説明

エアバック用織物

【課題】柔軟性にとみ、かつ引裂強力、滑脱抵抗力に優れたエアバック用織物を提供する。
【解決手段】少なくとも片面に樹脂皮膜のコーティングが施されているポリエステルマルチフィラメントからなる織物であって、下記要件を満足するエアバック用織物。
a)ポリエステルマルチフィラメントの繊度が330〜550dtex
b)該織物のカバーファクターが1700〜2100
c)ASTM D 6479で測定した滑脱抵抗力が250N以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の乗員を保護するためのエアバックの織布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の乗員を保護するためのエアバック用織物は有機合成繊維からなる織物が多く使われており、特にナイロン糸を使用し該織物を袋状に縫製し使用している。
乗用車のエアバックとして運転者席用、助手席者用は、収納性が要求されるために、織物にコーティング樹脂等を施していない織物が使用されていることが多いが側突用のカーテン状のサイドエアバックには、衝突の際に乗用車が横転する事態も考慮し、シリコンコーティングを施し、樹脂層により気密性を高めたものが使われている。例えば、特許文献1には、ナイロン、ポリエステル、アラミドからなる繊維にサイジングしない糸を、ウォータージェット製織機にて製織し、精錬工程を省略した該織物表面にシリコン樹脂がコーティングされているエアバック用織物が記載されている。また特許文献2には、熱可塑性合成フィラメント糸の織物表面にシリコンコーティングを施してなるエアバック織物において、単糸強度が7.5cN/dtex以上であり、織布のカバーファクターが1800〜2200であるエアバック用織物が記載されている。
【0003】
しかしながら、ナイロン繊維で気密性を高めるために高密度カバーファクター2000以上の織物にシリコンコーティングを施した場合は、該織物の交絡点の自由度が小さくなり、引裂強力が低く、また柔軟性に欠ける織物となり、好適なエアバック用の織物とはいえない。
また、高密度な織物にするためには、マルチフィラメンの繊度を325dtex以下にしなければ、製織性が著しく悪く、生産性が極めて悪いものとなる。
一方、カバーファクターが特に1800以下になると、ナイロン糸を使用した織物では生産性は良くなるものの、ナイロン糸の表面摩擦抵抗が低く、コーティングを施した布帛の滑脱抵抗力が極端に悪くなり、該織物を縫製した部分の縫製部分の目開きが大きくなり、エアバックの気密性が著しく悪くなり、好適なエアバック用の織物とはいえない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−288641号公報
【特許文献2】特開2007−262592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、側突用のカーテン状のサイドエアバックに最適な、気密性を保ちながら、引裂強度が強く柔軟性にとみ、かつ滑脱抵抗力が高いエアバックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果下記のよう課題が解決できることを見出した。
即ち本発明によれば、
少なくとも片面に樹脂皮膜のコーティングが施されているポリエステルマルチフィラメントからなる織物であって、下記要件を満足するエアバック用織物。
a)ポリエステルマルチフィラメントの繊度が330〜550dtex
b)該織物のカバーファクターが1700〜2100
c)ASTM D 6479で測定した滑脱抵抗力が250N以上
好ましくは、織物の組織が平織であるエアバック用織物であり、ポリエステルマルチフィラメントを構成するフィラメント本数が96〜192本であるエアバック用織物であり、樹脂皮膜を構成する樹脂がシリコン系、ウレタン系、アクリル系、ゴム系またはそれらの共重合物からなる群から選ばれる少なくとも一種からなるエアバック用織物であり、樹脂皮膜の単位面積あたりの重量が15〜25g/mであるエアバック用織物であり、ASTM D 4032で測定した硬さが5〜15Nであるエアバック用織物であり、ISO 13937−2シングルタング法で測定した引裂強力が200〜600Nであるエアバック用織物、
