説明

溶接方法及び溶接継手構造

【課題】耐応力腐食割れ性及び溶接作業性を共に向上させることができること。
【解決手段】配管11A、11Bを接合する溶接方法において、耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属12を肉盛溶接したショートリング13A、13Bを用意し、これらのショートリング13A、13Bを配管11A、11Bのそれぞれの開先部14に溶接した後に、ショートリング13Aと13Bを溶接し、前記溶接金属12を、配管13A、13Bの内面または外面の片側面、または内面及び外面の両面に肉盛溶接するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被溶接部材、特に配管や容器を溶接する際の、耐応力腐食割れ性に優れた溶接方法、及びこの溶接方法により製造される溶接継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
被溶接部材の溶接後の溶接部近傍には、通常、高い引張の残留応力が生じており、そのため、応力腐食割れの発生が懸念される。耐応力腐食割れ性に優れた低炭素ステンレス鋼にて被溶接部材が構成されている場合においても、溶接部近傍に応力腐食割れの発生が懸念される場合がある。通常は、溶接後に残留応力改善処理が行われて、溶接部の応力腐食割れの発生が抑制されるが、配管内面や原子炉内部での据付工事に伴う溶接等、残留応力改善処理が困難な場所がある。
【0003】
そのような場合に、配管等の耐応力腐食割れ性を高める方法として、配管内面に関しては、溶接接合する部位にあらかじめ耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属で肉盛溶接を行った後、配管の接合端部同士を溶接して接合する方法が開示されている(特許文献1、2)。
【0004】
また、高強度ステンレス鋼を使用したボイラ管の再熱割れを防ぐ方法として、20mm以上の長さの新材の短管を、経年材からなるボイラ管の溶接部に予め溶接して接合し、その後、短管同士を溶接してボイラ管を接合するものが開示されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2005−28405号公報
【特許文献2】特開昭54−107462号公報
【特許文献3】特開2005−319494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1及び2に記載の発明では、配管内面への肉盛溶接自体が煩雑であると共に、肉盛溶接により変形が生じるため、肉盛溶接の範囲が限定されることや、変形修正処理が必要と考えられる。このため、肉盛溶接を含めた溶接作業性が低下してしまう。
【0006】
また、特許文献3に記載の発明は、新材の短管を用いて経年材のボイラ管を溶接により接合するものであり、再熱割れの発生に対しては抑止効果を期待できるものの、溶接部における応力腐食割れ発生の抑制を期待することはできない。
【0007】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、耐応力腐食割れ性及び溶接作業性を共に向上させることができる溶接方法及び溶接継手構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る溶接方法は、被溶接部材を接合する溶接方法において、耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属を肉盛溶接した補助部材を用意し、この補助部材を前記被溶接部材の溶接接合部にそれぞれ溶接した後に、前記補助部材同士を溶接することを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る溶接継手構造は、耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属を肉盛溶接した補助部材が、被溶接部材の溶接接合部にそれぞれ溶接され、これらの補助部材同士が溶接されて構成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る溶接方法及び溶接継手構造によれば、被溶接部材の溶接を、耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属を肉盛溶接した補助部材を介在して実施するので、耐応力腐食割れ性が向上すると共に、上記溶接金属を補助部材に肉盛溶接することで、この肉盛溶接を含めた溶接作業性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
【0012】
[A]第1の実施の形態(図1、図2)
図1は、本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態を実施して製造された溶接継手構造を示す断面図である。図2は、図1の溶接継手構造を製造するための溶接方法の第1の実施の形態における溶接手順を示す動作図である。
【0013】
