説明

α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の製造方法

【課題】α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の実用的な製造方法を提供する。
【解決手段】α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類とヒドロキシルアミンを反応させることによりα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体に変換し、該脱水素閉環体を加水素分解することによりα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を製造することができる。本製造方法では、官能基が保護されていないフリーのアミノ酸である、新規なα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を製造することができ、β位置換基も芳香環基または置換芳香環基に限定されず、α位とβ位の相対的な立体化学も制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品中間体として重要なα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類は、医薬品中間体として重要である。従来の製造方法として、(1)α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類とアジ化水素(HN)を反応させる方法(非特許文献1)、(2)2−ブロモ−3,3,3−トリフルオロプロパン酸誘導体とイミン類を反応させる方法(非特許文献2)等が挙げられる。
【0003】
α−トリフルオロメチルアクリル酸誘導体と窒素求核剤の反応による、β位無置換体の合成例は数多く報告されているが、β位置換体の製造方法は極めて限られている。
【非特許文献1】Tetrahedron(英国),2006年,第62巻,p.11760−11765
【非特許文献2】Chemical Communications(英国),2006年,p.3628−3630
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の実用的な製造方法を提供することにある。そのためには、従来技術の問題点を解決する必要がある。
【0005】
非特許文献1に対しては、爆発性および毒性の有るアジ化水素の使用を回避する必要がある。非特許文献2に対しては、アトムエコノミーを改善する必要がある。さらに、これらの非特許文献では、β位置換基が芳香環基または置換芳香環基に限られている。
【0006】
また、本発明の様なアミノ酸類の製造においては、用途に応じてアミノ基とカルボキシル基の保護基が自由に選択できる、フリーのアミノ酸[HN−COH]の製造が強く望まれていた。本発明で対象とする、フリーのアミノ酸であるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の合成経路設計(官能基の脱保護工程も含めて)に当たっては、α位プロトンの高い酸性度に起因する副反応(エピ化、脱フッ化水素、脱アンモニア等)を十分に考慮する必要がある。実際に、レフォルマトスキー反応で得られた生成物の、カルボキシル基への加水分解が容易に進行しないことが報告されている(非特許文献2)。
【0007】
最後に、β位置換体においては、α位トリフルオロメチル基に対する立体化学の制御が重要な課題になる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を踏まえて鋭意検討した結果、α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類とヒドロキシルアミンを反応させることによりα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体に変換し(第一工程)、該脱水素閉環体を加水素分解することにより(第二工程)、α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類が製造できることを見出した。本製造方法では、β位に置換基を有する、官能基が保護されていないフリーのアミノ酸を製造することができる。また、β位置換基が芳香環基または置換芳香環基に限定されない。さらに、原料基質であるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類の二重結合の立体化学がE体とZ体の混合物であっても、目的生成物であるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の相対配置が制御できることも明らかにした(特にβ位置換基がアルキル基または置換アルキル基の場合には、相対配置を高度に制御することができる)。
【0009】
第一工程で得られるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体は新規化合物であり、さらに加水素分解により容易にα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類に変換できるため、該アミノ酸類の極めて有用な前駆体である。また、本発明で得られる、フリーのアミノ酸であるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類も新規化合物であり、医薬品中間体としてだけでなく、生理活性を有する天然のβ−アミノ酸のアナログとしても極めて重要である。
【0010】
すなわち、本発明は[発明1]から[発明6]を含み、α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の実用的な製造方法を提供する。
【0011】
[発明1]
一般式[1]
【0012】
【化13】

【0013】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類と、式[2]
【0014】
【化14】

【0015】
で示されるヒドロキシルアミンを反応させることにより、一般式[3]
【0016】
【化15】

【0017】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体に変換し、該脱水素閉環体を加水素分解することにより、一般式[4]
【0018】
【化16】

【0019】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を製造する方法。
[式中、Rはアルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。一般式[1]の波線は、二重結合の立体化学がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物であることを表し、一般式[3]および一般式[4]の波線は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物であることを表す。]
[発明2]
一般式[5]
【0020】
【化17】

【0021】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類と、式[2]
【0022】
【化18】

【0023】
で示されるヒドロキシルアミンを反応させることにより、一般式[6]
【0024】
【化19】

【0025】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体に変換し、該脱水素閉環体を加水素分解することにより、一般式[7]
【0026】
【化20】

