説明

標識方法

本発明は、ペプチドのような生物学的活性ベクターの放射性フッ素化方法であって、式(II)の化合物又はその塩を[18F]フッ化物イオン源と反応させることで式(I)の化合物又はその塩を得る段階を含んでなる方法を提供する。かかる方法は温和な反応条件下で実施できると共に、化学選択性の向上した標識アプローチを提供する。また、放射性フッ素化方法で使用するための新規試薬及びこうして得られる18F標識ベクターの使用も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にペプチドのような生物学的ベクターの[18F]フッ素化のための方法及び試薬に関する。こうして得られる18F標識ベクターは、放射性医薬品として、具体的には陽電子放出断層撮影法(PET)で使用するための放射性医薬品として有用である。
【背景技術】
【0002】
放射性標識された生物学的ベクターを診断イメージングのために応用することは、核医学において重要性を増しつつある。特定の細胞タイプと選択的に相互作用する生物学的活性分子は、標的組織に放射能を送達するために有用である。例えば、放射性標識された生物学的ベクターは、診断イメージング、臨床的研究及び放射線療法のため、腫瘍、梗塞巣部及び感染組織に放射性核種を送達するための大きな可能性を有している。110分の半減期を有する18Fは、多くのレセプターイメージング調査のために最適な陽電子放出核種である。したがって、18F標識された生物学的ベクターは、多種多様の病気を定量的に検出して特性決定するためにPETで利用できるので大きな臨床的可能性を有している。
【0003】
ある種の18F標識された生物学的ベクターに関する難点の1つは、既存の18F標識剤が調製するのに多くの時間を要することである。例えば、18Fによるペプチド及びタンパク質の効率的な標識は、主として適当な補欠分子族を用いることで達成される。文献中には、N−スクシンイミジル−4−[18F]フルオロベンゾエート、m−マレイミド−N−(p−[18F]フルオロベンジル)ベンズアミド、N−(p−[18F]フルオロフェニル)マレイミド及び4−[18F]フルオロフェナシルブロミドを含む数種のかかる補欠分子族が提唱されている。補欠分子族を用いる多くの標識方法は、多数の放射性標識生成物を生じる。例えば、3つのリシン残基を含むペプチドは、いずれも標識補欠分子族に対して等しく反応性をもった3つのアミン官能基を有している。しばしば「二段階」アプローチといわれるこのアプローチは、放射性標識された補欠分子族を調製し、次いで第2の段階で生物学的ベクターに結合しなければならないので、やはり多くの時間を要することがある。したがって、18Fを生物学的ベクター(特にペプチド及びタンパク質)中に温和な条件下で迅速かつ化学選択的に導入して、高い放射化学収率及び純度で18F標識生成物を得ることができる18F標識方法に対するニーズが今なお存在している。さらに、臨床現場での放射性医薬品の調製を容易にするための自動化に適した上記のような方法に対するニーズも存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/097713号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2005/082425号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第0321353号明細書
【特許文献4】国際公開第2007/138408号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Daniel G.Rivera et al,J.Am.Chem.Soc.,128,7122−7123,2006
【非特許文献2】Bernard Dietrich et al,Helvetica Chimica Acta,79,568−587,1996
【非特許文献3】Christos A.Ilioudis et al,J.Am.Chem.Soc.,126,12395−12402,2004
【非特許文献4】Bing−Guang Zhang et al,Chem.Commun.,2004,2206−2207,2004
【発明の概要】
【0006】
したがって本発明は、放射性フッ素化方法であって、下記式(II)の化合物又はその塩を[18F]フッ化物イオン源と反応させることで下記式(I)の化合物又はその塩を得る段階、次いで
(i)式(I)の化合物を精製する任意段階、及び/又は
(ii)式(I)の化合物を製剤化する任意段階
を含んでなる方法を提供する。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
本発明は、式(II)の前駆体の合成に際して標識の正確な導入部位が予め選択される化学選択性の向上した放射性標識アプローチを提供する。したがって、この方法は化学選択的であり、それの用途は多種多様の生物学的ベクターに対して汎用的であると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書で用いる「ベクター(VECTOR)」という用語は、放射性医薬品を生成するための放射性標識に適した生体分子、例えばペプチド、タンパク質、ホルモン、多糖、オリゴヌクレオチド、抗体フラグメント、細胞、細菌、ウイルス又は薬物様小分子を意味する。
【0011】
式(I)及び式(II)中並びに本発明の他の態様では、特記しない限り、特に好適なベクターはペプチド、タンパク質及び薬物様小分子であり、本発明の一態様では、その生物学的機能のために血液脳関門を横切る必要のないベクターである。
【0012】
本発明でベクターとして使用するための好適なペプチドには、オクトレオチドのようなソマトスタチン類似体、ボンベシン、血管作用性小腸ペプチド、走化性ペプチド類似体、α−メラノサイト刺激ホルモン、ニューロテンシン、Arg−Gly−Aspペプチド、ヒトプロインスリン結合ペプチド、インスリン、エンドセリン、アンギオテンシン、ブラジキニン、エンドスタチン、アンギオスタチン、グルタチオン、カルシトニン、マガイニンI及びII、黄体形成ホルモン放出ホルモン、ガストリン、コレシストキニン、サブスタンスP、バソプレッシン、ホルミル−ノルロイシル−ロイシル−フェニルアラニル−ノルロイシル−チロシル−リシン、アネキシンV類似体、バソアクティブプロテイン−1(VAP−1)ペプチド、カスパーゼペプチド基質がある。本発明でベクターとして使用するための好ましいペプチドは、国際公開第01/77415号及び同第03/006491号に記載されているもののようなArg−Gly−Aspペプチド及びその類似体、好ましくは次式のフラグメントを含むペプチドである。
【0013】
【化3】