本実施の形態の溶接継手構造10は、被溶接部材としての配管または容器(本実施の形態では配管11A、11B)を突き合せ溶接する際に、耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属12が肉盛溶接された補助部材としてのショートリング13A、13Bを、配管11A、11Bのそれぞれの溶接接合部としての開先部14に溶接させ、これらのショートリング13Aと13Bとを突き合せ溶接して構成される。
【0014】
被溶接部材としての配管11A及び11Bは、オーステナイト系ステンレス鋼またはオーステナイト系低炭素ステンレス鋼(本実施の形態ではオーステナイト系ステンレス鋼)にて構成される。また、ショートリング13A及び13Bも、配管11A及び11Bと同一の材料が用いられ、本実施の形態ではオーステナイト系ステンレス鋼にて構成される。溶接金属12は、低炭素ステンレス鋼、例えば308ULC系、Y316L、D309MoL等にて構成される。
【0015】
ショートリング13A及び13Bは、配管または容器の形状に対応してリング形状に形成されたものである。例えば配管11A及び11Bが外径約170mm、板厚約7mmの円筒形状である場合、ショートリング13A及び13Bは、この配管11A及び11Bと同一の外径及び板厚に形成される。ショートリング13A及び13Bの軸方向長さL(図2(A)参照)は、配管11A及び11Bを模擬した模擬試験体(例えば配管11A、11Bよりも小径の配管)を突き合せ溶接したときの溶接中心から引張応力が残留する範囲を超えた寸法に設定される。
【0016】
溶接金属12は、ショートリング13A、13Bの内面15または外面16の片側面のみ(本実施の形態では内面15)に肉盛溶接される。ショートリング13Aと13Bとを突き合せ溶接したときこれらの溶接部17の近傍の内面15及び外面16の両面に、応力腐食割れ発生の要因となる引張残留応力が生ずる。ところが、ショートリング13A及び13Bの内面15は、これらのショートリング13Aと13Bとの溶接後に残留応力改善処理が困難な場所であるため、ショートリング13A及び13Bの内面15にのみ溶接金属12が肉盛溶接されるのである。
【0017】
次に、配管11Aと11Bの溶接手順を、図2を用いて説明する。
【0018】
まず、耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属12を内面15に肉盛溶接したショートリング13A及び13Bを用意する(図2(A)〜(D))。次に、これらのショートリング13A及び13Bを配管11A及び11Bのそれぞれの開先部14に溶接する(図2(E))。次に、ショートリング13Aと配管11Aとの溶接部18A、ショートリング13Bと配管11Bとの溶接部18Bのそれぞれの近傍に残留応力改善処理を実施する(図2(F))。その後、ショートリング13Aと13Bとを溶接する(図2(G))。この溶接手順を更に詳説する。
【0019】
まず、ショートリング13A及び13Bの内面15に、溶接金属12の肉盛溶接の厚さを考慮して切削等の機械加工を施す(図2(A)及び(B))。次に、ショートリング13A及び13Bの上述の機械加工された内面15の略全面に、耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属12を肉盛溶接する(図2(C))。この肉盛溶接後に、ショートリング13A及び13Bに開先部19を加工する(図2(D))。その後、ショートリング13Aの開先部19と配管11Aの開先部14とを溶接して溶接部18Aを形成し、また、ショートリング13Bの開先部19と配管11Bの開先部14とを溶接して溶接部18Bを形成する(図2(E))。
【0020】
ショートリング13Aと配管11Aとを溶接し、ショートリング13Bと配管11Bとを溶接した後に、溶接金属12の肉盛溶接部と溶接部18A及び18Bとを含めたショートリング13A及び配管11Aの内面及び外面(特に内面)と、ショートリング13B及び配管11Bの内面及び外面(特に内面)とを機械加工すると共に、ショートリング13A及び13Bに開先部20を形成する(図2(F))。尚、溶接金属12の肉盛溶接部の機械加工は、ショートリング13Aを配管11Aに、ショートリング13Bを配管11Bにそれぞれ溶接する前に実施してもよい。
【0021】
上記開先部20の機械加工後に、ショートリング13Aと配管11Aにおける溶接部18A近傍の内面及び外面に対して、更にショートリング13Bと配管11Bにおける溶接部18B近傍の内面及び外面に対して、残留応力改善処理を実施する(図2(F))。この残留応力改善処理は、ショットピーニング、レーザピーニングもしくは超音波ピーニングなどの各種ピーニング、または磨き処理により実行する。
【0022】
その後、ショートリング13Aと13Bのそれぞれの開先部20を溶接して溶接部17を形成し、配管11Aと11Bとを溶接する(図2(G))。この溶接後、配管11A、ショートリング13A、ショートリング13B及び配管11Bの外面に対して、前述と同様な残留応力改善処理を実施する。
