説明

分析装置および分析方法

【課題】 分析用試験片を用いて試料の分析を行う分析装置および分析方法において、分析処理に使用される分析用試験片の劣化状況をユーザーに適切に認識させることが可能な技術を提供すること。
【解決手段】 本発明の分析装置は、分析用試験片を収容するための試験片収容部と、該分析用試験片に形成された試薬パッドに検体を点着する試料点着部と、該試薬パッドの光学特性値を測定する光学特性値測定手段と、を備えた分析装置において、前記光学特性値測定手段によって測定された、前記試料点着部が検体を点着していない前記試薬パッドの光学特性値、に基づいて該分析用試験片の劣化状況を判別する劣化判別手段と、前記劣化判別手段が判別した前記分析用試験片の劣化状況をユーザーに報知する報知手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分析用試験片を用いて尿や血液などの試料(検体)の分析を行うための分析装置(例えば、特許文献1を参照)が公知である。この種の分析装置では、複数の分析用試験片をホッパ状やボックス状の試験片収容部に保菅しておき、分析処理を行う際には移送手段を利用して分析用試験片を試験片収容部から1つずつ取り出すようにしている。取り出された分析用試験片は、試料容器内に挿入されて試料中に浸漬されたり、あるいは点着(分注)装置を利用してこの分析用試験片上に試料が点着されるような態様で用いられる。このようにして分析用試験片に試料が点着、添加された後には、例えば分析用試験片の色調変化が光学的な手法を用いて測定され、その測定結果に基づいて特定成分の濃度などが判断される。
【0003】
ここで、分析用試験片は、多湿環境下に長期間にわたって曝露されると、試薬部(試薬パッド)に塗布などされている試薬が変質し、品質の低下(劣化)を招く虞がある。試験片収容部における分析用試験片の収容空間は、分析用試験片の品質低下(劣化)を防止するのに適した雰囲気となるように、例えば収容空間を外部空間から画定するための開閉蓋を設けたり、収容空間に乾燥剤を設置する場合がある。しかしながら、このような対策を講じたとしても上記収容空間の密閉性、気密性を十分に確保することは容易ではない。
【0004】
そのため、通常は、分析用試験片を密封状態で保管可能な密封保管容器を分析装置に併設しておき、一日の分析処理が終了する度に余剰の分析用試験片を密封保管容器に保管する内容の指示を分析装置の取扱説明書に記載しておくことが多い。例えば、この取扱説明書の記載を遵守するユーザー(使用者)は、分析装置の主電源をオフにした際に試験片収容部に分析用試験片が残留している場合、分析用試験片の余剰分を密封保管容器へと保管する。これにより、分析装置の主電源がオンにされるまでの稼動停止期間がたとえ長期に及ぶ場合においても、稼動停止期間において分析用試験片が分析装置における試験片収容部ではなく上記密封保管容器に保管される限り、分析用試験片が劣化することがない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−321270号公報
【特許文献2】特開2009−229232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、分析装置の稼動が停止された際、試験片収容部に残留している分析用試験片を実際に密封保管容器に保管するか否かはユーザー任せであるのが通例である。そのため、分析装置の稼動停止期間中に分析用試験片が試験片収容部内に留置(放置)されている可能性も否定できない。また、この種の分析装置は通常、試験片収容部内に投入される分析用試験片の投入時期や、その投入数を監視していない。以上のことから、分析装置による分析処理の再開時においては、品質の低下など、いわゆる劣化した状態の分析用試験片が分析処理に使用されてしまう可能性がある。その結果、試料の分析誤差が生じ易くなったり分析結果の信頬性が低下するなどの不具合を招く虞があった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、分析用試験片を用いて試料の分析を行う分析装置および分析方法において、分析処理に使用される分析用試験片の劣化状況をユーザーに適切に認識させることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の側面によって提供される分析装置は、分析用試験片を収容するための試験片収容部と、該分析用試験片に形成された試薬パッドに検体を点着する試料点着部と、該試薬パッドの光学特性値を測定する光学特性値測定手段と、を備えた分析装置において、前記光学特性値測定手段によって測定された、前記試料点着部が検体を点着していない前記試薬パッドの光学特性値、に基づいて該分析用試験片の劣化状況を判別する劣化判別手段と、前記劣化判別手段が判別した前記分析用試験片の劣化状況をユーザーに報知する報知手段と、を備える。
【0009】
好ましくは、前記光学特性値測定手段は、互いの波長が異なる光を発する2つの発光手段を具備しており、前記劣化判別手段は、前記2つの発光手段についての光学特性値に基づいて判別する。
【0010】
好ましくは、前記2つの発光手段の一方は、前記試薬パッドの劣化によって光学特性値が変化する波長域の主要光を発し、前記2つの発光手段の他方は、前記試薬パッドの劣化による光学特性値の変化が前記主要光よりも小さい波長領域である参照光を発する。
【0011】
好ましくは、前記試薬パッドは、尿中のグルコースを分析するためのものである。
【0012】
好ましくは、前記試薬パッドは、尿の比重を分析するためのものである。
【0013】
好ましくは、前記光学特性値測定手段は、前記分析用試験片に形成された参照パッドの光学特性値を更に測定し、前記劣化判別手段は、前記試薬パッドの光学特性値と前記参照パッドの光学特性値とに基づいて判別する。
【0014】
好ましくは、前記参照パッドは、白色である。
【0015】
好ましくは、検体が点着された前記試薬パッドの呈色反応を測定し、かつ前記光学特性値測定手段を兼ねる、呈色反応測定手段を備えている。
【0016】
好ましくは、検体が点着された前記試薬パッドの呈色反応を測定し、かつ前記光学特性値測定手段とは別体とされた、呈色反応測定手段を備えている。
【0017】
好ましくは、前記分析用試験片を収容するための試験片収容部と、前記試験片収容部における前記分析用試験片の収容期間に基づいて前記光学特性値測定手段による光学特性値測定および前記劣化判別手段による判別の要否を判別する、予備判別手段と、を更に備える。
