説明

光学フィルムの製造方法

【課題】長手方向における遅相軸のばらつきの程度が幅方向で均一な光学フィルムを製造する。
【解決手段】クリップテンタ20は、搬送方向Z1の上流側から順に、延伸エリア46、緩和エリア47を有する。延伸エリアは、第2給気室と加熱装置63とを備える。第2給気室は、湿潤フィルム12の幅方向全域を覆うように設けられる。加熱装置63は、側端部12sと対向するように設けられる。延伸エリア46では、湿潤フィルム12を加熱しながら幅を広げる。クリップテンタ20の下流で、乾いたフィルムの配向度を幅方向に検出し、目的とするReに対応する目的配向度V(S)よりも低い低配向度領域を特定するとともに、低配向度領域の目的配向度との配向度差を求める。求めた配向度差に応じて、以降の延伸工程では、第2給気室による全幅域の加熱に加え、加熱装置63による側端部12sの加熱を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルム、特に表示装置等に用いられる光学フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の表示装置に対する要求性能は近年ますます高くなっており、表示装置に用いる光学フィルムに対しても要求性能は高まるばかりである。例えば液晶ディスプレイにおいては、輝度がますます高く、そして画面がますます大きくなっており、これに伴い、位相差フィルム等の光学フィルムに対しては、光学特性の均一性についてより厳しい要求が出されている。
【0003】
光学フィルムは、溶液製膜方法と溶融製膜方法とのいずれの方法でも製造されており、連続製法で製造されている。すなわち、光学フィルムは長尺状につくられる。そして、上記の光学特性の均一性は、長尺の光学フィルムの幅方向についてより強く求められている。また、表示装置の大面積化に伴い、光学特性を均一としなければならない幅も広くなる一方である。
【0004】
光学特性の中でも、近年では遅相軸の均一性が特に重要視されている。遅相軸は、複屈折を示すフィルムで認められる。そして、長尺のフィルムを幅方向に拡げるように延伸した場合には、長手方向で、遅相軸が不均一になる。このように、長手方向で遅相軸が不均一である態様を軸ばらつきと以降称する。
【0005】
なお、長尺のフィルムを幅方向に延伸した場合には、延伸前に幅方向に付した直線状のマーキングが、延伸後には長尺方向に凸の形状となり、これは延伸線あるいはボーイングラインと呼ばれる。遅相軸は、この曲線状になった延伸線における接線とほぼ一致し、ポリマーの主鎖方向にもほぼ一致することが多い。
【0006】
ポリマーからなるフィルムは、通常複屈折を示し、異方性が小さいといわれるセルロースアシレートフィルムであっても複屈折を示す。そして、複屈折を示すポリマーフィルムにはボーイングが生じやすい。
【0007】
遅相軸を幅方向で均一にする方法、すなわち、ボーイングをなくす方法については、これまで種々の提案がされている。例えば、把持手段で各側部を把持して幅方向に延伸する際に、一方の側部の把持手段と他方の側部の把持手段とがそれぞれ走行する軌道レールを、互いに異なる長さとし、この長さを独立に変化させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法によると、フィルムの左右の把持長を独立して変化させるので、延伸の際に、遅相軸が幅方向である程度は均一となるように制御することができる。
【0008】
また、光学特性の中でも、遅相軸における屈折率と進相軸における屈折率とに依存するレタデーションについては、熱緩和工程において、幅方向に温度勾配を設けて熱処理することによって均一にすることができるとの開示がなされている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−182020号公報
【特許文献2】特許第3935570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、軸ばらつきがあり、しかも軸ばらつきの程度が幅方向で異なると、長手方向で複数付したマーキングの延伸線が、互いに異なる形状になってしまう。例えば、特許文献1の方法では、遅相軸のずれは、低減されてボーイングがある程度抑制させるとしても軸ばらつきの程度が幅方向で不均一となる。
【0011】
また、特許文献2の方法によると、レタデーションについては幅方向で均一にすることはできるものの、軸ばらつきの程度については幅方向で均一にすることはできない。
【0012】
そこで、本発明は、軸ばらつきの程度が幅方向でより均一な光学フィルムを製造することができる光学フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の光学フィルムの製造方法は、搬送されている長尺のポリマーフィルムを、加熱しながら幅方向へ拡げるように延伸する延伸工程と、延伸された前記ポリマーフィルムの内部応力を緩和するために、幅を規制した状態で前記ポリマーフィルムを加熱する緩和工程とを有し、目的とするレタデーションに対応する配向度を目的配向度V(S)とするときに、緩和工程を経た前記ポリマーフィルムの配向度を幅方向で検出して、前記目的配向度V(S)よりも低い配向度が検出された低配向度領域を特定し、緩和工程を経た後の配向度が前記目的配向度V(S)になるように、以降の前記延伸工程の際に、前記低配向度領域に対応する前記ポリマーフィルムの対応領域をより高い温度に加熱することを特徴として構成されている。
【0014】