【0014】
さらに好ましくは、下記式(A)のペプチドである。
【0015】
【化4】

【0016】
式中、X7は−NH2又は次式の基である。
【0017】
【化5】

【0018】
式中、aは1〜10の整数であり、好ましくはaは1である。
【0019】
式(II)及び式(I)中並びに本発明の他の態様では、リンカー(LINKER)は1〜10のヘテロ原子(例えば、酸素又は窒素)を任意に含むC1-50ヒドロカルビル基であり、好ましい排泄特性などの良好なインビボ薬物動態が得られるように選択できる。「ヒドロカルビル基」という用語は炭素及び水素からなる有機置換基を意味し、かかる基は飽和部分、不飽和部分又は芳香族部分を含み得る。好適なリンカー基には、アルキル鎖、アルケニル鎖、アルキニル鎖、芳香環、多核芳香環及びヘテロ芳香環(例えば、トリアゾール)、並びにエチレングリコール、アミノ酸又は炭水化物サブユニットを含むポリマーがあり、これらはいずれも例えば1以上のエーテル、チオエーテル、スルホンアミド又はアミド官能基で任意に置換されていてもよい。
【0020】
本明細書で用いる「クリプタンド(CRYPTAND)」という用語は、フッ化物陰イオン用の二環式又は多環式多座配位子を意味する。フッ化物イオンのような陰イオンを結合するための好適なクリプタンドは、J.W.Steed,J.L.Atwood in Supramolecular Chemistry(Wiley,New York,2000),pp198−249、Supramolecular Chemistry of Anions,Eds.A Bianchi,K Bowmann−James,E.Garcia−Espana(Wiley−VCH,New York,1997)並びにP.D.Beer,P.A.Gale,Angew.Chem.2001,113,502及びAngew.Chem.Int.Ed.2001,40,486中に総説されている。
【0021】
本明細書で用いる好適なクリプタンドには、下記式(C)のものがある。
【0022】
【化6】

【0023】
式中、
R1及びR2は下記のものから独立に選択され、
【0024】
【化7】

【0025】
R3、R4及びR5は下記のものから独立に選択される。
【0026】
【化8】

【0027】
本発明で有用な好ましいクリプタンドは、下記のものから選択できる。
【0028】
【化9】

【0029】
或いは、フッ化物イオンに対する高い結合定数、フッ化物イオン結合複合体の高い安定性、及び他の陰イオンに比べて高いフッ化物イオン選択性のような望ましい性質を有するように選択できる。本発明の一態様では、クリプタンドは正電荷を有する。
【0030】
式(I)及び式(II)の化合物では、クリプタンドはリンカー基に結合される。結合点はクリプタンド中の窒素又は炭素原子でよい。即ち、リンカー「L」への結合点は、下記のようにR1又はR2基に存在するか、或いは
【0031】
【化10】