【0023】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(3)を奏する。
【0024】
(1)耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属12を内面15に肉盛溶接したショートリング13A、13Bを配管11A、11Bにそれぞれ溶接し、ショートリング13Aと13Bとを溶接することで、配管11Aと11Bとを溶接接合する。ショートリング13Aと13Bとの溶接部17近傍では、内面15及び外面16に引張の残留応力が生ずるが、このうちの内面15に、耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属12が肉盛溶接されているので、ショートリング13Aと13Bの溶接後に、配管11A及び11B並びにショートリング13A及び13Bの内面に残留応力改善処理を実施せず、これらの外面のみに対して残留応力改善処理を実施することで、溶接された配管11A及び11B並びにショートリング13A及び13Bの耐応力腐食割れ性を向上させることができる。従って、配管11A及び11B並びにショートリング13A及び13Bの内面に対し残留応力改善処理を省略することができる。
【0025】
(2)ショートリング13A、13Bを配管11A、11Bにそれぞれ溶接した後に、これらの溶接部18A、18B近傍の内面及び外面に残留応力改善処理を実施するので、配管11Aとショートリング13A、配管11Bとショートリング13Bのそれぞれの溶接部18A、18B近傍においても、耐応力腐食割れ性を向上させることができる。
【0026】
(3)耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属12が配管11A、11Bに直接肉盛溶接されるのではなく、ショートリング13A、13Bに肉盛溶接されるので、その肉盛溶接自体を容易化できる。更に、ショートリング13A、13Bを配管11A、11Bにそれぞれ溶接する前に、溶接金属12の肉盛溶接部の変形を修正する場合には、その修正のための機械加工を容易化できる。これらの結果、溶接金属12の肉盛溶接を含めた、ショートリング13A及び13Bを介しての配管11Aと11Bの溶接作業性を向上させることができる。
【0027】
[B]第2の実施の形態(図3)
図3は、本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態を実施して製造された溶接継手構造を示す断面図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0028】
本実施の形態の溶接継手構造25が前記第1の実施の形態の溶接継手構造10と異なる点は、ショートリング13A及び13Bの内面15と外面16の両面に溶接金属12を肉盛溶接した点である。つまり、この溶接継手構造25を製造するための溶接方法においては、ショートリング13A及び13Bの内面15と外面16に、溶接金属12の肉盛溶接の厚さを考慮して切削等の機械加工を施し、この機械加工が施された内面15と外面16のそれぞれの全面に溶接金属12を肉盛溶接する。その後、前記第1の実施の形態の手順図2(D)〜(G)と同様にして、配管11Aと11Bとをショートリング13A及び13Bを用いて溶接により接合する。
【0029】
従って、本実施の形態においても、前記第1の実施の形態の効果(1)〜(3)と同様な効果を奏する。
【0030】
特に、効果(1)において、ショートリング13A及び13Bの内面15と外面16の両面に、耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属12が肉盛溶接されることで、ショートリング13Aと13Bとの溶接後に、配管11A及び11B並びにショートリング13A及び13Bの内面及び外面に対して残留応力改善処理を実施することなく、これらの配管11A及び11B並びにショートリング13A及び13Bの耐応力腐食割れ性を向上させることができる。従って、ショートリング13Aと13Bとの溶接後に、配管11A及び11B並びにショートリング13A及び13Bの内面及び外面に対して残留応力改善処理を省略することができる。
【0031】
[C]第3の実施の形態(図4)
図4は、本発明に係る溶接方法の第3の実施の形態を説明するための残留応力分布図である。この第3の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分は、同一の符号を付して説明を簡略化し、または省略する。
【0032】
本実施の形態の溶接方法が前記第1及び第2の実施の形態の溶接方法と異なる点は、配管11Aと11Bの溶接接合部に生ずる残留応力分布を、配管11A及び11Bと同一寸法の試験体による測定や、残留応力解析により求め、ショートリング13A及び13Bの寸法、すなわち軸方向長さL(図2(A)参照)を、予め求めた上述の残留応力分布の引張応力の範囲を超えて設定した点である。
【0033】