【0027】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を製造する方法。
[式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、Rはアルキル基を表す。一般式[5]の波線は、二重結合の立体化学がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物であることを表し、一般式[6]の相対配置の表示は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がアンチ体であることを表し、一般式[7]の相対配置の表示は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体であることを表す。]
[発明3]
一般式[3]
【0028】
【化21】

【0029】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体。
[式中、Rはアルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。波線は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物であることを表す。]
[発明4]
一般式[6]
【0030】
【化22】

【0031】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体。
[式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。相対配置の表示は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がアンチ体であることを表す。]
[発明5]
一般式[4]
【0032】
【化23】

【0033】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類。
[式中、Rはアルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。波線は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物であることを表す。]
[発明6]
一般式[7]
【0034】
【化24】

【0035】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類。
[式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。相対配置の表示は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体であることを表す。]
【発明の効果】
【0036】
本発明が従来技術に比べて有利な点を以下に述べる。
【0037】
本発明の製造方法では、爆発性および毒性の有る反応剤を用いる必要がなく、さらにアトムエコノミーも格段に高い。また、本製造方法では、官能基が保護されていないフリーのアミノ酸である、新規なα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を製造することができ、β位置換基も芳香環基または置換芳香環基に限定されず、α位とβ位の相対的な立体化学も制御することができる。
【0038】
この様に、本発明の製造方法は、従来技術の問題点を全て解決するだけでなく、操作が簡便で生産性も高く、分離の難しい不純物も殆ど副生しないため、工業的にも実施容易な製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
本発明のα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の製造方法について詳細に説明する。
【0040】
本発明は、一般式[1]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類と、式[2]で示されるヒドロキシルアミンを反応させることにより、一般式[3]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体に変換し(第一工程)、該脱水素閉環体を加水素分解することにより(第二工程)、一般式[4]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を製造する方法である。
【0041】
(1)第一工程
一般式[1]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類のRは、アルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。その中でもアルキル基および置換アルキル基が好ましく、特にアルキル基がより好ましい。
【0042】
アルキル基は、炭素数が1から18の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を採ることができる。芳香環基は、炭素数が1から18の、フェニル基、ナフチル基、アントリル基等の芳香族炭素水素基、またはピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ベンゾフリル基、ベンゾチエニル基等の窒素原子、酸素原子または硫黄原子等のヘテロ原子を含む芳香族複素環基を採ることができる。アルコキシカルボニル基(−COR)のアルキル基(R)は、上記のアルキル基と同じである。
【0043】
該アルキル基、芳香環基およびアルコキシカルボニル基は、任意の炭素原子上に、任意の数でさらに任意の組み合わせで、置換基を有することもできる(それぞれ置換アルキル基、置換芳香環基および置換アルコキシカルボニル基に対応する)。係る置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素のハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、メチル基、エチル基、プロピル基等の低級アルキル基、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基等の低級ハロアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等の低級アルコキシ基、フルオロメトキシ基、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基等の低級ハロアルコキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等の低級アルキルアミノ基、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基等の低級アルキルチオ基、シアノ基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基等の低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基(CONH)、ジメチルアミノカルボニル基、ジエチルアミノカルボニル基、ジプロピルアミノカルボニル基等の低級アミノカルボニル基、アルケニル基、アルキニル基等の不飽和基、フェニル基、ナフチル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基等の芳香環基、フェノキシ基、ナフトキシ基、ピロリルオキシ基、フリルオキシ基、チエニルオキシ基等の芳香環オキシ基、ピペリジル基、ピペリジノ基、モルホリニル基等の脂肪族複素環基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基(アミノ酸またはペプチド残基も含む)、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体等が挙げられる。なお、本明細書において、次の各用語は、それぞれ次に掲げる意味で用いられる。“低級”とは、炭素数が1から6の、直鎖または枝分れの鎖式、または環式(炭素数が3以上の場合)を意味する。“不飽和基”が二重結合の場合(アルケニル基)は、E体またはZ体の両方の幾何異性を採ることができる。“ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、アルデヒド基およびカルボキシル基の保護基”としては、Protective Groups in Organic Synthesis,Third Edition,1999,John Wiley & Sons,Inc.に記載された保護基等を用いることができる(2つ以上の官能基を1つの保護基で保護することもできる)。また、“不飽和基”、“芳香環基”、“芳香環オキシ基”および“脂肪族複素環基”には、ハロゲン原子、アジド基、ニトロ基、低級アルキル基、低級ハロアルキル基、低級アルコキシ基、低級ハロアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、低級アルキルチオ基、シアノ基、低級アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、低級アルキルアミノカルボニル基、ヒドロキシル基、ヒドロキシル基の保護体、アミノ基、アミノ基の保護体、チオール基、チオール基の保護体、アルデヒド基、アルデヒド基の保護体、カルボキシル基、カルボキシル基の保護体等が置換することもできる。これらの置換基の中には第一工程で求核剤として働くものや、第二工程で還元されるものも含まれているが、好適な反応条件を採用することにより各工程の所望の反応を選択的に行うことができる。
【0044】
一般式[1]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類のRは、アルキル基または置換アルキル基を表す。その中でもアルキル基が好ましく、特にメチル基およびエチル基がより好ましい。
【0045】
アルキル基および置換アルキル基は、上記のRのアルキル基および置換アルキル基と同じである。
【0046】
一般式[1]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類の波線は、二重結合の立体化学がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物であることを表す。
【0047】
一般式[1]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類は、Journalof Fluorine Chemistry(オランダ),2002年,第113巻,p.177−183およびTetrahedronLetters(英国),2001年,第42巻,p.5929−5931等を参考にして製造することができる。
【0048】
式[2]で示されるヒドロキシルアミンの使用量は、一般式[1]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、通常は0.8から10モルが好ましく、特に0.9から5モルがより好ましい。
【0049】
式[2]で示されるヒドロキシルアミンは、そのもの以外に、水溶液、ポリマー担持体、酸との塩(塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩等)等を用いることができる。酸との塩を用いる場合には、反応系内で塩基の存在下にヒドロキシルアミンを遊離させ反応に供する方法が簡便である。
【0050】
係る塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、ピリジン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、3,5−ルチジン、2,4,6−コリジン等の有機塩基、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基が挙げられる。その中でもトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、2,4,6−コリジン、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましく、特にトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6−ルチジン、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムがより好ましい。
【0051】
係る塩基の使用量は、酸との塩に含まれるヒドロキシルアミン1モルに対して0.7モル以上を用いれば良く、通常は0.8から10モルが好ましく、特に0.9から5モルがより好ましい。
【0052】
反応溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル系、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド系、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系、水等が挙げられる。その中でもn−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、アセトニトリル、プロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノールが好ましく、特にn−ヘプタン、トルエン、塩化メチレン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールがより好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。また、本発明においては無溶媒で反応を行うこともできる。
【0053】
反応溶媒の使用量は、一般式[1]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類1モルに対して0.01L(リットル)以上を用いれば良く、通常は0.03から10Lが好ましく、特に0.05から7Lがより好ましい。
【0054】
温度条件は、−30から+120℃の範囲で行えば良く、通常は−20から+110℃が好ましく、特に−10から+100℃がより好ましい。
【0055】
反応時間は、72時間以内の範囲で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0056】
後処理は、反応終了液(必要に応じて反応溶媒を濃縮する)を有機溶媒(例えば、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、塩化メチレン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテルまたは酢酸エチル等)で希釈し、水またはアルカリ金属の無機塩基(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウム等)の水溶液で洗浄し(必要に応じて無水硫酸ナトリウムまたは無水硫酸マグネシウム等の乾燥剤で乾燥する)、回収した有機層を濃縮することにより、一般式[3]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体を粗生成物として得ることができる。一般式[3]の波線は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物であることを表す。特にβ位置換基がアルキル基または置換アルキル基の場合には、相対配置をアンチ体に高度[90%de(ジアステレオマー過剰率)以上]に制御することができる。粗生成物は、必要に応じて活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い化学純度に精製することができる。カラムクロマトグラフィーによればマイナーなジアステレオマーも単離することができる。
【0057】
本発明は、第一工程の後処理を行わずに、連続的に第二工程を実施することができる。具体的には、第一工程の反応終了液に、遷移金属触媒を加え(必要に応じて第二工程の反応溶媒を加え)、水素ガス(H)雰囲気下にすることにより、加水素分解を行うことができる。本発明の目的は、α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の実用的な製造方法を提供することにあり、この様な観点から上記のワンポット反応は好適な態様と言える。
【0058】
一般式[6]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体の立体化学は、相対配置を表示しているため、一般式[8]
【0059】
【化25】