前記低配向度領域の配向度と前記目的配向度V(S)との配向度差と、前記延伸工程の際の前記対応領域の温度との関係を予め求めておき、この関係から前記目的配向度V(S)となる前記対応領域の温度を求め、求めた温度になるように、以降の延伸工程の際の対応領域を加熱することが好ましい。
【0015】
前記配向度差は、前記延伸工程における設定条件毎に予め求め、前記設定条件は、前記ポリマーフィルムの温度と、延伸速度とであり、前記延伸速度は、前記ポリマーフィルムの延伸開始時における幅及び延伸終了時における幅から求める延伸倍率を、前記ポリマーフィルムの搬送速度で除した値であることが好ましい。
【0016】
セルロースアシレートを溶媒に溶解したドープを支持体上に連続的に流延して前記支持体から剥ぎ取り、剥ぎ取った前記ポリマーフィルムを乾燥し、残留溶媒量が20質量%に達してから前記延伸工程を開始し、前記残留溶媒量が5質量%に達してから前記対応領域の加熱を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、幅方向で軸ばらつきの程度がより均一な光学フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】溶液製膜設備を示す概略図である。
【図2】クリップテンタの概略図である。
【図3】配向度測定装置の概略図である。
【図4】配向度差がある場合の配向度Vと配向度差と軸ばらつきとの説明図である。(a)はフィルムの平面図である。(b)は幅方向における配向度Vのグラフである。(c)は幅方向における配向度差DVのグラフである。(d)は軸ばらつきのグラフである。
【図5】クリップテンタの断面概略を示す側面図である。
【図6】クリップテンタでの側端部の加熱方法を説明する説明図である。
【図7】加熱装置による側端部の配向度の補正方法について説明する配向度差のグラフである。
【図8】延伸工程での設定条件が互いに異なる場合の配向度差のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1の溶液製膜設備10は、ドープ11から光学フィルム(以下、単に「フィルム」と称する)22を製造する。ドープ11はポリマーが溶媒に溶解したものである。溶液製膜設備10は、ドープ11から湿潤フィルム12を形成する流延装置15、湿潤フィルム12の各側部をピン(図示せず)で保持して湿潤フィルム12を乾燥するピンテンタ16、ピンの保持跡がある各側部を切除する第1切除装置17、湿潤フィルム12の各側部をクリップ50(図2参照)で把持し、湿潤フィルム12を幅方向に延伸するクリップテンタ20、クリップの把持跡がある各側部を切除する第2切除装置21、湿潤フィルム12をさらに乾燥してフィルム22とする乾燥室25、フィルム22を冷却する冷却室26、配向度測定装置27、及びフィルム22をロール状に巻き取る巻取装置28を、上流側から順に備える。
【0020】
流延装置15は、流延支持体としてのドラム30と、ドラム30の周面に向けてドープ11を流出する流延ダイ31と、ドラム30の周面に形成された流延膜32を剥ぎ取るために湿潤フィルム12を支持する剥取ローラ35とを、外部空間と仕切るチャンバ36の中に備える。
【0021】
ドラム30は駆動部(図示無し)を有し、この駆動部によって、断面円形の中央に設けられた軸30aを中心に矢線A1で示す周方向に回転する。回転しているドラム30の周面に向けて、流延ダイ31からドープ11が流出すると、ドラム30の周面に流延膜32が形成する。流延ダイ31からドラム30にかけては、ドープ11からなるビードが形成される。ドラム30の回転方向A1におけるビードの上流には、空気を吸引することによりビードの上流側エリアを減圧するチャンバ(図示無し)が備えてある。
【0022】
ドラム30は、温調機37により、周面の温度が制御される。ドラム30の内部には、伝熱媒体が流れる流路が形成されており、温調機37は、伝熱媒体の温度を調整し、ドラム30との間で、伝熱媒体を循環させる。例えば、流延膜32を冷却固化(ゲル化)させるいわゆる冷却流延の場合には、温調機37は伝熱媒体を冷却し、冷却された伝熱媒体をドラム30に送り込む。この送り込みを連続的に行うことにより、伝熱媒体は、ドラム30の内部の流路を巡り、温調機37に戻る。
【0023】
なお、流延支持体は、ドラム30に限定されない。例えば、ドラム30に代えて、バックアップローラ対に掛け渡された無端のバンドを用いてもよい。無端のバンドを流延支持体として用いる場合には、各バックアップローラの内部に伝熱媒体を通過させることにより、バックアップローラを通じてバンドの温度を調整する。流延膜を乾燥して固化させるいわゆる乾燥流延の場合には、ドラム30に代えてバンドを用いることが多い。
【0024】
剥取ローラ35は、長手方向がドラム30の長手方向と平行になるように配される。湿潤フィルム12が搬送方向Z1に引っ張られ、この湿潤フィルム12を剥取ローラ35が周面で支持することにより、流延膜32は所定の位置でドラム30から剥がされる。
【0025】
流延装置15の内部には、ドープ11、流延膜32、湿潤フィルム12のそれぞれから蒸発して気体となった溶媒を凝縮させる凝縮器(コンデンサ)が備えられる。この凝縮器で液化した溶媒は、チャンバ36の外部に配された回収装置へ案内され、この回収装置で回収される。なお、凝縮器と回収装置との図示は略す。
【0026】
