説明

α−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルを製造するための触媒およびα−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルの製造方法

【課題】 α−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルを高効率かつ低コストで製造可能な触媒、およびその触媒を用いたα−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルを製造する方法を提供する。
【解決手段】 ヘテロポリ酸およびその塩、イソポリ酸およびその塩、硫酸化ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、リン酸鉄、ならびに貴金属およびその合金からなる群より選ばれる少なくとも一つの無機化合物を含む触媒を用いて、ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルあるいは乳酸および/または乳酸エステルから、α−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルを製造するための触媒およびその触媒を用いたα−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能な資源であるバイオマスからのエネルギーおよび化学品製造技術として、バイオリファイナリー技術が注目を集めている。バイオリファイナリーとは、各種バイオマスのガス化、糖化および抽出などにより、合成ガス、グルコースなどの糖類およびリグニンなどの芳香族化合物などを製造し、それらを多様に変換することでエネルギーおよび化学品を製造しようというものである。したがって、バイオリファイナリー技術は、従来のオイルリファイナリー(石油精製)依存の大量生産、大量消費の社会から持続可能な社会へのパラダイムシフトを実現するための、非常に重要な技術として位置づけられている。
【0003】
ポリマー材料においても、植物由来原料から製造されるバイオベースプラスチックのようなカーボンニュートラルな材料は、今後需要が益々拡大することが見込まれている。なかでも、ポリ乳酸(以下、PLA)はバイオベースプラスチックとして産業界での利用が進みつつある有望な材料である。PLAは乳酸を原料として、ラクチド法などにより製造されている。PLAの原料である乳酸は、主にデンプンやセルロースの糖化によって得られるグルコースの発酵法により製造されるが、アセトアルデヒドに青酸を作用させて生じたシアンヒドリンの加水分解、1,2−プロパンジオールにおける末端アルコール基のカルボキシル基への酸化などの化学合成法によっても得ることができる。
【0004】
現在乳酸は、PLA原料としての利用が中心であるが、将来的にPLA市場がさらに拡大すれば、それに伴って乳酸の生産量も増大し、PLA用途以外に種々の化学品製造用の安価な出発原料になることも期待できる。
【0005】
これまでに、乳酸およびそのエステルを原料として種々の化学品を製造する試みは、種々なされている。例えば、ピルビン酸および/またはそのエステルの製造方法として、乳酸エステルを、錫−モリブデン系複合酸化物存在下(特許文献1)あるいはテルル−モリブデン系複合酸化物の存在下(特許文献2)で分子状酸素により酸化する方法、モリブデン、バナジウム、テルルおよび/またはアンチモンを含む複合金属酸化物触媒の存在下で分子状酸素により気相接触酸化する方法(特許文献3)、乳酸およびそのエステルを白金または/およびパラジウムに鉛、錫、テルルおよびインジウムからなる群から選ばれた1種以上の元素を含有する触媒存在下で含酸素ガスにより酸化する方法(特許文献4)、さらに、乳酸をリン酸鉄とパラジウムを含む触媒の存在下で分子状酸素により気相接触酸化する方法(特許文献5)などが挙げられる。
【0006】
あるいは、アクリル酸の製造方法として、乳酸および乳酸アンモニウムをリン酸アルミニウムにより気相接触転化する方法(特許文献6)、乳酸を超臨界条件下(非特許文献1)あるいは亜臨界条件下(非特許文献2)で転化する方法などが挙げられる。
【0007】
このように、乳酸およびそのエステルから製造可能な有用化合物は多岐にわたる。乳酸は、主にセルロースやデンプンの糖化により得られるグルコースを原料として製造される植物由来の化合物であることから、バイオリファイナリーにより種々の化学品を製造するためのプラットフォーム化合物としても期待できる。
【0008】
乳酸およびそのエステルから、ピルビン酸およびそのエステルを製造する方法は、前述のとおりである。一方でピルビン酸は、生物における糖の代謝経路である解糖に深く関与する重要な化合物であり、工業的にもグルコースを原料として発酵法によりそのナトリウム塩が製造されている。
【0009】
ピルビン酸およびそのエステルもまた、各種化学合成の中間体として有用であり、例えば、L−トリプトファン、L−システイン、L−チロシンなどのアミノ酸を合成するための原料として用いられている。
【0010】
本願発明者は、特に、式(1)で表されるα−アシロキシアクリル酸およびそのエステルに着目した。ピルビン酸メチルからα−アシロキシアクリル酸エステルを製造する方法として、ピルビン酸メチルをp−トルエンスルホン酸存在下、加熱還流条件で無水酢酸によりアシル化する方法(非特許文献3)がある。あるいは、ピリジン存在下、80℃で加熱攪拌して無水酢酸によりアシル化する方法(非特許文献4)もある。
【0011】
【化1】

式(1)において、Rは水素原子、無置換または置換アルキル基、無置換または置換アリール基である。アルキル基およびアリール基は不飽和結合を有していてもよい。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、3−メチルプロピル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、4−メチルブチル基、2,2−ジメチルペンチル基、シクロヘプチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−ウンデカニル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、フェニル基、ベンジル基が挙げられる、Rは、RCOのアシル基として、飽和脂肪酸、不飽和カルボン酸、オキソカルボン酸、芳香族カルボン酸由来の骨格を有する基であり、カルボキシル基の数に制限はなく、他の置換基や不飽和結合を同一骨格に有していてもよい。RCOのアシル基としては、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、2−メチルプロパノイル基、n−ペンタノイル基、2−メチルブタノイル基、2,2−ジメチルプロピオニル基、3−メチルブタノイル基、n−ヘキサノイル基、2−メチルペンタノイル基、3−メチルペンタノイル基、4−メチ