【0060】
で表示される立体化学の化合物と同じである。
(2)第二工程
第二工程は、遷移金属触媒の存在下に、一般式[3]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体と水素ガス(H)を反応させることにより達する。
【0061】
遷移金属触媒としては、白金黒、白金/活性炭、白金/グラファイト、白金/アルミナ、白金/ジルコニア、酸化白金等の白金触媒、還元ニッケル、ラネーニッケル、ラネーニッケルスポンジ、白金付きラネーニッケル等のニッケル触媒、イリジウム黒、イリジウム/炭酸カルシウム、酸化イリジウム等のイリジウム触媒、パラジウム黒、パラジウムスポンジ、パラジウム/活性炭、パラジウム/アルミナ、パラジウム/炭酸カルシウム、パラジウム/炭酸ストロンチウム、パラジウム/硫酸バリウム、水酸化パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム等のパラジウム触媒等が挙げられる。その中でもパラジウム触媒が好ましく、特にパラジウム/活性炭、パラジウム/アルミナ、パラジウム/炭酸カルシウム、パラジウム/硫酸バリウムおよび水酸化パラジウムがより好ましい。これらの遷移金属触媒は単独または組み合わせて用いることができる。遷移金属を担体に担持させた触媒を用いる場合の担持量は、0.1から50重量%を用いれば良く、通常は0.5から40重量%が好ましく、特に1から30重量%がより好ましい。また、遷移金属触媒は含水品を用いることもでき、さらに取り扱いの安全性を高めるために、または金属表面の酸化を防ぐために、水または不活性な液体中に保存したものを用いることもできる。
【0062】
遷移金属触媒の使用量は、一般式[3]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体1モルに対して触媒量を用いれば良く、通常は0.00001から0.5モルが好ましく、特に0.0001から0.3モルがより好ましい。
【0063】
水素ガスの使用量は、一般式[3]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体1モルに対して1モル以上を用いれば良く、通常は過剰量が好ましく、特に加圧条件下に過剰量がより好ましい。
【0064】
係る水素ガスの加圧条件は、5MPa以下の範囲で行えば良く、通常は0.01から4MPaが好ましく、特に0.03から3MPaがより好ましい。
【0065】
反応溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル等のエステル系、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系、水等が挙げられる。その中でもトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジイソプロピルエーテル、tert−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、メタノール、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノールが好ましく、特にトルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、メタノール、エタノールおよびイソプロパノールがより好ましい。これらの反応溶媒は単独または組み合わせて用いることができる。また、本発明においては無溶媒で反応を行うこともできる。
【0066】
反応溶媒の使用量は、一般式[3]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体1モルに対して0.01L以上を用いれば良く、通常は0.03から20Lが好ましく、特に0.05から10Lがより好ましい。
【0067】
温度条件は、−30から+150℃の範囲で行えば良く、通常は−20から+125℃が好ましく、特に−10から+100℃がより好ましい。
【0068】
反応時間は、48時間以内の範囲で行えば良く、原料基質および反応条件により異なるため、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、核磁気共鳴等の分析手段により反応の進行状況を追跡し、原料基質が殆ど消失した時点を終点とすることが好ましい。
【0069】
後処理は、反応終了液に残存する遷移金属触媒を濾過し、濾液を濃縮することにより、一般式[4]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を粗生成物として得ることができる。一般式[4]の波線は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物であることを表す。特にβ位置換基がアルキル基または置換アルキル基の場合には、相対配置をシン体に高度[90%de(ジアステレオマー過剰率)以上]に制御することができる。粗生成物は、必要に応じて活性炭処理、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等により、高い化学純度に精製することができる。カラムクロマトグラフィーによればマイナーなジアステレオマーも単離することができる。また、“酸との塩”または“塩基との塩”に変換して単離することもでき、必要に応じて塩の再結晶等により、さらに高い化学純度に精製することもできる。
【0070】
係る酸としては、塩化水素、臭化水素、硫酸または硝酸等の無機酸、または、マレイン酸、フマル酸、フタル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、リンゴ酸、酒石酸またはマンデル酸等の有機酸(光学異性体が存在する場合には、必要に応じて任意の光学活性体を用いることができる)が挙げられる。
【0071】
係る塩基としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化カルシウム等の無機塩基、または、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シスまたはトランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン(光学異性体が存在する場合には、必要に応じて任意の光学活性体を用いることができる)等の有機塩基が挙げられる。
【0072】
一般式[7]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の立体化学は、相対配置を表示しているため、一般式[9]
【0073】
【化26】