湿潤フィルム12は、ローラ40により、流延装置15からピンテンタ16へ案内される。ピンテンタ16は、湿潤フィルム12の側部に複数のピンを貫通して保持するピンプレート(図示無し)を有し、このピンプレートが所定軌道を走行する。ピンプレートの走行により湿潤フィルム12は搬送される。湿潤フィルム12の搬送路の上方には、乾燥空気を流出するダクト(図示無し)が備えられる。ダクトの下面には、湿潤フィルム12の幅方向に長いスリット状の空気流出口が形成されており、この空気流出口から乾燥空気が出ることにより、搬送されている湿潤フィルム12は徐々に乾燥する。このピンテンタ12では、湿潤フィルム12の残留溶媒量が3質量%以上20質量%以下の範囲となるように、乾燥をすすめることが好ましい。なお、本明細書における残留溶媒量とは、湿潤フィルム12の質量をX、この湿潤フィルム12を乾燥した後の質量をYとするときに、{(X−Y)/Y}×100で求めるいわゆる乾量基準の値である。
【0027】
第1切除装置17は、湿潤フィルム12の各側部をカットする切断刃を備える。湿潤フィルム12が切断刃に連続的に案内されて、ピンプレートによる保持跡が除去されるように各側部が切り離される。
【0028】
本実施形態では、湿潤フィルム12をピンテンタ16で乾燥してからクリップテンタ20に案内する。しかし、乾燥流延の場合にはピンテンタ16を用いなくてもよい。すなわち、乾燥流延の場合には、ピンテンタ16と第1切除装置17とを設けずに、流延装置15からの湿潤フィルム12をクリップテンタ20へ案内してよい。乾燥流延の場合には、流延支持体上で流延膜32の残留溶媒量が20質量%以上40質量%以下の範囲となるように乾燥をすすめてから剥ぎ取り、剥ぎ取った湿潤フィルムをクリップテンタ20へ案内することが好ましい。
【0029】
第1切除装置17で両側部を切除された湿潤フィルム12は、クリップテンタ20に案内される。クリップテンタ20の構成及び作用については、別の図面を用いて後述する。
【0030】
第2切除装置21は、第1切除装置17と同じ構成を有する。第2切除装置21は、湿潤フィルム12を切断刃に連続的に案内して、クリップによる把持跡が除去されるように各側部を切り離す。
【0031】
乾燥室25には、湿潤フィルム12を周面で支持するローラ41が複数備えられる。これら複数のローラ41の中には、周方向に回転する駆動ローラがあり、この駆動ローラの回転により湿潤フィルム12が搬送される。乾燥室25には、加熱された乾燥空気が供給されている。この乾燥室25を通過させることにより湿潤フィルム12を乾燥する。冷却室26には、略室温の乾燥空気が供給されている。この冷却室26を通過させることにより、乾燥したフィルム22を降温させる。温度が低下したフィルム22は、冷却室26から配向度測定装置27へ案内される。
【0032】
配向度測定装置27は、フィルム22の配向度を検出して検出信号を解析する。配向度測定装置27の解析信号はクリップテンタ20へ送られる。配向度測定装置27の構成及び作用の詳細については、別の図面を用いて後述する。
【0033】
フィルム22は、配向度測定装置27から巻取装置28に案内されて巻芯42に巻き取られる。
【0034】
クリップテンタ20は、図2に示すように、湿潤フィルム12の搬送路を囲むようにしてこの搬送路及び搬送路周辺を外部空間と仕切るチャンバ43を備える。チャンバ43は、搬送方向Z1の上流側から順に、予熱エリア45、延伸エリア46、緩和エリア47及び冷却エリア48を有する。ただし、チャンバ43は、各エリア45〜48がそれぞれ独立した空間となるように区画する仕切り部材が内部に設けてあるものではない。各エリア45〜48は、後述のように、クリップ50の走行軌道と、第1〜第4給気室55a〜55d(図5参照)のそれぞれから流出する乾燥空気とにより形成される。
【0035】
クリップテンタ20は、湿潤フィルム12の側部を把持する複数のクリップ50と、クリップ50の走行軌道を成すレール51,52と、乾燥空気を流出するダクト55(図5参照)と、ダクト55に所定条件の乾燥空気を送り込むエア供給部56(図5参照)とを備える。レール51,52は湿潤フィルム12の搬送路の両側に設置される。
【0036】
レール51とレール52とは、所定のレール幅で互いに離間している。レール幅は、予熱エリア45では幅W1と一定であり、延伸エリア46では搬送方向Z1に向かうに従って幅W1から幅W2へと次第に広くなり、緩和エリア47では搬送方向Z1に向かうに従って幅W2から幅W3へと次第に狭くなり、冷却エリア48では幅W3と一定である。このように各レール幅を設定することにより、予熱エリア45では、湿潤フィルム12は一定の幅を保持するように、幅を規制された状態で搬送され、延伸エリア46では、搬送されている湿潤フィルム12は幅方向へ拡げるように延伸される。また、緩和エリア47では、湿潤フィルム12は、幅が小さくされながらも幅を規制された状態で搬送され、冷却エリア48では、幅を一定に保持された状態で搬送される。延伸エリア46では、湿潤フィルム12を幅方向Z2に延伸するので、延伸エリア46を出た湿潤フィルム12は延伸前に比べて内部応力が大きくなっている。そこで、上記のような緩和エリア47を経ることにより湿潤フィルム12の応力緩和を行う。
【0037】
ただし、予熱エリア45及び冷却エリア48におけるレール幅に関する上記「一定」とは、厳密である必要はない。つまり、所期の光学特性を発現させるために、予熱エリア45と冷却エリア48とのそれぞれにおいて、上流から下流にかけて幅W1、幅W3でそれぞれ略一定と言える程度にレール幅を若干変化させる態様でもよい。
【0038】
また、緩和エリア47におけるレール幅についても、必ずしも上流から下流にかけて次第に狭くする必要はない。例えば、湿潤フィルム12の応力緩和が可能であることを前提として、レール幅が上流から下流にかけて幅W2で略一定といえる程度に若干変化する態様でもよい。
【0039】