ルペンタノイル基、2,2−ジメチルブタノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、cis−9−オクタデセノイル基、cis,cis−9,12−オクタデカジエノイル基、9,12,15−オクタデカトリエノイル基、6,9,12−オクタデカトリエノイル基、ベンゾイル基、2−ヒドロキシベンゾイル基、4−カルボキシベンゾイル基、2−カルボキシベンゾイル基、3−カルボキシベンゾイル基、1−カルボキシプロパノイル基、カルボキシエタノイル基、cis−1−カルボキシアクリロイル基、trans−1−カルボキシアクリロイル基、β−フェニルアクリロイル基、クロトノイル基、アクリロイル基、メタクロイル基が挙げられる。
【0012】
得られたα−アシロキシアクリル酸およびそのエステルは、二重結合を有するモノマーとして、特にエステルの重合により、高い耐熱性、高い透明性および高い機械的強度を有するポリマーとしての利用が期待されている(特許文献7)。さらに、デンプンやセルロースなどから製造された植物由来のピルビン酸およびそのエステルおよび/または乳酸およびそのエステルから製造されたポリマーであれば、バイオベースポリマーとしての利用も可能である(非特許文献5)。
【特許文献1】特開平6−56743号公報
【特許文献2】特開平6−234704号公報
【特許文献3】特開2002−212139号公報
【特許文献4】特公昭61−15863号公報
【特許文献5】特開2003−146935号公報
【特許文献6】特開昭61−115049号公報
【特許文献7】特開2005−255991号公報
【非特許文献1】The Journal of Organic Chemistry,54,4596-4602(1989)
【非特許文献2】Industrial Engineering & Chemistry Research,32,2608-2613(1993)
【非特許文献3】The Journal of Organic Chemistry,29,3596-3598(1964)
【非特許文献4】Polymer International,54,1557-1563(2005)
【非特許文献5】高分子先端材料 One Point 第5巻 天然素材プラスチックス,p104,高分子学会編集,共立出版(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
α−アシロキシアクリル酸およびそのエステルについての製造方法は、非特許文献3および4に記載されたとおりである。しかしながら、該製造法においては、高温条件、脱水条件および長い反応時間といった厳しい反応条件が必要である上、多種多様な副生物が生成するため、目的物の収率は芳しくない。さらに、有機触媒としてp−トルエンスルホン酸やピリジンを用いるため、触媒の回収再利用が困難という欠点がある。また、このモノマーを重合しポリマーとするには、蒸留や抽出などの精製によりモノマー純度を高める必要がある。しかしながら、非特許文献3および4における製造方法で得られるモノマーは不純物を多く含むため、大規模で複雑な精製工程が必要になり、プロセスの高コスト化は避けられず、α−アシロキシアクリル酸およびそのエステルを、高効率かつ低コストで製造するための触媒およびその触媒を用いたα−アシロキシアクリル酸およびそのエステルの製造方法が求められている。
【0014】
したがって、本発明の目的は、α−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルを、高効率かつ低コストで製造可能な触媒、および該触媒を用いて高効率かつ低コストにα−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造するための触媒であって、ヘテロポリ酸およびその塩、イソポリ酸およびその塩、硫酸化ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、リン酸鉄、ならびに貴金属およびその合金からなる群より選ばれる少なくとも一つの無機化合物を含む触媒である。
【0016】
さらに本発明は、上記触媒の存在下、ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルとアシル化剤を反応させるα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの製造方法である。この製造方法において、液相で行うこともでき、気相で行うこともできる。
【0017】
また、本発明は、乳酸および/または乳酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造するための触媒であって、ヘテロポリ酸およびその塩、イソポリ酸およびその塩、硫酸化ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、リン酸鉄、ならびに貴金属およびその合金からなる群より選ばれる少なくとも一つの無機化合物を含む触媒である。
【0018】
さらに本発明は、上記触媒の存在下、乳酸および/または乳酸エステルとアシル化剤を反応させるα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの製造方法である。この製造方法において、液相で行うこともでき、気相で行うこともできる。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、α−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルを、高効率かつ低コストで製造するための触媒となる。さらに、本発明による触媒を用いれば、α−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステルを、従来の方法よりも高効率かつ低コストで製造可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の触媒は、以下のいずれかの反応に用いられる。
・ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造するアシル化反応。
・乳酸および/または乳酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造する酸化的アシル化反応。
【0021】
そして、本発明の触媒の存在下、ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルとアシル化剤を反応させることでα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造する。また、本発明の触媒の存在下、乳酸および/または乳酸エステルとアシル化剤を反応させることでα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造する。