【0074】
で表示される立体化学の化合物と同じである。一般式[6]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体からは、一般式[7]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類が得られ、また一般式[8]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体からは、一般式[9]で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類が得られる。
【0075】
本発明においては、α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類とヒドロキシルアミンを反応させることによりα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体に変換し、該脱水素閉環体を加水素分解することによりα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を製造することができる(態様1)。
【0076】
原料基質としては、β位の置換基がアルキル基または置換アルキル基であり、さらにエステル基がアルキルエステルである場合がより好ましい。該原料基質は入手が容易であり、所望の反応が良好に進行し、得られるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の相対対置も高度に制御することができる(態様2)。
【0077】
態様1で得られるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体は新規化合物であり、さらに加水素分解により容易にα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類に変換できるため、該アミノ酸類の極めて有用な前駆体である(態様3)。
【0078】
態様3の内、β位の置換基がアルキル基または置換アルキル基である場合がより好ましい態様である(態様4)。
【0079】
態様1で得られる、フリーのアミノ酸であるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類も新規化合物であり、医薬品中間体としてだけでなく、生理活性を有する天然のβ−アミノ酸のアナログとしても極めて重要である(態様5)。
【0080】
態様5の内、β位の置換基がアルキル基または置換アルキル基である場合がより好ましい態様である(態様6)。
【0081】
[実施例]
実施例により本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
下記式
【0083】
【化27】

【0084】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類(E体:Z体=44:56)500mg(2.379mmol、1.00eq)に、メタノール5mL、トリエチルアミン563mg(5.564mmol、2.34eq)と下記式
【0085】
【化28】

【0086】
で示されるヒドロキシルアミンの塩酸塩333mg(4.792mmol、2.01eq)を加え、室温で2時間攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィーより、変換率は99%であった。反応終了液を酢酸エチル30mLで希釈し、水30mLで2回洗浄し、回収した有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0087】
【化29】

【0088】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体を300mg得た。収率は64%であった。ガスクロマトグラフィー純度(反応終了液の変換率測定時の分析値)は90.8%であった。1H−NMRおよび19F−NMRより、生成物は単一のジアステレオマーであった(相対配置は、後述の単結晶X線構造解析によりアンチ体と決定した)。
【0089】
α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類およびα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体の1H−NMRと19F−NMRを下に示す。
α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類(ガスクロマトグラフィー純度97.5%)
1H−NMR(基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;1.09(m、6H)、1.33(m、3H)、3.08(Z体、m、トータルで1H)、3.29(E体、m、トータルで1H)、4.29(m、2H)、6.56(E体、d、10.2Hz、トータルで1H)、6.97(Z体、d、11.0Hz、トータルで1H)。
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;97.80(E体、s、トータルで3F)、103.05(Z体、s、トータルで3F)。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体
1H−NMR(基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;1.03(d、7.2Hz、3H)、1.05(d、7.2Hz、3H)、1.99(m、1H)、3.31(dq、4.2Hz、9.2Hz、1H)、3.74(m、1H)、7.10(br、1H)。
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;94.35(s、3F)。
【0090】
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体のHR−MSを下に示す。
Obsd.m/z 198.073(Calc.Mass 198.074、Error(ppm) −1.4、Assignment C11NO、Calc.Structure [M+H])。
【0091】
上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体100mg(0.507mmol、1.00eq)に、メタノール3mLと5%パラジウム/活性炭2.4mg(50%含水品、0.00056mmol、0.001eq)を加え、水素ガス(H)の圧力を0.6MPaに設定し、室温で終夜攪拌した。反応終了液のガスクロマトグラフィーより、変換率は92%であった。反応終了液をセライト濾過し、濾液を減圧濃縮し、真空乾燥することにより、下記式
【0092】
【化30】