複数のクリップ50は、所定の間隔をもってチェーン(図示せず)に取り付けられている。このチェーンは、レール51とレール52とにそれぞれ取り付けられており、レール51,52に沿って移動自在とされている。チェーンは、予熱エリア45よりも上流側に配されるターンホイール57と、冷却エリア48の下流端に配されるスプロケット58とに噛み合っている。スプロケット58が回転することにより、チェーンは連続走行する。チェーンの走行により、クリップ50はレール51,52に沿って移動する。
【0040】
予熱エリア45よりも上流には、クリップ50による湿潤フィルム12の側部の把持を開始する把持開始手段(図示無し)が設けられ、冷却エリア48の下流側には、クリップ50による湿潤フィルム12の側部の把持を解除する把持解除手段(図示無し)が設けられる。これにより、湿潤フィルム12は、予熱エリア45よりも上流でクリップ50に把持され、クリップ50がレール51,52に沿って移動することでZ1方向へ搬送され、各エリア45〜48を順次通過し、各エリア45〜48において予熱、延伸、応力緩和、冷却の所定の処理が施され、冷却エリア48の下流端で把持を解除される。
【0041】
配向度測定装置27は、図3に示すように、センサアレイ41と、解析部42とからなる。センサアレイ41は、フィルム22の幅方向Z2にライン状に並ぶ複数のセンサ41aからなる。なお、図3においては、フィルム22の幅に対してセンサ41aを大きく誇張して描いてある。各センサ41aは、対向するフィルム部分(以降、対向部分と称する)の配向度を検出する。センサアレイ41は、各センサで検出した検出信号をそれぞれ解析部42に出力する。
【0042】
解析部42には、目的配向度V(S)を予め入力してある。この目的配向度V(S)は、製造しようとするフィルム22に応じて予め設定しているものであり、製造しようとするフィルム22のレタデーションReに応じて設定する。なお、Reはフィルム面内の光学異方性である。nxをフィルム22の長手方向(搬送方向Z1に一致する)の屈折率、nyをフィルム22の幅方向Z2の屈折率、dをフィルム厚みとしたときに、Reは以下の式で求める。
Re=(ny−nx)×d
【0043】
センサアレイ41から各センサ41aの検出信号が入力されると、解析部42は、各検出信号を解析し、目的配向度V(S)よりも低い配向度の検出信号と、この検出信号を出力したセンサ41aとを抽出する。さらに、解析部42は、抽出したセンサ41aと、このセンサ41aにより配向度を検出されたフィルム22の対向部分とを対応させる。このようにして、解析部42により、フィルム22のうち、目的配向度V(S)よりも低い配向度が検出された低配向度領域が特定される。
【0044】
解析部42は、特定した低配向度領域と、この低配向度領域における配向度と目的配向度V(S)との差(以下、配向度差と称する)とを、クリップテンタ20のコントローラ71(図5参照)に出力する。
【0045】
配向度測定装置27のセンサアレイ41を配する位置は、クリップテンタ20の緩和エリア47よりも下流であればよい。すなわち、緩和工程を経た湿潤フィルム12またはフィルム22について幅方向で配向度を測定し、低配向度領域を特定するとよい。なお、本明細書で「緩和工程を経た」とは、緩和工程の終了時以降を意味する。
【0046】
後述の配向度の補正を実施しない場合には、緩和エリア47での緩和工程を経た湿潤フィルム12、フィルム22は幅方向で配向度が不均一となっている。具体的には、幅方向における中央部の配向度に対し、側端部の配向度が小さくなっている。ここで、配向度と軸ばらつきとについて図4を参照して説明する。なお、湿潤フィルム12の長尺方向は搬送方向Z1及び反搬送方向に一致する。搬送方向Z1を上向きとした場合のフィルム22の右縁に符号22e(R)を付し、左縁に符号22e(L)を付す。
【0047】
図4の(a),(b)に示すように、幅方向Z2における中央部22cの配向度は、目的配向度V(S)以上であり、目的配向度V(S)と異なっていてもV(S)との差は小さく、ほぼ一致する。配向度は、中央部22cから右縁22e(R)及び中央部22cから左縁22e(L)にそれぞれ向かうに従い小さくなり、目的配向度V(S)との差が図4の(c)に示すように徐々に大きくなる。目的配向度V(S)よりも小さい配向度を示した範囲が配向度の補正対象領域としての側端部22sとなる。
【0048】
ここで、図4の(c)のように、側端部22sにおける配向度と、両側端部22sの間の中央部22cの配向度との差、すなわち配向度差Dを縦軸とし、搬送方向Z2を横軸とする。なお、配向度差Dは、目的配向度V(S)から、センサ41aで検出したフィルム22の対向位置における配向度を減じた値である。
【0049】
ところで、配向度は軸ばらつきと一定の関係がある。一定の関係とはすなわち、配向度が小さいほど、軸ばらつきが大きいという関係である。例えば、図4の(b)の配向度及び(c)の配向度差DVを示すフィルム22について、搬送方向における軸ばらつきは、図4の(d)のように、中央部22cで最も小さく、中央部22cから右縁22e(R)及び中央部22cから左縁22e(L)にそれぞれ向かうに従い大きくなる。なお、図4の(b)の幅方向の各点における軸ばらつきは、フィルム22を一定長さで搬送方向に連続的に測定し、測定値の平均値を求めることにより求めることができる。
【0050】
図2のように湿潤フィルム12の幅方向Z2において中央に関して対称な延伸倍率となるように延伸した場合には、図4のような左右対称な配向度差DVのグラフと軸ばらつきのグラフとが得られるのが通常である。そこで、本発明では、側端部22sの配向度を補正して、幅方向にわたり配向度差DVを0(ゼロ)にする、すなわち配向度が一定のフィルムを製造することにより、軸ばらつきの程度が幅方向で均一なフィルム22を製造する。