【0018】
好ましくは、前記予備判別手段は、前記分析用試験片の収容期間が許容曝露期間を超えているかどうかに基づいて判別する。
【0019】
好ましくは、前記試験片収容部における湿度及び温度の少なくとも一方を測定する曝露環境測定手段を更に備え、前記予備判別手段は、前記分析用試験片の収容期間が許容曝露期間を超えているかどうかに基づいて判別し、前記許容曝露期間は、前記曝露環境測定手段による測定結果に応じて可変設定される。
【0020】
本発明の第2の側面によって提供される分析方法は、分析用試験片に形成された試薬パッドにいまだ検体が点着されていない状態において、該試薬パッドの光学特性値を測定する光学特性値測定ステップと、前記光学特性値測定ステップによって測定された光学特性値に基づいて該分析用試験片の劣化状況を判別する劣化判別ステップと、前記劣化判別ステップによって判別された前記分析用試験片の劣化状況をユーザーに報知する報知ステップと、を実行する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、分析用試験片を用いて試料の分析を行う分析装置において、分析処理に使用される分析用試験片の劣化状況をユーザーに適切に認識させることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1における分析装置を示す概略斜視図である。
【図2】実施例1における分析装置の構成ブロック図である。
【図3】実施例1における分析装置の装置本体部の内部構造を示す図である。
【図4】実摘例1における試験片を示す概略斜視図である。
【図5】実施例1における分析装置の機能ブロック図である。
【図6】試験片品質確認制御ルーチンを示すフローチャート図である。
【図7】変形例における試験片収容部の概略構成図である。
【図8】実施例2における分析装置の構成ブロック図である。
【図9】実施例2における分析装置の装置本体部の内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について例示的に詳しく説明する。本実施形態では、本発明に係る分析装置の一例として、分析用試験片(以下、単に「試験片」と称する)を用いて尿(試料)中の化学成分を分析して尿定性試験を行うための化学分析装置について説明する。尿定性試験は、試験片の化学反応による色調変化、すなわち呈色反応を光学装置によって測定することにより、尿中に排泄される糖やタンパクの量あるいは潜血の有無などを検査する試験である。
【0024】
但し、本分析装置において分析対象となる試料は尿に限られず、例えば血液やその他の試料の成分を分析しても良い。以下の図面において、既述の図面に記載された部品と同様の部品には同じ番号を付す。また、以下に説明する本発明に係る分析装置の各実施形態の説明は、本発明に係る分析方法の各実施形態の説明を兼ねるものである。なお、本実施の形態に記載されている構成要素の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に特定的な記載がない限りは、発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。また、本実施の形態において「試料」および「検体」は同義の用語として用いるものとする。
【0025】
<実施例1>
図1は、本実施例における分析装置1を示す概略斜視図である。図2は、本実施例における分析装置1の構成ブロック図である。図3は、本実施例における分析装置1の装置本体部11の内部構造を示す図である。なお、装置本体部11は、分析装置1を構成する各要素を収容する筐体(ハウジング)である。これらの図に示すように、分析装置1は、装置本体部11、試験片供給部12、ラック設置部13、試料点着装置14、Central Processing Unit(以下「CPU」と称す)15、メモリ16、測光装置17などを主として備えている。また、装置本体部11には、表示パネル111、操作スイッチ群112、およびプリンタ113が設けられている。
【0026】
CPU15は、コンピュータプログラムを実行することで分析装置1を制御する中央処理装置である。メモリ16は、CPU15で実行されるコンピュータプログラムやCPU15が処理するデータを記憶する機能を有するものである。メモリ16は、例えば、揮発性のRandom Access Memory(RAM)、不揮発性のRead Only Memory(ROM)である。ROMには、例えば分析装置1が機能する上で必要なプログラムやパラメータ、各種検量線データなどが格納されている。RAMには、CPU15にワーク領域を提供するとともに、例えばCPU15に実行させるOperating System(OS)のプログラムやアプリケーションプログラムの一部が一時的に格納される。CPU15は、メモリ16に格納されているプログラムに従って、各種の処理を実行する。
【0027】
図2に示すように、分析装置1は、CPU15と各種の装置とを接続するインターフェース18、ハードディスクドライブ19、記録媒体駆動装置20を有している。インターフェース18は、例えばUniversal Serial Bus(USB)等のシリアルインターフェースや、Peripheral Component Interconnect(PCI)等のパラレルインターフェースなどであっても良い。なお、CPU15と各装置とをインターフェース18で接続しているが、CPU15と各装置との間を異なるインターフェースで接続しても良い。また、複数のインターフェース18をブリッジ接続しても良い。
【0028】
ハードディスクドライブ19は、メモリ16にロードされるプログラムを格納する。また、ハードディスクドライブ19は、CPU15で処理されるデータを記憶する。記録媒体駆動装置20は、例えば、Compact Disc(CD)、Digital Versatile Disk(DVD)、HD−DVD、ブルーレイディスク等の駆動装置である。また、記録媒体駆動装置20は、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリを有するカード媒体の入出力装置であっても良い。記録媒体駆動装置20が駆動する媒体は、例えば、ハードディスクドライブ19にインストールされるコンピュータプログラム、入力データ等を格納する。
【0029】