【0093】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を109mg得た。収率は定量的であった。1H−NMRおよび19F−NMRより、生成物は単一のジアステレオマーであった。
【0094】
過剰量の濃塩酸を加え、減圧濃縮し、真空乾燥することにより、α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類のHCl塩を結晶として得た。単結晶X線構造解析により、α位とβ位の相対配置はシン体であった。
【0095】
メタノール40mLに、同様に製造した該塩酸塩4.52g(19.2mmol)とp−トルエンスルホン酸一水和物3.65g(19.2mmol、1.00eq)を加え、40から50℃で加熱溶解し、メタノールを減圧濃縮し、残渣にイソプロパノール27mLとn−ヘプタン6mLを加え、90℃で加熱溶解し、室温まで徐々に降温し、析出した結晶を濾過し、少量のn−ペプタンで洗浄し、真空乾燥することにより、上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類のp−トルエンスルホン酸塩を6.12g得た。回収率は86%であった。ジアステレオマー比は1H−および19F−NMR分析よりシン体:アンチ体=>98:2であった。
【0096】
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類、該HCl塩および該p−トルエンスルホン酸塩の1H−NMRと19F−NMRを下に示す。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類
1H−NMR(基準物質;内部ロック、重溶媒;DO)、δ ppm;0.90(d、6.8Hz、3H)、0.94(d、6.8Hz、3H)、2.00(m、1H)、3.29(m、1H)、3.46(m、1H)。
19F−NMR(基準物質;CFSOK、重溶媒;DO)、δ ppm;12.33(d、9.4Hz、3F)。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類のHCl塩
1H−NMR(基準物質;内部ロック、重溶媒;DO)、δ ppm;0.90(d、6.8Hz、3H)、0.93(d、6.8Hz、3H)、2.00(m、1H)、3.53(m、2H)。
19F−NMR(基準物質;CFSOK、重溶媒;DO)、δ ppm;12.51(d、12.0Hz、3F)。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類のp−トルエンスルホン酸塩
1H−NMR(基準物質;内部ロック、重溶媒;DO)、δ ppm;0.92(d、7.0Hz、3H)、0.95(d、7.0Hz、3H)、2.02(m、1H)、2.27(s、3H)、3.43−3.54(m、2H)、7.24(d、8.3Hz、2H)、7.56(d、8.3Hz、2H)/NH、COHおよびSOHは特定できず。
19F−NMR(基準物質;CFSOK、重溶媒;DO)、δ ppm;12.43(d、9.0Hz、3F)。
【0097】
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類のHR−MSを下に示す。
Obsd.m/z 200.089(Calc.Mass200.089、Error(ppm) −0.6、Assignment C13NO、Calc.Structure[M+H])。
【0098】
[実施例2]
メタノール45mLに、下記式
【0099】
【化31】

【0100】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類(E体:Z体=61:39)7.70g(42.3mmol、1.00eq)を加え、氷浴で冷却し、下記式
【0101】
【化32】

【0102】
で示されるヒドロキシルアミンの50%水溶液2.79g(42.2mmol、1.00eq)を加え、20℃で終夜攪拌し、さらに30から35℃で3時間30分攪拌した。反応混合液の1H−および19F−NMR分析より、下記式
【0103】
【化33】

【0104】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体が単一のジアステレオマー(>95:5)として定量的に生成していることを確認した(メジャージアステレオマーの相対配置は、実施例1との類似性からアンチ体と決定した)。
【0105】
α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類およびα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体の1H−および19F−NMRを下に示す。
α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類
1H−NMR(基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;1.33(m、3H)、2.09(Z体、m、トータルで3H)、2.17(E体、m、トータルで3H)、4.29(m、2H)、6.95(E体、m、トータルで1H)、7.33(Z体、m、トータルで1H)。
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;97.62(E体、s、トータルで3F)、102.98(Z体、s、トータルで3F)。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体
1H−NMR(基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;1.47(d、6.4Hz、3H)、3.19(m、1H)、4.14(m、1H)/NHは特定できず。
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;94.42(d、6.0Hz、3F)。
【0106】
上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体の反応終了液(42.3mmolとする)に、メタノール40mLと5%パラジウム/活性炭900mg(50%含水品、0.211mmol、0.005eq)を加え、水素ガス(H)の圧力を0.5MPaに設定し、室温で2時間30分攪拌した。反応混合液の1H−および19F−NMR分析より、下記式
【0107】
【化34】

