド等のアルカリ金属アミドが挙げられる。金属炭酸塩としては、例えば、炭酸セシウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。本脱保護反応の反応性を高めるには、金属水酸化物、金属アルコキシドが好ましく、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、炭素数1〜4のアルカリ金属アルコキシドがより好ましく、アルカリ金属水酸化物がさらに好ましい。これら塩基は、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。塩基の使用量は、tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2)に対して、好ましくは1〜10モル倍、より好ましくは2〜5モル倍である。
【0023】
本脱保護反応は、通常、溶媒の存在下で実施される。溶媒としては、例えば、水;テトラヒドロフラン、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル溶媒;トルエン、キシレン、モノクロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等の芳香族溶媒;1−ブタノール、2−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、4−メチル−2−ペンタノール等のアルコール溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒;等が挙げられる。水、エーテル溶媒、アルコール溶媒が好ましい。これら溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。溶媒の使用量は、tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2)1kgに対して、通常1〜50L、好ましくは2〜20Lである。
【0024】
本脱保護反応の反応温度は、好ましくは0〜160℃、より好ましくは50〜120℃である。反応時間は、反応温度や反応試剤の使用量等により適宜調節できるが、好ましくは15分〜12時間、より好ましくは30分〜5時間である。反応の進行度合いは、ガスクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の通常の手段により確認できる。
【0025】
本脱保護反応における混合順序は特に限定されない。好ましい実施態様としては、例えば、tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2)に塩基を加えていく態様や、塩基にtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2)を加えていく態様等が挙げられる。
【0026】
本脱保護反応終了後の混合物中には、tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート(3)またはその酸付加塩が含まれており、該混合物を、必要により、ろ過、中和、抽出、水洗等の通常の後処理に付した後、蒸留や結晶化等の通常の単離処理に付すことにより、tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート(3)またはその酸付加塩を単離することができる。単離されたtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート(3)は、さらに、再結晶;抽出精製;精留;活性炭、シリカ、アルミナ等を用いた吸着処理;シリカゲルカラムクロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法;等の通常の精製処理より精製されてもよい。本脱保護反応によれば、実用的な収率でtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート(3)を得ることができる。
【0027】
本脱保護化反応に光学活性tert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート(2’)を用いた場合は、ラセミ化を起こすことなく、上記式(3’)で示される光学活性なtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートが得られる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0029】
参考例1:(R)−イソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメート L−酒石酸塩
イソプロピル ピリジン−3−イルカーバメート200g(1.11mol)と酢酸100g(1.66mol)と水300gとからなる溶液と、パラジウム炭素(10%)20.0gとを混合し、得られた混合物を、水素圧0.5〜0.9MPa、85〜95℃で11時間攪拌した。反応終了後、パラジウム炭素をろ別して反応溶液を得、パラジウム炭素を水100gで洗浄して洗浄液を得、前記反応溶液と洗浄液とを合一した。得られた溶液に1−ブタノール800mLを加え、内容量が約800mLになるまで濃縮した。得られた濃縮残渣と1−ブタノール400mLとL−酒石酸192.1g(1.28mol)とを混合した。得られた混合物を70℃で3時間撹拌した後、攪拌を続けながら10℃まで徐々に冷却したところ、その途中から結晶が析出した。該結晶をろ取し、乾燥させることにより、白色結晶として(R)−イソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメート L−酒石酸塩116.9gを得た。収率31.3%。
【0030】
参考例2:(S)−イソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメート D−酒石酸塩
参考例1で(R)−イソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメート L−酒石酸塩をろ別して得られたろ液を濃縮し、得られた残渣に水494gを加えた。得られた混合物を35℃に調整した後、そこに炭酸ナトリウム224g(2.11mol)を分割添加した。得られた混合物に、酢酸エチル260gを加えて混合し、分液処理により有機層を取得した。水層を酢酸エチル244gで抽出し、得られた有機層と先に取得した有機層とを合一した。得られた有機層を無水硫酸ナトリウム135gで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別し、得られた溶液を濃縮処理した。得られた残渣にエタノール453gとD−酒石酸168g(0.87mol)とを加え、得られた混合物を70℃で3時間撹拌した後、攪拌を続けながら10℃まで徐々に冷却したところ、その途中から結晶が析出した。該結晶をろ取し、エタノール176gで洗浄した。得られた結晶を乾燥させることにより、白色結晶として(S)−イソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメート D−酒石酸塩74.1gを得た。この結晶をエタノール175gに懸濁させ、得られた懸濁液を70℃で1時間撹拌した後、10℃まで冷却した。得られた懸濁液から結晶をろ取し、該結晶をエタノール59gで洗浄した。得られた結晶を乾燥することにより、白色結晶として(S)−イソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメート D−酒石酸塩72.1gを得た。イソプロピル ピリジン−3−イルカーバメートからの収率19.3%。
【0031】