ここで、図4を参照して試験片2について説明する。試験片2は、図4に示される短冊状の基材21上に、試料と反応させるための試薬を含んだ複数の試薬パッド(試薬部)22が基材21の長手方向に並んで設けられたものである。この試薬パッド22には、試料点着装置14によって、試料である尿の点着(「添加」ということもできる)が行われるようになっている。また、試験片2には、参照パッド23が形成されている。参照パッドは、たとえは白色の樹脂からなり、試薬パッド22と比較して、吸湿による変色などの経時変化が顕著に生じにくい。本実施例においてはこの試験片2が本発明における分析用試験片に相当するものである。なお、本図においては便宜上、6つの試薬パッド22と1つの参照パッド23とが基材21上に並んでいるが、その数は適宜増減されていても勿論構わない。
【0030】
図2、3に示す測光装置17は、装置本体部11の内部に設置された光学系であり、前述した試験片2の呈色反応を光学的に測定するものである。また、本実施形態においては、測光装置17は、いまだ試料が点着されていない状態の試薬パッド22や、参照パッド23の反射率の測定に用いられる。測光装置17は、本発明で言う光学特性値測定手段の一例である。反射率は、本発明の光学特性値測定手段の測定項目である光学特性値の一例であり、この光学特性値は、反射率に限定されない。本発明で言う光学特性値とは、測定対象物が光を受けることによって指し示し得る特性値であり、反射率のほか、たとえば透過率や吸収率などを含む概念である。
【0031】
操作スイッチ群112は、ユーザー(使用者)が分析装置1を操作するための各種スイッチであり、例えば分析装置1の主電源のオン、オフを切リ替える電源スイッチ、試料の分析処理(測定処理)を開始するための測定開始スイッチ、分析装置1による試料の分析結果をプリンタ113に印字させるための印字スイッチ、などである。
【0032】
表示パネル111は、例えばLCD(liquid crystal display)や発光ダイオードなどを備えており、CPU15により制御されて各種の情報を表示する。操作スイッチ群112のうち、例えば測定開始スイッチが例えばユーザーによって押下されると試料における上記各種測定項目の測定がなされ、その測定結果に基づいて得られた分析結果(検査結果)が表示パネル111に表示されるようになっている。その他、表示パネル111には、CPU15で処理されるデータやメモリに記憶されるデータなどを表示することができる。また、上述の印字スイッチが押下されると、試料の分析結果がプリンタ113によって、例えば記録用紙に印字出力される。
【0033】
ラック設置部13は、図3に示した試料ラック131が設置される。この試料ラック131は、試料(図中、符号Uにて表す)としての尿を収容した複数の試料容器132を起立保持するためのラックである。
【0034】
試料点着装置14は、ノズル141、装置本体部11内においてノズル141を上下方向及び水平方向に駆動させるノズル駆動装置142を備える。ノズル駆動装置142は、例えばアクチュエータ、又は循環駆動ベルトなどによって構成することができる。ノズル141による尿の吸引に際しては、CPU15がノズル駆動装置142を制御して、ノズル141を尿が収容された試料容器132の上方位置まで移動させた後、ノズル141を下降させる。そして、CPU15は図示しないポンプを駆動させて、ノズル141に試料容器132内の尿を吸引させる。ここで、図中のポジションP1には、以下に説明する試験片供給部12によって試験片2が一枚ずつ供給されるようになっている。
【0035】
試験片2を用いた試料についての呈色反応を光学的に測定する場合、ポジションP1にセットされた試験片2の試薬パッド22には、ノズル141によって所定量の尿が点着される。このような点着動作が試験片2に設置された試薬パッド22の数だけ繰り返され、点着処理が終了する。試験片2に対する試料の点着処理が終了した後は、洗浄液(例えば蒸留水)を用いてノズル141の洗浄が行われる。ノズル141を洗浄するための構成についての詳しい説明は省略するが、従来既知のもの(例えば、特許文献1、2等に記載のもの)と同様な構成とすることが可能である。
【0036】
試験片供給部12は試料の分析に用いるための試験片2を収容しておき、この収容しておいた試験片2を一つずつ、前述したポジションP1に移送(輸送、供給)する。試験片供給部12は、複数の試験片2を収容する試験片収容部121と、この試験片収容部121から試験片2を一枚ずつ取り出すための回転ドラム122とを備える。また、試験片収容部121の上部開口には、開閉蓋1211が設けられている。この開閉蓋1211は、試験片収容部121における試験片2の収容空間S1を外部空間S2に対して画定(区画)するものである。また、必要に応じて、試験片収容部121内には乾燥剤を設置するための乾燥剤設置部(図示省略)が設けられている。
【0037】
試験片供給部12を構成する回転ドラム122は、その外周面に試験片2を1枚のみ嵌入可能とする凹部1221を有している。そして、回転ドラム122が回転することによって凹部1221に嵌入した試験片2は、試験片収容部121の外部に排出された後、図示しない移送装置によりポジションP1へと移送される。ポジションP1の近傍には、ポジションP1へと移送された試験片2を検出する試験片検出センサ124が設けられている。この試験片検出センサ124は、インターフェース18を介してCPU15と電気的に接統されており、その出力信号がCPU15へと随時入力される。
【0038】
図5は、本実施例における分析装置1の機能ブロック図である。図5に示す各機能部(31〜38,40)は、CPU15、メモリ16等を含むコンピュータ、及びコンピュータ上で実行されるプログラム等によって実現することができる。図5に示した試験片供給制御部31は、回転ドラム122の回転動作に関する制御、及び試験片2をポジションP1へと移送するための移送装置に関する制御を行う。また、点着装置制御部32は、ノズル141を移送するためのノズル駆動装置142、試験片2の試薬パッド22への試料の点着に関する制御等を実行する。
【0039】