【0032】
下記のようにR3、R4又はR5に存在する。
【0033】
【化11】

【0034】
本発明に係る好適な塩には、(i)鉱酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸)から導かれるもの並びに有機酸(例えば、酒石酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、メタンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸)から導かれるもののような、生理学的に許容される酸付加塩、並びに(ii)アンモニウム塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩及びカリウム塩)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩及びマグネシウム塩)、有機塩基(例えば、トリエタノールアミン、N−メチル−D−グルカミン、ピペリジン、ピリジン、ピペラジン及びモルホリン)との塩、及びアミノ酸(例えば、アルギニン及びリシン)との塩のような、生理学的に許容される塩基塩がある。
【0035】
本明細書で用いる「[18F]フッ化物イオン源」という用語は、反応性形態の[18F]フッ化物イオンを反応混合物に送達し得る試薬を意味する。[18F]フッ化物イオンは、簡便にはサイクロトロン内で(p,n)核反応を用いて18O富化水から製造される(Guillaume et al,Appl.Radiat.Isot.42(1991)749−762)。例えば、[18F]フッ化物イオン源はサイクロトロンからの標的水中の[18F]フッ化物イオンであってもよいし、或いは標的水から調製した[18F]フッ化物塩であってもよい。かかる[18F]フッ化物塩には、例えば、適当な溶媒(例えば、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、スルホラン、M−メチルピロリジノン又はこれらのいずれかの水性混合物)中における[18F]フッ化ナトリウム、[18F]フッ化カリウム、[18F]フッ化セシウム、[18F]フッ化テトラアルキルアンモニウム及び[18F]フッ化テトラアルキルホスホニウムがある。
【0036】
式(II)の化合物と[18F]フッ化物イオン源との反応は、適当な溶媒(例えば、「[18F]フッ化物イオン源」用の溶媒として上述したもの)中において10〜50℃のような極端でない温度、最も好ましくは周囲温度で実施するか、或いは後述のような固体支持反応として実施できる。多くの生物学的ベクターは高温で不安定であるので、周囲温度で[18F]フッ化物イオンを生物学的ベクター中に導入できることは本発明の特に有利な点である。式(II)の化合物中のクリプタンドが一定の正電荷を有していなければ、[18F]フッ化物イオン源との反応は好適には5未満のpHで実施されるが、これは塩酸又は硫酸のような酸の添加によって達成される。
【0037】
式(I)の化合物の製造後、例えば、過剰の[18F]フッ化物イオンの除去、溶媒の除去、及び式(II)の未反応化合物からの分離を含み得る精製段階(i)が必要となる場合がある。過剰の[18F]フッ化物イオンは、(例えば、BIO−RAD AG 1−X8又はWaters QMAを用いる)イオン交換クロマトグラフィー或いは(例えば、アルミナを用いる)固相抽出のような通常の技法によって式(I)の化合物の溶液から除去できる。過剰の溶媒は、真空中において高温で蒸発させること、或いは溶液の上方に不活性ガス(例えば、窒素又はアルゴン)の流れを通すことのような通常の技法によって除去できる。別法として、式(I)の化合物を固相(例えば、逆相吸着剤(例えば、C5-18誘導体化シリカ)のカートリッジ)上に捕捉しながら、不要の過剰試薬及び副生物を溶出させ、次いで式(I)の化合物を固相から精製された状態で溶出させることができる。式(II)の未反応化合物からの式(I)の化合物の分離は、例えば、式(II)の化合物への[18F]フッ化物イオンの結合によって引き起こされる電荷の減少、したがって親和性の変化を利用するアニオン性固相(例えば、マクロ孔質スルホン化ポリスチレン樹脂)上での固相抽出のような通常の技法によって実施できる。
【0038】
一実施形態では、ベクターを介して式(II)の化合物をポリマービーズ又はコーティング(例えば、トリチル又はクロロトリチル樹脂)のような固体支持体に共有結合させることができる。この態様では、放射性フッ素化反応の過剰試薬及び副生物は洗浄によってポリマー結合生成物から分離できる。固体支持体からの式(II)の化合物の切断は、固相化学の通常の技法によって(例えば、Florencio Zaragoza Dorwald,“Organic Synthesis on Solid Phase;Supports,Linker,Reactions”,Wiley−VCH(2000)に記載されているようにして)実施できる。このアプローチは、ベクターがペプチド又はタンパク質である式(I)の化合物の自動化製造のため特に好適である。
【0039】
式(I)の化合物又はその塩の製造後、それを被験体への投与に適した放射性医薬品として製剤化することが適切な場合がある。かかる製剤化段階(ii)は、10%以下の適当な有機溶媒(例えば、エタノール)を含み得る無菌等張食塩水又はリン酸塩緩衝液のような適当な緩衝液に溶解することで式(I)の化合物又はその塩の水溶液を調製することを含む場合がある。安定剤(例えば、アスコルビン酸)のような他の添加剤を製剤に添加することもできる。
【0040】
式(II)の化合物は、下記式(III)の化合物を下記式(IV)の化合物と反応させることで製造できる。
【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
式中、VECTOR及びCRYPTANDは上記に定義された通りであり、LINKER’は上記に定義されたリンカーの一部であり、RIII及びRIVは互いに共有結合することでリンカーの形成を完成し得る反応基である。好適には、RIII及びRIVの一方がアミンであり、他方がカルボン酸又は活性化カルボン酸エステル、イソシアネート或いはイソチオシアネートである結果、式(III)及び式(IV)の化合物を単純なアミン反応で結合することができる。好適な活性化カルボン酸エステルには、次式のN−ヒドロキシスクシンイミジルエステル及びN−ヒドロキシスルホスクシンイミジルエステルがある。
【0044】
【化14】