【0022】
なお、α−アシロキシアクリル酸は、ピルビン酸のアシル化反応または乳酸の酸化的アシル化反応により製造される。また、α−アシロキシアクリル酸エステルは、ピルビン酸エステルのアシル化反応または乳酸エステルの酸化的アシル化反応により製造される。ピルビン酸エステル、乳酸エステルおよびα−アシロキシアクリル酸エステルにおけるエステル基の種類には特に制限はなく、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基およびそれらの置換体から、適宜選択することができる。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、3−メチルプロピル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、4−メチルブチル基、2,2−ジメチルペンチル基、シクロヘプチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−ウンデカニル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、フェニル基、ベンジル基などが挙げられる。
【0023】
本発明の触媒は、ヘテロポリ酸およびその塩、イソポリ酸およびその塩、硫酸化ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、リン酸鉄、ならびに貴金属およびその合金からなる群より選ばれる少なくとも一つ無機化合物を含む。このような無機化合物は、強い酸性または高い酸化力を有する、あるいはその両方の性質を有する。
【0024】
すなわち、ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造するアシル化反応のための触媒としては、主として強い酸性を有することが必要と推察される。また、乳酸および/または乳酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造する酸化的アシル化反応のための触媒としては、強い酸性と高い酸化力の両方の性質を有することが必要であると推察される。そして、上記無機化合物はこの機能を満足する。なお、このような無機化合物を含む無機触媒は、有機触媒に比べて安定性が高く、不均一触媒としての利用も容易で、工業的に有用である。
【0025】
なかでも、ヘテロポリ酸、イソポリ酸(以下、ヘテロポリ酸とイソポリ酸を併せてポリ酸と称することがある。)およびそれらの塩は、酸触媒あるいは酸化触媒として工業的にも広く利用されている化合物であり、特に詳細に説明する。ただし、本発明の触媒中の無機化合物が、ポリ酸およびそれらの塩に限定されるわけではない。
【0026】
ポリ酸およびその塩は、ヘテロ原子やポリ原子の種類およびそれらの組み合わせ、新たな有用元素の添加、バルクおよび表面の好適な組成および好適な結晶構造の構築などにより、その酸性度や酸化力を広範囲に調整することができ、自由度の高い触媒設計が可能である。本発明において、ポリ酸の種類に制限はないが、タングステン酸、モリブデン酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイタングステン酸およびケイモリブデン酸などが挙げられる。これらのポリ酸は、主となる骨格および成分が前述である場合、欠損型、金属置換型および部分中和塩であっても差し支えなく、異種化合物や異なる結晶相との混合物であっても差し支えない。本発明において、ポリ酸の塩の種類に制限はないが、上記ポリ酸の、セシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、ルビジウム塩、アンモニウム塩、4級アンモニウム塩、銅塩、鉄塩、銀塩、コバルト塩、ニッケル塩、ランタン塩、セリウム塩などが挙げられる。例えば、ヘテロポリ酸は、ヘテロ原子(X)とポリ原子(M)との縮合の比率によって、ケギン型(X/M=1/12)、ドーソン型(X/M=2/18)およびアンダーソン型(X/M=1/6)に大きく分類され、ケギン型は工業的にも有用な酸触媒および/または酸化触媒としてしばしば用いられている。本発明でのピルビン酸エステルのアシル化によるα−アシロキシアクリル酸エステルの製造においては、ヘテロポリ酸が好ましく、ポリ原子としてタングステンを含むケギン型ヘテロポリ酸がより好ましい。
【0027】
ポリ酸およびその塩の製造方法には特に制限はない。市販されている場合はそのまま用いてもよいし、使用前に再結晶や乾燥などの前処理を行ってもよい。ポリ酸を製造する方法としては、乾式法あるいは湿式法のいずれでもよいが、湿式法で製造する場合が多い。湿式法で製造する場合には、原料溶液の混合、熟成、スラリー化、溶媒除去、乾燥および焼成といった手順で調製する。再結晶などで精製を行ってもよい。
【0028】
本発明の触媒は、上記無機化合物からなる触媒でもよく、上記無機化合物が担体に担持された触媒でもよい。担体の種類にも特に制限はなく、金属酸化物系担体、炭素系担体および合成樹脂系担体など、上記無機化合物が効率的に固定化できる担体であればよい。無機化合物の担持率にも特に制限はない。無機化合物が担体へ固定化されることにより、生成物と触媒との分離が容易になること、高分散化による活性の向上や触媒使用量の低減、局所発熱などによる触媒の熱劣化の抑制による長寿命化などが期待できる。
【0029】
続いて、本発明の触媒を用いたα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの製造方法について、以下に説明する。
【0030】
ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの反応機構については、非特許文献5において、ケト−エノール互変異性経由の機構が提唱されている。即ち、まず、酸触媒によるピルビン酸および/またはピルビン酸エステルのα−ケト位のカルボニル酸素へのプロトン付加によりエノール体が生成する。そして、生じたエノール体がアシル化剤のカルボニル炭素へ求核攻撃することにより、α−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルが生成される。また、乳酸および/または乳酸エステルを原料とする場合には、酸化的アシル化であるため、不斉炭素上のヒドロキシル基の酸化とα−ケト位のアシル化の両方が進行する必要がある。この反応機構を考慮すれば、乳酸および/または乳酸エステルの酸化的アシル化の中間体として、ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルが生成するが、実際には、どの段階が律速であるかによって、観測できるかどうかが決定されるため、見かけ上、乳酸および/または乳酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルが一段で生成することもある。