図3に示す測光装置17は、試料点着装置14によって試料が点着された試験片2の各試薬パッド22に対して光を照射したときの反射光を受光して、各試薬パッド22の発色の程度(呈色反応)に応じた情報を得るための装置である。この測光装置17は、発光部171a,171b、及び受光部172を有している。発光部171a,171bは、例えば特定のピーク波長を有する光を出射可能なものであり、発光ダイオード(Light-emitting Diode、LED)や、半導体レーザなどであっても良い。本実施形態においては、発光部171aは、本発明でいう主要光を発するものであり、たとえばピーク波長が565nm付近にある光を発する。発光部171bは、本発明でいう参照光を発するものであり、たとえばピーク波長が760nm付近にある光を発する。一方、受光部172は、試料が点着された各試薬パッド22から反射してきた光を受光するためのものであり、例えばフォトダイオードであっても良い。図5に示す測光装置制御部33は、測光装置17における発光部171a,171bからの光の照射及び受光部172による反射光の受光に関する制御を実行する。
【0040】
測定部34は、受光部172における受光結果を取得する。そして測定部34は、測光装置17から取得した受光結果と、メモリ16に記憶されている検量線データとに基づいて、試料としての尿に含まれるヘモグロビン、グルコース、あるいはタンパク質などの特定成分(測定項目成分)の濃度を演算する。各測定項目成分の測定結果は表示パネル111に表示され、必要に応じてプリンタ113から印字出力される。また、測定部34は、測光装置17から取得した受光結果から、試験片2の劣化状況を判別に用いられる試薬パッド22さらには参照パッド23の反射率を算出し、この反射率をたとえばメモリ16に記憶する。
【0041】
試験片2は、多湿環境下に長期間にわたって曝露されると、試薬パッド22に塗布されている試薬に変質などが起こり、試験片2の品質低下(以下、「劣化」ともいう)を招く虞がある。このように劣化した試験片2を用いて試料の分析処理を行った場合には分析誤差を招きやすく、分析結果の信頼性の低下に繋がる虞がある。
【0042】
分析装置1の試験片収容部121は、その上部開口が開閉蓋1211により閉塞され且つその底部開口が回転ドラム122によって閉塞されるなどして、試験片収容部121の内部空間(収容空間)S1はある程度の密閉性(気密性)を有する。そのため、収容空間S1は、外部空間S2に比べれば試験片2が劣化しにくい雰囲気となってはいるものの、分析装置1の稼動が停止されている稼働停止期間が長期に及ぶ場合にはやはり試験片2の劣化が起こる可能性が高まる。そのため、本分析装置1には、図1に示すようにボトルユニット4が併設されている。
【0043】
ボトルユニット4は、試験片2を密封状態で保管可能な密封保管容器である。分析装置1の稼動が停止されている稼働停止期間においては、試験片収容部121に試験片2を放置しておくと前述した試験片2の劣化につながる虞がある。このため、分析処理終了の時点で余った試験片2は、試験片収容部121からボトルユニット4へとユーザーによって移しかえられることになっている。具体的には、一日の分析処理の終了時に試験片2が試験片収容部121に残留している場合、余った試験片2をボトルユニット4に保管する内容の指示が、分析装置1の取扱説明書に記載されている。
【0044】
従って、ユーザーが取扱説明書を遵守する限り、分析装置1による分析処理が終了した時点(ユーザーによる操作スイッチ群112の操作により電源スイッチが押下されて、分析装置1の主電源がオフに切り替えられた時点)で試験片収容部121に残留している試験片2は、ユーザーによってボトルユニット4に保管される。そのため、稼働停止期間がたとえ長期に及ぶ場合においても、試験片収容部121には試験片2が放置されないため劣化することはない。しかし、分析装置1の稼動停止時に余りの試験片2を実際にボトルユニット4へと移すかどうかはユーザー任せであるため、稼動停止期間中において長期に亘り試験片2が試験片収容部121に留置(放置)されてしまう可能性も否定できない。
【0045】
そこで、本実施例における分析装置1では、試料の分析処理に供される試験片2に劣化が生じているか否か、その品質を確認するための試験片品質確認制御を行う。この試験片品質確認制御は、概略、いまだ試料が点着されていない試験片2の試薬パッド22の反射率に基づいて試験片2の劣化状況を判別する。また、この試験片品質確認制御は、試験片収容部121における試験片2の収容期間を付加的に用いて試験片2の劣化状況を判別する。以下、この試験片品質確認制御について詳しく説明する。なお、試験片2の劣化状況判別は、反射率に基づく構成に限定されず、本発明で言う光学特性値に基づいた判別を行えばよい。上述した通り、光学特性値は、反射率のほか、たとえば吸収率や透過率を含む概念であり、ある対象物が光を受けることによって指し示し得る特性値である。
【0046】
図5に示すように、分析装置1は、そのCPU15やメモリ16などを含むコンピュータにより実現される機能部として、残留状態判定部35、期間算出部36、予備判別部37、判別部40、報知部38を備えている。以下、分析装置1のコンピュータにより実行される試験片品質確認制御における処理内容を、図6に基づいて説明する。
【0047】
図6は、分析装置1のコンピュータにより実行される試験片品質確認制御ルーチンを示すフローチャート図である。メモリ16に格納されているプログラム(「品貿確認プログラム」と称する)がCPU15によって実行されることにより、本フローチャートにおける各処理が実現される。本フローチャートが開始されるトリガは、例えば分析装置1の起動時、つまりユーザーによる電源スイッチの押下によって分析装置1の主電源がオフの状態からオンの状態に切り替えられたことである。図5において説明した分析装置1の各機能部は、CPU15がメモリ16に格納された品質確認プログラムと協働することにより実現される。
【0048】
ステップS101において、試験片供給制御部31は、試験片収容部121内に試験片2が残留していればその試験片2がポジションP1に移送されるように、回転ドラム122の回転制御及び移送装置(不図示)の駆動制御を行う。ここで、試験片収容部121内に試験片2が残留していなければ(試験片収容部121の収容空間S1が空であれば)、試験片2がポジションP1へと移送されることがない。そして、試験片収容部121内に試験片2が残留していれば、少なくとも回転ドラム122が数回転する問に試験片2が凹部1221に嵌入するため、その試験片2がポジションP1へと移送される。
【0049】