【0051】
図5に示すように、クリップテンタ20は、湿潤フィルム12を覆うように、ダクト55を備える。ダクト55は、湿潤フィルム12の搬送路との距離が略一定となるように、搬送路の上方に設けられる。なお、搬送路の下方にも、搬送路との間隔が略一定となるように、ダクト55と同様の構成をもつダクトを設けているが、図示は略す。
【0052】
ダクト55の下部には、湿潤フィルム12の幅方向Z2に延びたスリット61が形成されており、スリット61はZ1方向に複数設けられている。これに対し、搬送路の下方のダクト(図示無し)では、各スリットは、上部に形成されている。なお、搬送方向Z1と幅方向Z2とは直交する。また、ダクト55の内部は、複数の仕切り板62により第1〜第4給気室55a〜55dに区画されている。なお、図5では、第1及び第2給気室55a、55bのスリット61はそれぞれ複数であり、第3及び第4給気室55c、55dのスリット61はそれぞれひとつである。しかし、各給気室55a〜55dにおける各スリット61の数はこれに限られない。つまり、第1給気室55aや第2給気室55bに1つのスリット61を設け、第3給気室55cや第4給気室55dに複数のスリット61を設けてもよい。
【0053】
エア供給部56は、ダクト55の第1〜第4給気室55a〜55dに乾燥空気を供給する。エア供給部56は、第1〜第4給気室55a〜55dにそれぞれ供給する各乾燥空気の温度を独立して制御する温調機(図示無し)を備える。この温調機により、所定温度に調節された乾燥空気が、それぞれ第1〜第4給気室55a〜55dを介して湿潤フィルム12の上方に供給されて、各エリア45〜48が形成される。
【0054】
第2給気室55bからの乾燥空気の供給により、延伸エリア46では、湿潤フィルム12の全幅域が、加熱される。延伸エリア46における湿潤フィルム12の温度は、製造する光学フィルムのレタデーションRe等の光学特性に基づいて決定する。
【0055】
また、第1給気室55aからの乾燥空気の供給により、延伸エリア46へ入る前の湿潤フィルム12を予め加熱する。この予熱エリア45による加熱により、延伸エリア46での延伸が迅速に開始されるようになるとともに、延伸エリア46での延伸の際に、張力が均一に付与される領域が幅方向Z2においてより広くなる。
【0056】
緩和エリア47では、両側部の把持による幅の規制に加え、第3給気室55cからの乾燥空気による加熱により、内部に残留した応力(残留応力)が適切に緩和される。この緩和工程では、湿潤フィルム12中の分子配向を目的とする状態にする。
【0057】
冷却エリア48では、緩和工程で目的とする分子配向となった湿潤フィルム12を、乾燥空気により冷却する。この冷却により、分子が目的とする配向状態で固定する。なお、図5では、煩雑さを避けるために、クリップ50やターンホイール57、スプロケット58の図示を略す。
【0058】
図5,図6に示すように、延伸エリア46には加熱装置63を設けてある。加熱装置63は、第2給気室55bと湿潤フィルム12の搬送路との間に配され、下部がヒータ64とされてある。加熱装置63は、それぞれヒータ64からの発熱量を制御するコントローラ71を有する。なお、図6では、説明の便宜上、各ヒータ64及びそれらの配列ピッチを、湿潤フィルム12に対して大きく描いてある。
【0059】
加熱装置63は、湿潤フィルム12の搬送路に関して第2給気室55bとは反対側、すなわち、湿潤フィルム12の下方に配してもよい。この場合には、ヒータ64が上向きとなるように加熱装置63を設ける。ただし、ヒータ64を湿潤フィルム12の下方に配した場合に、湿潤フィルム12がなんらかの理由により万一破断してしまうと、破断した湿潤フィルム12がヒータ64に接触してしまうことが想定される。そこで、ヒータ64は、湿潤フィルム12の搬送路の上方に配しておくことがより好ましい。
【0060】
加熱装置63は、図6に示すように、延伸エリア46に複数設けてあり、湿潤フィルム12の各側端部12sの上方に配してある。各加熱装置63は、複数のヒータ64を備え、複数のヒータ64は、湿潤フィルム12の幅方向にライン状に並ぶ。なお、図6では、湿潤フィルム12の搬送路の上方に配されるダクト55、クリップ50、ターンホイール57、スプロケット58の図示を略している。
【0061】
コントローラ71は、各加熱装置63の複数のヒータ64を独立して制御し、各ヒータ64のオン・オフの切替を含めた各ヒータ64からの発熱量を制御する。コントローラ71は、配向度測定装置27(図1,図3参照)の解析部42からの低配向度領域と、この低配向度領域における配向度差DVとの出力信号が入力されると、低配向度領域である側端部22s(図4参照)とヒータ64に案内されてくる湿潤フィルム12の幅方向における領域とを対応づける。図6においては、低配向度領域と対応づけられた領域(以下、対応領域と称する)を、側端部12sとしている。この側端部12sが対向するように通過するヒータ64をオンにし、その発すべき熱量を制御する。なお、コントローラ71は、フィルム22の中央部22cに対応する湿潤フィルム12の中央部12cが通過する領域をオフとする。
【0062】
以上の制御により、以降の延伸工程に供される湿潤フィルム12については、フィルム22になったときに配向度差を示す補正対象の側端部12sが、第2給気室55bからの乾燥空気の吹付けだけよりもより高温の所定温度となるように加熱される。この加熱により、側端部12sは、延伸エリア46で、加熱装置63による加熱を行わない場合よりも伸びる。これにより、配向度が幅方向でほぼ均一なフィルム22となる。これにより、フィルム22の軸ばらつきの程度が幅方向で均一になる。すなわち、加熱装置63による側端部12sの加熱を実施したフィルム22は、下流へ搬送されて配向度測定装置27で配向度を測定した際の配向度が、幅方向で均一になる。