【0045】
別法として、RIII及びRIVの一方がチオールであり、他方がチオールに対して反応性を有する基(例えば、マレイミド又はα−ハロカルボニル)であってもよい。
【0046】
当業者には自明の通り、式(II)の化合物への転化時における副反応を防止又は低減するため、式(III)の化合物中のクリプタンドは露出官能基(例えば、アミノ基)上に保護基を有することが望ましい場合もある。これらの場合、保護基は問題の官能基に対して常用されるもの(例えば、アミンに対するtert−ブチルカルバメート)から選択される。他の好適な保護基は、Protecting Groups in Organic Synthesis,Theodora W.Greene and Peter G.M.Wuts,published by John Wiley & Sons Inc.中に見出すことができ、これにはさらにかかる保護基を導入及び除去するための方法も記載されている。
【0047】
式(II)のある種の化合物は、RIIIがアミノ基又はカルボン酸基である式(III)の化合物を、RIVがそれぞれカルボン酸基又はアミン基である式(IV)の化合物と反応させることで製造できる。これらの場合、任意には2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)又はN−[(ジメチルアミノ)−1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−1−イルメチレン]−N−メチルメタンアンモニウムヘキサフルオロホスフェートN−オキシド(HATU)のようなインサイチュ活性化剤を用いることで、式(II)の化合物を式(IV)の化合物に結合できる。例えば、ジメチルホルムアミド(DMF)溶液及び塩基(例えば、トリエチルアミン又はジイソプロピルエチルアミン)のような標準的条件が使用される。別法として、式(IV)の化合物中のRIVがチオール基である場合、これをRIIIがマレイミド又はα−ハロカルボニルのようなチオール反応基である化合物(III)と反応させることができる。この反応は、pH緩衝液又は有機溶媒中で実施できる。式(II)を有する生成物化合物は、分取高速液体クロマトグラフィーによって精製できよう。
【0048】
ベクターがペプチド又はタンパク質である式(II)の化合物は、例えば、Atherton,E.and Sheppard,R.C.;“Solid Phase Synthesis”;IRL Press:Oxford,1989中に記載されている固相ペプチド合成法のような標準的ペプチド合成法によって製造できる。式(II)の化合物中へのリンカー及びクリプタンドの導入は、ペプチドのN末端又はC末端の反応、或いはペプチド配列中に含まれる何らかの他の官能基であって、それの修飾がベクターの結合特性に影響を及ぼさない官能基との反応によって達成できる。上述した式(III)の化合物は、好ましくはペプチドのアミン官能基(RIV)とRIIIが活性化酸である式(III)の化合物との反応、或いは別法としてペプチドの酸官能基(RIV)とRIIIがアミンである式(III)の化合物との反応による安定なアミド結合の形成によって導入される。いずれの場合にも、式(III)の化合物はペプチド合成(例えば、固相ペプチド合成)の実施中又は実施後に導入できる。RIII又はRIVのいずれかが酸である場合、式(III)及び式(IV)の化合物の反応は、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HBTU)又はN−[(ジメチルアミノ)−1H−1,2,3−トリアゾロ[4,5−b]ピリジン−1−イルメチレン]−N−メチルメタンアンモニウムヘキサフルオロホスフェートN−オキシド(HATU)のようなインサイチュ活性化剤を用いて実施できる。本発明のかかる特定の態様の一実施形態を下記スキーム1に示す。
【0049】
【化15】