次いで、ステップS102(残留状態判定ステップ)においては、残留状態判定部35が、試験片検出センサ124の出力信号(検出信号)を取得する。そして、この取得した検出信号に基づいて、試験片収容部121内に試験片2が残留(残存)しているか否かを判定する。具体的には、例えば所定の判定期間(例えば、回転ドラム122が数回転するのに要する時間)に亘って連続的または断続的に試験片検出センサ124からの検出信号を取得する。そして、取得した検出信号が、終始、試験片2が検出されないとの内容を示す信号(以下、「試験片未検出信号」ともいう)である場合、残留状態判定部35は、試験片収容部121内に試験片2が残留していない(試験片収容部121における試験片2が空である)と判定し、本ルーチンを一旦終了する。この場合、分析装置1のコンピュータは、品質確認プログラムと同様、メモリ16に格納されている分析用プログラム(図示省略)をCPU15によって実行する。
【0050】
上記分析用プログラムは、試験片2の呈色反応を測光装置17によって測定し、試料である尿中に含まれる特定成分を分析するためのプログラムである。この分析用プログラムを分析装置1のコンピュータが実行することにより、CPU15が、試験片収容部121に収容されている試験片2をポジションP1へと移送する試験片供給制御部31、試料点着装置14を制御して試験片2に試料を点着する点着装置制御部32、測光装置17に関する制御を実行する測光装置制御部33、測光装置17の受光部172から受光結果を取得して特定成分の濃度を演算、分析する測定部34として機能し、試料の分析処理が行われる。
【0051】
また、ステップS102において残留状態判定部35が、試験片検出センサ124から試験片2を検出したとの内容を示す出力信号(以下、「試験片残留信号」ともいう)を取得した場合、試験片収容部121内に試験片2が残留していると判定し、ステップS103の処理が実行される。
【0052】
ステップS103(期間算出ステップ)では、期間算出部36が試験片2の収容期間(以下、「試験片収容期間」)△Pocを算出する。本実施例では、直近における分析装置1の稼動停止時(以下、「直近稼動停止日時」という)から再び分析装置1が起動される時(以下、「直近起動日時」という)までの経過期間を試験片収容期間△Pocとして算出することとした。なお、分析装置1において、ユーザーにより電源スイッチが操作された時期(日時)は例えば分析装置1のハードディスクドライブ19に記録されるようになっている。従って、CPU15は、電源スイッチがオンからオフに切り替えられた直近の時期(日時)をハードディスクドライブ19から読み出すことで直近稼動停止日時を把握することができる。同様に、電源スイッチがオフからオンに切り替えられた直近の時期(日時)をハードディスクドライブ19から読み出すことで、直近起動日時を把握することができる。そして、直近稼動停止日時から直近起動日時に至るまでの期間を試験片収容期間△Pocとして算出することができる。本ステップの処理が終了すると、ステップS104の処理が実行される。
【0053】
ステップS104(予備判別ステップ)では、予備判別部37が、ステップS103(期間算出ステップ)において算出された試験片収容期間△Pocに基づいて、試験片2の劣化状況を判別する。ここでは、予備判別部37は、試験片収容期間△Pocが許容曝露期間△Pocaを超えているかどうかに基づいて試験片2の劣化状況を予備的に判別する。この許容曝露期間△Pocaは、試験片収容部121の収容空間S1内において、試験片2を分析精度上問題なく使用可能な状態で維持可能な最長の期間であり、試験片2に劣化が生じているか否かを判断するための試験片収容期間△Pocに対して設定される予備的な判定基準値である。許容曝露期間△Pocaとしての適正値(例えば、3日〜5日間程度であってもよい)は、予め実験などの経験則に基づいて求めておくと良い。
【0054】
本ステップにおいて、予備判別部37は試験片収容期間△Pocが許容曝露期間△Pocaを超えているか否かを判定する。そして、予備判別部37は、試験片収容期間△Pocが許容曝露期間△Pocaを超えているかどうかに基づいて試験片2の劣化状況を予備的に判別する。具体的には、試験片収容期間△Pocが許容曝露期間△Pocaを超えていると判定された場合、予備判別部37は、試験片2が劣化している可能性がある(或いは、劣化している可能性が高い)と判断し、ステップS105の処理が実行される。一方、試験片収容期間△Pocが許容曝露期間△Poca以内であると判定された場合、試験片2が正常である(つまり、品質が低下していない)と判断する。この場合、本ルーチンを一旦終了し、前述の分析用プログラムが実行される。
【0055】
ステップS105(反射率測定ステップ)においては、CPU15が、試験片収容部121に収容されている試験片2をポジションP1へと移送する試験片供給制御部31、測光装置17に関する制御を実行する測光装置制御部33、測光装置17の受光部172から受光結果を取得して試薬パッド22(および参照パッド23)の反射率を測定する測定部34として機能する。
【0056】
本ステップにおいては、ポジションP1へと移送された試験片2には、試料の点着はなされない。この状態で、以下の測光処理が行われる。まず、発光手段171aからの主要光(ピーク波長:565nm)を試薬パッド22に照射し、その反射光を受光部172によって受光する。このときの受光部172の受光結果が、試薬パッド22の主要光の反射率λa565としてメモリ16に記憶される。また、発光手段171bからの参照光(ピーク波長:760nm)を試薬パッド22に照射し、その反射光を受光部172によって受光する。このときの受光部172の受光結果が、試薬パッド22の参照光の反射率λa760としてメモリ16に記憶される。次に、発光手段171aからの主要光を参照パッド23に照射し、その反射光を受光部172によって受光する。このときの受光部172の受光結果が、参照パッド23の主要光の反射率λr565としてメモリ16に記憶される。また、発光手段171bからの参照光を参照パッド23に照射し、その反射光を受光部172によって受光する。このときの受光部172の受光結果が、参照パッド23の参照光の反射率λr760としてメモリ16に記憶される。本ステップで反射率測定の対象とされる試薬パッド22は、たとえば尿中のグルコースを測定するためのもの、あるいは尿の比重を測定するためのものである。本ステップの処理が終了すると、ステップS106の処理が実行される。
【0057】
ステップS106(劣化判別ステップ)では、判別部40が、ステップS105において測定された反射率λa565,λa760,λr565,λr760を用いて試験片2の劣化状況を判別する。本実施形態においては、判別部40は、数式1により反射率指標Idを算出する。