【0031】
しかしながら、本願発明者がピルビン酸および/またはピルビン酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの反応機構について詳細な検討を行ったところ、本願発明の触媒を使用し、アシル化剤としてカルボン酸無水物を用いる場合においては、2,2−ジアシロキシ化合物を経由して、α−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルが生成していることが分かった。ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルへアシル化剤であるカルボン酸無水物が攻撃することで、式(2)で表される2,2−ジアシロキシプロピオン酸および/またはそのエステルが生成する。さらに、この2,2−ジアシロキシプロピオン酸および/またはそのエステルからカルボン酸1分子が脱離することにより、α−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルが生成する。RとRは同一でもよいし、異なっても差し支えない。例えば、同一のカルボン酸からなる酸無水物ではRとRは同一となるが、異なるカルボン酸からなる混合酸無水物ではRとRが異なる化合物が得られる。
【0032】
【化2】

式(2)において、Rは水素原子、無置換または置換アルキル基、無置換または置換アリール基である。アルキル基およびアリール基は不飽和結合を有していてもよい。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、3−メチルプロピル基、n−ペンチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、4−メチルブチル基、2,2−ジメチルペンチル基、シクロヘプチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−ウンデカニル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、フェニル基、ベンジル基が挙げられる。RおよびRは、RCOおよびRCOのアシル基として、飽和脂肪酸、不飽和カルボン酸、オキソカルボン酸、芳香族カルボン酸由来の骨格を有する基であり、カルボキシル基の数に制限はなく、他の置換基や不飽和結合を同一骨格に有していてもよい。RCOおよびRCOのアシル基としては、例えば、アセチル基、プロパノイル基、ブタノイル基、2−メチルプロパノイル基、n−ペンタノイル基、2−メチルブタノイル基、2,2−ジメチルプロピオニル基、3−メチルブタノイル基、n−ヘキサノイル基、2−メチルペンタノイル基、3−メチルペンタノイル基、4−メチルペンタノイル基、2,2−ジメチルブタノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、cis−9−オクタデセノイル基、cis,cis−9,12−オクタデカジエノイル基、9,12,15−オクタデカトリエノイル基、6,9,12−オクタデカトリエノイル基、ベンゾイル基、2−ヒドロキシベンゾイル基、4−カルボキシベンゾイル基、2−カルボキシベンゾイル基、3−カルボキシベンゾイル基、1−カルボキシプロパノイル基、カルボキシエタノイル基、cis−1−カルボキシアクリロイル基、trans−1−カルボキシアクリロイル基、β−フェニルアクリロイル基、クロトノイル基、アクリロイル基、メタクロイル基などが挙げられる。
【0033】
また、本発明の触媒は、均一系、不均一系のいずれでも使用可能である。不均一系で用いる場合には、塩として不溶化して用いても良いし、上記のように担体に担持された状態で用いることもできる。
【0034】
アシル化剤としては、コストの面からはカルボン酸が好ましいが、より反応性の高いカルボン酸無水物、カルボン酸クロライドなども用いることができる。カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸)、イソ酪酸、ペンタン酸(n−吉草酸)、イソ吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、n−ヘキサン酸、2−メチルペンタン酸、3−メチルペンタン酸、4−メチルペンタン酸、2,2−ジメチルブタン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、オレイン酸、リノール酸、(9,12,15)−リノレン酸、(6,9,12)−リノレン酸、安息香酸、サリチル酸、テレフタル酸、o−フタル酸、m−フタル酸、コハク酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、ケイ皮酸、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられ、それらの酸無水物や酸クロライドも用いることができる。また、酸無水物の場合には、異なる2種のカルボン酸からなる混合酸無水物であってもよい。例えば、アシル化剤として酢酸、無水酢酸、酢酸クロライドを使用すると、α−アセトキシアクリル酸および/またはそのエステルが製造できる。
【0035】
上記の反応は、液相で行うこともでき、気相で行うこともできる。
【0036】
上記の反応を液相で行う場合に用いる溶媒には制限はなく、水、アルコール、ケトン、カルボン酸、エステル、エーテル、脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素などのうちから選択することができ、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。ただし、上記の反応は、系内に存在する水の濃度には非常に敏感であり、多量の水が存在する場合には、エステルの加水分解や酸無水物の加水分解が支配的になり、アシル化は進行しない場合がある。例えば、したがって、原料としてエステルを用いた場合や、アシル化剤として酸クロライドおよび酸無水物を用いた場合、系内の水濃度は50質量%以下が好ましい。
【0037】
上記の反応を液相で行う場合における原料の濃度には制限はなく、所望の反応速度が得られる量を適宜選択でき、例えば、0.1〜80質量%から選択することができる。
【0038】
本発明の触媒の使用量は、所望の反応速度が得られる量を適宜選択できる。
【0039】
アシル化剤は、原料に対して当量を用いればよいが、反応を円滑に進行させるために、原料に対する当量よりも過剰に用いてもよい。例えば、原料に対して1.0〜100当量を用いることができる。