が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明のエアバック用の織物は柔軟性にとみ、引裂強力が高く、かつ滑脱抵抗力が高く、織物の表面に樹脂コーティングを施すことで、自動車用カーテン状のサイドエアバックとして用いた場合、気密性と形態保持性が良好な織物である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のエアバック用の織物を構成する繊維は、繊維間摩擦力の大きいポリエステルマルチフィラメントからなり、総繊度は330〜550dtexの範囲であることが必要である。総繊度が330dtex未満となるとエアバックとして十分な強度を得ることが難しく、550dtexを超える場合は、製織した織物の厚みが大きくなり、装置への収納性が悪く、繊維が太くなることで、得られる織物が剛直になり開裂した際に顔面等への衝撃が吸収されにくい、欠点となる。
【0009】
またポリエステルマルチフィラメントのフィラメント数は96〜192本が適しており、望ましくは96〜144本が生産性の上で最適である。フィラメント数が95本以下では、織物にした場合、剛直になり、フィラメント数が193本以上になると単糸繊度が細くなり、繊維の生産性が悪くなる傾向にあり、織物のコストが高くなる。
【0010】
またポリエステルマルチフィラメントの単糸強度は6.5cN/dtex以上であることが好ましい。6.5cN/dtex未満の場合、エアバックの織物とした場合十分な強力を得ることができない。単糸強度は、特に7.0cN/dtex以上が望ましい。
また、繊維の構成上8.0cN/dtex以上の単糸強度は発現させ難く、したがって好適な単糸強度の範囲は7.0〜8.0cN/dtexである。
本発明のエアバック用織物の組織は綾織、朱子織、平織、リップストップ等あるが、生産性を考えると平織が最適である。
【0011】
本発明のエアバック用の織物のカバーファクターは1700〜2100であり、望ましくは1800〜2000である、カバーファクターが1700未満の場合は、エアバック用の織物として、十分な強力が得られないとともに、滑脱抵抗力が著しく低下し、縫目の目開きが大きくなりエアバックが膨張した際の気密性が低下し、エアバック用の織物としては適さない。カバーファクターが2100を超えると、繊維交点の自由度が小さくなり、柔軟性や引裂強度が低下しエアバック織物として十分な性能が得られない。
【0012】
さらに本発明のエアバック用の織物の少なくとも片面に樹脂皮膜が施されていて、樹脂皮膜の滑脱抵抗力が250N以上であることが必要で、望ましくは300N以上である。滑脱抵抗力が250N未満であると、エアバックの膨張時に縫製部分の目開きが大きくなり、気密性が著しく悪くなる。
【0013】
本発明のエアバック用織物の表面にコーティングする樹脂の塗布量は15〜25g/mの範囲が好ましく、さらに好ましくは16〜22g/mである。コーティングする樹脂の塗布量が15g/m未満であると気密性が十分ではなく、滑脱抵抗力も250N未満となりエアバック用の織物として適さなくなり、塗布量が25g/mを超えると、重量が必要以上に重くなりエアバック織物として適さない。
【0014】
本発明のエアバック用織物を製織する方法としては、レピア、エアージェット、スルーザー、ウォータージェット織機などで、製織することが可能であるが、生産性の観点から、ウォータージェット織機が望ましい。
【0015】
本発明のエアバック用織物の柔軟性はASTM D 4032で測定した硬さが5〜15Nであることが望ましく、さらに望ましくは7〜12Nの範囲であり、硬さを5N未満にしようとした場合は、織物を極端に薄葉化する必要があり、エアバックとして十分な強力を得ることが難しくなる。硬さが15Nを超える場合は織物が剛直になり、膨張後に顔面等が衝突した場合に創傷する場合があり好ましくない。
【0016】
本発明のエアバック用織物の引裂強力はISO 13937−2シングルタング法で200〜600Nであることが好ましい。引裂強力が200未満の場合は、エアバックが膨張した場合に、織物が裂ける可能性があり、エアバックとしての機能を果さない。引裂強力が600Nを超えるとポリエステルマルチフィラメント繊度を大きくする必要があり、織物が剛直で厚みの厚いものとなるため、エアバック用の織物としては好ましくない。
【0017】
該織物に樹脂をコーティング加工する前に、熱ローラーを用いたカレンダー加工を施しても良い。その場合は織物の通気度を抑えられるとともに、織物表面の平滑性が上がり、樹脂の塗布量を減らすことが可能である。
樹脂をコーティングする方法としては、たとえばキスコート法、コンマコート法、ナイフコート法で連続的に目的とする塗布量を簡便にコーティングすることができる。
【0018】