【0050】
クリプタンドは、米国特許出願公開第2004/0267009号明細書、Bernard Dietrich,Jean−Marie Lehn,Jean Guilhem and Claudine Pascard,Tetrehedron Letters,1989,Vol.30,No.31,pp 4125−4128、Paul H.Smith et al,J.Org.Chem.,1993,58,7939−7941、Jonathan W.Steed et al,2004,Journal of the American Chemical Society,126,12395−12402、及びBing−guang Zhang et al,Chem.Comm.,2004,2206−2207に記載されているようにして合成できる。
【0051】
式(III)の化合物の合成は、出発原料を変更しながら非誘導体化クリプタンドに関して上記の参考文献中に記載されているようにして、或いはそれに続く化学反応(例えば、下記実施例に例示されているようなクリプタンドの第二アミン基のアルキル化)を行うことで達成できる。式(III)の化合物はまた、下記スキーム2〜5に示されるようにして製造することもできる。式中、L及びRIIIは式(III)の化合物に関して上記に定義された通りである。
【0052】
【化16】

【0053】
【化17】

【0054】
本発明のさらに別の態様として、上記に定義されたような式(I)の化合物又はその塩が提供される。これらの化合物はPETトレーサーとして有用性を有する。ベクターがペプチド(好適にはArg−Gly−Aspペプチド又はその類似体、例えば国際公開第01/77145号及び同第03/006491号に記載されたペプチド)である式(I)の化合物が好ましい。本発明のこの態様における特に好ましいペプチドは、式(I)の化合物に関して上記に定義されたような式(A)のペプチドである。
【0055】
式(I)の化合物又はその塩は、PETイメージングのため、所望の信号を得るのに十分な量で患者に投与すればよい。通常、体重70kg当たり0.01〜100mCi、好ましくは0.1〜50mCiの典型的な放射性核種投与量はで通常は十分であるが、正確な投与量は実施すべきイメージング方法及び式(I)の化合物又はその塩の組成に依存する。
【0056】
したがって、式(I)の化合物又はその塩は、完全に当業者の技術常識に属するやり方で、生理学的に許容されるキャリヤー又は賦形剤を用いて投与用の放射性医薬品として製剤化すればよい。例えば、1種以上の薬学的に許容される賦形剤を任意に添加した式(I)の化合物又はその塩を水性媒質中に懸濁又は溶解し、次いで得られた溶液又は懸濁液を滅菌すればよい。かかる放射性医薬品は本発明のさらに別の態様をなす。
【0057】
さらに別の態様から見れば、本発明は、医学で使用するための、さらに詳しくは化合物をヒト又は動物の身体に投与する段階及び前記身体の少なくとも一部の画像を生成する段階を含むインビボイメージング方法(好適にはPET)で使用するための、上記に定義されたような式(I)の化合物又はその塩を提供する。
【0058】
さらに別の態様から見れば、本発明は、ヒト又は動物の身体の画像を生成する方法であって、上記に定義されたような式(I)の化合物又はその塩を含む放射性医薬品を前記身体(例えば、脈管系中)に投与する段階、及びPETを用いて前記放射性医薬品が分布した前記身体の少なくとも一部の画像を生成する段階を含んでなる方法を提供する。さらに別の態様では、上記に定義されたような式(I)の化合物又はその塩を含む放射性医薬品を予め投与した身体(好ましくは人体)のインビボイメージング(好適にはPETイメージング)のための方法であって、インビボイメージング技法(好適にはPET)によって前記放射性医薬品の取込みを検出する段階を含んでなる方法が提供される。
【0059】
さらに別の態様では、本発明は、放射性標識前駆体としての用途を有する、上記に定義されたような式(II)の化合物又はその塩を提供する。
【0060】
別の態様では、本発明は、例えば上述した方法によって放射性フッ素化用のベクターを官能化するために有用な式(III)の新規合成中間体を提供する。したがって、下記式(III)の化合物が提供される。
【0061】
【化18】