【0040】
反応圧力にも制限はなく、常圧下および加圧下のいずれにおいても行うことができる。加圧下での反応では、オートクレーブを用いることができる。系内に導入するあるいは存在するガスの種類にも、特に制限はない。
【0041】
実験室規模における反応器は、液相反応では、常圧での反応の場合にはガラス製フラスコなどが、加圧での反応の場合にはオートクレーブなどを用いることができる。反応器には必要に応じて冷却管を取り付けることができる。反応器は撹拌部を有していることが好ましく、例えばマグネチックスターラー、スリーワンモーターなどを使用することができる。反応器は加熱部を有していることが好ましく、例えばホットプレート、ヒーター付オイルバスなどを使用することができる。気相反応では、反応器としてガラス製あるいはステンレス製の反応管を用いることができ、その内径および長さは適宜選択することができる。触媒を充填した反応管を、管状電気炉などの熱源により加熱する。触媒は、適度な充填長の確保と局所発熱の抑制のため、石英やシリコンカーバイドなどの熱伝導性の高い物質により希釈して充填することもできる。反応ガスおよび雰囲気ガスは、マスフローコントローラーなどにより適切な流量に制御される。また、液体原料は、送液ポンプ、マイクロフィーダーあるいはバブラーなどによって供給され、気化器によってガスとして反応管に導入される。反応後のガスは、吸収液として捕集してもよいし、直接ガスクロマトグラフへ導入することもできる。以上は、実験室規模の場合であるが、工業的には製造規模に合わせた反応器を適宜選択して使用することができる。
【0042】
反応温度にも制限はないが、触媒が熱的な劣化を受けにくい条件で行うことが好ましい。例えば、触媒としてヘテロポリ酸の一つであるリンタングステン酸を用いる場合の反応温度は、20℃以上が好ましく、500℃以下が好ましい。
【0043】
反応形式は、液相反応においては、攪拌混合式反応器、流通接触式反応器のいずれもが使用できる。また、バッチ式、連続式のいずれも用いることができるが、生産性を考慮すれば連続式の方が有利である。気相反応においては、流通接触式反応器が好ましく、固定床および流動床のいずれも用いることができる。
【0044】
液相不均一系反応においては、反応液をそのまま遠心分離やろ過することにより触媒を分離できる。一方、液相均一系反応において触媒を分離する方法としては、例えば、ヘテロポリ酸触媒であればアルカリ金属塩を添加してヘテロポリ酸塩として沈澱させ、この沈澱を遠心分離やろ過などにより分離することができる。水溶液や極性溶媒に不溶なヘテロポリ酸塩としては、セシウム塩が一般的であり、炭酸セシウム、硝酸セシウム、塩化セシウムなどを用いてヘテロポリ酸を中和して沈澱させることができる。触媒を適宜取除いた反応液から目的物を精製する方法としては、濃縮、洗浄、抽出および蒸留などの方法が挙げられる。
【0045】
気相反応においては、まず反応で得られた出口ガスを適切な溶媒に吸収させたり、冷却して凝縮させたりするなどして目的成分を含む溶液を得る。この溶液から目的物を精製する方法としては、濃縮、洗浄、抽出および蒸留などの方法が挙げられる。
【0046】
実験室規模において、濃縮にはロータリーエバポレーターなどを用いた減圧濃縮が有効である。また、濃縮液に酢酸などの酸性物質が含まれる場合には、炭酸ナトリウム水溶液や炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して洗浄することで、酸性物質を効率よく除去することができる。例えば、酢酸は、蒸留による除去が難しい場合もあり、予め洗浄により十分に除去しておくことは重要である。前述の水溶液による洗浄は、ジエチルエーテル、ヘキサンおよびクロロホルムなどの有機溶媒への抽出と同時に行なうことができる。例えば、濃縮液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加してよく接触させた後、ジエチルエーテルを添加して分液漏斗により分液し、ジエチルエーテル相を回収する。さらに、そのジエチルエーテル相に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を添加して、十分に接触させた後に分液する。この洗浄および抽出操作を繰り返した後、得られたジエチルエーテル相を減圧濃縮して純度の高い目的物を得ることが可能である。水の混入がある場合には、抽出液に無水硫酸ナトリウムなどを添加して乾燥させればよい。小スケールでは、カラムクロマトグラフィーによる精製も有効である。また、高段数の蒸留設備を有する場合には、洗浄や抽出の操作を行うことなく、反応液の蒸留、好ましくは減圧蒸留により高純度の目的物を得ることも可能である。工業的には製造規模に合わせた単位操作を適宜選択し、それらを組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明において、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0048】
(原料および生成物の分析)
原料および生成物の分析は、ガスクロマトグラフ(GC)法により行った。溶液成分の分析には、水素炎イオン化検出器、キャピラリーカラム、スプリット/スプリットレス注入口を備え付けたガスクロマトグラフィーを用いた。ガス成分の分析には、熱伝導度検出器、パックドカラムを備え付けたガスクロマトグラフィーを用いた。また、α−アシロキシアクリル酸および/またはそのエステル、2,2−ジアシロキシプロピオン酸および/またはそのエステルの同定は、質量分析計を備え付けたガスクロマトグラフィー(GC/MS)およびエレクトロスプレーイオン化高分解能質量分析(ESI−HRMS)により行った。
【0049】
仕込みの原料量をA(モル)、反応評価後の反応液から検出された原料量をB(モル)とした場合、原料の転化率C(%)は以下のように表される。
C(%)=100×(A−B)/A
【0050】
また、ガスクロマトグラフィーにより定量された生成物のモル数をD(モル)とした場合、生成物の選択率S(%)は以下のように表される。
S(%)=100×D/(A−B)
【0051】
さらに、生成物の収率Y(%)は以下のように表される。
Y(%)=100×D/A
【0052】
[実施例1]
(反応評価)
攪拌子を入れた100mlねじ口三角フラスコに、触媒としてリンタングステン酸(HPW1240,日本無機化学工業株式会社製)1.62g、溶媒として酢酸(和光純薬工業株式会社製)12.0gを入れ、室温で攪拌して溶解させた。該溶液に、原料であるピルビン酸エチル(純度94%,和光純薬工業株式会社製)2.47gを加えた。最後に、アシル化剤として無水酢酸(和光純薬株式会社製)20.4gをゆっくりと添加して、液温を制御するための熱電対挿入用の穴を開けた蓋で密栓した。熱電対を挿入した後、ホットスターラー上で、攪拌を800rpm、温度を70℃に設定し、加熱攪拌を開始した。液温が70℃に到達して1時間経過後、加熱攪拌を止め、氷浴で反応液を冷却した。炭酸セシウム(和光純薬工業株式会社製)を適量添加した後、遠心分離により析出した触媒を沈降分離した。上澄み液4.0gを分取し、標準物質として酢酸n−ブチル(和光純薬工業株式会社製)0.50gを添加して、GCにより分析した。反応評価結果は表1に示した。