【0063】
本発明は、残留溶媒量が低い湿潤フィルム12もしくは0(ゼロ)である乾いたフィルムを延伸する場合に、より確実に効果が得られる。例えば、本実施形態のように、溶液製膜過程で延伸するいわゆるオンライン延伸の場合には、湿潤フィルム12の乾燥がすすみ残留溶媒量が20質量%以下になってから延伸を開始し、その延伸工程で加熱装置63による加熱を実施することが好ましい。さらに、加熱装置63による加熱を、残留溶媒量が5質量%以下になってから実施することがさらに好ましい。
【0064】
加熱装置63を用いた側端部12sにおける配向度の均一化の方法につき、図7を参照しながら説明する。中央に関して対称に延伸した場合には、図4の(b)に示すようにフィルム22の配向度Vは左右でほぼ対称である。そこで、図7では、フィルム22の左縁22e(L)から中央までの範囲のみを示す。すなわち、図7では、横軸におけるグラフの左端がフィルム22の左縁22e(L)であり、横軸の「c」で示す右端がフィルム22の中央である。曲線L1は、加熱装置63による加熱を実施せずに得られたフィルム22の配向度差DVのグラフである。
【0065】
曲線L1において配向度差が正である位置が、目的とする配向度よりも低い配向度を示す位置であるので、補正対象としての側端部22sとなる。解析部42では、所定の設定条件で幅方向Z2に延伸された湿潤フィルム12から得られるフィルム22について、目的配向度V(S)よりも低い配向度を示す位置を、低配向度領域としての側端部22sとして特定してもよいし、配向度差を一旦求めてから配向度差のプロファイルに基づき、低配向度領域としての側端部22sを特定してもよい。フィルム22の側端部22sに対応する湿潤フィルム12の側端部12sが通過するヒータ64(図5参照)をオンにし、その発熱量を制御する。ヒータ64の発熱により側端部12sを所定の温度となるように、延伸工程の際に加熱することにより、配向度差がなくなるように側端部22sの配向度が補正される。
【0066】
曲線L1に示すように、加熱装置63による加熱を実施しない場合の側端部22sの配向度差は正(+)である。したがって、中央から左縁22e(L)に近づくに従い、曲線L1は正(+)側により大きく傾いた曲線形状となる。ヒータ64の加熱により達すべき側端部12sの温度は、この側端部12sに対応する側端部22sの配向度差の大きさに応じて決定する。まず、フィルム22における配向度差とこの配向度差をもつ側端部12sを加熱したときの温度との関係を求める。そして、フィルム22の補正すべき位置における配向度差が0°になるようなフィルム12の温度を求める。例えば、フィルム22の左側縁22e(L)から距離LPの位置にある点P22での配向度差DV(P)を0°にするときには、フィルム22の点P22に対応する湿潤フィルム12の対応点P12を求め、点P22の配向度差DV(P)が0°となる対応点P12での温度を予め求めておき、この対応点P12が通過するヒータ64をオンにしてその発熱量を調整する。これにより、加熱装置63に以降案内されてくる湿潤フィルム12においては、左側縁12e(L)から距離LPの位置にある対応点P12が、オンとされたヒータ64を通過する。ヒータ64の発熱量の調整により、対応点P12を、予め求めておいた所定の温度となるように昇温させる。これにより、フィルム22の点P22の配向度差は、0°となる。このように側端部12sが通過するヒータ64により加熱して得られるフィルム22の配向度差のグラフは、L2のように0°でほぼ一定、すなわちほぼ直線となる。
【0067】
このように、延伸エリア46では、フィルム22の側端部22sの配向度と目的配向度V(S)との差に応じて、加熱装置63に以降案内された湿潤フィルム12の側端部12sをより高い温度となるように中央部12cよりも多くの熱エネルギーを与えて加熱し、配向度を補正する。このように、緩和エリア47での緩和工程を終えた湿潤フィルム12における配向度差DVを求め、この配向度差DVに応じて、延伸エリア46での延伸工程に以降供される湿潤フィルム12の側端部12sを加熱する。なお、湿潤フィルム12の搬送速度毎に、ヒータ64の発熱量とこの発熱により達する側端部12sの温度との関係を予め求めておくとよい。搬送速度に応じて、側端部12sへ伝わる熱エネルギー量が変わるからである。
【0068】
ヒータ64の発熱量が大きすぎると、側端部12sの温度は、目的とする値よりも高くなる。このように側端部12sの温度を目的とする値よりも高くしすぎるとフィルム22の側端部22sの配向度差はL2のラインを超えて負の値になってしまう。このように、側端部12sの温度を高くしすぎると、側端部22sの配向度差のグラフは、曲線L3のように逆符号である負(−)の領域に傾きをもつことになる、そして、側端部12sの温度を高くしすぎるほど、曲線L3の傾きは急になる。このように、ヒータ64により側端部12sの温度を上げすぎて曲線L3のように点P22での配向度差DV(P)が逆符号である負に転じた場合には、対応点P12が通過するヒータ64の発熱量を下げて側端部12sを降温させるとよい。
【0069】