【0062】
式中、RIIIは上記に定義された通りであって、好ましくはアミン、カルボン酸、活性化カルボン酸エステル、イソシアネート、イソチオシアネート、チオール、マレイミド及びα−ハロカルボニルから選択され、LINKER’及びCRYPTANDは上記に定義された通りである。
【0063】
好ましい式(III)の化合物には下記のものがある。
【0064】
【化19】

【0065】
式中、Lは上記に定義されたLINKER’であり、RIIIは上記に定義された通りであって、好ましくはアミン、カルボン酸、活性化カルボン酸エステル、イソシアネート、イソチオシアネート、チオール、マレイミド及びα−ハロカルボニルから選択される。
【0066】
さらに好ましい式(III)の化合物には下記のものがある。
【0067】
【化20】

【0068】
式中、Lは上記に定義されたLINKER’であり、RIIIは上記に定義されたような反応基あって、好ましくはアミン、カルボン酸、活性化カルボン酸エステル、イソシアネート、イソチオシアネート、チオール、マレイミド及びα−ハロカルボニルから選択される。
【0069】
本発明のさらに別の態様では、例えば灌流イメージング剤として医学で使用するための下記式(V)の化合物又はその塩が提供される。
【0070】
【化21】

【0071】
式中、CRYPTANDは上記に定義された通りである。
【0072】
このような目的のための好ましい式(V)の化合物は、上記に定義されたような好ましいクリプタンドを含んでいる。このような用途のためには、式(V)の化合物又はその塩は、好適には式(I)の化合物に関して上記に記載されたような放射性医薬品として製剤化される。
【0073】
別の態様では、イメージング方法であって、上記に定義されたような式(V)の化合物又はその塩の検出可能な量を被験体に投与する段階、及びPETを用いて被験体のイメージングを行う段階を含んでなる方法が提供される。PETを用いる灌流イメージング方法は、Swaiger,J.Nucl.Med.(1994)693−8及びその中の参考文献に記載されている。
【0074】
ある種の状況下では、ベクターの放射性フッ素化用の補欠分子族を製造することが望ましい場合がある。したがって、本発明のさらに別の態様では、下記式(VI)の化合物が提供される。
【0075】
【化22】

【0076】
式中、LINKER’、CRYPTAND及びRIIIは、式(III)の化合物に関して上記に定義された通りである。
【0077】
本発明のさらに別の態様では、式(III)の合成中間体及び任意には状況に定義されたような式(IV)の化合物を含む、放射性フッ素化化合物の調製用キットが提供される。
【0078】
キットの使用に際しては、上述した方法を用いて式(III)の化合物を式(IV)の化合物と反応させること対応する式(II)の化合物を生成し、次いでそれを[18F]フッ化物イオン源と反応させることで式(I)の放射性フッ素化ベクターを生成する。任意には、上記に記載したようにして式(I)の化合物を精製及び/又は製剤化することができる。
【実施例】
【0079】
以下の実施例によって本発明を例示するが、実施例中では下記の略語を用いる。
PriOH:イソプロパノール
Et3N:トリエチルアミン
R.T.:室温
MeOH:メタノール
(t)BOC:(第三)ブトキシカルボニル
L:リットル
mL:ミリリットル
hr(s):時間
THF:テトラヒドロフラン
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
DCM:ジクロロメタン
LCMS:液体クロマトグラフィー質量分析法
NMR:核磁気共鳴
TFA:トリフルオロ酢酸
実施例1
実施例1:化合物4の合成
【0080】
【化23】