得られた(S)−イソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメート D−酒石酸塩の一部とトリエチルアミンとを反応させることによりイソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメートを取り出し、これを3,5−ジニトロベンゾイルクロライドで誘導体化して、高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、該塩中のイソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメートの光学純度は、99.4%ee(S体)であった。
<光学純度分析条件>
カラム :CHIRALCEL(登録商標) AS−RH
4.6×150mm,5μm
(ダイセル化学工業株式会社製)
移動相 :A=水、B=アセトニトリル、A/B=70/30
流量 :1.0ml/分
検出器 :UV254nm
保持時間:S体=19.1分、R体=31.5分
【0032】
実施例1:(S)−tert−ブチル 3−(イソプロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート
参考例2で得た(S)−イソプロピル ピペリジン−3−イルカーバメート D−酒石酸塩10.0g(29.7mmol、99.4%ee)とテトラヒドロフラン50mLと水5mLとを混合し、そこに、炭酸ナトリウム6.3g(59.4mmol)と水25mLとの混合溶液を1時間かけて滴下した。滴下中の混合物の内温は10〜20℃であった。滴下終了後、得られた混合物を20℃で30分撹拌した。得られた混合物に、二炭酸ジtert−ブチル6.5g(29.7mmol)とテトラヒドロフラン10mLとの混合溶液を1時間かけて滴下した。滴下中の混合物の内温は10〜20℃であった。得られた混合物を室温で1時間撹拌した。得られた混合物に水50mLを加えて混合し、分液処理により有機層を取得した。水層をテトラヒドロフラン30mLで抽出し、得られた有機層と先に取得した有機層とを合一した後、20重量%クエン酸水溶液20mLで2回、飽和食塩水20mLで1回、順に洗浄した。得られた有機層を硫酸ナトリウムで脱水処理した。硫酸ナトリウムをろ別し、得られた溶液を濃縮した後、得られた油状物にヘプタン10mLを加えたところ、結晶が析出した。該結晶をろ取し、ヘプタン5mlで洗浄した。得られた結晶を乾燥することにより、白色結晶として(S)−tert−ブチル 3−(イソプロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート7.65gを得た。収率90%
H−NMR(CDCl,400MHz)δppm:5.00−4.82(1H,m)4.73(1H,brs)、3.67−3.24(4H,m)、1.89−1.62(2H,m)、1.59−1.44(2H、m)、1.46(9H,s)、1.29(6H,d,J=5.2Hz)
13C−NMR(CDCl,100MHz)δppm:155.3、154.9、79.7、72.3、68.0、48.9、46.4、43.9、30.1、28.4、22.4、17.9
【0033】
実施例2:(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート
実施例1で得た(S)−tert−ブチル 3−(イソプロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート5.00g(17.5mmol)と1−ブタノール20mLとを混合し、得られた混合物を100℃に調整した。そこに、水酸化カリウム2.94g(52.5mmol)を5分かけて添加した。得られた混合物を100℃で1時間撹拌した後、室温まで冷却し、そこに水5mLを加え、分液処理により有機層を取得した。水層を1−ブタノール10mLで抽出し、得られた有機層と先に取得した有機層とを合一した後、水10mLで2回洗浄した。得られた有機層を濃縮処理することにより、薄黄色油状物として(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート3.08gを得た。収率88%
【0034】
(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートを3,5−ジニトロベンゾイルクロリドで誘導体化して、高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、その光学純度は99.4%ee(S体)であった。
<光学純度分析条件>
カラム :CHIRALCEL(登録商標) AS−RH
4.6×150mm,5μm
(ダイセル化学工業株式会社製)
移動相 :A=水、B=アセトニトリル、A/B=60/40
流量 :1.0ml/分
検出器 :UV254nm
保持時間:S体=11.4分、R体=12.3分
【0035】
実施例3:(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート
実施例1で得た(S)−tert−ブチル 3−(イソプロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート573mg(2.00mmol)と2−プロパノール3mLとを混合し、得られた混合物に、水酸化カリウム337mg(6.00mmol)を添加した。得られた混合物をオートクレーブ中、100℃で3時間撹拌した。攪拌中の内圧は0.2MPaであった。得られた混合物を室温まで冷却し、そこに1−ブタノール10mLと水5mLとを加え、分液処理により有機層を取得した。水層を1−ブタノール10mLで抽出し、得られた有機層と先に取得した有機層とを合一した後、水5mLで2回洗浄した。得られた有機層を濃縮処理することにより、薄黄色油状物として(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート352mgを得た。収率88%
【0036】
実施例2と同様に高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ、(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの光学純度は99.4%ee(S体)であった。
【0037】
実施例4(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート ヘミフマル酸塩
実施例3と同様にして得た(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートと2−プロパノール20mLとフマル酸116g(1.00mol)とを混合した。得られた混合物を80℃で1時間撹拌し、10℃まで冷却したところ、結晶が析出した。該結晶をろ取し、2−プロパノール5mLで洗浄した。得られた結晶を乾燥することにより、白色結晶として(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート ヘミフマル酸塩413mgを得た。収率80%
【0038】
得られた(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレート ヘミフマル酸塩の一部とトリエチルアミンとを反応させることにより(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートを取り出し、これを3,5−ジニトロベンゾイルクロライドで誘導体化して、実施例2と同様の条件で高速液体クロマトグラフィーにて分析したところ(S)−tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの光学純度は99.8%ee(S体)であった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
tert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートは、例えば、その光学活性体がアルツハイマー治療薬の合成中間体(国際公開第2005/000305号参照)として有用である等、重要な化合物である。本発明は、かかる化合物の製造方法およびその中間体として、産業上利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(2)