フィルム22について、曲線L1の形状で確認される配向度差DVは、延伸エリア46における設定条件により変わる。具体的には、補正対象となる側端部22sの範囲や、側端部22sの曲線の傾きが、延伸エリア46での設定条件を変えると変化する。そこで、側端部22sにおける配向度差DVとこの配向度差DVとなる側端部12sを加熱した場合の側端部12sの温度との関係は、延伸エリア46での設定条件毎に求める。延伸エリア46での設定条件とは、延伸エリア46における湿潤フィルム12の温度と、延伸速度とである。延伸速度とは、延伸倍率を延伸開始から延伸終了までの時間(以下、延伸時間と称する)で除した値である。延伸倍率とは、延伸エリア46での延伸工程開始時における湿潤フィルム12の幅と、延伸工程終了時における湿潤フィルム12の幅とから求めるものであり、例えばW2/W1で求める値である。
【0070】
本発明では、延伸工程の設定条件は、目的とするレタデーション値等の光学特性に基づき決定し、側端部22sの配向度差は延伸工程の設定条件とは独立して加熱装置63による加熱で実施する。これにより、延伸エリア46の設定条件を変更することなしに、配向度が幅方向で均一になり、軸ばらつきの程度が幅方向で均一なフィルム22が得られる。
【0071】
さらに、本発明によると、軸ばらつきがない幅方向での領域が従来よりも広くなる。この結果、製品として用いることができる面積を大幅に増やすことができるとともに、第2切除装置21(図1参照)で切除する側部の量を大幅に減らすことができる。したがって、従来からの製造ラインを使用しても、より大きな幅の光学フィルムを製造することができるようになり、より大画面の表示装置にも対応できるような光学フィルムが得られる。
【0072】
本実施形態では、軸ばらつきを配向度差で検出するが、軸ばらつきは、必ずしも配向度差あるいは配向度で検出しなくてもよい。例えば、延伸工程での湿潤フィルム12の応力を検出し、この応力をもって軸ばらつきを検出したものとしてよい。延伸の際の湿潤フィルム12の応力が高いほど、配向度が小さいからである。
【0073】
なお、加熱装置63による加熱を実施しない場合のフィルム22の側端部22sの配向度差は、ポリマーの種類と延伸工程の設定条件とによって異なる。ポリマーの種類が互いに同じであっても、延伸工程での設定条件が異なると配向角θは正負の符号が逆転するなど互いに異なる値となる。
【0074】
例えば、ポリマー成分としてセルローストリアセテート(TAC)を用いても、延伸工程における設定条件を変えることにより、図8の曲線(A)と(B)とのように、配向度差のグラフは互いに異なるものになる。
【0075】
したがって、配向度差と延伸工程の際のフィルム12の側端部12sの温度との関係は、予め、ポリマーの種類毎と、延伸工程の設定条件毎との両方で求めておく。
【0076】
なお、セルロースジアセテート(DAC)はTACに比べて分子配向の変化の温度依存性が大きい。したがって、ポリマー成分がTACの場合よりも、DACの場合の方が、ヒータ64の発熱量を小さくしても側端部22sの配向度が補正される。
【0077】
製造速度が大きい場合、すなわち搬送速度が大きい場合ほど、本発明の効果は大きい。さらに、本発明は、軸ばらつきの程度を幅方向で一定にするので、ボーイングがある場合には、ボーイングをなくす公知の方法と組合せて、軸ばらつきとボーイングとがないフィルムが得られる。
【0078】
なお、図4,図7,図8においては、中央部12cの範囲に対して側端部12sの範囲を大きく誇張して図示してある。
【0079】
なお、クリップテンタ20,120では、クリップ50(図2参照)周辺の温度が湿潤フィルム12の幅方向Z2の中央部に比べて低くなる傾向がある。このような場合に、加熱装置63による側端部12sの加熱は特に有効である。
【0080】
ヒータ64としては、市販されているようないわゆるセラミックヒータが好ましい。ただし、防爆に対する考慮の点を踏まえ、他のヒータを用いてもよい。
【0081】
本発明では、第2給気室55b(図5参照)による全幅域の加熱に加えて、加熱装置63による側端部12sの加熱を実施する。本実施形態では、第2給気室55bの加熱における湿潤フィルムの設定温度よりも、加熱装置63による側端部12sの温度をより高くしているが、この態様に限られない。例えば、この態様に代えて、第2給気室55bの加熱における湿潤フィルムの設定温度をより低い温度にし、加熱装置63による側端部12sの温度を本実施形態における第2給気室55bの加熱での湿潤フィルムの設定温度程度にしてもよい。
【0082】
上記の実施形態は、溶液製膜過程で幅方向Z2に延伸するいわゆるオンライン延伸の場合であるが、本発明はこの態様に限定されるものではない。例えば、一旦製造されたポリマーフィルムを幅方向Z2に延伸するいわゆるオフライン延伸の場合にも、本発明を適用することができる。一旦製造されたポリマーフィルムとしては、溶融製膜で製造された溶媒が非含有のポリマーフィルムや、溶液製膜で製造され、残留溶媒量が数%未満というように実質的に非含有と通常みなすようなポリマーフィルムがある。この場合には、上記の湿潤フィルム12を、溶媒が非含有あるいは実質的に非含有とみなすようなポリマーフィルムに代えて実施する。オフライン延伸に供するポリマーフィルムは、溶液製膜方法と溶融製膜方法とのいずれの方法で製造されたものであってよい。また、本実施形態は、オンライン延伸で、クリップテンタを1つ用いた場合であるが、クリップテンタを2つ直列に接続し、これらのクリップテンタで延伸する場合であってもよい。本発明の加熱装置63による側端部の加熱は、フィルムに含まれている溶媒の量が少ないほど効果が大きいので、2つのクリップテンタのうち、溶媒がほとんど含まれていないあるいは乾いたフィルムを延伸する下流側のクリップテンタにおいて行うことが好ましい。また、溶液製膜方法で製造されたポリマーフィルムあるいは溶液製膜の過程における湿潤フィルム12に対して本発明を適用する場合には、本実施形態のように単層構造のものであってもよいし、同時共流延と逐次流延等による複層構造のものであってもよい。