【0053】
(反応液の精製)
反応終了後の液から触媒をろ過した。ろ液をロータリーエバポレーターにより濃縮して、褐色溶液を得た。この溶液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、ジエチルエーテルを添加して分液漏斗によりジエチルエーテル相を回収した。無水硫酸ナトリウムを加えて1晩乾燥後、ジエチルエーテルをロータリーエバポレーターにより留去して、黄褐色の反応精製液を得た。
【0054】
(反応精製液の分析)
以下の手順で反応精製液中のα−アセトキシアクリル酸エチル(R=C,R=CH)と2,2−ジアセトキシプロピオン酸エチル(R=C,R=R=CH)の同定を行った。この反応精製液をGC−MSにより分析し、得られたフラグメントパターンを図1および図2に示した。図1ではm/z=158に親イオン(M)が観測され、α−アセトキシアクリル酸エチルの分子量とよく一致した。また、図2では親イオン(M,m/z=218)からエトキシ基(CHCHO,m/z=45)脱離したm/z=173のフラグメントやアセトキシル基(CHC(O)O,m/z=59)が脱離したm/z=159のフラグメントが観測され、他のフラグメントも2,2−ジアセトキシプロピオン酸エチルの構造とよく一致した。さらに、この溶液をESI−HRMSにより分析した。ヨウ化ナトリウム(NaI)を添加して測定したESI−HRMSスペクトルを図3および図4に示した。α−アセトキシアクリル酸エチル(図3)は、m/z=181.04690にC10Na([M+Na])として、2,2−ジアセトキシプロピオン酸エチル(図4)は、m/z=241.06974にC14Na([M+Na])として観測された。
【0055】
[実施例2]
(反応評価)
10mlねじ口試験管を反応容器とし、リンタングステン酸(HPW1240,関東化学株式会社製)0.079g、酢酸1.55g、ピルビン酸エチル0.32gおよび無水酢酸2.64gを添加したこと、密栓後、メタルバス(小池精密機器製作所製、形式:MB−1H−UII)で70℃、1時間加熱して反応したこと、反応中、ボルテックスミキサーにより10秒ほどの試験管振とうを10分毎に繰り返したこと、および炭酸セシウムを添加した反応液に酢酸n−ブチル0.50gを添加して遠心分離し、上澄みをGC分析したこと以外は、実施例1と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0056】
[実施例3]
(反応評価)
リンタングステン酸(HPW1240)の量を0.393gに変更したこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0057】
[実施例4]
(反応評価)
リンタングステン酸(HPW1240)の量を0.196g、反応温度を90℃、反応時間を20分に変更したこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0058】
[実施例5]
(反応評価)
反応温度を50℃、反応時間を2時間に変更したこと以外は、実施例4と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0059】
[実施例6]
(反応評価)
リンタングステン酸(HPW1240)の量を0.196g、無水酢酸の量を1.32gに変更したこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0060】
[実施例7]
(反応評価)
無水酢酸の量を0.79gに変更したこと以外は、実施例6と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0061】
[実施例8]
(反応評価)
リンタングステン酸(HPW1240)の量を0.196gに変更し、純水0.07gを添加して反応を行ったこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0062】
[実施例9]
(反応評価)
触媒として110℃で24時間乾燥したリンタングステン酸(HPW1240)0.196gを用いたこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0063】
[実施例10]
(触媒調製)
リンタングステン酸(HPW1240,関東化学株式会社製)2.00gを純水7.0gに溶解した溶液(A)と、炭酸セシウム0.107gを純水3.0gに溶解した溶液(B)をそれぞれ調製した。室温において溶液(A)を攪拌しながら、溶液(B)をパスツールピペットで少量づつ滴下すると、白色沈澱を生じ、そのまま30分間攪拌を続けた。得られた白色懸濁液を110℃の箱型乾燥機で24時間乾燥した。得られた白色固体をメノウ乳鉢で擂り潰し、CsPW1240の白色粉末を得た。
(反応評価)
触媒としてCsPW12400.198gを用いたこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0064】
[実施例11]
(触媒調製)
溶液(B)として炭酸セシウム0.268gを純水7.5gに溶解した溶液を用いたこと以外は、実施例10と同様にして触媒調製を行ない、Cs2.50.5PW1240の白色粉末を得た。
(反応評価)
触媒としてCs2.50.5PW12400.210gを用いたこと以外は、実施例10と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0065】
[実施例12]
(触媒調製)
溶液(B)として炭酸セシウム0.321gを純水9.0gに溶解した溶液を用いたこと以外は、実施例10と同様にして触媒調製を行ない、CsPW1240の白色粉末を得た。
(反応評価)
触媒としてCsPW12400.215gを用いたこと以外は、実施例10と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0066】
[実施例13]
(触媒調製)
リンタングステン酸(HPW1240,関東化学株式会社製)3.00gを純水10.0gに溶解した溶液(A)と、硝酸アルミニウム・9水和物(和光純薬工業株式会社製)0.370gを純水10.0gに溶解した溶液(B)をそれぞれ調製した。室温において溶液(A)を攪拌しながら、溶液(B)をパスツールピペットで少量づつ滴下した。室温で1時間攪拌した後、ホットスターラーにより70℃で3時間加熱攪拌して濃縮した。濃縮液を110℃の箱型乾燥機で24時間乾燥した。得られた白色固体をメノウ乳鉢で擂り潰し、AlPW1240の白色粉末を得た。