【0081】
実施例1(i):化合物1の合成
機械的撹拌機を備えた1Lの三つ口丸底フラスコに、16.7mLの98%トリプロピルアミン及び0.33Lの99%i−PrOHを仕込み、ドライアイス−イソプロパノール浴中で−78℃に冷却した。この混合物に、15.0gの40%水性グリオキサール(0.103モル)をイソプロパノールで83mLに希釈した溶液及び10.0g(0.0.683モル)の96%トリス(2−アミノエチル)アミン(「トレン」)を83mLに希釈した溶液を激しく撹拌しながら2時間かけて同時に添加した。(グリオキサールの初期濃度=1.24M、トレンの初期濃度=0.82M)。次いで、反応混合物を一晩放温し、60℃に短時間だけ加温して化合物2の生成を確実に完了させた。その表面に窒素ガスを吹き付けながら、室温に冷却した。真空下で溶媒を除去し、クロロホルム(250mL)を添加した。こうして得られたスラリーを砂で濾過し、真空下で濃縮することで、橙色の固体(5.2g、43%)を得た。
【0082】
実施例1(ii):化合物2の合成
化合物1(4g、11.2mmol)をメタノール(150mL)に溶解し、氷水浴上で冷却した。水素化ホウ素ナトリウム(8g、208mmol)を30分かけて少しずつ添加した。スティフィング(stiffing)を行いながら混合物を16時間放置して室温まで上昇させた。溶液を真空下で濃縮乾固することでオフホワイトの固体を得た。固体を水(100mL)に溶解し、60℃で1/2時間加熱すると、その間に混合物中に油状物質が生じた。THF(100mL)を添加し、有機層を分離した。水性層を再びTHF(100mL)で抽出した。抽出液を合わせ、相分離カートリッジで濾過し、真空下で濃縮乾固した。油状固体をTHF(20mL)に再溶解し、水(15mL)を添加した。溶液をゆっくりと濃縮すると白色の固体が晶出したが、これを濾過によって集め、氷冷水性で洗浄し、高真空下で乾燥した(1.6g、38%)。
【0083】
実施例1(iii):化合物3の合成
化合物2(0.1g、0.270mmol)を乾燥DMF(5mL)に溶解し、炭酸カリウム(1.1eq、0.297mmol、0.041g)を添加した。反応物から約0.1mLの容量を採取して0.1%ギ酸水溶液:アセトニトリル(1:1)10mLで希釈することによりHPLC−質量分析法で反応を追跡しながら、臭化アルキル(1.1eq、0.297mmol、81.7mg)を少しずつ添加した。反応物を室温で16時間撹拌した。さらに0.25当量の臭化アルキルを添加し、反応物をさらに16時間撹拌した。反応混合物を真空下で濃縮乾固した。これをそれ以上精製することなく次の段階で使用した。
【0084】
実施例1(iv):化合物4の合成
粗化合物3を乾燥DMF(20mL)に溶解し、ピリジン(2mL)を添加し、次いでジ−tert−ブチルカーボネート(1g、4.58mmol、17eq)を添加した。混合物を窒素下で70℃で16時間加熱した。粗生成物を薄層クロマトグラフィー(シリカゲルプレートを10%メタノール/DCMで溶出)及びLCMSによって分析した。薄層クロマトグラフィーは、0.2及び0.5のRf値を有する2つの主スポット並びに若干の小スポットを示した。混合物を、100%ペトロール40〜60ないし100%酢酸エチルで溶出するシリカゲル上のフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製した。NMR及びLCMSにより、第2の主ピークは所望のペンタ−BOC生成物であることが判明した(50mg)。
【0085】
実施例2
【0086】
【化24】

【0087】
実施例2(i):化合物5の合成
化合物2(0.1g、0.270mmol)を乾燥DMF(2mL)に溶解し、臭化アルキル(1.1eq、0.297mmol、81.07mg)の乾燥DMF(1mL)溶液を5分間かけて添加した。溶液を室温で16時間撹拌した。DMFを減圧下で除去し、白色の固体を最小量の水/メタノール(1:1)に溶解した。分取HPLC(Phenomenex luna C18(2) 150×21.2、10分で5〜70%のアセトニトリル/水)は8〜8.5分のtrを有する主ピークを与えたが、これを凍結乾燥して白色の固体(15mg)を得た。NMR及びLCMSによって構造を確認した。
【0088】
実施例2(ii):[19F]フッ化物によるフッ化物イオン結合試験
化合物5(1mg)の水(0.1mL)溶液を1N HClでpH1に酸性化し、フッ化カリウム(0.1〜1eq)の水溶液を室温で添加した。溶液を逆相HPLC(Luna C5 150×4.6mm上で1%TFA/水、1%TFA/MeCNの勾配、254nmで検出)によって分析した。
【0089】
実施例2(iii):[18F]フッ化物イオンによる化合物5のフッ化物イオン放射性標識
化合物5(0.1mg、180nmol)の50:50メタノール/水(0.2mL)溶液に1M HCl(4.5μL、4.5μmol)を添加した。この酸性化溶液を、標的水(0.05mL)中の[18F]フッ化物イオン(98MBq)を含むガラスバイアルに直接添加し、室温で20分間放置した。反応物を逆相HPLC(溶媒A=水中0.1%TFA、溶媒B=MeCN中0.1%TFA、Luna C5 150×4.6mm、254nmで検出、勾配:0〜3分(2%B)、3〜10分(2〜70%B)、10〜13分(70%B)、13〜16分(70〜2%B)、16〜21分(2%B)、流量:1mL/分)によって分析した。[18F]化合物5は10.1分の保持時間を有している。同じHPLC方法を用いて、[18F]化合物5を64%の崩壊補正単離収率で精製した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性フッ素化方法であって、下記式(II)の化合物又はその塩を[18F]フッ化物イオン源と反応させることで下記式(I)の化合物又はその塩を得る段階、次いで
(i)式(I)の化合物を精製する任意段階、及び/又は
(ii)式(I)の化合物を製剤化する任意段階
を含んでなる方法。
【化1】