【0108】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類が単一のジアステレオマー(>95:5)として定量的に生成していることを確認した(メジャージアステレオマーの相対配置は、実施例1との類似性からシン体と決定した)。上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の反応終了液(42.3mmolとする)に、37%塩酸4mL(48.7mmol、1.15eq)と水6mLを加え、セライト濾過し、残渣を少量のメタノールで洗浄し、減圧濃縮し、真空乾燥し、さらにトルエン10mLで共沸脱水することにより、上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の塩酸塩を8.00g得た。
【0109】
メタノール15mLに、該塩酸塩1.30g(6.87mmolとする)とp−トルエンスルホン酸一水和物1.36g(7.15mmol、1.04eq)を加え、40から50℃で加熱溶解し、大部分のメタノール(約13mL)を減圧濃縮し、析出した結晶を濾過し、少量のn−ペプタンで洗浄し、真空乾燥することにより、上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類のp−トルエンスルホン酸塩(精製品)を960mg得た。α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類からのトータル収率は41%であった。ジアステレオマー比は1H−および19F−NMR分析よりシン体:アンチ体=>98:2であった。
【0110】
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の塩酸塩およびp−トルエンスルホン酸塩の1H−および19F−NMRを下に示す。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の塩酸塩
1H−NMR(基準物質;内部ロック、重溶媒;DO)、δ ppm;1.35(d、6.8Hz、3H)、3.50(m、1H)、3.89(m、1H)/NH、COHおよびHClは特定できず。
19F−NMR(基準物質;CFSOK、重溶媒;DO)、δ ppm;13.59(d、9.0Hz、3F)。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類のp−トルエンスルホン酸塩
1H−NMR(基準物質;内部ロック、重溶媒;DO)、δ ppm;1.36(d、6.8Hz、3H)、2.28(s、3H)、3.46(m、1H)、3.89(m、1H)、7.25(d、8.4Hz、2H)、7.57(d、8.4Hz、2H)/NH、COHおよびSOHは特定できず。
19F−NMR(基準物質;CFSOK、重溶媒;DO)、δ ppm;13.50(d、9.0Hz、3F)。
【0111】
[実施例3]
メタノール70mLに、下記式
【0112】
【化35】

【0113】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類(E体:Z体=55:45)16.0g(76.1mmol、1.00eq)を加え、氷浴で冷却し、下記式
【0114】
【化36】

【0115】
で示されるヒドロキシルアミンの50%水溶液5.03g(76.1mmol、1.00eq)を加え、室温で1日間攪拌し、さらに35℃で6時間攪拌した。反応混合液を1H−および19F−NMR分析より、下記式
【0116】
【化37】

【0117】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体が単一のジアステレオマー(>95:5)として定量的に生成していることを確認した(メジャージアステレオマーの相対配置は、実施例1との類似性からアンチ体と決定した)。
【0118】
α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類およびα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体の1H−および19F−NMRを下に示す。
α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類
1H−NMR(基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;0.97(m、3H)、1.33(m、3H)、1.54(m、2H)、2.46(Z体、m、トータルで2H)、2.57(E体、m、トータルで2H)、4.29(m、2H)、6.82(E体、m、トータルで1H)、7.20(Z体、m、トータルで1H)。
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;97.77(E体、s、トータルで3F)、103.08(Z体、s、トータルで3F)。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体
1H−NMR(基準物質;(CHSi、重溶媒;CDCl)、δ ppm;0.99(t、7.2Hz、3H)、1.25−1.90(m、4H)、3.21(m、1H)、4.01(m、1H)/NHは特定できず。
19F−NMR(基準物質;C、重溶媒;CDCl)、δ ppm;94.54(d、9.0Hz、3F)。
【0119】
上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体の反応終了液(76.1mmolとする)に、メタノール80mLと5%パラジウム/活性炭3.24g(50%含水品、0.761mmol、0.01eq)を加え、水素ガス(H)の圧力を0.5MPaに設定し、室温で2時間30分攪拌した。反応混合液の1H−および19F−NMR分析より、下記式
【0120】
【化38】