(反応評価)
触媒としてAlPW12400.191gを用いたこと以外は、実施例10と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0067】
[実施例14]
(触媒調製)
リンタングステン酸(HPW1240,関東化学株式会社製)2.00gを純水5.0gに溶解した溶液(A)と、塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)0.106gを純水5.0gに溶解した溶液(B)をそれぞれ調製した。室温において溶液(A)を攪拌しながら、溶液(B)をパスツールピペットで少量づつ滴下した。室温で1時間攪拌した後、遠心分離によるデカンテーションと純水洗浄を3回繰り返し、白色固体を得た。110℃の箱型乾燥機で24時間乾燥した。得られた白色固体をメノウ乳鉢で擂り潰し、(NHPW1240の白色粉末を得た。
(反応評価)
触媒として(NHPW12400.193gを用いたこと以外は、実施例10と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0068】
[実施例15]
(触媒調製)
リンタングステン酸(HPW1240,関東化学株式会社製)2.00gを純水5.0gに溶解した溶液(A)と、塩化ルビジウム(和光純薬工業株式会社製)0.239gを純水5.0gに溶解した溶液(B)をそれぞれ調製したこと以外は、実施例14と同様にして触媒調製を行ない、RbPW1240の白色粉末を得た。
(反応評価)
触媒としてRbPW12400.206gを用いたこと以外は、実施例14と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0069】
[実施例16]
(触媒調製)
120℃の箱型乾燥機で2時間乾燥したキャリアクトQ−10(SiO担体,粒子径75−500μm,富士シリシア化学株式会社製)5.00gを100mlナス型フラスコに入れ、リンタングステン酸(HPW1240,関東化学株式会社製)1.25gを純水50mlに溶解した溶液を添加して含浸させた。ロータリーエバポレーターによりバス温80℃において水を留去し、白色粉末を得た。得られた白色粉末を120℃の箱型乾燥機で48時間乾燥して、20質量%HPW1240/SiOを得た。
(反応評価)
触媒として20質量%HPW1240/SiO0.947gを用いたこと以外は、実施例14と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0070】
[実施例17]
(反応評価)
リンタングステン酸(HPW1240)の量を0.196gに変更し、ピルビン酸エチルの代わりにピルビン酸メチル(純度92%,和光純薬工業株式会社製)0.29gを用いたこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応液のGC−MS分析より、α−アシロキシアクリル酸エステルとして、α−アセトキシアクリル酸メチル(R=R=CH,m/z=144(M))(図5)、2,2−ジアシロキシプロピオン酸エステルとしては、2,2−ジアセトキシプロピオン酸メチル(R=R=R=CH,m/z=145;[M−59(CHC(O)O)])(図6)の生成を確認した。反応評価結果は表1に示した。
【0071】
[実施例18]
(反応評価)
リンタングステン酸(HPW1240)の代わりにケイタングステン酸(HSiW1240,日本無機化学工業株式会社製)0.160gを用いたこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0072】
[実施例19]
(反応評価)
リンタングステン酸(HPW1240)の量を0.152gに変更し、酢酸の代わりにプロピオン酸(和光純薬工業株式会社製)1.48g、ピルビン酸エチル0.25g、無水酢酸の代わりに無水プロピオン酸(和光純薬工業株式会社製)2.60gを用いたこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応液のGC−MS分析より、α−アシロキシアクリル酸エステルとして、α−プロパノイロキシアクリル酸エチル(R=R=C,m/z=172;M)(図7)の生成を確認し、2,2−ジアシロキシプロピオン酸エステルとしては、2,2−ジプロパノイロキシプロピオン酸エチル(R=R=R=C,m/z=173;[M−73(CC(O)O)])(図8)の生成を確認した。反応評価結果は表1に示した。
【0073】
[実施例20]
(反応評価)
無水プロピオン酸の代わりに無水酢酸2.04gを用いたこと以外は、実施例19と同様にして反応評価を行った。反応液のGC−MS分析より、α−アシロキシアクリル酸エステルとしては、α−アセトキシアクリル酸エチル(R=C,R=CH)およびα−プロパノイロキシアクリル酸エチル(R=R=C)の生成を確認し、2,2−ジアシロキシプロピオン酸エステルとしては、2,2−ジアセトキシプロピオン酸エチル(R=C,R=R=CH)、2,2−ジプロパノイロキシプロピオン酸エチル(R=R=R=C)および2−アセトキシ−2−プロパノイロキシプロピオン酸エチル(R=C,(R,R)=(CH,C,m/z=159;[M−73(CC(O)O)])(図9)の生成を確認した。反応評価結果は表1に示した。
【0074】
[実施例21]
(反応評価)
プロピオン酸の代わりに酢酸1.20gを用いたこと以外は、実施例19と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0075】
[実施例22]
(反応評価)
ピルビン酸エチルの代わりにピルビン酸メチル0.22gを用いたこと以外は、実施例21と同様にして反応評価を行った。反応液のGC−MS分析より、α−アシロキシアクリル酸エステルとしては、α−アセトキシアクリル酸メチル(R=R=CH)およびα−プロパノイロキシアクリル酸メチル(R=CH,R=C)の生成を確認し、2,2−ジアシロキシプロピオン酸エステルとしては、2,2−ジアセトキシプロピオン酸メチル(R=R=R=CH)、2,2−ジプロパノイロキシプロピオン酸メチル(R=CH,R=R=C)および2−アセトキシ−2−プロパノイロキシプロピオン酸メチル(R=CH,(R,R)=(CH,C))の生成を確認した。反応評価結果は表1に示した。
【0076】
[実施例23]
(反応評価)
反応容器として、攪拌子を入れた内容積50mlのオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社製、型式:TSV−N2型)を用い、圧縮空気で2.0MPaに加圧し、マグネチックスターラー上で1200rpmで攪拌しながら、コイルヒーターにより120℃に加熱して、1時間反応を行った。反応終了後、反応ガスを捕集しガスクロマトグラフィーによる分析した。それら以外は実施例1と同様にして、反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0077】