(式中、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜8のアルキル基を表わす。)
で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートと塩基とを反応させる式(3)

で示されるtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートの製造方法。
【請求項2】
塩基が、金属水酸化物または炭素数1〜4の金属アルコキシドである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
塩基が、アルカリ金属水酸化物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
式(2)で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートが、式(2’)

(式中、RおよびRは、それぞれ上記と同じ意味を表わし、*は当該炭素原子が光学活性中心であることを表わす。)
で示される光学活性なtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートであり、得られる式(3)で示されるtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートが、式(3’)

(式中、*は当該炭素原子が光学活性中心であることを表わす。)
で示される光学活性なtert−ブチル 3−アミノピペリジン−1−カルボキシレートである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
式(1)

(式中、RおよびRは、それぞれ上記と同じ意味を表わす。)
で示される3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジンの1位をtert−ブチルカルボキシレート化して式(2)で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートを得る工程をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
式(1’)

(式中、RおよびRは、それぞれ上記と同じ意味を表わし、*は当該炭素原子が光学活性中心であることを表わす。)
で示される光学活性な3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジンの1位をtert−ブチルカルボキシレート化して式(2’)で示されるtert−ブチル 3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレートを得る工程をさらに含む請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
tert−ブチルカルボキシレート化が、式(1)で示される3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジンまたは式(1’)で示される光学活性な3−(アルコキシカルボニルアミノ)ピペリジンと、二炭酸ジtert−ブチルとを反応させて行われる請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
とRが、ともにメチル基である請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
tert−ブチル 3−(イソプロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート。
【請求項10】
光学活性なtert−ブチル 3−(イソプロポキシカルボニルアミノ)ピペリジン−1−カルボキシレート。

【公開番号】特開2009−286778(P2009−286778A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97695(P2009−97695)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】