説明

既設PCタンクの耐震性能向上方法および耐震性能向上構造

【課題】耐震性の低い老朽化した既設PCタンクについて、新設することなく、比較的短工期・低コストでその耐震性能を向上させることができる既設PCタンクの耐震性能向上方法および耐震性能向上構造を提供する。
【解決手段】既設PCタンク10内にやや内径の小さい鋼製タンク20を設置し、その鋼製タンク20の底板(アニュラプレート)22と既設PCタンク10の底版12との間に制振ダンパー30を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設PCタンクの耐震性能向上方法および耐震性能向上構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部に液体を貯蔵するPCタンク(Pre-stressed Concrete Tank)においては、地震時の水平力に対して杭やアンカー、壁の耐力で対応するのが一般的であるが、 建設された時期の設計・施工の基準に基づいているため、施設の経年劣化と相まって耐震性が十分でない場合が多い。そのような場合の耐震性能向上対策としては、既設PCタンクの側壁に対して外面からプレキャストコンクリートの壁版を重ねて設置し増厚を図る方法(特許文献1参照)や、既設PCタンクの側壁に対してその内面にカーボンクロス等を用いた表面処理を行う方法(特許文献2参照)などのように、既設PCタンクの側壁に対して、増厚や補強を行う方法がある。また、既設PCタンクの杭基礎に対して、フーチングの増設や増杭などを行う方法がある。場合によっては、新たにPCタンクを建設する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−0021333号公報
【特許文献2】特開平11−350744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
PCタンク(PC貯槽)は、貯液タンクとして用いられる場合、内容物や設置状況により様々な基準によって要求される性能に違いがある.例えば日本水道協会の設計指針(水道施設耐震工法指針・同解説:1997)では重要な施設に対して下記のような耐震性能が要求されている。
(1)レベル1地震動:無被害であること。
(2)レベル2地震動:人命に重大な影響を与えないこと.個々の施設に軽微な被害が生じても、その機能保持が可能であること。
【0005】
これは、 配水池で言えば、レベル1地震動時には被害が無いこと、レベル2地震動時には貯水・配水機能を失わず、かつ復旧が容易であることを示している。
【0006】
地震時に予想される被害は、各PCタンクにおいて設計年が異なるため、同じ敷地内にある既設PCタンクでも耐震性能に差異のある場合があり、既設PCタンク毎の耐震性能調査が必要である。
【0007】
既設PCタンクの耐震性能評価は建設年を考慮し、設計図面、竣工図面、当初の構造計算書をもって施設を調査し、老朽化部分に関しては補修を行った状態で性能評価を行う。耐震性能評価により耐震性が低いと判断された場合、その補強を行う。補強方法は例えば耐震壁の増設やフーチングの増設・増杭などの方法があるが、敷地の制約条件から採用できない場合も多い。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、耐震性の低い老朽化した既設PCタンクについて、新設することなく、比較的短工期・低コストでその耐震性能を向上させることができる既設PCタンクの耐震性能向上方法および耐震性能向上構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0010】
[1]内部に液体を貯蔵する既設PCタンクの耐震性能向上方法であって、既設PCタンクの底版の上に制振ダンパーを設置し、その制振ダンパーの上に、内部に液体を貯蔵する鋼製タンクを設置することを特徴とする既設PCタンクの耐震性能向上方法。
【0011】
[2]内部に液体を貯蔵する既設PCタンクの耐震性能向上構造であって、既設PCタンクの底版の上に制振ダンパーが設置され、その制振ダンパーの上に、内部に液体を貯蔵する鋼製タンクが設置されていることを特徴とする既設PCタンクの耐震性能向上構造。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、耐震性の低い老朽化した既設PCタンクに対して、撤去・更新することなく、比較的短工期かつ低コストでその耐震性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態において設置される制振ダンパーの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、既設PCタンク(既設PC貯槽)の耐震性能を向上させるために、既設PCタンク内にやや内径の小さい鋼製タンク(鋼製貯槽)を設置し、その鋼製タンクの底板(アニュラプレート)と既設PCタンクの底版との間に制振ダンパーを設けるものである。
【0015】
これによって、既設PCタンクの基礎杭や側壁に作用する地震時荷重を減少または方向変換させて耐震化を図るようにしている。
【0016】
本発明の一実施形態を以下に述べる。
【0017】
本発明の一実施形態においては、図1に示すように、PC製側壁11と、PC製底版12(基礎杭13に剛結)とを備えた既設PCタンク(既設PC貯槽)10に対して、その耐震性能を向上させるために、PC製底版12の上に制振ダンパー30を設置し、その制振ダンパー30の上に、既設PCタンク10の内径よりもやや小さい径の鋼製タンク(鋼製貯槽)20を設置して、その鋼製タンク20の内部に液体を貯留するようにしている。なお、鋼製タンク20は、鋼製側板21と鋼製底板(アニュラプレート)22を有している。