【0083】
本発明により製造する光学フィルムは、偏光板に用いられ光源からの光を光学的に補償する位相差フィルムとして、特に好ましく用いることができる。中でもVA用位相差フィルムを製造する場合に、本発明は特に有効であり、本発明によって、軸ばらつきが均一になるのでこの光学フィルムを表示装置に用いた場合には、コントラストがより向上した表示性能が得られる。
【0084】
(ポリマー)
本発明により製造する光学フィルムにおけるポリマーは、熱可塑性のポリマーである。熱可塑性ポリマーとして、セルロースアシレートを用いる場合に、本発明は特に効果が大きい。
【0085】
セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(1)〜(3)を満たすようなTACを用いる場合に、本発明は特に有効である。式(1)〜(3)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、セルロースアシレートの総アシル基置換度Zは、A+Bで求める値である。
(1) 2.7≦A+B≦3.0
(2) 0≦A≦3.0
(3) 0≦B≦2.9
【0086】
また、TACに代えて、または加えて、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(4)を満たすようなDACを用いる場合にも、本発明は特に有効である。
(4)2.0≦A+B<2.7
【0087】
レタデーションの波長分散性の観点から、式(4)を満たしながらも、DACのアセチル基の置換度A、及び炭素数3以上22以下のアシル基の置換度の合計Bは、下記式(5)および(6)を満たすことが、好ましい。
(5) 1.0<A<2.7
(6) 0≦B<1.5
【0088】
ポリマーとしてTACを用いる場合には、光学フィルム22はTACからなる単層構造であることが好ましい。これに対し、ポリマーとしてDACを用いる場合には、光学フィルム22は複層構造であることが好ましい。好ましい複層構造は、DACからなる層の一方の面にTACからなる層が設けられている構造である。より好ましい複層構造は、DACからなる層の一方の面及び他方の面にそれぞれTACからなる層が設けられている構造である。このようなDACからなる層をもつ複層構造の光学フィルムは、溶液製膜方法でつくることが好ましく、同時共流延もしくは逐次流延でつくることが好ましい。
【0089】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基(ヒドロキシル基)を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【符号の説明】
【0090】
10 溶液製膜設備
12 湿潤フィルム
12s 側端部
20 クリップテンタ
22 光学フィルム
22s 側端部
46 延伸エリア
47 緩和エリア
50 クリップ
55 ダクト
56 エア供給部
63 加熱装置
64 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されている長尺のポリマーフィルムを、加熱しながら幅方向へ拡げるように延伸する延伸工程と、
延伸された前記ポリマーフィルムの内部応力を緩和するために、幅を規制した状態で前記ポリマーフィルムを加熱する緩和工程とを有し、
目的とするレタデーションに対応する配向度を目的配向度V(S)とするときに、
緩和工程を経た前記ポリマーフィルムの配向度を幅方向で検出して、前記目的配向度V(S)よりも低い配向度が検出された低配向度領域を特定し、緩和工程を経た後の配向度が前記目的配向度V(S)になるように、以降の前記延伸工程の際に、前記低配向度領域に対応する前記ポリマーフィルムの対応領域をより高い温度に加熱することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記低配向度領域の配向度と前記目的配向度V(S)との配向度差と、前記延伸工程の際の前記対応領域の温度との関係を予め求めておき、この関係から前記目的配向度V(S)となる前記対応領域の温度を求め、求めた温度になるように、以降の延伸工程の際の対応領域を加熱することを特徴とする請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記配向度差は、前記延伸工程における設定条件毎に予め求め、
前記設定条件は、前記ポリマーフィルムの温度と、延伸速度とであり、
前記延伸速度は、前記ポリマーフィルムの延伸開始時における幅及び延伸終了時における幅から求める延伸倍率を、前記ポリマーフィルムの搬送速度で除した値であることを特徴とする請求項1または2記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
セルロースアシレートを溶媒に溶解したドープを支持体上に連続的に流延して前記支持体から剥ぎ取り、剥ぎ取った前記ポリマーフィルムを乾燥し、残留溶媒量が20質量%に達してから前記延伸工程を開始し、前記残留溶媒量が5質量%に達してから前記対応領域の加熱を行うことを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の光学フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−135882(P2012−135882A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287849(P2010−287849)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】