【化2】

【請求項2】
ベクター(VECTOR)がペプチド、タンパク質、ホルモン、多糖、オリゴヌクレオチド、抗体フラグメント、細胞、細菌、ウイルス又は薬物様小分子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ベクターがArg−Gly−Aspペプチド又はその類似体である、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
ベクターが次式のフラグメントを含む、請求項3記載の方法。
【化3】

【請求項5】
ベクターが下記式(A)を有する、請求項4記載の方法。
【化4】

(式中、X7は−NH2又は次式の基である。
【化5】

(式中、aは1〜10の整数であり、好ましくはaは1である。))
【請求項6】
クリプタンド(CRYPTAND)が下記式(C)を有する、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【化6】

(式中、
R1及びR2は下記のものから独立に選択され、
【化7】

R3、R4及びR5は下記のものから独立に選択される。)
【化8】

【請求項7】
クリプタンドが下記のものから選択される、請求項6記載の方法。
【化9】

【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に定義された、式(I)若しくは式(II)の化合物又はその塩。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に定義された式(I)の化合物又はその塩及び生理学的に許容されるキャリヤー又は賦形剤を含んでなる放射性医薬品製剤。
【請求項10】
医学で使用するための、さらに詳しくは好適にはPETによるインビボイメージング方法で使用するための、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に定義された式(I)の化合物又はその塩。
【請求項11】
ヒト又は動物の身体の画像を生成する方法であって、請求項9記載の放射性医薬品を前記身体に投与する段階、及びPETを用いて前記放射性医薬品が分布した前記身体の少なくとも一部の画像を生成する段階を含んでなる方法。
【請求項12】
下記式(III)の化合物。
【化10】

(式中、RIIIはアミン、カルボン酸、活性化カルボン酸エステル、イソシアネート、イソチオシアネート、チオール、マレイミド及びα−ハロカルボニルから適宜に選択される反応基であり、LINKER’は請求項1ないし請求項7のいずれか1項に定義されたリンカー(LINKER)の一部であり、CRYPTANDは請求項1ないし請求項7のいずれか1項に定義された通りである。)
【請求項13】
医学で使用するための、例えば患者灌流イメージング剤として使用するための、下記式(V)の化合物又はその塩。
【化11】

(式中、CRYPTANDは請求項1ないし請求項7のいずれか1項に定義された通りである。)
【請求項14】
イメージング方法であって、請求項13に定義された式(V)の化合物又はその塩の検出可能な量を被験体に投与する段階、及びPETを用いて被験体のイメージングを行う段階を含んでなる方法。
【請求項15】
下記式(VI)の化合物。
【化12】

(式中、RIIIはアミン、カルボン酸、活性化カルボン酸エステル、イソシアネート、イソチオシアネート、チオール、マレイミド及びα−ハロカルボニルから適宜に選択される反応基であり、LINKER’は請求項1ないし請求項7のいずれか1項に定義されたリンカーの一部であり、CRYPTANDは請求項1ないし請求項7のいずれか1項に定義された通りである。)

【公表番号】特表2010−532321(P2010−532321A)
【公表日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512672(P2010−512672)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057659
【国際公開番号】WO2008/155339
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【Fターム(参考)】