【0018】
ここで、制振ダンパー30には種々のものが考えられるが、低降伏点鋼を用いた支持金具形式のものを用いれば、比較的安価な対応が可能である。例えば、図2(a)に斜視図、図2(b)に断面図を示すような制振ダンパーである。
【0019】
すなわち、図2に示すように、この制振ダンパー30は、低降伏点鋼の鋼板33の上下端部にそれぞれ平鋼板31、平鋼板32を溶接したものであり、上部の平鋼板31を鋼製底板(アニュラプレート)22に溶接にて接合するとともに、下部の平鋼板32をPC製底版(既設PCタンク底版)12にアンカー35にて接合している。なお、低降伏点鋼鋼板33の左右には、支持材として溝形鋼34を配置しており、この溝形鋼34は、PC製底版(既設PCタンク底版)12にアンカー35にて接合しているが、鋼製底板(アニュラプレート)22とは非接合である。
【0020】
そして、制振ダンパー30は、鋼製底板(アニュラプレート)22に軸対象となるよう均等に設置し、部材厚の薄い底板部には、防食を兼ねたアスファルトサンド39等を敷くようにする。
【0021】
上記のような耐震性能向上構造とすることによって、地震水平荷重が作用すると、新設鋼製タンク20は貯液の動水圧によりロッキング挙動を呈するので、地震加速度の入射0°方向では鋼製底板(アニュラプレート)22の浮き上がりが生ずるが、この地震荷重は制振ダンパー30を介して低減されながら基礎杭13に伝達される。
【0022】
耐震対策を施さない既設PCタンクでは、PC製側壁11に地震時動水圧が直接作用し、躯体慣性力と相まって基礎杭13には非常に大きな水平剪断力が作用し、基礎杭13の耐力が不足している場合には基礎杭13の塑性化や杭頭破壊に至る場合もある。
【0023】
これに対して、この実施形態では、この地震時水平力を減衰した上で鉛直荷重に変換できるので、このような懸念がない。
【0024】
なお、このような低降伏点鋼を用いた制振ダンパー30の場合、大地震発生時には、制振ダンパー30自体が塑性変形するので、交換が必要である。
【0025】
次に、その施工方法を説明する。
【0026】
まず、既設PCタンク10の屋根を取り壊し、既設PCタンク10上部からの工事とする。水道用の既設PCタンクにおいては、屋根の内部は気相部となっており、塩素ガスの濃度が高いため、貯槽は特に劣化しているものが多い。
【0027】
流入管や流出管等の配管類は、地震時の挙動が貯槽と違うため、伸縮可撓管の設置を行う。
【0028】
既設PCタンク10の内部に新設する鋼製タンク20の施工スペース(PC製側壁11と鋼製側壁21の間)は、将来的に管理用通路として使用する。
【0029】
新設する鋼製タンク20の鋼製底板(アニュラプレート)22と既設PCタンク10のPC製底版12とは、アンカー35を設けて低降伏点鋼製等の制振ダンパー30で剛結する。
【0030】
以上のようにして、この実施形態においては、次のような効果を得ることができる。
【0031】
(1)制振ダンパー30の変形により地震エネルギーを吸収し、既設PCタンク10に作用する地震荷重そのものを低減する。
【0032】
(2)既設PCタンク10では、基礎杭13の耐力が地震による水平剪断力に対して不足しているか、あるいは、PC製側壁11の耐力が地震時動水圧に対して不足しているなどの問題が想定される。そこで、新設鋼製タンク20のアニュラプレート22と既設PCタンク10のPC製底版12の間に制振ダンパー30を設けることにより、新設鋼製タンク20の躯体慣性力ならびに動水圧を鉛直方向の荷重に変換する。さらに、既設PCタンク10のPC製側壁11に直接動水圧を作用させない構造とすることで、既設PC製側壁11の損傷を防止する。すなわち、新設鋼製タンク20は、地震時水平荷重に対してロッキング挙動を示すが、既設PC製底版12に剛結した制振ダンパー30により水平荷重を鉛直荷重に減衰・変換して基礎杭13に伝達する。また、新設鋼製タンク20に液体を貯蔵するので、既設PCタンク10のPC製側壁11はその貯液と分離しており、地震時動水圧を受けない。
【0033】
(3)以上より、全てを新設にする場合に比較して、既設基礎を使用できることから、短工期・低コストで既設老朽化PCタンク10の耐震性能を向上させることができる。
【符号の説明】
【0034】
10 既設PCタンク(既設PC貯槽)
11 既設PCタンク側壁(PC製側壁)
12 既設PCタンク底版(PC製底版)
13 基礎杭
20 新設鋼製タンク(新設鋼製貯槽)
21 新設鋼製タンク側板(鋼製側板)
22 新設鋼製タンク底板(アニュラプレート)
30 制振ダンパー
31 平鋼板
32 平鋼板
33 低降伏点鋼の鋼板
34 溝形鋼
35 アンカー
39 アスファルトサンド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に液体を貯蔵する既設PCタンクの耐震性能向上方法であって、既設PCタンクの底版の上に制振ダンパーを設置し、その制振ダンパーの上に、内部に液体を貯蔵する鋼製タンクを設置することを特徴とする既設PCタンクの耐震性能向上方法。
【請求項2】
内部に液体を貯蔵する既設PCタンクの耐震性能向上構造であって、既設PCタンクの底版の上に制振ダンパーが設置され、その制振ダンパーの上に、内部に液体を貯蔵する鋼製タンクが設置されていることを特徴とする既設PCタンクの耐震性能向上構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−215251(P2010−215251A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62181(P2009−62181)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】