例えば、図4は、配管11A及び11Bと同一の外径及び板厚を有する試験体に、配管11Aと11Bとの溶接と同様の溶接方法を用いて溶接したときに、この試験体の内面に生ずる残留応力を測定した残留応力分布図である。この図4において実線は、試験体(配管)の周方向の残留応力分布、破線は、試験体(配管)の軸方向の残留応力分布である。
【0034】
図4の残留応力分布から試験体の内面において、溶接箇所の中心(図4の点0)から約30mmの範囲が引張応力の範囲Mであることが判る。そこで、ショートリング13A及び13Bの軸方向長さLを30mm以上に設定して、第1及び第2の実施の形態の溶接方法を実施する。
【0035】
従って、本実施の形態においても、前記第1の実施の形態の効果(1)〜(3)、及び第2の実施の形態と同様な効果を奏する。
【0036】
特に、ショートリング13A及び13Bの軸方向長さLが、実際の配管11A及び11Bと同一寸法の試験体を用いて測定した残留応力分布、または残留応力解析によって求めた残留応力分布に基づき、引張残留応力の範囲Mを超えて設定されたので、このショートリング13A及び13Bの内面15と外面16の少なくとも一方に肉盛溶接される溶接金属12の範囲が適切化される。この結果、ショートリング13Aと13Bとの溶接による引張残留応力が配管11A及び11Bに到達することを防止できることと相俟って、肉盛溶接された溶接金属12により耐応力腐食割れ性を向上させることができる。
【0037】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、本実施の形態では、被溶接部材は、配管または容器の場合を述べたが、板状部材であってもよく、これに合わせて補助部材の形状が板形状に形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る溶接方法の第1の実施の形態を実施して製造された溶接継手構造を示す断面図。
【図2】(A)〜(G)は各々図1の溶接継手構造を製造するための溶接方法の第1の実施の形態における溶接手順を示す動作図。
【図3】本発明に係る溶接方法の第2の実施の形態を実施して製造された溶接継手構造を示す断面図。
【図4】本発明に係る溶接方法の第3の実施の形態を説明するための残留応力分布図。
【符号の説明】
【0039】
10 溶接継手構造
11A、11B 配管(被溶接部材)
12 溶接金属
13A、13B ショートリング(補助部材)
14 開先部(溶接接合部)
15 内面
16 外面
17 溶接部
18A、18B 溶接部
25 溶接継手構造
L ショートリングの軸方向長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被溶接部材を接合する溶接方法において、
耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属を肉盛溶接した補助部材を用意し、
この補助部材を前記被溶接部材の溶接接合部にそれぞれ溶接した後に、
前記補助部材同士を溶接することを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記補助部材の内面または外面の片側面のみに溶接金属を肉盛溶接することを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記補助部材の内面及び外面の両面に溶接金属を肉盛溶接することを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記補助部材同士の溶接前に、被溶接部材と前記補助部材との溶接部近傍に残留応力改善処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記被溶接部材の溶接接合部に生ずる残留応力分布を試験体による測定や残留応力解析により予め求め、補助部材の寸法を、予め求めた残留応力分布の引張応力の範囲を超えて設定することを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記被溶接部材が配管または容器であり、補助部材が、前記配管または容器の形状に対応してリング形状に形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記被溶接部材及び補助部材がオーステナイト系ステンレス鋼であり、溶接金属が低炭素ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項8】
耐応力腐食割れ性に優れた溶接金属を肉盛溶接した補助部材が、被溶接部材の溶接接合部にそれぞれ溶接され、これらの補助部材同士が溶接されて構成されたことを特徴とする溶接継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−50889(P2009−50889A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219785(P2007−219785)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】