【0121】
で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類が単一のジアステレオマー(>95:5)として定量的に生成していることを確認した(メジャージアステレオマーの相対配置は、実施例1との類似性からシン体と決定した)。上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の反応終了液(76.1mmolとする)をセライト濾過し、残渣を少量のメタノールで洗浄し、濾洗液に、37%塩酸6.3mL(76.7mmol、1.01eq)と水20mLを加え、減圧濃縮し、真空乾燥し、さらにトルエン40mLで共沸脱水することにより、上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の塩酸塩を20.0g得た。
【0122】
メタノール20mLに、該塩酸塩2.00g(7.61mmolとする)とp−トルエンスルホン酸一水和物1.61g(8.46mmol、1.11eq)を加え、40から50℃で加熱溶解し、減圧濃縮し、真空乾燥した。残渣に、イソプロパノール14mLとn−ヘプタン8mLを加え、90℃で加熱溶解し、0℃まで徐々に降温した。析出した結晶を濾過し、少量のn−ペプタンで洗浄し、真空乾燥することにより、上記式で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類のp−トルエンスルホン酸塩(精製品)を1.71g得た。α−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類からのトータル収率は60%であった。ジアステレオマー比は1H−および19F−NMR分析よりシン体:アンチ体=>98:2であった。
【0123】
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の塩酸塩およびp−トルエンスルホン酸塩の1H−および19F−NMRを下に示す。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類の塩酸塩
1H−NMR(基準物質;内部ロック、重溶媒;DO)、δ ppm;0.82(t、7.4Hz、3H)、1.33(m、2H)、1.67(m、2H)、3.61(m、1H)、3.76(m、1H)/NH、COHおよびHClは特定できず。
19F−NMR(基準物質;CFSOK、重溶媒;DO)、δ ppm;13.47(d、9.0Hz、3F)。
α−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類のp−トルエンスルホン酸塩
1H−NMR(基準物質;内部ロック、重溶媒;DO)、δ ppm;0.81(t、7.2Hz、3H)、1.32(m、2H)、1.66(m、2H)、2,26(s、3H)、3.50(m、1H)、3.72(m、1H)、7.24(d、8.0Hz、2H)、7.55(d、8.0Hz、2H)/NH、COHおよびSOHは特定できず。
19F−NMR(基準物質;CFSOK、重溶媒;DO)、δ ppm;13.34(d、9.0Hz、3F)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]
【化1】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類と、式[2]
【化2】

で示されるヒドロキシルアミンを反応させることにより、一般式[3]
【化3】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体に変換し、該脱水素閉環体を加水素分解することにより、一般式[4]
【化4】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を製造する方法。
[式中、Rはアルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表し、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。一般式[1]の波線は、二重結合の立体化学がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物であることを表し、一般式[3]および一般式[4]の波線は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物であることを表す。]
【請求項2】
一般式[5]
【化5】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−α,β−不飽和エステル類と、式[2]
【化6】

で示されるヒドロキシルアミンを反応させることにより、一般式[6]
【化7】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体に変換し、該脱水素閉環体を加水素分解することにより、一般式[7]
【化8】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類を製造する方法。
[式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表し、Rはアルキル基を表す。一般式[5]の波線は、二重結合の立体化学がE体、Z体、またはE体とZ体の混合物であることを表し、一般式[6]の相対配置の表示は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がアンチ体であることを表し、一般式[7]の相対配置の表示は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体であることを表す。]
【請求項3】
一般式[3]
【化9】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体。
[式中、Rはアルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。波線は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物であることを表す。]
【請求項4】
一般式[6]
【化10】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸脱水素閉環体。
[式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。相対配置の表示は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がアンチ体であることを表す。]
【請求項5】
一般式[4]
【化11】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類。
[式中、Rはアルキル基、置換アルキル基、芳香環基、置換芳香環基、アルコキシカルボニル基または置換アルコキシカルボニル基を表す。波線は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体、アンチ体、またはシン体とアンチ体の混合物であることを表す。]
【請求項6】
一般式[7]
【化12】

で示されるα−トリフルオロメチル−β−置換−β−アミノ酸類。
[式中、Rはアルキル基または置換アルキル基を表す。相対配置の表示は、トリフルオロメチル基に対するRの立体化学がシン体であることを表す。]


【公開番号】特開2010−83856(P2010−83856A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311446(P2008−311446)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】