【0058】
【数1】

【0059】
試薬パッド22は、吸湿することによって時間とともに変質する。上述したグルコースまたは比重を測定するためのパッドは、変質によって反射率が低下しやすい。また、これらの試薬パッド22においては、波長が565nm程度の光(黄緑色光)に対する反射率の変化が顕著である。一方、白色樹脂からなる参照パッド23は、経時変化をほとんど示さない。このため、経時変化による劣化が進行した場合、試薬パッド22に主要光(ピーク波長:565nm)を照射した場合の反射率λa565が、もっとも低下すると考えられる。この反射率λa565を同じ主要光を参照パッド23に照射した場合の反射光にλr565によって除算することは、たとえば発光部171aの光量変化などが反射率測定結果に与える影響をキャンセルするためである。反射率λa760を反射率λr760によって除算することも、発光部171bの光量変化などの影響をキャンセルするためである。指標Idは、主要光についての第1項を参照光についての第2項によって除算することにより得られる。これにより、指標Idは、試薬パッド22の径時変化によって、主要光による反射率が参照光による反射率に対してどの程度低下したかを示す無次元量となっている。この指標Idが小さいほど、試薬パッド22の劣化が進行しているといえる。
【0060】
判別部40は、たとえばあらかじめハードディスクドライブ19又はメモリ16に記憶された基準指標Id0を読み込む。基準指標Id0は、適切な測定が可能である試薬パッド22の指標Idを経験的に、あるいは予備的な試験の結果を基にして、決定される。たとえば、発明者らが試験に用いた試薬パッド22の場合、通常時は、指標Idは0.97程度であり、劣化による測定不具合が確認されるときには、指標Idは0.7〜0.85、あるいはそれ未満であった。このケースにおいては、基準指標Id0をたとえば0.90と設定しておく。指標Idが基準指標Id0よりも小さい場合、試験片2が劣化していると判断し、ステップS107の処理が実行される。一方、指標Idが基準指標Id0以上であると判定された場合、試験片2が正常である(つまり、品質が低下していない)と判断する。この場合、本ルーチンを一旦終了し、前述の分析用プログラムが実行される。
【0061】
図2に示したように、分析装置1は報知器39を備えている。ステップS107(報知ステップ)においては、報知部38が報知器39を制御して、試験片2の劣化状況をユーザーに報知する。例えば、報知部38は、試験片収容期間△Pocが許容曝露期間△Pocaを超えており、かつ指標Idが基準指標Id0よりも小さい場合、試験片2の試薬パッド22が変質しており品質が低下していること、この試験片2を用いて試料の分析を行った場合に各特定成分における測定値に誤差が生じ、分析結果の信頼性が低くなる虞があること等の内容を含んだ情報をユーザーに報知する。なお、報知部38は、試験片収容期間△Pocが許容曝露期間△Poca以内である場合、あるいは、指標Idが基準指標Id0以上である場合、試験片2の品質が低下していないことを積極的に報知しても良いが、このように試験片2が正常な状態である場合にはユーザーへの報知、警告自体を行わず、試験片2が劣化している可能性が高いときにだけ報知を行うようにしても良い。本ステップの処理が終了すると本ルーチンを一旦終了し、前述の分析用プログラムが実行される。
【0062】
ステップS105が実行された場合、ポジションP1に試験片2がセットされている。報知部38は、ポジションP1にある試験片2を除去することをユーザーに促すメッセージを報知器39に報知させることが好ましい。なお、試験片2の除去を促すことに代えて、試験片供給制御部31が反射率測定済みの試験片2を試験片供給部12へと返送する機能を備える構成としてもよい。
【0063】
本実施例においては、測光装置制御部33、測定部34、判別部40が、本発明における劣化判別手段を構成する。また、残留状態判定部35、期間算出部36、予備判別部37が本発明における予備判別手段を構成する。また、報知器39とこの報知器39を制御する報知部38が本発明における報知手段に対応している。
【0064】
次に、分析装置1の作用について説明する。
【0065】
分析装置1によれば、試料を点着する前の状態の試験片2の試薬パッド22の反射率を用いて試験片2の劣化状況を判別する。試薬パッド22は、試験片2の構成要素のうち経時変化によって最も劣化し、かつ分析結果に影響を与える部位である。発明者らの研究によると、試薬パッド22の反射率は、吸湿などの劣化によって顕著に変化しやすいことが判明した。したがって、試料の呈色反応を実際に測定することに先立って、試験片2が劣化した状況であることを、ユーザーに適切に認識させることができる。
【0066】
発明者らの研究によると、尿中のグルコースを測定するための試薬パッド22や尿の比重を測定するための試薬パッド22は、劣化による反射率の変化が特に大きいことが判明した。これらの試薬パッド22の反射率を劣化状況の判別に用いることにより、より適切に劣化状況を判別することができる。なお、グルコースおよび比重のための試薬パッド22の双方について、ステップS105およびステップS106を実行し、双方の試薬パッド22の反射率に基づく指標Idが基準指標Id0を下回った時に劣化した状況であると判別してもよいし、いずれか一方の反射率に基づく指標Idが基準指標Id0を下回った時に劣化した状況であると判別してもよい。基準指標Id0は、試薬パッド22の種類によってそれぞれに専用の値を設定してもよい。
【0067】
試薬パッド22の劣化によって反射率が低下しやすい波長の主要光と反射率が低下しにくい参照光とを用いることにより、試験片2の劣化状況をより正確に判別することができる。試薬パッド22の反射率に加えて、参照パッド23の反射率に基づいて判別することにより、光源部171a,171bの光量変化などによって劣化状況の判別が不正確となることを回避することができる。なお、本発明は、これらに限定されず、たとえば本実施例における主要光のみを用いて反射率を測定し、劣化状況を判別しても良い。また、参照パッド23を用いず、試薬パッド22の反射率のみを用いて劣化状況を判別しても良い。
【0068】