[実施例24]
(反応評価)
リンタングステン酸の代わりにH型ベータゼオライト(H−BEA−150,ズードケミー触媒株式会社製)0.10gを用い、ピルビン酸エチルの量を0.25g、酢酸の量を1.20g、無水酢酸の量を2.04gに変更したこと以外は、実施例2と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0078】
[比較例1]
(反応評価)
触媒としてp−トルエンスルホン酸一水和物(和光純薬工業株式会社製)0.029gを用いたこと以外は、実施例24と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0079】
[比較例2]
(反応評価)
p−トルエンスルホン酸一水和物の代わりに硫酸(純度97%,和光純薬工業株式会社製)0.008gを用いたこと以外は、比較例1と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0080】
[比較例3]
(反応評価)
p−トルエンスルホン酸一水和物の代わりに塩酸(純度35−37%,和光純薬工業株式会社製)0.015gを用いたこと以外は、比較例1と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0081】
[比較例4]
(反応評価)
p−トルエンスルホン酸一水和物の代わりに硝酸(純度69−70%,和光純薬工業株式会社製)0.016gを用いたこと以外は、比較例1と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0082】
[比較例5]
(反応評価)
p−トルエンスルホン酸一水和物の代わりにリン酸(純度85%,和光純薬工業株式会社製)0.006gを用いたこと以外は、比較例1と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0083】
[比較例6]
(反応評価)
p−トルエンスルホン酸一水和物の代わりにp−トルエンスルホン酸無水物(純度96%,和光純薬工業株式会社製)0.049gを用いたこと以外は、比較例1と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【0084】
[比較例7]
(反応評価)
p−トルエンスルホン酸一水和物の代わりにキャリアクトQ−10(粒子径75−500μm,富士シリシア化学株式会社製)0.10gを用いたこと以外は、比較例1と同様にして反応評価を行った。反応評価結果は表1に示した。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】溶液をGC−MSにより分析して得られたα−アセトキシアクリル酸エチルのGCピークのフラグメントパターンである。
【図2】溶液をGC−MSにより分析して得られた2,2−ジアセトキシプロピオン酸エチルのGCピークのフラグメントパターンである。
【図3】溶液にヨウ化ナトリウム(NaI)を添加して高分解能質量分析(ESI−HRMS)により測定したα−アセトキシアクリル酸エチルの質量分析結果である。
【図4】溶液にヨウ化ナトリウム(NaI)を添加して高分解能質量分析(ESI−HRMS)により測定した2,2−ジアセトキシプロピオン酸エチルの質量分析結果である。
【図5】溶液をGC−MSにより分析して得られたα−アセトキシアクリル酸メチルのGCピークのフラグメントパターンである。
【図6】溶液をGC−MSにより分析して得られた2,2−ジアセトキシプロピオン酸メチルのGCピークのフラグメントパターンである。
【図7】溶液をGC−MSにより分析して得られたα−プロパノイロキシアクリル酸エチルのGCピークのフラグメントパターンである。
【図8】溶液をGC−MSにより分析して得られた2,2−ジプロパノイロキシプロピオン酸エチルのGCピークのフラグメントパターンである。
【図9】溶液をGC−MSにより分析して得られた2−アセトキシ−2−プロパノイロキシプロピオン酸エチルのGCピークのフラグメントパターンである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造するための触媒であって、ヘテロポリ酸およびその塩、イソポリ酸およびその塩、硫酸化ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、リン酸鉄、ならびに貴金属およびその合金からなる群より選ばれる少なくとも一つの無機化合物を含む触媒。
【請求項2】
乳酸および/または乳酸エステルからα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルを製造するための触媒であって、ヘテロポリ酸およびその塩、イソポリ酸およびその塩、硫酸化ジルコニア、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、リン酸鉄、ならびに貴金属およびその合金からなる群より選ばれる少なくとも一つの無機化合物を含む触媒。
【請求項3】
請求項1に記載の触媒の存在下、ピルビン酸および/またはピルビン酸エステルとアシル化剤を反応させるα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
液相で行う請求項3に記載のα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
気相で行う請求項3に記載のα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項6】
請求項2に記載の触媒の存在下、乳酸および/または乳酸エステルとアシル化剤を反応させるα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項7】
液相で行う請求項6に記載のα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項8】
気相で行う請求項6に記載のα−アシロキシアクリル酸および/またはα−アシロキシアクリル酸エステルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−255023(P2009−255023A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127867(P2008−127867)
【出願日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】