樹脂としてはシリコーン系、ウレタン系、アクリル系、ゴム系またはそれらの共重合物からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることが好ましく、なかでもシリコーン系が好ましい。樹脂の粘度は、25℃で10000〜50000csが好ましく、この範囲の粘度のとき、コーティングが容易で樹脂の織物中への浸透も少なく且つ接着力の強いものとすることができる。
【0019】
樹脂のコーティングが終了した後は、樹脂を加熱処理するために、非接触式の乾燥機にて熱処理を行うことが好ましい。通常乾燥機は、130℃程度のゾーンから、160℃程度のゾーンに仕切られており、効率的に樹脂を加熱処理し織物と強固な接着力を有するエアバック用織物が得られる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するがこれらに限定されるものではない。
尚測定法は下記の方法で行った。
1)繊維強度 繊度:JIS L1013記載の方法に準拠して測定を行った。
2)カバーファクター:
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
3)滑脱抵抗力:ASTM D 6479に準拠して測定した。
4)硬さ(柔軟性):ASTM D 4032に準拠して測定した。
5)引裂強力:ISO 13937−2シングルタング法により測定した。
【0021】
[実施例1〜3]
表1に示すポリエステルマルチフィラメント(帝人ファイバー社製)を用いて、これを無撚の状態でウオータージェットルームにより表1のカバーファクターになるように平織で製織して220g/mの生機を得た。該生機にエマルジョン系シリコーン樹脂(東レダウコーニング社製)を織物裏面にブレードを接触させながらフローティングナイフ方式でコーティングし固形分樹脂重量が表1になるようにした。
【0022】
[実施例4〜5]
平織の生機に150℃の加熱ロールでコーティングする面に加圧プレスした後コーティングした以外は表1にあるとおりに行った。
【0023】
[比較例1〜4]
表1に示す条件で行った以外は実施例1と同様に行った。
表1より、フィラメントの繊度が330〜550dtex、カバーファクターが1700〜2100のポリエステル平織物に、樹脂を塗布することにより、硬さ5〜15Nで柔軟性にとみ、引裂強力が300〜600N、滑脱抵抗力が250N以上のエアバック用織物が得られ、エアバックが膨張した際に、縫目の目開きが小さく、気密性が良好な、カーテン状のサイドエアバックに最適な織物とすることができる。
【0024】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は自動車等の乗員を保護するのに適した、エアバック用織物に適しており、特に側突の際に乗員の頭部を保護する、カーテン状、サイドエアバック用織物に最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に樹脂皮膜のコーティングが施されているポリエステルマルチフィラメントからなる織物であって、下記要件を満足するエアバック用織物。
a)ポリエステルマルチフィラメントの繊度が330〜550dtex
b)該織物のカバーファクターが1700〜2100
c)ASTM D 6479で測定した滑脱抵抗力が250N以上
【請求項2】
織物の組織が平織である請求項1に記載のエアバック用織物。
【請求項3】
ポリエステルマルチフィラメントを構成するフィラメント本数が96〜192である請求項1〜2いずれかに記載のエアバック用織物。
【請求項4】
樹脂皮膜を構成する樹脂がシリコーン系、ウレタン系、アクリル系、ゴム系またはそれらの共重合物からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる請求項1〜3いずれかに記載のエアバック用織物。
【請求項5】
樹脂皮膜の単位面積あたりの重量が15〜25g/mである請求項1〜4いずれかに記載のエアバック用織物。
【請求項6】
ASTM D 4032で測定した柔軟性が5〜15N以下である請求項1〜5いずれかに記載のエアバック用織物。
【請求項7】
ISO 13937−2シングルタング法で測定した引裂強力が200〜600Nである請求項1〜6いずれかに記載のエアバック用織物。

【公開番号】特開2012−41652(P2012−41652A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183880(P2010−183880)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】