分析装置1の起動時に試験片2が試験片収容部121内に残留している場合、試験片収容期間△Pocに応じて試験片2の劣化状況を予備的に判別し、そのうえで、試験片2の劣化状況を判別する。これにより、試験片2の劣化の虞がほとんど疑われない場合に、ステップS105,S106における劣化判別処理を無駄に行ってしまうことを回避することができる。なお、本発明の分析装置および分析方法は、予備的に劣化状況を判別した後に試験片2の劣化状況を反射率によって判別する構成に限定されず、予備的な劣化状況の判別を行うことなく、反射率による劣化状況の判別を行う構成であっても良い。
【0069】
(変形例1)
次に、本実施例おける変形例について説明する。図7は、本変形例における試験片収容部121の概略構成図である。本変形例においては、試験片収容部121には、その収容空間S1の湿度および温度(以下、これらをあわせて「温湿度」と総称する)を測定する温湿度検出センサ1213が設置されている。温湿度検出センサ1213は、温度センサ1213A、湿度センサ1213Bを有する。温度センサ1213Aは、例えば白金測温抵抗体によって構成することができる。この白金測温抵抗体は周知のため詳しい説明を省略するが、金属の電気抵抗が温度変化に対して変化する性質を利用した測温抵抗体の一種であり、温度特性が良好で経時変化が少ない白金(Pt)を測温素子に用いたセンサである。但し、温度センサ1213Aはこれに限定されるものではなく、例えば熱電対式やその他の方式を採用した温度センサであっても良い。また、湿度センサ1213Bとしては、例えば静電容量式のものを利用しても良い。本変形例においては温湿度検出センサ1213が、本発明における曝露環境測定手段に対応する。なお、この変形例では、ユーザーが電源スイッチをオフにした後においても、図示しないバッテリに蓄えられている電力によって温湿度検出センサ1213への電力供給を継統して行うことができる。そして、この電力供給を受けて、温湿度検出センサ1213は試験片収容期間△Pocにおいても一定時間ごとに収容空間S1の温湿度の測定を行う。その他のハード構成については、実施例1において説明した分析装置と同様である。
【0070】
ここで、試験片収容期間△Pocに試験片収容部121内の試験片2が晒される曝露環境は、試験片2の劣化度合いに影響を及ぼす。そこで、本変形例では、温湿度検出センサ1213による検出結果に応じて許容曝露期間を可変設定する。なお、温湿度検出センサ1213の測定結果は、温度履歴データ及び湿度履歴データとしてハードディスクドライブ19に逐次、記憶されるようになっている。
【0071】
図6に示した制御フローを参照して説明すると、同図のステップS103において、試験片収容期間△Pocが算出されることに加え、上記の各履歴データに基づいて許容曝露期間△Pocaが設定される。すなわち、予備判別部37は、ハードディスクドライブ19から直近稼動停止日時〜直近起動日時(試験片収容期間△Poc)に対応する温度履歴データ及び湿度履歴データを読み出し、当該期間における試験片収容部121の平均温度、平均湿度を算出する。
【0072】
試験片2は高温、多湿な環境下に晒されるほどその劣化度合いが顕著となる。そこで、試験片収容部121の湿度環境が同等であれば、試験片収容期間△Pocにおける平均温度が高いほど許容曝露期間△Pocaがよリ短い期間として設定される。また、試験片収容部121の温度環境が同等であれば、試験片収容期間△Pocにおける平均湿度が高いほど許容曝露期間△Pocaの設定値がよリ短い期間として設定される。このようにすれば、試験片2の晒される曝露環境の差異に応じて試験片2の劣化状況を的確に判別し、その品質をより精度良く確認することができる。
【0073】
なお、本変形例における分析装置1は、温度センサ1213A及び湿度センサ1213Bを備えているが、温度センサ1213A及び湿度センサ1213Bの何れか一方のみを備えるようにしても良い。例えば、温度センサ1213Aのみを備える場合、試験片収容期間△Pocにおける試験片収容部121の平均温度が高いほど許容曝露期間△Pocaをより短い期間として設定しても良い。また、分析装置1が湿度センサ1213Bのみを備える場合、試験片収容期間△Pocにおける試験片収容部121の平均湿度が高いほど、許容曝露期間△Pocaをより短い期間として設定しても良い。
【0074】
また、試験片収容期間△Pocに試験片2が晒される曝露環境に応じて許容曝露期間△Pocaを可変設定する代わりに、或いは併用して、予備判別部37は、試験片2の劣化度合いの重み付けを、上記曝露環境に応じて実施しても良い。例えば、予備判別部37は、試験片収容部121の湿度環境が同等であれば、試験片収容期間△Pocにおける平均温度が高いほど、試験片2の劣化度合いをより高く判断しても良い。同様に、予備判別部37は、試験片収容部121の温度環境が同等であれば、試験片収容期間△Pocにおける平均湿度が高いほど、試験片2の劣化度合いをより高く判断しても良い。これによっても、試験片2が晒される曝露環境に応じて試験片2の劣化状況を的確に判別し、その品質をより精度良く確認することができる。なお、本変形例では、試験片2が晒される曝露環境を反映する代表値として試験片収容部121の温度(湿度)の平均値を用いているが、これに限られるものではなく、例えば温度(湿度)の最大値や中央値などを採用しても良い。
【0075】
<実施例2>
図8は、実施例2における分析装置1の構成ブロック図を示しており、図9は、本実施例の分析装置1の内部構造を示している。本実施例においては、分析装置1は、測光装置17に加えて予備測光装置17Aを備えている。予備測光装置17Aは、上述したステップS105における反射率の測定に用いられるものであり、2つの発光部171Aa,171Abと、受光部172Aとを有している。発光部171Aa,171Abの構成は、上述した発光部171a,171bと同様であり、受光部172Aの構成は、上述した受光部172と同様である。また、本実施例の測光装置17は、試料が点着された試薬パッド22の呈色反応を光学的に測定するために用いられる。測光装置17は、呈色反応を測定するのに適した波長の光を発する1つの発光部171を備えている。
【0076】
図9に示すように、予備測光装置17Aは、測光装置17と比べて試験片供給部12に近接した位置に設けられている。ポジションP0は、予備測光装置17Aによって測光される試験片2が配置されるべき位置である。試験片2がポジションP0に位置しているか否かは、たとえば試験片センサ124Aによって検出される。
【0077】
このような実施例によっても、上述した実施例と同様に試験片2の劣化状況を適切に判別することができる。また、ポジションP0において予備測光装置17Aによって測光される試験片2には、試料が点着されない。このため、ノズル141をポジションP0の試験片2まで到達させる必要がない。これにより、ポジションP0、すなわち予備測光装置17Aを、試験片供給部12により近づけることができる。これは、試験片2の劣化状況の判別が完了するまでの時間を短縮するのに適している。また、ステップS106の劣化判別ステップの結果、劣化していないと判別された試験片2を試験片供給部12に返送する構成の場合に、この返送を容易に行えるという利点がある。なお、ステップS106において劣化していないと判別された試験片2を、ポジションP1に送り、呈色反応の測定を行う構成としても良い。また、上述した実施例1についての変形例の構成を、実施例2に適用しても良い。
【0078】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明に係る分析装置、及び分析方法はこれらに限らず、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。また、以上述べた実施の形態は本発明を説明するための一例であって、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において上記の実施形態には種々の変更を加え得る。
【符号の説明】
【0079】
1・・・分析装置
2・・・試験片
11・・・装置本体部
12・・・試験片供給部
14・・・試料点着装置
15・・・CPU
16・・・メモリ
17・・・測光装置
17A・・・予備測光装置
21・・・基材
22・・・試薬パッド
31・・・試験片供給制御部
32・・・点着装置制御部
33・・・測光装置制御部
34・・・測定部
35・・・残留状態判定部
36・・・期間算出部
37・・・予備判別部
38・・・報知部
121・・・試験片収容部
122・・・回転ドラム
141・・・ノズル
1211・・・開閉蓋
1212・・・開閉検知センサ
1213・・・温湿度検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析用試験片を収容するための試験片収容部と、
該分析用試験片に形成された試薬パッドに検体を点着する試料点着部と、
該試薬パッドの光学特性値を測定する光学特性値測定手段と、を備えた分析装置において、
前記光学特性値測定手段によって測定された、前記試料点着部が検体を点着していない前記試薬パッドの光学特性値、に基づいて該分析用試験片の劣化状況を判別する劣化判別手段と、
前記劣化判別手段が判別した前記分析用試験片の劣化状況をユーザーに報知する報知手段と、
を備える、分析装置。
【請求項2】
前記光学特性値測定手段は、互いの波長が異なる光を発する2つの発光手段を具備しており、
前記劣化判別手段は、前記2つの発光手段についての光学特性値に基づいて判別する、請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記2つの発光手段の一方は、前記試薬パッドの劣化によって光学特性値が変化する波長域の主要光を発し、前記2つの発光手段の他方は、前記試薬パッドの劣化による光学特性値の変化が前記主要光よりも小さい波長領域である参照光を発する、請求項2に記載の分析装置。
【請求項4】
前記試薬パッドは、尿中のグルコースを分析するためのものである、請求項1ないし3の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記試薬パッドは、尿の比重を分析するためのものである、請求項1ないし3の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項6】
前記光学特性値測定手段は、前記分析用試験片に形成された参照パッドの光学特性値を更に測定し、
前記劣化判別手段は、前記試薬パッドの光学特性値と前記参照パッドの光学特性値とに基づいて判別する、請求項1ないし5の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項7】
前記参照パッドは、白色である、請求項6に記載の分析装置。
【請求項8】
検体が点着された前記試薬パッドの呈色反応を測定し、かつ前記光学特性値測定手段を兼ねる、呈色反応測定手段を備えている、請求項1ないし7の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項9】
検体が点着された前記試薬パッドの呈色反応を測定し、かつ前記光学特性値測定手段とは別体とされた、呈色反応測定手段を備えている、請求項1ないし7の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項10】
前記分析用試験片を収容するための試験片収容部と、
前記試験片収容部における前記分析用試験片の収容期間に基づいて前記光学特性値測定手段による光学特性値測定および前記劣化判別手段による判別の要否を判別する、予備判別手段と、
を更に備える、請求項1ないし9の何れか1項に記載の分析装置。
【請求項11】
前記予備判別手段は、前記分析用試験片の収容期間が許容曝露期間を超えているかどうかに基づいて判別する、請求項10に記載の分析装置。
【請求項12】
前記試験片収容部における湿度及び温度の少なくとも一方を測定する曝露環境測定手段を更に備え、
前記予備判別手段は、前記分析用試験片の収容期間が許容曝露期間を超えているかどうかに基づいて判別し、
前記許容曝露期間は、前記曝露環境測定手段による測定結果に応じて可変設定される、請求項10に記載の分析装置。
【請求項13】
分析用試験片に形成された試薬パッドにいまだ検体が点着されていない状態において、該試薬パッドの光学特性値を測定する光学特性値測定ステップと、
前記光学特性値測定ステップによって測定された光学特性値に基づいて該分析用試験片の劣化状況を判別する劣化判別ステップと、
前記劣化判別ステップによって判別された前記分析用試験片の劣化状況をユーザーに報知する報知ステップと、
を実行する、分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−24797(P2013−24797A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161905(P2011−161905)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】